説明

低膨張性ポリイミド、樹脂組成物及び物品

【課題】 安価で耐熱性の良好な芳香族酸二無水物を用い、低熱膨張性ポリイミドを得ることを目的とする。さらに、当該ポリイミドを用いて耐熱性や、低線熱膨張係数の要求の高い製品又は部材を形成するための樹脂材料として有用なポリイミド樹脂組成物、さらには、当該樹脂組成物を用いて作製した耐熱性に優れた製品又は部材を提供することを目的とする。
【解決手段】 下記式(1)で表される繰り返し単位を有するポリイミド、当該ポリイミドを含有する樹脂組成物、及び、当該ポリイミド樹脂組成物又はその硬化物により少なくとも一部分が形成されている物品である。


(式中、R〜Rは水素原子又は1価の有機基であり、それらは互いに結合していても良い。Rは2価の有機基である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、寸法安定性に優れる高分子化合物に関する。好適には、耐熱性優れるポリイミドに関し、特に、耐熱性と共に寸法安定性に対する要求が高い製品又は部材を形成するための材料(例えば、電子部品用絶縁材料など)として好適に利用できるポリイミド、当該ポリイミドを含有する樹脂組成物及び、当該樹脂組成物を用いて作製した物品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高分子材料は、加工が容易、軽量などの特性から身の回りのさまざまな製品に用いられている。1955年に米国デュポン社で開発されたポリイミドは、耐熱性に優れることから航空宇宙分野などへの適用が検討されるなど、開発が進められてきた。以後、多くの研究者によって詳細な検討がなされ、耐熱性、寸法安定性、絶縁特性といった性能が有機物の中でもトップクラスの性能を示すことが明らかとなり、航空宇宙分野にとどまらず、電子部品の絶縁材料等への適用が進められた。現在では、半導体素子の中のチップコーティング膜や、フレキシブルプリント配線板の基材などとしてさかんに利用されてきている。
【0003】
ポリイミドは、ジアミンと酸二無水物から合成される高分子である。ジアミンと酸二無水物を溶液中で反応させることで、ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸(ポリアミック酸)となり、その後、脱水閉環反応を経てポリイミドとなる。一般に、ポリイミドは溶媒への溶解性に乏しく加工が困難なため、前駆体のポリアミド酸の状態で所望の形状にし、その後、加熱を行うことでポリイミドとする場合が多い。ポリアミド酸は熱や水により分解するため、保存安定性がよくない。この点を考慮し、分子構造に溶解性に優れた骨格を導入し、ポリイミドとした後に溶媒に溶解して成形又は塗布できるように改良が施されたポリイミドも開発されたが、これを用いる場合には前駆体方式に比べ耐薬品性や、基板との密着性に劣る傾向にある。そのため、目的に応じて前駆体を用いる方式と溶媒溶解性ポリイミドを用いる方式とが使い分けられている。
【0004】
近年、ポリイミドが電子部品の絶縁材料として広く用いられるようになり、種々の性能が要求されるようになってきた。その中でも特に金属と積層されて用いられるプリント配線板などの部品や無機物と積層される半導体製品などでは、基板の平坦性や基板との密着強度を向上させるため、金属や無機物などと同等の線熱膨張係数を有することが求められている。
【0005】
2,2',6,6'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を酸成分として用いたポリイミドに関しては、非特許文献1に、1968年アメリカのGoinらは2,2',6,6'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と4,4'-ジアミノジフェニルエーテルをジメチルアセトアミド中で反応させて得られたポリアミド酸を、ジエチルエーテルを用い再沈殿精製を行った後、再びジメチルアセトアミドに溶解させてできたポリアミド酸溶液をキャストし、300℃まで徐々に加熱することでポリイミドを得たことが記載されているが、ここにはポリイミドの熱分解温度が記載されているだけであり、それ以外の物性の詳細は記載されていない。
【0006】
また、特許文献1には、同じく2,2',6,6'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と4,4'-ジアミノジフェニルエーテルを用いて合成したポリイミドを、液晶配向膜として利用する事が記載されているが、ここには液晶を配向する能力が記載されているだけであって、それ以外の物性については記載されていない。
特許文献2には、実施例に2,2',6,6'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を用いたポリイミドが記載されているが、ここではポリイミドはポリマー重合容器へのポリマーの付着を防ぐ保護膜として用いられており、その保護膜を施した重合容器で製造されたポリマーの初期着色性について述べられているものの、ポリイミドそのものの物性について何ら述べられていない。
【0007】
特許文献3には、ポリイミドの成形体の製造方法が開示されており、原料の代表例として2,2',6,6'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物が記載されているが、化合物名の単なる列挙であり実際の合成例は記載されていないため、具体的な物性を知ることはできない。
特許文献4には、ポリイミド微粒子の製造方法が開示されており、ここにも原料の代表例として2,2',6,6'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物が記載されているが、化合物名の単なる列挙であり実際の合成例は記載されていないため、具体的な物性を知ることはできない。
【0008】
特許文献5には、ポリイミドとそれを用いて得られた粘着テープが開示されており、ここにも原料の代表例として2,2',6,6'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物が記載されているが、化合物名の単なる列挙であり実際の合成例は記載されていないため、具体的な物性を知ることはできない。
特許文献6には、光導電性高分子の製造方法が開示されており、ここにも原料の代表例として2,2',6,6'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物が記載されているが、化合物名の単なる列挙であり実施例としては記載されていないため、具体的な物性を知ることはできない。
【0009】
上述のように、2,2',6,6'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を用いて製造したポリイミドは従来知られていたが、その物性は詳細には知られておらず、さらに、2,2',6,6'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を他の酸二無水物と共重合したものも、具体例に乏しく、それらの物性については開示されていなかった。
【0010】
【特許文献1】特開昭56-52722号公報
【特許文献2】特開平6-41205号公報
【特許文献3】特開平6-329799号公報
【特許文献4】特開平11-140181号公報
【特許文献5】特開2002-60489号公報
【特許文献6】特開平3-275725号公報
【非特許文献1】POLYMER LETTERS Vol.6, p821-825 (1968)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ポリイミドは耐熱性と共に高い絶縁性能を有することから、半導体や電子部品への応用がなされてきた。その為、単結晶シリコンや銅などの金属と積層される場合が多く、ポリイミドの線熱膨張係数を単結晶シリコンや金属並に小さくする試みは従来から行われてきた。
ポリイミドの線熱膨張係数に大きく影響を与える因子として、その化学構造が挙げられる。一般に、ポリイミドの高分子鎖が剛直で直線性が高いほど膨張率は下がるといわれており、膨張率を下げる為、ポリイミドの原料である酸二無水物、ジアミン双方で種々の構造が提案されてきた。
低膨張を発現するポリイミドに用いられる酸二無水物としては、ピロメリット酸二無水物、3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物が一般的であった。さらに、これらに加え、芳香族の酸二無水物としては、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物やターフェニルテトラカルボン酸二無水物などが提案されている。ただし、これらは溶解性があまり良くなかったり、合成ルートが複雑で高価あったりする。また、脂肪族では、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物や1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物なども提案されているが、芳香族のものに比べ熱分解温度が低く、耐熱性に課題がある。
一方、ジアミンとしては、パラフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルエーテル、2,2'-ジメチル-4,4'-ジアミノビフェニル等のベンジジン誘導体などが主に用いられる。
【0012】
本発明は、上記実情を鑑みて成し遂げられたものであり、より安価で耐熱性の良好な芳香族酸二無水物を用い、低熱膨張性ポリイミドを得ることを目的とする。さらに、当該高分子化合物を用いて耐熱性や、低線熱膨張係数の要求の高い製品又は部材を形成するための樹脂材料として有用な樹脂組成物、さらには、当該樹脂組成物を用いて作製した耐熱性に優れた製品又は部材を提供することを目的とする。特に、本発明のポリイミド、及び樹脂組成物を、金属や金属酸化物、単結晶シリコン等の無機物と界面を接するような用途に適用した製品、及び部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のポリイミドは、下記式(1)で表される繰り返し単位を有することを特徴とする。
【0014】
【化1】

【0015】
(式中、R〜Rは、それぞれ独立に、水素原子又は1価の有機基であり、それらは互いに結合していても良い。Rは2価の有機基である。同一分子内に存在する繰り返し単位間において同一符号で表される基同士は異なる原子又は構造であっても良い。)
【0016】
上記式(1)の繰り返し単位に含まれるイミド骨格は、耐熱性の高い芳香族骨格であると共に、少なくとも酸二無水物由来の場所においては、直線性の高い、剛直な骨格であるといえる。
従って、式(1)の繰り返し単位を有する本発明のポリイミドは、耐熱性に優れるだけでなく、低い線熱膨張係数を示す。
【0017】
次に、本発明に係るポリイミド樹脂組成物は、上記本発明に係るポリイミドを含有することを特徴する。このポリイミド樹脂組成物は、耐熱性、絶縁性に加えて加熱処理の温度変化に伴う寸法変化が小さいので、パターン形成材料(レジスト)、コーティング材、塗料、印刷インキ、接着剤、充填剤、電子材料、成形材料、レジスト材料、建築材料、3次元造形、フレキシブルディスプレー用フィルム、光学部材など、樹脂材料が用いられる公知の全ての分野・製品に利用できる。
【0018】
特に本発明に係るポリイミド樹脂組成物は、これらの特性が有効とされる分野・製品、例えば、塗料、印刷インキ、カラーフィルター、フレキシブルディスプレー用フィルム、半導体装置、電子部品、層間絶縁膜、配線被覆膜、光回路、光回路部品、反射防止膜、ホログラム、その他の光学部材又は建築材料を形成するのに適している。
【発明の効果】
【0019】
以上に述べたように、本発明に係るポリイミドは、7員環構造のイミド結合を有するポリイミド構造を適用することにより高耐熱性、且つ、低膨張性のポリイミドの塗膜、フィルム或いは成形品を得ることできる。
また、本発明に係るポリイミドに含まれる7員環イミド骨格の原料である2,2',6,6'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物は、合成容易で且つ安価に入手できるため、本発明のポリイミドは安価且つ安定供給が可能である。
【0020】
上記本発明に係るポリイミドを含有する樹脂組成物は、耐熱性、寸法安定性、絶縁性を有することから、耐熱性、低膨張性(寸法安定性)が必要とされる公知の全ての部材用のフィルムや塗膜として好適であり、例えば、フレキシブルあるいは、リジットのプリント配線板、ハードディスクドライブ用サスペンション等の電子部品、半導体素子等の絶縁や構造物としての利用が期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下において本発明を詳しく説明する。発明者は、全く新しい考え方に基づきポリイミドの分子設計を行い、高耐熱性、且つ、低線熱膨張係数という特徴を有するポリイミド、特に好ましくは全芳香族ポリイミドを発明するに至った。つまり、従来限られた構造でしかなしえなかった低線熱膨張係数を達成することができる新しい選択肢として、7員環イミド構造を見出し、その効果を確認した。
【0022】
一般に高分子の耐熱性は、架橋構造の導入により向上させることができると考えられている。はしご状の形状にすることで熱エネルギーにより分子鎖の結合の一部が切断されても、並行する他の結合があることにより分子鎖全体の切断が抑制されるからである。はしご状構造とは、例えば、多数のベンゼン環がベンゼン環を構成する2個の炭素原子を共有して一列に連なるような構造が理想的であるが、そのような理想的な形状だけでなく2重結合、3重結合、およびベンゼン環などの芳香族構造といった不飽和結合も含まれる。その為、一般に高耐熱性高分子といわれているものは芳香族構造を有しているものが多い。
また、熱膨張は熱エネルギーにより個々の原子が振動することが原因と考えられているため、低い線熱膨張係数にするには、高分子主鎖を構成する個々の結合の結合エネルギーを大きくし、原子の振動を抑制する骨格を導入することが重要である。その為、低膨張化には2重結合や共役構造、また、原子の振動を抑制するという意味ではしご状形状が、有効である。また、その効果をよりマクロな観点で発現させる為には、高分子主鎖に屈曲部位が少ない方がよく、これらの結果として分子鎖が剛直になり直線状であれば、低膨張性を発現する。
これら耐熱性と低膨張性の両方をポリイミドが兼ね備えるためには、芳香族構造を多く含んだはしご状形状であり、それらが直線に近い立体配座を取っていることが望ましい。
【0023】
ピロメリット酸二無水物由来のポリイミドに代表される芳香族5員環イミド構造を有するポリイミドと、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物由来のポリイミドに代表される芳香族6員環イミド構造を有するポリイミドは、イミド結合に関わるすべての原子が平面状に安定に配置するため、π電子の共役構造がポリイミド分子鎖上に広がりやすく、耐熱性、低膨張性に優れる、一方で前駆体の溶解性に難があるものもある。
また、3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物に由来されるポリイミドも、2つのイミド基は、異なるベンゼン環に結合しているものの平面構造を有する5員環構造のイミド基を有する為、そのベンゼン環とイミド基がπ共役する。また、その構造からビフェニル骨格の両端にある2つのイミド基の窒素からジアミン由来成分に繋がる結合が並行ではなく、パラフェニレンジアミン等の剛直なジアミンを適用しないと低膨張性のポリイミドとならず、ジアミンの選択の幅が狭い。
【0024】
発明者らは、検討の結果、下記式(4)の構造を有するような、2,2',6,6'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を原料としたポリイミドが低い線熱膨張係数を示し、且つ、高い耐熱性を有することを見出した。
【0025】
【化2】

【0026】
2,2',6,6'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物は、それを構成する全ての炭素が芳香族成分に属する7員環構造の環状酸無水物部位を2つ有する酸二無水物であり、ジアミンと反応することで、アミック酸となり、更に、イミド化をすることで、下記式(5)のような7員環構造の環状イミド部位を有するポリイミドとなる。
【0027】
【化3】

【0028】
(上記式において、Aは2価の有機基である。rは1以上の自然数を示す。)
【0029】
図1に、式(4)の7員環構造を有するモデル化合物のMM2分子力学計算の結果から推測される空間配置を示す。このモデル化合物においては、2つのベンゼン環及びイミド結合が同一平面内に存在せず、ベンゼン環同士が互いに30〜40°程度、傾いた立体配置を取る。
すなわち、2,2',6,6'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物は、ビフェニル骨格のベンゼン環同士を結ぶ結合が回転可能であり、イミド化により7員環イミド構造を形成させると、酸二無水物の2つのベンゼン環がねじれた構造となる。
また、ピロメリット酸二無水物や3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物などの従来の芳香族酸二無水物由来のイミド基と異なり、2,2',6,6'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物から誘導される7員環構造では、イミド基を構成する2つのカルボニル結合が同一平面状になく、イミド基が共役構造をとらない。
【0030】
また、モデル化合物の2つのイミド基の窒素原子からジアミン由来成分へ伸びる結合は、互いに平行になっている。これは、この酸二無水物由来の骨格がピロメリット酸二無水物由来の構造などと同様であり、低膨張のポリイミドを形成できる。
従って、2,2',6,6'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物から誘導される7員環イミド構造の繰り返し単位を有するポリイミドは、耐熱性の高い芳香族骨格であると共に、少なくとも酸二無水物由来の場所においては、直線性の高い、剛直な骨格であるといえる。
【0031】
その為、2,2',6,6'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と反応させるジアミン(すなわち、上記式(5)の符号Aの部分を構成するジアミン)を適宜選択することで、低い線熱膨張係数を示すポリイミドが得られる。
さらには、2,2',6,6'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物から誘導される7員環イミド構造の繰り返し単位(すなわち、上記式(5)で表される繰り返し単位)に、従来知られていたような、低い線熱膨張係数を示す酸二無水物から誘導されるイミド構造の繰り返し単位を組み合わせることで、より細かな線熱膨張係数の調整が可能となる。
【0032】
上記考えに基づく本発明の低膨張性ポリイミドは、7員環のイミド構造を含む下記式(1)で表される繰り返し単位を有することを特徴としている。
【0033】
【化4】

【0034】
(式中、R〜Rは、それぞれ独立に、水素原子又は1価の有機基であり、それらは互いに結合していても良い。Rは2価の有機基である。同一分子内に存在する繰り返し単位間において同一符号で表される基同士は異なる原子又は構造であっても良い。)
【0035】
ここで、高分子骨格を構成する繰り返し単位とは、主鎖骨格と側鎖骨格の両方の繰り返し単位を含むが、特に、主鎖骨格を構成する繰り返し単位のみに限定して考えたときに上記条件を満たしていることが好ましい。
【0036】
本発明に係るポリイミドは、式(1)の繰り返し単位に含まれるイミド骨格、すなわち2,2',6,6'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物又はその芳香環上に置換基を有する化合物から誘導される7員環イミド構造を有しており、酸二無水物由来成分が剛直で屈曲部位がなく、芳香環を2つ含んでいることから、高耐熱、低膨張のポリイミドが得られる。また、それ自身が剛直であることから、低膨張性ポリイミドを得ることができるジアミンの構造の選択肢も多い
【0037】
さらに、上記7員環イミド構造の原料である2,2',6,6'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物は、ピレンの酸化反応などの比較的簡単な合成手法によって得られる、2,2',6,6'-ビフェニルテトラカルボン酸を原料として用いる為、安価に入手できる。
従って、本発明に係るポリイミドは、ポリイミド本来の耐熱性等の性質と共に、その高い寸法安定性を生かすことが出来る分野での好適な応用を示す。
【0038】
上記式(1)で表される繰り返し単位において、R〜Rの位置には、水素原子以外の置換基が導入されていてもよい。本発明におけるポリイミドは、式(1)の繰り返し単位が2,2',6,6'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物由来の7員環イミド骨格を有していれば、耐熱性、寸法安定性が良好となり、R〜Rに置換基が導入されても同様の効果が期待できる。
水素原子以外にR〜Rの位置に導入し得る1価の有機基としては、例えば、ハロゲン原子、水酸基、メルカプト基、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基、シアノ基、シリル基、シラノール基、アルコキシ基、ニトロ基、カルボキシル基、アセチル基、アセトキシ基、スルホン基、飽和又は不飽和アルキル基、飽和又は不飽和ハロゲン化アルキル基、又は、フェニル、ナフチル等の芳香族基、アリル基等が挙げられる。R〜Rは互いに同一であっても異なっていても良い。R〜Rのうちの2つ又は3つ以上の基、特に、R〜Rのうちの2つ又は3つ、及び/又は、R〜Rのうちの2つ又は3つは、互いに結合して環状構造を形成していても良い。
【0039】
置換基R〜Rは、原料の状態で導入し、酸二無水物の状態で既に置換基が導入されたものを用いても良いし、ジアミンと反応させてポリイミドやポリアミド酸の状態で導入しても良い。また、置換基を導入することで吸収する光の波長を調整することが可能であり、置換基を導入することで所望の波長を吸収させるようにすることもできる。
【0040】
本発明のポリイミドは、分子構造中に置換基を導入することで溶解性を向上させることもできる。この観点からは、上記置換基R〜Rは、炭素数1〜15の飽和及び不飽和アルキル基、炭素数1〜15の飽和及び不飽和アルコキシ基、ブロモ基、クロロ基、フルオロ基、ニトロ基、1〜3級アミノ基等が好ましい。また、これらの基が、上記2価の有機基Rに存在していても良い。
【0041】
式(1)中のRは2価の有機基であり、その具体例としては、後述する各ジアミン成分に対応する2価の有機基、すなわち、ジアミン成分からポリイミド鎖の形成に関与する両末端アミノ基を取り除いた構造が挙げられる。なお、同じポリイミド鎖内に存在する各繰り返し単位間において、同一符号で表される基同士は異なる原子又は構造であっても良い。
【0042】
本発明に係るポリイミドは、少なくとも酸二無水物由来の部分が芳香族構造を有する芳香族ポリイミドであるが、ポリイミドの耐熱性及び寸法安定性を優れたものとする観点から、さらにジアミン由来の部分も芳香族構造を含む全芳香族ポリイミドであることが好ましい。
それゆえ、式(1)に含まれるジアミン成分由来の構造であるR、及び、後述する式(2)に含まれるジアミン成分由来の構造であるYは、芳香族ジアミンから誘導される構造であることが好ましい。
ここで、全芳香族ポリイミドとは、芳香族酸成分と芳香族アミン成分の共重合、又は、芳香族酸/アミノ成分の重合により得られるポリイミドである。また、芳香族酸成分とは、ポリイミド骨格を形成する4つの酸基が全て芳香族環上に置換している化合物であり、芳香族アミン成分とは、ポリイミド骨格を形成する2つのアミノ基が両方とも芳香族環上に置換している化合物であり、芳香族酸/アミノ成分とはポリイミド骨格を形成する酸基とアミノ基がいずれも芳香族環上に置換している化合物である。ただし、後述する原料の具体例から明らかなように、全ての酸基又はアミノ基が同じ芳香環上に存在する必要はない。
【0043】
一方、式(1)のR及び式(2)のYの部分を構造を形成するためのアミン成分も、1種類のジアミン単独で、または2種類以上のジアミンを併用して用いることができる。用いられるジアミン成分は限定されるわけではないが、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、o−フェニレンジアミン、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、3,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,4’−ジアミノジフェニルメタン、2,2−ジ(3−アミノフェニル)プロパン、2,2−ジ(4−アミノフェニル)プロパン、2−(3−アミノフェニル)−2−(4−アミノフェニル)プロパン、2,2−ジ(3−アミノフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ジ(4−アミノフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2−(3−アミノフェニル)−2−(4−アミノフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、1,1−ジ(3−アミノフェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ジ(4−アミノフェニル)−1−フェニルエタン、1−(3−アミノフェニル)−1−(4−アミノフェニル)−1−フェニルエタン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノベンゾイル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノベンゾイル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノベンゾイル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノベンゾイル)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノ−α,α−ジトリフルオロメチルベンジル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノ−α,α−ジトリフルオロメチルベンジル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノ−α,α−ジトリフルオロメチルベンジル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノ−α,α−ジトリフルオロメチルベンジル)ベンゼン、2,6−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゾニトリル、2,6−ビス(3−アミノフェノキシ)ピリジン、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、
【0044】
ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、2,2−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[3−(3−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、1,3−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,4−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,4−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,4−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,4−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、4,4’−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ジフェニルエーテル、4,4’−ビス[4−(4−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)フェノキシ]ベンゾフェノン、4,4’−ビス[4−(4−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)フェノキシ]ジフェニルスルホン、4,4’−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェノキシ]ジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジフェノキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジビフェノキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4−フェノキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4−ビフェノキシベンゾフェノン、6,6’−ビス(3−アミノフェノキシ)−3,3,3’,3’−テトラメチル−1,1’−スピロビインダン、6,6’−ビス(4−アミノフェノキシ)−3,3,3’,3’−テトラメチル−1,1’−スピロビインダン、1,3−ビス(3−アミノプロピル)テトラメチルジシロキサン、1,3−ビス(4−アミノブチル)テトラメチルジシロキサン、α,ω−ビス(3−アミノプロピル)ポリジメチルシロキサン、α,ω−ビス(3−アミノブチル)ポリジメチルシロキサン、ビス(アミノメチル)エーテル、ビス(2−アミノエチル)エーテル、ビス(3−アミノプロピル)エーテル、ビス(2−アミノメトキシ)エチル]エーテル、ビス[2−(2−アミノエトキシ)エチル]エーテル、ビス[2−(3−アミノプロトキシ)エチル]エーテル、
【0045】
1,2−ビス(アミノメトキシ)エタン、1,2−ビス(2−アミノエトキシ)エタン、1,2−ビス[2−(アミノメトキシ)エトキシ]エタン、1,2−ビス[2−(2−アミノエトキシ)エトキシ]エタン、エチレングリコールビス(3−アミノプロピル)エーテル、ジエチレングリコールビス(3−アミノプロピル)エーテル、トリエチレングリコールビス(3−アミノプロピル)エーテル、エチレンジアミン、1,3−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタン、1,5−ジアミノペンタン、1,6−ジアミノヘキサン、1,7−ジアミノヘプタン、1,8−ジアミノオクタン、1,9−ジアミノノナン、1,10−ジアミノデカン、1,11−ジアミノウンデカン、1,12−ジアミノドデカン、1,2−ジアミノシクロヘキサン、1,3−ジアミノシクロヘキサン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、1,2−ジ(2−アミノエチル)シクロヘキサン、1,3−ジ(2−アミノエチル)シクロヘキサン、1,4−ジ(2−アミノエチル)シクロヘキサン、ビス(4−アミノシクロへキシル)メタン、2,6−ビス(アミノメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、2,5−ビス(アミノメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、また、上記ジアミンの芳香環上水素原子の一部若しくは全てをフルオロ基、メチル基、メトキシ基、トリフルオロメチル基、又はトリフルオロメトキシ基から選ばれた置換基で置換したジアミンも使用することができる。さらに目的に応じ、架橋点となるエチニル基、ベンゾシクロブテン−4’−イル基、ビニル基、アリル基、シアノ基、イソシアネート基、及びイソプロペニル基のいずれか1種又は2種以上を、上記ジアミンの芳香環上水素原子の一部若しくは全てに置換基として導入しても使用することができる。
【0046】
ジアミンは、目的の物性によって選択することができ、p−フェニレンジアミンなどの剛直なジアミンを用いれば、低膨張率となる。剛直なジアミンとしては、同一の芳香環に2つアミノ基が結合しているジアミンとして、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、1,4−ジアミノナフタレン、1,5−ジアミノナフタレン、2、6−ジアミノナフタレン、2,7−ジアミノナフタレン、1,4―ジアミノアントラセンなどが挙げられる。
さらに、2つ以上の芳香族環が単結合により結合し、2つ以上のアミノ基がそれぞれ別々の芳香族環上に直接又は置換基の一部として結合しているジアミンが挙げられ、例えば、下記式(6)により表されるものがある。具体例としては、ベンジジン等が挙げられる。
【0047】
【化5】

【0048】
(cは1以上の自然数、アミノ基はベンゼン環同士の結合に対して、メタ位又はパラ位に結合する。)
【0049】
さらに、上記式(6)において、他のベンゼン間との結合に関与せず、ベンゼン環上のアミノ基が置換していない位置に置換基を有するジアミンも用いることができる。これら置換基は、1価の有機基であるがそれらは互いに結合していてもよい。
具体例としては、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2’−ジトリフルオロメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジクロロ−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジメトキシ−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル等が挙げられる。
【0050】
上記したような芳香族ジアミンとしては、下記いずれかの構造を誘導するものが特に好ましい。高耐熱性、低線膨張性の観点から、下記式に示されるような2価の有機基を与えるジアミンのみ用いることが好ましいが、ポリイミドの特性を損なわない範囲で、他の構造を与えるジアミンを用いてもよい。また、2種以上のそれらは、規則的に配列されていてもよいし、ランダムにポリイミド中に存在していてもよい。
【0051】
【化6】

【0052】
(上記式中、aはそれぞれ独立に、水素原子又は1価の有機基であり、それらは互いに結合してもよい。Wは2価の有機基又は結合を表す。lは2以上の自然数を示す。)
また、上記式中、Wは2価の有機基又は結合を表し、例えば、下記式のような結合が挙げられる。
【0053】
【化7】

【0054】
(式中、pは1以上の自然数を示す。)
また、式中aとしては、芳香族環上に導入し得る1価の有機基として、水素原子のほかに、例えば、ハロゲン原子、水酸基、メルカプト基、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基、シアノ基、シリル基、シラノール基、アルコキシ基、ニトロ基、カルボキシル基、アセチル基、アセトキシ基、スルホン基、飽和又は、不飽和アルキルエーテル基、アリールエーテル基、不飽和アルキルチオエーテル基、アリールチオエーテル基、飽和又は不飽和アルキル基、飽和又は不飽和ハロゲン化アルキル基、又は、フェニル、ナフチル等の芳香族基、アリル基等が挙げられる。
これらの構造は、全てのジアミン由来の構造のうちモル比で50%以上用いられていることが好ましい。
【0055】
低膨張性の観点から、式(1)に含まれるジアミン成分由来の構造であるRとしては、ポリイミド分子中に2種類以上のRが含まれていることが好ましく、特に、上記の好ましい構造から選ばれる2種以上の構造が含まれていることが好ましい。
【0056】
一方、ジアミンとして、1,3−ビス(3−アミノプロピル)テトラメチルジシロキサンなどのシロキサン骨格を有するジアミンを用いると、弾性率が低下し、ガラス転移温度を低下させることができる。
ここで、選択されるジアミンは耐熱性の観点より芳香族ジアミンが好ましいが、目的の物性に応じてジアミンの全体の60モル%、好ましくは40モル%を超えない範囲で、脂肪族ジアミンやシロキサン系ジアミン等の芳香族以外のジアミンを用いても良い。
【0057】
本発明のポリイミドは、耐熱性、寸法安定性等の特性を向上させるという本発明の目的を達成する為、式(1)以外の繰り返し単位を有していても良い。例えば、本発明のポリイミドは、式(1)以外のイミド構造を持つ繰り返し単位を含んでいてもよいし、アミド構造の繰り返し単位(ポリアミドの繰り返し単位)のようなイミド構造ではない繰り返し単位を含んでいても良い。
【0058】
式(1)以外のイミド構造を持つ繰り返し単位は、下記式(2)で表すことができ、式(1)で表される繰り返し単位と、式(2)で表される繰り返し単位を含むポリイミドは、下記式(3)で表すことができる。なお、式(3)で表されるポリイミドは、式(1)及び式(2)以外の繰り返し単位を含んでいても良い。
【0059】
【化8】

【0060】
(上記式(2)中、Xは4価の有機基であり、Yは2価の有機基である。同一分子内に存在する繰り返し単位間において同一符号で表される基同士は異なる原子又は構造であっても良い。)
【0061】
【化9】

【0062】
(上記式(3)中、R〜R、R、X及びYは式(1)又は式(2)と同じである。同一分子内に存在する繰り返し単位間において同一符号で表される基同士は異なる原子又は構造であっても良い。mは1以上の自然数であり、nは0以上の自然数である。式(1)の単位と式(2)の単位はランダムな配列であっても良いし規則性を持った配列であっても良い。)
【0063】
式(1)以外のイミド構造は、2,2',6,6'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物やその
誘導体以外の酸二無水物を用いることによりポリイミド鎖内に導入される。
【0064】
本発明のポリイミドを製造する方法としては、従来公知の手法を適用することができる。例えば、(1)酸二無水物とジアミンから前駆体であるポリアミド酸を合成し、このポリアミド酸の状態で成形し、その後、加熱によりイミド化を行う手法。(2)アミド酸を溶液中で加熱するか、または、無水酢酸やジシクロヘキシルカルボジイミドなどの脱水触媒などを用いてポリイミド溶液を得た後、このポリイミド溶液を塗布などの方法により成形を行う手法。(3)先ず、酸二無水物と2等量の反応部位を持ったモノアミンを用いて、ジイミドモノマーを合成し、その後、ジイミドモノマー同士を結合させてポリイミドとする手法などがある。
【0065】
先に述べた様に、ここで用いる酸二無水物は2,2',6,6'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物だけでなく、目的に応じて予めR〜Rのいずれか一箇所以上に置換基が導入された誘導体を用いても良い。また、酸二無水物としては、2,2',6,6'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物及び/又はその誘導体以外のものを併用しても良い。2,2',6,6'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物及び/又はその誘導体、さらに、その他の酸二無水物は、ポリイミドの透明性を確保できる範囲内であれば2種以上を併用することができる。
2,2',6,6'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物及び/又はその誘導体と併用できる酸二無水物、すなわち、式(2)の符号Xの部分を構成する酸二無水物は、耐熱性の観点から剛直性の高いもの、特に芳香族酸二無水物が好ましい。目的の物性に応じて、酸二無水物全体の70モル%、好ましくは50モル%を超えない範囲で2,2',6,6'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物以外の酸二無水物を用いても良い。
【0066】
2,2',6,6'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物及び/又はその誘導体と併用可能な他の酸二無水物としては、例えば、エチレンテトラカルボン酸二無水物、ブタンテトラカルボン酸二無水物、シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、1,1−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物、1,3−ビス[(3,4−ジカルボキシ)ベンゾイル]ベンゼン二無水物、1,4−ビス[(3,4−ジカルボキシ)ベンゾイル]ベンゼン二無水物、2,2−ビス{4−[4−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}プロパン二無水物、2,2−ビス{4−[3−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}プロパン二無水物、ビス{4−[4−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}ケトン二無水物、ビス{4−[3−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}ケトン二無水物、4,4’−ビス[4−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ]ビフェニル二無水物、4,4’−ビス[3−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ]ビフェニル二無水物、ビス{4−[4−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}ケトン二無水物、ビス{4−[3−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}ケトン二無水物、ビス{4−[4−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}スルホン二無水物、ビス{4−[3−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}スルホン二無水物、ビス{4−[4−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}スルフィド二無水物、ビス{4−[3−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}スルフィド二無水物、2,2−ビス{4−[4−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルプロパン二無水物、2,2−ビス{4−[3−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}−1,1,1,3,3,3−プロパン二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸二無水物、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−アントラセンテトラカルボン酸二無水物、1,2,7,8−フェナントレンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。これらは単独あるいは2種以上混合して用いられる。そして、特に好ましく用いられるテトラカルボン酸二無水物としてピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物が挙げられる。
【0067】
低膨張性を求めるには、式(2)のXが、以下の構造のうち少なくとも1つを含んでいることが好ましい。
【0068】
【化10】

【0069】
(式中、bは、それぞれ独立に、水素原子又は1価の有機基であり、それらは互いに結合していても良い。oは2以上の自然数を示す。)
【0070】
より具体的には、入手のしやすさや、耐熱性等の観点から、ピロメリット酸二無水物、2,5−フルオロピロメリット酸二無水物、2,5−トリフルオロメチルピロメリット酸二無水物、3,3‘、4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、が特に好ましい。
【0071】
次に、本発明に係るポリイミドの原料となる2,2',6,6'-ビフェニルテトラカルボン酸二
無水物を合成する手法、及び、ポリイミドを合成する手法をこれより具体的に例示するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0072】
酸成分原料のなかで最も基本的な構造をもつ2,2',6,6'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物は、ピレンの酸化反応により得ることができる。すなわち、先ず、ピレンをジクロロメタンに溶解させる。完全に溶解したら、アセトニトリルと水を加え、撹拌する。そこへ酸化剤の過ヨウ素酸ナトリウムと触媒の3塩化ルテニウムを加え、室温で10〜30時間撹拌する。反応終了後、沈殿物を濾過し、その沈殿物をアセトンで抽出、濾過する。抽出したアセトンを濃縮し乾燥させた後、ジクロロメタンで4〜10時間還流を行う。それを濾過し得られた白い固体が、2,2',6,6'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物の前駆体である2,2',6,6'-ビフェニルテトラカルボン酸である。こうして得られた2,2',6,6'-ビフェニルテトラカルボン酸を無水酢酸で3時間還流後、溶媒を留去し、得られた固形物を0.8mmHg(106.4Pa)の圧力で230℃の条件で昇華精製することで、目的物である2,2',6,6'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を得ることができる。
【0073】
次に、酸成分として上記2,2',6,6'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、及び、アミン成分として4,4'-ジアミノジフェニルエーテルを用いてポリイミドを合成する例を述べる。先ず、4,4'-ジアミノジフェニルエーテルを溶解させたジメチルアセトアミドに、等モルの2,2',6,6'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を徐々に加え、室温で撹拌する。1〜20時間程度撹拌した後、撹拌したジエチルエーテルに反応液を滴下し再沈殿し、ポリアミド酸を得る。そのポリアミド酸を再びジメチルアセトアミドに溶解し、ガラスなどの基板上に塗布乾燥し、ポリアミド酸の塗膜を成形し、それを加熱することでポリイミドの塗膜が得られる。
【0074】
また、加熱脱水のかわりに化学的イミド化を行う場合には、脱水触媒としてピリジンやβ―ピコリン酸等のアミン、ジシクロヘキシルカルボジイミドなどのカルボジイミド、無水酢酸等の酸無水物等、公知の化合物を用いても良い。酸無水物としては無水酢酸に限らず、プロピオン酸無水物、n−酪酸無水物、安息香酸無水物、トリフルオロ酢酸無水物等が挙げられるが特に限定されない。また、その際にピリジンやβ―ピコリン酸等の3級アミンを併用してもよい。
【0075】
このようにして合成される本発明のポリイミドは、ポリイミド本来の耐熱性及び寸法安定性を優れたものとするために、芳香族酸成分及び/又は芳香族アミン成分の共重合割合ができるだけ大きいことが好ましい。具体的には、イミド構造の繰り返し単位を構成する酸成分に占める芳香族酸成分の割合が50モル%以上、特に70モル%以上であることが好ましく、イミド構造の繰り返し単位を構成するアミン成分に占める芳香族アミン成分の割合が40モル%以上、特に60モル%以上であることが好ましく、全芳香族ポリイミドであることが特に好ましい。
【0076】
このようにして合成される本発明のポリイミドは、寸法安定性を有することを特徴としており、引っ張り加重法により、加重をポリイミドフィルムの断面積あたり5.0×10−4g/μmとし、10℃/minの昇温速度で測定したときに、線熱膨張係数が40ppm以下、好ましくは20ppm以下であることが好ましい。
【0077】
本発明のポリイミドの重量平均分子量は、その用途にもよるが、3,000〜1,000,000の範囲であることが好ましく、5,000〜500,000の範囲であることがさらに好ましく、10,000〜500,000の範囲であることがさらに好ましい。重量平均分子量が3,000以下であると、塗膜又はフィルムとした場合に十分な強度が得られにくい。また、10,000未満であると着色の原因になるポリマー末端の数が相対的に多くなることから着色する場合がある。一方、1,000,000を超えると粘度が上昇し、溶解性も落ちてくるため、表面が平滑で膜厚が均一な塗膜又はフィルムが得られにくい。
ここで用いている分子量とは、ゲルパーミレーションクロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算の値のことをいい、ポリイミド前駆体そのものの分子量でも良いし、無水酢酸等で化学的イミド化処理を行った後のものでも良い。
【0078】
本発明のポリイミドは、特に優れた寸法安定性を有することを特徴とするが、耐熱性、絶縁性等のポリイミド本来の特性も損なわれておらず、良好である。
例えば、窒素中で測定した5%重量減少温度は、250℃以上が好ましく、300℃以上がさらに好ましい。特に、はんだリフローの工程を通るような電子部品等の用途に用いる場合は、5%重量減少温度が300℃以下であると、はんだリフローの工程で発生した分解ガスにより気泡等の不具合が発生する恐れがある。
ここで、5%重量減少温度とは、熱重量分析装置を用いて重量減少を測定した時に、サンプルの重量が初期重量から5%減少した時点(換言すればサンプル重量が初期の95%となった時点)の温度である。同様に10%重量減少温度とはサンプル重量が初期重量から10%減少した時点の温度である。
【0079】
ガラス転移温度は、耐熱性の観点からは高ければ高いほど良いが、動的粘弾性測定装置において、振動周波数1Hz、昇温速度 5℃/minの条件で測定したときのTanδのピーク(一般にTgとみなされている)によって同定されたガラス転移温度が、200℃以上が好ましく、更に好ましくは250℃以上であるとよい。
【0080】
本発明のポリイミドは、ポリイミド前駆体から熱イミド化法によってイミド化した場合、各分子鎖間で架橋反応が一部進行し、架橋体となる場合がある。架橋体となると破断強度や引き裂き弾性率が向上する。この様な場合、ポリイミド膜自体の強度が向上するので好ましい。架橋体であるかどうかは、動的粘弾性測定においてゴム状領域を示すかどうかで判断できる。
【0081】
以上に述べたように、本発明に係るポリイミドは、高い耐熱性、寸法安定性を示す。低膨張にする際にジアミンの選択肢が少なくなる問題や、前駆体の溶解性が低くなる問題を解消することができ、従来の芳香族ポリイミドと同等の耐熱性を有し、寸法安定性の高いポリイミドの塗膜、フィルム或いは成形品を得ることできる。
【0082】
本発明に係るポリイミドは、そのまま製品や部材を作製するためのコーティングや成形プロセスに供してもよいが、該ポリイミドを必要に応じて溶剤に溶解又は分散させ、さらに、光又は熱硬化性成分、本発明に係るポリイミド以外の非重合性バインダー樹脂、その他の成分を配合して、ポリイミド樹脂組成物を調製してもよい。
【0083】
ポリイミド樹脂組成物を溶解、分散又は希釈する溶剤としては各種の汎用溶剤を用いることが出来る。
使用可能な汎用溶剤としては、例えば、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル等のエーテル類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル等のグリコールモノエーテル類(いわゆるセロソルブ類);メチルエチルケトン、アセトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンなどのケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸n−プロピル、酢酸i−プロピル、酢酸n−ブチル、酢酸i−ブチル、前記グリコールモノエーテル類の酢酸エステル(例えば、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート)、メトキシプロピルアセテート、エトキシプロピルアセテート、蓚酸ジメチル、乳酸メチル、乳酸エチル等のエステル類;エタノール、プロパノール、ブタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン等のアルコール類;塩化メチレン、1,1−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエチレン、1−クロロプロパン、1−クロロブタン、1−クロロペンタン、クロロベンゼン、ブロムベンゼン、o−ジクロロベンゼン、m−ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類;N−メチルピロリドンなどのピロリドン類;γ−ブチロラクトン等のラクトン類;ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類、その他の有機極性溶媒類等が挙げられ、更には、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、及び、その他の有機非極性溶媒類等も挙げられる。これらの溶媒は単独もしくは組み合わせて用いられる。
【0084】
光硬化性成分としては、エチレン性不飽和結合を1つ又は2つ以上有する化合物を用いることができ、例えば、アミド系モノマー、(メタ)アクリレートモノマー、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー、ポリエステル(メタ)アクリレートオリゴマー、エポキシ(メタ)アクリレート、及びヒドロキシル基含有(メタ)アクリレート、スチレン等の芳香族ビニル化合物を挙げることができる。ここで、(メタ)アクリレートとは、アクリレート又はメタクリレートのいずれであっても良いことを意味する。
このようなエチレン性不飽和結合を有する光硬化性化合物を用いる場合には、さらに光ラジカル発生剤を添加してもよい。
【0085】
また、エチレン性不飽和結合を有する光硬化性化合物以外の光又は熱硬化性成分、或いは、その他の非重合成バインダー樹脂としては、公知のあらゆる高分子化合物又はラジカル反応又はそれ以外の硬化反応性化合物を用いることができる。例えば、トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート及びイソホロンジイソシアネート等の有機ポリイソシアネート;酢酸ビニル、塩化ビニル、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル等のアクリル又はビニル化合物の重合体及び共重合体;ポリスチレン等のスチレン系樹脂;ホルマール樹脂やブチラール樹脂等のアセタール樹脂;シリコーン樹脂;フェノキシ樹脂;ビスフェノールA型エポキシ樹脂等に代表されるエポキシ樹脂;ポリウレタン等のウレタン樹脂;フェノール樹脂;ケトン樹脂;キシレン樹脂;ポリアミド樹脂及びその前駆体;ポリイミド樹脂及びその前駆体;ポリエーテル樹脂;ポリフェニレンエーテル樹脂;ポリベンゾオキサゾール樹脂;環状ポリオレフィン樹脂;ポリカーボネート樹脂;ポリエステル樹脂;ポリアリレート樹脂;ポリスチレン樹脂;ノボラック樹脂;ポリカルボジイミド、ポリベンゾイミダゾール、ポリノルボルネン等の脂環式高分子;シロキサン系高分子等の公知のあらゆる高分子化合物又は硬化反応性化合物が挙げられるが、これらに限定されない。これらは単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0086】
非重合性高分子のバインダー樹脂を用いる場合には、樹脂組成物の用途にもよるが、重量平均分子量が、通常、3,000以上であることが好ましい。また、分子量が大きすぎると、溶解性や加工特性の悪化を招くことから、重量平均分子量が通常、10,000,000以下であることが好ましい。
【0087】
本発明に係る樹脂組成物に加工特性や各種機能性を付与するために、その他に様々な有機又は無機の低分子又は高分子化合物を配合してもよい。例えば、染料、界面活性剤、レベリング剤、可塑剤、微粒子、増感剤等を用いることができる。微粒子には、ポリスチレン、ポリテトラフルオロエチレン等の有機微粒子、コロイダルシリカ、カーボン、層状珪酸塩等の無機微粒子等が含まれ、それらは多孔質や中空構造であってもよい。また、その機能又は形態としては顔料、フィラー、繊維等がある。
【0088】
本発明に係るポリイミド樹脂組成物は、式(1)で表されるポリイミドを、樹脂組成物の固形分全体に対し、通常、5〜99.9重量%の範囲内で含有させる。また、その他の任意成分の配合割合は、ポリイミド樹脂組成物の固形分全体に対し、0.1重量%〜95重量%の範囲が好ましい。0.1重量%未満だと、添加物を添加した効果が発揮されにくく、95重量%を越えると、樹脂組成物の特性が最終生成物に反映されにくい。なお、ポリイミド樹脂組成物の固形分とは溶剤以外の全成分であり、液状のモノマー成分も固形分に含まれる。
【0089】
本発明に係るポリイミド樹脂組成物は、パターン形成材料(レジスト)、コーティング材、塗料、印刷インキ、接着剤、充填剤、電子材料、成形材料、レジスト材料、建築材料、3次元造形、フレキシブルディスプレー用フィルム、光学部材等、樹脂材料が用いられる公知の全ての分野・製品に利用できる。
【0090】
特に本発明に係るポリイミド樹脂組成物は、耐熱性、絶縁性等のポリイミド本来の特性に加えて、高い寸法安定性を有することから、これらの特性が有効とされる分野・製品、例えば、塗料、印刷インキ、カラーフィルター、フレキシブルディスプレー用フィルム、半導体装置、電子部品、層間絶縁膜、配線被覆膜、光回路、光回路部品、反射防止膜、ホログラム、その他の光学部材又は建築材料を形成するのに適している。
【実施例】
【0091】
(カルボン酸二無水物の合成)
ピレン 15g(74mmol)を2L(リットル)のなすフラスコへ入れ、ジクロロメタン320mlに溶解させた。完全に溶解したら、アセトニトリル320mlと蒸留水480mlを加え、撹拌した。そこへ酸化剤の過ヨウ素酸ナトリウム150gと触媒の3塩化ルテニウム650mgを加え、室温で22時間撹拌した。反応終了後、沈殿物を濾過し、その沈殿物をアセトンで抽出、濾過した。抽出したアセトンを濃縮し乾燥させた後、ジクロロメタンで4時間還流を行い、それを濾過し粉末を得た。その粉末が完全に白色になるまでアセトンによる抽出とジクロロメタンによる還流を繰り返し、2,2',6,6'-ビフェニルテトラカルボン酸を10.2g得た。
得られた2,2',6,6'-ビフェニルテトラカルボン酸を無水酢酸で3時間還流後、溶媒を留
去し、得られた固形物を0.8mmHg(106.4Pa)の圧力で230℃の条件で昇華精製することで目的物である2,2',6,6'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(2,2',6,6'-BPDA)の白色粉末を得た。
【0092】
(前駆体溶液の合成)
(1)前駆体溶液1の合成
4,4'-ジアミノジフェニルエーテル 1.20g(6mmol)を50mlの3つ口フラスコに投入し、5mlの脱水されたN-メチル-2-ピロリドン(NMP)に溶解させ窒素気流下、氷浴で冷却しながら撹拌した。そこへ、少しずつ30分おきに、10等分した上記2,2',6,6'-BPDA 1.77g(6mmol)を添加し、添加終了後、氷浴中で5時間撹拌し、粘ちょうな液体(前駆体溶液1)を得た。
【0093】
(2)前駆体溶液2の合成
4,4'-ジアミノジフェニルエーテル 1.20g(6mmol)を50mlの3つ口フラスコに投入し、5mlの脱水されたN-メチル-2-ピロリドン(NMP)に溶解させ窒素気流下、氷浴で冷却しながら撹拌した。そこへ、少しずつ30分おきに、10等分した上記2,2',6,6'-BPDA 0.87g(3mmol)および、ピロメリット酸二無水物(PMDA) 0.65g(3mmol)の混合物を添加し、添加終了後、氷浴中で5時間撹拌し、粘ちょうな液体(前駆体溶液二)を得た。
【0094】
(3)前駆体溶液3の合成
4,4'-ジアミノジフェニルエーテル 0.6g(3mmol)とパラフェニレンジアミン 0.32g(3mmol)を50mlの3つ口フラスコに投入し、5mlの脱水されたN-メチル-2-ピロリドン(NMP)に溶解させ窒素気流下、氷浴で冷却しながら撹拌した。そこへ、少しずつ30分おきに、10等分した上記2,2',6,6'-BPDA 1.77g(6mmol)を添加し、添加終了後、氷浴中で5時間撹拌し、粘ちょうな液体(前駆体溶液3)を得た。
【0095】
(実施例)
合成した上記前駆体溶液1〜3を、それぞれ、ガラス上に直接スピンコートし、80℃に温められたホットプレート上で30分乾燥させた。その後、窒素雰囲気下、オーブンにより350℃で1時間加熱を行い、ポリイミドフィルム1〜3を得た。
ガラス上に形成されたポリイミドフィルムを24時間蒸留水に浸漬することで、ガラスから剥離した。それぞれ、NMPに不溶であり、膜厚は20μm±2μmであった。
【0096】
[動的粘弾性評価]
上記の熱物性評価において作製した各ポリイミドフィルムを、粘弾性測定装置Solid Analyzer RSA II(Rheometric Scientific社製)によって、周波数1Hz、昇温速度5℃/minで動的粘弾性測定を行った。
ポリイミド1は、350℃のガラス転移温度を示したが、ポリイミド2及び、ポリイミド3は、測定した400℃までではガラス転移温度を示さなかった。
【0097】
【表1】

【0098】
[線熱膨張係数評価]
上記の熱物性評価において作製したフィルムの線熱膨張係数を、熱機械的分析装置Thermo Plus TMA8310(リガク社製)によって、昇温速度10℃/min、引っ張り加重5gで測定を行った。
その結果、50℃〜100℃における線熱膨張係数は、ポリイミド1が25ppm、
ポリイミド2が23ppm、ポリイミド3が16ppmとなった。
【0099】
【表2】

【0100】
これらの結果より、本発明の7員環イミド構造を有するポリイミドは、耐熱性が良好で、且つ、低膨張率のフィルムを作製することが可能である為、これらの特性が有効とされる分野・製品、例えば、塗料、印刷インキ、カラーフィルター、フレキシブルディスプレー用フィルム、半導体装置、電子部品、層間絶縁膜、配線被覆膜、光回路、光回路部品、反射防止膜、ホログラム、その他の光学部材又は建築材料を形成するのに適している。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】式(1)の骨格を有する化合物の立体構造モデルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される繰り返し単位を有するポリイミド。
【化1】

(式中、R〜Rは、それぞれ独立に、水素原子又は1価の有機基であり、それらは互いに結合していても良い。Rは2価の有機基である。同一分子内に存在する繰り返し単位間において同一符号で表される基同士は異なる原子又は構造であっても良い。)
【請求項2】
前記式(1)で表される繰り返し単位として、前記Rの構造が異なる2種以上の繰り返し単位を有することを特徴とする請求項1に記載のポリイミド。
【請求項3】
前記式(1)で表される繰り返し単位の前記Rが、以下の構造のなかから選ばれることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリイミド。
【化2】

(式中、aは、それぞれ独立に、水素原子又は1価の有機基であり、それらは、互いに結合していてもよい。Wは2価の有機基を表す。lは2以上の自然数を示す。)
【請求項4】
下記式(2)で表される繰り返し単位をさらに有する、請求項1乃至3のいずれかに記載のポリイミド。
【化3】

(式中、Xは4価の有機基であり、Yは2価の有機基である。同一分子内に存在する繰り返し単位間において同一符号で表される基同士は異なる原子又は構造であっても良い。)
【請求項5】
前記式(2)において、前記Xが、以下の構造のうち少なくとも1つを含んでいることを特徴とする請求項4に記載のポリイミド。
【化4】

(式中、bは、それぞれ独立に、水素原子又は1価の有機基であり、それらは互いに結合していても良い。oは2以上の自然数を示す。)
【請求項6】
線熱膨張係数が40ppm以下である、請求項1乃至5のいずれかに記載のポリイミド。
【請求項7】
ガラス転移温度が200℃以上である、請求項1乃至6のいずれかに記載のポリイミド。
【請求項8】
前記式(1)は全芳香族ポリイミドの繰り返し単位である、請求項1乃至7のいずれかに記載のポリイミド。
【請求項9】
重量平均分子量が10,000以上である、請求項1乃至8のいずれかに記載のポリイミド。
【請求項10】
前記請求項1乃至9のいずれかに記載されたポリイミドを含有するポリイミド樹脂組成物。
【請求項11】
パターン形成材料として用いられることを特徴とする、請求項10に記載のポリイミド樹脂組成物。
【請求項12】
塗料又は印刷インキ、或いは、カラーフィルター、フレキシブルディスプレー用フィルム、半導体装置、電子部品、層間絶縁膜、配線被覆膜、光回路、光回路部品、反射防止膜、ホログラム、光学部材又は建築材料の形成材料として用いられる請求項11に記載のポリイミド樹脂組成物。
【請求項13】
前記請求項10乃至12のいずれかに記載のポリイミド樹脂組成物又はその硬化物により少なくとも一部分が形成されている、印刷物、カラーフィルター、フレキシブルディスプレー用フィルム、半導体装置、電子部品、層間絶縁膜、配線被覆膜、光回路、光回路部品、反射防止膜、ホログラム、光学部材又は建築材料いずれかの物品。


【図1】
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【公開番号】特開2007−99951(P2007−99951A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−292995(P2005−292995)
【出願日】平成17年10月5日(2005.10.5)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】