説明

作業用走行車

【課題】シフトアップスイッチ及びシフトダウンスイッチの操作に応じて走行主変速装置の変速ポジションを一段ずつシフトアップ及びシフトダウンさせるものでありながら、停止・発進スイッチを設けなくても、機体を走行停止状態に保てるようにする。
【解決手段】走行動力を段階的に変速する主変速装置20と、人為的なスイッチ操作に応じて主変速装置20を変速作動させる制御装置100とを備えるトラクタ1において、制御装置100は、シフトアップスイッチSW1の操作に応じて主変速装置20の変速ポジションを一段ずつシフトアップさせる一方、シフトダウンスイッチSW2の操作に応じて主変速装置20の変速ポジションを一段ずつシフトダウンさせ、さらに、シフトアップスイッチSW1やシフトダウンスイッチSW2で操作可能な変速ポジションには、機体を走行停止状態に保つ走行停止ポジションが含まれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人為的なスイッチ操作に応じて走行主変速装置を変速作動させるトラクタなどの作業用走行車に関する。
【背景技術】
【0002】
走行動力を段階的に変速する走行主変速装置と、人為的なスイッチ操作に応じて走行主変速装置を変速作動させる変速制御装置とを備える作業用走行車が知られている。例えば、特許文献1に示される変速制御装置(コントローラ)は、シフトアップスイッチ(アップスイッチ)の操作に応じて走行主変速装置の変速ポジションを一段ずつシフトアップさせる一方、シフトダウンスイッチ(ダウンスイッチ)の操作に応じて走行主変速装置の変速ポジションを一段ずつシフトダウンさせ、さらに、停止・発進スイッチの操作に応じて、走行中の機体を一時停止させたり、一時停止中の機体を再発進させるように構成されている。
【特許文献1】特開2002−178781号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1に示される作業用走行車では、シフトアップ操作、シフトダウン操作、一時停止操作及び再発進操作を行うために、少なくとも3つのスイッチを必要とするため、操作が複雑になるだけでなく、部品点数が増加するという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、上記の如き実情に鑑みこれらの課題を解決することを目的として創作されたものであって、走行動力を段階的に変速する走行主変速装置と、人為的なスイッチ操作に応じて走行主変速装置を変速作動させる変速制御装置とを備える作業用走行車において、前記変速制御装置は、シフトアップスイッチの操作に応じて走行主変速装置の変速ポジションを一段ずつシフトアップさせる一方、シフトダウンスイッチの操作に応じて走行主変速装置の変速ポジションを一段ずつシフトダウンさせ、さらに、シフトアップスイッチ及び/又はシフトダウンスイッチで操作可能な変速ポジションには、機体を走行停止状態に保つ走行停止ポジションが含まれることを特徴とする。このようにすると、シフトアップスイッチ及びシフトダウンスイッチの操作に応じて走行主変速装置の変速ポジションを一段ずつシフトアップ及びシフトダウンさせるものでありながら、シフトアップスイッチ及び/又はシフトダウンスイッチで操作可能な変速ポジションに、機体を走行停止状態に保つ走行停止ポジションが含まれるので、停止・発進スイッチを設けなくても、機体の走行停止操作や再発進操作が可能になる。これにより、必要なスイッチ数を減らすことができるので、操作が容易になるだけでなく、コストダウンも図れる。
また、前記変速制御装置は、走行主変速装置を中立ポジションとし、かつ、ブレーキ装置を作動させることで、機体を走行停止状態に保つことを特徴とする。このようにすると、機体を確実に走行停止状態に保ち、機械的な連れ回りや外力による機体の微動を防止することができる。
また、前記変速制御装置は、変速ポジションが走行停止ポジションであっても、機体走行速度が所定速度以上のときは、ブレーキ装置を作動させないことを特徴とする。このようにすると、ブレーキ作動による機体の不安定な挙動を防止することができる。例えば、左右一対のサイドブレーキのうち、いずれか一方を作動させて機体を走行停止状態に保つ場合、片側ブレーキによる機体の横ずれ現象を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0005】
次に、本発明の実施形態について、図面に基づいて説明する。図1において、1はトラクタ(作業用走行車)であって、該トラクタ1は、左右に配置された一対の前輪2と後輪3とにより支持された走行機体5を有しており、該走行機体5は、前方部分で内部にエンジン6(図2参照)を収納したボンネット7と、該ボンネット7の後方部分に運転席部8等が備えられている。また、走行機体5の下部には、該走行機体5に一体に固定されたミッションケース9(図3参照)が配置されている。エンジン6の出力は、該ミッションケース9内に設けられた変速装置を介して前輪2及び後輪3に伝動され、トラクタ1を前後方向に所要の速度で走行させる。
【0006】
図2及び図3に示すように、エンジン6からの動力は、クラッチ11、出力軸12、及び該出力軸12に固定された出カギヤ13、該出カギヤ13と噛合する入カギヤ15を介して、該入カギヤ15を固定した入力軸16に伝達される。該入力軸16には、歯数の異なる複数のギヤ16a,16b,16c,16dが一体に固定されている。
【0007】
また、ミッションケース9内には、上記入力軸16と隣接配置された前部主変速装置(走行主変速装置)20Aと、該前部主変速装置20Aから出力され、下流側に伝達される動力を断続する主クラッチ30と、該主クラッチ30の下流側に接続された前後進切換装置40と、該前後進切換装置40の下流側に接続された後部主変速装置(走行主変速装置)20Bと、該後部主変速装置20Bの下流側に配置された副変速装置(走行副変速装置)50等が配置され、走行駆動系を構成している。
【0008】
なお、ミッションケース9内には、入力軸16と隣接配置されたPTO主変速部81と、該PTO主変速部81の下流側にPTO軸83の正逆回転を行わせるPTO回転切換装置82とが配置され、動力がPTO軸83を介して作業機(図示せず)に出力できるように構成されている。
【0009】
前部主変速装置20Aは、ミッションケース9に対して回転白在に支持された伝動軸21を備えており、該伝動軸21には、上記ギヤ16a,16b,16c,16dと常時噛合う歯数の異なるギヤ22a,22b,22c,22dが回転白在に支持されている。また、ギヤ22aとギヤ22bとの間には、シンクロメッシュ方式により該ギヤ22a,22bとそれぞれ選択的に係合、離脱可能なシフト部材23が、ギヤ22cとギヤ22dとの間には、シンクロメッシュ方式により該ギヤ22c,22dとそれぞれ選択的に係合、離脱可能なシフト部材25が、それぞれ伝動軸21の軸方向に移動自在に配置されている。
【0010】
主クラッチ30は、前部主変速装置20Aと前後進切換装置40との間に配置された油圧クラッチで構成され、油圧の供給により前部主変速装置20Aの出力を前後進切換装置40に伝達する入り状態となり、油圧の遮断により前部主変速装置20Aの出力を前後進切換装置40に伝達しない切り状態となり、走行駆動系の動力伝達が遮断される。
【0011】
前後進切換装置40は、入力軸41と平行にミッションケース9に回転自在に支持された中間軸42と伝動軸45を備えている。該中間軸42には、ギヤ41aと噛合う中間ギヤ42aが一体に固定されている。
【0012】
入力軸41は、主クラッチ30を介して伝動軸21に連結され、該主クラッチ30の入り状態のときに該伝動軸21と共に回転する。入力軸41には、歯数の異なるギヤ41a,41bが一体に固定されている。
【0013】
伝動軸45には、ギヤ41bと噛合う46bと、ギヤ42aと噛合う46aとが回転白在に支持されている。該ギヤ46bとギヤ46aとの間には、シンクロメッシュ方式により該ギヤ46a,46bとそれぞれ選択的に係合、離脱可能なシフト部材47が、伝動軸45の軸方向に移動自在に配置されている。
【0014】
後部主変速装置20Bは、伝動軸45の後半部分と、入力軸41と同一軸心上に位置するようにミッションケースに回転白在に支持された伝動軸28とを備えている。
【0015】
伝動軸45の後半部分には、歯数の異なるギヤ26a,26bが回転自在に支持されている。また、該ギヤ26aと26bとの間には、シンクロメッシュ方式により該ギヤ26a,26bとそれぞれ選択的に係合、離脱可能なシフト部材27が、伝動軸45の軸方向に移動自在に配置されている。
【0016】
伝動軸28は、ギヤ26aと噛合うギヤ28aと、ギヤ26bと噛合うギヤ28bとが一体に固定されている。また、伝動軸28には、歯数の異なるギヤ28c,28dが一体に固定されている。
【0017】
ギヤ28cは、ギヤ62aと噛合っており、該ギヤ62aは、該ギヤ62aよりも小径のギヤ62bと一体に形成され、伝動軸61に回転自在に支持されている。該伝動軸61は、伝動軸45と同一軸心上に位置するようにミッションケース9に対して回転自在に支持されており、該ギヤ62a,62bのほかにも、ギヤ28dと噛合っているギヤ63を回転自在に支持している。また、伝動軸61には、ギヤ64が一体に固定されており、さらに該伝動軸61の軸方向に移動自在に配置され、大径のギヤと小径のギヤが一体に形成されたギヤ66が配置されている。
【0018】
副変速装置50は、伝動軸28及び伝動軸61と平行に、ミッションケース9に対して回転白在に支持された出力軸51を備えている。該出力軸51には、ギヤ62bと噛合うギヤ52aと、ギヤ63と噛合うギヤ52bとが回転自在に支持されている。該ギヤ52aとギヤ52bとの間には、シンクロメッシュ方式により該ギヤ52a,52bとそれぞれ選択的に係合、離脱可能なシフト部材53が、出力軸51の軸方向に移動自在に配置されている。また、該出力軸51には、ギヤ66と噛合うギヤ65が一体に固定されている。
【0019】
出力軸51は、ディファレンシャルギヤ71及び駆動車軸72等を介して後輪3に接続され、トラクタ1を走行駆動可能にしている。また、ギヤ66は伝動軸61を介してギヤ64に回転が伝達され、これらギヤ66及びギヤ64の回転がクイックターン装置75に伝達される。該クイックターン装置75では、クラッチの作動により該ギヤ66及びギヤ64のいずれか一方の回転がディファレンシャルギヤ17等を介して前輪2に伝達され、トラクタ1を走行駆動可能にしている。なお、ギヤ66を伝動軸61の軸方向に沿って移動させることにより、前輪2への動力の伝達を遮断することもできる。
【0020】
次に、ミッションケース9に設けられる各種走行変速装置の作用について説明する。
【0021】
例えば、エンジン6で出力された回転は、クラッチ11、出力軸12、及び該出力軸12に固定された出カギヤ13、該出カギヤ13と噛合する入カギヤ15を介して、該入カギヤ15を固定した入力軸16に伝達される。該入力軸16に伝達された回転は、歯数の異なる複数のギヤ16a,16b,16c,16dを介して前部主変速装置20Aに伝達される。
【0022】
前部主変速装置20Aにおいては、シフト部材23がギヤ22a及びギヤ22bから離脱したニュートラル位置にあるときには、各ギヤ22a,22bは、それぞれ伝動軸21に対して空転している。シフト部材23がギヤ22a(又はギヤ22b)と係合している場合には、該シフト部材23がその係合しているギヤ22a(又はギヤ22b)と共に回転して伝動軸21を回転させる。
【0023】
また、シフト部材25がギヤ22c及びギヤ22dから離脱したニュートラル位置にあるときには、各ギヤ22c,22dは、それぞれ伝動軸21に対して空転している。シフト部材25がギヤ22c(又はギヤ22d)と係合している場合には、該シフト部材25がその係合しているギヤ22c(又はギヤ22d)と共に回転して伝動軸21を回転させる。
【0024】
即ち、前部主変速装置20Aは、ギヤ16a,16b,16c,16dと、これらギヤ16a,16b,16c,16dと常時噛合うギヤ22a,22b,22c,22dと、シフト部材23,25によりシンクロメッシュ方式の同期噛合式歯車変速装置で構成され、ギヤ16aとギヤ22a、ギヤ16bとギヤ22b、ギヤ16cとギヤ22c、ギヤ16dとギヤ22dの各噛合わせにより、伝動比の異なる4段の変速段が設定されている。
【0025】
ここで、例えば主クラッチ30が入り状態となっている場合には、伝動軸21の回転が入力軸41を介して前後進切換装置40に伝達される。
【0026】
前後進切換装置40においては、シフト部材47がギヤ46a及び46bから離脱したニュートラル位置にあるときには、各ギヤ46a,46bは、それぞれ伝動軸45に対して空転している。シフト部材47がギヤ46a(又は46b)と係合している場合には、シフト部材47がその係合しているギヤ46a(又は46b)と共に回転して、伝動軸45を回転させる。
【0027】
このとき、ギヤ46aの回転を伝動軸45に伝達する場合と、ギヤ46bの回転を伝動軸45に伝達する場合では、中間ギヤ42aの作用により伝動軸45に伝達される回転方向が逆になる。即ち、ギヤ46bを介して伝動軸45に伝達される回転を、トラクタ1の前進方向の回転とすれば、ギヤ46aを介して伝動軸45に伝達される回転は、トラクタ1の後進方向の回転となり、該トラクタ1の前後進の切換えを行うことができる。
【0028】
伝動軸45によって回転が伝達される後部主変速装置20Bにおいては、シフト部材27がギヤ26a及びギヤ26bから離脱したニュートラル位置にあるときには、各ギヤ26a,26bは、それぞれ伝動軸45に対して空転している。シフト部材27がギヤ26a(又はギヤ26b)と係合している場合には、該シフト部材27がその係合しているギヤ26a(又はギヤ26b)と共に回転して伝動軸28を回転させる。
【0029】
即ち、後部主変速装置20Bは、ギヤ28a,28bと、これらギヤ28a,28bと常時噛合うギヤ26a,26bと、シフト部材27によりシンクロメッシュ方式の同期噛合式歯車変速装置で構成され、ギヤ28aとギヤ26a、ギヤ28bとギヤ26bの各噛合わせにより、伝動比の異なる2段の変速段が設定されている。これにより、前部主変速装置20A及び後部主変速装置20Bによって構成される主変速装置20では、伝動比の異なる8段の変速段が設定されることになる。
【0030】
伝動軸28に一体に固定されているギヤ28cは、一体に形成されたギヤ62a,62bを介して、また同様にギヤ28は、ギヤ63を介して、それぞれ副変速装置50に伝達される。
【0031】
副変速装置50においては、シフト部材53がギヤ52a及びギヤ52bから離脱したニュートラル位置にあるときには、各ギヤ52a,52bは、それぞれ出力軸51に対して空転している。シフト部材53がギヤ52a(又はギヤ52b)と係合している場合には、該シフト部材53がその係合しているギヤ52a(又はギヤ52b)と共に回転して出力軸51を回転させる。
【0032】
即ち、副変速装置50は、ギヤ52a,52bと、これらギヤ52a,52bと常時噛合うギヤ62b,63と、シフト部材53によりシンクロメッシュ方式の同期噛合式歯車変速装置で構成され、ギヤ52aとギヤ62b、ギヤ52bとギヤ63の各噛合わせにより、伝動比の異なる2段の変速段が設定されている。
【0033】
そして、出力軸51の回転は、ディファレンシャルギヤ71及び駆動車軸72を介して後輪3に伝達される。また、四輪駆動状態の場合には、出力軸51の回転が、ギヤ65、ギヤ66、伝動軸61、ギヤ64、クイックターン装置75、及びディファレンシャルギヤ17等を介して前輪2に伝達される。これにより、トラクタ1は走行駆動される。
【0034】
次に、主変速装置20及び主クラッチ30に係る走行変速油圧制御装置90について説明する。
【0035】
図4に示すように、オイルポンプ91から吐出された圧油は走行操作用として利用され、逆止弁92などを介して、主変速装置20及び主クラッチ30を油圧により制御する走行変速油圧制御装置90に供給される。走行変速油圧制御装置90に流入した圧油は、油温センサ93及び油圧センサ94によりその温度と圧力が検出され、後述する電気的な制御装置100へフィードバックされる。また、フィルタ95,97は逆止弁92の下流に配置されている。
【0036】
フィルタ95を通った圧油の一部は、比例圧力制御ソレノイドバルブ96へ供給されている。該比例圧力制御ソレノイドバルブ96は、電気信号による作動によって調圧され、該調圧された圧油は、フイルタ101及びシャトル弁102を介して主クラッチ30に送られ、前部主変速装置20Aと前後進切換装置40とが接続される。
【0037】
ソレノイドバルブ111は、後部主変速装置20Bのシフト部材27の位置を変位させるための油圧アクチュエータ112を制御する。該油圧アクチュエータ112のシフトピストン113は、ソレノイドバルブ111から供給される圧油により伸縮し、その停止位置は、ピン115により保持される。チェックバルブ117は、シフトピストン113が移動してピン115がシフトピストン113の切欠き部から軸部へ移動したとき解放され、主クラッチ30に供給される油圧を減圧して、該主クラッチ30の切り操作を行うo
【0038】
ソレノイドバルブ121とソレノイドバルブ122は、前部主変速装置20Aのシフト部材23の位置を変位させるための油圧アクチュエータ123を制御する。該油圧アクチュエータ123のシフトピストン125は、各ソレノイドバルブ121,122から供給される圧油により伸縮し、その停止位置は、ピン126により保持される。チェツクバルブ127は、シフトピストン125が移動してピン126がシフトピストン125の切欠き部から軸部へ移動したとき解放され、主クラッチ30に供給される油圧を減圧して、該主クラッチ30の切り操作を行う。
【0039】
ソレノイドバルブ131とソレノイドバルブ132は、前部主変速装置20Aのシフト部材25の位置を変位させるための油圧アクチュエータ133を制御する。該油圧アクチュエータ133のシフトピストン135は、各ソレノイドバルブ131,132から供給される圧油により伸縮し、その停止位置は、ピン136により保持される。チェックバルブ137は、シフトピストン135が移動してピン136がシフトピストン135の切欠き部から軸部へ移動したとき解放され、主クラッチ30に供給される油圧を減圧して、該主クラッチ30の切り操作を行う。
【0040】
なお、前部主変速装置20Aにおいては、該シフト部材23,25を移動させるシフトピストン125,135の切欠き部のいずれか1箇所に、ピン126又はピン136が係合したときに前部主変速装置20Aでの変速が完了する。また、シフト部材23がギヤ22a又はギヤ22bと、シフト部材25がギヤ22c又はギヤ22dとにそれぞれ同時に係合することができない構成になっている。従って、シフトピストン125,135の切欠き部のいずれか1箇所に、ピン126又はピン136が係合した場合に、主クラッチ30が入り状態となるように、チェックバルブ127,137は、直列に接続されている。
【0041】
次に、走行変速油圧制御装置90の作用について説明する。
【0042】
後述する主変速操作具(シフトアップスイッチSW1、シフトダウンスイッチSW2)の変速操作に基づいて、ソレノイドバルブ111から油圧アクチュエータ112に圧油が供給されると、シフトピストン113が伸長し、後部主変速装置20Bのシフト部材27を伝動軸45に沿って移動させる。これにより、例えば、油圧アクチュエータ112のシフトピストン113が伸長位置にあるとき、後部主変速装置20Bのシフト部材27をギヤ26aと噛合わせ、シフトピストン113が収締位置にあるときには、シフト部材27をギヤ26bと噛合うように位置決めする。
【0043】
また、主変速操作具の変速操作に基づいて、ソレノイドバルブ121から油圧アクチュエータ123に圧油が供給されると、シフトピストン125が伸長し、該ソレノイドバルブ122から油圧アクチュエータ123に圧油が供給されると、シフトピストン125が収縮し、前部主変速装置20Aのシフト部材23を伝動軸21に沿って移動させる。これにより、例えば、油圧アクチュエータ123のシフトピストン125が伸長位置にあるとき、前部主変速装置20Aのシフト部材23をギヤ22aと噛合わせ、シフトピストン125が収縮位置にあるときには、シフト部材23をギヤ22bと噛合わせる。また、図4に示すように、シフトピストン125が中間位置にあるときには、該シフト部材23は、ギヤ22a,22bと噛合わないニュートラル位置に位置決めされる。
【0044】
さらに、主変速操作具の変速操作に基づいて、ソレノイドバルブ131から油圧アクチュエータ133に圧油が供給されると、シフトピストン135が伸長し、該ソレノイドバルブ132から油圧アクチュエータ133に圧油が供給されると、シフトピストン135が収縮し、前部主変速装置20Aのシフト部材25を伝動軸21に沿って移動させる。これにより、例えば、油圧アクチュエータ133のシフトピストン135が伸長位置にあるとき、前部主変速装置20Aのシフト部材25をギヤ22cと噛合わせ、シフトピストン135が収縮位置にあるときには、シフト部材25をギヤ22dと噛合わせる。また、図4に示すように、シフトピストン135が中間位置にあるときには、該シフト部材25は、該ギヤ22c,22dと噛合わないニュートラル位置に位置決めされる。
【0045】
次に、トラクタ1に設けられる走行変速油圧制御装置90以外の油圧制御装置について説明する。
【0046】
図4に示すように、オイルポンプ91から吐出された圧油は、走行変速油圧制御装置90だけでなく、パワーステアリング装置140、前輪駆動油圧制御装置150及びブレーキ旋回油圧制御装置160にも供給される。パワーステアリング装置140には、ステアリングホイール141の操作に応じて油路を切換える手動バルブ142が組み込まれており、該手動バルブ142による油路の切換えでパワーステアリングシリンダ143が作動されるようになっている。また、前輪駆動油圧制御装置150には、前述したクイックターン装置75の作動状態を切換えるソレノイドバルブ151と、前輪駆動切換用の油圧アクチュエータ152の作動状態を切換えるソレノイドバルブ153とが組み込まれている。
【0047】
また、ブレーキ旋回油圧制御装置160には、ブレーキ旋回用の油圧アクチュエータ161L、161Rの作動状態を切換えるソレノイドバルブ162が組み込まれている。図5に示すように、油圧アクチュエータ161Lは、左側の後輪3を制動する左サイドブレーキ163Lに連繋され、機体左旋回時に左サイドブレーキ163Lを作動状態とすることにより、ブレーキ旋回状態を現出し、機体の小旋回を可能にする。一方、油圧アクチュエータ161Rは、右側の後輪3を制動する右サイドブレーキ163Rに連繋され、機体右旋回時に右サイドブレーキ163Rを作動状態とすることにより、ブレーキ旋回状態を現出し、機体の小旋回を可能にする。
【0048】
次に、運転席部8の周辺に配置される走行用操作具及び表示装置について説明する。
【0049】
図6に示すように、運転席部8の周辺には、前後進切換レバー171、走行副変速レバー172、シフトアップスイッチSW1、シフトダウンスイッチSW2などの走行用操作具が配置されている。前後進切換レバー171は、前述した前後進切換装置40を機械的に操作する操作具であり、ステアリングホイール141の左側方に配置されている。走行副変速レバー172は、前述した副変速装置50を機械的に操作する操作具であり、運転席部8の左側方に配置されている。シフトアップスイッチSW1及びシフトダウンスイッチSW2は、前述した主変速装置20を後述する電気・油圧制御により操作する操作具であり、走行副変速レバー172のグリップ部に配置されている。尚、シフトアップスイッチSW1及びシフトダウンスイッチSW2による主変速装置20の変速段は、レバー位置などによる確認が困難であるため、図7に示すように、メータパネル173内に設けられる主変速段表示部174において主変速装置20の変速段を表示するようにしてある。
【0050】
次に、制御装置(変速制御装置)100について説明する。
【0051】
図8に示すように、制御装置100は、出力側に、1速ソレノイドバルブ122、2速ソレノイドバルブ121、3速ソレノイドバルブ132、4速ソレノイドバルブ131、高低変速ソレノイドバルブ111、比例圧力制御ソレノイドバルブ96及びブレーキ用ソレノイドバルブ162(左ブレーキソレノイド162a、右ブレーキソレノイド162b)が接続されている。また、制御装置100の入力側には、シフトアップスイッチSW1、シフトダウンスイッチSW2、右操舵センサ101、左操舵センサ102、エンジン回転センサ105、車軸回転センサ106、油圧センサ94、油温センサ93、前後進センサ107、主クラッチセンサ108及び副変速センサ109(高速センサ109a、低速センサ109b)が接続されている。
【0052】
そして、制御装置100は、キースイッチの入り操作に応じて起動すると、シフトアップスイッチSW1、シフトダウンスイッチSW2、右操舵センサ101、左操舵センサ102、エンジン回転センサ105、車軸回転センサ106、油圧センサ94、油温センサ93、前後進センサ107、主クラッチセンサ108及び副変速センサ109(高速センサ109a、低速センサ109b)からの信号に基づいて、1速ソレノイドバルブ122,2速ソレノイドバルブ121,3速ソレノイドバルブ132,4速ソレノイドバルブ131、高低変速ソレノイドバルブ111、比例圧力制御ソレノイドバルブ96及びブレーキ用ソレノイドバルブ162(左ブレーキソレノイド162a、右ブレーキソレノイド162b)の作動を制御する。これにより、前部主変速装置20Aのシフト部材23及びシフト部材25、後部主変速装置20Bのシフト部材27、主クラッチ30等の切換え操作が行われ、主変速装置20の変速作動及び主クラッチ30の入り切り作動が行われる。例えば、図9に示すような組み合せで、1速ソレノイドバルブ122,2速ソレノイドバルブ121,3速ソレノイドバルブ132,4速ソレノイドバルブ131及び高低変速ソレノイドバルブ111の作動を制御することにより、中立ポジションN(走行停止ポジション)も含めて9段の主変速操作を行うようことが可能になる。
【0053】
次に、本発明の特徴的な構成について説明する。
【0054】
本発明のトラクタ1は、前述したように、走行動力を段階的に変速する主変速装置20と、人為的なスイッチ操作に応じて主変速装置20を変速作動させる制御装置100とを備えるものであって、制御装置100は、シフトアップスイッチSW1の操作に応じて主変速装置20の変速ポジションを一段ずつシフトアップさせる一方、シフトダウンスイッチSW2の操作に応じて主変速装置20の変速ポジションを一段ずつシフトダウンさせ、さらに、シフトアップスイッチSW1やシフトダウンスイッチSW2で操作可能な変速ポジションには、機体を走行停止状態に保つ走行停止ポジションが含まれる。
【0055】
このようにすると、シフトアップスイッチSW1及びシフトダウンスイッチSW2の操作に応じて主変速装置20の変速ポジションを一段ずつシフトアップ及びシフトダウンさせるものでありながら、シフトアップスイッチSW1やシフトダウンスイッチSW2で操作可能な変速ポジションに、機体を走行停止状態に保つ走行停止ポジションが含まれるので、停止・発進スイッチを設けなくても、機体の走行停止操作や再発進操作が可能になる。これにより、必要なスイッチ数を減らすことができるので、操作が容易になるだけでなく、コストダウンも図れる。
【0056】
また、制御装置100は、主変速装置20を中立ポジションNとし、かつ、左右いずれかのサイドブレーキ163L、163Rを作動させることで、機体を走行停止状態に保つことが好ましい。このようにすると、機体を確実に走行停止状態に保ち、機械的な連れ回りや外力による機体の微動を防止することができる。つまり、前後進切換レバー171が前進位置(F)又は後進位置(R)、走行副変速レバー172が高速位置(H)又は低速位置(L)の状態では、主変速装置20を中立ポジションNにスイッチ操作しても、主変速装置20や主クラッチ30の機械的な連れ回りや外力によって機体が微動する可能性があるが、本実施形態では、左右いずれかのサイドブレーキ163L、163Rを作動させるので、ことで、機体を走行停止状態に保つことができる。しかも、サイドブレーキ163L、163Rを利用するので、別途ブレーキ装置を追加する必要もない。
【0057】
また、制御装置100は、変速ポジションが走行停止ポジションであっても、機体走行速度が所定速度以上のときは、サイドブレーキ163L、163Rを作動させないことが好ましい。例えば、車軸回転センサ106の検出信号にもとづいて車速を演算し、演算した車速が所定速度以上(例えば、0.2km/h以上)である場合は、変速ポジションが走行停止ポジションであっても、サイドブレーキ163L、163Rを作動させないようにする。このようにすると、ブレーキ作動による機体の不安定な挙動を防止することができる。具体的には、左右一対のサイドブレーキ163L、163Rのうち、いずれか一方を作動させて機体を走行停止状態に保つ場合、片側ブレーキによる機体の横ずれ現象を防止することができる。
【0058】
次に、制御装置100による変速制御の具体例を図10に沿って説明する。
【0059】
図10に示すように、変速制御では、副変速装置50における変速段の変更を判断し(S101)、該判断結果がNOである場合は、シフトアップスイッチSW1及びシフトダウンスイッチSW2の入り作動を判断する(S102、S103)。ここで、シフトアップスイッチSW1が入り作動した場合は、変速段(主変速装置20の変速段設定用変数)を一段増加させ(S104)、シフトダウンスイッチSW2が入り作動した場合は、変速段を一段減少させる(S105)。また、副変速装置50の変速段が変更された場合は、高速側への変更か否かを判断し(S106)、該判断結果がYESの場合は、変速段を最低速段(1速)とし(S107)、NOの場合は、変速段を最高速段(8速)とする(S108)。これらの変速段変更処理を実行した場合は、前述したソレノイドバルブの制御により、主クラッチ30を切断させると共に(S109)、変更された変速段に応じて主変速装置20の各シフタ部材を作動させ(S110)、シフト完了を判断する(S111)。次に、変速段が中立ポジションNであるか否かを判断し(S112)、該判断結果がNOの場合は、右サイドブレーキ163Rの作動を解除した後(S113)、主クラッチ30の入り圧力を昇圧制御し(S114)、一回の変速作動が終わる。一方、変速段が中立ポジションNであると判断した場合は、車速が所定速度α未満(例えば、0.2km/h未満)であるか否かを判断し(S115)、該判断結果がYESの場合は、右サイドブレーキ163Rを作動させて機体を走行停止状態に保つ(S116)。また、車速が所定速度α以上である場合は、車速が所定速度α未満となるまで待ち、車速が所定速度α未満になってから右サイドブレーキ163Rを作動させる。
【0060】
叙述の如く構成された本実施形態によれば、走行動力を段階的に変速する主変速装置20と、人為的なスイッチ操作に応じて主変速装置20を変速作動させる制御装置100とを備えるトラクタ1において、制御装置100は、シフトアップスイッチSW1の操作に応じて主変速装置20の変速ポジションを一段ずつシフトアップさせる一方、シフトダウンスイッチSW2の操作に応じて主変速装置20の変速ポジションを一段ずつシフトダウンさせ、さらに、シフトアップスイッチSW1やシフトダウンスイッチSW2で操作可能な変速ポジションには、機体を走行停止状態に保つ走行停止ポジションが含まれるので、シフトアップスイッチSW1及びシフトダウンスイッチSW2の操作に応じて主変速装置20の変速ポジションを一段ずつシフトアップ及びシフトダウンさせるものでありながら、停止・発進スイッチを設けなくても、機体の走行停止操作や再発進操作が可能になる。これにより、必要なスイッチ数を減らすことができるので、操作が容易になるだけでなく、コストダウンも図れる。
【0061】
また、制御装置100は、主変速装置20を中立ポジションNとし、かつ、サイドブレーキ163L、163Rを作動させることで、機体を走行停止状態に保つので、機体を確実に走行停止状態に保ち、機械的な連れ回りや外力による機体の微動を防止することができる。
【0062】
また、制御装置100は、変速ポジションが走行停止ポジションであっても、機体走行速度が所定速度以上のときは、ブレーキ作動を行わないので、ブレーキ作動による機体の不安定な挙動を防止することができる。例えば、左右一対のサイドブレーキ163L、163Rのうち、いずれか一方を作動させて機体を走行停止状態に保つ場合、片側ブレーキによる機体の横ずれ現象を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】トラクタの側面図である。
【図2】ミッションケースの要部断面図である。
【図3】トラクタの伝動構成を示す伝動回路図である。
【図4】トラクタの油圧制御構成を示す油圧回路図である。
【図5】サイドブレーキ用の油圧アクチュエータを示す要部平面図である。
【図6】トラクタの運転席部周辺を示す平面図である。
【図7】メータパネルの正面図である。
【図8】トラクタの電気制御構成を示すブロック図である。
【図9】主変速装置の変速パターンを示す説明図である。
【図10】制御装置における変速制御の処理手順を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0064】
1 トラクタ
5 走行機体
20 主変速装置
30 主クラッチ
40 前後進切換装置
50 副変速装置
100 制御装置
163 サイドブレーキ
SW1 シフトアップスイッチ
SW2 シフトダウンスイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行動力を段階的に変速する走行主変速装置と、人為的なスイッチ操作に応じて走行主変速装置を変速作動させる変速制御装置とを備える作業用走行車において、
前記変速制御装置は、シフトアップスイッチの操作に応じて走行主変速装置の変速ポジションを一段ずつシフトアップさせる一方、シフトダウンスイッチの操作に応じて走行主変速装置の変速ポジションを一段ずつシフトダウンさせ、さらに、シフトアップスイッチ及び/又はシフトダウンスイッチで操作可能な変速ポジションには、機体を走行停止状態に保つ走行停止ポジションが含まれることを特徴とする作業用走行車。
【請求項2】
前記変速制御装置は、走行主変速装置を中立ポジションとし、かつ、ブレーキ装置を作動させることで、機体を走行停止状態に保つことを特徴とする請求項1記載の作業用走行車。
【請求項3】
前記変速制御装置は、変速ポジションが走行停止ポジションであっても、機体走行速度が所定速度以上のときは、ブレーキ装置を作動させないことを特徴とする請求項2記載の作業用走行車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−107486(P2009−107486A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−282051(P2007−282051)
【出願日】平成19年10月30日(2007.10.30)
【出願人】(000001878)三菱農機株式会社 (1,502)
【Fターム(参考)】