説明

低温焼成セラミック基板構造体及びその製造方法

【課題】アンテナ素子などを形成するのに好適な低温焼成セラミック基板構造体を提供する。
【解決手段】この低温焼成セラミック基板構造体1は、誘電体層I1〜I8に導体層C1〜C8が設けられたシート層S1〜S8が複数個積層され焼成されて成り、裏面1a側に位置するシート層S8の導体層C8にグランド電極2が形成されたものにおいて、グランド電極2と表面1b側に位置するシート層S1の導体層C1の放射電極4との間に、シート層S8とシート層S1間に位置する所定のシート層S3〜S6の所定箇所に空洞部3が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンテナ素子などを集積するのに好適な低温焼成セラミック基板構造体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、高周波用の電子部品では、小型化や高性能化のために、低温焼成セラミック(LTCC)基板などの誘電体基板に、フィルタやアンテナ素子などの高周波回路を形成し集積することが行われている。例えば、特許文献1には、一部がフィルタを構成する導波線路とアンテナ素子を低温焼成セラミック基板などの誘電体基板に形成し集積したものが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−102024号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、高周波信号は周波数(例えば、ミリ波帯)が高くなるにつれて伝送損失が大きく、また、アンテナ素子のような高周波回路は専有面積が大きく信号が伝送される距離も長い。よって、アンテナ素子などは、伝送損失をできるだけ抑制するよう誘電体は誘電率の低いもの(例えば、比誘電率が約2〜4の樹脂製など)を用いるのが望ましい。一方、信号処理を行うフィルタなどは、通常、比較的誘電率が高い(例えば、比誘電率が約4〜9の)低温焼成セラミック基板が用いられている。そのため、フィルタなどとともに集積しても良好な特性を得ることができるように、アンテナ素子などにおいて伝送損失を抑制できる低温焼成セラミック基板構造体が望まれる。
【0005】
本発明は、係る事由に鑑みてなされたものであり、その目的は、アンテナ素子などを形成するのに好適な低温焼成セラミック基板構造体及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の低温焼成セラミック基板構造体は、誘電体層に導体層が設けられたシート層が複数個積層され焼成されて成り、裏面側に位置するシート層の導体層にグランド電極が形成された低温焼成セラミック基板構造体において、前記グランド電極と表面側に位置するシート層の導体層との間に位置する内部の所定のシート層の所定箇所に空洞部が設けられていることを特徴とする。
【0007】
請求項2に記載の低温焼成セラミック基板構造体は、請求項1に記載の低温焼成セラミック基板構造体において、前記グランド電極は、最裏面側に位置するシート層の外部に露出した導体層に形成されていることを特徴とする。
【0008】
請求項3に記載の低温焼成セラミック基板構造体は、請求項1又は2に記載の低温焼成セラミック基板構造体において、前記空洞部は、一部が外部に開放されて形成されているものであることを特徴とする。
【0009】
請求項4に記載の低温焼成セラミック基板構造体は、請求項1〜3のいずれか1項に記載の低温焼成セラミック基板構造体において、前記空洞部よりも表面側に位置するシート層の導体層にアンテナ素子の放射電極が形成されていることを特徴とする。
【0010】
請求項5に記載の低温焼成セラミック基板構造体の製造方法は、請求項1〜4のいずれか1項に記載の低温焼成セラミック基板構造体を製造する製造方法であって、前記誘電体層の原材料から前記シート層となる基板シートを複数個成形する基板シート成形工程と、前記複数の基板シートに、ビアホールを設けてそれを導電性部材で充填する及び/又は導電性部材で所定の平面パターンを形成することによって前記導体層を設ける基板シート加工工程と、前記複数の基板シートを積み重ね、加熱及び加圧によって圧着させて積層体とする積層工程と、圧着された前記積層体をカットして前記低温焼成セラミック基板構造体となる部分を取り出す低温焼成セラミック基板構造体取出工程と、該取り出された部分から前記低温焼成セラミック基板構造体を焼成する焼成工程と、を含んで成り、前記基板シート加工工程では、前記内部の所定のシート層となる基板シートにおいて前記空洞部に対応する空洞部部分を切除することを特徴とする。
【0011】
請求項6に記載の低温焼成セラミック基板構造体の製造方法は、請求項5に記載の低温焼成セラミック基板構造体の製造方法において、前記セラミック基板構造体の前記空洞部は、外部に一部が開放されて開口しているものであって、前記基板シート加工工程で、前記複数の基板シートに、前記空洞部が開口する1辺に沿って切れ込みを形成し、かつ、前記内部の所定のシート層となる基板シートにおいて前記空洞部部分とともにそれに連続して前記切れ込みを横切って外方にまで拡張した拡張部分を切除し、前記積層工程で、前記空洞部部分と前記拡張部分に空洞部仮設体を配置し、前記低温焼成セラミック基板構造体取出工程後又は焼成工程後に、前記空洞部仮設体を引き抜くことを特徴とする。
【0012】
請求項7に記載の低温焼成セラミック基板構造体の製造方法は、請求項5に記載の低温焼成セラミック基板構造体の製造方法において、前記セラミック基板構造体の前記空洞部は、外部に一部が開放されて開口しているものであって、前記低温焼成セラミック基板構造体取出工程で、前記低温焼成セラミック基板構造体となる部分とともに、それに連続して一体に形成された収縮変形吸収部分を取り出し、該収縮変形吸収部分は、前記空洞部とともに、前記表面側に位置するシート層の導体層と前記グランド電極がそれぞれ連続して拡張されており、焼成工程後に、該収縮変形吸収部分を切除することを特徴とする。
【0013】
請求項8に記載の低温焼成セラミック基板構造体の製造方法は、請求項7に記載の低温焼成セラミック基板構造体の製造方法において、前記基板シート加工工程で、前記複数の基板シートに、前記拡張された空洞部が開口する1辺に沿って切れ込みを形成し、かつ、前記内部の所定のシート層となる基板シートにおいて前記空洞部部分とともにそれに連続して前記切れ込みを横切って外方にまで拡張した拡張部分を切除し、前記積層工程で、前記空洞部部分と前記拡張部分に空洞部仮設体を配置し、前記低温焼成セラミック基板構造体取出工程後又は焼成工程後に、前記空洞部仮設体を引き抜くことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の低温焼成セラミック基板構造体によれば、積層構造における積層方向の所定の箇所に空洞部を形成して誘電率を低くできるので、アンテナ素子などを形成するのに好適である。また、本発明の低温焼成セラミック基板構造体の製造方法によれば、所望の低温焼成セラミック基板構造体を比較的容易に製造することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態に係る低温焼成セラミック基板構造体を示す概略斜視図である。
【図2】同上の低温焼成セラミック基板構造体を示すものであって、図3〜図6に示すA−A線で切断した模式的な切断端面図である。
【図3】同上の低温焼成セラミック基板構造体の最裏面側(8層目)のシート層を示す底面図である。
【図4】同上の低温焼成セラミック基板構造体の7及び2層目のシート層を示す底面図である。
【図5】同上の低温焼成セラミック基板構造体の6〜3層目のシート層を示す底面図である。
【図6】同上の低温焼成セラミック基板構造体の最表面側(1層目)のシート層を示す底面図である。
【図7】同上の低温焼成セラミック基板構造体の最裏面側(8層目)のシート層の基板シートを示す平面図である。
【図8】同上の低温焼成セラミック基板構造体の7及び2層目のシート層の基板シートを示す平面図である。
【図9】同上の低温焼成セラミック基板構造体の6〜3層目のシート層の基板シートを示す平面図である。
【図10】同上の低温焼成セラミック基板構造体の最表面側(1層目)のシート層の基板シートを示す平面図である。
【図11】同上の低温焼成セラミック基板構造体を取り出すために基板シートの積層体をカットする仮想のラインを示す平面図である。
【図12】同上の低温焼成セラミック基板構造体の焼成中の状態を示す概略斜視図である。
【図13】同上の低温焼成セラミック基板構造体の物理的変形の現象を模式的に示す概略斜視図である。
【図14】同上の低温焼成セラミック基板構造体に更なるシート層を追加した例を示す模式的な切断端面図である。
【図15】同上の低温焼成セラミック基板構造体に収縮変形吸収部分を付加したものの焼成中の状態を示す概略斜視図である。
【図16】同上の低温焼成セラミック基板構造体に収縮変形吸収部分を付加したものの最裏面側(8層目)のシート層の基板シートを示す平面図である。
【図17】同上の低温焼成セラミック基板構造体に収縮変形吸収部分を付加したものの7及び2層目のシート層の基板シートを示す平面図である。
【図18】同上の低温焼成セラミック基板構造体に収縮変形吸収部分を付加したものの6〜3層目のシート層の基板シートを示す平面図である。
【図19】同上の低温焼成セラミック基板構造体に収縮変形吸収部分を付加したものの最表面側(1層目)のシート層の基板シートを示す平面図である。
【図20】同上の低温焼成セラミック基板構造体に収縮変形吸収部分を付加したものを取り出すために基板シートの積層体をカットする仮想のラインを示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための好ましい形態を図面を参照しながら説明する。本発明の実施形態に係る低温焼成セラミック基板構造体1は、スロットアンテナのアンテナ素子を形成したものである。この低温焼成セラミック基板構造体1は、図1及び図2に示すように、複数(本実施形態では8個)のシート層S1〜S8が積層され焼成されたものである。各々のシート層S1〜S8は、平面視で略四辺形をなし(図3〜図6参照)、誘電体層I1〜I8に、銀などの導電性部材から成る導体層C1〜C8が設けられたものである。なお、図1及び図2(及び、後述の図12〜図15)では、理解し易いように、積層方向(図2における上下方向)の長さを、それと直交する方向の長さよりも拡大して示している。
【0017】
最裏面側(8層目)のシート層S8は、導体層C8が低温焼成セラミック基板構造体1の裏面1aにおいて外部に露出しており(図2参照)、図3に示すように、四方の端から端までほぼ全体にわたって、グランド電極2が形成されている。グランド電極2には、後述の放射電極4との間で電波を適切な位置に誘導する導波路を成すために、多数の貫通したビアホール58、58、…が設けられ、それにも導体層C8としての導電性部材が充填されている。ビアホール58は、その直径が例えば0.1mm程度であり、後述の給電源導波孔6の周囲から後述の放射電極4の電波放射部分4aに対向する大面積部分2aの周囲まで列(図3中、B、B’、C、C’で示す略正方形状の列)になって設けられ、また、大面積部分2aの給電源導波孔6側には、この列C,C’に並設される電波分配用の列(図3中、Dで示す上下に並ぶ複数の列)が設けられている。また、グランド電極2の一部を切除することにより給電源導波孔6が形成されており、この給電源導波孔6には図外の導波管から電波が供給される。この導波管を取り付けるために、給電源導波孔6の周囲に4箇所、グランド電極2の一部を切除してその内側に貫通した取付孔78が設けられている。
【0018】
前述した最裏面側に位置するシート層S8と後述する最表面側に位置するシート層S1間に位置する内部のシート層の1つである7層目のシート層S7は、図4に示すように、上記のビアホール58、58、…と同様の多数の貫通したビアホール57、57、…が設けられ、それに導体層C7としての導電性部材が充填されている。また、上記の取付孔78と同様の4個の貫通した取付孔77が設けられている。同様に、最裏面側に位置するシート層S8と最表面側に位置するシート層S1間に位置するその他の内部のシート層の6層目のシート層S6〜2層目のシート層S2についても、図4及び図5に示すように、ビアホール56〜52と取付孔76〜72が設けられており、ビアホール56〜52にそれぞれ導体層C6〜C2としての導電性部材が充填されている。
【0019】
そのうち、6層目のシート層S6〜3層目のシート層S3は、所定箇所に空洞部3が設けられている。空洞部3は、具体的には、図5に示すように、一部が外部に開放されて形成されており、すなわち、開口部3aにおいて開口している。さらには、空洞部3は、後述する放射電極4の電波放射部分4aと略重なり合う(略重合する)ように形成されている。
【0020】
最表面側(1層目)のシート層S1は、図6に示すように、上記のビアホール58、58、…などと同様の多数の貫通したビアホール51、51、…が設けられ、それに導体層C1としての導電性部材が充填されている。また、上記の取付孔78などと同様の4個の貫通した取付孔71が設けられている。導体層C1は、また、上記の給電源導波孔6及び後述の多数のスロット(みぞ孔)40、40、…を除いてほぼ上記のグランド電極2と同様な平面形状の放射電極4を形成している。この放射電極4は、グランド電極2とともにアンテナ素子を構成して電波を放射する側の電極であり、低温焼成セラミック基板構造体1の表面1bにおいて外部に露出している(図2参照)。これと逆向きにして放射電極4が表面1bにおいて外部に露出ないようにすることも可能である。
【0021】
このようなシート層S1〜S8の積層により、各ビアホール51〜58は積層方向に接続されており、それらを充填する導電性部材は一連の柱状導体を形成している。給電源導波孔6から供給された電波は、放射電極4とグランド電極2の間で、柱状導体の並びで構成された導波路を通って伝播する。そして、この電波は、電波分配用の列Dの柱状導体で適正な割合で分配(図3〜図6における上下方向に分配)されてから、多数のスロット40、40、…が形成されている電波放射部分4aに誘導された後、導体層C1がないところであるスロット40、40、…から放射される。また、シート層S1〜S8の積層により、取付孔71〜78が連通しており、図外の導波管を固く取り付けることができる。
【0022】
ここで、電波が放射電極4とグランド電極2の間を伝播するときには伝送損失が生じるが、放射電極4において大面積を占める電波放射部分4aとグランド電極2との間には空洞部3が設けられており、そこには空気が入っている。空気の比誘電率はほぼ1であり、誘電体層I1〜I8の誘電率に比べて非常に小さい。そして、電波放射部分4aとグランド電極2の間には誘電体層I1、I2、I7、I8と空気層から成る誘電体が存在して、それによる伝送損失が抑制できる。なお、この空洞部3を低温焼成セラミック基板構造体1の積層方向の中央近傍に形成する、より詳細には、空洞部3の裏面1a側及び表面1b側に同数のシート層を存在させることにより、低温焼成セラミック基板構造体1の外力に対する強度低下が抑制されている。
【0023】
このような低温焼成セラミック基板構造体1は、フィルタなどの形成で通常用いられる低温焼成セラミック基板を用いても、放射電極4とグランド電極2が構成するアンテナ素子が良好な特性を得ることができるので、他の高周波回路も同一の低温焼成セラミック基板にも容易に集積可能である。
【0024】
低温焼成セラミック基板構造体1は、以下のようにして製造することができる。先ず、基板シート成形工程で、誘電体層I1〜I8を形成する誘電体の原材料から所定の厚さ(例えば、0.05〜0.1mm程度)の基板シート(いわゆるグリーンシート)B1〜B8を複数個(この実施形態では8個)成形する。目的の低温焼成セラミック基板構造体1は、例えば、基板シートB1〜B8のサイズが150〜200mm四角程度であり、低温焼成セラミック基板構造体1のサイズが50〜70mm四角程度ならば、基板シートB1〜B8から2個分が製造されることが可能である。これらの基板シートB1〜B8は、低温焼成セラミック基板構造体1では、シート層S1〜S8になる。
【0025】
そして、基板シート加工工程では、基板シートB1〜B8に、マイクロドリルやレーザーなどにより、所要のパターンに応じて貫通したビアホール51〜58や取付孔71〜78を設ける。また、図7〜図10に示すように、完成したセラミック基板構造体1において内方に設けられた空洞部3が開口することになる外周の1辺に沿って、基板シートB1〜B8の端部近傍まで切れ込み81〜88を形成する。この切れ込み81〜88は、基板シートB1〜B8を貫通している。また、内部のシート層S3〜S6に対応する基板シートB3〜B6においては、図9に示すように、空洞部3に対応する空洞部部分33〜36とともにそれに連続して切れ込み83〜86を横切って外方にまで拡張した拡張部分33A〜36Aを切除する。
【0026】
そして、導体層C1〜C8を形成するように、導電性部材である導体ペーストを基板シートB1〜B8にスクリーン印刷したり、導体薄膜をメッキ等により形成してからパターニングしたりして、ビアホール51〜58を充填し、及び/又は、基板シートB1〜B8の表面に所定の平面形状のパターンを形成する。
【0027】
積層工程では、こうした基板シートB1〜B8を複数個(本実施形態では8個)正確に積み重ね、加熱及び加圧によって圧着させ一体化して積層体とする。このとき、最裏面側(8層目)のシート層S8に対応する基板シートB8は導体層C8が設けられている表面が露出するようにする。また、最表面側(1層目)のシート層S1に対応する基板シートB1は導体層C1が設けられている表面が露出するように、基板シートB8とは逆向きに重ねる。内部の複数の基板シートB2〜B7については、基板シートB1又はB8の向きのどちらかに合わせて重ねればよい。
【0028】
このとき、基板シートB3〜B6は、空洞部部分33〜36及び拡張部分33A〜36Aが切除されているので、これらの基板シートB3〜B6を積み重ねるときには、空洞部部分33〜36及び拡張部分33A〜36Aに空洞部仮設体3Aを配置しておく(図12参照)。空洞部仮設体3Aは、後述の積層工程(及び焼成工程)の際に基板シートB2〜B7に接着し難く一体化しないものであり、低温焼成セラミック基板構造体1と同じ又は類似の誘電体層を圧着して焼成した別の完成した低温焼成セラミック基板構造体であるのが好ましい。この低温焼成セラミック基板構造体の空洞部仮設体3Aは、曲げに対する強度が高いので、後述するように、空洞部仮設体3Aを引き抜く際に曲がったとしても破壊され難く、また、熱膨張率も製造する低温焼成セラミック基板構造体1に非常に近いので、空洞部3のサイズ及び形状を制御し易い。
【0029】
そして、低温焼成セラミック基板構造体取出工程では、圧着された積層体を、図11の破線で示す低温焼成セラミック基板構造体1の外周の3辺の(上記の切れ込み81〜88以外の辺の)仮想のライン及び上記拡張部分33A〜36Aの少し外方の(切れ込み81〜88と平行の)仮想のラインに沿って切断用ブレードでカットして低温焼成セラミック基板構造体1となる部分を取り出す。このとき、切れ込み81〜88が形成されていた面からは、図12に示すように、空洞部仮設体3Aが低温焼成セラミック基板構造体1となる部分からはみ出した状態となっている。
【0030】
そして、焼成工程において、取り出した部分から低温焼成セラミック基板構造体1を焼成する。
【0031】
ここで、空洞部仮設体3Aは、低温焼成セラミック基板構造体取出工程後或いは焼成工程後につかんで引き抜かれる。低温焼成セラミック基板構造体取出工程後に引き抜く場合は、かわりに、空洞部仮設体3Aと同等の大きさであり焼成工程に適した別の空洞部仮設体を挿入しておくことが好ましい。
【0032】
こうして、上記した工程で、空洞部3が積層方向の中央近傍に形成された図1で示したような低温焼成セラミック基板構造体1を比較的容易に製造できるのである。
【0033】
次に、空洞部3の開口部3aが積層方向に広がり易くなるという現象の対策について述べる。焼成工程においては、導体層C1〜C8と誘電体層I1〜I8とはともに収縮するが、導体層C1〜C8を形成する導電性部材と誘電体層I1〜I8を形成する誘電体とは収縮率が異なる。それにより、図13に示すように、空洞部3の開口部3aの中央付近が積層方向に広がり、内方に向かって物理的変形が起こり易い。このような物理的変形が起こると、電波の放射又は指向性などの特性にも影響してくる。この開口部3aからの物理的変形を抑制するためには、例えば、低温焼成セラミック基板構造体1の上に重しをのせて焼成することも必要となる。
【0034】
また、対策として、図14に示すように、上記のシート層S8の裏面1a側に更に別のシート層S8’を、シート層S1の表面1b側に更に別のシート層S1’を、それぞれ1個又は2個以上(本実施形態では2個)積層することにより、開口部3aの物理的変形を抑制することも可能である。この場合、通常、シート層S1’、S8’の、少なくとも空洞部3に重なり合う部分には、放射電極4やグランド電極2のような導体層を設けないようにする。また、シート層S1’、S8’の誘電体層が誘電体層I1〜I8と別の材料であると、収縮率の違いにより複雑な物理的変形が発生し得るので、シート層S1’、S8’の誘電体層は、誘電体層I1〜I8と同じ材料が好ましい。なお、給電源導波孔6に図外の導波管から電波を適切に供給するように、シート層S8’には上記の給電源導波孔6に連通する給電源導波孔6Aが形成され、また、導波管が接触するようになるグランド電極パッド2’が形成され、グランド電極パッド2’はビアホール58’、58’、…に充填された導体層C8’を介してグランド電極2に接続される。
【0035】
また、特に効果的な対策の方法は、焼成し終わるまでは、図15に示すように、低温焼成セラミック基板構造体1となる部分に連続して収縮変形吸収部分1’を一体に形成しておく方法である。すなわち、低温焼成セラミック基板構造体取出工程で、低温焼成セラミック基板構造体1となる部分とともに収縮変形吸収部分1’を取り出し、焼成工程後に、収縮変形吸収部分1’を切除して、図1に示すような目的とする低温焼成セラミック基板構造体1を残すという方法である。この収縮変形吸収部分1’は、空洞部3とともに、最表面側に位置するシート層S1の導体層である放射電極4と、グランド電極2と、がそれぞれ連続して拡張されているものである。なお、この放射電極4の拡張部分は、図のようにスロット40、40、…を形成しなくてもよいし、或いは形成してもよい。
【0036】
こうすると、焼成するにつれて収縮変形吸収部分1’の端部は積層方向に広がるが、それによる物理的変形は、低温焼成セラミック基板構造体1となる部分にはほとんど及ばなくなる。その結果、収縮変形吸収部分1’を切除して完成した低温焼成セラミック基板構造体1では、空洞部3の開口部3aの広がりは、ほぼ無視できる程度に抑制できる。
【0037】
この収縮変形吸収部分1’を低温焼成セラミック基板構造体1となる部分に付加するには、図16〜20に示すように、基板シートB1〜B8の切れ込み81〜88を、収縮変形吸収部分1’の端部、すなわち拡張された空洞部3が開口する1辺、に沿って形成するようにしておいて、積層工程で上述したのと同様にして積層体とし、低温焼成セラミック基板構造体取出工程で上述したのと同様にして、低温焼成セラミック基板構造体1となる部分とともに収縮変形吸収部分1’を取り出せばよい。
【0038】
このように、低温焼成セラミック基板構造体1の上に重しをのせる方法、シート層S8の裏面1a側及びシート層S1の表面1b側にシート層S8’及びシート層S1’を更に積層する方法、焼成し終わるまで収縮変形吸収部分1’を形成しておいたりする方法、を1つ又は2以上組み合わせて用いることにより、空洞部3の開口部3aの広がりを抑制することができる。
【0039】
以上、本発明の実施形態に係る低温焼成セラミック基板構造体について説明したが、本発明は、上述の実施形態に記載したものに限られることなく、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内でのさまざまな設計変更が可能である。例えば、上述したようにシート層S8の裏面1a側やシート層S1の表面1b側に更に別のシート層を積層することも可能であり、この場合も、内部の所定のシート層S3〜S6に設けられる空洞部3は、裏面側に位置するシート層S8のグランド電極2と表面側に位置するシート層S1の導体層C1との間に位置する。また、この低温焼成セラミック基板構造体は、マイクロストリップアンテナなどの他のアンテナ素子に適用することも可能である。また、更には、アンテナ素子の放射電極にかえて、伝送損失の大きくなり易いようなマイクロストリップラインなどの配線に適用することも可能である。
【符号の説明】
【0040】
1 低温焼成セラミック基板構造体
1a 低温焼成セラミック基板構造体1の裏面
1b 低温焼成セラミック基板構造体1の表面
1’ 収縮変形吸収部分
2 グランド電極
3 空洞部
33〜36 空洞部部分
33A〜36A 拡張部分
3A 空洞部仮設体
4 放射電極
51〜58 ビアホール
81〜88 切れ込み
I1〜I8 誘電体層
C1〜C8 導体層
S1〜S8 シート層
B1〜B8 基板シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体層に導体層が設けられたシート層が複数個積層され焼成されて成り、裏面側に位置するシート層の導体層にグランド電極が形成された低温焼成セラミック基板構造体において、
前記グランド電極と表面側に位置するシート層の導体層との間に位置する内部の所定のシート層の所定箇所に空洞部が設けられていることを特徴とする低温焼成セラミック基板構造体。
【請求項2】
請求項1に記載の低温焼成セラミック基板構造体において、
前記グランド電極は、最裏面側に位置するシート層の外部に露出した導体層に形成されていることを特徴とする低温焼成セラミック基板構造体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の低温焼成セラミック基板構造体において、
前記空洞部は、一部が外部に開放されて形成されているものであることを特徴とする低温焼成セラミック基板構造体。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の低温焼成セラミック基板構造体において、
前記空洞部よりも表面側に位置するシート層の導体層にアンテナ素子の放射電極が形成されていることを特徴とする低温焼成セラミック基板構造体。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の低温焼成セラミック基板構造体を製造する製造方法であって、
前記誘電体層の原材料から前記シート層となる基板シートを複数個成形する基板シート成形工程と、
前記複数の基板シートに、ビアホールを設けてそれを導電性部材で充填する及び/又は導電性部材で所定の平面パターンを形成することによって前記導体層を設ける基板シート加工工程と、
前記複数の基板シートを積み重ね、加熱及び加圧によって圧着させて積層体とする積層工程と、
圧着された前記積層体をカットして前記低温焼成セラミック基板構造体となる部分を取り出す低温焼成セラミック基板構造体取出工程と、
該取り出された部分から前記低温焼成セラミック基板構造体を焼成する焼成工程と、
を含んで成り、
前記基板シート加工工程では、前記内部の所定のシート層となる基板シートにおいて前記空洞部に対応する空洞部部分を切除することを特徴とする低温焼成セラミック基板構造体の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の低温焼成セラミック基板構造体の製造方法において、
前記セラミック基板構造体の前記空洞部は、外部に一部が開放されて開口しているものであって、
前記基板シート加工工程で、前記複数の基板シートに、前記空洞部が開口する1辺に沿って切れ込みを形成し、かつ、前記内部の所定のシート層となる基板シートにおいて前記空洞部部分とともにそれに連続して前記切れ込みを横切って外方にまで拡張した拡張部分を切除し、
前記積層工程で、前記空洞部部分と前記拡張部分に空洞部仮設体を配置し、
前記低温焼成セラミック基板構造体取出工程後又は焼成工程後に、前記空洞部仮設体を引き抜くことを特徴とする低温焼成セラミック基板構造体の製造方法。
【請求項7】
請求項5に記載の低温焼成セラミック基板構造体の製造方法において、
前記セラミック基板構造体の前記空洞部は、外部に一部が開放されて開口しているものであって、
前記低温焼成セラミック基板構造体取出工程で、前記低温焼成セラミック基板構造体となる部分とともに、それに連続して一体に形成された収縮変形吸収部分を取り出し、
該収縮変形吸収部分は、前記空洞部とともに、前記表面側に位置するシート層の導体層と前記グランド電極がそれぞれ連続して拡張されており、
焼成工程後に、該収縮変形吸収部分を切除することを特徴とする低温焼成セラミック基板構造体の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の低温焼成セラミック基板構造体の製造方法において、
前記基板シート加工工程で、前記複数の基板シートに、前記拡張された空洞部が開口する1辺に沿って切れ込みを形成し、かつ、前記内部の所定のシート層となる基板シートにおいて前記空洞部部分とともにそれに連続して前記切れ込みを横切って外方にまで拡張した拡張部分を切除し、
前記積層工程で、前記空洞部部分と前記拡張部分に空洞部仮設体を配置し、
前記低温焼成セラミック基板構造体取出工程後又は焼成工程後に、前記空洞部仮設体を引き抜くことを特徴とする低温焼成セラミック基板構造体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2012−151467(P2012−151467A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−284525(P2011−284525)
【出願日】平成23年12月26日(2011.12.26)
【出願人】(596083906)平井精密工業株式会社 (11)
【Fターム(参考)】