説明

作業車両のエンジン制御装置

【課題】エコノミーモードでの作業中に、作業性を損なうことなくエンジンの出力アップをスムーズに行えるようにする。
【解決手段】このエンジン制御装置は、パワーモードとエコノミーモードとでエンジンモードを切り換え可能であるとともにキックダウンが可能であり、作業機操作レバーを有する作業車両に用いられる。この装置は、パワーモードであるかエコノミーモードであるかを判定する手段と、現在の変速段を検出する手段と、キックダウンの指示があったことを検出する検出手段と、エンジンモードがエコノミーモードでありかつキックダウンの指示により第2速以上の変速段から第1速に移行された状態で、さらにキックダウンの指示があったときにエンジンをパワーモードに移行させる手段と、作業機操作レバーのグリップ部に設けられキックダウンの実行を指示するための指示部材と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業車両のエンジン制御装置、特に、パワーモードとエコノミーモードとでエンジンのモードを切り換え可能であるとともに、変速機の変速段を強制的に低速側に変速させるキックダウンが可能な作業車両のエンジン制御装置に関する。
に関する。
【背景技術】
【0002】
ホイルローダ等の作業車両においては、オペレータの操作によって、作業性を重視したパワーモードと、燃費を重視したエコノミーモードとを選択することができるようになっている(例えば、特許文献1)。このような作業車両では、パワーモードが選択された場合には、エンジンの回転及び出力トルクが比較的高い領域で、エンジンの出力トルクと油圧ポンプの吸収トルクとがマッチングされる。また、エコノミーモードが選択された場合には、パワーモードの場合と比較してより低いエンジン出力トルク特性が設定されるとともに、作業機駆動用の油圧ポンプの吐出油量を調整してポンプ吸収トルク特性が変更される。そして、エコノミーモードの場合は、パワーモードの場合に比較してエンジンの回転数及び出力トルクが比較的低い領域で、エンジンの出力トルクと油圧ポンプの吸収トルクとがマッチングされる。したがって、エコノミーモードでは、パワーモードでのマッチング点よりも燃料消費率が低いマッチング点においてエンジンの出力トルクと油圧ポンプの吸収トルクとをマッチングさせることができる。このため、燃料効率の良い領域でエンジンを使用することができ、燃費を向上させることができる。
【0003】
また、一般的に、作業車両においては、変速段を低速側にシフトするためのキックダウンスイッチが設けられている(例えば、特許文献2)。このキックダウンスイッチは、作業機の操作レバーのグリップ上面等に配置されている。そして、手動変速時には、キックダウンスイッチを押すたびに、1段ずつ変速段を低速側に切り換える(シフトダウンする)ことができ、自動変速時には、車速が低速度のときにキックダウンスイッチを押すことによって、変速段を最低速度段に強制的にシフトダウンさせることができる。
【特許文献1】特公平6−35872号公報
【特許文献2】特開平10−121522号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
パワーモードとエコノミーモードとを切換可能な作業車両では、一般的に作業負荷が大きい場合にパワーモードが選択されて作業が行われる。これにより、土砂の掘削動作等の作業を効率良く行うことができる。一方、作業負荷が軽い場合や走行時には、エコノミーモードが選択され、燃料消費を低減することができる。
【0005】
ここで、エコノミーモードが選択されている場合でも、一時的にエンジンの高出力が得たい場合がある。従来の車両では、このような場合は、モード切換スイッチによってエコノミーモードからパワーモードに切り換えるようにしている。
【0006】
しかし、モード切換スイッチは、通常、オペレータの右側に配置されたパネルに設けられており、オペレータは作業中に作業機の操作レバーからいったん手を離し、モード切換スイッチを操作する必要がある。したがって、作業が中断し、作業効率が悪くなるという問題がある。
【0007】
本発明の課題は、エコノミーモードでの作業中に、作業性を損なうことなくエンジンの出力アップをスムーズに行えるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明に係る作業車両のエンジン制御装置は、作業性を重視してエンジンを高馬力で使用するパワーモードと、省燃費を重視してエンジンを低馬力で使用するエコノミーモードとでエンジンのモードを切り換え可能であるとともに、変速機の変速段を強制的に低速側に変速させるキックダウンが可能であり、作業機を操作するための作業機操作レバーを有する作業車両のエンジン制御装置であって、エンジンのモードがパワーモードであるかエコノミーモードであるかを判定するエンジンモード判定手段と、複数の変速段のうち現在の変速段を検出する変速段検出手段と、キックダウンの指示があったことを検出するキックダウン検出手段と、エンジンモードがエコノミーモードでありかつキックダウンの指示により第2速以上の変速段から第1速に移行された状態で、さらにキックダウンの指示があったときにエンジンをパワーモードに移行させる制御手段と、作業機操作レバーに設けられキックダウンの実行を指示するための指示部材と、を備えている。
【0009】
この制御装置が適用される作業車両は、ホイルローダ等の建設機械であって、パワーモードとエコノミーモードとでエンジンのモードを切り換えることが可能であり、また、変速機の変速段を強制的に低速側に変速させるキックダウンが可能である。そして、エンジン駆動時に、モードがパワーモードであるかエコノミーモードであるかが判定され、エコノミーモードであってかつ少なくともキックダウンにより変速段が最低変速段に移行された状態でキックダウンの指示があった場合は、パワーモードに移行する。
【0010】
ここでは、エコノミーモードの最低変速段で作業中に、一時的により高いパワーを必要とする場合は、キックダウンスイッチを押す等のキックダウン指示操作によって、パワーモードに移行させることができる。一般的に、キックダウンを指示するためのスイッチ等の操作部材は、作業機操作レバー等のようにオペレータが常時操作する部材に設けられているので、オペレータは作業中にスムーズにエコノミーモードからパワーモードに移行することができる。したがって、作業を中断することなしに、一時的にエンジンの出力を容易に上昇させることができ、作業性が向上する。
【0011】
また、この制御装置が適用される作業車両には、作業機操作レバーにキックダウンを実行するための部材が設けられている。したがって、作業中に、作業機操作レバーを操作しながらキックダウンの実行を指示し、パワーモードに移行することができる。このため、作業性がより向上する。
【0012】
第2発明に係る作業車両のエンジン制御装置は、第1発明に係る制御装置において、指示部材は作業機操作レバーのグリップ部に設けられている。
【0013】
ここでは、前記同様に、作業中に、作業機操作レバーを操作しながらキックダウンの実行を指示し、パワーモードに移行することができ、作業性がより向上する。
【0014】
第3の発明に係る作業車両のエンジン制御装置は、第1又は第2発明に係る制御装置において、作業車両は、前後進の切換を行うための前後進切換レバーと、変速機を変速するための変速レバーとを備えている。そして、前後進切換レバー又は変速レバーが操作されたことを検出する操作検出手段をさらに備え、制御手段は、キックダウンの指示によってエコノミーモードからパワーモードに移行した後に前後進切換レバー又は変速レバーが操作された場合に、パワーモードからエコノミーモードに戻すキックダウン解除機能を有している。
【0015】
この制御装置が適用される作業車両には、前後進切換レバーと、変速段をシフトするための変速レバーとが設けられている。そして、前述のように、エコノミーモードでかつ最低変速段の場合にキックダウンが指示されると、エコノミーモードからパワーモードに移行するが、この状態は、前後進切換レバー又は変速レバーが操作されることによって解除され、パワーモードからエコノミーモードに戻る。
【0016】
これにより、エコノミーモード時に一時的にエンジンパワーが欲しいときにのみ簡単にパワーモードに移行できるとともに、簡単な操作でこの状態を解除してエコノミーモードに戻ることができる。したがって、作業性がさらに向上する。
【0017】
第4の発明に係る作業車両のエンジン制御装置は、第3の発明に係る制御装置において、ブレーキ操作がなされたことを検出するブレーキング検出手段をさらに備えている。そして、制御手段は、ブレーキ操作時に変速段を中立位置に設定するとともにブレーキ操作解除時に変速段を第2速に設定するブレーキカットオフ機能を有し、キックダウンによって第1速に変速した場合はブレーキカットオフ機能を制限してキックダウン解除機能を実行するまで変速段を第1速に維持する。
【0018】
この制御装置はブレーキカットオフ機能を有している。すなわち、オペレータがブレーキ操作をすると、変速段がどの位置にあっても中立位置(ニュートラル状態)にシフトされ、さらにブレーキ操作が解除されると、変速段が第2速にシフトされて、第2速発進するように変速機が制御される。
【0019】
ここで、キックダウンによって第1速にシフトダウンし、あるいはキックダウンによってパワーモードの第1速にシフトして作業を行っている場合、ブレーキ操作によって前述のようなブレーキカットオフ機能が作動すると、速度段が第2速にシフトされてしまう。すると、先の作業時の速度段(第1速)とは異なるので、オペレータは再度第1速にシフトダウンするための操作が必要になり、作業効率が低下する。
【0020】
そこでこの発明では、キックダウンによって第1速にシフトダウンした場合は、キックダウン解除機能が実行されるまでは、すなわち、前後進切換レバー又は変速レバーが操作されるまでは、変速段は第1速に維持される。
【0021】
ここでは、第1速での作業中にブレーキ操作が実行されても、ブレーキカットオフ機能が制限され、第2速に変速されることなく第1速が維持される。したがって、作業効率の低下を避けることができる。
【発明の効果】
【0022】
以上のように本発明では、エコノミーモードでの作業中に、作業性を損なうことなくスムーズにエンジンの出力を上昇させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明の一実施形態に係るエンジン制御装置をホイルローダに採用した場合の例を以下に説明する。
【0024】
なお、以下の説明で登場する前後左右等の方向に関しては、オペレータシートにオペレータが着座した際における前後方向を前後、この前後方向に直交する方向を左右として説明する。
【0025】
[全体の構成]
図1に示すように、ホイルローダ10は、車体11と、車体11の前部に装着されたリフトアーム12と、このリフトアーム12の先端に取り付けられたバケット13と、車体11を支持しながら回転して車体を走行させる4本のタイヤ14と、車体11の上部に搭載されたキャブ20と、を備えている。
【0026】
車体11は、図示しないエンジンを収納するエンジンルームと、リフトアーム12及びバケット13を駆動するための駆動部と、を有している。
【0027】
リフトアーム12は、先端に取り付けられたバケット13を持ち上げるためのアーム部材であって、併設されたリフトシリンダによって駆動される。
【0028】
バケット13は、リフトアーム12の先端に取り付けられており、バケットシリンダによってダンプおよびチルトされる。
【0029】
キャブ20は、複数の鋼管と鋼板とを組み合わせて構成されるオペレータ用の運転室を形成しており、車体11の中央部分よりもやや前方に配置されている。
【0030】
[キャブ内部の配置]
キャブ20は、図2及び図2の拡大部分斜視図である図3に示すように、内部に、オペレータシート(運転席)22と、ステアリング23と、右側コンソールボックス24と、前方コンソールボックス26と、右側コンソールボックス24の前方であってオペレータシート22の近接する位置に配置された作業機レバー33と、を備えている。また、オペレータシート22の前方でステアリング23の下方、左側部分には、前方側に前後進切換レバー45が設けられ、その後方に変速レバー46が設けられている。そして、オペレータシート22にオペレータが着座した際の左右両側には、乗降用ドア25a,25bが取り付けられている。
【0031】
オペレータシート22は、ホイルローダ10を操縦するオペレータが着座するシートであって、キャブ20のほぼ中央付近に配置されている。なお、オペレータシート22は図示しないスライドレールに沿って前後方向に移動可能である。
【0032】
ステアリング23は、オペレータシート22の前方に配置された前方コンソールボックス26から突出するように取り付けられており、左右に回転させることでホイルローダ10の走行方向を変更する。
【0033】
右側コンソールボックス24は、スイッチパネル32等を上面に配置したボックスであって、オペレータシート22と右側の乗降用ドア25aとの間のスペースに配置されている。また、右側コンソールボックス24は図示しないスライドレールに沿って前後方向に移動可能である。さらに、右側コンソールボックス24の上面にはアームレスト31が配置されている。
【0034】
アームレスト31は、オペレータが運転中に右腕を置いて作業機レバー33等の操作を行うためのフラットなシートであって、右側コンソールボックス24における後方よりに配置されている。
【0035】
スイッチパネル32は、変速モードを手動変速モードと自動変速モードとで切り換えるための変速モード切換スイッチ32a、パワーモードとエコノミーモードの切り換えを行うエンジンモード切換スイッチ32b、エンジンをスタートさせるキースイッチ32cや、ブームやバケットのリモートポジショナスイッチを含む走行停止中に使用する作業機系のスイッチ、ファン逆転スイッチ等を含むメンテナンス系のスイッチ等が配置されている。
【0036】
作業機レバー33は、これら2本のレバーを前後に傾斜させることで、ホイルローダ10の前方に取り付けられた作業機、つまりリフトアーム12やバケット13の動きを操作するためのレバーである。作業機レバー33は上部にオペレータが把持するグリップが設けられており、作業機レバー33のうちの一方(この例では外側)のグリップ上面に、キックダウンを実行するためのキックダウンスイッチ33aが設けられている。キックダウンスイッチ33aの操作による変速制御については、後に詳述するが、概略、手動変速モード時には、第2速の際にスイッチが押されると第1速にシフトダウンされ、自動変速モード時には、車速が低速度の場合にあるいは第2速のときにスイッチが押されると第1速にシフトダウンされ、車速がある速度以上の場合には、スイッチが押されるたびに、例えば、4速→3速→2速のように第2速まで順次シフトダウンされる。また、第2速からキックダウンスイッチ33aによって第1速にシフトダウンされた状態で、再度キックダウンスイッチ33aが押されると、エンジンがエコノミーモードの場合にはパワーモードに移行される。したがって、オペレータは、作業機レバー33を握って作業機を操作しながら、キックダウンスイッチ33aを押すことによってシフトダウン操作等を行い、作業機のパワーを向上させることが可能である。
【0037】
前後進切換レバー45は、前進用油圧クラッチ及び後進用油圧クラッチを切換制御して、前後進の切り換えを行うためのレバーである。また、変速レバー46は、トランスミッションの変速段をシフトするためのレバーであり、オペレータシート22に着座したオペレータ(運転者)の手前側から、例えば、第1速、第2速、第3速、第4速の配置になっている。
【0038】
[制御のための構成]
図4に、このホイルローダ10の模式的な制御ブロック図を示している。このホイルローダ10はコントローラ40を有しており、コントローラ40は、CPU、RAM、ROM等を有するマイクロコンピュータで構成されている。このコントローラ40には、エンジン41、トランスミッション42、作業機用油圧ポンプ等を含む各種油圧ポンプ43が接続されている。なお、具体的には、エンジン41への燃料供給用のガバナや、トランスミッション42に設けられた前後進用油圧クラッチ及び変速用油圧クラッチを制御するための電磁切換弁等がコントローラ40に接続されているが、ここでは詳細は省略する。また、コントローラ40には、前後進切換レバー45、変速レバー46、ブレーキセンサ47、アクセルセンサ48及び車速センサ49が接続され、さらに前述のエンジンモード切換スイッチ32b、変速モード切換スイッチ32a、及びキックダウンスイッチ33aが接続されている。
【0039】
前後進切換レバー45は前後進切換用の油圧クラッチを制御するための信号をコントローラ40に出力するものであり、コントローラ40はこの前後進切換レバー45からの信号に応じてトランスミッション42の油圧クラッチ制御用の電磁切換弁を制御する。また、変速レバー46についても同様であり、コントローラ40はこの変速レバー46からの信号に応じてトランスミッション42の油圧クラッチ制御用の電磁切換弁を制御する。なお、各レバー45,46からの信号により、コントローラ40は、各レバー45,46がどの位置に操作されているか、すなわち、前進か後進か、変速段は第何速に設定されているか、を認識することができる。もちろん、コントローラ40は、自動変速モードの場合も、変速段が第何速に設定されているかを認識している。
【0040】
また、ブレーキセンサ47は、オペレータがブレーキペダルを踏み込むことによってブレーキ操作をしたこと及びブレーキ操作を解除したことを検出するセンサである。アクセルセンサ48はアクセルペダルのストロークを検出することにより、アクセル開度を検出するセンサである。車速センサ49は車両の速度を検出するセンサである。これらの各センサ47,48,49からの信号はコントローラ40に入力される。
【0041】
さらに、各スイッチ32b,32a,33aからの信号がコントローラ40に入力されており、コントローラ40は、これらの各スイッチからの信号に基づいて、エンジンのモード及び変速モードを切り換え、キックダウンを実行する。
【0042】
[制御処理]
次に、図5A及び図5Bに示すフローチャートにしたがって制御処理について説明する。ここでは、走行中あるいは作業中において、主にキックダウンスイッチが操作された場合のエンジン制御に着目して説明する。なお、エンジンモードは、始動時はエコノミーモードに設定されるようになっており、特にエンジンモード切換スイッチが操作されない限りは、エコノミーモードで作業等が実行される。
【0043】
以上のような状況において、ステップS1ではエンジンモード切換スイッチ32bが操作されたか否かを判断し、ステップS2ではキックダウンスイッチ33aが操作されたか否かを判断し、ステップS3ではブレーキ操作がなされたか否かを判断し、ステップS4では前後進切換レバー45あるいは変速レバー46が操作されたか否かを判断する。
【0044】
<エコノミーモードとパワーモード>
エンジンモード切換スイッチ32bが操作された場合は、ステップS1からステップS10に移行してエンジンモードを切り換える。すなわち、エコノミーモードの場合はパワーモードに、パワーモードの場合はエコノミーモードに切り換える。
【0045】
ここで、パワーモードとエコノミーモードについて、簡単に説明する。パワーモードは作業性を重視したモードであり、エコノミーモードは燃費を重視したモードである。
【0046】
パワーモードが選択された場合には、図6において、エンジン出力トルクラインELaで示されるエンジン出力トルク特性が設定される。また、吸収トルクラインPLaで示される吸収トルク特性が設定される。この吸収トルクは、トルクコンバータの吸収トルクと作業機用油圧ポンプの吸収トルクとの和であり、走行環境、作業負荷、作業機用油圧ポンプの吐出油量調整等により定まる。図6では、吸収トルクラインPLaは、エンジン回転数を変数とする単調増加関数となっている。そして、この場合は、マッチング点Maにおいてエンジン41の出力トルクと、吸収トルクとが一致し、マッチング点Maにおけるエンジン出力、つまりエンジン41の最大馬力を油圧ポンプが吸収することで、重掘削作業を高効率で行うことができる。
【0047】
また、エコノミーモードが選択された場合には、記号ELbのエンジン出力トルクラインで示されるエンジン出力トルク特性が設定される。そして、この場合は、マッチング点Mbにおいてエンジン41の出力トルクと、吸収トルクとがマッチングする。このように、エコノミーモードでは、パワーモードでのマッチング点Maよりも燃料消費率が低いマッチング点Mbにおいてエンジン41の出力トルクと、吸収トルクとをマッチングさせることができるため、燃料効率のよい領域でエンジン41を使用することができ、燃費を向上させることができる。
【0048】
<キックダウンスイッチ>
キックダウンスイッチ33aが操作された場合は、ステップS2からステップS11に移行する。ステップS11ではエンジンがエコノミーモードであるかパワーモードであるかを判断する。
【0049】
(1)キックダウン/パワーモード
キックダウンスイッチ33aが操作されたときにエンジンがパワーモードである場合は、ステップS11からステップS12に移行し、ステップS12では変速モードが手動変速モードであるか否かを判断する。
【0050】
手動変速モードである場合は、ステップS12からステップS13に移行し、「キックダウン制御−1」(後述:図7参照)を実行する。
【0051】
また、エンジンがパワーモードであって変速モードが自動変速モードである場合は、ステップS12からステップS14に移行する。ステップS14では、車速が10km/h以上であるか否かを判断する。
【0052】
車速が10km/h以上である場合、すなわち低速でない場合は、ステップS14からステップS15に移行し、「キックダウン制御−2」(後述:図7参照)を実行する。
【0053】
車速が10km/h未満である場合、すなわち低速である場合は、ステップS14からステップS16に移行し、「キックダウン制御−3」(後述:図7参照)を実行する。
【0054】
なお、自動変速モードにおいて、車速が10km/h以上の場合に強制的に第1速にシフトダウンせずに1段毎のシフトダウンとするのは、車速が比較的高い場合にいっきに第1速までシフトダウンすると、急激にエンジンブレーキがかかり、好ましくないからである。
【0055】
(2)キックダウン/エコノミーモード
キックダウンスイッチ33aが操作されたときにエンジンがエコノミーモードである場合は、ステップS11からステップS20に移行する。ステップS20では、前後進レバーが前進側になっているか否かを判断する。前進側の場合はステップS20からステップS21に移行し、ステップS21において、「キックダウン制御−4」(後述:図7参照)を実行する。
【0056】
<キックダウン制御:キックダウンスイッチ操作による作動>
次に、キックダウンスイッチ33aが各状態で操作された場合の作動(キックダウン制御−1,−2,−3,−4)について、図7を用いて説明する。なお、ここでは、前後進4速の場合を例にとって説明する。
【0057】
(1)キックダウン制御−1
ステップS13のキックダウン制御−1、すなわち、パワーモードで手動変速モードが設定されている場合について説明する。ここでは、変速レバーが第1速、第3速及び第4速の場合は、トランスミッションの変速段が固定され、キックダウンスイッチ33aが押されてもシフトダウン等の変速はなされない。すなわち、キックダウンスイッチ33aは無効である。また、変速レバーが第2速の場合は、トランスミッションの変速段は第2速に固定される。この場合に、キックダウンスイッチ33aが押された場合は、変速段が第2速から第1速にシフトダウンされる。なお、この状態でさらにキックダウンスイッチ33aが押されても、もともとエンジンはパワーモードであるので、エンジンのモードが切り換えられることはない。
【0058】
(2)キックダウン制御−2
ステップS15のキックダウン制御−2、すなわち、パワーモードで自動変速モードが設定され、速度が高速の場合について説明する。ここでは、変速レバーが第3速及び第4速の場合は、トランスミッションでは、第2速〜第4速の間で自動変速が行われる。この場合に、キックダウンスイッチ33aが押されると、1段ずつのシフトダウンが実行される。すなわち、キックダウンスイッチ33aは有効である。なお、この第1速のときにさらにキックダウンスイッチ33aが押されても、もともとエンジンはパワーモードであるので、エンジンのモードが切り換えられることはない。
【0059】
また、変速レバーが第2速の場合は、トランスミッションの変速段は第2速に固定される。この場合に、キックダウンスイッチ33aが押された場合は、変速段が第2速から第1速にシフトダウンされる。なお、この状態でさらにキックダウンスイッチ33aが押されても、もともとエンジンはパワーモードであるので、エンジンのモードが切り換えられることはない。
【0060】
さらに、変速レバーが第1速の場合は、トランスミッションの変速段は第1速に固定され、キックダウンスイッチ33aが押されてもその操作は無効であり、特に処理はなされない。
【0061】
(3)キックダウン制御−3
ステップS16のキックダウン制御−3、すなわち、パワーモードで自動変速モードが設定され、速度が低速の場合について説明する。ここでは、変速レバーが第3速及び第4速の場合は、トランスミッションでは、第2速〜第4速の間で自動変速が行われる。この場合に、キックダウンスイッチ33aが押されると、強制的に第1速にシフトダウンされる。すなわち、キックダウンスイッチ33aは有効である。なお、この第1速のときにさらにキックダウンスイッチ33aが押されても、もともとエンジンはパワーモードであるので、エンジンのモードが切り換えられることはない。
【0062】
変速レバーが第2速及び第1速の場合は、前述のキックダウン制御−2と同様である。すなわち、変速レバーが第2速、第1速の場合は、トランスミッションの変速段は第2速、第1速に固定され、第2速の場合にキックダウンスイッチ33aが押された場合は、第1速にシフトダウンされる。また、変速レバーが第1速の場合は、キックダウンスイッチ33aが押されてもその操作は無効である。
【0063】
(4)キックダウン制御−4
ステップS21のキックダウン制御−4、すなわち、エコノミーモードが設定されている場合について説明する。
【0064】
この場合のキックダウン制御は、キックダウンスイッチ33aの操作によって第1速にシフトダウンされた後の処理が前述のキックダウン制御−1〜−3と異なり、それ以外の処理は同様である。
【0065】
このキックダウン制御−4では、キックダウンスイッチ33aの操作が有効で、キックダウンスイッチ33aによって第1速にシフトダウンされた状態で、再度キックダウンスイッチ33aが押されると、エンジンがエコノミーモードからパワーモードに切り換えられる。
【0066】
以上のように、エコノミーモードで、かつキックダウンによって第1速にシフトダウンされた状態で、さらにパワーを必要とする場合は、オペレータは、作業機レバー33の頭部にあるキックダウンスイッチ33aを操作することによって、エンジンをパワーモードに切り換えることができる。したがって、作業を中断することなく、容易にエンジン出力を上昇させて、重負荷の作業を行うことができる。
【0067】
<ブレーキ操作>
まず、ブレーキカットオフ機能について簡単に説明する。ブレーキカットオフ機能とは、ブレーキペダルが操作された場合に、制動力を作用させるとともに、自動的にトランスミッションの変速段を中立位置にシフトし、その後の発進を第2速で行うように制御する機能である。
【0068】
ここで、一般的に、重負荷作業の場合はキックダウンによって変速段を第1速にシフトして運転・作業をしている場合が多い。したがって、このような状況で、前述のようなブレーキカットオフ機能によって、ブレーキペダルを操作するたびに第2速にシフトされると、オペレータはキックダウンスイッチによって再度第1速にシフトダウンする必要があり、操作が煩わしい。
【0069】
そこで本実施形態では、ブレーキ操作がなされたときに、トランスミッションがキックダウンによって第1速にシフトされた変速段になっているか否かを判断し、その判断結果によってブレーキカットオフ機能を作動させるか制限するかを制御するようにしている。この場合の制御処理を以下に説明する。
【0070】
ブレーキ操作がなされた場合は、図5BのステップS3からステップS30に移行する。ステップS30では、現在の変速段が、キックダウンによって第1速にシフトされたものであるか否かを判断する。キックダウンによって第1速にシフトされたものでない場合は、ステップS30からステップS31に移行し、このステップS31ではブレーキカットオフ機能を実行する。
【0071】
一方、キックダウンによって第1速にシフトされた状態で運転・作業中にブレーキ操作がなされた場合は、ステップS30からステップS32に移行する。このステップS32ではブレーキカットオフ機能を制限する。具体的には、ブレーキ操作がなされた場合、制動力を作用させるとともに、変速段を自動的に中立位置にシフトする。そして、その後の発進を第2速ではなく第1速で行うようにする。
【0072】
以上のように、キックダウンによって第1速にシフトされた状態で運転・作業をしているときには、ブレーキカットオフ機能を制限し、ブレーキペダルを操作しても変速段は第1速に固定されるように制御している。したがって、重負荷作業中の作業効率の低下を避けることができる。
【0073】
<キックダウンの解除>
次に、前後進切換レバー45あるいは変速レバー46が操作された場合は、ステップS4からステップS40に移行する。ここでは、キックダウン状態を解除する。
【0074】
ここで、「キックダウン状態」とは、前述のステップS21等において、キックダウンスイッチ33aの操作によって第1速にシフトダウンされた状態である。前述のステップS32が実行される場合も「キックダウン状態」である。
【0075】
したがって、ステップS40が実行された後は、ステップS21が実行された状態の場合は、パワーモードからエコノミーモードに戻る。また、ステップS32が実行されてブレーキカットオフ機能が制限されている場合は、通常のブレーキカットオフ機能が有効に作動するようになる。
【0076】
[実施形態の効果]
以上のように本実施形態によれば、エコノミーモードにおいて、キックダウンによって第1速にシフトダウンして作業している最中に、作業機レバーに設けられたキックダウンスイッチ33aを再度操作するだけでパワーモードに移行させることができる。したがって、オペレータは、作業中に作業を中断することなくエンジンの高出力を容易に得ることができ、作業性が向上する。
【0077】
また、キックダウンによって第1速にシフトされた状態で運転・作業中にブレーキ操作がなされた場合は、ブレーキカットオフ機能を制限し、ブレーキペダルを操作しても変速段は第1速に固定されるように制御している。したがって、重負荷作業中の効率の低下を避けることができる。
【0078】
さらに、前後進切換レバー又は変速レバーを操作することによって、キックダウン状態が解除されるので、エコノミーモード時に一時的にパワーが欲しいときにのみ簡単にパワーモードに移行できるとともに、簡単な操作でこの状態を解除してエコノミーモードに戻ることができる。さらに、ブレーキカットオフ機能の制限を簡単に解除することができるので、作業性がさらに向上する。
【0079】
[他の実施形態]
(a)前記実施形態では、エンジンのモードとしてエコノミーモードとパワーモードとを有する場合について説明したが、エンジンのモードの種類としてはこれに限定されるものではない。例えば、エコノミーモードが複数のモードに分かれているような場合にも本発明を同様に適用することができる。
【0080】
(b)前記実施形態では、エコノミーモードにおいて、キックダウンによって第1速にシフトダウンして運転・作業中にキックダウンスイッチが操作された場合にパワーモードに移行するようにしたが、エコノミーモードで他の状態の場合に、同様に、キックダウンスイッチの操作によってパワーモードに移行するようにしてもよい。例えば、前記実施形態では、手動変速モードの第1速固定や自動変速モードの第1速固定の場合にキックダウンスイッチの操作を無効にしたが、この場合も有効にして、キックダウンスイッチの操作によって、エンジンモードをエコノミーモードからパワーモードに切り換えるようにしてもよい。
【0081】
(c)キックダウンスイッチの配置に関しては、前記実施形態に限定されない。但し、作業中にオペレータが操作している部材に配置するのが望ましい。
【0082】
(d)キックダウン解除の条件は前記実施形態に限定されない。前後進切換レバーや変速レバー以外の操作によってキックダウンが解除されるようにしてもよい。
【0083】
(e)前記実施形態では、本発明をホイルローダに対して適用したが、他の建設機械についても同様に適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明は、エコノミーモードでの作業中に、作業性を損なうことなくスムーズにエンジンの出力を上昇させることができる。したがって、エンジン制御装置として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】ホイルローダの外観図。
【図2】ホイルローダのキャビンの配置を示す平面図。
【図3】キャビン内の右側コンソールボックスの配置を示す図。
【図4】制御ブロック図。
【図5A】本発明の一実施形態による制御処理のフローチャート。
【図5B】本発明の一実施形態による制御処理のフローチャート。
【図6】エコノミーモードとパワーモードを説明するための特性図。
【図7】変速レバーと変速モード及びキックダウンスイッチの作動の関係を示す図。
【符号の説明】
【0086】
10 ホイルローダ
33 作業機レバー
33a キックダウンスイッチ
40 コントローラ
45 前後進切換レバー
46 変速レバー
47 ブレーキセンサ
48 アクセルセンサ
49 車速センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業性を重視してエンジンを高馬力で使用するパワーモードと、省燃費を重視してエンジンを低馬力で使用するエコノミーモードとでエンジンのモードを切り換え可能であるとともに、変速機の変速段を強制的に低速側に変速させるキックダウンが可能であり、作業機を操作するための作業機操作レバーを有する作業車両のエンジン制御装置であって、
エンジンのモードがパワーモードであるかエコノミーモードであるかを判定するエンジンモード判定手段と、
複数の変速段のうち現在の変速段を検出する変速段検出手段と、
キックダウンの指示があったことを検出するキックダウン検出手段と、
エンジンモードがエコノミーモードでありかつキックダウンの指示により第2速以上の変速段から第1速に移行された状態で、さらにキックダウンの指示があったときにエンジンをパワーモードに移行させる制御手段と、
前記作業機操作レバーに設けられ、キックダウンの実行を指示するための指示部材と、
を備えた作業車両のエンジン制御装置。
【請求項2】
前記指示部材は前記作業機操作レバーのグリップ部に設けられている、請求項1に記載の作業車両のエンジン制御装置。
【請求項3】
前記作業車両は、前後進の切換を行うための前後進切換レバーと、変速機を変速するための変速レバーとを備えており、
前記前後進切換レバー又は変速レバーが操作されたことを検出する操作検出手段をさらに備え、
前記制御手段は、キックダウンの指示によってエコノミーモードからパワーモードに移行した後に前記前後進切換レバー又は変速レバーが操作された場合に、パワーモードからエコノミーモードに戻すキックダウン解除機能を有している、
請求項1又は2に記載の作業車両のエンジン制御装置。
【請求項4】
ブレーキ操作がなされたことを検出するブレーキング検出手段をさらに備え、
前記制御手段は、ブレーキング時に変速段を中立位置に設定するとともにブレーキング解除時に変速段を第2速に設定するブレーキカットオフ機能を有し、キックダウンによって第1速に変速した場合は前記ブレーキカットオフ機能を制限して前記キックダウン解除機能を実行するまで変速段を第1速に維持する、
請求項3に記載の作業車両のエンジン制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−157972(P2011−157972A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−60270(P2011−60270)
【出願日】平成23年3月18日(2011.3.18)
【分割の表示】特願2005−369216(P2005−369216)の分割
【原出願日】平成17年12月22日(2005.12.22)
【出願人】(000001236)株式会社小松製作所 (1,686)
【Fターム(参考)】