人工硬膜及びその製造方法
本発明は、エレクトロスピニング法によって製造されたエレクトロスピニング層からなる人工硬膜であって、前記エレクトロスピニング層が少なくとも1層の疎水性エレクトロスピニング層からなる人工硬膜を提供する。前記疎水性エレクトロスピニング層上に、少なくとも1層の親水性エレクトロスピニング層が更に配置されている。前記疎水性エレクトロスピニング層と親水性エレクトロスピニング層の間には、中間層がさらに配置されている。前記人工硬膜の各層には、細胞因子及び/又は薬物を更に混ぜることができる。また、細胞印刷技術を結合し、前記疎水性エレクトロスピニング層及び/又は親水性エレクトロスピニング層上に、細胞因子及び/又は薬物を付着させることができる。本発明による人工硬膜は、生物組織相容性に優れ、癒着を防止し、完全に吸収されることができ、力学的機械性がよく、感染率が低く、他の治療的物質を混入し得る特徴を有する。さらに、本発明は相応の人工硬膜の製造方法を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は人工生物膜及びその製造に関し、特に人工硬膜及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
硬膜欠損は神経外科の臨床においてよくある。開放性頭蓋脳損傷(労働災害、交通事故、戦争などによる)、腫瘍の侵食、先天性髄膜欠損及び他の頭蓋脳疾患は、いずれも硬膜欠損を誘発する要因になれる。硬膜欠損が生じると、すぐに修復して脳脊髄液の漏出を防止し、脳ヘルニアや大気圧の圧迫を防止する必要がある。そうしないと、人の命をおびやかす。
【0003】
現在、硬膜の代用品が多くあり、硬膜を修復する材料としては、自家筋膜、同種異体材料、天然及び人工合成材料、異種材料という4種類がある。しかしながら、これらの材料は臨床で使用されると、臨床感染率が高いなどの欠陥を避けられない。統計によると、開頭術の感染率は4%であり、ブタ小腸粘膜を原料として製造した硬膜の感染率は3.4%であり、コラーゲンで製造した髄膜の感染率は3.8%である。血液脳関門の存在により、頭蓋内感染が一旦発生すると、頭蓋内の血中薬物濃度は所要のレベルに達成しにくく、感染の抑制に障害をもたらす。現在の人工髄膜は一般的に、髄膜内に薬物を混入することができないため、術後の感染に抑制効果がない。
【0004】
また、脳腫瘍侵食破壊が原因で髄膜移植修復手術を行なうことは、よくみられる髄膜修復の原因の一つである。半分以上の脳腫瘍は徹底的に切除されることができないため、手術後に通常、化学療法で治療する必要がある。化学薬物の多くは、毒性が大きいとともに血液脳関門を透過することができないため、同様に有効な濃度を達し得ず、治療効果に影響する。
【0005】
現在の人工髄膜は一般的に、治療的薬物を含まない。人工髄膜の由来によれば、自家筋膜には薬物を全く添加し得ず、同種又は異体材料は薬物の担持を実現しにくいのに対し、人工合成材料は設計及び加工性に優れるため、薬物を有効に担持することができる。また、人工髄膜上によく固定することにより、髄膜移植後に薬物を体内に放出して治療目的を果たすことは、薬物添加の方式方法に制限されて、全ての加工方式によっても得られるわけではない。現在の抗感染薬物の添加方法として一般的に抗感染薬物を含浸させるが、このように添加される薬物のほとんどすべては人工髄膜基材の表面に留まり、流失し易く、効果的で制御可能に放出する目的を果たすこともできない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の通り、従来の人工硬膜は、感染率が高く、生物相容性が悪く、人体に徹底的に吸収されにくいとともに、治療薬物が添加されにくく、薬物の効果的な放出を制御しにくい欠陥を有する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記少なくとも1つの技術課題を解決するために、本発明は、生物組織相容性に優れ、癒着を防止し、完全に吸収されることができ、力学的機械性がよく、感染率が低く、他の治療的物質を混入し得る特徴を有する人工硬膜を提供する。
【0008】
さらに、本発明は人工硬膜の製造方法を提供する。
【0009】
本発明による人工硬膜は、エレクトロスピニング法によって製造されたエレクトロスピニング層からなり、前記エレクトロスピニング層が少なくとも1層の疎水性エレクトロスピニング層からなる。疎水性エレクトロスピニング層は、1種以上の疎水性重合体からエレクトロスピニング法によって製造されたものであり、前記疎水性重合体が、疎水性脂肪族ポリエステル類、ポリエーテルエステル類、ポリオルトエステル、ポリウレタン、ポリ酸無水物、ポリホスファゼン、ポリアミノ酸、並びに上記重合体のうちの二種以上の共重合体及び混合物よりなる群から選ばれたものである。
【0010】
さらに、前記疎水性脂肪族ポリエステル類は、ポリ乳酸、ポリグリコリド、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシ酪酸エステルよりなる群から選ばれた少なくとも1種である。前記ポリエーテルエステル類は、ポリジオキサノン(polydioxanone)、グリコール・乳酸共重合体、グリコール・ブチレンテレフタレート共重合体よりなる群から選ばれた少なくとも1種である。前記ポリ酸無水物は、ポリセバシン酸-ヘキサデカン二酸酸無水物(polysebacic polyanhydride-cetane diacid anhydride)、I型ポリ酸無水物、II型ポリ酸無水物、III型ポリ酸無水物、IV型ポリ酸無水物よりなる群から選ばれた少なくとも1種である。
【0011】
疎水性エレクトロスピニング層からなる人工硬膜は、その強度が人の硬膜に似ており、生体の自家硬膜が再生する前に、脳を密封し、脳脊髄液の漏出を防止して脳を保護する作用を奏することができる。疎水性材料からなるエレクトロスピニング層は、細胞の侵入に不利であるため、癒着防止の目的を果たすことができる。実際に、強度に対する異なる要求を満たすために、必要に応じて多層の疎水性エレクトロスピニング層を配置することもできる。
【0012】
さらに、本発明による人工硬膜において、前記疎水性エレクトロスピニング層上には、少なくとも1層の親水性エレクトロスピニング層が更に配置されることができる。前記親水性エレクトロスピニング層は、1種以上の親水性重合材料からエレクトロスピニング法によって製造されたものであり、前記親水性重合体材料は、硫酸コンドロイチン、ヘパリン、寒天、グルカン、アルギン酸、変性セルロース、アルギン酸ナトリウム、でんぷん、セルロース、ゼラチン、フィブリン、フィブロイン、エラスチン擬態のペプチド重合体、コラーゲン、キトーサン、変性キトーサン、親水性ポリウレタン、ポリエチレングリコール、ポリメチルメタクリレート、PMMA、ポリヒドロキシブチレート/バリレート(PHBV)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-ヒドロキシヘキサノエート(PHBHHx)、ポリビニルアルコール、ポリラクチド、及び上記材料のうちの二種以上の混合物よりなる群から選ばれたものである。
【0013】
この硬膜を脳の局部に植え込む場合、疎水性エレクトロスピニング層は大脳表面の近くに設けられ、癒着防止の作用を奏する;親水性エレクトロスピニング層は大脳に遠い側に設けられ、細胞の付着、移動、増殖、分化のためによいナノ細胞骨格を提供する。前記親水性エレクトロスピニング層は生物相容性のよい親水性材料からなったため、幹細胞及び繊維芽細胞を有効に進入させることができ、自家硬膜の成長を促進することができる。実際に、異なる要求を満たすために、必要に応じて多層の親水性エレクトロスピニング層を配置することもできる。
【0014】
本発明の実施形態の一つによると、本発明による人工硬膜において、前記疎水性エレクトロスピニング層と親水性エレクトロスピニング層の間には中間層がさらに配置されることができる。前記中間層は、1種以上の重合体材料からエレクトロスピニング法によって製造されたものであり、中間層の水に対する親和力は、疎水性エレクトロスピニング層から親水性エレクトロスピニング層への方向に次第に高くなる。中間層の配置は、疎水性エレクトロスピニング層と親水性エレクトロスピニング層の間の親和力を強めることができる。
【0015】
本発明の他の実施形態によると、疎水性エレクトロスピニング層、親水性エレクトロスピニング層、及び中間層のうちのいずれか1層又は多層には、細胞因子及び/又は薬物が混紡されることができる。混紡エレクトロスピニング層を脳組織の局部に植え込んだ後、エレクトロスピニング層高分子重合体の吸収につれて、混紡された細胞因子及び/又は薬物は局部に放出されて相応の作用を発揮することにより、局部感染を防止する、癒着を防止する、脳腫瘍再発を防止する、又は自家硬膜修復を促進する。
【0016】
本発明の更なる実施形態によると、疎水性エレクトロスピニング層及び/又は親水性エレクトロスピニング層の上には、細胞因子及び/又は薬物が更に付着することができる。
【0017】
本発明に記載の細胞因子は、繊維芽細胞の付着、移動、増殖、分化に作用を奏する因子であり、インターロイキン、コロニー形成刺激因子、腫瘍壊死因子、血小板由来増殖因子、アルカリ性繊維芽細胞因子、及び上記因子のうちの二種以上の混合物よりなる群から選ばれたものである。細胞因子の作用によって、生体自家硬膜化の過程を速めることができる。
【0018】
本発明に記載の薬物は、抗生素、止血剤、癒着防止剤、及び抗腫瘍薬物よりなる群から選ばれた1種以上である。これらの薬物は実際の必要に応じて、本発明による人工硬膜上に配置される。植え込んだ後、薬物は重合体材料の吸収及び生体自家硬膜化の過程に従って、次第に局部に放出されて治療及び予防の作用を奏し、血液脳関門の薬物に対する遮断作用を克服する。
【0019】
さらに、細胞因子及び/又は薬物はヒドロゾルに包覆されることができる。ヒドロゾルの粘着及び固定作用によって、処理する局部の状況に照らして、薬物の均一的な又は所定箇所における放出を実現することができる。前記ヒドロゾルは、多糖類重合体、ポリペプチド類重合体、及び合成親水性高分子重合体よりなる群から選ばれた1種以上である。
【0020】
本発明の実施形態の一つによると、前記人工硬膜の疎水性エレクトロスピニング層の繊維直径が50~1000nmである。本発明の実施形態の一つによると、疎水性エレクトロスピニング層の孔径が3μm未満である。親水性エレクトロスピニング層の繊維直径が5~200μmであり、孔径が20~200μmである。エレクトロスピニング繊維の隙間の大小分布は繊維直径に大きく依頼し、繊維直径が小さくなる場合、孔径も同時に小さくなる。したがって、繊維直径を制御することにより、エレクトロスピニング層の孔径に対する制御を実現し得る。人体細胞の平均直径が10~20μmであり、脳脊髄膜には主に繊維芽細胞及びその分泌したコラーゲン繊維が分布されているが、一般の繊維芽細胞の直径は20~30μmである。疎水性エレクトロスピニング層の孔径を3μm未満に設定すると、細胞の侵入を阻止し、脳癒着の発生を更に防止することができる。また、親水性エレクトロスピニング層の孔径を細胞の平均直径以上に設定することは、細胞の進入や成長を更に促進するためである。
【0021】
本発明の他の面によると、本発明は下記のステップを含む人工硬膜の製造方法をさらに提供している:
a)疎水性重合体を溶媒に溶解させて疎水性重合体エレクトロスピニング溶液を得、前記疎水性重合体が、疎水性脂肪族ポリエステル類、ポリエーテルエステル類、ポリオルトエステル、ポリウレタン、ポリ酸無水物、ポリホスファゼン、ポリアミノ酸、並びに上記重合体のうちの二種以上の共重合体及び混合物よりなる群から選ばれたものである;
b)前記疎水性重合体エレクトロスピニング溶液から、エレクトロスピニング法によって膜状の疎水性エレクトロスピニング層を製造し、前記人工硬膜を得る。
【0022】
さらに、前記疎水性脂肪族ポリエステル類は、ポリ乳酸、ポリグリコリド、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシ酪酸エステルよりなる群から選ばれた少なくとも1種である。前記ポリエーテルエステル類は、ポリジオキサノン、グリコール・乳酸共重合体、グリコール・ブチレンテレフタレート共重合体よりなる群から選ばれた少なくとも1種である。前記ポリ酸無水物は、ポリセバシン酸-ヘキサデカン二酸酸無水物、I型ポリ酸無水物、II型ポリ酸無水物、III型ポリ酸無水物、IV型ポリ酸無水物よりなる群から選ばれた少なくとも1種である。
【0023】
本発明による方法は、エレクトロスピニングの原理によって、特定種類の高分子重合体を受けて人工硬膜を形成する。前記人工硬膜を植え込むと、脳癒着の発生を有効に防止することができる。
【0024】
脳癒着を更に阻止するために、繊維直径を制御してエレクトロスピニング層の孔径を制御することにより、細胞の侵入を阻止することができる。本発明における疎水性エレクトロスピニング層の繊維直径は、50~1000nmに制御されることができる。本発明の実施形態の一つによると、疎水性エレクトロスピニング層の孔径は3μm未満である。
【0025】
上記方法において、ステップbに記載のエレクトロスピニングの工程パラメータは、微量注射ポンプの速度が0.1〜5.0ml/hであり、高圧発生器の電圧が5〜40kVであり、受け距離が5.0〜30.0cmであるように設定されることができる。
【0026】
臨床におけるさらによい効果を達するために、本発明による方法は、前記疎水性エレクトロスピニング層上に類似のエレクトロスピニング法によって、親水性エレクトロスピニング層を形成する下記のステップをさらに含むことができる:
a') 前記親水性重合体が、硫酸コンドロイチン、ヘパリン、寒天、グルカン、アルギン酸、変性セルロース、アルギン酸ナトリウム、でんぷん、セルロース、ゼラチン、フィブリン、フィブロイン、エラスチン擬態のペプチド重合体、コラーゲン、キトーサン、変性キトーサン、親水性ポリウレタン、ポリエチレングリコール、ポリメチルメタクリレート、PMMA、ポリヒドロキシブチレート/バリレート、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-ヒドロキシヘキサノエート、ポリビニルアルコール、ポリラクチド、及び上記材料のうちの二種以上の混合物よりなる群から選ばれたものである;
b')前記親水性重合体エレクトロスピニング溶液を、エレクトロスピニング法によって前記疎水性エレクトロスピニング層上に受け、親水性エレクトロスピニング層を形成する。
【0027】
親水性エレクトロスピニング層を大脳に遠い側に設ける目的は、細胞の進入を促進し、自家の新生硬膜を形成することである。細胞の進入をさらに促進するために、親水性エレクトロスピニング層の繊維直径は5~200μmであり、孔径は20~200μmであることができる。
【0028】
親水性エレクトロスピニング層を形成する過程において、ステップb'に記載のエレクトロスピニングの工程パラメータとして、微量注射ポンプの速度が0.1〜20.0ml/hであり、高圧発生器の電圧が10〜45kVであり、受け距離が5.0〜30.0cmである。
【0029】
エレクトロスピニングの過程において、一般的に疎水性重合体又は親水性重合体をまず適切な溶媒に溶解させ、エレクトロスピニング溶液を形成する必要がある。これらの溶媒は一般的に揮発性の有機溶媒であり、蟻酸、酢酸、エタノール、アセトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、ヘキサフルオロイソプロパノール、トリフルオロエタノール、ジクロルメタン、トリクロルメタン、メタノール、エタノール、クロロホルム、ジオキサン、トリフルオロエタン、トリフルオロ酢酸、又は上記重合体溶媒のうちの二種以上の混合液が挙げられるが、それらに限らない。揮発性の有機溶媒は、エレクトロスピニング層を形成する過程において速く揮発することができ、最終のエレクトロスピニング層上に有機溶媒が残留しないようにする。一部の場合、溶媒として水を用いてもよく、乾燥又は陰干しによってエレクトロスピニング層形成後にそれを除去する。
【0030】
さらに、本発明による人工硬膜の製造方法は、前記親水性エレクトロスピニング層を形成する前、疎水性エレクトロスピニング層と親水性エレクトロスピニング層の間に、エレクトロスピニング法によって中間層を形成するステップを更に含み、前記中間層の水に対する親和力が、疎水性エレクトロスピニング層から親水性エレクトロスピニング層への方向に次第に高くなる。エレクトロスピニング法によって中間層を形成する高分子材料、溶媒、エレクトロスピニングパラメータの選択は、実際の状況に応じて、通常の技術に従って選択確定することができる。中間層の形成は、親水層と疎水層の間の親和力を高めることができる。
【0031】
本発明の実施形態の一つによると、エレクトロスピニング法によって各エレクトロスピニング層を形成する過程において、相応の重合体エレクトロスピニング溶液に細胞因子及び/又は薬物を混ぜることができる。混紡技術の導入によると、形成されたエレクトロスピニング層は高分子重合体と細胞因子及び/又は薬物とを含む混紡エレクトロスピニング層になり、更に臨床の需要に適合し、治療効果を高めることができる。
【0032】
また、本発明による人工硬膜の製造方法は、前記疎水性エレクトロスピニング層及び/又は親水性エレクトロスピニング層の上に、細胞印刷によって細胞因子及び/又は薬物分布を形成するステップを更に含むことができる。細胞印刷とは、疎水性エレクトロスピニング層及び/又は親水性エレクトロスピニング層を骨格(「バイオペーパー」)とし、その上に細胞因子及び/又は薬物を印刷することである。
【0033】
細胞因子及び/又は薬物をエレクトロスピニング層上に更に均一に分布される、又は所定箇所に明確に分布させるために、前記細胞因子及び/又は薬物はヒドロゾルに包覆されることができる。
【0034】
具体的には、本発明による細胞因子及び/又は薬物の細胞印刷ステップは以下の通りである:
a'')ヒドロゾル溶液と細胞因子及び/又は薬物とを混合し、混合溶液を形成する;
b'') 細胞印刷技術によって、前記混合溶液を前記疎水性エレクトロスピニング層及び/又は親水性エレクトロスピニング層の上に印刷する。
【0035】
本発明におけるヒドロゾル溶液は、多糖類重合体、ポリペプチド類重合体、合成親水性高分子重合体から製造された水溶液である。前記多糖類重合体として、でんぷん、セルロース、アルギン酸ナトリウム、ヒアルロン酸又はキトーサンが挙げられるがそれらに限らず、前記ポリペプチド類重合体として、コラーゲン、ポリL〜リジン又はポリL〜グルタミン酸が挙げられるがそれらに限らず、前記合成親水性高分子重合体として、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアクリルアミド、又はN-イソプロピルアクリルアミド(N-isopropyl acrylamide)が挙げられるがそれらに限らない。
【0036】
ヒドロゾルは常態において一般的に液体であり、適切な温度又は特定な条件下において短時間にゼリー状になることができるため、よい付着力を有する。本発明によると、一部のヒドロゾルは、架橋剤の参与を必要とする。したがって、前記印刷ステップの前、前記疎水性エレクトロスピニング層及び/又は親水性エレクトロスピニング層を架橋剤溶液で予処理するステップを含むことができる。架橋剤溶液で予処理することにより、架橋剤をエレクトロスピニング層上に付着させる;ヒドロゾル溶液を適切な細胞因子及び/又は薬物と混合し、印刷吐出ヘッド内に配置する。印刷する時、吐出ヘッド内における細胞因子及び/又は薬物を混合したヒドロゾル溶液はエレクトロスピニング層に接触すると、凝固してエレクトロスピニング層上に粘着する。印刷する時、均一印刷の方法によって、細胞因子及び/又は薬物を均一に放出することができる。また、患者の個人状況によって、局部集中印刷の方法を採用し、細胞因子及び/又は薬物を関心の部位に集中放出することができる。架橋剤の選択はヒドロゾルの種類にかかわり、例えばヒドロゾルがアルギン酸ナトリウムである場合、架橋剤が塩化カルシウムである;ヒドロゾルがフィブリンである場合、架橋剤がトロンビンである。
【発明の効果】
【0037】
従来技術に比べて、本発明は以下の有益な効果を有する。
(1)機械特性は、適応症の引張強度及び柔軟性に対する要求を満たすとともに、透水せず、癒着を防止することができる;
(2)膜片が用いる材料はいずれも人体に無毒無害であり、優れた生物組織相容性を有し、植え込んだ後に完全に吸収され、膜片による発癌を避けることができる;
(3)膜片そのものは生物由来成分で形成されたものではなく、これによる免疫拒否、ウィルス伝播、疾病伝染などの多くの危険を免れる;
(4)2層の設計案は、癒着を防止するとともに自家細胞の増殖を促進し、自体の早急な修復を促すことができる;
(5)生物印刷技術を結合し、治療作用を有する物質を膜片に導入し、且つ植え込んだ後にこれらの物質を制御可能に放出することができ、治療効果を強める;
(6)原料が充分でコストが低く、貯蔵も運送も簡単である;
(7)製造方法工程ステップが簡単であり、コストが低く、工業的に普及させやすい;
(8)臨床上の応用が簡単で、且つ患者の個人状況によってあつらえることができる。
【0038】
本発明の他の面や利点の一部を下記の記載で与える。その一部は下記の記載から明瞭になる、或いは本発明の実践から理解され得る。
【図面の簡単な説明】
【0039】
下記の図面を結合し、本発明の上記及び/又は他の面や利点は、実施例に対する記載から明白且つ理解され易くなる。
【図1】エレクトロスピニング(electrospinning)法で本発明に記載の人工硬膜を製造する工程模式図である;
【図2】エレクトロスピニング法を生物印刷技術に結合して本発明に記載の人工硬膜を製造する工程模式図である;
【図3】本発明に記載の疎水性エレクトロスピニング層からなる人工硬膜の模式図である;
【図4】本発明に記載の疎水性エレクトロスピニング層及び親水性エレクトロスピニング層からなる人工硬膜の模式図である;
【図5】本発明に記載の疎水性及び親水性エレクトロスピニング層の間に中間層を有する、人工硬膜の模式図である;
【図6a】本発明に記載の混紡による、疎水性エレクトロスピニング層及び親水性エレクトロスピニング層を有する人工硬膜の模式図である;
【図6b】図6aに示すI領域の局部拡大模式図である;
【図7a】本発明に記載の混紡による、疎水性エレクトロスピニング層、親水性エレクトロスピニング層及び中間層を有する人工硬膜の模式図である;
【図7b】図7aに示すII領域の局部拡大模式図である;
【図8a】本発明に記載の生物印刷技術を結合して得られた人工硬膜の模式図である;
【図8b】図8aに示すIII領域の局部拡大模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、本発明の実施例を詳しく説明する。前記実施例の例示は図に示されるが、同一の又は類似する符号は、同一の又は類似する素子、或いは同一の又は類似する機能を有する素子を示す。下記の参考図によって記載された実施例は例示的なものであり、本発明を説明するためのものであり、本発明に対する制限と理解され得ない。
【0041】
以下、図1〜8を結合しながら本発明による人工硬膜及びその製造方法を説明する。
【0042】
図1は、本発明に記載の人工硬膜のエレクトロスピニング工程模式図である。エレクトロスピニング吐出ヘッド1内には高分子重合体溶液があり、高圧電源3の高圧端はエレクトロスピニング吐出ヘッド1上に接続されている。受け装置4は円柱体の形状であり、実際作業の必要に応じて、円柱体の軸心を回ること及び円柱体の長軸方向に左右移動することができる。受け装置4の移動設定は、コンピュータで相応のプログラムを設定することによって実現され、形成されるエレクトロスピニング層の厚みを均一にすることができる。実際に、受け装置はさらに、表面が平らである平面に配置されることができ、平面の左右や前後移動によって均一的な受けを実現することができる。受け装置4は高圧電源3の低圧端に連通し、エレクトロスピニング吐出ヘッド1と受け装置4との間に高い電圧差を形成させる。
【0043】
エレクトロスピニング工程が開始する前、まず適切なエレクトロスピニング溶液を調製する必要がある。
【0044】
疎水性重合体を適切な溶媒に溶解させてなる疎水性重合体エレクトロスピニング溶液を使用することができる。これらの疎水性重合体としては、疎水性脂肪族ポリエステル類(例えばポリ乳酸、ポリグリコリド、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシ酪酸エステル)、ポリエーテルエステル類(例えばポリジオキサノン(polydioxanone))、ポリオルトエステル(polyorthoester)、ポリウレタン、ポリ酸無水物(例えばポリセバシン酸-ヘキサデカン二酸酸無水物)、ポリホスファゼン(polyphosphazene)、ポリアミノ酸、又は上記重合体のうちの二種以上の共重合体及び混合物が挙げられるが、それらに限らない。
【0045】
設計の必要に応じて、疎水性エレクトロスピニング層を形成した後、その上に更に親水性エレクトロスピニング層を形成する必要がある場合、親水性重合体を適切な溶媒に溶解させてなる親水性重合体エレクトロスピニング溶液を同時に調製する必要がある。前記親水性重合体としては、硫酸コンドロイチン、ヘパリン、寒天、グルカン、アルギン酸、変性セルロース、アルギン酸ナトリウム、でんぷん、セルロース、ゼラチン、フィブリン、フィブロイン、エラスチン擬態のペプチド重合体、コラーゲン、キトーサン、変性キトーサン、親水性ポリウレタン、ポリエチレングリコール、ポリメチルメタクリレート、PMMA、ポリヒドロキシブチレート/バリレート、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-ヒドロキシヘキサノエート、ポリビニルアルコール又はポリラクチドが挙げられるが、それらに限らない。この場合、必要に応じて、疎水性又は親水性重合体エレクトロスピニング溶液をそれぞれ収容する複数のエレクトロスピニング吐出ヘッド1を設けることもできるし、疎水性エレクトロスピニング層を形成した後に、エレクトロスピニング吐出ヘッド1内のエレクトロスピニング溶液を取り替えることもできる。
【0046】
エレクトロスピニング溶液の溶媒は水であってもよく、揮発性の有機溶媒を選択してもよい。前記揮発性の有機溶媒としては、蟻酸、酢酸、エタノール、アセトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、ヘキサフルオロイソプロパノール、トリフルオロエタノール、ジクロルメタン、トリクロルメタン、メタノール、エタノール、クロロホルム、ジオキサン、トリフルオロエタン、トリフルオロ酢酸が挙げられるが、それらに限らない。
【0047】
エレクトロスピニング溶液を準備した後に、パラメータを設定し、電源をつないでエレクトロスピニング装置を動作させる。紡糸2がエレクトロスピニング吐出ヘッド1から引き出されるのにつれて、受け装置4は、均一なエレクトロスピニング膜構造を形成するように所定のプログラムに従って移動する。
【0048】
疎水性エレクトロスピニング層を形成する工程パラメータは一般的に、微量注射ポンプの速度が0.1〜5.0ml/hであり、高圧発生器の電圧が5〜40kVであり、受け距離が5.0〜30.0cmであるように設定される。疎水性エレクトロスピニング層の繊維直径は50~1000nmに制御されることができ、孔径が3μm未満である。
【0049】
親水性エレクトロスピニング層を形成する工程パラメータとしては、微量注射ポンプの速度が0.1〜20.0ml/hであり、高圧発生器の電圧が10〜45kVであり、受け距離が5.0〜30.0cmである。親水性エレクトロスピニング層の繊維直径は5~200μmであり、孔径が20~200μmである。
【0050】
図3及び図4に示すように、作業中において実際の必要に応じて、上記エレクトロスピニング工程を何回も繰返すことにより、多層の疎水性エレクトロスピニング層及び/又は親水性エレクトロスピニング層を形成することができる。
【0051】
図3は3層の疎水性エレクトロスピニング層からなる人工硬膜であり、その強度が人の硬膜に似ている。この層は疎水性材料からなったため、細胞の侵入に不利である。且つ、用いた材料はいずれも安全で無毒であるため、人体に吸収されることができ、癒着防止の目的を果たすことができる。
【0052】
図4は、2層構造の疎水性エレクトロスピニング層Aと3層構造の親水性エレクトロスピニング層Bからなる人工硬膜である。この硬膜を脳の局部に植え込む場合、癒着防止の疎水性エレクトロスピニング層Aは大脳表面の近くに設けられ、親水性エレクトロスピニング層Bは大脳に遠い側に設けられ、細胞の付着、移動、増殖、分化のためによいナノ細胞骨格を提供する。前記親水性エレクトロスピニング層Bは生物相容性のよい親水性材料からなり、且つ孔径が大きいため、幹細胞及び繊維芽細胞を進入させることができ、自家硬膜の成長を促進することができる。
【0053】
エレクトロスピニング層を形成した後、エレクトロスピニング溶液の成分の相違に基づいて、適切な乾燥又は陰干しのステップを選択することができる。例えばヘキサフルオロイソプロパノールである一部の揮発性有機溶媒をエレクトロスピニング溶液の溶媒とする場合、紡糸2が電圧差に従って受け装置4上に落下するのにつれて、溶媒が既に完全に揮発したため、乾燥又は陰干しのステップを省略することができる。
【0054】
疎水性エレクトロスピニング層と親水性エレクトロスピニング層は、水に対する親和力が大きく異なる。したがって、使用時に、構造上の安定を保ちにくい可能性がある。この問題を解決し、両部分間の親和力を強めるために、両部分間に中間層を更に形成することもできる。中間層の水に対する親和力は、疎水性エレクトロスピニング層から親水性エレクトロスピニング層への方向に次第に高くなる。実践において、水に対する親和力の要求に基づいて、1種以上の適切な高分子重合体及び相応の溶媒を選択して相応のエレクトロスピニング吐出ヘッド1内に配置し、上記方法に従って、親水性エレクトロスピニング層を形成する前に中間層を形成することができる。中間層のエレクトロスピニング工程パラメータとしては、微量注射ポンプの速度が0.1〜5.0ml/hであり、高圧発生器の電圧が5〜40kVであり、受け距離が5.0〜30.0cmである。
【0055】
形成された中間層を有する人工硬膜は図5に示される。図における疎水性エレクトロスピニング層Aは2層構造であり、親水性エレクトロスピニング層Bは3層構造である。疎水性エレクトロスピニング層Aと親水性エレクトロスピニング層Bとの間には2層構造の中間層Cが更に設けられ、疎水性エレクトロスピニング層Aに近い1層の中間層の親水性は、親水性エレクトロスピニング層Bに近い1層のよりも弱い。
【0056】
さらに、人工硬膜に細胞因子及び/又は薬物を加える目的を実現するために、混紡の方法によって実現することができる。具体的には、疎水性エレクトロスピニング層、親水性エレクトロスピニング層及び中間層のいずれか1層又は多層には、細胞因子及び/又は薬物を混紡することができる。必要に応じて、細胞因子及び/又は薬物を相応のエレクトロスピニング溶液に添加した後に、上記方法に従ってエレクトロスピニングを行なうことができる。細胞因子及び/又は薬物は紡糸2の形成につれて紡糸2に混入され、且つ受け装置4上に均一な膜構造を形成することができる。同様に、このプロセスを複数回繰返すことができ、毎回に混入される細胞因子及び/又は薬物は同じであっても異なっていてもよい。得られた人工硬膜は図6に示される。図6aにおける疎水性エレクトロスピニング層Aは2層構造であり、親水性エレクトロスピニング層Bは3層構造である。図6bから見えるように、疎水性紡糸7には薬物8が混紡され、親水性紡糸9には細胞因子10が混紡されている。
【0057】
図7aは図6の構造上に2層の中間層C構造を更に設けており、疎水性エレクトロスピニング層Aに近い1層は親水性エレクトロスピニング層Bに近い1層よりも、水に対する親和力が小さい。図7bから見えるように、疎水性紡糸7には薬物8が混紡され、親水性紡糸9には細胞因子10が混紡され、2層の中間層紡糸11には薬物8及び細胞因子10がそれぞれ混紡されている。
【0058】
さらに、本発明は、エレクトロスピニング法を生物印刷技術に結合して人工硬膜を製造する技術を提供している。生物印刷技術は近年に出現した新技術であり、特製の細胞溶液又は生物活性を有する細胞因子溶液を「生物インク」とし、体内において分解可能なバイオペーパー上に、予定計画に従って精確に印刷する。印刷した後、シートを所定の順に重ねる。印刷技術を使用したため、細胞及び/又は細胞因子からなる生物インクを予定部位に精確的に結合することができる。また、特定の重ね方式に従うバイオペーパーは、三次元構造を形成することができる。
【0059】
具体的な操作は図2に示す。図1に示す装置に基づき、生物印刷吐出ヘッド5を更に配置した。該生物印刷吐出ヘッド5は、従来のインクジェットプリンタを改造して得られるものであってもよく、例えば米国特許US 7051654に開示された方法を参照することができる。吐出ヘッドには細胞因子及び/又は薬物が含まれ、吐出ヘッドの印刷方式及び印刷位置は、コンピュータプログラムによって予め設定されることができる。具体的な生物印刷ステップは、従来技術に従って行なうことができる。
【0060】
本発明の実施形態の一つによると、細胞因子及び/又は薬物はヒドロゾルに包覆されることができ、ヒドロゾル溶液は多糖類重合体、ポリペプチド類重合体、又は合成親水性高分子重合体からなる水溶液であることができる。前記多糖類重合体として、でんぷん、セルロース、アルギン酸ナトリウム、ヒアルロン酸又はキトーサンが挙げられるがそれらに限らず、前記ポリペプチド類重合体として、コラーゲン、ポリL〜リジン又はポリL〜グルタミン酸が挙げられるがそれらに限らず、前記合成親水性高分子重合体として、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアクリルアミド、又はN-イソプロピルアクリルアミドが挙げられるがそれらに限らない。ヒドロゾルは常態において一般的に液体であり、適切な温度又は特定な条件下において短時間にゼリー状になることができるため、よい付着力を有し、細胞因子及び/又は薬物をエレクトロスピニング層に均一的に分布させる、又は明確な位置に分布させることができる。
【0061】
ヒドロゾルによって生物印刷を行なうステップは具体的に以下の通りである:生物印刷吐出ヘッド5に、相応の液体ヒドロゾルが混入された調製済みの細胞因子及び/又は薬物を入れる。エレクトロスピニング層を形成した後に、インクジェットプリンタは予定のプログラムに従ってエレクトロスピニング層上に印刷を行い、ヒドロゾルの選択に基づいて適切な条件を与える。ヒドロゾルはすぐによい付着力を有するゼリー状になり、包まれた細胞因子及び/又は薬物をエレクトロスピニング層上に粘着させる。印刷する時、均一印刷の方法によって設定することができる。形成された人工硬膜は図8aに示すように、毎層の疎水性エレクトロスピニング層構造上に一層の薬物を印刷することができ、毎層の親水性エレクトロスピニング層構造上に一層の細胞因子を印刷することができる。局部拡大図8bに示すように、生物印刷によって形成された膜は混紡によるものと違い、その細胞因子及び/又は薬物が、疎水性紡糸7及び/又は親水性紡糸9からなるエレクトロスピニング層の表面に塗布される。このような硬膜を体内に植え込んだ後、細胞因子及び/又は薬物を均一に放出することができる。また、患者の治療の必要に応じて局部集中印刷の方法を採用し、人体に植え込んだ後、細胞因子及び/又は薬物を関心の部位に集中放出することができる。
【0062】
一部のヒドロゾルのゲル化は、架橋剤の参与を必要とする。この場合、ヒドロゾルによって生物印刷を行なうステップは具体的に以下の通りである:容器6に予め適切な架橋剤を入れて、エレクトロスピニングが開始した後に、受け装置4は軸線回りに回動する又は左右に移動する過程において、容器6における架橋剤に接触し、形成されたエレクトロスピニング層上に架橋剤分子を付着させる。上記方法に従って生物印刷を行い、生物印刷吐出ヘッド5中の液体ヒドロゾルはエレクトロスピニング層上の架橋剤と接触するとき、すぐにゼリー状になり、包まれた細胞因子及び/又は薬物をエレクトロスピニング層上に粘着させる。架橋剤の選択はヒドロゾルの種類にかかわり、例えばヒドロゾルがアルギン酸ナトリウムである場合、架橋剤が塩化カルシウムである;ヒドロゾルがフィブリンである場合、架橋剤がトロンビンである。
【0063】
本発明の実施形態の一つによると、前記疎水性重合体エレクトロスピニング溶液としては、疎水性のL-ポリ乳酸及びε-カプロラクトンを選択することができ、両者の重量比が50:50又は30:70又は70:30であり、共重合高分子材料として、数平均分子量が150000~500000であり、それをヘキサフルオロイソプロパノールまたはジクロルメタンに溶解させる。混紡する必要がある場合、疎水性重合体エレクトロスピニング溶液に0.01~3%の抗生素溶液、及び/又は0.001~3%の止血と癒着防止薬物を入れて、L-ポリ乳酸及びε-カプロラクトン溶液と混合して均一な溶液を得ることができる。
【0064】
本発明の他の実施形態によると、親水性重合体エレクトロスピニング溶液は親水性ポリウレタンと、天然ゼラチン又は硫酸コンドロイチン又はポリエチレングリコールとを選択することができ、重量比が20~80:80~20であり、紡糸液が溶液合計重量の3〜15%である。混紡する場合、親水性重合体エレクトロスピニング溶液に、細胞因子の最終濃度が0.001~0.5%になるように、アルカリ性繊維芽細胞因子溶液を入れることができる。
【0065】
混紡又は生物印刷過程において加える薬物として、具体的な場合によって、抗生素又は止血又は癒着防止薬物を選択することができる。脳腫瘍の侵食による髄膜移植において、脳腫瘍に対する化学療法薬物を採用することができる。
【0066】
抗生素としては、セファロスポリン類(sephalosporins)、アンピシリン(ampicillin)、スピラマイシン、スルファニルアミド、キノロン類(quinolones)抗生素などが挙げられるが、それらに限らない。セフトリアキソンナトリウム(ceftriaxone sodium)であることが好ましい。髄膜手術は一般的に、開頭する必要がある。現在、開頭術後の頭蓋内感染の大部分は細菌性であり、主な病原菌は黄色ブドウ球菌、連鎖球菌、肺炎球菌、大腸菌、サルモネラ属、及び緑膿菌などを含む。なかでは、黄色ブドウ球菌が最もよく見られ、臨床報道によると、セフトリアキソンナトリウムの治療効果がよいと考えられる。
【0067】
抗腫瘍薬としては、ニムスチン(nimustine)、セムスチン(semustine)、リポソーマルドキソルビシン(liposomal doxorubicin)、アクチノマイシンD、ビンクリスチンなどが挙げられるが、それらに限らない。ビンクリスチンであることが好ましい。
【0068】
止血又は癒着防止薬物は、創傷の癒合を速めて癒着の発生を防止することができるが、止血因子(止血機能を同時に材料に持たせることができる)、コラーゲン合成酵素の抑制剤(例えばトラニラスト(tranilast)とペミロラスト(pemirolast)があり、コラーゲン合成酵素ヒスタミン及びプロスタグランジンの放出を抑制することができ、コラーゲンの再生を抑制し得る)、抗凝結薬(例えば、ジクマロール、ヘパリンナトリウム、ヒルジンなど)、消炎薬(例えばプロメタジン(promethazine)、デキサメタゾン(dexamethason)、ヒドロコルチゾン(hydrocortisone)、プレドニゾロン(prednisolone)、ブルフェン(brufen)、オキシフェンブタゾン(oxyphenbutazone)など)、カルシウム通路遮断剤(例えば塩酸ジルチアゼム(diltiazem hydrochloride)、ニフェニピン(nifedipine)、塩酸ベラパミル(verapamil hydrochloride)など)、細胞成長抑制剤(例えばフルオロウラシル(fluorouracil))、加水分解酵素(例えばヒアルロニダーゼ(hyaluronidase)、ストレプトキナーゼ(streptokinase)、ウロキナーゼ(urokinase)、ペプシン(pepsin)、tPA)、酸化還元剤(例えばメチレンブルー)などが挙げられるが、それらに限らない。
【0069】
本発明の実施形態の一つによると、混紡の過程において、エレクトロスピニング溶液に薬物又は因子を添加する方案は、エレクトロスピニング溶液重量の0.001~0.05 %のアルカリ性繊維芽細胞成長因子、エレクトロスピニング溶液重量の3%のアンピシリン、エレクトロスピニング溶液重量の0.001~0.05%の止血因子を含み、脳腫瘍による髄膜修復手術において、0.01〜5%のニムスチンを含むことができる。
【0070】
製造された人工硬膜を洗浄、滅菌、包装した後に貯蔵する。
【0071】
実施例1
【0072】
重量比が50:50で数平均分子量が260000であるL-ポリ乳酸及びε-カプロラクトンを選択してヘキサフルオロイソプロパノールに溶解させ、均一に混合して疎水性エレクトロスピニング溶液を形成し、エレクトロスピニング吐出ヘッド内に配置する。微量注射ポンプを調節することによって疎水性エレクトロスピニング溶液の出力速度を5ml/hに制御し、高圧発生器の電圧を30kVに調節し、受け装置の受け距離を20cmに調節するとともに、繊維を膜状構造として受け、平均繊維直径が300nmである疎水性エレクトロスピニング層を形成する。受けが終了した後、エレクトロスピニング装置をオフさせる。
【0073】
得られた人工髄膜をエタノール及び蒸留水で5回すすぎ、凍結乾燥した後に真空包装し、25kGyコバルト-60によって滅菌した後、−20℃で低温保存する。
【0074】
実施例2
【0075】
疎水性エレクトロスピニング層の調製方法は実施例1のと同じである。
【0076】
質量比が70:30であるポリエチレングリコール及び硫酸コンドロイチンを親水性エレクトロスピニング溶液とし、紡糸液の質量%が9%である。
【0077】
エレクトロスピニング装置を動作させ、実施例1の紡ぎ済みの疎水性エレクトロスピニング層上に引続き親水性エレクトロスピニング層を紡ぐ。受け距離が11cmであり、電圧が20kVであり、得られた親水性エレクトロスピニング層の平均繊維直径が10μmである。
【0078】
洗浄、保存方法は実施例1のと同じである。
【0079】
実施例3
【0080】
疎水性エレクトロスピニング層の調製方法は実施例1のと同じである。
【0081】
中間層が用いる重合体溶液は、質量比が70:30で質量%が10%であるポリウレタン及びヒアルロン酸である。エレクトロスピニング装置を動作させ、受け距離が11cmであり、電圧が20kVであり、平均繊維直径が5μmであるように設定し、紡ぎ済みの疎水性エレクトロスピニング層上に引続き中間層を紡ぐ。
【0082】
その後、中間層上に引続き親水性エレクトロスピニング層を紡ぐ。親水性エレクトロスピニング層の実施形態は、実施例4のと同じである。エレクトロスピニング装置をオフさせる。
【0083】
洗浄、保存方法は実施例1のと同じである。
【0084】
実施例4
【0085】
(1)疎水性エレクトロスピニング層を調製する:疎水性のポリカプロラクトンを選択し、クロロホルム/メタノール溶媒の混合比が1:1である。濃度が1%であるセフトリアキソンナトリウムを混合し、均一な溶液を得る。
【0086】
上記溶液をエレクトロスピニング吐出ヘッドに入れて、微量注射ポンプの速度を0.8ml/hに調節し、高圧発生器の電圧を12kVに調節し、受け装置の受け距離を15cmに調節するとともに、繊維を膜状構造として受ける。得られた疎水性エレクトロスピニング層の繊維直径が600nmである。
【0087】
エレクトロスピニング装置をオフさせる。
【0088】
(2)親水性エレクトロスピニング層を調製する:割合が20〜80:80〜20である親水性フィブロイン及び天然ゼラチンを用い、紡糸液の質量%が9%である。
【0089】
アルカリ性繊維芽細胞因子溶液を調製し、上記エレクトロスピニング液と均一に混合し、細胞因子の最終濃度が0.001%であり、受け距離が10cmであり、電圧が20kVであるようにする。エレクトロスピニング装置を動作させ、紡ぎ済みの疎水性エレクトロスピニング層上に引続き親水性エレクトロスピニング層を紡ぐ。得られた親水性エレクトロスピニング層の平均繊維直径がμmオーダーである。
【0090】
洗浄、保存方法は実施例1のと同じである。
【0091】
実施例5
【0092】
(1)疎水性エレクトロスピニング層を調製する:疎水性のポリカプロラクトンを選択し、クロロホルム/メタノール溶媒の混合比が1:1である。ビンクリスチンを混合し、濃度が100ng/mlである。均一な溶液を得る。
【0093】
上記溶液をエレクトロスピニング吐出ヘッドに入れて、微量注射ポンプの速度を0.8ml/hに調節し、高圧発生器の電圧を12kVに調節し、受け装置の受け距離を15cmに調節するとともに、繊維を膜状構造として受ける。得られた疎水性エレクトロスピニング層の繊維直径が600nmである。
【0094】
エレクトロスピニング装置をオフさせる。
【0095】
(2)中間層を調製する:質量比が70:30であるポリウレタン及びヒアルロン酸を用い、紡糸液の質量%が10%である。アンピシリンを混合し、濃度が3%である。均一な溶液を得る。
【0096】
エレクトロスピニング装置を動作させ、紡ぎ済みの疎水性エレクトロスピニング層上に引続き中間層を紡ぐ。
【0097】
受け距離が11cmであり、電圧が20kVであり、平均繊維直径が5μmである。
【0098】
エレクトロスピニング装置をオフさせる。
【0099】
(3)親水性エレクトロスピニング層を調製する:割合が20〜80:80〜20である親水性フィブロイン及び天然ゼラチンを用い、紡糸液の質量%が9%である。アンピシリン溶液を調製し、上記エレクトロスピニング液と均一に混合し、抗生素の最終濃度が3%であるようにする。
【0100】
エレクトロスピニング装置を動作させ、受け距離が10cmであり、電圧が20kVであるように調節し、紡ぎ済みの中間層上に引続き親水性エレクトロスピニング層を紡ぐ。平均繊維直径がμmオーダーである。
【0101】
洗浄、保存方法は実施例1のと同じである。
【0102】
実施例6
【0103】
(1)細胞印刷の疎水性エレクトロスピニング層を調製する。
【0104】
疎水性エレクトロスピニング溶液としては、疎水性のL-ポリ乳酸及びε-カプロラクトンを選択し、両者の重量比が50:50であり、共重合高分子材料として、数平均分子量が260000であり、それをヘキサフルオロイソプロパノールに溶解させる。
【0105】
0.1Mの塩化カルシウム溶液を架橋剤溶液とする。
【0106】
細胞因子を含むヒドロゾル溶液としては、止血因子のアルギン酸塩溶液を用いる。前記細胞因子アルギン酸塩溶液における止血因子の質量%濃度が10ppmである。
【0107】
調製済みの0.1Mの塩化カルシウム溶液を直径150mmの細胞培養皿に入れ、エレクトロスピニング装置およびプリンタの共用する受け器を培養皿に置き、エレクトロスピニング層を形成するとき、受け装置が培養皿における容器と接触し得るようにする。細胞印刷吐出ヘッドは、エレクトロスピニング装置箱内のエレクトロスピニング針ヘッドの真下に固定され、止血因子の定位印刷に用いる。調製済みの細胞因子アルギン酸塩溶液をインクジェット印刷のインクカートリッジに入れる。本実施例で用いるインクカートリッジの規格はHP51626Aである。
【0108】
疎水性エレクトロスピニング溶液をエレクトロスピニング吐出ヘッドに入れて、微量注射ポンプの速度を5ml/hに調節し、高圧発生器の電圧を30kVに調節し、受け装置の受け距離を20cmに調節するとともに、繊維を膜状構造として受ける。エレクトロスピニングを20分間継続した後、エレクトロスピニング装置をオフさせる。
【0109】
インクジェットプリンタで、細胞因子を含むヒドロゾル溶液を前記ナノバイオ骨格上に印刷し、ヒドロゾルをゲル化させる。
【0110】
(2)細胞印刷の親水性エレクトロスピニング層を調製する。
【0111】
エレクトロスピニング溶液、薬物を含むヒドロゾル溶液、及び架橋剤溶液を調製する;
【0112】
親水性材料として、質量比が70:30であるポリエチレングリコール及び硫酸コンドロイチンを用い、紡糸液の質量%が9%である。0.1Mの塩化カルシウム溶液を架橋剤溶液とする。
【0113】
細胞因子を含むヒドロゾル溶液としては、アルカリ性繊維芽細胞因子のアルギン酸塩溶液を用いる。前記細胞因子アルギン酸塩溶液におけるアルカリ性繊維芽因子の質量%濃度が100ppmである。
【0114】
エレクトロスピニングのパラメータとして、微量注射ポンプの速度を0.8ml/hに調節し、高圧発生器の電圧を20kVに調節するとともに、受け装置の受け距離を11cmに調節する。他の調製方法は、上記のステップと同じである。親水性エレクトロスピニング層繊維を膜状構造として受けた後、インクジェットプリンタで、アルカリ性繊維芽細胞因子を含むヒドロゾル溶液を前記ナノバイオ骨格上に印刷し、ヒドロゾルをゲル化させる。
【0115】
洗浄、保存方法は実施例1のと同じである。
【0116】
実施例7
【0117】
(1)細胞印刷の疎水性エレクトロスピニング層を調製する。
【0118】
ステップは実施例6のと同じである。
【0119】
(2)細胞印刷の中間層を調製する。
【0120】
中間層エレクトロスピニング液としては以下の方案を選択する:質量比が70:30であるポリウレタン及びヒアルロン酸を用い、紡糸液の質量%が10%である。アンピシリンを混合し、濃度が3%である。均一な溶液を得る。
【0121】
0.1Mの塩化カルシウム溶液を架橋剤溶液とする。
【0122】
細胞因子を含むヒドロゾル溶液としては、止血因子のアルギン酸塩溶液を用いる。前記細胞因子アルギン酸塩溶液における止血因子の質量%濃度が10ppmである。
【0123】
エレクトロスピニングのパラメータとして、微量注射ポンプの速度を4ml/hに調節し、高圧発生器の電圧を20kVに調節するとともに、受け装置の受け距離を11cmに調節する。他の調製方法は、上記のステップと同じである。繊維を膜状構造として受けた後、インクジェットプリンタで、細胞因子を含むヒドロゾル溶液を中間層上に印刷し、ヒドロゾルをゲル化させる。
【0124】
(3)親水性エレクトロスピニング層を調製する。
【0125】
調製方法は実施例6のと同じである。
【0126】
洗浄、保存方法は実施例1のと同じである。
【0127】
実験例1
【0128】
実施例1で得られた硬膜を用いてイヌ動物実験を行なった。対照組としては、市販の臨床使用される動物由来髄膜修復材料を用いた。健康イヌ3頭を選択し、雌雄限らず、体重10-15kgである。観察期を2〜3ヶ月とする。実験イヌを全身麻酔下に両頭頂開頭し、両側の局部の硬膜欠損及び脳組織損傷を人為的に作った。実施例1で得られた硬膜と対照組とを用いて、同じ実験イヌの脳の左右両側においてそれぞれ硬膜修復術を実施した。術後、イヌに対して常規的な飼育及び観察を行なった。各観察期の期限になったとき、修復材料部位において標本を採集し、肉眼標本及び顕微組織を比較観察した。各実験動物を設定された期限に飼育した後、動物を麻酔し、前記開頭方法によって頭蓋骨を露出し、修復材料の外表面を分離露出した。静脈に空気を注入して動物を犠牲とし、頭蓋骨を切開した後に開き、修復材料及び周囲の組織を切り取った。修復材料の外表面、性質、周囲組織との関係、のう胞や硬結の有無、及び内面と脳組織との癒着状況を肉眼で観察した。標本を瓶に入れ、ホルマリン固定液に浸し、標本瓶にラベルを貼った。室温においてホルマリンで一週間固定させた後、手術部位の局部組織をとり、パラフィンで常規的に包み処理し、HEで組織切片を染色する。
【0129】
術後、3頭のイヌは良好に回復し、切創の癒合が良好であり、分泌物がない。術後の摂食、摂水が正常であり、イヌの戸外活動が正常であり、運動障害が発見されなかった。3ヵ月後、静脈に空気を注入してイヌを犠牲とし、手術部位を中心として、修復材料及び周辺硬膜及び内面の脳組織を含むように、手術部位より1cm大きい範囲において標本を切り取った。標本を切り出した後、脳骨と髄膜とを逐層に分離する。実験組の植え込み部位の髄膜が完全であり、材料を植え込んだ箇所が既に繊維組織に代替され、植え込み材料と原生髄膜とが一体になって境界が不明であり、且つ、植え込み箇所の髄膜内表面に癒着がなく、それに対応する脳組織の表面が滑らかであって癒着がないことが判明した。それに対して、対照組の植え込み部位には、未分解の植え込み材料が依然として見られ、且つ植え込み箇所の髄膜内表面に少量の癒着が存在していた。
【0130】
実験例2
【0131】
実施例2で得られた硬膜を用いてイヌ動物実験を行なった。実験イヌは体重15〜20kgであり、年齢1.5〜2才であり、雌雄限らず、合計5頭である。ケタミンを筋肉注射して全身麻酔下に毛を剃った後、動物を腹臥位で専用手術台上に置いた。2%のヨードチンキ及び75%のアルコールで消毒した。動物の頭頂の真ん中を縦切開した。剥離器によって骨膜を分離し、両頭頂部頭蓋骨板を露出させ、高速ドリルで頭蓋骨を磨き、両頭頂部に骨窓を形成した。小型鋏で両側頭頂部から大きさ3 cm×3cmの矩形硬膜を切り、頭頂部の硬膜欠損を作った。露出した脳表面を電気焼灼し、大きさ1 mm×1 mmの損傷点を6つ作った。本発明の実施例2で得られた硬膜を相応形状及び寸法の修復材料に切り整え、疎水性エレクトロスピニング層が脳表面に向くように、4/0無損傷糸で間欠に縫合し、針ピッチが4mmであり、イヌ頭頂部の欠損を修復した。円針4号糸を用いて筋肉を縫合した。対照組としては、市販の臨床使用される動物由来髄膜修復材料を用いた。術後、イヌに対して常規的な飼育及び観察を行なった。術後、動物は良好に回復し、切創の癒合が良好であり、脳髄液の漏出がなく、てんかんの発生がなかった。術後の摂食、摂水が正常であり、動物の戸外活動が正常であり、運動障害が発見されずに予定期間生存していた。
【0132】
術後18ヵ月後に、手術部位を中心として、人工髄膜及び周辺硬膜及び内面の脳組織を含むように、手術部位より1cm大きい範囲において標本を切り取った。標本を切り出した後、人工髄膜と硬膜との接続箇所の合わせが良好で境界が無く、完全に癒合しており、縫合の糸のみが見られたことが判明した。原生硬膜間には、明らかな充血、出血等の拒絶反応が見られなかった。それに対して、対照組の植え込み部位には、未分解の植え込み材料が依然として見られ、且つ植え込み箇所の髄膜内表面に少量の癒着が存在していた。
【0133】
実験例3
【0134】
実施例3で得られた硬膜を用いてニュージランドウサギ動物実験を行なった。実験動物に対して頭頂部開頭を施し、局部の硬膜欠損及び脳組織損傷を人為的に作った。その後、人工髄膜でそれぞれ硬膜修復術を実施した。術後、動物に対して常規的な飼育及び観察を行なった。術後、動物は良好に回復した。術後18ヵ月後に、手術部位を中心として、人工髄膜及び周辺硬膜及び内面の脳組織を含むように、手術部位より1cm大きい範囲において標本を切り取った。標本を切り出した後、内側表面が上皮細胞に覆われ、上皮下に繊維組織が増殖し、繊維母細胞が増殖し、コラーゲン繊維が多くなり、材料内の血行性新生組織が増殖し、宿主新生組織が侵入し、材料が分解して総量が明らかに減少し、内部に毛細血管が見えることが判明した。新旧組織の界面には好中性顆粒球やリンパ球などの炎症細胞反応がなく、界面には嚢壁が形成されていなかった。クモ膜及び脳組織が正常であった。
【0135】
実験例4
【0136】
実施例4で得られた硬膜を用いてイヌ動物実験を行なった。具体的な動物実験方法は、実験例2のと同じである。
【0137】
術後15ヵ月後に、手術部位を中心として、人工髄膜及び周辺硬膜及び内面の脳組織を含むように、手術部位より1cm大きい範囲において標本を切り取った。標本を切り出した後、人工髄膜と硬膜との接続箇所の合わせが良好で境界が無く、完全に癒合しており、縫合の糸のみが見られたことが判明した。原生硬膜間には、明らかな充血、出血等の拒絶反応が見られなかった。
【0138】
実験例5
【0139】
実施例5で得られた硬膜を用いてニュージランドウサギ動物実験を行なった。対照組としては、市販の臨床使用される動物由来髄膜修復材料を用いた。
【0140】
具体的な実験方法は、実験例3のと同じである。術後15ヵ月後に、動物の手術部位を中心として標本を切り取った。具体的な方法は実験例3のと同じである。標本を切り出した後、内側表面が上皮細胞に覆われ、上皮下に繊維組織が増殖し、繊維母細胞が増殖し、コラーゲン繊維が多くなり、材料内の血行性新生組織が増殖し、宿主新生組織が侵入し、材料が分解して総量が明らかに減少し、内部に毛細血管が見えることが判明した。新旧組織の界面には好中性顆粒球やリンパ球などの炎症細胞反応がなく、界面には嚢壁が形成されていなかった。クモ膜及び脳組織が正常であった。それに対して、対照組の植え込み部位には、未分解の植え込み材料が依然として見られ、且つ植え込み箇所の髄膜内表面に少量の癒着が存在していた。
【0141】
実験例6
【0142】
実施例6で得られた硬膜を用いてイヌ動物実験を行なった。
【0143】
具体的な実験方法は、実験例2のと同じである。
【0144】
術後12ヵ月後に、手術部位を中心として、人工髄膜及び周辺硬膜及び内面の脳組織を含むように、手術部位より1cm大きい範囲において標本を切り取った。標本を切り出した後、人工髄膜と硬膜との接続箇所の合わせが良好で境界が無く、完全に癒合しており、縫合の糸のみが見られたことが判明した。原生硬膜間には、明らかな充血、出血等の拒絶反応が見られなかった。
【0145】
実験例7
【0146】
実施例7で得られた硬膜を用いてニュージランドウサギ動物実験を行なった。
【0147】
具体的な実験方法は、実験例3のと同じである。術後12ヵ月後に、手術部位を中心として、人工髄膜及び周辺硬膜及び内面の脳組織を含むように、手術部位より1cm大きい範囲において標本を切り取った。標本を切り出した後、内側表面が上皮細胞に覆われ、上皮下に繊維組織が増殖し、繊維母細胞が増殖し、コラーゲン繊維が多くなり、材料内の血行性新生組織が増殖し、宿主新生組織が侵入し、材料が分解して総量が明らかに減少し、内部に毛細血管が見えることが判明した。新旧組織の界面には好中性顆粒球やリンパ球などの炎症細胞反応がなく、界面には嚢壁が形成されていなかった。クモ膜及び脳組織が正常であった。
【0148】
本発明の実施例を開示、記載したが、当業者にとって、本発明の原理と趣旨を離脱せずに、これらの実施例に対して多くの変更、補正、置換え及び変形を行なうことができる。本発明の範囲は、請求項及びその同等物に限定される。
【符号の説明】
【0149】
1 エレクトロスピニング吐出ヘッド;2 紡糸;3 高圧電源;4 受け装置;5 生物印刷吐出ヘッド;6 容器;7 疎水性紡糸;8 薬物;9 親水性紡糸;10 細胞因子;11 中間層紡糸;A 疎水性エレクトロスピニング層;B 親水性エレクトロスピニング層;C 中間層。
【技術分野】
【0001】
本発明は人工生物膜及びその製造に関し、特に人工硬膜及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
硬膜欠損は神経外科の臨床においてよくある。開放性頭蓋脳損傷(労働災害、交通事故、戦争などによる)、腫瘍の侵食、先天性髄膜欠損及び他の頭蓋脳疾患は、いずれも硬膜欠損を誘発する要因になれる。硬膜欠損が生じると、すぐに修復して脳脊髄液の漏出を防止し、脳ヘルニアや大気圧の圧迫を防止する必要がある。そうしないと、人の命をおびやかす。
【0003】
現在、硬膜の代用品が多くあり、硬膜を修復する材料としては、自家筋膜、同種異体材料、天然及び人工合成材料、異種材料という4種類がある。しかしながら、これらの材料は臨床で使用されると、臨床感染率が高いなどの欠陥を避けられない。統計によると、開頭術の感染率は4%であり、ブタ小腸粘膜を原料として製造した硬膜の感染率は3.4%であり、コラーゲンで製造した髄膜の感染率は3.8%である。血液脳関門の存在により、頭蓋内感染が一旦発生すると、頭蓋内の血中薬物濃度は所要のレベルに達成しにくく、感染の抑制に障害をもたらす。現在の人工髄膜は一般的に、髄膜内に薬物を混入することができないため、術後の感染に抑制効果がない。
【0004】
また、脳腫瘍侵食破壊が原因で髄膜移植修復手術を行なうことは、よくみられる髄膜修復の原因の一つである。半分以上の脳腫瘍は徹底的に切除されることができないため、手術後に通常、化学療法で治療する必要がある。化学薬物の多くは、毒性が大きいとともに血液脳関門を透過することができないため、同様に有効な濃度を達し得ず、治療効果に影響する。
【0005】
現在の人工髄膜は一般的に、治療的薬物を含まない。人工髄膜の由来によれば、自家筋膜には薬物を全く添加し得ず、同種又は異体材料は薬物の担持を実現しにくいのに対し、人工合成材料は設計及び加工性に優れるため、薬物を有効に担持することができる。また、人工髄膜上によく固定することにより、髄膜移植後に薬物を体内に放出して治療目的を果たすことは、薬物添加の方式方法に制限されて、全ての加工方式によっても得られるわけではない。現在の抗感染薬物の添加方法として一般的に抗感染薬物を含浸させるが、このように添加される薬物のほとんどすべては人工髄膜基材の表面に留まり、流失し易く、効果的で制御可能に放出する目的を果たすこともできない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の通り、従来の人工硬膜は、感染率が高く、生物相容性が悪く、人体に徹底的に吸収されにくいとともに、治療薬物が添加されにくく、薬物の効果的な放出を制御しにくい欠陥を有する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記少なくとも1つの技術課題を解決するために、本発明は、生物組織相容性に優れ、癒着を防止し、完全に吸収されることができ、力学的機械性がよく、感染率が低く、他の治療的物質を混入し得る特徴を有する人工硬膜を提供する。
【0008】
さらに、本発明は人工硬膜の製造方法を提供する。
【0009】
本発明による人工硬膜は、エレクトロスピニング法によって製造されたエレクトロスピニング層からなり、前記エレクトロスピニング層が少なくとも1層の疎水性エレクトロスピニング層からなる。疎水性エレクトロスピニング層は、1種以上の疎水性重合体からエレクトロスピニング法によって製造されたものであり、前記疎水性重合体が、疎水性脂肪族ポリエステル類、ポリエーテルエステル類、ポリオルトエステル、ポリウレタン、ポリ酸無水物、ポリホスファゼン、ポリアミノ酸、並びに上記重合体のうちの二種以上の共重合体及び混合物よりなる群から選ばれたものである。
【0010】
さらに、前記疎水性脂肪族ポリエステル類は、ポリ乳酸、ポリグリコリド、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシ酪酸エステルよりなる群から選ばれた少なくとも1種である。前記ポリエーテルエステル類は、ポリジオキサノン(polydioxanone)、グリコール・乳酸共重合体、グリコール・ブチレンテレフタレート共重合体よりなる群から選ばれた少なくとも1種である。前記ポリ酸無水物は、ポリセバシン酸-ヘキサデカン二酸酸無水物(polysebacic polyanhydride-cetane diacid anhydride)、I型ポリ酸無水物、II型ポリ酸無水物、III型ポリ酸無水物、IV型ポリ酸無水物よりなる群から選ばれた少なくとも1種である。
【0011】
疎水性エレクトロスピニング層からなる人工硬膜は、その強度が人の硬膜に似ており、生体の自家硬膜が再生する前に、脳を密封し、脳脊髄液の漏出を防止して脳を保護する作用を奏することができる。疎水性材料からなるエレクトロスピニング層は、細胞の侵入に不利であるため、癒着防止の目的を果たすことができる。実際に、強度に対する異なる要求を満たすために、必要に応じて多層の疎水性エレクトロスピニング層を配置することもできる。
【0012】
さらに、本発明による人工硬膜において、前記疎水性エレクトロスピニング層上には、少なくとも1層の親水性エレクトロスピニング層が更に配置されることができる。前記親水性エレクトロスピニング層は、1種以上の親水性重合材料からエレクトロスピニング法によって製造されたものであり、前記親水性重合体材料は、硫酸コンドロイチン、ヘパリン、寒天、グルカン、アルギン酸、変性セルロース、アルギン酸ナトリウム、でんぷん、セルロース、ゼラチン、フィブリン、フィブロイン、エラスチン擬態のペプチド重合体、コラーゲン、キトーサン、変性キトーサン、親水性ポリウレタン、ポリエチレングリコール、ポリメチルメタクリレート、PMMA、ポリヒドロキシブチレート/バリレート(PHBV)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-ヒドロキシヘキサノエート(PHBHHx)、ポリビニルアルコール、ポリラクチド、及び上記材料のうちの二種以上の混合物よりなる群から選ばれたものである。
【0013】
この硬膜を脳の局部に植え込む場合、疎水性エレクトロスピニング層は大脳表面の近くに設けられ、癒着防止の作用を奏する;親水性エレクトロスピニング層は大脳に遠い側に設けられ、細胞の付着、移動、増殖、分化のためによいナノ細胞骨格を提供する。前記親水性エレクトロスピニング層は生物相容性のよい親水性材料からなったため、幹細胞及び繊維芽細胞を有効に進入させることができ、自家硬膜の成長を促進することができる。実際に、異なる要求を満たすために、必要に応じて多層の親水性エレクトロスピニング層を配置することもできる。
【0014】
本発明の実施形態の一つによると、本発明による人工硬膜において、前記疎水性エレクトロスピニング層と親水性エレクトロスピニング層の間には中間層がさらに配置されることができる。前記中間層は、1種以上の重合体材料からエレクトロスピニング法によって製造されたものであり、中間層の水に対する親和力は、疎水性エレクトロスピニング層から親水性エレクトロスピニング層への方向に次第に高くなる。中間層の配置は、疎水性エレクトロスピニング層と親水性エレクトロスピニング層の間の親和力を強めることができる。
【0015】
本発明の他の実施形態によると、疎水性エレクトロスピニング層、親水性エレクトロスピニング層、及び中間層のうちのいずれか1層又は多層には、細胞因子及び/又は薬物が混紡されることができる。混紡エレクトロスピニング層を脳組織の局部に植え込んだ後、エレクトロスピニング層高分子重合体の吸収につれて、混紡された細胞因子及び/又は薬物は局部に放出されて相応の作用を発揮することにより、局部感染を防止する、癒着を防止する、脳腫瘍再発を防止する、又は自家硬膜修復を促進する。
【0016】
本発明の更なる実施形態によると、疎水性エレクトロスピニング層及び/又は親水性エレクトロスピニング層の上には、細胞因子及び/又は薬物が更に付着することができる。
【0017】
本発明に記載の細胞因子は、繊維芽細胞の付着、移動、増殖、分化に作用を奏する因子であり、インターロイキン、コロニー形成刺激因子、腫瘍壊死因子、血小板由来増殖因子、アルカリ性繊維芽細胞因子、及び上記因子のうちの二種以上の混合物よりなる群から選ばれたものである。細胞因子の作用によって、生体自家硬膜化の過程を速めることができる。
【0018】
本発明に記載の薬物は、抗生素、止血剤、癒着防止剤、及び抗腫瘍薬物よりなる群から選ばれた1種以上である。これらの薬物は実際の必要に応じて、本発明による人工硬膜上に配置される。植え込んだ後、薬物は重合体材料の吸収及び生体自家硬膜化の過程に従って、次第に局部に放出されて治療及び予防の作用を奏し、血液脳関門の薬物に対する遮断作用を克服する。
【0019】
さらに、細胞因子及び/又は薬物はヒドロゾルに包覆されることができる。ヒドロゾルの粘着及び固定作用によって、処理する局部の状況に照らして、薬物の均一的な又は所定箇所における放出を実現することができる。前記ヒドロゾルは、多糖類重合体、ポリペプチド類重合体、及び合成親水性高分子重合体よりなる群から選ばれた1種以上である。
【0020】
本発明の実施形態の一つによると、前記人工硬膜の疎水性エレクトロスピニング層の繊維直径が50~1000nmである。本発明の実施形態の一つによると、疎水性エレクトロスピニング層の孔径が3μm未満である。親水性エレクトロスピニング層の繊維直径が5~200μmであり、孔径が20~200μmである。エレクトロスピニング繊維の隙間の大小分布は繊維直径に大きく依頼し、繊維直径が小さくなる場合、孔径も同時に小さくなる。したがって、繊維直径を制御することにより、エレクトロスピニング層の孔径に対する制御を実現し得る。人体細胞の平均直径が10~20μmであり、脳脊髄膜には主に繊維芽細胞及びその分泌したコラーゲン繊維が分布されているが、一般の繊維芽細胞の直径は20~30μmである。疎水性エレクトロスピニング層の孔径を3μm未満に設定すると、細胞の侵入を阻止し、脳癒着の発生を更に防止することができる。また、親水性エレクトロスピニング層の孔径を細胞の平均直径以上に設定することは、細胞の進入や成長を更に促進するためである。
【0021】
本発明の他の面によると、本発明は下記のステップを含む人工硬膜の製造方法をさらに提供している:
a)疎水性重合体を溶媒に溶解させて疎水性重合体エレクトロスピニング溶液を得、前記疎水性重合体が、疎水性脂肪族ポリエステル類、ポリエーテルエステル類、ポリオルトエステル、ポリウレタン、ポリ酸無水物、ポリホスファゼン、ポリアミノ酸、並びに上記重合体のうちの二種以上の共重合体及び混合物よりなる群から選ばれたものである;
b)前記疎水性重合体エレクトロスピニング溶液から、エレクトロスピニング法によって膜状の疎水性エレクトロスピニング層を製造し、前記人工硬膜を得る。
【0022】
さらに、前記疎水性脂肪族ポリエステル類は、ポリ乳酸、ポリグリコリド、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシ酪酸エステルよりなる群から選ばれた少なくとも1種である。前記ポリエーテルエステル類は、ポリジオキサノン、グリコール・乳酸共重合体、グリコール・ブチレンテレフタレート共重合体よりなる群から選ばれた少なくとも1種である。前記ポリ酸無水物は、ポリセバシン酸-ヘキサデカン二酸酸無水物、I型ポリ酸無水物、II型ポリ酸無水物、III型ポリ酸無水物、IV型ポリ酸無水物よりなる群から選ばれた少なくとも1種である。
【0023】
本発明による方法は、エレクトロスピニングの原理によって、特定種類の高分子重合体を受けて人工硬膜を形成する。前記人工硬膜を植え込むと、脳癒着の発生を有効に防止することができる。
【0024】
脳癒着を更に阻止するために、繊維直径を制御してエレクトロスピニング層の孔径を制御することにより、細胞の侵入を阻止することができる。本発明における疎水性エレクトロスピニング層の繊維直径は、50~1000nmに制御されることができる。本発明の実施形態の一つによると、疎水性エレクトロスピニング層の孔径は3μm未満である。
【0025】
上記方法において、ステップbに記載のエレクトロスピニングの工程パラメータは、微量注射ポンプの速度が0.1〜5.0ml/hであり、高圧発生器の電圧が5〜40kVであり、受け距離が5.0〜30.0cmであるように設定されることができる。
【0026】
臨床におけるさらによい効果を達するために、本発明による方法は、前記疎水性エレクトロスピニング層上に類似のエレクトロスピニング法によって、親水性エレクトロスピニング層を形成する下記のステップをさらに含むことができる:
a') 前記親水性重合体が、硫酸コンドロイチン、ヘパリン、寒天、グルカン、アルギン酸、変性セルロース、アルギン酸ナトリウム、でんぷん、セルロース、ゼラチン、フィブリン、フィブロイン、エラスチン擬態のペプチド重合体、コラーゲン、キトーサン、変性キトーサン、親水性ポリウレタン、ポリエチレングリコール、ポリメチルメタクリレート、PMMA、ポリヒドロキシブチレート/バリレート、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-ヒドロキシヘキサノエート、ポリビニルアルコール、ポリラクチド、及び上記材料のうちの二種以上の混合物よりなる群から選ばれたものである;
b')前記親水性重合体エレクトロスピニング溶液を、エレクトロスピニング法によって前記疎水性エレクトロスピニング層上に受け、親水性エレクトロスピニング層を形成する。
【0027】
親水性エレクトロスピニング層を大脳に遠い側に設ける目的は、細胞の進入を促進し、自家の新生硬膜を形成することである。細胞の進入をさらに促進するために、親水性エレクトロスピニング層の繊維直径は5~200μmであり、孔径は20~200μmであることができる。
【0028】
親水性エレクトロスピニング層を形成する過程において、ステップb'に記載のエレクトロスピニングの工程パラメータとして、微量注射ポンプの速度が0.1〜20.0ml/hであり、高圧発生器の電圧が10〜45kVであり、受け距離が5.0〜30.0cmである。
【0029】
エレクトロスピニングの過程において、一般的に疎水性重合体又は親水性重合体をまず適切な溶媒に溶解させ、エレクトロスピニング溶液を形成する必要がある。これらの溶媒は一般的に揮発性の有機溶媒であり、蟻酸、酢酸、エタノール、アセトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、ヘキサフルオロイソプロパノール、トリフルオロエタノール、ジクロルメタン、トリクロルメタン、メタノール、エタノール、クロロホルム、ジオキサン、トリフルオロエタン、トリフルオロ酢酸、又は上記重合体溶媒のうちの二種以上の混合液が挙げられるが、それらに限らない。揮発性の有機溶媒は、エレクトロスピニング層を形成する過程において速く揮発することができ、最終のエレクトロスピニング層上に有機溶媒が残留しないようにする。一部の場合、溶媒として水を用いてもよく、乾燥又は陰干しによってエレクトロスピニング層形成後にそれを除去する。
【0030】
さらに、本発明による人工硬膜の製造方法は、前記親水性エレクトロスピニング層を形成する前、疎水性エレクトロスピニング層と親水性エレクトロスピニング層の間に、エレクトロスピニング法によって中間層を形成するステップを更に含み、前記中間層の水に対する親和力が、疎水性エレクトロスピニング層から親水性エレクトロスピニング層への方向に次第に高くなる。エレクトロスピニング法によって中間層を形成する高分子材料、溶媒、エレクトロスピニングパラメータの選択は、実際の状況に応じて、通常の技術に従って選択確定することができる。中間層の形成は、親水層と疎水層の間の親和力を高めることができる。
【0031】
本発明の実施形態の一つによると、エレクトロスピニング法によって各エレクトロスピニング層を形成する過程において、相応の重合体エレクトロスピニング溶液に細胞因子及び/又は薬物を混ぜることができる。混紡技術の導入によると、形成されたエレクトロスピニング層は高分子重合体と細胞因子及び/又は薬物とを含む混紡エレクトロスピニング層になり、更に臨床の需要に適合し、治療効果を高めることができる。
【0032】
また、本発明による人工硬膜の製造方法は、前記疎水性エレクトロスピニング層及び/又は親水性エレクトロスピニング層の上に、細胞印刷によって細胞因子及び/又は薬物分布を形成するステップを更に含むことができる。細胞印刷とは、疎水性エレクトロスピニング層及び/又は親水性エレクトロスピニング層を骨格(「バイオペーパー」)とし、その上に細胞因子及び/又は薬物を印刷することである。
【0033】
細胞因子及び/又は薬物をエレクトロスピニング層上に更に均一に分布される、又は所定箇所に明確に分布させるために、前記細胞因子及び/又は薬物はヒドロゾルに包覆されることができる。
【0034】
具体的には、本発明による細胞因子及び/又は薬物の細胞印刷ステップは以下の通りである:
a'')ヒドロゾル溶液と細胞因子及び/又は薬物とを混合し、混合溶液を形成する;
b'') 細胞印刷技術によって、前記混合溶液を前記疎水性エレクトロスピニング層及び/又は親水性エレクトロスピニング層の上に印刷する。
【0035】
本発明におけるヒドロゾル溶液は、多糖類重合体、ポリペプチド類重合体、合成親水性高分子重合体から製造された水溶液である。前記多糖類重合体として、でんぷん、セルロース、アルギン酸ナトリウム、ヒアルロン酸又はキトーサンが挙げられるがそれらに限らず、前記ポリペプチド類重合体として、コラーゲン、ポリL〜リジン又はポリL〜グルタミン酸が挙げられるがそれらに限らず、前記合成親水性高分子重合体として、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアクリルアミド、又はN-イソプロピルアクリルアミド(N-isopropyl acrylamide)が挙げられるがそれらに限らない。
【0036】
ヒドロゾルは常態において一般的に液体であり、適切な温度又は特定な条件下において短時間にゼリー状になることができるため、よい付着力を有する。本発明によると、一部のヒドロゾルは、架橋剤の参与を必要とする。したがって、前記印刷ステップの前、前記疎水性エレクトロスピニング層及び/又は親水性エレクトロスピニング層を架橋剤溶液で予処理するステップを含むことができる。架橋剤溶液で予処理することにより、架橋剤をエレクトロスピニング層上に付着させる;ヒドロゾル溶液を適切な細胞因子及び/又は薬物と混合し、印刷吐出ヘッド内に配置する。印刷する時、吐出ヘッド内における細胞因子及び/又は薬物を混合したヒドロゾル溶液はエレクトロスピニング層に接触すると、凝固してエレクトロスピニング層上に粘着する。印刷する時、均一印刷の方法によって、細胞因子及び/又は薬物を均一に放出することができる。また、患者の個人状況によって、局部集中印刷の方法を採用し、細胞因子及び/又は薬物を関心の部位に集中放出することができる。架橋剤の選択はヒドロゾルの種類にかかわり、例えばヒドロゾルがアルギン酸ナトリウムである場合、架橋剤が塩化カルシウムである;ヒドロゾルがフィブリンである場合、架橋剤がトロンビンである。
【発明の効果】
【0037】
従来技術に比べて、本発明は以下の有益な効果を有する。
(1)機械特性は、適応症の引張強度及び柔軟性に対する要求を満たすとともに、透水せず、癒着を防止することができる;
(2)膜片が用いる材料はいずれも人体に無毒無害であり、優れた生物組織相容性を有し、植え込んだ後に完全に吸収され、膜片による発癌を避けることができる;
(3)膜片そのものは生物由来成分で形成されたものではなく、これによる免疫拒否、ウィルス伝播、疾病伝染などの多くの危険を免れる;
(4)2層の設計案は、癒着を防止するとともに自家細胞の増殖を促進し、自体の早急な修復を促すことができる;
(5)生物印刷技術を結合し、治療作用を有する物質を膜片に導入し、且つ植え込んだ後にこれらの物質を制御可能に放出することができ、治療効果を強める;
(6)原料が充分でコストが低く、貯蔵も運送も簡単である;
(7)製造方法工程ステップが簡単であり、コストが低く、工業的に普及させやすい;
(8)臨床上の応用が簡単で、且つ患者の個人状況によってあつらえることができる。
【0038】
本発明の他の面や利点の一部を下記の記載で与える。その一部は下記の記載から明瞭になる、或いは本発明の実践から理解され得る。
【図面の簡単な説明】
【0039】
下記の図面を結合し、本発明の上記及び/又は他の面や利点は、実施例に対する記載から明白且つ理解され易くなる。
【図1】エレクトロスピニング(electrospinning)法で本発明に記載の人工硬膜を製造する工程模式図である;
【図2】エレクトロスピニング法を生物印刷技術に結合して本発明に記載の人工硬膜を製造する工程模式図である;
【図3】本発明に記載の疎水性エレクトロスピニング層からなる人工硬膜の模式図である;
【図4】本発明に記載の疎水性エレクトロスピニング層及び親水性エレクトロスピニング層からなる人工硬膜の模式図である;
【図5】本発明に記載の疎水性及び親水性エレクトロスピニング層の間に中間層を有する、人工硬膜の模式図である;
【図6a】本発明に記載の混紡による、疎水性エレクトロスピニング層及び親水性エレクトロスピニング層を有する人工硬膜の模式図である;
【図6b】図6aに示すI領域の局部拡大模式図である;
【図7a】本発明に記載の混紡による、疎水性エレクトロスピニング層、親水性エレクトロスピニング層及び中間層を有する人工硬膜の模式図である;
【図7b】図7aに示すII領域の局部拡大模式図である;
【図8a】本発明に記載の生物印刷技術を結合して得られた人工硬膜の模式図である;
【図8b】図8aに示すIII領域の局部拡大模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、本発明の実施例を詳しく説明する。前記実施例の例示は図に示されるが、同一の又は類似する符号は、同一の又は類似する素子、或いは同一の又は類似する機能を有する素子を示す。下記の参考図によって記載された実施例は例示的なものであり、本発明を説明するためのものであり、本発明に対する制限と理解され得ない。
【0041】
以下、図1〜8を結合しながら本発明による人工硬膜及びその製造方法を説明する。
【0042】
図1は、本発明に記載の人工硬膜のエレクトロスピニング工程模式図である。エレクトロスピニング吐出ヘッド1内には高分子重合体溶液があり、高圧電源3の高圧端はエレクトロスピニング吐出ヘッド1上に接続されている。受け装置4は円柱体の形状であり、実際作業の必要に応じて、円柱体の軸心を回ること及び円柱体の長軸方向に左右移動することができる。受け装置4の移動設定は、コンピュータで相応のプログラムを設定することによって実現され、形成されるエレクトロスピニング層の厚みを均一にすることができる。実際に、受け装置はさらに、表面が平らである平面に配置されることができ、平面の左右や前後移動によって均一的な受けを実現することができる。受け装置4は高圧電源3の低圧端に連通し、エレクトロスピニング吐出ヘッド1と受け装置4との間に高い電圧差を形成させる。
【0043】
エレクトロスピニング工程が開始する前、まず適切なエレクトロスピニング溶液を調製する必要がある。
【0044】
疎水性重合体を適切な溶媒に溶解させてなる疎水性重合体エレクトロスピニング溶液を使用することができる。これらの疎水性重合体としては、疎水性脂肪族ポリエステル類(例えばポリ乳酸、ポリグリコリド、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシ酪酸エステル)、ポリエーテルエステル類(例えばポリジオキサノン(polydioxanone))、ポリオルトエステル(polyorthoester)、ポリウレタン、ポリ酸無水物(例えばポリセバシン酸-ヘキサデカン二酸酸無水物)、ポリホスファゼン(polyphosphazene)、ポリアミノ酸、又は上記重合体のうちの二種以上の共重合体及び混合物が挙げられるが、それらに限らない。
【0045】
設計の必要に応じて、疎水性エレクトロスピニング層を形成した後、その上に更に親水性エレクトロスピニング層を形成する必要がある場合、親水性重合体を適切な溶媒に溶解させてなる親水性重合体エレクトロスピニング溶液を同時に調製する必要がある。前記親水性重合体としては、硫酸コンドロイチン、ヘパリン、寒天、グルカン、アルギン酸、変性セルロース、アルギン酸ナトリウム、でんぷん、セルロース、ゼラチン、フィブリン、フィブロイン、エラスチン擬態のペプチド重合体、コラーゲン、キトーサン、変性キトーサン、親水性ポリウレタン、ポリエチレングリコール、ポリメチルメタクリレート、PMMA、ポリヒドロキシブチレート/バリレート、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-ヒドロキシヘキサノエート、ポリビニルアルコール又はポリラクチドが挙げられるが、それらに限らない。この場合、必要に応じて、疎水性又は親水性重合体エレクトロスピニング溶液をそれぞれ収容する複数のエレクトロスピニング吐出ヘッド1を設けることもできるし、疎水性エレクトロスピニング層を形成した後に、エレクトロスピニング吐出ヘッド1内のエレクトロスピニング溶液を取り替えることもできる。
【0046】
エレクトロスピニング溶液の溶媒は水であってもよく、揮発性の有機溶媒を選択してもよい。前記揮発性の有機溶媒としては、蟻酸、酢酸、エタノール、アセトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、ヘキサフルオロイソプロパノール、トリフルオロエタノール、ジクロルメタン、トリクロルメタン、メタノール、エタノール、クロロホルム、ジオキサン、トリフルオロエタン、トリフルオロ酢酸が挙げられるが、それらに限らない。
【0047】
エレクトロスピニング溶液を準備した後に、パラメータを設定し、電源をつないでエレクトロスピニング装置を動作させる。紡糸2がエレクトロスピニング吐出ヘッド1から引き出されるのにつれて、受け装置4は、均一なエレクトロスピニング膜構造を形成するように所定のプログラムに従って移動する。
【0048】
疎水性エレクトロスピニング層を形成する工程パラメータは一般的に、微量注射ポンプの速度が0.1〜5.0ml/hであり、高圧発生器の電圧が5〜40kVであり、受け距離が5.0〜30.0cmであるように設定される。疎水性エレクトロスピニング層の繊維直径は50~1000nmに制御されることができ、孔径が3μm未満である。
【0049】
親水性エレクトロスピニング層を形成する工程パラメータとしては、微量注射ポンプの速度が0.1〜20.0ml/hであり、高圧発生器の電圧が10〜45kVであり、受け距離が5.0〜30.0cmである。親水性エレクトロスピニング層の繊維直径は5~200μmであり、孔径が20~200μmである。
【0050】
図3及び図4に示すように、作業中において実際の必要に応じて、上記エレクトロスピニング工程を何回も繰返すことにより、多層の疎水性エレクトロスピニング層及び/又は親水性エレクトロスピニング層を形成することができる。
【0051】
図3は3層の疎水性エレクトロスピニング層からなる人工硬膜であり、その強度が人の硬膜に似ている。この層は疎水性材料からなったため、細胞の侵入に不利である。且つ、用いた材料はいずれも安全で無毒であるため、人体に吸収されることができ、癒着防止の目的を果たすことができる。
【0052】
図4は、2層構造の疎水性エレクトロスピニング層Aと3層構造の親水性エレクトロスピニング層Bからなる人工硬膜である。この硬膜を脳の局部に植え込む場合、癒着防止の疎水性エレクトロスピニング層Aは大脳表面の近くに設けられ、親水性エレクトロスピニング層Bは大脳に遠い側に設けられ、細胞の付着、移動、増殖、分化のためによいナノ細胞骨格を提供する。前記親水性エレクトロスピニング層Bは生物相容性のよい親水性材料からなり、且つ孔径が大きいため、幹細胞及び繊維芽細胞を進入させることができ、自家硬膜の成長を促進することができる。
【0053】
エレクトロスピニング層を形成した後、エレクトロスピニング溶液の成分の相違に基づいて、適切な乾燥又は陰干しのステップを選択することができる。例えばヘキサフルオロイソプロパノールである一部の揮発性有機溶媒をエレクトロスピニング溶液の溶媒とする場合、紡糸2が電圧差に従って受け装置4上に落下するのにつれて、溶媒が既に完全に揮発したため、乾燥又は陰干しのステップを省略することができる。
【0054】
疎水性エレクトロスピニング層と親水性エレクトロスピニング層は、水に対する親和力が大きく異なる。したがって、使用時に、構造上の安定を保ちにくい可能性がある。この問題を解決し、両部分間の親和力を強めるために、両部分間に中間層を更に形成することもできる。中間層の水に対する親和力は、疎水性エレクトロスピニング層から親水性エレクトロスピニング層への方向に次第に高くなる。実践において、水に対する親和力の要求に基づいて、1種以上の適切な高分子重合体及び相応の溶媒を選択して相応のエレクトロスピニング吐出ヘッド1内に配置し、上記方法に従って、親水性エレクトロスピニング層を形成する前に中間層を形成することができる。中間層のエレクトロスピニング工程パラメータとしては、微量注射ポンプの速度が0.1〜5.0ml/hであり、高圧発生器の電圧が5〜40kVであり、受け距離が5.0〜30.0cmである。
【0055】
形成された中間層を有する人工硬膜は図5に示される。図における疎水性エレクトロスピニング層Aは2層構造であり、親水性エレクトロスピニング層Bは3層構造である。疎水性エレクトロスピニング層Aと親水性エレクトロスピニング層Bとの間には2層構造の中間層Cが更に設けられ、疎水性エレクトロスピニング層Aに近い1層の中間層の親水性は、親水性エレクトロスピニング層Bに近い1層のよりも弱い。
【0056】
さらに、人工硬膜に細胞因子及び/又は薬物を加える目的を実現するために、混紡の方法によって実現することができる。具体的には、疎水性エレクトロスピニング層、親水性エレクトロスピニング層及び中間層のいずれか1層又は多層には、細胞因子及び/又は薬物を混紡することができる。必要に応じて、細胞因子及び/又は薬物を相応のエレクトロスピニング溶液に添加した後に、上記方法に従ってエレクトロスピニングを行なうことができる。細胞因子及び/又は薬物は紡糸2の形成につれて紡糸2に混入され、且つ受け装置4上に均一な膜構造を形成することができる。同様に、このプロセスを複数回繰返すことができ、毎回に混入される細胞因子及び/又は薬物は同じであっても異なっていてもよい。得られた人工硬膜は図6に示される。図6aにおける疎水性エレクトロスピニング層Aは2層構造であり、親水性エレクトロスピニング層Bは3層構造である。図6bから見えるように、疎水性紡糸7には薬物8が混紡され、親水性紡糸9には細胞因子10が混紡されている。
【0057】
図7aは図6の構造上に2層の中間層C構造を更に設けており、疎水性エレクトロスピニング層Aに近い1層は親水性エレクトロスピニング層Bに近い1層よりも、水に対する親和力が小さい。図7bから見えるように、疎水性紡糸7には薬物8が混紡され、親水性紡糸9には細胞因子10が混紡され、2層の中間層紡糸11には薬物8及び細胞因子10がそれぞれ混紡されている。
【0058】
さらに、本発明は、エレクトロスピニング法を生物印刷技術に結合して人工硬膜を製造する技術を提供している。生物印刷技術は近年に出現した新技術であり、特製の細胞溶液又は生物活性を有する細胞因子溶液を「生物インク」とし、体内において分解可能なバイオペーパー上に、予定計画に従って精確に印刷する。印刷した後、シートを所定の順に重ねる。印刷技術を使用したため、細胞及び/又は細胞因子からなる生物インクを予定部位に精確的に結合することができる。また、特定の重ね方式に従うバイオペーパーは、三次元構造を形成することができる。
【0059】
具体的な操作は図2に示す。図1に示す装置に基づき、生物印刷吐出ヘッド5を更に配置した。該生物印刷吐出ヘッド5は、従来のインクジェットプリンタを改造して得られるものであってもよく、例えば米国特許US 7051654に開示された方法を参照することができる。吐出ヘッドには細胞因子及び/又は薬物が含まれ、吐出ヘッドの印刷方式及び印刷位置は、コンピュータプログラムによって予め設定されることができる。具体的な生物印刷ステップは、従来技術に従って行なうことができる。
【0060】
本発明の実施形態の一つによると、細胞因子及び/又は薬物はヒドロゾルに包覆されることができ、ヒドロゾル溶液は多糖類重合体、ポリペプチド類重合体、又は合成親水性高分子重合体からなる水溶液であることができる。前記多糖類重合体として、でんぷん、セルロース、アルギン酸ナトリウム、ヒアルロン酸又はキトーサンが挙げられるがそれらに限らず、前記ポリペプチド類重合体として、コラーゲン、ポリL〜リジン又はポリL〜グルタミン酸が挙げられるがそれらに限らず、前記合成親水性高分子重合体として、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアクリルアミド、又はN-イソプロピルアクリルアミドが挙げられるがそれらに限らない。ヒドロゾルは常態において一般的に液体であり、適切な温度又は特定な条件下において短時間にゼリー状になることができるため、よい付着力を有し、細胞因子及び/又は薬物をエレクトロスピニング層に均一的に分布させる、又は明確な位置に分布させることができる。
【0061】
ヒドロゾルによって生物印刷を行なうステップは具体的に以下の通りである:生物印刷吐出ヘッド5に、相応の液体ヒドロゾルが混入された調製済みの細胞因子及び/又は薬物を入れる。エレクトロスピニング層を形成した後に、インクジェットプリンタは予定のプログラムに従ってエレクトロスピニング層上に印刷を行い、ヒドロゾルの選択に基づいて適切な条件を与える。ヒドロゾルはすぐによい付着力を有するゼリー状になり、包まれた細胞因子及び/又は薬物をエレクトロスピニング層上に粘着させる。印刷する時、均一印刷の方法によって設定することができる。形成された人工硬膜は図8aに示すように、毎層の疎水性エレクトロスピニング層構造上に一層の薬物を印刷することができ、毎層の親水性エレクトロスピニング層構造上に一層の細胞因子を印刷することができる。局部拡大図8bに示すように、生物印刷によって形成された膜は混紡によるものと違い、その細胞因子及び/又は薬物が、疎水性紡糸7及び/又は親水性紡糸9からなるエレクトロスピニング層の表面に塗布される。このような硬膜を体内に植え込んだ後、細胞因子及び/又は薬物を均一に放出することができる。また、患者の治療の必要に応じて局部集中印刷の方法を採用し、人体に植え込んだ後、細胞因子及び/又は薬物を関心の部位に集中放出することができる。
【0062】
一部のヒドロゾルのゲル化は、架橋剤の参与を必要とする。この場合、ヒドロゾルによって生物印刷を行なうステップは具体的に以下の通りである:容器6に予め適切な架橋剤を入れて、エレクトロスピニングが開始した後に、受け装置4は軸線回りに回動する又は左右に移動する過程において、容器6における架橋剤に接触し、形成されたエレクトロスピニング層上に架橋剤分子を付着させる。上記方法に従って生物印刷を行い、生物印刷吐出ヘッド5中の液体ヒドロゾルはエレクトロスピニング層上の架橋剤と接触するとき、すぐにゼリー状になり、包まれた細胞因子及び/又は薬物をエレクトロスピニング層上に粘着させる。架橋剤の選択はヒドロゾルの種類にかかわり、例えばヒドロゾルがアルギン酸ナトリウムである場合、架橋剤が塩化カルシウムである;ヒドロゾルがフィブリンである場合、架橋剤がトロンビンである。
【0063】
本発明の実施形態の一つによると、前記疎水性重合体エレクトロスピニング溶液としては、疎水性のL-ポリ乳酸及びε-カプロラクトンを選択することができ、両者の重量比が50:50又は30:70又は70:30であり、共重合高分子材料として、数平均分子量が150000~500000であり、それをヘキサフルオロイソプロパノールまたはジクロルメタンに溶解させる。混紡する必要がある場合、疎水性重合体エレクトロスピニング溶液に0.01~3%の抗生素溶液、及び/又は0.001~3%の止血と癒着防止薬物を入れて、L-ポリ乳酸及びε-カプロラクトン溶液と混合して均一な溶液を得ることができる。
【0064】
本発明の他の実施形態によると、親水性重合体エレクトロスピニング溶液は親水性ポリウレタンと、天然ゼラチン又は硫酸コンドロイチン又はポリエチレングリコールとを選択することができ、重量比が20~80:80~20であり、紡糸液が溶液合計重量の3〜15%である。混紡する場合、親水性重合体エレクトロスピニング溶液に、細胞因子の最終濃度が0.001~0.5%になるように、アルカリ性繊維芽細胞因子溶液を入れることができる。
【0065】
混紡又は生物印刷過程において加える薬物として、具体的な場合によって、抗生素又は止血又は癒着防止薬物を選択することができる。脳腫瘍の侵食による髄膜移植において、脳腫瘍に対する化学療法薬物を採用することができる。
【0066】
抗生素としては、セファロスポリン類(sephalosporins)、アンピシリン(ampicillin)、スピラマイシン、スルファニルアミド、キノロン類(quinolones)抗生素などが挙げられるが、それらに限らない。セフトリアキソンナトリウム(ceftriaxone sodium)であることが好ましい。髄膜手術は一般的に、開頭する必要がある。現在、開頭術後の頭蓋内感染の大部分は細菌性であり、主な病原菌は黄色ブドウ球菌、連鎖球菌、肺炎球菌、大腸菌、サルモネラ属、及び緑膿菌などを含む。なかでは、黄色ブドウ球菌が最もよく見られ、臨床報道によると、セフトリアキソンナトリウムの治療効果がよいと考えられる。
【0067】
抗腫瘍薬としては、ニムスチン(nimustine)、セムスチン(semustine)、リポソーマルドキソルビシン(liposomal doxorubicin)、アクチノマイシンD、ビンクリスチンなどが挙げられるが、それらに限らない。ビンクリスチンであることが好ましい。
【0068】
止血又は癒着防止薬物は、創傷の癒合を速めて癒着の発生を防止することができるが、止血因子(止血機能を同時に材料に持たせることができる)、コラーゲン合成酵素の抑制剤(例えばトラニラスト(tranilast)とペミロラスト(pemirolast)があり、コラーゲン合成酵素ヒスタミン及びプロスタグランジンの放出を抑制することができ、コラーゲンの再生を抑制し得る)、抗凝結薬(例えば、ジクマロール、ヘパリンナトリウム、ヒルジンなど)、消炎薬(例えばプロメタジン(promethazine)、デキサメタゾン(dexamethason)、ヒドロコルチゾン(hydrocortisone)、プレドニゾロン(prednisolone)、ブルフェン(brufen)、オキシフェンブタゾン(oxyphenbutazone)など)、カルシウム通路遮断剤(例えば塩酸ジルチアゼム(diltiazem hydrochloride)、ニフェニピン(nifedipine)、塩酸ベラパミル(verapamil hydrochloride)など)、細胞成長抑制剤(例えばフルオロウラシル(fluorouracil))、加水分解酵素(例えばヒアルロニダーゼ(hyaluronidase)、ストレプトキナーゼ(streptokinase)、ウロキナーゼ(urokinase)、ペプシン(pepsin)、tPA)、酸化還元剤(例えばメチレンブルー)などが挙げられるが、それらに限らない。
【0069】
本発明の実施形態の一つによると、混紡の過程において、エレクトロスピニング溶液に薬物又は因子を添加する方案は、エレクトロスピニング溶液重量の0.001~0.05 %のアルカリ性繊維芽細胞成長因子、エレクトロスピニング溶液重量の3%のアンピシリン、エレクトロスピニング溶液重量の0.001~0.05%の止血因子を含み、脳腫瘍による髄膜修復手術において、0.01〜5%のニムスチンを含むことができる。
【0070】
製造された人工硬膜を洗浄、滅菌、包装した後に貯蔵する。
【0071】
実施例1
【0072】
重量比が50:50で数平均分子量が260000であるL-ポリ乳酸及びε-カプロラクトンを選択してヘキサフルオロイソプロパノールに溶解させ、均一に混合して疎水性エレクトロスピニング溶液を形成し、エレクトロスピニング吐出ヘッド内に配置する。微量注射ポンプを調節することによって疎水性エレクトロスピニング溶液の出力速度を5ml/hに制御し、高圧発生器の電圧を30kVに調節し、受け装置の受け距離を20cmに調節するとともに、繊維を膜状構造として受け、平均繊維直径が300nmである疎水性エレクトロスピニング層を形成する。受けが終了した後、エレクトロスピニング装置をオフさせる。
【0073】
得られた人工髄膜をエタノール及び蒸留水で5回すすぎ、凍結乾燥した後に真空包装し、25kGyコバルト-60によって滅菌した後、−20℃で低温保存する。
【0074】
実施例2
【0075】
疎水性エレクトロスピニング層の調製方法は実施例1のと同じである。
【0076】
質量比が70:30であるポリエチレングリコール及び硫酸コンドロイチンを親水性エレクトロスピニング溶液とし、紡糸液の質量%が9%である。
【0077】
エレクトロスピニング装置を動作させ、実施例1の紡ぎ済みの疎水性エレクトロスピニング層上に引続き親水性エレクトロスピニング層を紡ぐ。受け距離が11cmであり、電圧が20kVであり、得られた親水性エレクトロスピニング層の平均繊維直径が10μmである。
【0078】
洗浄、保存方法は実施例1のと同じである。
【0079】
実施例3
【0080】
疎水性エレクトロスピニング層の調製方法は実施例1のと同じである。
【0081】
中間層が用いる重合体溶液は、質量比が70:30で質量%が10%であるポリウレタン及びヒアルロン酸である。エレクトロスピニング装置を動作させ、受け距離が11cmであり、電圧が20kVであり、平均繊維直径が5μmであるように設定し、紡ぎ済みの疎水性エレクトロスピニング層上に引続き中間層を紡ぐ。
【0082】
その後、中間層上に引続き親水性エレクトロスピニング層を紡ぐ。親水性エレクトロスピニング層の実施形態は、実施例4のと同じである。エレクトロスピニング装置をオフさせる。
【0083】
洗浄、保存方法は実施例1のと同じである。
【0084】
実施例4
【0085】
(1)疎水性エレクトロスピニング層を調製する:疎水性のポリカプロラクトンを選択し、クロロホルム/メタノール溶媒の混合比が1:1である。濃度が1%であるセフトリアキソンナトリウムを混合し、均一な溶液を得る。
【0086】
上記溶液をエレクトロスピニング吐出ヘッドに入れて、微量注射ポンプの速度を0.8ml/hに調節し、高圧発生器の電圧を12kVに調節し、受け装置の受け距離を15cmに調節するとともに、繊維を膜状構造として受ける。得られた疎水性エレクトロスピニング層の繊維直径が600nmである。
【0087】
エレクトロスピニング装置をオフさせる。
【0088】
(2)親水性エレクトロスピニング層を調製する:割合が20〜80:80〜20である親水性フィブロイン及び天然ゼラチンを用い、紡糸液の質量%が9%である。
【0089】
アルカリ性繊維芽細胞因子溶液を調製し、上記エレクトロスピニング液と均一に混合し、細胞因子の最終濃度が0.001%であり、受け距離が10cmであり、電圧が20kVであるようにする。エレクトロスピニング装置を動作させ、紡ぎ済みの疎水性エレクトロスピニング層上に引続き親水性エレクトロスピニング層を紡ぐ。得られた親水性エレクトロスピニング層の平均繊維直径がμmオーダーである。
【0090】
洗浄、保存方法は実施例1のと同じである。
【0091】
実施例5
【0092】
(1)疎水性エレクトロスピニング層を調製する:疎水性のポリカプロラクトンを選択し、クロロホルム/メタノール溶媒の混合比が1:1である。ビンクリスチンを混合し、濃度が100ng/mlである。均一な溶液を得る。
【0093】
上記溶液をエレクトロスピニング吐出ヘッドに入れて、微量注射ポンプの速度を0.8ml/hに調節し、高圧発生器の電圧を12kVに調節し、受け装置の受け距離を15cmに調節するとともに、繊維を膜状構造として受ける。得られた疎水性エレクトロスピニング層の繊維直径が600nmである。
【0094】
エレクトロスピニング装置をオフさせる。
【0095】
(2)中間層を調製する:質量比が70:30であるポリウレタン及びヒアルロン酸を用い、紡糸液の質量%が10%である。アンピシリンを混合し、濃度が3%である。均一な溶液を得る。
【0096】
エレクトロスピニング装置を動作させ、紡ぎ済みの疎水性エレクトロスピニング層上に引続き中間層を紡ぐ。
【0097】
受け距離が11cmであり、電圧が20kVであり、平均繊維直径が5μmである。
【0098】
エレクトロスピニング装置をオフさせる。
【0099】
(3)親水性エレクトロスピニング層を調製する:割合が20〜80:80〜20である親水性フィブロイン及び天然ゼラチンを用い、紡糸液の質量%が9%である。アンピシリン溶液を調製し、上記エレクトロスピニング液と均一に混合し、抗生素の最終濃度が3%であるようにする。
【0100】
エレクトロスピニング装置を動作させ、受け距離が10cmであり、電圧が20kVであるように調節し、紡ぎ済みの中間層上に引続き親水性エレクトロスピニング層を紡ぐ。平均繊維直径がμmオーダーである。
【0101】
洗浄、保存方法は実施例1のと同じである。
【0102】
実施例6
【0103】
(1)細胞印刷の疎水性エレクトロスピニング層を調製する。
【0104】
疎水性エレクトロスピニング溶液としては、疎水性のL-ポリ乳酸及びε-カプロラクトンを選択し、両者の重量比が50:50であり、共重合高分子材料として、数平均分子量が260000であり、それをヘキサフルオロイソプロパノールに溶解させる。
【0105】
0.1Mの塩化カルシウム溶液を架橋剤溶液とする。
【0106】
細胞因子を含むヒドロゾル溶液としては、止血因子のアルギン酸塩溶液を用いる。前記細胞因子アルギン酸塩溶液における止血因子の質量%濃度が10ppmである。
【0107】
調製済みの0.1Mの塩化カルシウム溶液を直径150mmの細胞培養皿に入れ、エレクトロスピニング装置およびプリンタの共用する受け器を培養皿に置き、エレクトロスピニング層を形成するとき、受け装置が培養皿における容器と接触し得るようにする。細胞印刷吐出ヘッドは、エレクトロスピニング装置箱内のエレクトロスピニング針ヘッドの真下に固定され、止血因子の定位印刷に用いる。調製済みの細胞因子アルギン酸塩溶液をインクジェット印刷のインクカートリッジに入れる。本実施例で用いるインクカートリッジの規格はHP51626Aである。
【0108】
疎水性エレクトロスピニング溶液をエレクトロスピニング吐出ヘッドに入れて、微量注射ポンプの速度を5ml/hに調節し、高圧発生器の電圧を30kVに調節し、受け装置の受け距離を20cmに調節するとともに、繊維を膜状構造として受ける。エレクトロスピニングを20分間継続した後、エレクトロスピニング装置をオフさせる。
【0109】
インクジェットプリンタで、細胞因子を含むヒドロゾル溶液を前記ナノバイオ骨格上に印刷し、ヒドロゾルをゲル化させる。
【0110】
(2)細胞印刷の親水性エレクトロスピニング層を調製する。
【0111】
エレクトロスピニング溶液、薬物を含むヒドロゾル溶液、及び架橋剤溶液を調製する;
【0112】
親水性材料として、質量比が70:30であるポリエチレングリコール及び硫酸コンドロイチンを用い、紡糸液の質量%が9%である。0.1Mの塩化カルシウム溶液を架橋剤溶液とする。
【0113】
細胞因子を含むヒドロゾル溶液としては、アルカリ性繊維芽細胞因子のアルギン酸塩溶液を用いる。前記細胞因子アルギン酸塩溶液におけるアルカリ性繊維芽因子の質量%濃度が100ppmである。
【0114】
エレクトロスピニングのパラメータとして、微量注射ポンプの速度を0.8ml/hに調節し、高圧発生器の電圧を20kVに調節するとともに、受け装置の受け距離を11cmに調節する。他の調製方法は、上記のステップと同じである。親水性エレクトロスピニング層繊維を膜状構造として受けた後、インクジェットプリンタで、アルカリ性繊維芽細胞因子を含むヒドロゾル溶液を前記ナノバイオ骨格上に印刷し、ヒドロゾルをゲル化させる。
【0115】
洗浄、保存方法は実施例1のと同じである。
【0116】
実施例7
【0117】
(1)細胞印刷の疎水性エレクトロスピニング層を調製する。
【0118】
ステップは実施例6のと同じである。
【0119】
(2)細胞印刷の中間層を調製する。
【0120】
中間層エレクトロスピニング液としては以下の方案を選択する:質量比が70:30であるポリウレタン及びヒアルロン酸を用い、紡糸液の質量%が10%である。アンピシリンを混合し、濃度が3%である。均一な溶液を得る。
【0121】
0.1Mの塩化カルシウム溶液を架橋剤溶液とする。
【0122】
細胞因子を含むヒドロゾル溶液としては、止血因子のアルギン酸塩溶液を用いる。前記細胞因子アルギン酸塩溶液における止血因子の質量%濃度が10ppmである。
【0123】
エレクトロスピニングのパラメータとして、微量注射ポンプの速度を4ml/hに調節し、高圧発生器の電圧を20kVに調節するとともに、受け装置の受け距離を11cmに調節する。他の調製方法は、上記のステップと同じである。繊維を膜状構造として受けた後、インクジェットプリンタで、細胞因子を含むヒドロゾル溶液を中間層上に印刷し、ヒドロゾルをゲル化させる。
【0124】
(3)親水性エレクトロスピニング層を調製する。
【0125】
調製方法は実施例6のと同じである。
【0126】
洗浄、保存方法は実施例1のと同じである。
【0127】
実験例1
【0128】
実施例1で得られた硬膜を用いてイヌ動物実験を行なった。対照組としては、市販の臨床使用される動物由来髄膜修復材料を用いた。健康イヌ3頭を選択し、雌雄限らず、体重10-15kgである。観察期を2〜3ヶ月とする。実験イヌを全身麻酔下に両頭頂開頭し、両側の局部の硬膜欠損及び脳組織損傷を人為的に作った。実施例1で得られた硬膜と対照組とを用いて、同じ実験イヌの脳の左右両側においてそれぞれ硬膜修復術を実施した。術後、イヌに対して常規的な飼育及び観察を行なった。各観察期の期限になったとき、修復材料部位において標本を採集し、肉眼標本及び顕微組織を比較観察した。各実験動物を設定された期限に飼育した後、動物を麻酔し、前記開頭方法によって頭蓋骨を露出し、修復材料の外表面を分離露出した。静脈に空気を注入して動物を犠牲とし、頭蓋骨を切開した後に開き、修復材料及び周囲の組織を切り取った。修復材料の外表面、性質、周囲組織との関係、のう胞や硬結の有無、及び内面と脳組織との癒着状況を肉眼で観察した。標本を瓶に入れ、ホルマリン固定液に浸し、標本瓶にラベルを貼った。室温においてホルマリンで一週間固定させた後、手術部位の局部組織をとり、パラフィンで常規的に包み処理し、HEで組織切片を染色する。
【0129】
術後、3頭のイヌは良好に回復し、切創の癒合が良好であり、分泌物がない。術後の摂食、摂水が正常であり、イヌの戸外活動が正常であり、運動障害が発見されなかった。3ヵ月後、静脈に空気を注入してイヌを犠牲とし、手術部位を中心として、修復材料及び周辺硬膜及び内面の脳組織を含むように、手術部位より1cm大きい範囲において標本を切り取った。標本を切り出した後、脳骨と髄膜とを逐層に分離する。実験組の植え込み部位の髄膜が完全であり、材料を植え込んだ箇所が既に繊維組織に代替され、植え込み材料と原生髄膜とが一体になって境界が不明であり、且つ、植え込み箇所の髄膜内表面に癒着がなく、それに対応する脳組織の表面が滑らかであって癒着がないことが判明した。それに対して、対照組の植え込み部位には、未分解の植え込み材料が依然として見られ、且つ植え込み箇所の髄膜内表面に少量の癒着が存在していた。
【0130】
実験例2
【0131】
実施例2で得られた硬膜を用いてイヌ動物実験を行なった。実験イヌは体重15〜20kgであり、年齢1.5〜2才であり、雌雄限らず、合計5頭である。ケタミンを筋肉注射して全身麻酔下に毛を剃った後、動物を腹臥位で専用手術台上に置いた。2%のヨードチンキ及び75%のアルコールで消毒した。動物の頭頂の真ん中を縦切開した。剥離器によって骨膜を分離し、両頭頂部頭蓋骨板を露出させ、高速ドリルで頭蓋骨を磨き、両頭頂部に骨窓を形成した。小型鋏で両側頭頂部から大きさ3 cm×3cmの矩形硬膜を切り、頭頂部の硬膜欠損を作った。露出した脳表面を電気焼灼し、大きさ1 mm×1 mmの損傷点を6つ作った。本発明の実施例2で得られた硬膜を相応形状及び寸法の修復材料に切り整え、疎水性エレクトロスピニング層が脳表面に向くように、4/0無損傷糸で間欠に縫合し、針ピッチが4mmであり、イヌ頭頂部の欠損を修復した。円針4号糸を用いて筋肉を縫合した。対照組としては、市販の臨床使用される動物由来髄膜修復材料を用いた。術後、イヌに対して常規的な飼育及び観察を行なった。術後、動物は良好に回復し、切創の癒合が良好であり、脳髄液の漏出がなく、てんかんの発生がなかった。術後の摂食、摂水が正常であり、動物の戸外活動が正常であり、運動障害が発見されずに予定期間生存していた。
【0132】
術後18ヵ月後に、手術部位を中心として、人工髄膜及び周辺硬膜及び内面の脳組織を含むように、手術部位より1cm大きい範囲において標本を切り取った。標本を切り出した後、人工髄膜と硬膜との接続箇所の合わせが良好で境界が無く、完全に癒合しており、縫合の糸のみが見られたことが判明した。原生硬膜間には、明らかな充血、出血等の拒絶反応が見られなかった。それに対して、対照組の植え込み部位には、未分解の植え込み材料が依然として見られ、且つ植え込み箇所の髄膜内表面に少量の癒着が存在していた。
【0133】
実験例3
【0134】
実施例3で得られた硬膜を用いてニュージランドウサギ動物実験を行なった。実験動物に対して頭頂部開頭を施し、局部の硬膜欠損及び脳組織損傷を人為的に作った。その後、人工髄膜でそれぞれ硬膜修復術を実施した。術後、動物に対して常規的な飼育及び観察を行なった。術後、動物は良好に回復した。術後18ヵ月後に、手術部位を中心として、人工髄膜及び周辺硬膜及び内面の脳組織を含むように、手術部位より1cm大きい範囲において標本を切り取った。標本を切り出した後、内側表面が上皮細胞に覆われ、上皮下に繊維組織が増殖し、繊維母細胞が増殖し、コラーゲン繊維が多くなり、材料内の血行性新生組織が増殖し、宿主新生組織が侵入し、材料が分解して総量が明らかに減少し、内部に毛細血管が見えることが判明した。新旧組織の界面には好中性顆粒球やリンパ球などの炎症細胞反応がなく、界面には嚢壁が形成されていなかった。クモ膜及び脳組織が正常であった。
【0135】
実験例4
【0136】
実施例4で得られた硬膜を用いてイヌ動物実験を行なった。具体的な動物実験方法は、実験例2のと同じである。
【0137】
術後15ヵ月後に、手術部位を中心として、人工髄膜及び周辺硬膜及び内面の脳組織を含むように、手術部位より1cm大きい範囲において標本を切り取った。標本を切り出した後、人工髄膜と硬膜との接続箇所の合わせが良好で境界が無く、完全に癒合しており、縫合の糸のみが見られたことが判明した。原生硬膜間には、明らかな充血、出血等の拒絶反応が見られなかった。
【0138】
実験例5
【0139】
実施例5で得られた硬膜を用いてニュージランドウサギ動物実験を行なった。対照組としては、市販の臨床使用される動物由来髄膜修復材料を用いた。
【0140】
具体的な実験方法は、実験例3のと同じである。術後15ヵ月後に、動物の手術部位を中心として標本を切り取った。具体的な方法は実験例3のと同じである。標本を切り出した後、内側表面が上皮細胞に覆われ、上皮下に繊維組織が増殖し、繊維母細胞が増殖し、コラーゲン繊維が多くなり、材料内の血行性新生組織が増殖し、宿主新生組織が侵入し、材料が分解して総量が明らかに減少し、内部に毛細血管が見えることが判明した。新旧組織の界面には好中性顆粒球やリンパ球などの炎症細胞反応がなく、界面には嚢壁が形成されていなかった。クモ膜及び脳組織が正常であった。それに対して、対照組の植え込み部位には、未分解の植え込み材料が依然として見られ、且つ植え込み箇所の髄膜内表面に少量の癒着が存在していた。
【0141】
実験例6
【0142】
実施例6で得られた硬膜を用いてイヌ動物実験を行なった。
【0143】
具体的な実験方法は、実験例2のと同じである。
【0144】
術後12ヵ月後に、手術部位を中心として、人工髄膜及び周辺硬膜及び内面の脳組織を含むように、手術部位より1cm大きい範囲において標本を切り取った。標本を切り出した後、人工髄膜と硬膜との接続箇所の合わせが良好で境界が無く、完全に癒合しており、縫合の糸のみが見られたことが判明した。原生硬膜間には、明らかな充血、出血等の拒絶反応が見られなかった。
【0145】
実験例7
【0146】
実施例7で得られた硬膜を用いてニュージランドウサギ動物実験を行なった。
【0147】
具体的な実験方法は、実験例3のと同じである。術後12ヵ月後に、手術部位を中心として、人工髄膜及び周辺硬膜及び内面の脳組織を含むように、手術部位より1cm大きい範囲において標本を切り取った。標本を切り出した後、内側表面が上皮細胞に覆われ、上皮下に繊維組織が増殖し、繊維母細胞が増殖し、コラーゲン繊維が多くなり、材料内の血行性新生組織が増殖し、宿主新生組織が侵入し、材料が分解して総量が明らかに減少し、内部に毛細血管が見えることが判明した。新旧組織の界面には好中性顆粒球やリンパ球などの炎症細胞反応がなく、界面には嚢壁が形成されていなかった。クモ膜及び脳組織が正常であった。
【0148】
本発明の実施例を開示、記載したが、当業者にとって、本発明の原理と趣旨を離脱せずに、これらの実施例に対して多くの変更、補正、置換え及び変形を行なうことができる。本発明の範囲は、請求項及びその同等物に限定される。
【符号の説明】
【0149】
1 エレクトロスピニング吐出ヘッド;2 紡糸;3 高圧電源;4 受け装置;5 生物印刷吐出ヘッド;6 容器;7 疎水性紡糸;8 薬物;9 親水性紡糸;10 細胞因子;11 中間層紡糸;A 疎水性エレクトロスピニング層;B 親水性エレクトロスピニング層;C 中間層。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレクトロスピニング法によって製造されたエレクトロスピニング層からなる人工硬膜であって、
前記エレクトロスピニング層が少なくとも1層の疎水性エレクトロスピニング層からなる人工硬膜。
【請求項2】
請求項1に記載の人工硬膜であって、
前記エレクトロスピニング層が、1種以上の疎水性重合体からエレクトロスピニング法によって製造されたものであり、
前記疎水性重合体が、疎水性脂肪族ポリエステル類、ポリエーテルエステル類、ポリオルトエステル、ポリウレタン、ポリ酸無水物、ポリホスファゼン、ポリアミノ酸、並びに上記重合体のうちの二種以上の共重合体及び混合物よりなる群から選ばれたものである人工硬膜。
【請求項3】
請求項2に記載の人工硬膜であって、
前記疎水性脂肪族ポリエステル類が、ポリ乳酸、ポリグリコリド、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシ酪酸エステルよりなる群から選ばれた少なくとも1種である人工硬膜。
【請求項4】
請求項2に記載の人工硬膜であって、
前記ポリエーテルエステル類が、ポリジオキサノン、グリコール・乳酸共重合体、グリコール・ブチレンテレフタレート共重合体よりなる群から選ばれた少なくとも1種である人工硬膜。
【請求項5】
請求項2に記載の人工硬膜であって、
前記ポリ酸無水物が、ポリセバシン酸-ヘキサデカン二酸酸無水物、I型ポリ酸無水物、II型ポリ酸無水物、III型ポリ酸無水物、IV型ポリ酸無水物よりなる群から選ばれた少なくとも1種である人工硬膜。
【請求項6】
請求項1に記載の人工硬膜であって、
前記疎水性エレクトロスピニング層上に、少なくとも1層の親水性エレクトロスピニング層が更に配置されている人工硬膜。
【請求項7】
請求項6に記載の人工硬膜であって、
前記親水性エレクトロスピニング層が、1種以上の親水性重合体からエレクトロスピニング法によって製造されたものであり、
前記親水性重合体が、硫酸コンドロイチン、ヘパリン、寒天、グルカン、アルギン酸、変性セルロース、アルギン酸ナトリウム、でんぷん、セルロース、ゼラチン、フィブリン、フィブロイン、エラスチン擬態のペプチド重合体、コラーゲン、キトーサン、変性キトーサン、親水性ポリウレタン、ポリエチレングリコール、ポリメチルメタクリレート、PMMA、ポリヒドロキシブチレート/バリレート、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-ヒドロキシヘキサノエート、ポリビニルアルコール、ポリラクチド、及び上記材料のうちの二種以上の混合物よりなる群から選ばれたものである人工硬膜。
【請求項8】
請求項6に記載の人工硬膜であって、
前記疎水性エレクトロスピニング層と親水性エレクトロスピニング層の間に、中間層がさらに配置されている人工硬膜。
【請求項9】
請求項8に記載の人工硬膜であって、
前記中間層が、1種以上の重合体からエレクトロスピニング法によって製造されたものであり、
前記中間層の水に対する親和力が、疎水性エレクトロスピニング層から親水性エレクトロスピニング層への方向に次第に高くなる人工硬膜。
【請求項10】
請求項2又は7又は9に記載の人工硬膜であって、
前記重合体には、細胞因子及び/又は薬物が更に混ぜられている人工硬膜。
【請求項11】
請求項1又は6に記載の人工硬膜であって、
前記疎水性エレクトロスピニング層及び/又は親水性エレクトロスピニング層の上に、細胞因子及び/又は薬物が更に付着している人工硬膜。
【請求項12】
請求項11に記載の人工硬膜であって、
前記細胞因子が、インターロイキン、コロニー形成刺激因子、腫瘍壊死因子、血小板由来増殖因子、アルカリ性繊維芽細胞因子、及び上記因子のうちの二種以上の混合物よりなる群から選ばれたものであることを特徴とする人工硬膜。
【請求項13】
請求項11に記載の人工硬膜であって、
前記薬物が、抗生素、止血剤、癒着防止剤、及び抗腫瘍薬物よりなる群から選ばれた1種以上であることを特徴とする人工硬膜。
【請求項14】
請求項11に記載の人工硬膜であって、
前記細胞因子及び/又は薬物がヒドロゾルに包覆される人工硬膜。
【請求項15】
請求項14に記載の人工硬膜であって、
前記ヒドロゾルが、多糖類重合体、ポリペプチド類重合体、及び合成親水性高分子重合体よりなる群から選ばれた1種以上である人工硬膜。
【請求項16】
請求項1、6、及び8のいずれか1項に記載の人工硬膜であって、
前記疎水性エレクトロスピニング層の繊維直径が50~1000nmである人工硬膜。
【請求項17】
請求項16に記載の人工硬膜であって、
前記疎水性エレクトロスピニング層の孔径が3μm未満である人工硬膜。
【請求項18】
請求項6又は8に記載の人工硬膜であって、
前記親水性エレクトロスピニング層の繊維直径が5~200μmであり、孔径が20~200μmである人工硬膜。
【請求項19】
下記のステップを含む人工硬膜の製造方法:
a)疎水性重合体を溶媒に溶解させて疎水性重合体エレクトロスピニング溶液を得、前記疎水性重合体が、疎水性脂肪族ポリエステル類、ポリエーテルエステル類、ポリオルトエステル、ポリウレタン、ポリ酸無水物、ポリホスファゼン、ポリアミノ酸、並びに上記重合体のうちの二種以上の共重合体及び混合物よりなる群から選ばれたものである;
b)前記疎水性重合体エレクトロスピニング溶液から、エレクトロスピニング法によって膜状の疎水性エレクトロスピニング層を製造し、前記人工硬膜を得る。
【請求項20】
請求項19に記載の製造方法であって、
前記疎水性脂肪族ポリエステル類が、ポリ乳酸、ポリグリコリド、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシ酪酸エステルよりなる群から選ばれた少なくとも1種である製造方法。
【請求項21】
請求項19に記載の製造方法であって、
前記ポリエーテルエステル類が、ポリジオキサノン、グリコール・乳酸共重合体、グリコール・ブチレンテレフタレート共重合体よりなる群から選ばれた少なくとも1種である製造方法。
【請求項22】
請求項19に記載の製造方法であって、
前記ポリ酸無水物が、ポリセバシン酸-ヘキサデカン二酸酸無水物、I型ポリ酸無水物、II型ポリ酸無水物、III型ポリ酸無水物、IV型ポリ酸無水物よりなる群から選ばれた少なくとも1種である製造方法。
【請求項23】
請求項19に記載の製造方法であって、
前記疎水性エレクトロスピニング層の繊維直径が50~1000nmである製造方法。
【請求項24】
請求項23に記載の製造方法であって、
前記疎水性エレクトロスピニング層の孔径が3μm未満である製造方法。
【請求項25】
請求項19に記載の製造方法であって、
ステップbに記載のエレクトロスピニングの工程パラメータとして、微量注射ポンプの速度が0.1〜5.0ml/hであり、高圧発生器の電圧が5〜40kVであり、受け距離が5.0〜30.0cmである製造方法。
【請求項26】
請求項19に記載の製造方法であって、
前記疎水性エレクトロスピニング層上に親水性エレクトロスピニング層を形成する下記のステップをさらに含む:
a') 前記親水性重合体が、硫酸コンドロイチン、ヘパリン、寒天、グルカン、アルギン酸、変性セルロース、アルギン酸ナトリウム、でんぷん、セルロース、ゼラチン、フィブリン、フィブロイン、エラスチン擬態のペプチド重合体、コラーゲン、キトーサン、変性キトーサン、親水性ポリウレタン、ポリエチレングリコール、ポリメチルメタクリレート、PMMA、ポリヒドロキシブチレート/バリレート、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-ヒドロキシヘキサノエート、ポリビニルアルコール、ポリラクチド、及び上記材料のうちの二種以上の混合物よりなる群から選ばれたものである;
b')前記親水性重合体エレクトロスピニング溶液を、エレクトロスピニング法によって前記疎水性エレクトロスピニング層上に受け、親水性エレクトロスピニング層を形成する。
【請求項27】
請求項26に記載の製造方法であって、
前記親水性エレクトロスピニング層の繊維直径が5~200μmであり、孔径が20~200μmである製造方法。
【請求項28】
請求項26に記載の製造方法であって、
ステップb'に記載のエレクトロスピニングの工程パラメータとして、微量注射ポンプの速度が0.1〜20.0ml/hであり、高圧発生器の電圧が10〜45kVであり、受け距離が5.0〜30.0cmである製造方法。
【請求項29】
請求項19又は26に記載の製造方法であって、
前記溶媒が、蟻酸、酢酸、エタノール、アセトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、ヘキサフルオロイソプロパノール、トリフルオロエタノール、ジクロルメタン、トリクロルメタン、メタノール、エタノール、クロロホルム、ジオキサン、トリフルオロエタン、トリフルオロ酢酸、水、及び上記重合体溶媒のうちの二種以上の混合液よりなる群から選ばれたものである製造方法。
【請求項30】
請求項26に記載の製造方法であって、
前記親水性エレクトロスピニング層を形成する前、疎水性エレクトロスピニング層と親水性エレクトロスピニング層の間に、1種以上の重合体エレクトロスピニング溶液からエレクトロスピニング法によって中間層を形成するステップを更に含み、
前記中間層の水に対する親和力が、疎水性エレクトロスピニング層から親水性エレクトロスピニング層への方向に次第に高くなる製造方法。
【請求項31】
請求項19又は26又は30に記載の製造方法であって、
前記重合体エレクトロスピニング溶液には、細胞因子及び/又は薬物が更に混ぜられている製造方法。
【請求項32】
請求項19又は26に記載の製造方法であって、
前記疎水性エレクトロスピニング層及び/又は親水性エレクトロスピニング層の上に、細胞印刷によって細胞因子及び/又は薬物分布を形成するステップを更に含む製造方法。
【請求項33】
請求項32に記載の製造方法であって、
前記細胞因子及び/又は薬物の細胞印刷ステップは以下の通りである:
a'')ヒドロゾル溶液と細胞因子及び/又は薬物とを混合し、混合溶液を形成する;
b'') 細胞印刷技術によって、前記混合溶液を前記疎水性エレクトロスピニング層及び/又は親水性エレクトロスピニング層の上に印刷する。
【請求項34】
請求項33に記載の製造方法であって、
前記印刷ステップの前、前記疎水性エレクトロスピニング層及び/又は親水性エレクトロスピニング層を架橋剤溶液で予処理するステップを含むことができる製造方法。
【請求項35】
請求項33に記載の製造方法であって、
前記ヒドロゾル溶液が、多糖類重合体、ポリペプチド類重合体、合成親水性高分子重合体、又は上記材料のうちの二種以上の混合物から製造された水溶液である製造方法。
【請求項1】
エレクトロスピニング法によって製造されたエレクトロスピニング層からなる人工硬膜であって、
前記エレクトロスピニング層が少なくとも1層の疎水性エレクトロスピニング層からなる人工硬膜。
【請求項2】
請求項1に記載の人工硬膜であって、
前記エレクトロスピニング層が、1種以上の疎水性重合体からエレクトロスピニング法によって製造されたものであり、
前記疎水性重合体が、疎水性脂肪族ポリエステル類、ポリエーテルエステル類、ポリオルトエステル、ポリウレタン、ポリ酸無水物、ポリホスファゼン、ポリアミノ酸、並びに上記重合体のうちの二種以上の共重合体及び混合物よりなる群から選ばれたものである人工硬膜。
【請求項3】
請求項2に記載の人工硬膜であって、
前記疎水性脂肪族ポリエステル類が、ポリ乳酸、ポリグリコリド、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシ酪酸エステルよりなる群から選ばれた少なくとも1種である人工硬膜。
【請求項4】
請求項2に記載の人工硬膜であって、
前記ポリエーテルエステル類が、ポリジオキサノン、グリコール・乳酸共重合体、グリコール・ブチレンテレフタレート共重合体よりなる群から選ばれた少なくとも1種である人工硬膜。
【請求項5】
請求項2に記載の人工硬膜であって、
前記ポリ酸無水物が、ポリセバシン酸-ヘキサデカン二酸酸無水物、I型ポリ酸無水物、II型ポリ酸無水物、III型ポリ酸無水物、IV型ポリ酸無水物よりなる群から選ばれた少なくとも1種である人工硬膜。
【請求項6】
請求項1に記載の人工硬膜であって、
前記疎水性エレクトロスピニング層上に、少なくとも1層の親水性エレクトロスピニング層が更に配置されている人工硬膜。
【請求項7】
請求項6に記載の人工硬膜であって、
前記親水性エレクトロスピニング層が、1種以上の親水性重合体からエレクトロスピニング法によって製造されたものであり、
前記親水性重合体が、硫酸コンドロイチン、ヘパリン、寒天、グルカン、アルギン酸、変性セルロース、アルギン酸ナトリウム、でんぷん、セルロース、ゼラチン、フィブリン、フィブロイン、エラスチン擬態のペプチド重合体、コラーゲン、キトーサン、変性キトーサン、親水性ポリウレタン、ポリエチレングリコール、ポリメチルメタクリレート、PMMA、ポリヒドロキシブチレート/バリレート、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-ヒドロキシヘキサノエート、ポリビニルアルコール、ポリラクチド、及び上記材料のうちの二種以上の混合物よりなる群から選ばれたものである人工硬膜。
【請求項8】
請求項6に記載の人工硬膜であって、
前記疎水性エレクトロスピニング層と親水性エレクトロスピニング層の間に、中間層がさらに配置されている人工硬膜。
【請求項9】
請求項8に記載の人工硬膜であって、
前記中間層が、1種以上の重合体からエレクトロスピニング法によって製造されたものであり、
前記中間層の水に対する親和力が、疎水性エレクトロスピニング層から親水性エレクトロスピニング層への方向に次第に高くなる人工硬膜。
【請求項10】
請求項2又は7又は9に記載の人工硬膜であって、
前記重合体には、細胞因子及び/又は薬物が更に混ぜられている人工硬膜。
【請求項11】
請求項1又は6に記載の人工硬膜であって、
前記疎水性エレクトロスピニング層及び/又は親水性エレクトロスピニング層の上に、細胞因子及び/又は薬物が更に付着している人工硬膜。
【請求項12】
請求項11に記載の人工硬膜であって、
前記細胞因子が、インターロイキン、コロニー形成刺激因子、腫瘍壊死因子、血小板由来増殖因子、アルカリ性繊維芽細胞因子、及び上記因子のうちの二種以上の混合物よりなる群から選ばれたものであることを特徴とする人工硬膜。
【請求項13】
請求項11に記載の人工硬膜であって、
前記薬物が、抗生素、止血剤、癒着防止剤、及び抗腫瘍薬物よりなる群から選ばれた1種以上であることを特徴とする人工硬膜。
【請求項14】
請求項11に記載の人工硬膜であって、
前記細胞因子及び/又は薬物がヒドロゾルに包覆される人工硬膜。
【請求項15】
請求項14に記載の人工硬膜であって、
前記ヒドロゾルが、多糖類重合体、ポリペプチド類重合体、及び合成親水性高分子重合体よりなる群から選ばれた1種以上である人工硬膜。
【請求項16】
請求項1、6、及び8のいずれか1項に記載の人工硬膜であって、
前記疎水性エレクトロスピニング層の繊維直径が50~1000nmである人工硬膜。
【請求項17】
請求項16に記載の人工硬膜であって、
前記疎水性エレクトロスピニング層の孔径が3μm未満である人工硬膜。
【請求項18】
請求項6又は8に記載の人工硬膜であって、
前記親水性エレクトロスピニング層の繊維直径が5~200μmであり、孔径が20~200μmである人工硬膜。
【請求項19】
下記のステップを含む人工硬膜の製造方法:
a)疎水性重合体を溶媒に溶解させて疎水性重合体エレクトロスピニング溶液を得、前記疎水性重合体が、疎水性脂肪族ポリエステル類、ポリエーテルエステル類、ポリオルトエステル、ポリウレタン、ポリ酸無水物、ポリホスファゼン、ポリアミノ酸、並びに上記重合体のうちの二種以上の共重合体及び混合物よりなる群から選ばれたものである;
b)前記疎水性重合体エレクトロスピニング溶液から、エレクトロスピニング法によって膜状の疎水性エレクトロスピニング層を製造し、前記人工硬膜を得る。
【請求項20】
請求項19に記載の製造方法であって、
前記疎水性脂肪族ポリエステル類が、ポリ乳酸、ポリグリコリド、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシ酪酸エステルよりなる群から選ばれた少なくとも1種である製造方法。
【請求項21】
請求項19に記載の製造方法であって、
前記ポリエーテルエステル類が、ポリジオキサノン、グリコール・乳酸共重合体、グリコール・ブチレンテレフタレート共重合体よりなる群から選ばれた少なくとも1種である製造方法。
【請求項22】
請求項19に記載の製造方法であって、
前記ポリ酸無水物が、ポリセバシン酸-ヘキサデカン二酸酸無水物、I型ポリ酸無水物、II型ポリ酸無水物、III型ポリ酸無水物、IV型ポリ酸無水物よりなる群から選ばれた少なくとも1種である製造方法。
【請求項23】
請求項19に記載の製造方法であって、
前記疎水性エレクトロスピニング層の繊維直径が50~1000nmである製造方法。
【請求項24】
請求項23に記載の製造方法であって、
前記疎水性エレクトロスピニング層の孔径が3μm未満である製造方法。
【請求項25】
請求項19に記載の製造方法であって、
ステップbに記載のエレクトロスピニングの工程パラメータとして、微量注射ポンプの速度が0.1〜5.0ml/hであり、高圧発生器の電圧が5〜40kVであり、受け距離が5.0〜30.0cmである製造方法。
【請求項26】
請求項19に記載の製造方法であって、
前記疎水性エレクトロスピニング層上に親水性エレクトロスピニング層を形成する下記のステップをさらに含む:
a') 前記親水性重合体が、硫酸コンドロイチン、ヘパリン、寒天、グルカン、アルギン酸、変性セルロース、アルギン酸ナトリウム、でんぷん、セルロース、ゼラチン、フィブリン、フィブロイン、エラスチン擬態のペプチド重合体、コラーゲン、キトーサン、変性キトーサン、親水性ポリウレタン、ポリエチレングリコール、ポリメチルメタクリレート、PMMA、ポリヒドロキシブチレート/バリレート、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-ヒドロキシヘキサノエート、ポリビニルアルコール、ポリラクチド、及び上記材料のうちの二種以上の混合物よりなる群から選ばれたものである;
b')前記親水性重合体エレクトロスピニング溶液を、エレクトロスピニング法によって前記疎水性エレクトロスピニング層上に受け、親水性エレクトロスピニング層を形成する。
【請求項27】
請求項26に記載の製造方法であって、
前記親水性エレクトロスピニング層の繊維直径が5~200μmであり、孔径が20~200μmである製造方法。
【請求項28】
請求項26に記載の製造方法であって、
ステップb'に記載のエレクトロスピニングの工程パラメータとして、微量注射ポンプの速度が0.1〜20.0ml/hであり、高圧発生器の電圧が10〜45kVであり、受け距離が5.0〜30.0cmである製造方法。
【請求項29】
請求項19又は26に記載の製造方法であって、
前記溶媒が、蟻酸、酢酸、エタノール、アセトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、ヘキサフルオロイソプロパノール、トリフルオロエタノール、ジクロルメタン、トリクロルメタン、メタノール、エタノール、クロロホルム、ジオキサン、トリフルオロエタン、トリフルオロ酢酸、水、及び上記重合体溶媒のうちの二種以上の混合液よりなる群から選ばれたものである製造方法。
【請求項30】
請求項26に記載の製造方法であって、
前記親水性エレクトロスピニング層を形成する前、疎水性エレクトロスピニング層と親水性エレクトロスピニング層の間に、1種以上の重合体エレクトロスピニング溶液からエレクトロスピニング法によって中間層を形成するステップを更に含み、
前記中間層の水に対する親和力が、疎水性エレクトロスピニング層から親水性エレクトロスピニング層への方向に次第に高くなる製造方法。
【請求項31】
請求項19又は26又は30に記載の製造方法であって、
前記重合体エレクトロスピニング溶液には、細胞因子及び/又は薬物が更に混ぜられている製造方法。
【請求項32】
請求項19又は26に記載の製造方法であって、
前記疎水性エレクトロスピニング層及び/又は親水性エレクトロスピニング層の上に、細胞印刷によって細胞因子及び/又は薬物分布を形成するステップを更に含む製造方法。
【請求項33】
請求項32に記載の製造方法であって、
前記細胞因子及び/又は薬物の細胞印刷ステップは以下の通りである:
a'')ヒドロゾル溶液と細胞因子及び/又は薬物とを混合し、混合溶液を形成する;
b'') 細胞印刷技術によって、前記混合溶液を前記疎水性エレクトロスピニング層及び/又は親水性エレクトロスピニング層の上に印刷する。
【請求項34】
請求項33に記載の製造方法であって、
前記印刷ステップの前、前記疎水性エレクトロスピニング層及び/又は親水性エレクトロスピニング層を架橋剤溶液で予処理するステップを含むことができる製造方法。
【請求項35】
請求項33に記載の製造方法であって、
前記ヒドロゾル溶液が、多糖類重合体、ポリペプチド類重合体、合成親水性高分子重合体、又は上記材料のうちの二種以上の混合物から製造された水溶液である製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6a】
【図6b】
【図7a】
【図7b】
【図8a】
【図8b】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6a】
【図6b】
【図7a】
【図7b】
【図8a】
【図8b】
【公表番号】特表2012−519559(P2012−519559A)
【公表日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−553264(P2011−553264)
【出願日】平成22年2月8日(2010.2.8)
【国際出願番号】PCT/CN2010/070566
【国際公開番号】WO2010/102533
【国際公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【出願人】(511189447)メドプリン リジェネラティブ メディカル テクノロジーズ カンパニー リミテッド (1)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年2月8日(2010.2.8)
【国際出願番号】PCT/CN2010/070566
【国際公開番号】WO2010/102533
【国際公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【出願人】(511189447)メドプリン リジェネラティブ メディカル テクノロジーズ カンパニー リミテッド (1)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]