説明

作業車両の多軸式トランスミッション

【課題】共通のケースを使用して、前進側の減速比を変更することなく後進側の減速比を変更できるようにする。
【解決手段】このトランスミッションは、ケース本体1と、入力軸ユニット5と、第1及び第2中間軸ユニット7,8と、アイドラユニット6と、を備えている。入力軸ユニット5は、入力軸12と、入力軸12に設けられた前進用及び後進用クラッチCf,Cr及び複数のギアを有する。第1及び第2中間軸ユニット7,8は、入力軸12から動力が入力される第1及び第2中間軸22,24と、各中間軸22,24に設けられたクラッチC1〜C4及び複数のギアを有する。アイドラユニット6は、ケース本体1に取り外し自在に装着される支持部材14と、支持部材14に回転自在に支持され入力軸12のギア及び第1中間軸22のギアに噛み合うアイドラギアG3と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業車両に用いられる多軸式トランスミッションに関する。
【背景技術】
【0002】
ホイールローダ等の作業車両においては、特許文献1に示されるような多軸式トランスミッションが設けられている。この多軸式トランスミッションは、エンジンから動力が入力される入力軸と、1つ以上の中間軸と、動力が出力される出力軸と、を備えている。そして、入力軸及び中間軸上には、前後進切換用あるいは変速用の油圧クラッチが設けられるとともに、複数のギアが設けられている。また、多軸式トランスミッションには、入力軸の回転を逆転させるための後進用のアイドラギアが設けられている。アイドラギアは、アイドラ軸に支持されており、入力軸に設けられたギア及び中間軸に設けられたギアに噛み合っている。アイドラ軸は、入力軸、中間軸及び出力軸とともにケースに回転自在に支持されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−170851号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ホイールローダ等の作業車両においては、後進時においても作業を行う必要があるために、乗用車とは異なり、後進側にも複数の変速段が設けられている。例えば特許文献1のトランスミッションでは、前後進のそれぞれにおいて4つの変速段が設けられている。
【0005】
以上のような多軸式トランスミッションを備えた作業車両においては、仕様に応じて異なる減速比を求められることが多い。ここで、減速比を変更するためにはギアの歯数、すなわちギア径を変更しなければならない。そして、ギア径が変更されると、互いに噛み合うギアが設けられた2つの軸の中心間距離(軸間距離)を変更しなければならない場合が多い。その結果、これらの軸を支持しているケースを変更しなければならない。
【0006】
しかし、トランスミッションのケースは鋳造で製造されるために、ケースを変更する場合は鋳型を変える必要がある。鋳型を変える場合には、多大なコストと時間が必要になる。このため、作業車両に要求される仕様が異なっても、共通のケースを使用したいという要求があり、減速比を変更する際の大きな制約となる。
【0007】
また、例えば後進側の減速比を変更したい場合、軸間距離を変更せずに実現できる場合がある。但し、この場合は、トランスミッションに含まれる全てのギアの歯数を見直す必要があるので、後進側の減速比だけでなく、前進側の減速比が変更されてしまう。すると、後進側の減速比が要求通りに変更できたとしても、例えば前進時の最高速度が低下する等の問題がある。
【0008】
本発明の課題は、共通のケースを使用して、特に後進側の減速比を容易に変更できるようにすることにある。
【0009】
本発明の別の課題は、後進側の減速比を、前進側の減速比に影響を与えることなく変更できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1発明に係る作業車両の多軸式トランスミッションは、ケース本体と、第1軸ユニットと、第2軸ユニットと、アイドラユニットと、を備えている。第1軸ユニットは、ケース本体に回転自在に支持され動力が入力される第1軸と、第1軸に設けられたクラッチ及びギアと、を有する。第2軸ユニットは、ケース本体に回転自在に支持され第1軸から動力が入力される第2軸と、第2軸に設けられたクラッチ及びギアと、を有する。アイドラユニットは、ケース本体に取り外し自在に装着される支持部材と、支持部材に回転自在に支持され第1軸ユニットのギア及び第2軸ユニットのギアに噛み合うアイドラギアと、を有する。
【0011】
このトランスミッションでは、エンジン等からの動力は第1軸に入力される。そして、入力された動力は、第1軸ユニットのギア及び第2軸ユニットのギア等を介して第1軸から第2軸に伝達される。また、第1軸の回転はアイドラユニットによって逆転されて第2軸に伝達される。このとき、第1軸ユニット及び第2軸ユニットの各クラッチがオン(動力伝達)、オフ(動力伝達遮断)制御されて、前後進が切り換えられ、あるいは変速段が切り換えられる。
【0012】
このようなトランスミッションにおいて、後進側の減速比を変更したい場合は、変更する減速比に関与するギアの歯数を変更する必要がある。ギアの歯数を変更すると、ギア径が変わるので、第1軸ユニットのギアとアイドラギア、又は第2軸ユニットのギアとアイドラギアの中心間距離を変更する必要がある。
【0013】
本発明では、このような場合に、アイドラユニットを交換することによって対応することができる。例えば、アイドラギアと噛み合う第1軸ユニットのギアを変更することによって減速比を変更する場合は、アイドラギアと第1軸ユニットのギアとの中心間距離を変更しなければならない。そこで、アイドラギアが異なる位置に配置されたアイドラユニットを用意する。この交換後のアイドラユニットでは、アイドラギアが、中心間距離の変化に応じて第1軸ユニットのギアに対して接近あるいは離反するように配置されている。このようなアイドラユニットを用いることにより、ケース本体を交換することなく、減速比の変更が可能になる。
【0014】
第2発明に係る作業車両の多軸式トランスミッションは、第1発明のトランスミッションにおいて、アイドラギアと噛み合う第2軸ユニットのギアは前進時及び後進時の動力伝達を行うギアである。
【0015】
ここで、前述のように、後進側の減速比を変更する場合、トランスミッションに含まれるすべてのギアについて再設計すれば、軸間距離を変更せずに減速比を変更することも可能である。しかし、特にアイドラギアと噛み合う第2軸ユニットのギアが前進及び後進の両方において動力伝達に関与している場合、この第2軸ユニットのギアを変更すれば、後進側の減速比だけでなく前進側の減速比も変更されることになる。また、各変速段の減速比の段間比が適切に再設計できるとは限らない。したがって、後進側の減速比のみを変更したい場合は、第2軸ユニットのギアを変更することは好ましくない。
【0016】
そこで本発明では、後進側にのみ関与するギア以外に、アイドラユニットの交換、すなわちアイドラギアの配置を変更することによって後進側の減速比を変更できるようにしている。このため、共通のケース本体を使用し、かつ前進側の減速比を変更することなしに、後進側の減速比を変更することができる。
【0017】
第3発明に係る作業車両の多軸式トランスミッションは、第1又は第2発明のトランスミッションにおいて、ケース本体に回転自在に支持された出力軸と、出力軸に設けられ第2軸ユニットのギアに噛み合う出力ギアと、を有する出力軸ユニットをさらに備えている。
【0018】
第4発明に係る作業車両の多軸式トランスミッションは、第1から第3発明のいずれかのトランスミッションにおいて、ケース本体はアイドラギアユニットが装着される開口を有している。また、支持部材は、ケース本体の開口に挿入される装着部と、装着部の中心部からケース本体側に延長して形成されアイドラギアを回転自在に支持するための軸部と、装着部の一端側に形成されてケース本体に固定されるフランジと、を有している。
【0019】
第5発明に係る作業車両の多軸式トランスミッションは、第1発明のトランスミッションにおいて、支持部材はアイドラギアの軸方向両側を支持する。
【0020】
ここで、従来のアイドラギア支持構造において、アイドラギアを支持する軸の両端を支持する両持ち構造では、ケース内部側の軸端を支持するために、ケース内部に突出した支持部が必要となる。そして、このようなケースの鋳造は、中子を必要とし、また型抜きが容易でなく、製造が困難である。
【0021】
しかし、この発明では、ケース本体とは別に設けられた支持部材によってアイドラギアの両端を支持することができる。このため、ケース本体の内部に突出した支持部が不要となる。したがって、ケース本体を鋳物で製造する場合に製造が容易になる。
【発明の効果】
【0022】
以上のように本発明では、共通のケース本体を用いて容易に後進側の減速比を変更することができる。また、本発明では、前進側の減速比を変更することなく後進側の減速比を変更することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施形態による多軸式トランスミッションのスケルトン図。
【図2】アイドラユニットの断面構成図。
【図3】各変速段に用いられるギアの歯数及び減速比を示す図。
【図4】減速比の変更によって中心間距離が変化することを説明するための図。
【図5】減速比を変更するために用意する別のアイドラユニットの断面構成図。
【図6】アイドラユニットの他の実施形態を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1は、本発明の一実施形態による多軸式トランスミッションをホイールローダに適用した場合のスケルトン図である。
【0025】
[全体構成]
このトランスミッションはケース本体1を有しており、このケース本体1は、メインケース2と、メインケース2の前側に設けられたカバー3と、から構成されている。メインケース2は、鋳造により形成されており、前側が開口している。そして、この開口にカバー3がボルト(図示せず)によって固定されている。
【0026】
ケース本体1の内部には、入力軸ユニット(第1軸ユニット)5と、アイドラユニット6と、第1及び第2中間軸ユニット7,8(第2軸ユニット)と、出力軸ユニット9と、が配置されている。入力軸ユニット5はケース本体1の内部において上部に配置されており、出力軸ユニット9は下部に配置されている。また、アイドラユニット6と、第1及び第2中間軸ユニット7,8とは、入力軸ユニット5と出力軸ユニット9との間に配置されている。
【0027】
[入力軸ユニット5]
入力軸ユニット5は、入力軸12と、前進用クラッチCfと、後進用クラッチCrと、第1ギアG1と、第2ギアG2と、を有している。
【0028】
入力軸12は、一端がメインケース2に、他端がカバー3に、それぞれ軸受を介して回転自在に支持されている。この入力軸12は、エンジン側から回転が入力されるものであり、例えばトルクコンバータのタービンに連結されている。
【0029】
前進用クラッチCf及び後進用クラッチCrは、それぞれ油圧式の多板クラッチであり、入力側が入力軸12に固定されている。
【0030】
第1ギアG1及び第2ギアG2は、それぞれ入力軸12に回転自在に支持されている。そして、第1ギアG1は前進用クラッチCfの出力側に連結され、第2ギアG2は後進用クラッチCrの出力側に連結されている。
【0031】
[アイドラユニット6]
アイドラユニット6の詳細を図2に示す。図1及び図2に示すように、アイドラユニット6は、支持部材14と、アイドラギアとしての第3ギアG3と、を有している。
【0032】
支持部材14は、メインケース2に形成された円形の孔2aに装着される円板状の装着部14aと、装着部14aの一端側に形成された軸部14bと、装着部14aの他端側に形成されたフランジ14cと、を有している。軸部14bは装着部14aの中心においてメインケース2の内部に突出して形成されている。フランジ14cは装着部14aより大径に形成されており、ボルト15を介してメインケース2の壁面に固定されている。なお、装着部14aの外周面には溝が形成されており、この溝にオーリング等のシール部材16が設けられている。
【0033】
アイドラギアG3は、支持部材14の軸部14bに2つの軸受17を介して回転自在に支持されている。なお、軸受17と支持部材14の装着部14aとの間にはスペーサ18が設けられている。また、軸部14bの先端には、軸受押さえ部材19がボルト20によって固定されている。軸受押さえ部材19はプレート状の部材であり、軸受17の内輪を押さえ、アイドラギアG3が軸方向に移動するのを規制している。
【0034】
[第1中間軸ユニット7]
第1中間軸ユニット7は、第1中間軸22と、第1速用クラッチC1と、第4速用クラッチC4と、第4〜第7ギアG4,G5,G6,G7と、を有している。
【0035】
第1中間軸22は、一端がメインケース2に、他端がカバー3に、それぞれ軸受を介して回転自在に支持されている。
【0036】
第1速用クラッチC1及び第4速用クラッチC4は、油圧式の多板クラッチであり、第1中間軸22に装着されている。また、第1速用クラッチC1の入力側と第4速用クラッチC4の入力側とはともに第1中間軸22に固定されている。
【0037】
第4ギアG4は、第1速用クラッチC1及び第4速用クラッチC4の入力側に固定されており、第1ギアG1と噛み合っている。第5ギアG5及び第6ギアG6はそれぞれ第1中間軸22に回転自在に支持されており、第5ギアG5は第4速用クラッチC4の出力側に連結され、第6ギアG6は第1速用クラッチC1の出力側に連結されている。また、第7ギアG7は、第1中間軸22に固定され、アイドラギアG3に噛み合っている。
【0038】
[第2中間軸ユニット8]
第2中間軸ユニット8は、第2中間軸24と、第2速用クラッチC2と、第3速用クラッチC3と、第8〜第12ギアG8,G9,G10,G11,G12と、を有している。
【0039】
第2中間軸24は、一端がメインケース2に、他端がカバー3に、それぞれ軸受を介して回転自在に支持されている。また、第2中間軸24の端部には油圧ポンプ25が連結されている。
【0040】
第2速用クラッチC2及び第3速用クラッチC3は、油圧式の多板クラッチであり、第2中間軸24に装着されている。また、これらのクラッチC2,C3は一部が互いに固定されている。
【0041】
第8ギアG8は、第2速用クラッチC2及び第3速用クラッチC3に固定されており、第6ギアG6と噛み合っている。第9ギアG9及び第10ギアG10は第2中間軸24に回転自在に支持されている。そして、第9ギアG9は、第3速用クラッチC3の入力側に連結され、第4ギアG4と噛み合っている。また、第10ギアG10は、第2速用クラッチC2の入力側に連結され、第7ギアG7と噛み合っている。第11ギアG11及び第12ギアG12は第2中間軸24に固定されている。そして、第11ギアG11は第5ギアG5に噛み合っている。
【0042】
[出力軸ユニット9]
出力軸ユニット9は、出力軸26と、出力ギアとしての第13ギアG13と、を有している。出力軸26は両端がそれぞれメインケース2に軸受を介して回転自在に支持されている。出力ギアG13は、出力軸26に固定され、第12ギアG12に噛み合っている。
【0043】
[動力伝達経路]
以上のように構成されたトランスミッションは次のように作動する。
【0044】
<前進第1速(F1)>
前進第1速(F1)の場合は、前進用クラッチCfをオン(動力伝達状態)するとともに第1速用クラッチC1をオンする。これにより、第1ギアG1が入力軸12に連結され、第6ギアG6が第1中間軸22に連結される。この場合の入力軸12から出力軸26への動力伝達経路は、以下の通りである。
【0045】
入力軸12→前進用クラッチCf→第1ギアG1→第4ギアG4→第1速用クラッチC1→第6ギアG6→第8ギアG8→第2中間軸24→第12ギアG12→出力ギア(第13ギア)G13→出力軸26
<前進第2速(F2)>
前進第1速(F1)から前進第2速(F2)に変速する場合は、前進用クラッチCfをオンにした状態で、第1速用クラッチC1をオフ(動力伝達遮断状態)し、第2速用クラッチC2をオンする。これにより、第6ギアG6の第1中間軸22への連結が解除され、第10ギアG10が第2中間軸24に連結される。この場合の入力軸12から出力軸26への動力伝達経路は、以下の通りである。
【0046】
入力軸12→前進用クラッチCf→第1ギアG1→第4ギアG4→第1中間軸22→第7ギアG7→第10ギアG10→第2速用クラッチC2→第2中間軸24→第12ギアG12→出力ギアG13→出力軸26
<前進第3速(F3)>
前進第2速(F2)から前進第3速(F3)に変速する場合は、前進用クラッチCfをオンにした状態で、第2速用クラッチC2をオフし、第3速用クラッチC3をオンする。これにより、第10ギアG10の第2中間軸24への連結が解除され、第9ギアG9が第2中間軸24に連結される。この場合の入力軸12から出力軸26への動力伝達経路は、以下の通りである。
【0047】
入力軸12→前進用クラッチCf→第1ギアG1→第4ギアG4→第9ギアG9→第3速用クラッチC3→第2中間軸24→第12ギアG12→出力ギアG13→出力軸26
<前進第4速(F4)>
前進第3速(F3)から前進第4速(F4)に変速する場合は、前進用クラッチCfをオンにした状態で、第3速用クラッチC3をオフし、第4速用クラッチC4をオンする。これにより、第9ギアG9の第2中間軸26への連結が解除され、第5ギアG5が第1中間軸22に連結される。この場合の入力軸12から出力軸26への動力伝達経路は、以下の通りである。
【0048】
入力軸12→前進用クラッチCf→第1ギアG1→第4ギアG4→第4速用クラッチC4→第5ギアG5→第11ギアG11→第2中間軸24→第12ギアG12→出力ギアG13→出力軸26
<後進第1速(R1)>
後進第1速(R1)の場合は、後進用クラッチCrをオンするとともに第1速用クラッチC1をオンする。この場合の入力軸12から出力軸26への動力伝達経路は、以下の通りである。
【0049】
入力軸12→後進用クラッチCr→第2ギアG2→アイドラギア(第3ギア)G3→第7ギアG7→第1中間軸22→第1速用クラッチC1→第6ギアG6→第8ギアG8→第2中間軸24→第12ギアG12→出力ギアG13→出力軸26
<後進第2速(R2)>
後進第2速(R2)の場合は、後進用クラッチCrをオンにした状態で、第1速用クラッチC1をオフし、第2速用クラッチC2をオンする。この場合の入力軸12から出力軸26への動力伝達経路は、以下の通りである。
【0050】
入力軸12→後進用クラッチCr→第2ギアG2→アイドラギアG3→第7ギアG7→→第10ギアG10→第2速用クラッチC2→第2中間軸24→第12ギアG12→出力ギアG13→出力軸26
<後進第3速(R3)>
後進第3速(R3)の場合は、後進用クラッチCrをオンにした状態で、第2速用クラッチC2をオフし、第3速用クラッチC3をオンする。この場合の入力軸12から出力軸26への動力伝達経路は、以下の通りである。
【0051】
入力軸12→後進用クラッチCr→第2ギアG2→アイドラギアG3→第7ギアG7→第1中間軸22→第4ギアG4→第9ギアG9→第3速用クラッチC3→第2中間軸24→第12ギアG12→出力ギアG13→出力軸26
<後進第4速(R4)>
後進第4速(R4)の場合は、後進用クラッチCrをオンにした状態で、第3速用クラッチC3をオフし、第4速用クラッチC4をオンする。この場合の入力軸12から出力軸26への動力伝達経路は、以下の通りである。
【0052】
入力軸12→後進用クラッチCr→第2ギアG2→アイドラギアG3→第7ギアG7→第1中間軸22→第4速用クラッチC4→第5ギアG5→第11ギアG11→第2中間軸24→第12ギアG12→出力ギアG13→出力軸26
[各変速段の減速比及びその変更]
以上のようなトランスミッションにおいて、各ギアの歯数及び減速比の一例を図3に示す。なお、図3において、「○」は最上段に記載した変速段で各ギアが動力伝達に寄与していることを示している。
【0053】
図3から明らかなように、多くのギアが前進時及び後進時の動力伝達に寄与している。したがって、前進側又は後進側の減速比を変更すると、逆側の減速比も変更されてしまうことになる。
【0054】
ここで、後進側の減速比を変更する場合を考える。図4から明らかなように、前進側の減速比に影響を与えずに、後進側の減速比を変更しようとすると、第2ギアG2の歯数を変更することになる。しかし、第2ギアG2の歯数を変更すると、第2ギアG2の径が変わるので、第2ギアG2とアイドラギアG3との間の中心間距離を変更する必要がある。なお、アイドラギアG3も第2ギアG2と同様に後進時にのみ動力伝達に寄与するギアである。しかし、アイドラギアG3は、単に第2ギアG2及び第7ギアG7に噛み合い、入力軸12の回転を逆転して第1中間軸22に伝達するだけのギアにすぎない。したがって、アイドラギアG3の歯数は減速比に影響しない。
【0055】
ここで、減速比の変更によって中心間距離が変化する具体的例を図4に示している。図4(a)に示す例では、ギアG2−G3−G7−G10の歯数は、29−28−36−55であり、第2ギアG2とアイドラギアG3との中心間距離はX1である。
【0056】
これに対して、図4(b)に、後進側の減速比を変更するために、第2ギアG2の歯数を29枚から26枚に変更した場合を示している。この場合は、第2ギアG2’の径が小さくなるので、第2ギアG2’とアイドラギアG3との中心間距離をX2に変更しなければならない。
【0057】
このような場合、第2ギアG2’(入力軸12)の位置を変えないとすると、アイドラギアG3の位置を変更する必要があり、結局、アイドラギアG3を支持する部分の構造を変更する必要がある。このため、従来のトランスミッションでは、メインケースのアイドラギアG3を支持する部分を変更している。すなわち、従来においては、後進側の異なる減速比毎にメインケースを用意する必要がある。
【0058】
一方、本実施形態では、アイドラギアG3及びそれを支持する支持部材14を含むアイドラユニット6をメインケース2に対して着脱自在としているので、中心間距離の変化に対しては、アイドラユニット6を交換することによって対応することができる。
【0059】
減速比変更後の中心間距離に対応可能なアイドラユニット30を図5に示している。図5に示すアイドラユニット30は、図2に示したアイドラユニット6と構成部材は同じであるが、支持部材の形状が異なっている。具体的には、支持部材31は、円板状の装着部31aと、軸部31bと、フランジ31cと、を有している。装着部31a及びフランジ31cについては、変更前のアイドラユニット6の支持部材14の装着部14a及びフランジ14cと全く同形状である。すなわち、装着部31aはメインケース2に形成された円形の孔2aに装着可能である。また、フランジ31cはボルト15を介してメインケース2の壁面に固定可能である。
【0060】
一方、軸部31bは、支持部材14の軸部14bとは異なり、装着部31aの中心から偏芯して形成されている。より具体的には、交換前のアイドラユニット6の支持部材14は、装着部14aの中心に軸部14bの中心が一致するように形成されている。一方、アイドラユニット30の支持部材31は、軸部31bの中心が、装着部31aの中心から中心間距離の差(X1−X2)だけ第2ギアG2’側にずれて形成されている。
【0061】
以上のような支持部材31に、減速比変更前のアイドラギアG3、軸受等の各部材を装着することにより、後進側の減速比が変更されたアイドラユニット30を構成することができる。このアイドラユニット30をメインケース2に装着することにより、メインケース2を全く変更することなく、また前進側の減速比を変更することなく、後進側の減速比を変更することができる。変更後の減速比を、変更前の減速比と併せて図4に示している。
【0062】
[特徴]
この実施形態のトランスミッションでは、アイドラギア及びそれを支持する支持部材を含むアイドラユニットを、メインケースに対して着脱自在としたので、メインケースを変更することなしに後進側の減速比を変更することができる。また、前進側の減速比を変更することなく、後進側の減速比のみを変更することができる。
【0063】
[他の実施形態]
本発明は以上のような実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱することなく種々の変形又は修正が可能である。
【0064】
(a)前記実施形態では、支持部材に軸部を形成し、この軸部にアイドラギアが支持されている。すなわち、アイドラギアが片持ち構造で支持されている。これに対して、アイドラギアが両持ち構造で支持されるように構成した例を図6に示している。
【0065】
図6に示すアイドラユニット34は主に、アイドラケース35と、アイドラ軸36と、アイドラギア37と、を有している。
【0066】
アイドラケース35は、内部に収納部35aを有し、第2ギアG2(入力軸12)側に開口35bを有している。この開口35bはアイドラギア37を収納部35aに挿入可能な程度の大きさに形成されている。また、アイドラケース35は、対向する位置に貫通孔35c,35dを有している。そして、このアイドラケース35は複数のボルト38によってメインケース2に固定されている。
【0067】
アイドラ軸36は、アイドラケース35の貫通孔35c,35dを貫通しており、両端部のそれぞれが軸受39,40を介してアイドラケース35に回転自在に支持されている。
【0068】
アイドラギア37は、アイドラケース35の収納部35aに収納されており、アイドラ軸37にスプライン係合等によって回転不能に固定されている。アイドラギア37の一方の内周端部はアイドラ軸36の大径部に当接し、他方の内周端部は軸受40の内輪に当接している。また、アイドラ軸36の端部には、押さえプレート41がボルト42により固定されている。そして、この押さえプレート41によって軸受40の内輪が押さえられ、これによりアイドラギア37の軸方向の移動が規制されている。また、軸受40の外輪はメインケース2に当接している。なお、軸受39の外方にはカバー43(図6では一部のみ示している)がボルト44によって装着されている。
【0069】
このような構成では、アイドラギア37が両持ち構造で支持されている。従来のトランスミッションにおいてアイドラギアを両持ち構造にする場合、メインケースの内部にアイドラギアあるいはそれを支持するアイドラ軸の一端を支持するための突出部が必要である。このため、メインケースの鋳型が複雑になり、コストアップを招いている。
【0070】
しかし、この図6に示した実施形態の両持ち構造では、メインケース側に突出部等が不要になり、鋳型が簡単になる。このため、製造費を削減することができる。
【0071】
(b)前記実施形態では、支持部材に軸部を一体で形成し、この軸部にアイドラギアを支持するようにしたが、アイドラギアの支持構造はこれに限定されない。例えば、支持部材に別の軸を固定し、この軸にアイドラギアを回転自在に支持してもよい。
【0072】
(c)トランスミッションの動力伝達経路等の構成は前記実施形態に限定されるものではなく、種々の構成において本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0073】
1 ケース本体
2 メインケース
5 入力軸ユニット
6,30 アイドラユニット
7 第1中間軸ユニット
8 第2中間軸ユニット
9 出力軸ユニット
12 入力軸
14,31 支持部材
22 第1中間軸
24 第2中間軸
26 出力軸
Cf,Cr,C1〜C4 クラッチ
G1〜G13 ギア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業車両の多軸式トランスミッションであって、
ケース本体と、
前記ケース本体に回転自在に支持され動力が入力される第1軸と、前記第1軸に設けられたクラッチ及びギアと、を有する第1軸ユニットと、
前記ケース本体に回転自在に支持され前記第1軸から動力が入力される第2軸と、前記第2軸に設けられたクラッチ及びギアと、を有する第2軸ユニットと、
前記ケース本体に取り外し自在に装着される支持部材と、前記支持部材に回転自在に支持され前記第1軸ユニットのギア及び前記第2軸ユニットのギアに噛み合うアイドラギアと、を有するアイドラユニットと、
を備えた作業車両の多軸式トランスミッション。
【請求項2】
前記アイドラギアと噛み合う前記第2軸ユニットのギアは前進時及び後進時の動力伝達を行うギアである、請求項1に記載の作業車両の多軸式トランスミッション。
【請求項3】
前記ケース本体に回転自在に支持された出力軸と、前記出力軸に設けられ前記第2軸ユニットのギアに噛み合う出力ギアと、を有する出力軸ユニットをさらに備えた、請求項1又は2に記載の作業車両の多軸式トランスミッション。
【請求項4】
前記ケース本体は前記アイドラギアユニットが装着される開口を有しており、
前記支持部材は、前記ケース本体の開口に挿入される装着部と、前記装着部の中心部から前記ケース本体側に延長して形成され前記アイドラギアを回転自在に支持するための軸部と、前記装着部の一端側に形成されて前記ケース本体に固定されるフランジと、を有する、
請求項1から3のいずれかに記載の作業車両の多軸式トランスミッション。
【請求項5】
前記支持部材は前記アイドラギアの軸方向両側を支持する、請求項1に記載の作業車両の多軸式トランスミッション。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−157980(P2011−157980A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−17705(P2010−17705)
【出願日】平成22年1月29日(2010.1.29)
【出願人】(000001236)株式会社小松製作所 (1,686)
【Fターム(参考)】