説明

伸びフランジ性に優れた高強度熱延鋼板およびその製造方法

【課題】強度と伸びフランジ性を兼ね備えた高強度熱延鋼板およびその製造方法を提供する。
【解決手段】C :0.035%超0.055%以下、Si:0.2%以下、Mn:0.35%以下、P :0.03%以下、S :0.03%以下、Al:0.1%以下、N :0.01%以下、Ti:0.08%以上0.25%以下、B :0.0005%以上0.0035%以下を含有し、且つ、固溶B:0.0005%以上であり、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成と、面積率が95%超のフェライト相を含むマトリックスと、前記フェライト相の結晶粒内に平均粒子径が10nm未満のTi炭化物が微細析出し、該Ti炭化物の体積比が0.0015以上0.007以下である組織とを有し、引張強さが780MPa以上であり且つ伸びフランジ性に優れた高強度熱延鋼板となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車をはじめとする輸送機械類の部品、建築用鋼材などの構造用鋼材に適した、引張強さ(TS):780MPa以上の高強度と、優れた伸びフランジ性を兼ね備えた、高強度熱延鋼板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地球環境保全の観点からCO2排出量を削減すべく、自動車車体の強度を維持しつつその軽量化を図り、自動車の燃費を改善することが、自動車業界においては常に重要な課題とされている。自動車車体の強度を維持しつつ車体の軽量化を図るうえでは、自動車部品用素材となる鋼板の高強度化により、鋼板を薄肉化することが有効である。
【0003】
一方、鋼板を素材とする自動車部品の多くは、プレス加工やバーリング加工等によって成形されるため、自動車部品用鋼板には優れた延性および伸びフランジ性を有することが要求される。そのため、自動車部品用鋼板には、強度とともに加工性が重要視され、伸びフランジ性等の加工性に優れた高強度鋼板が求められている。
【0004】
そこで、強度と加工性を兼ね具えた高強度鋼板に関し、現在までに数多くの研究開発が為されているが、一般的に鉄鋼材料は高強度化に伴い加工性が低下するため、強度を損なうことなく高強度鋼板に伸びフランジ性等の加工性を付与することは容易ではない。例えば、鋼板組織を、軟質なフェライトにマルテンサイト等の硬質な低温変態相を分散させた複合組織とすることにより、延性に優れた高強度鋼板とする技術が知られている。係る技術は、フェライトに分散させるマルテンサイト量を適正化することにより、高強度と高延性の両立を図ろうとするものである。しかしながら、このような複合組織を有する鋼板では、打ち抜き部を拡げる、いわゆる伸びフランジ成形を施すと、軟質なフェライトとマルテンサイト等の硬質な低温変態相との界面から亀裂が発生して割れ易いという問題が見られる。すなわち、軟質なフェライトとマルテンサイト等の硬質な低温変態相からなる複合組織高強度鋼板では、十分な伸びフランジ性が得られない。
【0005】
また、特許文献1には、重量%で、C:0.03〜0.20%、Si:0.2〜2.0%、Mn:2.5%以下、P:0.08%以下、S:0.005%以下を含み、鋼板組織を、主にベイニティック・フェライトからなる組織、或いはフェライトとベイニティック・フェライトからなる組織とすることにより、引張強さ:500N/mm2以上の高強度熱延鋼板の伸びフランジ性を向上させる技術が提案されている。そして、係る技術によると、ラス状組織を有し、かつ炭化物が生成していない転位密度の高いベイニティック・フェライト組織を鋼中に生成させることにより、高強度材に高い伸びフランジ性を付与できるとされている。また、ベイニティック・フェライト組織とともに、転位が少なく高延性かつ伸びフランジ性の良好なフェライト組織が生成すると、強度および伸びフランジ性がともに良好になるとされている。
【0006】
一方、伸びフランジ性のみに着目したものではないが、特許文献2には、wt%で、C:0.01〜0.10%、Si:1.5%以下、Mn:1.0%超〜2.5%、P:0.15%以下、S:0.008%以下、Al:0.01〜0.08%、B:0.0005〜0.0030%、Ti,Nbの1種又は2種の合計:0.10〜0.60%を含む組成とし、フェライト量が面積率で95%以上であり、かつフェライトの平均結晶粒径が2.0〜10.0μm であり、マルテンサイトおよび残留オーステナイトを含まない組織とすることにより、引張強さ(TS)が490MPa以上である高強度熱延鋼板の疲労強度と伸びフランジ性を向上させる技術が提案されている。
【0007】
また、特許文献3には、重量比でC:0.05〜0.15%、Si:1.50%以下、Mn:0.70〜2.50%、Ni:0.25〜1.5%、Ti:0.12〜0.30%、B:0.0005〜0.0030%、P:0.020%以下、S:0.010%以下、sol.Al:0.010〜0.10%、N:0.0050%以下を含む組成とし、フェライト結晶粒の粒径を10μm以下とし、かつ10nm以下の大きさのTiCと10μm以下の大きさの鉄炭化物を析出させることにより、熱延鋼板の曲げ加工性および溶接性を確保するとともに、その引張強さ(TS)を950N/mm2(950MPa)以上とする技術が提案されている。そして、係る技術によると、フェライト結晶粒およびTiCを微細化すること、並びに、Mn含有量を0.70%以上とすることにより、鋼板強度が向上するとともに曲げ加工性が向上するとされている。
【0008】
また、特許文献4には、重量%で、C:0.02〜0.10%、Si≦2.0%、Mn:0.5〜2.0%、P≦0.08%、S≦0.006%、N≦0.005%、Al:0.01〜0.1%を含み、Ti:0.06〜0.3%で、かつ、0.50<(Ti−3.43N−1.5S)/4Cとなる量のTiを含む組成とし、低温変態生成物及びパーライトの面積比率が15%以下で、かつ、ポリゴナルフェライト中にTiCが分散した組織とすることにより、優れた伸びフランジ性を有するとともに、引張強さ(TS)が70kgf/mm2(686MPa)以上である熱延鋼板とする技術が提案されている。また、係る技術によると、鋼板組織の大部分を固溶Cの少ないポリゴナルフェライトにし、TiCの析出強化と、Mn(含有量:0.5%以上)とPの固溶強化によって、引張強さ(TS)が向上するとともに優れた伸びフランジ性が得られるとされている。
【0009】
また、特許文献5には、フェライト単相組織のマトリックスと、該マトリックス中に分散した粒径が10nm未満の微細析出物とから実質的になり、550MPa以上の引張強さを有するプレス成形性に優れた薄鋼板が提案されている。係る技術では、重量%で、C<0.10%、Ti:0.03〜0.10%、Mo:0.05〜0.6%を含み、Feを主成分とする組成とすることが好ましいとして、これにより、高強度でありながら穴拡げ率および全伸びのいずれもが良好である薄鋼板となるとしている。さらに、Si:0.04〜0.08%、Mn:1.59〜1.67%を含有した例が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平6−172924号公報
【特許文献2】特開2000−328186号公報
【特許文献3】特開平8−73985号公報
【特許文献4】特開平6−200351号公報
【特許文献5】特開2002−322539号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1で提案された技術では、フェライト含有量が多くなると、更なる高強度化を期待することができない。また、高強度化のためにフェライトに代えて硬質な第2相を加えた複合組織とすると、上記フェライト−マルテンサイト複合組織鋼板と同様、伸びフランジ成形時にベイニティック・フェライトと硬質な第2相との界面から亀裂が生じて割れ易く、伸びフランジ性が低下するという問題が見られる。
【0012】
また、特許文献2で提案された技術では、結晶粒を微細化することで鋼板の伸びフランジ性を向上させているが、得られる鋼板の引張強さ(TS)は高々680MPa程度であり(特許文献1の実施例参照)、更なる高強度化を期待することができないという問題がある。
【0013】
また、特許文献3で提案された技術では、鋼板の曲げ加工性について検討されているが、鋼板の伸びフランジ性について検討されていない。曲げ加工と穴拡げ加工(伸びフランジ成形)とでは加工モードが異なり、曲げ加工性と伸びフランジ性とでは、鋼板に要求される性質が異なるため、曲げ加工性に優れた高強度鋼板が、必ずしも良好な伸びフランジ性を有するとは云えないという問題がある。
【0014】
また、特許文献4で提案された技術では、高強度化のためにMn更にはSiを多量に含有させており、安定してポリゴナルフェライト主体の組織を得ることが難しく、また、鋳造時に著しい偏析が生じるため、加工時に該偏析に沿った割れが生じやすく、伸びフランジ性が劣化する傾向が見られるという問題がある。
【0015】
また、特許文献5で提案された技術においても、Mnを1.59〜1.67%含有した例が示されていることから、Mnの偏析による加工時の割れが生じやすく、係る技術によっても、優れた伸びフランジ加工性を安定して確保することが難しいという問題がある。
【0016】
以上のように、鋼板組織を複合組織とすることは、伸びフランジ性の観点からは好ましくない。また、鋼板組織をフェライト単相組織とすれば伸びフランジ性は改善されるが、従来のフェライト単相組織鋼板では、優れた伸びフランジ性を維持したまま高強度を確保することが困難であった。
本発明は、上記した従来技術が抱える問題を有利に解決し、引張強さ(TS):780MPa以上であり且つ優れた伸びフランジ性を有する高強度熱延鋼板およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決すべく、本発明者らは、フェライト単相組織である熱延鋼板の高強度化と伸びフランジ性に及ぼす各種要因について鋭意検討した。その結果、従来、固溶強化元素として鋼板の高強度化に極めて有効であるとされ、高強度熱延鋼板に積極的に含有させていたMnおよびSiが、伸びフランジ性に悪影響を及ぼすことを知見した。
【0018】
そこで、本発明者らは、MnおよびSiを多く含む(熱延)鋼板について組織観察を行ったところ、その板厚中央部にMnの濃度の揺らぎ(Mnの偏析による異質な組織やパーライト)が存在していることを確認し、この異質な組織が伸びフランジ性に悪影響を及ぼしていることを知見した。そして、(熱延)鋼板の組成に関し、Mn含有量およびSi含有量を所定量以下に抑制することにより、上記の異質な組織が抑制可能であることを知見した。また、Bを積極的に添加することにより、オーステナイト(γ)−フェライト(α)変態が低温側に遅滞し、上記した異質な組織やパーライトの形成を容易に抑制することが可能となることを、併せて知見した。
【0019】
一方、固溶強化元素であるMn含有量およびSi含有量の抑制に伴う鋼板強度の低減化は避けられない。そこで、本発明者らは、MnおよびSiによる固溶強化に代わる強化機構として、Ti炭化物による析出強化の適用を試みた。鋼板にTi炭化物を微細析出させることにより、鋼板強度の大幅な向上効果が期待できる。しかしながら、Ti炭化物は粗大化し易く、鋼板中にTi炭化物を微細な状態で析出させ、微細なままで維持するのが困難であり、十分な強度向上効果は得られなかった。
【0020】
そこで、本発明者らは更に検討を進め、鋼板中にTi炭化物を微細な状態で析出させる手段を模索した。その結果、Ti炭化物の粗大化抑制には、固溶Bが有効に作用することを新たに知見した。固溶したBは、Ti炭化物の周囲に偏析し、Ti炭化物の粗大化を抑制し、Ti炭化物を微細化する。すなわち、鋼板中に所望量の固溶Bを含有させることによりTiの拡散が抑制され、Ti炭化物の微細化が可能となり、Ti炭化物による析出強化がMnおよびSiによる固溶強化に代わる有効な強化機構として機能することを見出した。
【0021】
なお、(熱延)鋼板の板厚中央部近傍に存在するMn偏析が原因の異質な組織が、伸びフランジ性に悪影響を及ぼす理由は必ずしも明確ではないが、本発明者らは次のように考えている。穴を打ち抜き、更に穴を拡げる伸びフランジ成形を行った場合、中央部に異質組織が存在すると、その周辺で初期亀裂を形成し易く、その後の加工(穴拡げ加工)により板厚方向に進展する割れとなり、穴拡げ率が低下するものと推測される。
【0022】
本発明は上記の知見に基づき完成されたものであり、その要旨は次のとおりである。
(1)質量%で、
C :0.035%超0.055%以下、 Si:0.2%以下、
Mn:0.35%以下、 P :0.03%以下、
S :0.03%以下、 Al:0.1%以下、
N :0.01%以下、 Ti:0.08%以上0.25%以下、
B :0.0005%以上0.0035%以下
を含有し、且つ、固溶B:0.0005%以上であり、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成と、面積率が95%超のフェライト相を含むマトリックスと、前記フェライト相の結晶粒内に平均粒子径が10nm未満のTi炭化物が微細析出し、該Ti炭化物の体積比が0.0015以上0.007以下である組織とを有し、引張強さが780MPa以上であることを特徴とする、伸びフランジ性に優れた高強度熱延鋼板。
【0023】
(2)(1)において、鋼板表面にめっき層を有することを特徴とする、高強度熱延鋼板。
(3)(1)または(2)において、前記組成に加えてさらに、質量%で、REM、Zr、Nb、V、As、Cu、Ni、Sn、Pb、Ta、W、Mo、Cr、Sb、Mg、Ca、Co、Se、Zn、Csのうちの1種以上を合計で1.0%以下含有することを特徴とする高強度熱延鋼板。
【0024】
(4)鋼素材をオーステナイト単相域に加熱し、粗圧延と仕上げ圧延からなる熱間圧延を施し、仕上げ圧延終了後、冷却し、巻き取り、熱延鋼板とするにあたり、
前記鋼素材を、質量%で、
C :0.035%超0.055%以下、 Si:0.2%以下、
Mn:0.35%以下、 P :0.03%以下、
S :0.03%以下、 Al:0.1%以下、
N :0.01%以下、 Ti:0.08%以上0.25%以下、
B :0.0005%以上0.0035%以下
を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成とし、
前記仕上げ圧延の仕上げ圧延温度を850℃以上とし、前記冷却の平均冷却速度を10℃/s以上とし、前記巻取り温度を550℃以上680℃以下とすることを特徴とする、伸びフランジ性に優れた高強度熱延鋼板の製造方法。
(5)(4)において、前記組成に加えてさらに、質量%で、REM、Zr、Nb、V、As、Cu、Ni、Sn、Pb、Ta、W、Mo、Cr、Sb、Mg、Ca、Se、Zn 、Csのうちの1種以上を合計で1.0%以下含有することを特徴とする高強度熱延鋼板の製造方法。
(6)(4)または(5)において、前記熱延鋼板に、さらにめっき処理を施すことを特徴とする高強度熱延鋼板の製造方法。
(7)(6)において、前記熱延鋼板に、前記めっき処理に引続き合金化処理を施すことを特徴とする高強度熱延鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0025】
本発明によると、自動車をはじめとする輸送機械類の部品、建築用鋼材などの構造用鋼材に適した、引張強さ(TS):780MPa以上の高強度と、優れた伸びフランジ性を兼ね備えた高強度熱延鋼板が得られ、高強度熱延鋼板の更なる用途展開が可能となり、産業上格段の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】Ti炭化物の析出形状を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の熱延鋼板は、実質的にフェライト単相組織とし、且つ、鋼板中のMn含有量およびSi含有量の低減化を通じて板厚中央部のMn偏析、或いは更にSi偏析を軽減して無害化することにより、鋼板の伸びフランジ性向上を図ることを特徴とする。また、本発明の熱延鋼板は、所望量の微細Ti炭化物を析出させ、さらに固溶BをTi炭化物の周囲に偏析させて微細Ti炭化物の成長、粗大化を抑制することで、鋼板の高強度化を図ることを特徴とする。
【0028】
まず、本発明鋼板の組織の限定理由について説明する。
本発明の熱延鋼板は、面積率が95%超のフェライト相を含むマトリックスと、前記フェライト相の結晶粒内に平均粒子径が10nm未満のTi炭化物が微細析出し、該Ti炭化物の体積比が0.0015以上0.007以下である組織を有する。
【0029】
フェライト相:面積率で95%超
本発明においては、熱延鋼板の伸びフランジ性を確保する上でフェライト相の形成が必須となる。熱延鋼板の延性および伸びフランジ性の向上には、熱延鋼板のマトリックス組織を、転位密度の低い延性に優れたフェライト相とすることが有効である。特に、伸びフランジ性の向上には、熱延鋼板のマトリックス組織をフェライト単相とすることが好ましいが、完全なフェライト単相でない場合であっても、実質的にフェライト単相、すなわち、マトリックス組織全体に対する面積率で95%超がフェライト相であれば、上記の効果を十分に発揮する。したがって、フェライト相の面積率は95%超とする。好ましくは97%以上である。
【0030】
本発明の熱延鋼板において、マトリックスに含有され得るフェライト相以外の組織としては、セメンタイト、パーライト、ベイナイト相、マルテンサイト相、残留オーステナイト相等が挙げられる。これらの組織がマトリックス中に存在すると伸びフランジ性が低下するが、これらの組織はマトリックス組織全体に対する合計面積率が5%未満であれば許容される。好ましくは3%以下である。
【0031】
Ti炭化物
上記のとおり、本発明の熱延鋼板では、伸びフランジ性に悪影響を及ぼす板厚中央部のMn偏析、更にSi偏析を抑制する目的で、固溶強化元素であるMn、Si含有量を低減するため、固溶強化による鋼板強度の向上化は期待できない。そこで、本発明の熱延鋼板では、強度を確保する上でフェライト相の結晶粒内にTi炭化物を微細析出させることが必須となる。
【0032】
Ti炭化物の平均粒子径:10nm未満
熱延鋼板に所望の強度(引張強さ:780MPa以上)を付与するうえではTi炭化物の平均粒子径は極めて重要であり、本発明においてはTi炭化物の平均粒子径を10nm未満とする。上記フェライト相の結晶粒内にTi炭化物が微細析出すると、Ti炭化物が、鋼板に変形が加わった際に生じる転位の移動に対する抵抗として作用することにより熱延鋼板が強化される。しかしながら、Ti炭化物の粗大化に伴いTi炭化物による析出強化能は低下し、Ti炭化物の平均粒子径が10nm以上になると、固溶強化元素であるMn、Si含有量の低減化に起因する鋼板強度の低下量を補うに十分な鋼板強化能が得られない。したがって、Ti炭化物の平均粒子径は10nm未満とする。より好ましくは6nm以下である。
【0033】
なお、本発明におけるTi炭化物の形状は、図1に模式的に示すような、略ディスク状(円盤状)であることを確認している。本発明においてTi炭化物の平均粒子径ddefは、観察される略ディスク状析出物の最大径d(ディスク上下面での最も大きい部分の直径)と、ディスク上下面に直交する方向における略ディスク状析出物の径(厚さ)tとの算術平均値、ddef=(d+t)/2、で定義(測定)される。
【0034】
Ti炭化物の体積比:0.0015以上0.007以下
熱延鋼板に所望の強度(引張強さ:780MPa以上)を付与するうえではTi炭化物の分散析出状態も極めて重要であり、本発明においては、上記フェライト相の結晶粒内に、平均粒子径が10nm未満のTi炭化物を、鋼板組織全体に対する体積比で0.0015以上0.007以下、すなわち、0.15%以上0.7%以下、となるように微細析出させる。上記体積比が0.0015未満では、たとえTi炭化物の平均粒子径が10nm未満であっても、析出物量が少ないため熱延鋼板に所望の強度(引張強さ:780MPa以上)を付与することができない。一方、上記体積比が0.007を超えると、鋼板強度が高くなり過ぎ、伸びフランジ性が劣化する。したがって、上記体積比は0.0015以上0.007以下とする。好ましくは0.002以上0.005以下であり、より好ましくは0.003以上0.005以下である。
【0035】
なお、本発明における微細Ti炭化物の析出形態は、列状に観察される場合がある。しかし、各列状析出物の列を含む平面内では、ランダムに析出しており、実際に透過型電子顕微鏡で観察しても、析出物が列状に観察されない場合が多い。
【0036】
次に、本発明熱延鋼板の成分組成の限定理由について説明する。なお、以下の成分組成を表す%は、特に断らない限り質量%を意味するものとする。
C :0.035%超0.055%以下、
Cは、鋼板中でTi炭化物を形成し、熱延鋼板を強化する上で必須の元素である。C含有量が0.035%以下であると所望の体積比のTi炭化物を確保することができず、780MPa以上の引張強さが得られなくなる。一方、C含有量が0.055%を超えると、引張強さが高くなり過ぎ、延性(伸び)が低下する。したがって、C含有量は0.035%超0.055%以下とする。好ましくは、0.04%以上0.05%以下である。
【0037】
Si:0.2%以下
Siは、延性(伸び)低下をもたらすことなく鋼板強度を向上させる有効な元素として、通常、高強度鋼板に積極的に含有されている。しかしながら、Siは、本発明の熱延鋼板において回避すべき板厚中央部のMn偏析を助長するとともに、Si自身も偏析する元素である。したがって、本発明では、上記Mn偏析を抑制し、またSiの偏析を抑制する目的で、Si含有量を0.2%以下に限定する。好ましくは0.1%以下であり、より好ましくは0.05%以下である。
【0038】
Mn:0.35%以下
Mnは、固溶強化元素であり、Siと同様、通常の高強度鋼板には積極的に含有されている。しかしながら、鋼板にMnを積極的に含有させると、板厚中央部のMn偏析は避けられず、鋼板の伸びフランジ性が劣化する原因となる。したがって、本発明では、上記Mn偏析を抑制する目的で、Mn含有量を0.35%以下に限定する。好ましくは0.3%以下であり、より好ましくは0.25%以下である。
【0039】
P :0.03%以下
Pは、粒界に偏析して伸びを低下させ、加工時に割れを誘発する有害な元素である。したがって、P含有量は0.03%以下とする。好ましくは0.020%以下、さらに好ましくは0.010%以下である。
【0040】
S :0.03%以下
Sは、鋼中にMnSやTiSとして存在して熱延鋼板の打ち抜き加工時にボイドの発生を助長し、伸びフランジ性を低下させる。そのため、本発明ではSを極力低減することが好ましく、0.03%以下とする。好ましくは0.01%以下、さらに好ましくは0.003%以下である。
【0041】
Al:0.1%以下
Alは、脱酸剤として作用する元素である。このような効果を得るためには0.01%以上含有することが望ましいが、Alが0.1%を超えると、鋼板中にAl酸化物として残存し、該Al酸化物が凝集粗大化し易くなり、伸びフランジ性を劣化させる要因になる。したがって、Al含有量は0.1%以下とする。好ましくは0.065%以下である。
【0042】
N :0.01%以下
Nは、本発明においては有害な元素であり、極力低減することが好ましい。NはTiと結合してTiNを形成するが、N含有量が0.01%を超えると、形成されるTiN量が多くなることに起因して伸びフランジ性が低下する。したがって、N含有量は0.01%以下とする。好ましくは0.006%以下である。
【0043】
Ti:0.08%以上0.25%以下
Tiは、Ti炭化物を形成して鋼板の高強度化を図るうえで必要不可欠な元素である。また、Nと結合してTiNを形成することによりBNの析出を抑制し、後述の固溶Bを確保するうえで重要な元素でもある。Ti含有量が0.08%未満では、所望の熱延鋼板強度(引張強さ:780MPa以上)を確保することが困難となる。一方、Ti含有量が0.25%を超えると、Ti炭化物が粗大化する傾向が見られ、所望の熱延鋼板強度(引張強さ:780MPa以上)を確保することが困難となる。したがって、Ti含有量は0.08%以上0.25%以下とする。好ましくは0.15%以上0.20%以下である。
【0044】
B :0.0005%以上0.0035%以下
Bは、固溶状態で鋼板中に存在することにより、Ti炭化物の粗大化を抑制する元素である。B含有量が0.0005%未満では、後述する所望の固溶B量を確保することができない。一方、B含有量が0.0035%を超えると、鋼に焼きが入り易くなり、鋼板のマトリックスを実質的にフェライト単相組織とすることが困難となる。したがって、B含有量は0.0005%以上0.0035%以下とする。好ましくは0.0010%以上0.0025%以下であり、より好ましくは0.0010%以上0.0020%以下である。
【0045】
固溶B:0.0005%以上
固溶Bは、Ti炭化物の粗大化を抑制して熱延鋼板の高強度化する上で極めて重要である。なお、固溶BがTi炭化物の粗大化を抑制する理由は必ずしも明確ではないが、固溶BはTi炭化物とマトリックスとの非整合界面に偏析し易く、固溶BがTi炭化物の周囲に偏析することにより、Ti炭化物の粗大化が抑制されるものと推測される。固溶Bが0.0005%未満では、Ti炭化物の粗大化を抑制する効果が十分に得られず、鋼板中のTi炭化物を所望の平均粒子径(10nm未満)で微細析出させて所望の強度(引張強さ:780MPa以上)とすることが困難となる。したがって、固溶Bは0.0005%以上とする。好ましくは、0.0010%以上である。なお、マトリックスを実質的にフェライト単相として、さらにフェライトの延性を劣化させないという観点からは、固溶Bを0.0025%以下とすることが好ましい。より好ましくは0.0020%以下である。
【0046】
本発明の鋼板において、上記以外の成分は、Feおよび不可避的不純物である。なお、不可避的不純物としては、Sb、Cu、Ni、さらには、As、Sn、Pbが挙げられるが、これらの合計含有量が0.2%以下であれば、上記した本発明の効果に影響を及ぼすことはない。また、Nb、VおよびMoさらにはW、Zr、Ta、Cr、Co、Se、ZnあるいはCa、REM、Mg、Csが含有されることも考えられるが、上記した元素のうちの1種以上の合計含有量が1.0%以下であれば、上記した本発明の効果に影響を及ぼすことはない。
【0047】
また、鋼板に耐食性を付与する目的で本発明鋼板の表面にめっき層を設けても、上記した本発明の効果を損なうことはない。なお、本発明において鋼板表面に設けるめっき層の種類は特に限定されず、電気めっき、溶融めっき等、何れであっても構わない。また、溶融めっきとしては、例えば溶融亜鉛めっきが挙げられる。更に、めっき後に合金化処理を施した合金化溶融亜鉛めっきとしてもよい。
【0048】
次に、本発明の熱延鋼板の製造方法について説明する。
本発明は、鋼素材をオーステナイト単相域に加熱し、粗圧延と仕上げ圧延からなる熱間圧延を施し、仕上げ圧延終了後、冷却し、巻き取り、熱延鋼板とする。この際、仕上げ圧延の仕上げ圧延温度を850℃以上とし、平均冷却速度を10℃/s以上とし、巻取り温度を550℃以上680℃以下とすることを特徴とする。なお、仕上げ圧延後の冷却では、30℃/s以上の平均冷却速度で冷却することが好ましい。
【0049】
本発明において、鋼素材の溶製方法は特に限定されず、転炉、電気炉等、公知の溶製方法を採用することができる。また、溶製後、生産性等の問題から連続鋳造法によりスラブ(鋼素材)とするのが好ましいが、造塊−分塊圧延法、薄スラブ連鋳法等、公知の鋳造方法でスラブとしても良い。本発明の効果は、連続鋳造法でスラブ(鋼素材)とすることにより、著しくなる。
【0050】
上記の如く得られた鋼素材に、粗圧延および仕上げ圧延を施すが、本発明においては、粗圧延に先立ち、鋼素材をオーステナイト単相域に加熱する。粗圧延前の鋼素材がオーステナイト単相域まで加熱されていないと、鋼素材中に存在するTi炭化物の再溶解が進行せず、圧延後にTi炭化物の微細析出が達成されない。したがって、粗圧延に先立ち、鋼素材をオーステナイト単相域に加熱する。好ましくは、1100℃以上に加熱する。但し、鋼素材の加熱温度が過剰に高くなると、表面が過剰に酸化されTiOが生じてTiが消費され、鋼板にした場合に表面近傍の硬さの低下が生じ易くなるため、上記加熱温度は1300℃以下とすることが好ましい。なお、鋼素材に熱間圧延を施すに際し、鋳造後の鋼素材(スラブ)がオーステナイト単相域の温度となっている場合には、鋼素材を加熱することなく、直送圧延してもよい。
【0051】
仕上げ圧延温度:850℃以上
仕上げ圧延温度の適正化は、熱延鋼板の伸びフランジ性を確保するうえで重要となる。仕上げ圧延温度が850℃未満であると、最終的に得られる熱延鋼板の板厚中央部の、Mnが偏析した位置にバンド状の組織が形成され易くなり、伸びフランジ性が劣化する。したがって、仕上げ圧延温度は850℃以上とする。好ましくは880℃以上である。なお、表面の二次スケールによる疵や荒れを防止するという観点からは、仕上げ圧延温度を950℃以下とすることが好ましい。
【0052】
平均冷却速度:10℃/s以上
先述のとおり、本発明においては、Ti炭化物の周囲に固溶Bを偏析させてTi炭化物の粗大化を抑制し、所望の平均粒子径(10nm未満)とする。ここで、Ti炭化物は、上記仕上げ圧延終了後、鋼組織がオーステナイトからフェライトに変態した後に析出するが、このオーステナイト−フェライト変態点(Ar3変態点)が680℃を超えると、Ti炭化物が大きく成長し易く、Ti炭化物が微細なうちに、Ti炭化物の周囲に固溶Bを偏析させることが困難となる。そこで、本発明では、オーステナイト−フェライト変態点(Ar3変態点)を680℃以下とする目的で、仕上げ圧延終了後、850℃以上の温度から680℃までの平均冷却速度を10℃/s以上とする。好ましくは30℃/s以上である。
【0053】
なお、オーステナイト−フェライト変態点(Ar3変態点)が680℃を超えるとTi炭化物の周囲に固溶Bを偏析させることが困難となる理由は、粗大なTi炭化物の周囲に歪が生じ、BがTi炭化物に近づけなくなる(拡散できなくなる)ためと推測される。
【0054】
一方、オーステナイト−フェライト変態点(Ar3変態点)を680℃以下とすることにより、Ti炭化物の上下面がマトリックスと整合し、Ti炭化物の周囲にBが拡散して、Ti炭化物の周囲に固溶Bが偏析すると推測される。
【0055】
巻取り温度:550℃以上680℃以下
巻取り温度の適正化は、上記のオーステナイト−フェライト変態点(Ar3変態点)を680℃以下とし、且つ、熱延鋼板を所望のマトリックス組織(フェライト相の面積率:95%超)とするうえで重要である。巻取り温度が550℃未満であると、ベイニティックフェライトやベイナイトが生じ易くなり、マトリックスを実質的にフェライト単相組織とすることが困難となる。一方、巻取り温度が680℃を超えると、上記のようにTi炭化物の周囲に固溶Bを偏析させることが困難となって粗大なTi炭化物が生じ易くなり、また、パーライトも生じ易くなり、鋼板強度が低下する。したがって、巻取り温度は550℃以上680℃以下とする。好ましくは、580℃以上650℃以下である。
【0056】
以上のように、本発明では、仕上げ圧延に続く冷却後、680℃以下の温度域でオーステナイト−フェライト変態が生じるようにする。そのため、巻き取り温度近傍でオーステナイト−フェライト変態が生じ易く、巻き取り温度とオーステナイト−フェライト変態温度はほぼ一致する傾向にある。
なお、仕上げ圧延終了後、680〜550℃の温度範囲に60s以上保持すると、上記固溶Bの偏析がより一層促進されるので好ましい。
【0057】
また、本発明においては、以上のようにして製造された熱延鋼板に対し、めっき処理、例えば溶融亜鉛めっき処理を施すことにより、鋼板表面にめっき層を形成してもよい。また、溶融亜鉛めっき処理後、合金化処理を施すことにより、鋼板表面に合金化溶融亜鉛めっき層を形成してもよい。
【実施例】
【0058】
表1に示す組成の溶鋼を通常公知の手法により溶製、連続鋳造して肉厚300mmのスラブ(鋼素材)とした。これらのスラブを、表2に示す温度に加熱し、粗圧延し、表2に示す仕上げ圧延温度とする仕上げ圧延を施し、仕上げ圧延終了後、850℃の温度から680℃までの温度域を、表2の平均冷却速度で冷却し、表2に示す巻取り温度で巻き取り、板厚:2.3mmの熱延鋼板とした。なお、鋼No.22を除き、巻き取りまでの冷却中にオーステナイトからフェライトへの変態は生じていないことを、別途確認している。
【0059】
続いて、上記により得られた熱延鋼板を酸洗して表層スケールを除去した後、一部の熱延鋼板(鋼No.6,7)については480℃の亜鉛めっき浴(0.1%Al-Zn)中に浸漬し、付着量45g/m2の溶融亜鉛めっき層を形成して溶融亜鉛めっき鋼板とした。また、更に一部の熱延鋼板(鋼No.8,9,10)については、前記と同様に溶融亜鉛めっき層を形成したのち、520℃で合金化処理を行い合金化溶融亜鉛めっき鋼板とした。
【0060】
【表1】

【表2】

【0061】
【表3】

【表4】

【0062】
上記により得られた熱延鋼板から試験片を採取し、組織観察、引張試験、穴拡げ試験を行い、フェライト相の面積率、フェライト相以外の組織の種類および面積率、Ti炭化物の平均粒子径および体積比、固溶B量、引張強さ、伸び、穴拡げ率(伸びフランジ性)を求めた。試験方法は次のとおりとした。
【0063】
(i)組織観察
得られた熱延鋼板から試験片を採取し、試験片の圧延方向と平行な断面(L断面)を研磨し、ナイタールで腐食した後、光学顕微鏡(倍率:400倍)および走査型電子顕微鏡(倍率:5000倍)にて撮影した組織写真を用い、画像解析装置によりフェライト相、フェライト相以外の組織の種類、および、それらの面積率を求めた。
【0064】
また、熱延鋼板から作製した薄膜を透過型電子顕微鏡によって観察し、Ti炭化物の平均粒子径と体積比を求めた。
Ti炭化物の平均粒子径は、透過型電子顕微鏡(倍率:340000倍)にて撮影した写真を用い、5視野合計で100個のTi炭化物について、その最大径d(ディスク上下面での最も大きい部分の直径)と、ディスク上下面に直交する方向におけるディスク状析出物の径(厚さ)tとを測定し、前記した算術平均値(平均粒径ddef)として求めた。
Ti炭化物の体積比は、AA系電解液(アセチルアセトンテトラメチルアンモニウムクロライドのエタノール溶液)を電解液として用い、抽出残渣分析によりTi炭化物の重量を求め、これをTi炭化物の密度で割ることによりTi炭化物の体積を求めた。なお、Ti炭化物の密度としては、TiCの密度を用いた。続いて、求めたTi炭化物の体積を、上記抽出残渣分析で溶解したマトリックスの体積で割ることにより算出した。
【0065】
また、固溶B量は、ブロムメタノール溶液に試験片を溶解し、酸化物と窒化物を濾過して抽出し、定量分析し、その値を全B量から減じることにより求めた。
【0066】
(ii)引張試験
得られた熱延鋼板から、圧延方向に対して直角方向を引張方向とするJIS 5号引張試験片(JIS Z 2201)を採取し、JIS Z 2241の規定に準拠した引張試験を行い、引張強さ(TS)、伸び (EL)を測定した。
【0067】
(iii)穴拡げ試験
得られた熱延鋼板から、試験片(大きさ:130mm×130mm)を採取し、該試験片に初期直径d0:10mmφの穴を打ち抜き加工(クリアランス:試験片板厚の12.5%)で形成した。これら試験片を用いて、穴拡げ試験を実施した。すなわち、該穴にポンチ側から頂角:60°の円錐ポンチを挿入し、該穴を押し広げ、亀裂が鋼板(試験片)を貫通したときの穴の径dを測定し、次式で穴拡げ率λ(%)を算出した。
穴拡げ率λ(%)={(d−d0)/d0}×100
得られた結果を表3に示す。
【0068】
【表5】

【表6】

【0069】
本発明例は何れも、引張強さTS:780MPa以上の高強度と、伸びEL:20%以上であり且つ、穴拡げ率λ:100%以上の優れた加工性を兼備した熱延鋼板となっている。一方、本発明の範囲を外れる比較例は、所定の高強度が確保できていないか、十分な穴拡げ率λが確保できていない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
C :0.035%超0.055%以下、 Si:0.2%以下、
Mn:0.35%以下、 P :0.03%以下、
S :0.03%以下、 Al:0.1%以下、
N :0.01%以下、 Ti:0.08%以上0.25%以下、
B :0.0005%以上0.0035%以下
を含有し、且つ、固溶B:0.0005%以上であり、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成と、面積率が95%超のフェライト相を含むマトリックスと、前記フェライト相の結晶粒内に平均粒子径が10nm未満のTi炭化物が微細析出し、該Ti炭化物の体積比が0.0015以上0.007以下である組織とを有し、引張強さが780MPa以上であることを特徴とする、伸びフランジ性に優れた高強度熱延鋼板。
【請求項2】
鋼板表面にめっき層を有することを特徴とする、請求項1に記載の高強度熱延鋼板。
【請求項3】
前記組成に加えてさらに、質量%で、REM、Zr、Nb、V、As、Cu、Ni、Sn、Pb、Ta、W、Mo、Cr、Sb、Mg、Ca、Co、Se、Zn、Csのうちの1種以上を合計で1.0%以下含有することを特徴とする請求項1または2に記載の高強度熱延鋼板。
【請求項4】
鋼素材をオーステナイト単相域に加熱し、粗圧延と仕上げ圧延からなる熱間圧延を施し、仕上げ圧延終了後、冷却し、巻き取り、熱延鋼板とするにあたり、
前記鋼素材を、質量%で、
C :0.035%超0.055%以下、 Si:0.2%以下、
Mn:0.35%以下、 P :0.03%以下、
S :0.03%以下、 Al:0.1%以下、
N :0.01%以下、 Ti:0.08%以上0.25%以下、
B :0.0005%以上0.0035%以下
を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成とし、
前記仕上げ圧延の仕上げ圧延温度を850℃以上とし、前記冷却の平均冷却速度を10℃/s以上とし、前記巻取り温度を550℃以上680℃以下とすることを特徴とする、伸びフランジ性に優れた高強度熱延鋼板の製造方法。
【請求項5】
前記組成に加えてさらに、質量%で、REM、Zr、Nb、V、As、Cu、Ni、Sn、Pb、Ta、W、Mo、Cr、Sb、Mg、Ca、Co、Se、Zn、Csのうちの1種以上を合計で1.0%以下含有することを特徴とする請求項4に記載の高強度熱延鋼板の製造方法。
【請求項6】
前記熱延鋼板に、さらにめっき処理を施すことを特徴とする請求項4または5に記載の高強度熱延鋼板の製造方法。
【請求項7】
前記熱延鋼板に、前記めっき処理に引続き合金化処理を施すことを特徴とする請求項6に記載の高強度熱延鋼板の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−26032(P2012−26032A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−137680(P2011−137680)
【出願日】平成23年6月21日(2011.6.21)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】