説明

伝熱シートおよび放熱構造体

【課題】低温から高温までの幅広い温度範囲の環境下であっても、過冷却および過昇温の双方を防止して、放熱対象物を所望の温度範囲内に維持することができる伝熱シート、および、この伝熱シートを用いた放熱構造体を提供すること。
【解決手段】本発明の伝熱シート1は、第1の部分31と、平面視にて第1の部分31と異なる位置に設けられ、温度変化に応じて厚さ方向に第1の部分31よりも大きな伸縮率で伸縮する第2の部分32とを備えた伝熱層3を有し、使用状態にて、伝熱層3の温度が所定温度以下であるときに、第2の部分32と相手体5との間に空隙33を生じさせて、放熱対象物4と相手体5との間の熱伝導性を低下させ、一方、伝熱層3の温度が所定温度以上である場合、空隙33を実質的に無くして、放熱対象物4と相手体5との間の熱伝導性を向上させるように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放熱すべき対象である放熱対象物と相手体との間に介在させて用いられ、前記放熱対象物と前記相手体との間の伝熱を行うための伝熱シートおよびこれを用いた放熱構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、トランジスタ、ダイオード、IC等の半導体部品や、各種ヒータ、温度センサ等の電子部品などの放熱対象物には、放熱・伝熱スペーサとして、高熱伝導性を有するシートが用いられている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
かかるシートは、例えば、特許文献1に開示されているように、樹脂および熱伝導性充填材を含む樹脂組成物で構成されている。このようなシートを放熱フィンと、前述したような放熱対象物との間に介在させることにより、放熱対象物から放熱フィンへ伝熱を効率よく行い、対象物の過昇温を防止することができる。
【0004】
しかしながら、特許文献1にかかるシートは、その厚さ方向での熱伝導率が温度変化に関係なく一定であるため、前述したような放熱対象物が極めて低温の環境下で使用されると、放熱対象物が過冷却されてしまい、放熱対象物の種類によっては、放熱対象物がその性能を十分に発揮することができない場合があった。
【0005】
【特許文献1】特開2006−278476号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、低温から高温までの幅広い温度範囲の環境下であっても、過冷却および過昇温の双方を防止して、放熱対象物を所望の温度範囲内に維持することができる伝熱シート、および、この伝熱シートを用いた放熱構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような目的は、下記(1)〜(17)に記載の本発明により達成される。
(1) 放熱すべき対象である放熱対象物と相手体との間に介在させて使用され、前記放熱対象物と前記相手体との間の伝熱を行うための伝熱シートであって、
第1の部分と、平面視にて前記第1の部分と異なる位置に設けられ、温度変化に応じて厚さ方向に前記第1の部分よりも大きな伸縮率で伸縮する第2の部分とを備えた伝熱層を有し、
前記使用状態にて、前記伝熱層の温度が所定温度以下であるときに、前記第2の部分と前記放熱対象物および/または前記相手体との間に空隙を生じさせて、前記放熱対象物と前記相手体との間の熱伝導性を低下させ、一方、前記伝熱層の温度が所定温度以上である場合、前記空隙を実質的に無くして、前記放熱対象物と前記相手体との間の熱伝導性を向上させるように構成されていることを特徴とする伝熱シート。
【0008】
(2) 前記第2の部分の厚さ方向での熱膨張係数は、前記第1の部分の厚さ方向での熱膨張係数よりも大きく、かつ、前記第2の部分の厚さ方向での熱伝導率は、前記第1の部分の厚さ方向での熱伝導率よりも高い上記(1)に記載の伝熱シート。
【0009】
(3) 平面視にて、前記第1の部分および前記第2の部分のうち、一方が多数点在し、他方がその間を埋めるように形成されている上記(1)または(2)に記載の伝熱シート。
【0010】
(4) 平面視にて、前記多数点在する前記第1の部分または前記第2の部分は、均一に分散するように配置されている上記(3)に記載の伝熱シート。
【0011】
(5) 平面視にて、前記多数点在する前記第1の部分または前記第2の部分は、正方格子状または千鳥格子状に規則的に配置されている上記(4)に記載の伝熱シート。
【0012】
(6) 平面視にて、前記第2の部分が多数点在し、前記第1の部分が前記第2の部分同士の間を埋めるように形成されている上記(3)ないし(5)のいずれかに記載の伝熱シート。
【0013】
(7) 前記各第2の部分は、前記伝熱層の厚さ方向に延在する柱状をなしている上記(6)に記載の伝熱シート。
【0014】
(8) 前記第2の部分に固着または一体化して前記伝熱層を支持する支持層を有している上記(1)ないし(7)のいずれかに記載の伝熱シート。
【0015】
(9) 前記支持層は、前記第2の部分の構成材料と同種の材料で構成されている上記(8)に記載の伝熱シート。
【0016】
(10) 前記第1の部分は、硬化性樹脂および無機充填材を含む樹脂組成物を繊維基材に含浸させてなる上記(1)ないし(9)のいずれかに記載の伝熱シート。
【0017】
(11) 前記硬化性樹脂は、シアネート樹脂である上記(10)に記載の伝熱シート。
【0018】
(12) 前記繊維基材を構成する主な繊維は、ガラス繊維である上記(11)に記載の伝熱シート。
【0019】
(13) 前記第2の部分は、金属を主材料として構成されている上記(1)ないし(12)のいずれかに記載の伝熱シート。
【0020】
(14) 前記第2の部分を構成する前記金属は、アルミニウムまたはこれを含む合金である上記(13)に記載の伝熱シート。
【0021】
(15) 平面視にて、前記伝熱層全体の面積に対し前記第2の部分の面積の占める割合は、50〜85%である上記(1)ないし(14)のいずれかに記載の伝熱シート。
【0022】
(16) 放熱すべき対象である放熱対象物と、
相手体と、
上記(1)ないし(15)のいずれかに記載の伝熱シートとを有し、
前記放熱対象物から前記伝熱シートを介して前記相手体へ伝熱・放熱し得るように構成されていることを特徴とする放熱構造体。
【0023】
(17) 前記伝熱シートは、前記第2の部分に固着または一体化して前記伝熱層を支持する支持層を有しており、前記支持層が前記放熱対象物側となるように設けられている上記(16)に記載の放熱構造体。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、低温から高温までの幅広い温度範囲の環境下であっても、過冷却および過昇温の双方を防止して、放熱対象物を所望の温度範囲内に維持することができる伝熱シート、および、この伝熱シートを用いた放熱構造体を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、図1ないし図5に基づき、本発明の伝熱シートの実施形態について詳細に説明する。
【0026】
図1は、本発明にかかる伝熱シートの好適な実施形態の概略構成を示す斜視図、図2は、図1中のA−A線断面図、図3は、図1に示す伝熱シートの作用を説明するための図、図4は、本発明の放熱構造体の具体例を説明するための図、図5は、図4に示す放熱構造体の要部を示す斜視図である。
【0027】
図1および図2に示すように、本発明にかかる伝熱シート1は、後に詳述するが、放熱すべき対象である放熱対象物と相手体との間に介在させて使用され、前記放熱対象物と前記相手体との間の伝熱を行うものである。なお、放熱対象物および相手体については、後に詳述する。
【0028】
このような伝熱シート1は、支持層2と、この支持層2上に接合・支持され、温度変化に応じて厚さ方向での熱伝導性を変更し得る伝熱層3とを有している。
【0029】
放熱対象物は外気温や放熱対象物自体の発熱などによって温度変化を生じるが、かかる伝熱シート1は、伝熱層3がその温度変化に応じて厚さ方向での熱伝導性を変化させることにより、放熱対象物の過昇温および過冷却を防止して、放熱対象物を所定の温度範囲に維持することができる。
【0030】
以下、かかる伝熱シート1を構成する各部を順次説明する。
支持層2は、伝熱層3を支持する機能を有する。また、支持層2は、使用時に、後述するように放熱対象物の熱を受け伝熱層3に伝熱する機能をも有する。さらに、支持層2は、放熱対象物の熱を受け伝熱層3に伝熱する際に、その面方向に拡散しながら伝熱して、伝熱層3に伝わる熱を均一化する機能も有する。このように面方向に拡散しながら伝熱することにより、伝熱効率を向上させることができる。なお、伝熱層3の構成によっては、必要に応じて、支持層2を省略することができる。
【0031】
このような支持層2の構成材料としては、支持層2が前述したような機能を有することができれば、特に限定されず、各種有機材料や各種無機材料を用いることができるが、伝熱性に優れた材料が好適に用いられ、特に、後述する伝熱層3の第2の部分32の構成材料と同種の材料を用いるのが好ましい。
【0032】
支持層2の構成材料が第2の部分32の構成材料と同種であると、前記機能に加えて、支持層2の伝熱性および機械的強度を優れたものとすることができる。また、第2の部分32を支持層2と固着または一体化することで、伝熱シート1の機械的強度を特に優れたものとするとともに、支持層2から伝熱層3の第2の部分32へ効率的に伝熱を行うことができる。
【0033】
支持層2の平均厚さは、支持層2が前述したような機能を有することができれば、特に限定されないが、0.01〜5mmであるのが好ましく、0.1〜3mmであるのがより好ましい。これにより、伝熱シート1の厚さを抑えつつ、支持層2に前述したような機能を付与するとともに、支持層2に適度な可撓性および機械的強度を付与することができる。
【0034】
これに対し、支持層2の平均厚さが前記下限値未満であると、支持層2の構成材料によっては、支持層2自体の機械的強度が不足する場合がある。一方、支持層2の平均厚さが前記上限値を超えると、支持層2の構成材料によっては、支持層2の伝熱性が低下して、放熱対象物から伝熱シート1を介して相手体に伝熱・放熱させるのが難しくなる傾向を示す。
【0035】
このような支持層2の一方の面(図1および図2にて上側の面)には、伝熱層3が接合・支持されている。
【0036】
伝熱層3は、その厚さ方向での伝熱性を温度変化に応じて変更し得るものである。
このような伝熱層3は、図1および図2に示すように、平面視にて互いに異なる位置に設けられた第1の部分31および複数の第2の部分32を有している。言い換えれば、第1の部分31は、厚さ方向に貫通する円筒状の複数の孔を有する異形状をなしており、各孔に挿通するようにして第2の部分32が設けられている。
【0037】
特に、本実施形態では、平面視にて、複数の第2の部分32が正方格子状(言い換えると行列状)に配置され、第1の部分31が第2の部分32同士の間を埋めるように形成されている。
【0038】
このような伝熱層3は、伝熱層3の温度が所定温度以下であるときに、第2の部分32と相手体(および/または放熱対象物)との間に空隙を生じさせて、放熱対象物と相手体との間の熱伝導性を低下させ、一方、伝熱層3の温度が所定温度以上である場合、空隙を実質的に無くして、放熱対象物と相手体との間の熱伝導性を向上させる。
【0039】
特に、平面視にて、第2の部分32が多数点在し、第1の部分31が第2の部分32同士の間を埋めるように設けられているため、第1の部分31に必要な機械的強度を付与しつつ、伝熱層3における第2の部分32の占める割合を大きくして、第2の部分32の伝熱性を優れたものとすることができる。また、このように第1の部分31および第2の部分32を配置・形成することで、第1の部分31と第2の部分32との間に隙間を設けなくても、第2の部分32を温度変化により厚さ方向に容易に伸縮させることができる。そのため、空隙33が形成されているときに、伝熱シート1の断熱性を優れたものとすること(熱伝導性をより低下させること)ができる。
【0040】
以下、第1の部分31および第2の部分32を順次詳細に説明する。
<第1の部分>
第1の部分31は、第2の部分32の収縮により第2の部分32と相手体との間に空隙33を形成させるためのスペーサとしての機能を有する。このような第1の部分31は、温度変化に応じて厚さ方向に第2の部分32よりも小さい伸縮率で伸縮するものである。すなわち、第1の部分31の厚さ方向での熱膨張係数は、第2の部分32の厚さ方向での熱膨張係数よりも小さい。これにより、第1の部分31は、温度変化により厚さ方向に実質的に伸縮せず放熱対象物と相手体との間の距離をほぼ一定に維持することができる。
【0041】
また、前述したような空隙33の有無で伝熱シート1の熱伝導性を変化させることができるが、第1の部分31は、後述する第2の部分32よりも厚さ方向での熱膨張係数が低く、かつ、第2の部分32よりも熱伝導性の低いものであるのが好ましい。これにより、伝熱シート1の厚さ方向での伝熱性を温度変化に応じて大きく変化させることができる。
【0042】
また、第1の部分31の厚さ方向での熱膨張係数は、第2の部分32の厚さ方向での熱膨張係数よりも小さければ、特に限定されないが、3〜20ppm程度であるのが好ましい。
【0043】
なお、前記熱膨張係数は、熱機械分析(TMA)装置を用いて、JIS K−7197に記載される方法にて測定することができる。具体的には、測定試料をステージにセットし、一定荷重の負荷をかけた状態で、等速で昇温させ、測定資料に生じる膨張量を差動トランスで電気的出力として検出し、その検出結果と温度との関係を調べる。
【0044】
また、第1の部分31の平均厚さは、第1の部分31が前述したような機能を有することができれば、特に限定されないが、1〜5mmであるのが好ましく、1〜2mmであるのがより好ましい。これにより、伝熱シート1全体の厚さを抑えつつ、第1の部分31に前述したような機能を付与することができる。なお、後述する繊維基材、その繊維基材に付着させる樹脂組成物の量、乾燥条件等を調整することで、第1の部分31を所望の厚さとすることができる。
【0045】
このような第1の部分31は、硬化性樹脂および無機充填材を含む樹脂組成物を繊維基材に含浸させてなる。これにより、第1の部分31を、温度変化により厚さ方向に実質的に伸縮せず、かつ、比較的低い熱伝導性を有するものとすることができる。ここで、前記樹脂組成物には、必要に応じて、硬化剤や硬化促進剤などの硬化助剤、各種添加剤等が含まれる。
【0046】
以下、第1の部分31を構成する各材料を順次説明する。
(硬化性樹脂)
第1の部分31を構成する樹脂組成物に含まれる硬化性樹脂としては、例えば、ユリア(尿素)樹脂、メラミン樹脂、ビスマレイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ベンゾオキサジン環を有する樹脂、シアネートエステル樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂およびビスフェノールSとビスフェノールFとの共重合エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂が好適に用いられる。これらの中でも、特に、シアネート樹脂が好ましい。熱硬化性樹脂(特に、シアネート樹脂)を用いることにより、第1の部分31の熱膨張係数を小さくすることができる。また、このような硬化性樹脂を含んで第1の部分31が構成されていると、ネジやピンのような機械的に固定する手段を別途用いなくても、硬化性樹脂自体がもつ接着性・固着性により、簡単かつ確実に、第1の部分31を支持層2に接着・固着させることができ、また、支持層2を省略した場合には、第1の部分31を相手体や放熱対象物に接着・固着させることもできる。
【0047】
前記シアネート樹脂は、例えば、ハロゲン化シアン化合物とフェノール類とを反応させることにより得ることができる。
【0048】
例えば、前記シアネート樹脂としては、ノボラック型シアネート樹脂、ビスフェノールA型シアネート樹脂、ビスフェノールE型シアネート樹脂、テトラメチルビスフェノールF型シアネート樹脂等のビスフェノール型シアネート樹脂等が挙げられる。これらの中でも、前記シアネート樹脂としては、ノボラック型シアネート樹脂が好ましい。これにより、シアネート樹脂の架橋密度を比較的高いものとし、第1の部分31の耐熱性および難燃性を向上させることができる。さらに、第1の部分31を薄膜化した場合であっても、伝熱層3に優れた剛性を付与することができる。
【0049】
前記ノボラック型シアネート樹脂としては、例えば下記式(I)で示されるものを使用することができる。
【0050】
【化1】

【0051】
前記式(I)で示されるノボラック型シアネート樹脂の平均繰り返し単位nは、特に限定されないが、1〜10が好ましく、特に2〜7が好ましい。この平均繰り返し単位nが前記下限値未満であると、ノボラック型シアネート樹脂は、結晶化しやすくなる傾向を示し、汎用溶媒に対する溶解性が比較的低下する。このため、樹脂組成物中におけるノボラック型シアネート樹脂の含有量等によっては、第1の部分31を製造する際に、樹脂組成物を含む樹脂ワニス(第1の部分31を形成するための材料。以下、同じ。)の取り扱いが困難となる場合がある。また、伝熱シート1にタック性が生じ、伝熱シート1同士が接触したとき互いに固着したり、樹脂組成物が伝熱シート1の不本意な部位に付着したりする場合がある。一方、この平均繰り返し単位nが前記上限値を超えると、第1の部分31を製造する際に、溶媒の種類等によっては、樹脂組成物を含む樹脂ワニスの溶融粘度が高くなりすぎ、伝熱シート1の成形性が低下する場合がある。
【0052】
前記シアネート樹脂の重量平均分子量は、特に限定されないが、500〜4,500が好ましく、特に600〜3,000が好ましい。前記シアネート樹脂の重量平均分子量が前記下限値未満であると、伝熱シート1にタック性が生じ、伝熱シート1同士が接触したとき互いに固着したり、樹脂組成物が伝熱シート1の不本意な部位に付着したりする場合がある。一方、前記シアネート樹脂の重量平均分子量が前記上現値を超えると、第1の部分31を製造する際に、シアネート樹脂の硬化反応が速くなりすぎ、得られる伝熱シート1の成形不良が生じる場合がある。
【0053】
なお、前記シアネート樹脂等の硬化性樹脂の重量平均分子量は、例えばGPCで測定することができる。
【0054】
前記樹脂組成物全体に対する前記硬化性樹脂の含有量は、特に限定されないが、5〜50重量%が好ましく、特に10〜40重量%が好ましい。かかる含有量が前記下限値未満であると、樹脂組成物の粘度等によっては、伝熱シート1を形成するのが困難となる場合がある。一方、かかる含有量が前記上限値を超えると、硬化性樹脂の種類や重量平均分子量等によっては、伝熱シート1の強度が低下する場合がある。
【0055】
(エポキシ樹脂)
また、前記硬化性樹脂としてシアネート樹脂(特にノボラック型シアネート樹脂)を用いる場合、エポキシ樹脂(実質的にハロゲン原子を含まない)を併用することが好ましい。
【0056】
前記エポキシ樹脂としては、例えば、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、アリールアルキレン型エポキシ樹脂等が挙げられる。これらの中でも、前記エポキシ樹脂としては、アリールアルキレン型エポキシ樹脂が好ましい。これにより、硬化後の第1の部分31(得られる伝熱シート1)の耐熱性および難燃性を向上させることができる。
【0057】
前記アリールアルキレン型エポキシ樹脂とは、繰り返し単位中に一つ以上のアリールアルキレン基を有するエポキシ樹脂をいう。例えば、前記アリールアルキレン型エポキシ樹脂としては、キシリレン型エポキシ樹脂、ビフェニルジメチレン型エポキシ樹脂等が挙げられる。これらの中でも、前記アリールアルキレン型エポキシ樹脂としては、ビフェニルジメチレン型エポキシ樹脂が好ましい。ビフェニルジメチレン型エポキシ樹脂は、例えば下記式(II)で示すことができる。
【0058】
【化2】

【0059】
前記式(II)で示されるビフェニルジメチレン型エポキシ樹脂の平均繰り返し単位nは、特に限定されないが、1〜10が好ましく、特に2〜5が好ましい。この平均繰り返し単位nが前記下限値未満であると、ビフェニルジメチレン型エポキシ樹脂は、結晶化しやすくなる傾向を示す。このため、ビフェニルジメチレン型エポキシ樹脂は、汎用溶媒に対する溶解性が比較的低下し、結果として、樹脂組成物の取り扱いが困難となる場合がある。一方、この平均繰り返し単位nが前記上限値を超えると、樹脂組成物の流動性が低下し、伝熱シート1の成形不良等の原因となる場合がある。
【0060】
前記エポキシ樹脂を併用する場合、前記樹脂組成物全体に対する前記エポキシ樹脂の含有量は、特に限定されないが、1〜55重量%が好ましく、特に2〜40重量%が好ましい。かかる含有量が前記下限値未満であると、シアネート樹脂の反応性が低下したり、得られる第1の部分31の耐湿性が低下したりする場合がある。一方、かかる含有量が前記上限値を超えると、エポキシ樹脂の種類等によっては、第1の部分31の耐熱性が低下する場合がある。
【0061】
前記エポキシ樹脂の重量平均分子量は、特に限定されないが、重量平均分子量300〜20,000が好ましく、特に500〜5,000が好ましい。前記エポキシ樹脂の重量平均分子量が前記下限値未満であると、環境温度等によっては、伝熱シート1にタック性が生じる場合が有る。一方、前記エポキシ樹脂の重量平均分子量が前記上限値を超えると、エポキシ樹脂の種類等によっては、第1の部分31を製造する際に、樹脂組成物の繊維基材への含浸性が低下し、均一な厚さかつ均質な伝熱シート1が得られない場合がある。
【0062】
(フェノール樹脂)
また、前記硬化性樹脂としてシアネート樹脂(特にノボラック型シアネート樹脂)を用いる場合、フェノール樹脂を併用することが好ましい。このようにシアネート樹脂(特にノボラック型シアネート樹脂)とアリールアルキレン型フェノール樹脂とを組合せることにより、第1の部分31の架橋密度をコントロールし、支持層2と第1の部分31との密着性を向上させることができる。
【0063】
前記フェノール樹脂としては、例えば、ノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂、アリールアルキレン型フェノール樹脂等が挙げられる。これらの中でも、前記フェノール樹脂としては、アリールアルキレン型フェノール樹脂が好ましい。これにより、吸湿処理後の耐熱性を向上させることができる。
【0064】
前記アリールアルキレン型フェノール樹脂としては、例えば、キシリレン型フェノール樹脂、ビフェニルジメチレン型フェノール樹脂等が挙げられる。ビフェニルジメチレン型フェノール樹脂は、例えば式(III)で示すことができる。
【0065】
【化3】

【0066】
前記式(III)で示されるビフェニルジメチレン型フェノール樹脂の繰り返し単位nは、特に限定されないが、1〜12が好ましく、特に2〜8が好ましい。この繰り返し単位nが前記下限値未満であると、第1の部分31の耐熱性が低下する場合がある。一方、この繰り返し単位nが前記上限値を超えると、第1の部分31を製造する際に、樹脂組成物中で他の樹脂との相溶性が低下し、作業性が悪くなる場合がある。
【0067】
前記フェノール樹脂を併用する場合、樹脂組成物全体に対する前記フェノール樹脂の含有量は、特に限定されないが、1〜55重量%が好ましく、特に5〜40重量%が好ましい。かかる含有量が前記下限値未満であると、第1の部分31の耐熱性が低下する場合がある。一方、かかる含有量が前記上限値を超えると、第1の部分31の熱膨張係数が大きくなる傾向を示す。
【0068】
前記フェノール樹脂の重量平均分子量は、特に限定されないが、400〜18,000が好ましく、特に500〜15,000が好ましい。前記フェノール樹脂の重量平均分子量が前記下限値未満であると、伝熱シート1にタック性が生じる場合がある。一方、前記フェノール樹脂の重量平均分子量が前記上限値を超えると、第1の部分31を製造する際に、繊維基材に対する樹脂組成物基材の含浸性が低下し、均一な伝熱シート1を得るのが難しくなる。
【0069】
(他の硬化性樹脂)
また、樹脂組成物を構成する硬化性樹脂としては、前述したような硬化性樹脂のほかに、例えば、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ビスフェノールAノボラック樹脂等のノボラック型フェノール樹脂、未変性のレゾールフェノール樹脂、桐油、アマニ油、クルミ油等で変性した油変性レゾールフェノール樹脂等のレゾール型フェノール樹脂等のフェノール樹脂、ビスフェノールAエポキシ樹脂、ビスフェノールFエポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラックエポキシ樹脂、クレゾールノボラックエポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂等のエポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、シリコーン樹脂等の他の熱硬化性樹脂を併用することもできる。この場合、樹脂組成物には、硬化剤や硬化促進剤などの硬化助剤を含む。
【0070】
さらに、硬化性樹脂としては、熱硬化性樹脂の他、例えば、紫外線硬化性樹脂、嫌気硬化性樹脂等を併用することもできる。
【0071】
(硬化助剤)
硬化助剤(例えば硬化剤、硬化促進剤等)としては、例えば、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン等の3級アミン類、2−エチル−4−エチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドルキシメチルイミダゾール、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール、2,4−ジアミノ−6−〔2’−メチルイミダゾリル−(1’)〕−エチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−(2’−ウンデシルイミダゾリル)−エチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−〔2’−エチル−4−メチルイミダゾリル−(1’)〕−エチル−s−トリアジン、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール等のイミダゾール化合物が挙げられる。
【0072】
これらの中でも、硬化助剤としては、脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、ヒドロキシアルキル基およびシアノアルキル基の中から選ばれる官能基を2個以上有しているイミダゾール化合物が好ましく、特に2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾールが好ましい。このようなイミダゾール化合物を用いると、第1の部分31の耐熱性を向上させることができると共に、第1の部分31に低熱膨張性(熱による膨張率が低い性質)や、低吸水性を付与することができる。
【0073】
また、前述したような硬化助剤のほかに、硬化助剤としては、例えば、ナフテン酸亜鉛、ナフテン酸コバルト、オクチル酸スズ、オクチル酸コバルト、ビスアセチルアセトナートコバルト(II)、トリスアセチルアセトナートコバルト(III)等の有機金属塩、フェノール、ビスフェノールA、ノニルフェノール等のフェノール化合物、酢酸、安息香酸、サリチル酸、パラトルエンスルホン酸等の有機酸等を用いることもできる。
【0074】
前記硬化助剤を用いる場合、前記樹脂組成物全体に対する前記硬化助剤の含有量は、特に限定されないが、0.01〜3重量%が好ましく、特に0.1〜1重量%が好ましい。かかる含有量が前記下限値未満であると、硬化助剤の種類等によっては、硬化性樹脂(第1の部分31)の硬化を促進する効果が十分に現れない場合がある。一方、かかる含有量が前記上限値を超えると、伝熱シート1の保存安定性が低下する場合がある。
【0075】
(無機充填材)
また、前記樹脂組成物に含まれる無機充填材としては、例えば、タルク、アルミナ、ガラス、シリカ、マイカ、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等を挙げることができる。このような無機充填材が樹脂組成物に含まれているため、第1の部分31を薄膜化しても、第1の部分31の機械的強度(特に剛性)を優れたものとするととも、第1の部分31の熱膨張係数を極めて低いものとすることができる。
【0076】
前記無機充填材としては、前述したもの中でも、シリカが好ましく、溶融シリカ(特に球状溶融シリカ)が低熱膨張性に優れる点で好ましい。無機充填材の形状には、破砕状、球状のものがあるが、その使用目的に応じて、その形状が適宜選択される。例えば、樹脂組成物を繊維基材へ確実に含浸するためには、樹脂組成物の溶融粘度を下げることが好ましいが、この場合、無機充填材には、球状シリカが好適に使用される。
【0077】
前記無機充填材の平均粒子径は、特に限定されないが、0.01〜5.0μmが好ましく、特に0.2〜2.0μmが好ましい。無機充填材の平均粒子径が前記下限値未満であると、無機充填材の含有量等によっては、樹脂組成物を含む樹脂ワニスの粘度が高くなるため、伝熱シート1を製造する際に、作業性が悪化する場合がある。一方、無機充填材の平均粒径が前記上限値を超えると、樹脂ワニス中で無機充填材の沈降等の現象が起こる場合がある。これに対し、無機充填材の平均粒子径を前記範囲内とすることで、無機充填材の使用による効果は、両者のバランスに優れるものとなる。
【0078】
特に、無機充填材として球状シリカ(特に球状溶融シリカ)を用いる場合には、その平均粒子径としては、5.0μm以下が好ましく、0.01〜2.0μmがより好ましく、0.1〜0.5μmがさらに好ましい。これにより、第1の部分31における無機充填材の充填性(充填密度)を向上させることができる。
【0079】
なお、この平均粒子径は、例えば粒度分布計(HORIBA製、LA−500)により測定することができる。
【0080】
前記樹脂組成物全体に対する前記無機充填材の含有量は、特に限定されないが、20〜70重量%が好ましく、特に30〜60重量%が好ましい。かかる含有量が前記下限値未満であると、無機充填材の種類等によっては、第1の部分31に無機充填材による低熱膨脹性、低吸水性を付与する効果が低下する場合がある。一方、かかる含有量が前記上限値を超えると、樹脂組成物の流動性の低下により、第1の部分31(伝熱シート1)の成形性が低下する場合がある。これに対し、かかる含有量を前記範囲内とすることで、無機充填材の使用による効果は、両者のバランスに優れるものとなる。
【0081】
(樹脂組成物中の他の成分)
また、前記樹脂組成物には、前述したような成分のほか、例えば、フェノキシ樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、カップリング剤等の成分が含有されていてもよい。かかる成分が樹脂組成物に含有されていると、第1の部分31と支持層2との密着性を向上させることができる。
【0082】
前記フェノキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノール骨格を有するフェノキシ樹脂、ナフタレン骨格を有するフェノキシ樹脂、ビフェニル骨格を有するフェノキシ樹脂等が挙げられる。また、これらの骨格を複数種類有した構造のフェノキシ樹脂を用いることもできる。
【0083】
これらの中でも、前記フェノキシ樹脂としては、ビフェニル骨格およびビスフェノールS骨格を有するフェノキシ樹脂を用いることが好ましい。これにより、ビフェニル骨格が有する剛直性により、フェノキシ樹脂のガラス転移温度を高くすることができるとともに、ビスフェノールS骨格により、第1の部分31と支持層2との密着性を向上させることができる。
【0084】
また、前記フェノキシ樹脂として、ビスフェノールA骨格およびビスフェノールF骨格を有するフェノキシ樹脂を用いることも好ましい。これにより、第1の部分31と支持層2との密着性をさらに向上させることができる。
【0085】
この場合、前記ビフェニル骨格およびビスフェノールS骨格を有するフェノキシ樹脂と、ビスフェノールA骨格およびビスフェノールF骨格を有するフェノキシ樹脂とを併用することが好ましい。これにより、前述した効果をより顕著なものとすることができる。
【0086】
また、この場合、前記ビスフェノールA骨格およびビスフェノールF骨格を有するフェノキシ樹脂の重量(1)と、前記ビフェニル骨格およびビスフェノールS骨格を有するフェノキシ樹脂の重量(2)との比率は、特に限定されないが、例えば、(1):(2)=2:8〜9:1とすることができる。
【0087】
前記フェノキシ樹脂の重量平均分子量は、特に限定されないが、5,000〜70,000であることが好ましく、特に10,000〜60,000が好ましい。前記フェノキシ樹脂の重量平均分子量が前記下限値未満であると、フェノキシ樹脂の種類等によっては、第1の部分31と支持層2との密着性を向上させる効果が得られない場合がある。一方、前記フェノキシ樹脂の重量平均分子量が前記上限値を超えると、第1の部分31を製造する際に、樹脂ワニスに用いる溶媒の種類等によっては、フェノキシ樹脂の溶解性が低下する場合がある。これに対し、前記フェノキシ樹脂の重量平均分子量を上記範囲内とすることにより、これらの特性のバランスに優れたものとすることができる。
【0088】
フェノキシ樹脂を用いる場合、前記樹脂組成物全体に対するフェノキシ樹脂の含有量は、特に限定されないが、1〜40重量%であることが好ましく、特に5〜30重量%が好ましい。前記フェノキシ樹脂の含有量が前記下限値未満であると、フェノキシ樹脂の種類等によっては、第1の部分31と支持層2との密着性を向上させる効果が得られない場合がある。一方、前記上限値を超えると、樹脂組成物中における硬化性樹脂の含有量が相対的に少なくなるため、硬化性樹脂としてシアネート樹脂を用いる場合、シアネート樹脂やフェノキシ樹脂の種類等によっては、第1の部分31の熱膨張係数が大きくなる傾向を示す。これに対し、フェノキシ樹脂の含有量を前記範囲内とすることにより、これらの特性のバランスに優れたものとすることができる。
【0089】
前記カップリング剤は、前記硬化性樹脂と、前記無機充填材との界面の濡れ性を向上させる機能を有している。このため、カップリング剤を樹脂組成物に添加することにより、繊維基材に対して硬化性樹脂および無機充填材を均一に定着させることができるので、第1の部分31の耐熱性、特に、第1の部分31における吸湿処理後の耐熱性を優れたものとすることができる。
【0090】
前記カップリング剤としては、例えば、エポキシシランカップリング剤、チタネート系カップリング剤、アミノシランカップリング剤、及び、シリコーンオイル型カップリング剤の中から選ばれる1種以上のカップリング剤を使用すること好ましい。これにより、硬化性樹脂と無機充填材との界面の濡れ性を特に高めることができ、第1の部分31の耐熱性をより向上させることができる。
【0091】
前記カップリング剤を用いる場合、その含有量は、特に限定されないが、前記無機充填材100重量部に対して0.05〜3重量部であることが好ましく、特に0.1〜2重量部が好ましい。かかる含有量が前記下限値未満であると、カップリング剤の種類や、無機充填材の種類、形状、寸法等によっては、カップリング剤により無機充填材の表面を十分に被覆できないことがあり、第1の部分31の耐熱性が低下する場合がある。一方、かかる含有量が前記上限値を超えると、硬化性樹脂の種類等によっては、硬化性樹脂の硬化反応に影響を与え、硬化後の第1の部分31(得られる伝熱シート1)において、曲げ強度等が低下する場合がある。これに対し、カップリング剤の含有量を前記範囲内とすることで、カップリング剤の使用による効果は両者のバランスに優れる。
【0092】
また、前記樹脂組成物は、前述した成分のほか、必要に応じて消泡剤、レベリング剤、顔料、酸化防止剤等の添加剤を含有することができる。
【0093】
(繊維基材)
以上説明したような樹脂組成物を含浸させる繊維基材としては、例えば、ガラス織布、ガラス不織布等のガラス繊維基材、あるいはガラス以外の無機化合物を成分とする織布または不織布等の無機繊維基材、芳香族ポリアミド樹脂、ポリアミド樹脂、芳香族ポリエステル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、フッ素樹脂等の有機繊維で構成される有機繊維基材等が挙げられる。これら繊維基材の中でも強度、吸水率の点でガラス織布に代表されるガラス繊維基材が好ましい。
【0094】
前記ガラス繊維基材を構成するガラスとしては、例えば、Eガラス、Cガラス、Aガラス、Sガラス、Dガラス、NEガラス、Tガラス、Hガラス等が挙げられる。これらの中でも、前記ガラス繊維基材を構成するガラスとしては、Tガラスが好ましい。これにより、ガラス繊維基材の熱膨張係数を小さくすることができ、それによって第1の部分31の熱膨張係数を小さくすることができる。
【0095】
前記繊維基材としては、織布、不織布に大別されるが、これらの中でも織布が好ましく、特に縦糸と横糸とが平織りされている織布で構成されているもの(特にガラス繊維基材)が好ましい。これにより、前記繊維基材の面上で互いに直交するX、Y方向を設定したとき、各X、Y方向での熱膨張係数を小さくすることができ、これに伴って、第1の部分31の厚さ方向での熱膨張係数を小さくすることができる。
【0096】
前記ガラス繊維基材は平織りされているものが好ましいが、その場合、ガラス繊維基材を構成する縦糸の織密度および横糸の織密度は、ほぼ同じであることが好ましい。具体的には、縦糸の織密度および横糸の織密度との差が20本/インチ以下で、特に15本/インチ以下であることが好ましい。これにより、X、Y方向の熱膨張係数の差を特に小さし、これに伴って、第1の部分31の厚さ方向での熱膨張係数も極めて小さくすることができる。
【0097】
前記繊維基材の30〜150℃での熱膨張係数は、特に限定されないが、10ppm以下であることが好ましく、特に0.1〜5ppmであることが好ましい。かかる熱膨張係数が前記範囲内であると、第1の部分31の熱膨張係数を小さくすることができる。
【0098】
<第2の部分>
一方、各第2の部分32は、前述した異形状をなす第1の部分31の各孔に挿通されるように形成されている。ここで、各第2の部分32は、伝熱層3の厚さ方向に延在する円柱状をなし、また、複数の第2の部分32は、平面視にて正方格子状(行列状)に配置されている。
【0099】
このような各第2の部分32は、温度変化に応じて厚さ方向に第1の部分31よりも大きな伸縮率で伸縮する機能を有する。すなわち、各第2の部分32の厚さ方向での熱膨張係数が前述した第1の部分31の厚さ方向での熱膨張係数よりも大きい。
【0100】
このような各記第2の部分32にあっては、各第2の部分32の厚さ方向での熱膨張係数が前述した第1の部分31の厚さ方向での熱膨張係数よりも大きく、かつ、第2の部分32の厚さ方向での熱伝導率が第1の部分31の厚さ方向での熱伝導率よりも高いのが好ましい。これにより、伝熱シート1の厚さ方向での伝熱性を温度変化に応じて大きく変化させることができる。
【0101】
また、第2の部分32の厚さ方向での熱膨張係数は、第1の部分31の厚さ方向での熱膨張係数よりも大きければ、特に限定されないが、20〜40ppm程度であるのが好ましい。
【0102】
このような各第2の部分32の構成材料としては、第2の部分32が前述したような機能を発揮することができるものであれば、特に限定されず、各種有機材料および各種無機材料を用いることができるが、Al、Cu、Al合金などの金属が好適に用いられる。各第2の部分32が金属を主材料として構成されていると、各第2の部分32の伝熱性を優れたものとすることができる。
【0103】
特に、第2の部分32を構成する前記金属は、アルミニウムまたはこれを含む合金であるのが好ましい。これにより、各第2の部分32の伝熱性を優れたものとしつつ、空隙33の厚さ方向での寸法を大きくして、空隙33による断熱性を優れたものとすることができる。
【0104】
また、第2の部分32は支持層2と固着または一体化されているのが好ましい。これにより、伝熱シート1の機械的強度を特に優れたものとするとともに、支持層2から伝熱層3の第2の部分32へ効率的に伝熱を行うことができる。また、第2の部分32の支持層2と反対側の端の温度変化による変位量を大きくすることができる。そのため、低温時に、空隙33の厚さ方向での寸法を大きくして、伝熱シート1の厚さ方向での伝熱性を大幅に低下させること(断熱性を優れたものとすること)ができる。
【0105】
また、平面視にて、伝熱層3全体の面積に対し複数の第2の部分32の面積の占める割合は、50〜85%であるのが好ましく、55〜80%であるのがより好ましい。これにより、伝熱シート1に必要な機械的強度を付与しつつ、伝熱シート1全体に占める第2の部分32の割合を大きくすることができる。
【0106】
また、第2の部分32の厚さ(伝熱層3の面に直角な方向での厚さ)は、温度変化によって変化するものであるが、後述するような高温時に第1の部分31の厚さとほぼ同等となるように設計される。
【0107】
(伝熱シートの製造)
以上説明したような構成を有する伝熱シート1は、例えば、次に述べるような第1の製造方法または第2の製造方法により製造することができる。
【0108】
−第1の製造方法−
伝熱シート1の第1の製造方法は、前述したような樹脂組成物を繊維基材に含浸させてなる基板に複数の貫通孔して第1の部分31を形成した後に、その第1の部分31の各貫通孔に棒状または線状の金属を埋め込んで複数の第2の部分32を形成して伝熱層3を得、その後、伝熱層3の一方の面に各種成膜法により金属を成膜して支持層2を形成する。これにより、伝熱シート1を製造することができる。
【0109】
ここで、前記樹脂組成物を前記繊維基材に含浸させる方法は、例えば、前記樹脂組成物を溶媒に溶解して得られる樹脂ワニスに前記繊維基材を浸漬する方法、各種コーターによる塗布する方法、前記樹脂ワニスをスプレーにより吹き付ける方法等が挙げられる。これらの中でも、前記繊維基材を樹脂ワニスに浸漬する方法が好ましい。これにより、前記繊維基材に対する前記樹脂組成物の含浸性を向上させることができる。なお、前記繊維基材を樹脂ワニスに浸漬する場合、通常の含浸塗布設備を使用することができる。
【0110】
なお、前記樹脂組成物に含まれるシアネート樹脂としては、前記シアネート樹脂をプレポリマー化したものも用いることができる。すなわち、前記シアネート樹脂を単独で用いてもよいし、重量平均分子量の異なるシアネート樹脂を併用したり、前記シアネート樹脂とそのプレポリマーとを併用したりすることもできる。
【0111】
前記プレポリマーとは、通常、前記シアネート樹脂を加熱反応などにより、例えば3量化することで得られるものであり、樹脂組成物の成形性、流動性を調整するために好ましく使用されるものである。
【0112】
前記プレポリマーとしては、特に限定されないが、例えば3量化率が20〜50重量%であるものを用いることができる。この3量化率は、例えば赤外分光分析装置を用いて求めることができる。
【0113】
また、前記樹脂ワニスに用いられる溶媒は、前記樹脂組成物に対して良好な溶解性を示すことが望ましいが、悪影響を及ぼさない範囲で貧溶媒を使用しても構わない。良好な溶解性を示す溶媒としては、例えばアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等が挙げられる。
【0114】
前記樹脂ワニスの固形分は、特に限定されないが、前記樹脂組成物の固形分30〜80重量%が好ましく、特に40〜70重量%が好ましい。これにより、樹脂ワニスの繊維基材への含浸性を向上させることができる。
【0115】
前記繊維基材に前記樹脂組成物を含浸させ、例えば80〜200℃で乾燥させることにより、前述した基板を得ることができる。
【0116】
−第2の製造方法−
伝熱シート1の第2の製造方法は、金属製の基板をエッチングにより加工して支持層2および複数の第2の部分32を一体的に形成した後、前述したような樹脂ワニスを第2の部分32同士の間に充填し硬化させて、第1の部分31を形成する。これによっても、伝熱シート1を製造することができる。
【0117】
ここで、以上説明したような伝熱シート1の使用方法および作用を図3ないし図5を参照しつつ説明する。
【0118】
伝熱シート1は、例えば、図3(a)、(b)に示すように、伝熱シート1を放熱対象物4と相手体5との間に介在させて用いる。すなわち、伝熱シート1の支持層2側の面に放熱対象物4を接触させ、伝熱シート1の伝熱層3側の面を相手体5に接触させる。ここで、伝熱シート1と放熱対象物4と相手体5とで放熱構造体10を構成している。
【0119】
放熱対象物4としては、特に限定されないが、例えば、トランジスタ、ダイオード、IC等の半導体部品や、各種ヒータ、温度センサ等の電子部品や、リチウムイオン二次電池、ニッケル・水素蓄電池などのバッテリなどが挙げられる。
【0120】
このような放熱対象物4は、その種類などに応じた特定の温度範囲(以下、適温と言う。)のもとで、その性能を十分に発揮することができる。すなわち、放熱対象物4の温度が、前記温度範囲の下限値より低い温度(以下、低温と言う。)や、前記温度範囲の上限値よりも高い温度(以下、高温と言う。)であるとき、放熱対象物4が十分な性能を発揮できない場合がある。
【0121】
このような放熱対象物4は、その周辺にある熱源、外気温、放熱対象物4自体の発熱などにより温度変化を生じる。
【0122】
また、相手体5としては、特に限定されないが、外気と接触しているとともに、熱伝導性に優れたものが好適に用いられ、例えば、金属やカーボンなどで構成されたフィン状部材(放熱フィン)やシート状部材(放熱シート)などが挙げられる。
【0123】
放熱対象物4が高温であるとき、図3(a)に示すように、第1の部分31の厚さと第2の部分32の厚さはほぼ同等となっており、第2の部分32が相手体5に接触する。これにより、放熱対象物4から第2の部分32を介して相手体5に効率的に伝熱(放熱)することができる。すなわち、放熱対象物4が高温であるとき、伝熱シート1は、その厚さ方向での伝熱性に優れている(すなわち放熱状態である)。
【0124】
一方、放熱対象物4が適温または低温であるとき、図3(b)に示すように、第2の部分32の厚さが第1の部分31の厚さよりも小さくなっており、第2の部分32と相手体5との間に空隙33が形成される。これにより、空隙33が相手体5から第2の部分32への伝熱を阻止することができる。すなわち、放熱対象物4が適温または低温であるとき、伝熱シート1は、その厚さ方向での断熱性に優れている(すなわち断熱状態である)。
【0125】
以上のように、伝熱シート1は、その使用状態にて、伝熱層3の温度が所定温度以下であるときに、第2の部分32と相手体5との間に空隙33を生じさせて、放熱対象物4と相手体5との間の熱伝導性を低下させ、一方、伝熱層3の温度が所定温度以上である場合、空隙33を実質的に無くして、放熱対象物4と相手体5との間の熱伝導性を向上させる。
【0126】
これにより、低温から高温までの幅広い温度範囲の環境下であっても、過冷却および過昇温の双方を防止して、放熱対象物4を所望の温度範囲内に維持することができる。
【0127】
特に、複数の第2の部分32が平面視にて均一に分散するように配置されているため、伝熱シート1の厚さ方向での剛性および伝熱性を面方向にて均一化することができる。
【0128】
その上、複数の第2の部分32が平面視にて規則的に(正方格子状に)配置されているため、伝熱シート1に必要な機械的強度を付与しつつ、伝熱シート1全体に占める第2の部分32の割合を大きくすることができる。
【0129】
また、各第2の部分32が伝熱層3の厚さ方向に延在する柱状をなしているため、第1の部分31と第2の部分32との間に隙間を設けなくても、第2の部分32を温度変化により厚さ方向に容易に伸縮させることができる。特に、空隙33が形成されているときに、空隙33以外に第1の部分31と第2の部分32との間に空隙を生じるのを防止して、伝熱シート1の断熱性をより優れたものとすることができる。
【0130】
また、支持層2が放熱対象物4側となるように伝熱シート1が設けられているため、伝熱シート1の断熱状態および放熱状態でのそれぞれの特性を優れたものとすることができる。
【0131】
ここで、図4および図5に示すように、放熱対象物4が自動車100のバッテリであり、相手体5が自動車100のボディまたはシャーシである場合を説明する。
【0132】
バッテリは、その温度が適温域から外れて低温または高温となると、その性能低下が比較的顕著である。したがって、バッテリは、過冷却および過昇温を防止する必要があり、本発明を適用することによる効果が顕著である。
【0133】
特に、自動車に搭載されたバッテリは、幅広い温度範囲の環境下で使用される場合があるため、本発明を適用することによる効果が特に顕著である。
【0134】
また、相手体5が自動車100のボディまたはシャーシであると、ボディまたはシャーシは放熱対象物4からの熱を放熱する放熱体として機能する。しかも、このような放熱体を別途用意することなくボディまたはシャーシを有効利用するので、低コスト化を図りつつバッテリの過冷却および過昇温を防止することができる。
【0135】
また、図5に示すように、比較的重量の大きいバッテリである放熱対象物4とこれを下方から支持する相手体5との間に伝熱シート1を介在させる場合であっても、前述したように構成された伝熱シート1(特に第1の部分31)は比較的剛性が高いため、長期に亘り前述したような効果を発揮することができる。
【0136】
以上、本発明の伝熱シートおよび放熱構造体について、図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0137】
例えば、平面視にて、第1の部分31および第2の部分32のそれぞれの形状は、前述した実施形態のものに限定されない。例えば、平面視にて、第1の部分が多数点在し、第2の部分が第1の部分同士の間を埋めるように形成されていてもよい。
【0138】
また、多数点在する第1の部分または第2の部分の配置は、前述した実施形態のものに限定されず、千鳥格子状などの他の規則的な配置であってもよく、また、不規則な配置であってもよい。
【0139】
また、第2の部分の平面視形状は、前述した実施形態ものに限定されず、楕円形状であってもよいし、3角形状、4角形状などの多角形状であってもよし、さらには、異形状であってもよい。
【0140】
また、前述した実施形態では、第2の部分の横断面積が一定であるものを説明したが、厚さ方向での一端から他端へ漸減する部分を有していてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0141】
【図1】本発明にかかる伝熱シートの好適な実施形態の概略構成を示す斜視図である。
【図2】図1中のA−A線断面図である。
【図3】図1に示す伝熱シートの作用を説明するための図である。
【図4】本発明の放熱構造体の具体例を説明するための図である。
【図5】図4に示す放熱構造体の要部を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0142】
1 伝熱シート
2 支持層
3 伝熱層
31 第1の部分
32 第2の部分
33 空隙
4 放熱対象物
5 相手体
10 放熱構造体
100 自動車

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放熱すべき対象である放熱対象物と相手体との間に介在させて使用され、前記放熱対象物と前記相手体との間の伝熱を行うための伝熱シートであって、
第1の部分と、平面視にて前記第1の部分と異なる位置に設けられ、温度変化に応じて厚さ方向に前記第1の部分よりも大きな伸縮率で伸縮する第2の部分とを備えた伝熱層を有し、
前記使用状態にて、前記伝熱層の温度が所定温度以下であるときに、前記第2の部分と前記放熱対象物および/または前記相手体との間に空隙を生じさせて、前記放熱対象物と前記相手体との間の熱伝導性を低下させ、一方、前記伝熱層の温度が所定温度以上である場合、前記空隙を実質的に無くして、前記放熱対象物と前記相手体との間の熱伝導性を向上させるように構成されていることを特徴とする伝熱シート。
【請求項2】
前記第2の部分の厚さ方向での熱膨張係数は、前記第1の部分の厚さ方向での熱膨張係数よりも大きく、かつ、前記第2の部分の厚さ方向での熱伝導率は、前記第1の部分の厚さ方向での熱伝導率よりも高い請求項1に記載の伝熱シート。
【請求項3】
平面視にて、前記第1の部分および前記第2の部分のうち、一方が多数点在し、他方がその間を埋めるように形成されている請求項1または2に記載の伝熱シート。
【請求項4】
平面視にて、前記多数点在する前記第1の部分または前記第2の部分は、均一に分散するように配置されている請求項3に記載の伝熱シート。
【請求項5】
平面視にて、前記多数点在する前記第1の部分または前記第2の部分は、正方格子状または千鳥格子状に規則的に配置されている請求項4に記載の伝熱シート。
【請求項6】
平面視にて、前記第2の部分が多数点在し、前記第1の部分が前記第2の部分同士の間を埋めるように形成されている請求項3ないし5のいずれかに記載の伝熱シート。
【請求項7】
前記各第2の部分は、前記伝熱層の厚さ方向に延在する柱状をなしている請求項6に記載の伝熱シート。
【請求項8】
前記第2の部分に固着または一体化して前記伝熱層を支持する支持層を有している請求項1ないし7のいずれかに記載の伝熱シート。
【請求項9】
前記支持層は、前記第2の部分の構成材料と同種の材料で構成されている請求項8に記載の伝熱シート。
【請求項10】
前記第1の部分は、硬化性樹脂および無機充填材を含む樹脂組成物を繊維基材に含浸させてなる請求項1ないし9のいずれかに記載の伝熱シート。
【請求項11】
前記硬化性樹脂は、シアネート樹脂である請求項10に記載の伝熱シート。
【請求項12】
前記繊維基材を構成する主な繊維は、ガラス繊維である請求項11に記載の伝熱シート。
【請求項13】
前記第2の部分は、金属を主材料として構成されている請求項1ないし12のいずれかに記載の伝熱シート。
【請求項14】
前記第2の部分を構成する前記金属は、アルミニウムまたはこれを含む合金である請求項13に記載の伝熱シート。
【請求項15】
平面視にて、前記伝熱層全体の面積に対し前記第2の部分の面積の占める割合は、50〜85%である請求項1ないし14のいずれかに記載の伝熱シート。
【請求項16】
放熱すべき対象である放熱対象物と、
相手体と、
請求項1ないし15のいずれかに記載の伝熱シートとを有し、
前記放熱対象物から前記伝熱シートを介して前記相手体へ伝熱・放熱し得るように構成されていることを特徴とする放熱構造体。
【請求項17】
前記伝熱シートは、前記第2の部分に固着または一体化して前記伝熱層を支持する支持層を有しており、前記支持層が前記放熱対象物側となるように設けられている請求項16に記載の放熱構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−258199(P2008−258199A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−95528(P2007−95528)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【出願人】(000241485)豊田通商株式会社 (73)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】