説明

使用済み触媒の処理方法

【課題】使用済みで且つ油の付着した触媒から油を分離除去するための使用済み触媒の処理方法であって、粉塵発生が少なく、燃焼排出ガスの処理に特別な設備を必要とせず、しかも、付着した油を燃料として効率的に利用することが出来るため、燃料コストを低減し得る、使用済み触媒の処理方法を提供する。
【解決手段】使用済みで且つ油の付着した触媒から油を分離除去するための使用済み触媒の処理方法であって、ガス導入管とガス排出管とを有する加熱炉、および、加熱炉で包囲され且つその周面に複数のガス抜き管を有する回転炉を備え、回転炉の一端に使用済み触媒の供給装置が接続され、他端に排出装置が設けられている触媒処理装置を使用し、回転炉に使用済み触媒を供給し、回転炉における加熱により発生し且つガス抜き管から噴出した油蒸気と酸化剤とを加熱炉中で混合し、油蒸気を燃焼して回転炉を加熱することを特徴とする使用済み触媒の処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使用済み触媒の処理方法に関し、詳しくは、使用済みで且つ油の付着した触媒を加熱して油を分離除去するための処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、石油精製工程における廃触媒である使用済みで且つ油の付着した触媒から油を分離除去する方法としては、ロータリーキルンに使用済みで且つ油の付着した触媒を装入し、燃料を供給して燃焼すると共に、触媒に付着しているS分およびC分をSO及びCOとして除去する方法が知られている(特許文献1)
【特許文献1】特開2000−204420号公報
【0003】
しかしながら、上記の様な直接燃焼法では、触媒に付着した油を燃焼するための燃料が必要となり、コスト高の原因となる。さらに、廃触媒の燃焼によって、粉塵およびSOが発生するため、燃焼排ガスの処理のために集塵装置や脱硫装置を必要とし、その結果、設備費が高くなるという問題がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記の実情に鑑みなされたものであり、その目的は、使用済みで且つ油の付着した触媒から油を分離除去するための使用済み触媒の処理方法であって、粉塵発生が少なく、従って、燃焼排ガスの処理に特別な設備を必要とせず、しかも、付着した油を燃料として効率的に利用することが出来るため、燃料コストを低減し得る、使用済み触媒の処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち、本発明の要旨は、使用済みで且つ油の付着した触媒から油を分離除去するための使用済み触媒の処理方法であって、ガス導入管とガス排出管とを有する加熱炉、および、その大部分が加熱炉で包囲され、且つ、その周面に複数のガス抜き管を有する回転炉を備え、回転炉の一端に使用済み触媒の供給装置が接続され、他端に排出装置が設けられている触媒処理装置を使用し、回転炉に使用済み触媒を供給し、回転炉における加熱により発生し且つガス抜き管から噴出した油蒸気と酸化剤とを加熱炉中で混合し、油蒸気を燃焼して回転炉を加熱することを特徴とする使用済み触媒の処理方法に存する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、使用済みで且つ油の付着した触媒から油を分離除去するための使用済み触媒の処理方法であって、粉塵発生が少ないことにより、燃焼排出ガスの処理に特別な設備を必要とせず、しかも、付着した油を燃料として効率的に利用することが出来るため、燃料コストを低減し得る、使用済み触媒の処理方法を提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明に係る使用済み触媒の処理方法を図面に基づいて説明する。図1は、本発明において使用される触媒処理装置の構成要素を示す一部破断の側面図である。図2は、図1の触媒処理装置の回転炉の主要部の構造を示す側面図であり、図3は、図1の触媒処理装置の回転炉の内部構造を中心線に直交するB−B線に沿った断面で示した断面図である。
【0008】
本発明における被処理物である使用済みで且つ油の付着した触媒としては、例えば、石油精製工程における廃触媒、油脂加工工程における廃触媒が挙げられる。具体的には、石油精製工程における廃触媒としては、水素化処理および/または水素化分解工程で使用されるNi、Mo、W、Pt等を主成分とする金属触媒の使用済み触媒:脱硫処理工程で使用されるMo、Ni、Co等を主成分とする金属触媒の使用済み触媒:V、Ni、Co等の各種の金属酸化物触媒の使用済み触媒:コバルト、ニッケル、モリブデンの1種または2種以上の金属酸化物触媒の使用済み触媒が挙げられる。また、油脂加工工程における廃触媒としては、Ni、Cu、貴金属などを主成分とする金属触媒の使用済み触媒が挙げられる。これらの使用済み触媒触媒には、通常1〜15重量%の油が付着している。
【0009】
本発明においては、特定構造の触媒処理装置を使用することにより、上記の様な付着油を蒸気として分離し、回転炉(2)を加熱するための燃料として活用することを骨子とする。
【0010】
先ず、本発明で使用する触媒処理装置(A)について説明する。触媒処理装置(A)は、図1に示す様に、ガス導入管(14)とガス排出管(15)とが付設された加熱炉(1)と、加熱炉(1)の内部に回転可能に挿通され且つその周面に複数のガス抜き管(21)が設けられた回転炉(2)とから主として構成され、回転炉(2)の一端(図1において左側の端部)には、使用済み触媒の供給装置(51)が接続され、回転炉(2)の他端(図1において右側の端部)には、ゲートバルブを含む排出装置(52)が設けられる。
【0011】
加熱炉(1)は、通常、基礎に設置される固定式の炉であり、上記のガス導入管(14)は、加熱炉(1)の一端側の底部近傍に接続され、ガス排出管(15)は、加熱炉(1)の他端側の上部に接続される。加熱炉(1)は、回転炉(2)の軸線を傾斜させるため、水平レベルに対して1〜2度程度傾斜した状態に設置される。
【0012】
回転炉(2)は、一般的な金属製ロータリーキルンに類似する構造の回転炉である。回転炉(2)は、加熱炉(1)の内部のガスが外部に漏洩しない様に、加熱炉(1)の両端部にシール部(1s)を介して回動自在に挿通され、回転炉(2)の両端部は、これら両端部の外周に装着された補強リング(22)を支持ローラー(42)で受けることにより回動自在に支持されている。一方、加熱炉(1)の一端側の側方には電動機(3)が設置され、電動機(3)の駆動歯車(32)と回転炉(2)の一端外周部に取り付けられた歯車(23)とが噛合しており、回転炉(2)は、一方向に例えば0.3〜10rpmの速さで回転する様になされている。
【0013】
また、回転炉(2)の開放された一端は、摺動部材としてのシール部(41s)を介して装着されたフード(41)によって気密に封止される。更に、フード(41)には、破砕機により破砕された使用済み触媒を装入するための供給装置(51)が設けられ、斯かる供給装置(51)は、例えば、ホッパー(51h)を備えたスクリューコンベヤによって構成される。従って、ホッパー(51h)に使用済み触媒を投入することにより、回転状態の回転炉(2)に使用済み触媒を供給することが出来る。
【0014】
他方、回転炉(2)の開放された他端は、摺動部材としてのシール部(43s)を介して装着されたフード(43)によって気密に封止される。更に、フード(43)の下部には、金属残渣を取り出すための上記の排出装置(52)が設けられる。排出装置(52)は、上下方向にシャッター構造のダンパーを複数段配置して構成される。従って、排出装置(52)を操作することにより、当該回転炉で発生する油蒸気を漏出させることなく、回転炉(2)から得られた金属残渣が装置外に取り出される。
【0015】
また、回転炉(2)には、その内部で発生した油蒸気を加熱炉(1)へ取り出すため、多数のガス抜き管(21)が取り付けられる。ガス抜き管(21)は、図2および図3に示す様に、回転炉(2)の周面部から当該回転炉の中心線の位置まで挿入されている。ガス抜き管(21)は、回転炉(2)の長さ方向に沿って一定のピッチで配列され、かつ、各隣接するガス抜き管(21)は、回転炉(2)の中心線を基準とした場合、周面部の互いに90°ずれた方向に伸長されている。すなわち、回転炉(2)の一端側から視た場合、多数のガス抜き管(21)は、スパイラル状に順次ずれた状態で中心から周面部に伸長されている。更に、回転炉(2)の中心部に位置する各ガス抜き管(21)の開口された先端部は、回転炉(2)の他端側、すなわち、被処理物(処理すべき使用済み触媒)の流れ方向の下流側に向けて屈曲している。
【0016】
触媒処理装置(A)においては、上記の様に、多数のガス抜き管(21)が回転炉(2)の全体に亙って略均等に配置されていることにより、回転炉(2)で発生した油蒸気を加熱炉(1)へ効率的に排出することが出来、また、ガス抜き管(21)が回転炉(2)の中心線まで伸びていることにより、回転炉(2)において一層多量の使用済み触媒を処理できる。しかも、回転炉(2)の内部でガス抜き管(21)の先端が屈曲していることにより、回転炉(2)内部の固形成分(使用済み触媒やその金属残渣)によるガス抜き管(21)の閉塞、および、固形成分の加熱炉(1)への落下を防止することが出来る。なお、ガス抜き管(21)の構造としては、回転炉(2)内で発生した油蒸気だけが通過可能な構造である限り、フィルター構造などの各種の構造を採用し得る。
【0017】
次に、上記の触媒処理装置(A)使用した本発明の処理方法について説明する。
【0018】
本発明においては、上記の触媒処理装置(A)を使用し、回転炉(2)に使用済みで且つ油の付着した触媒を供給して加熱する。そして、回転炉(2)内で発生した油蒸気は、回転炉(2)の周面に設けられたガス抜き管(21)から加熱炉(1)内に噴出される。噴出した油蒸気は、加熱炉(1)内においてガス導入管(14)から供給された酸化剤と混合されて燃焼される。そして、前述の油蒸気の燃焼により回転炉(2)が加熱されて、触媒に付着した油が蒸発する。
【0019】
本発明においては、前記の加熱を行なう際の加熱炉(1)内の酸素濃度は、噴出した油蒸気が完全燃焼すれば、特に制限されないが、通常15容量%以下、好ましくは10容量%以下に制御される。上述の加熱炉(1)内の酸素濃度の制御は、酸化剤導入管(14)から加熱炉(1)に供給する酸化剤の量を調整することにより行われる。なお、加熱炉(1)におけるダイオキシン類の発生を抑制するためには、油蒸気を完全燃焼することが必要である。
【0020】
なお、加熱炉(1)内には水および/またはスチームを供給してもよい。水および/またはスチームを供給することにより、加熱炉(1)内の温度を調節可能であるため、使用済み触媒の構成および性状が変動しても、運転が暴走することなく、安定化を図ることが出来る。
【0021】
加熱炉(1)内の温度は、通常650〜800℃、好ましくは700〜750℃である。そして、加熱炉(1)内の圧力は、回転炉(2)内で発生した油蒸気が加熱炉(1)へ噴出可能となる様に、回転炉(2)内のガス圧力よりも僅かに低く保持される。
【0022】
回転炉(2)内での使用済み触媒の加熱は、通常、空気遮断状態下で行われる。したがって、回転炉(2)内の酸素濃度は、通常ほぼ0容量%である。
【0023】
回転炉(2)内の温度は、通常300〜850℃、好ましくは450〜750℃である。
【0024】
本発明によれば、回転炉(2)内の使用済み触媒のガス化に必要な熱は、加熱炉(1)内で油蒸気を燃焼することによって十分賄われるため、外部からの燃料は殆ど不要である。
【0025】
生成した金属残渣は、回転炉(2)の他端に接続されている排出装置(51)介して触媒処理装置(A)から排出される。
【0026】
本発明の触媒処理装置(A)で使用する酸化剤としては、酸素ガスまたは酸素を含むガスが挙げられ、具体的には、空気、酸素、酸素富化空気が挙げられる。
【0027】
本発明で得られた金属残渣は、公知の方法で溶融・還元処理することによって合金鉄の形態で回収することが出来る。例えば、金属残渣を鉄源および還元材と共に混合した後、必要に応じてペレット状またはブリケット状で、電気炉に装入して溶融還元処理し、合金鉄を生成する。また、金属残渣と鉄源と還元材との粒状物を回転炉、例えば、ロータリーキルンに装入して通常1150〜1350℃で固相還元処理した後、ペレット状またはブリケット状で電気炉に装入して合金鉄を生成する。
【0028】
使用する鉄源としては、鉄鉱石、スケール等を使用することが出来る。また、還元材としては、微粉炭、コークス等を使用することが出来る。なお、必要に応じて、更にシリコン、フラックス等を鉄源および還元材と共に金属残渣に加えてもよい。
【0029】
上述した本発明の処理方法は、粉塵発生が少なく、従って、燃焼排出ガスの処理に特別な設備を必要とせず、しかも、付着した油を燃料として効率的に利用することが出来るため、燃料コストを低減することが出来る。さらに、廃触媒に付着しているS分が酸化されずに硫黄として存在するので、燃焼排出ガスの処理に脱硫装置を必要とせず、しかも、C分も酸化されずにカーボンとして存在するので、金属残渣を還元する還元材として使用することが出来る。
【実施例】
【0030】
以下、本発明を、実施例により更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0031】
実施例1:
図1に示す触媒処理装置(A)を使用して使用済み触媒の処理を行った。すなわち、使用済み触媒としての石油精製所の脱硫廃触媒を供給装置(51)から回転炉(2)に供給すると共に、ガス導入管(14)から空気を加熱炉(1)に供給して使用済み触媒の加熱を行い、金属残渣を生成した。触媒処理装置(A)の操作条件を表1示し、ガス排出管(15)からの排ガスの組成を表2に示し、金属残渣物の組成を表3に示す。
【0032】
【表1】

【0033】
【表2】

【0034】
なお、表2におけるダスト濃度、窒素酸化物濃度、硫黄酸化物濃度、塩化水素濃度、ダイオキシン類の濃度は夫々以下の方法で測定した。
【0035】
ダスト濃度は、JIS Z 8808.8に記載の方法に準じて行った。窒素酸化物濃度は、JIS K 0104.4.2に記載の方法に準じて行った。硫黄酸化物濃度は、JIS K0103.6.1に記載の方法に準じて行った。塩化水素濃度は、JIS K0107.6.2に記載の方法に準じて行った。ダイオキシン類の濃度は、「廃棄物処理におけるダイオキシン類標準測定分析マニュアル」(平成9年2月厚生省生活衛生局水道環境部環境整備課)に記載の方法に準じて行った。
【0036】
【表3】

【0037】
なお、表3における金属残渣の炭素および硫黄は、公知の石炭類およびコークス類の工業分析法で、他の成分は、公知のX線分析法で測定した。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明において使用される触媒処理装置の構成要素を示す一部破断の側面図
【図2】図1の触媒処理装置の回転炉の主要部の構造を示す側面図
【図3】図1の触媒処理装置の回転炉の内部構造を中心線に直交するB−B線に沿った断面で示した断面図
【符号の説明】
【0039】
1 :加熱炉
14:ガス導入管
15:ガス排出管
1s:シール部
2 :回転炉
21:ガス抜き管
22:補強リング
23:歯車
3 :電動機
32;駆動歯車
41:フード
41s:シール部
42:支持ローラー
43:フード
43s:シール部
51:供給装置
51h:ホッパー
52:排出装置
A:触媒処理装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用済みで且つ油の付着した触媒から油を分離除去するための使用済み触媒の処理方法であって、ガス導入管とガス排出管とを有する加熱炉、および、その大部分が加熱炉で包囲され、且つ、その周面に複数のガス抜き管を有する回転炉を備え、回転炉の一端に使用済み触媒の供給装置が接続され、他端に排出装置が設けられている触媒処理装置を使用し、回転炉に使用済み触媒を供給し、回転炉における加熱により発生し且つガス抜き管から噴出した油蒸気と酸化剤とを加熱炉中で混合し、油蒸気を燃焼して回転炉を加熱することを特徴とする使用済み触媒の処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−130542(P2007−130542A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−324657(P2005−324657)
【出願日】平成17年11月9日(2005.11.9)
【出願人】(598098467)株式会社 メッツコーポレーション (10)
【出願人】(300078615)広島ガステクノ株式会社 (13)
【Fターム(参考)】