説明

作業車両

【課題】フロントグリル14等を殊更、大型化することなく、ラジエータ10の冷却風取入孔の開孔面積を増大させることにより、エンジン2のオーバーヒートを防止する。
【解決手段】ボンネット11の前部にフロントグリル14とヘッドライト27を備え、ヘッドライト27を、フロントグリル14の開口29に臨んで車体前方を照明する照射姿勢と、当該開口29を開放して冷却風取入孔として機能させる退避姿勢に切り替え自在に構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン及びラジエータを覆うボンネットの前部にフロントグリルとヘッドライトを備えるトラクタなどの作業車両に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、トラクタなどの作業車両は、エンジンやラジエータなどをボンネットによって覆うと共に、ボンネットの前部に設けるフロントグリルにヘッドライト(前照灯)を組み込んで、夜間走行時に車体前方をヘッドライトの点灯によって照明することが知られている(例えば、特許文献1参照)。
また、ヘッドライトをリトラクタブルになして、ヘッドライトの出し入れに連動してヘッドライトを点灯させるトラクタも知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−343220号公報
【特許文献2】実開昭61−82838号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、エンジン及びラジエータをボンネットで覆う作業車両にあっては、ボンネットの前部に設けるフロントグリルに冷却風取入孔を設け、この冷却風取入孔から導入した空気をラジエータに供給してエンジンを冷却するようにしている。
そして、冷却風取入孔の開孔面積(開孔率)は、近年のエンジンの大馬力化に比例して大きくなる傾向があり、仮に開孔面積が少なく冷却風が不足気味になると、エンジンのオーバーヒートが発生しやすくなる等の問題がある。
そこで、冷却風取入孔の開孔面積を大きくするための方策として、フロントグリル乃至ボンネットを大型化して冷却風取入孔自体を大きくすることが考えられる。しかし、フロントグリル乃至ボンネットを大型化すると、操縦席からの前方視界を悪化させたり、デザイン的な美観を損ねたりするという問題がある。
また、特許文献1のもののようにボンネットの左右の側面部及び前面部から空気を吸い込むことによって、冷却風の不足を補うことが試みられているが、それでも不十分な場合があると共に、特許文献2のもののようにヘッドライトをラジエータ後方のボンネットフードの上面に出し入れするものでは、ヘッドライトの格納時にヘッドライトがエンジンからの熱的な影響を受け、さらにヘッドライトの照射範囲がボンネットフードによって制約を受けて好ましくないという問題がある。
本発明は、係る問題点に鑑みてフロントグリル乃至ボンネットを従来通りの大きさのままとした場合であっても、冷却風取入孔の開孔面積を増大させることができる、作業車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、エンジン及びラジエータを覆うボンネットの前部にフロントグリルとヘッドライトを備え、フロントグリルに設けた冷却風取入孔から導入した空気をラジエータに供給してエンジンを冷却すると共に、ヘッドライトの点灯によって車体前方を照明してなる作業車両において、前記ヘッドライトを、フロントグリルの開口に臨んで車体前方を照明する照射姿勢と、当該開口を開放して冷却風取入孔として機能させる退避姿勢に切り替え自在に構成することを特徴とする。
また、請求項2に記載の発明は、ヘッドライトが退避姿勢に切り替えられると、ヘッドライトの開口にネツトが張設されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明の作業車両によれば、エンジン負荷が大きい作業走行時には、ヘッドライトを退避姿勢に切り替えて、フロントグリルのヘッドライトに臨む開口を開放して冷却風取入孔として機能させる。そのため、フロントグリル乃至ボンネットを大型化することなく、冷却風取入孔の開孔面積を増大させることができ、エンジンのオーバーヒートを未然に防止しながら、前方視界を良好に確保して能率的に作業を行うことができる。
また、夜間走行時には、ヘッドライトを車体前方を照明する照射姿勢に切り替えてヘッドライトを点灯すると、ヘッドライトはフロントグリルの開口に臨んで車体前方を適切に照明することができるから、脱輪等を防止して安全に走行を行うことができる。なお、夜間の移動走行は作業走行より一般的にエンジン負荷は少なく、エンジンのオーバーヒートは発生し難い状態にあるため、冷却風取入孔の開孔面積が減少しても支障はない。
さらに、ヘッドライトを退避姿勢に切り替えると、その開口にネツトが張設されるため、開口から塵埃が直接、フロントグリル内に侵入してラジエータが目詰まりするという不具合が防止され、それによりラジエータのメンテナンス回数を減少させて、エンジンのオーバーヒートを間接的に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】トラクタの側面図である。
【図2】エンジン及びラジエータ周りの斜視図である。
【図3】フロントグリルの斜視図である。
【図4】ヘッドライトの取付け状態を示す側面図である。
【図5】ヘッドライトの平面図である。
【図6】ネットを取り付けたヘッドライトの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1及び図2に示すように作業車両としてのトラクタ1は、機体前部にエンジン2を備える。
該エンジン2の動力はトランスミッション(図示せず)によって変速され、前輪3及び後輪4に伝達される。また、機体には操縦席5が設けられ、該操縦席5の前方にはステアリングハンドル6の他、ブレーキペダル7やクラッチペダルが設けられている。さらに、機体後部にはロープス8が立設されると共に、トップリンク、ロワーリンク等からなる周知の3点リンク機構9が設けてあり、係る3点リンク機構にロータリ耕耘装置等の作業機を装着して、耕耘作業などの作業走行を行う。
【0009】
前記エンジン2及びエンジン2の前方に設けられるラジエータ10等は、ボンネット11によって覆われている。該ボンネット11は、エンジン2及びラジエータ10等の上方を覆うボンネットフード12、左右側方を覆うサイドカバー13,13、前方を覆うフロントグリル14等から構成されている。この内、ボンネットフード12は、エンジン2の後部に立設された門型フレーム15にヒンジを介して前方側が開閉可能に装着され、左右のサイドカバー13,13は、門型フレーム15及びラジエータ10を取り付けるブラケット16に係止具を介して着脱自在に装着され、フロントグリル14は、下部に設けた突起14a,14aがラジエータ10前方の底板17の孔17a,17aに嵌合し、またラジエータブラケット16の上部に連結され、下部が底板17に連結されるステー18の上部に、フロントグリル14の上片に形成した切欠き孔14b,14bを臨ませて、図示しないノブ付きボルトによってステー18に着脱自在に固定される。
【0010】
一方、前記ラジエータ10は、ラジエータブラケット16に取り付けられ、エンジン2によって駆動されるラジエータファン19によって吸引される冷却風がラジエータ10のコアを通過することにより、エンジン2の冷却水が冷却される。また、ラジエータブラケット16に装着された隔壁20の周縁にはシール21が設けられ、ラジエータ10を通過して暖められた排風がラジエータ10の前面に還流しないようにラジエータ10の前後を仕切っている。そして、ラジエータ10の冷却風は、前記ボンネットフード12の前部に設けられた開口22及びフロントグリル14の下半部に形成された開口23,24,25,25を介して導入され、各開口22,23,24,25,25には塵埃の侵入を阻止するネット(パンチングメタル26)が装着される。
【0011】
そして、図3及び図4に示すようにフロントグリル14は、平面視門型の樹脂成形品であり、その上半部には、ヘッドライト27やコーナーライト28を組み込むための開口29,30,30が形成され、また、下半部には、前述した冷却風を取り込むための開口23,24,25,25が形成されている。ここで、ヘッドライト27とコーナーライト28は、それぞれ別体のユニットとして構成され、例えば、ヘッドライト27は二灯式とされ、左右のバルブ31a、リフレクタ31b、レンズ31cなどを備えて構成される。また、コーナーライト28はフロントグリル14の側面部に形成される開口30,30に対して外側方から組み込まれ、内側から複数のネジでフロントグリル14に固定される。
【0012】
さらに、ヘッドライト27の裏面側には、図5に示すようにヘッドライトステー32がヘッドライト27のハウジングに対してネジで固定される。そして、該ヘッドライトステー32はフロントグリル14のステー18に固定された支点軸33に回動自在に軸支される。一方、ヘッドライトステー32の中間ステー32aにはリンク34の一端部が回動自在に連結され、また、リンク34の他端部は、同じくフロントグリル14のステー18に固定された電動モータ35によって回転するカムプレート36に突設したピン36aに回動自在に連結される。そして、これにより、特にヘッドライト27の前面側のレンズ31は、図4に示すようにフロントグリル14の開口29に臨んで、当該開口29がレンズ31cで全面的に閉鎖されるヘッドライト27の照射姿勢と、当該開口29を開放して冷却風の取入孔として機能させる退避姿勢に切り替え自在に構成される。
【0013】
また、図6に示すようにヘッドライト27のハウジングの上部には、塩化ビニール等の屈曲自在な材料を用いて多孔に形成されたネット37(パンチングメタル)の下端部が複数のネジ38で固定され、ネット37の遊端側の左右はフロントグリル14の上部の裏面側の左右に取り付けられたガイド金具14cのスリットに嵌挿される。そして、前記ヘッドライト27の照射姿勢にあっては、ネット37がフロントグリル14の上部に略水平方向に収納され、ヘッドライト27の退避姿勢にあっては、ヘッドライト27の回動に伴ってガイド金具14cに案内されながらフロントグリル14の開口29を全面的に閉鎖し、これによりフロントグリル14の開口29にネット37が張設されることになる。なお、ヘッドライト27はその退避姿勢においてフロントグリル14の横桟14dの背後に位置し、下方の開口23からの冷却風の取り入れを妨げないようにしている。また、フロントグリル14により覆われるバッテリ38は、底板17に形成した落とし込み穴17bに載置され、バッテリ38の上面が可能な限り低く抑えられているため、フロントグリル14の下段の開口24,25,25からの冷却風の取り入れも支障がないように構成されている。
【0014】
以上のように構成された実施形態によれば、機体後部の3点リンク機構9にロータリ耕耘装置等の作業機を装着して、耕耘作業などの作業走行を行う時、アクセルレバーによってエンジン2の回転数を上げて耕耘負荷に見合うエンジントルクを確保して作業を行うことになる。この場合、昼間であることをもってヘッドライト27は消灯させているため、ヘッドライト27は退避姿勢に切り替えられており、ヘッドライト27はフロントグリル14の横桟14dの背後に位置して、フロントグリル14の開口29はネット37によって全面的に覆われて、ラジエータ10の冷却風はネット37に形成された多数の孔を通ってフロントグリル14内に導入され、他の開口22,23,24,25,25を通って流入した冷却風とともにラジエータ10に至り、エンジン2の冷却水を冷却した後、ラジエータ10後方のエンジン2周囲から下方に排風される。
【0015】
従って、この場合、フロントグリル14のヘッドライト27に臨む開口29は冷却風の取入孔として機能し、冷却風取入孔の開孔面積は開口29をヘッドライト27で塞いだ場合よりも約30%程度増大し、エンジン2のオーバーヒートを防止することができる十分な冷却風を確保することができる。また、冷却風取入孔の開孔面積が増大して、ネットに形成された多数の孔を通過する際の冷却風の風速が全体的に弱まるので、ネットに付着する塵埃が減ってネットの詰まりも減少するという相乗効果が期待できる。
【0016】
また、移動走行を行う時は、エンジン2の回転数をフットアクセルペダル等によって適宜、調節しながら走行負荷に見合うエンジントルクを確保して走行することになる。そして、この移動走行が夜間に及ぶ場合には、ヘッドライト27を点灯することになる。この場合、ヘッドライト27をライトスイッチによって点灯指示すると、電動モータ35が起動してカムプレート36が約180度回転して、ヘッドライト27はフロントグリル14の開口29に臨む照射姿勢に切り替えられる。また、それと同時にネット37はフロントグリル14の上部に収納される。なお、電動モータ35の駆動回路は省略するが、電動モータ35はライトスイッチのオン・オフに連動して正逆に回転し、ライトスイッチをオン(点灯指示)するとヘッドライト27はリンク34によって照射姿勢に、またオフ(消灯指示)するとヘッドライト27は退避姿勢に切り替えられて、その姿勢がそのまま維持される。
【0017】
そして、ヘッドライト27が照射姿勢に切り替わるとヘッドライト27は点灯して、車体前方を適切に照明する。従って、脱輪等を防止して安全に走行を行うことができる。しかし、その反面、フロントグリル14の開口29はヘッドライト27によって閉鎖され、冷却風取入孔の開孔面積は減少して、エンジンのオーバーヒートが発生し易くなる。しかし、夜間の移動走行は作業走行に比較してエンジン負荷が少なく、また、夜間に作業を行う場合であっても日中より外気温は一般的に下がることから、エンジンのオーバーヒートは発生し難い状態となって、殊更、開孔面積の減少がエンジンに致命的なダメージを与える虞は少なくなる。
【0018】
なお、前述の実施形態においては、ヘッドライト27をフロントグリル14に形成した開口29に臨ませるものとしたが、フロントグリル14の上部とボンネットフード12の下部との間に間隙を設けて、これをヘッドライト27が臨む開口としたり、ボンネットフード12のフロントグリルとなる開口22にヘッドライト27を臨ませるようにしてもよく、要するにヘッドライト27はボンネット11の前部のフロントグリル部に形成される開口に臨み照射姿勢と退避姿勢に切り替えられるものであれば、その配置位置は自由に設定することができる。
また、ヘッドライト27は後方の支点軸33を中心として照射姿勢と退避姿勢に約45度回転させるものとしたが、実施形態の支点軸33の位置をより前方に移動して、ヘッドライト27を約180度回転させるものとすると、ヘッドライト27の退避姿勢においてリフレクタ30と開口29との間に間隙が生じることから、これを冷却風の取入口として機能させることもできる。さらに、ヘッドライト27を前後方向にスライド支持して、ヘッドライト27の退避姿勢においてレンズ31cと開口29との間に間隙を生じさせ、これを冷却風の取入口として機能させることもでき、ヘッドライト27の姿勢切替についても特に制約はない。
【符号の説明】
【0019】
2 エンジン
10 ラジエータ
11 ボンネット
14 フロントグリル
27 ヘッドライト
29 開口
35 電動モータ
37 ネット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン及びラジエータを覆うボンネットの前部にフロントグリルとヘッドライトを備え、フロントグリルに設けた冷却風取入孔から導入した空気をラジエータに供給してエンジンを冷却すると共に、ヘッドライトの点灯によって車体前方を照明してなる作業車両において、前記ヘッドライトを、フロントグリルの開口に臨んで車体前方を照明する照射姿勢と、当該開口を開放して冷却風取入孔として機能させる退避姿勢に切り替え自在に構成することを特徴とする作業車両。
【請求項2】
前記ヘッドライトが退避姿勢に切り替えられると、前記開口にネツトが張設されることを特徴とする請求項1に記載の作業車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−20696(P2012−20696A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−161212(P2010−161212)
【出願日】平成22年7月16日(2010.7.16)
【出願人】(000001878)三菱農機株式会社 (1,502)
【Fターム(参考)】