説明

低騒音カッターおよび低騒音カッターの製造方法

【課題】 道路、石材、耐火物レンガ等の切断を行うカッターに関騒音問題を解決するためになされたものであって、カッターそのものについての騒音低減を実現可能な低騒音カッターを提供する。
【解決手段】 本発明は、円盤状のカッター基盤11と、前記カッター基盤11の外周縁に設けられたチップ12とを備えた低騒音カッター10であって、前記カッター基盤11の中心部から径方向に、少なくとも一箇所以上の空隙部を有すべく、前記カッター基盤11の同心円上に、複数のスリットが連続して設けられており、前記スリットには充填剤が充填されていることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、道路等の切断に使用されるカッターに関し、詳しくは、回転駆動時(切断時)に発生する騒音を低減させることが可能な低騒音カッター、および低騒音カッターの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
道路(コンクリートやアスファルト等)、石材、耐火物レンガ等の切断を行う場合には、従来から図7に示すようなカッター70が用いられている。
【0003】
この図7に示された道路等の切断に使用されるカッター70は、鋼鉄製円盤であるカッター基盤71と、このカッター基盤の外周に設けられているチップ72とを用いて構成されている。チップ72としては、例えば、ダイヤモンドパウダーと数種の金属パウダーとを焼結したものが用いられる。
【0004】
通常、カッター70を構成するカッター基盤71の中心部には、駆動手段の駆動軸に取り付けるための取付穴73が設けられている。そして、カッター70は、この取付穴73を介して駆動手段(図示省略)に取り付けられ、駆動手段の回転駆動力によって回転駆動し、カッター70を構成するチップ72によって道路等の切断処理が行われる。
【0005】
【特許文献1】特開2000−73310号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、図6に示したようなカッターを用いて道路等の切断を行う際の問題の一つに、カッターから生ずる騒音の問題がある。
【0007】
このような騒音問題を解決する手段としては、例えば、特許文献1のように、カバーを設ける手段が考えられる。
【0008】
しかしながら、この特許文献1に示すようなカバーを設ける手段は、カッターを含めた装置全体としての騒音を低減することは可能かもしれないが、カッター自身の騒音問題を解決するものではない。つまり、この特許文献1にて開示されている技術は、既に使用されている装置の騒音低減を行う際には、装置の大幅な修正・改良等が必須となるため、汎用的ではない。
【0009】
すなわち、既に使用されている装置の騒音低減を比較的容易に実現するためには、カバー等を追加するような装置全体に関する改良を加えるのではなく、カッターそのものについての騒音低減を実現する必要がある。
【0010】
そこで、本発明は、道路(コンクリートやアスファルト等)、石材、耐火物レンガ等の切断を行うカッターに関する上記従来技術にかかる騒音問題を解決するためになされたものであって、カッターそのものについての騒音低減を実現可能な低騒音カッターを提供することを課題とする。
また、本発明は、低騒音カッターの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、円盤状のカッター基盤と、前記カッター基盤の外周縁に設けられたチップとを備えた低騒音カッターであって、前記カッター基盤の中心部から径方向に、少なくとも一箇所以上の空隙部を有すべく、前記カッター基盤の同心円上に、複数のスリットが連続して設けられており、前記スリットには充填剤が充填されていることを特徴としている。
【0012】
また、本発明は、円盤状のカッター基盤と、前記カッター基盤の外周縁に設けられたチップとを備えた低騒音カッターであって、前記カッター基盤の中心部から径方向に、少なくとも一箇所以上の空隙部を有すべく、前記カッター基盤の同心円上に、複数のスリットが連続して設けられており、前記スリットには充填剤が充填されており、前記充填剤が充填されたスリットを覆うべく、前記カッター基盤の両面に樹脂層が設けられており、前記カッター基盤の中心部近傍両面には、第一金属粉末塗装層が設けられていることを特徴としている。
【0013】
また、本発明にかかる低騒音カッターにおいては、前記カッター基盤の両面に、さらに第二金属粉末塗装層が設けられている構成が好ましい。
【0014】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、円盤状のカッター基盤と、前記カッター基盤の外周縁に設けられたチップとを備えた低騒音カッターの製造方法であって、前記カッター基盤の中心部から径方向に、少なくとも一箇所以上の空隙部を有すべく、前記カッター基盤の同心円上に、複数のスリットを穿孔するスリット穿孔工程と、前記スリットに充填剤を充填する充填工程とを備えたことを特徴としている。
【0015】
また、本発明は、円盤状のカッター基盤と、前記カッター基盤の外周縁に設けられたチップとを備えた低騒音カッターの製造方法であって、前記カッター基盤の中心部から径方向に、少なくとも一箇所以上の空隙部を有すべく、前記カッター基盤の同心円上に、複数のスリットを穿孔するスリット穿孔工程と、前記スリットに充填剤を充填する充填工程と、前記充填剤が充填されたスリットを覆うべく、前記カッター基盤の両面に樹脂を塗布する樹脂塗布工程と、前記カッター基盤の中心部近傍両面に、金属粉末塗装を施す第一金属粉末塗装工程とを備えたことを特徴としている。
【0016】
また、本発明にかかる低騒音カッターの製造方法においては、前記カッター基盤の両面に、さらに金属粉末塗装を施す第二金属粉末塗装工程を行うことが好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1は、本発明の実施形態にかかる低騒音カッター10の概略図を示したものである。具体的には、図1(a)は、本実施形態にかかる低騒音カッター10の概略平面図を示し、図1(b)は、図1(a)のI−I断面図を示したものである。
また、図2は、図1(b)の要部拡大図を示したものである。
さらに、図3は、図1および図2にて示した本実施形態にかかる低騒音カッター10の製造工程の概略を示したものである。
【0018】
以下、図1〜図3およびその他の図面に基づいて、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0019】
まず、図3に基づいて、本実施形態にかかる低騒音カッター10の製造工程について説明する。本実施形態にかかる低騒音カッター10は、図3(a)からはじまり、図3(b)、図3(c)、図3(d)、図3(e)、図3(f)の工程を経て製造される。
【0020】
本実施形態にかかる低騒音カッターを製造する際には、まず、図3(a)に示すような後述するスリット等が穿孔されていないカッター10A(以下「標準カッター」という。)を用意する。
この標準カッター10Aは、鋼鉄製円盤であるカッター基盤11と、このカッター基盤11の外周縁に設けられている複数のチップ12とを用いて構成されている。そして、この標準カッターの中心部には、駆動手段の駆動軸(図示省略)に取り付けるための取付穴13が設けられている。
【0021】
このチップ12は、ダイヤモンドパウダーと数種の金属パウダーとを焼結させて構成されている。ダイヤモンドパウダーは、例えば、30メッシュ(0.6mm)〜50メッシュ(0.3mm)程度の粒度のものが用いられ、金属パウダーは、例えば、200メッシュ(0.075mm)〜500メッシュ(0.025mm)程度の粒度のものが用いられる。金属パウダーとしては、コバルトや銅等の種々の金属が用いられ、必要となるチップの硬度に応じて、その種類や割合が調製される。
また、このチップ12は、カッター基盤11の外周縁に、銀ロウ付け、あるいはレーザー溶接によって溶着されている。
【0022】
次いで、図3(a)に示した標準カッターを構成するカッター基盤11に、レーザー加工機を用いて複数のスリットを穿孔する(本発明の「スリット穿孔工程」に相当)。本実施形態においては、S字状のスリット31が連続的に複数穿孔されている(図3(b)参照)。より具体的には、図3(b)に示すように、カッター基盤11の同心円上に、同様の形状を有するS字状のスリット31が、連続的に複数穿孔されている。
【0023】
図4は、図3(b)中に破線で示されたIV部の拡大図を示したものである。
図3(b)および図4に示すように、本実施形態においては、カッター基盤11の同心円上に、同様の形状を有するS字状のスリット31が、連続的に複数穿孔されており、それぞれのスリット31が、前後のスリット31と重なり合うように設けられている。このS字状のスリット31の幅は、10インチ(約256mm)〜18インチ(約489mm)程度の外径を有するカッターに対して、0.3mm〜0.5mm程度であることが好ましい。
【0024】
図4に示すように、本実施形態にかかるそれぞれのスリット31は、前後のスリット31と重なり合うように設けられているため、カッター基盤11の中心部から径方向に、少なくとも一箇所以上の空隙部を有することとなる。
【0025】
具体的に、例えば、カッター基盤11の中心部から径方向に示された、第一径方向基準線R1と、第二径方向基準線R2を例にとって説明する。
まず、この中心部から径方向に示された第一径方向基準線R1については、図4から明らかなように、スリット31cと接することとなる。すなわち、この第一径方向基準線R1上には、スリット31cのみが存在することとなるため、カッター基盤11の中心部から径方向(第一径方向基準線R1方向)に、一箇所の空隙部31c1を有することとなる。
次に、この中心部から径方向に示された第二径方向基準線R2については、図4から明らかなように、スリット31aおよびスリット31bの二つのスリットと接することとなる。すなわち、この第二径方向基準線R2上には、二つのスリット31a,31bが存在することとなるため、カッター基盤11の中心部から径方向(第二径方向基準線R2方向)に、二箇所の空隙部31a2,31b2を有することとなる。
【0026】
また、本実施形態においては、この図4に示すように、複数のチップ12がカッター基盤11の外周縁に対して、それぞれ一つずつ独立してレーザー溶接によって溶着されている。
【0027】
この図3(b)に示すように、複数のスリット31が連続して穿孔された状態のカッターを、以下、有スリットカッター10Bという。
【0028】
図3に戻り、図3(b)のスリット穿孔工程の次には、図3(c)に示すように、それぞれのスリット31に対して、充填剤の充填処理を行う(本発明の「充填工程」に相当)。より具体的には、図3(c)に示すように、カッター基盤11の同心円上に連続して複数設けられたスリット31の全てに対して、充填剤32を充填している。
【0029】
図5は、図3(c)中に破線で示されたV部の拡大図を示したものである。
図5に示すように、本実施形態においては、スリット31の内部を満たすように、充填剤32が充填されており、この充填剤32としては、ゴムが用いられる。
【0030】
この図3(c)に示すように、複数のスリット31に対してゴムが充填された状態のカッターを、以下、有充填カッター10C(本発明の「低騒音カッター」に相当)という。
【0031】
図3に戻り、図3(c)の充填工程の次には、図3(d)に示すような樹脂を用いた塗布工程(本発明の「樹脂塗布工程」に相当)と、取付穴13周辺に銅粉末(本発明の「金属粉末」に相当)を用いた銅粉末塗装工程(本発明の「第一金属粉末塗装工程」に相当、以下「第一銅粉末塗装工程」という。)とが行われる。
【0032】
具体的に、樹脂塗布工程は、同心円上に連続して設けられた複数のスリット31(充填剤32が充填されたスリット31)からなる円状の列(スリット列)を覆うように、カッター基盤11の両面にポリエステル樹脂の塗布工程が行われて、この領域には、樹脂層33(本発明の「樹脂層」に相当)が形成されることとなる。
【0033】
また、第一銅粉末塗装工程は、カッター基盤11の中心部に設けられた取付穴13周辺(後述するフランジによる締め付け部分)両面に対して、銅粉末の塗装が行われて、この領域には、第一銅粉末塗装層34(本発明の「第一金属粉末塗装層」に相当)が形成されることとなる。
【0034】
図3(d)に示すように、この樹脂塗布工程と第一銅粉末塗装工程とが行われた状態においては、樹脂層33と第一銅粉末塗装層34との間(径方向の所定領域)には、カッター基盤11そのものが表出している部分がある。
【0035】
この図3(d)に示すように、樹脂塗布工程と第一銅粉末塗装工程とが施された状態のカッターを、以下、第一塗装済カッター10D(本発明の「低騒音カッター」に相当)という。
【0036】
次いで、図3(d)に示した樹脂塗布工程と第一銅粉末塗装工程とを施した後には、樹脂層33および第一銅粉末塗装層34を含んだ第一塗装済カッター10Dの両面全体に対して、銅粉末(本発明の「金属粉末」に相当)を用いた銅粉末塗装工程(本発明の「第二金属粉末塗装工程」に相当、以下「第二銅粉末塗装工程」という。)が行われる(図3(e)参照)。
【0037】
この第二銅粉末塗装工程は、外周縁近傍を除いたカッター基盤11の全体両面に対して行われ、この工程によって、図3(e)に示すように、第二銅粉末塗装層35(本発明の「第二金属粉末塗装層」に相当)が形成されることとなる。
【0038】
この図3(e)に示すように、第二銅粉末塗装工程が施された状態のカッターを、以下、第二塗装済カッター10E(本発明の「低騒音カッター」に相当)という。
【0039】
次いで、第二塗装済みカッター10E(図3(e)参照)に対して、メタリック処理が施されて、すなわち、第二塗装済カッター10Eの両面にメタリック層36が形成されることによって、本実施形態にかかる低騒音カッター10が構成されることとなる(図3(f)参照)。
【0040】
本実施形態においては、以上説明したように、図3に示すような工程を経て、図1および図2に示すような低騒音カッター10が製造されている。
この低騒音カッターの構成は、図2の断面図からも明らかであって、その外周縁にチップ12が溶着されたカッター基盤11の中心部分には、取付穴13が設けられている。そして、カッター基盤11の同心円上には、充填剤32が充填された複数のスリット31(スリット列)が設けられており、カッター基盤11の両面の所定領域には、樹脂層33と第一銅粉末塗装層34とが形成され、外周縁近傍を除いたカッター基盤11の全体両面には第二銅粉末塗装層35が形成されており、この第二銅粉末塗装層35表面にはメタリック層36が形成されている。
【0041】
以上のように構成された本実施形態にかかる低騒音カッター10は、実際に道路(コンクリートやアスファルト等)、石材、耐火物レンガ等の切断に用いる場合には、例えば、図6に示すような態様にて使用される。
【0042】
この図6は、本実施形態にかかる低騒音カッター10の切断使用時における概略図を示したものであって、具体的には、低騒音カッター10の両面からフランジFにて挟持した状態で、駆動手段(図示省略)の駆動軸Jを取付穴13に挿通させ、ナットN(フランジ締付ナット)にて駆動軸Jを締結する。つまり、フランジF、駆動軸J、およびナットNを用いて、駆動手段からの回転駆動力が適切に低騒音カッター10に伝わるように、低騒音カッター10を駆動手段に装着する。
【0043】
本実施形態においては、例えば、1500m/分〜1800m/分(約1045rpm〜1254rpm)程度の速度(回転数)にて、低騒音カッター10を回転駆動させて、道路等の切断処理が行われる。
【0044】
本実施形態にかかる低騒音カッター10は、以上のように構成されており、その構成に基づいて、次のような効果を得ることができる。
【0045】
まず、本実施形態においては、図3(f)に示された低騒音カッター10のみが騒音を低減可能な「低騒音カッター」ではなく、図3の各図(図3(a)を除く)に示されたそれぞれのカッター10B,10C,10D,10Eが、従来のカッターよりも騒音を低減することができる「低騒音カッター」である。
【0046】
具体的に説明すると、図3(a)に示した標準カッター10Aから発生する騒音を基準とすれば、有スリットカッター10B(低騒音カッター)の場合、約20%の騒音を低減できる。
例えば、14インチ(外径約355mm)の標準カッター10Aと、この標準カッター10Aの内側50mmのところに(直径255mm程度の同心円上に)0.3mm幅のS字状のスリット31(スリット列)を設けた有スリットカッター10Bとを比較した場合、標準カッター10Aから発生する音は97dB程度であったが、有スリットカッター10Bから発生する音は78dB程度であった。
【0047】
このように複数のスリット31を設けて騒音が低減されるのは、カッターにて切断処理等を行う際に、カッターの刃先(チップ12)にて発生した振動がこのスリット31にて吸収されて、カッター基盤11の内側(スリット31から中心部にわたる領域)に伝わりにくくなるためであると考えられる。本実施形態においては、カッターの同心円上に隙間無く空隙部を有する構成を採用しているため、効果的にカッター刃先の振動を吸収することができる。
【0048】
また、この有スリットカッター10Bに充填剤32であるゴムを充填した有充填カッター10Cについては、その発生する音は67dB程度であったため、さらに10%程度の騒音低減が実現可能であることが明らかとなった。
【0049】
このようにスリット31に充填剤32を充填することによって騒音が低減されるのは、充填剤32によって、さらに効果的にカッターの刃先にて発生した振動を吸収し、その振動がカッター基盤11の内側(スリット31から中心部にわたる領域)に伝わりにくくなるためであると考えられる。
【0050】
また、このように充填剤32を充填すれば、カッターそのものの「腰」も強くなるため、より振動を抑制して、より効果的に騒音低減を実現できる。
因みに、有スリットカッター10Bの場合であっても、標準カッター10Aと殆ど変わらない腰の強さを有し、有充填カッター10Cにおいては、標準カッター10Aと同等の腰の強さを有することとなる。
つまり、道路等の切断処理にカッターを用いる場合には、カッターの強靭さが要求されるが、本実施形態にかかるカッター10B,10C,10D,10Eは、標準カッター10Aと同等あるいは同等以上の強靭さを有するため、従来と同様に、道路等の切断処理に使用することが可能である。
【0051】
さらに、有充填カッター10Cに対して、樹脂塗布工程と第一銅粉末塗装工程とを施した第一塗装済カッター10Dについては、その発生する音は60dB程度であったため、さらに10%程度の騒音低減が実現可能であることが明らかとなった。
【0052】
この第一塗装済カッター10Dは、図6等にて示したように、フランジFにて締め付ける部分に、第一銅粉末塗装層34が設けられている。このような構成によれば、この第一銅粉末塗装層34がカッターの刃先(チップ12)からの振動および駆動軸Jからの振動を効果的に抑制する。したがって、第一塗装済カッター10Dによれば、上述したように、有充填カッター10Cからさらに騒音を低減することが可能となる。
【0053】
また、第一塗装済カッター10Dの両面全体(カッター外周縁部を除く)に第二銅粉末塗装層35を設けた第二塗装済カッター10Eについては、その発生する音は55dB程度であったため、さらに10%程度の騒音低減が実現可能であることが明らかとなった。
【0054】
この第二塗装済カッター10Eは、上述したように、カッターの略全面にさらに第二銅粉末塗装層35が設けられているため、これによって刃先で発生する振動および駆動軸からの振動等をさらに効果的に抑制することができる。したがって、この第二塗装済カッター10Eは、第一塗装済カッター10Dからさらに騒音を低減することが可能となる。
【0055】
さらに、本実施形態にかかる低騒音カッター10は、最後にメタリック処理を行って、カッター両面にメタリック層36を形成している。このような構成によれば、メタリック層36がカッター基盤11上の各層を効果的に保護することとなるため、チップ12(ダイヤモンドチップ)が消耗するまで低騒音カッター10の低騒音効果を適切に維持することができる。
【0056】
本実施形態においてカッターの外周縁に溶着されているチップ12は、先にも説明した通り、ダイヤモンドパウダーと金属パウダーとを焼結したものであって、ダイヤモンドパウダーが金属パウダーで保持されたような構成を有している。
従来技術にかかるカッター(図7参照)は、本実施形態にかかるカッターよりも振動および騒音が大きい。上述したように、この振動の大きさが騒音の大きさにつながることではあるが、この振動の大きさは、騒音に加えてカッターの寿命にも大きく影響する。
すなわち、振動が多く大きくなるとダイヤモンドパウダーが多く脱落し、無駄な消耗を行っていることとなって、延いては、チップの寿命が短くなる。
【0057】
本実施形態にかかる低騒音カッター10B,10C,10D,10E,10は、先にも説明した通り、従来と比較して振動の吸収性に優れるため、騒音低減は勿論のこと、当然のことながら、チップ12からのダイヤモンドパウダーの無駄な脱落(消耗)も効果的に低減させることができる。
例えば、本実施形態にかかる低騒音カッター10であれば、ダイヤモンドパウダーの脱落を低減させて、従来品(図7参照)よりも、約20%程度寿命を長くすることができる。
【0058】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨に適合し得る範囲で必要に応じて種々の変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0059】
本実施形態においては、標準カッターにスリットを穿孔等して、本実施形態にかかる低騒音カッターを製造する場合について説明したが、本発明はこの構成に限定されるものではない。したがって、例えば、チップ等がまだ溶着されていないカッター基盤に対して、スリット穿孔工程、充填工程、および銅粉末塗装工程等を施した後、そのカッター基盤に対してチップを溶接し、本実施形態にかかる低騒音カッターを構成してもよい。
【0060】
また、本実施形態においては、カッター基盤が鋼鉄製である場合について説明したが、本発明はこの構成に限定されるものではない。したがって、例えば、カッター基盤は、チタン合金等で構成してもよい。
【0061】
また、本実施形態においては、「S字状」のスリットを設けた場合について説明したが、本発明はこの構成に限定されるものではない。したがって、カッター基盤の中心部から径方向に、少なくとも一箇所以上の空隙部を有すべく、カッター基盤の同心円上に、複数のスリットが連続して設けられておれば、そのスリット形状は直線やU字状等の他の形状であってもよい。
【0062】
さらに、本実施形態においては、カッター基盤の中心部から径方向に、少なくとも一箇所以上の空隙部を有すべく、カッター基盤の同心円上に、複数のスリットが連続して設けられている場合について説明したが、本発明はこの構成に限定されるものではない。したがって、例えば、少なくとも一箇所以上の空隙部を有すべく、カッター基盤の二つ以上の同心円上に、複数のスリットを連続して設けるべく構成してもよい。つまり、図1等にて示されたスリット列(一つの同心円上に連続して設けられた複数のスリットからなる円状の列)を径方向に複数列設けるような構成としてもよい。
【0063】
また、本実施形態においては、スリットに充填する充填剤としてゴムを用いる場合について説明したが、本発明はこの構成に限定されるものではなく、例えば、ウレタン樹脂、鉛等を充填剤として用いてもよい。
【0064】
また、本実施形態においては、充填剤にて充填されたスリット列を覆うようにポリエステル樹脂を用いた塗布工程を行う場合について説明したが、本発明はこの構成に限定されるものではなく、例えば、ウレタン樹脂、シリコン樹脂等を用いてこのスリット列を覆ってもよい。
【0065】
また、本実施形態においては、取付穴周辺およびカッター基盤全面に、金属粉末として銅粉末を用いた塗装工程を行う場合について説明したが、本発明はこの構成に限定されるものではなく、例えば、アルミニウム、鉛等の金属粉末を用いてこの塗装工程を行ってもよい。
さらに、必要に応じて、取付穴周辺とカッター基盤全面とを異なる金属粉末を用いて塗装してもよく、例えば、取付穴周辺をアルミニウム粉末を用いて塗装し、その後カッター基盤全面を鉛粉末を用いて塗装してもよい。
【0066】
また、本実施形態においては、図3に示したように、スリット穿孔工程、充填工程、樹脂塗布工程、第一銅粉末塗装工程、および第二銅粉末工程を経て、「低騒音カッター」が構成される場合について説明したが、本発明はこの構成に限定されるものではない。先にも説明した通り、これらの全ての工程を経なくとも、従来(標準カッター)よりも騒音を低減可能な「低騒音カッター」として、有スリットカッター10B、有充填カッター10C、第一塗装済カッター10D等が利用可能である。そして、さらに、例えば、有充填カッター10Cに対して第一銅粉末塗装工程を施したカッターや、有充填カッター10Cに対して第二銅粉末塗装工程を施したカッターや、有充填カッター10Cに対して第一銅粉末塗装工程および第二銅粉末塗装工程を施したカッター等も、騒音を低減可能な「低騒音カッター」として利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の実施形態にかかる低騒音カッターの概略図を示したものであり、図1(a)は本実施形態にかかる低騒音カッターの概略平面図を示し、図1(b)は図1(a)のI−I断面図を示している。
【図2】図1(b)の要部概略拡大図を示したものである。
【図3】本実施形態にかかる低騒音カッターの製造工程を示す製造工程概略図を示したものである。
【図4】図3(b)中に破線で示されたIV部の拡大図を示したものである。
【図5】図3(c)中に破線で示されたV部の拡大図を示したものである。
【図6】本実施形態にかかる低騒音カッターを駆動軸に取り付けた状態を示す概略断面図である。
【図7】従来技術にかかるカッターの概略平面図である。
【符号の説明】
【0068】
10 低騒音カッター
11 カッター基盤
12 チップ
13 取付穴
31 スリット
32 充填剤
33 樹脂層
34 第一銅粉末塗装層
35 第二銅粉末塗装層
36 メタリック層
F フランジ
J 駆動軸
N フランジ締付ナット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円盤状のカッター基盤と、前記カッター基盤の外周縁に設けられたチップとを備えた低騒音カッターであって、
前記カッター基盤の中心部から径方向に、少なくとも一箇所以上の空隙部を有すべく、前記カッター基盤の同心円上に、複数のスリットが連続して設けられており、
前記スリットには充填剤が充填されている
ことを特徴とする低騒音カッター。
【請求項2】
円盤状のカッター基盤と、前記カッター基盤の外周縁に設けられたチップとを備えた低騒音カッターであって、
前記カッター基盤の中心部から径方向に、少なくとも一箇所以上の空隙部を有すべく、前記カッター基盤の同心円上に、複数のスリットが連続して設けられており、
前記スリットには充填剤が充填されており、
前記充填剤が充填されたスリットを覆うべく、前記カッター基盤の両面に樹脂層が設けられており、
前記カッター基盤の中心部近傍両面には、第一金属粉末塗装層が設けられている
ことを特徴とする低騒音カッター。
【請求項3】
前記カッター基盤の両面に、さらに第二金属粉末塗装層が設けられている
請求項1または2に記載の低騒音カッター。
【請求項4】
円盤状のカッター基盤と、前記カッター基盤の外周縁に設けられたチップとを備えた低騒音カッターの製造方法であって、
前記カッター基盤の中心部から径方向に、少なくとも一箇所以上の空隙部を有すべく、前記カッター基盤の同心円上に、複数のスリットを穿孔するスリット穿孔工程と、
前記スリットに充填剤を充填する充填工程とを備えた
ことを特徴とする低騒音カッターの製造方法。
【請求項5】
円盤状のカッター基盤と、前記カッター基盤の外周縁に設けられたチップとを備えた低騒音カッターの製造方法であって、
前記カッター基盤の中心部から径方向に、少なくとも一箇所以上の空隙部を有すべく、前記カッター基盤の同心円上に、複数のスリットを穿孔するスリット穿孔工程と、
前記スリットに充填剤を充填する充填工程と、
前記充填剤が充填されたスリットを覆うべく、前記カッター基盤の両面に樹脂を塗布する樹脂塗布工程と、
前記カッター基盤の中心部近傍両面に、金属粉末塗装を施す第一金属粉末塗装工程とを備えた
ことを特徴とする低騒音カッターの製造方法。
【請求項6】
前記カッター基盤の両面に、さらに金属粉末塗装を施す第二金属粉末塗装工程を行う
請求項4または5に記載の低騒音カッターの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−103217(P2006−103217A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−294530(P2004−294530)
【出願日】平成16年10月7日(2004.10.7)
【出願人】(504376315)有限会社総合システム研究所 (1)
【出願人】(391030952)株式会社三基 (1)
【Fターム(参考)】