説明

低分子コラーゲンの製造方法

【課題】煮沸抽出残渣の廃棄物を利用して高収率、且つ環境に優しく、低コストの低分子コラーゲンの製造方法を提供する。
【解決手段】魚鱗を脱灰処理し、90〜100℃の熱水中にてコラーゲンを煮沸抽出した抽出残渣物を原料にして、蛋白質分解酵素である酸性プロテアーゼを作用させた後、活性炭で脱色することを特徴とする低分子コラーゲンの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚鱗を煮沸抽出してコラーゲンを抽出した時に発生する副産物である抽出残渣を原料として使用した低分子コラーゲンの製造方法を提供する。更に詳しくは、煮沸抽出残渣の廃棄物を利用して高収率、且つ環境に優しく、低コストの低分子コラーゲンの製造方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
コラーゲンは、真皮、靭帯、腱、軟骨などに存在し、総コラーゲン量は全蛋白質の30%を占める重要な役割を担っている。例えば、切傷や火傷などの皮膚の損傷治療、美容整形、美肌用化粧品、ハンドクリームなどに添加して使用されている。また、健康食品として粉末や錠剤として直接摂取して体内コラーゲンの栄養補給剤としても使用されている。 コラーゲンは、生体蛋白の主要な構成成分であり、殆んど全ての動物の体内に保有しているため、哺乳類、鳥類、魚類などから取り出すことができる。コラーゲンは、牛皮、豚皮、鳥皮、魚皮、魚鱗などのコラーゲン含有量が多い部位から煮沸抽出して取り出して回収(非特許文献1参照。)するのが一般的である。魚類からの低分子コラーゲンの製造は、魚皮や魚鱗を原料に油脂分を取り除いて、塩酸溶液中に浸漬してカルシウムを除去した後、煮沸で抽出してコラーゲン液を採取し、抽出した高分子コラーゲン液にプロテアーゼなどの蛋白分解酵素を作用させて低分子コラーゲンやコラーゲンペプタイドを得ていた。
【0003】
魚鱗は、魚種によって大きさや配合組成が多少異なるが、概ねカルシウム含有量が30%程度あり、脱灰鱗からの煮沸によるコラーゲン抽出率は30%程度で、多くても40%未満であり、魚鱗からの収率が悪く高価なものとなっていた。
【0004】
また、煮沸抽出した後の抽出残渣の外観はクリーム色から黄色を呈し、乾燥すると黄褐色から茶褐色となるため、従来は産業廃棄物として捨てられるか乾燥して肥料又は飼料とされて再利用する程度であった。
【0005】
一方、魚鱗から高収率でコラーゲンを製造する方法としては、魚鱗を脱灰せず直接粉砕して蛋白分解酵素を作用させる方法(特許文献1、3参照。)や、蛋白分解酵素の他に魚鱗が分解し易いようにキチナーゼなどの酵素を作用させる方法(特許文献2参照。)が知られている。また、塩基性領域で各種のプロテアーゼを作用させる方法(特許文献4参照。)においては、アルカリの作用で分子量が極めて小さいオリゴペプタイドが得られることが知られている。
【0006】
【特許文献1】特開2004−057196
【特許文献2】特開2006−000089
【特許文献3】特開2003−327599
【特許文献4】特開2001−211895
【非特許文献1】化学大辞典3、P707、「コラーゲン」、共立出版、S38.9.15発行
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
先行技術における魚鱗を直接粉砕して蛋白分解酵素を作用させる方法は、コラーゲン特有の三重螺旋構造が強固なために魚鱗の粉砕が極めて困難であり、蛋白分解酵素を作用させた後のカルシウムの分離除去が必要であり、高価な粉砕機や分離装置の購入などの問題があった。
また、魚鱗が分解し易いようにキチナーゼなどの酵素を作用させた後に蛋白分解酵素を作用させる方法は、収率はある程度アップするが、かなりの残渣物が残存する。また、分子量の異なる多種の酵素を併用するため、分解物中からの酵素蛋白の除去が難しい。
また、塩基性領域でアルカリプロテアーゼを作用させる方法は、アルカリによる分解が主となりオリゴペプタイド(アミノ酸が3量体以下で分子量200以下程度)のみしか得られなくなるなどの問題があった。
【0008】
このように、魚鱗からコラーゲン製造において、環境にやさしく、高収率で安価な低分子コラーゲンの製造方法が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、本発明者らは前記課題を解決すべく、種々検討した結果、魚鱗からコラーゲンを煮沸抽出した後の抽出残渣物(外観がクリーム色から黄色を呈し、乾燥すると黄褐色から茶褐色)を原料にして蛋白分解酵素(酸性プロテアーゼ)を作用させた後、活性炭で脱色することで殆んど白色に近い低分子コラーゲンを高収率で得る製造方法を見いだし、本発明を完成させるに至った。
即ち、本発明は、
【0010】
(1)魚鱗を脱灰処理し、次いで90〜100℃の熱水中にてコラーゲンを煮沸抽出した抽出残渣物を原料にして、蛋白質分解酵素である酸性プロテアーゼを作用させた後、活性炭で脱色することを特徴とする低分子コラーゲンの製造方法、
(2)蛋白質分解酵素を作用させるpHが2〜6の酸性域である前項(1)記載の低分子コラーゲンの製造方法、
(3)抽出残渣物からの製造収率が80%以上である前項(1)又は(2)記載の低分子コラーゲンの製造方法、
(4)抽出残渣物が粒子径500μm以下の乾燥粉砕物である前項(1)ないし(3)のいずれか一項に記載の低分子コラーゲンの製造方法、
(5)製造された低分子コラーゲンの平均分子量が3000以下である前項(1)ないし(4)のいずれか一項に記載の低分子コラーゲンの製造方法、
に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の製造方法により、魚鱗からコラーゲンを煮沸抽出した残渣物を原料にすることにより、産業廃棄物が減少して環境汚染防止に役立つ。また、煮沸残渣物から80%以上の高収率で低分子コラーゲンの製造が可能となるため、安価な低分子コラーゲンが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の低分子コラーゲンの製造方法は、魚鱗を脱灰処理し、次いで90〜100℃の熱水中にてコラーゲンを煮沸抽出した抽出残渣物を原料にして、蛋白質分解酵素である酸性プロテアーゼを作用させた後、活性炭で脱色することを特徴とする低分子コラーゲンの製造方法である。
本発明において「低分子コラーゲン」とは、コラーゲン由来の低分子コラーゲンとコラーゲンペプタイドの混合物をあらわす。本願発明の製造方法で得られる「低分子コラーゲン」は、平均分子量が3000以下で分子量分布の範囲が5000〜500の低分子コラーゲンと、平均分子量500〜200のコラーゲンペプタイドを含有する。
【0013】
本願発明において、魚鱗の脱灰(カルシウム除去)方法としては、例えば、魚鱗を約20〜30倍量の水に浸漬した後、魚鱗含有カルシウムの1.2〜1.5倍量相当分の塩酸を加えて10〜30分間撹拌して、塩化カルシウム水溶液として除去する。その後、繰り返し水洗を行なって酸分を洗い流して脱灰鱗とすることで差し支えない。また、酸処理時間が長いと有効成分のコラーゲンが溶出してくるので短時間で脱灰処理を行うことが好ましい。
【0014】
本願発明において、コラーゲンの煮沸抽出方法としては、例えば、脱灰鱗を約20〜30倍量の沸騰水に投入してガスや水蒸気で数時間煮込んで抽出すればよく、熱水中の温度は約90〜100℃に保たれる。次いで得られた抽出物を冷却するとニコゴリ状のコラーゲン寒天が得られる。
【0015】
本発明ではコラーゲンを煮沸抽出して残った残渣物を原料として使用する。
従来、廃棄されていた煮沸残渣物に分子量3000以下まで分解できるプロテアーゼなどの蛋白分解酵素を最適pHで作用させて低分子化し、分解溶液を活性炭で脱色及び脱臭して濾過し、脱塩して低分子コラーゲン溶液を得た後、最適濃度に濃縮しスプレードライヤーなどで粉末化して低分子コラーゲン粉末を得る。あるいは、煮沸残渣物を含水率10%以下まで乾燥させて、500μm以下に微粉砕した後、上記同様の操作を行って低分子コラーゲン粉末を得る方法でもよい。
【0016】
本発明の製造に用いられる魚鱗の由来としては、淡水魚、海水魚などの魚類の鱗であれば何れでも良く、一般的にはテラピア(イズミダイ)、イトヨリダイ、ナウルパウチ(チカダイ)、真鯛、イワシなどの魚鱗が挙げられる。
【0017】
本発明の製造方法で用いられる原料の残渣物は、魚鱗由来であれば何れでもよく、残渣物から80%以上、脱灰鱗から換算して60%以上、乾燥鱗から換算して50%以上の高収率で低分子コラーゲンが得られる。
【0018】
本発明の製造で用いられるコラーゲンを煮沸抽出した後の抽出残渣物の分子量は、熱水に溶解しない高分子であれば何れでもよく、10万以上の高分子コラーゲンと推察される。
本発明の製造で用いられるコラーゲンを煮沸抽出した後の抽出残渣物は、例えば表1に示した通り、ヒドロキシプロリン、グリシン、プロリンなどのアミノ酸組成から高分子コラーゲンの組成を有している。また、残渣の乾燥物は、コラーゲン特有の三重螺旋構造が弱くなり微粉砕も容易となる。
【0019】
表1.煮沸抽出残渣物のアミノ酸分析結果(ナウルパウチ)
アミノ酸組成名 含有率(%) アミノ酸組成名 含有率(%)
アルギニン 6.46 リジン 3.10
ヒスチジン 2.18 フェニルアラニン 2.26
チロシン 1.72 ロイシン 3.22
イソロイシン 2.71 メチオニン 1.80
バリン 2.80 アラニン 8.53
グリシン 21.8 プロリン 11.6
グルタミン酸 10.8 セリン 3.96
スレオニン 3.25 アスパラギン酸 5.79
トリプトファン 0.06 シスチン 0.32
ヒドロキシプロリン 10.9
【0020】
本発明の製造で用いられる原料の残渣物は、粉砕してもしなくてもよいが、蛋白分解酵素との接触面積が大きい方がよく、粉砕して粒子径500μm以下が好ましく、微粉砕して粒子径100μm以下がより好ましい。また、粒子径の下限は通常10μm程度である。
【0021】
本発明で用いられる蛋白分解酵素である酸性プロテアーゼは、高分子コラーゲンを低分子化できるものであり、アミノ酸単体まで分解しないものが好ましく、最適pHが2〜6で活性の高い蛋白分解酵素が好ましい。蛋白分解酵素としては、ニューラーゼ,F3G(天野エンザイム)、モルシンF(キッコーマン)、プロテアーゼM(天野エンザイム)、プロテアーゼYP−SS(ヤクルト薬品工業)、パパインW−40(天野エンザイム)などの酸性プロテアーゼが挙げられる。
【0022】
本発明で用いる活性炭処理による脱色方法としては、酵素で低分子化して酵素失活させた分解溶液に活性炭を加え、通常40〜80℃で0.5〜3時間程度撹拌して脱色し、葉状濾過機などで活性炭を分離する。活性炭の添加量としては、活性炭の吸着能力によっても異なるが含有蛋白質量に対して重量比で通常2〜60%、好ましくは5〜30%、より好ましくは5〜20%程度がよい。使用する活性炭としては、如何なるメーカーの如何なるグレードでもよいが、食品に使用可能で脱色力のあるものであれば何れでもよい。活性炭の粒子径は、小さい方がよく、150メッシュ以下の表面積の大きい粉末活性炭がよい。また、飛散が少なく容易に分散できるWetの活性炭が好ましい。
【0023】
本発明の分子量測定は、プルランを分子量標準として示差屈折計を検出器としたGPC分析装置で測定する方法を用いた。また、コラーゲン含量の測定は、ケルダール法による窒素含量より算出した蛋白量をコラーゲン量として置き換えた。
アミノ酸の成分分析値は、外部機関によるアミノ酸自動分析計の測定値を採用した。
【0024】
本発明の低分子コラーゲンは、低分子化することにより体内への吸収性が高い。
本発明の低分子コラーゲンは、例えば、切傷や火傷などの皮膚の損傷治療、美容整形、美肌用化粧品、ハンドクリームなどに添加して使用することが出来、また、健康食品として粉末や錠剤として直接摂取して体内コラーゲンの栄養補給剤として使用することが出来る。
【実施例】
【0025】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0026】
実施例1
イワシの鱗1.8kgを5Lの水道水に浸漬して一夜放置した後、濃塩酸1.8Lを加えて10分間撹拌して脱灰し、5Lの水道水で5回洗浄した。脱灰鱗に5Lの水道水を加えて分散した後、生蒸気を導入して98〜100℃で4時間煮沸してコラーゲンを熱水抽出した。抽出コラーゲンと残渣物を分離し、原料となる残渣物を取り出した。残渣物(乾燥物換算1kg)に、水道水3Lを加えて撹拌分散してpH4に調整して50℃に加温した後、蛋白分解酵素のプロテアーゼM(アマノエンザイム製)60gを投入して5時間撹拌した。次に、95〜100℃に昇温し1時間撹拌保持して酵素を失活させ、60℃に冷却後活性炭100gを加えて1時間撹拌してカーボン脱色し、濾過、濃縮を行った後、凍結乾燥して、本発明の低分子コラーゲン910gを得た。得られた低分子コラーゲンの平均分子量は1200であった。
【0027】
実施例2
ナウルパウチ鱗35kgを実施例1と同様の方法で脱灰、熱水抽出を経て残渣物を取り出して乾燥、粉砕し500μmの網を通過した残渣粉末20kgを得た。 水道水300Lを加えて撹拌分散してpH3.5に調整して60℃に加温した後、蛋白分解酵素のパパインW−40(アマノエンザイム製)0.7kgを投入して5時間撹拌した。次に、95℃〜100℃に昇温し1時間撹拌保持して酵素を失活させ、60℃に冷却後に50%Wetの活性炭10kgを加えて1時間撹拌してカーボン脱色し、濾過、脱塩、濃縮を行った後、スプレードライヤーにかけて、本発明の低分子コラーゲン18.5kgを得た。得られた混合物の平均分子量は600であった。また、アミノ酸分析の結果は表2の結果が得られた。
【0028】
表2.低分子コラーゲンのアミノ酸分析結果
アミノ酸組成名 含有率(%) アミノ酸組成名 含有率(%)
アルギニン 7.07 リジン 3.01
ヒスチジン 1.83 フェニルアラニン 2.43
チロシン 1.45 ロイシン 2.93
イソロイシン 1.77 メチオニン 1.92
バリン 2.75 アラニン 9.15
グリシン 22.6 プロリン 12.4
グルタミン酸 10.1 セリン 3.71
スレオニン 3.19 アスパラギン酸 5.32
トリプトファン 0.04 シスチン 0.23
ヒドロキシプロリン 10.7
【0029】
実施例3
テラピアの脱灰乾燥鱗1.4kgをガスコンロにかけコラーゲンを煮沸抽出し、抽出コラーゲンと残渣物を分離し、残渣物を乾燥、粉砕して180μmの網を通過した残渣粉末1kgを得た。水道水3Lを加えて撹拌分散してpH4に調整し50℃に加温した後、蛋白分解酵素のプロテアーゼM(アマノエンザイム製)50gを投入して2時間撹拌した。次に、95〜100℃に昇温し1時間保持して酵素を失活させ、60℃に冷却後活性炭100gを加えて1時間撹拌してカーボン脱色し、濾過、脱塩、濃縮を行った後、スプレードライヤーにかけて、本発明の低分子コラーゲン0.9kgを得た。得られた低分子コラーゲンの平均分子量は1400であった。
【0030】
試験例1
被験者9名を(Aコラーゲン未摂取、B高分子コラーゲン3g/日、C実施例1で得られた本発明の低分子コラーゲン3g/日)各々3名ずつの3群に分けて2週間摂取試験を行った結果、頬の肌荒れについてA群には改善が見られず、B群は2名に改善が見られ、C群は3名全てに改善が見られた。本発明の低分子コラーゲンは肌荒れの改善において有効であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
魚鱗を脱灰処理し、90〜100℃の熱水中にてコラーゲンを煮沸抽出した抽出残渣物を原料にして、蛋白質分解酵素である酸性プロテアーゼを作用させた後、活性炭で脱色することを特徴とする低分子コラーゲンの製造方法。
【請求項2】
蛋白質分解酵素を作用させるpHが2〜6の酸性域である請求項1記載の低分子コラーゲンの製造方法。
【請求項3】
抽出残渣物からの製造収率が80%以上である請求項1又は2に記載の低分子コラーゲンの製造方法。
【請求項4】
抽出残渣物が粒子径500μm以下の乾燥粉砕物である請求項1ないし3のいずれか一項に記載の低分子コラーゲンの製造方法。
【請求項5】
製造された低分子コラーゲンの平均分子量が3000以下である請求項1ないし4のいずれか一項に記載の低分子コラーゲンの製造方法。

【公開番号】特開2008−220208(P2008−220208A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−60006(P2007−60006)
【出願日】平成19年3月9日(2007.3.9)
【出願人】(000004086)日本化薬株式会社 (921)
【出願人】(596015527)日本化薬フードテクノ株式会社 (6)
【Fターム(参考)】