説明

低炭素高マンガン鋼の溶製方法

【課題】 炭素濃度が0.05質量%以下、マンガン濃度が0.5質量%以上の低炭素高マンガン鋼を真空脱炭処理によって溶製するにあたり、マンガンの酸化ロスを抑制した状態で、マンガン源として炭素を含有するマンガン系合金鉄を使用することのできる、低炭素高マンガン鋼の溶製方法を提供する。
【解決手段】 本発明に係る低炭素高マンガン鋼の溶製方法は、真空脱ガス設備1の真空槽内の溶鋼3に酸素源を供給して溶鋼に真空脱炭処理を施し、炭素濃度が0.05質量%以下、マンガン濃度が0.5質量%以上である低炭素高マンガン鋼を溶製する方法であって、炭素を含有するマンガン系合金鉄を前記溶鋼中に吹き込みながら溶鋼に真空脱炭処理を施すことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空脱ガス設備における減圧下での脱炭処理中の溶鋼に、マンガン源として炭素を含有するマンガン系合金鉄を添加し、マンガン系合金鉄中の炭素を減圧下での脱炭処理によって酸化・除去することで、高価な金属マンガンの使用量を削減して低炭素高マンガン鋼を溶製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、鉄鋼材料は、その用途の多様化に伴い、より苛酷な環境下で使用されることが多くなり、材料特性の高性能化が従来にも増して求められている。このような状況下、構造物の軽量化を目的として、高い引張強さと高い加工性とを両立させた低炭素高マンガン鋼が開発され、ラインパイプ用鋼板や自動車用鋼板などとして使用されるようになった。ここで、低炭素高マンガン鋼とは、炭素濃度が0.05質量%以下で、マンガン濃度が0.5質量%以上の鋼のことである。
【0003】
溶鋼中のマンガン濃度を調整するために用いるマンガン源としては、マンガン鉱石、高炭素フェロマンガン(炭素含有量:7.5質量%以下)、中炭素フェロマンガン(炭素含有量:2.0質量%以下)、低炭素フェロマンガン(炭素含有量:1.0質量%以下)、シリコマンガン(炭素含有量:2.0質量%以下)、金属マンガン(炭素含有量:0.01質量%以下)などが一般的であり、マンガン鉱石を除き、炭素含有量が低くなるほど高価となる。従って、製造コスト低減を目的として、安価なマンガン源である、マンガン鉱石や高炭素フェロマンガンを使用してマンガン含有鋼を溶製する方法が提案されている。尚、本発明においては、高炭素フェロマンガン、中炭素フェロマンガン、低炭素フェロマンガン、シリコマンガンをまとめてマンガン系合金鉄と呼ぶ。
【0004】
例えば、特許文献1には、転炉から取鍋への溶鋼の出鋼時に高炭素フェロマンガンを投入して溶鋼中のマンガン成分を調整し、次いで、真空脱ガス槽内の溶鋼に酸素ガスを上吹きして溶鋼に対して脱炭処理し、溶鋼中の炭素を酸化除去することによって高マンガン鋼を溶製する方法が提案されている。
【0005】
特許文献2には、炭素濃度が0.0050質量%以下の鋼を脱ガス設備で溶製するに際し、真空脱炭処理の20%が経過するまでの間に、炭素含有量が0.5〜9質量%のマンガン系合金鉄を添加し、マンガン系合金鉄中の炭素を酸化・除去することによって溶鋼中のマンガン成分を調整する低炭素鋼の溶製方法が提案されている。
【0006】
また、特許文献3には、転炉精錬及び真空脱ガス精錬を経て極低炭素鋼を溶製する際に、真空脱ガス精錬の脱炭精錬期の初期にマンガン調整用としてフェロマンガンを投入した溶製方法が提案されている。この場合も、フェロマンガン中の炭素は真空脱ガス精錬の脱炭処理時に酸化・除去される。
【0007】
低炭素高マンガン鋼を溶製する場合も、転炉での溶銑の脱炭精錬時に転炉内にマンガン鉱石を投入してマンガン鉱石を還元したり、転炉からの出鋼時或いは真空脱ガス精錬時に高炭素フェロマンガンを溶鋼に添加したりすることによって、溶鋼中のマンガン濃度を所定値まで上昇させることは可能であるが、低炭素高マンガン鋼を真空脱炭処理した場合には、溶鋼中にマンガンが多量に含有されているために、酸素は溶鋼中の炭素と反応するのみならず、マンガンとも反応し、マンガンが酸化ロスしてマンガンの歩留まりが悪化するばかりでなく、溶鋼中のマンガン濃度の制御が非常に困難となる。尚、真空脱炭処理とは、RH真空脱ガス装置などの真空脱ガス設備を用いて、未脱酸状態の溶鋼を高真空処理して脱炭する、或いは、真空処理下で酸素ガスなどの酸素源を溶鋼に添加して脱炭する処理方法である。
【0008】
従って、この問題を避けるために、低炭素高マンガン鋼の溶製においては、マンガン源を脱ガス処理中に添加する方法が行われており、この場合、低炭素高マンガン鋼の炭素濃度の許容範囲が低く且つ狭いこともあって、炭素含有量の少ない金属マンガンなどのマンガン源を使用せざるを得ず、これらのマンガン源は非常に高価であるため、低炭素高マンガン鋼の溶製コストの上昇を余儀無くされていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平4−88114号公報
【特許文献2】特開平1−301815号公報
【特許文献3】特開平2−47215号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、炭素濃度が0.05質量%以下、マンガン濃度が0.5質量%以上の低炭素高マンガン鋼を真空脱炭処理によって溶製するにあたり、マンガンの酸化ロスを抑制した状態で、マンガン源として炭素を含有するマンガン系合金鉄を使用することのできる、低炭素高マンガン鋼の溶製方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための第1の発明に係る低炭素高マンガン鋼の溶製方法は、真空脱ガス設備の真空槽内の溶鋼に酸素源を供給して溶鋼に真空脱炭処理を施し、炭素濃度が0.05質量%以下、マンガン濃度が0.5質量%以上である低炭素高マンガン鋼を溶製する方法であって、炭素を含有するマンガン系合金鉄を前記溶鋼中に吹き込みながら溶鋼に真空脱炭処理を施すことを特徴とする。
【0012】
第2の発明に係る低炭素高マンガン鋼の溶製方法は、第1の発明において、前記マンガン系合金鉄の溶鋼中への吹き込み位置が、真空槽内の溶鋼湯面位置に対して0.3m以上深い位置であることを特徴とする。
【0013】
第3の発明に係る低炭素高マンガン鋼の溶製方法は、第1または第2の発明において、前記マンガン系合金鉄の粒径が3mm以下であることを特徴とする。
【0014】
第4の発明に係る低炭素高マンガン鋼の溶製方法は、第1ないし第3の発明の何れかにおいて、前記真空脱ガス設備がRH真空脱ガス装置であって、前記マンガン系合金鉄の吹込み位置が、真空槽の側壁、上昇側浸漬管、上昇側浸漬管直下の何れかの1種または2種以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高炭素フェロマンガンなどの炭素を含有するマンガン系合金鉄をマンガン源として使用しても、真空脱炭処理におけるマンガンの酸化ロスを抑制することができると同時に、マンガン系合金鉄中の炭素による溶鋼の炭素濃度ピックアップを抑制することができ、低炭素高マンガン鋼を従来に比較して安価に溶製することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明を実施する際に用いたRH真空脱ガス装置の概略縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を具体的に説明する。先ず、本発明に至った経緯について説明する。本発明者らは、低炭素高マンガン鋼を溶製するにあたり、マンガンの酸化ロスを抑制した状態で、マンガン源として炭素を含有するマンガン系合金鉄を使用することを検討・研究した。以下に、検討・研究結果を説明する。
【0018】
RH真空脱ガス装置などの真空脱ガス設備の真空槽内の溶鋼に酸素ガスや酸化鉄などの酸素源を供給して溶鋼を真空脱炭する場合、マンガンを含有しない溶鋼或いはマンガンの含有量が少ない溶鋼では、供給した酸素ガスは溶鋼中に溶解する以外は主に炭素と反応するだけであるため、酸素源の供給速度を高めることによって脱炭速度を高めることができる。しかしながら、マンガンを0.5質量%以上含有する溶鋼の場合には、供給した酸素ガスは炭素以外にマンガンとも反応するため、脱炭速度を高めて脱炭を効率的に行うためには、酸素とマンガンとの反応を抑制して、酸素と炭素との反応を促進しなければならない。
【0019】
高炭素フェロマンガンなどの炭素を含有するマンガン系合金鉄を、真空脱ガス設備にて精錬中の溶鋼に添加する場合、マンガン系合金鉄の酸化を防止する観点から、従来、真空槽内の溶鋼表面に重力による落下により添加(「上置き添加」と称する)することが一般的である。添加されたマンガン系合金鉄は溶鋼に溶解し、溶鋼の炭素濃度及びマンガン濃度を上昇させる。
【0020】
本発明者らは、試験を重ねることによって、炭素含有マンガン系合金鉄の添加方法に応じて、添加時の溶鋼中の炭素濃度及びマンガン濃度の上昇度合いが異なることを見出した。即ち、炭素含有マンガン系合金鉄を真空槽内の溶鋼表面に上置き添加するのではなく、溶鋼中に吹き込み添加(インジェクション添加)することにより、炭素含有マンガン系合金鉄の添加に伴う溶鋼での炭素濃度のピックアップを低減でき、且つ、マンガンの添加歩留りを上昇させることができることを確認した。これは、溶鋼中への吹き込み添加により、炭素含有マンガン系合金鉄が溶鋼中を浮上する間に、溶鋼中の溶存酸素によって炭素含有マンガン系合金鉄中の炭素が優先的に脱炭されるためである。溶鋼中の溶存酸素による優先脱炭の現象は、溶鋼中の炭素、マンガン、溶存酸素の挙動からも確認されている。
【0021】
また、RH真空脱ガス装置において、炭素含有マンガン系合金鉄の吹き込み位置の真空槽内溶鋼湯面位置に対する深さを、0.3m(真空槽の側壁に設けた吹き込みノズルからの吹き込み添加)、1.3m(上昇側浸漬管に設けた吹き込みノズルからの吹き込み添加)、2.5m(取鍋内への浸漬ランスからの吹き込み添加)の3水準に変化させた試験から、添加位置は深ければ深いほど、溶鋼での炭素濃度のピックアップが低減され、且つ、マンガンの添加歩留りが上昇することが分かった。これは、浮上時間が長くなるためであるが、真空槽内溶鋼湯面位置に対する深さが0.3m以上であれば、上記効果を十分に享受できることが分かった。
【0022】
また、添加する炭素含有マンガン系合金鉄の粒径は、溶鋼に添加可能なサイズである限り問題はないが、細かいほど、溶鋼での炭素濃度のピックアップが低減され、且つ、マンガンの添加歩留りが上昇することが分かった。これは、反応界面積が増加することによる。この観点から、添加する炭素含有マンガン系合金鉄の粒径は3mm以下とすることが好ましく、1mm以下であればより好ましい。
【0023】
本発明は、上記検討・研究結果に基づきなされたもので、真空脱ガス設備の真空槽内の溶鋼に酸素源を供給して溶鋼に真空脱炭処理を施し、炭素濃度が0.05質量%以下、マンガン濃度が0.5質量%以上である低炭素高マンガン鋼を溶製する方法であって、炭素を含有するマンガン系合金鉄を前記溶鋼中に吹き込みながら溶鋼に真空脱炭処理を施すことを特徴とする。
【0024】
次に、本発明の実施の形態を説明する。
【0025】
高炉から出銑された溶銑を溶銑鍋やトピードカーなどの溶銑搬送用容器で受銑し、次工程の脱炭精錬を行う転炉に搬送する。通常、この搬送途中で、溶銑に対して脱硫処理や脱燐処理などの溶銑予備処理が施されており、本発明においては、低炭素高マンガン鋼の成分規格上からは溶銑予備処理が必要でない場合でも、安価なマンガン源としてマンガン鉱石を転炉内に添加するために、転炉脱炭精錬におけるマンガン鉱石の歩留まりを上昇させる観点から、溶銑予備処理(特に脱燐処理)を実施することが好ましい。
【0026】
転炉精錬はマンガン源としてマンガン鉱石を添加しつつ、必要に応じて少量の生石灰などを造滓剤として用い、酸素ガスを上吹きまたは底吹きして溶銑の脱炭精錬を行う。また、脱炭精錬終了後、転炉から取鍋などの溶鋼搬送容器への出鋼時に高炭素フェロマンガンなどの安価なマンガン系合金鉄を添加しても構わない。尚、次工程は、真空脱ガス設備での真空脱炭処理であるので、出鋼時、溶鋼にはAl及びSiを添加せず、Al及びSiによる脱酸を実施せずに、溶鋼を未脱酸状態のまま真空脱ガス設備に搬送する。
【0027】
マンガン鉱石や高炭素フェロマンガンなどの安価なマンガン源を使用するため、出鋼後の溶鋼中の炭素濃度は必然的に高くなるが、それでも、出鋼時にマンガン系合金鉄を添加する場合も含め、出鋼後の溶鋼中の炭素濃度を0.2質量%以下に抑えることが好ましい。溶鋼の炭素濃度が0.2質量%を越えると、次工程の真空脱ガス設備における真空脱炭処理に長時間を費やし、真空脱ガス設備の生産性の低下のみならず、真空脱炭処理時間の延長による温度補償として出鋼時の溶鋼温度を高くする必要が生じ、これに起因する鉄歩留まりの低下や耐火物損耗量の増大などによって製造コストが上昇するため、好ましくない。
【0028】
次いで、この溶鋼をRH真空脱ガス装置またはDH真空脱ガス装置、VOD炉などの真空脱ガス設備に搬送し、真空脱炭処理を実施する。真空脱ガス設備の代表的な設備はRH真空脱ガス装置であり、以下、真空脱ガス設備としてRH真空脱ガス装置を用いて精錬する例で説明する。
【0029】
図1に、本発明を実施する際に用いたRH真空脱ガス装置の例を示す。図1はRH真空脱ガス装置の概略縦断面図であり、図1において、1はRH真空脱ガス装置、2は取鍋、3は溶鋼、4はスラグ、5は真空槽、6は上部槽、7は下部槽、8は上昇側浸漬管、9は下降側浸漬管、10は環流用ガス吹き込み管、11はダクト、12は原料投入口、13は上吹きランスであり、真空槽5は上部槽6と下部槽7とから構成され、また、上吹きランス13は上下移動が可能となっており、この上吹きランス13からは酸素ガス及びArガスなどの不活性ガスと酸素ガスとの混合ガスが真空槽5の内部の溶鋼3の湯面に吹き付けられるようになっている。
【0030】
また、下部槽7の側壁部には、Arガスなどの不活性ガスを搬送用ガスとして粉体のマンガン系合金鉄を真空槽内の溶鋼3に吹き込むための吹き込みノズル14が設置され、上昇側浸漬管8には、Arガスなどの不活性ガスを搬送用ガスとして粉体のマンガン系合金鉄を上昇側浸漬管8の内部を上昇する溶鋼3に吹き込むための吹き込みノズル15が設置されている。また、取鍋2と真空槽5の側壁との間隙を昇降して取鍋内の溶鋼3に浸漬し、その先端が上昇側浸漬管8の直下に位置することが可能であり、その先端部からArガスなどの不活性ガスを搬送用ガスとして粉体のマンガン系合金鉄を上昇側浸漬管8の直下の溶鋼3に吹き込むための浸漬ランス16が設置されている。尚、図1では、粉体のマンガン系合金鉄を溶鋼中に吹き込むための装置として、吹き込みノズル14、吹き込みノズル15及び浸漬ランス16の3種類を示しているが、これは説明を容易とするためであり、これらの全てを備える必要はなく、何れかの1つを備えていればよい。
【0031】
RH真空脱ガス装置1では、取鍋2を昇降装置(図示せず)にて上昇させ、上昇側浸漬管8及び下降側浸漬管9を取鍋内の溶鋼3に浸漬させる。そして、環流用ガス吹き込み管10から上昇側浸漬管8の内部に環流用Arガスを吹き込むとともに、真空槽5の内部をダクト11に連結される排気装置(図示せず)にて排気して真空槽5の内部を減圧する。真空槽5の内部が減圧されると、取鍋内の溶鋼3は、環流用ガス吹き込み管10から吹き込まれるArガスによるガスリフト効果によって、Arガスとともに上昇側浸漬管8を上昇して真空槽5の内部に流入し、その後、下降側浸漬管9を経由して取鍋2に戻る流れ、所謂、環流を形成してRH真空脱ガス精錬が施される。
【0032】
溶鋼3の環流が形成されて溶鋼3に対してRH真空脱ガス精錬が施されると、溶鋼3が未脱酸状態の場合には、減圧下の真空槽5の内部で溶鋼中の炭素と溶存酸素との反応(C+O→CO)が生じ、溶鋼中の炭素はCOガスとなって排ガスとともに真空槽5からダクト11を介して排出され、溶鋼3に対して真空脱炭処理が施される。更に、上吹きランス13から、酸素ガス或いは不活性ガスと酸素ガスとの混合ガスが吹き込まれ、溶鋼3の溶存酸素が確保され、溶鋼3の脱炭反応が進行する。この場合、酸素源として溶鋼3に吹き付けるガスは酸素ガス単体ではなく、酸素ガスにArガスなどの不活性ガスを混合することが好ましい。不活性ガスを混合することによって真空槽内の雰囲気ガスのPcoが低下し、脱炭反応が優先的に起こり、マンガンの酸化を抑制することができる。
【0033】
この真空脱炭処理中に、高炭素フェロマンガンなどの粉体のマンガン系合金鉄を溶鋼3に吹き込む。粉体のマンガン系合金鉄の吹き込みは、下部槽7に設置した吹き込みノズル14、上昇側浸漬管8に設置した吹き込みノズル15、及び浸漬ランス16のうちの何れかを用いて添加することができる。使用するマンガン系合金鉄としては、最も安価な高炭素フェロマンガンが好ましく、その粒径は、好ましくは3mm以下、更に好ましくは1mm以下とする。
【0034】
このようにして真空脱炭処理を施しつつ、溶鋼3の炭素濃度が、目的とする低炭素高マンガン鋼の成分規格値以下になるまで真空脱炭処理を継続し、溶鋼3の炭素濃度が成分規格値以下の所定の値になったなら、上吹きランス13からの酸素ガスの吹き込みを停止するとともに、原料投入口12から溶鋼3にAlなどの強脱酸剤を添加して溶鋼3を脱酸処理する。Alなどの強脱酸剤の添加により溶鋼3の溶存酸素濃度は急激に低下し、真空脱炭処理が終了する。
【0035】
真空脱炭処理の終了後も更に数分間程度の環流を継続し、必要に応じてAl、Si、Mn、Ni、Cr、Cu、Nb、Tiなどの成分調整剤を原料投入口12から溶鋼3に投入して溶鋼3の成分を調整した後、真空槽5の内部を大気圧に戻してRH真空脱ガス精錬を終了し、低炭素高マンガン鋼を溶製する。
【0036】
以上説明したように、本発明によれば、真空脱ガス設備での真空脱炭処理を施して低炭素高マンガン鋼を溶製する際に、高炭素フェロマンガンなどの炭素を含有するマンガン系合金鉄をマンガン源として使用しても、真空脱炭処理におけるマンガンの酸化ロスを抑制することができると同時に、マンガン系合金鉄中の炭素による溶鋼の炭素濃度ピックアップを抑制することができ、低炭素高マンガン鋼を従来に比較して安価に溶製することが可能となる。
【0037】
尚、上記説明ではRH真空脱ガス装置1について説明したが、上記に準じて実施することにより、DH真空脱ガス装置やVOD炉などの他の真空脱ガス設備にも適用することができる。
【実施例1】
【0038】
高炉から出銑された溶銑に対して脱硫処理、脱燐処理の溶銑予備処理を施し、この溶銑を用いて転炉精錬し、低炭素高マンガン鋼を溶製する試験(試験番号1〜6)を実施した。転炉ではマンガン源としてマンガン鉱石を添加してマンガン濃度を上昇させ、得られた250トンの溶鋼を未脱酸のまま取鍋に出鋼した。出鋼時の溶鋼成分は、炭素が0.10〜0.13質量%、珪素が0.05質量%以下、マンガンが0.7〜1.0質量%、燐が0.03質量%以下、硫黄が0.003質量%以下であった。この溶鋼をRH真空脱ガス装置に搬送し、真空脱炭処理条件を種々変更して低炭素高マンガン鋼を溶製した。RH真空脱ガス装置への到着時の溶鋼中の溶存酸素濃度は0.01〜0.03質量%であった。
【0039】
RH真空脱ガス装置では、環流用Arガス流量を1500Nl/min、真空脱炭処理中の真空槽内の真空度を6.7〜40kPa、上吹きランスからの酸素ガス供給量を2000Nm3/h、上吹きランスからの酸素ガスの吹き込み時間を10分とした。上吹きランスのランス高さは6mの一定とした。
【0040】
真空脱炭処理中に添加するマンガン系合金鉄としては、高炭素フェロマンガンを使用した。高炭素フェロマンガンの炭素含有量は約7質量%、マンガン含有量は約75質量%であり、粒径は5〜10mm、3mm以下、1mm以下の3水準とした。粒径は篩による分別に基づく。高炭素フェロマンガンの添加方法は、(1)下部槽の側壁部に設けた吹き込みノズルからのArガスによる吹き込み添加(吹き込み位置の真空槽内溶鋼湯面位置に対する深さ:0.3m)、(2)上昇側浸漬管に設けた吹き込みノズルからのArガスによる吹き込み添加(吹き込み位置の真空槽内溶鋼湯面位置に対する深さ:1.3m)、(3)取鍋内溶鋼に浸漬する浸漬ランスからのArガスによる吹き込み添加(吹き込み位置の真空槽内溶鋼湯面位置に対する深さ:2.5m)、(4)原料投入口からの真空槽内溶鋼への上置き添加(自然落下)の4水準で実施した。高炭素フェロマンガンの添加速度は150〜250kg/minであり、添加量は1200kgの一定とした。
【0041】
表1に各試験操業における高炭素フェロマンガンの添加方法、溶鋼成分及び試験結果を示す。
【0042】
【表1】

【0043】
表1に示すように、本発明を適用した場合(試験番号1〜4)には、マンガン歩留りが80〜89%と高く、10分間の真空脱炭処理による脱炭量は0.07質量%程度が確保でき、真空脱炭処理終了時の溶鋼中炭素濃度は0.030〜0.035質量%であった。これに対して、高炭素フェロマンガンを真空槽内溶鋼へ上置き添加した試験番号5では、マンガン歩留りは72%程度と低く、且つ、10分間の真空脱炭処理による脱炭量は0.05質量%程度でしかなく、真空脱炭処理終了時の溶鋼中炭素濃度は0.068質量%と高位であった。これは、試験番号5では、溶鋼表面への添加であり、高炭素フェロマンガンが溶鋼中を浮上する間の溶鋼中溶存酸素による優先脱炭が起こらず、真空槽内での脱炭量が増加することによる。
【0044】
また、粒径3mm以下の高炭素フェロマンガンを真空槽内溶鋼へ上置き添加した試験番号6では、マンガン歩留りが28%と大幅に低下した。これは、細かい高炭素フェロマンガンを真空槽内で上置き添加したために、排ガスとともに高炭素フェロマンガンが排気装置によりダクトを介して系外に排出されてしまったからである。尚、マンガン歩留りは、下記の(1)式により定義される。但し、(1)式における「FMnH」は高炭素フェロマンガンの意味である。
【0045】
【数1】

【0046】
また更に、高炭素フェロマンガンを溶鋼中に吹き込み添加する場合に、吹き込み位置の真空槽内溶鋼湯面位置に対する深さが深くなるほど、マンガン歩留りが向上することが分かった。この結果から、高炭素フェロマンガンの吹き込み位置は深ければ深いほど好ましいことが確認できた。また、吹き込み方法が同一である試験番号3と試験番号4とを比較すると、高炭素フェロマンガンの粒径が小さいほどマンガン歩留りが向上することが確認できた。
【0047】
このように、本発明を適用することで、マンガンの酸化ロスを抑制しつつ溶鋼中の炭素を効率的に除去できることが確認された。尚、表1の備考欄には、本発明の範囲内の試験には本発明例と表示し、それ以外の試験には比較例と表示した。
【符号の説明】
【0048】
1 RH真空脱ガス装置
2 取鍋
3 溶鋼
4 スラグ
5 真空槽
6 上部槽
7 下部槽
8 上昇側浸漬管
9 下降側浸漬管
10 環流用ガス吹き込み管
11 ダクト
12 原料投入口
13 上吹きランス
14 吹き込みノズル
15 吹き込みノズル
16 浸漬ランス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空脱ガス設備の真空槽内の溶鋼に酸素源を供給して溶鋼に真空脱炭処理を施し、炭素濃度が0.05質量%以下、マンガン濃度が0.5質量%以上である低炭素高マンガン鋼を溶製する方法であって、炭素を含有するマンガン系合金鉄を前記溶鋼中に吹き込みながら溶鋼に真空脱炭処理を施すことを特徴とする、低炭素高マンガン鋼の溶製方法。
【請求項2】
前記マンガン系合金鉄の溶鋼中への吹き込み位置が、真空槽内の溶鋼湯面位置に対して0.3m以上深い位置であることを特徴とする、請求項1に記載の低炭素高マンガン鋼の溶製方法。
【請求項3】
前記マンガン系合金鉄の粒径が3mm以下であることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の低炭素高マンガン鋼の溶製方法。
【請求項4】
前記真空脱ガス設備がRH真空脱ガス装置であって、前記マンガン系合金鉄の吹込み位置が、真空槽の側壁、上昇側浸漬管、上昇側浸漬管直下の何れかの1種または2種以上であることを特徴とする、請求項1ないし請求項3の何れか1つに記載の低炭素高マンガン鋼の溶製方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−153328(P2011−153328A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−13888(P2010−13888)
【出願日】平成22年1月26日(2010.1.26)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】