説明

伝送画質監視装置

【課題】スペクトル拡散を用いなくても高精度の伝送画質監視が可能であり、スペクトル拡散を併用した場合にはさらに高精度の伝送画質監視が可能な伝送画質監視装置を提供すること。
【解決手段】伝送路1の送信側と受信側に設けた特徴量抽出手段2、2′により映像画質の特徴量を抽出し、監視用回線3、3′により中央監視室4に伝送し、中央監視室4で伝送画質を監視する。特徴量抽出手段2、2′は、伝送路1上の映像における画素の位置をランダムに入替える画素位置入れ替え手段7、7′、直交変換手段8、8′、係数抽出手段9、9′を含む。係数抽出手段9、9′で任意に抽出した変換係数を映像画質の特徴量として送出する。特徴量抽出手段2、2′は、さらにPN系列乗算手段を含むこともできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は伝送画質監視装置に関し、特に、複数の伝送装置が縦列接続された伝送路の各地点において映像画質の特徴量を抽出し、これにより抽出した特徴量を比較することにより伝送路上の伝送画質を遠隔監視する伝送画質監視装置に関する。
【背景技術】
【0002】
映像を処理する複数の伝送装置が縦続接続された伝送路上の伝送画質を監視する場合、伝送路の各地点において映像画質の特徴量を抽出し、これにより抽出された特徴量を中央監視室に伝送して比較することにより伝送路上の伝送画質を一括して遠隔監視できる。
【0003】
本発明者らは、伝送路上の伝送画質を監視するための伝送画質監視装置を特許文献1,2で提案した。この伝送画質監視装置は、映像をあるサイズのブロックに分割し、各ブロックの映像を直交変換することにより得られる変換係数のうちの任意の変換係数を抽出し、映像画質の特徴量としてて中央監視室へ伝送することを特徴としている。特に、この伝送画質監視装置が効果を発揮するのは、特許文献1,2に記載されているように、映像にスペクトル拡散を適用した後に直交変換して得られる変換係数を抽出して伝送する場合である。スペクトル拡散は、映像を構成する各画素の符号をランダムに変化させることにより実現される。
【特許文献1】特開2003−9186号公報
【特許文献2】特開2003−87823号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1,2で提案した発明においては、任意に抽出される変換係数が統計的に見て全体を代表する傾向を強めるために、直交変換による変換係数、つまりスペクトルをスペクトル拡散を用いてランダム化している。この結果、映像画質の特徴量を低速回線を使用して中央監視室へ伝送できると共に高精度の伝送画質監視が可能となる。
【0005】
本発明の目的は、スペクトル拡散を用いなくても高精度の伝送画質監視を可能とし、スペクトル拡散を併用した場合にはさらに高精度の伝送画質監視を可能とする伝送画質監視装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記した目的を達成するために、本発明は、複数の伝送装置の縦列接続からなる伝送路上の伝送画質を監視する伝送画質監視装置において、前記伝送路上の複数地点において映像画質の特徴量を抽出する特徴量抽出手段と、前記特徴量抽出手段により抽出された特徴量を比較する比較手段を備え、前記特徴量抽出手段は、前記伝送路上の映像における画素の位置をランダムに入替える画素位置入れ替え手段と、前記画素位置入れ替え手段の出力における任意の画素を映像画質の特徴量として選択する選択手段を含む点に第1の特徴がある。
【0007】
また、本発明は、前記特徴量抽出手段が、前記画素位置入れ替え手段の出力に対し直交変換をほどこす直交変換手段を含み、前記選択手段は、画素に代えて前記直交変換手段の出力における任意の係数を映像画質の特徴量として選択する点に第2の特徴がる。
【0008】
また、本発明は、前記特徴量抽出手段が、前記画素位置入れ替え手段の出力に対しスペクトル拡散をほどこすスペクトル拡散手段を含み、前記選択手段は、前記スペクトル拡散手段の出力における任意の画素を映像画質の特徴量として選択する点に第3の特徴がある。
【0009】
さらに、本発明は、前記比較手段が、中央監視室に設けられ、前記特徴量抽出手段により抽出された映像画質の特徴量は低速回線により前記中央監視室に伝送される点に第4の特徴がある。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、入力される映像における画素の位置をランダムに入れ替える、すなわち各画素の座標を1対1のランダム対応で変化させる画素位置入れ替え手段を備えるので、これにより入れ替えられた画素あるいはその直交変換後の変換係数を任意に選択することにより、スペクトル拡散された画素あるいはその直交変換後の変換係数を選択するのと同様の統計的効果を得ることができる。したがって、映像画質の特徴量を低速回線を使用して中央監視室へ伝送できると共に高精度の伝送画質監視が可能となる。
【0011】
また、スペクトル拡散を併用すれば、任意に選択して画素あるいは変換係数が統計的に見て全体を代表する傾向がさらに強まるため、伝送画質監視の精度をさらに高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
まず、本発明の原理を説明する。通常、映像のスペクトルは低域に偏っている。このため、映像を直交変換するとその変換係数同士の相関は比較的大きくなる。特許文献1,2にあるように、映像を伝送する伝送路上の複数の地点における映像を白色化してから画素あるいは変換係数を映像画質の特徴量として抽出し、この特徴量を中央監視室に伝送して比較することにより、映像間の平均二乗誤差(MSE)を推定でき、少数の画素あるいは変換係数の伝送で高精度に伝送画質を監視できる。
【0013】
特許文献1では、この白色化のためにPN系列乗算手段を設け、映像信号に+1と−1がランダムな系列を乗算することにより符号をランダムに変化させているが、本発明では、画素位置入れ替え手段を設け、映像における画素の位置をランダムに入れ替える、すなわち各画素の座標を1対1のランダム対応で変化させることにより、PN系列の乗算を行わずに映像の白色化を可能にする。以上が本発明の原理である。
【0014】
以下、図面を参照して本発明を説明する。図1は、本発明に係る伝送画質監視装置の第1実施形態を示すブロック図である。伝送路1は、複数の伝送装置の縦列接続からなる。伝送路1の送信側と受信側に特徴量抽出手段2、2′をそれぞれ設け、伝送路1上に伝送される映像から映像画質の特徴量を抽出する。特徴量抽出手段2、2′により抽出した特徴量を監視用回線3、3′により中央監視室4に伝送する。
【0015】
送信側と受信側の特徴量抽出手段2、2′は同じであるので、以下では、送信側の特徴量抽出手段2を説明する。特徴量抽出手段2は、伝送路1から入力される映像に対しフィールド毎に以下の処理を行う。
【0016】
まず、映像を帯域制限フィルタ5とサブサンプリング手段6を介して画素位置入れ替え手段7に入力する。帯域制限フィルタ5とサブサンプリング手段6は、必要に応じて設けられるものであり、必ずしも必要なものではない。
【0017】
帯域制限フィルタ5は、例えば人間の視覚特性を模した時空間フィルタであり、これによるフィルタ処理により人間の視覚特性に合わせた重みつきで画質劣化を推定できるようになる。帯域制限フィルタ5としては2次元ディジタルフィルタを用いることができる。2次元デジタルフィルタを用いて人間の視覚特性に合わせたフィルタ処理を行うことは、例えば特開平7−307925号公報「画像の動き推定装置」に記載されている。
【0018】
また、サブサンプリング手段6は、計算処理対象のデータを少なくして、計算の負荷を軽減するためのものである。フィルタ処理およびサブサンプリング処理については特許文献1,2に記載されているので、ここでの説明は省略する。
【0019】
画素位置入れ替え手段7は、映像のフィールド画面内で各画素の位置をランダムに入れ替える。ただし、この入れ替え方は、送信側と受信側の画素位置入れ替え手段7、7′で一致させることが必要である。
【0020】
説明を簡単にするために、画面サイズが横4ピクセル、縦3ラインであるとすると、画素位置の座標は、図2に示す12箇所となる。これらの画素位置をランダムに入れ替えるとは、例えば図3に示すように画素位置を入れ替えることである。
【0021】
以上のようにして画素位置を入れ替えた画素集合から任意の画素を選択し、これを映像画質の特徴量として中央監視室4に伝送してもよいが、本実施形態では、この画素集合を直交変換手段8に入力して任意サイズのブロック毎に直交変換を行なって変換係数を求め、さらに係数抽出手段9でブロック毎に任意の変換係数を抽出して映像画質の特徴量としている。
【0022】
直交変換には、フーリエ変換(FFT)やウオッシュアダマール変換(WHT)を用いることができる。FFTは、周波数スペクトルの点からは最も物理的に正確な変換方法であり、任意の周波数成分を取り出す際に実数部と虚数部ではなく振幅値のみを取り出すようにすれば、中央監視室4へ伝送する情報量を低減できる。
【0023】
また、WHTは、全ての演算が和演算または差演算であるため、ハードウエアで実現するにしてもソフトウエアで実現するにしても計算が簡単になるというメリットがある。
【0024】
中央監視室4は、送信側および受信側特徴量抽出手段2、2′で抽出され、伝送されてきた映像の特徴量を比較し、送信側映像と受信側映像間の平均二乗誤差(MSE)を推定することにより伝送路1上の伝送画質を監視する。平均二乗誤差(MSE)の推定についても、特許文献1,2に詳しく記載されているので、詳細な説明は省略する。
【0025】
以上のように、第1実施形態においては画素位置をランダムに入れ替えているので、少数の画素あるいは変換係数の抽出で高精度のMSE推定が可能となり、また、監視用回線3、3′として低速回線の使用が可能になる。
【0026】
図4は、本発明に係る伝送画質監視装置の第2実施形態例を示すブロック図である。同図において、図1と同一または同等部分には同じ番号を付してある。第2実施形態は、画素位置入れ替え手段7に加えてPN系列乗算手段41を設け、両者で白色化を行う点で第1実施形態と異なっている。
【0027】
第1実施形態と異なる点について説明すると、画素位置入れ替え手段6から出力される画素集合に対しPN系列乗算手段41でPN系列を乗算する。これにより、画素位置入れ替え手段7から出力される画素集合における各画素の符号をランダムに変化させる。PN系列とその乗算については、特許文献1に記載されているので、詳細な説明は省略する。
【0028】
以上のようにして画素位置を入れ替えると共にその符号をランダムに変化させた画素集合から任意の画素を選択し、これを映像画質の特徴量として中央監視室3に伝送してもよいが、本実施形態では、続いて以下の処理を行って映像画質の特徴量を抽出している。
【0029】
まず、PN系列乗算手段41の出力を直交変換手段42に入力して任意サイズのブロック毎に直交変換を行なって変換係数を求める。次に、この変換係数をさらにPN系列乗算手段43に入力し、変換係数領域においてPN系列を乗算することにより各変換係数の符号をランダムに変化させる。
【0030】
次に、逆直交変換手段44で逆直交変換を行なう。ここでの逆直交変換は、直交変換手段42での直交変換の逆変換であり、直交変換手段42での直交変換がFFTの場合は逆FFT、WHTの場合は逆WHTである。なお、WHTの場合、逆変換行列は順変換行列と同一となるため回路作成規模の削減が可能となる。
【0031】
最後に、画素抽出手段45は、先のブロック毎に任意数の画素を抽出し、これを映像画質の特徴量として中央監視室4へ送出する。中央監視室4では、第1実施形態と同様に、送信側映像と受信側映像間の平均二乗誤差(MSE)を推定することにより伝送路1上の伝送画質を監視する。
【0032】
以上のように、第2実施形態においては、画素位置のランダム入れ替えに加えてPN系列の乗算(符号のランダム変化)を行っているため、より有効に白色化(スペクトル拡散)を行うことができ、伝送路1上の伝送画質の監視をさらに高精度で行なうことができる。また、第2実施形態のように、変換係数領域での処理を含めてPN系列の乗算を複数回行うことも白色化に効果的である。
【0033】
なお、画素位置のランダム入れ替えを複数回行うようにしてもよい。例えば、PN系列乗算手段41と直交変換手段42の間でさらに画素位置のランダム入れ替えを行ってもよい。また、例えば直交変換手段42とPN系列乗算手段43の間やPN系列乗算手段43と逆直交変換手段44の間で変換係数領域において変換係数のランダム入れ替えを行うようにすることもできる。ただし、これら入れ替え方は、送信側と受信側で一致させることが必要である。さらに、画素位置の入れ替えや変換係数の入れ替えを複数回行うものでは、その途中の適宜の箇所の出力を選択して映像画質の特徴量を抽出するように構成すれば、要求される精度や処理負担を考慮した伝送画質監視が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明に係る伝送画質監視装置の第1実施形態を示すブロック図である。
【図2】画素位置の座標(横4ピクセル、縦3ライン)を示す図である。
【図3】画素位置のランダム入れ替えの例を示す図である。
【図4】本発明に係る伝送画質監視装置の第2実施形態を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0035】
1・・・伝送路、2,2′・・・特徴量抽出手段、3,3′・・・監視用回線、4・・・中央監視室、5,5′・・・帯域制限フィルタ、6,6′・・・サブサンプリング手段、7,7′・・・画素入れ替え手段、8,8′,42,42′・・・直交変換手段、9,9′・・・係数抽出手段、41,41′43,43′・・・PN系列乗算手段、44,44′・・・逆直交変換手段、45,45′・・・画素抽出手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の伝送装置の縦列接続からなる伝送路上の伝送画質を監視する伝送画質監視装置において、
前記伝送路上の複数地点において映像画質の特徴量を抽出する特徴量抽出手段と、
前記特徴量抽出手段により抽出された特徴量を比較する比較手段を備え、
前記特徴量抽出手段は、前記伝送路上の映像における画素の位置をランダムに入替える画素位置入れ替え手段と、前記画素位置入れ替え手段の出力における任意の画素を映像画質の特徴量として選択する選択手段を含むことを特徴とする伝送画質監視装置。
【請求項2】
前記特徴量抽出手段は、前記画素位置入れ替え手段の出力に対し直交変換をほどこす直交変換手段を含み、前記選択手段は、画素に代えて前記直交変換手段の出力における任意の係数を映像画質の特徴量として選択することを特徴とする請求項1に記載の伝送画質監視装置。
【請求項3】
前記特徴量抽出手段は、前記画素位置入れ替え手段の出力に対しスペクトル拡散をほどこすスペクトル拡散手段を含み、前記選択手段は、前記スペクトル拡散手段の出力における任意の画素を映像画質の特徴量として選択することを特徴とする請求項1に記載の伝送画質監視装置。
【請求項4】
前記比較手段は、中央監視室に設けられ、前記特徴量抽出手段により抽出された映像画質の特徴量は低速回線により前記中央監視室に伝送されることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の伝送画質監視装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−67068(P2006−67068A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−245067(P2004−245067)
【出願日】平成16年8月25日(2004.8.25)
【出願人】(000208891)KDDI株式会社 (2,700)
【Fターム(参考)】