説明

作業機用フェンダ

【課題】障害物に衝突した場合に破損しにくく、万一損傷しても補修あるいは交換が容易な作業機用フェンダを提供する。
【解決手段】作業機の上部旋回体の側面に設けられる点検用通路8の下部をフェンダ13により覆う。点検用通路8の支持枠14の外側に上板部17を固定する。上板部17の下部に蝶番19等によりフェンダ本体20を回動可能に取付ける。フェンダ本体20は下部が内側に曲成された構造を有する。支持枠14の下部にフェンダ本体20の下部を載置する受部21を備える。フェンダ本体20が障害物を衝突した際に、フェンダ本体20が蝶番19を中心に上方に回動して損傷を回避する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上部旋回体上に点検用通路を有する作業機において、点検用通路の下部に設けられて上部旋回体上に配置される油圧配管、電気配線、タンク等の機器を覆うフェンダに関する。
【背景技術】
【0002】
油圧ショベル等の建設機械や荷役機等の上部旋回体を有する作業機のうち、超大型の作業機においては、上部旋回体に搭載される機器等の点検のため、上部旋回体の側面に点検用通路(ステップ)が設けられる。特許文献1に示すように、点検用通路の下部には、この下部に位置する箇所に配置される油圧配管、電気配線、タンク等を覆うカバーとしてのフェンダが上部旋回体にボルト等により固定して設けられる。このフェンダの役目は、前記各機器の設置箇所に土砂が流入することを防止してこれらの機器を保護すると共に、耐候性を向上させ、さらには外観を良好とすることにある。
【0003】
【特許文献1】特開平11−131529号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記のように、上部旋回体の側面にフェンダを有する従来の作業機において、作業中の旋回動作中に上部旋回体の側面のフェンダが作業機の近傍の障害物に衝突した場合にフェンダが凹む等の損傷の発生が回避できることが望まれる。特にこのフェンダの障害物への衝突は、運転室から見て死角となる後部側面において発生し易いため、この後部側面でのフェンダの損傷の発生の回避が望まれる。
【0005】
従来はフェンダが損傷すると、全体を交換したり、損傷部分を溶断して新たにその部分を溶接する等の作業が必要となり、補修作業が容易ではない。このため、フェンダが損傷した外観の悪いままで作業を行っている状況が見られる。
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑み、障害物に衝突した場合に破損しにくく、万一損傷しても補修あるいは交換が容易な作業機用フェンダを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の作業機用フェンダは、作業機の上部旋回体の側面に設けられる点検用通路の下部を覆う作業機用フェンダにおいて、
前記点検用通路の支持枠の外側に固定された上板部と、
この上板部の下部に回動可能に取付けられ、下部が内側に曲成されたフェンダ本体と、
前記支持枠の下部に設けられ、前記フェンダ本体の下部を載置する受部とを備えたことを特徴とする。
【0008】
請求項2の作業機用フェンダは、請求項1に記載の作業機用フェンダにおいて、
前記フェンダ本体の下部と前記受部のいずれか一方に突起を設けると共に、他方の前記突起と対応する位置に筒体を設け、前記突起と前記筒体とを緩衝材を介して嵌合したことを特徴とする。
【0009】
請求項3の作業機用フェンダは、請求項1または請求項2に記載の作業機用フェンダにおいて、
前記フェンダ本体の下部または前記受部の少なくともいずれか一方に他方を吸着する磁石を設けたことを特徴とする。
【0010】
請求項4の作業機用フェンダは、請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の作業機用フェンダにおいて、
異なる機種の建設機械のフェンダ本体の構造を共通化すると共に、前記フェンダ本体の取付け部の構造を共通化したことを特徴とする。
【0011】
請求項5の作業機用フェンダは、請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の作業機用フェンダにおいて、
前記上部旋回体の後部のみに前記回動可能なフェンダ本体を有する構造としたことを特徴とする。
【0012】
請求項6の作業機用フェンダは、請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の作業機用フェンダにおいて、
前記作業機が下部走行体上に前記上部旋回体を設置した建設機械であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の発明によれば、作業機の旋回中にフェンダ本体が障害物に衝突しても、フェンダ本体が回動して衝撃を緩和するため、フェンダの損傷を回避することができる。
【0014】
また、仮にフェンダ本体が凹む等の損傷を受けたとしても、例えばフェンダ本体を蝶番で枢着しておけば、この蝶番部分からフェンダ本体を取外して補修したり新たなものに交換することができる。このため、従来のようにフェンダ全体を交換したり、損傷部分を溶断して新たにその部分を溶接する等の作業が不要となり、経済化が達成され、交換作業も容易となる。また、補修、交換が容易となるため、損傷した外観の悪いままで作業を行う事態の発生を回避することができる。
【0015】
請求項2の発明によれば、フェンダ本体の下部と前記受部とを緩衝材を介在させる突起と筒体との嵌合により結合したので、作業機が振動した場合のフェンダ本体の振動が緩和され、フェンダの振動による摩耗と騒音発生を防止することができる。
【0016】
請求項3の発明によれば、フェンダ本体の下部と受部とを磁石により吸着させたので、作業機が振動した場合のフェンダ本体の下部と受部との相対移動と衝突時の衝撃が防止され、フェンダ本体の下部と受部の振動による摩耗と騒音発生を防止することができる。
【0017】
請求項4の発明によれば、異なる機種の建設機械のフェンダ本体の構造と取付け部の構造を共通化したので、製造設備の共通化によりフェンダ本体の価格が低減されると共に、フェンダ本体の入手が容易となる。
【0018】
請求項5の発明によれば、フェンダのうち、特に破損の頻度の高い上部旋回体の後部にフェンダ本体を回動可能としたので、フェンダ全体を回動可能にする場合に比較して改変部分である回動部分が少なくなり、比較的廉価に実施することができる。
【0019】
請求項6の発明によれば、下部走行体上に上部旋回体を設置した建設機械であり、据え付け式の作業機に比較して旋回動作に伴うフェンダの障害物との衝突の機会が多いため、本発明のフェンダ損傷防止効果がより有効に達成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
図1は本発明のフェンダの一実施の形態を示す作業機の側面図、図2はその背面図である。この実施の形態の作業機は掘削を行う超大型油圧ショベルであり、自重が120t以上のものである。1は履帯式下部走行体、2は旋回装置、3は上部旋回体、4,5はそれぞれ上部旋回体3上に搭載された油圧パワーユニットおよび運転室、6は先端に作業具であるバケット7を取付けた多関節フロントである。8は上部旋回体3の側面と背面のカウンタウエイト9上に設けられたステップと称される点検用通路、10は点検用通路8の外側に沿って設けた手摺である。11は上部旋回体3の側面の点検用通路8の下部に設けられたフェンダである。このフェンダ11は上部旋回体3に配置された油圧配管、電気配線、タンク等の機器を覆うものである。
【0021】
本実施の形態においては、前部のフェンダ12をボルト(図示せず)により上部旋回体3の側面に設けた点検用通路8に従来同様に直接固定し、後部のフェンダ13に本発明の構造を採用している。
【0022】
図3はこの実施の形態の後部のフェンダ13を上部旋回体3の側面より見た図、図4はその縦断面図である。図3および図4において、14は点検用通路8の支持枠である。この支持枠14は、上部旋回体3のメインフレーム3aにボルト16により固定された取付板部14aと、この取付板部14aに溶接あるいはボルト付け等により固着されたほぼL字形の載置板部14bとからなる。点検用通路8は、支持枠14の載置板部14b上に載置され、溶接あるいはボルト付けにより固定される。また、載置板部14b上に手摺10が取付けられる。
【0023】
フェンダ13は、支持枠14の載置板部14bの外端に溶接あるいはボルト付け、リベット付け等により固定された上板部17と、この上板部17の下部に蝶番19により回動可能に取付けられたフェンダ本体20と、支持枠14の載置板部14bの下部に溶接あるいはボルト付けにより固定された受部21とを備える。
【0024】
フェンダ本体20は、上部の縦板部20aと、その縦板部20aより斜めに曲成された斜面部20bと、この斜面部20bの下端部から内方に水平に曲成された水平部20cとからなる。このフェンダ本体20の下部の水平部20cが受部21上に載置される。22は水平部20cと受部21のいずれか一方に貼り付けて両者間に介在させたゴムまたは樹脂製の緩衝板であり、フェンダ本体20が振動した場合の騒音の発生を防止するものである。
【0025】
図5はこの油圧ショベルを作業状態で示す平面図である。この油圧ショベルの上部旋回体3の後部のコーナー部にはカメラ23が設置され、撮像された画面が運転室5に備えた表示画面に表示される。しかしながら、上部旋回体3の後部側面はカメラ23の死角であるため、2点鎖線で示すように上部旋回体3を旋回させた際に、フェンダ13が岩石その他の障害物24に衝突することがある。
【0026】
しかしながら、本実施の形態においては、障害物24にフェンダ13が衝突しても、図4に示すように、フェンダ本体20が実線のように受部21に支持された状態から、2点鎖線で示すように上方に回動するので、破損を回避することができる。
【0027】
また、仮にフェンダ本体20が凹む等の損傷を受けたとしても、蝶番19の部分でフェンダ本体20を交換することができる。このため、従来のようにフェンダ全体を交換したり、損傷部分を溶断して新たにその部分を溶接する等の作業が不要となり、経済化が達成され、交換作業も容易となる。また、交換が容易となるため、損傷した外観の悪いままで作業を行う事態の発生を回避することができる。
【0028】
本発明は、自走式の建設機械ではなく、例えば据え付け式ポスト上に上部旋回体3を設置し、これに例えば船やトラックに積み込み、積み降ろしを行なう作業装置を設置した据え付け式作業機にも適用できる。しかしながら、本実施の形態で示す油圧ショベルのような建設機械においては、据え付け式の作業機に比較して旋回動作に伴うフェンダ11の障害物24との衝突の機会が多いため、本発明のフェンダ損傷防止効果がより有効に達成できる。
【0029】
また、本実施の形態においては、フェンダ11のうち、特に破損の頻度の高い上部旋回体の後部のフェンダ13のみについてフェンダ本体20を回動可能としたので、フェンダ11全体を回動可能にする場合に比較して改変部分である回動部分を少なくなり、比較的廉価に実施することができる。
【0030】
図6は本発明の他の実施の形態を示す。この実施の形態は、前記フェンダ本体20の下部の水平部20cに下方に突出するロッド状の突起25を設け、受部21の上面に、突起25に対応して突起25より内径の大きな筒体26を設け、突起25と筒体26の間にゴムあるいは樹脂からなる筒状の緩衝材27を介在させ、突起25を緩衝材27内に嵌合したものである。
【0031】
図6の実施の形態によれば、油圧ショベルが振動した場合のフェンダ本体20の振動が緩和され、フェンダ13の振動による摩耗と騒音発生を防止することができる。なお、突起25を受部21の上面に設け、筒体26をフェンダ本体20の下面に設けてもよい。
【0032】
図7は本発明の他の実施の形態を示す。この実施の形態においては、フェンダ本体20の下部(水平部20c)と受部21の少なくともいずれか一方に他方を吸着する磁石29を設けたものである。
【0033】
この実施の形態のように、フェンダ本体20の下部と受部21とを磁石29により吸着させれば、油圧ショベルが振動した場合のフェンダ本体20の下部(水平部20c)と受部21との相対移動と衝突時の衝撃が防止され、フェンダ本体20の下部(水平部20c)と受部21の振動による摩耗と騒音発生を防止することができる。また、この実施の形態のように、磁石29を樹脂中に磁性粉を混入した磁石を用いれば、フェンダ本体20と受部21との間の衝突による騒音発生防止効果が得られる。
【0034】
なお、受部21にフェンダ本体20を固定する構造としては、フェンダ本体20と受部21のいずれか一方に係止片を設け、他方にこの係止片を係止する孔や切欠きを設け、強い力がフェンダ本体20に作用したときには係止片が孔や切欠きから外れるようにした構造も採用できる。この場合、係止片、孔または切欠きに樹脂やゴムを用いることにより、振動による損傷を防止することができる。
【0035】
また、受部21にフェンダ本体20を固定する構造として、曲成された鈎状の小突起を多数形成した樹脂製テープを両者に張り、小突起どうしが互いに絡み合うことでフェンダ本体20を分離可能に固定する構造も採用できる。
【0036】
図8は異なる機種、すなわち異なる構造、サイズの油圧ショベルにおいて、フェンダ本体20の高さH、幅Wおよび形状として共通のものを用いることを可能とするための構成を説明する図である。すなわち、支持枠14の高さが異なる場合であっても、載置板部14bの上部14cの幅をh1(実線),h2(2点鎖線)のように異ならせ、もって載置板部14bの上部14cから受部21との間の高低差h3を一定にすると共に、載置板部14bの出幅L1から受部21の出幅L2を減じた長さ(L1−L2)を一定とすることにより、機種が異なる油圧ショベルであっても、フェンダ本体20として共通のものを用いることができる。
【0037】
このように、異なる機種の油圧ショベルのフェンダ本体20の構造とその取付け部の構造を共通化すれば、フェンダ本体20の製造設備の共通化によりフェンダ本体20の価格が低減されると共に、フェンダ本体20の入手が容易となる。
【0038】
図9は本発明のフェンダの参考例を示す断面図、図10はそのフェンダ本体20の取付け部の拡大断面図である。この参考例は、フェンダ本体20を、上板部17と受部21に対し、結合板30およびボルト32とナット33によって連結したものである。結合板30は、ゴムや樹脂からなる緩衝材30aを金属板30bに貼り付けたものであり、緩衝材30aは上板部17、フェンダ本体20および受部21の面に当接することにより、緩衝作用が得られる。
【0039】
このようなフェンダ本体20を分離構造にすれば、フェンダ本体20が障害物24に衝突することによって損傷した場合、このフェンダ本体20を別のものに容易に交換することができる。
【0040】
本発明は、油圧ショベル以外の建設機械や荷役機等の作業機にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明のフェンダの一実施の形態を示す作業機の側面図である。
【図2】図1の作業機の背面図である。
【図3】この実施の形態のフェンダを上部旋回体の側面から見た図である。
【図4】図3のフェンダの縦断面図である。
【図5】この実施の形態の作業機の作業状態における障害物とフェンダとの衝突を説明する平面図である
【図6】本発明のフェンダの他の実施の形態を示す断面図である。
【図7】本発明のフェンダのさらに他の実施の形態を示す断面図である。
【図8】本発明におけるフェンダ本体の共通化について説明する図である。
【図9】本発明のフェンダの参考例を示す縦断面図である。
【図10】図9のフェンダ本体の連結部の拡大断面図である。
【符号の説明】
【0042】
1:下部走行体、2:旋回装置、3:上部旋回体、4:油圧パワーユニット、5:運転室、6:多関節フロント、7:バケット、8:点検用通路、9:カウンタウエイト、10:手摺、11:フェンダ、12:前部のフェンダ、13:後部のフェンダ、14:支持枠、17:上板部、19:蝶番、20:フェンダ本体、21:受部、22:緩衝板、23:カメラ、24:障害物、25:突起、26:筒体、27:緩衝材、29:磁石

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業機の上部旋回体の側面に設けられる点検用通路の下部を覆う作業機用フェンダにおいて、
前記点検用通路の支持枠の外側に固定された上板部と、
この上板部の下部に回動可能に取付けられ、下部が内側に曲成されたフェンダ本体と、
前記支持枠の下部に設けられ、前記フェンダ本体の下部を載置する受部とを備えたことを特徴とする作業機用フェンダ。
【請求項2】
請求項1に記載の作業機用フェンダにおいて、
前記フェンダ本体の下部と前記受部のいずれか一方に突起を設けると共に、他方の前記突起と対応する位置に筒体を設け、前記突起と前記筒体とを緩衝材を介して嵌合したことを特徴とする作業機用フェンダ。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の作業機用フェンダにおいて、
前記フェンダ本体の下部または前記受部の少なくともいずれか一方に他方を吸着する磁石を設けたことを特徴とする作業機用フェンダ。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の作業機用フェンダにおいて、
異なる機種の建設機械のフェンダ本体の構造を共通化すると共に、前記フェンダ本体の取付け部の構造を共通化したことを特徴とする作業機用フェンダ。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の作業機用フェンダにおいて、
前記上部旋回体の後部のみに前記回動可能なフェンダ本体を有する構造としたことを特徴とする作業機用フェンダ。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の作業機用フェンダにおいて、
前記作業機が下部走行体上に前記上部旋回体を設置した建設機械であることを特徴とする作業機用フェンダ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−191524(P2009−191524A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−33807(P2008−33807)
【出願日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】