仮設構造体及び複数階のスラブ構築方法
【課題】 スラブ設計の自由度を高く維持しながら、しかも工期を大幅に短縮できる仮設支柱継手を提供する。
【解決手段】 本構造体は、第1の階層に立てられる第1の仮設支柱2と、第1の仮設支柱2により、第1の階層と第1の階層の直上の第2の階層との間に支持され、コンクリートが硬化・凝固した後現場打ちされるコンクリートと共に第1の階層と第2の階層との間のスラブを形成する第1のプレキャスト版110と、第1のプレキャスト版から上方に突出するように配設される第1の仮設支柱継手101と、第1の仮設支柱継手に、下端部が連結され、第2の階層に立てられる、第2の仮設支柱と、第2の仮設支柱により、第2の階層と第2の階層の直上の第3の階層との間に支持され、コンクリートが硬化・凝固した後現場打ちされるコンクリートと共に第2の階層と第3の階層との間のスラブを形成する第2のプレキャスト版を備える。
【解決手段】 本構造体は、第1の階層に立てられる第1の仮設支柱2と、第1の仮設支柱2により、第1の階層と第1の階層の直上の第2の階層との間に支持され、コンクリートが硬化・凝固した後現場打ちされるコンクリートと共に第1の階層と第2の階層との間のスラブを形成する第1のプレキャスト版110と、第1のプレキャスト版から上方に突出するように配設される第1の仮設支柱継手101と、第1の仮設支柱継手に、下端部が連結され、第2の階層に立てられる、第2の仮設支柱と、第2の仮設支柱により、第2の階層と第2の階層の直上の第3の階層との間に支持され、コンクリートが硬化・凝固した後現場打ちされるコンクリートと共に第2の階層と第3の階層との間のスラブを形成する第2のプレキャスト版を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、型枠を用いて生コンクリートを現場打ちし、複数階のスラブを並行して構築するための、仮設構造体、及び複数階のスラブ構築方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1(特開平9−217417号公報)は、プレキャスト桁行き梁を架設し、プレキャストコンクリート版材をクレーンで吊り、上方から躯体内に取りこむ技術を開示する。こうすれば、理論的には、支保工無しにスラブを施工できる。
【0003】
しかしながら、現実には、全く支保工無しにスラブが施工されることは極めて少ない。なぜなら、水平面内に複数のプレキャストコンクリート版材を配置すると、これらのプレキャスト版材は、少なくとも一部が撓んだり、波打ったりするなど、高さ精度を損なうおそれがあるためである。
【0004】
したがって、ほとんどの現場では、特許文献2(特開平8−270069号公報)が開示するように、支保工を使用して型枠を支持し、各階ごとにスラブが施工される。
【0005】
このようにすると、スラブ設計の自由度は高いが、現場打ちされる生コンクリートの硬化・凝固に長時間を要し、工期及びそれによる工事費用が長大となるという問題点がある。
【特許文献1】特開平9−217417号公報
【特許文献2】特開平8−270069号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明は、スラブ設計の自由度を高く維持しながら、しかも工期を大幅に短縮できる、仮設構造体及び複数階のスラブ構築方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る仮設構造体は、第1の階層に立てられる第1の仮設支柱と、第1の仮設支柱により、第1の階層と第1の階層の直上の第2の階層との間に支持され、かつ現場打ちされるコンクリートが硬化・凝固した後現場打ちされるコンクリートと共に第1の階層と第2の階層との間のスラブを形成する第1のプレキャスト版と、第1のプレキャスト版から上方に突出するように配設される第1の仮設支柱継手と、第1の仮設支柱継手に、下端部が連結され、第2の階層に立てられる、第2の仮設支柱と、第2の仮設支柱により、第2の階層と第2の階層の直上の第3の階層との間に支持され、かつ現場打ちされるコンクリートが硬化・凝固した後現場打ちされるコンクリートと共に第2の階層と第3の階層との間のスラブを形成する第2のプレキャスト版を備える。
【0008】
この構成において、仮設支柱継手が、第1の仮設支柱と第2の仮設支柱とを上下方向に連結することにより、第1の仮設支柱上と、第2の仮設支柱上とに、生コンクリートを現場打ちでき、打たれたコンクリートの硬化・凝固を時間的に並列に実施することができる。
【0009】
このため、一階ごとに生コンクリートの打設及び硬化・凝固を行っていた従来技術よりも、格段に工期を短縮できる。
【0010】
しかも、プレキャスト版も一種の型枠であり、結果的に、型枠の使用は妨げられないから、設計の自由度を高く保持できる。
【0011】
さらに、仮設支柱継手は、現場打ちされるコンクリートの硬化・凝固後もスラブ内に一体的に保持されるから、現場打ちされるコンクリートの硬化・凝固後に、仮設支柱を撤去するだけで、スラブの完成に至ることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、仮設支柱継手を活用して、複数階のスラブ構築を同時並列に実施できるから、従来法よりも大幅に工期を短縮できるし、プレキャスト版からなる型枠を使用して、自由度の高い設計が可能となる。また、プレキャスト版は、コンクリートが硬化・凝固した後、コンクリートと共にスラブを形成するから、型枠を取り外す作業が不要となり、一層作業効率を向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
(実施の形態1)
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態を説明する。第1に、本形態のスラブ施工方法の各工程を述べ、次に、それに使用する各種の仮設継手を説明し、最後に、従来工法と本形態のスラブ施工方法による、工期例を比較しながら説明する。
【0014】
(スラブ施工方法)
図1〜図5は、本発明の一実施の形態におけるスラブ施工方法の工程説明図である。なお、以下では、柱あるいは壁というように、垂直に起立する要素に関する構築法及びそのための各要素は、本発明の主題に関係せず、そのためには常法を使用して差し支えないので、その説明は省略する。
【0015】
<前提事項>
はじめに、図1に示すように、水平な既設スラブ1がすでに構築されているものとする。この上に、複数階のスラブを構築し、中規模又は大規模の(2階建て以上)コンクリート構造物を構築する。既設スラブ1は、通常、コンクリートスラブからなるが、後述する仮設支柱群を支障なく支持できるものであれば、理論的には任意に構成できる。
【0016】
本例では、既設スラブ1の上に、支持高さh1、h2、h3からなる三層の空間を形成する。また、支持高さh1と支持高さh2との間にスラブしろt1が設定され、支持高さh2と支持高さh3との間にスラブしろt2が設定される。
【0017】
支持高さh1、h2、h3は、建物の階高に相当し、仮設支柱の実質的な高さを変更すれば、支持高さh1、h2、h3を、それぞれ、あるいは、一部のみ、異ならしめることも可能であり、このようにしても本発明に包含される。
【0018】
但し、以下、説明を簡単にするために、各階に同じ実質的な高さを有する仮設支柱を使用するものとし、ゆえに、支持高さh1、h2、h3は、いずれも等しいものとする。
【0019】
同様に、スラブしろt1、t2も等しいものとする。ここで、スラブしろt1、t2は、構築されるべきスラブの厚さと支柱継手下の型枠の実質的な厚さ(もしあれば)の和である。なお、いうまでもないが、型枠は、上下階層の境界に位置することになる。
【0020】
図示の都合上、図1〜図5では、三階までに相当する分の空間(スラブ間の)のみが示されているが、これは単なる例示に過ぎず、二階のみとしてもよいし、以下の構築方法を繰り返すことにより、四階以上としてもよく、このような場合も本発明に包含される。
【0021】
<下層階の仮設構造体>
まず、上述のような既設スラブ1が準備できてから、複数の仮設支柱2、3を既設スラブ1上に適宜間隔をあけて立ててゆく。ここで、仮設支柱2は、中層階あるいは上層階からの荷重を受けることを予定するものであり、そのスパンL1は、たとえば1400ミリメートル程度とする。もちろん、この数値も例示に過ぎず、適宜変更できる。
【0022】
一方、仮設支柱3は、中層階あるいは上層階からの荷重(型枠、鉄筋及び打設されたコンクリートの荷重は除く。)を受けることを予定しない、補強的な支柱である。図示した例では、スパンL1の中間に配置しているが、これも適宜変更できる。
【0023】
但し、図示しているように、下層階では、多数の仮設支柱2、3が林立し、これらの間を作業員が縫うように移動することになるから、仮設構造体の強度を維持しつつ、あまりに多数の仮設支柱2、3が林立することにより、作業員の移動が妨げられないように配慮するのが好ましい。
【0024】
仮設支柱2、3は、市販の仮設支柱で差し支えないが、下端部に既設スラブ1に接する下端板2a、3aを有し、上端部に上端板2b、3bを有し、高さ調整ができるものが好ましい。下端板2a、3a、2b、3bは、それぞれ水平なフランジ状に幅広に形成されているのが好ましい。支柱本体の水平断面は、矩形等の多角形でもよいし、円形等でもよい。
【0025】
<中層階の仮設構造体>
次に、型枠4を上端板2b、3b上に配置する。型枠4は、通常、水平なコンクリートパネルと、それを補強する根太及び大引(図示せず)を備えて構成されるが、仮設構造体の構成及び生コンクリートの打設及びその養生(硬化・凝固)に支障がなければ、必ずしもこれに限定されるわけではない。
【0026】
次に、型枠4の設置が完了したら、中層階において、仮設支柱2の上端板2bの真上に、仮設支柱継手10を配置する。つまり、仮設支柱継手10は、スパンL1毎に配置される。
【0027】
仮設支柱継手10については、後に各種例を挙げて詳しく説明するが、「仮設支柱継手が、仮設構造体において、仮設支柱を上下方向に連結し、配筋される鉄筋と係合可能に形成され、鉄筋に接して現場打ちされるコンクリートの硬化・凝固後もスラブ内に一体的に保持される」点は、各種例に共通する。
【0028】
仮設支柱継手10が、たとえば型枠4のコンクリートパネル上に位置し、その真下に根太も大引もないならば、仮設支柱継手10の底面に設けられるアンカー(詳細は後述)に、作業員が、下層階側から上向きにアンカーボルトをねじ込み、コンクリートパネルを貫通し、仮設支柱継手10のアンカーと結合させることが好ましい。
【0029】
通常の型枠を使用するとしても、仮設支柱継手10がコンクリートパネル上に位置し、その真下に根太も大引もないようにレイアウトすることは、設計的事項により容易に対応できる。
【0030】
この関係が成立するならば、上述したスラブしろt1は、仮設支柱継手10の高さとコンクリートパネルの厚さの和ということになる。
【0031】
なお、コンクリートパネル(つまり型枠4の一部)に貫通孔を開け、仮設支柱継手10の底面と、上端板2bの上面とを直結させてもよい。但し、この場合には、この貫通孔を介して、打設された生コンクリートが漏洩しないように配慮する必要がある。
【0032】
次に、図2に示すように、中層階において、仮設支柱継手10の上に、仮設支柱5を立ててゆく。この際、上述と同様に、仮設支柱5は、下端部に下端板5a、上端部に上端板5bを有し、下端板5a、5bは水平なフランジ状をなすことが好ましい。
【0033】
本例では、支持高さh1〜h3はすべて等しいから、仮設支柱5は、仮設支柱2、3と同じ高さを有する。下端板5aと仮設支柱継手10の上面上のアンカーとは、アンカーボルトで連結するのが好ましい。
【0034】
以上の結果、スパンL1をあけて仮設支柱継手10上にそれぞれ仮設支柱5が立てられることになる。
【0035】
<上層階の仮設構造体>
次に、上層階において、中層階と同様に、型枠6を上端板5b上に配置する。型枠6は、型枠4と同様に、通常、水平なコンクリートパネルと、それを補強する根太及び大引を備えて構成されるが、仮設構造体の構成及び生コンクリートの打設及びその養生(硬化・凝固)に支障がなければ、必ずしもこれに限定されるわけではない。
【0036】
次に、型枠6の設置が完了したら、上層階において、仮設支柱5の上端板5bの真上に、仮設支柱継手20を配置する。つまり、仮設支柱継手20は、仮設支柱継手10と同様に構成されるとともに、スパンL1毎に配置される。
【0037】
仮設支柱継手20が、たとえば型枠6のコンクリートパネル上に位置し、その真下に根太も大引もないならば、作業員が、仮設支柱継手20の底面に設けられるアンカー(詳細は後述)に下層階側から上向きにアンカーボルトをねじ込み、コンクリートパネルを貫通し、仮設支柱継手20のアンカーと結合させることが好ましい。
【0038】
この関係が成立するならば、上述したスラブしろt2は、仮設支柱継手20の高さとコンクリートパネルの厚さの和ということになる。
【0039】
なお、コンクリートパネル(つまり型枠6の一部)に貫通孔を開け、仮設支柱継手20の底面と、上端板5bの上面とを直結させてもよい。但し、この場合には、この貫通孔を介して、打設された生コンクリートが漏洩しないように配慮する必要がある。
【0040】
以上により、本形態の仮設構造体が完成する。
【0041】
仮設支柱継手10は、仮設支柱2と仮設支柱5とを長手方向において着脱可能に連結する継手であることが、図3を見れば理解されよう。しかも、仮設支柱継手10は、後述するように、コンクリートの打設、硬化・凝固後も、コンクリート内に一体的に保持される点に注目されたい。
【0042】
<配筋>
次に、図3に示すように、中層階において仮設支柱継手10と係合させながら、鉄筋7を配筋する。また、上層階において仮設支柱継手20と係合させながら、鉄筋8を配筋する。
【0043】
配筋法及び鉄筋7、8については、周知技術を適用すれば足りるから、それらの詳細な説明は省略する。
【0044】
なお、中層階の配筋は、上層階の仮設構造体の構築に先立って、あるいはそれと並行して実施しても良い。
【0045】
<生コンクリートの打設>
中層階において、コンクリート14を、上層階においてコンクリート15を、それぞれ生コンクリート供給ホース9を用いて現場打ちする。
【0046】
ここで、従来スラブを現場打ちで打設する際、スラブの厚さ(打設されるコンクリートの深さ)は、作業員の勘や経験力にまかされるのが常であり、熟練した作業員であっても、スラブの厚さにムラや偏りが生ずることが多かった。
【0047】
しかしながら、本形態によれば、作業員は、仮設支柱継手10、20の上面までコンクリートを打設すればよい。言い換えれば、作業員は、打設中に、厚さの指標(仮設支柱継手10、20の上面)を目視で確認できるため、このようなムラや偏りを極力抑制でき、高品質のスラブを容易に構築できる。
【0048】
また、配筋と同様に、中層階に関する生コンクリートの打設は、上層階に関する生コンクリートの打設に先立ち、あるいはそれと並行して実施しても良い。
【0049】
<コンクリートの養生>
中層階及び上層階における、生コンクリートの打設が完了したら、コンクリートが硬化・凝固するのを待つ。コンクリートの硬化・凝固は、中層階及び上層階において、ほぼ同時並列に進行する点は、図4を見れば明らかであろう。
【0050】
即ち、複数階の現場打ちコンクリートを、同時並行して一気に、硬化・凝固させることができ、これにより、作業が停滞する無駄時間を削減し、工期全体を大幅に圧縮できる。
【0051】
<スラブ完成及び繰り返し>
図5に示すように、コンクリートの養生が完了したら、下層階及び中層階に立てていた、仮設支柱2、3、5を撤去する。これにより、下層階の天井であり中層階の床であるコンクリート14と、中層階の天井であり上層階の床であるコンクリート15の構築が完成する。
【0052】
図5を見れば、仮設支柱継手10は、仮設支柱2と仮設支柱5とを長手方向において単に連結する継手であるだけでなく、コンクリートの打設、硬化・凝固後も、コンクリート内に一体的に保持される、埋込体でもある点が、理解されよう。
【0053】
本発明者は、この仮設支柱継手10を案出することにより、それを利用し、工期を従来の工法よりも大幅に短縮できる、複数階のスラブ構築方法を完成するに至ったものである。
【0054】
この後、必要ならば、コンクリート15を、図1における既設スラブ1とみなし、図1以降の工程を繰り返せば、さらに上層階のスラブを構築できる。その際にも、複数階の現場打ちコンクリートを、同時並行して一気に、硬化・凝固させることができる。
【0055】
以上の説明では、仮設構造体を二階分のスラブを構築するものとしたが、仮設支柱の強度や密度等を変更し、三階分以上のスラブを構築するように拡張してもよく、本発明は、そのような場合も包含する。
【0056】
(支柱継手)
以下、各種の支柱継手を具体例を挙げながら、説明する。以下の各種支柱継手は、仮設支柱継手10、20のいずれとしても使用することができる。
【0057】
上述したように、本形態の支柱継手は、仮設支柱同士を長手方向において単に連結する継手であるだけでなく、コンクリートの打設、硬化・凝固後も、コンクリート内に一体的に保持される、埋込体でもある。
【0058】
生コンクリートが打設された後、その硬化・凝固が完了するまでの間、支柱継手の比重が生コンクリートの比重よりも小さいと、浮力を受けることになる。
【0059】
したがって、支柱継手の比重は、生コンクリートの比重と等しいか、あるいはそれよりもやや大きいことが望ましい。
【0060】
即ち、本形態の支柱継手は、スラブにボイドを形成するために、生コンクリート内に埋め込まれる部材とは、まったく趣旨が異なるものであることが理解されよう。
【0061】
しかしながら、支柱継手のフランジとアンカー止めされる場合には、若干の浮力を受けても差し支えなく、本発明の支柱継手は、生コンクリートの比重以上の比重を持つ部材に限定されるわけではない。
【0062】
<第1例>
図6は、本発明の第1例に係る支柱継手の斜視図、図7は、図1A−A線による断面図である。
【0063】
図6は、プレキャストコンクリートからなる、第1例にかかる仮設支柱継手30を示している。
【0064】
第1例の仮設支柱継手30は、ほぼ四角柱状をなし、その上面31と底面32には、4箇所アンカー33が配設されている。
【0065】
アンカー33にアンカーボルトをねじ込むことにより、上面31は、上層階に配置される仮設支柱と連結可能であり、底面32は、下層階に配置される仮設支柱と連結可能である。
【0066】
底面32と、下層階に配置される仮設支柱とは、型枠のコンクリートパネル等を介在して連結されても良いし、型枠のコンクリートパネル等にあけられる孔を介し直接連結されても良い。
【0067】
仮設支柱継手30の内部には、水平断面で十字状をなす配筋空間34があけられている。配筋空間34は、4つの側面の開口部35、36により外部へ開口する。
【0068】
図7に示すように、開口部35、36を介して鉄筋7、8を配筋空間34内へ挿通でき、また、さらに反対側へ貫通させることができる。
【0069】
配筋空間34は水平断面で十字状をなすので、鉄筋7、8は、配筋空間34内で互いに直交させることができる。これにより、鉄筋7、8は、仮設支柱継手30と係合する。
【0070】
底面32のレベルは、型枠のレベルと略同一であり、上面31のレベルは、吐出すべき生コンクリートの上限を示す指標となる。
【0071】
生コンクリートを仮設支柱継手30の周囲で吐出すると、生コンクリートに含まれる鉄筋7も開口部35から配筋空間34内へ入り込むことができ、配筋空間34内においても仮設支柱継手30の外部と同様に、生コンクリートの成分を分布させることができ、また、同様に硬化・凝固させることができる。
【0072】
ここで、図6、図7に示すように、仮設支柱継手30には、配筋空間34から上方へ開口する通気孔38があけられており、生コンクリートが開口部35から配筋空間34内へ入り込むに伴い、配筋空間34の内部に存在していた空気は、通気孔38を介して上方外部へ排出される。なお、第2例以降では、通気孔の図示を省略しているが、同様に通気孔を設けることが望ましい。加えて、生コンクリートが通気孔38を充填し、さらに一部通気孔38上に盛り上がる程度まで、コンクリートを打設するのが望ましい。この状態になると、配筋空間34は、生コンクリートで充満しており、空気が残存しているおそれは少ない。生コンクリートが通気孔38から盛り上がったら、作業員が、コテで余分な生コンクリートを除去するようにすると良い。
【0073】
図6からわかるように、鉄筋7、8が配筋空間34に挿入されるまでは、仮設支柱継手30の外面は、フラットで突出するような部品はない。したがって、仮設支柱継手30を荷積みしたり、作業員が搬送したりするような場合、突出部品(特に、張出鉄筋等)に邪魔されたり、あるいは、それで怪我をしたりということがなく、仮設支柱継手30は、きわめて容易に取り扱うことができる。
【0074】
<第2例>
第1例では、ボックス状の仮設支柱継手30としたが、図8に示すように、第2例では、仮設支柱継手40の上部を、その下部よりも幅広のフランジ部43としている。よって、上面41は、底面42よりも広く形成される。
【0075】
第2例でも、水平断面で十字状をなす配筋空間44が形成され、配筋空間44は、開口部45において外部に露呈する。
【0076】
したがって、第1例と同様に、第2例においても、鉄筋7、8を挿通及び貫通させ、配筋空間44の内部で直交するように配置できる。これにより、鉄筋7、8は、仮設支柱継手40と係合する。
【0077】
底面42のレベルは、型枠のレベルと略同一であり、上面41のレベルは、と出すべき生コンクリートの上限を示す指標となる。
【0078】
図2に示す第1例と同様に、生コンクリートを吐出し、硬化・凝固させることができる。
【0079】
第2例でも、図8からわかるように、鉄筋7、8が配筋空間34に挿入されるまでは、仮設支柱継手40の外面は、フランジ部43を除き、フラットで突出するような部品はない。
【0080】
したがって、第1例と同様に、第2例に係る仮設支柱継手40を荷積みしたり、作業員が搬送したりするような場合、突出部品(特に、張出鉄筋等)に邪魔されたり、あるいは、それで怪我をしたりということがない。
【0081】
加えて、作業員が仮設支柱継手40を手で運ぶような場合には、フランジ部43の縁部を手がかりとすることもでき、取り扱いが非常に容易である。
【0082】
<第3例>
第1例、第2例では、プレキャストコンクリートによる、仮設支柱継手を述べた。第3例では、図9に示すように、プレキャストコンクリートではなく、鋼製又は強化プラスチック製の仮設支柱継手50を採用する。
【0083】
仮設支柱継手50の比重は、生コンクリートのそれ以上であることが望ましい。比重が不足するような場合は、適宜、錘を追加するなどして対応しても良い。
【0084】
図9に示すように、矩形で水平な上下一対の、天板51と底板52とを、四隅の柱53で連結し、ボックス状とする。柱53としては、図示しているように、断面L字状のアングル材を用いると好適である。
【0085】
天板51及び底板52には、適宜、アンカー56を配設する。
【0086】
このようにすると、それぞれ矩形板である、天板51の上面54が仮設支柱継手50の上面54となり、底板52の底面55が仮設支柱継手50の底面55となる。
【0087】
第1例、第2例と同様に、底面55のレベルは型枠のレベルと略同一となり、上面54のレベルは、吐出すべき生コンクリートの上限を示す指標となる。
【0088】
生コンクリートを仮設支柱継手50の周囲で吐出すると、生コンクリートに含まれる鉄筋7も開口部58から配筋空間57内へ入り込むことができ、配筋空間57内においても仮設支柱継手50の外部と同様に、生コンクリートの成分を分布させることができ、また、同様に硬化・凝固させることができる。
【0089】
図9からわかるように、鉄筋7、8が開口部58に挿入されるまでは、仮設支柱継手50の外面から突出するような部品はない。
【0090】
したがって、仮設支柱継手50を荷積みしたり、作業員が搬送したりするような場合、突出部品(特に、張出鉄筋等)に邪魔されたり、あるいは、それで怪我をしたりということがなく、仮設支柱継手50は、きわめて容易に取り扱うことができる。
【0091】
<第4例>
第4例では、図10に示すように、第3例と同様に、プレキャストコンクリートではなく、鋼製又は強化プラスチック製の仮設支柱継手60を採用する。
【0092】
仮設支柱継手60の比重は、生コンクリートのそれ以上であることが望ましい。比重が不足するような場合は、適宜、錘を追加するなどして対応しても良い。
【0093】
第4例は、第3例の形状に変更を加えてある。図10に示すように、水平な上下一対の円板からなる、天板61と底板62とを、複数の柱63で連結し、円筒状とする。柱63としては、図示しているように、断面円形の丸棒またはパイプ材を用いると好適である。
【0094】
天板61及び底板62には、適宜、アンカー64を配設する。
【0095】
このようにすると、それぞれ円板である、天板61の上面が仮設支柱継手60の上面となり、底板62の下面が仮設支柱継手60の下面となる。
【0096】
第1例、第2例と同様に、底板62の下面のレベルは型枠のレベルと略同一となり、天板61の上面のレベルは、吐出すべき生コンクリートの上限を示す指標となる。その他の点は、第3例と同様である。
【0097】
<第5例、第6例>
第1例から第4例までは、内部に配筋空間を備える仮設支柱継手を述べた。図11は、第5例の仮設支柱継手の平面図であり、図12は、第6例の同様な平面図である。
【0098】
図11には、中実で円筒柱状をなす仮設支柱継手70から側方外向きに所定長さL2だけ張り出す張出鉄筋73を有する仮設支柱継手が示され、図12には、中実で八角形柱状をなす仮設支柱継手80から側方外向きに所定長さL2だけ張り出す張出鉄筋83を有する仮設支柱継手が示されている。
【0099】
また、これらのプレキャストコンクリートブロック71、81には、それぞれアンカー72、82が配設される。図11、図12に示すように、コンクリートブロックは、水平断面が円状であってもよいし、四角形、六角形、八角形等の多角形状であっても良い。
【0100】
さらには、例えば、台形状あるいは錘体状というように、上下方向において水平断面が変化するようにしても良い。
【0101】
第5例、第6例のように、コンクリートブロックから外向きに張出鉄筋を張り出させ、張出鉄筋により、配筋される鉄筋と係合すると、仮設支柱継手内に鉄筋を通す必要はないが、仮設支柱継手を荷積みしたり、搬送する際に、張出鉄筋が邪魔になったり、それにより作業員が怪我をする恐れがあるため、取り扱いには注意を要する。
【0102】
(工期の比較)
図13は、従来のスラブ構築方法と、本形態のスラブ構築方法による、それぞれの工期を示す。従来のスラブ構築方法によると、下層階の工事を完了し、その養生を済ませないと、その直上の階の工事に着手できない点が、図13から理解されよう。
【0103】
一方、本形態のスラブ構築法によれば、上述した仮設支柱継手を活用することにより、下層階の工事と、上層階の工事とを並行で進行できるし、しかも、生コンクリートの打設及びその養生を、上層階と下層階とで同時並行して進行できるため、従来技術よりも大幅な(図13の例では、約40%強)工期短縮が可能となっている。
【0104】
しかしながら、図13もあくまで例示であって、本発明は、これに限定されれるものではない。
【0105】
(実施の形態2)
実施の形態1では、型枠を使用し、コンクリートの養生の後、基本的に型枠を取り外す技術を説明した。この型枠には、プレキャスト版による型枠も含まれる。
【0106】
実施の形態2では、型枠としてプレキャスト版を使用すると共に、現場打ちされるコンクリートとプレキャスト版とを一体化したものをスラブそのものとして使用する技術に関する。したがって、コンクリートの養生の後、型枠としてのプレキャスト版は取り外されず、スラブの一部として、そのまま残されることになる。
【0107】
以下、実施の形態1との共通点についての説明を省略し、実施の形態1との相違点のみを説明する。
【0108】
図14(a)は、本発明の実施の形態2におけるプレキャスト版の平面図、図14(b)は、同正面図、図14(c)は、同右側面図である。
【0109】
図14に示すように、プレキャスト版100は、例えば長尺長さ8000ミリメートル、短尺長さ2400ミリメートル程度とするのが好ましく、厚さwtは、形成すべきスラブの厚さの半分程度とするのが望ましい。
【0110】
そして、底面が一辺180ミリメートル程度の矩形をなす仮設支柱継手101を所定間隔(図14の例では、長尺間隔2400ミリメートル、短尺間隔1200ミリメートル)をあけて配置する。
【0111】
<第1例>
プレキャスト版100には、仮設支柱継手101が鉄筋7と干渉しないように、予め鉄筋7を配しておく。第1例では、仮設支柱継手101の高さは、形成すべきスラブの半分の高さとし、つまりプレキャスト版100の厚さと等しくする。
【0112】
底面から見ると、図15(a)に示すように、仮設支柱継手101は、4カ所下向きに延びる脚部106を備える門型に形成される。各脚部106の中央には、上向きの差し込み孔103があけられている。
【0113】
一方、プレキャスト版100において、差し込み孔103に対応する位置には、上方へ突出する突出棒が植設される。したがって、図15(b)に示すように、突出棒を仮設支柱継手101の差し込み孔103に嵌め込むと、仮設支柱継手101をプレキャスト版100に固定できる。ここで、脚部106の間はいわば水平断面十字状の股105のように開いており、この股105が鉄筋7をかわすように跨らせることにより、鉄筋7と仮設支柱継手101とが干渉しないように、仮設支柱継手101をプレキャスト版100上に配置できる。
【0114】
また、プレキャスト版100は、現場打ちされるコンクリートの型枠としての機能を発揮する。即ち、支柱2の上端板2bからアンカーボルト104が、プレキャスト版100にねじ込まれることにより、プレキャスト版100は、支柱2に支持される。仮設支柱継手100の上面から雌ねじ部114が露呈しているから、仮設支柱継手100の更に上に支柱を立設することもできる。
【0115】
コンクリートは、プレキャスト版100から上側に露呈する鉄筋7に接し、仮設支柱継手101の上面のレベルまで打設される。このとき、コンクリートは、仮設支柱継手101の股105内にも入り込み、プレキャスト版100及び仮設支柱継手101はコンクリートと一体化する。
【0116】
コンクリートの養生が完了したら、アンカーボルト104を緩めて外し、支柱2を撤去する。
【0117】
<第2例>
図16は、第2例に関する。第2例でも、プレキャスト版110には、仮設支柱継手112が鉄筋7と干渉しないように、予め鉄筋7を配しておく。仮設支柱継手112の高さは、第1例とは異なり、形成すべきスラブの厚さと等しくする。一方、プレキャスト版110のうち、仮設支柱継手112を配置すべき位置に、仮設支柱継手112よりも大径の挿通孔111をあけておく。
【0118】
第2例でも、底面から見ると、図16(a)に示すように、仮設支柱継手112は、4カ所下向きに延びる脚部119を備える門型に形成される。各脚部119の中央には、上向きの雌ねじ部113が形成される。しかしながら、第1例とは異なり、仮設支柱継手112の高さは形成すべきスラブの厚さと等しいため、第1例よりも脚部119は長く形成され、当然、股118は第1例よりも深くなっている。
【0119】
一方、プレキャスト版110の挿通孔111の下部には、挿通孔111を介して打設されたコンクリートが漏洩しないように、コンクリートパネル116が固定ボルト117によって接合されている。
【0120】
第1例と同様に、脚部119の間はいわば水平断面十字状の股118のように開いており、この股118を鉄筋7をかわすように跨らせることにより、鉄筋7と仮設支柱継手112とが干渉しないように、仮設支柱継手112をプレキャスト版100上に配置できる。
【0121】
また、第1例と同様に、プレキャスト版110は、現場打ちされるコンクリートの型枠としての機能を発揮する。しかしながら、挿通孔111付近では、コンクリートパネル116が型枠となる点が、第1例とは異なる。支柱2の上端板2bからアンカーボルト115が、コンクリートパネル116を介して仮設支柱継手112の雌ねじ部113にねじ込まれることにより、仮設支柱継手112及びプレキャスト版110は、支柱2に支持される。仮設支柱継手112の上面から雌ねじ部114が露呈しているから、仮設支柱継手112の更に上に支柱を立設することもできる。
【0122】
コンクリートは、プレキャスト版110から上側に露呈する鉄筋7に接し、仮設支柱継手112の上面のレベルまで打設される。このとき、コンクリートは、仮設支柱継手112の股118内にも入り込み、プレキャスト版110及び仮設支柱継手112はコンクリートと一体化する。
【0123】
コンクリートの養生が完了したら、アンカーボルト115及び固定ボルト117を緩めて外し、支柱2及びコンクリートパネル116を撤去する。
【0124】
上述以外の点は、実施の形態1と同様である。なお、図15、図16では、一階層のみを図示したが、実施の形態1に関する図4と同様に、複数階のスラブ構築にも実施の形態2(第1、第2例のいずれも)を適用できることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0125】
本発明の仮設支柱継手及びそれを用いるスラブの構築方法は、例えば、型枠を使用し、現場打ちのコンクリートにより、複数階のスラブを構築する分野にて、特に工期短縮のため好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0126】
【図1】本発明の一実施の形態におけるスラブ施工方法の工程説明図
【図2】本発明の一実施の形態におけるスラブ施工方法の工程説明図
【図3】本発明の一実施の形態におけるスラブ施工方法の工程説明図
【図4】本発明の一実施の形態におけるスラブ施工方法の工程説明図
【図5】本発明の一実施の形態におけるスラブ施工方法の工程説明図
【図6】本発明の第1例における仮設支柱継手の斜視図
【図7】図6A−A線による断面図
【図8】本発明の第2例における仮設支柱継手の側面図
【図9】本発明の第3例における仮設支柱継手の斜視図
【図10】本発明の第4例における仮設支柱継手の斜視図
【図11】本発明の第5例における仮設支柱継手の平面図
【図12】本発明の第6例における仮設支柱継手の平面図
【図13】本発明の一実施の形態における複数階スラブ構築工程説明図
【図14】(a)本発明の他の実施の形態におけるプレキャスト版の平面図 (b)本発明の他の実施の形態におけるプレキャスト版の正面図 (c)本発明の他の実施の形態におけるプレキャスト版の右側面図
【図15】(a)本発明の他の実施の形態における仮設支柱継手の底面図 (b)本発明の他の実施の形態におけるコンクリート打設前の状態を示す断面図
【図16】(a)本発明の他の実施の形態における仮設支柱継手の底面図 (b)本発明の他の実施の形態におけるコンクリート打設前の状態を示す断面図
【符号の説明】
【0127】
h1〜h3 支持高さ
t1〜t2 スラブしろ
1 既設スラブ
2、3、5 仮設支柱
2a、3a、5a 下端板
2b、3b、5b 上端板
4、6 型枠
10、20、30、40、50、60、70、80 仮設支柱継手
31、41、54 上面
32、42、55 底面
33、56、64 アンカー
35、36、45、58、66 開口部
34、44、57、65 配筋空間
37 骨材
53、63 柱
51、61 天板
52、62 底板
71、81 プレキャストコンクリート柱
73、83 張出鉄筋
100、110 プレキャスト版
101、112 仮設支柱継手
【技術分野】
【0001】
本発明は、型枠を用いて生コンクリートを現場打ちし、複数階のスラブを並行して構築するための、仮設構造体、及び複数階のスラブ構築方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1(特開平9−217417号公報)は、プレキャスト桁行き梁を架設し、プレキャストコンクリート版材をクレーンで吊り、上方から躯体内に取りこむ技術を開示する。こうすれば、理論的には、支保工無しにスラブを施工できる。
【0003】
しかしながら、現実には、全く支保工無しにスラブが施工されることは極めて少ない。なぜなら、水平面内に複数のプレキャストコンクリート版材を配置すると、これらのプレキャスト版材は、少なくとも一部が撓んだり、波打ったりするなど、高さ精度を損なうおそれがあるためである。
【0004】
したがって、ほとんどの現場では、特許文献2(特開平8−270069号公報)が開示するように、支保工を使用して型枠を支持し、各階ごとにスラブが施工される。
【0005】
このようにすると、スラブ設計の自由度は高いが、現場打ちされる生コンクリートの硬化・凝固に長時間を要し、工期及びそれによる工事費用が長大となるという問題点がある。
【特許文献1】特開平9−217417号公報
【特許文献2】特開平8−270069号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明は、スラブ設計の自由度を高く維持しながら、しかも工期を大幅に短縮できる、仮設構造体及び複数階のスラブ構築方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る仮設構造体は、第1の階層に立てられる第1の仮設支柱と、第1の仮設支柱により、第1の階層と第1の階層の直上の第2の階層との間に支持され、かつ現場打ちされるコンクリートが硬化・凝固した後現場打ちされるコンクリートと共に第1の階層と第2の階層との間のスラブを形成する第1のプレキャスト版と、第1のプレキャスト版から上方に突出するように配設される第1の仮設支柱継手と、第1の仮設支柱継手に、下端部が連結され、第2の階層に立てられる、第2の仮設支柱と、第2の仮設支柱により、第2の階層と第2の階層の直上の第3の階層との間に支持され、かつ現場打ちされるコンクリートが硬化・凝固した後現場打ちされるコンクリートと共に第2の階層と第3の階層との間のスラブを形成する第2のプレキャスト版を備える。
【0008】
この構成において、仮設支柱継手が、第1の仮設支柱と第2の仮設支柱とを上下方向に連結することにより、第1の仮設支柱上と、第2の仮設支柱上とに、生コンクリートを現場打ちでき、打たれたコンクリートの硬化・凝固を時間的に並列に実施することができる。
【0009】
このため、一階ごとに生コンクリートの打設及び硬化・凝固を行っていた従来技術よりも、格段に工期を短縮できる。
【0010】
しかも、プレキャスト版も一種の型枠であり、結果的に、型枠の使用は妨げられないから、設計の自由度を高く保持できる。
【0011】
さらに、仮設支柱継手は、現場打ちされるコンクリートの硬化・凝固後もスラブ内に一体的に保持されるから、現場打ちされるコンクリートの硬化・凝固後に、仮設支柱を撤去するだけで、スラブの完成に至ることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、仮設支柱継手を活用して、複数階のスラブ構築を同時並列に実施できるから、従来法よりも大幅に工期を短縮できるし、プレキャスト版からなる型枠を使用して、自由度の高い設計が可能となる。また、プレキャスト版は、コンクリートが硬化・凝固した後、コンクリートと共にスラブを形成するから、型枠を取り外す作業が不要となり、一層作業効率を向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
(実施の形態1)
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態を説明する。第1に、本形態のスラブ施工方法の各工程を述べ、次に、それに使用する各種の仮設継手を説明し、最後に、従来工法と本形態のスラブ施工方法による、工期例を比較しながら説明する。
【0014】
(スラブ施工方法)
図1〜図5は、本発明の一実施の形態におけるスラブ施工方法の工程説明図である。なお、以下では、柱あるいは壁というように、垂直に起立する要素に関する構築法及びそのための各要素は、本発明の主題に関係せず、そのためには常法を使用して差し支えないので、その説明は省略する。
【0015】
<前提事項>
はじめに、図1に示すように、水平な既設スラブ1がすでに構築されているものとする。この上に、複数階のスラブを構築し、中規模又は大規模の(2階建て以上)コンクリート構造物を構築する。既設スラブ1は、通常、コンクリートスラブからなるが、後述する仮設支柱群を支障なく支持できるものであれば、理論的には任意に構成できる。
【0016】
本例では、既設スラブ1の上に、支持高さh1、h2、h3からなる三層の空間を形成する。また、支持高さh1と支持高さh2との間にスラブしろt1が設定され、支持高さh2と支持高さh3との間にスラブしろt2が設定される。
【0017】
支持高さh1、h2、h3は、建物の階高に相当し、仮設支柱の実質的な高さを変更すれば、支持高さh1、h2、h3を、それぞれ、あるいは、一部のみ、異ならしめることも可能であり、このようにしても本発明に包含される。
【0018】
但し、以下、説明を簡単にするために、各階に同じ実質的な高さを有する仮設支柱を使用するものとし、ゆえに、支持高さh1、h2、h3は、いずれも等しいものとする。
【0019】
同様に、スラブしろt1、t2も等しいものとする。ここで、スラブしろt1、t2は、構築されるべきスラブの厚さと支柱継手下の型枠の実質的な厚さ(もしあれば)の和である。なお、いうまでもないが、型枠は、上下階層の境界に位置することになる。
【0020】
図示の都合上、図1〜図5では、三階までに相当する分の空間(スラブ間の)のみが示されているが、これは単なる例示に過ぎず、二階のみとしてもよいし、以下の構築方法を繰り返すことにより、四階以上としてもよく、このような場合も本発明に包含される。
【0021】
<下層階の仮設構造体>
まず、上述のような既設スラブ1が準備できてから、複数の仮設支柱2、3を既設スラブ1上に適宜間隔をあけて立ててゆく。ここで、仮設支柱2は、中層階あるいは上層階からの荷重を受けることを予定するものであり、そのスパンL1は、たとえば1400ミリメートル程度とする。もちろん、この数値も例示に過ぎず、適宜変更できる。
【0022】
一方、仮設支柱3は、中層階あるいは上層階からの荷重(型枠、鉄筋及び打設されたコンクリートの荷重は除く。)を受けることを予定しない、補強的な支柱である。図示した例では、スパンL1の中間に配置しているが、これも適宜変更できる。
【0023】
但し、図示しているように、下層階では、多数の仮設支柱2、3が林立し、これらの間を作業員が縫うように移動することになるから、仮設構造体の強度を維持しつつ、あまりに多数の仮設支柱2、3が林立することにより、作業員の移動が妨げられないように配慮するのが好ましい。
【0024】
仮設支柱2、3は、市販の仮設支柱で差し支えないが、下端部に既設スラブ1に接する下端板2a、3aを有し、上端部に上端板2b、3bを有し、高さ調整ができるものが好ましい。下端板2a、3a、2b、3bは、それぞれ水平なフランジ状に幅広に形成されているのが好ましい。支柱本体の水平断面は、矩形等の多角形でもよいし、円形等でもよい。
【0025】
<中層階の仮設構造体>
次に、型枠4を上端板2b、3b上に配置する。型枠4は、通常、水平なコンクリートパネルと、それを補強する根太及び大引(図示せず)を備えて構成されるが、仮設構造体の構成及び生コンクリートの打設及びその養生(硬化・凝固)に支障がなければ、必ずしもこれに限定されるわけではない。
【0026】
次に、型枠4の設置が完了したら、中層階において、仮設支柱2の上端板2bの真上に、仮設支柱継手10を配置する。つまり、仮設支柱継手10は、スパンL1毎に配置される。
【0027】
仮設支柱継手10については、後に各種例を挙げて詳しく説明するが、「仮設支柱継手が、仮設構造体において、仮設支柱を上下方向に連結し、配筋される鉄筋と係合可能に形成され、鉄筋に接して現場打ちされるコンクリートの硬化・凝固後もスラブ内に一体的に保持される」点は、各種例に共通する。
【0028】
仮設支柱継手10が、たとえば型枠4のコンクリートパネル上に位置し、その真下に根太も大引もないならば、仮設支柱継手10の底面に設けられるアンカー(詳細は後述)に、作業員が、下層階側から上向きにアンカーボルトをねじ込み、コンクリートパネルを貫通し、仮設支柱継手10のアンカーと結合させることが好ましい。
【0029】
通常の型枠を使用するとしても、仮設支柱継手10がコンクリートパネル上に位置し、その真下に根太も大引もないようにレイアウトすることは、設計的事項により容易に対応できる。
【0030】
この関係が成立するならば、上述したスラブしろt1は、仮設支柱継手10の高さとコンクリートパネルの厚さの和ということになる。
【0031】
なお、コンクリートパネル(つまり型枠4の一部)に貫通孔を開け、仮設支柱継手10の底面と、上端板2bの上面とを直結させてもよい。但し、この場合には、この貫通孔を介して、打設された生コンクリートが漏洩しないように配慮する必要がある。
【0032】
次に、図2に示すように、中層階において、仮設支柱継手10の上に、仮設支柱5を立ててゆく。この際、上述と同様に、仮設支柱5は、下端部に下端板5a、上端部に上端板5bを有し、下端板5a、5bは水平なフランジ状をなすことが好ましい。
【0033】
本例では、支持高さh1〜h3はすべて等しいから、仮設支柱5は、仮設支柱2、3と同じ高さを有する。下端板5aと仮設支柱継手10の上面上のアンカーとは、アンカーボルトで連結するのが好ましい。
【0034】
以上の結果、スパンL1をあけて仮設支柱継手10上にそれぞれ仮設支柱5が立てられることになる。
【0035】
<上層階の仮設構造体>
次に、上層階において、中層階と同様に、型枠6を上端板5b上に配置する。型枠6は、型枠4と同様に、通常、水平なコンクリートパネルと、それを補強する根太及び大引を備えて構成されるが、仮設構造体の構成及び生コンクリートの打設及びその養生(硬化・凝固)に支障がなければ、必ずしもこれに限定されるわけではない。
【0036】
次に、型枠6の設置が完了したら、上層階において、仮設支柱5の上端板5bの真上に、仮設支柱継手20を配置する。つまり、仮設支柱継手20は、仮設支柱継手10と同様に構成されるとともに、スパンL1毎に配置される。
【0037】
仮設支柱継手20が、たとえば型枠6のコンクリートパネル上に位置し、その真下に根太も大引もないならば、作業員が、仮設支柱継手20の底面に設けられるアンカー(詳細は後述)に下層階側から上向きにアンカーボルトをねじ込み、コンクリートパネルを貫通し、仮設支柱継手20のアンカーと結合させることが好ましい。
【0038】
この関係が成立するならば、上述したスラブしろt2は、仮設支柱継手20の高さとコンクリートパネルの厚さの和ということになる。
【0039】
なお、コンクリートパネル(つまり型枠6の一部)に貫通孔を開け、仮設支柱継手20の底面と、上端板5bの上面とを直結させてもよい。但し、この場合には、この貫通孔を介して、打設された生コンクリートが漏洩しないように配慮する必要がある。
【0040】
以上により、本形態の仮設構造体が完成する。
【0041】
仮設支柱継手10は、仮設支柱2と仮設支柱5とを長手方向において着脱可能に連結する継手であることが、図3を見れば理解されよう。しかも、仮設支柱継手10は、後述するように、コンクリートの打設、硬化・凝固後も、コンクリート内に一体的に保持される点に注目されたい。
【0042】
<配筋>
次に、図3に示すように、中層階において仮設支柱継手10と係合させながら、鉄筋7を配筋する。また、上層階において仮設支柱継手20と係合させながら、鉄筋8を配筋する。
【0043】
配筋法及び鉄筋7、8については、周知技術を適用すれば足りるから、それらの詳細な説明は省略する。
【0044】
なお、中層階の配筋は、上層階の仮設構造体の構築に先立って、あるいはそれと並行して実施しても良い。
【0045】
<生コンクリートの打設>
中層階において、コンクリート14を、上層階においてコンクリート15を、それぞれ生コンクリート供給ホース9を用いて現場打ちする。
【0046】
ここで、従来スラブを現場打ちで打設する際、スラブの厚さ(打設されるコンクリートの深さ)は、作業員の勘や経験力にまかされるのが常であり、熟練した作業員であっても、スラブの厚さにムラや偏りが生ずることが多かった。
【0047】
しかしながら、本形態によれば、作業員は、仮設支柱継手10、20の上面までコンクリートを打設すればよい。言い換えれば、作業員は、打設中に、厚さの指標(仮設支柱継手10、20の上面)を目視で確認できるため、このようなムラや偏りを極力抑制でき、高品質のスラブを容易に構築できる。
【0048】
また、配筋と同様に、中層階に関する生コンクリートの打設は、上層階に関する生コンクリートの打設に先立ち、あるいはそれと並行して実施しても良い。
【0049】
<コンクリートの養生>
中層階及び上層階における、生コンクリートの打設が完了したら、コンクリートが硬化・凝固するのを待つ。コンクリートの硬化・凝固は、中層階及び上層階において、ほぼ同時並列に進行する点は、図4を見れば明らかであろう。
【0050】
即ち、複数階の現場打ちコンクリートを、同時並行して一気に、硬化・凝固させることができ、これにより、作業が停滞する無駄時間を削減し、工期全体を大幅に圧縮できる。
【0051】
<スラブ完成及び繰り返し>
図5に示すように、コンクリートの養生が完了したら、下層階及び中層階に立てていた、仮設支柱2、3、5を撤去する。これにより、下層階の天井であり中層階の床であるコンクリート14と、中層階の天井であり上層階の床であるコンクリート15の構築が完成する。
【0052】
図5を見れば、仮設支柱継手10は、仮設支柱2と仮設支柱5とを長手方向において単に連結する継手であるだけでなく、コンクリートの打設、硬化・凝固後も、コンクリート内に一体的に保持される、埋込体でもある点が、理解されよう。
【0053】
本発明者は、この仮設支柱継手10を案出することにより、それを利用し、工期を従来の工法よりも大幅に短縮できる、複数階のスラブ構築方法を完成するに至ったものである。
【0054】
この後、必要ならば、コンクリート15を、図1における既設スラブ1とみなし、図1以降の工程を繰り返せば、さらに上層階のスラブを構築できる。その際にも、複数階の現場打ちコンクリートを、同時並行して一気に、硬化・凝固させることができる。
【0055】
以上の説明では、仮設構造体を二階分のスラブを構築するものとしたが、仮設支柱の強度や密度等を変更し、三階分以上のスラブを構築するように拡張してもよく、本発明は、そのような場合も包含する。
【0056】
(支柱継手)
以下、各種の支柱継手を具体例を挙げながら、説明する。以下の各種支柱継手は、仮設支柱継手10、20のいずれとしても使用することができる。
【0057】
上述したように、本形態の支柱継手は、仮設支柱同士を長手方向において単に連結する継手であるだけでなく、コンクリートの打設、硬化・凝固後も、コンクリート内に一体的に保持される、埋込体でもある。
【0058】
生コンクリートが打設された後、その硬化・凝固が完了するまでの間、支柱継手の比重が生コンクリートの比重よりも小さいと、浮力を受けることになる。
【0059】
したがって、支柱継手の比重は、生コンクリートの比重と等しいか、あるいはそれよりもやや大きいことが望ましい。
【0060】
即ち、本形態の支柱継手は、スラブにボイドを形成するために、生コンクリート内に埋め込まれる部材とは、まったく趣旨が異なるものであることが理解されよう。
【0061】
しかしながら、支柱継手のフランジとアンカー止めされる場合には、若干の浮力を受けても差し支えなく、本発明の支柱継手は、生コンクリートの比重以上の比重を持つ部材に限定されるわけではない。
【0062】
<第1例>
図6は、本発明の第1例に係る支柱継手の斜視図、図7は、図1A−A線による断面図である。
【0063】
図6は、プレキャストコンクリートからなる、第1例にかかる仮設支柱継手30を示している。
【0064】
第1例の仮設支柱継手30は、ほぼ四角柱状をなし、その上面31と底面32には、4箇所アンカー33が配設されている。
【0065】
アンカー33にアンカーボルトをねじ込むことにより、上面31は、上層階に配置される仮設支柱と連結可能であり、底面32は、下層階に配置される仮設支柱と連結可能である。
【0066】
底面32と、下層階に配置される仮設支柱とは、型枠のコンクリートパネル等を介在して連結されても良いし、型枠のコンクリートパネル等にあけられる孔を介し直接連結されても良い。
【0067】
仮設支柱継手30の内部には、水平断面で十字状をなす配筋空間34があけられている。配筋空間34は、4つの側面の開口部35、36により外部へ開口する。
【0068】
図7に示すように、開口部35、36を介して鉄筋7、8を配筋空間34内へ挿通でき、また、さらに反対側へ貫通させることができる。
【0069】
配筋空間34は水平断面で十字状をなすので、鉄筋7、8は、配筋空間34内で互いに直交させることができる。これにより、鉄筋7、8は、仮設支柱継手30と係合する。
【0070】
底面32のレベルは、型枠のレベルと略同一であり、上面31のレベルは、吐出すべき生コンクリートの上限を示す指標となる。
【0071】
生コンクリートを仮設支柱継手30の周囲で吐出すると、生コンクリートに含まれる鉄筋7も開口部35から配筋空間34内へ入り込むことができ、配筋空間34内においても仮設支柱継手30の外部と同様に、生コンクリートの成分を分布させることができ、また、同様に硬化・凝固させることができる。
【0072】
ここで、図6、図7に示すように、仮設支柱継手30には、配筋空間34から上方へ開口する通気孔38があけられており、生コンクリートが開口部35から配筋空間34内へ入り込むに伴い、配筋空間34の内部に存在していた空気は、通気孔38を介して上方外部へ排出される。なお、第2例以降では、通気孔の図示を省略しているが、同様に通気孔を設けることが望ましい。加えて、生コンクリートが通気孔38を充填し、さらに一部通気孔38上に盛り上がる程度まで、コンクリートを打設するのが望ましい。この状態になると、配筋空間34は、生コンクリートで充満しており、空気が残存しているおそれは少ない。生コンクリートが通気孔38から盛り上がったら、作業員が、コテで余分な生コンクリートを除去するようにすると良い。
【0073】
図6からわかるように、鉄筋7、8が配筋空間34に挿入されるまでは、仮設支柱継手30の外面は、フラットで突出するような部品はない。したがって、仮設支柱継手30を荷積みしたり、作業員が搬送したりするような場合、突出部品(特に、張出鉄筋等)に邪魔されたり、あるいは、それで怪我をしたりということがなく、仮設支柱継手30は、きわめて容易に取り扱うことができる。
【0074】
<第2例>
第1例では、ボックス状の仮設支柱継手30としたが、図8に示すように、第2例では、仮設支柱継手40の上部を、その下部よりも幅広のフランジ部43としている。よって、上面41は、底面42よりも広く形成される。
【0075】
第2例でも、水平断面で十字状をなす配筋空間44が形成され、配筋空間44は、開口部45において外部に露呈する。
【0076】
したがって、第1例と同様に、第2例においても、鉄筋7、8を挿通及び貫通させ、配筋空間44の内部で直交するように配置できる。これにより、鉄筋7、8は、仮設支柱継手40と係合する。
【0077】
底面42のレベルは、型枠のレベルと略同一であり、上面41のレベルは、と出すべき生コンクリートの上限を示す指標となる。
【0078】
図2に示す第1例と同様に、生コンクリートを吐出し、硬化・凝固させることができる。
【0079】
第2例でも、図8からわかるように、鉄筋7、8が配筋空間34に挿入されるまでは、仮設支柱継手40の外面は、フランジ部43を除き、フラットで突出するような部品はない。
【0080】
したがって、第1例と同様に、第2例に係る仮設支柱継手40を荷積みしたり、作業員が搬送したりするような場合、突出部品(特に、張出鉄筋等)に邪魔されたり、あるいは、それで怪我をしたりということがない。
【0081】
加えて、作業員が仮設支柱継手40を手で運ぶような場合には、フランジ部43の縁部を手がかりとすることもでき、取り扱いが非常に容易である。
【0082】
<第3例>
第1例、第2例では、プレキャストコンクリートによる、仮設支柱継手を述べた。第3例では、図9に示すように、プレキャストコンクリートではなく、鋼製又は強化プラスチック製の仮設支柱継手50を採用する。
【0083】
仮設支柱継手50の比重は、生コンクリートのそれ以上であることが望ましい。比重が不足するような場合は、適宜、錘を追加するなどして対応しても良い。
【0084】
図9に示すように、矩形で水平な上下一対の、天板51と底板52とを、四隅の柱53で連結し、ボックス状とする。柱53としては、図示しているように、断面L字状のアングル材を用いると好適である。
【0085】
天板51及び底板52には、適宜、アンカー56を配設する。
【0086】
このようにすると、それぞれ矩形板である、天板51の上面54が仮設支柱継手50の上面54となり、底板52の底面55が仮設支柱継手50の底面55となる。
【0087】
第1例、第2例と同様に、底面55のレベルは型枠のレベルと略同一となり、上面54のレベルは、吐出すべき生コンクリートの上限を示す指標となる。
【0088】
生コンクリートを仮設支柱継手50の周囲で吐出すると、生コンクリートに含まれる鉄筋7も開口部58から配筋空間57内へ入り込むことができ、配筋空間57内においても仮設支柱継手50の外部と同様に、生コンクリートの成分を分布させることができ、また、同様に硬化・凝固させることができる。
【0089】
図9からわかるように、鉄筋7、8が開口部58に挿入されるまでは、仮設支柱継手50の外面から突出するような部品はない。
【0090】
したがって、仮設支柱継手50を荷積みしたり、作業員が搬送したりするような場合、突出部品(特に、張出鉄筋等)に邪魔されたり、あるいは、それで怪我をしたりということがなく、仮設支柱継手50は、きわめて容易に取り扱うことができる。
【0091】
<第4例>
第4例では、図10に示すように、第3例と同様に、プレキャストコンクリートではなく、鋼製又は強化プラスチック製の仮設支柱継手60を採用する。
【0092】
仮設支柱継手60の比重は、生コンクリートのそれ以上であることが望ましい。比重が不足するような場合は、適宜、錘を追加するなどして対応しても良い。
【0093】
第4例は、第3例の形状に変更を加えてある。図10に示すように、水平な上下一対の円板からなる、天板61と底板62とを、複数の柱63で連結し、円筒状とする。柱63としては、図示しているように、断面円形の丸棒またはパイプ材を用いると好適である。
【0094】
天板61及び底板62には、適宜、アンカー64を配設する。
【0095】
このようにすると、それぞれ円板である、天板61の上面が仮設支柱継手60の上面となり、底板62の下面が仮設支柱継手60の下面となる。
【0096】
第1例、第2例と同様に、底板62の下面のレベルは型枠のレベルと略同一となり、天板61の上面のレベルは、吐出すべき生コンクリートの上限を示す指標となる。その他の点は、第3例と同様である。
【0097】
<第5例、第6例>
第1例から第4例までは、内部に配筋空間を備える仮設支柱継手を述べた。図11は、第5例の仮設支柱継手の平面図であり、図12は、第6例の同様な平面図である。
【0098】
図11には、中実で円筒柱状をなす仮設支柱継手70から側方外向きに所定長さL2だけ張り出す張出鉄筋73を有する仮設支柱継手が示され、図12には、中実で八角形柱状をなす仮設支柱継手80から側方外向きに所定長さL2だけ張り出す張出鉄筋83を有する仮設支柱継手が示されている。
【0099】
また、これらのプレキャストコンクリートブロック71、81には、それぞれアンカー72、82が配設される。図11、図12に示すように、コンクリートブロックは、水平断面が円状であってもよいし、四角形、六角形、八角形等の多角形状であっても良い。
【0100】
さらには、例えば、台形状あるいは錘体状というように、上下方向において水平断面が変化するようにしても良い。
【0101】
第5例、第6例のように、コンクリートブロックから外向きに張出鉄筋を張り出させ、張出鉄筋により、配筋される鉄筋と係合すると、仮設支柱継手内に鉄筋を通す必要はないが、仮設支柱継手を荷積みしたり、搬送する際に、張出鉄筋が邪魔になったり、それにより作業員が怪我をする恐れがあるため、取り扱いには注意を要する。
【0102】
(工期の比較)
図13は、従来のスラブ構築方法と、本形態のスラブ構築方法による、それぞれの工期を示す。従来のスラブ構築方法によると、下層階の工事を完了し、その養生を済ませないと、その直上の階の工事に着手できない点が、図13から理解されよう。
【0103】
一方、本形態のスラブ構築法によれば、上述した仮設支柱継手を活用することにより、下層階の工事と、上層階の工事とを並行で進行できるし、しかも、生コンクリートの打設及びその養生を、上層階と下層階とで同時並行して進行できるため、従来技術よりも大幅な(図13の例では、約40%強)工期短縮が可能となっている。
【0104】
しかしながら、図13もあくまで例示であって、本発明は、これに限定されれるものではない。
【0105】
(実施の形態2)
実施の形態1では、型枠を使用し、コンクリートの養生の後、基本的に型枠を取り外す技術を説明した。この型枠には、プレキャスト版による型枠も含まれる。
【0106】
実施の形態2では、型枠としてプレキャスト版を使用すると共に、現場打ちされるコンクリートとプレキャスト版とを一体化したものをスラブそのものとして使用する技術に関する。したがって、コンクリートの養生の後、型枠としてのプレキャスト版は取り外されず、スラブの一部として、そのまま残されることになる。
【0107】
以下、実施の形態1との共通点についての説明を省略し、実施の形態1との相違点のみを説明する。
【0108】
図14(a)は、本発明の実施の形態2におけるプレキャスト版の平面図、図14(b)は、同正面図、図14(c)は、同右側面図である。
【0109】
図14に示すように、プレキャスト版100は、例えば長尺長さ8000ミリメートル、短尺長さ2400ミリメートル程度とするのが好ましく、厚さwtは、形成すべきスラブの厚さの半分程度とするのが望ましい。
【0110】
そして、底面が一辺180ミリメートル程度の矩形をなす仮設支柱継手101を所定間隔(図14の例では、長尺間隔2400ミリメートル、短尺間隔1200ミリメートル)をあけて配置する。
【0111】
<第1例>
プレキャスト版100には、仮設支柱継手101が鉄筋7と干渉しないように、予め鉄筋7を配しておく。第1例では、仮設支柱継手101の高さは、形成すべきスラブの半分の高さとし、つまりプレキャスト版100の厚さと等しくする。
【0112】
底面から見ると、図15(a)に示すように、仮設支柱継手101は、4カ所下向きに延びる脚部106を備える門型に形成される。各脚部106の中央には、上向きの差し込み孔103があけられている。
【0113】
一方、プレキャスト版100において、差し込み孔103に対応する位置には、上方へ突出する突出棒が植設される。したがって、図15(b)に示すように、突出棒を仮設支柱継手101の差し込み孔103に嵌め込むと、仮設支柱継手101をプレキャスト版100に固定できる。ここで、脚部106の間はいわば水平断面十字状の股105のように開いており、この股105が鉄筋7をかわすように跨らせることにより、鉄筋7と仮設支柱継手101とが干渉しないように、仮設支柱継手101をプレキャスト版100上に配置できる。
【0114】
また、プレキャスト版100は、現場打ちされるコンクリートの型枠としての機能を発揮する。即ち、支柱2の上端板2bからアンカーボルト104が、プレキャスト版100にねじ込まれることにより、プレキャスト版100は、支柱2に支持される。仮設支柱継手100の上面から雌ねじ部114が露呈しているから、仮設支柱継手100の更に上に支柱を立設することもできる。
【0115】
コンクリートは、プレキャスト版100から上側に露呈する鉄筋7に接し、仮設支柱継手101の上面のレベルまで打設される。このとき、コンクリートは、仮設支柱継手101の股105内にも入り込み、プレキャスト版100及び仮設支柱継手101はコンクリートと一体化する。
【0116】
コンクリートの養生が完了したら、アンカーボルト104を緩めて外し、支柱2を撤去する。
【0117】
<第2例>
図16は、第2例に関する。第2例でも、プレキャスト版110には、仮設支柱継手112が鉄筋7と干渉しないように、予め鉄筋7を配しておく。仮設支柱継手112の高さは、第1例とは異なり、形成すべきスラブの厚さと等しくする。一方、プレキャスト版110のうち、仮設支柱継手112を配置すべき位置に、仮設支柱継手112よりも大径の挿通孔111をあけておく。
【0118】
第2例でも、底面から見ると、図16(a)に示すように、仮設支柱継手112は、4カ所下向きに延びる脚部119を備える門型に形成される。各脚部119の中央には、上向きの雌ねじ部113が形成される。しかしながら、第1例とは異なり、仮設支柱継手112の高さは形成すべきスラブの厚さと等しいため、第1例よりも脚部119は長く形成され、当然、股118は第1例よりも深くなっている。
【0119】
一方、プレキャスト版110の挿通孔111の下部には、挿通孔111を介して打設されたコンクリートが漏洩しないように、コンクリートパネル116が固定ボルト117によって接合されている。
【0120】
第1例と同様に、脚部119の間はいわば水平断面十字状の股118のように開いており、この股118を鉄筋7をかわすように跨らせることにより、鉄筋7と仮設支柱継手112とが干渉しないように、仮設支柱継手112をプレキャスト版100上に配置できる。
【0121】
また、第1例と同様に、プレキャスト版110は、現場打ちされるコンクリートの型枠としての機能を発揮する。しかしながら、挿通孔111付近では、コンクリートパネル116が型枠となる点が、第1例とは異なる。支柱2の上端板2bからアンカーボルト115が、コンクリートパネル116を介して仮設支柱継手112の雌ねじ部113にねじ込まれることにより、仮設支柱継手112及びプレキャスト版110は、支柱2に支持される。仮設支柱継手112の上面から雌ねじ部114が露呈しているから、仮設支柱継手112の更に上に支柱を立設することもできる。
【0122】
コンクリートは、プレキャスト版110から上側に露呈する鉄筋7に接し、仮設支柱継手112の上面のレベルまで打設される。このとき、コンクリートは、仮設支柱継手112の股118内にも入り込み、プレキャスト版110及び仮設支柱継手112はコンクリートと一体化する。
【0123】
コンクリートの養生が完了したら、アンカーボルト115及び固定ボルト117を緩めて外し、支柱2及びコンクリートパネル116を撤去する。
【0124】
上述以外の点は、実施の形態1と同様である。なお、図15、図16では、一階層のみを図示したが、実施の形態1に関する図4と同様に、複数階のスラブ構築にも実施の形態2(第1、第2例のいずれも)を適用できることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0125】
本発明の仮設支柱継手及びそれを用いるスラブの構築方法は、例えば、型枠を使用し、現場打ちのコンクリートにより、複数階のスラブを構築する分野にて、特に工期短縮のため好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0126】
【図1】本発明の一実施の形態におけるスラブ施工方法の工程説明図
【図2】本発明の一実施の形態におけるスラブ施工方法の工程説明図
【図3】本発明の一実施の形態におけるスラブ施工方法の工程説明図
【図4】本発明の一実施の形態におけるスラブ施工方法の工程説明図
【図5】本発明の一実施の形態におけるスラブ施工方法の工程説明図
【図6】本発明の第1例における仮設支柱継手の斜視図
【図7】図6A−A線による断面図
【図8】本発明の第2例における仮設支柱継手の側面図
【図9】本発明の第3例における仮設支柱継手の斜視図
【図10】本発明の第4例における仮設支柱継手の斜視図
【図11】本発明の第5例における仮設支柱継手の平面図
【図12】本発明の第6例における仮設支柱継手の平面図
【図13】本発明の一実施の形態における複数階スラブ構築工程説明図
【図14】(a)本発明の他の実施の形態におけるプレキャスト版の平面図 (b)本発明の他の実施の形態におけるプレキャスト版の正面図 (c)本発明の他の実施の形態におけるプレキャスト版の右側面図
【図15】(a)本発明の他の実施の形態における仮設支柱継手の底面図 (b)本発明の他の実施の形態におけるコンクリート打設前の状態を示す断面図
【図16】(a)本発明の他の実施の形態における仮設支柱継手の底面図 (b)本発明の他の実施の形態におけるコンクリート打設前の状態を示す断面図
【符号の説明】
【0127】
h1〜h3 支持高さ
t1〜t2 スラブしろ
1 既設スラブ
2、3、5 仮設支柱
2a、3a、5a 下端板
2b、3b、5b 上端板
4、6 型枠
10、20、30、40、50、60、70、80 仮設支柱継手
31、41、54 上面
32、42、55 底面
33、56、64 アンカー
35、36、45、58、66 開口部
34、44、57、65 配筋空間
37 骨材
53、63 柱
51、61 天板
52、62 底板
71、81 プレキャストコンクリート柱
73、83 張出鉄筋
100、110 プレキャスト版
101、112 仮設支柱継手
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の階層に立てられる第1の仮設支柱と、
前記第1の仮設支柱により、前記第1の階層と前記第1の階層の直上の第2の階層との間に支持され、かつ現場打ちされるコンクリートが硬化・凝固した後現場打ちされるコンクリートと共に前記第1の階層と前記第2の階層との間のスラブを形成する第1のプレキャスト版と、
前記第1のプレキャスト版から上方に突出するように配設される第1の仮設支柱継手と、
前記第1の仮設支柱継手に、下端部が連結され、前記第2の階層に立てられる、第2の仮設支柱と、
前記第2の仮設支柱により、前記第2の階層と前記第2の階層の直上の第3の階層との間に支持され、かつ現場打ちされるコンクリートが硬化・凝固した後現場打ちされるコンクリートと共に前記第2の階層と前記第3の階層との間のスラブを形成する第2のプレキャスト版を備えることを特徴とする仮設構造体。
【請求項2】
第1の階層に第1の仮設支柱を立てるステップと、
前記第1の仮設支柱により、前記第1の階層と前記第1の階層の直上の第2の階層との間に第1のプレキャスト版を支持するステップと、
前記第1のプレキャスト版から上方に突出するように第1の仮設支柱継手を配設するステップと、
前記第1の仮設支柱継手に、第2の仮設支柱の下端部を連結し、前記第2の仮設支柱を前記第2の階層に立てるステップと、
前記第2の仮設支柱により、前記第2の階層と前記第2の階層の直上の第3の階層との間に、第2のプレキャスト版を支持するステップと、
前記第1のプレキャスト版に接して第1の生コンクリートを現場打ちするステップと、
前記第2のプレキャスト版に接して第2の生コンクリートを現場打ちするステップと備え、
前記第1の生コンクリートと、前記第2の生コンクリートとを、少なくとも一部において時間的に並列して硬化・凝固させ、前記第1の生コンクリートと前記第1のプレキャスト版とにより、前記第1の階層と前記第2の階層との間のスラブを形成し、前記第2の生コンクリートと前記第2のプレキャスト版とにより、前記第2の階層と前記第3の階層との間のスラブを形成するステップと、
硬化・凝固した第1の生コンクリートと前記第1のプレキャスト版とを含むスラブ内に前記第1の仮設支柱継手を一体的に保持させることを特徴とする複数階のスラブ構築方法。
【請求項1】
第1の階層に立てられる第1の仮設支柱と、
前記第1の仮設支柱により、前記第1の階層と前記第1の階層の直上の第2の階層との間に支持され、かつ現場打ちされるコンクリートが硬化・凝固した後現場打ちされるコンクリートと共に前記第1の階層と前記第2の階層との間のスラブを形成する第1のプレキャスト版と、
前記第1のプレキャスト版から上方に突出するように配設される第1の仮設支柱継手と、
前記第1の仮設支柱継手に、下端部が連結され、前記第2の階層に立てられる、第2の仮設支柱と、
前記第2の仮設支柱により、前記第2の階層と前記第2の階層の直上の第3の階層との間に支持され、かつ現場打ちされるコンクリートが硬化・凝固した後現場打ちされるコンクリートと共に前記第2の階層と前記第3の階層との間のスラブを形成する第2のプレキャスト版を備えることを特徴とする仮設構造体。
【請求項2】
第1の階層に第1の仮設支柱を立てるステップと、
前記第1の仮設支柱により、前記第1の階層と前記第1の階層の直上の第2の階層との間に第1のプレキャスト版を支持するステップと、
前記第1のプレキャスト版から上方に突出するように第1の仮設支柱継手を配設するステップと、
前記第1の仮設支柱継手に、第2の仮設支柱の下端部を連結し、前記第2の仮設支柱を前記第2の階層に立てるステップと、
前記第2の仮設支柱により、前記第2の階層と前記第2の階層の直上の第3の階層との間に、第2のプレキャスト版を支持するステップと、
前記第1のプレキャスト版に接して第1の生コンクリートを現場打ちするステップと、
前記第2のプレキャスト版に接して第2の生コンクリートを現場打ちするステップと備え、
前記第1の生コンクリートと、前記第2の生コンクリートとを、少なくとも一部において時間的に並列して硬化・凝固させ、前記第1の生コンクリートと前記第1のプレキャスト版とにより、前記第1の階層と前記第2の階層との間のスラブを形成し、前記第2の生コンクリートと前記第2のプレキャスト版とにより、前記第2の階層と前記第3の階層との間のスラブを形成するステップと、
硬化・凝固した第1の生コンクリートと前記第1のプレキャスト版とを含むスラブ内に前記第1の仮設支柱継手を一体的に保持させることを特徴とする複数階のスラブ構築方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2010−138601(P2010−138601A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−315834(P2008−315834)
【出願日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【出願人】(508012611)株式会社JUST.WILL (9)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【出願人】(508012611)株式会社JUST.WILL (9)
【Fターム(参考)】
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