説明

低屈折率層および高屈折率層の厚み比率が最適化されている耐熱性反射防止被覆を有する光学物品

本発明は反射防止特性および高耐熱性を有す光学物品に関係し、少なくとも1つの高屈折率層および少なくとも1つの低屈折率層を含む多層構造の反射防止被覆を施した少なくとも1つの主面を有する基材から構成され、ここに比率:R、すなわち、反射防止被覆の低屈折率層の物理的厚みの合計/反射防止被覆の高屈折率層の物理的厚みの合計が2.1より大きい。
反射防止スタックが≧100nmの物理的厚みの低屈折率層で反射防止被覆の最外側層ではないものを少なくとも1つ含む場合、前記の比較的厚い層および下にある層はRの計算には考慮されない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の背景
《1.発明の分野》
本発明は改善された耐熱性および良好な耐擦傷性を有する多層構造の透明な反射防止(AR)被覆を施した基材から構成される光学物品に関し、とりわけ眼鏡レンズ、およびこのような光学物品の製造に関する。
【背景技術】
【0002】
《2.関連技術の説明》
眼鏡レンズまたはレンズ素材のようなレンズ基材の少なくとも1つの主表面に、完成したレンズに付加的または改善された光学的または機械的特性を与えるための数層の被覆を施すことは、技術的によく行われていることである。これらの被覆は一般に機能性被覆と称される。
【0003】
かくして、とりわけ有機ガラス材料でできたレンズ基材の少なくとも1つの主表面にレンズ基材の表面から始めて、耐衝撃被覆(耐衝撃プライマー)、耐擦傷および/または耐スクラッチ被覆(ハードコート)、反射防止被覆および、所望により、汚れ防止トップコートを連続的に施すことは常套手段である。偏光被覆、光互変異性または染色被覆のような他の被覆をレンズ基材の一方または両表面に施す場合もある。
【0004】
反射防止被覆は光学物品の表面に形成した場合にその反射防止特性を改善する被覆と定義される。これは比較的広い帯域の可視スペクトル領域で物品−空気界面の光の反射を低減させる。
【0005】
反射防止被覆は周知のもので伝統的にSiO、SiO、Al、MgF、LiF、Si、TiO、ZrO、Nb、Y、HfO、Sc、Ta、Pr、およびこれらの混合物のような誘電体材料の単層または多層のスタックを含む。本来、これらは一般に無機物である。
【0006】
さらに反射防止被覆は交互に高屈折率層(HI)および低屈折率層(LI)から構成される多層構造の被覆であることが好ましいこともよく知られている。
【0007】
さらに基材および最初の反射防止被覆の間に副層を挟みこれにより前記被覆の耐擦傷および/または耐スクラッチ性および基材に対する接着性を改善することも知られている。
【0008】
通常、伝統的な反射防止(AR)被覆の満足な耐熱性は約70℃までであった。この温度より上ではARスタック、とりわけ光学物品の基材の表面に亀裂が生じる場合がありこれがAR被覆を破損する。本特許出願においては、物品または被覆に亀裂が観察され始める温度を臨界温度(T)と呼んでいる。
【0009】
有機ガラス基材(合成樹脂)の場合、反射防止被覆(所望により副層を含む)の形成は基材の劣化を防ぐために程々の温度の処理が行われなくてはならない。無機ガラス素材の場合はそのような予防措置は無用である。
【0010】
低めの温度による処理の結果として、有機ガラス基材の場合、一般にAR被覆の耐久性が低下する。
【0011】
さらに、有機ガラス基材は(被覆されていてもいなくても)反射防止被覆の層または副層を構成する無機材料より高い熱膨張係数を持っている。その結果として物品に高い応力が生じやすいことにつながる。このような応力は温度が上昇した場合に肉眼で見える亀裂または剥離をAR被覆に発生させる場合がある。
【0012】
この現象は有機基材がジエチレングリコールビス(アリルカーボネート)モノマー類、エピスルフィドモノマー類(n≧1.70の反射率を有する材料)、またはポリチオウレタン(1.60以上の反射率nを有する材料)をベースにしている場合にとりわけ顕著である。
【0013】
光学物品の臨界温度を改善する異なる方法は文献に見いだすことができる。
【0014】
特許文献1には交互に高屈折率層(TiO)および低屈折率層(少量のAlをドープしたSiO、n=1.47)から構成される反射防止被覆のような多層構造の誘電体膜を被覆した光学物品が記載されている。この文献によると、SiOの代わりにSiO/Al混合物を用いることがLI層の応力、およびその結果として基材表面のクラック出現の可能性を低減することを可能にしている。
【0015】
特許文献2(HOYA社)では初期に良好な耐熱性を有し、かつ数ヶ月後にも高いレベルで加熱に対する耐性が維持される光学物品の調合について記載している。両方の特性は基材ならびにHIおよびLI層から構成される多層構造のAR被覆の間に挟み込まれ1.48〜1.52の屈折率を有するSiO/Al副層を用いることにより得られる。幾つかのLI層はTa+Y+SiOおよび所望によりAlの混合物から構成されることで屈折率が1.61〜1.62となり、これはLI層としては比較的高い。特殊な副層はクラックが出現する臨界温度を初期段階で100〜105℃まで改善する。
【0016】
特許文献3は後者の日本国特許の改良型でここではSiO/Al副層はSiO/Ta/SiO/Al混合物の3層副層に置き換えられている。ジエチレングリコールビス(アリルカーボネート)基材の初期段階における光学物品の臨界温度は95〜120℃まで上げられている。
【0017】
特許文献4(セイコーエプソン社)では89〜178nmの物理的厚み(光学的厚み:520nmで0.25〜0.5λ)を有するSiO副層および4層反射防止被覆ZrO/SiO/ZrO/SiOを施したハードコート付の基材について記載している。この文献によると、高い臨界温度は被覆の厚みおよび種々の材料の層の間の応力をバランスできることにより到達できる。しかしながら、研究された唯一のパラメータは副層の厚みだけであった。その厚みは、比率(副層を含むSiO層の物理的厚みの合計)/(ZrO層の物理的厚みの合計)が2から3の範囲になるようなものにすべきである。これより高い比率はAR被覆の耐久性が低下するので好ましくないとされている。実際には、副層が100nm以上の物理的厚みを有する場合には計算には考慮されず、実施例ではLI/HI比率は2以下である。
【0018】
特許文献5(HOYA社)ではプラスチック基材およびλ/4−λ/2−λ/4またはλ/4−λ/4−λ/2−λ/4のARフィルムを有し優れた耐熱性を有する光学素子について記載している。物品にはプラスチック基材およびARフィルムの間の接着性を促進するためにNb(ニオブ金属)またはSiO副層が備えられている。良好な耐熱性を達成するためには2つの条件がある:i)少なくとも3層から構成されかつ1.80から2.40の屈折率を有するフィルムと同等のλ/2の固有の層を使用すること;ii)同等フィルムの偶数番目の層がSiO層でなくてはならないこと。
【0019】
特許文献6(HOYA社)ではプラスチック基材から構成され、その上にニオブ金属(Nb)および反射防止被覆をこの順で備えた光学素子について記載している。前記の副層はプラスチック基材および反射防止被覆の間の高い接着性と同時に、優秀な耐熱性および耐衝撃性に関与している。SiO副層は光学素子の耐熱性を減少させるとされている。
【0020】
市販されている耐熱性の反射防止スタックもまた知られている。エシロール社が供給するNeomultidiafal nMDはZrO/SiO/ZrO/SiO各層の厚みが12、54、28および102nmである4層の被覆である。これはこの順で耐擦傷被覆を施したORMATM基材(CR−39TMモノマーをベースとしたエシロールのポリカーボネート基材)の上に形成されている。完成した光学物品の臨界温度は110℃である。しかしながら、この市販されている反射防止スタックを両側に塗工された光学物品の可視範囲(380〜780nm)の平均視感反射率Rは最高で2.3%(片面あたり1.15%)ある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【特許文献1】米国特許出願公開第2005/0219724号明細書
【特許文献2】特開平05−011101号公報
【特許文献3】特開平05−034502号公報
【特許文献4】特開2002−122820号公報
【特許文献5】欧州特許出願公開第1184685号明細書
【特許文献6】欧州特許出願公開第1184686号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
〈発明の大要〉
本発明の第1の目的は、有機または無機ガラス基材から構成され、無機反射防止被覆を有し、改善された熱および温度の変化に対する抵抗性、すなわち高臨界温度を有し、すでに知られている耐熱ARを施した光学物品に替わり得る、透明な光学物品、好ましくはレンズ、より好ましくは眼鏡用の眼科レンズを提供することである。
【0023】
亀裂に対して抵抗性のあるこのような無機の反射防止被覆はとりわけ半完成レンズの第1面、一般には前(凸)面に適用される場合に興味深く、それはこのような場合には前面のAR被覆を変化させることなくレンズの第2面(一般には背面)にAR被覆をスピンコートにより形成し続いて高めた温度で硬化することが可能となるからである。
【0024】
本発明の第2の目的は、高臨界温度(75〜110℃)のこのようなAR被覆を載せた光学物品を、色および反射防止性能、洗浄性、層の基材に対する接着性、耐擦傷性および耐食性のような前記物品の光学的および機械的性能を損なうことなく、提供することである。
【0025】
とりわけ光学物品は後に機械的表面処理が続く高温水の浸漬に対して良好な抵抗性がなくてはならない。
【0026】
さらに、その平均視感反射率Rはできるだけ低くあるべきである。
【0027】
加えて、臨界温度は長期間後も高レベルに保たれるべきである。本発明の別のねらいは、上に定義した物品を伝統的な製造連鎖に容易に組み込むことができかつ基材の加熱を回避して製造する過程を提供することである。層の形成は20℃から30℃の範囲の温度で実施できるかもしれない。
【課題を解決するための手段】
【0028】
発明者はこれらの問題が(反射防止スタックの低屈折率層の物理的厚みの合計)/(反射防止スタックの高屈折率層の物理的厚みの合計)の比率、またはARスタックが≧100nmの物理的厚みを有し、ARスタックの最外側層ではない少なくとも1つのLI層を含む場合はわずかに異なる比率を最適化することにより解決できることを見いだした。伝統的な反射防止スタックが有するかくも低い比率に比較して、この独創的な反射防止スタックは高い比率およびより高い臨界温度を維持しながら同時に高い耐擦傷性を示している。
【0029】
本発明は少なくとも1つの高屈折率層および少なくとも1つの低屈折率層のスタックから構成される多層構造の反射防止被覆を施した少なくとも1つの主面を有する基材から構成される反射防止特性を有する光学物品に関係し、ここに:
‐ 各々の低屈折率層の屈折率は1.55以下であり、
‐ 各々の高屈折率層の屈折率は1.55を超えかつ五酸化ニオブ(Nb)を含まず、
‐ 光学物品の前記の被覆を施した主面の平均視感反射率はR≦1%で、さらに:
(a)前記被覆の最外側層の下の反射防止被覆の低屈折率層はそれぞれ<100nmの物理的厚みを持ち、比率
【数1】


が2.1より高く、かつ反射防止被覆がニオブ(Nb)から構成される副層を含まず、または:
(b)反射防止被覆は次のものを含む:
‐ ≧100nmの物理的厚みを有しそれが反射防止被覆の最外側層ではない少なくとも1つの低屈折率層、および
‐ ≧100nmの物理的厚みを有しかつ基材から最も遠い反射防止被覆の最外側層ではない低屈折率層の上に位置する少なくとも1つの高屈折率層および少なくとも1つの低屈折率層、さらに比率
【数2】


が2.1より高い。ただし前記Rの計算に考慮される反射防止被覆の層は≧100nmの物理的厚みを有しかつ基材から最も遠い反射防止被覆の最外側層ではない低屈折率層の上に位置する層のみであるという条件付である。
【0030】
上の光学物品を製造する方法を提供することは本発明のもう1つの目的で、次の手順から構成される:
‐ 2つの主面を有する光学物品を用意し、
‐ 前記光学物品の少なくとも1つの主面に上に記載したような、所望により副層を含む反射防止被覆を形成するが、ここに反射防止被覆の層は真空蒸着により被覆される。
【0031】
本発明のさらに別の目的は≧75℃の臨界温度を有する多層構造の反射防止被覆を施した少なくとも1つの主面を有する基材から構成される光学物品を得る一連の作業を提供することで、ここに前記の反射防止被覆は、上記の条件付で、Rは上で定義したものとして、2.1より大きなR比率を示す。
【0032】
本発明のさらなる目的は光学物品の基材の少なくとも1つの主面上に被覆させた多層構造の反射防止被覆に、上記の条件付で、Rは上で定義したものとして、2.1より大きなR比率を用い、≧75℃の臨界温度を有する光学物品を得ることである
【0033】
本発明の他の目的、特長、優位性は後に続く詳細な説明により明らかになる。しかしながら、詳細な説明および具体的な実施例は本発明の具体的な実施態様を示す一方で、説明する手段としてのみ与えられたものであることは当然であり、それはこの詳細な説明から本発明の精神および領域内における種々の変更および修正が当業者には明らかだからである。
【発明を実施するための形態】
【0034】
〈発明の詳細な説明および好適な実施態様〉
用語「含む(comprise)」(およびその全ての文法的な変形)、「持つ(have)」(およびその全ての文法的な変形)、「包含する(contain)」(およびその全ての文法的な変形)、および「含む(include)」(およびその全ての文法的な変形)は制約されない関連動詞である。これらは記載された機能、整数、手順もしくはこれらの要素または群の存在を明記するために用いられるが、1つ以上の他の機能、整数、手順もしくはこれらの要素または群の存在を排除するものではない。その結果、1つ以上の手順または要素を「含む(comprises)」、「持つ(has)」、「包含する(contains)」、「含む(includes)」方法または方法の手順は1つ以上の手順または要素を保有するが、それら1つ以上の手順または要素のみの保有に限定はされない。
【0035】
特に断りのない限り、成分、反応条件、その他の量に言及してここに用いる数値または表現は全ての場合に用語「約」で修正されていると解釈するものとする。
【0036】
ここに、用語「レンズ」とは有機または無機のレンズで、種々の性質の1つ以上の被覆で塗工されている場合もあるレンズ基材から構成されているものを意味する。
【0037】
光学物品が1つ以上の表面被覆を含む場合、用語「光学物品上に層を被覆する」とは光学物品の最外側被覆の上に層が被覆されることを意味する。
【0038】
用語AR被覆およびARスタックは同じ意味を持つ。
【0039】
反射防止被覆の最外側層とは、基材から最も遠い反射防止被覆の層を意味する。
【0040】
反射防止被覆の最内側層とは、基材に最も近い反射防止被覆の層を意味する。
【0041】
反射防止被覆の内側層とは、全ての反射防止被覆の層を意味するが前記AR被覆の最外側層を除く。
【0042】
「層2より下の/低い層1」とは、層2が層1よりも基材から遠いと解釈されるものとする。
【0043】
「層2より上の/高い層1」とは、層2が層1よりも基材に近いと解釈されるものとする。
【0044】
本発明においては、反射防止被覆は光学物品の耐熱性を向上させるようにできるだけ高い比率Rとなるように設計されている。実際に、臨界温度と上に述べた比率Rの間の関係が立証されてきている。
【0045】
いかなる特定の仮説にこだわるまでもなく、出願者はARスタック内のクラックは高屈折率層の内部から始まると考えている。目に見えるようになるためには、クラックはAR被覆内に伝播しその寸法を拡大しなくてはならない。考えられる仮説は、出願者が関与しているわけではないが、LI層はHI層より良好な耐引張性があり、さらにその厚みが十分であれば亀裂を限定することができるというものである。その結果として、高い物理的厚み比率Rを持つことが必要で、これはARスタック内に100nm以上の内側LI層が存在しない限りARスタック全体で計算される。実際、厚みの高いLI層(100nmより高い)が反射防止被覆内に存在する場合には、これによりクラックの伝播が遮られる可能性がある。この場合、比率Rはスタックの上方部分、すなわち前記の厚みの高いLI層およびその下にある層を考慮せずに計算されなければならない。幾つかの厚みの高いLI層が存在する場合、Rは≧100nmの物理的厚みを有しかつ基材から最も遠い反射防止被覆の最外側層ではない厚い低屈折率層の上方に位置するスタック部分について計算される。
【0046】
出願者が関与しているわけではないが、もう1つの考えられる仮説は光学的スタックの構造、とりわけ各々の材料の物理的厚みの比率がスタックの応力状態に影響を及ぼすというものである。圧縮応力(LI層は圧縮状態にある)が高いほど、臨界温度の挙動が良好になる。
【0047】
本出願において、単層構造または多層構造の副層(これらは随意的な構成要素である)は例えこれらが光学物品の反射防止特性に寄与しなくとも反射防止スタックの一部と見なされることは注目に値する。したがって、所望による副層の層の厚みは、前記の層が反射防止被覆の最外側層ではない≧100nmの物理的厚みを有する低屈折率層の下にあるのではない場合、または前記の層が≧100nmの物理的厚みを有する低屈折率層ではない場合には、Rの計算に考慮される。後者の場合、≧100nmの物理的厚みを有する副層のLI層の下にある層および≧100nmの物理的厚みを有する副層のLI層の厚みはR計算において考慮されない。
【0048】
さらにARスタックの最外側層は100nm以上の厚みを有するLI層であってもよいことは注目に値する(この場合、これはRの計算に考慮される)。特に断りのない限り、本特許出願に記述される全ての厚みは物理的厚みである。
【0049】
は以下に示す全ての値の1つに等しいかより高いことが好ましい:2.15、2.2、2.25、2.3、2.35、2.4、2.45、2.5、2.75、3、3.5、4。
【0050】
本発明により塗工された物品の臨界温度は≧75℃が好ましく、≧80℃がより好ましく、≧85℃がなおよく、≧90℃が最もよい。
【0051】
ここに用いた、低屈折率層は1.55以下、好ましくは1.50未満、なおよくは1.45未満の屈折率の層を意味することを意図し、さらに高屈折率層は1.55より高い、好ましくは1.6より高い、より好ましくは1.8より高い、なおよくは2より高い屈折率の層を意味することを意図するが、両者とも550nmの参照波長においてである。特に断りのない限り、本特許出願に表示されている屈折率は25℃およびλ=550nmで示されている。
【0052】
HI層は伝統的な高屈折率層で、これらに制限されないが、TiO、PrTiO、LaTiO、ZrO、Ta、Y、Ce、La、Dy、Nd、HfO、Sc、PrまたはAl、またはSiと同様にこれらの混合物、好ましくはTiOまたはPrTiOのような1つ以上の無機酸化物を含む場合がある。HI層は所望によりSiOのような低屈折率材料を含む場合もある。当然ながら、これらの化合物の混合物はできた層の屈折率を上で定義したようにするものである(1.55より高い)。HI層はNbを含まずかつNbを含む化合物の混合物の蒸着により製造されることはない。
【0053】
TiOは最も好まれるHI材料である。その高屈折率(500nmにおいてn=2.35)のおかげでHI層の物理的厚みは減少でき、そうなるとR比率を増加できる。好適な実施態様では、反射防止スタックの少なくとも1つのHI層はTiOを含むが、TiOから成ることが好ましい。イオン支援(IAD)の下で被覆されることが好ましく、これにより引っ張り強度が低下しその屈折率が増加する。
【0054】
別の好適な実施態様によると、反射防止スタックの少なくとも1つのHI層はPrTiOを含むが、PrTiOから成ることが好ましい。その高い耐熱性のため、この酸化物材料はとりわけ興味深い。その高い耐熱性が同時に臨界温度に対する高いR比率をそれほど目立ったものにしていない原因かもしれないことにも留意すべきである。
【0055】
LI層もまた周知のもので、これらに制限されないが、SiO、MgF、ZrF、Al、AlF、チオライト(Na[Al14])、クリオライト(Na[AlF])、またはこれらの混合物を含むことがあり、SiOまたはスタックの臨界温度を高めるのに寄与するAlにドープしたSiOが好ましい。当然ながら、これらの化合物の混合物はできた層の屈折率を上で定義したようにするものである(1.55以下)。SiO/Al混合物を用いる場合、LI層はこの層内のSiO+Alの合計重量に対しAlを重量で1から10%含むことが好ましく、1から8%含むことがより好ましい。アルミナ量が多すぎるとAR被覆の接着性に弊害をもたらす。
【0056】
例えば、重量で4%以下のAlでドープしたSiO、または8%のAlでドープしたSiOも採用することができる。Umicore Materials社が提供するLIMATM(550nmの屈折率n=1.48〜1.50)、またはMerck KgaA社の物質L5TM(500nmの屈折率n=1.48)のような市販のSiO/Al混合物もまた採用できる。LI層に最も好適な材料は重量で8%のAlでドープしたSiOである。この材料により反射防止スタックは最高レベルの臨界温度に達し、その上これは数ヶ月後でも維持される。前記スタックはまた最も圧縮性のものでもある。
【0057】
好適な実施態様において、反射防止被覆の少なくとも1つのLI層はSiOおよびAlの混合物を含むが、SiOおよびAlから成ることが好ましい。別の好適な実施態様では、反射防止被覆のすべてのLI層(前記反射防止被覆が少なくとも1つのLI層を有する副層を含む場合は、副層のLI層を除く)はSiOおよびAlの混合物を含むが、SiOおよびAlの混合物から成ることが好ましい。
【0058】
本発明の好適な実施態様によると、AR被覆の最外側層は、比率R’(AR被覆の最外側層の物理的厚み)/(AR被覆の最後から2番目の層の物理的厚み)が2以上、よりよくは2.1、より好ましくは2.2以上、なおより好ましくは2.5以上、よりよくは3以上、最高は3.5以上、さらに最適は4以上となるようにHI層の上に被覆されたLI層である。
【0059】
一般に、HI層は10から120nmの範囲の物理的厚みを持ち、LI層は10から100nmの範囲の物理的厚みを持っている。
【0060】
反射防止被覆の物理的厚みの合計は1マイクロメーターより低いことが好ましく、500nm以下がより好ましくさらに250nm以下がなおよい。反射防止被覆の物理的厚みの合計は一般に100nmより高く150nmを超えることが好ましい。
【0061】
本発明による反射防止被覆は完成した光学物品の反射防止特性を可視スペクトル領域の少なくとも一部で改善し、これにより光の透過率を増し表面反射率を減少する全ての層および層のスタックを含んでもかまわない。
【0062】
多層構造の反射防止被覆は少なくとも2つのLI層および少なくとも2つのHI層を含むことが好ましい。好ましくは、反射防止被覆の層の合計数は≦9で、≦7が好ましい。
【0063】
本発明による特定の実施態様に基づくと、反射防止被覆は4つの反射防止層を含んではいない。
【0064】
本発明による特定の実施態様に基づく反射防止被覆は低屈折率および高屈折率層の交互のスタックを含む場合があるが、LIおよびHI層はARのスタックにおいて必ずしも交互になくてもよい。2つ以上のHI層が互いの上に被覆される場合もあり;2つ以上のLI層が互いの上に被覆される場合もある。
【0065】
好適な実施態様では、多層構造のARスタックの最外側層は低屈折率層である。
【0066】
所望により、反射防止被覆は副層を含む。「副層」とは一般に接着性の改善または耐擦傷および/または耐スクラッチの改善を目的として採用される層を意味する。本特許出願では、AR被覆は「反射防止層」および所望により副層を含む。前記の副層は「反射防止層」とは称されないが、反射防止スタックの一部と見なされている。これは基材(剥き出しまたは塗工されているかのどちらか)およびAR被覆の反射防止層、すなわち、光学物品のAR特性に著しい影響を与えるこれらの間に挟まれている。副層は一般に比較的高い厚みがあり、かつ一般に反射防止作用には関わらずさらに著しい光学的な影響も持たない。
【0067】
副層は文献内で時には下層、内在層、プライマー層、基層、低位層、接着層、下塗り層または基礎層と称せられる。
【0068】
所望により副層はラミネートされて、すなわち幾つかの層から構成されていることがある。単層構造の副層が多層構造の副層より好まれる。
【0069】
副層の厚みは反射防止被覆の他の層の基材に対する耐擦傷性を促進できる十分な厚みでなくてはならない。存在する場合には、副層は一般に耐擦傷および/または耐スクラッチ被覆の上に形成される。
【0070】
前記の副層は75nm以上の厚みがあることが好ましく、≧80nmがより好ましく、≧100nmがなおより好ましく、≧120nmがさらによい。その厚みは通常250nmより低く、200nmより低いことが好ましい。
【0071】
従来から副層を設けるために用いられている1つ以上の材料、例えば本明細書に先に記載された材料から選ばれた1つ以上の誘電体材料を含む場合もある。
【0072】
副層はSiOをベースとした単層の副層であることが好ましく、Alを含まないことがより好ましい。この場合、前記のSiO副層はARスタックの低屈折率層と見なされる。副層はSiOから構成される単層構造の副層であることが最も好ましい。
【0073】
別の好適な実施態様では、副層は多層構造の副層で次のものから構成される:
‐ 好ましくは75nm以上の厚みを持ち、より好ましくは≧80nm、さらにより好ましくは≧100nm、なおよくは≧120nmのSiOから構成された1つの層;および
‐ SiOから構成された前記の層および光学物品の基材、これは塗工済みの基材であってもよいが、の間に挟まれている最大3つの層。
【0074】
別の実施態様では、副層は少なくとも1つの金属または金属酸化物の薄い層から成り、10nm以下の厚みを有し、5nm以下が好ましい。
【0075】
前記被覆の最外側層の下の反射防止被覆の低屈折率層、すなわち内側LI層が各々<100nmの物理的厚みである場合、反射防止被覆はニオブ金属(Nb)から構成される副層を含まない。
【0076】
本発明による特定の実施態様に基づくと、この独創的な反射防止被覆は副層を全く含まない。
【0077】
本発明による別の特定の実施態様に基づくと、反射防止被覆の最外側層ではなく、≧100nmの厚みを有する少なくとも1つの低屈折率層を含む場合、反射防止被覆はニオブ(Nb)から構成される副層を含まない。
【0078】
光学物品は、とくに乾燥した状態で布またはポリエステル片でその表面をこすって掃除した場合に静電気を帯電する傾向があることはよく知られている。その結果、レンズが帯電している限りレンズの近くにあるホコリのような小さな粒子を引きつけ留めることがある。
【0079】
技術的には少なくとも1つの導電性の層を反射防止スタック内に含むことにより反射防止塗工レンズに帯電防止性を授けることは知られている。これは速やかに帯電を消散させる手助けになる。導電性の層を含むARスタックを施した基材は、例えば国際公開第01/55752号パンフレットおよび欧州特許出願公開第0834092号明細書に記載されてきている。
【0080】
本発明による光学物品をARスタック内に少なくとも1つの導電性の層を組み込むことにより帯電防止状態にすることができる。これはARスタックの随意的な副層または反射防止層に被覆されることが好ましい。
【0081】
「帯電防止」とは、感知できるほどの帯電を保持および/または成長させない特性を意味する。適当な布でこすった後でホコリや微小粒子を引きつけたり留めたりしない場合に、一般に物品には満足できる帯電防止性があると見なされる。
【0082】
布による摩擦または他の全ての帯電発生手段(コロナ放電により加えられた電荷・・・)により作り出された静電気を撤退させるガラスの能力は前記の電荷を消散させるのに要する時間を測定することにより定量化することができる。かくして、帯電防止ガラスの放電時間は100ミリ秒台であるが、一方帯電ガラスは10分の1秒の数倍のオーダーである。
【0083】
本発明による導電性の層は、被覆の反射防止特性を著しく損なわない限りAR被覆のどこにあってもよい。AR被覆の最も内側層、すなわち光学物品の基材に最も近いAR被覆の層であっても、またはAR被覆の最外側層、すなわち光学物品の基材から最も遠いAR被覆の層であっても、またはAR被覆の内側のどの層であってもよい。これは低屈折率層の下に位置していることが好ましい。
【0084】
導電性の層は反射防止被覆の透明性を損なわないように十分に薄くなくてはならない。一般に、その厚みはその性質により0.1から150nmの範囲であるが、0.1から50nmがなおよい。0.1nmより低い厚みでは一般に十分な導電性が得られず、一方で150nmより高い厚みでは一般に必要な透明性および低い吸収特性が得られない。
【0085】
導電性の層は導電性かつ高度に透明な材料でできていることが好ましい。そのような場合、その厚みは0.1から30nmの範囲が好ましく、1から20nmがより好ましくさらに1から10nmがなおよい。
【0086】
前記の導電性かつ高度に透明な材料は酸化インジウム、酸化スズ、酸化亜鉛およびこれらの混合物から選ばれた金属酸化物が好ましい。インジウム−スズ酸化物(In:Sn、スズでドープした酸化インジウム)および酸化スズ(In)が好適である。本発明による最も好適な実施態様に基づくと、導電性かつ光学的に透明な層はインジウム−スズ酸化物を含み、インジウム−スズ酸化物層であることが好ましく、ITOと略される。
【0087】
一般に、導電性の層は反射防止特性に寄与しかつ AR被覆の高屈折率層である。その例としてはITO層のような導電性かつ高度に透明な材料からできた層がある。
【0088】
さらに導電性の層は非常に薄い貴金属層の場合もあり、通常1nm未満の厚みで、0.5nm未満の厚みが好ましい。
【0089】
本発明による光学物品は透明な光学物品であることが好ましく、レンズがより好ましく、それらは完成品であってもまたは半完成品であってもよく、眼科用レンズがなおより好ましい。レンズはさらに偏光レンズまたは光互変異性レンズであってもよい。
【0090】
完成レンズとはその両方の主面が所定の形状に研磨または成形されていて、その最終的な形状で得られたレンズと定義される。これは一般に重合性の組成物を所定の表面形状を呈する2つの鋳型の間に流し込み次いで重合して生産される。
【0091】
半完成レンズとはその主面の一方(通常はレンズの前面)が所定の形状に研磨または成型成形されているレンズと定義される。残りの面、好ましくはレンズの背はあとから望む形状に表面仕上げしなくてはならない。
【0092】
本発明によると、光学物品は好ましくは透明で、背側および前側の主面を有し、その少なくとも一方がこの独創的な多層構造の反射防止被覆で塗工されている無機または有機ガラスの基材を含む。光学物品の両主面が本発明による反射防止被覆で塗工されていてもよい。
【0093】
レンズの場合、基材の背(後)面(通常は凹面)は使用時に着用者の目に最も近いレンズ基材の面である。レンズ基材の前面(通常は凸面)は使用時に着用者の目から最も遠いレンズ基材の面である。
【0094】
基材は無機ガラスまたは有機ガラスから作ることができるが有機ガラス(ポリマー基材)が好ましい。有機ガラスは有機眼科レンズに一般に用いられている全ての材料から作ることができ、例えば、ポリカーボネートおよび熱可塑性ポリウレタンのような熱可塑性材料または直鎖状または枝分かれした脂肪族または芳香族ポリオールのアリルカーボネートのようなアリル誘導体の重合により得られるような熱硬化性(架橋した)材料の、エチレングリコールビス(アリルカーボネート)、ジエチレングリコールビス(2−メチルカーボネート)、ジエチレングリコールビス(アリルカーボネート)、エチレングリコールビス(2−クロロアリルカーボネート)、トリエチレングリコールビス(アリルカーボネート)、1,3−プロパンジオールビス(アリルカーボネート)、プロピレングリコールビス(2−エチルアリルカーボネート)、1,3−ブテンジオールビス(アリルカーボネート)、1,4−ブテンジオールビス(2−ブロモアリルカーボネート)、ジプロピレングリコールビス(アリルカーボネート)、トリメチレングリコールビス(2−エチルアリルカーボネート)、ペンタメチレングリコールビス(アリルカーボネート)、イソプロピレンビスフェノール−Aビス(アリルカーボネート)、アルキルメタクリレート類、とりわけメチル(メタ)アクリレートおよびエチル(メタ)アクリレートのようなC〜Cアルキルメタクリレート類を重合して得られる基材のようなポリ(メタ)アクリレート類および共重合体をベースとした基材、ビスフェノール−A、ポリエトキシレート化ビスフェノレートジ(メタ)アクリレート類、ポリチオ(メタ)アクリレート類のようなポリエトキシレート化芳香族(メタ)アクリレート類から誘導された(メタ)アクリレート重合物および共重合物から構成される基材、熱硬化性ポリウレタン類、ポリチオウレタン類、ポリエポキシド類、ポリエピスルフィド類、同様にこれらの共重合物およびこれらの混合物、がある。
【0095】
とりわけ推奨できる基材はポリカーボネート類、とりわけジエチレングリコールビス(アリルカーボネート)の重合または共重合により得られる基材で、PPG INDUSTRIES(ORMATM エシロールレンズ)から商品名CR−39TMとして販売されている。
【0096】
他に推奨できる基材の中には仏国特許出願公開第2734827号明細書に開示されているような、チオ(メタ)アクリレートモノマー類を重合して得られる基材がある。
【0097】
基材は当然上のモノマー類の混合物を重合して得ることもできる。(共)重合物とは共重合物または重合物を意味する。(メタ)アクリレートとはアクリレートまたはメタクリレートを意味する。
【0098】
好適な有機基材は熱膨張係数が50×10−6−1から180×10−6−1の範囲内、好ましくは100×10−6−1から180×10−6−1を有するものである。
【0099】
AR被覆は剥き出しの基材の上にでもまたは基材が表面被覆で塗工されているなら基材の最外側被覆の上に形成することもできる。
【0100】
本発明によると光学物品は、これらに制限されないが、耐衝撃被覆(耐衝撃プライマー)、耐擦傷および/または耐スクラッチ被覆(ハードコート)、偏光被覆、光互変異性被覆、染色被覆、汚れ防止トップコートから選ばれる種々の被覆層で塗工された基材を含むことができる。
【0101】
AR被覆は耐衝撃被覆または耐擦傷および/または耐スクラッチ被覆の上に形成されることが好ましい。
【0102】
本発明による1つの実施態様では、レンズ基材の少なくとも1つの主表面はレンズ基材表面から始めて、連続的に、耐衝撃被覆(耐衝撃プライマー)、耐擦傷および/または耐スクラッチ被覆(ハードコート)、この独創的な反射防止被覆および汚れ防止トップコートで塗工されている。
【0103】
本発明による別の実施態様では、レンズ基材の少なくとも1つの主表面はレンズ基材表面から始めて、連続的に、耐擦傷および/または耐スクラッチ被覆(ハードコート)、この独創的な反射防止被覆および汚れ防止トップコートが塗工されている。
【0104】
本発明で用いることができる耐衝撃プライマー被覆は完成した光学物品の耐衝撃性を改善するために通常用いられるどの様な被覆であってもよい。さらに、この被覆は通常完成した光学物品の基材上の、もし存在するなら、耐擦傷および/または耐スクラッチ被覆の接着を促進させる。定義によれば、耐衝撃プライマー被覆とは完成した光学物品の耐衝撃性を同じ光学物品だが耐衝撃プライマー被覆を伴わないものと比較して改善する被覆である。
【0105】
典型的な耐衝撃プライマー被覆は(メタ)アクリレートをベースとした被覆およびポリウレタンをベースとした被覆である。(メタ)アクリレートをベースとした耐衝撃被覆は、特に、米国特許第5015523号明細書および米国特許第6503631号明細書に開示され一方熱硬化性および架橋ベースのポリウレタン樹脂被覆はとりわけ、特開昭63−141001号公報および特開昭63−87223号公報、欧州特許出願公開第0404111号明細書および米国特許第5316791号明細書に開示されている。
【0106】
とりわけ、本発明による耐衝撃プライマー被覆はポリ(メタ)アクリレートラテックス、ポリウレタンラテックスまたはポリエステルラテックスのようなラテックス組成物から作ることができる。
【0107】
好適な(メタ)アクリレートをベースとした耐衝撃プライマー被覆組成物の中ではポリエチレングリコール(メタ)アクリレートをベースとした組成物、例えば、テトラエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコール(200)ジアクリレート、ポリエチレングリコール(400)ジアクリレート、ポリエチレングリコール600)ジ(メタ)アクリレート、同様にウレタン(メタ)アクリレートおよびこれらの混合物を挙げることができる。
【0108】
好ましくは、耐衝撃プライマー被覆のガラス転移温度(Tg)は30℃未満である。好適な耐衝撃プライマー被覆組成物の中では、ゼネカ(Zeneca)社からアクリル系ラテックスA−639の名称で市販されているアクリル系ラテックスおよびバクセンデンケミカルズ(Baxenden Chemicals)社からW−240およびW−234の名称で市販されているポリウレタンラテックスが挙げられる。
【0109】
好適な実施態様において、耐衝撃プライマー被覆はさらに有効量のカップリング剤を含む場合もありこれによりプライマー被覆の光学基材および/または耐スクラッチ被覆に対する接着性を促進する。下に記載する耐擦傷および/または耐スクラッチ被覆組成物に対するものと同じカップリング剤を同じ量だけ、耐衝撃被覆組成物に用いることができる。
【0110】
耐衝撃プライマー被覆組成物はスピン、ディップ、またはフロー被覆のような全ての伝統的な方法を用いてレンズ基材上に塗布することができる。
【0111】
耐衝撃プライマー被覆組成物は単に乾燥するかまたは所望により光学基材の成形の前に予備硬化することができる。耐衝撃プライマー被覆組成物の性質により、熱硬化、UV硬化または両者の組合せを用いることができる。
【0112】
耐衝撃プライマー被覆の硬化後の厚みは一般に0.05から30μmの範囲で、好ましくは0.5から20μmなお特別には0.6から15μm、さらになおよくは0.6から5μmである。
【0113】
耐衝撃プライマー被覆が被覆される物品の表面は接着性を改善するために所望により物理的または化学的な前処理の対象となる場合があり、例えば高周波放電プラズマ処理、グロー放電プラズマ処理、コロナ処理、電子ビーム処理、イオンビーム処理、溶剤処理もしくは酸または塩基(NaOH)処理がある。
【0114】
全ての周知の光学用耐擦傷および/または耐スクラッチ被覆組成物を用いて本発明による耐擦傷および/または耐スクラッチ被覆を形成することができる。かくして、耐擦傷および/または耐スクラッチ被覆組成物は UVおよび/または熱硬化性の組成物であってもよい。
【0115】
耐擦傷および/または耐スクラッチ被覆とは、完成した光学物品の耐擦傷および/または耐スクラッチ性を同じ光学物品で耐擦傷および/または耐スクラッチ被覆を伴わないものと比較して改善する被覆である、と定義できる。好適な被覆組成物は(メタ)アクリレートをベースとした被覆である。(メタ)アクリレートという用語はメタアクリレートまたはアクリレートの何れかを意味する。
【0116】
(メタ)アクリレートをベースとした被覆組成物の主成分は単官能基(メタ)アクリレート類および多官能基(メタ)アクリレート類の2官能基(メタ)アクリレート類;3官能基(メタ)アクリレート類;4官能基(メタ)アクリレート類、5官能基(メタ)アクリレート類、6官能基(メタ)アクリレート類のようなものから選ぶことができる。
【0117】
(メタ)アクリレートをベースとした被覆組成物の主成分として用いることができるモノマー類の例としては次のものがある:
【0118】
・単官能基(メタ)アクリレート類:メタクリル酸アリル、2−エトキシエチルアクリレート、2−エトキシエチルメタクリレート、カプロラクトンアクリレート、イソボルニルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、ポリプロピレングリコールモノメタクリレート。
【0119】
・2官能基(メタ)アクリレート類:1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート。
【0120】
・3官能基(メタ)アクリレート類:トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート。
【0121】
・4から6官能基(メタ)アクリレート類:ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタアクリレートエステル類
【0122】
他の好適な耐擦傷および/または耐スクラッチ被覆はシリコン含有被覆、とりわけシラン類またはその加水分解物を含む前駆体組成物を硬化して得られたもので、エポキシシラン類が好ましく、仏国特許出願公開第2702486号明細書(欧州特許出願公開第0614957号明細書)、国際公開第94/10230号パンフレット、米国特許第4211823号明細書および米国特許第5015523号明細書に開示されているエポキシアルコキシシラン類がより好ましい。
【0123】
耐擦傷および/または耐スクラッチ被覆にとりわけ好適な組成物は仏国特許出願公開第2702486号明細書に開示されている。前記の好適な組成物はエポキシトリアルコキシシランおよびジアルキルジアルコキシシランの加水分解物、コロイド状無機フィラーおよび触媒量のアルミニウムベースの硬化触媒を含み、組成物の残りは本質的にこのような組成物を調合する場合に一般に用いられる溶媒類である。被覆物の光学的品質を改善するために組成物にはさらに界面活性剤が加えられることが好ましい。
【0124】
特に好適なエポキシアルコキシシランをベースとした耐擦傷および/または耐スクラッチ被覆組成物は主成分としてγ−グリシドキシプロピル−トリメトキシシラン(GLYMO)の加水分解物をエポキシトリアルコキシシラン成分として、ジメチル−ジエトキシシラン(DIVIDES)の加水分解物をジアルキルジアルコキシシラン成分として、コロイド状シリカおよび触媒量のアルミニウムアセチルアセトネートから構成されているものである。
【0125】
耐擦傷および/または耐スクラッチ被覆の耐衝撃プライマー被覆に対する接着性を改善するために、少なくとも1つの有効量のカップリング剤を耐擦傷および/または耐スクラッチ被覆組成物に加えることができる。好適なカップリング剤はエポキシアルコキシシランの前濃縮した溶液および不飽和アルコキシシランで、末端エチレン二重結合を含んでいることが好ましい。
【0126】
エポキシアルコキシシラン類の例はGLYMO、γ−グリシドキシプロピル−ペンタメチルジシロキサン、γ−グリシドキシプロピル−メチル−ジイソプロペノキシシラン、γ−グリシドキシプロピル−メチル−ジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピル−ジメチル−エトキシシラン、γ−グリシドキシプロピル−ジイソプロピル−エトキシシランおよびγ−グリシドキシプロピル−ビス(トリメチルシロキシ)メチルシランである。好適なエポキシアルコキシシランはGLYMOである。
【0127】
不飽和アルコキシシランはビニルシラン、アリルシラン、アクリル系シランまたはメタアクリル系シランであってもよい。
【0128】
ビニルシラン類の例はビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリスイソブトキシシラン、ビニルトリ−ターシャル−ブトキシシラン、ビニルトリフェノキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリイソプロポキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニル−トリアセトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、ビニルメチルジアセトキシシラン、ビニルビス(トリメチルシロキシ)シランおよびビニルジメトキシエトキシシランである。
【0129】
アリルシラン類の例はアリルトリメトキシシラン、アルキルトリエトキシシランおよびアリルトリス(トリメチルシロキシ)シランである。
【0130】
アクリレートシラン類の例は3−アクリルオキシプロピルトリス(トリメチルシロキシ)シラン、3−アクリルオキシ−プロピル−トリメトキシシラン、アクリルオキシ−プロピルメチル−ジメトキシ−シラン、3−アクリルオキシプロピル−メチルビス(トリメチルシロキシ)シラン、3−アクリルオキシプロピル−ジメチルメトキシシラン、N−(3−アクリルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)−3−アミノプロピル−トリエトキシシランである。
【0131】
メタクリル系シラン類の例は3−メタクリルオキシプロピルトリス(ビニルジメトキシルシロキシ)シラン、3−メタクリルオキシプロピルトリス(トリメチルシロキシ)シラン、3−メタクリルオキシプロピルトリス(メトキシエトキシ)シラン、3−メタクリルオキシ−プロピル−トリメトキシシラン、3−メタクリルオキシプロピル−ペンタメチル−ジシロキサン、3−メタ−アクリルオキシ−プロピル−メチルジメトキシシラン、3−メタクリルオキシ−プロピルメチル−ジエトキシ−シラン、3−メタクリルオキシプロピル−ジメチル−メトキシシラン、3−メタクリルオキシ−プロピル−ジメチルエトキシシラン、3−メタクリルオキシ−プロペニル−トリメトキシ−シランおよび3−メタクリルオキシ−プロピルビス(トリメチルシロキシ)メチルシランである。
【0132】
好適なシランはアクリルオキシプロピル−トリメトキシシランである。
【0133】
カプリング剤の調合に用いられるエポキシアルコキシシランおよび不飽和アルコキシシランの量は重量比:
【数3】


が0.8≦R≦1.2の条件を実証できることが好ましい。
【0134】
カップリング剤は少なくとも50%がエポキシアルコキシシランおよび不飽和アルコキシシランからの固形材料の重量から構成されていることが好ましく、少なくとも60%の重量がより好ましい。カップリング剤は40%未満が液体の水および/または有機溶媒の重量で構成されていることが好ましく、35%未満の重量がより好ましい。
【0135】
「エポキシアルコキシシランおよび不飽和アルコキシシランの固形材料からの重量」という表現はこれらシラン類による理論的乾燥抽出物を意味しこれは単位QSiO(4−k)/2の計算重量でここにQはエポキシまたは不飽和基を持つ有機基で、QSiO(4−k)/2はQSiR’O(4−k)に由来しここにSi−R’は反応してSi−OHを加水分解により形成し、kは1から3の整数で1に等しいことが好ましい。R’はOCHのようなアルコキシ基が好ましい。
【0136】
上で言及した水および有機溶媒はカップリング剤組成物に当初から加えられていたものおよびカップリング剤組成物内に存在するアルコキシシランの加水分解および縮合の結果による水およびアルコールに由来する。
【0137】
カップリング剤の好適な調製方法は次のものを含む:
1)アルコキシシラン類を混合する;
2)アルコキシシラン類を加水分解する、好ましくは塩酸のような酸を加えることにより;
3)混合物をかき混ぜる;
4)所望により有機溶媒を加える;
5)アルミニウムアセチルアセトネートのような 1つまたは幾つかの触媒を加える;および
6)かき混ぜる(一般的な継続時間:一晩中)。
【0138】
一般に、耐スクラッチ被覆組成物に導入されるカップリング剤の量は組成物全体の重量に対し重量で0.1から15%を占め、重量で1から10%が好ましい。
【0139】
耐擦傷および/または耐スクラッチ被覆組成物は、一般に耐衝撃プライマー被覆の上にまたは基材の上にスピン、ディップまたはフローコーティングのような全ての伝統的な方法により塗布することができる。
【0140】
耐擦傷および/または耐スクラッチ被覆組成物は単に乾燥することもまたは後に続く反射防止被覆を塗布する前に所望により予備硬化することもできる。耐擦傷および/または耐スクラッチ被覆組成物の性質により、熱硬化、UV硬化または両者の組合せを用いることができる。
【0141】
耐擦傷および/または耐スクラッチ被覆の厚みは、硬化後で、普通は1から15μmの範囲であるが、2から6μmが好ましく、3から5μmが好ましい。
【0142】
例えば耐擦傷および/または耐スクラッチ被覆が塗工されている場合もある基材の上に、随意的な副層および反射防止層を被覆する前に、前記の所望により塗工されている基材の表面は層の接着性を増すことを意図して前処理されることが好ましい。処理手順として、高周波放電プラズマ法、グロー放電プラズマ法、コロナ処理、エネルギー種による照射、例えば電子ビーム法またはイオンビーム法(「イオン前清浄化」または「IPC」)を採用することができる。このような前処理は通常真空下で実施される。さらに酸または塩基前処理を用いることもできる。
【0143】
エネルギー種とは、1から150eVの範囲のエネルギーを持つ種を意味し、10から150eVが好ましく、40から150eVがより好ましい。エネルギー種はイオン類、ラジカル類のような化学種、もしくは光子または電子のような種であってもよい。
【0144】
これらの清浄化処理のおかげで、基材表面の清浄度は最適化される。イオン照射による処理が好適である。さらに後に続く層を被覆する前に少なくとも1つの随意的な副層、または少なくとも1つの反射防止層にこのような表面処理をすることもできる。
【0145】
本発明に用いることができる汚れ防止トップコートの層は表面エネルギーの低いトップコートである。これはこの独創的なAR被覆の少なくとも一部の上に被覆することができるが、前記被覆の全表面上にすることが好ましい。
【0146】
汚れ防止トップコートは疎水性および/または疎油性の表面被覆と定義される。本発明で好ましく用いられるものは物品の表面エネルギーを20mJ/m未満まで低下させるものである。本発明では表面エネルギーが14mJ/m未満、なおよくは12mJ/m未満である汚れ防止トップコートを用いる場合にとりわけ興味がある。
【0147】
上で言及した表面エネルギーはオーウェンズ−ベント法により測定でき、次の文献に記載されている;オーウェンズ D.K.;ベント,R.G.「ポリマーの表面力エネルギーの推定」,J.Appl.Polym.Sci.1969,51,1741−1747。
【0148】
本発明に基づく汚れ防止トップコートは有機物的性質のものが好ましい。有機物的性質とは被覆層全体の重量に対し少なくとも重量で40%、好ましくは重量で50%が有機物材料から構成されている層を意味する。好適な汚れ防止トップコートは少なくとも1つのフッ化化合物を含む液体被覆材料から作られている。
【0149】
疎水性および/または疎油性表面被覆はほとんどの場合フッ化基、とりわけペルフルオロカーボンまたはペルフルオロポリエーテル基を持つシランをベースとした化合物を含む。一例として、シラザン、ポリシラザンまたはシリコン化合物を挙げることができ、上に述べたような1つ以上のフッ素含有基を含んでいる。このような化合物は従来技術に、例えば米国特許第4410863号明細書、欧州特許出願公開第0203730号明細書、欧州特許出願公開第844265号明細書および欧州特許出願公開第933377号明細書に広く開示されてきている。
【0150】
汚れ防止トップコートを形成する伝統的な方法はフッ化基およびSi−R基を持つ化合物を被覆することにあり、Rは−OH基またはその前駆体の、−Cl、−NH、−NH−または−O−アルキルなどを表し、アルコキシ基が好ましい。このような化合物はこれが被覆された表面の上で、直接または加水分解後に、ペンダント反応基と重合および/または架橋反応する。
【0151】
好適なフッ化化合物はシラン類およびシラザン類でフッ化炭化水素類、ペルフルオロカーボン類、FC−(OC24−O−(CF−(CH−O−CH−Si(OCHのようなフッ化ポリエーテル類およびペルフルオロポリエーテル類から選択された少なくとも1つの基を持つもので、とりわけペルフルオロポリエーテル類である。
【0152】
フルオロシラン類の中で次の化学式の化合物を挙げることができるだろう:
【0153】
【化1】

【0154】
ここにn=5、7、9または11であり、Rはアルキル基で、一般にはメチル、エチルおよびプロピルのようなC〜C10アルキル基である;
【0155】
【化2】

【0156】
ここにn’=7または9であり、Rは上に定義したとおりである。
【0157】
フルオロシラン類化合物を含む組成物でさらに疎水性および/または疎油性トップコートを作るのにも有用なものは米国特許第6183872号明細書に開示されている。そのような組成物はシリコンを含有した有機フルオロポリマー類を含み下の一般化学式で表され5×10から1×10の数平均分子量を持っている。
【0158】
【化3】

【0159】
ここにRはペルフルオロアルキル基を表し、Zはフッ素原子またはフルオロメチル基を表し、a、b、c、dおよびeは各々独立して0または整数の1以上を表し、ただしa+b+c+d+eは1未満ではなくかつ上の化学式に現れている下付き文字a、b、c、dおよびeで括弧内に入っている繰り返し単位の順は示されたものに限定されない;Yは水素原子または1から4の炭素原子を含むアルキル基を表す;Xは水素、臭素またはヨード原子を表す;Rは水酸基または水酸化可能な置換基を表す;Rは水素原子または1価の炭化水素基を表す;Iは0、1または2を表す;mは1、2または3を表す;さらにn”は1以上の整数、好ましくは2以上の整数を表す。
【0160】
疎水性および/または疎油性表面被覆を形成するのに好適な他の組成物はフッ化ポリエーテル基、とりわけペルフルオロポリエーテル基から構成される化合物を含むものである。フッ化ポリエーテル基を含みとりわけ好適な組成物の分野は米国特許第6277485号明細書に開示されている。米国特許第6277485号による汚れ防止トップコートは少なくとも部分的に硬化した被覆で次の化学式のフッ化シランを少なくとも1つ含む被覆組成物(一般に溶液の形で)を塗布して用意したフッ化シロキサンを含む:
【0161】
【化4】

【0162】
ここにRは1価または2価のポリフルオロポリエーテル基;Rは2価のアルキレン基、アリーレン基、またはこれらの組合せで、所望により1つ以上のヘテロ原子または官能基を含み所望によりハロゲン原子で置換され、さらに2から16の炭素原子を含む;Rは低級アルキル基(すなわち、C〜Cアルキル基);Yはハロゲン原子、低級アルコキシ基(すなわち、C〜Cアルコキシ基で、メトキシまたはエトキシ基が好ましい)、または低級アシロキシ基(すなわち、−OC(O)RここにRはC〜Cアルキル基);xは0または1;およびyは1(Rが1価の場合)または2(Rが2価の場合)である。適切な化合物は一般に少なくとも約1000の分子量(数平均)である。Yは低級アルコキシ基およびRはペルフルオロポリエーテル基であることが好ましい。
【0163】
市販されている汚れ防止トップコートを作るための組成物には信越化学が市販している組成物KY130TMおよびKP801TMならびにダイキン工業が市販している組成物OPTOOL DSXTM(ペルフルオロプロピレン部分を含むフッ素ベースの樹脂)がある。汚れ防止トップコートにはOPTOOL DSXTMが最も好適な被覆材料である。
【0164】
本発明による汚れ防止トップコートを形成するための液体被覆材料は1つ以上の上に引用した化合物を含むことがある。このような化合物または混合物は液体であるかまたは加熱により液体状態になり、かくして被覆するのに適した状態になることが好ましい。
【0165】
このような汚れ防止トップコートの被覆技法は、ディップ被覆、スピン被覆(遠心分離作用)、スプレー被覆のような液相による被覆、または気相による被覆(真空蒸着)を含め様々である。これらの中では、スピンまたはディップコーティングによる被覆が好適である。
【0166】
液状の下で汚れ防止トップコートが塗布される場合、少なくとも1つの溶媒が被覆材料に加えられこれにより濃度および粘度が被覆に適した液体被膜溶液に調合される。被覆の次には硬化がつづく。
【0167】
これに関連して、好適な溶媒はフッ化溶媒およびメタノールのようなアルカノールで、フッ化溶媒が好ましい。フッ化溶媒の例には全ての部分的または完全にフッ化した有機分子で約1から約25の炭素原子の炭素鎖を持つものが含まれ、フッ化アルカン類、好ましくはペルフルオロ誘導体およびフッ化エーテル酸化物、好ましくはペルフルオロアルキルアルキルエーテル酸化物、およびこれらの混合物などがある。フッ化アルカン類としては、ペルフルオロヘキサン(ダイキン工業の「Demnum」)を用いることができる。フッ化エーテル酸化物としては、メチルペルフルオロアルキルエーテル、例えばメチルノナフルオロ−イソブチルエーテル、メチルノナフルオロブチルエーテルまたはこれらの混合物で3Mから商品名HFE7100として販売されている市販混合物などを用いることができる。被覆溶液中の溶媒の量は重量で80から99.99%の範囲であることが好ましい。
【0168】
本発明による光学物品は低いRおよびR値、高いTvおよび非常に優れた耐擦傷性があり、これは標準規格ASTM F735−94に基づいておこなわれるバイエル(Bayer)試験により測定できる。これらは亀裂のような光学的欠点の影響を受けない;温度変動に耐えられ、このことは基材およびARフィルムの膨張性能が大きく異なる場合にとりわけ有用である。さらに、本発明に基づく光学物品は基材に対するARスタックの層の接着特性が卓越している。接着性は国際公開第99/49097号パンフレットに定義されているn×10ブローテストで評価できる。
【0169】
両面をこの独創的なAR被覆で被覆を施した光学物品の可視範囲(400〜700nm)の平均反射率Rは≦2%が好ましく、≦1.5%がより好ましく、≦1%がなおよく、さらに≦0.8%がなおさらよい。本発明による最も好適な実施態様に基づくと、光学物品のR値は0.7から0.8の範囲である。
【0170】
主面をこの独創的なAR被覆で被覆を施した光学物品の可視範囲(400〜700nm)の平均反射率Rは≦1%が好ましく、≦0.75%がより好ましく、≦0.5%がなおよく、さらに≦0.4%がなおさらよい。本発明による最も好適な実施態様に基づくと、光学物品の前記主面のR値は0.35から0.4の範囲である。
【0171】
両面をこの独創的なAR被覆で被覆を施した光学物品の可視範囲(380〜780nm)の平均視感反射率Rは≦2%が好ましく、≦1.5%がより好ましく、≦1%がなおよく、さらに≦0.8%がなおさらよい。本発明による最も好適な実施態様に基づくと、光学物品のR値は0.7から0.8の範囲である。
【0172】
主面をこの独創的なAR被覆で被覆を施した光学物品の可視範囲(3800〜780nm)の平均視感反射率Rは≦1%が好ましく、≦0.75%がより好ましく、≦0.5%がなおよく、さらに≦0.4%がなおさらよい。本発明による最も好適な実施態様に基づくと、光学物品の前記主面のR値は0.35から0.4の範囲である。
【0173】
低いRおよびR値を達成する手段は反射防止被覆の当業者には周知のことである。
【0174】
この独創的な反射防止被覆は光学物品がこの被覆で両面を塗工された場合に可視領域内でAR被覆により視感吸収が好ましくは1%以下、より好ましくは1%未満となり、および/または相対光透過率Tvが、可視スペクトル内で好ましくは90%を超え、より好ましくは95%を超え、なおより好ましくは96%を超え、さらになおよくは98%を超えるようなものであることが好ましい。両方の特性は同時に満たされることが好ましい。
【0175】
ここに用いた「平均反射率」R(400〜700nmの平均スペクトル反射に対応)および「平均視感反射率」R(380〜780nmの平均スペクトル反射に対応(重み付け値))は標準規格ISO13666:1998で定義され2000年に国際標準化機構(ISO)により発表された標準規格ISO8980−4に基づいて測定される。
【0176】
「視感透過率」または「可視スペクトル内の相対光透過係数」Tv(またはτv)もまた標準規格ISO13666:1998に定義され標準規格ISO8980−3にしたがって測定される(380から780nmまで)。
【0177】
本発明はさらに上記載した光学物品を製造する方法にも関係し、次の手順から構成される:
‐ 2つの主面を有する光学物品を用意する
‐ 前記光学物品の少なくとも1つの主面上に上に記載したような、所望により副層を含む反射防止被覆を形成する
ここに反射防止被覆は真空蒸着により被覆される。
副層が存在する場合、これは被覆されるAR被覆の最初の層である。
【0178】
このよう一連の作業では基材の加熱が回避でき、このことはとりわけ有機ガラスの場合に興味深い。ARスタックの異なる層(AR層または随意的な副層)を被覆させる真空による方法には次のものが含まれる:i)蒸着;ii)イオンビームによるスプレー;iii)陰極スパッタリング;iv)プラズマ支援による化学蒸気蒸着。これらの技法は「薄膜処理過程」および「薄膜処理過程II」Vossen&Kern,Ed.,Academic Press,1978および1991それぞれに詳細に記載されている。とりわけ推奨できる技法は真空蒸着である。
【0179】
一般に反射防止スタックのHI層である随意的な導電性の層は、例えば所望によりイオン支援の下の真空蒸着(IAD:イオン支援蒸着)、またはスパッタリング技法など、全ての適切な方法により被覆できる。IAD法は前記の層の形成中にこれを重イオンで詰め込むことから構成され、これによりその密度、接着性および屈折率を増す。これはアルゴンおよび/または酸素のようなガス雰囲気内のイオンプラズマを必要とする。
【0180】
IAD処理およびIPC前処理はイオン銃により実施することが可能で、イオンはガス原子から作られ、これから電子が抜き取られている粒子である。このような処理は処理する表面を活性面の電流密度が10から100μA/cmの範囲でかつ8×10−5mbarから2×10−4mbarの範囲の圧力の下の真空チャンバー内で、アルゴンイオン(Ar)による照射を含むことが好ましい。
【0181】
IPC(イオン予備洗浄)のような表面前処理は基材の最外側被覆がハードコートである段階で実施される。
【0182】
本発明によるAR被覆を塗工される光学物品は完成レンズでもまたは半完成レンズであってもよい。その1つの主面は以前に適切な被覆のスタック(反射防止、ハードコート、プライマー被覆、耐衝撃被覆、他)で塗工されていてもよい。
【0183】
本発明による処理には多くの利点がある。例えば、これを実施するためにAR被覆を被覆する伝統的な一連の作業の独自の微調整に修正が不要で、被覆装置の修正が不要で、各種の追加機器も必要ない。
【0184】
本発明は以下に記載する実施例によりさらに説明される。これらの実施例は本発明を説明することを意図したもので本発明の範囲を制約するものと解釈すべきものではない。
【実施例】
【0185】
〔実施例〕
《1.レンズの製造:基本手順》
実施例で用いる光学物品は半完成品のORMATMの4.5ベースの円形レンズで倍率−2.00ジオプトルおよび直径70mmに表面仕上げられている。ORMATMはエシロール社の登録商標である。この基材はジエチレングリコールビス(アリルカーボネート)モノマーを重合して得られ、典型はCR−39TMである。
【0186】
レンズの凹面側に加水分解したGLYMOをベースとしたポリシロキサン−タイプの耐擦傷および/または耐スクラッチ被覆(ハードコート:厚み1.8μm)をスピンコートし、酢酸中の洗い、水および脱イオン水によるすすぎを含む洗浄ラインで洗い、次いで温風乾燥しさらに80℃で4時間または120℃で3時間、AR被覆の前に蒸気で蒸した。
【0187】
それからレンズは凹面側が蒸発源およびイオン銃を向くように、処理されるレンズを供給するための円形開口部を備えた回転台の上に置かれた。
【0188】
第2真空度に達するまで排気操作が実施された。基材表面はイオン銃を用いてアルゴンイオンビームを照射することにより活性化された(イオン前洗浄段階)。次いで、イオン照射が遮断されてから、要求される数の反射防止光学層の連続的な蒸着が、下に記載するように、電子銃を蒸発源として実施された。
【0189】
最後に、Optron社が販売するOF110材料の疎水性および疎油性の被覆層が真空蒸着により被覆された。できた疎水性および疎油性被覆の厚みは2から5nmの範囲であった。
【0190】
かくして、基材から始めて、耐擦傷被覆、反射防止被覆ならびに疎水性および撥油性被覆を担った有機ガラスが製造された。
【0191】
《2.反射防止被覆の被覆:実験の詳細》
実施例1から5について:
被覆用の誘電体材料は顆粒の形で用いられた。SiOはCanon Optron社から供給され、ZrOおよびSiO/Al(LIMATM)はUmicore Materials AG社から供給され、TiO、LaTiO、SiO/Al(L5TM)およびPrTiOはMerck社から供給された。
【0192】
反射防止スタックの被覆に用いた真空処理機はPhysimecaソフトウェアが組み込まれたBAK760真空チャンバーで、酸化物を蒸発させるための8kV電子銃、アルゴンイオンにより予備的な表面処理をするための“end−Hall” Mark II コモンウェルスタイプイオン銃、ジュール効果るつぼ、クォーツスケールおよび液体窒素ラインにつながったマイスナートラップおよびバッフルコイルが付属している。被覆された層の厚みはクォーツスケールを用いて追跡することにより、所用の厚みに達した時点で蒸着を止められるようにした。チャンバー内への圧力はグランビル−フィリップスマイクロイオンゲージにより測定した。
【0193】
ARスタックの層は基材を加熱することなく真空蒸着により被覆された(HI材料に対し反応性がある)。
【0194】
実施例6、7および8について:
被覆用の誘電体材料は顆粒の形で用いられた。SiOはCanon Optron社から供給され、ZrO、TiOおよびSiO/Al(LIMATM)はUmicore Materials AG社から供給された。
【0195】
反射防止スタックの被覆に用いた真空処理機はPhysimecaソフトウェアが組み込まれたSatis900真空チャンバーで、酸化物を蒸発するための8kV電子銃、アルゴンイオンによる予備的な表面準備をする“end−Hall” Mark II コモンウェルスタイプイオン銃、ジュール効果るつぼ、クォーツスケールおよびPolycold PFC660HCユニットにつながったマイスナートラップおよびバッフルコイルが付属している。被覆された層の厚みはクォーツスケールを用いて追跡し、所用の厚みに達した時点で蒸着を止められるようにした。チャンバー内への圧力はグランビル−フィリップスマイクロイオンゲージにより測定した。
【0196】
ARスタックの層は基材を加熱することなく真空蒸着により被覆された(HI材料に対し反応性がある)。
【0197】
蒸着処理:
実施例1から8:
第2真空度(2×10−5から3×10−5mbar)に到達するまで排気操作を実施した。次いで基材表面をIPC(イオン予備洗浄)で2分間活性化した(1A、100V)。第1HI層(TiO、ZrO、LaTiOまたはPrTiO)をIADなしで蒸着し(Oを伴う反応蒸着;O分圧:ZrOに対し8×10−5mbar、TiOに対し10−4mbar)、第1LI層(SiOまたはSiO/Al)を蒸着し、第2HI層(TiO、ZrO、LaTiOまたはPrTiO)をIADなしで蒸着した(Oを伴う反応蒸着;O分圧:ZrOに対し7×10−5から8×10−5mbar、TiOに対し10−4mbar)。最後に、第2LI層(SiOまたはSiO/Al)を蒸着した。
【0198】
蒸着速度は第1LI層に対して0.26〜0.34nm/s、第1HI層に対して0.77〜0.89nm/s、第2LI層に対して0.27〜0.35nm/sおよび第2HI層に対して1〜1.3nm/sであった。
【0199】
比較例CE1からCE6は、そのスタックは第1表に記載され、上に記載したものと同じ蒸着工程にしたがって製造されている。第1HI層のみは削減した速度で蒸着され、他のものはより早い速度1〜1.3nmで蒸着された。
【0200】
《3.耐熱試験:臨界温度(T)の判定》
耐熱試験はレンズを製造してから48時間経過しない内に実施される。製造したレンズを選定された温度まで予熱されたオーブン内に入れ、そこに1時間放置した。それらをオーブンから取り出し電気スタンドの下で亀裂の存在の観点から反射により目視で評価された。この実験を50℃から始め、5℃きざみで加熱温度を上昇させて異なる温度で実施した。レンズが熱処理に耐えられず1時間後に亀裂が生じた時点の温度が計測された。この温度が下の表で臨界温度として与えられている。幾つかのレンズが試験された場合は、示されている臨界温度は平均値である。
【0201】
《4.光学特性の判定》
可視範囲全体の平均反射率RおよびRが記録されることによりAR被覆および残留反射の色の挙動を色空間CIE L(1976)により定量化することができる。比色係数は、標準光源D65(昼光)および10°に拡張された視覚刺激に基づく標準比色観察者を考慮に入れてこれらの要因から引き出された。Cは彩度を定義し、Lは明度を定義しさらにhは色相角を表す。製造した幾つかのレンズの光学的特性を第2表に示す。
【0202】
《5.耐擦傷性の判定(Bayer試験)》
Bayer摩耗試験は曲面/レンズ表面の耐擦傷性を判定するのに用いられる標準的な試験である。Bayer値の判定は標準規格ASTM F735−94(砂揺動法を用いる透明プラスチックおよび被覆の標準試験方法)およびISO CD15258(眼鏡レンズ用Bayer摩耗試験)にしたがって実施され、より高いBayer値はより高い耐擦傷性を意味する。
【0203】
この試験で、被覆を施したレンズはトレイの底に同様の曲率、直径、厚みおよびジオプトルの被覆なしのCR−39TM基準レンズの横にクランプを用いてしっかり固定される。規定の粒子寸法の摩耗粉(砂)をレンズおよびトレイの上に均等に注ぎ、次いでトレイを100サイクル/分の周期で2分の間揺動させる。揺動は回転車を介して揺動版に接続したモーターを用いて行われる。次いで被覆レンズおよび基準品は取り外され基準品および被覆サンプルの曇りおよび透過率をHaze Guard PlusメーターでASTM D1003−00にしたがって、試験が実施された前と後で測定する。結果は標準CR−39TM試験レンズの被覆レンズに対する計算比率として表現される(摩耗砂により起きたくもりの増加)。基準CR−39TMレンズのBayer値は1に設定されている。各々の測定には新しい砂のみが用いられる。
【0204】
製造したレンズの幾つかの耐擦傷性は第3表に記録されている(試験は12×3レンズで実施された)。
【0205】
《6.被覆の接着性の評価(n×10ブロー試験)》
「n×10ブロー試験」として知られる手順を用いた定性的試験が実施された。この手順により眼鏡レンズのような基材上に被覆されたフィルムの接着性を評価することが可能になる。試験は国際公開第99/49097号パンフレットに記載されているように実施された。
【0206】
オペレーターは3サイクル毎に試験レンズの状態を目視によるレンズ検査でチェックした。彼は始めて不具合が現れた際のサイクル数を書きとめた。したがって、テスト値が高いほど、ARスタック層の基材に対する接着性がよいことになる。比較のために、標準反射防止ガラスのn×10ブロー値は3のオーダーである。
【0207】
製造したレンズの幾つかのn×10ブロー試験の結果は第2表に記録されている(試験は30の全く同じレンズで実施された)。
【0208】
《7.結果》
実施例1から8および比較例1から6に基づいて得られたスタックを下の第1表に列挙する。製造した反射防止被覆のT測定値およびR比率も同じ表に示されている。Rの計算に考慮されない層は灰色背景で表示されている。
【0209】
見て判るように、高いR比率を用いることにより高い臨界温度を得ることが可能になる。このことは層の数が幾つであっても正しい。
【0210】
スタック全体の(スタックが厚み≧100nmの厚い内側LI層を含まない場合)Rを測定することの意義は実施例1および比較例1(CE1)を比較することにより明らかになっている。最後に被覆された2つの層を考慮に入れて前記割合を計算したなら、スタック1(2.51)およびCE1(2.41)で高い値が得られるはずである。しかしながら、スタックCE1は低いTを示し、一方スタック1は高いTを示している。
【0211】
比較例2のスタックから、前記スタックが厚い内側LI層(≧100nm厚み)を含む場合R比率はスタック全体で計算してはならないことは明らかである。もしも前記の割合が最後の4つの被覆層、または全ての反射防止層を考慮して計算したなら高い値、それぞれ3.18および4.68が得られたはずで、これは低いT値とは関連づけられない。考慮される層が厚いLI層の上に横たわる基材から最も遠いもののみであるなら、得られたR(0.76)は低いT値に対応することができる。
【0212】
さらに比較例4のスタックから厚い副層(≧100nm)はR計算に考慮されてはならないことも明らかである(さもないと、2.22の値が得られ、これはスタック1および5のそれに匹敵する)。
【0213】
比較例5は、比較例4と比べた場合、副層の抑圧がTcを修正していないことを示している。
【0214】
が0.95のARスタックからRが2.27のARスタック(同一材料で)に移管することは一般に臨界温度の相当な増加につながる。一般に、低屈折率反射防止層のSiOをSiOZAlに置き換えることもまた臨界温度の相当な増加につながる。一般に、低屈折率反射防止層のAlが4%であるSiO/AlをAlが8%であるSiO/Alに置き換えることもまた臨界温度の相当は増加につながるが、同時に耐擦傷性のわずかな低下にもつながる。
【0215】
実施例8(HI:TiO、LI:SiO/AlでSiO内に8%のAl)のレンズは最高の温度性能を示す。臨界温度の低下は1週間後にも認められなかった。1ヶ月後、実施例7および8のレンズの臨界温度はまだ非常に高かった(それぞれ90℃および91℃)。
【0216】
【表1】

【0217】
【表2】

【0218】
【表3】

【0219】
SiO/Alは:(**)Umicore社のLIMATM4、重量で4%のAlを有する。(***)Merk社のL5TM。(****)重量で8%のAlを伴うSiO
【0220】
【表4】

【0221】
第2表にあるRおよびRはレンズの各々の面の反射率である。レンズ全体の合計反射率は(AR被覆レンズの両面のため)これらの値の2倍である。
【0222】
【表5】

【0223】
比較例のデータは灰色背景で示す。
【0224】
本説明および実施例は本発明を明確に理解することに関係する本発明の態様を説明するものであることは当然である。本発明による特定の態様で通常の当業者には明らかで、したがって、本発明をより一層理解する手助けにならないものは本記述を単純化するために紹介されていない。本発明は特定の実施態様とのつながりで記載されているが、本発明は開示された特定の実施態様または実施例に制限されるものではなく、添付の請求項に規定されるように、本発明の精神と範囲内における修正をも包含することを意図している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反射防止特性を有する光学物品で、少なくとも1つの高屈折率層および少なくとも1つの低屈折率層のスタックから構成される多層構造の反射防止被覆を塗工された少なくとも1つの主表面を有する基材から構成され、ここに:
‐ 各々の低屈折率層の屈折率が1.55以下であり、
‐ 各々の高屈折率層の屈折率が1.55を超えかつ五酸化ニオブ(Nb)を含まず、
‐光学物品の前記塗工主面の平均視感反射率はR≦1%であり、および:
(a)前記被覆の最外側層の下の反射防止被覆の低屈折率層は各々 <100nmの物理的厚みであり、次の比率
【数1】


が2.1より高く、かつ反射防止被覆がニオブ(Nb)から構成される副層を含まず、または:
(b)反射防止被覆は次のものを含む:
‐ 反射防止被覆の最外側層ではない、≧100nmの物理的厚みを有する少なくとも1つの低屈折率層、さらに
‐ ≧100nmの物理的厚みを有しかつ基材から最も遠い最外側層の反射防止被覆ではなく、さらに次の比率
【数2】


が2.1よりも高い、少なくとも1つの高屈折率層および少なくとも1つの低屈折率層。ただし、前記比率Rの計算に考慮される反射防止被覆の層は≧100nmの物理的厚みを有しかつ基材から最も遠い最外側の反射防止被覆の低屈折率層の上に位置する層のみという条件付で、さらに反射防止被覆がニオブ(Nb)から構成される副層を含まないことが好ましい。
【請求項2】
が2.15以上、好ましくは2.2以上、より好ましくは2.25以上さらによりよくは2.3以上である、請求項1に記載の光学物品。
【請求項3】
臨界温度が≧75℃である、請求項1に記載の光学物品。
【請求項4】
反射防止被覆の高屈折率層がTiO、PrTiO、ZrOおよびこれらの混合物から選ばれる少なくとも1つの材料を含む、請求項1に記載の光学物品。
【請求項5】
反射防止スタックの高屈折率層の少なくとも1つがTiOを含む、請求項1に記載の光学物品。
【請求項6】
反射防止スタックの低屈折率層の少なくとも1つがSiOおよびAlの混合物を含む、請求項1に記載の光学物品。
【請求項7】
反射防止被覆の全ての低屈折率層が、もしも前記の反射防止被覆が少なくとも1つの低屈折率層を有する副層を含む場合には副層の低屈折率層を除いて、SiOおよびAlの混合物を含む、請求項1に記載の光学物品。
【請求項8】
反射防止被覆が副層を含む、請求項1に記載の光学物品。
【請求項9】
副層がAlを含んでいないSiOをベースとした単層の副層である、請求項8に記載の光学物品。
【請求項10】
副層が多層構造の副層で次のものから構成される、請求項8に記載の光学物品:
‐ SiOから構成される1つの層;および
‐ 光学物品のSiOから構成される前記の層および基材の間に挟み込まれている最大で3つの層。
【請求項11】
副層が10nm以下の厚みの少なくとも1つの金属または金属酸化物の薄い層から成る、請求項8に記載の光学物品。
【請求項12】
反射防止被覆が少なくとも1つの導電性の層を含む、請求項1に記載の光学物品。
【請求項13】
導電性の層がインジウム酸化物、スズ酸化物、亜鉛酸化物およびこれらの混合物から選ばれる材料からできている、請求項12に記載の光学物品。
【請求項14】
導電性の層がインジウム−スズ酸化物を含む、請求項12に記載の光学物品。
【請求項15】
基材が有機または無機ガラスの基材である、請求項1に記載の光学物品。
【請求項16】
基材が50×10−6−1から180×10−6−1の範囲の熱膨張係数を有する有機ガラス基材である、請求項15に記載の光学物品。
【請求項17】
光学物品が完成または半完成レンズである、請求項1に記載の光学物品。
【請求項18】
基材が耐摩耗および/または耐スクラッチ被覆、耐衝撃被覆または耐摩耗および/または耐スクラッチ被覆を塗工した耐衝撃被覆で塗工された、請求項1に記載の光学物品。
【請求項19】
反射防止特性を有する光学物品を製造する方法で、次の手順から構成されるもの:
‐ 2つの主面を有する光学物品を準備する、
‐ 前記の光学物品の少なくとも1つの主面上に請求項1から18の何れかに定義された反射防止被覆を形成する。
ここに反射防止被覆の層は真空蒸着により堆積される。
【請求項20】
反射防止被覆の層が真空蒸発により堆積される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
少なくとも1つの主面を多層構造の反射防止被覆で塗工されかつ≧75℃の臨界温度を有する基材から構成さている光学物品を得る一連の作業で、ここに前記の反射防止被覆が2.1を超えるR比率を呈し、Rは:
【数3】

として定義されさらにここに:
‐ 多層構造の反射防止被覆は少なくとも1つの高屈折率層および少なくとも1つの低屈折率層のスタックを含み、
‐ 各々の低屈折率層の屈折率は1.55以下で、
‐ 各々の高屈折率層の屈折率は1.55を超えかつ五酸化ニオブ(Nb)を含まず、
‐ 光学物品の前記塗工主面の平均視感反射率はR≦1%で、さらに:
(a)前記被覆の最外側層の下の反射防止被覆の低屈折率層は各々物理的厚みが<100nmでかつ反射防止被覆はニオブ(Nb)から構成される副層を含まない、または:
(b)反射防止被覆は次のものを含む:
‐ ≧100nmの物理的厚みを有し反射防止被覆の最外側層ではない、少なくとも1つの低屈折率層、および
‐ ≧100nmの物理的厚みを有する低屈折率層の上に位置しかつ基材から最も遠い反射防止被覆の最外側層ではない、少なくとも1つの高屈折率層および少なくとも1つの低屈折率層;ただし、前記の比率Rの計算のために考慮されるものは≧100nmの物理的厚みを有しかつ基材から最も遠い反射防止被覆の最外側層ではない低屈折率層の上に位置する層のみであり、好ましくは、反射防止被覆はニオブ(Nb)から構成される副層を含まない。

【公表番号】特表2009−541808(P2009−541808A)
【公表日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−517290(P2009−517290)
【出願日】平成19年6月27日(2007.6.27)
【国際出願番号】PCT/EP2007/057798
【国際公開番号】WO2008/000841
【国際公開日】平成20年1月3日(2008.1.3)
【出願人】(594116183)エシロール アテルナジオナール カンパニー ジェネラーレ デ オプティック (69)
【氏名又は名称原語表記】ESSILOR INTERNATIONAL COMPAGNIE GENERALE D’ OPTIQUE
【Fターム(参考)】