説明

伝動ベルトの製造方法

【課題】伝動ベルトの製造時において、離型剤が補強布に浸漬することなく、補強布がゴムシートと剥離しない伝動ベルトの製造方法を提供する。
【解決手段】溝状部4と突状部5を交互に有し、内面に補強布30が位置するように型付けた補強布入り伸張ゴムシート53を溝付モールドに装着し、その上から心線50及び補強布30を積層する伝動ベルトの製造方法であって、該伸張ゴムシート53上で補強布30の巻き始め部に該伸張ゴムシート53と補強布30の間にゴム板70を挟む伝動ベルトの製造方法にある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コグドベルトである伝動ベルトの製造方法に係り、詳しくは補強布の溝付モールドへの装着を容易にすると共に、離型剤の補強布への付着を防ぎ、ベルト状態での補強布のベルトからの剥離を防止することができる伝動ベルトの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、スクーターまたは一般産業用の機械分野の駆動系において、駆動プーリと従動プーリに伝動用ベルトを懸架し、プーリの有効径を変化させて変速させるベルト式変速装置が用いられている。ここで使用されている伝動用ベルトは圧縮ゴム層と伸張ゴム層の少なくとも一方のゴム層にコグ山部とコグ谷部を交互に配したコグ部を有し、心線を接着ゴム層内に埋設した構成からなり、ローエッジシングルコグドベルトあるいはローエッジダブルコグドベルトなどのローエッジコグドベルトが知られている。
【0003】
上記ローエッジコグドベルトの製造方法のその(1)としては、成形金型上に装着した外補強布、伸張ゴム層のゴムシート、心線、圧縮ゴム層のゴムシート、そして内補強布を順次巻き付け、突状部と溝状部を交互に有する円筒状母型を嵌入した後、加硫するもので、加硫時の圧力により内補強布を収縮させて、圧縮ゴム層のゴムシートを型付けする方法がある。(例えば、特許文献1に開示。)
【0004】
また、その(2)として、予め用意したベルト周長よりも長い平面状の溝付金型の上に未加硫ゴムシートを設置し、プレスにより加熱加圧してコグ形状に型付けしたコグパッドを作製する。このコグパッドを成形ドラム上に装着した円筒状母型の突状部と溝状部に嵌め込み、コグパッドのカット面を突合せてジョイントした後、心線を巻き付け、更に他のゴム層、補強布をこの上から巻き付けて成型を終え、加硫工程へ移行していた。(例えば、特許文献2に開示。)
【0005】
しかし、(1)及び(2)の方法共に、ゴムシートと補強布の巻き始めが当接しており、ゴムシート側から離型剤が補強布に浸漬し、ゴムシートと補強布が剥がれる、といった問題点が発生していた。
【0006】
【特許文献1】米国特許第3464875号明細書
【特許文献2】特開2002−1691号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
解決しようとする問題点は、上記の問題点を解消し、伝動ベルトの製造時において、離型剤が補強布に浸漬することなく、補強布がゴムシートと剥離しない伝動ベルトの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願請求項1記載の発明は、圧縮ゴム層と伸張ゴム層の少なくとも圧縮ゴム層にコグ山部とコグ谷部を交互に配したコグ部を有し、心線を圧縮ゴム層と伸張ゴム層の間に埋設するようにした伝動用ベルトの製造方法において、溝状部と突状部を交互に有し、内面に補強布が位置するように型付けた補強布入りゴムシートを溝付モールドに装着し、その上から心線及び補強布を積層する伝動ベルトの製造方法であって、該ゴムシート上で補強布の巻き始め部に該ゴムシートと補強布の間にゴム板を挟む伝動ベルトの製造方法にある。
【0009】
請求項2に記載の発明は、前記ゴム板の組成物が前記ゴムシートと略同じである請求項1に記載の伝動ベルトの製造方法にある。
【発明の効果】
【0010】
本発明の伝動ベルトの製造方法では、溝状部と突状部を交互に有し、内面に補強布が位置するように型付けた補強布入りゴムシートを溝付モールドに装着し、その上から心線及び補強布を積層する伝動ベルトの製造方法であって、該ゴムシート上で補強布の巻き始め部に該ゴムシートと補強布の間にゴム板を挟む伝動ベルトの製造方法であることから、離型剤が補強布に浸漬することなく、従って、ベルト状態で補強布が剥離することがない。
【0011】
請求項2に記載の発明によると、前記ゴム板の組成物が前記ゴムシートと略同じである請求項1に記載の伝動ベルトの製造方法であることから、ベルトの加硫成形後前記ゴム板がゴムシートと一体化し、ゴム板が異物化せずにそれによるベルトの亀裂が発生することもない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施例を添付図面に従って説明する。図1は本発明に係る伝動ベルトの製造方法における補強布の型付け装置の概略図、図2は補強布の型付け工程において補強布を溝状部内へ押え付け始めた状態を示し、図3は補強布の型付け工程において補強布を溝状部へ押え付け終えた状態を示している。
【0013】
補強布の型付け装置Aでは、溝状部4と突状部5を交互に有する加硫ゴム製の円筒状母型2を断面真円の金属製のベース型3に装着した成形金型1が、支持台6に回転可能に設置され、一方ピニオンロール10の底面11に一定間隔で設けた突状の歯部12が成形金型1の溝状部4に噛合うようになっている。該ピニオンロール10はロッド13の一端に回転可能に装着され、他端に設けたシリンダー14の動作により軸15を中心にシーソのように旋回し、成形金型1に当接し離反する。所定の厚みに巻かれた補強布30は引き抜かれながら成形金型1とピニオンロール10との間に挟持され、成形金型1を駆動してピニオンロール10を共回りさせながら順次型付けされる。
【0014】
補強布30の型付けでは、ゴム糊であるゴム系接着剤を成形金型1の突状部5のみに表面にスプレー、刷毛等で塗布した後、接着処理済みもしくは未処理の補強布30を引き出して成形金型1に設けた突状部5の表面に載置する。ピニオンロール10を下ろして歯部12が成形金型1の溝状部4に入っていることを確認した後、成形金型1を回転させて前方突状部5aに位置する補強布30をピニオンロールの底面11で押圧し、続いてピニオンロール10の歯部12を成形金型1の溝状部4に噛合わせて歯部先端面20を成形金型1の溝状部底面21に当接して押圧変形する。ピニオンロール10は成形金型1の回転とともに回転する。
【0015】
そして、隣接する後方突状部5bにある補強布30を隣接する他のピニオンロールの底面11で押圧することにより補強布30を伸張させずに無理なく1つの溝状部4に沿って完全に変形し、これを順次繰り返して補強布30を成形金型1の全周囲に密着するように型付けする。本実施例の場合、ピニオンロール10の1つの歯部12が成形金型1の溝状部4に入っているとき、他のピニオンロール10の歯部12が補強布30を押付けしないために、補強布30が突っ張ってしまったり、浮いたりすることはない。これを繰り返しながら成形金型1の全表面に1〜4プライまで被覆する。そして、補強布30の終端はカッターにより切断して、成形金型1に貼着する。
【0016】
ここで使用するゴム系接着剤は、各種のゴム配合物をメチルエチルケトン(MEK)、トルエン等の溶剤に溶解し、混合して得られたものであり、補強布30の成形金型1面への密着をよくする。
【0017】
上記補強布30は綿、ポリエステル繊維、ナイロン等からなり、平織、綾織、朱子織等に製織した布で、経糸と緯糸との交差角が90〜120°程度の広角度帆布でもよい。補強布30はRFL処理した後、ゴム組成物をフィリクション・コーチングしてゴム付帆布とする。RFL液はレゾルシンとホルムアルデヒドとの初期縮合物をラテックスに混合したものであり、ここで使用するラテックスとしてはクロロプレン、スチレン・ブタジエン・ビニルピリジン三元共重合体、水素化ニトリル、NBRなどである。
【0018】
続いて、図4に示すように、予め圧縮ゴム層を形成する未加硫で所定厚みの圧縮ゴム用シート35の両端面を厚み方向に傾斜したカット(通常ベベカットともいう)したものを、上記補強布30を型付けした成形金型1に巻き付けてカット面36を突合せた後、カット面36の表面を加圧治具(図示せず)で軽く押圧してジョイントした後、加熱プレス37を用いて加熱加圧してジョイント部38を形成する。加熱加圧条件は温度が80〜120℃、面圧が1〜2kg/cm、時間が10〜30秒である。ジョイントの位置は通常成形金型1の溝状部4で行う。突状部5にジョイントの位置がくると、ベルトコグ谷部にジョイントがくるため、割れが発生しやすくなる。
【0019】
ここで使用する圧縮ゴム用シート35の原料ゴムは、天然ゴム、ブチルゴム、スチレン−ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、エチレン・α−オレフィンゴム、アルキル化クロロスルファン化ポリエチレン(ACSM)、水素化ニトリルゴム(H−NBR)、水素化ニトリルゴムと不飽和カルボン酸金属塩との混合ポリマー等のゴム材の単独、またはこれらの混合物が使用される。
【0020】
上記圧縮ゴム用シート35には、ゴム中にアラミド繊維、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、綿等の繊維からなり繊維の長さは繊維の種類によって異なるが1〜10mm程度の短繊維が用いられ、例えばアラミド繊維であると3〜5mm程度、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、綿であると5〜10mm程度のものが用いられる。そして、上記ゴム層中の短繊維の方向はベルトの長手方向に対して直角方向を向いているのを90°としたときほとんどの短繊維が70°〜110°の範囲内に配向されていることが望ましい。
【0021】
図5に示すように、上記圧縮ゴム用シート35の表面に粘着防止材40であるポリメチルペンテンあるいはポリエチレンテレフタレートからなる耐熱性、離型性に優れる樹脂フィルムを1プライ巻き付け重ね合わせて接合し、圧縮ゴム用シート35の型付け工程へ移行する。
【0022】
ゴムシート型付け工程は、加硫缶を使用することができる。図6に示すように、この場合粘着防止材40の外側に蒸気遮断材であるゴム製のジャケット41を被せた後、これを加硫缶へ設置し、温度160〜180℃、外圧0.8〜0.9MPaのみで5〜10分程度型付けし、図7に示すように未加硫の圧縮ゴム層45を形成する。加硫缶で型付けしても、圧縮ゴム層45のジョイント部38の割れは起こらない。無論、型付けは加硫缶でなく、圧縮ゴム用シート35の外側を加圧バンド、プレス方式等で加熱、加圧することができる。
【0023】
図8は型付けした圧縮ゴム用シートの表面にベルト成形体を作製した状態を示すものであり、成形金型1を成形機(図示せず)に装着し、ポリエステル繊維、アラミド繊維、ガラス繊維等のコードからなる心線50を圧縮ゴム層45の上のスパイラルに巻き付けた後、接着ゴム層を形成する接着ゴムシート51、伸張ゴム層を形成する伸張ゴムシート53、上面補強布54を順次巻き付けて、ベルト成形体55を作製する。このとき、図9に示すように、ゴム板70を伸張ゴムシート53と補強布54との間に挟んで設置する。そして、成形機から取り出した成形金型1を支持台上に設置してジャケット(図示せず)を嵌入する。
【0024】
ベルト成形体55を加硫缶へ移して通常の方法で加硫を行う。加硫した後、ジャケット、続いて円筒状のベルトスリーブを成形金型1の円筒状母型2から抜き取り、ベルトスリーブを所定幅に切断して図9に示すようなコグドベルトである伝動ベルト60を作製する。
【0025】
伸張ゴムシート53は、圧縮ゴム用シート35と同じゴム組成物を用い、また接着ゴムシート51も圧縮ゴム用シート35と同種であり、上記短繊維を含めてもよいが、好ましくは、含めない。さらに、ゴム板70は、少なくとも伸張ゴムシート53と同じゴム組成物を使用するのが好ましい。
【0026】
伝動用ベルト60は、図10に示すように接着ゴム層61内にポリエステル繊維、アラミド繊維、ガラス繊維等のコードからなる心線62が埋め込まれ、接着ゴム層61の上部、下部にはそれぞれ補強布63を含む伸張ゴム層64、また同様に補強布63を含む圧縮ゴム層65を有している。圧縮ゴム層65には、それぞれ一定ピッチでベルト長手方向に沿ってコグ谷部66とコグ山部67とを交互に配したコグ部68が設けられている。無論、伸張ゴム層64の表面にもコグ部を設けることができる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明は、スノーモービル、スクーター及び一般産業用の変速ベルトとして使用されるコグドベルトの製造方法に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に係る伝動用ベルトの製造方法における補強布の型付け装置の概略図である。
【図2】補強布の型付け工程において、補強布を溝状部内へ押え付け始めた状態を示す。
【図3】補強布の型付け工程において、補強布を溝状部へ押え付け終えた状態を示している。
【図4】本発明の製造方法において圧縮ゴム用シートを成形金型に巻き付けて、厚さ方向において傾斜したカット面を突合せて接合した工程を示す。
【図5】本発明の製造方法において圧縮ゴム用シートの表面に粘着防止材を巻き付けた工程を示す。
【図6】本発明の製造方法において圧縮ゴム用シートを加熱加圧して成形金型の突状部と溝状部に密着し型付けした工程を示す。
【図7】本発明の製造方法において圧縮ゴム用シートを型付けした状態を示す。
【図8】本発明の製造方法において型付けした圧縮ゴム用シートの表面にベルト成形体を作製した状態を示す。
【図9】本発明の製造方法において、ゴム板を伸張ゴムシートと補強布との間に挟んで設置した状態を示した図である。
【図10】本発明の製造方法において得られたコグドベルトの部分正面図である。
【符号の説明】
【0029】
1 成形金型
2 円筒状母型
4 溝状部
5 突状部
5a 前方突状部
5b 後方突状部
10 ピニオンロール
11 底面
12 歯部
30 補強布
35 圧縮ゴム用シート
36 カット面
40 粘着防止材
41 ジャケット
45 圧縮ゴム層
50 心線
51 接着ゴムシート
53 伸張ゴムシート
55 ベルト成形体
70 ゴム板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮ゴム層と伸張ゴム層の少なくとも圧縮ゴム層にコグ山部とコグ谷部を交互に配したコグ部を有し、心線を圧縮ゴム層と伸張ゴム層の間に埋設するようにした伝動用ベルトの製造方法において、
溝状部と突状部を交互に有し、内面に補強布が位置するように型付けた補強布入りゴムシートを溝付モールドに装着し、その上から心線及び補強布を積層する伝動ベルトの製造方法であって、該ゴムシート上で補強布の巻き始め部に該ゴムシートと補強布の間にゴム板を挟むことを特徴とする伝動ベルトの製造方法。
【請求項2】
前記ゴム板の組成物が前記ゴムシートと略同じである請求項1に記載の伝動ベルトの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−62347(P2006−62347A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−170438(P2005−170438)
【出願日】平成17年6月10日(2005.6.10)
【出願人】(000006068)三ツ星ベルト株式会社 (730)
【Fターム(参考)】