説明

低刺激性液体洗浄組成物

【課題】本発明は、皮膚および頭皮に極めて低刺激で、かつ良好な泡立ちである液体洗浄組成物を提供する。
【解決手段】一般式(I):
R1-O-(CH2CH2O)nCH2COOM (I)
(式中、R1は飽和又は不飽和の炭化水素基を示し、nは1〜5の数を示し、Mはリシン又はヒスチジンを示す。)
で表されるアルキルエーテルカルボン酸アミノ酸塩を含む低刺激性液体洗浄組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い起泡性を有し、皮膚および頭皮に対して極めて低刺激である液体洗浄組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚および頭髪の洗浄組成物には、一般にアニオン性の界面活性剤を主成分としており、皮膚洗浄料では高級脂肪酸塩(石けん)を主にするもの、頭髪洗浄料ではアルキル硫酸塩、アルキルスルホン酸塩、アルキルエーテル硫酸塩等が用いられる。
【0003】
しかしながら、石けん(脂肪酸塩)は、生分解性、安全性への問題は少ないが、硬水での洗浄性、溶解性が落ちるなどの欠点を持っており、またアルキル硫酸塩やアルキルスルホン酸塩、アルキルエーテル硫酸塩は往々に泡立ちや洗浄力に優れているが、刺激性の点で問題があった。
【0004】
一方、アルカリ性界面活性剤のひとつであるアルキルエーテルカルボン酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩又はアルキロールアミン塩は高い起泡性を有し、かつ低刺激性であることが見出されている(特許文献1及び2を参照)。
【0005】
しかし、アトピー性皮膚炎患者数およびアレルギー患者数は近年増加傾向にあり、化粧品や家庭用洗剤に配合される洗浄剤には、従来以上に皮膚や頭皮に対して低刺激である必要性がある。
【特許文献1】特開昭60−158298号公報
【特許文献2】特開2002−88396号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前期事情に鑑みてなされたもので、皮膚および頭皮に極めて低刺激で、かつ良好な泡立ちである液体洗浄組成物を提供することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、アルキルエーテルカルボン酸のリシン及びヒスチジンの塩の水溶液が、従来のアルキルエーテルカルボン酸塩の水溶液と比較して優れた低刺激性を有し、また使用感でも従来以上のマイルドな使用感を与えられることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち本発明は、一般式(I):
R1-O-(CH2CH2O)nCH2COOM (I)
(式中、R1は飽和又は不飽和の炭化水素基を示し、nは1〜5の数を示し、Mはリシン又はヒスチジンを示す。)
で表されるアルキルエーテルカルボン酸アミノ酸塩を含む、低刺激で、かつ使用性、安定性に優れた特徴を有する液体洗浄剤組成物を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の液体洗浄剤組成物は、低刺激で、かつ使用性、安定性に優れた特徴を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明で用いられる一般式(I)で表されるアルキルエーテルカルボン酸アミノ酸塩は、いわゆるアニオン性界面活性剤である。
【0011】
R1で示される飽和又は不飽和の炭化水素基としては、例えば、炭素数8〜18の芳香族炭化水素、直鎖状又は分岐状脂肪炭化水素が例示され、そのうち、脂肪族炭化水素(特にアルキル基、アルケニル基)が好ましい。例えば、オクチル基、デシル基、ドデシル基、トリデセル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、ドコシル基、2−エチルヘキシル基、2−ヘキシルデシル基、2−オクチルウンデシル基等が好ましい例として挙げられ、中でもドデシル基、トリデセル基、テトラデシル基が界面活性能力の点で優れている。
【0012】
ポリオキシエチレンの重合度nは平均重合度であり、一般に1〜5であり、泡立ちの面から2〜4が好ましく、特に3がより好ましい。
【0013】
Mはリシンまたはヒスチジンである。かかる塩基性アミノ酸の塩とすることにより、細胞に対する刺激が低減され、かつ良好な起泡性が発揮される。
【0014】
本発明で用いられる一般式(I)で表されるアルキルエーテルカルボン酸アミノ酸塩は、上記のものであれば単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0015】
一般式(I)で表されるアルキルエーテルカルボン酸アミノ酸塩の配合量は、典型的には液体洗浄組成物中5〜60重量%、好ましくは10〜50重量%の範囲で配合することができる。5重量%未満では起泡力と洗浄力が不十分となる可能性があり、60重量%を超えて配合しても洗浄力は配合量に関係なくほぼ一定になるため、より好ましくは10〜50重量%の範囲が推奨される。
【0016】
本発明の液体洗浄組成物には、上述した成分の他にも、目的に応じて洗浄組成物に通常使用されている成分を本発明の目的を達成する範囲内で、適宜配合することができる。これらの成分としては、例えば、ノニオン界面活性剤、両性界面活性剤、カチオン界面活性剤、保湿剤、カチオン性高分子、シリコーン誘導体、油分、植物抽出エキス、粘度調整剤、パール化剤、薬剤、防腐剤、キレート剤、酸化防止剤、PH調整剤、色素、香料、消臭剤、抗菌剤、酵素等が挙げられる。
【0017】
得られる本発明の液体洗浄組成物は、その形態は液体状、固体状、ゲル状、ペースト、スラリー、ミスト状等の目的に応じて種々の形態で用いることができる。但し、この形態に限定されることはない。
【0018】
本発明の液体洗浄組成物はpH3〜12の広範囲のpH域で使用することができ、より好ましくは該組成物のpH4.5〜11で使用できる。さらに好ましくは、pH5〜8で使用できる。
【0019】
本発明の液体洗浄組成物は、ヘアシャンプー、ボディーシャンプー、ハンドソープ、液体洗顔料、歯磨き、家庭用、台所用洗剤などに好適に用いることができる。
【実施例】
【0020】
次に、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0021】
サンプルの調製及び入手
本実施例で使用するアルキルエーテルカルボン酸リシン、アルキルエーテルカルボン酸ヒスチジン、アルキルエーテルカルボン酸ナトリウムは、以下の方法に従い調整乃至入手した。
〔アルキルエーテルカルボン酸リシンの調製〕
アルキルエーテルカルボン酸リシンは、ポリオキシエチレンラウリルエーテル酢酸(三洋化成社製、商品名「ビューライトLCA-25NH」)をリシン水溶液中で中和して得た。
〔アルキルエーテルカルボン酸ヒスチジンの調製〕
アルキルエーテルカルボン酸ヒスチジンは、ポリオキシエチレンラウリルエーテル酢酸(三洋化成社製、商品名「ビューライトLCA-25NH」)をヒスチジン水溶液中で中和して得た。
〔アルキルエーテルカルボン酸ナトリウムの調製〕
アルキルエーテルカルボン酸ナトリウムは、ポリオキシエチレンラウリルエーテル酢酸(三洋化成社製、商品名「ビューライトLCA-25NH」)を水酸化ナトリウム水溶液中で中和して得た。
[ラウレス硫酸ナトリウム]
ラウレス硫酸ナトリウムは日光ケミカルズ社製、商品名「NIKKOL SLS」を使用した。
[ラウリルエーテル硫酸ナトリウム]
ラウリルエーテル硫酸ナトリウムは三洋化成社製、商品名「サンデットEN」を使用した。
【0022】
試験例1(刺激性評価試験)
刺激性評価は、ヒト3次元培養表皮モデルであるLabCyte EPI-MODEL (ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング社製)を用いて刺激性試験を行った。
【0023】
具体的には、ヒト表皮組織を培養したカップをアッセイ培地に入れ、37℃, CO2濃度 10%で1時間インキュベーションを行った後、1%水溶液に希釈した各洗浄剤(アルキルエーテルカルボン酸リシン塩水溶液、アルキルエーテルカルボン酸ヒスチジン塩水溶液、アルキルエーテルカルボン酸ナトリウム塩水溶液、及びラウレス硫酸ナトリウム水溶液)を100 μL添加し、37℃, CO2濃度 10%で一定時間インキュベーションを行い暴露した。暴露時間終了後、培養カップ内の洗浄剤を除去したのち、MTT試薬により1時間染色を行った。その後、染色された細胞をカップから取り出し、プロパノールに浸し静置した。1日静置後のプロパノール抽出液の590 nmの吸光度を測定することにより刺激性評価を行った。尚、本試験では蒸留水30分暴露のものをコントロールの値とし、その値と比較することにより30分、1時間、2時間暴露の際の刺激性を算出した。
【0024】
アルキルエーテルカルボン酸のリシン塩、ヒスチジン塩、ナトリウム塩およびラウレス硫酸ナトリウムの30分、1時間、2時間暴露時の刺激性試験の結果を表1に示す。
【0025】
【表1】

【0026】
表1より、アルキルエーテルカルボン酸のリシン塩、ヒスチジン塩およびナトリウム塩は2時間暴露時においても約50%の細胞は生存しており、ラウレス硫酸ナトリウムと比較すると高い低刺激性を有すことが明らかとなった。アルキルエーテルカルボン酸塩について比較すると、全ての暴露時間において塩基性アミノ酸塩置換した洗浄剤(リシン塩、ヒスチジン塩)がナトリウム塩と比較して優位な低刺激性を示しており、特に暴露時間の短い30分暴露では、それぞれ93.4%、91.3%、74.7%の生存率と優位な効果として現れていた。この短時間暴露における有意差は、洗浄剤の一般的な使用時間を考慮すると大きな影響力があると考えられた。
【0027】
試験例2(タンパク変性試験)
1%水溶液に希釈した各洗浄剤(アルキルエーテルカルボン酸リシン塩水溶液、アルキルエーテルカルボン酸ヒスチジン塩水溶液、アルキルエーテルカルボン酸ナトリウム塩水溶液、ラウリルエーテル硫酸ナトリウム水溶液)と、タンパク質として卵白アルブミンの濃度0.05%水溶液を1:9の重量比で混合し、30分後に変性しなかったタンパク質をHPLCにて定量してタンパク変性率を求めた。
【0028】
アルキルエーテルカルボン酸のリシン塩、ヒスチジン塩およびナトリウム塩、ラウリルエーテル硫酸ナトリウムのタンパク変性率結果を表2に示す。
【0029】
【表2】

【0030】
表2より、アルキルエーテルカルボン酸塩はどれもラウリルエーテル硫酸ナトリウムと比較しても非常に低いタンパク変性率を有すことが明らかとなった。アルキルエーテルカルボン酸塩で比較すると、上記のヒト3次元培養表皮モデルを用いた刺激性試験同様に、アミノ酸塩の洗浄剤のほうが明らかに低刺激であった。
【0031】
試験例3(起泡性試験)
各洗浄剤(ラウリルエーテルカルボン酸リシン水溶液、ラウリルエーテルカルボン酸ナトリウム水溶液、ラウリルエーテル硫酸ナトリウム水溶液)を15 ppm(CaO換算)の硬水で濃度0.1%、0.2%に希釈後、クエン酸もしくは水酸化ナトリウムを用いてpHを7.0±0.1に調整した。この水溶液200 mLを松下電器産業(株)製、ファイバーミキサー(MX-V200)にとり、25℃で30秒間撹拌した直後の泡高さを読みとり起泡力とした。
【0032】
アルキルエーテルカルボン酸のリシン塩およびナトリウム塩、ラウリルエーテル硫酸ナトリウムの起泡力結果を表3に示す。
【0033】
【表3】

【0034】
表3より、0.1、0.2%のどちらの濃度においてもアルキルエーテルカルボン酸リシンは、アルキルエーテルカルボン酸ナトリウムおよびラウリルエーテル硫酸ナトリウムとほぼ同等の起泡力を有していることが示された。このことにより、アルキルエーテルカルボン酸リシンは低刺激性であるにも関わらず、高い起泡性を有していることが明らかとなった。
【0035】
試験例4(耐硬水性)
1%水溶液に希釈した各洗浄剤(ラウリルエーテルカルボン酸リシン水溶液、ラウリルエーテルカルボン酸ナトリウム水溶液、ラウリルエーテル硫酸ナトリウム水溶液)10 mLに、25℃で撹拌下に濃度0.1 mol/Lの塩化カルシウム水溶液を滴下し濁り始めた時点の滴定量を耐硬水性とした。
【0036】
アルキルエーテルカルボン酸のリシン塩およびナトリウム塩、ラウリルエーテル硫酸ナトリウムの耐硬水性結果を表4に示す。
【0037】
【表4】

【0038】
表4より、アルキルエーテルカルボン酸リシンは非常に高い耐硬水性を有していることがわかり、使用の際においても高い安定性を有していることが証明された。
【0039】
試験例5(泡嗜好性試験)
表5に示す各組成及び配合(重量%)の実施例及び比較例のシャンプーを下記の製造方法にて調製した。成分1〜9を均一に混合し、そこに実施例では10、11混合溶液を、比較例では12、13混合溶液をそれぞれ加え均一に混合しシャンプーを得た。
【0040】
モニター者20名に実施例と比較例を使用してもらい、使用中の泡立ち、すすぎ易さ、乾燥後の髪のまとまり具合、なめらかさ、しっとり感について、下記の絶対評価基準を用いて7段階に評価し、各試料の評点の平均値を4段階の判定基準を用いて判定した。
<絶対評価基準>
(評点):(評価)
6点:感応的に非常に好きである
5点:感応的に好きである
4点:感応的にやや好きである
3点:感応的に普通である
2点:感応的にやや嫌いである
1点:感応的に嫌いである
0点:感応的に非常に嫌いである
<判定基準>
(評価):(平均値)
◎:5点を超える (非常に良好)
○:3点を超えて5点以下 (良好)
△:2点を超えて3点以下 (やや不良)
×:2点以下 (不良)
【0041】
【表5】

【0042】
表5の結果から明らかなように、本発明の実施例のシャンプーは比較例と比較して、使用中の泡立ち、すすぎ易さ、乾燥後の髪のなめらかさにおいて、優れた効果を示すものであることが実証され、特にすすぎ易さでは「泡が細かく洗い流し易い」などの意見が聞かれ、ナトリウム置換と比べても非常に良好な評価を得られることが明らかとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I):
R1-O-(CH2CH2O)nCH2COOM (I)
(式中、R1は飽和又は不飽和の炭化水素基を示し、nは1〜5の数を示し、Mはリシン又はヒスチジンを示す。)
で表されるアルキルエーテルカルボン酸アミノ酸塩を含む低刺激性液体洗浄組成物。
【請求項2】
一般式(I)で表されるアルキルエーテルカルボン酸アミノ酸塩を5〜60重量%含有する請求項1に記載の低刺激性液体洗浄組成物。

【公開番号】特開2009−249537(P2009−249537A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−100470(P2008−100470)
【出願日】平成20年4月8日(2008.4.8)
【出願人】(000125347)学校法人近畿大学 (389)
【出願人】(397057289)モアコスメティックス株式会社 (2)
【Fターム(参考)】