説明

使用済み治具の洗浄方法および洗浄組成物

【課題】半導体素子製造工程で用いられる石英部材からなる治具において、基材表面の腐食を抑えつつ付着物のみを効率的に除去可能であり、且つセラミックス等の部材からなる治具の洗浄にも適用可能な、人体に非常に有害なフッ化水素酸そのものを使用しない、経済的且つ安全性に優れる、使用済み治具の洗浄方法を提供する。
【解決手段】硝酸等の無機酸とフッ化アンモニウム等のフッ化水素酸以外のフッ化物を混合した洗浄液組成物を用い、この洗浄組成物を治具に接触させて使用済み治具の洗浄を行い、再利用を可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子製造工程で使用された、石英やセラミックス等からなる治具表面に洗浄液組成物を接触させることで洗浄し、再使用を可能とする治具の洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体素子の製造では酸化・拡散工程、気相成長工程、エッチング・アッシング工程、CVD(Chemical Vapor Deposition)工程等、通常数多くの工程を経て製造が行われる。各工程には多数の半導体製造装置を必要であり、それらの半導体製造装置には、石英部材やセラミックス部材からなる各種の治具が用いられる。たとえば窓材やシールドリング、サセプター等は石英部材で構成され、セラミックドーム、フォーカスリング、キャプチャーリング、ガスノズル等はセラミックス部材で構成される。
【0003】
半導体素子の製造過程の各工程では、各工程において用いられる各物質が、それぞれの装置において、使用される治具に付着する。不純物物質の一例を挙げると、酸化・拡散工程では燐、ホウ素、砒素、タンタル、ルテニウム、亜鉛等が付着する可能性があり、エッチング・アッシング工程では、ナトリウム、アルミニウム、銅、ポリマー等の付着が見られる。これら付着物を放置すると付着物層が成長堆積し、例えば治具が石英からなる場合、付着物層と石英との熱膨張率や比熱等の物性の違いにより、付着物層やこれに接する石英の表面にクラックを生じて強度を低下させたり、剥離しパーティクルとなり被処理物を汚染し、半導体素子の製造歩留りを低下させることになる。特にCVD法により目的とする膜を形成する場合、付着物層の剥離は増える傾向にある。
【0004】
同様にセラミックス部材においても、半導体製造過程でアルミニウム、フッ素、塩素、珪素、炭素、酸素などを成分とするスケールが付着し、このスケールがシリコンウエーハ等の被処理物に付着し汚染の原因となる。
【0005】
そこで上記製造工程で使用される治具は一定時間使用した後もしくは製造歩留りの低下が見られた場合に交換する必要があるが、製造コストの低減を図ること、及び資源の有効利用、リサイクル型産業の構築の観点から治具を洗浄、再生処理し、再利用することが好ましい。
【0006】
従来、石英部材で構成される治具を再生処理する方法の一つとして、付着物の種類に応じて例えばフッ化水素酸と硫酸、硝酸等の強酸との混合液や、金属が含まれる場合は王水、有機系の場合はアンモニアと過酸化水素の混合液等を用いて除去する方法(例えば、特許文献1参照)が行われている。しかし、フッ化水素酸を用いる洗浄方法の場合、フッ化水素酸自体が石英基材表面を腐食するため、表面の粗れ、寸法の変化など問題点か多い。
【0007】
一方、セラミックス部材で構成される治具の洗浄方法としては、アルカリ性の薬液を主体とした処理を行い、この後に高温処理を行って表面の反応性生成物など付着物の除去を行う方法(例えば、特許文献2参照)や、表面が炭化珪素材料もしくは窒化珪素材料で構成された部材を熱処理炉において高温酸素雰囲気中で熱処理し、この部材の表面に酸化珪素膜を形成した後、酸化珪素膜を酸により溶解除去する洗浄方法(例えば、特許文献3参照)が行われている。
【0008】
【特許文献1】特開2005−67997号公報(段落番号0032)
【特許文献2】特開2003−55070号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開平11−8216号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前述のように石英部材で構成される治具を洗浄する場合、堆積物の除去には一般的に、フッ化水素酸を含む強酸溶液が洗浄液として用いられているが、フッ化水素酸が石英自体を腐食するため、治具の表面も同時に腐食されて表面が粗れ、表面積等の表面状態の変化が起こる。このような治具を再利用した場合、治具への堆積物の付着量が変動し、消費する気相反応ガスの消費量の変動を引き起こし、例えば被膜の成長量の制御が困難となるなどの問題がある。
【0010】
また、フッ化水素酸が毒劇物であり大量に使用する場合、その取扱いに細心の注意を要し、安全性や作業性に欠けるとともに、洗浄処理装置類に耐酸性等の特別の配慮を必要とするため、洗浄装置類の原価が高くなってしまい洗浄コストが上がるという問題点を有していた。
【0011】
一方、セラミックス部材で構成される治具の洗浄では、例えば、部材表面の付着物除去のためアルカリ性の薬液が用いられるが、アルカリ性の薬液を用いた場合、例えばシリコンウエーハにおけるプロセス等で、洗浄工程で生成した金属水酸化物に由来する金属イオンが金属原子として半導体製造装置内に残留すると、シリコンウエーハに対する拡散力が強いため、例えばNa等の金属が不純物層を形成するといった、問題を引き起こす恐れがある。
【0012】
また、アルカリ性の薬液と酸性の薬液を併用すると、塩が発生し部材表面への残留も懸念される。また、加熱処理を伴う洗浄、再生方法では、加熱温度が例えば1000℃以上のような高温でないと充分な洗浄効果が得られない場合が多く、ガスあるいは電力の消費量が増え、処理コストが高くなるという問題点を有していた。
【0013】
さらには従来法では、上述のように石英部材とセラミックス部材では部材ごとに処理方法および処理薬液が異なるため、それぞれの洗浄に専用の装置が必要となり、複数の処理槽及び排気装置の設置、廃液設備の複雑化などを生じ、コストの増大を招いていた。
【0014】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、人体に非常に有害なフッ化水素酸そのものを使用せず、石英部材で構成される治具を洗浄する場合において、従来法に比べ治具表面の腐食を抑えつつ付着物を効率的に除去可能な酸洗浄液を用いた洗浄方法であり、なお且つセラミックス部材で構成される治具の洗浄にも適用可能な洗浄方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記問題点を解決できる治具の洗浄方法の開発について鋭意検討した結果、硝酸等の無機酸に、フッ化アンモニウム等のフッ化物を添加した酸性洗浄液組成物を用いて、付着物・堆積物がその表面に存在する石英部材で構成される治具を洗浄すると、治具表面の腐食を抑えながら、付着物・堆積物を効率的に除去可能であり、且つ付着物等が表面に存在するセラミックス部材で構成される部材の洗浄にも好適に利用可能なであることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0016】
すなわち本発明は、
1.半導体素子製造工程で使用した治具を無機酸とフッ化物を含有する洗浄液組成物と接触させることにより、洗浄することを特徴とする使用済み治具の洗浄方法、
2.洗浄液組成物、並びに
3.洗浄組成物により洗浄した治具を、更に洗浄組成物の希釈液でリンス洗浄することを特徴とする使用済み治具の洗浄方法に関する。
【0017】
本発明を以下詳細に説明する。
【0018】
本発明の洗浄方法は、半導体素子製造工程で使用した治具に付着した、無機物、有機物又はその双方からなる付着物もしくは堆積物を洗浄し、使用済み治具を再生するために用いることができ、例えば、石英部材またはセラミックス部材からなる治具に特に好適に用いることができる。
【0019】
ここで言う治具とは、特に限定するものではないが、例えば石英部材からなるものとして、具体的には窓材、シールドリング、サセプター等が挙げられ、セラミックス部材からなるものとして、具体的にはセラミックドーム、フォーカスリング、キャプチャーリング、ガスノズル等が挙げられ、本発明の洗浄方法は、これらのいずれの治具にも用いることができる。
【0020】
治具上の付着物としては、例えば、治具が半導体素子の酸化・拡散工程で使用された場合、燐、ホウ素、砒素、タンタル、ルテニウム、亜鉛等を例示することができ、同様にエッチング・アッシング工程で使用された場合、ナトリウム、アルミニウム、銅、ポリマー等を例示することができる。
【0021】
これらの付着物を放置すると、付着物層が成長堆積して例えば治具が石英部材からなる場合、付着物層と石英との熱膨張率や比熱等の物性の違いにより、付着物層やこれに接する石英の表面にクラックを生じて強度を低下させたり、付着物層が剥離しパーティクルとなり被処理物を汚染して、半導体素子の製造歩留りを低下させる。特にCVD法により目的とする膜を形成する場合、付着物層の剥離は増える傾向にある。
【0022】
セラミックス部材により構成されている治具を半導体素子製造過程に用いた場合であっても、治具表面には、アルミニウム、フッ素、塩素、珪素、炭素、酸素などを構成成分とするスケールが付着し、このスケールがシリコンウエーハ等の被処理物に付着し汚染の原因となる。
【0023】
上述した治具上の付着物を取り除くために、本発明の洗浄方法に用いられる洗浄液組成物は無機酸とフッ化物を含有する溶液である。
【0024】
本発明の洗浄方法に用いられる無機酸としては、特に限定するものではないが、具体例として、炭酸、重炭酸、ホウ酸、ヨウ素酸、硝酸、硫酸、次亜臭素酸、次亜塩素酸、亜塩素酸、過塩素酸、亜硝酸、亜硫酸等のオキソ酸、臭化水素酸、塩酸、フッ化水素酸、ヨウ化水素酸、硫化水素酸等の水素酸、ペルオキソ硝酸、ペルオキソ硫酸、ペルオキソ二硫酸等のペルオキソ酸等が挙げられ、これらの無機酸から1種を選択して用いることも、2種以上を組み合わせて用いることもできるが、付着物の除去能力及びコストの面から、硫酸、硝酸又は塩酸からなる群の中から1種若しくは、2種以上を組み合わせて用いることが好ましく、硝酸を単独で用いるのが最も好ましい。
【0025】
本発明の洗浄方法に用いられるフッ化物としては、特に限定するものではないが、具体例として、フッ化ナトリウム 、フッ化カリウム 、フッ化アンモニウム等が挙げられ、これらのフッ化物から1種を選択して用いることも、2種以上を組み合わせて用いることもできる。それ以外のフッ化物を使用しても差し支えないが、水への溶解度が低かったり、高価であったりするため、工業的には有利でない。フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化アンモニウムの中では、洗浄後の金属イオンの残留の恐れが少なく、また安価で入手しやすいフッ化アンモニウムが最も好ましい。またフッ化物としてアミンのフッ化物塩を用いる場合において、フッ化水素酸と無機酸からなる溶液に、例えばアンモニア等のアミン化合物を添加する方法を除くものではない。
【0026】
本発明の洗浄方法における洗浄液組成物の組成比は、特に制限はなく無機酸とフッ化物を含有していれば、いずれの組成比においても使用済み治具の洗浄に使用することができるが、コスト面及び安全性を考慮し、洗浄液組成物100重量%に対し、無機酸が0.6〜60重量%、フッ化物が0.2〜30重量%の範囲であることが好ましく、残部は水とするのがよい。無機酸の量が0.6重量%未満またはフッ化物の量が0.2重量%未満であると洗浄性が低下する場合があり、無機酸の量が60重量%を超えたり、フッ化物の量が30重量%を超えると使用済み治具を構成する基材に著しいダメージを与える場合がある。
【0027】
さらに、治具本体へのダメージを考慮し、治具を構成する材質によって、組成比を変えることが好ましく、例えば、被洗浄体である治具が石英部材からなる場合では、洗浄液組成物100重量%に対し、無機酸として硝酸が3〜30重量%、フッ化物としてフッ化アンモニウムが1〜15重量%の範囲であることが好ましく、残部は水とするのがよい。更に好ましくは、硝酸が4〜20重量%、フッ化アンモニウムが2〜10重量%で残部が水である組成とする。 又、例えば被洗浄体である治具がセラミックス部材からなる場合では、洗浄液組成物100重量%に対し、無機酸として硝酸が3〜12重量%、フッ化物としてフッ化アンモニウムが0.5〜5重量%の範囲であることが好ましく、残部は水とするのがよい。更に好ましくは、硝酸が4〜9重量%、フッ化アンモニウムが0.8〜3.5重量%で残部が水である組成とする。
【0028】
本発明の洗浄方法における洗浄液組成物の使用にあたっては、被洗浄物である治具に接触させることで洗浄することができるが、被洗浄物と洗浄液組成物とを接触させる方法自体は特に制限はなく、公知のいずれの方法も使用できる。例えば、洗浄液組成物を含浸したスポンジなどによる拭き取り、洗浄液組成物への浸漬及び/又はスプレーなどにより実施することができるが、特に作業性の向上、設備の簡素化の面から浸漬による洗浄が好ましい。
【0029】
浸漬の方法としては、被洗浄物である治具を1構成単位ごと、又は複数の構成単位をまとめて前記洗浄液組成物中に浸漬し、洗浄処理する方法が挙げられ、洗浄効果を高めるために、同時に攪拌、揺動、超音波またはエアバブリングなどを組み合わせることができる。なお、これら洗浄方法に使用する洗浄装置としては、通常公知のものを用いることができる。また、洗浄対象物を洗浄した後の乾燥方法にも特に制限はなく、温風乾燥や減圧乾燥など公知のいずれの方法も使用できる。
【0030】
なお、前記洗浄方法や条件は、洗浄物の種類に応じて、適宜選択することができる。また本発明では、同一成分、同一組成からなる洗浄液組成物を使用し、石英部材からなる使用済み治具及びセラミックス部材からなる治具の両方の洗浄処理が行えるため、種類の異なる使用済み治具を同一設備にて洗浄処理することができ、洗浄装置の設置スペースや洗浄液の保管スペースを大幅に低減することができるという優れた効果が発現される。
【0031】
本発明の洗浄方法におけるリンス処理は行わなくても良いが、洗浄後の治具表面に付着したパーティクルを除去するため、又は本発明の洗浄に続いて治具を水洗するような場合、本発明で用いた洗浄液組成物のpHによっては、pHの急激な変動によって新たなパーティクルの発生が生じる場合があるので、これを抑えるために行った方が好ましい。リンス処理に用いる薬液としては、特に限定するものではないが、例えば、水、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等の溶剤、無機酸の希薄水溶液、アルカリ金属塩の希薄水溶液等を用いることが出来るが、設備の簡素化、コスト低減の観点から本洗浄に用いた洗浄液組成物を水により希釈した溶液を薬液として用いるのが好ましい。洗浄液組成物の希釈率としては、20〜200倍が好ましく、特に90〜110倍が好ましい。
【0032】
本発明の洗浄方法におけるリンス処理は、本洗浄の場合と同様に、リンス処理に用いる薬液を被洗浄物である治具に接触させることで行うことができるが、被洗浄物とリンス処理に用いる薬液とを接触させる方法自体は特に制限はなく、本洗浄の場合と同様、公知のいずれの方法も使用できる。
【0033】
本発明の洗浄方法における洗浄温度は、特に制限は無いが、被洗浄物である治具を構成する部材へのダメージ低減、良好な洗浄性、及びユーティリティコスト低減のいずれの条件をも満たすことが必要なことから、10〜50℃が好ましく、特に20〜30℃が好ましい。また、本発明の洗浄方法における洗浄時間は、被洗浄物である使用済み治具への付着物の量、組成により適宜選択すればよいが、治具を構成する部材へのダメージ低減、作業効率向上の観点から、8時間を越えないことが好ましく、10分〜5時間が特に好ましい。
【0034】
本発明の洗浄方法に用いる洗浄液組成物は、被洗浄物である治具が半導体素子を製造する装置内で使用される治具であるため、装置内に洗浄剤由来の不純物が残留することはできる限り避けなければならず、無機酸およびフッ化物のみからなる水溶液で充分である。
【0035】
しかしながら、簡便な手法、例えば水洗浄により治具の表面上からきれいに洗い流すことができる成分であれば、他の洗浄成分や各種の添加剤を配合することができる。
【0036】
他の洗浄液成分としては、例えば炭化水素、各種のアルコール、ケトン、エステル、ポリエーテル、ハイドロフルオロカーボン、シクロヘキサノンなどであり、添加剤としては、腐食防止剤、界面活性剤などが挙げられる。腐食防止剤の例としては、特に限定するものではないが、リン酸系、カルボン酸系、アミン系、オキシム系、芳香族ヒドロキシ化合物、トリアゾール化合物、糖アルコール及びこれらの塩等が挙げられ、単独でも2種類以上適宜組み合わせて用いてもよい。界面活性剤の例としては、陽イオン性、陰イオン性、非イオン性およびフッ素系界面活性剤等が挙げられ、単独でも2種類以上適宜組み合わせても用いることができる。
【0037】
本発明の洗浄方法に用いる洗浄液組成物に用いられる水は、被洗浄物である治具が半導体素子の製造分野で使用されることを考慮して、イオン交換水、純水や超純水等のイオン性物質やパーティクル等を極力低減させたものが好ましい。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、半導体素子の製造分野で使用された、使用済み治具を洗浄により再生することが可能となった。汚染原因である製造工程で生じた付着物は、半導体素子構成由来の金属・ケイ素等、レジスト剤に由来する炭素等、エッチングガスに由来するフッ素等の結合様式も不明な混合物であり、かつ、エッチングガスに由来するフッ素等は部品表面とも化学的に結合している場合がある。本発明では従来のフッ化水素酸と硫酸、硝酸等の強酸との混合液を用いた洗浄方法では、表面の粗れ、寸法の変化など問題点の多かった石英部材で構成されるを洗浄する場合において、硝酸等の無機酸とフッ化アンモニウム等のフッ化物を含有する洗浄液組成物を用い洗浄を行うことで、従来法に比べ、治具表面の腐食を抑えつつ付着物を効率的に除去可能となった。
【0039】
また、この洗浄液組成物を用いた洗浄方法は石英部材のみならず、セラミックス部材からなる部材の洗浄にも適用することが可能であり、本発明の洗浄方法では同一成分からなる洗浄液組成物を使用して、石英部材からなる使用済み治具及びセラミックス部材からなる治具の両方の洗浄処理が行うことができる。
【0040】
よって、通常であれば、洗浄液の成分により仕様の異なる洗浄装置を設置する必要があるが、本発明によれば、同一の洗浄設備によって石英とセラミックスいずれの部材からなる治具の洗浄が可能であるため、洗浄装置の設置スペースや洗浄液の保管スペースを大幅に低減することができるという優れた効果を有する。
【0041】
さらに、本発明の洗浄方法では、浸漬するだけで治具の洗浄が行えるため超音波洗浄漕等の設置が必要なく、さらに、洗浄温度が20〜40℃と室温と同程度の温度であるため、設備投資及び、ユーティリティコスト低減が図れる。また本発明では、低価格で入手可能な硝酸等の無機酸とフッ化アンモニウム等のフッ化物及び水のみからなる洗浄液組成物で、十分な洗浄能力を有するため、コスト性に優れるということに加え、人体に非常に有害なフッ化水素酸そのものを使用せず、安全性や作業性に優れた使用済みの洗浄方法であると同時に、リンス処理に用いる薬液もこの洗浄液組成物を希釈したものを用いることが出来るためコスト性に優れる。
【実施例】
【0042】
本発明を以下の実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例1〜2、比較例1〜2
厚さ6.4mmの石英板を長さ25mm、幅10mmに裁断し、試験片とした。この試験片を表1に示す液組成に調製した各洗浄液組成物に浸漬し、25℃で1時間保持した後、試験片を取り出し、これを水洗いし、乾燥した。浸漬前の表面積及び浸漬前後の重量変化から腐食速度を算出した。
【0043】
【表1】

腐食速度を算出の結果、実施例1〜2と比較例1〜2の同一フッ素イオン濃度間の比較で石英に対する腐食速度に差は無かった。
実施例3〜5、比較例3〜5
半導体素子の製造工程であるエッチング工程で使用された、堆積物に由来する元素としてAlがその表面に付着している、石英部材からなる使用済み治具を長さ30mm、幅14mm、厚さ12mmに裁断し、試験片とした。この試験片を表2に示す液組成に調製した各洗浄液組成物に浸漬し、25℃で5時間保持した後、試験片を取り出し、これを水洗いし、乾燥した。表面のSEM(走査型電子顕微鏡)観察及び、ESCA(X線光電子分析装置)による半定量分析にて堆積物の除去状態を調べた。なお、SEMは日本電子社製、商品名「JSM T220A」、ESCAはPerkin Elmer社製、商品名「ESCA5400MC」を用いた。尚、洗浄前のESCAによる半定量分析でのAlの含有量は1.0atom%であり、堆積物の除去状態は以下の様に評価した。
○ : 洗浄前の堆積物の膜厚を100%として、100〜90%が除去され、ESCAによりAlが検出されなかった。
△ : 洗浄前の堆積物の膜厚を100%として、70%以上90%未満が除去され、ESCAによりAlが検出された。
× : 洗浄前の堆積物の膜厚を100%として、50%以上70%未満が除去され、ESCAによりAlが検出された。
【0044】
【表2】

実施例3〜5と比較例3〜5の同一フッ素イオン濃度間の比較で、堆積物除去状況に差が見られ、実施例3〜5において堆積物除去量が大きかった。この結果から、同じ時間で同一厚さの堆積物を除去する場合、本発明の洗浄方法ではフッ素イオン濃度を低く抑えることができ、結果的に、石英基材へのダメージを低減することができる。
【0045】
実施例6
半導体素子の製造工程であるエッチング工程で使用された、堆積物に由来する元素としてAl、Si及びFがその表面に付着しているアルミナセラミックス部材からなる使用済み治具を長さ18mm、幅16mm、厚さ10mmに裁断し、試験片とした。この試験片をHNOが18重量%、NHFが2.6重量%(残部:水)含まれる洗浄液組成物に浸漬した。25℃で5時間保持した後、試験片を取り出し、これを水洗いし、乾燥した。表面を目視で観察した結果、堆積物が完全に除去された。また、表面のSEM観察においても堆積物が完全に除去されたことが確認され、ESCAによる分析では、洗浄前の含有量が36atom%であったFの含有量が、洗浄後では3atom%へと低減された。
【0046】
実施例7
半導体素子の製造工程であるエッチング工程で使用された、堆積物に由来する元素としてAlがその表面に付着している、石英部材からなる使用済み治具を長さ30mm、幅14mm、厚さ12mmに裁断し、試験片とした。この試験片をHNOが6重量%、NHFが4.3重量%(残部:水)含まれる洗浄液組成物に浸漬した。25℃で5時間保持した後、取り出した試験片を、水洗いし、乾燥した。得られた試験片のパーティクル発生量の測定を行ったところ、3027counts/cm(サイズ>2μm)であった。
【0047】
尚、パーティクル発生量の測定は試験片を純水に浸漬し5分間超音波を印加した後の、純水中のパーティクル量を測定することで評価した。パーティクル量の測定にはパーティクルカウンタ:商品名「KL−22」、シリンジサンプラー:KZ−30W(いずれもリオン株式会社製)を用いた。
【0048】
実施例8
半導体素子の製造工程であるエッチング工程で使用された、堆積物に由来する元素としてAlがその表面に付着している、石英部材からなる使用済み治具を長さ30mm、幅14mm、厚さ12mmに裁断し、試験片とした。この試験片をHNOが6重量%、NHFが4.3重量%(残部:水)含まれる洗浄液組成物に浸漬した。25℃で5時間保持した後、取り出した試験片を、別途調製した、前記洗浄液組成物を水で100倍に希釈したリンス用薬液に素早く浸漬し、25℃で1時間保持した。試験片を取り出し、これを水洗いし、乾燥した後、パーティクル発生量の測定を行った結果、167counts/cm(サイズ>2μm)であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体素子製造工程で使用した治具を、無機酸とフッ化物を含有する洗浄液組成物と接触させることにより洗浄することを特徴とする、使用済み治具の洗浄方法。
【請求項2】
無機酸が硝酸、硫酸、塩酸からなる群より選ばれる一種或いは二種以上の混合物であることを特徴とする請求項1に記載の使用済み治具の洗浄方法。
【請求項3】
無機酸が硝酸であることを特徴とする請求項1に記載の使用済み治具の洗浄方法。
【請求項4】
フッ化物がフッ化ナトリウム 、フッ化カリウム 、フッ化アンモニウムからなる群より選ばれる一種或いは二種以上の混合物であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の使用済み治具の洗浄方法。
【請求項5】
フッ化物がフッ化アンモニウムであることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の使用済み治具の洗浄方法。
【請求項6】
使用済み治具が石英部材からなることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の使用済み治具の洗浄方法。
【請求項7】
使用済み治具がセラミックス部材からなることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の使用済み治具の洗浄方法。
【請求項8】
使用済み治具の洗浄に用いる洗浄液組成物が、組成比として、無機酸が0.6〜60wt%、フッ化物が0.2〜30wt%で残部が水であることを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれかに記載の使用済み治具の洗浄方法。
【請求項9】
使用済み治具の洗浄に用いる洗浄液組成物が、組成比として、硝酸が3〜30wt%、フッ化アンモニウムが1〜15wt%で残部が水であることを特徴とする請求項6記載の使用済み治具の洗浄方法。
【請求項10】
使用済み治具の洗浄に用いる洗浄液組成物が、組成比として、硝酸が3〜12wt%、フッ化アンモニウムが0.5〜5wt%で残部が水であることを特徴とする請求項7記載の使用済み治具の洗浄方法。
【請求項11】
使用済み治具が、窓材、シールドリング、サセプター、セラミックドーム、フォーカスリング、キャプチャーリングまたはガスノズルである、請求項1乃至請求項10のいずれかに記載の使用済み治具の洗浄方法。
【請求項12】
硝酸が0.6〜60wt%、フッ化アンモニウムが0.2〜30wt%で残部が水からなる酸性洗浄液組成物。
【請求項13】
請求項1乃至請求項11のいずれかに記載の洗浄方法を第1工程とし、次いで第1工程で得られた治具を前記工程で使用した洗浄液組成物の希釈液でリンス洗浄することを特徴とする使用済み治具の洗浄方法。
【請求項14】
希釈液が、第1工程で用いた洗浄液組成物を20〜200倍に希釈したものであることを特徴とする請求項13に記載の使用済み治具の洗浄方法。

【公開番号】特開2008−153271(P2008−153271A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−336916(P2006−336916)
【出願日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】