説明

低熱膨張線状体の製造方法

【課題】 連続的で長い低熱膨張線状体を簡便に製造することができる低熱膨張線状体の製造方法を提供する。
【解決手段】 芯材として低熱膨張特性乃至負の線膨張係数を有する繊維材料11を用意し、この繊維材料11上に前記低熱膨張特性を有する、繊維材料11よりは大きな線膨張係数で正の線膨張係数を持つ導電性材料16をめっきする低熱膨張線状体の製造方法において、負の線膨張係数を有する芯材としての繊維材料11を送り出し用ボビン12に巻いて送り出し、この送り出された前記繊維材料を電解液が入っためっき槽13内に配置されるめっき治具15に掛け渡し、前記めっき槽13内で前記繊維材料11に正の線膨張係数を持つ導電性材料16をめっきし、このめっきされた低熱膨張線状体18を巻取り用ボビン19に巻き取る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低熱膨張線状体の製造方法、特に、低熱膨張線状体に連続的な長い(数十m〜数Km)めっきを施す低熱膨張線状体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、低熱膨張線状体の製造方法としては、下記の特許文献1に示すような方法が提案されていた。
【0003】
図5は従来の低熱膨張線状体の製造方法を示す図である。
【0004】
この図に示すように、(1)まず、図5(a)に示すように、負の線膨張係数を有する繊維材料101に撚りをかけたものを芯材として用意する。(2)次に、図5(b)に示すように、その繊維材料101をめっき槽102に浸して、正の線膨張係数を持つ導電性材料105をめっきする。つまり、めっき槽102では、電着させようとする金属103と負の線膨張係数を有する繊維材料101を電解液104中に浸す。次いで、この繊維材料101を陰極とし、金属103を陽極として直流電流を流すと、図5(c)に示すように、負の線膨張係数を有する繊維材料101上に正の線膨張係数を持つ導電性材料105をめっきすることができる。
【特許文献1】特開2006−085915号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記した低熱膨張線状体の製造方法では、めっき槽102の幅寸法に制限されて、長い連続した導電性を有する低熱膨張線状体を製造することはできなかった。
【0006】
一方、低熱膨張線状体はその使用用途から長いもの(数十m〜数Km)が必要であり、連続的にめっきを施す技術が望まれていた。
【0007】
本発明は、上記状況に鑑みて、連続した長い導電性を有する低熱膨張線状体を簡便に製造することができる低熱膨張線状体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記目的を達成するために、
〔1〕芯材として低熱膨張特性乃至負の線膨張係数を有する繊維材料を用意し、この繊維材料上に前記低熱膨張特性を有する、繊維材料よりは大きな線膨張係数で正の線膨張係数を持つ導電性材料をめっきする低熱膨張線状体の製造方法において、前記低熱膨張特性乃至負の線膨張係数を有する芯材としての繊維材料を送り出し用のボビンに巻いて送り出し、この送り出された前記繊維材料を電解液が入っためっき槽内に配置されるめっき治具に掛け渡し、前記めっき槽内で前記繊維材料に正の線膨張係数を持つ導電性材料をめっきし、このめっきされた低熱膨張線状体を巻取り用のボビンに巻き取ることを特徴とする。
【0009】
〔2〕上記〔1〕記載の低熱膨張線状体の製造方法において、前記めっき治具は、前記めっき槽内に配置される第1のローラと、第2のローラと、これらの第1のローラ及び第2のローラを回転自在に支持するローラの支持軸とを備えることを特徴とする。
【0010】
〔3〕上記〔2〕記載の低熱膨張線状体の製造方法において、前記めっき槽内に前記繊維材料に正の線膨張係数を持つ導電性材料をめっきする金属板を備えることを特徴とする。
【0011】
〔4〕上記〔3〕記載の低熱膨張線状体の製造方法において、前記金属板に正電極を備え、前記ローラを接地電極とすることを特徴とする。
【0012】
〔5〕上記〔2〕記載の低熱膨張線状体の製造方法において、前記ローラと前記繊維材料の接触圧を高め、電気的導通を確保することを特徴とする。
【0013】
〔6〕上記〔3〕記載の低熱膨張線状体の製造方法において、前記金属板が銅であることを特徴とする。
【0014】
〔7〕上記〔1〕記載の低熱膨張線状体の製造方法において、前記繊維材料としてザイロンを用いることを特徴とする。
【0015】
〔8〕上記〔1〕記載の低熱膨張線状体の製造方法において、前記繊維材料としてダイニーマを用いることを特徴とする。
【0016】
〔9〕上記〔1〕記載の低熱膨張線状体の製造方法において、前記繊維材料に連続的な長い(数十m〜数Km)めっきを施すことを特徴とする。
【0017】
〔10〕上記〔1〕記載の低熱膨張線状体の製造方法において、前記めっきは、無電解めっきを行った後に、電気めっきを行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、有機系新材料に導電性金属を連続的にめっきすることにより、数十m〜数Kmの長い導電性を有する低熱膨張線状体を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の低熱膨張線状体の製造方法は、芯材として低熱膨張特性乃至負の線膨張係数を有する繊維材料を用意し、この繊維材料上に前記低熱膨張特性を有する、繊維材料よりは大きな線膨張係数で正の線膨張特性を持つ導電性材料をめっきする低熱膨張線状体の製造方法において、前記低熱膨張特性乃至負の線膨張係数を有する芯材としての繊維材料を送り出し用ボビンに巻いて送り出し、この送り出された前記繊維材料を電解液が入っためっき槽内に配置されるめっき治具に掛け渡し、前記めっき槽内で前記繊維材料に正の線膨張係数を持つ導電性材料をめっきし、このめっきされた低熱膨張線状体を巻取り用ボビンに巻き取る。
【実施例】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0021】
図1は本発明の実施例を示す低熱膨張線状体の断面図である。
【0022】
この図において、1は負の線膨張係数を有する芯材としての繊維材料であり、例えばザイロンまたはダイニーマを用いることができる。2はその繊維材料1にめっきされる正の線膨張係数を持つ導電性材料であり、例えば銅が用いられる。
【0023】
図2は本発明の実施例を示す低熱膨張線状体の製造に用いる負の線膨張係数を有する芯材としての繊維材料を示す図、図3は本発明の実施例を示す低熱膨張線状体の製造装置を示す図、図4はその低熱膨張線状体の製造装置を用いて製造された低熱膨張線状体を示す図である。
【0024】
図3において、11は送り出し用ボビン12に巻かれた負の線膨張係数を有する芯材としての繊維材料、13はめっき槽、14は電解液、15はめっき槽13内に配置されるめっき治具であり、このめっき治具15は、第1のローラ15Aと、第2のローラ15Bと、これらの第1のローラ15Aと第2のローラ15Bを回転自在に支持するローラの支持軸15Cとからなり、第1のローラ15Aと第2のローラ15Bはローラの支持軸15Cで支持されて電解液(例えば、Cu)14中に浸され上下に平行に配置される。16は正の線膨張係数を持つ導電性材料であるめっき用金属板(銅の板状体)であり、このめっき用金属板(銅の板状体)16には+の電圧が印加されるとともに、ローラの支持軸15Cは接地線17により接地される。19は、図4に示すように負の線膨張係数を有する芯材としての繊維材料11にCuめっき21が施された低熱膨張線状体18を巻き取る巻取り用ボビンである。また、20は繊維材料11とめっき治具15の接触部である。
【0025】
なお、ここで、低熱膨張線状体の製造においては、電解液が入っためっき槽内に配置されるめっき用金属板16を正電極(電圧を印加)とし、第1のローラ15Aおよび第2のローラ15Bは接地電極とする。
【0026】
また、第1のローラ15Aおよび第2のローラ15Bと繊維材料11の接触圧を高め、導通を確保するようにしている。
【0027】
そこで、(1)まず、図2に示すように、負の線膨張係数を有する繊維材料(例えば、ザイロンまたはダイニーマ)11を芯材として用意する。
【0028】
(2)次に、図3に示すように、その繊維材料11をめっき治具15にセットする。このとき、繊維材料11に捩れが起こらないようにする。捩れが起こったままめっき治具15にセットされると、単繊維の状態にめっきすることができなくなってしまうので注意が必要である。
【0029】
(3)次いで、めっき治具15にセットされた負の膨張係数を有する繊維材料11をめっき槽13に浸して、正の線膨張係数を持つ導電性材料であるめっき用金属板(例えば、銅板状体)16をめっきする。つまり、めっき槽13では、電着させようとするめっき用金属板16(ここでは銅の板状体)と繊維材料11を電解液14中に浸す。次いで、めっき治具15を陰極、めっき用金属板16を陽極として、繊維材料11とめっき治具15の接触部20を回転させながら直流電流を流す。すると、図4に示すように、繊維材料11上にCuメッキ21を連続的に施すことが可能になり、任意の長さの低熱膨張線状体18が巻取り用ボビン19に巻き取られる。
【0030】
ここで、めっきを行う際の条件としては、例えば電流密度を0.5〜3.0A/dm2 とする。
【0031】
また、繊維材料11とめっき治具15の接触点20の回転により移動させる繊維材料の送り速度は、100〜300mm/minとする。
【0032】
このように、この実施例では、低熱膨張線状体の製造方法として、低熱膨張特性乃至負の線膨張係数を有する、芯材としての繊維材料を用意し、この繊維材料上に、この繊維材料よりは大きな線膨張係数で正の線膨張係数を持つ導電性材料を連続的にめっきする。
【0033】
なお、上記実施例では、めっき槽13で直接めっきを行う例を示したが、あらかじめ無電解めっきを行った後に、電気めっきを行うようにしてもよい。
【0034】
また、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づき種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の低熱膨張線状体の製造方法は、トロリ線、ちょう吊線、電線、ケーブルやレールなどの線状体として利用される導電性を有する低熱膨張線状体の製造方法として利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の実施例を示す低熱膨張線状体の断面図である。
【図2】本発明の実施例を示す低熱膨張線状体の製造に用いる負の線膨張係数を有する芯材としての繊維材料を示す図である。
【図3】本発明の実施例を示す低熱膨張線状体の製造装置を示す図である。
【図4】本発明の低熱膨張線状体の製造装置を用いて製造された低熱膨張線状体を示す図である。
【図5】従来の低熱膨張線状体の製造方法を示す図である。
【符号の説明】
【0037】
1 繊維材料(ザイロン、ダイニーマ)
2 繊維材料にめっきされる正の線膨張係数を持つ導電性材料(例えば銅)
11 負の線膨張係数を有する芯材としての繊維材料
12 送り出し用のボビン
13 めっき槽
14 電解液
15 めっき治具
15A 第1のローラ
15B 第2のローラ
15C ローラの支持軸
16 めっき用金属板(銅の板状体)
17 接地線
18 低熱膨張線状体
19 巻取り用ボビン
20 繊維材料とめっき治具の接触部
21 Cuメッキ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯材として低熱膨張特性乃至負の線膨張係数を有する繊維材料を用意し、該繊維材料上に前記低熱膨張特性を有する、繊維材料よりは大きな線膨張係数で正の線膨張係数を持つ導電性材料をめっきする低熱膨張線状体の製造方法において、
(a)前記低熱膨張特性乃至負の線膨張係数を有する芯材としての繊維材料を送り出し用のボビンに巻いて送り出し、
(b)該送り出された前記繊維材料を電解液が入っためっき槽内に配置されるめっき治具に掛け渡し、
(c)前記めっき槽内で前記繊維材料に正の線膨張係数を持つ導電性材料をめっきし、
(d)該めっきされた低熱膨張線状体を巻取り用ボビンに巻き取ることを特徴とする低熱膨張線状体の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の低熱膨張線状体の製造方法において、前記めっき治具は、前記めっき槽内に配置される第1のローラと、第2のローラと、これらの第1のローラ及び第2のローラを回転自在に支持するローラの支持軸とを備えることを特徴とする低熱膨張線状体の製造方法。
【請求項3】
請求項2記載の低熱膨張線状体の製造方法において、前記めっき槽内に前記繊維材料に正の線膨張係数を持つ導電性材料をめっきする金属板を備えることを特徴とする低熱膨張線状体の製造方法。
【請求項4】
請求項3記載の低熱膨張線状体の製造方法において、前記金属板に正電極を備え、前記ローラを接地電極とすることを特徴とする低熱膨張線状体の製造方法。
【請求項5】
請求項2記載の低熱膨張線状体の製造方法において、前記ローラと前記繊維材料の接触圧を高め、電気的導通を確保することを特徴とする低熱膨張線状体の製造方法。
【請求項6】
請求項3記載の低熱膨張線状体の製造方法において、前記金属板が銅であることを特徴とする低熱膨張線状体の製造方法。
【請求項7】
請求項1記載の低熱膨張線状体の製造方法において、前記繊維材料としてザイロンを用いることを特徴とする低熱膨張線状体の製造方法。
【請求項8】
請求項1記載の低熱膨張線状体の製造方法において、前記繊維材料としてダイニーマを用いることを特徴とする低熱膨張線状体の製造方法。
【請求項9】
請求項1記載の低熱膨張線状体の製造方法において、前記繊維材料に連続的な長い(数十m〜数Km)めっきを施すことを特徴とする低熱膨張線状体の製造方法。
【請求項10】
請求項1記載の低熱膨張線状体の製造方法において、前記めっきは、無電解めっきを行った後に、電気めっきを行うことを特徴とする低熱膨張線状体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−81028(P2009−81028A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−248889(P2007−248889)
【出願日】平成19年9月26日(2007.9.26)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.ザイロン
2.ダイニーマ
【出願人】(000173784)財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【出願人】(504349146)共栄電資株式会社 (9)
【Fターム(参考)】