説明

作動オイルの冷却装置

【課題】作動オイルを冷却するオイルクーラを油圧回路中の高圧力から保護する作動オイルの冷却装置を提供する。
【解決手段】オイルクーラの上流側と下流側の間に架設されたバイパス通路に、オイル流入口31とオイル排出口35が形成された板金製のケーシング26と、ケーシング内に圧入され、オイル流入口と同軸上に1つのオイル通路孔41が形成された板金製の第1プレート部材39と、オイル通路孔に圧入され、作動オイルの油圧回路中の油圧がオイルクーラを保護するために設定されたリリーフバルブ作動圧を超えたときにオイル通路孔から離脱する板金製の栓部材43と、ケーシング内に第1プレート部材と離間してオイル排出口側に圧入され、オイル通路孔49が形成された板金製の第2プレート部材45と、第2プレート部材に保持され、栓部材を第1プレート部材のオイル通路孔に押圧付勢するスプリング51とからなるリリーフバルブ19を装着した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は作動オイルの冷却装置に係り、詳しくは作動オイルを冷却するオイルクーラの保護を図った作動オイルの冷却装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の自動変速機内を潤滑する作動オイルを冷却するため、従来、図4に示すようにエンジン冷却系1にオイルクーラ3を組み込み、自動変速機5内の作動オイルOをオイルクーラ3に導いて、ラジエータ7からオイルクーラ3に導入したエンジン冷却水Wで作動オイルを冷却する水冷式の冷却装置9が知られている。そして、自動変速機5本体には、作動オイルOの油圧回路全体の保護機能を持ったリリーフバルブ(図示せず)が内蔵されている。
【0003】
また、特許文献1には、冷却用の流体回路が仮に破損しても冷却用の流体が作動オイル中に混入しないようにするため、オイルタンクへの戻り回路の途中にオイルクーラを設け、当該オイルクーラに冷却用の流体回路を挿入した油圧回路の冷却装置に於て、オイルクーラより上流側の戻り回路にチェックバルブを設け、オイルクーラより下流側の戻り回路に、前記流体回路の配管抵抗より大きい圧力を設定したリリーフバルブを設けた冷却装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平6−49805号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、自動変速機本体に内蔵されたリリーフバルブは、変速機の内部構成品の保護を主目的としており、リリーフバルブ作動圧はオイルクーラの耐圧力を考慮していない場合が多く、一般的に高圧の設定である。このため、油圧回路に於て、目詰まり等により油圧が大きく上昇(高圧力)してオイルクーラの耐圧力を超えてしまうと、オイルクーラが破損してしまう虞がある。
【0006】
また、従来から、オイルクーラを保護するための専用リリーフバルブに関する種々の提案がなされている。しかし、これらのリリーフバルブは、いずれもパワートレイン系でも使用可能なほど本格的なもので、高価な電磁バルブ方式が主であった。
【0007】
一方、特許文献1に開示された従来例は、流体回路の破損時の作動オイルへの冷却用流体の混入防止を図るもので、作動オイルを冷却するオイルクーラの積極的な保護を図るものではなかった。
【0008】
本発明は斯かる実情に鑑み案出されたもので、従来の電磁バルブ方式のリリーフバルブに比し構造が簡単で安価なリリーフバルブを提供し、このリリーフバルブを使用することで、作動オイルを冷却するオイルクーラを油圧回路中の高圧力から保護する作動オイルの冷却装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
斯かる目的を達成するため、本発明は、自動変速機内の作動オイルをオイルクーラに導き、当該オイルクーラに導入したエンジン冷却水で作動オイルを冷却する作動オイルの冷却装置に於て、前記オイルクーラの上流側のオイル通路と下流側のオイル通路との間に1本のバイパス通路を架設すると共に、前記バイパス通路に、オイル流入口とオイル排出口が形成された板金製のケーシングと、前記ケーシング内に圧入され、前記オイル流入口と同軸上に1つのオイル通路孔が形成された板金製の第1プレート部材と、前記オイル通路孔に圧入され、作動オイルの油圧回路中の油圧が前記オイルクーラを保護するために設定されたリリーフバルブ作動圧を超えたときに前記オイル通路孔から離脱する板金製の栓部材と、前記ケーシング内に前記第1プレート部材と離間してオイル排出口側に圧入され、少なくとも1つのオイル通路孔が形成された板金製の第2プレート部材と、前記第2プレート部材に保持され、前記栓部材を第1プレート部材のオイル通路孔に押圧付勢するスプリングとからなるリリーフバルブを装着したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、油圧回路中に発生する高圧力からオイルクーラを確実に保護することができると共に、オイルクーラだけを保護することが目的である本発明によれば、オイル通路孔への栓部材の圧入力(カシメ力)やスプリングのバネ力を変えるだけで、要求されたリリーフバルブ作動圧を個別に設定できるうえに、構造が簡易な板金製の仕様であるため、トラックユーザーに廉価にて標準装備化の提案が可能となる。
【0011】
また、油圧上昇でリリーフバルブが作動しても、油圧が低下すると、スプリングが栓部材をオイル通路孔に押圧付勢して不完全ながらもバイパス通路を遮断するため、自動変速機からの作動オイルがオイルクーラに導かれて油温上昇に至ることがなく、この結果、低速走行ながらも路上故障が回避でき、修理工場までの走行が可能となる利点を有する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態に係る作動オイルの冷却装置の概略構成図である。
【図2】リリーフバルブの断面図である。
【図3】リリーフバルブの作動時の断面図である。
【図4】従来の作動オイルの冷却装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、図4の従来例と同一のものには同一符号を付してそれらの説明は省略する。
【0014】
図1は本発明の一実施形態に係る作動オイルの冷却装置を示し、図中、11はオイルクーラ3をバイパスして、オイルクーラ3の上流側のオイル通路13と下流側のオイル通路15との間に架け渡された1本のバイパス通路で、バイパス通路11に、油圧回路17中の高圧力からオイルクーラ3を保護するリリーフバルブ19が装着されている。
【0015】
図2及び図3はリリーフバルブ19の詳細を示し、図中、21は1枚の板金を断面略コ字状にプレス加工して形成された平面視円形状のケーシング本体、23はケーシング本体21の下部開口部を塞ぐ平面視円形状の蓋部材23で、蓋部材23も1枚の板金をケーシング本体21に比し浅く断面略コ字状にプレス加工して形成されている。そして、蓋部材23の全周がケーシング本体21の下部周縁に形成されたフランジ部25にカシメ固定されて、リリーフバルブ19のケーシング26が形成されている。
【0016】
ケーシング本体21の頂部中央にボス取付孔27が形成され、これに対向して蓋部材23の底部中央に、ボス取付孔27に比しやや小径なボス取付孔29が形成されている。そして、ボス取付孔27に、オイル流入口31が中心に設けられた円錐台形状のボス33が溶接され、これに前記オイル通路13が接続されている。一方、ボス取付孔29に、オイル流入口31に比しやや小径なオイル排出口35が中心に設けられた円柱形状のボス37が溶接され、これにオイル通路15が接続されている。
【0017】
また、図2中、39はケーシング本体21内に圧入された1枚の板金からなる平面視円形状の第1プレート部材で、その中央に、前記オイル流入口31と同軸上に平面視円形状の1個のオイル通路孔41が設けられている。そして、オイル通路孔41に、1枚の板金を断面略コ字状にプレス加工して形成された平面視円形状のキャップ(栓部材)43が圧入されており、本実施形態は、油圧回路17中のどこかで目詰まり等が発生して油圧上昇を招いた結果、油圧がオイルクーラ3を保護するために設定されたリリーフバルブ作動圧を超えたときに、第1プレート部材39が僅かに変形し乍ら、キャップ43がオイル通路孔41から外れるように構成されており、オイル通路孔41へのキャップ43の圧入力(カシメ力)と後述するコイルスプリングのバネ力で、リリーフバルブ作動圧(例えば、3〜5kg/cm2 と低い作動圧)が設定されている。
【0018】
更に、第1プレート部材39から離間してオイル排出口35(ボス37)側のケーシング本体21内に、1枚の板金からなる平面視円形状の第2プレート部材45が圧入されており、その中央に、円柱状のコイルスプリング支持部材47がキャップ43方向に突出して溶接されている。また、第2プレート部材45には、コイルスプリング支持部材47を中心に複数(本実施形態では4個)のオイル通路孔49が90℃の間隔を空けてプレスして設けられている。そして、コイルスプリング支持部材47に、キャップ43をオイル通路孔41に押圧付勢するコイルスプリング51が取り付けられており、油圧回路17中の油圧が正常な状態にあるとき、図2に示すようにコイルスプリング51は、オイル通路孔41に圧入されているキャップ43を矢印A方向へ押圧付勢している。
【0019】
そして、既述したように油圧回路17中のどこかで目詰まり等が発生して油圧上昇を招いた結果、油圧がリリーフバルブ作動圧を超えて高圧力になると、第1プレート部材39が僅かに変形し乍ら、図3に示すようにコイルスプリング51のバネ力に抗してキャップ43がオイル通路孔41から外れるようになっている。而して、斯様にキャップ43がオイル通路孔41から外れると、作動オイルOの多くががリリーフバルブ19を介してバイパス通路11を流下する。
【0020】
このように油圧回路17が油圧上昇を招いても、作動オイルOの多くがオイルクーラ3をバイパスしてバイパス通路11を流下することで、オイルクーラ3の耐圧力を超えた高圧力がオイルクーラ3にかかることがなくなり、オイルクーラ3の破損防止が図られている。
【0021】
そして、斯様に作動オイルOの多くがバイパス通路11を流下していくと、油圧回路17内の油圧が次第に低下していくが、油圧が低下すると、コイルスプリング51はオイル通路孔41から外れたキャップ43をオイル通路孔41に押圧付勢して、不完全ながらもバイパス通路11を遮断するようになっている。
【0022】
本実施形態に係る作動オイルOの冷却装置53とこれに用いるリリーフバルブ19はこのように構成されており、油圧回路17中の油圧がリリーフバルブ作動圧を超えない正常な状態にあるとき、図2に示すようにキャップ43がオイル通路孔41に圧入して、バイパス通路11の流路がリリーフバルブ19で遮断されている。
【0023】
従って、従来と同様、自動変速機5からオイルクーラ3に導かれた作動オイルOは、ラジエータ7からオイルクーラ3に導入されたエンジン冷却水Wで冷却されて、自動変速機5内に戻ることとなる。
【0024】
一方、油圧回路17中のどこかで目詰まり等が発生して油圧上昇を招いた結果、油圧がリリーフバルブ作動圧を超えて高圧力になると、第1プレート部材39が僅かに変形し乍ら、図3に示すようにコイルスプリング51のバネ力に抗してキャップ43がオイル通路孔41から外れるため、作動オイルOの多くがオイルクーラ3をバイパスしてバイパス通路11を流下する。そして、オイル流入口31とオイル排出口35は対向配置されているため、図3に示すようにリリーフバルブ19内に流入した作動オイルOは、オイル通路孔49からスムーズにオイル排出口35へと流れていくこととなる。
【0025】
斯様に作動オイルOの多くがバイパス通路11を流下することで、オイルクーラ3の耐圧力を超えた高圧力がオイルクーラ3にかかることがなく、オイルクーラ3の破損防止が図られ、オイルクーラ3の破損によるオイル漏れ等の不具合が防止できる。
【0026】
そして、このように作動オイルOがバイパス通路11を流下していくと、油圧回路17内の油圧が次第に低下していくが、油圧が低下すると、コイルスプリング51がキャップ43をオイル通路孔41に押圧付勢して、不完全ながらもバイパス通路11を遮断する。
これにより、自動変速機5からの作動オイルOの多くが再びオイルクーラ3に導かれて油温上昇に至ることがない。
【0027】
このように本実施形態によれば、油圧回路17中に発生する高圧力からオイルクーラ3を確実に保護することができると共に、オイルクーラ3だけを保護することが目的である本実施形態によれば、変形する第1プレート部材39の仕様を変えたり、オイル通路孔41へのキャップ43の圧入力(カシメ力)やコイルスプリング51のバネ力を変えるだけで、要求されたリリーフバルブ作動圧を個別に設定できるうえに、構造が簡易な板金製の仕様であるため、トラックユーザーに廉価にて標準装備化の提案が可能となる。
【0028】
また、オイル流入口31とオイル排出口35は対向配置されているため、図3に示すようにリリーフバルブ19内に流入した作動オイルOがスムーズにオイル排出口35へと流れる利点を有する。
【0029】
更にまた、既述したように油圧上昇でリリーフバルブ19が作動しても、油圧が低下すると、コイルスプリング51がキャップ43をオイル通路孔41に押圧付勢して不完全ながらもバイパス通路11を遮断するため、自動変速機5からの作動オイルOがオイルクーラ3に導かれて油温上昇に至ることがなく、この結果、低速走行ながらも路上故障が回避でき、修理工場までの走行が可能となる利点を有する。
【符号の説明】
【0030】
1 エンジン冷却系
3 オイルクーラ
5 自動変速機
7 ラジエータ
11 バイパス通路
13、15 オイル通路
17 油圧回路
19 リリーフバルブ
21 ケーシング本体
23 蓋部材
25 フランジ部
26 ケーシング
27、29 ボス取付孔
31 オイル流入口
33、37 ボス
35 オイル排出口
39 第1プレート部材
41、49 オイル通路孔
43 キャップ(栓部材)
45 第2プレート部材
47 コイルスプリング支持部材
51 コイルスプリング
53 冷却装置
O 作動オイル
W エンジン冷却水


【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動変速機内の作動オイルをオイルクーラに導き、当該オイルクーラに導入したエンジン冷却水で作動オイルを冷却する作動オイルの冷却装置に於て、
前記オイルクーラの上流側のオイル通路と下流側のオイル通路との間に1本のバイパス通路を架設すると共に、
前記バイパス通路に、
オイル流入口とオイル排出口が形成された板金製のケーシングと、
前記ケーシング内に圧入され、前記オイル流入口と同軸上に1つのオイル通路孔が形成された板金製の第1プレート部材と、
前記オイル通路孔に圧入され、作動オイルの油圧回路中の油圧が前記オイルクーラを保護するために設定されたリリーフバルブ作動圧を超えたときに前記オイル通路孔から離脱する板金製の栓部材と、
前記ケーシング内に前記第1プレート部材と離間してオイル排出口側に圧入され、少なくとも1つのオイル通路孔が形成された板金製の第2プレート部材と、
前記第2プレート部材に保持され、前記栓部材を第1プレート部材のオイル通路孔に押圧付勢するスプリングとからなるリリーフバルブを装着したことを特徴とする作動オイルの冷却装置。
【請求項2】
前記オイル流入口とオイル排出口は、ケーシングに対向配置されていることを特徴とする請求項1に記載の作動オイルの冷却装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−112435(P2012−112435A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−261234(P2010−261234)
【出願日】平成22年11月24日(2010.11.24)
【出願人】(000003908)UDトラックス株式会社 (1,028)
【Fターム(参考)】