作業車の速度維持構造
【課題】 構成の複雑化を招くことなく、緻密な速度設定操作や操作力の軽減が可能で、操作性に優れた作業車の速度維持構造を提供する。
【解決手段】 速度設定レバー24を前進速度設定領域に操作すると、操作部材26が、無段変速装置7に補助揺動部材32を介して操作連係された中継揺動部材30を、その中継揺動部材30に対する補助揺動部材32の後進増速操作方向への揺動変位を規制しながら押圧操作することで、中立復帰装置14の作用に抗して無段変速装置7が前進変速操作され、かつ、その前進変速状態が、速度設定レバー24に対する保持機構25の保持作用で維持されるように、又、速度設定レバー24を退避位置に操作すると、操作部材26が、中継揺動部材30に対する補助揺動部材32の後進増速操作方向への揺動規制を解除することで、ペダル操作での無段変速装置7の後進変速操作が許容されるように構成した。
【解決手段】 速度設定レバー24を前進速度設定領域に操作すると、操作部材26が、無段変速装置7に補助揺動部材32を介して操作連係された中継揺動部材30を、その中継揺動部材30に対する補助揺動部材32の後進増速操作方向への揺動変位を規制しながら押圧操作することで、中立復帰装置14の作用に抗して無段変速装置7が前進変速操作され、かつ、その前進変速状態が、速度設定レバー24に対する保持機構25の保持作用で維持されるように、又、速度設定レバー24を退避位置に操作すると、操作部材26が、中継揺動部材30に対する補助揺動部材32の後進増速操作方向への揺動規制を解除することで、ペダル操作での無段変速装置7の後進変速操作が許容されるように構成した。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中立復帰装置の作用で中立状態に復帰保持される無段変速装置と、前記中立復帰装置の作用に抗した前記無段変速装置の前進変速操作と後進変速操作とが可能となるように前記無段変速装置に操作連係された変速ペダルと、前記中立復帰装置の作用に抗した前記無段変速装置の所望の前進変速状態での維持を可能にする速度維持装置とを備え、前記速度維持装置を、速度設定レバーの退避位置から前進増速操作方向への揺動操作で、その速度設定レバーと連動する操作部材が、前記無段変速装置に操作連係された中継揺動部材を押圧操作することにより、前記中立復帰装置の作用に抗して前記無段変速装置を前進変速操作し、かつ、保持機構の作用で、前記速度設定レバーを前進速度設定領域での所望の操作位置に保持することにより、前記中立復帰装置の作用による前記無段変速装置の前進変速状態から中立状態への復帰を阻止するように構成してある作業車の速度維持構造に関する。
【背景技術】
【0002】
上記のような作業車の速度維持構造においては、速度設定レバーの退避位置への揺動操作に連動して、操作部材が、無段変速装置に操作連係された中継揺動部材の揺動領域から外れた位置に変位することで、速度維持装置による速度設定が解除されて、変速ペダルによる無段変速装置の前進変速操作と後進変速操作とが許容されることになる。
【0003】
そして、従来では、速度設定レバーの退避位置を、速度設定レバーを退避位置に操作した状態では、操作部材が中継揺動部材の揺動方向で中継揺動部材の揺動領域から外れるように、速度設定レバーの前進速度設定領域から前進減速方向(後進増速方向)に大きく離れた位置に設定することや、速度設定レバーを退避位置に操作した状態では、操作部材が中継揺動部材の揺動方向と直交する方向で中継揺動部材の揺動領域から外れるように、速度設定レバーの前進速度設定領域から左右一側方に外れた位置に設定することが考えられていた(例えば特許文献1及び2参照)。
【特許文献1】特開2004−211776号公報
【特許文献2】特開2001−82597号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の従来技術において、速度設定レバーの退避位置を、速度設定レバーの前進速度設定領域から前進減速方向に大きく離れた位置に設定する場合には、限られたレバーガイド上において、速度設定レバーの操作領域として、前進速度設定領域だけでなく、変速ペダルによる無段変速装置の後進変速操作に連動した中継揺動部材の揺動を許容する空間を中継揺動部材と操作部材との間に形成するための領域をも確保する必要がある。そのため、レバーガイド上での前進速度設定領域がかなり狭くなり、これによって、速度設定レバーの動作を成立させる上で、緻密な速度設定を行い易くするために速度設定レバーの操作角を広くすると、その分、速度設定レバーの長さが短くなって大きい操作力を要することになる。逆に、操作力の軽減を図るために速度設定レバーの長さを長くすると、その分、速度設定レバーの操作角が狭くなって緻密な速度設定が行い難くなる。
【0005】
一方、速度設定レバーの退避位置を、速度設定レバーの前進速度設定領域から左右一側方に外れた位置に設定する場合には、速度設定レバーを、左右方向にも揺動操作可能な十字揺動式に構成する必要が生じ、これによって、構成の複雑化を招くとともに、速度設定操作の際には、速度設定レバーの左右方向への揺動操作と前後方向への揺動操作とを行う必要があることから、操作性の面で改善の余地がある。
【0006】
本発明の目的は、構成の複雑化を招くことなく、緻密な速度設定操作や操作力の軽減が可能で、操作性に優れた作業車の速度維持構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するための手段として、本発明のうちの請求項1に記載の発明では、中立復帰装置の作用で中立状態に復帰保持される無段変速装置と、前記中立復帰装置の作用に抗した前記無段変速装置の前進変速操作と後進変速操作とが可能となるように前記無段変速装置に操作連係された変速ペダルと、前記中立復帰装置の作用に抗した前記無段変速装置の所望の前進変速状態での維持を可能にする速度維持装置とを備え、前記速度維持装置を、速度設定レバーの退避位置から前進増速操作方向への揺動操作で、その速度設定レバーと連動する操作部材が、前記無段変速装置に操作連係された中継揺動部材を押圧操作することにより、前記中立復帰装置の作用に抗して前記無段変速装置を前進変速操作し、かつ、保持機構の作用で、前記速度設定レバーを前進速度設定領域での所望の操作位置に保持することにより、前記中立復帰装置の作用による前記無段変速装置の前進変速状態から中立状態への復帰を阻止するように構成してある作業車の速度維持構造において、前記中継揺動部材を、この中継揺動部材に相対揺動可能に装備した補助揺動部材を介して前記無段変速装置に操作連係し、前記操作部材が、前記速度設定レバーの前記前進速度設定領域への操作に連動して、前記補助揺動部材に係合して、この補助揺動部材の前記中継揺動部材に対する後進増速操作方向への揺動変位を規制し、かつ、前記速度設定レバーの前記退避位置への操作に連動して、前記補助揺動部材との係合を解除して、この補助揺動部材の前記中継揺動部材に対する後進増速操作方向への揺動規制を解除するように構成してある。
【0008】
この構成によると、速度設定レバーを前進速度設定領域において揺動操作すると、その操作に連動して、操作部材が、補助揺動部材との係合状態を維持して、この補助揺動部材の中継揺動部材に対する所定の揺動姿勢から後進増速操作方向(前進減速操作方向)への揺動変位を規制しながら、速度設定レバーの操作量に応じた操作量で中継揺動部材を押圧操作するようになり、これに伴って、中継揺動部材に補助揺動部材を介して操作連係された無段変速装置が、速度設定レバーの操作位置に応じた前進変速状態に変速操作され、かつ、無段変速装置に操作連係された変速ペダルが、速度設定レバーの操作位置に応じた前進変速操作状態に揺動変位し、又、保持機構の作用による速度設定レバーの操作保持で、その無段変速装置の前進変速状態と変速ペダルの前進変速操作状態とが維持される。
【0009】
そして、この速度維持状態では、保持機構の作用で操作保持された速度設定レバーに連動する操作部材が、補助揺動部材の後進増速操作方向(前進減速操作方向)への揺動変位を規制しながら中継揺動部材を押圧操作しているだけであることから、速度設定レバーによる設定速度から前進増速側での変速ペダルによる変速操作が許容される。
【0010】
一方、速度設定レバーを退避位置に揺動操作すると、その操作に連動して、操作部材が、補助揺動部材との係合を解除して、その係合で規制していた補助揺動部材の中継揺動部材に対する所定の揺動姿勢から後進増速操作方向(前進減速操作方向)への揺動変位を許容することから、その補助揺動部材に操作連係された無段変速装置が、中立復帰装置の作用で中立状態に復帰保持されるとともに、変速ペダルによる中立復帰装置の作用に抗した無段変速装置の前進変速操作及び後進変速操作が許容される。
【0011】
つまり、速度設定レバーによる前進速度の設定を可能にする前進速度設定領域から、その領域に沿う方向で、補助揺動部材に対する操作部材の係合状態と係合解除状態との切り換えを可能にする極小さい操作領域を隔てた位置を、速度設定レバーによる設定を解除して変速ペダルによる前後進変速操作を可能にする速度設定レバーの退避位置に設定することができる。
【0012】
これによって、速度設定レバーの揺動操作で、速度設定レバーによる設定速度で車体を前進走行させる定速前進状態と、その設定を解除して変速ペダルの操作量に応じた速度で車体を前後進させる通常走行状態とに、車体の走行状態を切り換える際の速度設定レバーの揺動操作方向と、その定速前進状態での前進速度を速度設定レバーの揺動操作で設定する際の速度設定レバーの揺動操作方向とを一致させて、速度設定レバーによるそれらの一連操作を行い易くしながらも、その走行状態の切り換えに要する操作領域としては、限られたレバーガイド上において、前進速度設定領域に沿う方向での速度設定レバーの退避位置と前進速度設定領域との間に、補助揺動部材に対する操作部材の係合状態と係合解除状態との切り換えを可能にする極小さい操作領域を確保するだけでよく、その結果、速度設定レバーとして十字揺動式のものを採用して、速度設定レバーの退避位置を、速度設定レバーの前進速度設定領域から直交する方向に外れた位置に設定する、といった構成を採用することなく、その限られたレバーガイド上での速度設定レバーの前進速度設定領域として広い領域を確保でき、もって、速度設定レバーの長さを長くして操作力の軽減を図れるようにしながらも、速度設定レバーの操作角として広い角度を確保することができ、速度設定レバーによる緻密な速度設定が行い易くなる。
【0013】
従って、構成の複雑化を招くことなく、速度設定レバーによる緻密な前進速度の設定が可能で、かつ、その設定操作、及び、通常走行状態と定速前進状態との切り換え操作に要する操作力の軽減を図れるようにしながらも、それらの操作方向を一致させることができて、それらの一連操作を行い易くすることができる、操作性に優れた作業車の速度維持構造を提供し得るに至った。
【0014】
本発明のうちの請求項2に記載の発明では、上記請求項1に記載の発明において、前記操作部材が、前記補助揺動部材を介して前記中継揺動部材を押圧操作するように構成してある。
【0015】
この構成によると、操作部材は、速度設定レバーが前進速度設定領域において揺動操作されると、その操作に連動して、補助揺動部材との係合状態を維持して、この補助揺動部材の中継揺動部材に対する所定の揺動姿勢から後進増速操作方向(前進減速操作方向)への揺動変位を規制しながら、速度設定レバーの操作量に応じた操作量で補助揺動部材を介して中継揺動部材を押圧操作することになる。
【0016】
つまり、補助揺動部材に作用する操作部材の係合箇所などを、中継揺動部材を押圧操作する操作部として有効利用することができ、もって、操作部材が直に中継揺動部材を押圧操作する構成を採用する場合のように、操作部材に、補助揺動部材に対する係合部と、中継揺動部材を押圧操作する操作部とを、それぞれ個別に備える必要がない。
【0017】
従って、操作部材の簡素化による速度維持構造の簡素化やコンパクト化を図りながら、操作性に優れた作業車の速度維持構造を提供できる。
【0018】
本発明のうちの請求項3に記載の発明では、上記請求項1又は2に記載の発明において、前記補助揺動部材を前記無段変速装置に操作連係する連係部材の一端部を、前記補助揺動部材と前記操作部材とのそれらの揺動軸心方向での相対変位を阻止するように、前記操作部材を跨いで前記補助揺動部材に連係してある。
【0019】
この構成によると、操作部材及び補助揺動部材のそれぞれの連係部を、板金製の幅狭のものに形成しても、公差などに起因したガタなどによる操作部材と補助揺動部材との連係部での位置ずれを防止でき、操作部材と補助揺動部材とを適切な連係状態又は連係可能状態に維持できる。
【0020】
従って、操作部材及び補助揺動部材の連係部に幅狭の板金材などを利用することによるコストの削減あるいは速度維持構造の簡素化やコンパクト化を図りながら、速度設定レバーによる速度設定操作を良好に行える操作性に優れた作業車の速度維持構造を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
図1には作業車の一例であるトラクタの全体側面が、又、図2にはその全体平面が示されており、このトラクタは、その前半部にエンジン1などを備えて原動部2が形成され、又、その後半部にステアリングホイール3や運転座席4などを備えて搭乗運転部5が形成され、かつ、エンジン1からの動力を、主クラッチ6を介して主変速装置として備えられた静油圧式無段変速装置7に伝達し、この静油圧式無段変速装置7からの変速動力を、走行用として、ミッションケース8に内蔵した走行伝動系を介して左右一対の前輪9及び後輪10に伝達し、又、静油圧式無段変速装置7からの非変速動力を、作業用として、ミッションケース8に内蔵した作業伝動系を介して、ミッションケース8の後端部に装備した動力取出軸11に伝達するように構成されている。
【0022】
ミッションケース8の後部には、油圧で昇降揺動駆動される左右一対のリフトアーム12や、これらのリフトアーム12と連動揺動するリンク機構13が備えられ、このリンク機構13を介して、各種の作業装置や荷台などを連結装備することができ、又、このリンク機構13に連結する作業装置に、動力取出軸11から取り出した動力を伝達することができる。
【0023】
図示は省略するが、走行伝動系は、副変速装置として備えられるギヤ式変速装置、後輪用の差動装置、及び、前輪用の補助クラッチなどを備えて構成され、作業伝動系は、作業クラッチなどを備えて構成されている。
【0024】
図1〜3に示すように、静油圧式無段変速装置7は、その右側部に装備した中立復帰装置14の作用で中立状態に復帰保持される。中立復帰装置14は、静油圧式無段変速装置7のトラニオン軸7aに一体連動装備したカムアーム15に形成したV字状のカム凹部15Aに、揺動アーム16の遊端に装備したローラ17を、引きバネ18の作用で係入付勢することで、静油圧式無段変速装置7を中立状態に復帰保持するように構成されている。
【0025】
カムアーム15のアーム部15Bは、搭乗運転部5の右前部に配備された変速ペダル19にロッド20を介して操作連係され、又、ミッションケース8の右側部に配備された速度維持装置21に、長さ調節可能な連係部材22を介して操作連係されている。
【0026】
変速ペダル19は、左右向きの支軸23を支点にした揺動操作が可能な天秤状のものであり、その前部側の踏み込み操作で、中立復帰装置14の作用に抗した静油圧式無段変速装置7の前進変速操作を行え、又、その後部側の踏み込み操作で、中立復帰装置14の作用に抗した静油圧式無段変速装置7の後進変速操作を行える。
【0027】
速度維持装置21は、前進速度設定領域での速度設定レバー24の揺動操作で、中立復帰装置14の作用に抗した静油圧式無段変速装置7の前進変速操作を行うレバー操作式で、かつ、摩擦式の保持機構25の作用で、速度設定レバー24を、中立復帰装置14の作用に抗して、前進速度設定領域での所望の操作位置に保持する摩擦保持式に構成され、その摩擦保持で、前進速度設定領域での速度設定レバー24の操作位置に応じた静油圧式無段変速装置7の前進変速状態を維持して定速前進状態を現出する。
【0028】
図3〜13に示すように、速度維持装置21において、速度設定レバー24は、側面視くの字状に形成された板金製の操作部材26を介して筒状の回転軸27に一体連動可能に固着されており、この回転軸27を支点にして、前進速度設定領域での前後揺動操作と、この前進速度設定領域の後方に設定した退避位置と前進速度設定領域とにわたる前後揺動操作とが行われる。
【0029】
回転軸27は、ミッションケース8の右側部にボルト連結されたプレート状の左右の支持部材28,29に相対回転可能に、かつ、相対摺動可能に支持されている。そして、回転軸27には、中継揺動部材30のボス部30Aが相対回転可能に支持され、この中継揺動部材30の遊端には、左右向きの支点ピン31が固着され、この支点ピン31には、二股状に形成された板金製の揺動部32Aを備える補助揺動部材32のボス部32Bが相対回転可能に装備され、その揺動部32Aの一方の遊端に、連係ピン33を介して連係部材22の一端部22Aが連結されている。
【0030】
補助揺動部材32は、揺動部32Aの他方の遊端に、左側の支持部材28に形成されたガイド孔28Aで案内される左右向きの係止ピン34が装備され、この係止ピン34と中継揺動部材30とに渡し掛けた状態で補助揺動部材32のボス部32Bに外嵌した捻りバネ35の作用で、その係止ピン34がガイド孔28Aの上縁に接当することで、中継揺動部材30に対する所定の基準姿勢に保持される。
【0031】
操作部材26は、その下側遊端後部に、速度設定レバー24の退避位置から前進速度設定領域への揺動操作に伴って、補助揺動部材32の揺動部32Aにおける他方の遊端に係合して、中継揺動部材30に対する補助揺動部材32の揺動変位を阻止し、かつ、速度設定レバー24の前進速度設定領域から退避位置への揺動操作に伴って、揺動部32Aの他方の遊端に対する係合を解除して、中継揺動部材30に対する補助揺動部材32の揺動変位を許容する係合凹部26Aが形成されており、速度設定レバー24が前進速度設定領域で揺動操作されると、中継揺動部材30に対する補助揺動部材32の揺動変位を阻止しながら、前進速度設定領域での速度設定レバー24の操作位置に応じた操作量で補助揺動部材32を押圧操作して、中継揺動部材30を、その基準姿勢(静油圧式無段変速装置7の中立状態に対応する姿勢)から後方の前進変速操作領域において揺動変位させる。
【0032】
ガイド孔28Aには、回転軸27を支点にして、左側の支持部材28における係止ピン34の基準位置(静油圧式無段変速装置7の中立状態に対応する位置)に対応する箇所から後方に向けて形成される円弧状の前進変速用ガイド部28aと、中継揺動部材30が基準姿勢となる状態で、支点ピン31を支点にして、左側の支持部材28における係止ピン34の基準位置に対応する箇所から下方に向けて形成される円弧状の後進変速用ガイド部28bと、前進変速用ガイド部28aの後端から上方に向けて形成される組み付け用の開口部28cとが備えられている。
【0033】
左側の支持部材28には、操作部材26との接当で、速度設定レバー24の退避位置から後方への揺動を規制するストッパ36が備えられ、又、操作部材26と左側の支持部材28とにわたって、速度設定レバー24をストッパ36に向けて揺動付勢する引きバネ37が架設されている。
【0034】
連係部材22は、その一端部22Aが、補助揺動部材32の揺動部32Aと操作部材26との、それらの揺動軸心方向である左右方向での相対変位を阻止するように、操作部材26を跨いだ状態で補助揺動部材32の揺動部32Aにピン連係される平面視コの字状に形成され、又、その一端部22Aには、変速ペダル19による静油圧式無段変速装置7の前進変速操作時に、補助揺動部材32に対する連係部材22の相対変位を許容する融通部としての長孔22Bが形成されている。
【0035】
保持機構25は、回転軸27における操作部材26と右側の支持部材29との間に、複数の摩擦ディスク38と、左右の支持部材28,29にわたる固定軸65によって回転が阻止された複数の固定プレート39と、操作部材26に突設した連係ピン26Bとの嵌合で操作部材26と一体揺動する複数の揺動プレート40とを外嵌装備し、付勢機構41による回転軸27の押圧操作で、それらのディスク38及びプレート39,40を介して、回転軸27に固着した操作部材26を右側の支持部材29に圧接することによって得られる摩擦保持力で、速度設定レバー24を、中立復帰装置14の作用や引きバネ37の作用に抗して、前進変速操作領域での所望の操作位置に保持する。
【0036】
付勢機構41は、左右の支持部材28,29に対して回転軸27と一体摺動し、かつ、回転軸27の相対回転を許容する摺動部材42、その摺動方向への揺動が可能となるように左側の支持部材28にピン連結された揺動アーム43、この揺動アーム43に摺動部材42を連動連結する連係ピン44、及び、揺動アーム43を右側の支持部材29に向けて揺動付勢する引きバネ45などを備え、その引きバネ45の作用による揺動アーム43の揺動で、連係ピン44を介して摺動部材42を摺動させることで、回転軸27とともに操作部材26を右側の支持部材29に向けて押圧操作する。
【0037】
揺動アーム43において、その揺動支点P0から引きバネ45の作用を受ける力点P1までの距離L1は、その揺動支点P0から摺動部材42及び回転軸27に作用する作用点P2までの距離L2よりも大きくなるように設定されており、これによって、引きバネ45で回転軸27を直に摺動操作する場合よりも高い摩擦保持力を得ることができる。
【0038】
揺動アーム43には、この揺動アーム43と摺動部材42との連動に伴う揺動アーム43に対する連係ピン44の相対変位を許容する融通部としての長孔43Aが形成されている。
【0039】
保持機構25は、搭乗運転部5における変速ペダル19の前方に、左右向きの支軸46を支点した揺動操作が可能となるように配備した左右の両ブレーキペダル47,48の踏み込み操作が行われた制動減速時に、速度設定レバー24の摩擦保持を解除するように、左右のブレーキペダル47,48に解除連係機構49を介して操作連係されている。
【0040】
解除連係機構49は、左側のブレーキペダル47と一体揺動する左揺動アーム50に一端部がピン連結された左リンク51の他端部と、右側のブレーキペダル48と一体揺動する右揺動アーム52に一端部がピン連結された右リンク53の他端部とを、連係リンク54、第1揺動アーム55、第2揺動アーム56、長さ調節可能な第1ロッド57、第3揺動アーム58、及び、第2ロッド59を介して、左側の支持部材28に装備した解除アーム60に連係して構成され、左右いずれか一方のブレーキペダル47,48が踏み込み操作された場合には、その操作に伴う左右のリンク51,53及び連係リンク54の相対揺動で、そのときの操作力を吸収することで、保持機構25による速度設定レバー24の保持状態を維持し、左右の両ブレーキペダル47,48が踏み込み操作された場合には、その操作に伴う左右のリンク51,53及び連係リンク54の一体変位で、そのときの操作力を解除アーム60に伝達し、その操作力で解除アーム60を揺動させて、揺動アーム43を引きバネ45の作用に抗する方向に揺動操作することで、保持機構25による速度設定レバー24の保持状態を解除する。
【0041】
そして、揺動アーム43において、その揺動支点P0から解除アーム60の作用を受ける力点P3までの距離L3は、その揺動支点P0から引きバネ45の作用を受ける力点P1までの距離L1よりも大きくなるように設定されており、これによって、引きバネ45の付勢力よりも小さい操作力で、回転軸27を引きバネ45の作用に抗する方向に摺動操作することができ、速度設定レバー24の摩擦保持を容易に解除できる。
【0042】
尚、連係リンク54には、左右いずれか一方のブレーキペダル47,48が踏み込み操作された際の左右のリンク51,53及び連係リンク54の相対揺動を許容する融通部としての長孔54Aが形成され、又、第1揺動アーム55には、この第1揺動アーム55と第2揺動アーム56との間での相対連動揺動を許容する融通部としての長孔(図示せず)が形成されている。
【0043】
左右のブレーキペダル47,48は、ミッションケース8に内蔵した左右の対応する制動装置62の操作軸62Aに連係機構63を介して操作連係されており、いずれか一方のブレーキペダル47,48を踏み込み操作して対応する制動装置62を作動させることで、その制動装置62により制動される後輪10を旋回内側とした制動旋回を行え、左右の両ブレーキペダル47,48を踏み込み操作して左右の両制動装置62を作動させることで、それらの制動装置62で左右の後輪10を制動する制動減速を行える。
【0044】
以上の構成から、左右向きの支軸24を支点にして、速度設定レバー25を、退避位置からその前進増速操作方向である前方に備えた前進速度設定領域に揺動操作すると、操作部材26の係合凹部26Aが、補助揺動部材32の他方の遊端に係合して、中継揺動部材30に対する補助揺動部材32の揺動変位を阻止するようになり、これによって、速度設定レバー25を、前進速度設定領域において揺動操作すると、操作部材26が、その前進速度設定領域での速度設定レバー25の操作位置に応じた操作量で、補助揺動部材32を介して、中継揺動部材30をガイド孔28Aの前進変速用ガイド部28aに沿って押圧揺動させるようになり、このときの中継揺動部材30の揺動操作量に応じた操作量で、静油圧式無段変速装置7が前進変速操作され、このときの前進変速状態が、保持機構25による速度設定レバー24の摩擦保持で維持され、結果、速度設定レバー24の操作位置に応じた前進速度で車体を走行させることができる。
【0045】
そして、この定速前進状態においては、静油圧式無段変速装置7に操作連係された変速ペダル19が、このときの静油圧式無段変速装置7の変速状態に応じた操作位置に、その操作位置から前進増速側での揺動が許容された状態で保持されることになり、結果、変速ペダル19の保持位置から前進増速側での踏み込み操作による前進変速操作が可能となる。
【0046】
又、この定速前進状態において、左右いずれかのブレーキペダル47,48を踏み込み操作すると、定速前進状態を維持しながら、そのときの踏み込み操作量に応じた制動力で対応する後輪10を制動させる制動旋回状態を現出でき、又、その踏み込み操作を解除すると、その制動旋回状態から定速前進状態に復帰させることができる。
【0047】
更に、この定速前進状態において、左右の両ブレーキペダル47,48を踏み込み操作すると、左右の制動装置62が左右の後輪10を制動する一方で、その操作力が解除連係機構49を介して保持機構25に伝達されて、保持機構25による速度設定レバー24の摩擦保持が解除されることで、定速前進状態から通常走行状態に切り換わり、引きバネ37の作用で速度設定レバー24が退避位置まで揺動操作され、かつ、中立復帰装置14の作用で、中継揺動部材30が補助揺動部材32とともにガイド孔28Aの前進変速用ガイド部28aに沿って揺動して基準姿勢に復帰することで、静油圧式無段変速装置7が中立状態に復帰するようになり、結果、左右の制動装置62による制動減速を良好に行える。
【0048】
そして、この通常走行状態では、速度設定レバー24が退避位置に位置することで、操作部材26の係合凹部26Aと補助揺動部材32の他方の遊端との係合が解除されて、中継揺動部材30に対する補助揺動部材32の揺動変位が許容されていることから、変速ペダル19による静油圧式無段変速装置7の後進変速操作時には、その操作に連動して、捻りバネ35の作用に抗して、補助揺動部材32が、ガイド孔28Aの後進変速用ガイド部28bに沿って、中継揺動部材30に対して揺動変位するようになり、中継揺動部材30は基準姿勢に維持されることになる。
【0049】
つまり、この通常走行状態において、操作部材26と補助揺動部材32との間に、それらの係合を解除して中継揺動部材30に対する補助揺動部材32の揺動変位を許容する程度の極小さい隙間が形成されるように、レバーガイド64(図2参照)での前進変速操作領域と退避位置との間に極短い操作領域を確保するだけで、通常走行状態での変速ペダル19による静油圧式無段変速装置7の後進変速操作を良好に行える。
【0050】
又、これによって、大きさが限られたレバーガイド64上での速度設定レバー24の前進速度設定領域として広い領域を確保でき、もって、速度設定レバー24の長さを長くして操作力の軽減を図れるようにしながらも、速度設定レバー24の操作角として広い角度を確保することができ、速度設定レバー24による緻密な前進速度の設定が行い易くなる。
【0051】
一方、通常走行状態での変速ペダル19による静油圧式無段変速装置7の前進変速操作時には、その操作力が連係部材22の一端部22Aに形成した長孔22Bで吸収されることから、その操作に伴う中継揺動部材30や補助揺動部材32の連動揺動を防止できる。
【0052】
〔別実施形態〕
以下、本発明の別実施形態を列記する。
〔1〕作業車としては、田植機やコンバインなどの農用作業車、ホイールローダなどの建設用作業車、あるいは、芝刈機や運搬車などであってもよい。
【0053】
〔2〕保持機構25としては、速度設定レバー24を係止保持するように構成したものであってもよい。
【0054】
〔3〕操作部材26を、補助揺動部材32との係合で、この補助揺動部材32の中継揺動部材30に対する後進増速操作方向への揺動変位のみを規制するように形成してもよい。尚、この場合には、ガイド孔28Aに、上記の実施形態で例示したような開口部28cを形成しない、又は、上記の実施形態で例示した開口部28cとは異なる形状の開口部28cを形成する、などの改良を施すことが望ましい。
【0055】
〔4〕操作部材26が、補助揺動部材32を介さずに、中継揺動部材30を直に押圧操作するように構成してもよい。
【0056】
〔5〕連係部材22の一端部22Aを、操作部材26を跨がせずに補助揺動部材32に連係してもよい。尚、この場合には、補助揺動部材32と操作部材26とのそれらの揺動軸心方向での相対変位によって、操作部材26による補助揺動部材32の押圧操作、あるいは、操作部材26と補助揺動部材32との係合に支障が生じないように、それらのいずれか一方の係合部や押圧部あるいは双方の係合部や押圧部を幅広に形成する、などの改良を施すことが望ましい。
【0057】
〔6〕変速ペダル19による静油圧式無段変速装置7の前進変速操作に伴って、中継揺動部材30又は補助揺動部材32あるいはそれらの双方が連動揺動するように構成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】トラクタの全体側面図
【図2】トラクタの全体平面図
【図3】無段変速装置に対する操作系を示す要部の側面図
【図4】速度維持装置の設定解除で変速ペダルを操作しない状態を示す要部の側面図
【図5】速度維持装置の設定解除で変速ペダルを前進増速操作した状態を示す部の側面図
【図6】速度維持装置の設定解除で変速ペダルを後進増速操作した状態を示す要部の側面図
【図7】速度維持装置の零速設定で変速ペダルを操作しない状態を示す要部の側面図
【図8】速度維持装置の零速設定で変速ペダルを前進増速操作した状態を示す要部の側面図
【図9】速度維持装置の前進設定で変速ペダルを操作しない状態を示す要部の側面図
【図10】速度維持装置における要部の分解斜視図
【図11】速度維持装置の構成を示す要部の縦断側面図
【図12】速度維持装置の保持構造を示す要部の縦断背面図
【図13】速度維持装置の解除構造を示す要部の横断平面図
【符号の説明】
【0059】
7 無段変速装置
14 中立復帰装置
19 変速ペダル
21 速度維持装置
22 連係部材
22A 一端部
24 速度設定レバー
25 保持機構
26 操作部材
30 中継揺動部材
32 補助揺動部材
【技術分野】
【0001】
本発明は、中立復帰装置の作用で中立状態に復帰保持される無段変速装置と、前記中立復帰装置の作用に抗した前記無段変速装置の前進変速操作と後進変速操作とが可能となるように前記無段変速装置に操作連係された変速ペダルと、前記中立復帰装置の作用に抗した前記無段変速装置の所望の前進変速状態での維持を可能にする速度維持装置とを備え、前記速度維持装置を、速度設定レバーの退避位置から前進増速操作方向への揺動操作で、その速度設定レバーと連動する操作部材が、前記無段変速装置に操作連係された中継揺動部材を押圧操作することにより、前記中立復帰装置の作用に抗して前記無段変速装置を前進変速操作し、かつ、保持機構の作用で、前記速度設定レバーを前進速度設定領域での所望の操作位置に保持することにより、前記中立復帰装置の作用による前記無段変速装置の前進変速状態から中立状態への復帰を阻止するように構成してある作業車の速度維持構造に関する。
【背景技術】
【0002】
上記のような作業車の速度維持構造においては、速度設定レバーの退避位置への揺動操作に連動して、操作部材が、無段変速装置に操作連係された中継揺動部材の揺動領域から外れた位置に変位することで、速度維持装置による速度設定が解除されて、変速ペダルによる無段変速装置の前進変速操作と後進変速操作とが許容されることになる。
【0003】
そして、従来では、速度設定レバーの退避位置を、速度設定レバーを退避位置に操作した状態では、操作部材が中継揺動部材の揺動方向で中継揺動部材の揺動領域から外れるように、速度設定レバーの前進速度設定領域から前進減速方向(後進増速方向)に大きく離れた位置に設定することや、速度設定レバーを退避位置に操作した状態では、操作部材が中継揺動部材の揺動方向と直交する方向で中継揺動部材の揺動領域から外れるように、速度設定レバーの前進速度設定領域から左右一側方に外れた位置に設定することが考えられていた(例えば特許文献1及び2参照)。
【特許文献1】特開2004−211776号公報
【特許文献2】特開2001−82597号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の従来技術において、速度設定レバーの退避位置を、速度設定レバーの前進速度設定領域から前進減速方向に大きく離れた位置に設定する場合には、限られたレバーガイド上において、速度設定レバーの操作領域として、前進速度設定領域だけでなく、変速ペダルによる無段変速装置の後進変速操作に連動した中継揺動部材の揺動を許容する空間を中継揺動部材と操作部材との間に形成するための領域をも確保する必要がある。そのため、レバーガイド上での前進速度設定領域がかなり狭くなり、これによって、速度設定レバーの動作を成立させる上で、緻密な速度設定を行い易くするために速度設定レバーの操作角を広くすると、その分、速度設定レバーの長さが短くなって大きい操作力を要することになる。逆に、操作力の軽減を図るために速度設定レバーの長さを長くすると、その分、速度設定レバーの操作角が狭くなって緻密な速度設定が行い難くなる。
【0005】
一方、速度設定レバーの退避位置を、速度設定レバーの前進速度設定領域から左右一側方に外れた位置に設定する場合には、速度設定レバーを、左右方向にも揺動操作可能な十字揺動式に構成する必要が生じ、これによって、構成の複雑化を招くとともに、速度設定操作の際には、速度設定レバーの左右方向への揺動操作と前後方向への揺動操作とを行う必要があることから、操作性の面で改善の余地がある。
【0006】
本発明の目的は、構成の複雑化を招くことなく、緻密な速度設定操作や操作力の軽減が可能で、操作性に優れた作業車の速度維持構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するための手段として、本発明のうちの請求項1に記載の発明では、中立復帰装置の作用で中立状態に復帰保持される無段変速装置と、前記中立復帰装置の作用に抗した前記無段変速装置の前進変速操作と後進変速操作とが可能となるように前記無段変速装置に操作連係された変速ペダルと、前記中立復帰装置の作用に抗した前記無段変速装置の所望の前進変速状態での維持を可能にする速度維持装置とを備え、前記速度維持装置を、速度設定レバーの退避位置から前進増速操作方向への揺動操作で、その速度設定レバーと連動する操作部材が、前記無段変速装置に操作連係された中継揺動部材を押圧操作することにより、前記中立復帰装置の作用に抗して前記無段変速装置を前進変速操作し、かつ、保持機構の作用で、前記速度設定レバーを前進速度設定領域での所望の操作位置に保持することにより、前記中立復帰装置の作用による前記無段変速装置の前進変速状態から中立状態への復帰を阻止するように構成してある作業車の速度維持構造において、前記中継揺動部材を、この中継揺動部材に相対揺動可能に装備した補助揺動部材を介して前記無段変速装置に操作連係し、前記操作部材が、前記速度設定レバーの前記前進速度設定領域への操作に連動して、前記補助揺動部材に係合して、この補助揺動部材の前記中継揺動部材に対する後進増速操作方向への揺動変位を規制し、かつ、前記速度設定レバーの前記退避位置への操作に連動して、前記補助揺動部材との係合を解除して、この補助揺動部材の前記中継揺動部材に対する後進増速操作方向への揺動規制を解除するように構成してある。
【0008】
この構成によると、速度設定レバーを前進速度設定領域において揺動操作すると、その操作に連動して、操作部材が、補助揺動部材との係合状態を維持して、この補助揺動部材の中継揺動部材に対する所定の揺動姿勢から後進増速操作方向(前進減速操作方向)への揺動変位を規制しながら、速度設定レバーの操作量に応じた操作量で中継揺動部材を押圧操作するようになり、これに伴って、中継揺動部材に補助揺動部材を介して操作連係された無段変速装置が、速度設定レバーの操作位置に応じた前進変速状態に変速操作され、かつ、無段変速装置に操作連係された変速ペダルが、速度設定レバーの操作位置に応じた前進変速操作状態に揺動変位し、又、保持機構の作用による速度設定レバーの操作保持で、その無段変速装置の前進変速状態と変速ペダルの前進変速操作状態とが維持される。
【0009】
そして、この速度維持状態では、保持機構の作用で操作保持された速度設定レバーに連動する操作部材が、補助揺動部材の後進増速操作方向(前進減速操作方向)への揺動変位を規制しながら中継揺動部材を押圧操作しているだけであることから、速度設定レバーによる設定速度から前進増速側での変速ペダルによる変速操作が許容される。
【0010】
一方、速度設定レバーを退避位置に揺動操作すると、その操作に連動して、操作部材が、補助揺動部材との係合を解除して、その係合で規制していた補助揺動部材の中継揺動部材に対する所定の揺動姿勢から後進増速操作方向(前進減速操作方向)への揺動変位を許容することから、その補助揺動部材に操作連係された無段変速装置が、中立復帰装置の作用で中立状態に復帰保持されるとともに、変速ペダルによる中立復帰装置の作用に抗した無段変速装置の前進変速操作及び後進変速操作が許容される。
【0011】
つまり、速度設定レバーによる前進速度の設定を可能にする前進速度設定領域から、その領域に沿う方向で、補助揺動部材に対する操作部材の係合状態と係合解除状態との切り換えを可能にする極小さい操作領域を隔てた位置を、速度設定レバーによる設定を解除して変速ペダルによる前後進変速操作を可能にする速度設定レバーの退避位置に設定することができる。
【0012】
これによって、速度設定レバーの揺動操作で、速度設定レバーによる設定速度で車体を前進走行させる定速前進状態と、その設定を解除して変速ペダルの操作量に応じた速度で車体を前後進させる通常走行状態とに、車体の走行状態を切り換える際の速度設定レバーの揺動操作方向と、その定速前進状態での前進速度を速度設定レバーの揺動操作で設定する際の速度設定レバーの揺動操作方向とを一致させて、速度設定レバーによるそれらの一連操作を行い易くしながらも、その走行状態の切り換えに要する操作領域としては、限られたレバーガイド上において、前進速度設定領域に沿う方向での速度設定レバーの退避位置と前進速度設定領域との間に、補助揺動部材に対する操作部材の係合状態と係合解除状態との切り換えを可能にする極小さい操作領域を確保するだけでよく、その結果、速度設定レバーとして十字揺動式のものを採用して、速度設定レバーの退避位置を、速度設定レバーの前進速度設定領域から直交する方向に外れた位置に設定する、といった構成を採用することなく、その限られたレバーガイド上での速度設定レバーの前進速度設定領域として広い領域を確保でき、もって、速度設定レバーの長さを長くして操作力の軽減を図れるようにしながらも、速度設定レバーの操作角として広い角度を確保することができ、速度設定レバーによる緻密な速度設定が行い易くなる。
【0013】
従って、構成の複雑化を招くことなく、速度設定レバーによる緻密な前進速度の設定が可能で、かつ、その設定操作、及び、通常走行状態と定速前進状態との切り換え操作に要する操作力の軽減を図れるようにしながらも、それらの操作方向を一致させることができて、それらの一連操作を行い易くすることができる、操作性に優れた作業車の速度維持構造を提供し得るに至った。
【0014】
本発明のうちの請求項2に記載の発明では、上記請求項1に記載の発明において、前記操作部材が、前記補助揺動部材を介して前記中継揺動部材を押圧操作するように構成してある。
【0015】
この構成によると、操作部材は、速度設定レバーが前進速度設定領域において揺動操作されると、その操作に連動して、補助揺動部材との係合状態を維持して、この補助揺動部材の中継揺動部材に対する所定の揺動姿勢から後進増速操作方向(前進減速操作方向)への揺動変位を規制しながら、速度設定レバーの操作量に応じた操作量で補助揺動部材を介して中継揺動部材を押圧操作することになる。
【0016】
つまり、補助揺動部材に作用する操作部材の係合箇所などを、中継揺動部材を押圧操作する操作部として有効利用することができ、もって、操作部材が直に中継揺動部材を押圧操作する構成を採用する場合のように、操作部材に、補助揺動部材に対する係合部と、中継揺動部材を押圧操作する操作部とを、それぞれ個別に備える必要がない。
【0017】
従って、操作部材の簡素化による速度維持構造の簡素化やコンパクト化を図りながら、操作性に優れた作業車の速度維持構造を提供できる。
【0018】
本発明のうちの請求項3に記載の発明では、上記請求項1又は2に記載の発明において、前記補助揺動部材を前記無段変速装置に操作連係する連係部材の一端部を、前記補助揺動部材と前記操作部材とのそれらの揺動軸心方向での相対変位を阻止するように、前記操作部材を跨いで前記補助揺動部材に連係してある。
【0019】
この構成によると、操作部材及び補助揺動部材のそれぞれの連係部を、板金製の幅狭のものに形成しても、公差などに起因したガタなどによる操作部材と補助揺動部材との連係部での位置ずれを防止でき、操作部材と補助揺動部材とを適切な連係状態又は連係可能状態に維持できる。
【0020】
従って、操作部材及び補助揺動部材の連係部に幅狭の板金材などを利用することによるコストの削減あるいは速度維持構造の簡素化やコンパクト化を図りながら、速度設定レバーによる速度設定操作を良好に行える操作性に優れた作業車の速度維持構造を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
図1には作業車の一例であるトラクタの全体側面が、又、図2にはその全体平面が示されており、このトラクタは、その前半部にエンジン1などを備えて原動部2が形成され、又、その後半部にステアリングホイール3や運転座席4などを備えて搭乗運転部5が形成され、かつ、エンジン1からの動力を、主クラッチ6を介して主変速装置として備えられた静油圧式無段変速装置7に伝達し、この静油圧式無段変速装置7からの変速動力を、走行用として、ミッションケース8に内蔵した走行伝動系を介して左右一対の前輪9及び後輪10に伝達し、又、静油圧式無段変速装置7からの非変速動力を、作業用として、ミッションケース8に内蔵した作業伝動系を介して、ミッションケース8の後端部に装備した動力取出軸11に伝達するように構成されている。
【0022】
ミッションケース8の後部には、油圧で昇降揺動駆動される左右一対のリフトアーム12や、これらのリフトアーム12と連動揺動するリンク機構13が備えられ、このリンク機構13を介して、各種の作業装置や荷台などを連結装備することができ、又、このリンク機構13に連結する作業装置に、動力取出軸11から取り出した動力を伝達することができる。
【0023】
図示は省略するが、走行伝動系は、副変速装置として備えられるギヤ式変速装置、後輪用の差動装置、及び、前輪用の補助クラッチなどを備えて構成され、作業伝動系は、作業クラッチなどを備えて構成されている。
【0024】
図1〜3に示すように、静油圧式無段変速装置7は、その右側部に装備した中立復帰装置14の作用で中立状態に復帰保持される。中立復帰装置14は、静油圧式無段変速装置7のトラニオン軸7aに一体連動装備したカムアーム15に形成したV字状のカム凹部15Aに、揺動アーム16の遊端に装備したローラ17を、引きバネ18の作用で係入付勢することで、静油圧式無段変速装置7を中立状態に復帰保持するように構成されている。
【0025】
カムアーム15のアーム部15Bは、搭乗運転部5の右前部に配備された変速ペダル19にロッド20を介して操作連係され、又、ミッションケース8の右側部に配備された速度維持装置21に、長さ調節可能な連係部材22を介して操作連係されている。
【0026】
変速ペダル19は、左右向きの支軸23を支点にした揺動操作が可能な天秤状のものであり、その前部側の踏み込み操作で、中立復帰装置14の作用に抗した静油圧式無段変速装置7の前進変速操作を行え、又、その後部側の踏み込み操作で、中立復帰装置14の作用に抗した静油圧式無段変速装置7の後進変速操作を行える。
【0027】
速度維持装置21は、前進速度設定領域での速度設定レバー24の揺動操作で、中立復帰装置14の作用に抗した静油圧式無段変速装置7の前進変速操作を行うレバー操作式で、かつ、摩擦式の保持機構25の作用で、速度設定レバー24を、中立復帰装置14の作用に抗して、前進速度設定領域での所望の操作位置に保持する摩擦保持式に構成され、その摩擦保持で、前進速度設定領域での速度設定レバー24の操作位置に応じた静油圧式無段変速装置7の前進変速状態を維持して定速前進状態を現出する。
【0028】
図3〜13に示すように、速度維持装置21において、速度設定レバー24は、側面視くの字状に形成された板金製の操作部材26を介して筒状の回転軸27に一体連動可能に固着されており、この回転軸27を支点にして、前進速度設定領域での前後揺動操作と、この前進速度設定領域の後方に設定した退避位置と前進速度設定領域とにわたる前後揺動操作とが行われる。
【0029】
回転軸27は、ミッションケース8の右側部にボルト連結されたプレート状の左右の支持部材28,29に相対回転可能に、かつ、相対摺動可能に支持されている。そして、回転軸27には、中継揺動部材30のボス部30Aが相対回転可能に支持され、この中継揺動部材30の遊端には、左右向きの支点ピン31が固着され、この支点ピン31には、二股状に形成された板金製の揺動部32Aを備える補助揺動部材32のボス部32Bが相対回転可能に装備され、その揺動部32Aの一方の遊端に、連係ピン33を介して連係部材22の一端部22Aが連結されている。
【0030】
補助揺動部材32は、揺動部32Aの他方の遊端に、左側の支持部材28に形成されたガイド孔28Aで案内される左右向きの係止ピン34が装備され、この係止ピン34と中継揺動部材30とに渡し掛けた状態で補助揺動部材32のボス部32Bに外嵌した捻りバネ35の作用で、その係止ピン34がガイド孔28Aの上縁に接当することで、中継揺動部材30に対する所定の基準姿勢に保持される。
【0031】
操作部材26は、その下側遊端後部に、速度設定レバー24の退避位置から前進速度設定領域への揺動操作に伴って、補助揺動部材32の揺動部32Aにおける他方の遊端に係合して、中継揺動部材30に対する補助揺動部材32の揺動変位を阻止し、かつ、速度設定レバー24の前進速度設定領域から退避位置への揺動操作に伴って、揺動部32Aの他方の遊端に対する係合を解除して、中継揺動部材30に対する補助揺動部材32の揺動変位を許容する係合凹部26Aが形成されており、速度設定レバー24が前進速度設定領域で揺動操作されると、中継揺動部材30に対する補助揺動部材32の揺動変位を阻止しながら、前進速度設定領域での速度設定レバー24の操作位置に応じた操作量で補助揺動部材32を押圧操作して、中継揺動部材30を、その基準姿勢(静油圧式無段変速装置7の中立状態に対応する姿勢)から後方の前進変速操作領域において揺動変位させる。
【0032】
ガイド孔28Aには、回転軸27を支点にして、左側の支持部材28における係止ピン34の基準位置(静油圧式無段変速装置7の中立状態に対応する位置)に対応する箇所から後方に向けて形成される円弧状の前進変速用ガイド部28aと、中継揺動部材30が基準姿勢となる状態で、支点ピン31を支点にして、左側の支持部材28における係止ピン34の基準位置に対応する箇所から下方に向けて形成される円弧状の後進変速用ガイド部28bと、前進変速用ガイド部28aの後端から上方に向けて形成される組み付け用の開口部28cとが備えられている。
【0033】
左側の支持部材28には、操作部材26との接当で、速度設定レバー24の退避位置から後方への揺動を規制するストッパ36が備えられ、又、操作部材26と左側の支持部材28とにわたって、速度設定レバー24をストッパ36に向けて揺動付勢する引きバネ37が架設されている。
【0034】
連係部材22は、その一端部22Aが、補助揺動部材32の揺動部32Aと操作部材26との、それらの揺動軸心方向である左右方向での相対変位を阻止するように、操作部材26を跨いだ状態で補助揺動部材32の揺動部32Aにピン連係される平面視コの字状に形成され、又、その一端部22Aには、変速ペダル19による静油圧式無段変速装置7の前進変速操作時に、補助揺動部材32に対する連係部材22の相対変位を許容する融通部としての長孔22Bが形成されている。
【0035】
保持機構25は、回転軸27における操作部材26と右側の支持部材29との間に、複数の摩擦ディスク38と、左右の支持部材28,29にわたる固定軸65によって回転が阻止された複数の固定プレート39と、操作部材26に突設した連係ピン26Bとの嵌合で操作部材26と一体揺動する複数の揺動プレート40とを外嵌装備し、付勢機構41による回転軸27の押圧操作で、それらのディスク38及びプレート39,40を介して、回転軸27に固着した操作部材26を右側の支持部材29に圧接することによって得られる摩擦保持力で、速度設定レバー24を、中立復帰装置14の作用や引きバネ37の作用に抗して、前進変速操作領域での所望の操作位置に保持する。
【0036】
付勢機構41は、左右の支持部材28,29に対して回転軸27と一体摺動し、かつ、回転軸27の相対回転を許容する摺動部材42、その摺動方向への揺動が可能となるように左側の支持部材28にピン連結された揺動アーム43、この揺動アーム43に摺動部材42を連動連結する連係ピン44、及び、揺動アーム43を右側の支持部材29に向けて揺動付勢する引きバネ45などを備え、その引きバネ45の作用による揺動アーム43の揺動で、連係ピン44を介して摺動部材42を摺動させることで、回転軸27とともに操作部材26を右側の支持部材29に向けて押圧操作する。
【0037】
揺動アーム43において、その揺動支点P0から引きバネ45の作用を受ける力点P1までの距離L1は、その揺動支点P0から摺動部材42及び回転軸27に作用する作用点P2までの距離L2よりも大きくなるように設定されており、これによって、引きバネ45で回転軸27を直に摺動操作する場合よりも高い摩擦保持力を得ることができる。
【0038】
揺動アーム43には、この揺動アーム43と摺動部材42との連動に伴う揺動アーム43に対する連係ピン44の相対変位を許容する融通部としての長孔43Aが形成されている。
【0039】
保持機構25は、搭乗運転部5における変速ペダル19の前方に、左右向きの支軸46を支点した揺動操作が可能となるように配備した左右の両ブレーキペダル47,48の踏み込み操作が行われた制動減速時に、速度設定レバー24の摩擦保持を解除するように、左右のブレーキペダル47,48に解除連係機構49を介して操作連係されている。
【0040】
解除連係機構49は、左側のブレーキペダル47と一体揺動する左揺動アーム50に一端部がピン連結された左リンク51の他端部と、右側のブレーキペダル48と一体揺動する右揺動アーム52に一端部がピン連結された右リンク53の他端部とを、連係リンク54、第1揺動アーム55、第2揺動アーム56、長さ調節可能な第1ロッド57、第3揺動アーム58、及び、第2ロッド59を介して、左側の支持部材28に装備した解除アーム60に連係して構成され、左右いずれか一方のブレーキペダル47,48が踏み込み操作された場合には、その操作に伴う左右のリンク51,53及び連係リンク54の相対揺動で、そのときの操作力を吸収することで、保持機構25による速度設定レバー24の保持状態を維持し、左右の両ブレーキペダル47,48が踏み込み操作された場合には、その操作に伴う左右のリンク51,53及び連係リンク54の一体変位で、そのときの操作力を解除アーム60に伝達し、その操作力で解除アーム60を揺動させて、揺動アーム43を引きバネ45の作用に抗する方向に揺動操作することで、保持機構25による速度設定レバー24の保持状態を解除する。
【0041】
そして、揺動アーム43において、その揺動支点P0から解除アーム60の作用を受ける力点P3までの距離L3は、その揺動支点P0から引きバネ45の作用を受ける力点P1までの距離L1よりも大きくなるように設定されており、これによって、引きバネ45の付勢力よりも小さい操作力で、回転軸27を引きバネ45の作用に抗する方向に摺動操作することができ、速度設定レバー24の摩擦保持を容易に解除できる。
【0042】
尚、連係リンク54には、左右いずれか一方のブレーキペダル47,48が踏み込み操作された際の左右のリンク51,53及び連係リンク54の相対揺動を許容する融通部としての長孔54Aが形成され、又、第1揺動アーム55には、この第1揺動アーム55と第2揺動アーム56との間での相対連動揺動を許容する融通部としての長孔(図示せず)が形成されている。
【0043】
左右のブレーキペダル47,48は、ミッションケース8に内蔵した左右の対応する制動装置62の操作軸62Aに連係機構63を介して操作連係されており、いずれか一方のブレーキペダル47,48を踏み込み操作して対応する制動装置62を作動させることで、その制動装置62により制動される後輪10を旋回内側とした制動旋回を行え、左右の両ブレーキペダル47,48を踏み込み操作して左右の両制動装置62を作動させることで、それらの制動装置62で左右の後輪10を制動する制動減速を行える。
【0044】
以上の構成から、左右向きの支軸24を支点にして、速度設定レバー25を、退避位置からその前進増速操作方向である前方に備えた前進速度設定領域に揺動操作すると、操作部材26の係合凹部26Aが、補助揺動部材32の他方の遊端に係合して、中継揺動部材30に対する補助揺動部材32の揺動変位を阻止するようになり、これによって、速度設定レバー25を、前進速度設定領域において揺動操作すると、操作部材26が、その前進速度設定領域での速度設定レバー25の操作位置に応じた操作量で、補助揺動部材32を介して、中継揺動部材30をガイド孔28Aの前進変速用ガイド部28aに沿って押圧揺動させるようになり、このときの中継揺動部材30の揺動操作量に応じた操作量で、静油圧式無段変速装置7が前進変速操作され、このときの前進変速状態が、保持機構25による速度設定レバー24の摩擦保持で維持され、結果、速度設定レバー24の操作位置に応じた前進速度で車体を走行させることができる。
【0045】
そして、この定速前進状態においては、静油圧式無段変速装置7に操作連係された変速ペダル19が、このときの静油圧式無段変速装置7の変速状態に応じた操作位置に、その操作位置から前進増速側での揺動が許容された状態で保持されることになり、結果、変速ペダル19の保持位置から前進増速側での踏み込み操作による前進変速操作が可能となる。
【0046】
又、この定速前進状態において、左右いずれかのブレーキペダル47,48を踏み込み操作すると、定速前進状態を維持しながら、そのときの踏み込み操作量に応じた制動力で対応する後輪10を制動させる制動旋回状態を現出でき、又、その踏み込み操作を解除すると、その制動旋回状態から定速前進状態に復帰させることができる。
【0047】
更に、この定速前進状態において、左右の両ブレーキペダル47,48を踏み込み操作すると、左右の制動装置62が左右の後輪10を制動する一方で、その操作力が解除連係機構49を介して保持機構25に伝達されて、保持機構25による速度設定レバー24の摩擦保持が解除されることで、定速前進状態から通常走行状態に切り換わり、引きバネ37の作用で速度設定レバー24が退避位置まで揺動操作され、かつ、中立復帰装置14の作用で、中継揺動部材30が補助揺動部材32とともにガイド孔28Aの前進変速用ガイド部28aに沿って揺動して基準姿勢に復帰することで、静油圧式無段変速装置7が中立状態に復帰するようになり、結果、左右の制動装置62による制動減速を良好に行える。
【0048】
そして、この通常走行状態では、速度設定レバー24が退避位置に位置することで、操作部材26の係合凹部26Aと補助揺動部材32の他方の遊端との係合が解除されて、中継揺動部材30に対する補助揺動部材32の揺動変位が許容されていることから、変速ペダル19による静油圧式無段変速装置7の後進変速操作時には、その操作に連動して、捻りバネ35の作用に抗して、補助揺動部材32が、ガイド孔28Aの後進変速用ガイド部28bに沿って、中継揺動部材30に対して揺動変位するようになり、中継揺動部材30は基準姿勢に維持されることになる。
【0049】
つまり、この通常走行状態において、操作部材26と補助揺動部材32との間に、それらの係合を解除して中継揺動部材30に対する補助揺動部材32の揺動変位を許容する程度の極小さい隙間が形成されるように、レバーガイド64(図2参照)での前進変速操作領域と退避位置との間に極短い操作領域を確保するだけで、通常走行状態での変速ペダル19による静油圧式無段変速装置7の後進変速操作を良好に行える。
【0050】
又、これによって、大きさが限られたレバーガイド64上での速度設定レバー24の前進速度設定領域として広い領域を確保でき、もって、速度設定レバー24の長さを長くして操作力の軽減を図れるようにしながらも、速度設定レバー24の操作角として広い角度を確保することができ、速度設定レバー24による緻密な前進速度の設定が行い易くなる。
【0051】
一方、通常走行状態での変速ペダル19による静油圧式無段変速装置7の前進変速操作時には、その操作力が連係部材22の一端部22Aに形成した長孔22Bで吸収されることから、その操作に伴う中継揺動部材30や補助揺動部材32の連動揺動を防止できる。
【0052】
〔別実施形態〕
以下、本発明の別実施形態を列記する。
〔1〕作業車としては、田植機やコンバインなどの農用作業車、ホイールローダなどの建設用作業車、あるいは、芝刈機や運搬車などであってもよい。
【0053】
〔2〕保持機構25としては、速度設定レバー24を係止保持するように構成したものであってもよい。
【0054】
〔3〕操作部材26を、補助揺動部材32との係合で、この補助揺動部材32の中継揺動部材30に対する後進増速操作方向への揺動変位のみを規制するように形成してもよい。尚、この場合には、ガイド孔28Aに、上記の実施形態で例示したような開口部28cを形成しない、又は、上記の実施形態で例示した開口部28cとは異なる形状の開口部28cを形成する、などの改良を施すことが望ましい。
【0055】
〔4〕操作部材26が、補助揺動部材32を介さずに、中継揺動部材30を直に押圧操作するように構成してもよい。
【0056】
〔5〕連係部材22の一端部22Aを、操作部材26を跨がせずに補助揺動部材32に連係してもよい。尚、この場合には、補助揺動部材32と操作部材26とのそれらの揺動軸心方向での相対変位によって、操作部材26による補助揺動部材32の押圧操作、あるいは、操作部材26と補助揺動部材32との係合に支障が生じないように、それらのいずれか一方の係合部や押圧部あるいは双方の係合部や押圧部を幅広に形成する、などの改良を施すことが望ましい。
【0057】
〔6〕変速ペダル19による静油圧式無段変速装置7の前進変速操作に伴って、中継揺動部材30又は補助揺動部材32あるいはそれらの双方が連動揺動するように構成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】トラクタの全体側面図
【図2】トラクタの全体平面図
【図3】無段変速装置に対する操作系を示す要部の側面図
【図4】速度維持装置の設定解除で変速ペダルを操作しない状態を示す要部の側面図
【図5】速度維持装置の設定解除で変速ペダルを前進増速操作した状態を示す部の側面図
【図6】速度維持装置の設定解除で変速ペダルを後進増速操作した状態を示す要部の側面図
【図7】速度維持装置の零速設定で変速ペダルを操作しない状態を示す要部の側面図
【図8】速度維持装置の零速設定で変速ペダルを前進増速操作した状態を示す要部の側面図
【図9】速度維持装置の前進設定で変速ペダルを操作しない状態を示す要部の側面図
【図10】速度維持装置における要部の分解斜視図
【図11】速度維持装置の構成を示す要部の縦断側面図
【図12】速度維持装置の保持構造を示す要部の縦断背面図
【図13】速度維持装置の解除構造を示す要部の横断平面図
【符号の説明】
【0059】
7 無段変速装置
14 中立復帰装置
19 変速ペダル
21 速度維持装置
22 連係部材
22A 一端部
24 速度設定レバー
25 保持機構
26 操作部材
30 中継揺動部材
32 補助揺動部材
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中立復帰装置の作用で中立状態に復帰保持される無段変速装置と、前記中立復帰装置の作用に抗した前記無段変速装置の前進変速操作と後進変速操作とが可能となるように前記無段変速装置に操作連係された変速ペダルと、前記中立復帰装置の作用に抗した前記無段変速装置の所望の前進変速状態での維持を可能にする速度維持装置とを備え、
前記速度維持装置を、速度設定レバーの退避位置から前進増速操作方向への揺動操作で、その速度設定レバーと連動する操作部材が、前記無段変速装置に操作連係された中継揺動部材を押圧操作することにより、前記中立復帰装置の作用に抗して前記無段変速装置を前進変速操作し、かつ、保持機構の作用で、前記速度設定レバーを前進速度設定領域での所望の操作位置に保持することにより、前記中立復帰装置の作用による前記無段変速装置の前進変速状態から中立状態への復帰を阻止するように構成してある作業車の速度維持構造であって、
前記中継揺動部材を、この中継揺動部材に相対揺動可能に装備した補助揺動部材を介して前記無段変速装置に操作連係し、
前記操作部材が、前記速度設定レバーの前記前進速度設定領域への操作に連動して、前記補助揺動部材に係合して、この補助揺動部材の前記中継揺動部材に対する後進増速操作方向への揺動変位を規制し、かつ、前記速度設定レバーの前記退避位置への操作に連動して、前記補助揺動部材との係合を解除して、この補助揺動部材の前記中継揺動部材に対する後進増速操作方向への揺動規制を解除するように構成してある作業車の速度維持構造。
【請求項2】
前記操作部材が、前記補助揺動部材を介して前記中継揺動部材を押圧操作するように構成してある請求項1に記載の作業車の速度維持構造。
【請求項3】
前記補助揺動部材を前記無段変速装置に操作連係する連係部材の一端部を、前記補助揺動部材と前記操作部材とのそれらの揺動軸心方向での相対変位を阻止するように、前記操作部材を跨いで前記補助揺動部材に連係してある請求項1又は2に記載の作業車の速度維持構造。
【請求項1】
中立復帰装置の作用で中立状態に復帰保持される無段変速装置と、前記中立復帰装置の作用に抗した前記無段変速装置の前進変速操作と後進変速操作とが可能となるように前記無段変速装置に操作連係された変速ペダルと、前記中立復帰装置の作用に抗した前記無段変速装置の所望の前進変速状態での維持を可能にする速度維持装置とを備え、
前記速度維持装置を、速度設定レバーの退避位置から前進増速操作方向への揺動操作で、その速度設定レバーと連動する操作部材が、前記無段変速装置に操作連係された中継揺動部材を押圧操作することにより、前記中立復帰装置の作用に抗して前記無段変速装置を前進変速操作し、かつ、保持機構の作用で、前記速度設定レバーを前進速度設定領域での所望の操作位置に保持することにより、前記中立復帰装置の作用による前記無段変速装置の前進変速状態から中立状態への復帰を阻止するように構成してある作業車の速度維持構造であって、
前記中継揺動部材を、この中継揺動部材に相対揺動可能に装備した補助揺動部材を介して前記無段変速装置に操作連係し、
前記操作部材が、前記速度設定レバーの前記前進速度設定領域への操作に連動して、前記補助揺動部材に係合して、この補助揺動部材の前記中継揺動部材に対する後進増速操作方向への揺動変位を規制し、かつ、前記速度設定レバーの前記退避位置への操作に連動して、前記補助揺動部材との係合を解除して、この補助揺動部材の前記中継揺動部材に対する後進増速操作方向への揺動規制を解除するように構成してある作業車の速度維持構造。
【請求項2】
前記操作部材が、前記補助揺動部材を介して前記中継揺動部材を押圧操作するように構成してある請求項1に記載の作業車の速度維持構造。
【請求項3】
前記補助揺動部材を前記無段変速装置に操作連係する連係部材の一端部を、前記補助揺動部材と前記操作部材とのそれらの揺動軸心方向での相対変位を阻止するように、前記操作部材を跨いで前記補助揺動部材に連係してある請求項1又は2に記載の作業車の速度維持構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2006−111161(P2006−111161A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−301538(P2004−301538)
【出願日】平成16年10月15日(2004.10.15)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年10月15日(2004.10.15)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】
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