説明

作業車輌の走行装置

【課題】左右のアクスルの回転速度を制御する各クラッチの摩擦多板式ディスクの押圧力をクラッチシリンダで調整している走行装置は、油圧ポンプから左右それぞれのクラッチシリンダへの圧油回路の長さが異なっていると圧力ロスによって圧力が変動し、変速が左右で同期しないことがある。そこで、本発明は比例減圧制御弁と切換制御弁の配置位置を工夫することによって前記問題点を解決することを課題とする。
ことを課題とする。
【解決手段】左右のアクスル11の回転出力を調整するクラッチシリンダ3への圧油をコントロールする比例減圧弁4と切換制御弁5を一体的に組み付けた制御ブロック6,7を設け、この制御ブロック6,7をミッションケース8の左右側部に取付けるとともにそれぞれを左右のクラッチシリンダ3へ接続配管した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、農業用、土木用、運搬用の作業車両の走行装置に関し、特にミッションケースの構成に関する。
【背景技術】
【0002】
農業用、土木用、運搬用の作業車両の走行装置として、特開2004−74849号公報に記載のミッションケースが有る。
すなわち、左右の走行アクスルと、この走行アクスルの回転速度を変速するクラッチを含む変速装置と、この変速装置の出力回転数を検出する回転数検出手段とを備えており、この走行装置の油圧回路は、左右のアクスルの回転速度を制御する各クラッチの摩擦多板式ディスクの押圧力をクラッチシリンダで調整している。このクラッチシリンダはオイルポンプからの圧油を比例減圧制御弁を介して切換制御弁により送油制御されている。
【特許文献1】特開2004−74849号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前記クラッチシリンダは、左右のアクスルに設けられるが、左右それぞれのクラッチシリンダへの圧油回路の長さが異なっていると圧力ロスによって圧力が変動し、変速が同期しないことがある。そこで、本発明は比例減圧制御弁と切換制御弁の配置位置を工夫することによって前記問題点を解決することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の上記課題は次の構成によって達成される。
すなわち、請求項1に記載の発明では、左右のアクスル(11)(11)の回転出力を調整するクラッチシリンダ(3)(3)への圧油をコントロールする比例減圧弁(4)と変速装置の変速クラッチ(59,61、64,66)への圧油をコントロールする切換制御弁(5)を一体的に組み付けた制御ブロック(6)(7)を設け、この制御ブロック(6)(7)をミッションケース(8)の左右側部に取付けるとともにそれぞれを左右のクラッチシリンダ(3)(3)へ接続配管したことを特徴とする。
【0005】
請求項1の作用は、油圧ポンプから出力される圧油が制御ブロック(6)(7)の比例減圧弁(4)と切換制御弁(5)に供給され、さらに配管を通ってクラッチシリンダ(3)へ送られ、各クラッチの摩擦多板式ディスクを作動させて左右のアクスル(11)(11)の回転速度を制御する。
【0006】
請求項2に記載の発明は、請求項1において、油圧ポンプ(90)からの圧油を受け入れる減圧弁(141)や分流弁(148)を内装する制御ブロック(8C)を設け、この制御ブロック(8C)をミッションケース(8)の左右側部に設けるとともに、左右のアクスル(11)(11)の回転出力を調整するクラッチシリンダ(3)(3)への圧油をコントロールする比例減圧弁(4)と変速装置の変速クラッチ(59,61、64,66)への圧油をコントロールする切換制御弁(5)とを一体的に組み付けた制御ブロック(6)(7)のうちの一方を上記制御ブロック(8C)の外側に設けたことを特徴とする。
【0007】
このように構成すると、油圧ポンプ(90)からの圧油供給を受けて所定圧に減圧する減圧弁(141)や左右のクラッチシリンダ(3)(3)への分流弁(148)を組付けた制御ブロック(8C)と制御ブロック(6)(7)のうちの一方を積層するため、これらを油路接続するための油圧配管を省略できる。
【発明の効果】
【0008】
本発明は上述のごとく構成したので、請求項1記載の発明においては、制御ブロック(6)(7)の比例減圧弁4で圧油の圧力が調整され、切換制御弁5から配管を通ってクラッチシリンダ3に圧油が送られるが、切換制御弁5からクラッチシリンダ3までの油圧配管の長さを同一にでき、左右のクラッチシリンダ3で管路ロスによる圧力の違いがなくなるため、左右のアクスル11の回転速度を正確に制御出来る。
【0009】
請求項2に記載の発明においては、油圧ポンプ(90)からの圧油供給を受けて所定圧に減圧する減圧弁(141)や左右のクラッチシリンダ(3)(3)への分流弁(148)を組付けた制御ブロック(8C)と制御ブロック(6)(7)のうちの一方を積層するため、これらを油路接続するための油圧配管を省略できコストダウンが図れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の走行装置をクローラ型トラクタ10に使用した例を説明する。図1と図2はクローラ型トラクタ10の全体図を示し、アクスル11に駆動スプロケット12を取り付け、この駆動スプロケット12を回転支持するトラックフレーム13に従動スプロケット14と転輪15を枢着し、これら駆動スプロケット12と従動スプロケット14及び転輪15間にクローラ16を巻き掛け、トラックフレーム13の前端部を車体フレーム17に固着してクローラ式走行装置を構成している。
【0011】
このクローラ式走行装置はミッションケース8の左右側方に支持され、且つミッションケース8より後方へ突出しており、クローラ16は車体の前端部よりも後方に位置している。
【0012】
後述するように、エンジン36の回転動力はミッションケース8に入力され、このミッションケース8内の変速装置にて変速された後にアクスル11に伝達され、駆動スプロケット12が回転してクローラ16が駆動される。
【0013】
運転席の近傍には、対地作業機26の昇降位置を設定するポジションレバー37、対地作業機26の耕深量を設定する耕深調整ダイヤル38、対地作業機26の左右方向の傾きを設定する水平調整ダイヤル18等が設けられ、運転席39の下部には車体の左右方向のローリング角を検出するスロープセンサ19を設置している。
【0014】
更に、運転席39の前方に操向操作部である回転操作式のステアリングハンドル20を設けてあり、ステアリングハンドル軸21はコラム22内に挿入され、その基端部にはステアリング操作装置60が装着されている。更に、コラム22の右側部にブレーキペダル23を設けるとともに、コラム22の左側部にクラッチペダル24を設ける。なお、運転席39の下部には制御部であるコントローラ25が設けられている。
【0015】
車体の後部にはリンク機構86を介してロータリ等の対地作業機26が連結されており、このリンク機構86はトップリンク27とロアリンク28,28とからなる3点リンク機構に構成し、左右のリフトアーム29,29の先端とロアリンク28,28をリフトロッド30,30にて連結することにより、リフトシリンダ87の駆動にてリフトアーム29,29を回動させ、リフトロッド30,30を介して前記対地作業機26を昇降連動する公知の構成である。
【0016】
リフトアーム29の回動基部には、対地作業機26の昇降位置を検出するセンサとしてリフトアーム角センサ31が設けられ、このリフトアーム角センサ31によるリフトアーム29の回動角の検出結果に基づき、対地作業機26の昇降高さをコントローラ25が演算する。又、対地作業機26のメインカバー32の後端部にリヤカバー33を回動自在に取り付け、リヤカバーセンサ34によりリヤカバー33の回動角度を検出して、コントローラ25が対地作業機26の耕深制御を行えるように形成されている。
【0017】
一方、車体に対する対地作業機26の左右方向の傾きを変更するアクチュエータとして、左右どちらかのリフトロッド30の途中にローリングシリンダ88を設け、このローリングシリンダ88を伸縮させてロアリンク28のリフト量を左右で変えることにより、対地作業機26のローリング角を変更可能にしてある。そして、前記ローリングシリンダ88に隣接してストロークセンサ35を設け、このストロークセンサ35によりローリングシリンダ88の伸縮長さを検出して車体に対する対地作業機26のローリング角を計測するとともに、前記水平調節ダイヤル18の設定値に応じてローリングシリンダ88を伸縮駆動し、対地作業機26のローリング制御を行えるようにしてある。
【0018】
図3から図6に基づき動力伝達構造を説明する。
ミッションケース8は、フロントミッションケース8aとミッドミッションケース8bとリアミッションケース8cとから構成している。図3は、ミッションケース8の内部構造を示すもので、前端部に突出した動力入力軸40をエンジン36の出力軸に直結している。この動力入力軸40に一体的に設けたギア41にメインクラッチ軸43へスプライン嵌合したギア42を噛み合わせて動力を伝動している。
【0019】
メインクラッチ軸43の前端部44には油圧ポンプ90の駆動軸を連結し、後端部にはメインクラッチ45をボルト46で固着している。従って、油圧ポンプ90はエンジンの駆動に伴って常時駆動され、メインクラッチ45を断続することによって対地作業機26とクローラ式走行装置Kの駆動が断続される。
【0020】
メインクラッチ45を介して動力伝動されるクラッチ軸47の後端部にギア48を固着し、このギア48をギア49に噛み合わせて減速している。ギア49はギア52を一体的に設けた二段ギアで、図示を省略した軸に支持している。従って、ギア49の回転はそのままギア52の回転になり、ギア52からカウンタ軸51にスプライン嵌合したギア53に減速伝動される。
【0021】
ギア53とともに回転するカウンタ軸51の回転は、ギア54を介して第2クラッチ軸56に遊嵌したギア55に略同速伝動されるとともにギア57を介して第1クラッチ軸50に遊嵌したギア58に減速伝動される。
【0022】
ギア55には第二多板クラッチ64が取り付けられ、回転を第2クラッチ軸56に伝動可能にしている。同じくギア58には第一多板クラッチ66が取り付けられ、回転を第一クラッチ軸50に伝動可能にしている。
【0023】
第一クラッチ軸50には、前記ギア58の他に、第三多板クラッチ61を取り付けたギア63を遊嵌しギア72をスプライン嵌合している。また、第二クラッチ軸56には、前記ギア55の他に、第四多板クラッチ66を取り付けたギア67を遊嵌し、ギア69をスプライン嵌合している。
【0024】
カウンタ軸51には、前記ギア53、ギア54、ギア57の他に、ギア68をスプライン勘合し、中空軸81と二段ギア82を遊嵌している。ギア68は前記第一クラッチ軸50のギア63及び前記第二クラッチ軸56のギア67と噛み合っている。
【0025】
中空軸81にスプライン勘合したギア71は第一クラッチ軸50のギア72と噛み合い、ギア70は第二クラッチ軸56のギア69と噛み合っている。
カウンタ軸51と平行に設けた走行クラッチ軸83と同軸線上に中空ギア軸84を設け、走行クラッチ軸83にはクラッチギア77をスプライン嵌合し、中空ギア軸84にはギア74をスプライン嵌合している。ギア74は前記中空軸81のギア73と噛み合い、中空ギア軸84のギア部75が二段ギア82の大径ギア部76と噛み合い、二段ギア82の小径ギア部85が前記クラッチギア77と係脱するようにしている。走行クラッチ軸83の軸端にはベベルギア78を形成している。
【0026】
なお、第一クラッチ軸50と第二クラッチ軸56は、カウンタ軸51に対して等間隔で左右に配置している。
ギア53によってカウンタ軸51へ伝動された回転は、第一クラッチ59から第四クラッチ66までのクラッチ断続で変速されて走行クラッチ軸83へ伝動されるのであるが、その伝動状態は次のとおりであり、クラッチ59,61への圧油の供給および排出は、制御ブロック7に設けた制御切換弁5の切換に基づくもので、クラッチ64,66への供給及び排出は制御ブロック6側に設けた制御切換弁5の切換に基づく。
【0027】
第一クラッチ59を接続し他のクラッチ61,64,66を切断にすると、カウンタ軸51のギア57からギア58に減速伝動された回転が第一クラッチ軸50を介してギア72からギア71へ減速伝動され、中空軸81を介してギア73からギア74へ減速伝動され、中空ギア軸84のギア部75から二段ギア82の大径ギア部76へ減速伝動され、小径ギア部85とクラッチギア77の係合で走行クラッチ軸83が回転する。この伝動経路が最も減速された走行1速である。
【0028】
第三クラッチ61を接続し他のクラッチ59,64,66を切断にすると、カウンタ軸51のギア68からギア63に増速伝動された回転が第一クラッチ軸50を介してギア72からギア71へ減速伝動され、中空軸81を介してギア73からギア74へ減速伝動され、中空ギア軸84のギア部75から二段ギア82の大径ギア部76へ減速伝動され、小径ギア部85とクラッチギア77の係合で走行クラッチ軸83が回転する。この伝動経路は、前記の第一クラッチ59を接続した場合と比較してギア68とギア63の間で増速されているため、2番目に減速された走行2速である。
【0029】
第二クラッチ64を接続にし他のクラッチ59,61,66を切断にすると、カウンタ軸51のギア54からギア56に少し増速伝動された回転が第二クラッチ軸56を介してギア69からギア70へ増速伝動され、中空軸81を介してギア73からギア74へ減速伝動され、中空ギア軸84のギア部75から二段ギア82の大径ギア部76へ減速伝動され、小径ギア部85とクラッチギア77の係合で走行クラッチ軸83が回転する。この伝動経路は、2速よりも速い走行3速である。
【0030】
第四クラッチ66を接続し他のクラッチ59,61,64を切断にすると、カウンタ軸51のギア68からギア67に増速伝動された回転が第二クラッチ軸56を介してギア69からギア70へ増速伝動され、中空軸81を介してギア73からギア74へ減速伝動され、中空ギア軸84のギア部75から二段ギア82の大径ギア部76へ減速伝動され、小径ギア部85とクラッチギア77の係合で走行クラッチ軸83が回転する。この伝動経路は、3速よりも速い走行4速である。
【0031】
以上の如く、第一クラッチ軸50と第二クラッチ軸56を左右に配し、しかもカウンタ軸51に対して等間隔にし、それぞれの軸50,56に多板クラッチ59,61,64,66を設けて変速するようにしている為に、ミッションケース8の前後長さを短くでき、変速においても伝動中の多板クラッチを半クラッチで伝動しながら別の多板クラッチをつないで変速するようなことが行えて、変速ショックを少なく滑らかな増減速とすることが出来る。
【0032】
図3において、一点鎖線Lは、ミッションオイルの給油ラインで、全体の回転軸が浸かった状態にしている。
図4は、ミッションケースの後部を示すもので、リアミッションケース8cの左右側方にはアクスルケース101があり、このアクスルケース101にてクローラ式走行装置Kを支持している。前記リアミッションケース8cには、左右側壁間に支持軸102を枢着し、この支持軸102の中央よりやや左に偏った位置に前記走行クラッチ軸83のベベルギア78と噛み合うベベルギア103をスプライン嵌合し、このベベルギア103と左右対称位置にブレーキディスク104を設けている。
【0033】
そして、前記ブレーキペダル24とブレーキディスク104をリンク機構(図示せず)で接続し、ブレーキペダル24の踏み込み操作によりブレーキディスク104を圧着することによって、支持軸102の回転即ち左右クローラ16の回転を制動するように構成している。また、前記支持軸102の左右両端部には減速ギア組105を設け、この減速ギア組105を介して前記ベベルギア103の回転をアクスルケース101内の入力軸106に伝動する。
【0034】
前記アクスルケース101の内部には正逆転切換装置107を配置してあり、この正逆転切換装置107は、前記入力軸106と、この入力軸106の一端部側に入力軸106と同軸に枢着された出力軸150と、入力軸106と出力軸150の間に介装された二段遊星歯ギア機構108と、この二段遊星歯ギア機構108のキャリア109に設けられた湿式多板型の正転用クラッチ110(車体外側)及び逆転用クラッチ111(車体内側)とから構成している。
【0035】
なお、前記キャリア109は、対峙する2面間に二段遊星歯ギア機構108を構成している第一のキャリア109aと,正転用クラッチ110及び逆転用クラッチ111を設けている第二のキャリア109bとがボルト締めにて一体に構成している。
【0036】
前記二段遊星歯ギア機構108の構成は、前記入力軸108aの一端部に入力側サンギア112を固着するとともに、前記出力軸150の一端部に出力側サンギア113を固着している。また、この入力軸108及び出力軸150の軸周りに前記第一のキャリア109aを遊転自在に取り付けるとともに、この第一のキャリア109aには入力軸108を中心とする同一円周上に複数本の第一キャリアピン114,114・・・を設ける。本実施例の形態では、同一円周上に等間隔で3本の第一キャリアピン114を設けている。
【0037】
そして、それぞれの第一キャリアピン114に入力側プラネタリギア115ならびに出力側プラネタリギア116を同軸かつ一体に枢着する。更に、前記キャリア109には第一キャリアピン114と同数の第二キャリアピン117を同一円周上に等間隔で設け、それぞれの第二キャリアピン117にカウンタギア118を枢着し、このカウンタギア118を前記出力側プラネタリギア116と出力側サンギア113の双方に噛み合わせている。すなわち、第一のキャリア109aの対峙する二面間に第一及び第二のキャリアピン114,117を設けて、2段6軸の遊星歯ギア機構の構成としている(図5)。
【0038】
なお、第一のキャリア109aの外側面にはキャリアピン固定プレート119をボルト締めしており、このキャリアピン固定プレート119を第一のキャリア109aの外形よりも大にして外縁部よりも外側へ張り出させるとともに、キャリアピン固定プレート119の先端を折り曲げて切り欠き部119aを設け、回転センサ(図示せず)により切り欠き部119aの回転を読み取るようにしている。従って、第一のキャリア109aの固定と回転の状態が、ダミーギアを用いずして、簡単に検出することが出来る。また、キャリアピン固定プレート119の先端を折り曲げてあるので、周囲の油が攪拌されて冷却性能を向上させることが出来る。
【0039】
一方、前記正転用クラッチ110と逆転用クラッチ111は第二のキャリア109bの隔壁109cを挟んでそれぞれが反対側に設けられ、正転用クラッチ110の駆動ディスク110aは入力側サンギア112、すなわち入力軸106と一体に係合し、正転用クラッチ110の被駆動ディスク110bは第二のキャリア109bと一体に係合している。
【0040】
また、前記駆動ディスク110aと被駆動ディスク110bを交互に重ね合わせて、その隔壁109c側に押圧板122を設け、この押圧板122と前記隔壁109cとの間にスプリング123を介装し、このスプリング123は、押圧板122を車体外側へ押して駆動ディスク110aと被駆動ディスク110bを圧着するように付勢されている。
【0041】
これに対して、逆転用クラッチ111の駆動ディスク111aはアクスルケース101と一体に係合し、逆転用クラッチ111の被駆動ディスク111bは第二のキャリア109bと一体に係合している。
【0042】
また、前記駆動ディスク111aと被駆動ディスク111bを交互に重ね合わせて、その隔壁109c側に押圧板124を設け、この押圧板124と前記隔壁109cとの間に油圧ピストン125を介装し、更に、前記正転用クラッチ110の押圧夜122と逆転用クラッチ111の押圧板124とを連結棒126にて連結し、前記及方の押圧板122、124が一体に移動するように構成する。従って、油室127(すなわち、本発明のクラッチシリンダ3)に圧力油が供給されると油圧ピストン125が押庄板124を車体内側へ押し、駆動ディスク111aと被駆動ディスク111bを圧着するように構成している。
【0043】
アクスルケース101には油路146を設け、この油路146を入力軸106に設けた油路147へ接続し圧油を油室127へ送るようにしている。油路146の入口は、前記制御ブロック耳部8Cに連結したパイプ151に連結している(図6参照)。
【0044】
なお、左右の比例減圧弁4は圧油を送油するためミッションケース8内に配管したパイプ(図示省略)で連結している。
そして、前記出力軸144の他端部は、アクスルケース101の外側解放部を遮蔽する蓋体128と一体的に組み付ける構成となっており、この蓋体128は前記アクスルケース101と同様の鋳造製であって、前記アクスルケース101との接続用ボルト孔129・・・を有する外蓋部128aと、この外蓋部128aの内面にボルトにより取り付けて、面を覆う内蓋部128bと、前記外蓋部128aと内蓋部128b問に介在させるリングギア130等から構成されている。
【0045】
また、前記外蓋部128aと内蓋部128bとの問にパック状の空間部131を形成し、この空間部131内には、出力軸144と同軸にアクスル11の一端部を枢着するとともに、前記出力軸144の回転を減速させてアクスル11へ伝達する遊星歯ギア機構133を内装してある。
【0046】
この遊星歯ギア機構133は、前記出力軸144の他端部に固設されたサンギア134と、アクスル11の一端部に固設されたキャリア135と、該キャリア135に設けたキャリアピン136と、このキャリアピン136に枢着され且つ前記サンギア134並びにリングギア130の双方に噛合するプラネタリギア137とから構成されている。
【0047】
また、この遊星歯ギア機構133は、ホイール仕様とクローラ仕様とを相互に変更する場合や、ホイール仕様の車輪径を変更する場合等、トラクタの仕様変更に応じて任意に減速比を変更できるような機構であってもよい。なお、出力軸には回転数検出用ギア138が固着され、該回転数検出用ギア138に対して非接触型の回転センサ139を近接配置し、左右のクローラ1613、13への出力回転数を検出できるように構成されている。
【0048】
次に、前記正逆転切り換え装置107の動作について説明する。通常は前記スプリング123が押圧坂122を介して正転用クラッチ110の各ディスク110a、110bを圧着しており、この状態では、正転用クラッチ110の駆動側ディスク110aと係合する入力側サンギア102と、被駆動ディスク110bと係合するキャリア109とが一体回転するので、前記入力軸106の回転が入力側サンギア102から出力側サンギア103へ1対1の回転比で伝達され、入力軸106と出力軸150とが同一方向へ同一回転数にて回転する。
【0049】
一方、前記逆転用クラッチ101の油室127へ圧力油を送り込むと、油圧ピストン125が押圧板124を押圧して、逆転用クラッチ101の各ディスク101a、101bを圧着する。この状態では、逆転用クラッチ101の駆動側ディスク101aと係合するアクスルケース101と、被駆動ディスク101bと係合するキャリア109とが一体となるので、該キャリア109は回転しない。
【0050】
従って、前記入力軸106の回転は入力側サンギア102から入力側プラネタリギア105へ減速されて伝わり、更に、出力側プラネタリギア106からカウンタギア108を介して出力側サンギア103へ減速且つ逆回転で伝達され、入力軸106と出力軸150とが逆方向へ回転し、その回転数は2段遊星歯ギア機構140の各ギア比に応じて所定回転数に減速される。
【0051】
ここで、前記正転用クラッチ110が入り状態で、入力軸106と出力軸150とが同一方向へ同一回転数にて回転している場合に、前記油圧ピストン125によって逆転用クラッチ101の押圧板124が押されたときには、該抑圧板124と前記正転用クラッチ110の押圧政122とが連結棒126にて連結されているため、双方の押圧板122、124が一体に車体内側方向へ移動する。
【0052】
従って、逆転用クラッチ111の各ディスク111a、111bが圧着されるのに伴い、正転用クラッチ110の各ディスク110a、110bはスプリング123の付勢に抗して徐々に圧着が解除されていく。
【0053】
すなわち、前記油室127へ供給する油圧の上昇に応じて、前記正転用クラッチ110に滑りが生じるとともに逆転用クラッチ111が半クラッチ状態で接続され、出力軸150の回転数が低下する。
【0054】
こうして、片側のアクスル11の回転数が低下し、クローラ16の駆動速度が減速される。前記油室127へ圧力油を送り続けて、油圧ピストン125の移動量を図中車体内側に増加すると、前記正転用クラッチ110の駆動用ディスク110aと被駆動用ディスク110bの圧着が完全に解除されて前記出力側サンギア103の回転はゼロとなり、片側のクローラ16の回転が停止して正逆転切り換え装置107が正転状態から切り状態となる。
【0055】
この切り状態を経て、更に前記油室127へ圧力油を送り続ければ、逆転用クラッチ111の駆動側ディスク111aと被駆動側ディスク111bが徐々に圧着されて出力側サンギア103が逆回転し、片側のクローラ16が逆方向に駆動されて正逆転切り換え装置107が逆転状態となる。
【0056】
次に、前記トラクタ10の油圧回路について図8に基づき説明する。
前記油圧ポンプ90は、エンジン36の駆動によりミッションケース8内の油を吸い上げ、この圧油を作業機操作系油圧回路L1と走行系油圧回路L2に分岐する構成になっている。
【0057】
作業機操作系油圧回路L1は、回路上手側から圧力制御弁141、分流弁142を接続し、この分流弁142から切換制御弁143を介して作業機ローリング用油圧シリンダ88と、ポジションレバー37の操作で作動する手動切換弁145を介して作業機リフトシリンダ87を接続する構成となっている。
【0058】
また、前記走行系油圧回路L2は、油圧ポンプ90により吸い上げられたオイルの圧力が減圧弁148により保持され、回路上手側から順に比例減圧弁4と切換制御弁5を介して前記逆転用クラッチ111の油室127に接続する構成となっている。この比例減圧弁4と切換制御弁5は一体にして制御ブロック6,7に組み付ける構成であり、この制御ブロック6,7はミッドミッションケース8bの左右側部に一体形成されたブロック耳部8A、8Bを介して積み重ねられる。また、制御ブロックのうちブロック7側には前記圧力制御弁141及び減圧弁148とを組付けた制御ブロック8Cを構成してこれを積み、外側に比例減圧弁4と切換制御弁5とを組み込んだブロック7を積み重ねる。上記ブロック耳部8A,8Bの内部にはリリーフ弁や油路を形成し、夫々配管151,151の一端を接続すると共に、比例減圧弁4,4の供給側を配管151始端側に連通すべく接続する油路を形成するものである。なお、配管151は左右略同長に形成されている。
【0059】
前記上記比例減圧弁4は左右に夫々構成され、左右アクスルの逆転用クラッチ111を制御する。なお、正転クラッチ110は逆転クラッチ111が非作動時に作動する関係としている。
【0060】
これにより、旋回内側の逆転用クラツチ111の油室127へ圧油を送り、前記比例減圧弁4への通電量を変更することで、旋回内側の逆転用クラッチ111の油室127内に流入する油量を制御し油圧ピストン125を作動させて、出力軸150を介してクローラ16の回転を正転から徐々に減速させて停止状態を経て逆転に切り換え増速することができる。
【0061】
さらに、作業機ローリングシリンダ88と作業機リフトシリンダ87に圧油を送る第一ブロックの油圧回路L1と該第一ブロックの油圧回路L1を経由して逆転用クラッチ111L、111Rに圧油を送る第二ブロックの油圧回路L2の入口部にフィルタ154を取り付け、回路へのゴミの侵入を防いでいる。
【0062】
上記構成からなる本実施の形態の走行装置は、左右の逆転用のクラッチ111L,111Rの両方を同時に作動させることで車両を後進させる機能を有することに特徴がある。
逆転用クラッチ111の作動用油圧ピストン125に高圧油が作用していない場合には、スプリング123により正転用クラッチ110が常時接続しており、この正転用クラッチ110が接続しているときには、入力軸106と出力軸150は一体化し、同方向に回転し、トラクタ10は前進している。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】クローラ型トラクタの側面図である。
【図2】クローラ型トラクタの背面図である。
【図3】ミッションケースの側断面図である。
【図4】ミッションアクスルケースの内部を示す断面図である。
【図5】図4のA−A線断面図(a)、及び図4のB−B線断面図(b)である。
【図6】ミッションケースの平面図である。
【図7】ミッションケースの側面図である。
【図8】トラクタの油圧回路図である。
【符号の説明】
【0064】
1,2 アクスル
3 クラッチシリンダ
4 比例減圧弁
5 切換制御弁
6,7 制御ブロック
8 ミッションケース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右のアクスル(11)(11)の回転出力を調整するクラッチシリンダ(3)(3)への圧油をコントロールする比例減圧弁(4)と切換制御弁(5)を一体的に組み付けた制御ブロック(6)(7)を設け、この制御ブロック(6)(7)をミッションケース(8)の左右側部に取付けるとともにそれぞれを左右のクラッチシリンダ(3)(3)へ接続配管したことを特徴とする作業車輌の走行装置。
【請求項2】
油圧ポンプ(90)からの圧油を受け入れる減圧弁(141)や分流弁(148)を内装する制御ブロック8Cを設け、この制御ブロック8Cをミッションケース(8)の左右側部に設けるとともに、左右のアクスル(11)(11)の回転出力を調整するクラッチシリンダ(3)(3)への圧油をコントロールする比例減圧弁(4)と変速装置の変速クラッチ(59,61、64,66)への圧油をコントロールする切換制御弁(5)とを一体的に組み付けた制御ブロック(6)(7)のうちの一方を上記制御ブロック(8C)の外側に設けたことを特徴とする請求項1に記載の作業車輌の走行装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−154922(P2007−154922A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−347332(P2005−347332)
【出願日】平成17年11月30日(2005.11.30)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】