説明

作業マニピュレータのセンシング動作生成方法及びセンシング動作生成装置

【課題】円弧部分を有する作業ワークであっても、適切なセンシング動作の自動生成をして、センシング動作データの修正、再設定作業の負荷を軽減する。
【解決手段】本発明の作業マニピュレータのセンシング動作生成方法は、円弧部分Cを有する作業ワークWに接触可能な接触式センサ3を備えた作業マニピュレータ2がセンシング動作を行う際に用いられるセンシング動作データを生成する際に好適なものである。センシング動作生成方法は、作業ワークWの円弧部分Cが離散点Dで近似された離散ワークモデルDMにもとづいて、離散点D間が補間されたリアルワークモデルRMを推定し、推定されたリアルワークモデルRMをもとに作業マニピュレータ2のセンシング動作データを生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業マニピュレータの適切なセンシング動作データを、オフライン環境下で自動的に生成する方法、及びその装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、作業マニピュレータが作業ワークに対して作業をする前に、作業マニピュレータに設けられた接触式センサを「センシング動作データ」にもとづいて作業ワークに接触させることで、コンピュータ上における作業ワークと作業マニピュレータとの位置関係を検証し、この検証結果にもとづいて作業マニピュレータの教示データを修正するといったセンシング作業が行われるのが常である。
【0003】
例えば、コンピュータ上の教示データにもとづいて、作業マニピュレータが適切な位置、姿勢で溶接作業しているつもりであっても、実際の作業ワークの形状や据付誤差、作業マニピュレータ自体の初期位置、重力による関節部のたわみやバックラッシュ等があるため、実際の作業ワーク情報と教示データとの間に誤差が生じ、実際に溶接作業をさせようとすると、溶接部位がずれたり、作業マニピュレータの溶接ワイヤ以外の部位が作業ワークに当たったりすることがある。
【0004】
そこで、作業マニピュレータに溶接等の作業をさせる前に、実際に溶接ワイヤを作業ワークに接触させて、実際の作業ワーク情報とコンピュータ上の作業ワークの教示データとの誤差を修正するための、センシング作業が必要である。
係るセンシング作業を行うに際しては、作業マニピュレータに対するセンシング動作データが必要であって、このセンシング動作データを生成する方法、すなわち作業マニピュレータのセンシング動作生成方法は、作業オペレータが手動で行うこともしばしばであるが、センシング動作を自動で生成する技術も幾つか開発されている。特許文献1には、円弧形状を有する作業ワークに対して円弧上の任意の3点で接触させることで、その作業ワークの現在位置のセンシングを行い、実際の作業ワークとコンピュータ上の作業ワークにおける円弧中心のズレを計算し、実際の溶接作業等の作業動作に利用する技術が開示されている。
【0005】
特許文献1の技術は、作業ワークの円弧部分上の任意の3点を作業ワークの現在位置をセンシングする位置とし、その各センシング位置で円弧の中心位置を通る方向に接触動作する教示データを生成する産業用ロボットの作業線修正制御方法である。
詳解すれば、特許文献1では、円筒部材と平板部材との間の円弧状作業線(溶接線)に対してセンシング動作を行う場合、コンピュータ上の位置情報にもとづいて、円筒部材の外周面上の1点目のセンシング位置に作業マニピュレータ(ロボット)を、実際に接触させる。
【0006】
この1点目のセンシング位置で得られた実際の作業ワークとコンピュータ上の作業ワークにおける誤差(補正値)を所定メモリに記憶しておき、円筒部材上の2点目のセンシング位置にロボットを接触させにいく。
この2点目のセンシング位置での接触の際には、1点目のセンシング位置で得られた補正値を利用して、コンピュータ上の位置情報に修正を加え、2点目のセンシング位置にロボットを接触させることとなる。また、3点目のセンシング位置にロボットを接触させにいく際にも、1、2点目のセンシング位置で得られた補正値を利用してコンピュータ上の位置情報を修正することとなる。
【0007】
そして、センシング位置として3点でロボットを円筒部材に接触させることによって、実際の作業ワークにおける円弧中心の座標が検出でき、検出した円弧中心座標と、コンピュータ上の作業ワークにおける円弧中心の座標との差を、円弧センシング補正値として、4点目以降のセンシング動作や、実際の溶接作業に役立てることとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第2985336号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記の特許文献1の方法でセンシング動作データを生成することは可能であるものの、実際にロボットを作業ワークに接触しなくては補正量を検出することができず、作業ワークの円弧中心の位置補正したセンシング動作データを、オフライン環境下で生成することはできない。
ところで、この特許文献1で開示された方法に限らず、センシング動作データの生成において、従来の技術では回避できない問題がある。
【0010】
すなわち、オフライン環境下での作業マニピュレータの周辺環境の曲面は、作業マニピュレータ及び、周辺環境の描画や干渉チェックの演算の高速化、CADデータの軽量化のため、作業ワークを多角形近似で表現される場合(図2,図3参照)がほとんどであり、オフライン環境内で再現された作業マニピュレータや周辺環境の曲面は実際の作業ワークの曲面とは位置、形状が異なるため、実際の作業ワークの面上にセンシング位置を作成できない場合がある。
【0011】
例えば、図3(a)のように、多角形近似された作業ワーク上でセンシング位置を設定しても、図3(b)に示す如く、実際の作業ワークに対してセンシング位置がずれ、接触しようとした作業マニピュレータの接触式センサ(溶接ワイヤ等)が作業ワークに届かないようなセンシング教示データを作成してしまう場合がある。また、図示はしないものの、作業マニピュレータの接触式センサが作業ワークに干渉するようなセンシング教示データを作成してしまう場合も考えられる。
【0012】
このようなセンシング教示データをロボット実機に適用しても、算出したい円弧の中心位置を得られるような検出位置となっていないため、結局は作業オペレータが、教示ペンダントなどを使うなどして、マニュアルでセンシング位置を修正する必要が生じる。
したがって、作業オペレータが修正を行った場合、この修正作業の分だけ教示作業の負担が増える問題がある。
【0013】
上述した問題に鑑み、本発明は、円弧部分を有する作業ワークにおいて、算出したい円弧中心位置を得られるような検出位置を含んだセンシング動作データ、言い換えるならば、円弧部分を正確にセンシング可能とするセンシング動作データをオフライン環境下で生成し、作業マニピュレータのセンシング動作の修正作業や教示作業の負荷を軽減することができる作業マニピュレータのセンシング動作生成方法及びセンシング動作生成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記課題を達成するために、本発明は、以下の技術的手段を採用した。
本発明に係る作業マニピュレータのセンシング動作生成方法は、円弧部分を有する作業ワークに接触可能な接触式センサを備えた作業マニピュレータがセンシング動作を行う際に用いられるセンシング動作データを生成するセンシング動作生成方法であって、前記作業ワークの円弧部分が離散点で近似された離散ワークモデルにもとづいて、前記離散点間が補間されたリアルワークモデルを推定し、前記推定されたリアルワークモデルをもとに作業マニピュレータのセンシング動作データを生成することを特徴とする。
【0015】
これによって、円弧部分を有する作業ワークであっても、離散ワークモデルよりも実際の作業ワークに近いリアルワークモデルを推定することで、実際の作業ワークとコンピュータ上の作業ワークにおける誤差を減らし、実際の作業ワークに対して作業マニピュレータが適切に接触可能なセンシング動作データをオフライン環境下で且つ自動で生成可能となり、作業マニピュレータのセンシング動作データの修正作業の負担が軽減されるため、センシング動作データの生成時間が短縮でき、教示データ生成の作業効率を向上させることができる。なお、リアルワークモデルとは、作業ワークの円弧部分をほぼ忠実に再現するワークモデルのことであり、コンピュータ上に設定されたモデルである。このリアルワークモデルを基にセンシング動作データの再設定などが可能である。
【0016】
好ましくは、前記リアルワークモデルの推定に際しては、前記離散点間を円弧形状により補間するとよい。
また、前記リアルワークモデルの推定に際しては、前記離散ワークモデルに接触式センサが接触する接触面を抽出し、抽出された接触面と当該接触面が立設する基準面との交線を抽出し、抽出された交線の端点を通る円弧を、前記リアルワークモデルとして抽出することが好適である。
【0017】
これらにより、離散点間を円弧形状で補間、又は作業モデルそのものを1つの円で推定しているため、実際の作業ワークに対してさらに近いリアルワークモデルを推定することが可能となって、コンピュータ上の作業モデルと実際の作業ワークが大きく異なる地点(例えば、離散点間)にセンシング位置を設定しても、実際の作業ワークに届かなかったり、作業ワークと干渉することがなくなり、円弧中心を正確に計算できる位置に接触位置を設定することができる。
【0018】
前記離散ワークモデルが、前記離散点を頂点とする多角形で構成されていることが好ましい。
なお、前記センシング動作データの生成に際しては、前記離散ワークモデルに接触式センサが接触するセンシング位置を求め、求めたセンシング位置をリアルワークモデル上に再設定し、前記再設定されたセンシング位置を含むようにセンシング動作データを生成するとよい。
【0019】
特に、前記センシング動作データの生成に際しては、再設定される前のセンシング位置を通り且つ前記離散点間を円弧形状により補間したリアルワークモデルの円弧中心から径外方向へのびる直線が前記リアルワークモデルと交わる点を、センシング位置として再設定することとしてもよい。
また、前記センシング動作データの生成に際しては、再設定される前のセンシング位置を通り且つ前記接触式センサの移動方向に重なる直線が前記リアルワークモデルと交わる点を、センシング位置として再設定してもよい。
【0020】
これらにより、再設定される前のセンシング位置に加え、推定したリアルワークモデルの円弧中心や、センシング動作時における接触式センサの移動方向を利用することで、センシング位置を確実にリアルワークモデルの円弧上に再設定することができ、実際の作業ワークのセンシング位置と、コンピュータの作業ワークのセンシング位置との誤差をさらに減らし、完全にオフライン環境下で生成しつつも、精度の高いセンシング動作データを自動で生成可能となって、センシング動作データ修正の負担軽減や、センシング動作データ生成の時間短縮が実現できる。
【0021】
さらには、前記離散ワークモデルに接触式センサが接触するセンシング位置が、離散点と一致するかを判断し、前記センシング位置が離散点と不一致と判断された場合に、前記リアルワークモデルを推定することも好適である。
本発明に係る作業マニピュレータのセンシング動作生成装置は、円弧部分を有する作業ワークに接触可能な接触式センサを備えた作業マニピュレータがセンシング動作を行う際に用いられるセンシング動作データを生成するセンシング動作生成装置であって、前記作業ワークの円弧部分が離散点で近似された離散ワークモデルにもとづいて、前記離散点間が補間されたリアルワークモデルを推定するモデル推定手段と、前記推定されたリアルワークモデルをもとに作業マニピュレータのセンシング動作データを生成するデータ生成手段とを有していることを特徴とする。
【0022】
好ましくは、前記モデル推定手段は、前記離散点間を円弧形状により補間するように構成するとよい。
また、前記モデル推定手段は、前記離散ワークモデルに接触式センサが接触する接触面を抽出し、抽出された接触面と当該接触面が立設する基準面との交線を抽出し、抽出された交線の端点を通る円弧を、前記リアルワークモデルとして抽出するように構成することが好適である。
【0023】
前記離散ワークモデルが、前記離散点を頂点とする多角形で構成されていることが好ましい。
なお、前記データ生成手段は、前記離散ワークモデルに接触式センサが接触するセンシング位置を求め、求めたセンシング位置をリアルワークモデル上に再設定し、前記再設定されたセンシング位置を含むようにセンシング動作データを生成するように構成してもよい。
【0024】
特に、前記データ生成手段は、再設定される前のセンシング位置を通り且つ前記離散点間を円弧形状により補間したリアルワークモデルの円弧中心から径外方向へのびる直線が前記リアルワークモデルと交わる点を、センシング位置として再設定するように構成するとよい。
また、前記データ生成手段は、再設定される前のセンシング位置を通り且つ前記接触式センサの移動方向に重なる直線が前記リアルワークモデルと交わる点を、センシング位置として再設定するように構成されていることも好適である。
【0025】
さらに好ましくは、前記離散ワークモデルに接触式センサが接触するセンシング位置が、離散点と一致するかを判断する離散点判断手段を有し、前記モデル推定手段は、前記離散点判断手段でセンシング位置が離散点と不一致と判断された場合に、前記リアルワークモデルを推定するように構成してもよい。
【発明の効果】
【0026】
本発明によると、コンピュータ上のワークモデルの円弧部分が離散データで構成されていても、実際の作業ワークに対して作業マニピュレータが適切に接触できるセンシング位置を含んだセンシング動作データの自動生成が可能となり、センシング動作の修正及び教示の作業負荷を軽減できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の作業マニピュレータのセンシング動作生成装置の構成図である。
【図2】実際の作業ワークと、これを近似した離散ワークモデルとを示す図であって、(a)は斜視図で、(b)は平面図である。
【図3】(a)はコンピュータ上の作業ワークにおけるセンシング位置の設定、(b)は実際の作業ワークではセンシング位置がずれる(届かない、又は干渉する)ことを示す図である。
【図4】(a)、(b)は離散ワークモデル上における接触式センサが接触する面と基準面とのエッジを示す平面図、斜視図、(c)、(d)はエッジの端点から抽出された円を示す斜視図、平面図である。
【図5】(a)は最初のセンシング位置と抽出された円を示す平面図、(b)は最初のセンシング位置と円弧中心とを利用して再設定されたセンシング位置を示す平面図、(c)は最初のセンシング位置と接触式センサの移動方向とを利用して再設定されたセンシング位置を示す平面図である。
【図6】作業マニピュレータのセンシング動作生成方法のフローチャートを示す図である。
【図7】作業マニピュレータのセンシング動作生成装置の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態を、図1〜図7にもとづき説明する。
なお、以下の実施形態は、本発明を具体化した一例であって、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
[作業マニピュレータの構成]
図1には、本発明に係る作業マニピュレータ2(作業用ロボット)のセンシング動作生成装置1が示されている。
【0029】
このセンシング動作生成装置1は、作業マニピュレータ2と、この作業マニピュレータ2を内蔵された教示データに従って動かす制御盤11と、教示データを入力可能な教示ペンダント12とを有している。さらに、制御盤11には、オフライン教示用のコンピュータ4が接続されている。
[センシング動作について]
本実施形態におけるコンピュータ4は、オフライン環境下において、作業マニピュレータ2に設けられた溶接ワイヤ3(接触式センサ)を作業ワークWに接触させることで、センシング位置P、センシング時の作業マニピュレータ2のセンシング姿勢とを含んだセンシング動作の教示データ(センシング動作データ)を生成する。
【0030】
加えて、コンピュータ4は、オフライン上の教示データにおける作業ワークWの位置と、溶接ワイヤ3によって検知取得した実際の作業ワークW位置が異なった時には、検知した位置との差分を用いて、センシング動作を行った箇所以降の作業マニピュレータ2の動作を逐次修正しながらセンシング作業を行わせることができる。
なお、作業オペレータは、コンピュータ4や教示ペンダント12による入力にて、あらかじめ動作を教示したプログラム(教示プログラム)に従って、作業マニピュレータ2を制御したり、センシング動作データを手動で生成したりすることもできる。
【0031】
作業マニピュレータ2は、溶接用ロボットとして一般的な6軸の多関節型ロボットであり、その手先2a(先端)に溶接ワイヤ3が配備されている。なお、作業マニピュレータ2は、スライダを備えたものや7軸以上であるものでもよい。
溶接ワイヤ3は、所定長さを有した条材であって、センシング作業時には、作業ワークWとの接触を検知する接触式センサの役目も果たすことができる。例えば、作業マニピュレータ2の手先2aの電極に電流を流し、手先2aを作業ワークWに近づけ、溶接ワイヤ3との接触時における短絡状態を見て、接触したか否かを判断できる。
【0032】
ところで、上述した「センシング動作」とは、作業マニピュレータ2が適切な位置、姿勢で溶接作業しているつもりでも、実際の作業ワークW情報と教示データとの間に誤差が生じることがあるため、実際に溶接作業をさせる前に溶接ワイヤ3を作業ワークWに接触させて、コンピュータ4上の作業マニピュレータ2や、コンピュータ4上の作業ワークW(つまりワークモデルM)に関する形状や配置、さらにはワークモデルM上におけるセンシング位置P(作業マニピュレータ2の溶接ワイヤ3が、オフライン環境下でワークモデルMに接触する位置)を、修正乃至は再設定する作業のことである。
[センシング動作データを生成する際の問題点]
このセンシング動作を作業マニピュレータ2にさせるためのセンシング動作データは、コンピュータ4上における作業ワークWのモデル(ワークモデルM)にもとづいて作成される。
【0033】
図1、2に示されるように、本実施形態で考える作業ワークWは、基準となる平板材(この上面が後述する基準面Kに相当)から円筒状部材が立設したものであって、この場合、円筒状部材の内周面及び外周面が、作業ワークWにおける円弧部分Cである。
特に図2で示す如く、作業ワークWのワークモデルMは、曲面を有した実際の作業ワークWを多面体、特に平面視においては円弧部分Cを多角形(図2(b)参照)で近似している。これは、ワークモデルMを簡素化することで、コンピュータ4上のCADデータの軽量化や、干渉チェックの演算の高速化等を図るためである。
【0034】
また、図2(b)右図に示す如く、ワークモデルMは、実際の作業ワークW上に間隔をあけて存在する点(離散点D)の間を直線で結び、作業ワークWの円弧部分Cを離散点Dを頂点とする多角形で表されている。
このように、実際の作業ワークW上に存在する離散点Dを利用して近似した(つまり、離散点Dで近似した)ワークモデルMを「離散ワークモデルDM」とする。なお、離散ワークモデルDMは、離散点Dを直線で結ばなくとも、スプライン曲線などで結んでもよい。
【0035】
この離散ワークモデルDMを利用して、オフライン環境下で、接触式センサ3を作業ワークWに接触させる教示データを生成する場合を考える。
図3(a)に示す如く、コンピュータ4上で前記離散ワークモデルDMにセンシング位置Pを設定する。
ここで、センシング位置Pとは、具体的には、溶接ワイヤ3が作業ワークW(この場合は、離散ワークモデルDM)に接触する位置とともに、この接触動作時に溶接ワイヤ3が移動する方向を示すベクトル(センシングベクトルSV)や、このときの作業マニピュレータ2の姿勢情報も含む。
【0036】
このようなセンシング位置Pが、円弧部分C(すなわち、離散点D間)に設定されると、仮想線にて示した実際の作業ワークWの内周面から離れた内側にセンシング位置Pが配置されたり、実際の作業ワークWの内周面より外側、つまり実際の作業ワークWの内部にセンシング位置Pが配置されたりすることとなる。
このとき、離散ワークモデルDMを使って、実際の作業ワークWからずれたところにセンシング位置Pが配置されたセンシング動作データが生成されると、作業マニピュレータ2実機を動かして、溶接ワイヤ3を実際の作業ワークWに接触させようとすると、図3(b)に示すように、溶接ワイヤ3が作業ワークWの内壁に届かなかったり、接触式センサ3や作業マニピュレータ2の一部が作業ワークWに干渉(作業ワークWも内壁からめり込む)してしまう。
【0037】
そのため、このような干渉等の場合には、実際の作業ワークW情報と教示データとの誤差分だけ、教示データにおけるセンシング位置Pを修正し再設定する必要がある。
[本発明におけるセンシング動作データの生成方法:リアルワークモデルの推定]
この状況をふまえ、図6、図7を用いて、本発明に係る作業マニピュレータ2のセンシング動作生成方法を説明する。このセンシング動作生成の処理は、制御盤11に接続されたオフライン教示用のコンピュータ4で行われる。
【0038】
なお、センシング動作生成装置1は、本発明に係るセンシング動作生成方法を実行するためのコンピュータプログラム(センシング動作生成プログラム)を有している。
センシング動作生成プログラムは、図6のフローチャートに示されたように、センシング動作データを生成する処理をコンピュータ4にさせるために、コンピュータ4に読み取り可能な形式のデータとして記録媒体(図示省略)に記録している。
【0039】
ステップS1(データ生成ステップ)において、図6に示した如く、溶接ワイヤ3と作業ワークWとが接触するセンシング位置Pを、まずは離散ワークモデルDM上で3点を指定する。
ステップS2において、指定した3つのセンシング位置Pすべてが、離散ワークモデルDM上の離散点Dと一致するかを判断する(離散点判断ステップ)。
【0040】
すべてのセンシング位置Pが離散点Dと不一致であると判断された場合には、処理はステップS3へ移される。また、そうでない場合は処理は終了する。
ステップS3(モデル推定ステップ)において、離散ワークモデルDMに溶接ワイヤ3が接触する接触面Tと基準面K(平板材の上面)との交線(エッジE)を抽出し、このエッジEの端点EPのすべて(6つ)を通る円弧RCを、リアルワークモデルRMとして抽出する。
【0041】
このリアルワークモデルRMとは、作業ワークWの円弧部分Cをほぼ忠実に再現するワークモデルMのことであり、コンピュータ4上に設定されたモデルである。このリアルワークモデルRMを基にセンシング動作データの再設定などが可能である。
次に、ステップS4(再設定ステップ)において、抽出したリアルワークモデルRM上に、あらためてセンシング位置Pを再設定し、この再設定したセンシング位置Pを含むように、センシング動作データを再び生成する。
【0042】
以下、ステップS1〜ステップS4の詳細を説明する。
ステップS1では、まず作業マニピュレータ2及び作業ワークWの幾何学的形状と配置との幾何学データから、コンピュータ4上で離散ワークモデルDMを生成する。
次に、センシング動作指定手段M1(データ生成手段)によって、生成された離散ワークモデルDM上に溶接ワイヤ3のセンシング位置Pが3つ指定される。
【0043】
これらのセンシング位置Pは、マウスやキーボードにてコンピュータ4上の規定項目を指定する、又はデータベースを検索するなど、蓄積されたデータに基づいてセンシング動作データを生成することで指定される。
ここで、教示データと実際の作業ワークWの形状、位置及び姿勢との誤差があり(図2参照)、上述したように、実際の作業ワークWに溶接ワイヤ3を接触させる前に、センシング動作データを修正する必要がある。
【0044】
そこでステップS2では、オフライン環境下で、離散点判断手段M2によって指定した3つのセンシング位置Pが、離散ワークモデルDM上の離散点Dと一致するかを判断することとなる。
離散点判断手段M2が3つのセンシング位置Pが離散点Dと一致しないと判断した場合には、処理は次のステップS3へ移る。
【0045】
なお、3つのセンシング位置Pが離散点Dと一致する場合、つまり溶接ワイヤ3が実際の作業ワークW上にある離散点Dに接触する場合には、最初に設定した3つのセンシング位置Pを通る円を計算すれば、教示データと実際の作業ワークWとの間の誤差は生じず、以下に示すリアルワークモデルRMの推定やセンシング位置Pの再設定をしなくとも、上述した干渉等は起こらないため、適切なセンシング動作データを生成できていることとなる。
【0046】
ステップS3では、モデル推定手段M3によって、接触面Tと基準面KとのエッジEにおける端点EPを通る円RCを、リアルワークモデルRMとして抽出する。
図4(a)、(b)に示すように、離散ワークモデルDMに3つのセンシング位置P(最初に設定したセンシング位置P1)を設定することによって、コンピュータ4上で、各センシング位置Pに対応する溶接ワイヤ3が接触する接触面Tがそれぞれ決まる(各センシング位置Pに対して一意に抽出できる)。そして、これらの接触面Tと、これらの接触面Tが立設する基準面K(平板材の上面)との交線(エッジE)もそれぞれ抽出できる。
【0047】
次に、図4(c)、(d)に示す如く、抽出したエッジEの端点EPすべて(6つ)を通る1つの円RCを、リアルワークモデルRMとして抽出する。
[本発明におけるセンシング動作データの生成方法:リアルワークモデルに基づくセンシング動作データの再設定]
ステップ4では、再設定手段M4によって、リアルワークモデルRM上にセンシング位置Pを再設定し、再設定した後のセンシング位置P2を含むセンシング動作データを生成する。
【0048】
このセンシング位置P2への再設定は、最初に設定したセンシング位置P1を利用して行われる。
例えば、図5(a)、(b)に示すように、最初のセンシング位置P1を通り、リアルワークモデルRMである円の円弧中心Oから、円の径外方向に沿って延びる直線Lを設定する。この直線Lが、リアルワークモデルRMの円と交わる点を、新たなセンシング位置P2として再設定する。
【0049】
最初のセンシング位置P1は、離散ワークモデルDM上に3つ設定されていたことから、再設定されたセンシング位置P2も、リアルワークモデルRM上に3つ設けられることとなる。
ここで、リアルワークモデルRMは、実際の作業ワークWの形状に沿うように、離散点D間を補間したものであるから、リアルワークモデルRM上においたセンシング位置P2は、実際の作業ワークW上に位置することとなる。
【0050】
したがって、作業マニピュレータ2実機を動かさなくとも、オフライン環境下で、溶接ワイヤ3が実際の作業ワークWに接触しうるセンシング位置Pを設定でき、適切なセンシング動作データを自動で生成することが可能となる。
なお、上述のセンシング位置P2の再設定は、以下に示す手順で行われていてもよい。
図5(a)、(c)に示すように、最初のセンシング位置P1を通り、再設定前における溶接ワイヤ3の移動方向(センシングベクトルSV)に沿って円の径外方向に延びる直線L’を設定する。この直線L’とリアルワークモデルRMとが交わる点を、再設定されたセンシング位置P2とする。
【0051】
この場合も同様に、リアルワークモデルRM上においたセンシング位置P2は、実際の作業ワークW上に位置することとなる。
したがって、オフライン環境下で適切なセンシング動作データを自動で生成することができる。
上述したように、センシング動作についてステップS1〜ステップS4を行うことで、自動で適切なセンシング位置Pを指示するセンシング動作データの生成がオフライン環境下で可能となり、このセンシング動作データを作業マニピュレータ2実機に適用すれば、作業オペレータによる修正、再設定が不要となり、作業ワークWの円弧部分Cにおける中心位置の補正値検出が確実に行えるとともに、教示作業負担の低減が図れる。
【0052】
本発明は、前述した実施形態に限定されるものではない。センシング動作生成装置1等の各構成又は全体の構造、形状、寸法などは、本発明の趣旨に沿って適宜変更することができる。
作業マニピュレータ2のセンシング動作生成装置1は、離散点判断手段M2によって、センシング位置Pが離散点Dと一致するかを判断したが、離散点判断手段M2を有さない、つまり、センシング位置Pが離散点Dと一致するか否かにかかわらず、必ずリアルワークモデルRMの推定を行うものとしてもよい。
【0053】
作業マニピュレータ2は、溶接用のマニピュレータに限らず、塗装用、組立用など各種マニピュレータでもかまわない。
接触式センサ3は、ワイヤに電流を流し接触時における短絡状態を見る接触式の溶接ワイヤに限らず、ロードセルを備えた荷重検出センサであってもよい。
再設定手段M4は、再設定前のセンシング位置P1と円弧中心Oとを結ぶ等して、リアルワークモデルRM上にセンシング位置P2を再設定したが、再設定前のセンシング位置P1に最も近いリアルワークモデルRM上の点を、再設定したセンシング位置P2としてもよい。
【符号の説明】
【0054】
1 センシング動作生成装置
2 作業マニピュレータ
3 接触式センサ(溶接ワイヤ)
4 コンピュータ
W 作業ワーク
C 作業ワークの円弧部分
D 離散点
DM 離散ワークモデル
RM リアルワークモデル
T 接触面
K 基準面
E 接触面と基準面との交線(エッジ)
EP エッジの端点
RC エッジの端点を通る円弧
P センシング位置
O 円弧中心
P1 再設定される前のセンシング位置
P2 再設定されたセンシング位置
M1 センシング動作指定手段(データ生成手段)
M2 離散点判断手段
M3 モデル推定手段
M4 再設定手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円弧部分を有する作業ワークに接触可能な接触式センサを備えた作業マニピュレータがセンシング動作を行う際に用いられるセンシング動作データを生成するセンシング動作生成方法であって、
前記作業ワークの円弧部分が離散点で近似された離散ワークモデルにもとづいて、前記離散点間が補間されたリアルワークモデルを推定し、
前記推定されたリアルワークモデルをもとに作業マニピュレータのセンシング動作データを生成することを特徴とする作業マニピュレータのセンシング動作生成方法。
【請求項2】
前記リアルワークモデルの推定に際しては、前記離散点間を円弧形状により補間することを特徴とする請求項1に記載の作業マニピュレータのセンシング動作生成方法。
【請求項3】
前記リアルワークモデルの推定に際しては、前記離散ワークモデルに接触式センサが接触する接触面を抽出し、抽出された接触面と当該接触面が立設する基準面との交線を抽出し、抽出された交線の端点を通る円弧を、前記リアルワークモデルとして抽出することを特徴とする請求項1又は2に記載の作業マニピュレータのセンシング動作生成方法。
【請求項4】
前記離散ワークモデルが、前記離散点を頂点とする多角形で構成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の作業マニピュレータのセンシング動作生成方法。
【請求項5】
前記センシング動作データの生成に際しては、前記離散ワークモデルに接触式センサが接触するセンシング位置を求め、求めたセンシング位置をリアルワークモデル上に再設定し、前記再設定されたセンシング位置を含むようにセンシング動作データを生成することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の作業マニピュレータのセンシング動作生成方法。
【請求項6】
前記センシング動作データの生成に際しては、再設定される前のセンシング位置を通り且つ前記離散点間を円弧形状により補間したリアルワークモデルの円弧中心から径外方向へのびる直線が前記リアルワークモデルと交わる点を、センシング位置として再設定することを特徴とする請求項5に記載の作業マニピュレータのセンシング動作生成方法。
【請求項7】
前記センシング動作データの生成に際しては、再設定される前のセンシング位置を通り且つ前記接触式センサの移動方向に重なる直線が前記リアルワークモデルと交わる点を、センシング位置として再設定することを特徴とする請求項5に記載の作業マニピュレータのセンシング動作生成方法。
【請求項8】
前記離散ワークモデルに接触式センサが接触するセンシング位置が、離散点と一致するかを判断し、
前記センシング位置が離散点と不一致と判断された場合に、前記リアルワークモデルを推定することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の作業マニピュレータのセンシング動作生成方法。
【請求項9】
円弧部分を有する作業ワークに接触可能な接触式センサを備えた作業マニピュレータがセンシング動作を行う際に用いられるセンシング動作データを生成するセンシング動作生成装置であって、
前記作業ワークの円弧部分が離散点で近似された離散ワークモデルにもとづいて、前記離散点間が補間されたリアルワークモデルを推定するモデル推定手段と、
前記推定されたリアルワークモデルをもとに作業マニピュレータのセンシング動作データを生成するデータ生成手段とを有していることを特徴とする作業マニピュレータのセンシング動作生成装置。
【請求項10】
前記モデル推定手段は、前記離散点間を円弧形状により補間するように構成されていることを特徴とする請求項9に記載の作業マニピュレータのセンシング動作生成装置。
【請求項11】
前記モデル推定手段は、前記離散ワークモデルに接触式センサが接触する接触面を抽出し、抽出された接触面と当該接触面が立設する基準面との交線を抽出し、抽出された交線の端点を通る円弧を、前記リアルワークモデルとして抽出するように構成されていることを特徴とする請求項9又は10に記載の作業マニピュレータのセンシング動作生成装置。
【請求項12】
前記離散ワークモデルが、前記離散点を頂点とする多角形で構成されていることを特徴とする請求項9〜11のいずれかに記載の作業マニピュレータのセンシング動作生成装置。
【請求項13】
前記データ生成手段は、前記離散ワークモデルに接触式センサが接触するセンシング位置を求め、求めたセンシング位置をリアルワークモデル上に再設定し、前記再設定されたセンシング位置を含むようにセンシング動作データを生成するように構成されていることを特徴とする請求項9〜12のいずれかに記載の作業マニピュレータのセンシング動作生成装置。
【請求項14】
前記データ生成手段は、再設定される前のセンシング位置を通り且つ前記離散点間を円弧形状により補間したリアルワークモデルの円弧中心から径外方向へのびる直線が前記リアルワークモデルと交わる点を、センシング位置として再設定するように構成されていることを特徴とする請求項13に記載の作業マニピュレータのセンシング動作生成装置。
【請求項15】
前記データ生成手段は、再設定される前のセンシング位置を通り且つ前記接触式センサの移動方向に重なる直線が前記リアルワークモデルと交わる点を、センシング位置として再設定するように構成されていることを特徴とする請求項13に記載の作業マニピュレータのセンシング動作生成装置。
【請求項16】
前記離散ワークモデルに接触式センサが接触するセンシング位置が、離散点と一致するかを判断する離散点判断手段を有し、
前記モデル推定手段は、前記離散点判断手段でセンシング位置が離散点と不一致と判断された場合に、前記リアルワークモデルを推定するように構成されていることを特徴とする請求項9〜15のいずれかに記載の作業マニピュレータのセンシング動作生成装置。

【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図1】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−224710(P2011−224710A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−96066(P2010−96066)
【出願日】平成22年4月19日(2010.4.19)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】