説明

低伸縮性樹脂フィルム及びその製造方法並びに製造装置

【課題】太陽電池製造の際の他素材との貼着時などの再加熱によっても実質的に収縮がない低伸縮性樹脂フィルムを得る。
【解決手段】両面エンボス加工の低伸縮性樹脂フィルム100において、一方の面15aを、エンボスの形成された搬送ベルト11上にフィルム状となって押し出された樹脂素材15を搬送ベルト11と共に加熱され、他方の面15bを、エンボスの形成された冷却ローラ21にて加圧して両面エンボス加工した。この低伸縮性樹脂フィルム100は、エンボス加工を施した搬送ベルト11を繰り出し、樹脂素材15を搬送ベルト11上に押し出し、フィルム状樹脂素材15を搬送ベルト11ごと加熱させ、冷却ローラ21にて他方の面15bから加圧しながら一方の面15aとともにエンボス加工を施し、冷却完了後に搬送ベルト11から離間し、両面エンボス加工済みの低伸縮性樹脂フィルム100のみを別途巻き取ることで得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低伸縮性樹脂フィルム及びその製造方法並びに製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光学フィルムや機能性フィルム等の樹脂フィルムを製作するには、加熱溶融された樹脂材料を、金型(ダイ)より押し出すとともに、テンションをかけて引っ張り、巻き取って製品とするのが一般的である。T−ダイ成形法では、剥離紙上に溶融樹脂をT−ダイより押し出し、加圧ローラにて剥離紙とともに引っ張り、成形時の押し出しスピードを早めることで所望の厚さに成形し同時に冷却も行って、その後剥離紙から剥がしながら巻き取る(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このようにして得られる樹脂フィルムの一つには、例えば太陽電池の封止膜用EVAフィルムがある。太陽電池は、一般に、表面側透明保護部材としてのガラス基板と裏面側保護部材(バックカバー)との間にEVAフィルムの封止膜により、シリコン発電素子等の太陽電池用セルを封止した構成とされる。すなわち、ガラス基板、封止膜用EVAフィルム、シリコン発電素子、封止膜用EVAフィルム及びバックカバーをこの順で積層し、加熱加圧して、EVAを架橋硬化させて接着一体化することにより製造される。封止膜用EVAフィルムは、溶融樹脂を、口金である直線状スリットを有するダイから押し出し、冷却ロール等で急冷固化して得られる。この種の樹脂フィルムでは、太陽電池製造時などのハンドリング性の改良やエア逃げを向上させることによる加熱接着性の改良を目的とし、エンボス加工を施し、表面に凹凸を付与することが行われる。
【0004】
樹脂フィルムとして、エンボス加工を施す場合、特に、両面エンボスの樹脂フィルムを製作する一つの方法として、剥離紙にエンボスが施されており、これにフィルム素材が重ねられて加圧ローラに通される。また、加圧ローラの片側にもエンボスが施されており、これらによって、両面にエンボスが形成され、冷却された後に巻き取られる。エンボス加工の施された樹脂フィルムは、ガラス面などに積層状に貼着される際、エアが抜けやすく、加熱接着性を向上させることができた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平1−52428号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、樹脂フィルムをガラス基板等と一体化する貼着は、一般的に、加熱して接着する工程であり、この加熱によって、樹脂フィルムが製作時に有している歪み、すなわちテンションを加えて巻き取ったことによる巻き取り方向の伸びに起因する内部歪みにより、縮む(収縮する)方向へ変形が起こる。なお、樹脂フィルムの形成方向とは直交する幅方向である巻き取り軸方向では樹脂フィルム製作時に縮む内部歪みを受けているので、再加熱時には伸びる方向に働くが、その値は小さいことから略無視できる。
太陽電池製造などに際しての従来の貼着工程では、成形不良を回避するため、収縮率を考えて加熱接着が行われていた。このため、ガラス基板と樹脂フィルムを重ねたときに、ガラスの表面積よりも、樹脂フィルムを巻取方向に長くカットし、縮むことを考慮した煩雑な接着工程が必要となった。また、上記した太陽電池のように通電構成を備える場合、回路形成層と樹脂フィルムが重ねられることから、収縮量が大きいと回路を切断し、製品に欠陥を生じさせる虞があった。
【0007】
本発明は上記状況に鑑みてなされたもので、太陽電池製造などに際しての貼着時の加熱接着によっても実質的に寸法変化しない低伸縮性樹脂フィルム及びその製造方法並びに製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
次に、上記の課題を解決するための手段を、実施の形態に対応する図面を参照して説明する。
本発明の請求項1記載の低伸縮性樹脂フィルムは、少なくとも片面にエンボス加工の施される低伸縮性樹脂フィルム100であって、
無端ベルトよりなる搬送ベルト11上にフィルム状となって押し出された樹脂素材15を前記搬送ベルト11と共に加熱して溶融状態とし、エンボスの形成された冷却ローラ21にて加圧されてエンボス加工されたことを特徴とする。
【0009】
この低伸縮性樹脂フィルムでは、樹脂素材15の搬送ベルト11上での溶融が可能となり、押し出されたフィルム状の樹脂素材の内部歪みを除去でき、また搬送ベルト11に加えられた巻架張力での搬送が行え、製造時に樹脂素材15に加わるテンションが大幅に低減される。これらにより巻き取り方向の伸びに起因する内部歪み(応力)が蓄積されなくなる。
【0010】
請求項2記載の低伸縮性樹脂フィルムは、請求項1記載の低伸縮性樹脂フィルムにおいて、前記搬送ベルト11に、エンボスが形成されていることを特徴とする。
【0011】
この低伸縮性樹脂フィルムによれば、搬送ベルト11と冷却ローラ21とで両面にエンボス加工が施されることとなる。
【0012】
請求項3記載の低伸縮性樹脂フィルムは、太陽電池封止用であることを特徴とする。
【0013】
請求項4記載の低伸縮性樹脂フィルムの製造方法は、少なくとも片面にエンボス加工の施される低伸縮性樹脂フィルムの製造方法であって、
無端ベルトよりなる搬送ベルト11を巻回駆動し、
樹脂素材15をダイ39よりフィルム状にして該搬送ベルト11上に押し出し、
フィルム状樹脂素材15を搬送ベルト11ごと加熱し該搬送ベルト11上で溶融状態とし、
前記フィルム状樹脂素材15をエンボスの形成された冷却ローラ21にて加圧することで、該冷却ローラ21のエンボスにてエンボス加工を施し、
前記搬送ベルト11による搬送とともに前記フィルム状樹脂素材15を冷却し、
冷却完了後となる前記搬送ベルト11による搬送終端部11bにて、該搬送ベルト11から搬出され離間したエンボス加工済みの低伸縮性樹脂フィルム100のみを巻き取ることを特徴とする。
【0014】
この低伸縮性樹脂フィルムの製造方法では、所定張力により巻回駆動される搬送ベルト11が利用され、その上面でテンションが作用しないようにして樹脂素材15を溶融状態とし、エンボス加工が施される。搬送ベルト11に載置状態のままで成形が完了し、成形後、すなわち軟化状態における伸びが生じなくなった後に搬送ベルト11から離間され、製品のみが別途巻き取られる。
【0015】
請求項5記載の低伸縮性樹脂フィルムの製造方法は、請求項4記載の低伸縮性樹脂フィルムの製造方法であって、
前記搬送ベルト11は、エンボスが形成されており、
該エンボス上に前記樹脂素材を押し出すことを特徴とする。
【0016】
この低伸縮性樹脂フィルムの製造方法では、搬送ベルト11のエンボスにより、冷却ローラ21のエンボスとともに、両面にエンボスが形成される低伸縮性樹脂フィルムが得られる。
【0017】
請求項6記載の低伸縮性樹脂フィルムの製造方法は、請求項4又は5記載の低伸縮性樹脂フィルムの製造方法であって、前記搬送ベルト11上に樹脂素材を押し出す以前に、前記搬送ベルト11に対して加熱処理を行うことを特徴とする。
【0018】
この低伸縮性樹脂フィルムの製造方法では、搬送ベルト11上に樹脂素材が押し出される以前に、搬送ベルト11を予め加熱しておくことができ、押し出された直後の樹脂素材が搬送ベルト11によって冷却されないようになる。
【0019】
請求項7記載の低伸縮性樹脂フィルムの製造装置は、低伸縮性樹脂フィルムの製造装置200であって、
無端ベルトよりなる搬送ベルト11を巻回駆動する搬送ベルト駆動部13と、
前記搬送ベルト11上に樹脂素材15をフィルム状に押し出す押し出し成形部17と、
該押し出し成形部17の後段に設けられ前記搬送ベルト11上の樹脂素材15を溶融状態とする加熱部19と、
該加熱部19の後段に設けられ樹脂素材15の面にエンボスの形成された冷却ローラ21を加圧する加圧ローラ成形部23と、
前記搬送ベルト11とともに該搬送ベルト11上に成形されたフィルム状の樹脂素材を冷却する冷却部25と、
前記搬送ベルト11から搬出され該搬送ベルト11から剥離されて離間したエンボス加工済みの低伸縮性樹脂フィルム100のみを巻き取る製品巻き取り部29と、
を具備したことを特徴とする。
【0020】
この低伸縮性樹脂フィルムの製造装置では、搬送ベルト駆動部13によって巻回駆動される搬送ベルト11上に、樹脂素材15が載置され、搬送ベルト11とともに樹脂素材15が加熱溶融され、加圧ローラ成形部23及び冷却部25にて製品とされて、軟化状態における伸びが生じなくなった後に、搬送ベルト11は搬送方向が切り換えられることとなり、製品である樹脂フィルム100のみが巻き取られる。
【0021】
請求項8記載の低伸縮性樹脂フィルムの製造装置は、請求項7記載の低伸縮性樹脂フィルムの製造装置200であって、
前記搬送ベルト11にはエンボスが形成され、該エンボス上に樹脂素材を押し出すことを特徴とする。
【0022】
この低伸縮性樹脂フィルムの製造装置では、搬送ベルト11上に載置された樹脂素材15が、搬送ベルト11に形成されたエンボスによってエンボス面を形成されることとなり、冷却ローラ21とで、両面にエンボスが形成されることとなる。
【0023】
請求項9記載の低伸縮性樹脂フィルムの製造装置は、請求項7又は8記載の低伸縮性樹脂フィルムの製造装置200であって、
前記押し出し成形部17に向かう前記搬送ベルト11に対し前記押し出し成形部17の前段にて加熱処理を行う加熱処理部33を具備することを特徴とする。
【0024】
この低伸縮性樹脂フィルムの製造装置では、搬送ベルト11上に樹脂素材が押し出される以前に、搬送ベルト11を予め加熱処理部33にて加熱しておくことができ、押し出し成形部17から押し出された直後の樹脂素材が搬送ベルト11上にて冷却されることがない。
【0025】
請求項10記載の低伸縮性樹脂フィルムの製造装置は、請求項7,8,9のいずれか1つに記載の低伸縮性樹脂フィルムの製造装置200Aであって、
前記搬送ベルト11は、前記樹脂素材15を前記押し出し成形部17から前記加圧ローラ成形部23へ搬送させる加熱側搬送ベルト11Aと、エンボス加工後の前記樹脂素材15を搬送する冷却側搬送ベルト11Bとで構成されることを特徴とする。
【0026】
この低伸縮性樹脂フィルムの製造装置では、加熱される個所においては加熱側搬送ベルト11Aにて搬送され、冷却される個所においては冷却側搬送ベルト11Bにて搬送されることとなる。そして、各処理に適応した材質よりなるベルトを選択構成できる。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係る請求項1記載の低伸縮性樹脂フィルムによれば、搬送ベルト上にフィルム状となって押し出された樹脂素材を、搬送ベルト上で溶融状態とし、エンボスの形成された冷却ローラにて加圧してエンボス加工されるので、樹脂素材が搬送ベルト上で溶融状態とされ、押し出されたフィルム状の樹脂素材の内部歪みを除去でき、この搬送ベルトによる巻回駆動によって内部歪みが加えられない状態で、搬送することができ、製造時に樹脂素材に加わるテンションが低減可能となる。この結果、成形された樹脂フィルムは内部歪みが非常に小さい製品となり、太陽電池製造の際などで、再加熱による収縮は実質的になくなり、寸法精度を向上させることができる。ここで、実質的に収縮がないとは、再加熱したときの当該樹脂フィルムの収縮率が10%以下であることを意味する。好ましくは、樹脂フィルムの収縮率が8%以下であり、6%以下であれば、さらに好ましい。
【0028】
請求項2記載の低伸縮性樹脂フィルムによれば、搬送ベルトにエンボス加工が施されていることで、この搬送ベルトと冷却ローラのエンボスとで、両面にエンボス加工が施された低伸縮性樹脂フィルムが得られる。
【0029】
請求項3記載の低伸縮性樹脂フィルムによれば、太陽電池封止用として有用である。
【0030】
請求項4記載の低伸縮性樹脂フィルムの製造方法によれば、所定張力により巻回駆動される搬送ベルトが利用され、この搬送ベルト上に樹脂素材を押し出して、フィルム状樹脂素材を搬送ベルトごと加熱し、搬送ベルト上で樹脂素材を溶融状態とすることにより、押し出されたフィルム状の樹脂素材の内部歪みを除去でき、また、冷却ローラにて加圧しながらエンボス加工を施し、冷却完了後に搬送ベルトから離間してエンボス加工済み低伸縮性樹脂フィルムのみを巻き取るので、巻回駆動する搬送ベルトを利用し、その上面でテンションが直接作用しないようにして樹脂素材を引取ることができる。すなわち、搬送ベルトに載置したままの状態で成形が完了し、成形後は搬送ベルトは方向が切り替わって反転し、フィルム状となった製品のみが別途巻き取られる。これにより、従来の製造方法によるような押し出されたフィルム状の樹脂素材の内部歪み、或いは、テンションを加えて巻き取ることによる巻き取り方向の伸びに起因する内部歪みの発生が低減され、すなわち低伸縮率の樹脂フィルムを得ることができる。
【0031】
請求項5記載の低伸縮性樹脂フィルムの製造方法によれば、搬送ベルトに形成されたエンボスにより、冷却ローラのエンボスとともに、両面にエンボスが形成される低伸縮性樹脂フィルムを得ることが可能となる。
【0032】
請求項6記載の低伸縮性樹脂フィルムの製造方法によれば、搬送ベルト上に樹脂素材が押し出される以前に、搬送ベルトを予め加熱しておくことができ、押し出された直後の樹脂素材が搬送ベルトにて冷却されてしまうことがなくなる。
【0033】
請求項7記載の低伸縮性樹脂フィルムの製造装置によれば、搬送ベルトを巻回駆動する搬送ベルト駆動部と、搬送ベルト上に樹脂素材をフィルム状に押し出す押し出し成形部と、押し出し成形部の後段に設けられ搬送ベルト上の樹脂素材を加熱する加熱部と、加熱部の後段に設けられ樹脂素材の面に冷却ローラを加圧する加圧ローラ成形部と、成形されるフィルム状樹脂素材を冷却する冷却部と、エンボス加工済みの低伸縮性樹脂フィルムを巻き取る製品巻き取り部とを備えたので、巻回駆動する搬送ベルト上に、樹脂素材を載置して加熱状態を維持し、加圧ローラ成形部にて製品とした後、搬送ベルトから剥がして、製品である樹脂フィルムのみを巻き取ることができ、すなわち、搬送ベルトは押し出し成形部から製品巻き取り部までの間で樹脂フィルムの搬送を行うこととなって、樹脂素材から樹脂フィルムへと成形される過程において、溶融状態で押し出されたフィルム状の樹脂素材の内部歪みを除去でき、また、樹脂フィルム自体に張力がほとんど加わらず巻き取れるので、これにより、内部歪みの発生を低減させ、低伸縮率の樹脂フィルムを製造できる。
【0034】
請求項8記載の低伸縮性樹脂フィルムの製造装置によれば、搬送ベルトに、エンボスが形成されているので、この搬送ベルト上に載置された樹脂素材にエンボスを転写成形でき、冷却ローラとで、両面にエンボスが形成される樹脂フィルムを得ることが可能となる。
【0035】
請求項9記載の低伸縮性樹脂フィルムの製造装置によれば、搬送ベルト上に樹脂素材が押し出される以前に、搬送ベルトを予め加熱処理部にて加熱しておくことができ、押し出し成形部から押し出された直後の樹脂素材が、搬送ベルト上にて冷却されることがない。
【0036】
請求項10記載の低伸縮性樹脂フィルムの製造装置によれば、搬送ベルトを、加熱側搬送ベルトと冷却側搬送ベルトとで別体構成としたので、加熱処理が行われる加熱部においては加熱に対応するベルトで構成でき、冷却処理される冷却部においては冷却に対して良好なベルトで構成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明に係る低伸縮性樹脂フィルムの製造装置を概念的に表した構成図である。
【図2】本発明に係る他の実施の形態の低伸縮性樹脂フィルムの製造装置を概念的に表した構成図である。
【図3】本発明に係る他の実施の形態の低伸縮性樹脂フィルムの製造装置を概念的に表した構成図である。
【図4】本発明に係る他の実施の形態の低伸縮性樹脂フィルムの製造装置を概念的に表した構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明に係る低伸縮性樹脂フィルム及びその製造方法並びに製造装置の好適な実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明に係る低伸縮性樹脂フィルムの製造装置を概念的に表した構成図である。
低伸縮性樹脂フィルム100は、少なくとも片面にエンボス加工の施される樹脂フィルムであって、搬送ベルト上にフィルム状となって押し出された樹脂素材を搬送ベルトと共に加熱して溶融状とし、エンボスの形成された冷却ローラにて加圧されてエンボス加工されて成る。なお、本実施の形態による低伸縮性樹脂フィルム100は、両面にエンボスが形成されており、すなわち、一方の面は、エンボスの形成された搬送ベルトにより形成され、他方の面は、冷却ローラに形成されたエンボスによって形成され、これら搬送ベルトと冷却ローラとによって加圧によりエンボス加工されて成る。
【0039】
樹脂素材は、搬送ベルトに貼着することが条件であり、例えば、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)の他、ポリビニルブチラール、エチレン−アクリル酸エステル共重合体、ポリ塩化ビニル(PVC)である軟質塩ビ等を好適に用いることができる。低伸縮性樹脂フィルム100は、例えば、太陽電池の封止膜として用いられる。上記のように、太陽電池は、ガラス基板とバックカバーとの間に封止膜により太陽電池用セルを封止した構成とされる。本低伸縮性樹脂フィルム100を用いた太陽電池は、ガラス基板、低伸縮性樹脂フィルム100、シリコン発電素子、低伸縮性樹脂フィルム100及びバックカバーをこの順で積層し、加熱加圧して、EVAを架橋硬化させて接着一体化することにより製造される。
【0040】
例えば、太陽電池の封止材として使用される低伸縮性樹脂フィルム100の厚みは200μm〜1,000μmであるのが一般的であり、この場合、太陽電池製造時のハンドリング性改良とエア逃げが良好となることにより、接着性を向上させる目的でエンボス加工が施され、表面に凹凸が付与されている。エンボス加工による深さ(凹凸間の高低差)は、15μm以上、500μm以下とするのが好ましい。深さが過度に大きいと封止時に空気を巻き込み、積層物間に空気が残留し易くなるためである。エンボス加工はフィルムの片面にのみ施しても、両面に施しても良い。フィルムの両面にエンボス加工を行う場合には、片面のエンボス加工の深さが15〜300μmで、両面の合計が30〜600μmであることが好ましい。また、低伸縮性樹脂フィルムの厚さに対するエンボス加工による深さの割合は、5〜50%であることが好ましい。当該割合が10%以上であれば、低伸縮性樹脂フィルムがブロッキングを起こしにくく、太陽電池製造時のエア逃げが良好である。当該割合が50%以下であれば、低伸縮性樹脂フィルムの強度を保持することができる。
【0041】
本発明で用いられる太陽電池用封止材としてのEVA樹脂組成物は、ラミネート後の物性向上のために架橋剤を配合して架橋構造を持たせるのが望ましい。この架橋剤としては、一般に、1時間半減期温度(分解温度)がEVA樹脂の融点よりも高い、100℃以上の有機過酸化物が用いられる。
【0042】
低伸縮性樹脂フィルム100によれば、一方の面が、エンボスの形成された搬送ベルト上にフィルム状となって押し出された樹脂素材を溶融状態とし押し出されたフィルム状の樹脂素材の内部歪みを除去した後、前記エンボスにてエンボス加工され、他方の面が、エンボスの形成された冷却ローラにて加圧してエンボス加工されるので、樹脂素材を搬送ベルト上で搬送ベルトに加えた張力で搬送でき、製造時に樹脂素材に加わるテンションを低減できる。この結果、内部歪みを少なくし、太陽電池製造時などの再加熱による収縮率を小さくし、寸法安定性を向上させることができる。また、収縮率が小さいので、加熱貼着時の成形不良が減少する。回路などと積層形成する際に、回路を破損することがない。さらに、従来のような収縮歪みを考慮して大きめにカット成形しセットする必要がなく、材料コストを大幅に低減できる。
【0043】
次に、上記低伸縮性樹脂フィルム100を製造するための製造装置200について説明する。
低伸縮性樹脂フィルム100の製造装置200は、無端ベルトよりなる搬送ベルト11を所定の張力にて巻回駆動する搬送ベルト駆動部13と、搬送ベルト11上に樹脂素材15をフィルム状に押し出す押し出し成形部17と、押し出し成形部17の後段に設けられ搬送ベルト11上の樹脂素材15を溶融状態とする加熱部19と、加熱部19の後段に設けられ樹脂素材15の他方の面に冷却ローラ21を加圧する加圧ローラ成形部23と、搬送ベルト11とともにこの搬送ベルト11上に成形されたフィルム状の樹脂素材15を冷却する冷却部25と、搬送ベルト11から搬出されこの搬送ベルト11から剥離されて離間し、製品となった低伸縮性樹脂フィルム100を巻き取る製品巻き取り部29と、を主要な構成要件として備える。
【0044】
搬送ベルト駆動部13は図示しない駆動源にて回転駆動する主ローラ37及び搬送ローラ38を複数備え、無端ベルトよりなる搬送ベルト11を巻回駆動するようになっている。なお、この駆動源は、加圧ローラ成形部23に対しても駆動力を伝えることとしてもよい。後段の加熱部19にて、搬送ベルト11上に載置された樹脂素材15は加熱され溶融状態とされる。樹脂素材15の一方の面、本実施の形態では下面15aは、搬送ベルト11のエンボスによって後段の加圧工程でエンボスが転写成形されるようになっている。押し出し成形部17の前段には、この押し出し成形部17に向かう搬送ベルト11に対して加熱処理を行う加熱処理部33を構成するヒータが配設される。この加熱処理部33は、搬送ベルト11を表裏から挟んだ一対のヒータ33a,33bで構成され、例えば赤外線ヒータ33a,33bにて構成されており、赤外線ヒータ33a,33bは搬送ベルト11を表裏から加熱する。この加熱処理部33においては、搬送ベルト11を、この搬送ベルト11上に押し出される樹脂の温度と同程度とされる。加熱部19での加熱される樹脂素材15の温度は、押し出し成形部17から押し出される樹脂素材の融点に対して+60〜−0℃で設定され、好ましくは、融点に対して+60〜+30℃の範囲とされ、この範囲であれば、押し出しされたフィルム状の樹脂素材の内部応力を除去でき、これより高温であると、架橋剤である有機過酸化物の分解が進み過ぎるので好ましくなく、またこれより低温であると内部応力の除去が不十分となるので好ましくない。
【0045】
なお、この搬送ベルト11は、素材として、ガラス繊維、耐熱樹脂繊維等の織布・不織布に、シリコーン樹脂やフッ素樹脂をコーティングしたベルトや、スチール、ステンレス等の金属製ベルトなどが挙げられる。
【0046】
押し出し成形部17には主ローラ37が設けられ、搬送ベルト11を所定の張力で搬送ベルト駆動部13から繰り出させながら、スリット形状のダイ39から押し出された樹脂素材15を搬送ベルト11上に載置して搬送する。なお、この押し出し成形部17からの樹脂素材15の押し出し速度と、主ローラ37の回転速度で樹脂素材の厚みを決定することとなる。
【0047】
加熱部19には樹脂素材15を上面に載置した搬送ベルト11を、下面から支持しながら搬送する複数の搬送ローラ41が設けられる。加熱部19には搬送ベルト11を挟む上下面側に赤外線ヒータ、ハロゲンヒータ、或いは電気ヒータ等の加熱手段が設けられ、加熱手段は搬送ベルト11上の樹脂素材15を溶融状態とする。上記のように、加熱部19にて、搬送ベルト11上に載置された樹脂素材15を溶融状態とすることで、一方の面15aに搬送ベルト11のエンボスが後段の加圧によって転写成形可能となる。
【0048】
加熱部19の後段に設けられた加圧ローラ成形部23には冷却ローラ21が備えられ、冷却ローラ21はエンボスを外周面に形成している。加熱部19から送られてきた軟化状態の樹脂素材15は、一方の面15aが押圧ローラ43にて押圧されて冷却ローラ21に加圧される。これにより、一方の面15aは搬送ベルト11のエンボスが転写され、加熱部19を通過した軟質状態の樹脂素材15の他方の面、本実施の形態では上面15bに、冷却ローラ21のエンボスが加圧転写される。
【0049】
冷却部25にはエンボスが形成された冷却ローラ21の接触による冷却に引き続いて樹脂素材15を冷却搬送する複数の搬送ローラ45が設けられている。冷却部25には不図示の冷却ファンを設けてもよく、これら冷却手段によって樹脂素材15が冷却される。
【0050】
冷却部25の後段となる搬送終端部には一対のピンチローラ47,47が設けられ、搬送ベルト11はピンチローラ47,47から反転、駆動部13方向に逆行し、周回となって再び押し出し成形部17に戻る。ピンチローラ47,47の配置位置より上流側の樹脂素材15は、搬送ベルト11上に載置された状態であり、実質搬送ベルト11のみにテンションが加えられて搬送が行われることになる。したがって、樹脂素材15に物理的な力すなわち張力を加えないため高分子の配向が起こらず、内部歪みが発生しにくい。
【0051】
製品巻き取り部29には製品巻き取りローラ51が設けられ、製品巻き取りローラ51は搬送ベルト11が離間された製品としての低伸縮性樹脂フィルム100のみを巻き取る。
【0052】
このように、製造装置200では、搬送ベルト駆動部13から所定の張力で繰り出される搬送ベルト11上に、樹脂素材15が載置されて加熱溶融され、加圧ローラ成形部23にて製品とされた後、すなわち軟化状態における伸びが生じなくなった後、搬送ベルト11が離間して戻り、製品である低伸縮性樹脂フィルム100のみが巻き取られることになる。したがって、低伸縮性樹脂フィルム100の製造段階では、押し出し成形部17から搬送終端部(ピンチローラ47)11bの間では搬送ベルト11上に載置状態となり、ピンチローラ47と製品巻き取り部29の間でのみ、テンションが加わることとなる。
【0053】
次に、上記製造装置を用いた低伸縮性樹脂フィルムの製造方法について説明する。
製造装置200を用いた低伸縮性樹脂フィルム100の製造では、エンボス加工を施した無端ベルトよりなる搬送ベルト11を所定の張力にて巻回駆動し、溶融した樹脂素材15を、ダイ39よりフィルム状にして搬送ベルト11上に押し出しする。フィルム状樹脂素材15を搬送ベルト11ごと加熱し、溶融状態とすることにより、樹脂素材15の内部歪み(内部応力)が消去される。なお、樹脂素材15の温度は、融点に対し+60〜−0℃で設定され、好ましくは、融点の+60〜+30℃の範囲とされる。樹脂素材15の温度が融点以上であれば、樹脂素材15を溶融状態とすることができる。また、樹脂素材15の温度が融点+60℃以下であれば、該樹脂素材15に架橋剤を配合したとき、架橋が進みすぎることがない。
【0054】
エンボスの形成された冷却ローラ21にて他方の面15bを加圧しながら冷却してエンボス加工を施す。同時に搬送ベルト11のエンボスが一方の面15aにエンボス加工を施す。冷却完了後に、搬送ベルト11は反転し、搬送ベルト11から離間した両面エンボス加工済みの低伸縮性樹脂フィルム100のみを別途巻き取って製造を終了する。
【0055】
この低伸縮性樹脂フィルムの製造方法では、所定張力により巻回駆動する搬送ベルト11が利用され、その上面で樹脂素材15を加熱し溶融状態とすることにより、押し出されたフィルム状の樹脂素材の内部歪みを除去した後、エンボス加工が施される。搬送ベルト11に載置したままの状態で成形が完了し、テンションが作用しないようにして引取られ、成形後、軟化状態における伸びが生じなくなった後に搬送ベルト11から離間され、製品のみが別途巻き取られることになる。
【0056】
したがって、上記の製造装置200によれば、搬送ベルト11を巻回駆動する搬送ベルト駆動部13と、搬送ベルト11上に樹脂素材15をフィルム状に押し出す押し出し成形部17と、押し出し成形部17の後段に設けられ搬送ベルト11上の樹脂素材15を加熱溶融する加熱部19と、加熱部19の後段に設けられ樹脂素材15の他方の面15bの面に冷却ローラ21を加圧する加圧ローラ成形部23と、搬送ベルト11から剥離されて離間した低伸縮性樹脂フィルム100のみを巻き取る製品巻き取り部29とを備えたので、巻回駆動する搬送ベルト11上に、樹脂素材15を載置して加熱溶融し、加圧ローラ成形部23にて製品とした後、搬送ベルト11から製品である樹脂フィルム100のみを巻き取ることができ、この樹脂フィルム100が、冷却固化後ピンチロール47,47の位置から製品巻き取り部29の間でのみ張力がかかるだけで、内部歪みの発生を低減させ、低伸縮率の樹脂フィルムを製造できる。
【0057】
また、低伸縮性樹脂フィルム100の製造方法によれば、エンボス加工を施した搬送ベルト11を繰り出し、この搬送ベルト11上に樹脂素材15を押し出し、フィルム状樹脂素材15を搬送ベルト11ごと加熱し溶融状態とされることにより押し出されたフィルム状の樹脂素材の内部歪みが除去することができ、また、搬送ベルト11のエンボスにて一方の面15aにエンボス加工を施し、冷却ローラ21にて他方の面15bを加圧しながらエンボス加工を施し、冷却完了後、搬送ベルト11はその搬送終端部11bにて方向が切り替わり、搬送ベルト11から離間した両面エンボス加工済み低伸縮性樹脂フィルム100のみを別途巻き取るので、所定張力により巻回駆動される搬送ベルト11を利用し、その上面でテンションが作用しないようにしてフィルム状の樹脂素材を引取ることができる。すなわち、搬送ベルト11に載置したままの状態で成形が完了し、成形後に搬送ベルト11から製品のみが別途巻き取られる。これにより、テンションを加えて巻き取ることによる巻き取り方向の伸びに起因する内部歪みを発生させずに済み、これらにより低伸縮率の樹脂フィルムを得ることができる。
【0058】
なお、上述した製造装置200では、搬送ベルト11を押し出し成形部17の位置から製品巻き取り部29の位置までを連続して搬送可能な構成とし、搬送ベルト11上に、樹脂素材15から樹脂フィルム100という製品になるまでを載置状態としている例として示したが、搬送路の処理工程で区分し、すなわち、樹脂素材15に対して、加熱処理を行う部分と、冷却処理を行う部分とで別体となるよう搬送ベルト11を構成して、加熱処理を行う部分では加熱側搬送ベルト11Aとし、エンボス加工処理後の冷却処理を行う部分では冷却側搬送ベルト11Bとする構成としてもよい。
【0059】
また、上述した実施の形態では、押し出し成形部17を主ローラ37の真上に配置して、ダイ39から真下に押し出される樹脂素材15を搬送ベルト11上に落した後に、主ローラ37で搬送ベルト11とともに樹脂素材15を後段の加熱部19へ送るような構成としているが、この樹脂素材15の搬入側11aの構成としては、このような構成の他に、図2に示すように、ダイ39を横向きとし、主ローラ37上の搬送ベルト11上に樹脂素材15を押し出し、搬送ベルト11とともに直ちに加熱部19に入る構成としてもよい。このような搬入側11aの構成により、ダイ39から押し出される樹脂素材15が加熱部19へ送られる際に、樹脂素材15の温度を下げ過ぎないように構成されることが好ましい。なお主ローラ37等と直接接触せず、加熱部19までの距離が短く設定されることで、樹脂素材15は押し出し直後から加熱部19までの間の温度低下が最小限とされており、後段の加熱部19での処理が行われる。また、ダイ39から押し出された樹脂素材15と搬送ベルト11との間に吸引装置(図示せず)を配置することによって、樹脂素材15と搬送ベルト11との密着性を向上させることが可能である。
【0060】
図3は、本発明に係る他の実施の形態における低伸縮性樹脂フィルムの製造装置200Aを概念的に表した構成図である。
加熱側搬送ベルト11Aは、押し出し成形部17の位置から加圧ローラ成形部23の位置までとされ、樹脂素材15を加熱部19にて溶融状態とする際に、搬送ベルト11A上に載置状態とするもので、エンボス加工が施され、耐熱性を備える素材よりなる無端ベルトで構成される。
【0061】
また冷却側搬送ベルト11Bは、加圧ローラ成形部23の位置から搬送終端部となるピンチローラ47,47の位置までとされ、表裏面にエンボス加工を施した後の樹脂素材を冷却部25にて冷却する工程での樹脂素材15を支持するもので、冷却を効率的に行えるようスチールやステンレスなど熱伝導性の良好な金属ベルトなどを素材とした無端ベルトで構成される。
【0062】
そして、図3に示すように、加圧ローラ成形部23の位置で、加熱側搬送ベルト11Aと冷却側搬送ベルト11Bとで、樹脂素材15を受け渡すように配置構成する。
このような構成とすることで、加熱側搬送ベルト11Aでは樹脂素材15の加熱に耐えられる耐熱性を有する素材で構成し、冷却側搬送ベルト11Bではエンボス加工後のフィルム状となった樹脂素材の冷却及び搬送を主目的として素材を構成するという各構成に応じた材質を選択することが可能となる。
【0063】
図4は、本発明に係るさらに他の実施の形態における低伸縮性樹脂フィルムの製造装置200Bを概念的に表した構成図である。
低伸縮性樹脂フィルムの製造装置200Bとしては、搬送ベルトの構成が、加熱側搬送ベルト11Aが少なくとも構成されていれば良く、すなわち、冷却側では複数のローラ45にて支持する構成とされてもよい。
図4に示すように、加熱側搬送ベルト11Aは、押し出し成形部17の位置から加圧ローラ成形部23の位置までとされ、樹脂素材15を加熱部19にて溶融状態とする際に、搬送ベルト11A上に載置状態とするもので、耐熱性を備える素材よりなる無端ベルトで構成される。この搬送ベルト11Aの材質としては、金属やゴムなど、表面に剥離性、機能性を付加させるためのエンボスが施されることとしてもよい。
【0064】
この実施の形態では、主ローラ37と、これに併設されるローラ34が加熱ローラにて構成されており、これらローラ34,37にて加熱処理部33とされ、搬送ベルト11Aの加熱を行い、押し出し成形部17からの押出し樹脂温度が低下しないように構成される。また、エア噛み防止用ローラとされるタッチローラ36が主ローラ37に対向して配設される。そして、主ローラ37とタッチローラ36に近接して加熱部19が配設されている。
【0065】
また、加熱部19の後段には、冷却ローラ20とエンボス冷却ローラ21とが対向配置される加圧ローラ成形部23が配設され、加熱部19を通過した軟化状態の樹脂素材15に対してエンボス加工を施す。すなわち、搬送ベルト11Aのエンボスが一方の面15aに、エンボス冷却ローラ21のエンボスが他方の面(上面)15bに、それぞれ加圧転写される。また、冷却ローラ20には、テイクオフローラ22が配設されて、このテイクオフローラ22にて両面エンボス加工済み低伸縮性樹脂フィルム100はベルトから剥離されて、この後段にて冷却及び巻き取りとなる。
【0066】
このような構成とすることで、加熱側では加熱側搬送ベルト11Aを樹脂素材15の加熱に耐えられる耐熱性素材で構成するとともに、エンボス加工を施す構成とし、冷却側ではエンボス加工後のフィルム状となった樹脂素材の冷却及び搬送を主目的として構成するという各構成部分に応じた材質、構造を選択することが可能となり、特に加熱及びエンボス加工の工程部分で樹脂素材に対しての内部歪み(内部応力)が消去されるように、ベルトにて加熱溶融状態の樹脂素材を支え、成形し、テイクオフローラ22以降では冷却及び巻き取りのみの工程となり、製品巻取部29での張力がかかるのみで、内部歪みの発生を低減させることができ、低伸縮率の樹脂フィルムが得ることが可能となる。
【実施例】
【0067】
次に、上記実施の形態による構成と同一構成の製造装置を用い、同一の製造方法にて製造した実施例に係る低伸縮性樹脂フィルムを、含有する酢酸ビニルの量を33%と28%とで2例とし、比較例に係る樹脂フィルムを1例と、従来の樹脂フィルム2例とで、加熱による収縮を比較した結果を説明する。これら比較例と従来例とは、押し出し成形後の樹脂素材に対してエンボス加工を施した後に冷却のみであり、比較例では搬送ベルトを用いた製法、各従来例はベルトを用いない旧来の製法である。
【0068】
以下、実施例において用いた樹脂は次のとおり。
EVA1:エチレン酢酸ビニル共重合体(The Polyolefin Company社製、商品名「Cosmothene MA−10」、酢酸ビニル含有量33質量%、融点:60℃)
EVA2:エチレン酢酸ビニル共重合体(The Polyolefin Company社製、商品名「Cosmothene VF−023」、酢酸ビニル含有量28質量%、融点:69℃)
【0069】
[実施例1]
EVA1:100質量部、架橋剤(日油製、商品名「パーブチルE」、t−ブチルパーオキシ2−エチルへキシルモノカーボネート、1時間半減期温度119.3℃)1.0質量部、紫外線吸収剤(BASF社製、商品名「Uvinul 3008」、2−ヒドロキシ−4オクトオキシベンゾフェノン)0.2質量部をリボンブレンダーでドライブレンドし、押出機(一軸、口径90mm)で溶融混練し、スリット形状のダイ(T−ダイ)39を用いて樹脂素材15を図1の製造装置を用いて、搬送ベルト11上に押し出した。ダイ39の温度は90℃でスクリュー回転数は20rpmであった。押し出された樹脂素材15は搬送ベルト11によって搬送しながら、120℃のオーブンによって樹脂素材15を搬送ベルト11と共に30秒間加熱した。このとき、オーブン出口における樹脂素材15の温度は100℃であった。その後、樹脂素材15は、加圧ローラ成形部23でエンボス加工を施し、冷却部25を経て、ピンチローラ47,47までは搬送ベルト11と共に搬送し、その後搬送ベルト11と分離し、製品巻き取りローラ51に巻き取って、低伸縮性樹脂フィルム100を得た。樹脂フィルムの厚さは600μm、エンボス加工は砂目模様で、エンボスの深さの算術平均は80μmである。
【0070】
[実施例2]
樹脂をEVA2に変えた以外は実施例1と同様に低伸縮性樹脂フィルム100を得た。
【0071】
[比較例]
加熱部19を省略した製造装置を使用した以外は、実施例1と同様に樹脂フィルムを得た。フィルムの温度は加圧ローラ成形部23の直前で測定した。
【0072】
[従来例1]
T−ダイ押出法により、ダイから押出された樹脂素材を、表面にエンボスを形成したキャストロールにて冷却し、製品巻き取りローラ51に巻き取って樹脂フィルムを得た。フィルム温度はキャストロールの後で測定した。
【0073】
[従来例2]
加熱部19を省略した製造装置を使用し、搬送ベルト11の代わりに剥離紙(王子特殊紙製、商品名「N−73GS」)を使用したこと以外は、実施例2と同様に樹脂フィルムを得た。フィルム温度は加圧ローラ成形部23の直前で測定した。
【0074】
試験方法は、それぞれ、12cm四方に切ったフィルムに、巻き取り方向、すなわち成形方向で10cmの印を入れ、90℃のオーブンで1時間加熱し、収縮率を測定した。
オーブン内のフィルムは、自由に収縮できるようにタルクを引いたアルミ板上で加熱した。
測定の結果を表1に示す。
【0075】
【表1】

【0076】
所定の張力で繰り出され巻回駆動する搬送ベルト上に、樹脂素材を載置して加熱し、溶融状態を維持させた両実施例ではいずれも収縮率が3〜5となり、比較例の16.0に比べ1/3以下となることが確認された。また、現行品である従来例1,2と比較した場合には、1/10〜1/5まで収縮率の小さくなることが確認された。
【符号の説明】
【0077】
11…搬送ベルト
13…搬送ベルト駆動部
15…樹脂素材
15a…一方の面
15b…他方の面
17…押し出し成形部
19…加熱部
21…冷却ローラ
23…加圧ローラ成形部
25…冷却部
29…製品巻き取り部
33…加熱処理部
39…ダイ
100…低伸縮性樹脂フィルム
200…低伸縮性樹脂フィルムの製造装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも片面にエンボス加工の施される低伸縮性樹脂フィルムであって、
無端ベルトよりなる搬送ベルト上にフィルム状となって押し出された樹脂素材を前記搬送ベルトと共に加熱して溶融状態とし、エンボスの形成された冷却ローラにて加圧されてエンボス加工されたことを特徴とする低伸縮性樹脂フィルム。
【請求項2】
前記搬送ベルトに、エンボスが形成されていることを特徴とする請求項1記載の低伸縮性樹脂フィルム。
【請求項3】
太陽電池封止用である請求項1又は2記載の低伸縮性樹脂フィルム。
【請求項4】
少なくとも片面にエンボス加工の施される低伸縮性樹脂フィルムの製造方法であって、
無端ベルトよりなる搬送ベルトを巻回駆動し、
樹脂素材をダイよりフィルム状にして該搬送ベルト上に押し出し、
フィルム状樹脂素材を搬送ベルトごと加熱し該搬送ベルト上で溶融状態とし、
前記フィルム状樹脂素材をエンボスの形成された冷却ローラにて加圧することで、該冷却ローラのエンボスにてエンボス加工を施し、
前記搬送ベルトによる搬送とともに前記フィルム状樹脂素材を冷却し、
冷却完了後となる前記搬送ベルトによる搬送終端部にて、該搬送ベルトから搬出され離間したエンボス加工済みの低伸縮性樹脂フィルムのみを別途巻き取ることを特徴とする低伸縮性樹脂フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記搬送ベルトは、エンボスが形成されており、
該エンボス上に前記樹脂素材を押し出すことを特徴とする請求項4記載の低伸縮性樹脂フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記搬送ベルト上に樹脂素材を押し出す以前に、前記搬送ベルトに対して加熱処理を行うことを特徴とする請求項4又は5記載の低伸縮性樹脂フィルムの製造方法。
【請求項7】
低伸縮性樹脂フィルムの製造装置であって、
無端ベルトよりなる搬送ベルトを巻回駆動する搬送ベルト駆動部と、
前記搬送ベルト上に樹脂素材をフィルム状に押し出す押し出し成形部と、
該押し出し成形部の後段に設けられ前記搬送ベルト上の樹脂素材を溶融する加熱部と、
該加熱部の後段に設けられ樹脂素材の面にエンボスの形成された冷却ローラを加圧する加圧ローラ成形部と、
前記搬送ベルトとともに該搬送ベルト上に成形されたフィルム状の樹脂素材を冷却する冷却部と、
前記搬送ベルトから搬出され該搬送ベルトから剥離されて離間したエンボス加工済みの低伸縮性樹脂フィルムのみを巻き取る製品巻き取り部と、
を具備したことを特徴とする低伸縮性樹脂フィルムの製造装置。
【請求項8】
請求項7記載の低伸縮性樹脂フィルムの製造装置であって、
前記搬送ベルトにはエンボスが形成され、該エンボス上に樹脂素材を押し出すことを特徴とする低伸縮性樹脂フィルムの製造装置。
【請求項9】
請求項7又は8記載の低伸縮性樹脂フィルムの製造装置であって、
前記押し出し成形部に向かう前記搬送ベルトに対し前記押し出し成形部の前段にて加熱処理を行う加熱処理部を具備することを特徴とする低伸縮性樹脂フィルムの製造装置。
【請求項10】
請求項7,8,9のいずれか1つに記載の低伸縮性樹脂フィルムの製造装置であって、
前記搬送ベルトは、前記樹脂素材を前記押し出し成形部から前記加圧ローラ成形部へ搬送させる加熱側搬送ベルトと、エンボス加工後の前記樹脂素材を搬送する冷却側搬送ベルトとで構成されることを特徴とする低伸縮性樹脂フィルムの製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−228440(P2010−228440A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−29102(P2010−29102)
【出願日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【出願人】(000106726)シーアイ化成株式会社 (267)
【Fターム(参考)】