説明

保存安定性に優れたポリフェノール類製剤

【課題】ポリフェノール類が水中で長期間安定的に存在し、しかも経時的な褐変化等の色調変化を伴わず、飲食品や化粧料、医薬品等々への配合剤として有用な水性液体(水性溶剤)で保存安定性に優れたポリフェノール類製剤を提供する。
【解決手段】精製水中に少なくとも1種類以上のポリフェノール類および少なくとも1種類以上のサイクロデキストリン並びに1種類以上の抗酸化剤を溶解させて成り、ポリフェノール類は同ポリフェノール類の溶解度以下の濃度に溶解させ、サイクロデキストリンは、ポリフェノール類のモル濃度に対して1/10以上のモル濃度で、且つ同サイクロデキストリンの溶解度以下の濃度に溶解させており、更に少なくとも1種類以上の抗酸化剤を、同抗酸化剤の溶解度以下の濃度で溶解させて成る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、水性溶剤中における保存安定性に優れたポリフェノール類製剤、特に、優れた保存安定性を有し、しかも経時的な褐変化等の色調変化を伴わず、飲食品や化粧料(化粧品又はその材料、以下同じ。)、医薬品、工業製品等への配合剤として有用なポリフェノール類を含有する水性液体製剤の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
ポリフェノール類は、分子内に複数のフェノール性水酸基を有する植物成分であり、古くから香料や色素として飲食品や化粧料の原料として用いられてきた。ポリフェノール類は、緑茶や赤ワイン等に多く含まれるカテキン類、大豆やその加工食品等に多く含まれるイソフラボン類、ブルーベリーや葡萄の実皮等に多く含まれるアントシアニン類、生姜やウコン等に多く含まれるクルクミン、玉葱等に多く含まれるケルセチン、そばやトマト等に多く含まれるルチン、コーヒー等に多く含まれるクロロゲン酸、イチゴや栗渋等に多く含まれるエラグ酸、渋柿等に多く含まれるシブオール、紅茶等に多く含まれるテアフラビン、その他にプロシアニジン、ピクノジェノール/フラバンジェノール、ロズマリン酸、カカオポリフェノール、海藻ポリフェノール、カシスポリフェノール、キサントン、サポニン等々、多くの物質が知られている。
【0003】
上述したようなポリフェノール類については、生体内及び生体外での優れた抗酸化作用を持ち、体内の活性酸素を捕捉して除去する(参考文献:Buttemeyer R, Philipp AW, Schlenzka L, Mall JW, Beissenhirtz M, Lisdat F Epigallocatechin gallate can significantly decrease free oxygen radicals in the reperfusion injury in vivo. Transplant Proc. 35, 3116−3120 (2003))ことにより、活性酸素が引き起こす種々の疾患、例えば、癌、心疾患、炎症といった酸化ストレス疾患に対する予防効果が認められている(参考文献:Morillas-Ruiz JM, Villegas Garcia JA, Lopez FJ, Vidal-Guevara ML, Zafrilla P, Clinical Nutrition Jun; 25(3):444-53. (2006))。
また、ポリフェノール類は、その種類に応じて、それぞれ異なる特有の効果が奏される。例えば、アントシアニンには視力の向上効果(参考文献:Matsumoto H, Nakamura Y, Tachibanaki S, Kawamura S, Hirayama M Stimulatory effect of cyanidin 3−glycosides on the regeneration of rhodopsin. Jornal of Agricalturral and Food Chemistry. 51, 3560-3. (2003))が報告され、イソフラボンには骨粗しょう症予防および治療効果(参考文献:Occhiuto F, Pasquale RD, Guglielmo G, Palumbo DR, Zangla G, Samperi S, Renzo A, Circosta C. Effects of phytoestrogenic isoflavones from red clover (Trifolium pratense L.) on experimental osteoporosis Phytotherapy Reserch. Nov 21 (2006))が報告されている。ルチンには血管拡張効果(参考文献:Fusi F, Saponara S, Pessina F, Gorelli B, Sgaragli G. Effects of quercetin and rutin on vascular preparations: a comparison between mechanical and electrophysiological phenomena. Europian Journal of Nutrition. 42,10-7. (2003))が報告されており、飲食品や化粧料、医薬品等々、多くの用途への応用が期待されている。
【0004】
しかしながら、上記したようなポリフェノール類は、水中に溶存する酸素や空気中の酸素により容易に酸化されるため非常に不安定である。水性溶剤に溶解した際には、期待される活性酸素除去作用等の有用な作用が低下するほか、酸化に伴って変色する等、その保存安定性に欠ける。その結果として、水性溶剤に溶解して液体状態で取り扱うことが困難であり、飲食品、化粧料、医薬品等へ応用する上で大きな障害になっている。
【0005】
上記のようなポリフェノール類を含む物質を、水性溶剤中で安定化させる技術に関しては、従来既に幾つかの提案がなされている。
例えば下記の特許文献1には、低級アルコールとモノアミンモノカルボン酸を含有させたポリフェノール製剤が開示されている。
特許文献2には、ポリオキシエチレンアルキルスルホコハク酸塩を含有させたポリフェノール製剤が開示されている。
特許文献3には、ポリフェノールを分散させた多価アルコール脂肪酸エステルを含有する油を水中に分散させたs/o/w製剤を製造する技術が開示されている。
更に、特許文献4には、有機還元剤を添加したポリフェノール製剤が開示されている。
【0006】
しかしながら、下記の特許文献1〜3に記載されたポリフェノール製剤は、その何れも水性溶剤中にアルコールまたは界面活性剤が溶解している。前記低級アルコールや界面活性剤は、生体に対して皮膚刺激性や細胞毒性を有し、皮膚の炎症を誘発させることが多々知られている(参考文献:Effendy I, Maibach HI. Surfactants and experimental irritant contact dermatitis. Contact Dermatitis. 33, 217-25. (1995))。そのため、これをそのまま飲食品、化粧料、医薬品等へ使用するには、生体への安全性という点から好ましくない。
そこで現在では、生体への安全性を考慮して、特に飲食品や化粧品などの分野では、アルコール、界面活性剤を用いない、いわゆる「アルコールフリー」、「界面活性剤フリー」の商品開発が望まれている。
また、下記の特許文献1および4に記載されたポリフェノール製剤は、経時的な色調変化のみ評価している。しかし、ポリフェノール製剤の安定化を図るには、成分残存率と色調変化の両方を評価して、双方の安定性を保持させる必要があると考えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−114651号公報
【特許文献2】特開平11−193221号公報
【特許文献3】特開2001−316259号公報
【特許文献4】特開平6−239716号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、水性溶剤中における保存安定性に優れたポリフェノール類製剤を製造することについて鋭意研究した結果、意外なことに、ポリフェノールをサイクロデキストリンにより包接化することで、ポリフェノール成分の分解を大幅に抑制できることを見出した。
また、抗酸化剤を添加することで、ポリフェノール分解を抑制する効果を相乗的に高めることができ、さらに、色調の褐変化を抑制できることも発見した。
しかも溶解する際に用いる水の溶存成分を可能な限り除去し、その純度を高めるほどに、得られるポリフェノール類製剤の保存安定性が向上することをも見出して、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明の目的は、ポリフェノール類が水中で長期間安定的に存在し、しかも経時的な褐変化等の色調変化を伴わず、飲食品や化粧料、医薬品等々への配合剤として有用な水性液体(水性溶剤)で保存安定性に優れたポリフェノール類製剤を提供することにある。
本発明の目的は、ポリフェノール類が水中で長期間安定的に存在し、しかも経時的な褐変化等の色調変化を伴わず、保存安定性に優れたポリフェノール類製剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するための手段として、請求項1に記載した発明に係る保存安定性に優れたポリフェノール類製剤は、
精製水中に少なくとも1種類以上のポリフェノール類、および少なくとも1種類以上のサイクロデキストリン、並びに1種類以上の抗酸化剤を溶解させて成り、
前記ポリフェノール類は同ポリフェノール類の溶解度以下の濃度に溶解させ、
前記サイクロデキストリンは、前記ポリフェノール類のモル濃度に対して1/10以上のモル濃度で、且つ同サイクロデキストリンの溶解度以下の濃度に溶解させており、
更に少なくとも1種類以上の抗酸化剤を、同抗酸化剤の溶解度以下の濃度で溶解させて成ることを特徴とする。
【0011】
請求項2に記載した発明は、上記請求項1に記載した保存安定性に優れたポリフェノール類製剤において、精製水中には、先ず包接化剤としてのサイクロデキストリンを溶解させ、続いてポリフェノール類を溶解させるか、又は予め配合割合を計量して混合したサイクロデキストリンとポリフェノール類を同時に精製水中へ溶解させて成ることを特徴とする。
請求項3に記載した発明は、上記請求項1に記載した保存安定性に優れたポリフェノール類製剤において、ポリフェノール類がカテキン類であることを特徴とする。
請求項4に記載した発明は、上記請求項1又は2に記載した保存安定性に優れたポリフェノール類製剤において、サイクロデキストリンが、α−サイクロデキストリン、若しくはβ−サイクロデキストリン、若しくはγ−サイクロデキストリン、又はそれらの混合物であることを特徴とする。
請求項5に記載した発明は、上記請求項1又は2に記載した保存安定性に優れたポリフェノール類製剤において、抗酸化剤が、アスコルビン酸、又はその誘導体であることを特徴とする。
【0012】
上記本発明において、主成分として用いるポリフェノール類については、特に制限されない。もっとも本発明が保存安定性に欠けるポリフェノール類の製剤化を目的としていることから、例えばエピガロカテキンガレート(EGCg)、エピカテキンガレート(ECg)、エピガロカテキン(EGC)、及びエピカテキン(EC)等のカテキン類や、イソフラボン類、アントシアニン類等々をはじめとして、クルクミン、ケルセチン、ルチン、クロロゲン酸、エラグ酸、シブオール、テアフラビン、プロシアニジン、ピクノジェノール/フラバンジェノール、ロズマリン酸、カカオポリフェノール、海藻ポリフェノール、カシスポリフェノール、キサントン、サポニン等の適用が好適である。
【0013】
上記のポリフェノール類については、それが単一の物質からなるものであってもよく、また、複数の物質の混合物であってもよい。特に、抗癌作用(参考文献:Ravindranath MH, Saravanan TS, Monteclaro CC, Presser N, Ye X, Selvan SR, Brosman S. Epicatechins Purified from Green Tea (Camellia sinensis) Differentially Suppress Growth of Gender-Dependent Human Cancer Cell Lines. Evid Based Complement Alternat Med. 3, 237-247 (2006))や、血糖値低下作用(参考文献:Wolfram S, Raederstorff D, Preller M, Wang Y, Teixeira SR, Riegger C, Weber P. Epigallocatechin gallate supplementation alleviates diabetes in rodents. J Nutr. 136, 2512−8. (2006))、そして、血中コレステロール上昇抑制作用(参考文献:Raederstorff DG, Schlachter MF, Elste V, Weber P. Effect of EGCG on lipid absorption and plasma lipid levels in rats.J Nutr Biochem. 14, 326−332 (2003))、更に抗アレルギー作用(参考文献:Shiozaki T, Sugiyama K, Nakazato K, Takeo T. Effect of tea extracts, catechin and caffeine against type−I allergic reaction Yakugaku Zasshi. 117, 448−454 (1997))等の効果を発揮し、また、抗菌作用や殺菌作用を有して食中毒の予防やピロリ菌除去にも有用である(参考文献:Yanagawa Y, Yamamoto Y, Hara Y, Shimamura T. A combination effect of epigallocatechin gallate, a major compound of green tea catechins, with antibiotics on Helicobacter pylori growth in vitro. Curr Microbiol. 47, 244-249 (2003))ことを考慮すると、エピガロカテキンガレート(EGCg)、エピカテキンガレート(ECg)、エピガロカテキン(EGC)、及びエピカテキン(EC)等のカテキン類が好ましい。
更に、皮膚に対しても、その活性酸素除去作用に基づく抗老化作用や、チロシナーゼを阻害することによる美白作用(参考文献:No JK, Soung DY, Kim YJ, Shim KH, Jun YS, Rhee SH, Yokozawa T, Chung HY.Inhibition of tyrosinase by green tea components. Life Sci. 65, 241−246 (1999))が報告され、皮膚癌の抑制作用(参考文献:Barthelman M, Bair WB 3rd, Stickland KK, Chen W, Timmermann BN, Valcic S, Dong Z, Bowden GT. (-)-Epigallocatechin-3-gallate inhibition of ultraviolet B-induced AP-1 activity. Carcinogenesis. 19, 2201−2204. (1998))等も報告されていることから、ポリフェノール類は、エピガロカテキンガレート(EGCg)、エピカテキンガレート(ECg)、エピガロカテキン(EGC)、及びエピカテキン(EC)等のカテキン類が好ましい。
【0014】
次に、包接化剤として用いるサイクロデキストリンについても、特に制限されるものではない。例えば、α−サイクロデキストリン、β−サイクロデキストリン、あるいはγ−サイクロデキストリン、又は前記それぞれの剤に対してメチル化、エチル化等のアルキル化サイクロデキストリン、ヒドロキシヒドロキシエチル化、ヒドロキシプロピル化等に装飾化されたアルコキシル化サイクロデキストリン、アセチル化、グルコシル化等に修飾化された様々なサイクロデキストリン誘導体等の適用例を挙げることができる。
もっとも、本発明者らの研究によれば、多くのポリフェノール類に対して比較的に優れた包接化による安定化能を示し、また、熱安定性に優れ、無色無臭であって飲食品、化粧料、医薬品等の幅広い用途に使用が許可されていることを考慮すると、α−サイクロデキストリン、あるいはβ−サイクロデキストリン、若しくはγ−サイクロデキストリン、又はこれらを主成分とする混合物が好ましい。
【0015】
なお、エピガロカテキンガレート(EGCg)に対するサイクロデキストリンの包接化能に関する本発明者らの検討によれば、サイクロデキストリンの構成糖数が大きいほど、つまりα−サイクロデキストリン<β−サイクロデキストリン<γ−サイクロデキストリンの順に、EGCgの安定性が向上する傾向にあり、β−サイクロデキストリンとγ−サイクロデキストリンを組み合わせることで一層EGCgの安定性が高くなることが判明した。よって、サイクロデキストリンとしては、β−サイクロデキストリンか、γ−サイクロデキストリン、又は両者の組み合わせを適用することが好ましい。
【0016】
本発明において、抗酸化剤についても、特に制限されない。例えば、アスコルビン酸及びその誘導体、又はそれらの塩(具体的には、L−アスコルビン酸及びL−アスコルビン酸アルキルエステル、L−アスコルビン酸リン酸エステル、L−アスコルビン酸硫酸エステル等の誘導体等、又はこれらの塩であるナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩等でも良い。)、エリソルビン酸またはそれらの塩、ロズマリン酸、クロロゲン酸、フィチン酸、クエン酸、フェルラ酸、ルチン、ミリセチン、ミリシトリン、クエルセチン、ユビキノール、メラノイジン、コーヒー酸、没食子酸、その他酸化防止効果を持つカロテノイド類、フラボン誘導体、フラボノイド類、タンニン類及びその塩並びにエステル類、天然植物抽出物としては、ローズマリー抽出物、茶抽出物、りんご抽出物、ブドウ種子抽出物、ひまわり種子抽出物、米ぬか抽出物、セージ抽出物、タイム抽出物、オレガノ抽出物、大豆抽出物、プロポリス抽出物等の適用例を挙げることができる。
その中でも本発明者らの研究によれば、多くのポリフェノール類に対して比較的優れた抗酸化能を示し、また、熱安定性に優れ、無色無臭であって、飲食品、化粧料、医薬品等々の幅広い用途に使用が許可されていることから、抗酸化剤については、アスコルビン酸、もしくはその誘導体あるいはこれらを主成分とする混合物が好ましい。
【0017】
本発明で用いる精製水の精製方法についても特に限定されない。本発明で使用する精製水は、蒸留やろ過、逆浸透、イオン交換などの手法で精製された水で良い。前記精製水の中でも極めて純度の高い水、一般的には伝導率が18.2MΩcm以下の水を超純水と言う。本発明者らの研究によれば、ポリフェノール類製剤の製造に用いる精製水は、高純度で、溶存酸素量が極度に制限されるから、溶解に使用する精製水は、超純水が好ましい。
【0018】
ポリフェノール類製剤中のポリフェノール類の溶解濃度は、その濃度が高いほど、同ポリフェノールの有益効果を高められるので、濃度は高ければ高いほど良い。しかし、前記溶解濃度がポリフェノール類の溶解度を超えてしまうと、溶解系の安定性が低下し、経時的に沈殿を生じる場合がある。
したがって、ポリフェノール類の種類によっても異なるが、ポリフェノール類の溶解濃度は、ポリフェノール類の溶解度に対してはその溶解度以下であることが好ましい。因みにEGCgの水への溶解度は20℃で4g/100mLである。
【0019】
上記ポリフェノール類とサイクロデキストリンとの混合比率は、ポリフェノール類の精製水中の溶解濃度を固定した場合には、サイクロデキストリンの溶解濃度が高くなればなるほど、包接化による安定化効率が向上する。逆に、サイクロデキストリンの溶解濃度が低くなればなるほど、ポリフェノール類の包接化による安定化効率が低下して、ポリフェノール類の安定性が低下する。ポリフェノール類およびサイクロデキストリンの種類よっても異なるが、ポリフェノール類のモル濃度(前記溶解濃度において1L中に含まれるポリフェノール類のモル数。以下同じ。)に対する、サイクロデキストリンのモル濃度が1/10以下になると、ポリフェノール類の安定性が著しく低下する。そのため本発明の場合は、ポリフェノール類のモル濃度に対するサイクロデキストリンのモル濃度は1/10以上であることが望ましい。
ただし、サイクロデキストリンの溶解濃度が高くなればなるほど、溶解系の安定性が低下し、経時的に沈殿を生じる場合がある。
したがって、サイクロデキストリンの溶解濃度の上限は、サイクロデキストリンの各分子種の溶解度濃度以下であることが好ましい。
サイクロデキストリン各分子種の水への溶解度は、25℃でα−サイクロデキストリンが 14.5g/100mL、β−サイクロデキストリンは 1.8g/100mL、γ−サイクロデキストリンは23.2g/100mLである。
【発明の効果】
【0020】
以上のようにして得られるポリフェノール類製剤は、実質的にポリフェノール類とサイクロデキストリンと抗酸化物質からなる水性製剤であり、水溶性で酸化され易いポリフェノール類を通常の溶解方法で溶解させた場合と比較して極めて保存安定性が高い。よって、このポリフェノール類製剤の取扱中におけるポリフェノール類の酸化は可及的に防止され、結果としてポリフェノール類の保存安定性が顕著に向上する。
【0021】
本発明のポリフェノール類製剤は、ポリフェノール類が水中で長期間安定的に存在する。しかも経時的な褐変化等の色調変化を伴わないので、飲食品や化粧料、医薬品等々を製造する配合剤として極めて有用である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
精製水中に少なくとも1種類以上のポリフェノール類、および少なくとも1種類以上のサイクロデキストリン、並びに1種類以上の抗酸化剤を溶解させて成る。
前記ポリフェノール類は、同ポリフェノール類の溶解度以下の濃度に溶解させる。
前記サイクロデキストリンは、前記ポリフェノール類のモル濃度に対して1/10以上のモル濃度で、且つ同サイクロデキストリンの溶解度以下の濃度に溶解させている。
更に少なくとも1種類以上の抗酸化剤を、同抗酸化剤の溶解度以下の濃度で溶解させて成る。
超純水を用いた精製水中に、先ず包接化剤としてのサイクロデキストリンを溶解させる。続いてポリフェノール類を溶解させる。又は予め配合割合を計量して混合したサイクロデキストリンとポリフェノール類を同時に精製水中へ溶解させる。
【実施例1】
【0023】
以下に、本発明によるポリフェノール類製剤及びその製造方法の実施例を具体的に説明し、合わせて比較例、及び試験例と共にその特性を説明する。
容量200mLのビーカー中に精製水として超純水を80mL程度を量り取り、そのビーカーをマグネチックスターラーにセットし、200rpmの条件で回転し攪拌させる。
この超純水中に、先ずは包接化剤としてのβ−サイクロデキストリン及びγ−サイクロデキストリンを、最終的に後記ポリフェノール類のモル濃度に対して1/10以上のモル濃度で、且つ同サイクロデキストリンの溶解度以下の濃度となるように、β−サイクロデキストリンは0.1gを、γ−サイクロデキストリンは0.4gを、各々を少しずつゆっくりと加えながら混合して溶解させた。かくして、サイクロデキストリンの溶解濃度は、ポリフェノール類製剤(組成物)全重量(100g)に対して0.5%となる。
次に、ポリフェノール類としては、カテキン類の1種であるエピガロカテキンガレート(EGCg)粉末(太陽化学株式会社製商品名:サンフェノンEGCg;以下、粉末試料イという。)を、EGCgとしての重量が組成物(ポリフェノール類製剤)全重量に対して1%となるように1gを計り、少しずつゆっくりと混合して溶解させた。
更に、抗酸化剤としてアスコルビン酸を、組成物全重量に対して0.2%となるように0.2g溶解して、最終的に組成物全量が100g(100mL)となるように超純水を追加して十分に混合させ、下記「表1」に示す実施例1の液体試料A(ポリフェノール類製剤)を調製した。
【0024】
[比較例1]
容量200mLのビーカー中に精製水として超純水を80mL程度を量り取り、そのビーカーを同じくマグネチックスターラーにセットし、200rpmの条件で回転し攪拌させる。
この超純水中に、ポリフェノール類として上記した粉末試料イ、即ちカテキン類の1種であるエピガロカテキンガレート(EGCg)粉末(太陽化学株式会社製商品名:サンフェノンEGCg)を、最終のポリフェノール類製剤(組成物)全重量に対する割合が1%となるように1gを計り、少しずつゆっくりと加えながら混合して溶解させた。そして、最終的に組成物全体が100gとなるように超純水を追加して十分に混合させ、下記「表1」に示す比較例1の液体試料B(をポリフェノール類製剤)を調製した。つまり、この比較例1は、ポリフェノール類のみ溶解させたもので、サイクロデキストリンおよび抗酸化剤を含まない組成である。
【0025】
[比較例2]
容量200mLのビーカー中に精製水として超純水を80mL程度を量り取り、このビーカーをマグネチックスターラーにセットし、200rpmの条件で回転し攪拌させる。
この超純水中に、β−サイクロデキストリン0.4gを、組成物全重量に対して0.1%となるように少しずつゆっくりと加えながら混合した。また、γ−サイクロデキストリン0.4gを、やはり組成物全重量に対して0.4%となるように、各々少しずつゆっくりと加えながら混合した。
さらに、上記の粉末試料イ(EGCg)を、その重量が、組成物全重量に対して1%となるように1gを計り、少しずつゆっくりと混合して溶解した。その上で、最終的に組成物全体が100gとなるように超純水を追加して十分に混合させ、下記「表1」に示す比較例2の液体試料C(ポリフェノール類製剤)を調製した。つまり、この比較例2は抗酸化剤を含まない組成である。
【0026】
[比較例3]
容量200mLのビーカー中に超純水を80mL程度量り取り、このビーカーをマグネチックスターラーにセットし、200rpmの条件で回転し攪拌させる。
この超純水中に、上記粉末試料イを1g計り、組成物全重量に対して1%となるように少しずつゆっくりと混合して溶解した。
さらにアスコルビン酸0.2gを、組成物全重量に対して0.2%となるように溶解させた。その上で、最終的に組成物全体が100gとなるように超純水を追加して十分に混合させ、下記「表1」に示す比較例3の液体試料D(ポリフェノール類製剤)を調製した。つまり、この比較例3は、サイクロデキストリンを含まない組成である。
【実施例2】
【0027】
容量200mLのビーカー中に精製水として超純水を80mL程度を量り取り、そのビーカーをマグネチックスターラーにセットし、200rpmの条件で回転し攪拌させる。
この超純水中に、β−サイクロデキストリンを、最終のポリフェノール類製剤(組成物)全重量に対して1%となるように、1gを少しずつゆっくりと加えながら混合して溶解させた。
さらに、上記の粉末試料イ(EGCg)を、その重量が、組成物全重量に対して1%となるように1g計り、少しずつゆっくりと混合して溶解した。
また、アスコルビン酸を、組成物全重量に対して0.2%となるように0.2g溶解させて、最終的に組成物全体重量が100gとなるように超純水を追加して十分に混合させ、下記「表1」に示す実施例2の液体試料E(ポリフェノール類製剤)を調製した。
【0028】
[比較例4]
この比較例4は、上記実施例2に対応させたもので、やはり容量200mLのビーカー中に精製水として超純水を80mL程度を量り取り、そのビーカーをマグネチックスターラーにセットし、200rpmの条件で回転し攪拌させた。
この超純水中に、β−サイクロデキストリンを、最終のポリフェノール類製剤(組成物)全重量に対して1%となるように1gを、少しずつゆっくりと加えながら混合して溶解させた。
さらに、上記の粉末試料イ(EGCg)を、その重量が、組成物全重量に対して1%となるように1g計り、少しずつゆっくりと混合して溶解し、下記「表1」に示す比較例4の液体試料F(ポリフェノール類製剤)を調製した。つまり、この比較例4は抗酸化剤を含まない組成である。
【実施例3】
【0029】
容量200mLのビーカー中に精製水として超純水を80mL程度を量り取り、そのビーカーをマグネチックスターラーにセットし、200rpmの条件で回転し攪拌させた。
この超純水中に、γ−サイクロデキストリンを、最終のポリフェノール類製剤(組成物)全重量に対して1%となるように、1gを少しずつゆっくりと加えながら混合して溶解させた。
さらに、上記の粉末試料イ(EGCg)を、その重量が、組成物全重量に対して1%となるように、1gを少しずつゆっくりと混合して溶解させた。
また、アスコルビン酸を、組成物全重量に対して0.2%となるように0.2g溶解させて、最終的に組成物全体重量が100gとなるように超純水を追加して十分に混合させ、下記「表1」に示す実施例3の液体試料G(ポリフェノール類製剤)を調製した。
【0030】
[比較例5]
この比較例5は上記実施例3に対応させたもので、やはり容量200mLのビーカー中に精製水として超純水を80mL程度を量り取り、そのビーカーをマグネチックスターラーにセットし、200rpmの条件で回転し攪拌させた。
この超純水中に、γ−サイクロデキストリンを、最終のポリフェノール類製剤(組成物)全重量に対して1%となるように、1gを少しずつゆっくりと加えながら混合して溶解させた。
さらに、上記の粉末試料イ(EGCg)を、その重量が、組成物全重量に対して1%となるように、1gを少しずつゆっくりと混合して溶解させ、下記「表1」に示す比較例5の液体試料H(ポリフェノール類製剤)を調製した。つまり、この比較例5は抗酸化剤を含まない組成である。
【0031】
[保存安定性の確認試験1]
上記実施例1で得られた液体試料A(ポリフェノール類製剤)、および比較例1−3で得られた液体試料B〜Dについて、それぞれ30mLをサンプルビンに入れ、40℃の環境温度で14日間保存した。その後、各試料について高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によりEGCg濃度を測定した。更に、このEGCg濃度の経時変化を調べて経過日数に対するEGCgの残存率を求めた。
また、上記各試料A〜Dの色調を評価する為に、黄色に見える波長である420μmにおける吸光度を吸光度計で測定した結果を、下記の「表1」に示す。
【0032】
【表1】

【0033】
上記の「表1」で明らかなように、本発明の実施例1に係るポリフェノール類製剤は、EGCgの残存率が依然として100%を維持しており、他の比較例1〜3の数値に比して、成分安定性のすこぶる高いことが確認された。
また、本発明の実施例1の吸光度は0.08に過ぎず、他の比較例1〜3の数値に比して、桁違いに褐変化しないことが確認された。
【0034】
次に、本発明の上記実施例2、3についても同様に、アスコルビン酸のみを配合した比較例3と比較して、格段に高い成分安定性を示している。そして、サイクロデキストリンのみを配合した比較例4、5と比較しても、桁違いに高い色調安定性を示すことが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明によるポリフェノール類製剤は、特に優れた保存安定性を有し、しかも経時的な褐変化等の色調変化を伴わず、また実質的に低級アルコールや界面活性剤を含まないので、生体への安全性が極めて高く、しかも保存安定性に優れている。したがって、食品、化粧料、医薬品等に配合すると、ポリフェノール類の有益な健康効果や抗酸化効果を期待でき、産業上に極めて有用な技術である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
精製水中に少なくとも1種類以上のポリフェノール類および少なくとも1種類以上のサイクロデキストリン並びに1種類以上の抗酸化剤を溶解させて成り、
前記ポリフェノール類は同ポリフェノール類の溶解度以下の濃度に溶解させ、
前記サイクロデキストリンは、前記ポリフェノール類のモル濃度に対して1/10以上のモル濃度で、且つ同サイクロデキストリンの溶解度以下の濃度に溶解させており、
更に少なくとも1種類以上の抗酸化剤を、同抗酸化剤の溶解度以下の濃度で溶解させて成ることを特徴とする、保存安定性に優れたポリフェノール類製剤。
【請求項2】
精製水中には、先ず包接化剤としてのサイクロデキストリンを溶解させ、続いてポリフェノール類を溶解させるか、又は予め配合割合を計量して混合したサイクロデキストリンとポリフェノール類を同時に精製水中へ溶解させて成ることを特徴とする、請求項1に記載した保存安定性に優れたポリフェノール類製剤。
【請求項3】
ポリフェノール類が、カテキン類であることを特徴とする、請求項1に記載した保存安定性に優れたポリフェノール類製剤。
【請求項4】
サイクロデキストリンが、α−サイクロデキストリン、若しくはβ−サイクロデキストリン、若しくはγ−サイクロデキストリン、又はそれらの混合物であることを特徴とする、請求項1又は2に記載した保存安定性に優れたポリフェノール類製剤。
【請求項5】
抗酸化剤が、アスコルビン酸、又はその誘導体であることを特徴とする、請求項1又は2に記載した保存安定性に優れたポリフェノール類製剤。

【公開番号】特開2010−168318(P2010−168318A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−13300(P2009−13300)
【出願日】平成21年1月23日(2009.1.23)
【出願人】(501213583)ピュア・グリーン株式会社 (5)
【Fターム(参考)】