説明

作業車両のエンジンオーバーラン防止制御装置

【課題】メカブレーキの効きを早めることなくエンジンのオーバーランを防止するようにして、エネルギーロスを抑制して、燃費悪化やブレーキ装置のクーリング能力低下を防止する。
【解決手段】エンジン回転数検出手段31で検出された実際のエンジン回転数Neが、エンジンの最大回転数を超えた場合には、実際のエンジン回転数Neが高くなるほどインチング率の下限値IRLを高く設定して、この実際のエンジン回転数に応じたインチング率の下限値IRLと、ブレーキ操作手段26のブレーキストロークSに対応するインチング率設定手段36で設定されたインチング率IRとのうちいずれか高い方のインチング率が得られるようにHST油圧ポンプ16の容量を調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静流体駆動式トランスミッション(HST;Hydro-Static Transmission)を搭載した作業車両のエンジンオーバーラン防止制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図1に示すように、フォークリフトなどの作業車両1には、静流体駆動式トランスミッション(HST;Hydro-Static Transmission)17が備えられたものがある。このような作業車両1では、HST17を構成するHST油圧ポンプ16の斜板16cと、HST油圧モータ18の斜板18cの各傾転角を調整して各容量を変化させることにより、変速が行われる。
【0003】
HSTを搭載した作業車両1には、アクセル操作手段(たとえばアクセルペダル)25とブレーキ操作手段(たとえばブレーキペダル)26と作業機操作レバー6が設けられている。アクセル操作手段25が踏み込み操作されると、アクセル開度に応じたエンジン回転数Neが得られるようにエンジン8が制御される。ブレーキ操作手段26はインチングの機能を兼用している。ブレーキ操作手段26が踏み込み操作されると、ブレーキ操作手段26のストロークSの増加に応じてメカニカルブレーキとしてのブレーキ装置22のブレーキ力としてのメカブレーキ率BRが増大するとともに、インチング率IRが低下するように、HST油圧ポンプ16の斜板16cが調整される。
【0004】
ここで、インチング率IRは、エンジン8の駆動力のHST油圧ポンプ16への分配比率を意味し、インチング率IRが低下するほどエンジン8の駆動力のHST油圧ポンプ16への分配比率が低下し、作業機油圧ポンプ9への分配比率が増加する。
【0005】
図2は、ブレーキストロークSとメカブレーキ率BRとの関係の特性L1、ブレーキストロークSとインチング率IRとの関係の特性L2を示す。
【0006】
また図3は、エンジン回転数NeとHSTポンプ16の吸収トルクTとの関係の特性L3、L3´を示しており、HST油圧ポンプ16の容量が低下してインチング率IRが低下すると、それに応じて実線で示す吸収トルクTが大きい特性L3から二点鎖線で示す吸収トルクTが小さい特性L3´へと変化する。
【0007】
オペレータがブレーキ操作手段26を踏み込み操作すると、図2に示す特性L1にしたがいブレーキストロークSの増加に応じてメカブレーキ率BRが増大し、ブレーキ装置22のブレーキ力が増大する。また図2に示す特性L2にしたがいブレーキストロークSの増加に応じてHST油圧ポンプ16の容量が低下しインチング率IRが低下する。これにより図3に示すように、HST油圧ポンプ16の吸収トルクTが低下する。HST油圧ポンプ16の吸収トルクTを低下させているのは、エンストを防止するためである。図2において、メカブレーキ率BRとインチング率IRが共に零よりも大きくなっている区間のことを「ラップ区間」という。ブレーキ操作手段26の操作感覚等を考慮して最適な特性L1、L2が得られるようにラップ区間が定められる。
【0008】
ブレーキ操作手段26が踏み込み操作され、インチング率IRが低下すると、駆動輪24から逆向きの駆動力(制動力)がエンジン側に伝達され、エンジンブレーキがかかり、エンジン8の回転数Neが規定の最大回転数NeHを越えて吹き上がる(エンジン8のオーバーラン)。これはHST油圧ポンプ16の容量が低下しているためである。
【0009】
エンジン8のオーバーランは、エンジン8およびエンジン8周りのコンポーネント(補機類)の損傷を招くことから、これを回避する必要がある。
【0010】
そこで、従来は、ブレーキ装置22によるメカブレーキの効きを早めて、駆動輪24からの駆動力をブレーキ装置22で吸収して、エンジン8のオーバーランを防止するようにしていた。つまり、図2において、特性L1を図中左側にシフトさせた特性L1´´(破線にて示す)にしてラップ量を大きくとり、ブレーキストロークSの初期段階でメカブレーキ率BRが立ち上げるようにしていた。
【0011】
本発明に関連する一般技術水準を示す特許文献としては、以下に示すものがある。
【0012】
下記特許文献1には、HSTを搭載したホイールショベルなどの作業車両において、車両がオーバーラン傾向となったときに、走行モータの容量を増加させて走行モータの出口側の主回路にブレーキ圧力を発生させて、このブレーキ圧力を油圧ポンプでトルク変換してエンジンに吸収させることによってブレーキ作用を得るという発明が記載されている。
【0013】
下記特許文献2には、HSTを搭載したホイールショベルなどの作業車両において、油圧ポンプの駆動軸に、ブレーキ装置付きのブレーキモータを接続し、車両がオーバーラン傾向となったときに、走行モータの容量を増加させて走行モータの出口側の主回路にブレーキ圧力を発生させるとともに、ブレーキモータの容量を増加させて、トルクをエンジンによって吸収させるとともに、ブレーキトルクを発生させることによって、オーバーランを防止せんとする発明が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2001−235032号公報
【特許文献2】特開2009−24747号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
作業車両としてのフォークリフトが架台にゆっくり接近しながら積荷をすばやく積込む作業を行う場合を想定する。このときオペレータは、アクセル操作手段25とブレーキ操作手段26と作業機操作レバー6を同時に操作する。ここで図2において、特性L1を図中左側にシフトさせた特性L1´´(破線にて示す)にしてラップ量を大きくとり、ブレーキストロークSの初期段階でメカブレーキ率BRが立ち上げるようにしていると、駆動輪24を一定の微速度で駆動させたいにもかかわらず、ブレーキを引き摺りながら車速を調整することになり、メカニカルロスが増大し、エネルギーロスが増大することになる。これにより燃料消費量の増加(燃費悪化)やブレーキ装置22のクーリング能力が追いつかなくおそれがある。このためブレーキ装置22のクーリング能力を高めるためにコストが増大するおそれが生じていた。
【0016】
本発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、メカブレーキの効きを早めることなくエンジンのオーバーランを防止するようにして、エネルギーロスを抑制して、燃費悪化やブレーキ装置のクーリング能力低下という問題を解決することを課題とするものである。
【0017】
なお、いずれの特許文献にも、かかる課題は示唆されておらず、メカブレーキの効きを早めることなくエンジンのオーバーランを防止するために必要な手段の開示はない。
【課題を解決するための手段】
【0018】
第1発明は、
エンジンと、
前記エンジンを駆動源として駆動される作業機油圧ポンプおよびHST油圧ポンプと、
前記HST油圧ポンプを含んで構成され、前記エンジンの駆動力を駆動輪に伝達する静流体駆動式トランスミッションと、
アクセル操作手段と、
前記アクセル操作手段のアクセル開度に応じた指令エンジン回転数が得られるように前記エンジンを制御するエンジン回転数制御手段と、
ブレーキ操作手段と、
前記ブレーキ操作手段のブレーキストロークに応じたブレーキ力を発生して前記駆動輪を制動するブレーキ装置と、
前記ブレーキ操作手段のブレーキストロークとインチング率の対応関係を設定するインチング率設定手段と、
前記エンジンの実際のエンジン回転数を検出するエンジン回転数検出手段と、
前記エンジン回転数検出手段で検出された実際のエンジン回転数が、所定の回転数以内に収まっている場合には、前記ブレーキ操作手段のブレーキストロークに対応する前記インチング率設定手段で設定されたインチング率が得られるように前記HST油圧ポンプの容量を調整するとともに、
前記エンジン回転数検出手段で検出された実際のエンジン回転数が、前記所定の回転数を超えた場合には、前記ブレーキ操作手段のブレーキストロークに対応する前記インチング率設定手段で設定されたインチング率よりも高いインチング率が得られるように前記HST油圧ポンプの容量を調整するポンプ容量制御手段と
を備えた作業車両のエンジンオーバーラン防止制御装置であることを特徴とする。
【0019】
第2発明は、第1発明において、
前記エンジン回転数検出手段で検出された実際のエンジン回転数が、前記所定の回転数を超えた場合には、実際のエンジン回転数が高くなるほどインチング率の下限値を高く設定して、この実際のエンジン回転数に応じたインチング率の下限値と、前記ブレーキ操作手段のブレーキストロークに対応する前記インチング率設定手段で設定されたインチング率とのうちいずれか高い方のインチング率が得られるように前記HST油圧ポンプの容量を調整すること
を特徴とする。
【0020】
第3発明は、
エンジンと、
前記エンジンを駆動源として駆動される作業機油圧ポンプおよびHST油圧ポンプと、
前記HST油圧ポンプを含んで構成され、前記エンジンの駆動力を駆動輪に伝達する静流体駆動式トランスミッションと、
アクセル操作手段と、
前記アクセル操作手段のアクセル開度に応じた指令エンジン回転数が得られるように前記エンジンを制御するエンジン回転数制御手段と、
ブレーキ操作手段と、
前記ブレーキ操作手段のブレーキストロークに応じたブレーキ力を発生して前記駆動輪を制動するブレーキ装置と、
前記ブレーキ操作手段のブレーキストロークとインチング率の対応関係を設定するインチング率設定手段と、
前記エンジンの実際のエンジン回転数を検出するエンジン回転数検出手段と、
前記HST油圧ポンプの吸込み側の圧力の時間変化率を計測する圧力時間変化率計測手段と、
前記エンジン回転数検出手段で検出された実際のエンジン回転数が、前記指令エンジン回転数以内に収まっている場合には、前記ブレーキ操作手段のブレーキストロークに対応する前記インチング率設定手段で設定されたインチング率が得られるように前記HST油圧ポンプの容量を調整するとともに、
前記エンジン回転数検出手段で検出された実際のエンジン回転数が、前記指令エンジン回転数を超えた場合であって、前記圧力時間変化率計測手段で計測された前記HST油圧ポンプの吸込み側の圧力の時間変化率が規定値以上になった場合には、前記ブレーキ操作手段のブレーキストロークに対応する前記インチング率設定手段で設定されたインチング率よりも高いインチング率が得られるように前記HST油圧ポンプの容量を調整するポンプ容量制御手段と
を備えた作業車両のエンジンオーバーラン防止制御装置であることを特徴とする。
【0021】
第4発明は、第3発明において、
前記エンジン回転数検出手段で検出された実際のエンジン回転数が、前記指令エンジン回転数を超えた場合であって、前記圧力時間変化率計測手段で計測された前記HST油圧ポンプの吸込み側の圧力の時間変化率が規定値以上になった場合には、当該圧力時間変化率が高くなるほどインチング率の下限値を高く設定して、この圧力時間変化率に応じたインチング率の下限値と、前記ブレーキ操作手段のブレーキストロークに対応する前記インチング率設定手段で設定されたインチング率とのうちいずれか高い方のインチング率が得られるように前記HST油圧ポンプの容量を調整すること
を特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
第1発明、第2発明によれば、実際のエンジン回転数が、所定の回転数を超えた場合には、ブレーキストロークに対応するインチング率よりも高いインチング率が得られるようにHST油圧ポンプの容量を調整するようにしたので、エンジンのオーバーラン回転数域で、駆動輪から駆動力がエンジン側に伝達され難くなり、エンジンのオーバーランを防止することができる。
【0023】
第3発明、第4発明によれば、実際のエンジン回転数が、指令エンジン回転数を超えた場合であって、HST油圧ポンプの吸込み側の圧力の時間変化率が規定値以上になった場合には、ブレーキストロークに対応するインチング率よりも高いインチング率が得られるようにHST油圧ポンプの容量を調整するようにしたので、急激なエンジン回転数の増加を抑制でき、エンジンのオーバーランを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は、作業車両の動力伝達系の構成を示す図である。
【図2】図2は、ブレーキストロークとメカブレーキ率との関係の特性およびブレーキストロークとインチング率との関係の特性を示す図である。
【図3】図3は、エンジン回転数とHSTポンプの吸収トルクとの関係の特性を示す図である。
【図4】図4は、作業車両としてのフォークリフトの車体の側面図である。
【図5】図5は、実施例の作業車両の動力伝達系の構成を示す図である。
【図6】図6は、実施例の作業車両の制御系の構成を示す図である。
【図7】図7は、エンジン回転数とインチング率下限値との対応関係を示す図である。
【図8】図8は、圧力上昇分とインチング率下限値との対応関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して本発明に係る作業車両のエンジンオーバーラン制御装置の実施の形態について説明する。なお、以下では、作業車両1としてフォークリフトを想定する。しかし、本発明は、フォークリフト以外の作業車両にも同様に適用することができる。
【0026】
図4は、作業車両1としてのフォークリフトの車体3の側面図である。
【0027】
同図4に示すように、作業車両1の車体3の前方には、作業機2としてのマスト4およびフォーク5が設けられている。マスト4は、車体3に左右一対のチルトシリンダ8を介して支持されている。
【0028】
運転席には、作業機操作レバー6と、走行方向指示レバー13と、アクセル操作手段25と、ブレーキ操作手段26が設けられている。アクセル操作手段25、ブレーキ操作手段13は、たとえば操作ペダルで構成される。
【0029】
走行方向指示レバー13は、操作に応じて車体3の走行方向、つまり前進方向Fまたは後進方向Rを指示する。
【0030】
作業機操作レバー6の操作に応じて作業機2が駆動されマスト4がチルトされたり、フォーク5がリフトされたりして、フォーク5に載せられた荷物の位置、姿勢を所望の位置、姿勢に変化させることができる。
【0031】
図5は、実施例の作業車両1の動力伝達系の構成を示す。
【0032】
作業車両1には、走行装置7と作業機2が備えられている。走行装置7は、エンジン8によって駆動される。作業機2は、エンジン8を駆動源として作業機油圧ポンプ9から吐出される圧油が制御弁10を介して作業機油圧アクチュエータ11に供給されることによって作動する。作業機操作レバー6の操作に応じて制御弁10の開度が変化する。
【0033】
アクセル操作手段25が踏み込み操作されると、アクセル開度に応じたエンジン回転数Neが得られるようにエンジン8が制御される。エンジン8の実際の回転数Neは、エンジン回転数検出手段31によって検出される。
【0034】
エンジン8の駆動力は、PTO軸14を介して作業機油圧ポンプ9およびHST油圧ポンプ16に伝達される。HST油圧ポンプ16から駆動輪24までの動力伝達系は、走行装置7を構成する。
【0035】
静流体駆動式トランスミッション(HST;Hydro-Static Transmission)17は、HST油圧ポンプ16と、HST油圧モータ18と、HST油圧ポンプ16の各ポート16a、16bと、HST油圧モータ18の各流入出口18a、18bとをそれぞれ連通する油路19A、19Bとからなる。ここで、説明の便宜上、HST油圧ポンプ16の一方のポート16aを「Aポート」と呼び、HST油圧ポンプ16の一方のポート16aとHST油圧モータ18の一方の流入出口18aとを連通する通路19Aを「Aポート側の通路」と呼ぶ。またHST油圧ポンプ16の他方のポート16bを「Bポート」と呼び、HST油圧ポンプ16の他方のポート16bとHST油圧モータ18の他方の流入出口18bとを連通する通路19Bを「Bポート側の通路」と呼ぶ。
【0036】
HST油圧ポンプ16の吐出側のポートをAポートまたはBポートに切り換えることにより、車体3は前進または後進する。HST油圧ポンプ16のAポート16aから圧油を吐出させると、車体3は前進する。このときHST油圧ポンプ16のBポート16bは吸込み側のポートとなる。HST油圧ポンプ16のBポート16bから圧油を吐出させると、車体3は後進する。このときHST油圧ポンプ16のAポート16aは吸込み側のポートとなる。Aポート側の通路19Aには、HST油圧ポンプ16のAポート16aの圧力(Aポート圧)を検出するAポート圧センサ32が設けられている。Bポート側の通路19Bには、HST油圧ポンプ16のBポート16bの圧力(Bポート圧)を検出するBポート圧センサ33が設けられている。
【0037】
また、HST油圧ポンプ16の斜板16cと、HST油圧モータ18の斜板18cの各傾転角を調整して各容量を変化させることにより、変速が行われる。
【0038】
HST油圧モータ18の駆動力は、デファレンシャルギア20を介してアクスル21に伝達される。アクスル21には、メカブレーキとしてのブレーキ装置22とファイナルギア23が設けられている。ファイナルギア23の出力軸は、駆動輪24に連結されている。このためエンジン8が稼動しており、アクセル操作手段25が踏み込み操作され、走行方向指示レバー13が前進方向F若しくは後進方向Rに操作された場合には、駆動輪24が回転駆動して前進走行または後進走行する。
【0039】
走行方向指示レバー13が操作されて前進方向Fが指示されると、HST油圧ポンプ16のAポート16aから圧油が吐出され、車体3は前進する。また、走行方向指示レバー13が操作されて後進方向Rが指示されると、HST油圧ポンプ16のBポート16bから圧油が吐出され、車体3は後進する。
【0040】
作業機油圧ポンプ9の駆動軸には、ブレーキ油圧ポンプ28が連結しており、エンジン8を駆動源としてブレーキ油圧ポンプ28が駆動される。ブレーキ油圧ポンプ28から吐出された圧油はブレーキバルブ29を介してブレーキ装置22に供給される。ブレーキバルブ29の開度は、ブレーキ操作手段26の操作量、つまりブレーキストロークSの増加に応じて大きくなり、それに応じてブレーキ油圧ポンプ28からブレーキ装置22に供給される油量が増大して、ブレーキ装置22で発生するブレーキ力が大きくなる。すなわちブレーキ操作手段26が踏み込み操作されると、その踏み込み操作量としてのブレーキストロークSの増加に応じて、メカブレーキ率BRが大きくなり、ブレーキ装置22で発生するブレーキ力が大きくなる。
【0041】
またブレーキ操作手段26が踏み込み操作されると、その踏み込み操作量としてのブレーキストロークSの増加に応じて、HST油圧ポンプ16の容量が小さくなり、HST油圧ポンプ16の吸収トルクTが低下する。つまりブレーキ操作手段26が踏み込み操作されると、インチング率IRが低下するようにHST油圧ポンプ16の斜板16cが調整される。
【0042】
したがって、ブレーキ操作手段26のブレーキストロークSが大きくなるほど、エンジン8から駆動輪24に伝達される駆動力が小さくなるとともに、ブレーキ装置22で発生するブレーキ力が大きくなり、車体3を停止状態にすることができる。
【0043】
このようにブレーキ操作手段26はインチングの機能を兼用している。
【0044】
ここで、インチング率IRは、エンジン8の駆動力のHST油圧ポンプ16への分配比率を意味し、インチング率IRが低下するほどエンジン8の駆動力のHST油圧ポンプ16への分配比率が低下し、作業機油圧ポンプ9への分配比率が増加する。
【0045】
図2は、ブレーキストロークSとメカブレーキ率BRとの関係の特性L1、ブレーキストロークSとインチング率IRとの関係の特性L2を示す。
【0046】
また図3は、エンジン回転数NeとHSTポンプ16の吸収トルクTとの関係の特性L3、L3´を示しており、HST油圧ポンプ16の容量が低下してインチング率IRが低下すると、それに応じて実線で示す吸収トルクTが大きい特性L3から二点鎖線で示す吸収トルクTが小さい特性L3´へと変化する。
【0047】
オペレータがブレーキ操作手段26を踏み込み操作すると、図2に示す特性L1にしたがいブレーキストロークSの増加に応じてメカブレーキ率BRが増大し、ブレーキ装置22のブレーキ力が増大する。また図2に示す特性L2にしたがいブレーキストロークSの増加に応じてHST油圧ポンプ16の容量が低下しインチング率IRが低下する。これにより図3に示すように、HST油圧ポンプ16の吸収トルクTが低下する。HST油圧ポンプ16の吸収トルクTを低下させているのは、エンストを防止するためである。図2において、メカブレーキ率BRとインチング率IRが共に零よりも大きくなっている区間のことを「ラップ区間」という。ブレーキ操作手段26の操作感覚等を考慮して最適な特性L1、L2が得られるようにラップ区間が定められる。
【0048】
ブレーキ操作手段26が踏み込み操作され、インチング率IRが低下すると、駆動輪24から駆動力(制動力)がエンジン8側に伝達され、エンジンブレーキがかかり、エンジン8の回転数Neが規定の最大回転数NeHを越えて吹き上がる(エンジン8のオーバーラン)おそれがある。これはHST油圧ポンプ16の容量が低下しているためである。
【0049】
エンジン8のオーバーランは、エンジン8およびエンジン8周りのコンポーネント(補機類)の損傷を招くことから、これを回避する必要がある。本実施例では、ブレーキ装置22によるメカブレーキの効きを早めることなく防止している。このエンジンオーバーラン防止制御について図6を参照して説明する。
【0050】
図6は、作業車両1の制御系の構成を示す。
【0051】
ブレーキ操作手段26には、ブレーキストロークSを検出するブレーキ検出手段35が設けられている。ブレーキ検出手段35は、たとえばポテンショメータで構成される。ブレーキ検出手段35の検出信号は、コントローラ30に入力される。
【0052】
エンジン回転数検出手段31で検出されたエンジン8の実際の回転数Neを示す信号は、コントローラ30に入力される。
【0053】
Aポート圧センサ32、Bポート圧センサ33の検出信号は、コントローラ30に入力される。
【0054】
走行方向指示レバー13には、走行方向指示レバー13により前進方向Fまたは後進方向Rを指示されていること、あるいは中立位置Nに位置されていることを検出するFRスイッチ27が設けられている。FRスイッチ27の検出信号は、コントローラ30に入力される。
【0055】
アクセル操作手段25には、踏込み操作量としてのアクセル開度を検出するアクセル開度検出手段34が設けられている。アクセル開度検出手段34は、たとえばポテンショメータで構成される。アクセル開度検出手段34の検出信号は、コントローラ30に入力される。
【0056】
コントローラ30には、インチング率設定手段36と、圧力時間変化率計測手段37と、エンジン回転数制御手段38と、第1オーバーラン防止係数計算部39と、第2オーバーラン防止係数計算部40と、条件判定部43と、小選択部44と、100%設定部45と、オン/オフ切換部46と、1/100乗算部47と、下限値演算部48と、大選択部49と、ポンプ容量制御手段50が設けられている。
【0057】
インチング率設定手段36では、ブレーキストロークSとインチング率IRの対応関係、つまり図2に示す特性L2が設定されている。ブレーキ検出手段35で検出された現在のブレーキストロークSを示す信号は、インチング率設定手段36に入力され、現在のブレーキストロークSに対応するインチング率IRが特性L2より読み出される。読み出されたインチング率IRは、下限値演算部48および大選択部49に入力される。
【0058】
エンジン回転数検出手段31で検出されたエンジン8の実際の回転数Neを示す信号は、第1オーバーラン防止係数計算部39および条件判定部43に入力される。
【0059】
圧力時間変化率計測手段37では、HST油圧ポンプ16の吸込み側ポートのポート圧の時間変化率が計測される。圧力時間変化率計測手段37は、Aポート圧センサ32、Bポート圧センサ33、FRスイッチ27の各検出信号に基づき計測を行う。
【0060】
すなわち、FRスイッチ27で前進方向Fが検出されている場合には、HST油圧ポンプ16の吸込み側ポートがBポート16bであるため、Bポート圧センサ33で検出されるBポート圧の単位時間当たりの圧力上昇分(kg/cm)が計測される。単位時間は、たとえば制御のサイクルである。同様にFRスイッチ27で後進方向Rが検出されている場合には、HST油圧ポンプ16の吸込み側ポートがAポート16aであるため、Aポート圧センサ32で検出されるAポート圧の単位時間当たりの圧力上昇分(kg/cm)が計測される。計測されたHST油圧ポンプ16の吸込み側ポートの単位時間当たりの圧力上昇分(kg/cm)は、第2オーバーラン防止係数計算部40に入力される。
【0061】
アクセル開度検出手段34で検出されたアクセル開度を示す信号は、エンジン回転数制御手段38および条件判定部43に入力される。
【0062】
エンジン回転数制御手段38では、アクセル操作手段25のアクセル開度に対応する指令エンジン回転数が求められる。そして、指令エンジン回転数が得られるようにエンジン8が制御される。ここで、指令エンジン回転数は、エンジン8の最大回転数NeHを越えた回転数、つまりエンジンオーバーラン域の回転数に設定されない。
【0063】
エンジン8の制御は、エンジン回転数制御手段38とガバナ41と燃料噴射ポンプ42によって行なわれる。
【0064】
エンジン回転数制御手段38は、指令エンジン回転数を得るための制御指令を生成し、ガバナ41に出力する。
【0065】
ガバナ41は、制御指令として与えられた指令エンジン回転数にするための燃料噴射量指令を生成し、燃料噴射ポンプ42に出力する。燃料噴射ポンプ42は、燃料噴射量指令として与えられた燃料噴射量が得られるようにエンジン8に燃料を噴射する。
【0066】
ポンプ容量制御手段50は、つぎのような制御を行なう。
【0067】
1)エンジン回転数検出手段31で検出された実際のエンジン回転数Neが、エンジン8の最大回転数NeH以内に収まっている場合には、ブレーキ操作手段26のブレーキストロークSに対応するインチング率設定手段36で設定されたインチング率IRが得られるようにHST油圧ポンプ16の容量を調整する。
【0068】
2)エンジン回転数検出手段31で検出された実際のエンジン回転数Neが、エンジン8の最大回転数NeHを超えた場合には、ブレーキ操作手段26のブレーキストロークSに対応するインチング率設定手段36で設定されたインチング率IRよりも高いインチング率IRLが得られるようにHST油圧ポンプ16の容量を調整する。
【0069】
上記2)の制御は、具体的な制御はつぎの3)のとおりである。
【0070】
3)エンジン回転数検出手段31で検出された実際のエンジン回転数Neが、エンジン8の最大回転数NeHを超えた場合には、実際のエンジン回転数Neが高くなるほどインチング率の下限値IRLを高く設定して、この実際のエンジン回転数Neに応じたインチング率の下限値IRLと、ブレーキ操作手段26のブレーキストロークSに対応するインチング率設定手段36で設定されたインチング率IRとのうちいずれか高い方のインチング率が得られるようにHST油圧ポンプ16の容量を調整する。
【0071】
4)エンジン回転数検出手段31で検出された実際のエンジン回転数Neが、指令エンジン回転数以内に収まっている場合には、ブレーキ操作手段26のブレーキストロークSに対応するインチング率設定手段36で設定されたインチング率IRが得られるようにHST油圧ポンプ16の容量を調整する。
【0072】
5)エンジン回転数検出手段31で検出された実際のエンジン回転数Neが、指令エンジン回転数を超えた場合であって、圧力時間変化率計測手段37で計測されたHST油圧ポンプ16の吸込み側の圧力の時間変化率が規定値以上になった場合には、ブレーキ操作手段26のブレーキストロークSに対応するインチング率設定手段36で設定されたインチング率IRよりも高いインチング率IRLが得られるようにHST油圧ポンプ16の容量を調整する。
【0073】
上記5)の制御は、具体的な制御はつぎの6)のとおりである。
【0074】
6)エンジン回転数検出手段31で検出された実際のエンジン回転数Neが、指令エンジン回転数を超えた場合であって、圧力時間変化率計測手段37で計測されたHST油圧ポンプ16の吸込み側の圧力の時間変化率が規定値以上になった場合には、当該圧力時間変化率が高くなるほどインチング率の下限値IRLを高く設定して、この圧力時間変化率に応じたインチング率の下限値IRLと、ブレーキ操作手段26のブレーキストロークSに対応するインチング率設定手段36で設定されたインチング率IRとのうちいずれか高い方のインチング率が得られるようにHST油圧ポンプ16の容量を調整する。
【0075】
すなわち、第1オーバーラン防止係数計算部39では、実際のエンジン回転数Neに応じて第1オーバーラン防止係数ks1が計算される。エンジン回転数Neがエンジン8の最大回転数NeH以内に収まっている場合には、第1オーバーラン防止係数ks1は、100%となる。実際のエンジン回転数Neが、エンジン8の最大回転数NeHを超えエンジンオーバーラン回転数域に達すると、実際のエンジン回転数Neが高くなるほど第1オーバーラン防止係数ks1が小さくなり、最小値0%に達すると、それ以上の回転数では最小値0%を維持する。
【0076】
第1オーバーラン防止係数計算部39で計算された第1オーバーラン防止係数ks1は、小選択部44に入力される。
【0077】
第2オーバーラン防止係数計算部40では、HST油圧ポンプ16の吸込み側ポートの単位時間当たりの圧力上昇分(kg/cm)に応じて第2オーバーラン防止係数ks2が計算される。圧力上昇分が規定値よりも下回っている場合には、第2オーバーラン防止係数ks2は、100%となる。圧力上昇分が規定値以上となると、圧力上昇分が高くなるほど第2オーバーラン防止係数ks2が小さくなる。なお、たとえば所定の圧力上昇分以上になると、第2オーバーラン防止係数ks2は、サチュレートし一定値を維持する。
【0078】
第2オーバーラン防止係数計算部40で計算された第2オーバーラン防止係数ks2は、小選択部44に入力される。
【0079】
小選択部44では、第1オーバーラン防止係数ks1と第2オーバーラン防止係数ks2とのうちいずれか小さい方が選択される。
【0080】
100%設定部45では、数値「100%」が設定されている。
【0081】
条件判定部43では、アクセル操作手段25のアクセル開度に対応する指令エンジン回転数が求められる。そして、エンジン回転数検出手段31で検出された実際のエンジン回転数Neが、指令エンジン回転数以内に収まっているか(オフ)、あるいはエンジン回転数検出手段31で検出された実際のエンジン回転数Neが、指令エンジン回転数を超えているか(オン)が判定される。この判定は、駆動輪24から駆動力(制動力)がエンジン8側に伝達されているかどうかを判定するために行うものである。実際のエンジン回転数Neが、指令エンジン回転数以内に収まっている場合には、駆動輪24から駆動力(制動力)がエンジン8側に伝達されてはおらずエンジンオーバーランを引き起こすおそれはないと判断して、判定値オフを出力する。また実際のエンジン回転数Neが、指令エンジン回転数を超えている場合には、駆動輪24から駆動力(制動力)がエンジン8側に伝達されておりエンジンオーバーランを引き起こすおそれがあると判断して、判定値オンを出力する。
【0082】
条件判定部43のオン/オフの判定値に応じてオン/オフ切換部46が切換動作する。
【0083】
判定値オフの場合には、オン/オフ切換部46はオフ側に切り換えられ、100%設定部45で設定された数値「100%」が1/100乗算部47に入力される。
【0084】
判定値オンの場合には、オン/オフ切換部46はオン側に切り換えられ、小選択部44で選択された第1オーバーラン防止係数ks1あるいは第2オーバーラン防止係数ks2が1/100乗算部47に入力される。
【0085】
1/100乗算部47では、入力された数値(100%または第1オーバーラン防止係数ks1あるいは第2オーバーラン防止係数ks2)に「1/100」が乗算される。乗算結果はオーバーラン防止係数ksとして下限値演算部48に入力される。
【0086】
下限値演算部48では、インチング率設定手段36より入力されたインチング率IRと、1/100乗算部47より入力されたオーバーラン防止係数ksと基づいて、下記の演算、
IRL=100%−ks×(100%−IR) …(1)
が行われ、インチング率下限値IRLが求められる。演算されたインチング率下限値IRLは、大選択部49に入力される。
【0087】
大選択部49では、インチング率設定手段36より入力されたインチング率IRと下限値演算部48より入力されたインチング率下限値IRLとのうちいずれか大きい方が選択される。大選択部49で選択されたインチング率IRあるいはインチング率下限値IRLは、ポンプ容量制御手段50に入力される。
【0088】
以下、上記1)〜6)の制御が行われる場合を例示する。
【0089】
例1) 条件判定部43から判定値オフが出力されている場合には、ポンプ容量制御手段50は、インチング率設定手段36で設定されたブレーキストロークSに応じたインチング率IRが得られるようにHST油圧ポンプ16の容量を調整する。これは上記1)または4)の制御が行われていることを意味する。
【0090】
例2) 条件判定部43から判定値オンが出力されている場合であっても、第1オーバーラン防止係数計算部39から100%の第1オーバーラン防止係数ks1が出力されており、第2オーバーラン防止係数計算部40から100%の第2オーバーラン防止係数ks2が出力されている場合には、ポンプ容量制御手段50は、インチング率設定手段36で設定されたブレーキストロークSに応じたインチング率IRが得られるようにHST油圧ポンプ16の容量を調整する。これは上記1)または4)の制御が行われていることを意味する。条件判定部43から判定値オンが出力されている場合であって、第1オーバーラン防止係数計算部39から100%の第1オーバーラン防止係数ks1が出力されている状態とは、たとえば駆動輪24から駆動力(制動力)がエンジン8側に伝達されてはいるものの未だエンジンオーバーラン回転数域には到達していない状態のときである。また条件判定部43から判定値オンが出力されている場合であって、第2オーバーラン防止係数計算部40から100%の第2オーバーラン防止係数ks2が出力されている状態とは、たとえば駆動輪24から駆動力(制動力)がエンジン8側に伝達されてはいるものの圧力上昇分が未だ規定値に達していない状態のときである。
【0091】
例3)条件判定部43から判定値オンが出力されており(実際のエンジン回転数Neは最大回転数NeHを越えており)、第1オーバーラン防止係数計算部39から100%よりも小さい第1オーバーラン防止係数ks1が出力されている場合には、ポンプ容量制御手段50は、下限値演算手段48で演算されたインチング率下限値IRLが得られるようにHST油圧ポンプ16の容量を調整する。これは上記2)あるいは3)の制御が行われていることを意味する。
【0092】
例4)条件判定部43から判定値オンが出力されており(実際のエンジン回転数Neは指令エンジン回転数を越えており)、第2オーバーラン防止係数計算部40から100%よりも小さい第2オーバーラン防止係数ks2が出力されている場合には、ポンプ容量制御手段50は、下限値演算手段48で演算されたインチング率下限値IRLが得られるようにHST油圧ポンプ16の容量を調整する。これは上記5)あるいは6)の制御が行われていることを意味する。
【0093】
例5)条件判定部43から判定値オンが出力されており(実際のエンジン回転数Neは最大回転数NeHを越えており(実際のエンジン回転数Neは指令エンジン回転数を越えており))、第1オーバーラン防止係数計算部39から100%よりも小さい第1オーバーラン防止係数ks1が出力されており、かつ第2オーバーラン防止係数計算部40から100%よりも小さい第2オーバーラン防止係数ks2が出力されている場合には、ポンプ容量制御手段50は、下限値演算手段48で演算されたインチング率下限値IRLが得られるようにHST油圧ポンプ16の容量を調整する。これは上記2)あるいは3)および上記5)あるいは6)の制御が行われていることを意味する。
【0094】
第1オーバーラン防止係数計算部39から100%よりも小さい第1オーバーラン防止係数ks1が出力されており、かつ第2オーバーラン防止係数計算部40から100%よりも小さい第2オーバーラン防止係数ks2が出力されている場合には、いずれか小さい方を選択して、その選択された値に基づきインチング率下限値IRLを演算するようにしているが、これは、小さい方を選択することで、エンジンオーバーランの抑制の効果をより大きくするためである。
【0095】
なお、図6では、第1オーバーラン防止係数計算部39、第2オーバーラン防止係数計算部40の両方を設けているが、いずれか一方を省略する実施も可能である。なお、この場合には、小選択部44についても省略することができる。
【0096】
第2オーバーラン防止係数計算部40を省略して第1オーバーラン防止係数計算部39を設ける実施の場合には、さらに、条件判定部43、オン/オフ切換部46についても省略することができ、第1オーバーラン防止係数計算部39で計算された第1オーバーラン防止係数ks1を直接1/100乗算部47に入力させればよい。
【0097】
第2オーバーラン防止係数計算部40を省略して第1オーバーラン防止係数計算部39を設けた場合には、ポンプ容量制御手段50で、上記1)および2)あるいは3)の制御が行われる。この結果、実際のエンジン回転数Neが、エンジン8の最大回転数NeHを超えた場合に、ブレーキストロークSに対応するインチング率IRよりも高いインチング率IRLが得られるようにHST油圧ポンプ16の容量が調整されることになるため、エンジン8のオーバーラン回転数域で、駆動輪24から駆動力がエンジン8側に伝達され難くなり、エンジン8のオーバーランを防止することができる。
【0098】
また第1オーバーラン防止係数計算部39を省略して第2オーバーラン防止係数計算部40を設けた場合には、ポンプ容量制御手段50で、上記4)および5)あるいは6)の制御が行われる。この結果、実際のエンジン回転数Neが、指令エンジン回転数を超えた場合であって、HST油圧ポンプ16の吸込み側の圧力の時間変化率が規定値以上になった場合に、ブレーキストロークに対応するインチング率よりも高いインチング率が得られるようにHST油圧ポンプの容量が調整されることになるため、急激なエンジン回転数の増加を抑制でき、エンジン8のオーバーランを防止できる。
【0099】
図6では、実際のエンジン回転数Neに基づき第1オーバーラン防止係数ks1を求め、さらに第1オーバーラン防止係数ks1に基づきインチング率下限値IRLを演算するようにしている。しかし、図7に示すような実際のエンジン回転数Neとインチング率下限値IRLとの対応関係を設定しておき、実際のエンジン回転数Neに基づき直接インチング率下限値IRLを求める実施も可能である。なお、図7では、エンジン8の最大回転数NeHを超えた場合に、実際のエンジン回転数Neが高くなるほどインチング率の下限値IRLが0%より徐々に高くなり、所定の回転数で100%に達した後はその100%を維持するように設定されている。
【0100】
この場合、図7で得られたインチング率下限値IRLを直接、図6の大選択部49に入力させることで、上記1)および2)あるいは3)の制御が行われる。
【0101】
同様に、図6では、圧力上昇分に基づき第2オーバーラン防止係数ks2を求め、さらに第2オーバーラン防止係数ks2に基づきインチング率下限値IRLを演算するようにしている。しかし、図8に示すような圧力上昇分とインチング率下限値IRLとの対応関係を設定しておき、圧力上昇分に基づき直接インチング率下限値IRLを求める実施も可能である。なお、図8では、圧力上昇分が規定値以上になった場合に、圧力時間変化率が高くなるほどインチング率下限値IRLが0%より徐々に高くなり、圧力上昇分が所定値に達するとインチング率下限値IRLがサチュレートしその後一定値を維持するように設定されている。
【0102】
この場合、図8で得られたインチング率下限値IRLをオン/オフ切換部46を介して直接、図6の大選択部49に入力させることで、上記4)および5)あるいは6)の制御が行われる。
【0103】
もちろん、図6の実施例と同様に、図7で得られたインチング率下限値IRLと図8で得られたインチング率下限値IRLとのうちいずれか小さい方を小選択部44で選択し、いずれか小さい方をオン/オフ切換部46を介して直接、図6の大選択部49に入力させる実施も可能である。この場合、図6の実施例と同様に、上記1)および上記2)あるいは3)および4)および5)あるいは6)の制御が行われる。
【0104】
以上のようにして実施例によれば、メカブレーキの効きを早めることなくエンジン8のオーバーランを防止することができるようになる。この結果、エネルギーロスが抑制され、燃費悪化やブレーキ装置のクーリング能力低下という問題を解決することができるようになる。また、図2において、特性L1を図中右側にシフトさせた特性L1´(一点鎖線にて示す)にしてラップ量を小さくとることが可能となる。このためラップ量の調整の自由度が広がり、ブレーキ操作手段26の操作感覚等の調整を柔軟に行うことが可能となる。
【符号の説明】
【0105】
1 作業車両、8 エンジン、16 HST油圧ポンプ、17 静流体駆動式トランスミッション(HST)、25 アクセル操作手段、26 ブレーキ操作手段、36 インチング率設定手段、37 圧力時間変化率計測手段、38 エンジン回転数制御手段、50 ポンプ容量制御手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、
前記エンジンを駆動源として駆動される作業機油圧ポンプおよびHST油圧ポンプと、
前記HST油圧ポンプを含んで構成され、前記エンジンの駆動力を駆動輪に伝達する静流体駆動式トランスミッションと、
アクセル操作手段と、
前記アクセル操作手段のアクセル開度に応じた指令エンジン回転数が得られるように前記エンジンを制御するエンジン回転数制御手段と、
ブレーキ操作手段と、
前記ブレーキ操作手段のブレーキストロークに応じたブレーキ力を発生して前記駆動輪を制動するブレーキ装置と、
前記ブレーキ操作手段のブレーキストロークとインチング率の対応関係を設定するインチング率設定手段と、
前記エンジンの実際のエンジン回転数を検出するエンジン回転数検出手段と、
前記エンジン回転数検出手段で検出された実際のエンジン回転数が、所定の回転数以内に収まっている場合には、前記ブレーキ操作手段のブレーキストロークに対応する前記インチング率設定手段で設定されたインチング率が得られるように前記HST油圧ポンプの容量を調整するとともに、
前記エンジン回転数検出手段で検出された実際のエンジン回転数が、前記所定の回転数を超えた場合には、前記ブレーキ操作手段のブレーキストロークに対応する前記インチング率設定手段で設定されたインチング率よりも高いインチング率が得られるように前記HST油圧ポンプの容量を調整するポンプ容量制御手段と
を備えたことを特徴とする作業車両のエンジンオーバーラン防止制御装置。
【請求項2】
前記エンジン回転数検出手段で検出された実際のエンジン回転数が、前記所定の回転数を超えた場合には、実際のエンジン回転数が高くなるほどインチング率の下限値を高く設定して、この実際のエンジン回転数に応じたインチング率の下限値と、前記ブレーキ操作手段のブレーキストロークに対応する前記インチング率設定手段で設定されたインチング率とのうちいずれか高い方のインチング率が得られるように前記HST油圧ポンプの容量を調整すること
を特徴とする請求項1記載の作業車両のエンジンオーバーラン防止制御装置。
【請求項3】
エンジンと、
前記エンジンを駆動源として駆動される作業機油圧ポンプおよびHST油圧ポンプと、
前記HST油圧ポンプを含んで構成され、前記エンジンの駆動力を駆動輪に伝達する静流体駆動式トランスミッションと、
アクセル操作手段と、
前記アクセル操作手段のアクセル開度に応じた指令エンジン回転数が得られるように前記エンジンを制御するエンジン回転数制御手段と、
ブレーキ操作手段と、
前記ブレーキ操作手段のブレーキストロークに応じたブレーキ力を発生して前記駆動輪を制動するブレーキ装置と、
前記ブレーキ操作手段のブレーキストロークとインチング率の対応関係を設定するインチング率設定手段と、
前記エンジンの実際のエンジン回転数を検出するエンジン回転数検出手段と、
前記HST油圧ポンプの吸込み側の圧力の時間変化率を計測する圧力時間変化率計測手段と、
前記エンジン回転数検出手段で検出された実際のエンジン回転数が、前記指令エンジン回転数以内に収まっている場合には、前記ブレーキ操作手段のブレーキストロークに対応する前記インチング率設定手段で設定されたインチング率が得られるように前記HST油圧ポンプの容量を調整するとともに、
前記エンジン回転数検出手段で検出された実際のエンジン回転数が、前記指令エンジン回転数を超えた場合であって、前記圧力時間変化率計測手段で計測された前記HST油圧ポンプの吸込み側の圧力の時間変化率が規定値以上になった場合には、前記ブレーキ操作手段のブレーキストロークに対応する前記インチング率設定手段で設定されたインチング率よりも高いインチング率が得られるように前記HST油圧ポンプの容量を調整するポンプ容量制御手段と
を備えたことを特徴とする作業車両のエンジンオーバーラン防止制御装置。
【請求項4】
前記エンジン回転数検出手段で検出された実際のエンジン回転数が、前記指令エンジン回転数を超えた場合であって、前記圧力時間変化率計測手段で計測された前記HST油圧ポンプの吸込み側の圧力の時間変化率が規定値以上になった場合には、当該圧力時間変化率が高くなるほどインチング率の下限値を高く設定して、この圧力時間変化率に応じたインチング率の下限値と、前記ブレーキ操作手段のブレーキストロークに対応する前記インチング率設定手段で設定されたインチング率とのうちいずれか高い方のインチング率が得られるように前記HST油圧ポンプの容量を調整すること
を特徴とする請求項3記載の作業車両のエンジンオーバーラン防止制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−57761(P2012−57761A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−203628(P2010−203628)
【出願日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【出願人】(000001236)株式会社小松製作所 (1,686)
【Fターム(参考)】