説明

人物追跡装置、人物追跡方法およびそのプログラム

【課題】本発明は、人物追跡装置に関し、動画像情報をコンピュータが解析容易な情報へ変換することができる人物追跡装置を提供することを目的とする。
【解決手段】PC3の画像入力部31は、カメラ1で撮像されたアナログの動画像データをデジタルデータに変換し、演算処理部32は、画像入力部31で変換した画像データから、人物の位置を、座標位置と画像中央を結ぶ直線の基準方向(水平右方向)からの偏角(角度)と、画像中央からの距離(画素)として算出し、人物の動きを、次の時刻(前の時刻でもよい)での座標位置との間の速度ベクトルの基準方向(水平右方向)からの角度と、該ベクトルの長さ(画素)として算出し、演算処理部32の算出した情報は、ハードディスクなどの記憶媒体からなるデータベース33に記憶されるとともに、横軸に角度をとり、縦軸に所在距離、移動量をとった追跡空間にプロットされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人物追跡装置に関し、特に、動画像から人物の動きを検出し、追跡する人物追跡装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、カメラで撮像した画像を用いて、人物の検出や追跡を行うものが知られており、ビデオ画像から人物を抽出し、各人物の位置を示す座標を時系列に結ぶことによって人物の動線を復元するもの(例えば、特許文献1参照)などがある。
【特許文献1】特開2003−256843号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、コンピュータが動画像から人間の動きを解析するには膨大な計算量が必要となる。したがって、実時間で動画像から人間の動きを解析し、例えばアラームを鳴らすなどの自動処理を行うことは困難である。
【0004】
そこで、本発明は、動画像情報をコンピュータが解析容易な情報へ変換することができる人物追跡装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決する第1の発明は、鉛直下向きに取り付けられたカメラと、前記カメラが撮像した画像から人物の位置を特定し、前記人物の位置に基づいて該位置と画像中央とを結ぶ直線の基準方向からの偏角を所在方向、画像中央からの距離を所在距離として求めるとともに、前または後のフレームでの位置と前記位置とを結ぶ直線の基準方向からの偏角を移動方向、前または後のフレームでの位置と前記位置との距離を移動量として求め、横軸に角度、縦軸に所在距離および移動量をとった追跡空間に、所在方向および所在距離に基づいて所在位置をプロットし、移動方向および移動量に基づいて移動情報をプロットする演算処理手段とを備えたことを特徴とするものである。
【0006】
この発明では、検出された人物の位置が所在方向、所在距離として求められ、検出された人物の動きが移動方向、移動量として求められる。したがって、人の移動形態についての数値化または記号化が容易となり、コンピュータが解析容易な情報となる。
【0007】
上記課題を解決する第2の発明は、上記第1の発明の構成に加え、前記カメラに魚眼レンズを付けたことを特徴とするものである。
【0008】
この発明では、魚眼レンズにより標準的画角カメラでは得られない広いエリアを監視エリアとするこがとができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、人の位置を所在方向、所在距離により表し、人の動きを移動方向、移動量により表しているので、人の移動形態についての数値化または記号化が容易となり、コンピュータが解析容易な情報を提供することができる。
【0010】
また、カメラに魚眼レンズを付ければ、標準的画角カメラでは得られない広いエリアを監視エリアとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を図面を参照して説明する。
【0012】
図1は本発明の一実施形態の人物追跡装置を示す図である。
【0013】
図1において、本実施形態の人物追跡装置は、鉛直下向きに取り付けられ、魚眼レンズ2を付けられたカメラ1と、カメラ1で撮像された動画像を処理し、人物の位置および動きを、角度と距離と移動量で表現する追跡空間の情報へ変換するパーソナルコンピュータ(PC)3とを備えている。
【0014】
PC3で動作するプログラムにより、PC3は、カメラ1で撮像されたアナログの動画像データをデジタルデータに変換する画像入力部31、画像入力部31で変換した画像データから追跡空間の情報への変換を行う演算処理部32として動作し、演算処理部32の算出した追跡空間の情報は、ハードディスクなどの記憶媒体からなるデータベース33に記憶される。
【0015】
図2は、本実施形態の人物追跡装置の人物追跡処理を説明するためのフローチャートである。
【0016】
図2に示すように、まず、1フレームの画像データが入力され(S11)、予め設定された初期状態の画像(人物が映っていない状態での画像)である背景画像と入力画像データの差分から変化領域を抽出し(S12)、抽出した変化領域の画像データについて雑音除去およびクラスタリングを行い、隣同士の画素を連結することにより画素の集団としての塊を検出し、連番を付ける(S13)。
【0017】
そして、各塊に対して慣性等価楕円を当てはめ、楕円の画像中央側端点の座標位置を検出する(S14)。
【0018】
塊の各画素の平面的座標位置についての0次モーメントをm00、1次モーメントをm10、m01、2次モーメントをm20、m11、m02として画素の塊の領域の重心G(xg,yg)および慣性主軸の傾きaを数1、数2により求め、長径lおよび短径sを数3により求める。
【0019】
【数1】

【0020】
【数2】

【0021】
【数3】

【0022】
min、Mmajは重心Gを通る直線の周りの慣性モーメントの最小値と最大値を示す。
【0023】
このようにして得られる楕円は、図3に示すように、データ点(画素)の広がり具合とそのサイズを、おおよそではあるが知ることができるため、効率のよいモデルである。
【0024】
この楕円情報において、長径の長さは人の高さを、また短径は人の幅をそれぞれ示す。また主軸の傾きは像の向きを示し、これは、実空間では、人が立っている(または移動している)場合とその他の姿勢(例えば、横たわっている場合)との区別に利用することができる。重心位置は、主に垂直方向での姿勢変化(立っている、しゃがむ、屈む、転倒など)の検出に利用することができる。
【0025】
塊が複数検出されれば、それぞれについて楕円情報を求める。また、複数人が連結して(または重なって)撮像されている場合は、長径の長さ、塊の面積が大きいことから、一人では無いと判断する。この場合、それぞれの人がいる位置を検出することは難しいことから、集団としての大きさの検出のみを行う。
【0026】
カメラ1を鉛直下向きに取り付けた場合、視野内に移動する人については、画像中央付近において肩より上が撮像され、中央付近以外の領域では、足下から頭頂部までが観測エリアの広い範囲において撮像される。また、立っている人の像は、頭頂部と足下とを結ぶ直線が画像中央に向く。
【0027】
すなわち、人が普通に立っている場合は、楕円長軸が画像中央に向く。しかし、足の開き具合や手の振り具合などによって、必ずしも長軸が画像中央に向くとは限らない。そこで、長軸の傾きを用いて長軸を画像中央に向ける楕円傾き変換を行う。
【0028】
図4に示すように、重心をG(xg,yg)、楕円の傾きをθ、長径の長さをl、短径の長さをs、画像中央O(0,0)と重心Gを結んだ直線と長径との角度をβl、短径との角度をβsとし、βlとβsの角度の大きさを比較し、βsが大きければ長軸を採用し、βlが大きければ短軸を採用する。
【0029】
そして、採用した軸(主軸)を画像中央に向ける。図4の場合、線分を画像中央に向けるための修正角度βlは、数4で求められ、主軸の傾きをθから修正角度βlを引いた角度に修正することで、主軸を画像中央に向ける。
【0030】
【数4】

【0031】
こうして採用された軸の長さを人物領域の表現モデルの線分の長さとし、採用されなかった軸の長さの半分を線分の太さとする。このように決定する線分は、画像上での人物領域の長さと幅を示す。
【0032】
この線分の画像中心側の端点座標を人物位置として以降の処理を行う。
【0033】
次に、線分の画像中心側の端点座標を、魚眼レンズ2の撮像式の逆の計算を行うことによって、魚眼画像のゆがみを解消した補正画像での座標位置に変換する(S15)。
【0034】
端点の座標を(u1,v1)、焦点距離をf、補正平面と撮像面(CCD)との距離をAとすると、魚眼撮像式r=fθより、数5となり、補正平面上での端点の座標を(u2,v2)とし、その角度をφとすると、数6、数7となる。この座標変換は、毎回の入力画像について行う。
【0035】
【数5】

【0036】
【数6】

【0037】
【数7】

【0038】
次に、変換した補正画像での座標位置に基づいて、人物の位置および動きを、角度と距離と移動量で表現する追跡空間の情報である行動情報を作成する(S16)。
【0039】
補正画像での座標位置と補正画像中央を結ぶ直線の基準方向(水平右方向)からの偏角(角度)を所在方向とし、補正画像中央からの距離(画素)を所在距離として求める。図5(a)の線分Aの場合、所在方向はα、所在距離はdとなる。
【0040】
また、次の時刻(前の時刻でもよい)の画像データから得られる同一人の位置情報も用いて、両者間の速度ベクトルを計算し、該ベクトルの基準方向(水平右方向)からの角度を移動方向とし、該ベクトルの長さを移動量(画素)として求める。図5(a)の線分Aから線分Bへの移動の場合、移動方向はβ、移動量はρとなる。
【0041】
このようにして求めた所在方向、所在距離、移動方向、移動量は、関連付けられて時刻情報とともにデータベース33に記憶される。
【0042】
また、このようにして求めた所在方向、所在距離、移動方向、移動量に基づいて、図5(b)に示すような、横軸に所在方向および移動方向の角度をとり、左側の縦軸に所在距離、右側の縦軸に移動量(移動の速さ)をとった追跡空間に所在位置(●)および移動情報(▲)をプロットし表示する(S17)。
【0043】
この追跡空間は、位置と移動の情報を同時に扱えるというだけでなく、更に、移動情報に一つの有用な特徴がある。それは、追跡空間でのプロットの単調な挙動が、人の移動形態を一義的に表現していることである。
【0044】
図6は、実空間での人の移動と追跡空間でのプロット点の挙動の例を示す図である。なお、図6は、人が等速運動をしている場合を想定した例である。
【0045】
また、図6の左側の図は実空間での人の移動(AからBへの移動)を示しており、本実施形態の魚眼レンズ2を付けたカメラ1での撮像範囲は、地面において半径約20mである。
【0046】
図6の右側の図は追跡空間での所在位置(●)および移動情報(▲)の動き(AからBへの移動)を示している。
【0047】
図6(a)は、人が直進している場合であり、この動きは、追跡空間の移動情報(▲)では一点に留まることとなる。
【0048】
図6(b)は、人がクランク状に進んでいる場合であり、この動きは、追跡空間の移動情報(▲)では二点間を切り替えて留まることとなる。
【0049】
図6(c)は、人が弧を描いて進んでいる場合であり、この動きは、追跡空間の移動情報(▲)では横方向に一定の速さで直進することとなる。
【0050】
また、人が四角を描いて歩く場合は、追跡空間の移動情報では横方向へ四ヶ所に場所を変えて留まり、円を描いて歩く場合は、追跡空間の移動情報では横方向に一定の速さで移動して元の位置に戻り、S字を描いて歩く場合は、追跡空間の移動情報では横方向でほぼ180度異なる場所の間を一定の速さで往復する。
【0051】
人が複雑な移動をする場合は、上記の単純な歩行の場合の移動情報の挙動を組み合わせればよい。
【0052】
このような追跡空間で人の挙動を検出するには、人の移動の速さにより決まる縦方向での位置から、横方向への移動を検出すればよく、その横方向での位置により人の移動形態を検出できる。
【0053】
このように、特定座標位置に注目して点の比較的単調な挙動を解釈するだけで人の移動形態を検出することができる。これは、画像データについて軌道解析を行うことによって移動形態を検出する従来の方法に比べて、扱いやすく、また移動形態を一義的に知ることができる。
【0054】
人の移動形態についての数値化または記号化が容易であるため、動画像から実時間で人の動きを解析し処理を行いたいシステムにとって、扱い易くまた組み込み易いデータを提供することができる。
【0055】
また、魚眼レンズ2を使っているので、標準的画角カメラでは得られない広いエリアを監視エリアとすることができる。
【0056】
また、人の移動の速さも情報として収集することができるので、人の行動をより詳細に分析することができる。分析結果の利用として、店舗設計、公園設計、工場設備配置設計、オフィス設計など様々な設計への利用が考えられる。
【0057】
なお、人の移動の速さを不要とする場合、追跡空間へ移動情報をプロットする際、移動の速さに対応するパラメータの値を0としてプロットすればよい。その場合、追跡空間での移動情報の挙動は、下辺上での挙動となり、移動情報の取り扱いが更に容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の一実施形態における人物追跡装置の全体構成図
【図2】本発明の一実施形態における人物追跡装置の人物追跡処理を説明するためのフローチャート
【図3】本発明の一実施形態における人物追跡装置の楕円当てはめを示す図
【図4】本発明の一実施形態における人物追跡装置の線分の角度補正を示す図
【図5】本発明の一実施形態における人物追跡装置の追跡空間へのプロット例を示す図
【図6】本発明の一実施形態における人物追跡装置の人の動きに対応した追跡空間での移動情報の動きを示す図
【符号の説明】
【0059】
1 カメラ
2 魚眼レンズ
3 パーソナルコンピュータ
31 画像入力部
32 演算処理部
33 データベース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛直下向きに取り付けられたカメラと、前記カメラが撮像した画像から人物の位置を特定し、前記人物の位置に基づいて該位置と画像中央とを結ぶ直線の基準方向からの偏角を所在方向、画像中央からの距離を所在距離として求めるとともに、前または後のフレームでの位置と前記位置とを結ぶ直線の基準方向からの偏角を移動方向、前または後のフレームでの位置と前記位置との距離を移動量として求め、横軸に角度、縦軸に所在距離および移動量をとった追跡空間に、所在方向および所在距離に基づいて所在位置をプロットし、移動方向および移動量に基づいて移動情報をプロットする演算処理手段とを備えたことを特徴とする人物追跡装置。
【請求項2】
前記カメラに魚眼レンズを付けたことを特徴とする請求項1に記載の人物追跡装置。
【請求項3】
鉛直下向きに取り付けられたカメラが撮像した画像から人物の位置を特定するステップと、
前記人物の位置に基づいて該位置と画像中央とを結ぶ直線の基準方向からの偏角を所在方向、画像中央からの距離を所在距離として求めるステップと、
前または後のフレームでの位置と前記位置とを結ぶ直線の基準方向からの偏角を移動方向、前または後のフレームでの位置と前記位置との距離を移動量として求めるステップと、
横軸に角度、縦軸に所在距離および移動量をとった追跡空間に、所在方向および所在距離に基づいて所在位置をプロットし、移動方向および移動量に基づいて移動情報をプロットするステップとを備えたことを特徴とする人物追跡方法。
【請求項4】
コンピュータに、鉛直下向きに取り付けられたカメラが撮像した画像から人物の位置を特定するステップ、
前記人物の位置に基づいて該位置と画像中央とを結ぶ直線の基準方向からの偏角を所在方向、画像中央からの距離を所在距離として求めるステップ、
前または後のフレームでの位置と前記位置とを結ぶ直線の基準方向からの偏角を移動方向、前または後のフレームでの位置と前記位置との距離を移動量として求めるステップ、
横軸に角度、縦軸に所在距離および移動量をとった追跡空間に、所在方向および所在距離に基づいて所在位置をプロットし、移動方向および移動量に基づいて移動情報をプロットするステップ、を実行させるためのプログラム。

【図2】
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【図4】
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【図1】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−250430(P2008−250430A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−88078(P2007−88078)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【出願人】(304028346)国立大学法人 香川大学 (285)
【Fターム(参考)】