説明

作業車両

【課題】ラグが大きく、排土性の高いタイヤ又はクローラを備えた作業車両において、ラグによる振動ならびに騒音を抑制することができる技術を提供する。
【解決手段】エンジン2の回転動力によって駆動される無段変速装置31と、前記無段変速装置31によって駆動されるタイヤ4・4・6・6又はクローラ17・17と、前記無段変速装置31を制御することによって前記タイヤ4・4・6・6又はクローラ17・17の駆動状態を変更させる制御装置9と、を備えた作業車両100であって、振動加速度Gを検出するとともに前記制御装置9へ検出信号を送信する振動センサ91を具備し、前記制御装置9は、振動加速度Gが所定の値Glよりも大きい場合に前記タイヤ4・4・6・6又はクローラ17・17のラグRによる振動周波数が所定の固有振動数の共振発生領域にあると判断し、前記無段変速装置31を制御して走行速度Vを変更させる、とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業車両の振動ならびに騒音を抑制する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤ又はクローラを駆動して走行する作業車両においては、該タイヤ又はクローラのラグによって振動や騒音が発生することが知られている(例えば特許文献1参照)。また、ラグを有するタイヤ又はクローラが駆動した際の振動周波数と、作業車両の固有振動数と、が共振をはじめると振動や騒音が悪化することも知られている(例えば特許文献2参照)。
【0003】
そこで、振動ならびに騒音を抑制するためにラグを小型化したタイヤが提案されている。しかし、このようなタイヤは、排土性に劣るため、特に泥濘地における走行性能を確保することは困難であった。そのため、主に泥濘地を走行するホイル式トラクタにおいては、ラグが大きく、排土性の高いタイヤを用いる必要があった。また、主に泥濘地を走行するクローラ式トラクタにおいては、ラグが大きく、排土性の高いクローラを用いる必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−269433号公報
【特許文献2】特開2007−246032号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、ラグが大きく、排土性の高いタイヤ又はクローラを備えた作業車両において、ラグによる振動ならびに騒音を抑制することができる技術を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0007】
即ち、請求項1においては、エンジンの回転動力によって駆動される無段変速装置と、
前記無段変速装置によって駆動されるタイヤ又はクローラと、
前記無段変速装置を制御することによって前記タイヤ又はクローラの駆動状態を変更させる制御装置と、を備えた作業車両であって、
振動加速度を検出するとともに前記制御装置へ検出信号を送信する振動センサを具備し、
前記制御装置は、振動加速度が所定の値よりも大きい場合に前記タイヤ又はクローラのラグによる振動周波数が所定の固有振動数の共振発生領域にあると判断し、前記無段変速装置を制御して走行速度を変更させる、としたものである。
【0008】
請求項2においては、エンジンの回転動力によって駆動される無段変速装置と、
前記無段変速装置によって駆動されるタイヤ又はクローラと、
前記無段変速装置を制御することによって前記タイヤ又はクローラの駆動状態を変更させる制御装置と、を備えた作業車両であって、
走行速度を検出するとともに前記制御装置へ検出信号を送信する速度センサを具備し、
前記制御装置は、走行速度が所定の領域にある場合に前記タイヤ又はクローラのラグによる振動周波数が所定の固有振動数の共振発生領域にあると判断し、前記無段変速装置を制御して走行速度を変更させる、としたものである。
【0009】
請求項3においては、請求項2に記載の作業車両において、振動加速度を検出するとともに前記制御装置へ検出信号を送信する振動センサを具備し、
前記制御装置は、走行速度が所定の領域にある場合に前記タイヤ又はクローラのラグによる振動周波数が所定の固有振動数の共振発生領域にあると判断し、且つ、振動加速度が所定の値よりも大きい場合に前記無段変速装置を制御して走行速度を変更させる、としたものである。
【0010】
請求項4においては、請求項1から請求項3に記載の作業車両において、前記制御装置は、走行速度を変更させる際に走行速度が上昇中であると判断した場合、前記無段変速装置を制御して更に増速させる、としたものである。
【0011】
請求項5においては、請求項1から請求項3に記載の作業車両において、前記制御装置は、走行速度を変更させる際に走行速度が低下中であると判断した場合、前記無段変速装置を制御して更に減速させる、としたものである。
【0012】
請求項6においては、請求項1から請求項3に記載の作業車両において、旋回を行なう際に操作する操向操作具と、前記操向操作具の操作量を検出するとともに前記制御装置へ検出信号を送信する操向センサと、を具備し、
前記制御装置は、走行速度を変更させる際に旋回中であると判断した場合、前記無段変速装置を制御して減速させる、としたものである。
【0013】
請求項7においては、請求項4から請求項6に記載の作業車両において、前記制御装置は、走行速度の上昇率が所定の値よりも大きい場合に前記無段変速装置を制御して増速させる制御と、走行速度の低下率が所定の値よりも大きい場合に前記無段変速装置を制御して減速させる制御と、を中止する、としたものである。
【0014】
請求項8においては、請求項1から請求項7に記載の作業車両において、走行速度を変更させる制御を行なうか否かを選択できる選択スイッチを具備し、前記制御装置は、前記選択スイッチが入状態である場合に前記無段変速装置を制御して増速又は減速させる制御を行なう、としたものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0016】
請求項1に記載の発明によれば、検出された振動加速度から共振発生領域にあると判断し、走行速度を変更する構成であるため、ラグを有するタイヤ又はクローラが駆動した際の振動周波数と、作業車両の固有振動数と、が共振することを回避できる。これにより、タイヤ又はクローラのラグに起因した振動ならびに騒音を抑制することが可能となる。
【0017】
請求項2に記載の発明によれば、検出された走行速度から共振発生領域にあると判断し、走行速度を変更する構成であるため、ラグを有するタイヤ又はクローラが駆動した際の振動周波数と、作業車両の固有振動数と、が共振することを回避できる。これにより、タイヤ又はクローラのラグに起因した振動ならびに騒音を抑制することが可能となる。
【0018】
請求項3に記載の発明によれば、検出された走行速度から共振発生領域にあると判断し、且つ、検出された振動加速度が大きい場合に走行速度を変更する構成であるため、ラグを有するタイヤ又はクローラが駆動した際の振動周波数と、作業車両の固有振動数と、が共振することを回避できる。これにより、タイヤ又はクローラのラグに起因した振動ならびに騒音を抑制することが可能となる。また、振動加速度が小さい領域においては走行速度を変更しないため、オペレータの操作に応じた素直な運転フィーリングを実現することが可能となる。
【0019】
請求項4に記載の発明によれば、走行速度が上昇している場合には増速をさせるため、増減速が繰り返されることを回避し、オペレータの操作に応じた滑らかな運転フィーリングを実現することが可能となる。
【0020】
請求項5に記載の発明によれば、走行速度が低下している場合には減速をさせるため、増減速が繰り返されることを回避し、オペレータの操作に応じた滑らかな運転フィーリングを実現することが可能となる。
【0021】
請求項6に記載の発明によれば、旋回している場合には走行速度を減速させるため、旋回中に走行速度が増速することを防ぐことが可能となる。
【0022】
請求項7に記載の発明によれば、走行速度の上昇率ならびに低下率が所定の値よりも大きい場合には増速又は減速させる制御を中止するため、走行速度の大きな変化を防ぐことが可能となる。
【0023】
請求項8に記載の発明によれば、走行速度を変更させる制御を行なうか否かを選択することができるため、走行速度の増速又は減速に起因してオペレータが違和感を覚えることを回避できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】ホイル式トラクタの全体構成を示す図。
【図2】クローラ式トラクタの全体構成を示す図。
【図3】ホイル式トラクタの動力伝達機構の構成を示す図。
【図4】ホイル式トラクタの制御システムの構成を示す図。
【図5】振動加速度に対する走行速度の関係を示す図。
【図6】本発明の第一実施形態に係る制振制御の制御フローを示す図。
【図7】本発明の第二実施形態に係る制振制御の制御フローを示す図。
【図8】本発明の第三実施形態に係る制振制御の制御フローを示す図。
【図9】本発明の第四実施形態に係る制振制御の制御フローを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
まず、ホイル式トラクタ100ならびにクローラ式トラクタ200の全体構成について簡単に説明する。なお、本発明の技術的思想は、以下に説明するホイル式トラクタ100やクローラ式トラクタ200に限るものではなく、その他の農業機械や建設機械等、作業車両全般に適用することが可能である。特に本発明は、ラグRが大きく、排土性の高いタイヤ又はクローラを備えた作業車両において振動ならびに騒音を抑制する効果を奏する。
【0026】
図1は、ホイル式トラクタ100の全体構成を示した図である。なお、図1に示す矢印Aの方向は、ホイル式トラクタ100の前進方向を示している。
【0027】
図1に示すように、ホイル式トラクタ100は、主に長手方向を前後方向として配置された車体フレーム1と、回転動力を発生させるエンジン2と、前後進の切替えや変速を行なうトランスミッション3と、タイヤ(前輪)4・4に回転動力を伝達するフロントアクスル5と、タイヤ(後輪)6・6に回転動力を伝達するリアアクスル7と、各種の操作具が配置されたキャビン8と、で構成される。
【0028】
車体フレーム1は、ホイル式トラクタ100の主たる構造体であり、該ホイル式トラクタ100の骨格をなすものである。
【0029】
エンジン2は、燃料を燃焼させることで膨張エネルギーを発生させ、回転動力を得る動力源である。エンジン2は、車体フレーム1の前部、詳しくは、フロントアクスル5の上方であって、やや車体フレーム1の中央部側に配置されている。エンジン2は、オペレータがハイローシフトレバー81(図4参照)等を操作することによって運転状態を変更することができる。
【0030】
トランスミッション3は、本ホイル式トラクタ100の変速や前後進の切替えを行なう動力伝達装置である。トランスミッション3は、車体フレーム1の中央部から後部にかけて配置されている。なお、本トランスミッション3においては、変速機構として油圧機械式の無段変速装置31(HMT)(図3参照)を用いているが、例えば静油圧式の無段変速装置(HST)であっても良く、これに限定するものではない。
【0031】
フロントアクスル5は、エンジン2の回転動力をタイヤ(前輪)4・4に伝達する動力伝達装置である。フロントアクスル5は、車体フレーム1の前部に懸架されており、トランスミッション3を介してエンジン2の回転動力が入力される。なお、フロントアクスル5には、操舵装置が並設されており、オペレータが操向操作具として設けられたハンドル82を操作することによってタイヤ(前輪)4・4を操舵することができる。
【0032】
リアアクスル7は、エンジン2の回転動力をタイヤ(後輪)6・6に伝達する動力伝達装置である。リアアクスル7は、トランスミッション3と一体となって車体フレーム1の後部に懸架されており、トランスミッション3を介してエンジン2の回転動力が入力される。
【0033】
キャビン8は、本ホイル式トラクタ100の操作具が配置された操縦室である。キャビン8は、車体フレーム1の中央部、詳しくは、車体フレーム1の中央部の上方からリアアクスル7の上方にかけて配置されている。キャビン8には、上述したハイローシフトレバー81やハンドル82に加えて、本ホイル式トラクタ100の運転に用いるその他の操作具が配置されている。
【0034】
図2は、クローラ式トラクタ200の全体構成を示した図である。なお、図2に示す矢印Aの方向は、クローラ式トラクタ200の前進方向を示している。
【0035】
図2に示すように、クローラ式トラクタ200は、主に長手方向を前後方向として配置された車体フレーム11と、回転動力を発生させるエンジン12と、前後進の切替えや変速を行なうリアトランスミッション13と、駆動スプロケット14・14に回転動力を伝達するフロントトランスミッション15と、駆動スプロケット14・14ならびに従動スプロケット16・16に巻装されたクローラ17・17と、各種の操作具が配置されたキャビン18と、で構成される。
【0036】
車体フレーム11は、クローラ式トラクタ200の主たる構造体であり、該クローラ式トラクタ200の骨格をなすものである。
【0037】
エンジン12は、燃料を燃焼させることで膨張エネルギーを発生させ、回転動力を得る動力源である。エンジン12は、車体フレーム11の前部、詳しくは、フロントトランスミッション15の上方であって、やや車体フレーム11の中央部側に配置されている。エンジン12は、オペレータがハイローシフトレバー等を操作することによって運転状態を変更することができる。
【0038】
フロントトランスミッション15は、エンジン12の回転動力を駆動スプロケット14・14に伝達する動力伝達装置である。フロントトランスミッション15は、車体フレーム11の前部に懸架されており、リアトランスミッション13を介してエンジン12の回転動力が入力される。なお、フロントトランスミッション15には、操向用の無段変速装置が取り付けられており、オペレータが操向操作具として設けられたハンドル181を操作することによって駆動スプロケット14・14を左右独立して駆動させることができる。
【0039】
クローラ17・17は、無端帯状に連結された、いわゆる無限軌道式の走行装置である。クローラ17・17は、駆動スプロケット14・14ならびに従動スプロケット16・16に架け渡すように巻装されており、駆動スプロケット14・14の回転動力によって駆動される。
【0040】
キャビン18は、本クローラ式トラクタ200の操作具が配置された操縦室である。キャビン18は、車体フレーム11の中央部、詳しくは、車体フレーム11の中央部の上方から従動スプロケット16・16の上方にかけて配置されている。キャビン18には、上述したハイローシフトレバーやハンドル181に加えて、本クローラ式トラクタ200の運転に用いるその他の操作具が配置されている。
【0041】
次に、ホイル式トラクタ100の動力伝達機構の構成について説明する。なお、クローラ式トラクタ200の動力伝達機構については説明を省略する。クローラ式トラクタ200の動力伝達機構は、フロントトランスミッション15をフロントアクスル5の代わりに備える等、一部の差異点を除いてホイル式トラクタ100の動力伝達機構とほぼ同様だからである。
【0042】
図3は、ホイル式トラクタ100の動力伝達機構の構成を示した図である。なお、図3は、簡単のために一部の構成を省略しており、動力伝達機構の全てを図示したものではない。
【0043】
図3に示すように、エンジン2の回転動力をタイヤ(前輪)4・4及びタイヤ(後輪)6・6に伝達する機構は、主にトランスミッション3と、フロントアクスル5と、リアアクスル7と、で構成される。
【0044】
まず、トランスミッション3について詳細に説明する。トランスミッション3は、主に走行用の無段変速装置31と、前後進切替装置32と、副変速装置33と、前輪駆動切替装置34と、で構成される。
【0045】
無段変速装置31は、本ホイル式トラクタ100の走行速度Vを変速可能とするものである。そのため、無段変速装置31は、入力軸311と出力軸312の回転速度の比、即ち、変速比を連続的に変更可能としている。無段変速装置31は、入力軸311や出力軸312の他、油圧アクチュエータ31A、油圧ポンプ31P、油圧モータ31M等を具備する。
【0046】
入力軸311は、エンジン2の回転動力を油圧ポンプ31Pに伝達する。入力軸311の一端部は、エンジン2の出力軸と連結され、入力軸311の他端部は、油圧ポンプ31Pの駆動軸と連結されている。出力軸312は、油圧モータ31Mの回転動力を前後進切替装置32へ伝達する。出力軸312の一端部は、油圧モータ31Mの駆動軸と連結され、出力軸312の中途部に設けられた第一出力ギヤ313等は、前後進切替装置32の前進用ギヤ324等と歯合されている。
【0047】
無段変速装置31は、油圧ポンプ31Pの作動油の吐出量を変化させることで変速比の変更を行なう。具体的に説明すると、無段変速装置31は、油圧アクチュエータ31Aが油圧ポンプ31Pの斜板角度を調節して作動油の吐出量を変化させ、油圧モータ31Mの回転速度を変えることで変速比を変更する。
【0048】
このような構成により、無段変速装置31は、入力軸311の回転速度に対して出力軸312の回転速度を変更することができる。こうして、無段変速装置31は、ホイル式トラクタ100の走行速度Vを変速可能としているのである。
【0049】
前後進切替装置32は、本ホイル式トラクタ100の走行方向を前進又は後進のいずれかに切替可能とするものである。そのため、前後進切替装置32は、前進用クラッチ321と後進用クラッチ322を備えて、各クラッチ321・322を独立して作動可能としている。前後進切替装置32は、前進用クラッチ321や後進用クラッチ322の他、カウンタ軸323、前進用ギヤ324、後進用ギヤ325、逆転用ギヤ326等を具備する。
【0050】
カウンタ軸323は、無段変速装置31の入力軸311や出力軸312に対して平行となるように回動自在に支持されている。カウンタ軸323には、前進用ギヤ324が回動自在に支持されており、該前進用ギヤ324は、前進用クラッチ321と固設されている。また、カウンタ軸323には、後進用ギヤ325が回動自在に支持されており、該後進用ギヤ325は、後進用クラッチ322と固設されている。なお、前進用ギヤ324は、出力軸312に設けられた第一出力ギヤ313と歯合され、後進用ギヤ325は、逆転用ギヤ326を介して出力軸312に設けられた第二出力ギヤ314と歯合されている。
【0051】
前進用クラッチ321が作動した場合は、前進用ギヤ324とカウンタ軸323とが連結されて、エンジン2の回転動力が該カウンタ軸323へ伝達される。一方、後進用クラッチ322が作動した場合は、後進用ギヤ325とカウンタ軸323とが連結されて、エンジン2の回転動力が該カウンタ軸323へ伝達される。また、前進用クラッチ321及び後進用クラッチ322のいずれもが作動しない場合は、エンジン2の回転動力はカウンタ軸323へ伝達されない。
【0052】
このような構成により、前後進切替装置32は、前進用クラッチ321と後進用クラッチ322の作動を切替えることで、カウンタ軸323へ伝達されるエンジン2の回転動力を反転させることができる。こうして、前後進切替装置32は、ホイル式トラクタ100の走行方向を前進又は後進のいずれかに切替可能としているのである。
【0053】
副変速装置33は、本ホイル式トラクタ100の走行速度Vを変速可能とするものである。そのため、副変速装置33は、高速用ギヤ331と低速用ギヤ332を備えて、いずれかのギヤ331・332によってエンジン2の回転動力を伝達可能としている。副変速装置33は、高速用ギヤ331や低速用ギヤ332の他、出力軸333、副変速シフタ334等を具備する。
【0054】
出力軸333は、前後進切替装置32のカウンタ軸323に対して平行となるように回動自在に支持されている。出力軸333には、高速用ギヤ331及び低速用ギヤ332が回動自在に支持されている。なお、高速用ギヤ331は、カウンタ軸323に設けられた第一出力ギヤ327と歯合され、低速用ギヤ332は、カウンタ軸323に設けられた第二出力ギヤ328と歯合されている。また、高速用ギヤ331と低速用ギヤ332の間には、副変速シフタ334が配置されている。
【0055】
副変速シフタ334がハブスリーブを一方向に摺動させた場合は、高速用ギヤ331と出力軸333とが連結されて、エンジン2の回転動力が該出力軸333へ伝達される。一方、副変速シフタ334がハブスリーブを他方向に摺動させた場合は、低速用ギヤ332と出力軸333とが連結されて、エンジン2の回転動力が該出力軸333へ伝達される。また、副変速シフタ334がハブスリーブをいずれの方向にも摺動させない場合は、エンジン2の回転動力は出力軸333へ伝達されない。
【0056】
このような構成により、副変速装置33は、副変速シフタ334がハブスリーブを摺動させることで、出力軸333の回転速度を変更させることができる。こうして、副変速装置33は、ホイル式トラクタ100の走行速度Vを変速可能としているのである。
【0057】
前輪駆動切替装置34は、本ホイル式トラクタ100のタイヤ(前輪)4・4を駆動させるか否か切替可能とするものである。そのため、前輪駆動切替装置34は、駆動クラッチ341を備えて、エンジン2の回転動力を伝達又は遮断可能としている。前輪駆動切替装置34は、駆動クラッチ341の他、中間軸342、中間ギヤ343、駆動ギヤ344、出力軸345、従動ギヤ346等を具備する。
【0058】
中間軸342は、副変速装置33の出力軸333に対して平行となるように回動自在に支持されている。中間軸342には、中間ギヤ343及び駆動ギヤ344が固設されている。なお、中間ギヤ343は、出力軸333に設けられた出力ギヤ335と歯合され、駆動ギヤ344は、出力軸345に回動自在に支持された従動ギヤ346と歯合されている。また、従動ギヤ346は、駆動クラッチ341と固設されている。
【0059】
駆動クラッチ341が作動した場合は、従動ギヤ346と出力軸345とが連結されて、エンジン2の回転動力が該出力軸345へ伝達される。一方、駆動クラッチ341が作動しない場合は、従動ギヤ346と出力軸345とが連結されず、エンジン2の回転動力は出力軸345へ伝達されない。
【0060】
このような構成により、前輪駆動切替装置34は、駆動クラッチ341の作動の有無によって、エンジン2の回転動力を出力軸345に伝達するか否か切替えることができる。こうして、前輪駆動切替装置34は、ホイル式トラクタ100のタイヤ(前輪)4・4を駆動させるか否か切替可能としているのである。
【0061】
次に、フロントアクスル5について詳細に説明する。フロントアクスル5は、主に差動装置51と、ドライブシャフト52・52と、で構成される。
【0062】
差動装置51は、本ホイル式トラクタ100が旋回等する際に生じるタイヤ(前輪)4・4の回転差を吸収可能とするものである。そのため、差動装置51は、ピニオンギヤ511・511とサイドギヤ512・512を備えて、左右のタイヤ(前輪)4・4の回転差を吸収可能としている。差動装置51は、ピニオンギヤ511・511やサイドギヤ512・512の他、ファイナルギヤ513、ディファレンシャルケース514等を具備する。
【0063】
ファイナルギヤ513は、前輪駆動切替装置34の出力軸345に設けられた出力ギヤ347と歯合されている。ファイナルギヤ513の側面には、ディファレンシャルケース514が固設されており、ディファレンシャルケース514は、ファイナルギヤ513とともに回転する。ディファレンシャルケース514には、回転自在に設けられた二つのピニオンギヤ511・511が対向して配置され、該ピニオンギヤ511・511に二つのサイドギヤ512・512が歯合されている。そして、各サイドギヤ512・512は、タイヤ(前輪)4・4に連結されたドライブシャフト52・52と固設されている。
【0064】
ホイル式トラクタ100の直進時においては、ディファレンシャルケース514がサイドギヤ512・512を介して左右のドライブシャフト52・52へ等しい回転動力を伝達する。一方、旋回時においては、ディファレンシャルケース514がサイドギヤ512・512を介して左右のドライブシャフト52・52へ回転動力を伝達する際に、ピニオンギヤ511・511が回転することによって左右のドライブシャフト52・52の回転速度を調節する。
【0065】
このような構成により、差動装置51は、ピニオンギヤ511・511とサイドギヤ512・512の回転によって、左右のタイヤ(前輪)4・4の回転速度を調節することができる。こうして、差動装置51は、ホイル式トラクタ100が旋回等する際に生じるタイヤ(前輪)4・4の回転差を吸収可能としているのである。
【0066】
次に、リアアクスル7について詳細に説明する。リアアクスル7は、主に差動装置71と、ドライブシャフト72・72と、で構成される。
【0067】
差動装置71は、本ホイル式トラクタ100が旋回等する際に生じるタイヤ(後輪)6・6の回転差を吸収可能とするものである。そのため、差動装置71は、ピニオンギヤ711・711とサイドギヤ712・712を備えて、左右のタイヤ(後輪)6・6の回転差を吸収可能としている。差動装置71は、ピニオンギヤ711・711やサイドギヤ712・712の他、ファイナルギヤ713、ディファレンシャルケース714等を具備する。
【0068】
ファイナルギヤ713は、副変速装置33の出力軸333に設けられた出力ギヤ336と歯合されている。ファイナルギヤ713の側面には、ディファレンシャルケース714が固設されており、ディファレンシャルケース714は、ファイナルギヤ713とともに回転する。ディファレンシャルケース714には、回転自在に設けられた二つのピニオンギヤ711・711が対向して配置され、該ピニオンギヤ711・711に二つのサイドギヤ712・712が歯合されている。そして、各サイドギヤ712・712は、タイヤ(後輪)6・6に連結されたドライブシャフト72・72と固設されている。
【0069】
ホイル式トラクタ100の直進時においては、ディファレンシャルケース714がサイドギヤ712・712を介して左右のドライブシャフト72・72へ等しい回転動力を伝達する。一方、旋回時においては、ディファレンシャルケース714がサイドギヤ712・712を介して左右のドライブシャフト72・72へ回転動力を伝達する際に、ピニオンギヤ711・711が回転することによって左右のドライブシャフト72・72の回転速度を調節する。
【0070】
このような構成により、差動装置71は、ピニオンギヤ711・711とサイドギヤ712・712の回転によって、左右のタイヤ(後輪)6・6の回転速度を調節することができる。こうして、差動装置71は、ホイル式トラクタ100が旋回等する際に生じるタイヤ(後輪)6・6の回転差を吸収可能としているのである。
【0071】
次に、ホイル式トラクタ100の制御システムの構成について説明する。なお、クローラ式トラクタ200の制御システムの構成については説明を省略する。クローラ式トラクタ200の制御システムの構成は、ホイル式トラクタ100の制御システムの構成とほぼ同様だからである。
【0072】
図4は、ホイル式トラクタ100の制御システムの構成を示した図である。なお、図4は、簡単のために一部の構成を省略しており、制御システムの全てについて図示したものではない。
【0073】
制御装置9は、ハイローシフトレバー81等の操作具の他、振動センサ91や速度センサ92、操向センサ93等とインターフェイス部95を介して電気的に接続されている。そして、制御装置9は、ハイローシフトレバー81等からの入力信号や振動センサ91等からの検出信号に基づいて制御信号を作成し、エンジン2や無段変速装置31等に該制御信号を送信する。
【0074】
振動センサ91は、圧電素子を用いて振動加速度Gを検出するものである。振動センサ91は、振動レベルを電圧値として検出し、該電圧値を検出信号として制御装置9へ送信する。なお、本実施形態における振動センサ91は、圧電素子を用いて振動加速度Gを検出する、いわゆる圧電型振動センサとしているが、動電型振動センサや渦電流型振動センサ等であっても良く、これに限定するものではない。更に、本実施形態において振動センサ91は、キャビン8に取り付けられるとしているが、例えば車体フレーム1等に取り付けられるとしても良い。
【0075】
速度センサ92は、回転するパルス盤の凸部との近接又は離間を検出するものである。速度センサ92は、パルス盤の凹凸に応じて変化する起電力を検出信号として制御装置9へ送信する。なお、本実施形態において速度センサ92は、トランスミッション3に取り付けられて出力軸333の回転速度を検出するとしているが、例えばリアアクスル7に取り付けられてドライブシャフト72の回転速度を検出するとしても良い。
【0076】
操向センサ93は、操向操作具であるハンドル82の回転角度を検出するものである。操向センサ93は、ハンドル82の回転角度を電圧値として検出し、該電圧値を検出信号として制御装置9へ送信する。なお、本実施形態における操向センサ93は、ハンドル82の基部に取り付けられている。
【0077】
インターフェイス部95は、ハイローシフトレバー81等の操作具の他、振動センサ91等の各センサ91・92・93・・・と制御装置9とを接続するものである。インターフェイス部95は、ハイローシフトレバー81等の操作具を操作することによって示されたオペレータの意思を制御装置9に入力する。また、インターフェイス部95は、振動センサ91等の検出結果を制御装置9に入力する。
【0078】
制御装置9は、CPU(Central Processing Unit;中央演算処理装置)やRAM(Random Access Memory;ランダムアクセスメモリ)、ROM(Read−Only Memory;読み出し専用メモリ)等から構成される。CPUは、ROMに記憶された各種の制御プログラムに従って演算処理を行ない、エンジン2や無段変速装置31等へ制御信号を送信する。また、CPUは、計時機能部を備えており、これによってタイマー機能を実現している。なお、RAMは、CPUの演算結果を一時的に記憶するものである。
【0079】
更に、制御装置9には、インターフェイス部95を介して選択スイッチ94が接続されている。選択スイッチ94は、後述する制振制御を行なうか否かを選択可能とするものである。なお、選択スイッチ94は、オペレータが操縦席に着座した状態で操作することができるよう、キャビン8内に設けられたコントロールパネルに配置されている。
【0080】
以上のような構成のホイル式トラクタ100において、ラグRによる振動ならびに騒音を抑制することができる技術について説明する。本発明の目的は、ラグRを有するタイヤ4・4・6・6が駆動した際の振動周波数と、ホイル式トラクタ100の固有振動数と、が共振をはじめる走行速度Vの所定の領域Vrを回避することで、振動ならびに騒音を抑制することにある(図5参照)。
【0081】
まず、図5を用いて振動加速度Gに対する走行速度Vの関係を説明する。
【0082】
図5の縦軸は、振動センサ91が検出した振動加速度Gを示している。また、図5の横軸は、ホイル式トラクタ100の走行速度Vを示している。図5に示すX領域、Y領域、Z領域は、タイヤ4・4・6・6が駆動した際の振動周波数と、ホイル式トラクタ100の固有振動数と、が共振をはじめて振動加速度Gが高くなる領域であることを示している。
【0083】
次に、図6を用いて、本発明の第一実施形態に係る制振制御の制御フローについて説明する。
【0084】
まず、ステップS101において制御装置9は、振動加速度Gが所定の値Glよりも大きいか否かを判断する。つまり、制御装置9は、振動センサ91によって検出された振動加速度Gが予め設定された値Glよりも大きいか否かを判断する。ここで、所定値Glとは、ホイル式トラクタ100の振動ならびに騒音をパラメータとして試験等によって定められた値であり、その具値的な数値について限定するものではない(図5参照)。
【0085】
そして、制御装置9は、振動加速度Gが所定値Glよりも大きい場合、タイヤ4・4・6・6が駆動した際の振動周波数と、ホイル式トラクタ100の固有振動数と、が共振をはじめたと判断してステップS102へ移行する。また、制御装置9は、振動加速度Gが所定値Glよりも小さい場合、タイヤ4・4・6・6が駆動した際の振動周波数と、ホイル式トラクタ100の固有振動数と、は共振をはじめていないと判断して本制振制御を終了する。
【0086】
ステップS102において制御装置9は、振動加速度Gが所定値Glよりも大きい状態で所定の時間、維持されるか否かを判断する。つまり、制御装置9は、振動センサ91が検出した振動加速度Gが所定値Glよりも大きい状態で予め設定された時間以上、維持されるか否かを判断する。なお、本実施形態においては、振動加速度Gが所定値Glよりも大きい状態で一秒以上、維持されたか否かを判断する。
【0087】
そして、制御装置9は、振動加速度Gが所定値Glよりも大きい状態で一秒以上、維持された場合、タイヤ4・4・6・6が駆動した際の振動周波数と、ホイル式トラクタ100の固有振動数と、の共振が持続していると判断してステップS103へ移行する。また、制御装置9は、振動加速度Gが所定値Glよりも大きい状態で一秒以上、維持されなかった場合、タイヤ4・4・6・6が駆動した際の振動周波数と、ホイル式トラクタ100の固有振動数と、の共振が持続しなかった、又は凹凸路面によって一時的に大きな振動が生じたに過ぎないと判断して本制振制御を終了する。
【0088】
ステップS103において制御装置9は、ホイル式トラクタ100の走行速度Vが上昇中であるか否かを判断する。つまり、制御装置9は、速度センサ92が検出した走行速度Vの経時変化から単位時間当たりの上昇率Raを算出し、走行速度Vが上昇中であるか否かを判断する。
【0089】
そして、制御装置9は、ホイル式トラクタ100の走行速度Vが上昇中であると判断した場合にステップS104へ移行する。また、制御装置9は、ホイル式トラクタ100の走行速度Vが低下中、或いは一定であると判断した場合にステップS124へ移行する。
【0090】
ステップS104において制御装置9は、無段変速装置31を制御してホイル式トラクタ100の走行速度Vを増速させる。つまり、制御装置9は、トランスミッション3を構成する無段変速装置31に制御信号を送信し、ホイル式トラクタ100の走行速度Vを増速させる。
【0091】
このように、本実施形態に係る制振制御は、検出された振動加速度Gから共振発生領域にあると判断し、走行速度Vを変更する構成であるため、ラグRを有するタイヤ4・4・6・6が駆動した際の振動周波数と、ホイル式トラクタ100の固有振動数と、が共振することを回避できる。これにより、タイヤ4・4・6・6のラグRに起因した振動ならびに騒音を抑制することが可能となる。更に、ホイル式トラクタ100の走行速度Vが上昇中であるときには増速をさせるため、増減速が繰り返されることを回避し、オペレータの操作に応じた滑らかな運転フィーリングを実現することが可能となる。
【0092】
ステップS105において制御装置9は、振動加速度Gが所定の値Glよりも小さいか否かを判断する。つまり、制御装置9は、振動センサ91によって検出された振動加速度Gが予め設定された値Glよりも小さいか否かを判断する。
【0093】
そして、制御装置9は、振動加速度Gが所定値Glよりも小さいと判断した場合に本制振制御を終了する。また、制御装置9は、振動加速度Gが所定値Glよりも大きいと判断した場合にステップS115へ移行する。
【0094】
ステップS115において制御装置9は、走行速度Vの上昇率Raが所定の値Ralよりも大きいか否かを判断する。つまり、制御装置9は、速度センサ92が検出した走行速度Vの経時変化から単位時間当たりの上昇率Raを算出し、該上昇率Raが所定値Ralよりも大きいか否かを判断する。ここで、所定値Ralとは、ホイル式トラクタ100の振動ならびに騒音をパラメータとして試験等によって定められた値であり、その具値的な数値について限定するものではない。
【0095】
そして、制御装置9は、走行速度Vの上昇率Raが所定値Ralよりも大きいと判断した場合に本制振制御を終了する。また、制御装置9は、走行速度Vの上昇率Raが所定値Ralよりも小さいと判断した場合にステップS104に戻して、本制振制御を続行する。
【0096】
このような構成により、ホイル式トラクタ100の走行速度Vの上昇率Raが所定値Ralよりも大きい場合は、走行速度Vを増速させる制御を中止できる。これにより、本制振制御は、ホイル式トラクタ100の走行速度Vの大きな変化を防ぐことが可能となる。
【0097】
一方、ステップS124において制御装置9は、無段変速装置31を制御してホイル式トラクタ100の走行速度Vを減速させる。つまり、制御装置9は、トランスミッション3を構成する無段変速装置31に制御信号を送信し、ホイル式トラクタ100の走行速度Vを減速させる。
【0098】
このように、本実施形態に係る制振制御は、検出された振動加速度Gから共振発生領域にあると判断し、走行速度Vを変更する構成であるため、ラグRを有するタイヤ4・4・6・6が駆動した際の振動周波数と、ホイル式トラクタ100の固有振動数と、が共振することを回避できる。これにより、タイヤ4・4・6・6のラグRに起因した振動ならびに騒音を抑制することが可能となる。更に、ホイル式トラクタ100の走行速度Vが低下中であるときには減速をさせるため、増減速が繰り返されることを回避し、オペレータの操作に応じた滑らかな運転フィーリングを実現することが可能となる。
【0099】
ステップS125において制御装置9は、振動加速度Gが所定の値Glよりも小さいか否かを判断する。つまり、制御装置9は、振動センサ91によって検出された振動加速度Gが予め設定された値Glよりも小さいか否かを判断する。
【0100】
そして、制御装置9は、振動加速度Gが所定値Glよりも小さいと判断した場合に本制振制御を終了する。また、制御装置9は、振動加速度Gが所定値Glよりも大きいと判断した場合にステップS135へ移行する。
【0101】
ステップS135において制御装置9は、走行速度Vの低下率Rsが所定の値Rslよりも大きいか否かを判断する。つまり、制御装置9は、速度センサ92が検出した走行速度Vの経時変化から単位時間当たりの低下率Rsを算出し、該低下率Rsが所定値Rslよりも小さいか否かを判断する。ここで、所定値Rslとは、ホイル式トラクタ100の振動ならびに騒音をパラメータとして試験等によって定められた値であり、その具値的な数値について限定するものではない。
【0102】
そして、制御装置9は、走行速度Vの低下率Rsが所定値Rslよりも大きいと判断した場合に本制振制御を終了する。また、制御装置9は、走行速度Vの低下率Rsが所定値Rslよりも小さいと判断した場合にステップS124に戻して、本制振制御を続行する。
【0103】
このような構成により、ホイル式トラクタ100の走行速度Vの低下率Rsが所定値Rslよりも大きい場合は、走行速度Vを減速させる制御を中止できる。これにより、本制振制御は、ホイル式トラクタ100の走行速度Vの大きな変化を防ぐことが可能となる。
【0104】
次に、図7を用いて、本発明の第二実施形態に係る制振制御の制御フローについて説明する。但し、第一実施形態と同一の制御構成ついては同一の符号を付し、異なる部分を中心に説明する。
【0105】
本発明の第二実施形態に係る制振制御は、第一実施形態に係る制振制御のステップS101に相当する部分が異なる(ステップS201)。
【0106】
ステップS201において制御装置9は、走行速度Vが所定の領域Vrにあるか否かを判断する。つまり、制御装置9は、速度センサ92によって検出された走行速度Vが予め設定された領域Vrにあるか否かを判断する。ここで、所定の領域Vrとは、ホイル式トラクタ100の振動ならびに騒音をパラメータとして試験等によって定められた領域であり、その具値的な範囲について限定するものではない(図5参照)。
【0107】
そして、制御装置9は、走行速度Vが所定の領域Vrにある場合、タイヤ4・4・6・6が駆動した際の振動周波数と、ホイル式トラクタ100の固有振動数と、が共振をはじめると判断してステップS102へ移行する。また、制御装置9は、走行速度Vが所定の領域Vrにない場合、タイヤ4・4・6・6が駆動した際の振動周波数と、ホイル式トラクタ100の固有振動数と、は共振をはじめないと判断して本制振制御を終了する。
【0108】
ステップS102において制御装置9は、振動加速度Gが所定値Glよりも大きい状態で所定の時間、維持されるか否かを判断する。つまり、制御装置9は、振動センサ91が検出した振動加速度Gが所定値Glよりも大きい状態で予め設定された時間以上、維持されるか否かを判断する。なお、本実施形態においては、振動加速度Gが所定値Glよりも大きい状態で一秒以上、維持されたか否かを判断する。
【0109】
そして、制御装置9は、振動加速度Gが所定値Glよりも大きい状態で一秒以上、維持された場合、タイヤ4・4・6・6が駆動した際の振動周波数と、ホイル式トラクタ100の固有振動数と、の共振が持続していると判断してステップS103へ移行する。また、制御装置9は、振動加速度Gが所定値Glよりも大きい状態で一秒以上、維持されなかった場合、タイヤ4・4・6・6が駆動した際の振動周波数と、ホイル式トラクタ100の固有振動数と、の共振が持続しなかったと判断して本制振制御を終了する。
【0110】
ステップS103において制御装置9は、ホイル式トラクタ100の走行速度Vが上昇中であるか否かを判断する。つまり、制御装置9は、速度センサ92が検出した走行速度Vの経時変化から単位時間当たりの上昇率Raを算出し、走行速度Vが上昇中であるか否かを判断する。
【0111】
そして、制御装置9は、ホイル式トラクタ100の走行速度Vが上昇中であると判断した場合にステップS104へ移行する。また、制御装置9は、ホイル式トラクタ100の走行速度Vが低下中、或いは一定であると判断した場合にステップS124へ移行する。
【0112】
ステップS104において制御装置9は、無段変速装置31を制御してホイル式トラクタ100の走行速度Vを増速させる。つまり、制御装置9は、トランスミッション3を構成する無段変速装置31に制御信号を送信し、ホイル式トラクタ100の走行速度Vを増速させる。
【0113】
このように、本実施形態に係る制振制御は、検出された走行速度Vから共振発生領域にあると判断し、走行速度Vを変更する構成であるため、ラグRを有するタイヤ4・4・6・6が駆動した際の振動周波数と、ホイル式トラクタ100の固有振動数と、が共振することを回避できる。これにより、タイヤ4・4・6・6のラグRに起因した振動ならびに騒音を抑制することが可能となる。更に、ホイル式トラクタ100の走行速度Vが上昇中であるときには増速をさせるため、増減速が繰り返されることを回避し、オペレータの操作に応じた滑らかな運転フィーリングを実現することが可能となる。
【0114】
次に、図8を用いて、本発明の第三実施形態に係る制振制御の制御フローについて説明する。但し、第一実施形態と同一の制御構成ついては同一の符号を付し、異なる部分を中心に説明する。
【0115】
本発明の第三実施形態に係る制振制御は、第一実施形態に係る制振制御のステップS101に相当する部分(ステップS301)ならびに振動加速度Gが所定値Glよりも大きいか否かを判断する点で異なる(ステップS302)。
【0116】
ステップS301において制御装置9は、走行速度Vが所定の領域Vrにあるか否かを判断する。つまり、制御装置9は、速度センサ92によって検出された走行速度Vが予め設定された領域Vrにあるか否かを判断する。
【0117】
そして、制御装置9は、走行速度Vが所定の領域Vrにある場合、タイヤ4・4・6・6が駆動した際の振動周波数と、ホイル式トラクタ100の固有振動数と、が共振をはじめると判断してステップS302へ移行する。また、制御装置9は、走行速度Vが所定の領域Vrにない場合、タイヤ4・4・6・6が駆動した際の振動周波数と、ホイル式トラクタ100の固有振動数と、は共振をはじめないと判断して本制振制御を終了する。
【0118】
ステップS302において制御装置9は、振動加速度Gが所定の値Glよりも大きいか否かを判断する。つまり、制御装置9は、振動センサ91によって検出された振動加速度Gが予め設定された値Glよりも大きいか否かを判断する。
【0119】
そして、制御装置9は、振動加速度Gが所定値Glよりも大きい場合、タイヤ4・4・6・6が駆動した際の振動周波数と、ホイル式トラクタ100の固有振動数と、が共振をはじめたと判断してステップS102へ移行する。また、制御装置9は、振動加速度Gが所定値Glよりも小さい場合、タイヤ4・4・6・6が駆動した際の振動周波数と、ホイル式トラクタ100の固有振動数と、は共振をはじめていないと判断して本制振制御を終了する。
【0120】
ステップS102において制御装置9は、振動加速度Gが所定値Glよりも大きい状態で所定の時間、維持されるか否かを判断する。つまり、制御装置9は、振動センサ91が検出した振動加速度Gが所定値Glよりも大きい状態で予め設定された時間以上、維持されるか否かを判断する。なお、本実施形態においては、振動加速度Gが所定値Glよりも大きい状態で一秒以上、維持されたか否かを判断する。
【0121】
そして、制御装置9は、振動加速度Gが所定値Glよりも大きい状態で一秒以上、維持された場合、タイヤ4・4・6・6が駆動した際の振動周波数と、ホイル式トラクタ100の固有振動数と、の共振が持続していると判断してステップS103へ移行する。また、制御装置9は、振動加速度Gが所定値Glよりも大きい状態で一秒以上、維持されなかった場合、タイヤ4・4・6・6が駆動した際の振動周波数と、ホイル式トラクタ100の固有振動数と、の共振が持続しなかったと判断して本制振制御を終了する。
【0122】
ステップS103において制御装置9は、ホイル式トラクタ100の走行速度Vが上昇中であるか否かを判断する。つまり、制御装置9は、速度センサ92が検出した走行速度Vの経時変化から単位時間当たりの上昇率Raを算出し、走行速度Vが上昇中であるか否かを判断する。
【0123】
そして、制御装置9は、ホイル式トラクタ100の走行速度Vが上昇中であると判断した場合にステップS104へ移行する。また、制御装置9は、ホイル式トラクタ100の走行速度Vが低下中、或いは一定であると判断した場合にステップS124へ移行する。
【0124】
ステップS104において制御装置9は、無段変速装置31を制御してホイル式トラクタ100の走行速度Vを増速させる。つまり、制御装置9は、トランスミッション3を構成する無段変速装置31に制御信号を送信し、ホイル式トラクタ100の走行速度Vを増速させる。
【0125】
このように、本実施形態に係る制振制御は、検出された走行速度Vと検出された振動加速度Gから共振発生領域にあると判断し、走行速度Vを変更する構成であるため、ラグRを有するタイヤ4・4・6・6が駆動した際の振動周波数と、ホイル式トラクタ100の固有振動数と、が共振することを回避できる。これにより、タイヤ4・4・6・6のラグRに起因した振動ならびに騒音を抑制することが可能となる。更に、ホイル式トラクタ100の走行速度Vが上昇中であるときには増速をさせるため、増減速が繰り返されることを回避し、オペレータの操作に応じた滑らかな運転フィーリングを実現することが可能となる。
【0126】
次に、図9を用いて、本発明の第四実施形態に係る制振制御の制御フローについて説明する。但し、第一実施形態と同一の制御構成ついては同一の符号を付し、異なる部分を中心に説明する。
【0127】
本発明の第四実施形態に係る制振制御は、第一実施形態に係る制振制御のステップS103の後に本ホイル式トラクタ100が旋回中であるか否かを判断する点で異なる(ステップS401)。
【0128】
ステップS101において制御装置9は、振動加速度Gが所定の値Glよりも大きいか否かを判断する。つまり、制御装置9は、振動センサ91によって検出された振動加速度Gが予め設定された値Glよりも大きいか否かを判断する。
【0129】
そして、制御装置9は、振動加速度Gが所定値Glよりも大きい場合、タイヤ4・4・6・6が駆動した際の振動周波数と、ホイル式トラクタ100の固有振動数と、が共振をはじめたと判断してステップS102へ移行する。また、制御装置9は、振動加速度Gが所定値Glよりも小さい場合、タイヤ4・4・6・6が駆動した際の振動周波数と、ホイル式トラクタ100の固有振動数と、は共振をはじめていないと判断して本制振制御を終了する。
【0130】
ステップS102において制御装置9は、振動加速度Gが所定値Glよりも大きい状態で所定の時間、維持されるか否かを判断する。つまり、制御装置9は、振動センサ91が検出した振動加速度Gが所定値Glよりも大きい状態で予め設定された時間以上、維持されるか否かを判断する。なお、本実施形態においては、振動加速度Gが所定値Glよりも大きい状態で一秒以上、維持されたか否かを判断する。
【0131】
そして、制御装置9は、振動加速度Gが所定値Glよりも大きい状態で一秒以上、維持された場合、タイヤ4・4・6・6が駆動した際の振動周波数と、ホイル式トラクタ100の固有振動数と、の共振が持続していると判断してステップS103へ移行する。また、制御装置9は、振動加速度Gが所定値Glよりも大きい状態で一秒以上、維持されなかった場合、タイヤ4・4・6・6が駆動した際の振動周波数と、ホイル式トラクタ100の固有振動数と、の共振が持続しなかったと判断して本制振制御を終了する。
【0132】
ステップS103において制御装置9は、ホイル式トラクタ100の走行速度Vが上昇中であるか否かを判断する。つまり、制御装置9は、速度センサ92が検出した走行速度Vの経時変化から単位時間当たりの上昇率Raを算出し、走行速度Vが上昇中であるか否かを判断する。
【0133】
そして、制御装置9は、ホイル式トラクタ100の走行速度Vが上昇中であると判断した場合にステップS401へ移行する。また、制御装置9は、ホイル式トラクタ100の走行速度Vが低下中、或いは一定であると判断した場合にステップS124へ移行する。
【0134】
ステップS401において制御装置9は、ホイル式トラクタ100が旋回中であるか否かを判断する。つまり、制御装置9は、操向センサ93によって検出されたハンドル82の回転角度からホイル式トラクタ100が旋回中であるか否かを判断する。
【0135】
そして、制御装置9は、ハンドル82の回転角度が所定の角度よりも小さい場合、本ホイル式トラクタ100は直進中であると判断してステップS104へ移行する。また、制御装置9は、ハンドル82の回転角度が所定の角度よりも大きい場合、本ホイル式トラクタ100は旋回中であると判断してステップS124へ移行する。
【0136】
ステップS104において制御装置9は、無段変速装置31を制御してホイル式トラクタ100の走行速度Vを増速させる。つまり、制御装置9は、トランスミッション3を構成する無段変速装置31に制御信号を送信し、ホイル式トラクタ100の走行速度Vを増速させる。
【0137】
このように、本実施形態に係る制振制御は、検出された走行速度Vから共振発生領域にあると判断し、走行速度Vを変更する構成であるため、ラグRを有するタイヤ4・4・6・6が駆動した際の振動周波数と、ホイル式トラクタ100の固有振動数と、が共振することを回避できる。これにより、タイヤ4・4・6・6のラグRに起因した振動ならびに騒音を抑制することが可能となる。更に、ホイル式トラクタ100の走行速度Vが上昇中であるときには増速をさせるため、増減速が繰り返されることを回避し、オペレータの操作に応じた滑らかな運転フィーリングを実現することが可能となる。但し、ホイル式トラクタ100が旋回している場合には走行速度Vを減速させるため、旋回中に走行速度Vが増速することを防ぐことが可能となる。
【0138】
以上が本発明の各実施形態に係る制振制御の説明である。なお、上述した制振制御は、選択スイッチ94を入状態にしている場合において実行され、選択スイッチ94を切状態にしている場合においては実行されない。
【0139】
これにより、走行速度Vを変更させる制御を行なうか否かを選択することができるため、走行速度Vの増速又は減速に起因してオペレータが違和感を覚えることを回避できる。
【符号の説明】
【0140】
2 エンジン
4 タイヤ
6 タイヤ
9 制御装置
17 クローラ
82 ハンドル(操向操作具)
91 振動センサ
92 速度センサ
93 操向センサ
94 選択スイッチ
100 ホイル式トラクタ(作業車両)
200 クローラ式トラクタ(作業車両)
G 振動加速度
V 走行速度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの回転動力によって駆動される無段変速装置と、
前記無段変速装置によって駆動されるタイヤ又はクローラと、
前記無段変速装置を制御することによって前記タイヤ又はクローラの駆動状態を変更させる制御装置と、を備えた作業車両であって、
振動加速度を検出するとともに前記制御装置へ検出信号を送信する振動センサを具備し、
前記制御装置は、振動加速度が所定の値よりも大きい場合に前記タイヤ又はクローラのラグによる振動周波数が所定の固有振動数の共振発生領域にあると判断し、前記無段変速装置を制御して走行速度を変更させる、としたことを特徴とする作業車両。
【請求項2】
エンジンの回転動力によって駆動される無段変速装置と、
前記無段変速装置によって駆動されるタイヤ又はクローラと、
前記無段変速装置を制御することによって前記タイヤ又はクローラの駆動状態を変更させる制御装置と、を備えた作業車両であって、
走行速度を検出するとともに前記制御装置へ検出信号を送信する速度センサを具備し、
前記制御装置は、走行速度が所定の領域にある場合に前記タイヤ又はクローラのラグによる振動周波数が所定の固有振動数の共振発生領域にあると判断し、前記無段変速装置を制御して走行速度を変更させる、としたことを特徴とする作業車両。
【請求項3】
振動加速度を検出するとともに前記制御装置へ検出信号を送信する振動センサを具備し、
前記制御装置は、走行速度が所定の領域にある場合に前記タイヤ又はクローラのラグによる振動周波数が所定の固有振動数の共振発生領域にあると判断し、且つ、振動加速度が所定の値よりも大きい場合に前記無段変速装置を制御して走行速度を変更させる、としたことを特徴とする請求項2に記載の作業車両。
【請求項4】
前記制御装置は、走行速度を変更させる際に走行速度が上昇中であると判断した場合、前記無段変速装置を制御して更に増速させる、としたことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の作業車両。
【請求項5】
前記制御装置は、走行速度を変更させる際に走行速度が低下中であると判断した場合、前記無段変速装置を制御して更に減速させる、としたことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の作業車両。
【請求項6】
旋回を行なう際に操作する操向操作具と、前記操向操作具の操作量を検出するとともに前記制御装置へ検出信号を送信する操向センサと、を具備し、
前記制御装置は、走行速度を変更させる際に旋回中であると判断した場合、前記無段変速装置を制御して減速させる、としたことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の作業車両。
【請求項7】
前記制御装置は、走行速度の上昇率が所定の値よりも大きい場合に前記無段変速装置を制御して増速させる制御と、走行速度の低下率が所定の値よりも大きい場合に前記無段変速装置を制御して減速させる制御と、を中止する、としたことを特徴とする請求項4から請求項6のいずれか一項に記載の作業車両。
【請求項8】
走行速度を変更させる制御を行なうか否かを選択できる選択スイッチを具備し、前記制御装置は、前記選択スイッチが入状態である場合に前記無段変速装置を制御して増速又は減速させる制御を行なう、としたことを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の作業車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−92946(P2012−92946A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−242810(P2010−242810)
【出願日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】