説明

低燃費運転支援装置

【課題】車速に依存することのない、燃費改善のための適正運転操作の指標を走行中リアルタイムに報知する。
【解決手段】低燃費運転支援装置10は、予め設定された、車速毎の、定速走行時における基準走行燃費を記憶している記憶部12と、実際の車速を検知する車速検知部21と、単位時間当たりの実際の燃料噴射量を検知する燃料噴射量検知部22と、所定時間毎に、それぞれ検知された車速と燃料噴射量とから実際の燃費を算出すると共に、検知された車速に対応した基準走行燃費に対する、実際の燃費の比率を算出する演算部13と、比率を報知する報知部(表示部15)と、を含み構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行中の燃費を評価しリアルタイムに報知することで、距離に対して燃料噴射量の少ない低燃費運転を支援する低燃費運転支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
燃費は、燃料の単位容積あたりの走行距離もしくは一定の距離をどれだけの燃料で走れるかを示す指標である。燃費は、使用する燃料、タイヤの空気圧、エンジンオイル、積載容量、走行パターン等によって変化することが知られている。
【0003】
ところで、カタログに記載されている燃費の中には、平地を一定速度で走行した場合の「定地走行燃費」と、実際の公道走行を想定して、発進、停止、アイドリングを含めた「モード走行燃費」とがある。例えば、二輪車の場合は、30km/h(原付自転車)又は60km/h(自動二輪)での定地走行、四輪車の場合は、市街地走行の他に都市高速道路の走行も加えた「10・15モード燃費」で表すのが一般的である。しかしながら、実走行でこれらカタログに記載された燃費で走行することは非常に困難である。それは、ドライバによる加減速操作が実燃費に与える影響が大きいためである。
【0004】
そこで、従来、必要に応じて瞬間燃費や平均燃費を車両メータに表示し、又は、適正操作を促すメッセージを表示する等により、ドライバが適切な加減速操作を行えるように配慮している。例えば、車両メータに表示される燃費は、ECU(電子制御ユニット)を介して得られる燃料噴射量を基準にしており、瞬間燃費と平均燃費が切り換え表示できるものが多い。
【0005】
しかしながら、上述した従来の燃費表示では、ドライバは最良の燃費(理想燃費)に対する指標を知ることができず、このため、一定の燃費を目標に走行することは困難である。それは、最良の燃費は、車速によって変化するためである。
【0006】
このため、例えば、特許文献1には、普遍性を有する理想燃費に基づいて、より正確に燃費評価を行う技術が紹介されている。具体的には、ドライバに依存しない理想燃費に対する実燃費の百分率を算出することで実燃費を評価し、評価結果を表示することによって、ドライバに認識させて適正操作を促すものである。
【0007】
上述した特許文献1に開示された技術によれば、車両が走行している道路の区間走行で実際に消費した燃料を、走行に必要な燃料の最小量に基づき評価するため、ドライバは、自身の運転に関して客観的な評価を知ることができ、したがって、燃費改善のための運転を促すことができる。しかしながら、区間走行における標準車速を考慮して評価するため、その区間において渋滞等が発生した場合は正確な評価値とはなり得ない。また、仮に渋滞が無かったとしても、走行結果に対する評価値は知り得ても、区間走行中にリアルタイムに評価値を得ることができない。従って、その評価結果を、都度、燃費改善のための運転操作に反映させることはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−13938号公報(段落「0008」〜「0018」、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、車速に依存することのない、燃費改善のための適正運転操作の指標を走行中リアルタイムに表示することのできる低燃費運転支援装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に係る低燃費運転支援装置は、予め設定された、車速毎の基準走行燃費を記憶している記憶部と、実際の車速を検知する車速検知部と、単位時間当たりの実際の燃料噴射量を検知する燃料噴射量検知部と、所定時間毎に、それぞれ検知された前記車速と前記燃料噴射量とから実際の燃費を算出すると共に、前記検知された車速に対応した前記基準走行燃費に対する、前記実際の燃費の比率を算出する演算部と、前記比率に基づいてドライバに報知する報知部と、からなることを特徴とする。
【0011】
請求項2に係る発明は、請求項1記載の低燃費運転支援装置において、基準走行燃費は、定速走行時における基準車速毎の燃費に、基準車速の増加に応じて大きくなる車速係数を乗算した値であることを特徴とする。
【0012】
請求項3に係る発明は、請求項1又は請求項2記載の低燃費運転支援装置において、道路の勾配の度合いを検知する勾配検知部を、更に備え、演算部は、検知された勾配の度合いに応じて基準走行燃費を補正することを特徴とする。
【0013】
請求項4に係る発明は、請求項1から請求項3のいずれか1項記載の低燃費運転支援装置において、車載積載量を検知する荷重検知部を、更に備え、演算部は、検知された車載積載量に応じて基準走行燃費を補正することを特徴とする。
【0014】
請求項5に係る発明は、請求項1から請求項4のいずれか1項記載の低燃費運転支援装置において、タイヤの空気圧を検知する空気圧検知部を、更に備え、演算部は、検知された空気圧に応じ基準走行燃費を補正することを特徴とする。
【0015】
請求項6に係る発明は、請求項1から請求項5のいずれか1項記載の低燃費運転支援装置において、演算部は、車速検知部で検知された車速が所定時間継続し、かつ、勾配検知部で検知された道路勾配、及び荷重検知部で検知された車載積載量がゼロの場合に、車両製造時、記憶部に記憶された車速毎の基準走行燃費を補正することを特徴とする。
【0016】
請求項7に係る発明は、請求項1から請求項6のいずれか1項記載の低燃費運転支援装置において、演算部は、車速毎の基準走行燃費に所定の係数を乗算して得られる値を参照燃費として算出し、報知部は、基準走行燃費に対する実際の燃費の比率を表すグラフに参照燃費を重畳して報知する表示器からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
請求項1に係る発明によれば、演算部は、所定時間毎に、車速検知部で検知された車速と、燃料噴射量検知部で検知された燃料噴射量とから実際の燃費を算出する。そして、検知された車速に対応した基準走行燃費に対する実際の燃費の比率を算出し、この比率に基づいて報知部により報知する。このため、報知部には、所定時間間隔で車速に依存することのない低燃費運転のための指標を報知することができ、その結果、ドライバはリアルタイムに燃費改善のための運転を行うことが可能になる。
【0018】
請求項2に係る発明によれば、記憶部に記憶される基準走行燃費は、定速走行時における基準車速毎の燃費に、基準車速の増加に応じて大きくなる車速係数を乗算した値とした。このため、全車速において基準走行燃費に対する実際の燃費の比率に基づく低燃費運転のための達成難度が均一になり、実用に適した使い勝手の良い低燃費運転支援装置を提供することが可能になる。従って、従来は、低速走行時、加速が必要なことから低燃費運転のための指標を遵守して運転することが困難であり、低燃費走行に対する運転努力を怠りがちであったが、この低速走行領域の係数を低く、逆に高速領域の係数を高く設定することで低燃費運転の達成難度を均一とし、このことにより、ドライバが低燃費運転を継続する上での意識高揚に役立てることができる。
【0019】
請求項3に係る発明によれば、演算部は、勾配検知部で検知された道路勾配の度合いに応じて車速に対応した基準走行燃費を補正する。このため、実走行時の道路勾配に基づく低燃費運転のための指標を所定時間間隔に表示でき、その結果、ドライバは坂道走行時等における道路勾配を意識することなくリアルタイムに燃費改善のための運転が可能になる。
【0020】
請求項4に係る発明によれば、演算部は、荷重検知部で検知された車載積載量に応じて車速に対応した基準走行燃費を補正する。このため、車載積載量に基づく低燃費運転の指標を所定時間間隔で報知することができ、その結果、ドライバは、実走行中の荷物等の積載量を意識することなくリアルタイムに燃費改善のための運転が可能になる。
【0021】
請求項5に係る発明によれば、演算部は、空気圧検知部で検知されたタイヤの空気圧の程度に応じて車速に対応した基準走行燃費を補正する。このため、タイヤの空気圧に基づく低燃費運転のための指標を、走行中、所定の時間間隔で報知することができ、その結果、ドライバは、実走行中のタイヤの空気圧を意識することなく、リアルタイムに燃費改善のための運転が可能になる。
【0022】
請求項6に係る発明によれば、演算部は、車速検知部で検知された車速が所定時間継続した場合に、車両製造時に記憶部に記憶された車速毎の基準走行燃費を補正する。但し、道路勾配及び車載積載量がゼロでない場合は補正しない。これは、タイヤ交換により燃費が急激に変化する場合等において有効である。
【0023】
請求項7に係る発明によれば、演算部は、車速毎の基準走行燃費に所定の係数を乗算して得られる値を参照燃費として算出し、報知部が、基準走行燃費に対する実際の燃費の比率を表すグラフに参照燃費を重畳して表示部に報知する。従って、低燃費運転のための指標を参照燃費として報知でき、燃費改善のための運転が無理の無い目標値として設定されるため、優れたユーザインタフェースを提供することがきる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係る低燃費運転支援装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明に係る低燃費運転支援装置の動作を示すフローチャートである。
【図3】本発明に係る低燃費運転支援装置のエコバーの画面表示の一例を示す図である。
【図4】本発明に係る低燃費運転支援装置のアンビエントメータ画面表示の一例を示す図である。
【図5】補正前の車速燃費特性をグラフで示した図である。
【図6】補正後の基準走行燃費をグラフで示した図である。
【図7】補正後の車速燃費特性をグラフで示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
【実施例】
【0026】
(実施例の構成)
図1に示すように、低燃費運転支援装置10は、車両状態検知部11と、記憶部12と、演算部13と、描画・表示制御部14と、表示部(報知部)15と、により構成される。車両状態検知部11は、車速検知部21と、燃料噴射量検知部22と、勾配検知部23と、荷重検知部24と、空気圧検知部25と、を含む。
【0027】
車速検知部21は、例えば、車速パルスを測定して車速を得る車速センサであり、燃料噴射量検知部22は、EGI(Electronic Gasoline Injection)を採用したエンジンからシリンダー内に噴射される燃料の噴射量を検知する燃料センサである。また、勾配検知部23は、例えば、道路に超音波を出射してその反射波から道路勾配を検知する勾配センサであり、荷重検知部24は、車載積載量を測定する荷重センサであり、空気圧検知部25は、タイヤの空気圧を測定する空気圧センサである。これらセンサ類により得られる、車速、燃料噴射量、道路勾配、車載積載量、タイヤの空気圧に関する情報は、演算部13に出力される。
【0028】
記憶部12には、車速−基準走行燃費マップ12aが予め記憶されている。車速−基準走行燃費マップ12aは、勾配0、積載量0で一定車速毎に走行した場合に測定される基準走行燃費(所謂、定地走行燃費)である。記憶部12は、書き換え可能な不揮発性の半導体メモリで構成され、車速−基準走行燃費マップ12aは、製造時に予め書き込まれているものとする。
【0029】
演算部13は、車速検知部21で検知された車速Vと、燃料噴射量検知部22で検知された燃料噴射量Fsとから実際の燃費FEiを算出し、この実際の燃費FEiを、検知された車速Vにおける基準走行燃費FEcで除算して得られる比率(以下、エコドライブ度という)を所定時間毎に算出する機能を有する。また、演算部13は、車両状態検知部11で検知された、車速V、道路勾配θ、車載積載量KG、タイヤの空気圧P等の情報に基づき、基準走行燃費を補正して用いる。このため、演算部13は、瞬間燃費算出部13aと、エコドライブ度算出部13bと、補正係数算出部13cと、参照燃費算出部13dとを含み構成される。
【0030】
瞬間燃費算出部13aは、車速Vに単位時間tとを乗算し、燃料噴射量Fsで除算して実際の燃費(以下、瞬間燃費FEiという)を算出する。エコドライブ度算出部13bは、瞬間燃費算出部13aで算出された瞬間燃費FEiを、記憶部12に記憶された車速毎の基準走行燃費FEcで除算してエコドライブ度EDRを算出する。但し、エコドライブ度算出部13bでエコドライブ度を算出するときに使用される基準走行燃費FEcは、後述する補正係数算出部13cで算出される補正係数を乗算した値とする。
【0031】
補正係数算出部13cは、車速検知部21、勾配検知部23,荷重検知部24,空気圧検知部25によりそれぞれで検知される、車速V、道路勾配θ、車載積載量KG、タイヤの空気圧Pに基づき、基準走行燃費FEcを変更するための補正係数Cを算出する。ここで、補正係数Cは、道路勾配θが0(平坦路)のときを1とし、上り勾配が大きくなるにつれて小さくなり、下り勾配が大きくなるにつれて大きくなる。又、車載積載量KGが大きくなるにつれ補正係数Cは1より小さくなる。また、タイヤの空気圧Pが適正空気圧の時から減少するにつれ補正係数Cは1より小さくなる。更に、補正係数Cをエンジンオイルの劣化の度合いで変更しても良い。すなわち、エンジンオイル交換時に補正係数を1とし、その時点からの走行距離が増加すると1より小さく設定する。
【0032】
参照燃費算出部13dは、エコドライブ度算出部13bにより算出されたエコドライブ度EDRを、例えば、図3に示すバーグラフや、図4に示すアンビエントメータの表示形態に変換して表示するにあたり、ドライバが目標とすべき値として使用される参照燃費FErを算出する。なお、ここでいう参照燃費FErとは、基準走行燃費FEcに、補正係数Cと係数0.6を乗算して得られる実走行に近い燃費データとする。尚、上述した係数0.6は、ドライバが任意に設定できるようにしてもよい。
【0033】
描画・表示制御部14は、演算部13(エコドライブ度算出部13b)で算出されたエコドライブ度を、図3,図4に示す表示形態に合わせた表示情報に変換して内蔵する表示メモリ(VRAM)に描画する。このVRAMに描画された表示情報は、描画・表示制御部14による制御の下で表示部15の表示タイミングに同期して読み出され、表示部15に所望の形態で表示される。
【0034】
表示部15は、多数の画素(複数色の発光素子の組み合わせ)を縦横に配置して構成される、例えば、LCD(Liquid Crystal Display)や有機EL(Electro-Luminescence)を用いて構成される。表示部15は、描画・表示制御部14により制御され、上述したVRAMに描画された表示情報を、例えば、図3,図4に示す表示形態で表示する。
【0035】
なお、ここでは、上述した表示部15を、比率(エコドライブ度EDR)を報知する報知部として説明するが、表示に限らず、後述するように音声で報知しても良い。
【0036】
(実施例の動作)
以下、図2のフローチャートを参照しながら図1に示す実施例の動作説明を行うが、先に、記憶部12に記憶される車速−基準走行燃費マップ12aの生成及び保守管理について説明する。
【0037】
車速−基準走行燃費マップ12aの管理者は、道路勾配0のところを,車載積載量0で、一定速度で走行した場合の基準走行燃費を予め測定しておく。例えば、車速10km/h単位で測定した基準走行燃費を予め測定しておき、製造時、記憶部12の所定の領域に書き込んでおく。なお、測定されない車速(例えば、11km/h〜19km/h)の基準走行燃費については、測定した車速(10km/hと20km/h)における測定済みの基準走行燃費を比例配分して得た値を書き込むものとする。
【0038】
この車速ー基準走行燃費マップ12aは、車速検知部21で検知された車速が所定時間継続した場合に補正される。但し、勾配検知部23で検知された道路勾配、及び荷重検知部24で検知された車載積載量が共にゼロの場合に限る。これは、タイヤ交換等により燃費が急激に変化する場合に有効である。
【0039】
図2によれば、演算部13では、まず、瞬間燃費算出部13aが、車速検知部21から車速Vを、燃料噴射量検知部22から燃料噴射量Fsの情報を取得する(ステップS101)。瞬間燃費算出部13aは、これらの情報から瞬間燃費(FEi=V・t/Fs)を算出する(ステップS102)。ここで、tは、単位時間である。
【0040】
続いて、エコドライブ度算出部13bは、記憶部12から車速−基準走行燃費マップ12aを読み出し、そのときの車速Vに応じた基準走行燃費FEcに上述した補正係数Cを乗算したC・FEcで、瞬間燃費算出部13aにより算出された瞬間燃費FEiを除算して、エコドライブ度EDRを算出する(ステップS103)。ここで、エコドライブ度EDRの算出にあたり使用される基準走行燃費FEcは、実走行に応じて演算により逐次補正された値が利用されるものとする。
【0041】
具体的に、補正係数算出部13cは、勾配検知部23、荷重検知部24、空気圧検知部25のそれぞれによりリアルタイムに検知される、道路勾配、車載積載量、タイヤ空気圧等に関する情報を取得し、これらの情報と補正係数との関係が定義された補正マップ(図示省略)から該当の補正係数を取得してエコドライブ度算出部13bへ出力する。エコドライブ度算出部13bにより算出されたエコドライブ度EDRは、表示のために、描画・表示制御部14に供給される。
【0042】
描画・表示制御部14によるエコドライブ度の表示に先立ち、参照燃費算出部13dは、参照燃費を算出する(ステップS104)。参照燃費FErは、基準走行燃費FEcに補正係数Cと係数a、bを乗算して得る。ここで算出された参照燃費は、エコドライブ度算出部13bで算出されたエコドライブ度EDRと、瞬間燃費算出部13aで算出された瞬間燃費FEiと共に、描画・表示制御部14へ供給される。描画・表示制御部14は、瞬間燃費算出部13aにより算出される瞬間燃費FEiと参照燃費算出部13dにより算出される参照燃費FErとエコドライブ度算出部13bで算出されるエコドライブ度EDRに基づき変化する表示情報を生成して表示部15に表示する。
【0043】
描画・表示制御部14は、エコドライブ度算出部13bによって算出されるエコドライブ度EDRを、表示部15が持つモニタの解像度により、又は外部から設定されるエコバーの単位動作幅に基づき長さ情報に変換する。ここでは、基準走行燃費FEcと瞬間燃費FEiとの比率であるエコドライブ度EDRに基づきエコバーの長さを設定し、例えば、図3(a)(b)に示されるように、時間経過にしたがい長さが変化するエコバーを表示するための表示情報を生成する(ステップS105)。
【0044】
例えば、FEi/C・FEcが10%を単位に増減することでエコバーの長さが±5mm程度伸縮するものとする。描画・表示制御部14は、生成された表示情報をVRAM上に描画し、表示部15の表示タイミングに合わせて読み出し、図3(a)(b)に示すエコバーの形態で表示部15に表示する(ステップS106)。なお、後述するように、エコマークに色を付して表示する場合、FEi/C・FEcが、0〜40%のとき赤(R)、FEi/C・FEcが40〜60%のとき黄(Y)、FEi/C・FEcが60%以上のとき緑(G)で表示するものとする。
【0045】
エコバーによる低燃費運転支援のための表示例が、その表示の仕組みを示すグラフと共に、図3(a)(b)に示されている。図3(a)は、bを基準点としてエコドライブ度EDRでバーグラフ長を示し、図3(b)は、cを基準点とし、100−EDRでバーグラフ長を示した場合の表示例である。
【0046】
図3(a)の右下に示すグラフは、横軸に車速[km/h]を、縦軸に、走行時の瞬間燃費[km/l]を目盛ってあり、太実線でプロットされた曲線が基準走行燃費(基準走行燃費曲線)を、太破線でプロットされた曲線が参照燃費(参照燃費曲線)をそれぞれ示している。このグラフに白抜きで矢印表記されているように、参照燃費曲線を基準に瞬間燃費が基準走行燃費曲線に近づくほど低燃費運転(良)、瞬間燃費が参照燃費曲線から離れるほど高燃費運転(不可)になる。
【0047】
図3(a)の左上に示すエコバー表示例によれば、上述したグラフに照らして明らかなように、エコバーのほぼ中央のポジションcが参照燃費FErで走行した場合のエコバーの先端位置である。また、ポジションaが基準走行燃費FEcで走行した100%低燃費運転した場合の先頭位置であり、ポジションbが最も高燃費運転(燃費0km/l)を行った場合のエコバーの先頭位置である。すなわち、エコバーが右に延びるほど低燃費運転していることになる。なお、エコバーの右端にハッチングで示される領域は、エンジンブレーキによる減速時にエコバーの先頭位置が突入する領域であり、この場合、車両は燃料噴射量0で走行するため、最も低燃費で運転していることになる。また、参照燃費FErを表示するための縦線を基準走行燃費FEcの60%付近に描画する。従って、ドライバは、エコドライブ度EDRが参照燃費FErを上回るように運転するようになり、無理の無い目標値であることから優れたユーザインタフェースとなる。
【0048】
図3(b)右下に示すグラフは、横軸に制動G[m/s]を、縦軸に低燃費運転スコアBS(0〜100)を目盛ってあり、制動Gが0のときの低燃費運転スコアBSを100ポイントとし、制動Gを印加した場合に低燃費運転スコアBSが悪化して限りなく0ポイントに近づくことを示している。なお、右上に示したグラフは、図3(a)に示したグラフと同じである。
【0049】
図3(b)に示す表示例は、アクセル操作時(アクセレーション)、ブレーキ操作時(ブレーキング)におけるエコドライブ度をエコバーの伸縮(100−EDR、もしくは100−BS)で表示した例である。ポジションcを原点に左端に向かって減速時のエコバー表示領域が、右端に向かって加速時のエコバー表示領域が形成される。上述したグラフに照らして説明すれば、エコバーのほぼ中央のポジションcが、低燃費運転スコア100で低燃費運転していることを示す。ポジションcを中心に、100−EDRもしくは100−BSの長さでエコバーが伸縮して表示される。したがって、ポジションcを原点に、ポジションaまたはポジションbに向かって延びたエコバーは許容運転範囲にあるクリアゾーンであり、これを超えてハッチング領域に突入した場合に高燃費運転していることになる。エコバーを中央近傍のクリアゾーンに保つことが低燃費運転に貢献していることになる。
【0050】
アンビエントメータによる低燃費運転支援のための表示例が、図4(a)(b)(c)に示されている。ここでは、加速時のエコドライブの表示イメージが、図3(a)に示すエコバー表示と対比して示してある。
【0051】
すなわち、図4(a)は、FEi/C・FEcが60%以上で最適エコドライブを行っている場合、図4(b)は、FEi/C・FEcが40〜60%で穏やかな加速を行っている場合、図4(c)は、FEi/C・FEcが0〜40%で急加速した場合におけるそれぞれの表示例である。図4(c)から図4(a)に向かって、網掛け部分で示すエコマークの色(階調)が、RからYを経由してGに向かって変化することにより、ドライバにリアルタイムでエコ運転度を知らせることが可能になる。
【0052】
なお、上述した実施例によれば、エコドライブ度EDRを表示する場合についてのみ説明したが、視覚情報は車両走行中に注視すると安全面で問題があることから、上述したエコバーやアンビエントメータ表示に変え、あるいは表示と共に運転状況に合わせて音による報知を行うことも考えられる。例えば、エコドライブ度が高くなるにつれ、優しい音色に変化させる等のユーザインタフェースを提供することで安全面にも考慮した低燃費運転支援装置を提供することができる。
【0053】
ここで、記憶部12に予め記憶される車速−基準走行燃費マップ12aの基準走行燃費の値について説明する。基準走行燃費FEcは、上記したように、勾配が0、積載量が0、車速が一定という条件で走行した場合に測定された燃費である。本実施例では、実走行時における使い勝手の向上(実用性)を図るために、記憶部12に記憶される基準走行燃費FEcを補正することにより、車速に応じた低燃費運転の達成難度(以下、エコドライブの達成難度という)を全車速領域に渡って均一にすることを実現する。
【0054】
エコドライブの達成難度について詳細に説明する。実際に車両を運転する場合に、低速域(0km/h以上〜40km/h未満)では加速操作状態が多かったり、あるいは低速ギヤ段を使用する関係上、瞬間燃費FEiは悪くなりやすい。一方、高速域(40km/h以上〜100km/h以下)では、基準燃費FEcに近い走行状態が多かったり、あるいは高速ギヤ段を使用するため、瞬間燃費FEiはそれほど悪くはならない。図5に緩やか加速を行った場合の瞬間燃費FEiを示す。尚、図中、FEr1は、比較の対称として基準燃費FEcに0.3を乗じて求めた参照燃費である。
【0055】
このように、車速によってエコドライブ達成難度は大きく異なる。このため、例えば、低速で走行しているドライバが、加速を必要としているにも関わらず、エコバー表示によって示される高燃費運転を意識してスムーズに加速することができない場合が考えられる。また、低速域では「高燃費運転」と判断される場合が多いため、発進時に「高燃費運転」と判断される場合が多い。このため、ドライバは、発進時点で低燃費運転を諦めてしまうことが考えられる。一方、高速域では加速を必要としていないにも関わらず、エコバー表示によって示される低燃費運転により加速余裕があることから、過度に加速する場合が考えられる。
【0056】
本実施例ではこのような事情に基づき、図6(a)に示す補正前の基準走行燃費FEcを、図6(b)に示すアクセル開度による補正と、図6(c)に示す車速係数による補正とにより、図6(d)に示す新たな基準走行燃費FEc2を生成するというものである。すなわち実用性の向上を図るために、基準走行燃費を、アクセル開度と車速係数とにより補正することで、エコドライブの達成難度を全車速領域に渡って均一化するものである。
【0057】
以下に具体的に説明する。図6(b)には、縦軸をエンジン回転数(rpm)、横軸を車速(km/h)とした、アクセル開度(大・中・小)別のエンジン回転数と車速との特性曲線が示されている。図中、「大」はフルスロットル走行時、「中」は通常加速走行時、「小」は補正前の基準走行燃費に基づく走行時のそれぞれにおけるエンジン回転数と車速との特性曲線である。
【0058】
図6(b)によれば、アクセル開度「中」において、最も加速を要する20km/hの低速走行時、補正前の基準走行燃費FEc1に対して係数0.5(1000rpm/2000rpm)を乗算し、100km/hの高速走行時、補正前の基準走行燃費FEc1に係数0.53(2000rpm/3800rpm)を乗算することで、エコドライブの達成難度を均一化している。
【0059】
一方、図6(c)では、縦軸に重み係数、横軸に車速をそれぞれ目盛り、車速が大きくなるにつれ、補正前の基準走行燃費に乗じる重み係数を大きく設定した係数が示されている。すなわち、車速40km/hを境に、低速域では補正前の基準走行燃費FEc1に重み0.5〜1を乗算し、高速域では重み係数1〜2を乗算することで、エコドライブの達成難度を低速域では緩く、高速域では厳しく設定し、エコドライブの達成難度を均一化している。このようにして補正された基準走行燃費FEc2は、最終的に図6(d)に示すようになり、低速域で比較的滑らかに上昇し、高速域で平坦になるように補正されている。
【0060】
具体的に、図7の補正後の車速燃費特性に示されるように、実走行時の参照燃費FEr2は、低速域から高速域の全域に渡って瞬間燃費FEiに限りなく近づき、その間隔d1,d2は、全域でほぼ一定になっている。即ち、エコドライブの達成難度が均一化されている。これにより、車速の変化に左右されることなく低燃費運転を実現することができるため、実用性の向上が図れると共に、ドライバが低燃費運転を継続する上での意識高揚に役立てることができる。
【0061】
尚、上記した本実施例では、エコドライブの達成難度の車速差を均一化するために、基準走行燃費に、アクセル開度による補正と、車速係数による補正を共に行うこととして説明したが、車速係数による補正のみでも良い。車速係数による補正は、その係数直線の傾きによっては、アクセル開度による補正に比べ、補正後の基準走行燃費に与える影響が格段に大きい。
【0062】
実施例に係る低燃費運転支援装置10によれば、車速と燃料噴射量とから瞬間燃費を算出し、瞬間燃費と基準走行燃費との比率(エコドライブ度EDR)を所定時間毎に算出して表示する。このため、車速に依存することのない所定時間間隔で低燃費運転のための指標を報知することができ、その結果、ドライバは、リアルタイムで燃費改善のための運転が可能になる。
【0063】
また、実施例に係る低燃費運転支援装置10によれば、全車速において基準走行燃費に対する実際の燃費の比率(エコドライブ度EDR)に基づく低燃費運転のための達成難度が均一になり、実用的で使い勝手の良い低燃費運転支援装置を提供することができる。従って、従来は、低速走行時に加速が必要なことから低燃費運転のための指標を遵守して運転することが困難であり、そのため低燃費走行に対する運転努力を怠りがちであったが、本実施例によれば、低速走行領域での係数を低く、逆に高速領域の係数を高く設定することで低燃費運転の達成難度を均一とするにより、ドライバが低燃費運転を継続する上での意識高揚に役立てることができる。
【0064】
また、実施例に係る低燃費運転支援装置10によれば、実走行に応じて検知される道路勾配、車載積載量、タイヤの空気圧等に基づき、演算により基準走行燃費を補正して瞬間燃費と基準走行燃費との比率(エコドライブ度EDR)を算出する。このため、低燃費運転の指標を実走行に応じて報知することが可能になり、その結果、ドライバは、実走行中における、道路勾配、車載積載量、タイヤの空気圧等を意識することなく、リアルタイムに燃費改善のための運転が可能になる。
【0065】
また、実施例に係る低燃費運転支援装置10によれば、低燃費運転のための指標をリアルタイムに動きのある情報として表示でき、ドライバは、一目で現時点の運転の燃費に対する良否判断が可能になり、優れたユーザインタフェースを提供することがきる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の低燃費運転支援装置10は、車速と燃料噴射量とから瞬間燃費を算出し、算出された瞬間燃費と、車速毎に設定される基準走行燃費との比率を所定時間毎に算出して報知するものであって、車両に限らず、低燃費運転を要求される全ての移動体に用いるのに好適である。
【符号の説明】
【0067】
10…低燃費運転支援装置、11…車両状態検知部、12…記憶部、12a…車速−基準走行燃費マップ、13…演算部、13a…瞬間燃費算出部、13b…エコドライブ度算出部、13c…補正係数算出部、13d…参照燃費算出部、14…描画・表示制御部、15…報知部(表示部)、21…車速検知部、22…燃料噴射量検知部、23…勾配検知部、24…荷重検知部、25…空気圧検知部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め設定された、基準車速毎の基準走行燃費を記憶している記憶部と、
実際の車速を検知する車速検知部と、
単位時間当たりの実際の燃料噴射量を検知する燃料噴射量検知部と、
所定時間毎に、それぞれ検知された前記車速と前記燃料噴射量とから実際の燃費を算出すると共に、前記検知された車速に対応した前記基準走行燃費に対する、前記実際の燃費の比率を算出する演算部と、
前記比率に基づいてドライバに報知する報知部と、からなる低燃費運転支援装置。
【請求項2】
前記基準走行燃費は、
定速走行時における前記基準車速毎の燃費に、前記基準車速の増加に応じて大きくなる車速係数を乗算した値であることを特徴とする請求項1記載の低燃費運転支援装置。
【請求項3】
道路の勾配の度合いを検知する勾配検知部を、更に備え、
前記演算部は、前記検知された前記勾配の度合いに応じて前記基準走行燃費を補正することを特徴とした請求項1又は請求項2記載の低燃費運転支援装置。
【請求項4】
車載積載量を検知する荷重検知部を、更に備え、
前記演算部は、前記検知された前記車載積載量に応じて前記基準走行燃費を補正することを特徴とした請求項1から請求項3のいずれか1項記載の低燃費運転支援装置。
【請求項5】
タイヤの空気圧を検知する空気圧検知部を、更に備え、
前記演算部は、前記検知された前記空気圧に応じ前記基準走行燃費を補正することを特徴とした請求項1から請求項4のいずれか1項記載の低燃費運転支援装置。
【請求項6】
前記演算部は、
前記車速検知部で検知された車速が所定時間継続し、かつ、前記勾配検知部で検知された前記道路勾配、及び前記荷重検知部で検知された前記車載積載量がゼロの場合に、車両製造時、前記記憶部に記憶された前記車速毎の基準走行燃費を補正することを特徴とする請求項1記載の低燃費運転支援装置。
【請求項7】
前記演算部は、前記車速毎の基準走行燃費に所定の係数を乗算して得られる値を参照燃費として算出し、
前記報知部は、
前記基準走行燃費に対する実際の燃費の比率を表すグラフに前記参照燃費を重畳して報知する表示器からなることを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれか1項記載の低燃費運転支援装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−137443(P2011−137443A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−202262(P2010−202262)
【出願日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【出願人】(390005430)株式会社ホンダアクセス (205)
【Fターム(参考)】