説明

低温液化ガスの注入器具

【課題】低温液化ガスの容器への注入作業を簡便化するとともに、突沸をより確実に防止できる低温液化ガス注入器具を提供する。
【解決手段】低温液化ガスを内部に貯留するとともに下面に開口させた導出孔1aから内部の低温液化ガスを導出可能に構成した貯留部材1と、前記導出孔1aから流出する低温液化ガスを沿わせて流すべく当該導出孔1aの周囲から垂下させた案内体2と、前記貯留部材1の下面1cに突設したスペーサ3とを設け、前記容器200に低温液化ガスを注ぎ込む注入位置において、前記スペーサ3が介在することで前記貯留部材1の導出孔1a近傍における下面1cと容器200の注入孔20a近傍における上面20cとの間に隙間が形成されるとともに、前記案内体2の下端が前記注入孔20aの略直上で、なおかつ該注入孔20aの上端と同じ高さまたはそれよりも上方に位置づけられるように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、液体窒素等の低温液化ガスを所定容器に注入するための注入器具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液体窒素等の低温液化ガスによって所望の低温を維持するような装置には、例えば断熱容器が周囲に設けられており、その断熱容器に低温液化ガスを注ぐことにより、その内部に設置した装置本体を低温に維持するように構成されている。
【0003】
断熱容器には、低温液化ガスを注ぎ込むための注入孔が開口させてあるが、通常、この注入孔は断熱性を維持するために可及的小径に構成してあるため、従来は、図8に示すように、その注入孔に漏斗を差し込み、その漏斗を介して低温液化ガスを注入するようにしている。その漏斗の例としては、特許文献1に示すものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開昭63−94397号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述の構成において、容器が十分に冷却されていない初期段階で低温液化ガスを短時間に多量に注入すると、注入孔が漏斗で塞がれていることから容器内部で低温液化ガスが一気に気化して内圧が急上昇し、突沸して漏斗が吹き飛び、注入孔から低温液化ガスが噴出する場合がある。そのため、従来は、この突沸を避けるために時間をかけて段階的に少しずつ低温液化ガスを注入することで、容器を十分に冷却しながら作業を進めるようにしている。
【0006】
しかしながら、このような手法では、低温液化ガスの注入に非常に手間がかかる。また、低温液化ガスを少しずつ注入するその少しずつの量が作業者任せであるため、如何に作業規定を設けて管理しても、誤って漏斗に一定量以上の低温液化ガスを注いでしまう場合が生じ、突沸を抜本的に解決することが難しい。
【0007】
本発明は、かかる問題点を鑑みてなされたものであって、低温液化ガスの容器への注入作業を簡便化するとともに、突沸をより確実に防止できる低温液化ガス注入器具を提供することをその主たる所期課題としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明に係る注入器具は、容器の上面に開口させた注入孔から該容器に低温液化ガスを注ぎ込むためのものであって、低温液化ガスを内部に貯留するとともに、下面に開口させた導出孔から内部の低温液化ガスを導出可能に構成した貯留部材と、前記導出孔から流出する低温液化ガスを沿わせて流すべく、当該導出孔の周囲から垂下させた案内体と、前記貯留部材の下面に突設したスペーサとを具備し、前記容器に低温液化ガスを注ぎ込む注入位置において、前記スペーサが介在することで前記貯留部材の下面と容器の上面との間に隙間が形成されるとともに、前記案内体の下端が前記注入孔の直上かつ該注入孔の上端よりも上方に位置づけられるように構成されていることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の別態様としては、前記案内体の下端部の外径を前記注入孔の内径よりも小さくすることにより、前記案内体の下端部が前記注入孔内に挿入される注入位置において、該案内体と注入孔との間に隙間が形成されるとともに、該注入位置において前記スペーサが介在し、前記貯留部材の下面と容器の上面との間に隙間が形成されるように構成されたものを挙げることができる。
案内体は、要は、導出孔から垂れてくる低温液化ガスを注入孔に導くものであればよく、単純な線状のものでもよいが、管状をなすものがより好ましい。
【発明の効果】
【0010】
かかる構成の注入器具であれば、注入孔が注入器具によって塞がれることなく開口することから、容器の内部圧力が上昇しにくくなる。したがって突沸が発生しにくく、例えば、従来に比べて上限注入流量を大きく設定でき、液体窒素の注入時間を短縮するといったことが可能となる。
また、案内体を通過する液体窒素の流量を、突沸を生じさせない程度の流量となるように、該案内体或いは導出孔の内径を設計しておきさえすれば、作業者は、最初に貯留部材に液体窒素の必要量を注ぎ込むだけで、後は放置していても、突沸のおそれなく適切に断熱容器内に液体窒素を注入することができる。
このように、本発明によれば、容器への低温液化ガスの注入作業を簡便化するとともに、突沸をより確実に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態における注入器具及び容器を示す斜視図。
【図2】同実施形態における注入器具及び容器を示す縦断面図。
【図3】同実施形態における注入器具を下面から視た斜視図。
【図4】同実施形態における注入器具の平面図。
【図5】図2におけるA部詳細図。
【図6】本発明の他の実施形態における案内体を示す部分縦断面図。
【図7】本発明のさらに他の実施形態における案内体を示す部分縦断面図。
【図8】低温液化ガスを容器に注入する従来例を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
【0013】
本実施形態に係る注入器具100は、図1に示すように、例えば、断熱容器200内に収容された本体分析部(図示しない)を低温に保つべく、該断熱容器200に低温液化ガスである液体窒素を注入するためのものである。
【0014】
まずこの断熱容器200から説明すると、このものは、図1、図2に示すように、上下面が閉塞された円筒形状をなすものであり、その上面の中央部には液体窒素を注ぎ込むための注入孔20aが開口させてある。
【0015】
次に、注入器具100について詳述する。
この注入器具100は、基本的には、低温液化ガスを貯留するための貯留部材1、この貯留部材1から排出される低温液化ガスを前記断熱容器200に導入するための案内体2、及び貯留部材1の支持と位置決めをするためのスペーサ3からなるものである。
【0016】
前記貯留部材1は、図1、図2に示すように、底壁11及び側周壁12からなる上面が開口した円筒形状のものである。底壁11の中央部には、上下に貫通する導出孔1aが設けてあり、この導出孔1aから内部に貯留した低温液化ガスを排出可能に構成してある。また、底壁11の上面1bは、図2に示すように中央の導出孔1aに向かって低くなるように傾斜させてある。
【0017】
案内体2は、図2、図5等に示すように、導出孔1aの周囲から鉛直に垂下するように前記底壁11に設けた円筒管状のものであり、その外径が注入孔20aの内径よりも小さくなるように設定してある。したがって、案内体2の内径も注入孔20aの内径より小さくなる。
【0018】
スペーサ3は、図2〜図4等に示すように、底壁11の周縁部から鉛直に垂下させた柱状のものであり、ここでは同じ長さの4本のスペーサ3を同一円周上に等間隔で配設している。スペーサ3の垂下寸法は、その下端が案内体2の下端よりもわずかに低くなるように、すなわち、スペーサ3の垂下寸法が案内体2の垂下寸法よりもわずかに大きくなるように設定してある。
【0019】
次に、かかる構成の注入器具100を用いて断熱容器200に液体窒素を注入する手順を説明する。
まず、図2に示すように、断熱容器200の上面に注入器具100を載置する。断熱容器200の上面には、その周縁部に円状に周回する段部20bが設けてあり、その段部20bにスペーサ3を係合させることによって断熱容器200に対する注入器具100の位置決めがなされる。以下、この位置を注入位置と言う。
【0020】
前記注入位置では、図2、図5に示すように、注入孔20aの直上に案内体2が配置され、かつ案内体2の下端が注入孔20aの上面よりもわずかに上方に位置づけられる。また、貯留部材1の導出孔1a近傍における下面1cと容器200の注入孔20a近傍における上面20cとの間に隙間が形成される。この隙間の鉛直方向の寸法は、注入孔20aの開口部での内径程度以上が好ましく、ここではその1.5〜2倍程度に設定している。
【0021】
このようにして注入器具100を断熱容器200上に設置した後、注入容器の上面開口に液体窒素を注ぎ込む。そうすると、液体窒素が案内体2の内部を通過して注入孔20aに導入される。
【0022】
しかしてこの実施形態では、案内体2を通過する液体窒素の流量が、突沸を生じさせない程度の流量となるように、該案内体2或いは導出孔1aの内径を設計しているので、作業者は、最初に貯留部材1に液体窒素の必要量を注ぎ込めば、後は放置していても、突沸のおそれなく適切に断熱容器200内に液体窒素を注入することができる。また、そもそも注入孔20aと注入器具100とが離間していて注入孔20aが注入器具100によって塞がれることなく開口しており、容器200の内部圧力が上昇しにくい構造であるため、突沸が発生しにくい。したがって、上限注入流量を大きく設定でき、液体窒素の注入時間を短縮することもできる。
【0023】
さらに、導出孔1aの内径は1〜5mm好ましくは1〜3mmに設計しているので、低温液化ガスが激しく沸騰して注入器具側に飛散しようとしても、液滴化した低温液化ガスは導出孔1aを通ることができず、作業者に飛散物がかかることを防止できる。
【0024】
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
例えば、前記実施形態では案内体2の外径を注入孔20aの内径よりも小さく設定しているが、案内体の外径を注入孔の内径より大きく設定してもよい。
【0025】
また、スペーサ3は常に断熱容器200上面20cと注入器具100の下面1cとの間にスペース(隙間)を作り、下面1cによって注入孔20aが塞がれることがないので、断熱容器200の内圧を上昇させることがなく、漏斗が浮き上がり、中の低温液化ガスをこぼす様なことがない。
【0026】
そして、注入器具100の下面1cは断熱容器200の注入孔20aを充分に覆う面積を有しているので、低温液化ガスが沸騰し飛散することがあったとしても、この下面1cにより飛散物が作業者側に直接かかることを防止できる。
【0027】
また、図6に示すように、前記注入位置において、案内体2の下端部が前記注入孔20a内に挿入されるように構成してもよい。この場合は、前記案内体2の下端部の外径を前記注入孔20aの内径よりも小さくして、案内体2と注入孔20aとの間に隙間が形成されるようにする必要がある。これは、注入孔20aを閉塞しないようにするためである。案内体2の下端部外径は、注入孔20aの内径の1/2程度又はそれ以下であることが望ましい。
【0028】
案内体は、鉛直に垂下させる必要は必ずしもなく、斜めにしてもよいし、途中で曲がるように構成してもよい。要は、案内体の下端部が注入孔の開口直上又は注入孔内部に位置づけられればよい。
【0029】
さらに、案内体は必ずしも筒状のものに限られず、例えば、図7に示すように、線状乃至棒状の中実部材でもよい。この場合は案内体2の外表面を伝って低温液化ガスが排出され、注入孔20aに導かれることになる。
【0030】
加えて言えば、スペーサは、容器との間で位置決め機能を発揮するようにしたものであればよく、棒状のものに限られない。また、このスペーサが嵌り込む容器側の形状も、段部のみならず、溝や突条あるいは穴等が設けてあるものでもよい。貯留部材も円筒形状に限定されるものではない。
【0031】
その他、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【符号の説明】
【0032】
100・・・注入器具
1・・・貯留部材
1a・・・導出孔
1c・・・上面
2・・・案内体
20a・・・注入孔
20c・・・下面
3・・・スペーサ
200・・・容器(断熱容器)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器の上面に開口する注入孔から該容器に低温液化ガスを注ぎ込むための注入器具であって、
低温液化ガスを内部に貯留するとともに下面に開口させた導出孔から内部の低温液化ガスを導出可能に構成した貯留部材と、前記導出孔から流出する低温液化ガスを沿わせて流すべく当該導出孔の周囲から垂下させた案内体と、前記貯留部材の下面に突設したスペーサとを具備し、
前記容器に低温液化ガスを注ぎ込む注入位置において、前記スペーサが介在することで前記貯留部材の導出孔近傍における下面と容器の注入孔近傍における上面との間に隙間が形成されるとともに、前記案内体の下端が前記注入孔の略直上で、なおかつ該注入孔の上端と同じ高さまたはそれよりも上方に位置づけられるように構成していることを特徴とする注入器具。
【請求項2】
容器の上面に開口する注入孔から該容器に低温液化ガスを注ぎ込むための注入器具であって、
低温液化ガスを内部に貯留するとともに下面に開口させた導出孔から内部の低温液化ガスを導出可能に構成した貯留部材と、前記導出孔から流出する低温液化ガスを沿わせて流すべく当該導出孔の周囲から垂下させた案内体と、前記貯留部材の下面に突設したスペーサとを具備し、
前記案内体の下端部の外径を前記注入孔の内径よりも小さくすることにより、前記案内体の下端部が前記注入孔内に挿入される注入位置において、該案内体と注入孔との間に隙間が形成されるとともに、該注入位置において前記スペーサが介在し、前記貯留部材の導出孔近傍における下面と容器の注入孔近傍における上面との間に隙間が形成されるように構成していることを特徴とする注入器具。
【請求項3】
前記案内体が管状をなすものである請求項1又は2記載の注入器具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−223283(P2010−223283A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−69350(P2009−69350)
【出願日】平成21年3月23日(2009.3.23)
【出願人】(000155023)株式会社堀場製作所 (638)
【Fターム(参考)】