説明

作業車の後輪支持構造

【課題】 右及び左の後輪を機体にサスペンション機構を介して支持するように構成した
作業車の後輪支持構造において、機体の姿勢を安定したものにする。
【解決手段】 右及び左の前輪と、右及び左の後輪とを備えて、右及び左の後輪を機体に
サスペンション機構32を介して支持する。サスペンション機構32の作動範囲を規制可
能な規制手段36,37を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗用型田植機や乗用型直播機等の作業車における後輪支持構造に関する。
【背景技術】
【0002】
作業車の一例である乗用型田植機では、例えば特許文献1に開示されているように、右
及び左の前輪に対して、右及び左の後輪を機体にサスペンション機構を介して支持するよ
うに構成したものがあり、水田や路上での走行性能の向上を図っている。
右及び左の後輪を機体にサスペンション機構を介して支持する構造としては、特許文献
1に開示されているように、独立に上下揺動自在な右及び左の支持ケースの後端に右及び
左の後輪を支持する構造や、右及び左の後輪を備えた後車軸ケースを機体にサスペンショ
ン機構を介して支持する構造がある。
【0003】
【特許文献1】特開2003−81140号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
平坦な路上を走行することが大部分である乗用車に対して、作業車は一般に凹凸のある
作業地や傾斜した作業地を比較的低速で走行することが多く、機体の姿勢が変化すること
が多い。
本発明は右及び左の後輪を機体にサスペンション機構を介して支持するように構成した
作業車の後輪支持構造において、機体の姿勢を安定したものにすることができるように構
成することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
[I]
(構成)
本発明の第1特徴は作業車の後輪支持構造において次のように構成することにある。
右及び左の前輪と、右及び左の後輪とを備えて、右及び左の後輪を、機体にサスペンシ
ョン機構を介して支持する。サスペンション機構の作動範囲を規制可能な規制手段を備え
る。
【0006】
(作用)
本発明の第1特徴によると、サスペンション機構が機体上昇限度及び機体下降限度の全
範囲で作動している状態において、規制手段によりサスペンション機構の作動範囲を規制
することにより、機体が所望の姿勢から外れる側にサスペンション機構が作動する状態を
規制することが可能になるのであり、機体が所望の姿勢となる範囲でサスペンション機構
が作動するように規制することが可能になる。
【0007】
(発明の効果)
本発明の第1特徴によると、右及び左の後輪を機体にサスペンション機構を介して支持
するように構成した作業車の後輪支持構造において、サスペンション機構の作動範囲を規
制可能に構成することにより、機体を所望の姿勢に安定したものにすることが可能になっ
て、作業車の走行性能を向上させることができた。
【0008】
[II]
(構成)
本発明の第2特徴は、本発明の第1特徴の作業車の後輪支持構造において次のように構
成することにある。
サスペンション機構の作動範囲を機体上昇限度側に規制する上昇側規制状態に設定可能
に規制手段を構成し、機体の後部に昇降駆動自在に連結された作業装置が上昇駆動される
と、規制手段により上昇側規制状態が設定されるように構成する。
【0009】
(作用)
本発明の第2特徴によると、本発明の第1特徴と同様に前項[I]に記載の「作用」を
備えており、これに加えて以下のような「作用」を備えている。
作業車の一例である乗用型田植機では、例えば深い水田に入って走行する場合、この状
態で機体の後部が下がると、機体の後部が田面に入り込んで田面を荒らしてしまうことが
ある。水田から畦を乗り越えて出て行く場合、畦を登る際に機体が前上がり状態になるの
で、この状態で機体の後部が下がると、水田から畦を乗り越えて出て行くことが困難にな
ることがある。
【0010】
作業車の一例である乗用型田植機では、例えば深い水田に入って走行する場合、田面の
位置に合わせて苗植付装置(作業装置に相当)を上昇駆動して走行するのであり、水田か
ら畦を乗り越えて出て行く場合には、苗植付装置(作業装置に相当)を上昇駆動して畦を
登る。
本発明の第2特徴によれば、機体の後部に昇降駆動自在に連結された作業装置が上昇駆
動されると、規制手段により上昇側規制状態が設定されるので(サスペンション機構の作
動範囲が機体上昇限度側に規制されて、サスペンション機構が機体上昇限度側で作動する
ことになるので)、機体の後部が下がる状態(サスペンション機構が規制された作動範囲
を越えて機体下降限度側に作動する状態)が防止される。
これにより、作業車の一例である乗用型田植機において、例えば深い水田に入って走行
する場合、機体の後部が田面に入り込んで田面を荒らしてしまう状態を防止することがで
きるのであり、水田から畦を乗り越えて出て行く場合、機体の後部が下がって、水田から
畦を乗り越えて出て行くことが困難になる状態を防止することができる。
【0011】
(発明の効果)
本発明の第2特徴によると、本発明の第1特徴と同様に前項[I]に記載の「発明の効
果」を備えており、これに加えて以下のような「発明の効果」を備えている。
本発明の第2特徴によると、機体の後部に昇降駆動自在に連結された作業装置を上昇駆
動して走行する場合、機体の後部が下がる状態を適切に防止することができるようになっ
て、作業装置を上昇駆動しての作業車の走行性能を向上させることができた。
【0012】
[III]
(構成)
本発明の第3特徴は、本発明の第2特徴の作業車の後輪支持構造において次のように構
成することにある。
機体の後部に昇降駆動されるリンク機構を備え、リンク機構の後部に作業装置を連結し
て、機体の後部に昇降駆動自在に作業装置を連結する。リンク機構が上昇駆動されると、
リンク機構によって規制手段により上昇側規制状態が設定されるように構成する。
【0013】
(作用)
本発明の第3特徴によると、本発明の第2特徴と同様に前項[I][II]に記載の「
作用」を備えており、これに加えて以下のような「作用」を備えている。
作業車において機体の後部に昇降駆動自在に作業装置を連結する場合、機体の後部に昇
降駆動されるリンク機構を備え、リンク機構の後部に作業装置を連結するように構成する
ことが多い。
本発明の第3特徴によれば、既存の構造と言ってよいリンク機構によって規制手段によ
り上昇側規制状態が設定されるので、規制手段により上昇側規制状態が設定されるように
する為の専用の機構が不要になる。
【0014】
(発明の効果)
本発明の第3特徴によると、本発明の第2特徴と同様に前項[I][II]に記載の「
発明の効果」を備えており、これに加えて以下のような「発明の効果」を備えている。
本発明の第3特徴によると、機体の後部に昇降駆動自在に連結された作業装置を上昇駆
動して走行する場合、規制手段により上昇側規制状態が設定されるようにする為の専用の
機構が不要になって、構造の簡素化の面で有利なものとなった。
【0015】
[IV]
(構成)
本発明の第4特徴は、本発明の第1特徴の作業車の後輪支持構造において次のように構
成することにある。
サスペンション機構の作動範囲を機体上昇限度側に規制する上昇側規制状態、及びサス
ペンション機構の作動範囲を機体下降限度側に規制する下降側規制状態に設定可能に、規
制手段を構成する。
【0016】
(作用)
本発明の第4特徴によると、本発明の第1特徴と同様に前項[I]に記載の「作用」を
備えており、これに加えて以下のような「作用」を備えている。
作業車の一例である乗用型田植機では、例えば深い水田に入って走行する場合、この状
態で機体の後部が下がると、機体の後部が田面に入り込んで田面を荒らしてしまうことが
ある。水田から畦を乗り越えて出て行く場合、畦を登る際に機体が前上がり状態になるの
で、この状態で機体の後部が下がると、水田から畦を乗り越えて出て行くことが困難にな
ることがある。畦から水田に入る場合、畦を下る際に機体が前下がり状態になるので、こ
の状態で機体の後部が上がると、畦から水田に入ることが困難になることがある。
【0017】
本発明の第4特徴によれば、機体の後部が下がると不都合な場合(例えば前述のように
乗用型田植機において、深い水田に入って走行する場合や水田から畦を乗り越えて出て行
く場合)、規制手段により上昇側規制状態を設定すればよい。これにより、サスペンショ
ン機構の作動範囲が機体上昇限度側に規制されて、サスペンション機構が規制された作動
範囲を越えて機体上昇限度側で作動することになり、機体の後部が下がる状態(サスペン
ション機構が機体下降限度側に作動する状態)を防止することができる。
機体の後部が上がると不都合な場合(例えば前述のように乗用型田植機において、畦か
ら水田に入る場合)、規制手段により下降側規制状態を設定すればよい。これにより、ス
ペンション機構の作動範囲が機体下降限度側に規制されて、サスペンション機構が機体下
降限度側で作動することになり、機体の後部が上がる状態(サスペンション機構が規制さ
れた作動範囲を越えて機体上昇限度側に作動する状態)を防止することができる。
【0018】
(発明の効果)
本発明の第4特徴によると、本発明の第1特徴と同様に前項[I]に記載の「発明の効
果」を備えており、これに加えて以下のような「発明の効果」を備えている。
本発明の第4特徴によると、機体の後部が下がる状態及び上がる状態を適切に防止する
ことができるようになって、作業車の走行性能を向上させることができた。
【0019】
[V]
(構成)
本発明の第5特徴は、本発明の第4特徴の作業車の後輪支持構造において次のように構
成することにある。
機体の前後傾斜を検出する傾斜検出手段を備える。機体が前上がり状態になると上昇側
規制状態が設定され、機体が前下がり状態になると下降側規制状態が設定されるように、
規制手段を作動させる制御手段を備える。
【0020】
(作用)
本発明の第5特徴によると、本発明の第4特徴と同様に前項[I][IV]に記載の「
作用」を備えており、これに加えて以下のような「作用」を備えている。
本発明の第5特徴によると、傾斜検出手段及び制御手段により、機体の前上がり状態及
び前下がり状態に応じて、上昇側規制状態及び下降側規制状態が自動的且つ適切に設定さ
れるようになる。
【0021】
(発明の効果)
本発明の第5特徴によると、本発明の第4特徴と同様に前項[I][IV]に記載の「
発明の効果」を備えており、これに加えて以下のような「発明の効果」を備えている。
本発明の第5特徴によると、機体の前上がり状態及び前下がり状態に応じて、上昇側規
制状態及び下降側規制状態が自動的且つ適切に設定されるようになって、作業車の走行性
能を向上させることができた。
【0022】
[VI]
(構成)
本発明の第6特徴は、本発明の第1特徴の作業車の後輪支持構造において次のように構
成することにある。
サスペンション機構を所望の作動位置で固定可能に、規制手段を構成する。
【0023】
(作用)
本発明の第6特徴によると、本発明の第1特徴と同様に前項[I]に記載の「作用」を
備えており、これに加えて以下のような「作用」を備えている。
作業車の一例である乗用型田植機では、例えば深い水田に入って走行する場合、この状
態で機体の後部が下がると、機体の後部が田面に入り込んで田面を荒らしてしまうことが
ある。水田から畦を乗り越えて出て行く場合、畦を登る際に機体が前上がり状態になるの
で、この状態で機体の後部が下がると、水田から畦を乗り越えて出て行くことが困難にな
ることがある。畦から水田に入る場合、畦を下る際に機体が前下がり状態になるので、こ
の状態で機体の後部が上がると、畦から水田に入ることが困難になることがある。
【0024】
本発明の第6特徴によれば、機体の後部が下がると不都合な場合(例えば前述のように
乗用型田植機において、深い水田に入って走行する場合や水田から畦を乗り越えて出て行
く場合)や、機体の後部が上がると不都合な場合(例えば前述のように乗用型田植機にお
いて、畦から水田に入る場合)、サスペンション機構を所望の作動位置で固定することに
より、機体の後部が下がる状態及び上がる状態を防止することができる。
【0025】
(発明の効果)
本発明の第6特徴によると、本発明の第1特徴と同様に前項[I]に記載の「発明の効
果」を備えており、これに加えて以下のような「発明の効果」を備えている。
本発明の第6特徴によると、機体の後部が下がる状態及び上がる状態を適切に防止する
ことができるようになって、作業車の走行性能を向上させることができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
[1]
図1に示すように、右及び左の前輪1、右及び左の後輪2を備えた機体の後部に、リン
ク機構3及びリンク機構3を昇降駆動する油圧シリンダ4が備えられており、リンク機構
3の後部に苗植付装置5(作業装置に相当)が支持されて、作業車の一例である乗用型田
植機が構成されている。
【0027】
図1に示すように、苗植付装置5は、伝動ケース6、伝動ケース6の後部に回転駆動自
在に支持された植付ケース7、植付ケース7の両端に備えられた一対の植付アーム8、接
地フロート9及び苗のせ台10等を備えて構成されている。これにより、苗のせ台10が
左右に往復横送り駆動されるのに伴って、植付ケース7が回転駆動され、苗のせ台10の
下部から植付アーム8が交互に苗を取り出して田面に植え付ける。
【0028】
図1に示すように、肥料を貯留するホッパー12及び繰り出し部13が運転座席11の
後側に固定されており、運転座席11の下側にブロア14が備えられている。接地フロー
ト9に作溝器15が備えられており、繰り出し部13と作溝器15とに亘ってホース16
が接続されている。これにより、前述のような苗の植え付けに伴って、ホッパー12から
肥料が所定量ずつ繰り出し部13によって繰り出され、ブロア14の送風により肥料がホ
ース16を通って作溝器15に供給されるのであり、作溝器15を介して肥料が田面に供
給される。肥料に代えて種籾をホッパー12に貯留することにより、ホッパー12から作
溝器15を介して種籾を田面に供給する直播作業も行うことができる(この場合、苗植付
装置5を停止させる)。
【0029】
[2]
次に、右及び左の前輪1、右及び左の後輪2の支持構造について説明する。
図1,3,5に示すように、機体の前部にミッションケース17が固定され、ミッショ
ンケース17の前部に連結された支持フレーム18に、エンジン19が支持されている。
角パイプ状の右及び左の機体フレーム21が、ミッションケース17の後部の上部に連結
されて後方に延出されており、ミッションケース17の後部と右及び左の機体フレーム2
1とに亘って、側面視三角形状の補強部材20が連結されている。
【0030】
図1,3,5に示すように、ミッションケース17の右及び左の横側面から右及び左の
前車軸ケース23が延出されて、右及び左の前車軸ケース23の端部に円筒状の支持部2
3aが斜め前方下方(縦軸芯P1参照)に向いて備えられている。右及び左の前輪1を支
持する前輪支持部24が、右及び左の前車軸ケース23の支持部23aに縦軸芯P1周り
に回転自在及び縦軸芯P1の方向にスライド自在に支持されている。図2及び図3に示す
ように、ミッションケース17の下部にピットマンアーム25が縦軸芯P8周りに揺動自
在に支持され後向きに延出されて、前輪支持部24とピットマンアーム25とに亘ってタ
イロッド26が接続されている。図1に示すように、ピットマンアーム25を揺動操作す
る操縦ハンドル27が備えられており、操縦ハンドル27によりピットマンアーム25を
揺動操作することによって、右及び左の前輪1を操向操作する。
【0031】
図1,3,5に示すように、後車軸ケース28が備えられて、後車軸ケース28に右及
び左の後輪2が支持されている。断面コ字状で縦長の右及び左のブラケット22が後車軸
ケース28の前部に固定され、右及び左のブラケット22の上部の横軸芯P2周りに、右
及び左の上リンク29が上下に揺動自在に支持されて前方に延出されており、右及び左の
機体フレーム21の中間部に固定されたブラケット21aの横軸芯P3周りに、右及び左
の上リンク29が上下に揺動自在に支持されている。
【0032】
図3,5,6に示すように、右及び左のブラケット22の下部に支持ピン31が横外向
きに固定されて、支持ピン31の横軸芯P4周りに右及び左の下リンク30が上下に揺動
自在に支持されて前方に延出されており、ミッションケース17の後部の下部の横軸芯P
5周りに、右及び左の下リンク30が上下に揺動自在に支持されている。右及び左の機体
フレーム21に受け部21bが固定されて、支持ピン31に受け部31aが固定されてお
り、右及び左の機体フレーム21の受け部21bと支持ピン31の受け部31aとに亘っ
て、右及び左のサスペンションバネ32(サスペンション機構に相当)が取り付けられて
いる。左の機体フレーム21の後端の前後軸芯P6周りに、ラテラルロッド34が上下に
揺動自在に支持され、後車軸ケース28の右の後部の前後軸芯P7周りに、ラテラルロッ
ド34が上下に揺動自在に支持されている。
【0033】
これにより、図3,5,6に示すように、後車軸ケース28が右及び左のサスペンショ
ンバネ32により上下動及びローリング自在に支持されるのであり、右及び左の上リンク
29、右及び左の下リンク30により後車軸ケース28の前後方向の位置が決められ、ラ
テラルロッド34により後車軸ケース28の左右方向の位置が決められる。
【0034】
[3]
次に、右及び左の前輪1への伝動構造について説明する。
図1及び図5に示すように、ミッションケース17の左の横側部に静油圧式無段変速装
置33が連結されており、エンジン19の動力が静油圧式無段変速装置33に伝動ベルト
35を介して伝達されている。静油圧式無段変速装置33の動力が、ギヤ型式の副変速装
置(図示せず)及び前輪デフ機構(図示せず)を介して、図7に示すように、右及び左の
前車軸ケース23の内部に配置された伝動軸63に伝達される。右及び左の前車軸ケース
23の支持部23aに、ベアリング67を介してベベルギヤ68(上側)及び受け部材6
9(下側)が支持され、伝動軸63に固定されたベベルギヤ66とベベルギヤ68とが咬
合している。伝動軸70がスプライン構造によりベベルギヤ68及び受け部材69と一体
回転及びスライド自在に取り付けられ、伝動軸70の下端にベベルギヤ71が固定されて
いる。
【0035】
図7に示すように、前輪支持部24に右(左)の前輪1を支持する車軸72、車軸72
に固定されたベベルギヤ73が備えられ、前輪支持部24の上端に円筒状のスリーブ74
が固定されている。前輪支持部24及びスリーブ74がベアリング75により伝動軸70
に回転自在に支持され、右及び左の前車軸ケース23の支持部23aとスリーブ74との
間にシール部材76が備えられて、ベベルギヤ71,73が咬合している。上側のベアリ
ング75に受け部材77が当て付けられて、受け部材69,77の間にサスペンションバ
ネ40が内側及び外側に二重に備えられている。
【0036】
これにより、図5及び図7に示すように、静油圧式無段変速装置33の動力が、伝動軸
63,70及び車軸72を介して右及び左の前輪1に伝達される。前輪支持部24が右及
び左の前車軸ケース23の支持部23aに縦軸芯P1周りに回転自在及び縦軸芯P1の方
向にスライド自在に支持されるのであり、前輪支持部24の縦軸芯P1の方向へのスライ
ドに対してサスペンションバネ40が作用する。
【0037】
[4]
次に、後車軸ケース28の右及び左の後輪2への伝動構造について説明する。
図2,3,5に示すように、ミッションケース17の後部の下部に走行出力軸78が備
えられ後向き突出して、前輪デフ機構(図示せず)の直前から分岐した動力が走行出力軸
78に伝達されている。走行出力軸78の端部に自在継手82が取り付けられ、伝動軸8
4が円筒継手83(動力を伝達しながら自在継手82に対する伝動軸84のスライドを許
容する)を介して自在継手82に接続されている。後車軸ケース28の前部に入力軸38
が前向きに突出しており、伝動軸84と入力軸38とが自在継手82を介して接続されて
いる。
【0038】
図2に示すように、後車軸ケース28に伝動軸39が備えられ、入力軸38に固定され
たベベルギヤ38aが、伝動軸39に固定されたベベルギヤ39aに咬合している。伝動
軸39の右及び左の端部に、摩擦多板型式の右及び左のサイドクラッチ41が備えられて
おり、右及び左のサイドクラッチ41と右及び左の後輪2を支持する車軸43との間に、
伝動軸42が備えられている。これにより、図2及び図5に示すように、静油圧式無段変
速装置33の動力が、走行出力軸78、伝動軸84、入力軸38、伝動軸39、右及び左
のサイドクラッチ41、伝動軸42を介して右及び左の後輪2に伝達される。
【0039】
図2に示すように、右及び左のサイドクラッチ41はバネ(図示せず)により伝動状態
に付勢されており、右及び左のサイドクラッチ41を遮断状態に操作する右及び左の操作
アーム51が備えられて、ピットマンアーム25と右及び左の操作アーム51とに亘って
連係ロッド53が接続されている。図2に示す状態は、右及び左の前輪1(ピットマンア
ーム25)が直進位置A0に操向操作された状態で、右及び左のサイドクラッチ41が伝
動状態に操作された状態であり、右及び左の前輪1、右及び左の後輪2に動力が伝達され
ている。右及び左の前輪1が直進位置A0と右及び左の設定角度A1との間に操向操作さ
れていても、前述の状態となるのであり、機体は直進又は緩やかに右又は左に向きを変え
る。
【0040】
図2に示すように、右及び左の前輪1(ピットマンアーム25)が右の設定角度A1と
右の操向限度A2との間に操向操作されると、ピットマンアーム25による右の連係ロッ
ド53の引き操作によって、右の操作アーム53により右のサイドクラッチ41が遮断状
態に操作されて、右の後輪2が自由回転状態となる。この場合に、左のサイドクラッチ4
1は伝動状態に残されており、左の後輪2に動力が伝達されている。右及び左の前輪1(
ピットマンアーム25)が左の設定角度A1と左の操向限度A2との間に操向操作される
と、ピットマンアーム25による左の連係ロッド53の引き操作によって、左の操作アー
ム53により左のサイドクラッチ41が遮断状態に操作されて、左の後輪2が自由回転状
態となる。この場合に、右のサイドクラッチ41は伝動状態に残されており、右の後輪2
に動力が伝達されている。
【0041】
以上のように、右及び左の前輪1が右の設定角度A1と右の操向限度A2との間、又は
左の設定角度A1と左の操向限度A2との間に操向操作されると、右及び左の前輪1、旋
回外側の後輪2に動力が伝達された状態で、旋回中心側の後輪2への動力が遮断されて、
旋回中心側の後輪2が自由回転状態となり、右又は左への旋回が行われる。これにより、
旋回中心側の後輪2が旋回に伴って適度に回転しながら前進する状態となり、旋回時に旋
回中心側の後輪2によって田面が荒らされる状態が少なくなる。
【0042】
[5]
図1及び図3に示すように、リンク機構3はトップリンク3a及び右及び左のロアリン
ク3bによって構成されており、右及び左の機体フレーム21の後端部の横軸芯P9周り
に、リンク機構3の右及び左のロアリンク3bが上下に揺動自在に支持されている。図3
,4,5に示すように、後車軸ケース28の右及び左のフランジ部28aに、右及び左の
規制部材36(規制手段に相当)がボルトによって連結されており、リンク機構3の右及
び左のロアリンク3bの前端部に、右及び左のブラケット37(規制手段に相当)が連結
されて、右及び左のブラケット37に規制ピン37aが横外向きに連結されている。
【0043】
図1及び図3に示す状態は、標準的な深さの水田に入っている状態であり、苗植付装置
5(リンク機構3の右及び左のロアリンク3b)が下降駆動されて、接地フロート9が田
面に接地している状態である。図1及び図3に示す状態において、右及び左のサスペンシ
ョンバネ32が伸縮範囲(作動範囲)の中央位置に位置している状態であり、図1及び図
3に示す状態から右及び左のサスペンションバネ32が、伸長(機体の後部が上がる状態
に対応)及び収縮(機体の後部が下がる状態に対応)する。
【0044】
例えば深い水田に入って走行する場合、田面の位置に合わせて苗植付装置5(リンク機
構3の右及び左のロアリンク3b)を上昇駆動して走行する。この場合、図4の二点鎖線
に示すように、右及び左のブラケット37の規制ピン37aが位置B1となるまで、苗植
付装置5(リンク機構3の右及び左のロアリンク3b)を上昇駆動することが多い。この
ような状態になると、右及び左のブラケット37の規制ピン37aが右及び左の規制部材
36の上側に入り込む。
【0045】
これにより、右及び左の規制部材36が右及び左のブラケット37の規制ピン37aに
接当して、図4に示す状態から右及び左のサスペンションバネ32が収縮(機体の後部が
下がる状態に対応)できない状態となり、図4に示す状態から右及び左のサスペンション
バネ32が伸長(機体の後部が上がる状態に対応)できる状態となる(右及び左のサスペ
ンションバネ32の作動範囲を機体上昇限度側に規制する上昇側規制状態に相当)。
【0046】
例えば水田から畦を乗り越えて出て行く場合には、苗植付装置5(リンク機構3の右及
び左のロアリンク3b)を最上昇位置に上昇駆動して畦を登ることが多い。この場合、図
4の実線に示すように、右及び左のブラケット37の規制ピン37aが位置B2となるま
で、苗植付装置5(リンク機構3の右及び左のロアリンク3b)を上昇駆動する。このよ
うな状態になると、右及び左の規制部材36が右及び左のブラケット37の規制ピン37
aに接当する位置が少し移動するだけで、右及び左のブラケット37の規制ピン37aが
右及び左の規制部材36に接当する状態が維持される。
【0047】
これにより、右及び左の規制部材36が右及び左のブラケット37の規制ピン37aに
接当して、図4に示す状態から右及び左のサスペンションバネ32が収縮(機体の後部が
下がる状態に対応)できない状態となり、図4に示す状態から右及び左のサスペンション
バネ32が伸長(機体の後部が上がる状態に対応)できる状態となる(右及び左のサスペ
ンションバネ32の作動範囲を機体上昇限度側に規制する上昇側規制状態に相当)。
【0048】
[発明の実施の第1別形態]
前述の[発明を実施するための最良の形態]に代えて、図8に示すように構成してもよ
い。
図8に示すように、右及び左の機体フレーム21の受け部21bが横外方に延長され、
右及び左の機体フレーム21の受け部21bに電動シリンダ44(規制手段に相当)が下
向きに固定されている。長孔45aを備えた規制部材45(規制手段に相当)が電動シリ
ンダ44に取り付けられており、支持ピン31が規制部材45の長孔45aに挿入されて
いる。水平面に対する機体の前後傾斜を検出する傾斜センサー(図示せず)(傾斜検出手
段に相当)が備えられており、傾斜センサーの検出に基づいて制御装置(図示せず)(制
御手段に相当)により、電動シリンダ44が以下のように操作される。
【0049】
図8及び図9(イ)に示す状態は、機体が前後方向で略水平な状態で、右及び左のサス
ペンションバネ32が伸縮範囲(作動範囲)の中央位置C1に位置している状態であり、
支持ピン31が規制部材45の長孔45aの中央位置に位置している。図8及び図9(イ
)に示す状態で、右及び左のサスペンションバネ32が伸長限度C2(機体上昇限度)に
達すると、支持ピン31が規制部材45の長孔45aの下端部に達し、右及び左のサスペ
ンションバネ32が収縮限度C3(機体下降限度)に達すると、支持ピン31が規制部材
45の長孔45aの上端部に達するのであり、右及び左のサスペンションバネ32の伸縮
範囲(作動範囲)と規制部材45の長孔45aの範囲とが一致している。
【0050】
図8及び図9(イ)に示す状態において、傾斜センサーにより機体が水平面に対して前
上がり状態であることが検出されると、図9(ロ)に示すように、電動シリンダ44が伸
長操作されて、規制部材45が図9(ロ)に示す位置に下降駆動されて停止する。図9(
ロ)に示す状態において、規制部材45の長孔45aの上端部により、右及び左のサスペ
ンションバネ32は中央位置C1と伸長限度C2(機体上昇限度)の範囲でしか伸縮でき
ない状態となる(右及び左のサスペンションバネ32の作動範囲を機体上昇限度側に規制
する上昇側規制状態に相当)。
【0051】
この場合、図9(ロ)に示す状態から規制部材45をさらに下降駆動すると、右及び左
のサスペンションバネ32の作動範囲がさらに機体上昇限度側に規制されるのであり、規
制部材45の長孔45aの上端部が伸長限度C2(機体上昇限度)に位置するまで規制部
材45を下降駆動すると、右及び左のサスペンションバネ32が伸長限度C2(機体上昇
限度)で固定された状態となる。
【0052】
図8及び図9(イ)に示す状態において、傾斜センサーにより機体が水平面に対して前
下がり状態であることが検出されると、図9(ハ)に示すように、電動シリンダ44が収
縮操作されて、規制部材45が図9(ハ)に示す位置に上昇駆動されて停止する。図9(
ハ)に示す状態において、規制部材45の長孔45aの下端部により、右及び左のサスペ
ンションバネ32は中央位置C1と収縮限度C3(機体下降限度)の範囲でしか伸縮でき
ない状態となる(右及び左のサスペンションバネ32の作動範囲を機体下降限度側に規制
する下降側規制状態に相当)。
【0053】
この場合、図9(ハ)に示す状態から規制部材45をさらに上昇駆動すると、右及び左
のサスペンションバネ32の作動範囲がさらに機体下降限度側に規制されるのであり、規
制部材45の長孔45aの下端部が収縮限度C3(機体下降限度)に位置するまで規制部
材45を上昇駆動すると、右及び左のサスペンションバネ32が収縮限度C3(機体下降
限度)で固定された状態となる。
【0054】
[発明の実施の第2別形態]
前述の[発明を実施するための最良の形態][発明の実施の第1別形態]に代えて、図
10に示すように構成してもよい。
図10に示すように、右及び左の上リンク29における横軸芯P3の部分に円形のギヤ
46が連結されており、右及び左の上リンク29が横軸芯P3周りに上下に揺動するのに
伴って、ギヤ46が回転する。右及び左の機体フレーム21の横軸芯P10周りに、規制
アーム47(規制手段に相当)が上下に揺動自在に支持されており、規制アーム47の内
周部にギヤ部47aが形成されている。規制アーム47を上方側に付勢するバネ48が、
右及び左の機体フレーム21と規制アーム47とに亘って接続されており、機体に備えら
れた操作レバー(図示せず)と規制アーム47とに亘って連結リンク49が接続されてい
る。
【0055】
図10に示す状態は、操作レバーによりバネ48に抗して規制アーム47がギヤ46が
離れた位置に保持された状態であり、この状態で、右及び左のサスペンションバネ32が
作動範囲で作動する。
右及び左のサスペンションバネ32が所望の作動位置に伸縮した状態において、操作レ
バーによる保持を解除して、バネ48により規制アーム47をギヤ46に咬合させると、
右及び左のサスペンションバネ32を所望の作動位置で固定することができる。
【0056】
[発明の実施の第3別形態]
前述の[発明を実施するための最良の形態][発明の実施の第1別形態][発明の実施
の第3別形態]において、図11に示すように、支持ピン31に固定されたアーム31b
と右及び左の機体フレーム21とに亘って、ダンパー50(ショックアブソーバ)(ガス
スプリング)を接続する構成を追加してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】乗用型田植機の全体左側面図
【図2】後車軸ケース、右及び左の後輪への伝動系を示す平面図
【図3】後車軸ケースの支持構造を示す右側面図
【図4】後車軸ケースの付近の右側面図
【図5】後車軸ケースの支持構造を示す平面図
【図6】後車軸ケースの付近の正面図
【図7】前輪支持部の付近の縦断正面図
【図8】発明の実施の第1別形態における後車軸ケースの付近の正面図
【図9】発明の実施の第1別形態における規制部材の状態を示す側面図
【図10】発明の実施の第2別形態における右の上リンク及び規制アームの付近の右側面図
【図11】発明の実施の第3別形態における右のサスペンションバネ及びダンパーの付近の右側面図
【符号の説明】
【0058】
1 右及び左の前輪
2 右及び左の後輪
3 リンク機構
5 作業装置
32 サスペンション機構
36,37,44,45,47 規制手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
右及び左の前輪と、右及び左の後輪とを備えて、右及び左の後輪を機体にサスペンショ
ン機構を介して支持すると共に、
前記サスペンション機構の作動範囲を規制可能な規制手段を備えてある作業車の後輪支
持構造。
【請求項2】
前記サスペンション機構の作動範囲を機体上昇限度側に規制する上昇側規制状態に設定
可能に、前記規制手段を構成し、
機体の後部に昇降駆動自在に連結された作業装置が上昇駆動されると、前記規制手段に
より上昇側規制状態が設定されるように構成してある請求項1に記載の作業車の後輪支持
構造。
【請求項3】
機体の後部に昇降駆動されるリンク機構を備え、前記リンク機構の後部に作業装置を連
結して、機体の後部に昇降駆動自在に作業装置を連結すると共に、
前記リンク機構が上昇駆動されると、前記リンク機構によって規制手段により上昇側規
制状態が設定されるように構成してある請求項2に記載の作業車の後輪支持構造。
【請求項4】
前記サスペンション機構の作動範囲を機体上昇限度側に規制する上昇側規制状態、及び
前記サスペンション機構の作動範囲を機体下降限度側に規制する下降側規制状態に設定可
能に、前記規制手段を構成してある請求項1に記載の作業車の後輪支持構造。
【請求項5】
機体の前後傾斜を検出する傾斜検出手段と、
機体が前上がり状態になると上昇側規制状態が設定され、機体が前下がり状態になると
下降側規制状態が設定されるように、前記規制手段を作動させる制御手段とを備えてある
請求項4に記載の作業車の後輪支持構造。
【請求項6】
前記サスペンション機構を所望の作動位置で固定可能に、前記規制手段を構成してある
請求項1に記載の作業車の後輪支持構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−273195(P2006−273195A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−97373(P2005−97373)
【出願日】平成17年3月30日(2005.3.30)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】