説明

低多分散性のポリイソブテニルスルホネート

【課題】低温及び高温粘度特性が改善されたポリイソブテニルスルホネート類、その製造方法およびそれを用いた組成物を提供する。
【解決手段】本発明は、低温及び高温粘度特性が改善されたポリイソブテニルスルホネート類、その製造方法およびそれを用いた組成物を提供する。メチル−ビニリデンを少なくとも90モルパーセント有し、数平均分子量が約350乃至5000で、かつ質量平均分子量と数平均分子量の比Mw/Mnが約1.01乃至約1.4であることに特徴があるポリイソブテンをスルホン化し、そしてポリイソブテニルスルホネートをアルカリ金属又はアルカリ土類金属と反応させることにより、ポリイソブテニルスルホネートを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Mw/Mnが1.4未満という狭い分子量分布の多分散性に特徴がある高反応性エキソ−オレフィンポリイソブテンから製造された、ポリイソブテニルスルホン酸およびポリイソブテニルスルホネート類に関するものである。これらのポリイソブテニルスルホネート類は、粘度特性、特には低温及び高温粘度が改善されていて、潤滑油組成物において有用な清浄剤であり高分子量分散剤である。
【背景技術】
【0002】
スルホネート類は、家庭、工場及び公共施設の清掃用途、生活介護及び農業製品、金属工作液、工業プロセス、乳化剤、腐食防止剤に、また潤滑油の添加剤として使用される化学薬品の一部類である。潤滑油用途に用いられるスルホネート類の望ましい特性の一部としては、低価格、混和性、水耐性、腐食防止性、乳化性能、摩擦特性、高温安定性、さび性能、および淡色性が挙げられる。
【0003】
潤滑油用途に用いられるスルホネート類は、中性スルホネート、低過塩基性(LOB)スルホネート、または高過塩基性(HOB)スルホネートのいずれかに分類されている。過去においては、ホワイト油およびプロセス油製造の副生物として天然スルホネートが作られて、スルホネート市場を席捲していた。だが、精油所がプロセス油やホワイト油の収量を高める水素化処理法に切り換えるにつれて、また原料の利用を増やしてそれにより経済性を高めたいとの要望が大きくなるにつれて、合成スルホネートがもっと容易に入手できるようになった。今日では合成スルホネートには大きな市場があり、例えばC12−C60+アルキル置換ベンゼン、又はキシレン又はトルエン化合物およびそれらの混合物のスルホン化により、順次合成された合成スルホン酸から製造されている。一部の合成スルホン酸は、例えば水酸化マグネシウムまたは石灰で中和して許容可能な性状を持つスルホネートを生成させることが難しく、中和しようとすると、例えば室温で固体になるゼラチン状の生成物が生成することが分かっている。多数の合成スルホネート類がスルホン化ポリアルキル芳香族化合物から製造されている。例えば特許文献1を参照されたい。これらスルホネート類の粘度特性全般を改善するために、数多くの方法および組成物が開発されている。例えば特許文献2、3及び4を参照されたい。
【0004】
ポリアルケニルスルホネート類およびその製造方法は当該分野では知られている。特許文献5には、アルケニル基が数平均分子量250乃至500のプロペン又はブテン重合体であるアルケニルスルホン酸の混合物を、二段階で製造する方法が開示されている。特許文献6には、ジーグラー型のフリーデル・クラフツ触媒を用いて溶液重合により合成した重合体をスルホン化する方法が開示されている。特許文献7には、重合体骨格に高レベルのオレフィン不飽和、通常は内部不飽和を含む単独重合体及び共重合体を用いたスルホン化法が開示されている。特許文献8には、アルキルビニリデンと1,1−ジアルキルの異性体を20モルパーセントより多く含むポリアルケン混合物から、ポリアルケニルスルホン酸を誘導するポリアルケニルスルホネートの製造方法、およびそれから誘導したポリイソブテンスルホネートが開示されている。特許文献9及び10には、このポリイソブテニルスルホネートを用いた特定の用途が開示されている。反応の程度や油溶解度、清浄効果、粘度挙動は、ポリイソブテンの特徴により影響を受ける。特許文献8の高いパーセントのアルキルビニリデンを持つポリイソブテンは、一般にはBF3触媒を用いて製造されるが、普通は約1.65乃至約2.0の多分散性を有する。よって、これらのポリイソブチレンは(反応性末端基を高い割合で含んでいるが)、分布に分子量の広がりがある。大きな分子量分布は、ポリイソブテン反応型の結果であって、これらポリイソブテンスルホネートの比較的高い分子不均一性を招いている。本明細書では、この比較的大きな分子量分布(低分子量から高分子量に至るポリイソブテニルスルホネートの範囲)が、粘度挙動と低温粘度性能全般に影響を与えることを明らかにする。比較的狭い分子量分布を有し、かつメチル−ビニリデン末端基を多く持つポリイソブテニルスルホネートを、例えばイソブテンの準リビングカチオン重合により製造することができる。
【0005】
本発明は一部では、高い割合で反応性末端基を持ち、かつ比較的狭い分子量分布を有するポリイソブテンスルホネートが、特には動粘度(kv)、極限粘度数、およびコールドクランキングシミュレータ(CCS)で実証されるような低温性能において粘度の改善を導く、という予測し得ない発見に関する。
【0006】
【特許文献1】米国特許第4764295号明細書
【特許文献2】米国特許第5939594号明細書
【特許文献3】米国特許第6054419号明細書
【特許文献4】米国特許第6204226号明細書
【特許文献5】米国特許第3954849号明細書
【特許文献6】米国特許第4105647号明細書
【特許文献7】米国特許第4157432号明細書
【特許文献8】米国特許第6410491号明細書
【特許文献9】米国特許第6632781号明細書
【特許文献10】米国特許第7012045号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、低温及び高温粘度特性が改善されたポリイソブテニルスルホネート類、その製造方法、およびそれを用いた組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、低温及び高温粘度特性が改善されたポリイソブテニルスルホネート類、その製造方法、およびそれを用いた組成物を提供する。ポリイソブテニルスルホネート類は、ポリイソブテンをスルホン化し、そしてポリイソブテニルスルホネートをアルカリ金属またはアルカリ土類金属と反応させることにより製造される。ただし、ポリイソブテンは、メチル−ビニリデンを少なくとも90モルパーセント有し、数平均分子量が約350乃至5000で、かつ質量平均分子量と数平均分子量の比Mw/Mnが約1.01乃至約1.4であることに特徴がある。これらの特徴を持つポリイソブテンは、末端基官能化を伴う準リビングカチオン重合により製造することができる。つまり、開示するのは、下記の工程を含むポリイソブテニルスルホネートの製造方法である:
a)イソブテンを準リビングポリマー系で重合してカルボカチオン末端準リビングポリマーを生成させる工程であって、イソブテン単量体をルイス酸および溶媒の存在下で、適切な準リビング重合反応条件で開始剤と接触させて、数平均分子量が約350乃至5000で、かつ質量平均分子量と数平均分子量の比Mw/Mnが約1.4未満である重合体を得ることからなる工程、
b)工程a)で製造した重合体を適切な失活剤と接触させて、それにより該失活剤がカルボカチオン末端準リビングポリマーを、メチル−ビニリデン含量が少なくとも90モルパーセントのポリイソブテン重合体に変換する工程、
c)工程b)のポリイソブテン重合体を、スルホン化剤と0.9乃至1.2の比率で反応させ、そののちアルカリ金属源またはアルカリ土類金属源で中和する工程。
【0009】
カルボカチオン末端準リビングポリマーを生成させるのに用いられる準リビングポリマー系は、イソブテン単量体をルイス酸と溶媒の存在下で、適切な準リビング重合反応条件で開始剤と接触させることにより形成されて、カルボカチオン末端準リビングポリマーが得られる。適切なカルボカチオン末端準リビングポリマーは、ポリオレフィン鎖末端、普通はハライドをルイス酸と溶媒の存在下で、適切な準リビング重合反応条件でイオン化することにより生成させることができる。この単量体のカルボカチオン末端準リビングポリマー重合は、失活剤がポリオレフィンの反応性鎖末端と相互作用して反応性鎖末端からのプロトンの除去を促進することができるような適切な条件で行われ、それによりメチル−ビニリデン末端基が生成する。従って、適切な失活反応系条件(温度、ルイス酸、溶媒)を選択することにより、所望のビニリデン末端重合体への変換を最適化することができる。変換は、同一条件で失活剤無しの対照標準と比較して90モル%より高く、100モル%にまで達することが好ましく、よってポリイソブテン重合体生成物は高いメチル−ビニリデン含量を有することができる。このような好ましいポリイソブテンのメチル−ビニリデン含量は、一般には90モル%より多く、好ましくは95モル%より多く、例えば少なくとも98乃至100モル%であり、そして多分散性は小さくても1.4未満、好ましくは1.3未満で約1.01まで、より好ましくは約1.1又はそれ以下である。上記物質の好ましい数平均分子量は350乃至5000であって、その範囲内では低分子量は550未満、中間分子量は550乃至1000、そして高分子量は例えば1000より大きく、おそらくは2000より大きいことが好ましい。
【0010】
本発明の一態様は、メチル−ビニリデンを少なくとも90モルパーセント有し、数平均分子量が約350乃至5000で、かつ質量平均分子量と数平均分子量の比Mw/Mnが約1.4未満であることに特徴があるポリイソブテンを、スルホン化剤と反応させることにより得られたポリイソブテニルスルホン酸組成物に関する。本発明のポリイソブテニルスルホン酸を中和および/または過塩基化して、ポリイソブテニルスルホネートとすることができ、スルホネートは例えば潤滑油組成物に使用できて清浄剤として有用である。
【0011】
本発明の別の態様は、内燃機関内でスラッジやワニスを防いだり、ディーゼルエンジン内でススによる粘度増加を防ぐのに、イオン分散剤として有用なポリイソブテニルスルホネートに関する。一般に、分子量500未満(例えば、約350−500)の低分子量ポリイソブテニルスルホネートは主として清浄剤として作用し、そして分子量が2000より大きい(例えば、約2000乃至5000)の高分子量ポリイソブテニルスルホネートはイオン分散剤として作用する。中間分子量のものは両方で作用することができる。この点に関して本発明は、ポリイソブテニルスルホネートをイオン分散剤として潤滑油組成物に使用すること、より好ましくは高分子量のものを用いた使用にも関する。特に好ましいポリイソブテニルスルホネートは、メチル−ビニリデンを少なくとも90モルパーセント有し、数平均分子量が約2000乃至5000で、かつ質量平均分子量と数平均分子量の比Mw/Mnが約1.01乃至約1.4であることに特徴があるポリイソブテンをスルホン化した後、水酸化アンモニウム、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラn−ブチルアンモニウムなどの無灰塩基で、もしくはナトリウムまたはカリウムなどのアルカリ金属で中和することから誘導される。
【発明の効果】
【0012】
本発明は一部では、高い割合で反応性末端基を持ち、かつ比較的狭い分子量分布を有するポリイソブテンスルホネートが、特には動粘度(kv)、極限粘度数、およびコールドクランキングシミュレータ(CCS)で実証されるような低温性能において粘度の改善を導く、という予測し得ない発見に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
反応性末端基又はエキソ−オレフィン末端基を少なくとも90%有し、かつ多分散性Mw/Mnが<1.4であるポリイソブテンは、イソブチレンを準リビング重合反応させたのち失活させることにより都合良く製造することができる。ここで、「準リビング重合」は本明細書で使用するとき、可逆的な連鎖停止反応は進行しうるが、不可逆的な連鎖停止反応及び連鎖移動反応の速度がゼロに近いリビング重合を意味し、そして「失活剤」は本明細書で使用するとき、重合反応に添加されて活性ルイス酸の存在下で重合体鎖末端と反応する化学化合物を意味する。失活剤は、反応性鎖末端からプロトンを除去することを促進する。準リビング重合はリビング重合とも呼ばれ、各種の系を使用したものが当該分野では知られていて(真のリビング重合は、測定可能な連鎖移動反応も連鎖停止反応も無しに進行する重合を意味するが)、そのうちの一部は米国特許第5350819号、第5169914号及び第4910321号の各明細書に記載されている。
【0014】
以下に、ポリイソブテンを準リビングカチオン重合系から製造する代表的な方法について記述する。準リビング重合は、バッチ法、連続法、半バッチ法、もしくは当該分野の熟練者に知られている任意の方法で実施することができる。重合反応は一般に、不活性ガス中で実質的に無水の環境で行う。
【0015】
下記の反応体を反応器に充填する。
1)希釈剤、
2)開始剤、
3)電子供与体、または共通イオン塩又はその前駆体、
4)一種以上の単量体、および
5)ルイス酸、一般にはチタン又はホウ素のハロゲン化物からなる。
【0016】
反応混合物を、約−130℃乃至約10℃の範囲内の所望の温度で平衡にする。本発明の方法は所望の任意の圧力で、大気圧、減圧または過圧で行うことができる。反応混合物中に残っている単量体の量を測定することにより、進行中に重合反応の進行具合をモニタする。単量体の高度の変換を観察した後、失活剤を添加する前に失活前の鎖末端組成を決定するために一部を取り出す。その一部で重合反応の進行を検出し、所望の温度で平衡にした適当なアルコールで停止する。
【0017】
6)一種以上の失活剤を反応混合物に添加して重合反応を失活させる。
【0018】
所望の生成物を得るために反応体の濃度を変えることができるが、エキソ−オレフィン鎖末端を高い収量で得るためにはある一定の反応体比が好ましいことが分かっている。その比を以下に記載する。
【0019】
単量体と開始剤のモル比は、約3:1乃至約20000:1の範囲にある。好ましくは、単量体と開始剤のモル比は約5:1乃至約2000:1の範囲にある。より好ましくは、単量体と開始剤のモル比は約10:1乃至150:1である。単量体と開始剤のモル比が、ポリオレフィンの最終的な分子量を制御する。
【0020】
ルイス酸と鎖末端のモル比は、約0.1:1乃至約2500:1の範囲にある。好ましくは、ルイス酸と鎖末端のモル比は約2:1乃至約200:1の範囲にある。より好ましくは、ルイス酸と鎖末端のモル比は約2:1乃至15:1である。
【0021】
ルイス酸と電子供与体とのモル比は、約1.1:1乃至約10000:1の範囲にある。好ましくは、ルイス酸と電子供与体とのモル比は約2:1乃至約100:1の範囲にある。より好ましくは、ルイス酸と電子供与体とのモル比は約4:1乃至30:1である。
【0022】
ルイス酸と失活剤とのモル比は、約1.1:1乃至約2500:1の範囲にある。好ましくは、ルイス酸と失活剤とのモル比は約2:1乃至約100:1の範囲にある。より好ましくは、ルイス酸と失活剤とのモル比は約2:1乃至15:1である。
【0023】
失活剤と鎖末端とのモル比は、約0.25:1乃至約20:1の範囲にある。好ましくは、失活剤と鎖末端とのモル比は約0.5:1乃至約5:1の範囲にある。より好ましくは、失活剤と鎖末端とのモル比は約0.5:1乃至4:1である。
【0024】
ポリオレフィン重合体のエキソ−オレフィン鎖末端の濃度を決定するために、失活剤を添加したのち様々な時間間隔で反応混合物から追加の一部を取り出してもよい。全ての試料部分および残った反応混合物で、所望の温度で平衡にした適当なアルコールを用いて重合反応を停止する。
【0025】
エキソ−オレフィン鎖末端の濃度を、エンド−オレフィン及びtert−クロリド鎖末端の濃度と共に1H NMRを使用して定める。カップリング生成物の量を定性的に求めるために、GPCスペクトルも取る。ここで、カップリング生成物は、カルベニウム生成物とエキソ−オレフィンとの反応生成物を意味する。
【0026】
準リビング重合及び/又は失活剤と接触させる反応は、バッチ式でも、あるいは連続した成分流を反応器に送る半連続又は連続操作で実施することができ、適切な反応装置としては、これらに限定されるものではないが、重合体を回収するために重合体のスラリー又は溶液の溢出分を取り出す連続撹拌式タンク反応装置、または栓流式反応器が挙げられる。反応器の内容物を撹拌またはかき混ぜて、反応器内で反応体の均一な分布を達成することが好ましい。失活剤を分散液として、もしくは固定媒体中に用意した固定床反応器やスラリー反応器を用いて、不均一な失活剤を準リビングポリマーと効率良く接触させることができる、理論的には栓流式反応器に工程利点があるが、好ましい反応様式はバッチ法である。一般的に、取扱いの容易さから液相で反応(群)を実施して、環又は分枝形成とは対照的に線状又は鎖状重合を誘発する。周囲条件で気体である供給物を用いるならば、供給物を液相中に保持するために、反応圧力を制御する、および/または供給物を不活性な溶媒または液体希釈剤に溶解することが好ましい。ブタン供給物では、供給物を構成する代表的なC4留分は、圧力および/または低温下で液体であり、溶媒や希釈剤を必要としない。反応を行う温度は重要であってリビング又は準リビング系に依存し、反応温度が高過ぎるとカチオン重合のリビング特性が減じたり、または消滅することがある。
【0027】
以下に、本発明のポリオレフィン重合体の製造に使用するのに適した化合物を記す。
【0028】
[希釈剤]
希釈剤はその極性により、生長種のイオン化平衡および交換速度に影響を及ぼし、極性はその誘電率から見積もることができる。一般に、誘電率の低い溶媒はイオン対が解離し難いので好ましい。好適な溶媒としては、これらに限定されるものではないが、凝固点がかなり低くて好ましい重合温度で使用できる低沸点のアルカン類および一又は多ハロゲン化アルキル類が挙げられる。具体的な溶媒としては、カチオン重合に使用できる代表的な液体希釈剤または溶媒の若干の例を挙げると、アルカン類(一般にはC2−C10アルカン、例えばプロパン、ノルマルブタン、ノルマルペンタン、ノルマルヘキサン、ノルマルヘプタン、ノルマルオクタン、ノルマルノナンおよびノルマルデカンなどのノルマルアルカン、およびイソブタン、イソペンタン、ネオペンタン、イソヘキサン、3−メチルペンタン、2,2−ジメチルブタンおよび2,3−ジメチルブタン等を含む分枝アルカン);ハロゲン化アルカン類、例えばクロロホルム、塩化エチル、塩化n−ブチル、塩化メチレン、塩化メチル、1,2−ジクロロエタン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、四塩化炭素、1,1−ジクロロエタン、塩化n−プロピル、塩化イソプロピル、1,2−ジクロロプロパンまたは1,3−ジクロロプロパン;アルケン及びハロゲン化アルケン類(例えば塩化ビニル、1,1−ジクロロエテンおよび1,2−ジクロロエテン)、二硫化炭素、二酸化硫黄、無水酢酸、アセトニトリル、ベンゼン、トルエン、メチルシクロヘキサン、クロロベンゼン、ニトロ−アルカン類(例えばニトロプロパン)を挙げることができる。混合溶媒(例えば、上記に挙げたものの組合せ)も使用することができる。
【0029】
[開始剤]
リビング及び準リビングカルボカチオン重合の開始剤化合物は、当該分野ではよく知られている。開始剤は、所望とする生成物に応じて一官能性であっても多官能性であってもよい。所望の重合体が線状であるなら、一官能性及び二官能性開始剤を用いる。星形重合体を製造するには、開始剤は反応部位を2個より多く持つべきである。考えられる開始剤化合物は、一般式(X’−CRabnc(ただし、Ra、RbおよびRcは独立に、アルキル基、芳香族基、アルキル芳香族基のうちの少なくとも一種からなり、同じでも異なっていてもよく、そしてX’は、アセテート、エテレート、ヒドロキシル基またはハロゲンである)で表すことができる。Rcの価数はnであり、nは1〜4の整数である。Ra、RbおよびRcは、炭素原子1〜約20個、好ましくは炭素原子1〜約8個を含む炭化水素基であることが好ましい。X’はハロゲンであることが好ましく、より好ましくは塩素である。場合によっては、Ra、RbおよびRcの構造を生長種または単量体に似せて選択することが好ましく、例えば、ポリスチレンには1−フェニルエチル誘導体、あるいはポリイソブチレンには2,4,4−トリメチルペンチル誘導体である。好適な化合物としては例えば、ハロゲン化クミル、ジクミル及びトリクミル、特には塩化物、すなわち2−クロロ−2−フェニルプロパン、すなわち塩化クミル;1,4−ジ(2−クロロ−2−プロピル)ベンゼン、すなわちジ(塩化クミル);1,3,5−トリ(2−クロロ−2−プロピル)ベンゼン、すなわちトリ(塩化クミル);2,4,4−トリメチル−2−クロロペンタン;2−アセチル−2−フェニルプロパン、すなわち酢酸クミル;2−プロピオニル−2−フェニルプロパン、すなわちプロピオン酸クミル;2−メトキシ−2−フェニルプロパン、すなわちクミルメチルエーテル;1,4−ジ(2−メトキシ−2−プロピル)ベンゼン、すなわちジ(クミルメチルエーテル);1,3,5−トリ(2−メトキシ−2−プロピル)ベンゼン、すなわちトリ(クミルメチルエーテル)、および類似化合物を挙げることができる。その他の好適な例は米国特許第4946899号明細書に見い出すことができる。特に好ましい例は、2−クロロ−2,4,4−トリメチルペンタン(TMPCl)、1,3−ジ(2−クロロ−2−プロピル)ベンゼン、1,3,5−トリ(2−クロロ−2−プロピル)ベンゼン、および1,3−ジ(2−クロロ−2−プロピル)−5−tert−ブチルベンゼン(bDCC)である。
【0030】
全反応混合物における鎖末端の濃度は、約0.0001モル/リットル乃至約2.0モル/リットルの範囲にあってよい。好ましくは、鎖末端の濃度は約0.001モル/リットル乃至約1.0モル/リットルの範囲にある。より好ましくは、鎖末端の濃度は約0.005モル/リットル乃至約0.5モル/リットルの範囲にある。
【0031】
[電子供与体]
電子供与体は、従来の重合系をリビング及び/又は準リビングカチオン重合系に変えることが明らかになっている。本発明に用いられる電子供与体は、特別な化合物又は化合物の部類に明確に限定されるわけではない。例としては、ピリジン類およびアルキルアミン類、非プロトン性アミド類、スルホキシド類、エステル類、および金属原子に酸素原子が結合した金属化合物等を挙げることができる。ピリジン化合物としては、2,6−ジ−tert−ブチルピリジン、2,6−ジメチルピリジン、2,4−ジメチルピリジン、2,4,6−トリメチルピリジン、2−メチルピリジン、およびピリジンが挙げられる。N,N−ジメチルアニリンおよびN,N−ジメチルトルイジンも用いることができる。アミド化合物としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、およびN,N−ジエチルアセトアミドが挙げられる。スルホキシド化合物の例としてはジメチルスルホキシドがある。ジエチルエーテルはエーテル化合物の例であり、そして酢酸メチルおよび酢酸エチルはエステル化合物の例である。リン酸トリメチル、リン酸トリブチル、ヘキサメチルリン酸トリアミドなどのリン酸エステル化合物も用いることができる。チタン酸テトライソプロピルなどの酸素含有金属化合物も電子供与体として使用できる。
【0032】
全反応混合物における電子供与体の濃度は、約0.001モル/リットル乃至約0.1モル/リットルの範囲にあってよい。好ましくは、電子供与体の濃度は約0.001モル/リットル乃至約0.05モル/リットルの範囲にある。より好ましくは、電子供与体の濃度は約0.002モル/リットル乃至約0.02モル/リットルの範囲にある。
【0033】
[共通イオン塩及び共通イオン塩前駆体]
電子供与体に加えてもしくはその代わりに、共通イオン塩又は塩前駆体を任意に反応混合物に添加することができる。一般にこれらの塩は、イオン強度を高め、遊離イオンを抑え、そして配位子交換体と有利に相互作用させるために使用される。特に好ましいのは共通イオン塩前駆体、例えば塩化テトラn−ブチルアンモニウム(n−Bu4NCl)である。全反応混合物における共通イオン塩又は塩前駆体の濃度は、約0.0005モル/リットル乃至約0.05モル/リットルの範囲にあってよい。好ましくは、共通イオン塩又は塩前駆体の濃度は約0.0005モル/リットル乃至約0.025モル/リットルの範囲にある。より好ましくは、共通イオン塩又は塩前駆体の濃度は約0.001モル/リットル乃至約0.007モル/リットルの範囲にある。
【0034】
[単量体]
本発明の方法に使用するのに適した単量体はイソブチレンである。これには、イソブチレンそれ自体、並びにイソブテン系C4炭化水素流、例えばC4ラフィネート、イソブタン脱水素用のC4留分、および蒸気分解装置やFCC分解装置(流動接触分解装置)からのC4留分も、その中に含まれた1,3−ブタジエンが実質的に取り除かれている限り包含される。本発明に係る好適なC4炭化水素流は、ブタジエンを一般に5000ppm未満で、好ましくは200ppm未満で含んでいる。出発物質としてC4留分を用いるとき、イソブテン以外の炭化水素は不活性溶媒の役目をする。単量体の混合物を使用してもよいが、実質的に純粋なイソブチレンを使用することが好ましい。全反応混合物における単量体の濃度は、約0.01モル/リットル乃至約5.0モル/リットルの範囲にあってよい。好ましくは、単量体の濃度は約0.1モル/リットル乃至約2.0モル/リットルの範囲にある。より好ましくは、単量体の濃度は約0.3モル/リットル乃至約1.0モル/リットルの範囲にある。最も好ましくは、単量体の濃度は0.5モル/リットルである。
【0035】
[ルイス酸]
本発明のために触媒として適したルイス酸としては、これらに限定されるものではないが、ハロゲン化チタン及びホウ素、特には四塩化チタンおよび三塩化ホウ素が挙げられる。ハロゲン化チタン、特には四塩化チタンを使用することが好ましい。ルイス酸の強度とその濃度は特定の単量体に対して調整すべきである。さらに、これらルイス酸の強度は求核添加剤を用いて調整することができる。場合によってはこれらルイス酸は補助開始剤とも呼ばれる。開始剤系に存在するルイス酸の量は変えることができる。だが、適切な重合及び失活速度を遂行できるほどルイス酸の濃度が充分であることが望ましい。生成した重合体を沈殿させるほどルイス酸濃度を高くすべきではない。全反応混合物におけるルイス酸の濃度は、約0.001モル/リットル乃至約3.0モル/リットルの範囲にあってよい。好ましくは、ルイス酸の濃度は約0.005モル/リットル乃至約1.5モル/リットルの範囲にある。より好ましくは、ルイス酸の濃度は約0.05モル/リットル乃至約1.0モル/リットルの範囲にある。
【0036】
[失活剤]
本発明においてポリイソブテンの製造に使用することが考えられる失活剤について、以下に記載する。本発明の失活剤は、準リビングカルボカチオン末端ポリオレフィンのtert−クロリド鎖末端をエキソ−オレフィン鎖末端に変換することができるものである。如何なる理論にもとらわれずに、ポリイソブチレンでは本発明の失活剤は下記に示すように、ポリイソブチレン鎖末端のgem−ジメチル炭素からプロトンを取り去るのに選択的に触媒として作用すると考えられる。
【0037】
【化1】

【0038】
米国特許第6969744号明細書に開示されているように、求電子芳香族置換(EAS)メカニズムで準リビングカチオン重合を失活させる、非常に似通った構造の失活剤が先行技術で知られているので、この結果は予測し得ないものであった。最も高いEAS収量を与える化合物は一般に、環の有利な位置に位置する電子供与基で置換されている。これらの置換基は、例えばポリイソブチレンカルベニウムイオンが環のオレフィンと反応したときに生じる、フリーデル・クラフツ中間体を安定化させると考えられる。
【0039】
本発明に使用される失活剤は、一官能性のものが使用されようと多官能性のものが使用されようとそれとは無関係に、tert−ハライド鎖末端を含むポリイソブテン重合体をエキソ−オレフィン鎖末端に変換するために用いることができる。さらに、この変換速度は一官能性開始剤でも二官能性開始剤でも同様であると予測される。全鎖末端に基づき高濃度のエキソ−オレフィン鎖末端を含むポリイソブチレン重合体の製造では、温度依存性が観察されている。反応温度を上げると、カップリングを抑えることでエキソ−オレフィンの収量が増加することが測定されている。カップリングは、1H NMRスペクトルでは百万分の4.85部ピークのエキソ−オレフィンピークよりほんの上方領域の4.82に中心があるピークとして検出され、またGPCスペクトルでも主ピークに低溶離量の肩として表示される。
【0040】
ある態様では、準リビング重合の条件および系はそれに続く失活工程に照らして最適化することができる。如何なる理論にもとらわれる意味ではないが、所望の脱離反応は、カルベニウムイオンと既に生成したエキソ−オレフィンとの反応によるカップリング生成物の生成と競合していると考えられる。従って、脱離に有利でカップリングに不利である条件が好ましい。高い反応温度が脱離に有利でカップリングに不利であることは分かっている。イソブチレンの準リビングカチオン重合では、活性カルベニウムイオンと休止状態のtert−クロリド鎖末端間の平衡が存在する。系の温度が上がると、この平衡は休止状態の鎖末端に益々有利になるが、これは脱離及びカップリングの速度を同等程度まで下げることになる。だが、高温は失活剤とルイス酸間の錯体の平衡を非錯化失活剤の方にずらすことにもなり、それが脱離を起こさせる要因であると思われる。よって、温度の上昇は所望の反応に競合的な利点をもたらす。温度を無制限に上げることはできない。事実、ある種の失活剤では、失活剤−ルイス酸錯化平衡のエンタルピーが進行方向には非常に強い負であるので、失活剤は高温でのみ効力であり、低温では総じて効力がない。よって、一般に失活工程は高温で有利に行われる、ただし、温度を無制限に上げることはできない。
【0041】
鎖末端濃度、並びにそれと失活剤濃度およびルイス酸濃度との関係も重要な因子である。高い鎖末端濃度は、低分子量が目的であるときに必要になるが、オレフィンカップリングに優先的に有利である、というのはその工程が重合体鎖では二次的なものだからである。従って、所望の優勢な脱離速度を維持するためには、失活剤濃度および/または温度を上げるべきである。だが、これらの変化は両方とも、カルベニウムイオンの濃度を下げ、よって鎖末端のエキソ−オレフィン変換を減ずるという望ましくない影響を及ぼす。失活剤濃度の増加は、おそらくは失活剤とルイス酸間の錯体形成によりルイス酸の濃度を減少させ、そしてこれがカルベニウムイオン濃度を減少させることになる。その理由は、後者はおよそルイス酸濃度の二乗で変化するからである。従って、低分子量を目的とする処方では、高い失活剤濃度および高いルイス酸濃度で配合するべきで、好ましくは高温で実施する。目的の分子量が何であれカップリングを減らす方法は、追加の希釈剤で反応体全部を希釈することである。
【0042】
充分な濃度の塩基性電子供与体が存在する場合、失活剤濃度が準リビング鎖末端濃度のほんの一部であるときに、エキソ−オレフィン鎖末端への変換が改善されて得られることが判明している。このことは、これらの条件下で失活剤がカルベニウムイオンからプロトンを取り去り、続いてプロトンを電子供与体に移すことを示唆している。すなわち、失活剤は脱離の触媒として作用し、電子供与体はプロトン受容体として働きうる。(鎖末端に対して)化学量論濃度未満の失活剤の使用は、本発明の方法を実施する際に経済的利点をもたらすことになる。一方、塩基性電子供与体が不在で、例えば後者の代わりに共通イオン塩又はその前駆体が存在するときには、鎖末端の完全なエキソ−オレフィン変換には化学量論濃度又はそれ以上の失活剤が必要になることが判明している。これらの条件下では、失活剤は触媒とプロトン受容体両方として働きうる。
【0043】
好適な失活剤が当該分野では知られている。米国特許出願公開第US2006/0041083号明細書には、その内容も全て参照内容として本明細書の記載とするが、芳香族環に結合した少なくとも2個の炭化水素置換基を持つ窒素含有芳香環化合物(ただし、2,4−ジメチルピロール、1,2,5−トリメチルピロール、2−フェニルインドール、2−メチルベンズイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、および2,4,5−トリフェニルイミダゾールを除く)が開示されている。
【0044】
特に好ましい置換ピロール失活剤は下記i式を有する。
【0045】
【化2】

【0046】
式中、a)R1およびR4は独立に、炭素原子1〜約20個を含むアルキルであり、R2およびR3は独立に、水素または炭素原子1〜約20個を含むアルキル、炭素原子数約3〜約7のシクロアルキル、炭素原子数約6〜約30のアリール、炭素原子数約7〜約30のアルカリール、または炭素原子数約7〜約30のアラルキルであるか;あるいはb)R1とR2は、炭素原子数6〜10の縮合芳香環または炭素原子数4〜約8の脂肪族環を形成していて、R4は、炭素原子1〜約20個を含むアルキルであり、そしてR3は、水素または炭素原子1〜約20個を含むアルキル、炭素原子数約3〜約7のシクロアルキル、炭素原子数約6〜約30のアリール、炭素原子数約7〜約30のアルカリール、または炭素原子数約7〜約30のアラルキルであるか;あるいはc)R2とR3は、炭素原子数6〜10の縮合芳香環、または炭素原子数4〜約8の脂肪族環を形成していて、そしてR1およびR4は独立に、炭素原子1〜約20個を含むアルキルであるか;あるいはd)R1とR2およびR3とR4は両者とも組では、独立に炭素原子数6〜10の縮合芳香環または炭素原子数4〜約8の脂肪族環を形成している、ただし、該化合物は、2,4−ジメチルピロールでも、1,2,5−トリメチルピロールでも、2−フェニルインドール置換化合物でもない。特に好ましい置換ピロール失活剤は少なくとも一方のR2またはR3が水素であり、特に好ましいのは2,5−ジメチルピロールである。
【0047】
別の態様では、窒素含有五員芳香環失活剤は、下記ii式を有する置換イミダゾールである。
【0048】
【化3】

【0049】
式中、R3は、炭素原子約4〜約20個を含む分枝アルキルであり、そしてR1およびR2は独立に、水素、炭素原子数1〜約20のアルキル、炭素原子数約3〜約7のシクロアルキル、炭素原子数約6〜約30のアリール、炭素原子数約7〜約30のアルカリール、または炭素原子数約7〜約30のアラルキルであるか;あるいはR1とR2は、炭素原子数6〜10の縮合芳香環または炭素原子数4〜8の脂肪族環を形成している、ただし、該化合物は、2−メチルベンズイミダゾールでも、1,2−ジメチルイミダゾールでも、2,4,5−トリフェニルイミダゾールでもない。
【0050】
別の好適な失活剤の部類は、炭素原子、水素原子および窒素原子のみを含むヒンダード第二級又は第三級アミン類である、ただし、ヒンダード第二級又は第三級アミン類は次のものではない:(a)トリエチルアミン、(b)トリn−ブチルアミン、(c)トリヘキシルアミン、(d)トリイソオクチルアミン、(e)2−フェニルピリジン、(f)2,3−シクロドデノピリジン、(g)ジ−p−トリルアミン、(h)キナルジン、および(i)1−ピロリジノ−1−シクロペンテン。これら失活剤の開示内容は、米国特許出願公開第US2006/0041084号明細書に記述されていて、その内容も全て本明細書の記載とする。
【0051】
本発明の失活剤は、窒素原子と酸素又は硫黄ヘテロ原子を含む置換アゾールから選ばれる、ただし、置換アゾールの置換基は、準リビングカルボカチオン末端ポリオレフィンからビニリデン末端重合体を製造するのを促進することができるように選ばれる。1個の窒素原子と少なくとも1個の酸素又は硫黄ヘテロ原子を含む特に好ましいアゾールは、2,4位および2,4,5位が置換されている。
【0052】
置換アゾールは、1〜3個の炭化水素基又は置換炭化水素基で置換されていてもよい、ただし、「炭化水素」は本明細書で使用するとき、炭素元素と水素元素のみからなる有機化合物又は基をいう。さらに、本発明の縮合環アゾールは任意に、最大4個の炭化水素基又は置換炭化水素基で置換されていてもよい。これら炭化水素部としては、アルキル部、アルケニル部、アルキニル部およびアリール部が挙げられる。これらの部としてはまた、他の脂肪族又は環状炭化水素基で置換されたアルキル部、アルケニル部、アルキニル部およびアリール部、例えばアルカリール、アルケナリールおよびアルキナリールも挙げることができる。特に指示しない限り、これらの部は炭素原子1〜20個を含むことが好ましい。ここでいう「置換炭化水素」部は、少なくとも1個の炭素以外の原子で置換された炭化水素部であり、炭素鎖原子が窒素、酸素、ケイ素、リン、ホウ素、硫黄などのヘテロ原子またはハロゲン原子で置換された部が挙げられる。典型的な置換炭化水素部としては、アルコキシアルキル、アルケニルオキシアルキル、アルキニルオキシアルキル、アリールオキシアルキル、保護ヒドロキシアルキル、ケト、アシル、保護アミノアルキル、アルキルアルキルチオ、アリールアルキルチオ、ケタール、アセタール、アミド、およびエステル等を挙げることができる。置換アゾールは完全に置換されていることが好ましく、複素環の置換可能な位置が炭化水素又は置換炭化水素基で置換されていることを意味する。
【0053】
1個の窒素原子と1個の酸素原子を含む置換アゾール失活剤は、置換オキサゾール、好ましくは2,4,5置換オキサゾール、および置換ベンゾオキサゾールから選ばれる。1個の窒素原子と1個の硫黄原子を含む置換アゾール失活剤は、置換チアゾール、好ましくは2,4,5置換チアゾール、および置換ベンゾチアゾールから選ばれる。特に好ましい失活剤は下記I式の化合物によって表される。
【0054】
【化4】

【0055】
式中、R1およびR2は独立に、水素、炭素原子数1〜20のアルキル、炭素原子数約3〜約7のシクロアルキル、炭素原子数6〜約20のアリール、炭素原子数約7〜30のアルカリール、炭素原子数約7〜30のアラルキルであるか;あるいはR1とR2は一緒には、炭素原子数6〜10の縮合芳香環であって、非置換であっても、もしくは炭素原子数1〜約20のアルキル、炭素原子数約3〜約7のシクロアルキル、炭素原子数約6〜約30のアリール、炭素原子数約7〜約30のアルカリール、炭素原子数約7〜約30のアラルキル、炭素原子数約1〜6のアルコキシ、炭素原子数約1〜6のアルキルチオエーテル、ハロ、または式−NR***(ただし、R*およびR**は独立に、炭素原子数約4〜10のアルキル、炭素原子数約4〜約7のシクロアルキル、炭素原子数約6〜約10のアリール、炭素原子数約7〜約10のアルカリール、炭素原子数約7〜約10のアラルキルである)を有するアミノから独立に選ばれた1〜4個の置換基で置換されていてもよい縮合芳香環を形成していて;Rは、水素、炭素原子数1〜20のアルキル、炭素原子数約3〜7のシクロアルキル、炭素原子数6〜約20のアリール、炭素原子数約7〜30のアルカリール、炭素原子数約7〜30のアラルキルである;ただし、Rが水素であるときには、R2は炭素原子数が少なくとも3の分枝アルキル、アリール、シクロアルキル、アルカリールまたはアラルキルであり、またRがメチルであるときには、R1およびR2は独立に、炭素原子数1〜20のアルキル、炭素原子数約3〜約7のシクロアルキル、炭素原子数6〜約20のアリール、炭素原子数約7〜30のアルカリール、炭素原子数約7〜30のアラルキルから選ばれる;そして
Xは、酸素または硫黄である。
【0056】
別の好適な失活剤は、置換モルホリン、置換チオモルホリン、置換フェノチアジン、ただし、置換モルホリンは4−メチルモルホリンではなく、並びに置換又は非置換のジヒドロベンゾ[1,4]オキサジン、ジヒドロ[1,4]チアジンおよびフェノキサジンからなる群より選ぶことができる。好適な失活剤は、下記に示すIa乃至IVa式に従う化合物から選ぶことができる。
【0057】
下記Ia式に従う化合物から好適な失活剤を選ぶことができる。
【0058】
【化5】

【0059】
式中、R1乃至R8は独立に、水素、炭素原子数1〜20のアルキル、炭素原子数6〜約20のアリール、炭素原子数約7〜30のアルカリール、炭素原子数約7〜30のアラルキルであり;Rは、水素、炭素原子数1〜20のアルキル、炭素原子数6〜約20のアリール、炭素原子数約7〜30のアルカリール、または炭素原子数約7〜30のアラルキルであり;そしてXは、酸素または硫黄である;ただし、Rが水素またはメチルであるときには、一方のR1またはR2および一方のR7またはR8が独立に、炭素原子数約3〜20の分枝アルキル、アリール、アルカリールまたはアラルキルでない限り、R1、R2、R7およびR8は水素以外のものでなければならない。
【0060】
下記IIa式に従う化合物から別の好適な失活剤を選ぶことができる。
【0061】
【化6】

【0062】
式中、R10乃至R14は独立に、水素、炭素原子数1〜20のアルキル、炭素原子数6〜約20のアリール、炭素原子数約7〜30のアルカリール、炭素原子数約7〜30のアラルキルであり;R15およびR16は独立に、水素、炭素原子数1〜約20のアルキル、炭素原子数約3〜約7のシクロアルキル、炭素原子数約6〜約30のアリール、炭素原子数約7〜約30のアルカリール、炭素原子数約7〜約30のアラルキル、炭素原子数約1〜6のアルコキシ、炭素原子数約1〜6のアルキルチオエーテル、ハロ、または式−NR***(ただし、R*およびR**は独立に、炭素原子数約4〜10のアルキル、炭素原子数約4〜約7のシクロアルキル、炭素原子数約6〜約10のアリール、炭素原子数約7〜約10のアルカリール、炭素原子数約7〜約10のアラルキルである)を有するアミノから選ばれ;そしてXは、酸素または硫黄である;
ただし、R10が水素であるときには、一方のR11またはR12が炭素原子数約3〜20の分枝アルキル、アリール、アルカリールまたはアラルキルでない限り、R11およびR12は水素以外のものでなければならない。
【0063】
下記IIIa式に従う化合物から別の好適な失活剤を選ぶことができる。
【0064】
【化7】

【0065】
式中、R20は、水素、炭素原子数1〜20のアルキル、炭素原子数6〜約20のアリール、炭素原子数約7〜30のアルカリール、炭素原子数約7〜30のアラルキルであり;R21乃至R24は独立に、水素、炭素原子数1〜約20のアルキル、炭素原子数約3〜約7のシクロアルキル、炭素原子数約6〜約30のアリール、炭素原子数約7〜約30のアルカリール、炭素原子数約7〜約30のアラルキル、炭素原子数約1〜6のアルコキシ、炭素原子数約1〜6のアルキルチオエーテル、ハロ、または式−NR***(ただし、R*およびR**は独立に、炭素原子数約4〜10のアルキル、炭素原子数約4〜約7のシクロアルキル、炭素原子数約6〜約10のアリール、炭素原子数約7〜約10のアルカリール、炭素原子数約7〜約10のアラルキルである)を有するアミノから選ばれ;そしてXは、酸素または硫黄である;
ただし、R20が水素であるときにはXは酸素である。
【0066】
下記IVa式に従う化合物から別の好適な失活剤を選ぶことができる。
【0067】
【化8】

【0068】
式中、R30は、水素、炭素原子数1〜20のアルキル、炭素原子数6〜約20のアリール、炭素原子数約7〜30のアルカリール、または炭素原子数約7〜30のアラルキルであり;R31およびR32は独立に、水素、炭素原子数1〜20のアルキル、炭素原子数6〜約20のアリール、炭素原子数約7〜30のアルカリール、炭素原子数約7〜30のアラルキルであるか;あるいはR31およびR32は互いに隣接しているなら一緒に、炭素原子数6〜10の縮合芳香環であって、未置換であっても、あるいは炭素原子数1〜約20のアルキル、炭素原子数約3〜約7のシクロアルキル、炭素原子数約6〜約30のアリール、炭素原子数約7〜約30のアルカリール、炭素原子数約7〜約30のアラルキル、炭素原子数約1〜6のアルコキシ、炭素原子数約1〜6のアルキルチオエーテル、ハロ、または式−NR***(ただし、R*およびR**は独立に、炭素原子数約4〜10のアルキル、炭素原子数約4〜約7のシクロアルキル、炭素原子数約6〜約10のアリール、炭素原子数約7〜約10のアルカリール、炭素原子数約7〜約10のアラルキルである)を有するアミノから独立に選ばれた1〜4個の置換基で置換されていてもよい縮合芳香環を形成していて;そしてXは、酸素または硫黄である;ただし、R31およびR32が水素であるときにはR30は水素でもメチルでもない。
【0069】
[スルホン化]
本発明のポリイソブテニルスルホン酸は、メチル−ビニリデンを少なくとも90モルパーセント有し、数平均分子量が約350乃至5000で、かつ質量平均分子量と数平均分子量の比Mw/Mnが約1.4未満であることに特徴があるポリイソブテンの混合物を、三酸化硫黄−SO3−源を含むスルホン化剤と反応させることにより製造する。−SO3−源は、三酸化硫黄と空気の混合物、三酸化硫黄水和物、三酸化硫黄アミン錯体、三酸化硫黄エーテル錯体、三酸化硫黄リン酸塩錯体、硫酸アセチル、三酸化硫黄と酢酸の混合物、スルファミド酸、硫酸アルキル、またはクロロスルホン酸であってよい。反応は、それだけで行ってもよいし、あるいは任意の不活性無水溶媒中で行ってもよい。スルホン化の条件は重要ではない。反応温度は、−30℃乃至200℃の範囲にあってよく、用いる特定のスルホン化剤に依存する。例えば、硫酸アセチルは反応に低温を要し、生成物の分解を防ぐためには高温を避けるべきである。反応時間は、反応温度など他の条件によって数分から数時間まで変わりうる。如何なる遊離硫酸も洗い出したのちスルホン化ポリイソブテンを滴定することにより、反応の程度を測定することができる。スルホン化剤に対するポリイソブテンの一般的なモル比は約0.9乃至1.2であってよい。
【0070】
好ましいスルホン化剤は、ポリイソブテニルスルホン酸を直接生成させる硫酸アセチル(または、その場で硫酸アセチルを生成させる硫酸と無水酢酸の混合物)である。三酸化硫黄と空気の混合物など他のスルホン化剤は、加水分解してスルホン酸にする必要があるスルトン中間体を生成させうる。この加水分解工程は非常に遅いことがある。
【0071】
ポリイソブテンの数平均分子量は、約350乃至約5000の範囲にある。数平均分子量が約550、1000又は2300のポリイソブテンは特に有用である。本発明に用いられるポリイソブテンは、エキソ−オレフィン又はメチル−ビニリデンを少なくとも90モルパーセントという高い程度で有し、好ましくはメチル−ビニリデンを少なくとも95モルパーセント、より好ましくは少なくとも98乃至100モルパーセント有する。同様に、用いられるポリイソブテンの分子量分布(Mw/Mn)も狭く、好ましくは約1.4未満、より好ましくは約1.01乃至約1.3、最も好ましくは1.2又はそれ以下である。
【0072】
本発明のポリイソブテニルスルホネートは、ポリイソブテニルスルホン酸(上述のようにして製造した)を、アルカリ金属源又はアルカリ土類金属源と反応させることにより製造する。アルカリ金属源又はアルカリ土類金属を、任意の好適な手段によりスルホネートに導入することができる。一つの方法は、塩基的に反応する金属の化合物、例えば水酸化物をポリイソブテニルスルホン酸と結合させることからなる。これは一般に、水や、2−エチルヘキサノール、メタノールまたはエチレングリコールなどのアルコールのようなヒドロキシル促進剤とスルホネートに不活性な溶媒とを存在させて、通常は加熱しながら行う。これらの条件下で塩基的に反応する化合物は金属スルホネートを生成させる。その後、ヒドロキシル促進剤と溶媒を取り除いて金属スルホネートを生成させることができる。
【0073】
一定の状況下では、アルカリ金属ポリイソブテニルスルホネートを製造し、この物質を複分解によりアルカリ土類金属スルホネートに変換する方が都合がよい。この方法を使用して、スルホン酸を水酸化ナトリウム又はカリウムなどの塩基性アルカリ金属化合物と結合させる。得られたナトリウム又はカリウムスルホネートを水抽出により精製することができる。次いで、ナトリウム又はカリウムスルホネートをアルカリ土類金属塩と結合させて、アルカリ土類金属スルホネートとする。最も普通に用いられるアルカリ土類金属化合物はハロゲン化物であり、特には塩化物である。一般に、ナトリウム又はカリウムスルホネートをアルカリ土類金属の塩化物水溶液と一緒にして、複分解が起こるのに充分な時間撹拌する。その後、水相を取り除き、そして所望により溶媒を蒸発させてもよい。
【0074】
好ましい分子量が1000未満の低分子量ポリイソブテニルスルホネートは、アルカリ土類金属、特にはカルシウム、バリウムおよびマグネシウムといったアルカリ土類金属から誘導され、カルシウムとマグネシウムが最も好ましい。分子量が2000より大きい高分子量ポリイソブテニルスルホネートイオン分散剤は、アルカリ金属、好ましくはナトリウムおよびカリウムから誘導される。
【0075】
別の方法では、ポリイソブテニルスルホン酸を無灰塩基、例えば水酸化アンモニウム、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラn−ブチルアンモニウムで中和することができる。分子量が350乃至5000の無灰ポリイソブチレンスルホネートが好ましく、2000乃至5000のものが特に好ましい。
【0076】
本発明のポリイソブテニルスルホネートは、中性スルホネートまたは過塩基性スルホネートのいずれかである。過塩基性物質の特徴は、過塩基性と言われるスルホネート中に金属含量が金属カチオンの化学量論に従って存在する量よりも過剰にあることにある。よって、モノスルホン酸をカルシウム化合物などのアルカリ土類金属化合物で中和すると、酸当量毎にカルシウム1当量を含む標準的なスルホネートが生成する。言い換えれば、標準金属スルホネートはモノスルホン酸2モル毎にカルシウム1モルを含んでいる。
【0077】
公知の方法を使用することにより、スルホン酸の過塩基性又は塩基性の複合体を得ることができる。これら過塩基性物質は、金属をスルホン酸を中和するのに必要な量よりも過剰な量で含んでいる。高過塩基性スルホネートは、過塩基性スルホネートを反応条件下で二酸化炭素と反応させることにより製造することができる。過塩基性スルホネート及び他の過塩基性生成物の一般製造方法についての記述は、米国特許第3496105号(ルシュール、1970年2月17日発行)明細書に開示されていて、その内容も全て参照内容として本明細書の記載とする。
【0078】
過塩基化の量は、全塩基価(「TBN」)で表すことができて、スルホネート1グラムにおけるKOH1ミリグラムと同等の塩基の量を意味する。従って、TBN値が高いほど、生成物のアルカリ性が強いこと、よって保有するアルカリ度が大きいことを反映している。組成物のTBNは、ASTM D664、D2896、D4739試験法または他の同等の方法により容易に決定される。本発明の過塩基性ポリイソブテニルスルホネートは、比較的低いTBN、すなわち約0乃至約60でも、あるいは比較的高いTBN、すなわち60より高く約400まででも有することができる。
【0079】
本発明のポリイソブテニルスルホネートは、潤滑油に添加剤として有用である。ポリイソブテニルスルホネートは、優れた水耐性を有し、淡色であり、そして優れた性能特性をもたらす。
【0080】
本発明の潤滑油組成物は、主要量の潤滑粘度の油および少量の本発明のポリイソブテニルスルホネートを含有している。油は、石油から誘導してもよいし、あるいは合成であってもよい。油は、パラフィン系、ナフテン系、ハロ置換炭化水素、合成エステルまたはそれらの組合せであってよい。潤滑粘度の油の粘度は、100°Fで35乃至55000SUSの範囲にあるが、通常は100°Fで約50乃至10000SUSの範囲にある。潤滑油組成物は、本発明のポリイソブテニルスルホネートを分散性をもたらすのに充分な量で、一般には約0.1質量%乃至10質量%、好ましくは約0.5質量%乃至約7質量%の量で含有している。
【0081】
本発明のポリイソブテニルスルホネートと組み合わせて使用することができるその他従来の添加剤としては、酸化防止剤、消泡剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤および分散剤等を挙げることができる。
【0082】
本発明の潤滑油組成物は、内燃機関および自動変速機に使用でき、また油圧作動油、熱媒油、トルク液等のような工業油としても有用である。
【実施例】
【0083】
[実施例1]
(ポリイソブテンの製造)
上部撹拌器と熱電対を備えた5L容の四つ口丸底フラスコを、−60℃に維持したヘプタン浴に浸した。装置と浴を不活性雰囲気として無水窒素を含んだグローブボックス内に入れた。丸底フラスコに次の物質を充填した:ヘキサン2144.7mL、塩化メチル1429.8mL、IB422.5mL(5.17モル)、2−クロロ−2,4,4−トリメチルペンタン19.95g(0.134モル)、2,6−ルチジン14.2mL、および塩化テトラn−ブチルアンモニウム1.14g。溶液が−60℃で熱平衡に達するまで混合物を撹拌した。次いで、TiCl464.7mL(0.59モル)を反応器に入れてイソブチレンの重合を開始した。重合を15分間進め、その時点で2,5−ジメチルピロール23.2mL(0.228モル)を反応器に入れた。混合物を更に57分間撹拌し、その後メタノール107.5mL(2.657モル)で反応を停止した。
【0084】
混合物をグローブボックスから取り出し、揮発分を周囲条件で一晩かけて蒸発させた。有機層を5%HCl/脱イオンH2O溶液で繰返し抽出し、中性になるまで脱イオンH2Oで洗浄し、そののち硫酸マグネシウムで乾燥した。次に、有機層をセライトとシリカゲル両方でろ過し、最後にヘキサンを減圧蒸留により除去して、PIB(Mn=2240、Mw/Mn1.11)およそ275gを得た。「準リビング」PIBのメチル−ビニリデン%含量は98%であった。
【0085】
(ポリイソブテンのスルホン化)
上部撹拌器、氷浴、冷却器、熱電対および窒素導入口を備えた250mL四つ口丸底フラスコに、上記で製造した「準リビング」PIB40.0g(0.018モル)を加えた後、ヘキサン/塩化メチレン(15/85)50mLを加えた。これに10℃で無水酢酸2.58g(0.025モル)、および硫酸1.95g(0.019モル)を添加した。これを4.5時間撹拌して室温まで温めた。次いで、反応物を10℃に冷却し、そして反応物にメタノール5mLを添加した。この反応の生成物はPIBSO3Hであった。この生成物に、メタノール3.4g中のナトリウムメトキシド(1.13g、0.021モル)を添加し、そして反応物を6時間撹拌した。次に、余分な溶媒を減圧で除去してPIBSO3Na塩を得た。この生成物はNa1.37%、およびS1.92%を含んでいた。
【0086】
[比較例A]
BF3触媒法を用いた高メチル−ビニリデンPIBを、米国特許第5408018号明細書に開示されているようにして製造した。この高メチル−ビニリデンPIBは、Mn=2389、Mw/Mn=1.89であることを測定し、また高メチル−ビニリデンPIBのメチル−ビニリデン%含量は85%であった。この高メチル−ビニリデンPIB1194.5g(0.5モル)を、実施例1に開示したスルホン化反応に使用し、また他の全ての試薬を同じモル比で使用した。この反応の生成物はNa1.05%、およびS1.72%を含んでいた。
【0087】
[性能実施例]
1)低温/高温性能:
「準リビング」PIB(実施例1)および高メチル−ビニリデンPIB(比較例A)からのPIBSO3Na塩について、CCSおよびkvを測定することにより試験した。この性能試験を実施して、得られたポリイソブテニルスルホネートの低温及び相対高温性能を評価した。ASTM D5293を使用して、−20℃でのコールドクランキングシミュレータ(CCS)を測定した。ASTM D445を使用して、動粘度(kv、100℃)を測定した。実施例1及び比較例Aのポリイソブテニルスルホネートを取り出し、シェブロン100ニュートラル希釈油に4質量%と8質量%で溶解することにより、性能実施例溶液を作った。シェブロン100ニュートラルは2種油である。第1表にこれらの結果を示す。
【0088】
第 1 表:「準リビング」及び高メチル−ビニリデンPIB
から製造したPIBSO3NaのCCS及びkv試験
────────────────────────────────
試料(油中) 投与量 CCS(cP) kv(cSt)
(質量/質量)
────────────────────────────────
実施例1 4% 997 4.613
8% 1205 5.208
比較例A 4% 1016 4.749
8% 1285 5.556
────────────────────────────────
【0089】
このデータは、実施例1(「準リビング」PIBから製造したPIBSO3Na塩)が、比較例A(高メチル−ビニリデンPIBから製造したPIBSO3Na塩)と比較すると、CCS試験で測定した低温粘度性能が両投与量で改善されたことを示している。
【0090】
2)極限粘度数比較
極限粘度数は、重合体が粘度を増大させる能力を確認するために使用することができる。重合体の溶媒溶液の粘度(例えば、100℃のkv)を異なる二つの濃度で測定し、下記式から極限粘度数を決定することにより、極限粘度数が得られる。
【0091】

[η]=lim(η−η0)/(η0×c)
c→0
【0092】
ただし、[η]は極限粘度数であり、ηは溶液粘度であり、η0は溶媒粘度であり、そしてcは濃度(g/100mL)である。
【0093】
極限粘度数測定は、まず溶媒としてRLOP100N希釈油に溶解した実施例1(「準リビング」PIBから製造したPIBSO3Na塩)と、比較例A(高メチル−ビニリデンPIBから製造したPIBSO3Na塩)の100℃動粘度を測定することにより行う。我々が用いた濃度は、試料1.706及び3.412g/100mLであった。ASTM D445に記載された方法を使用して、細管粘度計で動粘度を測定した。
【0094】
次に、溶液の粘度を溶媒の粘度で割算することにより、相対粘度(ηr)を計算した。
ηr=ηsolution/ηsolvent (solution:溶液、solvent:溶媒)
【0095】
比粘度(ηsp)は、重合体の添加による粘度の分数変化率として定義される。
ηsp=(ηsolution−ηsolvent)/ηsolvent
【0096】
ηrもηspも濃度に依存するので、我々はηsp対濃度をプロットし、濃度ゼロに外挿して、切片である極限粘度数([η])を得る。極限粘度数は基本的に、単位質量当り重合体が占める容量を表している。
[η]は、R3/Mに比例する
【0097】
ただし、Mは重合体の分子量である。
【0098】
第 2 表: 極限粘度数
────────────────────────────
試料(溶媒として希釈油中) 極限粘度数[η]
(dl/g)
────────────────────────────
実施例1(「準リビング」PIBから 0.073
製造したPIBSO3Na塩)
比較例A(高メチル−ビニリデンPIB 0.087
から製造したPIBSO3Na塩)
────────────────────────────
【0099】
極限粘度数の値が高くなるほど、重合体は粘度をもっと増加させることができる。勿論、潤滑油添加剤でも低温特性は重要であり、添加剤にとっては極限粘度数が低い値であることが望ましい。第2表に示したデータは、実施例1(「準リビング」PIBから製造したPIBSO3Na塩)の[η]が、比較例A(高メチル−ビニリデンPIBから製造したPIBSO3Na塩)の[η]よりも低い(よって、容量が小さい)ことを実証している。従って相対的に、極限粘度数が低い値の本発明の実施例1は低温特性が改善されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の工程を含むポリイソブテニルスルホネートの製造方法:
a)イソブテンを準リビングポリマー系で重合してカルボカチオン末端準リビングポリマーを生成させる工程であって、イソブテン単量体をルイス酸および溶媒の存在下で、適切な準リビング重合反応条件で開始剤と接触させて、数平均分子量が約350乃至5000で、かつ質量平均分子量と数平均分子量の比Mw/Mnが約1.4未満である重合体を得ることからなる工程、
b)工程a)で製造した重合体を適切な失活剤と接触させて、それにより該失活剤がカルボカチオン末端準リビングポリマーを、メチル−ビニリデン含量が少なくとも90モルパーセントのポリイソブテン重合体に変換させる工程、
c)工程b)のポリイソブテン重合体を、スルホン化剤と0.9乃至1.2の比率で反応させ、次いでアルカリ金属源またはアルカリ土類金属源で中和する工程。
【請求項2】
開始剤が一官能性である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
開始剤が、2−クロロ−2−フェニルプロパン、2−アセチル−2−フェニルプロパン、2−プロピオニル−2−フェニルプロパン、2−メトキシ−2−フェニルプロパン、2−エトキシ−2−フェニルプロパン、2−クロロ−2,4,4−トリメチルペンタン、2−アセチル−2,4,4−トリメチルペンタン、2−プロピオニル−2,4,4−トリメチルペンタン、2−メトキシ−2,4,4−トリメチルペンタン、および2−エトキシ−2,4,4−トリメチルペンタンからなる群より選ばれる請求項2に記載の方法。
【請求項4】
開始剤が2−クロロ−2,4,4−トリメチルペンタンである請求項3に記載の方法。
【請求項5】
ルイス酸が、四ハロゲン化チタン、三ハロゲン化ホウ素、三塩化アルミニウム、四塩化スズ、塩化亜鉛、およびエチルアルミニウムジクロリドからなる群より選ばれる請求項1に記載の方法。
【請求項6】
ルイス酸が、四塩化チタン、四臭化チタンおよび三塩化ホウ素からなる群より選ばれる請求項5に記載の方法。
【請求項7】
ルイス酸が四塩化チタンである請求項6に記載の方法。
【請求項8】
準リビング重合反応条件が、−60℃から−10℃の間の温度範囲を示すように選ばれる請求項1に記載の方法。
【請求項9】
適切な失活剤が、置換ピロールおよび置換イミダゾールから選ばれた二炭化水素置換窒素含有五員芳香族化合物であるが、置換ピロールまたは置換イミダゾールの置換基は、準リビングカルボカチオン末端ポリイソブテンからビニリデン末端重合体を製造するのを促進することができるように選ばれる請求項1に記載の方法。
【請求項10】
失活剤が、下記式を有する置換ピロール失活剤である請求項9に記載の方法:
【化1】



式中、a)R1およびR4は独立に、炭素原子1〜約20個を含むアルキルであり、R2およびR3は独立に、水素または炭素原子1〜約20個を含むアルキル、炭素原子数約3〜約7のシクロアルキル、炭素原子数約6〜約30のアリール、炭素原子数約7〜約30のアルカリール、または炭素原子数約7〜約30のアラルキルであるか;あるいは
b)R1とR2とは、炭素原子数6〜10の縮合芳香環または炭素原子数4〜約8の脂肪族環を形成していて、R4は、炭素原子1〜約20個を含むアルキルであり、そしてR3は、水素または炭素原子1〜約20個を含むアルキル、炭素原子数約3〜約7のシクロアルキル、炭素原子数約6〜約30のアリール、炭素原子数約7〜約30のアルカリール、または炭素原子数約7〜約30のアラルキルであるか;あるいは
c)R2とR3は、炭素原子数6〜10の縮合芳香環または炭素原子数4〜約8の脂肪族環を形成していて、そしてR1およびR4は独立に、炭素原子1〜約20個を含むアルキルであるか;あるいは
d)R1とR2およびR3とR4とは、それぞれ組となって、独立に炭素原子数6〜10の縮合芳香環または炭素原子数4〜約8の脂肪族環を形成している、
ただし、該化合物は、2,4−ジメチルピロールであることも、1,2,5−トリメチルピロールでも、2−フェニルインドール置換化合物であることもない。
【請求項11】
適切な失活剤が、置換モルホリン、置換チオモルホリン、置換フェノチアジン、ただし、置換モルホリンは4−メチルモルホリンではない、置換又は非置換のジヒドロベンゾ[1,4]オキサジン、ジヒドロ[1,4]チアジン、およびフェノキサジンからなる群より選ばれる請求項1に記載の方法。
【請求項12】
適切な失活剤が、窒素原子と酸素又は硫黄ヘテロ原子を含む置換アゾール類からなる群より選ばれる、ただし、置換アゾールの置換基は、準リビングカルボカチオン末端ポリイソブテンからビニリデン末端重合体を製造することを促進できるように選ばれる、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
工程b)で得られた、メチル−ビニリデン含量が少なくとも90モルパーセントのポリイソブテン重合体の特徴が、数平均分子量が約350乃至5000で、かつ質量平均分子量と数平均分子量の比Mw/Mnが1.01乃至1.3である請求項1に記載の方法。
【請求項14】
質量平均分子量と数平均分子量の比Mw/Mnが1.1又はそれ以下である請求項13に記載の方法。
【請求項15】
ポリイソブテンが、メチル−ビニリデンを少なくとも95モルパーセント有することを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項16】
ポリイソブテンが、メチル−ビニリデンを少なくとも98乃至100モルパーセント有することを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項17】
ポリイソブテンが、数平均分子量が約550未満であることを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項18】
ポリイソブテンが、数平均分子量が約1000より大きいことを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項19】
ポリイソブテンが、数平均分子量が約2000より大きいことを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項20】
中和するのに化学量論的に過剰な量の金属を用いる請求項13に記載の方法。
【請求項21】
さらに、工程c)の生成物を過塩基化する工程を含む請求項20に記載の方法。
【請求項22】
低温及び高温粘度特性が改善された、ポリイソブテニルスルホネート含有潤滑油組成物を製造する方法であって、ポリイソブテンをスルホン化し、そしてポリイソブテニルスルホネートをアルカリ金属またはアルカリ土類金属と反応させることにより製造したポリイソブテニルスルホネートを、潤滑粘度の油に混合することにより製造する方法、ただし、該ポリイソブテンは、メチル−ビニリデンを少なくとも90モルパーセント有し、数平均分子量が約350乃至5000で、かつ質量平均分子量と数平均分子量の比Mw/Mnが約1.01乃至約1.4である。
【請求項23】
ポリイソブテンを準リビングカチオン重合反応から誘導する請求項22に記載の方法。
【請求項24】
請求項23に記載の方法により製造された生成物。
【請求項25】
請求項22に記載の方法により製造された生成物。
【請求項26】
メチル−ビニリデンを少なくとも90モルパーセント有し、数平均分子量が約350乃至5000で、かつ質量平均分子量と数平均分子量の比Mw/Mnが約1.4未満であることを特徴とするポリイソブテンを、スルホン化剤と反応させることにより得られたポリイソブテニルスルホン酸組成物。
【請求項27】
ポリイソブテンが、準リビング重合反応から誘導されてメタリルトリメチルシランにより官能化されたものである請求項26に記載の組成物。
【請求項28】
ポリイソブテンが、準リビング重合反応から誘導されて、ピロール類およびイミダゾール類から選ばれた適切な二炭化水素置換窒素含有五員芳香族化合物で失活したものである請求項26に記載の組成物。
【請求項29】
ポリイソブテンが、準リビング重合反応から誘導されて、置換モルホリン、置換チオモルホリン、置換フェノチアジン、ただし、置換モルホリンは4−メチルモルホリンではない、置換又は非置換のジヒドロベンゾ[1,4]オキサジン、ジヒドロ[1,4]チアジンおよびフェノキサジンからなる群より選ばれた適切な失活剤で失活したものである請求項26に記載の組成物。
【請求項30】
ポリイソブテンが、準リビング重合反応から誘導されて、窒素原子と酸素又は硫黄ヘテロ原子を含む置換アゾール類からなる群より選ばれた適切な失活剤で失活したものである、ただし、置換アゾールの置換基は、準リビングカルボカチオン末端ポリイソブテンからビニリデン末端重合体の製造を促進するように選ばれる請求項26に記載の組成物。
【請求項31】
ポリイソブテンが、メチル−ビニリデンを少なくとも95モルパーセント有することを特徴とする請求項26に記載の組成物。
【請求項32】
ポリイソブテンが、メチル−ビニリデンを少なくとも98乃至100モルパーセント有することを特徴とする請求項31に記載の組成物。
【請求項33】
ポリイソブテンが、数平均分子量が約550未満であることを特徴とする請求項26に記載の組成物。
【請求項34】
ポリイソブテンが、数平均分子量が約1000より大きいことを特徴とする請求項26に記載の組成物。
【請求項35】
ポリイソブテンが、数平均分子量が約2000より大きいことを特徴とする請求項26に記載の組成物。
【請求項36】
ポリイソブテンが、質量平均分子量と数平均分子量の比Mw/Mnが1.01乃至1.3であることを特徴とする請求項26に記載の組成物。
【請求項37】
ポリイソブテンが、質量平均分子量と数平均分子量の比Mw/Mnが約1.1未満であることを特徴とする請求項26に記載の組成物。
【請求項38】
請求項26に記載の組成物を中和することにより製造されたポリイソブテニルスルホン酸塩。
【請求項39】
中和するのに無灰塩基を使用する請求項38に記載のポリイソブテニルスルホン酸塩。
【請求項40】
ポリイソブテンが、数平均分子量が約2000より大きいことを特徴とする請求項39に記載のポリイソブテニルスルホン酸塩。
【請求項41】
中和するのにナトリウムまたはカリウムから選ばれたアルカリ金属を使用し、そしてポリイソブテンが、数平均分子量が約2000より大きいことを特徴とする請求項38に記載のポリイソブテニルスルホン酸塩。
【請求項42】
中和過程で、過剰のアルカリ金属またはアルカリ土類金属を導入する請求項38に記載のポリイソブテニルスルホン酸塩。
【請求項43】
TBNが、ASTM D2896試験法で測定したときに0より大きく約60までである請求項42に記載のポリイソブテニルスルホン酸塩。
【請求項44】
TBNが、ASTM D2896試験法で測定したときに60乃至約400である請求項42に記載のポリイソブテニルスルホン酸塩。

【公開番号】特開2008−195921(P2008−195921A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2007−323319(P2007−323319)
【出願日】平成19年12月14日(2007.12.14)
【出願人】(598037547)シェブロン・オロナイト・カンパニー・エルエルシー (135)
【Fターム(参考)】