説明

位置情報検出装置および位置情報検出方法

【課題】測定対象物に電磁波を照射し、測定対象物からの反射波を受信して信号処理を行い、測定対象物の位置情報を求めるとき、従来に比べて、測定対象物の位置情報を短時間に求める。
【解決手段】照射する電磁波の信号として、信号値が符号化された信号であって、ビット方向にビット単位でシフトすることにより、シフト前の信号とシフト後の信号とが互いに略直交する第1の符号化系列信号を用いる。その際、第1の符号化変調信号をビット方向にシフトした第2の符号化変調信号を、1ビットシフトする度に反射信号との間で相関関数の値を算出し、この算出結果に基づいて、測定対象物の位置情報を求める。さらに、測定対象物の測定範囲の上限を設定し、この上限に応じて第2の符号化系列信号のシフト量の上限値を定め、第2の符号化系列信号のシフト量が、上限値を超えるとき、相関関数の演算を終える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波を測定対象物に照射し測定対象物からの反射波を受信することにより測定対象物の位置情報を取得する位置情報検出装置および位置情報検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地下埋蔵物の情報探査、地中の情報把握、あるいはコンクリート構造物の検査診断等において、レーダ装置が一般的に用いられている。また、レーザ光を用いたレーダ装置も種々提案されている。
下記特許文献1では、PN符号を用いて、測定対象物の距離解析を行うレーダ装置が提案されている。
【0003】
すなわち、当該特許文献では、PN符号等の疑似雑音信号によって帯域が拡散された電波を送信し、この電波に基づく物体からの反射波を受信し、この受信信号を前記疑似雑音信号で逆拡散し、該逆拡散された受信信号の周波数を所定周波数の信号に変換し、該周波数変換された信号に基づいて前記物体の速度測定、該物体までの距離測定を行うレーダ装置である。このとき、測定対象物までの距離の情報を、PN符号等の擬似雑音信号の相関関数を用いて算出する。
【0004】
【特許文献1】特開平10−153654号公報
【0005】
このような距離の情報の算出において、擬似雑音信号を用いて上記遅延時間を求めるとき、信号のSN比を向上するために、擬似雑音信号の1周期分の信号サイズを大きくすることが必要である。
しかし、擬似雑音信号の1周期分のサイズを大きくすると、遅延時間を求めるのに長時間を要し、迅速な距離解析ができない、といった問題がある。例えば、距離解析において、送信した擬似雑音信号と受信信号との相関関数を算出するとき、送信した擬似雑音信号の1周期分相当の遅延時間を範囲とする相関関数を算出するため、距離解析が短時間にできない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、測定対象物に電磁波を照射することにより測定対象物からの反射波を受信して信号処理を行い、測定対象物の位置情報を求めるとき、位置情報の算出精度が高く、従来の装置に比べて、算出結果を短時間に求めることのできる位置情報検出装置および位置情報検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、測定対象物に電磁波を照射することにより測定対象物からの反射波を受信して信号処理を行い、測定対象物の位置情報を求める位置情報検出装置である。
この位置情報検出装置は、測定対象物に電磁波を照射するとき、所定の信号の電磁波を、ベースバンド方式により出射する電磁波出射部と、
電磁波の照射された測定対象物からの反射波を受信して反射信号を出力する受信部と、
前記所定の信号として、信号値が符号化された信号であって、ビット方向にビット単位でシフトすることにより、シフト前の信号とシフト後の信号とが互いに略直交するように構成される一定の信号長さの第1の符号化系列信号を生成する信号生成部と、
前記第1の符号化系列信号がビット方向にビット単位で1ビット以上シフトした信号である第2の符号化系列信号を1ビットずつシフトすることにより、前記反射信号との間で相関関数の値を算出し、この算出結果に基づいて、測定対象物の位置情報を求める信号処理・演算部と、
測定対象物の測定範囲の上限を設定する条件設定部と、を有し、
前記信号処理・演算部は、設定された測定対象物の測定範囲の上限に応じて前記第2の符号化系列信号のシフト量の上限値を定め、前記第2の符号化系列信号のシフト量が、前記上限値を超えるとき、前記相関関数の演算を終了する。
【0008】
その際、反射信号と前記第2の符号化系列信号との相関関数を求めるために、前記信号生成部は、前記第1の符号化系列信号を繰り返し生成し、前記電磁波出射部は、繰り返し生成された前記第1の符合化系列信号の電磁波を照射することが好ましい。
前記信号処理・演算部は、例えば、前記相関関数がピークを形成するとき、このピークにおける前記第2の符号化系列信号のシフト量の情報と、前記第2の符号化系列信号のデータ間の時間間隔とを用いて測定対象物の位置を求める。
【0009】
前記第1の符合化系列信号は、PN符号を用いた信号であることが好ましい。
なお、前記測定対象物は、例えば、コンクリートや地中等の物質内部にあり、前記位置情報は、前記測定対象物の、物質表面からの深さである。
【0010】
さらに、本発明は、測定対象物に電磁波を照射することにより測定対象物からの反射波を受信して信号処理を行い、測定対象物の位置情報を求める位置情報検出方法を提供する。
この方法は、測定対象物に電磁波を照射するとき、信号値が所定長さで符号化された第1の符号化系列信号の電磁波を、ベースバンド方式により測定対象物に向けて出射させるステップと、
電磁波の照射された測定対象物からの反射波を受信して反射信号を出力するステップと、
前記第1の符号化系列信号がビット方向にビット単位で1ビット以上シフトした信号である第2の符号化系列信号を1ビットずつシフトすることにより、前記反射信号との間で相関関数の値を算出し、この算出結果に基づいて、測定対象物の位置情報を求めるステップと、
測定対象物の測定範囲の上限を、操作者の入力指示に応じて設定するステップと、を有し、
前記第1の符号化系列信号は、ビット方向にビット単位でシフトすることにより、シフト前の信号とシフト後の信号とが互いに略直交するように構成され、
前記位置情報を求めるステップでは、設定された測定対象物の測定範囲の上限に応じて前記第2の符号化系列信号のシフト量の上限値を定め、前記第2の符号化系列信号のシフト量が、前記上限値を超えるとき、前記相関関数の演算を終了する。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、照射する電磁波の伝送する信号として、略直交性を有する第1の符号化系列信号を用いる。その際、第1の符号化系列信号をビット方向に1ビット以上、ビット単位でシフトした信号である第2の符号化系列信号を1ビットずつシフトすることにより、反射信号との間で相関関数の値を算出する。このため、相関関数は、測定対象物で反射した電磁波の反射信号により生じるピーク以外の領域では0に近い値を示すので、位置情報の算出精度は高い。その際、測定対象物の測定範囲の上限を設定し、この上限に応じて第2の符号化系列信号のシフト量の上限値を定め、第2の符号化系列信号のシフト量が、上限値を超えるとき、相関関数の演算を終了する。このため、相関関数の不要な情報である上限値よりシフト量の大きな範囲の相関関数を算出しないので、短時間に測定対象物の位置情報を求めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の位置情報取得装置および位置情報検出方法について、添付の図面に示される好適実施形態を基に詳細に説明する。
【0013】
図1は、本発明の位置情報取得装置の一実施形態であるレーダ装置(以降、装置という)10の外観図である。
装置10は、測定対象物Xに照射した電磁波のうち測定対象物Xからの反射波を受信することにより得られる測定対象物Xの反射信号を用いて、測定対象物Xまでの奥行き方向に関する位置情報を求める装置である。
【0014】
装置10は、レーダ本体部12と演算装置(コンピュータ)14とを有して構成される。
レーダ本体部12は、送信アンテナ部(電磁波出射部)16と、受信アンテナ部(受信部)18と、発振器(信号生成部)20と、アンプ22,24,26,28と、RFスイッチ30,32と、RFミキサ36と、ローパスフィルタ38,40と、AD変換器42と、を有する。アンプ24,26,28と、ミキサ36と、ローパスフィルタ38,40と、AD変換器42は、信号処理部13を形成する。
【0015】
送信アンテナ部16は、複数の送信アンテナ16aが構成され、各送信アンテナ16aは、所定の信号の電磁波を測定対象物Xに向けて照射する。複数の送信アンテナ16aは、測定対象物Xの位置に関する分布を求めるために並列して設けられている。
受信アンテナ部18も、送信アンテナ部16と同様に、複数の受信アンテナ18aにより構成され、各受信アンテナ18aは、測定対象物Xからの反射波を受信するように設けられる。複数の受信アンテナ18aは、測定対象物Xの形状を検出するために並列して設けられている。
【0016】
送信アンテナ部16および受信アンテナ部18には、それぞれRFスイッチ30,32が設けられている。RFスイッチ30,32は、発振器20からの制御信号に応じて、複数の送信アンテナ16a、受信アンテナ18aの中から送受信するアンテナを選択して切り替えるために用いられる。
【0017】
発振器20は、所定の符号化系列信号を生成し、この符号化系列信号を、搬送波を用いて変調することなく、アンプ22を介して送信アンテナ部16に直接供給する。すなわち、ベースバンド方式により、符合化系列信号の電磁波を出射するように構成される。
発振器20は、アンプ22に供給する符号化系列信号(第1の符合化系列信号)の生成と、アンプ24に供給する符号化系列信号(第2の符合化系列信号)の生成を繰り返し行う。その際、アンプ24に供給する符号化系列信号は、アンプ22に供給する符号化系列信号の生成のタイミングに対して遅延することなく(遅延ゼロの状態で)生成されるが、この符号化系列信号が生成される度に一定時間の増大幅で遅延していく。符号化系列信号の生成は、後述するように、遅延時間あるいは符号化系列信号のデータポイント上の遅延シフト量が、設定された上限値を超えるとき終了する。この後、RFスイッチ30,32により、送信アンテナ部16および受信アンテナ部18の作用する送信アンテナ16aおよび受信アンテナ18aが変更される。この変更後、上述した符合化系列信号の生成が、上述した遅延ゼロの状態から再度繰り返される。なお、符号化系列信号として、信号値が所定長さで符号化され、ビット方向にビット単位でシフトすることにより、シフト前の信号とシフト後の信号とが互いに略直交するように構成された信号が用いられる。ビット方向とは、信号値の配列方向をいう。このような符号化系列信号として、例えば、PN符号化系列信号が好適に用いられる。PN符号化系列信号は、M系列あるいはGold系列の符号を用いた信号であることが好ましく、特に、M系列が後述する相関特性の点で好ましい。
なお、M系列とは、発振器20が、シフトレジスタ符号発生器を有し、このシフトレジスタ符号発生器は、m段(mは自然数)のシフトレジスタと、シフトレジスタの各段の状態の論理結合をシフトレジスタの入力へフィードバックする論理回路とで構成されるとき、信号長さLが2m−1で表されたものをいう。Gold系列は、2つのM系列を、同期してビットごとに加算したものである。従って2つの符号発生器の位相関係は不変であり、生成される系列の長さはもとになる系列の長さと同じ長さであるが、M系列にはならないものである。
【0018】
PN符号化系列信号は、値が0および1からなる1ビット信号で、ビット方向にビット単位でシフトすることによってできる自己相関関数の値が0又は−1/n(nは後述する系列符号の長さ)となる信号である。
PN符号化系列信号は、一例を挙げると以下のように作成されるPN系列符号のデータを用いて信号化したものである。
次数k=5、符号系列の長さn=31とし、係数h1=1,h2=1,h3=0,h4=1,h5=1とし、初期値a0=1,a1=1,a2=0,a3=1,a4=0としたとき下記式(1)に示す漸化式で一意的にPN系列符号C={ak}(kは自然数)を求めることができる。
【0019】
【数1】

【0020】
さらに、系列符号C={a0,a1,a2,………,an-1}を用いて基準となる符号化系列信号を生成するとともに、さらにこの系列符号Cをq1ビット、ビット方向にビットシフトさせた系列符号Tq1・C(Tq1は、ビット方向にq1ビット、ビットシフトする作用素である)を用いて符号化系列信号を生成する。ここで、系列符号Tq1・Cは、{aq1,aq1+1,aq1+2,………,aq1+N-1}である。さらに、系列符号Cをq2ビット(例えば、q2=2×q1)、ビット方向にビットシフトさせた系列符号Tq2・Cを用いて符号化系列信号を生成する。
この符号化系列信号を生成するために用いられる系列符号C,Tq1・C,Tq2・Cは、互いに直交する特性を有するので、生成される符号化系列信号も互いに直交する性質を有する。
【0021】
具体的に説明すると、長さnの系列符号をC={b0,b1,b2,………,bn-1}とし、上記作用素Tqを系列符号Cに作用させた系列符号をC’=Tq・C、すなわちC’={bq,bq+1,bq+2,………,bq+n-1}として、系列符号CとC’との間の相関関数cc'(q)を下記式(2)のように定義される。ここで、NAは系列符号における項biと項bq+i(iは0以上n−1以下の整数)の値が一致する数であり、NDは系列符号における項biと項bq+iの値の不一致の数である。また、NAとNDの和は系列符号長さnとなる(NA+ND=n)。ここで、iとq+iはmod(n)で考える。
【0022】
【数2】

【0023】
上記PN符号化系列において2つの系列を項毎にmod(2)で加算した結果はもとのPN系列符号を巡回シフトしたPN系列符号になる性質があり、PN系列符号の値が0となる個数は値が1となる個数より1つだけ少ないので、NA−ND=−1となる。これより、PN系列符号において下記式(3)および(4)に示す値を示す。
【0024】
【数3】

【0025】
【数4】

【0026】
上記式(3)よりビットシフト量が0、すなわちq=0(mod(n))の場合、式(3)に示すようにRcc’(q)の値は1となり自己相関性を有する。一方、ビットシフト量が0でない、すなわちq≠0(mod(n))の場合、式(4)に示すようにRcc’(q)は−(1/n)となる。ここで系列符号長さnを大きくすることにより、Rcc’(q)(q≠0)の値は0に近づく。
すなわち、系列符号CとC’は自己相関性を持ち、かつ略直交性を有するといえる。
このようなPN系列符号の値を0,1として時系列信号としたのがPN符号化系列信号である。
発振器20は、このようなPN符号化系列信号を生成する。
図2は、PN符合化系列信号の一例を示す図である。
【0027】
レーザ装置10の測定対象物Xの位置分解能を高めるためには、符号化系列信号のデータ間の時間間隔Δtを極めて狭くする必要がある。すなわち、上記PN符合化系列信号の1ビットシフトする時間幅が小さくなるようにする必要がある。このため、発振器20は、高速の符号化系列信号を発振させる必要があることから、図3に示すように、FPGA(Field Programmable Gate Array)46、パラレル・シリアル変換器48,50、同期信号分割器52,54、クロック信号発生器56を用いて構成することが好ましい。
パラレル・シリアル変換器48,50を用いるのは、符号化系列信号を高速化させるためである。また、クロック信号発生器56を用いるのは、パラレル・シリアル変換器48,50のシリアル信号として発生しアンプ22及びアンプ24に送られる2つの符号化系列信号を同期あるいは遅延時間を制御するためである。同期あるいは遅延時間を制御するのは、アンプ24に送られる符号化系列信号を、後述するミキサ36にてミキシング処理を行うことにより、受信アンテナ部18からの反射信号との間で相関関数を作成するためである。
発振器20は、演算装置(コンピュータ)14からのパルス信号、あるいは図示されない制御装置からのパルス信号、に応じて、符号化系列信号を、電磁波の伝送信号として繰り返し生成する。
【0028】
アンプ22,24は、発振器20で得られる符号化系列信号を増幅する。なお、符合化系列信号の信号レベルが十分にあればアンプ22,24は設けなくてもよい。
RFスイッチ30は、測定対象物Xの位置の情報を分布として得るために、発振器20からの信号に応じて送信アンテナ16aの送信位置を変えて電磁波を出射させるために用いる。
RFスイッチ32は、測定対象物Xの位置の情報を分布として得るために、発振器20からの信号、あるいは図示されない制御装置からの信号、に応じて受信アンテナ18aの受信位置を変えて反射波を受信するために用いる。
アンプ26は、RFスイッチ32にて得られた反射信号を増幅する。
【0029】
ミキサ36は、符号化系列信号の情報を持った、アンプ26を通して供給される反射信号と、発振器20にて遅延して繰り返し生成される符号化系列信号とのミキシング処理を行って、混合信号を生成する。
ミキサ36に供給される符号化系列信号は、発振器20で繰り返し生成され、しかも、生成されるタイミングが、符号化系列信号のデータ間の時間間隔Δtずつ、すなわち、符号化系列信号の1ビットずつ、ビット方向にシフトしている。このときのシフトによる遅延は、送信アンテナ部16に供給する符号化系列信号の生成のタイミングを基準とした遅延である。
ミキシング処理では、遅延した符号化系列信号をa(t+Δ)とし、反射信号をb(t)としたとき、a(t+Δ)×b(t)の演算を行う。ここでΔは、遅延時間であり、Δ=k・Δt(kは自然数であり、データポイント上の1ビットのシフト量を表す)である。
なお、上記ミキシング処理による相関演算は、ミキサ36を用いずに、コンピュータにて行うこともできる。この場合、アンプ24,26の出力信号を直接コンピュータで取り込み、ミキサ36、ローパスフィルタ38,40、アンプ28は不要となる。
【0030】
ローパスフィルタ38は、生成した混合信号のうち、符号化系列信号に応じて設定される周波数をカットオフ周波数として高周波成分の信号成分を除去して、低周波成分の信号を通過させる。演算装置14は、発振器20で繰り返し生成する符号化系列信号の生成のタイミングに同期して、上記低周波成分の信号を、符号化系列信号の1周期の時間、積算する。これにより、遅延時間Δにおける相関関数の値を求めることができる。この遅延時間Δが順次変更されることにより、相関関数を求めることができる。
アンプ28は、低周波成分の信号を増幅する。ローパスフィルタ40は、増幅によって低周波成分の信号に含まれるノイズ成分を除去する。
AD変換器42は、低周波成分の信号をデジタル信号とし、コンピュータである演算装置14に供給する。
【0031】
演算装置14は、条件設定部44と位置情報算出部45を有する。コンピュータである演算装置14は、レーダ本体部12の各機能の動作の管理と制御を行い、AD変換器42から供給された信号を用いて、測定対象物Xの位置を算出する。さらに、発振器20に符号化系列信号の生成を指示するパルス信号を提供し、符号化系列信号の生成のタイミングを遅らせる遅延時間Δの上限を定める。
条件設定部44および位置情報算出部45は、演算装置14であるコンピュータにおいてソフトウェアを実行することで形成されるモジュールにより構成される。
条件設定部44は、測定対象物Xがどこに位置するか、その上限となる(奥行き方向で最も遠い)位置、具体的には、電磁波の出射方向の、レーダ本体部12から測定対象Xまでの奥行き情報の上限値を、図示されないマウスやキーボード等を用いて操作者が指示入力することにより設定する。この設定された奥行き情報の上限値から、上記遅延時間Δの上限値を定める。
具体的には、条件設定部44において測定対象の奥行き情報の上限値が入力されると、奥行き情報の上限値を、電磁波の伝播速度で除算し2倍することにより、遅延時間Δの上限値が設定される。符号化系列信号のデータ間の時間間隔Δtは定められているので、遅延時間Δをデータ間の時間間隔Δtで除算することにより、ビット方向のシフト量、すなわち、データポイント上のシフト量の上限値が定まる。この上限値は、発振器20に送られ、符合化系列信号を生成するときの、遅延時間Δの制御に用いられる。
【0032】
位置情報算出部45は、相関関数の算出結果から測定対象物Xの位置情報を求める。
位置情報算出部45は、発振器20で生成される符号化系列信号の遅延時間Δが増えるたびに、符号化系列信号の1周期に相当する時間の間、AD変換器42を介して供給される信号の値を用いて測定対象物Xの位置情報を求める。
【0033】
図4は、位置情報算出部45において求められた、遅延時間Δを横軸に採った相関関数の結果の一例を示す図である。この例では、遅延時間Δの上限値、あるいはシフト量の上限値は設定されていないため、符合化系列信号の周期に相当する20ナノ秒まで、遅延時間Δを伸ばして相関関数は算出される。
図4に示す相関関数は、増幅された符号化系列信号と、増幅された反射信号とをミキシング処理した結果であるので、相関関数の縦軸は反射信号の電圧の単位となっている。ここで、図中のピークAで、相関関数の値は最大となっている。このピークAの両側では、受信アンテナ18a等の特性によりオーバーシュートが発生し、波形がボトムを形成している。
図4に示す相関関数の結果において、ピークAにおける遅延時間をΔ1とすると、遅延時間Δ1に電磁波の伝播速度を乗算した値の半分を、レーダ装置10から測定対象物Xまでの距離を示す位置情報として求める。
【0034】
位置情報算出部45は、上述のように、測定対象物Xの位置情報を求めることができるが、遅延時間Δのシフト量が、設定されたシフト量の上限値を超えるとき、発振器20は、符号化系列信号の生成を終了するので、ミキサ36でのミキシング処理は停止する。このように相関関数の演算を、設定した上限値に応じて終了するのは、所望する距離以遠の信号は不要であり、不必要な信号処理に要する時間を無くするためである。
【0035】
図5は、PN符号化系列信号の自己相関関数の演算結果の一例を示す。図4に示す相関関数は、PN符号化系列信号の電磁波の反射波の信号である反射信号と上記PN符号化系列信号との相関を示す関数であるので、反射信号は上記PN符号化系列信号の情報を含んでいる。したがって、図4に示す相関関数は回路の帯域が無限大であれば、図5に示すような自己相関関数になる。すなわち、図5に示す波形は、図4に示す波形の理想的な波形といえる。このとき、ピークAの値は1(ハイレベルの電圧値)となり、それ以外の位置では、−1/n(nは、符号化系列信号の1周期のデータ数)となる。したがって、相関関数のSN比を高くするために、図5に示す理想的な波形からわかるように、相関関数におけるピークA以外のノイズ領域では値が−1/nであるから、この値が0に近くなる、すなわち近似的に直交性を実現する(略直交する)ことが必要である。このためには、符号化系列信号の1周期のデータ数nを大きくする必要がある。しかし、データ数nを大きくすることにより、1周期に対応する時間T(=n・Δt)が増大し、相関関数を0〜Tの遅延時間の範囲で算出するには多くの計算時間を要する。このため、上述したように、測定対象物Xの測定範囲の上限によって設定されるシフト量の上限値に応じて、相関関数の演算を終了する。しかも、上限値以内のシフト量の範囲の中に、測定対象物Xの位置情報を示すピークAが存在するので、測定対象物Xの位置を、相関関数から算出することができる。
このように、位置情報算出部45は、相関関数のSN比を向上させ、かつ、短い計算時間で、測定対象物Xの位置情報を含んだ相関関数を算出することができる。算出された相関関数は、図示されないディスプレイやプリンタに出力される。
【0036】
以上が、レーダ装置10の構成の説明である。
このようなレーダ装置10では、PN符号化系列信号等の符合化系列信号の電磁波を、ベースバンド伝送方式で、測定対象物Xに向けて送信アンテナ部16から出射させる。
次に、電磁波の照射された測定対象物Xからの反射波をアンテナ受信部18にて受信して反射信号を出力する。
信号処理部13あるいは演算装置14では、電磁波の符号化系列信号(第1の符合化系列信号)がビット方向にビット単位で、1ビット以上シフトした信号である符号化系列信号(第2の符合化系列信号)を、1ビットシフトする度に参照信号(LO)としてミキサ36にてミキシング処理を行う。これにより、反射信号(RF)との間でミキシング処理をすることにより、相関関数の値を算出する。この算出した関数に基づいて、測定対象物Xの位置情報を求める。ここで用いる符号化系列信号は、信号値、例えば1ビットの信号値が所定長さで符号化された信号であって、ビット方向にビット単位でシフトすることにより、シフト前の信号とシフト後の信号とが互いに略直交するように構成されている信号である。
【0037】
符合化系列信号として、シフト前の信号とシフト後の信号とが互いに略直交する信号を用いるので、反射信号との相関関数を求めたとき、相関がない状態では、近似的に値が0になる。このため、測定対象物Xの位置情報を示す相関関数のピーク位置が明確に形成される。したがって、測定対象物Xの位置情報を精度良く求めることができる。
なお、送信アンテナ16aから照射された電磁波の一部は反射することなく、受信アンテナ18aで直接受信されるが、この受信による信号を位置情報における基準として、測定対象物Xの位置情報を補正して求める。
【0038】
一方、条件設定部44では、測定前に、測定対象物Xの測定範囲の上限を、操作者の入力指示に応じて設定する。この設定された測定対象物Xの測定範囲の上限に応じて、符号化系列信号の遅延時間の上限値あるいはシフト量の上限値を定める。参照信号として用いる符号化系列信号の遅延時間あるいはシフト量が、定めた上限値を超えるとき、相関関数の演算を終了する。このため、上限値よりシフト量の大きな範囲では、相関関数の値は不要な情報になるので、相関関数を算出しない。このため、短時間に測定対象物Xの位置情報を求めることができる。
【0039】
図6(a)は、測定対象物Xをコンクリート中に埋設された鉄筋とし、PN符号化系列信号の電磁波を、鉄筋の埋設されたコンクリートに向けて照射したときに得られる相関関数の算出結果である。PN符号化系列信号におけるΔtは0.1(ナノ秒)とし、PN符号化系列信号のデータ数nは1024とした。図6(a)中の横軸は、データポイント上でのシフト量を単位として表している。ここでは、データポイント上のシフト量の上限値を128とした。すなわち、図6(a)において、データポイント128以降の相関関数の値は演算されていない。コンクリートに埋設された鉄筋の位置は概略わかっているので、この概略位置を参考にして、操作者は、コンクリート内の奥行き方向の測定範囲の上限を入力指示することで、シフト量の上限値を定めることができる。また、コンクリート等の物質内部や地中では、電磁波の減衰が大きく、深い地点での反射波は殆ど帰ってこない。コンクリート等の物質内部での測定範囲は数cm〜数10cmである。この減衰を考慮して、相関関数における必要な遅延時間の範囲の上限値を定め、この上限値を用いて相関関数の算出を終了することもできる。
【0040】
図6(a)中の相関関数は、アンプの極性により正負が反転している。したがって、図中ボトムを形成する部分がピークとなる。図6(a)中、ピークBは、コンクリート表面で反射した反射波の信号によるものであり、ピークCは、鉄筋で反射した反射波によるものである。なお、ピークB(ボトム部分)の両側に山を形成するのは、帯域が有限であるためリンギングが生じたことによる。このように、複数の反射波を受信しても、相関関数を算出することで、複数の反射を分離、識別することができる。これより、ピークBと、ピークCとの間の遅延時間を求め、これに電磁波の伝播速度を乗算することで、測定対象物Xである鉄筋のコンクリート表面からの位置(深さ)を求めることができる。このように、測定対象物Xは、例えば、コンクリートや地中等の物質内部にあり、測定対象物Xの位置情報として、物質表面からの深さを求めることができる。
図6(b)は、図6(a)に示す例と同様に、鉄筋の埋設されたコンクリートに対して、1つの送信アンテナ16aと1つの受信アンテナ18aを用いて得られる相関関数から作られた受信結果の濃淡分布である。図6(b)では、測定に用いるアンテナの位置に対する鉄筋の深さ方向位置は、測定に用いるアンテナが移動することにより、変わる。したがって、図6(b)に示すように、上記横方向位置の変化により、鉄筋の反射により形成されるピークBの位置を示す部分は双曲線形状をなす。このように、レーダ装置10は、測定対象物Xの位置を求めることもできる。
【0041】
以上、本発明の位置情報取得装置および位置情報検出方法について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の位置情報取得装置の一実施形態であるレーダ装置の構成を示す概略ブロック図である。
【図2】図1に示すレーダ装置で生成されるPN符合化系列信号の一例を示す図である。
【図3】図1に示す発振器の構成の一例を示すブロック図である。
【図4】図1に示すレーダ装置で得られる相関関数の一例を示す図である。
【図5】PN符合化系列信号の自己相関関数を示す図である。
【図6】(a)及び(b)は、図1に示すレーダ装置で得られる、図4と異なる測定対象物における相関関数の算出結果を示す図である。
【0043】
10 レーダ装置
12 レーダ本体部
13 信号処理部
14 演算装置
16 送信アンテナ部
18 受信アンテナ部
20 発振器
22,24,26,28 アンプ
30,32 RFスイッチ
36,40 RFミキサ
42 AD変換器
44 条件設定部
45 位置情報算出部
46 FPGA
48,50 パラレル・シリアル変換器
52,54 同期信号分割器
56 クロック信号発生器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象物に電磁波を照射することにより測定対象物からの反射波を受信して信号処理を行い、測定対象物の位置情報を求める位置情報検出装置であって、
測定対象物に電磁波を照射するとき、所定の信号の電磁波を、ベースバンド方式により出射する電磁波出射部と、
電磁波の照射された測定対象物からの反射波を受信して反射信号を出力する受信部と、
前記所定の信号として、信号値が符号化された信号であって、ビット方向にビット単位でシフトすることにより、シフト前の信号とシフト後の信号とが互いに略直交するように構成される一定の信号長さの第1の符号化系列信号を生成する信号生成部と、
前記第1の符号化系列信号がビット方向にビット単位で1ビット以上シフトした信号である第2の符号化系列信号を1ビットずつシフトすることにより、前記反射信号との間で相関関数の値を算出し、この算出結果に基づいて、測定対象物の位置情報を求める信号処理・演算部と、
測定対象物の測定範囲の上限を設定する条件設定部と、を有し、
前記信号処理・演算部は、設定された測定対象物の測定範囲の上限に応じて前記第2の符号化系列信号のシフト量の上限値を定め、前記第2の符号化系列信号のシフト量が、前記上限値を超えるとき、前記相関関数の演算を終了することを特徴とする位置情報検出装置。
【請求項2】
前記信号生成部は、前記第1の符号化系列信号を繰り返し生成し、前記電磁波出射部は、繰り返し生成された前記第1の符合化系列信号の電磁波を照射する請求項1に記載の位置情報検出装置。
【請求項3】
前記信号処理・演算部は、前記相関関数の波形がピークを形成するとき、このピークにおける前記第2の符号化系列信号のシフト量の情報と、前記第2の符号化系列信号のデータ間の時間間隔とを用いて測定対象物の位置を求める請求項1または2のいずれか1項に記載の位置情報検出装置。
【請求項4】
前記第1の符合化系列信号は、PN符号を用いた信号である請求項1〜3のいずれか1項に記載の位置情報検出装置。
【請求項5】
前記測定対象物は、物質内部にあり、
前記位置情報は、前記測定対象物の物質表面からの深さである請求項1〜4のいずれか1項に記載の位置情報検出装置。
【請求項6】
測定対象物に電磁波を照射することにより測定対象物からの反射波を受信して信号処理を行い、測定対象物の位置情報を求める位置情報検出方法であって、
測定対象物に電磁波を照射するとき、信号値が所定長さで符号化された第1の符号化系列信号の電磁波を、ベースバンド方式により測定対象物に向けて出射させるステップと、
電磁波の照射された測定対象物からの反射波を受信して反射信号を出力するステップと、
前記第1の符号化系列信号がビット方向にビット単位で1ビット以上シフトした信号である第2の符号化系列信号を1ビットずつシフトすることにより、前記反射信号との間で相関関数の値を算出し、この算出結果に基づいて、測定対象物の位置情報を求めるステップと、
測定対象物の測定範囲の上限を、操作者の入力指示に応じて設定するステップと、を有し、
前記第1の符号化系列信号は、ビット方向にビット単位でシフトすることにより、シフト前の信号とシフト後の信号とが互いに略直交するように構成され、
前記位置情報を求めるステップでは、設定された測定対象物の測定範囲の上限に応じて前記第2の符号化系列信号のシフト量の上限値を定め、前記第2の符号化系列信号のシフト量が、前記上限値を超えるとき、前記相関関数の演算を終了することを特徴とする位置情報検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−71861(P2010−71861A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−240952(P2008−240952)
【出願日】平成20年9月19日(2008.9.19)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【Fターム(参考)】