説明

体臭抑制用組成物、それを含有する飲食品、化粧料及び洗濯処理剤、並びに体臭抑制方法

【課題】 人体にとって安全であり、かつ効果が高い体臭抑制用組成物、それを含有する飲食品、化粧料及び洗濯処理剤、並びに体臭抑制方法を提供する。
【解決手段】体臭抑制のための有効成分としてイミダゾールジペプチド類化合物及び/又はその塩を用いる。前記有効成分としては、前記イミダゾールジペプチド類化合物及び/又はその塩が、アンセリン、カルノシン、バレニン、及びこれらの塩からなる群から選ばれた少なくとも一種以上であることが好ましい。また、前記イミダゾールジペプチド類化合物及び/又はその塩が、魚肉、鳥肉、及び畜肉からなる群から選ばれた少なくとも一種以上から抽出して得られたものであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加齢とともに認められる中高年齢層に特有の体臭を抑制する体臭抑制用組成物、それを含有する飲食品、化粧料及び洗濯処理剤、並びに体臭抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
体臭には汗の臭い、腋の臭い、足の臭い、口の臭い、頭髪の臭い、老人の臭いなどがある。汗は汗腺より分泌され、それ自体では臭気を発することはないが、皮膚表面に存在する皮膚常在菌によって臭気物質に変化する。腋臭は低級脂肪酸(イソ吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸)などが原因であると考えられている。また足臭は皮膚常在菌がエクリン汗腺と皮脂腺から分泌された有機化合物を分解した結果生じるイソ吉草酸であると考えられている(下記非特許文献1参照)。
【0003】
一方、加齢とともに認められる中高年齢層に特有の体臭、いわゆる加齢臭は、上記一般的な体臭とは異なった成分に由来する体臭であると考えられている。例えば、下記特許文献1には、皮脂中に増加する低級脂肪酸のパルミトオレイン酸などが酸化され、発生するオクテナールやノネナールが、加齢臭の主な原因物質であることが明らかにされている。また、下記非特許文献2には、ノネナールが40代以降の人のみから検出されることが明らかにされており、加齢臭が中高年齢層に特有の体臭であることとよく相関している。このように加齢にともなって発現するようになる成分に由来する加齢臭については、特に、中高年世代とっては大きな関心事であり、これを抑制する組成物の開発が望まれている。
【0004】
これまで加齢臭抑制作用効果のあるものとして、例えば、下記特許文献1には、加齢臭に対するマスキング効果に優れる成分及び/又は加齢臭に対するハーモナージュ効果に優れる成分として、種々の香料成分が挙げられている。また、下記特許文献2には、リポキシゲナーゼ阻害剤を含む加齢臭抑制抑制用組成物が開示されており、下記特許文献3には、加齢臭捕獲成分としてエタノールアミン、加齢臭抑制成分として抗酸化剤及び/又はリポキシゲナーゼを用いた加齢臭抑制繊維及び加齢臭抑制繊維処理剤が開示されている。
【0005】
また、食品としても摂取される安全な天然物を用いる方法として、例えば、下記特許文献4には、糖質のトレハロースの体臭抑制効果が開示されている。更に、下記特許文献5には、ハマナス類の花弁及び/又はその抽出物からなる加齢臭消臭剤が開示されており、経口服用により体の中から加齢臭の発生を抑制できることが記載されている。
【特許文献1】特開平11−286428号公報
【特許文献2】特開平11−286424号公報
【特許文献3】特開2001−097839号公報
【特許文献4】特開2002−080336号公報
【特許文献5】特開2004−197065号公報
【非特許文献1】Dermatology Practice, スキンケアの実際、皮膚科診療プラクティスシリーズ、文光堂、pp136-145, 1999
【非特許文献2】J Invest Dermatol. 2001 Apr; 116(4): p520-524
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、加齢臭抑制作用効果を有する各種の化合物や組成物が報告されているが、いずれも十分な効果を有するものではなかった。
【0007】
したがって、本発明の目的は、人体にとって安全であり、かつ効果が高い体臭抑制用組成物、それを含有する飲食品、化粧料及び洗濯処理剤、並びに体臭抑制方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、カツオやマグロの肉から調製された調味料エキス類の生理活性機能を研究する過程で、該エキス類中に多量に含まれるアンセリンやカルノシン等のイミダゾールジペプチド類化合物に、体臭を抑制する作用効果があることを発見し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の体臭抑制用組成物は、イミダゾールジペプチド類化合物及び/又はその塩を有効成分として含有することを特徴とする。
【0010】
本発明の体臭抑制用組成物によれば、有効成分のイミダゾールジペプチド類化合物及び/又はその塩が、加齢臭成分ノネナールやカプロン酸等の体臭成分をマスキングするので、これを体臭の発生、存在箇所に作用させることにより、体臭抑制効果をもたらすことができる。
【0011】
本発明の体臭抑制用組成物においては、前記イミダゾールジペプチド類化合物及び/又はその塩が、アンセリン、カルノシン、バレニン、及びこれらの塩からなる群から選ばれた少なくとも一種以上であることが好ましい。これによれば、より効果的に体臭を抑制することができる。
【0012】
本発明の体臭抑制用組成物においては、前記イミダゾールジペプチド類化合物及び/又はその塩を、イミダゾールジペプチド類化合物換算で1〜99.9質量%含有することが好ましい。
【0013】
本発明の体臭抑制用組成物においては、前記イミダゾールジペプチド類化合物及び/又はその塩が、魚肉、鳥肉、及び畜肉からなる群から選ばれた少なくとも一種以上から抽出して得られたものであることが好ましい。これによれば、一般には調味料として広く利用されている魚肉、鳥肉、又は畜肉から得られるエキス類から、安全に、コスト安く、かつ効率よく、前記イミダゾールジペプチド類化合物及び/又はその塩を調製することができる。
【0014】
本発明の体臭抑制用組成物においては、魚肉、鳥肉、及び畜肉からなる群から選ばれた少なくとも一種以上から抽出して得られたイミダゾールジペプチド類化合物含有抽出物であって、イミダゾールジペプチド類化合物の含有量が固形分換算で1〜99.9質量%である該イミダゾールジペプチド類化合物含有抽出物を含有することが好ましい。
【0015】
これによれば、上記イミダゾールジペプチド類化合物含有抽出物が、イミダゾールジペプチド類化合物以外のアミノ酸、ペプチド等の成分を含有するので、それらの成分による促進的又は相乗的作用が期待でき、より優れた体臭抑制効果が期待できる。
【0016】
一方、本発明のもう1つは、前記体臭抑制用組成物を含有する飲食品を提供する。
【0017】
本発明の飲食品は、上記体臭抑制用組成物を含有してなるものであり、これを摂食することにより、生体内に発生し、存在する加齢臭成分ノネナールやカプロン酸等の体臭成分をマスキングすることができるので、体臭抑制用飲食品として有用である。
【0018】
更に、本発明のもう1つは、前記体臭抑制用組成物を含有する化粧料を提供する。
【0019】
本発明の化粧料は、上記体臭抑制用組成物を含有してなるものであり、これを体臭の発生、存在箇所に噴霧、塗布、清拭するなどにより、皮膚、頭髪などの生体外部の生体部分に分泌した加齢臭成分ノネナールやカプロン酸等の体臭成分をマスキングすることができるので、体臭抑制用化粧料として有用である。
【0020】
更に、本発明のもう1つは、前記体臭抑制用組成物を含有する洗濯処理剤を提供する。
【0021】
本発明の洗濯処理剤は、上記体臭抑制用組成物を含有してなるものであり、これを用いて生体分泌物が付着した衣服、寝具、タオルなどを洗濯処理することにより、生体部分から物理的に離れて存在している生体分泌物中の加齢臭成分ノネナールやカプロン酸等の体臭成分をマスキングすることができるので、体臭抑制用洗濯処理剤として有用である。
【0022】
更に、本発明のもう1つは、前記体臭抑制用組成物を含有する消臭剤を提供する。
【0023】
本発明の消臭剤は、上記体臭抑制用組成物を含有してなるものであり、これを用いて生体分泌物が付着した衣服、寝具、タオルなどに直接噴霧したり、衣服などと共に保管することすることにより、生体部分から物理的に離れて存在している生体分泌物中の加齢臭成分ノネナールやカプロン酸等の体臭成分をマスキングすることができるので、体臭抑制用の消臭剤として有用である。
【0024】
一方、本発明の体臭抑制方法は、前記体臭抑制用組成物を生体部分から物理的に離れて存在している生体分泌物に作用させることを特徴とする。
【0025】
本発明の体臭抑制方法によれば、有効成分のイミダゾールジペプチド類化合物及び/又はその塩が、生体部分から物理的に離れて存在している生体分泌物に存在する体臭成分に対してもマスキング効果を発揮するので、生体分泌物が発生し、存在している皮膚、腸内フローラ、皮膚、頭髪などの生体部分に対してだけでなく、生体分泌物が付着した衣服、寝具、タオルなどに対しても体臭抑制効果をもたらすことができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の体臭抑制用組成物によれば、有効成分のイミダゾールジペプチド類化合物及び/又はその塩が、加齢臭成分ノネナールやカプロン酸等の体臭成分をマスキングするので、これを体臭の発生、存在箇所に作用させることにより、体臭抑制効果をもたらすことができる。また、調味料として一般に広く利用されている魚肉、鳥肉、又は畜肉から得られるエキス類は、本発明の体臭抑制用組成物の有効成分であるアンセリン、カルノシン等のイミダゾールジペプチド類化合物を多く含有し、機能性食品素材として大量に供給可能であり、化学的に安定で、安全性も高く、味も良いことから、これらのエキス類を利用して、医薬品、飲食品、化粧料、洗濯処理剤等、幅広い形態での供給が可能である。
【0027】
一方、本発明の体臭抑制方法によれば、有効成分のイミダゾールジペプチド類化合物及び/又はその塩が、生体部分から物理的に離れて存在している生体分泌物に存在する体臭成分に対してもマスキング効果を発揮するので、生体分泌物が付着した衣服、寝具、タオルなどに対しても体臭抑制効果をもたらすことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
本発明の体臭抑制用組成物の有効成分であるイミダゾールジペプチド類化合物としては、具体的にはアンセリン(β‐アラニル‐1‐メチルヒスチジン)、カルノシン(β‐アラニルヒスチジン)、バレニン(β‐アラニル‐3‐メチルヒスチジン)等が挙げられる。
【0029】
すなわち、本発明の体臭抑制用組成物においては、アンセリン、カルノシン、バレニン、及びこれらの塩からなる群から選ばれた少なくとも一種以上を有効成分として含有することが好ましい。また、上記塩としては、塩酸、乳酸、酢酸、硫酸、クエン酸、アスコルビン酸、リンゴ酸、コハク酸、アジピン酸、グルコン酸、酒石酸等の塩が挙げられる。
【0030】
イミダゾールジペプチド類化合物は、魚肉、鳥肉、又は畜肉等に含まれている。例えば、アンセリンは、カツオ、マグロ、ウシ、鶏等の肉に多く含まれており、カルノシンは豚肉に多く含まれており、バレニンは鯨肉(例えばヒゲクジラ類)に多く含まれている。したがって、それらから水抽出、熱水抽出、アルコール抽出、超臨界抽出等の方法により抽出したエキスを精製することにより得ることができる。
【0031】
例えば、アンセリンは以下のようにして得ることができる。まず、常法に従ってカツオ、マグロ、ウシ、ニワトリ等の肉からエキスを調製し、適宜水を加えて該エキスのブリックス(Bx.)値(屈折糖度計示度)を1〜10%に調整した後、限外濾過膜(分画分子量5,000〜50,000)を用いて高分子タンパク質を除去し、低分子ペプチド画分を回収する。次いで、文献(Suyama et al:Bull. Japan. Soc. Scient. Fish., 33, 141-146, 1967)の方法に従って、適宜濃縮した低分子ペプチド画分を強酸性樹脂を用いたイオン交換クロマトグラフィーに供し、溶出液を回収する。そして、この溶出液を脱塩した後pH調整し、凍結乾燥等により乾燥して得ることができる。
【0032】
また、カルノシンはブタ肉を原料として、バレニンは鯨肉(例えばヒゲクジラ類)を原料として、上記と同様の方法により得ることができる。
【0033】
本発明の体臭抑制用組成物においては、上記イミダゾールジペプチド類化合物及び/又はその塩を、イミダゾールジペプチド類化合物換算で1〜99.9質量%含有することが好ましく、50〜99.9質量%含有することがより好ましい。上記イミダゾールジペプチド類化合物の含有量が1質量%未満であると十分な体臭抑制効果が期待できないため好ましくない。
【0034】
本発明の体臭抑制用組成物は、上記イミダゾールジペプチド類化合物及び/又はその塩を基本的成分として、体臭抑制の作用効果を妨げない範囲で、所望の性質ないしは機能を付与するための他の成分を1種又は2種以上配合して構成されるものであってもよい。他の成分としては、賦形剤、防腐剤、pH調節剤、増粘剤、乳化剤、界面活性剤、酸化防止剤、保存剤、保湿剤、清涼化剤、制汗剤、紫外線吸収剤、香料、芳香剤、着色料、蛋白質、アミノ酸、ミネラル類、ビタミン類、糖類、繊維質、脂質、塩類など、体臭抑制用組成物の利用分野で通常用いられる成分が挙げられる。
【0035】
本発明の体臭抑制用組成物は、上記のように、高度に精製したイミダゾールジペプチド類化合物に、体臭抑制用組成物の利用分野で通常用いられる成分から選ばれる1種又は2種以上の成分を配合して構成されるものであってもよいが、イミダゾールジペプチド類化合物の含有量が高められるように部分精製された抽出エキス類をそのまま用いるか、あるいは、これに前記の体臭抑制剤の利用分野で通常用いられる成分から選ばれる1種又は2種以上の成分を配合して構成されるものであってもよい。
【0036】
すなわち、本発明の体臭抑制用組成物においては、魚肉、鳥肉、及び畜肉からなる群から選ばれた少なくとも一種以上から抽出して得られたイミダゾールジペプチド類化合物含有抽出物であって、イミダゾールジペプチド類化合物の含有量が固形分換算で1〜99.9質量%である該イミダゾールジペプチド類化合物含有抽出物を含有することが好ましく、イミダゾールジペプチド類化合物の含有量が固形分換算で50〜99.9質量%である該イミダゾールジペプチド類化合物含有抽出物を含有することがより好ましい。
【0037】
上記のようなイミダゾールジペプチド類化合物含有抽出物を得る抽出法としては、特開2003−92996に記載された公知の方法に準じておこなうことができる。以下にその概略を説明する。
【0038】
<抽出法1>
原料として用いられるエキス類は、魚肉、鳥肉、又は畜肉等を、水抽出、熱水抽出、アルコール抽出、超臨界抽出等の方法により抽出して得ることができ、市販のものを用いてもよい。例えば、アンセリンは、カツオ、マグロ、ウシ、鶏等の肉に多く含まれており、カルノシンは豚肉に多く含まれており、バレニンは鯨肉(例えばヒゲクジラ類)に多く含まれていることは上述したとおりである。
【0039】
上記エキス類は、更に酵素処理することにより、後述する膜処理工程におけるイミダゾールジペプチド類化合物の精製効率を上げることができる。
【0040】
上記酵素としては、例えば中性プロテアーゼ(例えば「パンチダーゼ」(商品名、ヤクルト薬品工業社製)等)、アルカリ性プロテアーゼ(例えば「アロアーゼAP−10」(商品名、ヤクルト薬品工業社製)等)を用いることができる。
【0041】
また、上記エキス類は、適宜濃縮又は希釈してブリックス1〜40%に調整して後述する膜処理工程に供することが好ましく、操作性及び効率性の点から、ブリックス5〜15%に調整することがより好ましい。
【0042】
(1)前処理工程
上記エキス類には、夾雑物としてタンパク質や脂肪等が含まれており、後述する膜処理工程において膜の目詰まりの原因となるため、予め除去しておく。
【0043】
タンパク質や脂肪の除去方法は、特に制限されないが、操作性及び効率性等の点から、活性炭による吸着除去、限外濾過膜による除去等の手段を適宜組み合わせて行なうことが好ましい。例えば、活性炭による吸着除去は、エキス類に対して10〜100質量%の活性炭を添加して0.5〜3時間撹拌した後、濾過して活性炭を除去することにより行なうことができる。また、限外濾過膜を用いる場合は、分画分子量5,000〜50,000の限外濾過膜を用いて処理し、その透過液を回収して、必要に応じて濃縮すればよい。
【0044】
(2)膜処理工程
前処理工程で得られた処理液を、食塩阻止率の異なる2種以上の逆浸透膜(以下、RO膜という)を組み合わせて用いて処理することにより、目的物(イミダゾールジペプチド類化合物)の高分子側及び低分子側の夾雑物をそれぞれ除去する。
【0045】
高分子側の夾雑物の除去を食塩阻止率10〜50%のRO膜を用いて行ない、低分子側の夾雑物の除去を食塩阻止率60〜98%のRO膜を用いて行なうことが好ましい。これにより、各夾雑物をそれぞれ効率よく除去することができる。
【0046】
また、各RO膜処理の順序については、特に制限はないが、作業効率の点から、第一膜処理工程として食塩阻止率10〜50%のRO膜を用いて濃縮を行ない、その透過液を回収し、第二膜処理工程として該透過液を食塩阻止率60〜98%のRO膜を用いて濃縮を行ない、その濃縮液を回収することが好ましい。これによれば、第二膜処理工程が低分子側の夾雑物除去とイミダゾールジペプチド類化合物を含む溶液の濃縮を兼ねており、作業工程を簡略化できる。
【0047】
なお、各膜処理工程の処理条件は、エキス類の濃度、pHの他、温度、運転圧力等の操作条件によりRO膜の分離性能が変化するため、適宜設定すればよい。
【0048】
上記の食塩阻止率10〜50%のRO膜を用いた第一膜処理工程において、処理液のpHを2〜6(より好ましくはpH4〜5)に調整して膜処理を行なうことが好ましい。上記pHの範囲内で膜処理を行なうことにより、理由はよく分からないが、イミダゾールジペプチド類化合物の回収率を上げることができる。
【0049】
そして、上記のようにして夾雑物を除去した処理液を、適宜濃縮して、あるいは乾燥して粉末化することによりイミダゾールジペプチド類化合物含有抽出物を得ることができる。
【0050】
このようにして得られたイミダゾールジペプチド類化合物含有抽出物は、固形分中に大体5質量%以上のイミダゾールジペプチド類化合物を含んでいる。
【0051】
また、上記の各膜処理工程において、適宜加水操作を行なうことにより、イミダゾールジペプチド類化合物の含有量(固形分中)が10質量%以上のイミダゾールジペプチド類化合物含有抽出物を得ることができる。加水操作は、膜処理液の量の2〜5倍量の水を数回に分けて加えて行うことが好ましい。
【0052】
<抽出法2>
本発明においては、上記イミダゾールジペプチド類化合物含有抽出物として、特に魚肉からの抽出物を用いる場合には、魚介類に多く含まれるヒ素を低減させるために、以下に示す抽出法で抽出物を調製してもよい。
【0053】
すなわち、その抽出法は、エキス類を脱塩処理する脱塩処理工程と、脱塩処理工程で得られた脱塩処理液を弱酸性イオン交換樹脂に通液させる吸着工程と、吸着工程後の弱酸性イオン交換樹脂を水洗浄する洗浄工程と、洗浄工程後の弱酸性イオン交換樹脂に塩酸及び/又は食塩水を通液させて弱酸性イオン交換樹脂に吸着させた吸着物質を溶出させる溶出工程とから主に構成されている。以下にその概略を説明する。
【0054】
原料として用いられるエキス類は、魚肉、鳥肉、又は畜肉等を、水抽出、熱水抽出、アルコール抽出、超臨界抽出等の方法により抽出して得ることができ、市販のものを用いてもよい。例えば、アンセリンは、カツオ、マグロ、ウシ、鶏等の肉に多く含まれており、カルノシンは豚肉に多く含まれており、バレニンは鯨肉(例えばヒゲクジラ類)に多く含まれていることは上述したとおりである。
【0055】
上記エキス類は、塩分濃度が高いため、塩分を低減させるべく、エキス類を脱塩処理する必要があり、塩分濃度が1質量%以下となるように脱塩処理することが好ましい。エキス類の脱塩処理方法としては、イオン交換膜を用いた電気透析法、逆浸透膜を用いた方法等が挙げられる。
【0056】
電気透析法による脱塩処理において、イオン交換膜としては、特に限定されないが、例えば、商品名「ネオセプタCL−25T、CM−1〜2、AM−1〜3」(徳山曹達社製)、商品名「セレミオンCMV/AMV」(旭硝子社製)等が挙げられる。
【0057】
また、逆浸透膜による脱塩処理において、逆浸透膜としては、食塩阻止率60〜80%のいわゆるルーズRO膜と呼ばれる種類の逆浸透膜が挙げられ、具体的には、商品名「NTR−7250」(日東電工社製)、商品名「SU−610」(東レ社製)等が挙げられる。上記食塩阻止率の逆浸透膜を装着した膜分離装置に、Brixが1〜20%となるように希釈したエキス類を通液して、脱塩処理を行うことで、イミダゾールジペプチド類化合物が膜を透過することなく、塩分のみが透過し、エキス類から効率よく脱塩をすることができる。なお、食塩阻止率が上記よりも低い場合は、イミダゾールジペプチド類化合物が膜を透過するため、イミダゾールジペプチド類化合物の回収率が低下し、上記よりも高い場合は、脱塩効率が低下する傾向にある。
【0058】
次に、上記脱塩処理後のエキス類(以下より、「脱塩処理液」と記す)を、H型に置換された弱酸性イオン交換樹脂(以下より、「弱酸性イオン交換樹脂」と記す)に通液し、イミダゾールジペプチド類化合物を吸着させる。上記イミダゾールジペプチド類化合物を吸着させるにあたり、強酸性イオン交換樹脂を用いた場合、イミダゾールジペプチド類化合物以外の中性・酸性アミノ酸や、ペプチドがイオン交換樹脂に吸着されてしまうため、イミダゾールジペプチド類化合物の含量を高めることが困難になり、更には、吸着成分が増加するために樹脂量に対する処理量が低下してしまう。そして、ヒ素化合物も強く吸着してしまうため、イミダゾールジペプチド類化合物とヒ素化合物の分離が困難となり、目的を達成することが出来ない。弱酸性イオン交換樹脂を用いることで、イミダゾールジペプチド類化合物の含量を高めることができ、更には、ヒ素含有量を低減もしくはヒ素化合物を除去できる。
【0059】
上記弱酸性イオン交換樹脂とは、カルボキシル基等の弱酸性の官能基を有するイオン交換樹脂であり、強酸性イオン交換樹脂とはスルホ基等の強酸性の官能基を有するイオン交換樹脂である。
【0060】
弱酸性イオン交換樹脂としては、特に限定されるものではなく、市販のものが幅広く利用でき、例えば商品名「アンバーライトIRC76」(オルガノ社製)、商品名「ダイアイオンWK‐40」(三菱化学社製)、商品名「デュオライトC476」(住化ケムテックス社製)等が挙げられる。
【0061】
上記弱酸性イオン交換樹脂への上記脱塩処理液の濃度及び負荷量は、原料や抽出液の製造方法、塩分濃度、及び使用するイオン交換樹脂により異なるので、使用するイオン交換樹脂の吸着容量範囲内で適宜決定すればよい。また、流速については特に制限されず、通液する上記脱塩処理液の性状や、使用する樹脂に応じて適宜決定し、例えば0.5〜8SVの流速で通液させる。なお、SVとは、単位時間当たりにカラムに通液した溶液の樹脂量に対する量を表し、1時間に樹脂量と同量の溶液を通液した場合の流速を1SVとする。
【0062】
上記弱酸性イオン交換樹脂に脱塩処理液を通液させた後、該弱酸性イオン交換樹脂に水を通液して非吸着成分、及び吸着力の弱い成分を溶出させる、すなわち弱酸性イオン交換樹脂の水洗浄を行う。
【0063】
上記水洗浄は、2〜20RVの通液量で行うことが好ましく、より好ましくは4〜10RVである。なお、RVとは樹脂量を表し、樹脂量と同量の溶液を通液した場合の通液量を1RVとする。
【0064】
弱酸性イオン交換樹脂に対するヒ素化合物の吸着力は、イミダゾールジペプチド類化合物のそれよりも弱く、水洗浄においても溶出でき、使用する樹脂により異なるものの、上記通液条件による水洗浄によってほぼ完全に溶出でき、イミダゾールジペプチド類化合物とヒ素化合物の分離が可能となる。通液量が上記よりも多い場合、水洗浄によってヒ素化合物と共にイミダゾールジペプチド類化合物も溶出してしまうおそれがあり、イミダゾールジペプチド類化合物の回収率が劣る傾向にあり、通液量が上記よりも少ない場合、ヒ素化合物を十分分離溶出させることができず、イミダゾールジペプチド類化合物の精製が不十分となる傾向にある。
【0065】
また、上記水洗浄における、水の流速は特に制限されず、使用する樹脂に応じて適宜決定し、例えば0.5〜8SVの流速で通液させることが好ましい。
【0066】
弱酸性イオン交換樹脂の水洗浄後、弱酸性イオン交換樹脂に塩酸及び/又は食塩水を通液させて、弱酸性イオン交換樹脂に吸着させた吸着物質を溶出させる。
【0067】
弱酸性イオン交換樹脂から吸着物質を溶出させるにあたり、塩酸、食塩水の濃度及び通液量については、イミダゾールジペプチド類化合物を溶出できる条件であれば特に制限はなく、使用するイオン交換樹脂によっても異なるため特に限定は出来ないが、例えば、1〜2Nの塩酸を2〜4RVの通液量で溶出させる、又は1〜2mol/lの食塩水を2〜8RVの通液量で溶出させることが好ましい。また、塩酸と食塩水とを併用して溶出する場合、上記塩酸及び食塩水を連続的に通液するか、塩酸と食塩の合計として1〜2mol/lの溶液を2〜6RVの通液量で溶出させることが好ましい。
【0068】
ここで、上記洗浄工程において、水洗浄が不十分であった場合においては、上記溶出画分にヒ素化合物が混在してしまう。しかしながら、ヒ素化合物はイミダゾールジペプチド類化合物よりも、弱酸性イオン交換樹脂から溶出しやすいため、弱酸性イオン交換樹脂に塩酸及び/又は食塩水を通液させてから、上記通液量2RV未満で回収した上記溶出画分には、ヒ素化合物が含有している可能性があるが、弱酸性イオン交換樹脂に塩酸及び/又は食塩水を通液させてから、上記通液量2RV以降の上記溶出画分を回収することで、ヒ素化合物とイミダゾール化合物とを分離することができる。なお、上記洗浄工程において十分量の水を通液した場合には、同工程中でヒ素化合物をほぼ完全に除去されているため、上記溶出画分の全量を回収してもヒ素化合物が混入することはない。
【0069】
例えば、魚介類から抽出して得られたエキス類を、上述のようにして処理することで、固形分あたりのイミダゾールジペプチド類化合物の含量が5〜80質量%であり、ヒ素化合物の含量が、イミダゾールジペプチド類化合物の1に対して150ppm以下であるイミダゾールジペプチド類化合物含有抽出物を得ることができる。固形分あたりのイミダゾールジペプチド類化合物の含量は、10〜80質量%がより好ましく、20〜80%が特に好ましい。また、ヒ素化合物の含量は、質量比でイミダゾールジペプチド類化合物を1としたとき15ppm以下がより好ましく、1.5ppm以下が特に好ましい。
【0070】
上記溶出工程で得られた上記溶出画分は、活性炭を用いて脱色処理するか、脱塩処理(二次脱塩処理)することが好ましく、活性炭脱色を行った後、更に脱塩処理することが特に好ましい。
【0071】
活性炭による脱色処理は、上記溶出画分を塩酸、もしくは苛性ソーダやソーダ灰等のナトリウム塩を用いて溶出液のpHを2.5〜5.5に調整することが好ましい。pHが上記範囲外であると、活性炭による脱色効果が不十分となる傾向にある。
【0072】
活性炭による脱色処理方法としては、特に制限は無く、pH調整を行った上記溶出画分(以下、「溶出画分中和液」と記す)に、直接活性炭を添加するバッチ方式や、活性炭をあらかじめ充填したカラムに、上記溶出画分中和液を通液するカラム方式等が例示できる。
【0073】
溶出工程で得られた上記溶出画分を、このように活性炭脱色処理し、イミダゾールジペプチド類化合物の含量が1.0質量%の水溶液とした際の波長420nmの吸光値を0.5以下とすることが好ましく、0.3以下がより好ましい。
【0074】
また、脱塩処理(以下より「二次脱塩処理」と記す)は、上記溶出画分を塩酸、もしくは苛性ソーダやソーダ灰等のナトリウム塩を用いて、pH3.5〜7.0に調整した後に行うことが好ましい。二次脱塩処理は、食塩阻止率80〜98%の逆浸透膜を用いて脱塩を行うことが好ましく、このような逆浸透膜としては、例えば、商品名「NTR−729」(日東電工社製)等が挙げられる。上記食塩阻止率の逆浸透膜を装着した膜分離装置にBrixが1〜20%となるように調整した上記中和液を通液して、脱塩処理を行うことで、イミダゾールジペプチド類化合物が膜を透過することなく、塩分のみが透過し、溶出画分中和液から効率よく脱塩をすることができる。なお、電気透析法や食塩阻止率60〜80%の逆浸透膜を用いて脱塩を行った場合、イオン交換樹脂処理を行う前では、イミダゾールジペプチド類化合物を透過させずに塩分のみを透過させるため、効率よく脱塩処理できるが、イオン交換樹脂処理後では、理由は明らかではないが、イミダゾールジペプチド類化合物が塩分と共に膜を透過してしまい、イミダゾールジペプチド類化合物の回収率が著しく低下してしまう。また、上記弱酸性イオン交換樹脂の溶出工程において、硫酸や硝酸、有機酸及びこれらの塩を用いた場合や、その後のpH調整工程において、有機酸やカルシウム塩、マグネシウム塩等のナトリウム塩以外を用いた場合、食塩阻止率80〜98%の逆浸透膜では、膜に対する透過率が低いため、脱塩が困難となる。上記弱酸性イオン交換樹脂の溶出工程において塩酸及び/又は食塩水を用いて、更にpH調整において塩酸、及び苛性ソーダやソーダ灰等を用いて、脱塩の対象となる塩類を食塩とした上で、食塩阻止率80〜98%の逆浸透膜を用いることにより、食塩のみが膜を透過するため、食塩を効率よく除去しつつ、イミダゾールジペプチド類化合物を高い収率で回収することができる。
【0075】
溶出工程で得られた上記溶出画分を、このように二次脱塩処理し、塩分含量を、質量比でイミダゾールジペプチド類化合物を1としたとき0.8以下とすることが好ましく、0.4以下がより好ましく、0.2以下が特に好ましい。
【0076】
以上のようにして得られたイミダゾールジペプチド類化合物含有抽出物は、イミダゾールジペプチド類化合物を高濃度で含有し、かつヒ素化合物、塩分等の不純物が少なく、色調も薄いため、飲食品等に配合するのにも適している。
【0077】
本発明の体臭抑制用組成物の一利用態様としては、例えば、これを1日当り、イミダゾールジペプチド類化合物換算で0.1〜200mg/体重kg、より好ましくは0.5〜10mg/体重kgの摂取量で経口的に服用する。これにより、生体内に発生し、存在する加齢臭成分ノネナールや腋臭成分であるカプロン酸をマスキングすることができるので、体の中から体臭抑制効果がもたらされる。また、本発明の体臭抑制用組成物は、これを継続的に摂取することによって、体臭抑制の予防にも役立つと考えられる。
【0078】
上記のように経口的に服用して利用する際の製品形態としては、錠剤、粉末、顆粒、溶液、カプセル剤等が挙げられるが、特に制限されない。これらの製品形態は、それぞれの公知の方法に準じて、錠剤、粉末、顆粒、溶液、カプセル剤等を調製する際に、イミダゾールジペプチド類化合物及び/又はその塩を配合することにより調製することができる。この場合、水、緩衝液、乳化溶媒等の溶媒に上記イミダゾールジペプチド類化合物及び/又はその塩のみが単独で配合されているような単純な組成とすることもできる。
【0079】
一方、本発明の体臭抑制用組成物は様々な飲食品に配合して利用することもできる。例えば、(1)清涼飲料、炭酸飲料、果実飲料、野菜ジュース、乳酸菌飲料、乳飲料、豆乳、ミネラルウォーター、茶系飲料、コーヒー飲料、スポーツ飲料、アルコール飲料、ゼリー飲料等の飲料類、(2)トマトピューレ、キノコ缶詰、乾燥野菜、漬物等の野菜加工品、(3)乾燥果実、ジャム、フルーツピューレ、果実缶詰等の果実加工品、(4)カレー粉、わさび、ショウガ、スパイスブレンド、シーズニング粉等の香辛料、(5)パスタ、うどん、そば、ラーメン、マカロニ等の麺類(生麺、乾燥麺含む)、(6)食パン、菓子パン、調理パン、ドーナツ等のパン類、(7)アルファー化米、オートミール、麩、バッター粉等、(8)焼菓子、ビスケット、米菓子、キャンデー、チョコレート、チューイングガム、スナック菓子、冷菓、砂糖漬け菓子、和生菓子、洋生菓子、半生菓子、プリン、アイスクリーム等の菓子類、(9)小豆、豆腐、納豆、きな粉、湯葉、煮豆、ピーナッツ等の豆類製品、(10)蜂蜜、ローヤルゼリー加工食品、(11)ハム、ソーセージ、ベーコン等の肉製品、(12)ヨーグルト、プリン、練乳、チーズ、発酵乳、バター、アイスクリーム等の酪農製品、(13)加工卵製品、(14)干物、蒲鉾、ちくわ、魚肉ソーセージ等の加工魚や、乾燥わかめ、昆布、佃煮等の加工海藻や、タラコ、数の子、イクラ、からすみ等の加工魚卵、(15)だしの素、醤油、酢、みりん、コンソメベース、中華ベース、濃縮出汁、ドレッシング、マヨネーズ、ケチャップ、味噌等の調味料や、サラダ油、ゴマ油、リノール油、ジアシルグリセロール、べにばな油等の食用油脂、(16)スープ(粉末、液体含む)等の調理、半調理食品や、惣菜、レトルト食品、チルド食品、半調理食品(例えば、炊き込みご飯の素、カニ玉の素)等が挙げられる。
【0080】
上記ように飲食品に配合する場合、一食当りの添加量はイミダゾールジペプチド類化合物換算で10〜2,000mgが好ましく、10〜500mgがより好ましい。
【0081】
本発明の体臭抑制用組成物のもう1つの利用態様としては、例えば、これを体臭の発生、存在箇所に噴霧、塗布、清拭などし、皮膚、頭髪などの生体外部の生体部分に分泌した加齢臭成分ノネナールや腋臭成分であるカプロン酸をマスキングする。これにより、体の外から体臭抑制効果がもたらされる。
【0082】
上記の噴霧、塗布、清拭などする際における施用量は、適用箇所の性状等によって適宜選択することができるが、イミダゾールジペプチド類化合物換算で1m当たり1〜100,000mg程度であることが好ましく、1m当たり100〜10,000mg程度であることがより好ましい。
【0083】
上記のように生体外部の生体部分に適用して利用する際の製品形態としては、例えば、石鹸、乳液、ローション、クリーム、シャンプー、コンディショナー、ヘアスプレーなどの化粧料が挙げられるが、特に制限されない。これらの製品形態は、それぞれの公知の方法に準じて、石鹸、乳液、ローション、クリーム、シャンプー、コンディショナー、ヘアスプレーなどの化粧料を調製する際に、イミダゾールジペプチド類化合物及び/又はその塩を配合することにより調製することができる。
【0084】
一方、本発明の体臭抑制方法は、上記の体臭抑制用組成物を生体部分から物理的に離れて存在している生体分泌物に作用させることを特徴とする。
【0085】
ここで、生体部分から物理的に離れて存在している生体分泌物とは、生体と接触して用いられる物品が生体と一定時間接触したことにより当該物品に移行して存在するようになった生体分泌物を意味する。具体的には、ヒトが使用した衣服、寝具、タオル等に付着して存在する生体分泌物である。
【0086】
本発明の体臭抑制方法において、生体部分から物理的に離れて存在している生体分泌物に、有効成分のイミダゾールジペプチド類化合物及び/又はその塩を接触させて体臭抑制効果を得る具体的態様としては、例えば、衣服を洗浄するための洗剤溶液に有効成分のイミダゾールジペプチド類化合物及び/又はその塩を含有せしめ、洗濯機で洗濯処理する、もしくはイミダゾールジペプチド類化合物及び/又はその塩を有効成分として含有する液状消臭剤を衣服に直接噴霧する、またはイミダゾールジペプチド類化合物及び/又はその塩を有効成分として含有する液状、または固形消臭剤と共に保管することなどが好ましく例示できる。
【0087】
したがって、上記のように生体部分から物理的に離れて存在している生体分泌物に適用して利用する際の製品形態としては、例えば、洗濯用洗剤、洗濯用石鹸、洗濯仕上げ剤、柔軟剤、糊付け剤などの洗濯処理剤、または液体状、固形状の消臭剤などが挙げられるが、特に制限されない。これらの製品形態は、それぞれの公知の方法に準じて、洗濯用洗剤、洗濯用石鹸、洗濯仕上げ剤、柔軟剤、糊付け剤などの洗濯処理剤、または消臭剤を調製する際に、イミダゾールジペプチド類化合物及び/又はその塩を配合することにより調製することができる。
【0088】
上記の洗濯処理剤を使用する際の有効成分濃度は、適用態様、対象等によって適宜選択することができるが、例えば、洗濯機で洗濯処理する場合の洗濯処理用溶液中には、イミダゾールジペプチド類化合物換算で1リットル当たり0.1〜10,000mg程度含有せしめることが好ましく、1リットル当たり10〜1,000mg程度含有せしめることがより好ましい。
【0089】
上記の消臭剤を使用する際の有効成分濃度は、適用態様、対象等によって適宜選択することができるが、例えば、液状消臭剤として衣服等に直接噴霧して使用する場合には、イミダゾールジペプチド類化合物換算で1リットル当たり0.1〜10,000mg程度含有せしめることが好ましく、1リットル当たり10〜1,000mg程度含有せしめることがより好ましい。
【実施例】
【0090】
以下実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これらの実施例は本発明の範囲を限定するものではない。
【0091】
<試験例1> 加齢臭(ノネナール)抑制効果試験
ノネナールを水に分散させ、100ppm(0.01質量%)のノネナール溶液を作成した。その中にアンセリンを最終濃度0.02、0.1、0.2、0.3、0.5質量%の各濃度となるように添加し、37℃で1時間インキュベート後、ヘッドスペースガス法でガス中のノネナール量を測定した。また、上記ノネナール溶液にNaClを最終濃度0.02、0.1、0.2、0.5質量%の各濃度となるように添加して、同様にしてノネナール量を測定した。更に、何も添加しないものについても同様に測定してこれを対照とした。なお、ヘッドスペースガス法による測定値を溶液中残存ノネナール量に換算するために、20、100、200ppmの各濃度のノネナール溶液についてヘッドスペースガス法で測定して標準直線を作成した。図1にはその標準直線から求めた各試験溶液中の残存ノネナール濃度を示す。
【0092】
図1に明らかなように、NaCl添加ではノネナール量は変化しなかった。一方、アンセリン添加によって残存ノネナール濃度が、添加したアンセリンの最終濃度に依存して減少し、最終濃度が0.2質量%以上の場合には、検出限界以下にまで減少した。
【0093】
この残存ノネナール濃度とヒトに感知される臭いとの関連を調べるために、上記で用いられた37℃1時間インキュベート後の各溶液について官能評価試験を行った。すなわち、100ppmノネナール(図1にAで図示する。)、100ppmノネナール+0.5質量%アンセリン(図1にBで図示する。)、100ppmノネナール+0.5質量%NaCl(図1にCで図示する。)の各溶液について、10人のパネラーに臭いをかいでもらい、臭いの強い順に1、2、3と順位付けをしてもらった。その順位の平均値及び標準偏差、並びにMann-Whitney のU検定による無添加群との有意差検定の結果を表1に示す。
【0094】
【表1】

【0095】
表1に示すように、NaCl添加群と無添加群とを比較すると、有意な差が認められなかった。一方、アンセリン添加群と無添加群とを比較すると、有意な差が認められた。
【0096】
したがって、アンセリンを添加することで、加齢臭成分であるノネナールをマスキングして、ノネナール加齢臭を抑制できることが明らかとなった。また、上記残存ノネナール濃度の減少と官能評価における臭いの軽減とがよく相関していることが明らかとなった。
【0097】
<試験例2> 他のアミノ酸及びジペプチドによる加齢臭抑制効果試験
カルノシン、ヒスチジン、リジン、グリシンについて、その加齢臭抑制効果をアンセリンと比較した。試験は上記試験例1の残存ノネナール濃度の軽減に関する評価によりと同様に行った。
【0098】
その結果、図2に明らかなように、カルノシンはアンセリンと同程度の効果を示した。また、ヒスチジン、リジンについては、アンセリンやカルノシンほどの効果は示さないものの、高濃度を添加した場合には、加齢臭抑制効果が認められた。一方、グリシンには有意な効果は認められなかった。
【0099】
以上から、アンセリンやカルノシンなどのイミダゾールジペプチド類化合物には、優れた加齢臭抑制効果のあることが明らかとなった。
【0100】
<試験例3> 腋臭(カプロン酸)抑制効果試験
カプロン酸は低級脂肪酸の一種であり、腋臭症の患者にはこのようなC5−C9の炭素鎖をもつ脂肪酸が検出されるという報告がある(上記非特許文献1参照)。そこでカプロン酸を対象として抑制効果試験を行った。
【0101】
カプロン酸をN,N−ジメチルアセトアミド溶媒に溶解して0.1質量%溶液を調製した後、水に分散させて50ppm(0.005質量%)のカプロン酸溶液を作成した。その中にアンセリンを最終濃度0.1、0.5、1.0質量%の各濃度となるように添加し、37℃で1時間インキュベート後、ヘッドスペースガス法でガス中のカプロン酸量を測定した。また、上記カプロン酸溶液にNaClを最終濃度0.1、0.5、1.0質量%の各濃度となるように添加して、同様にしてカプロン酸量を測定した。更に、何も添加しないものについても同様に測定しこれを対照とした。なお、ヘッドスペースガス法による測定値を溶液中残存カプロン酸量に換算するために、20、40ppmの各濃度のカプロン酸溶液についてヘッドスペースガス法で測定して標準直線を作成した。図3にはその標準直線から求めた各試験溶液中の残存カプロン酸濃度を示す。
【0102】
図3に明らかなように、NaCl添加に比べ、アンセリン添加によって残存カプロン酸濃度が有意に減少した。
【0103】
以上から、アンセリンなどのイミダゾールジペプチド類化合物には、腋臭(カプロン酸)抑制効果のあることが明らかとなった。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】アンセリンによる加齢臭(ノネナール)抑制効果を示す図表である。
【図2】加齢臭抑制効果についてアンセリンと他のアミノ酸及びジペプチドとを比較した結果を示す図表である。
【図3】アンセリンによる腋臭(カプロン酸)抑制効果を示す図表である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イミダゾールジペプチド類化合物及び/又はその塩を有効成分として含有することを特徴とする体臭抑制用組成物。
【請求項2】
前記イミダゾールジペプチド類化合物及び/又はその塩が、アンセリン、カルノシン、バレニン、及びこれらの塩からなる群から選ばれた少なくとも一種以上である請求項1に記載の体臭抑制用組成物。
【請求項3】
前記イミダゾールジペプチド類化合物及び/又はその塩を、イミダゾールジペプチド類化合物換算で1〜99.9質量%含有する請求項1又は2に記載の体臭抑制用組成物。
【請求項4】
前記イミダゾールジペプチド類化合物及び/又はその塩が、魚肉、鳥肉、及び畜肉からなる群から選ばれた少なくとも一種以上から抽出して得られたものである請求項1〜3のいずれか一つに記載の体臭抑制用組成物。
【請求項5】
魚肉、鳥肉、及び畜肉からなる群から選ばれた少なくとも一種以上から抽出して得られたイミダゾールジペプチド類化合物含有抽出物であって、イミダゾールジペプチド類化合物の含有量が固形分換算で1〜99.9質量%である該イミダゾールジペプチド類化合物含有抽出物を含有する請求項4に記載の体臭抑制用組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一つに記載の体臭抑制用組成物を含有する飲食品。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか一つに記載の体臭抑制用組成物を含有する化粧料。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれか一つに記載の体臭抑制用組成物を含有する洗濯処理剤。
【請求項9】
請求項1〜5のいずれか一つに記載の体臭抑制用組成物を含有する消臭剤。
【請求項10】
請求項1〜5のいずれか一つに記載の体臭抑制用組成物を生体部分から物理的に離れて存在している生体分泌物に作用させることを特徴とする体臭抑制方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−187928(P2008−187928A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−23663(P2007−23663)
【出願日】平成19年2月2日(2007.2.2)
【出願人】(390033145)焼津水産化学工業株式会社 (80)
【Fターム(参考)】