説明

保持治具

【課題】被粘着物を十分な粘着保持力で粘着保持することができると共に、所望のように取り外すことができる、簡単な構造の保持治具を提供すること。
【解決手段】表面に被粘着物を粘着保持可能な粘着性シート5と、前記粘着性シート5に対して前記表面の反対側に位置し、前記粘着性シート5に粘着保持された前記被粘着物を前記粘着性シート5から取り外す場合には、前記粘着性シート5に対して前記表面の反対側から前記粘着性シート5の一部を相対的に突出させる突出機構30とを備えて成る保持治具1。この保持治具1は、その構造が単純であるにもかかわらず、突出機構30により、粘着性シート5と被粘着物との接触面積を大幅に減少させることができるから、粘着性シート5に粘着保持された被粘着物を、変形及び損傷させることなく、所望のように取り外すことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保持治具に関し、さらに詳しくは、所望のように、被粘着物を粘着保持し、取り外すことのできる、簡単な構造の保持治具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、シリコンウェハ、フレキシブルプリント基板、大画面表示装置用のガラス板等の薄板状物、セラミックコンデンサ、コイルフィルター等の小型部品等の製造等においては、前記薄板状物等は破損しやすく、前記小型部品等は所定の位置に固定しにくく転倒しやすいので、一般に、これらの薄板状物又は小型部品等を保持治具等に固定して、例えば、研磨工程、パターン形成工程、ダイシング工程等の製造工程、製造工程間の搬送、保存等が行われている。
【0003】
そして、これらの薄板状物又は小型部品等は、製造工程中、製造工程間の搬送中、及び/又は、保存中等には保持治具に保持される一方で、製造工程終了後、搬送後、及び/又は、保存後等には保持治具から取り外される。したがって、保持治具には、薄板状物又は小型部品等を確実に保持する特性と、必要時には、薄板状物又は小型部品等を容易に取り外すことができる特性とが要求される。
【0004】
このような保持治具として、例えば、「基板を真空吸着して保持する基板保持チャックにおいて、前記基板を真空吸引する際の負圧を形成する壁体と、前記真空吸引の際の基板の変形を抑制する複数の補助支持体とを備え、前記壁体と前記補助支持体の内少なくとも補助支持体を、ガラス基板表面に突出形成したことを特徴とする基板保持チャック」(特許文献1参照。)、また、「少なくとも表面部が粘着性を有するゴム弾性材で形成され、その粘着力により小型部品をその弾性材表面において密着保持可能であることを特徴とする小型部品の保持治具」(特許文献2参照。)等が挙げられる。
【0005】
しかし、特許文献1に記載の基板保持チャックは、基板を真空吸引によって固定するものであるから、製造工程中、製造工程間の搬送中、及び/又は、保存中等には、常に真空吸引する必要があり、特に基板の質量が大きい場合には真空度を高める必要があり、高電圧を必要とし、保持装置から取り外した薄板状物又は小型部品等に電荷が残存することがあるうえ、保持具自体の構造、製造方法が複雑で高価なものであった。さらに、前記補助支持体によって基板が損傷することもあった。また、この基板保持チャックは、基板を真空吸引によって固定するものであるから、減圧環境又は真空環境では、使用することができず、その用途が限定されることがある。例えば、基板上に液晶組成物等の各種組成物を塗布する方法として、塗布された各種組成物の内部又は表面に気泡等が混入することを防止するため、減圧環境又は真空環境で、基板上に各種組成物を塗布する方法が採用されることがある。この方法を採用すると、基板を保持する治具として、特許文献1に記載の基板保持チャックを使用することはできない。
【0006】
一方、特許文献2に記載の保持治具は、少なくとも表面部が粘着性を有しているから、保持治具に薄板状物又は小型部品等を密着保持させる場合には、弾性部材の表面に小型部品の一表面全体を密着させ、特に、薄板状物は弾性部材の表面との密着面積が大きくなり、これらの薄板状物又は小型部品等を弾性部材から取り外すときに、薄板状物又は小型部品等を取り外しにくいという問題があった。そのため、粘着力に勝る大きな力で小型部品及び薄板状物を取り外す必要があり、薄板状物又は小型部品等が変形し、又は、割れたり欠けたりする等、損傷することもあった。
【0007】
【特許文献1】特開2000−286329号公報
【特許文献2】特公平7−93247号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
この発明は、被粘着物を十分な粘着保持力で粘着保持することができると共に、所望のように取り外すことができる、簡単な構造の保持治具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するための手段として、
請求項1は、表面に被粘着物を粘着保持可能な粘着性シートと、前記粘着性シートに対して前記表面の反対側に位置し、前記粘着性シートに粘着保持された前記被粘着物を前記粘着性シートから取り外す場合には、前記粘着性シートに対して前記表面の反対側から前記粘着性シートの一部を相対的に突出させる突出機構とを備えて成る保持治具であり、
請求項2は、前記突出機構は、周縁部に凸状に形成され、前記粘着性シートを固定する周壁部と、通気孔とを有する基体に立設され、前記周壁部の高さよりも小さい長さを有する突出部材を備えて成る請求項1に記載の保持治具であり、
請求項3は、前記突出機構は、前記突出部材の先端を囲繞し、前記突出部材から前記粘着性シートを保護する保護部材と、前記保護部材を前記粘着性シート側に付勢する付勢部材とを備えて成る請求項2に記載の保持治具であり、
請求項4は、前記突出機構は、厚さ方向に貫通する貫通孔を有する基体の厚さよりも大きい長さを有する突出部材が立設された操作部材を有し、前記操作部材は、前記突出部材が前記貫通孔内を前記貫通孔の軸線方向に前後進可能に、構成されて成る請求項1に記載の保持治具であり、
請求項5は、前記基体は、その周縁部に凸状に形成され、前記粘着性シートを固定する周壁部を有し、前記突出部材は、前記周壁部の高さよりも大きい長さを有する請求項4に記載の保持治具であり、
請求項6は、前記基体は、その周縁部に凸状に形成され、前記操作部材を支持する支持部材を固定する周壁部を有する請求項4に記載の保持治具である。
【発明の効果】
【0010】
この発明に係る保持治具は、粘着性シートに対して、被粘着物を粘着保持可能な表面(以下、粘着性表面と称することがある。)の反対側に位置し、粘着性シートに対して前記粘着性表面の反対側から粘着性シートの一部を相対的に突出させる突出機構を備えている。そのため、この発明に係る保持治具は、その構造が単純であるにもかかわらず、粘着性シートに粘着保持された被粘着物を粘着性シートから取り外す場合には、この突出機構によって、粘着性シートの一部が相対的に突出して、粘着性シートと被粘着物との接触面積が大幅に減少するから、粘着性シートに粘着保持された被粘着物を、変形及び損傷させることなく、被粘着物の自重で、又は、わずかな力を加えることで、所望のように取り外すことができる。したがって、この発明によれば、被粘着物を十分な粘着保持力で粘着保持することができると共に、所望のように取り外すことができる、簡単な構造の保持治具を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
この発明に係る保持治具について説明する。この発明に係る保持治具は、粘着性シートと、粘着性シートに対して粘着性表面の反対側に位置する突出機構とを備えて成り、例えば、粘着性シートの粘着性表面に被粘着物を粘着保持して、被粘着物を製造し、搬送し、及び/又は、保存する際等に使用される。保持治具に保持される被粘着物は、薄板状物及び小型部品等の破損又は損傷しやすいもの、小型で取扱いが困難であるもの等であるのが有利である。薄板状物としては、例えば、シリコンウェハ、フレキシブルプリント基板、大画面表示装置用のガラス板等が挙げられ、小型部品としては、例えば、セラミックコンデンサ、コイルフィルター等が挙げられる。この発明の目的をよく達成することができる点で、被粘着物は薄板状物であるのがよい。この発明において、被粘着物は、保持治具に単独で粘着保持されてもよく、複数の被粘着物が同時に粘着保持されてもよい。なお、この発明において、部品には、半完成品及び完成品等も含まれる。
【0012】
前記粘着性シートは、後述する被粘着物を保持すると共に、粘着性シートの一部が粘着性表面から相対的に突出することによって、被粘着物の粘着保持を容易に解除する。したがって、この粘着性シートは、少なくとも一方の表面、すなわち、被粘着物を粘着保持する表面に粘着性を有していればよく、その裏表面は、粘着性を有していても、粘着性を有していなくてもよい。
【0013】
粘着性シートにおける粘着性を有する粘着性表面は、所定の粘着力を有する領域の他に、粘着性表面の粘着力よりも弱い粘着力を有する弱粘着領域又は実質的に粘着力を有しない非粘着領域を有していてもよい。この粘着性表面は、その全域にわたって、特に、被粘着物を粘着保持する領域として区画された粘着保持領域全域にわたって、一様な粘着力を有しているのが好ましい。表面全域又は粘着保持領域全域にわたって一様な粘着力を有していると、比較的質量のある被粘着物であっても、粘着性シートに所望のように被粘着物を粘着保持することができる。また、粘着性シートの製造が容易であるうえ、粘着性シートの表面に、紫外線照射又は粗面化処理等の粘着力調整加工等を施す必要がなく、粘着性シート本来の耐久性が効果的に発揮される。
【0014】
粘着性表面は、被粘着物を保持するのに十分な粘着力を有していればよく、例えば、粘着性表面に被粘着物を載置して、保持治具を少なくとも90度傾斜させたときに、被粘着物が保持されるのに十分な粘着力を有しているのが好ましい。特に、粘着性表面が下向きになるように、保持治具を180度回転させたときに、被粘着物が保持されるのに十分な粘着力、すなわち、被粘着物の単位面積あたりの自重(g/mm)よりも大きな粘着力(g/mm)を有しているのが好ましい。粘着性表面がこのような粘着力を有すると、粘着性シートに被粘着物を確実に保持することができる。粘着性表面の具体的な粘着力は、粘着性シートに保持される被粘着物の自重、大きさ等に応じて決定されるが、例えば、1〜60(g/mm)であるのが好ましく、2〜40(g/mm)であるのがさらに好ましく、4〜20(g/mm)であるのが特に好ましい。
【0015】
ここで、前記粘着性表面が有する所定の粘着力は、次のようにして求める。まず、粘着性シートを水平に固定する吸着固定装置(例えば、商品名:電磁チャック、KET−1530B、カネテック(株)製)又は真空吸引チャックプレート等と、測定部先端に、直径10mmの円柱をなしたステンレス鋼(SUS304)製の接触子を取り付けたデジタルフォースゲージ(商品名:ZP−50N、(株)イマダ製)とを備えた荷重測定装置を用意する。この試験台上に粘着性シートを固定し、測定環境を21±1℃、湿度50±5%に設定する。次いで、20mm/minの速度で粘着性表面の被測定部位に接触するまで前記荷重測定装置に取り付けられた前記接触子を下降させ、次いで、この接触子を被測定部位に所定の荷重で被測定部位に対して垂直に3秒間押圧する。ここで、前記所定の荷重を25g/mmに設定する。次いで、180mm/minの速度で前記接触子を被測定部位から引き離し、このときに前記デジタルフォースゲージにより測定される引き離し荷重を読み取る。この操作を、被測定部位の複数箇所で行い、得られる複数の引き離し荷重を算術平均し、得られる平均値を粘着性表面の粘着力とする。なお、この測定方法は、手動で行ってもよいが、例えば、テストスタンド(例えば、商品名:VERTICAl MODEL MOTORIZED STAND シリーズ、(株)イマダ製)等の機器を用いて、自動で行ってもよい。
【0016】
粘着性シート、特にその粘着性表面は、平滑であるのが好ましく、具体的には、0.8μm以下の中心線平均粗さRa(JIS B 0601−1982)を有しているのが好ましく、鏡面であるのが特に好ましい。粘着性シート又は粘着性表面が平滑であると、粘着性表面の粘着力を均一に調整することができると共に、粘着性表面と被粘着物との接触状態を均一にすることができ、被粘着物を所望のように粘着保持することができる。
【0017】
粘着性シートは、0.05〜2mm程度の厚さを有するのが好ましい。粘着性シートの厚さが、0.05mm未満であると粘着性シートの機械的強度が低下し、粘着性シートの耐久性が十分でないことがあり、一方、2mmを越えると、粘着性シートが弾性変形しにくくなり、被粘着物を粘着性シートから容易に取り外すことができなくなることがある。
【0018】
粘着性シートは、後述する突出機構により、粘着性表面から、換言すると、粘着性シートの粘着性表面に対して垂直方向(粘着性シートの垂直方向)に、突出されるから、弾性を有しているのが好ましく、粘着性弾性シートとされるのが好ましい。粘着性シートは、例えば、シリコーンゴム、フッ素系ゴム又は天然ゴム等の各種ゴム、又は、ウレタン系エラストマー、スチレン−ブタジエン共重合エラストマー等の各種エラストマー等によって、形成されることができるが、弾性、強度及び耐候性に優れたシリコーンゴム又はフッ素系ゴムによって形成されるのが好ましい。これらのなかでも、5〜60程度のゴム硬度(JIS K 6253[デュロメータA])を有するのが特に好ましい。前記ゴム硬度が前記範囲に調整されると、粘着性シートは、所望の粘着力を発揮することができると共に、弾性変形しやすく、その一部を容易に突出することができる。前記シリコーンゴムとしては、例えば、オルガノポリシロキサン、シリカ系充填剤及びパーオキサイド等の硬化剤等を含有するシリコーンゴム組成物が挙げられる。このようなシリコーンゴム組成物としては、例えば、信越化学工業株式会社から商品名「KE−520U」又は「KE−530U」等が入手可能である。また、前記フッ素系ゴムとしては、例えば、フッ化ビニリデン・六フッ化プロピレン共重合体、カーボン等の充填剤、トリアルイソシアネート等の架橋助剤及びパーオキサイド等の硬化剤等を含有するフッ素系ゴム組成物が挙げられる。このようなフッ素系ゴム組成物としては、例えば、ダイキン工業株式会社から商品名「DC−2050」又は「DC−2260」等が入手可能である。粘着性シートは、例えば、前記材料を用いて、公知の方法等によって、形成される。
【0019】
粘着性シートは、被粘着物の形状、その製造工程及び取扱い性、並びに、保持治具の形状及び大きさ等に応じて、任意の形状に形成することができ、例えば、四角形、五角形、六角形等の多角形、円形、楕円形、不定形、又は、これらを組み合わせた形状等に形成され、後述する基体の形状と同じでもあっても、異なっていてもよい。
【0020】
前記突出機構は、前記粘着性シートに粘着保持された被粘着物を粘着性シートから取り外す場合に、粘着性シートに対して、被粘着物が粘着保持された粘着性表面の反対側から、粘着性シートの一部を相対的に突出させる。したがって、突出機構は、被粘着物が粘着保持された粘着性表面から、換言すると、粘着性シートの垂直方向に、粘着性シートの一部を相対的に突出させることができる構成を有していればよく、具体的には、粘着性シートに対して粘着性表面の反対側に位置し、例えば、棒状、ピン状、角錐、円錐、楕円錐、角柱、円柱又は楕円柱等の突出部材等を備えて成るのが好ましい。突出機構が前記突出部材を備えて成ると、この突出機構によって粘着性シートの一部を相対的に突出させることができるから、被粘着物を変形及び損傷させることなく、被粘着物の自重で、又は、わずかな力を加えることで、被粘着物を粘着性シートから所望のように取り外すことができると共に、保持治具の構造が簡単になり、保持治具を容易に製造することができる。突出機構は、先端部が、先端に向かって外径が縮小するように形成された、すなわち、先端部がテーパ状に形成された、棒状、ピン状、角錐、円錐、楕円錐、角柱、円柱又は楕円柱等の突出部材等を備えて成るのが特に好ましい。突出機構がこのような突出部材を備えて成ると、被粘着物をより一層所望のように粘着性シートから取り外すことができる。
【0021】
突出機構は、棒状、ピン状、角錐、円錐、楕円錐、角柱、円柱又は楕円柱等の突出部材を、その軸線方向と粘着性シートの垂直方向とが略一致するように、粘着性シートに対して粘着性表面の反対側に配置してもよく、突出部材の軸線方向と粘着性シートの垂直方向とが所定の角度をなすように、粘着性シートに対して粘着性表面の反対側に配置してもよく、また、突出部材の軸線方向と粘着性シートの垂直方向とが略垂直となるように、粘着性シートに対して粘着性表面の反対側に配置してもよい。
【0022】
突出機構は、粘着性シートに対して粘着性表面の反対側に少なくとも1個配置すればよく、2個以上配置してもよい。
【0023】
突出機構は、粘着性シートに粘着保持された被粘着物を粘着性シートから取り外す場合に、粘着性シートの一部を粘着性シートの粘着性表面から相対的に突出させる。このとき、相対的に突出させる粘着性シートの突出量は、粘着性表面からわずかに突出する程度であれば、粘着性シートの粘着保持された被粘着物を所望のように取り外すことができるから、粘着性シートの突出量は特に限定されない。この発明においては、粘着性シートの突出量は、例えば、粘着性表面から0.1〜5mm程度に調整されることができ、好ましくは、0.2〜1.5mm程度に調整される。粘着性シートの突出量を前記範囲に調整すると、粘着性シートに粘着保持された被粘着物を粘着性シートから所望のように確実に取り外すことができると共に、粘着性シートが損傷することを防止して、粘着性シートの耐久性を十分に維持することができる。
【0024】
突出機構は、粘着性シートの一部を粘着性表面から相対的に突出させて、粘着性シートと被粘着物との接触面積を減少させる。突出機構により突出した粘着性シートと被粘着物との接触状態は、例えば、点接触状態又は線接触状態であるのが好ましく、粘着性シートの耐久性を考慮すると、ある程度の面積を有する点接触状態又は線接触状態であるのが特に好ましい。粘着性シートと被粘着物との接触状態が点接触状態又は線接触状態であると、被粘着物を粘着性シートから所望のように取り外すことができる。
【0025】
突出機構により、粘着性シートの一部が突出した場合における、被粘着物に点接触又は線接触する粘着性シートの総面積等は、粘着性シートの粘着力及び被粘着物の大きさ又は自重等に応じて、任意に調整される。この発明においては、粘着性シートの一部が突出した場合における、被粘着物に点接触又は線接触する粘着性シートの総面積(粘着性シートにおける突出した部分の投影面積の総和)は、例えば、粘着性シートの突出量を粘着性表面から0.5mmに調整した場合に、粘着性シートの表面積又は前記粘着保持領域の面積に対して、10%以下であるのが好ましく、3%以下であるのがさらに好ましく、2.5%以下であるのが特に好ましい。前記総面積が前記範囲内に調整されると、被粘着物の大きさ又は自重等にかかわらず、粘着性シートに粘着保持した被粘着物を、変形及び損傷させることなく、所望のように確実に取り外すことができる。一方、前記総面積は、例えば、粘着性シートの突出量を粘着性表面から0.5mmに調整した場合に、粘着性シートの表面積又は前記粘着保持領域の面積に対して、0.1%以上であるのが好ましく、0.15%以上であるのがさらに好ましく、0.18%以上であるのが特に好ましい。前記総面積が前記範囲内に調整されると、粘着性シートに粘着保持した被粘着物を所望のように取り外すことができると共に、突出機構により粘着性シートが損傷することを防止し、粘着性シートの耐久性を十分に維持することができる。なお、前記総面積は、粘着性シートを所定の突出量に突出された状態で、突出した各部分の投影面積を常法により算出し、それらの総和として、求めることができる。
【0026】
保持治具が複数の突出機構を備えている場合及び前記突出機構が複数の突出部材を備えている場合は、複数の突出機構の間隔又は複数の突出部材の間隔、すなわち、粘着性シートにおける突出した部分の間隔)は、粘着性シートの粘着力及び被粘着物の大きさ又は自重等に応じて、任意に調整される。この発明においては、前記間隔は、小さく調整されるのが好ましく、例えば、前記間隔は、5〜100mm程度に調整されることができ、好ましくは、20〜50mm程度に調整される。前記間隔を前記範囲に調整すると、粘着性シートに粘着保持された被粘着物を粘着性シートから取り外す場合に、被粘着物から粘着性シートがその粘着力に反して剥離する際に生じる応力を非常に小さくすることができ、被粘着物として厚さが非常に薄くされた被粘着物であっても、変形及び破損を効果的に防止することができる。
【0027】
突出機構は、粘着性シートを突出可能な強度等を有する材料で形成され、このような材料として、例えば、炭素鋼、ステンレス鋼、アルミニウム合金、ニッケル合金等の金属、ポリスチレン、エポキシ樹脂、ポリ塩化ビニル、メタクリル樹脂、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド等の樹脂等が挙げられる。突出機構は、加工性、操作性及び強度等の観点から、ステンレス鋼又はアルミニウム合金で形成されるのがよい。突出機構は、前記材料により、所望の形状に形成することができれば、その製造方法は、特に限定されず、例えば、真空成形、射出成形及び金型成形等の各種成形方法、圧延、切削、研削、溶接等の各種金属加工方法等が挙げられる。
【0028】
この発明に係る保持治具は、前記粘着性シートと前記突出機構とを備えた簡単な構造を有し、被粘着物を粘着保持する場合には、粘着性シートの粘着性表面に被粘着物を載置して、粘着性シートの粘着性表面と被粘着物の一面とを面接触させる。その結果、粘着性シートの粘着力により、保持治具に被粘着物を粘着保持することができる。一方、粘着性シートに粘着保持された被粘着物を粘着性シートから取り外す場合には、粘着性シートに対して粘着性表面の反対側に位置している突出機構を粘着性シートの垂直方向に相対的に移動させ、このような突出機構の相対的な移動により、粘着性シートの一部を粘着性表面から、換言すると、粘着性表面6に対して粘着性シート5の垂直方向に相対的に突出させる。そうすると、粘着性シートはその大部分が被粘着物から剥離し、粘着性シートと被粘着物とは、粘着性シートの突出した部分によって点接触状態又は線接触状態になり、粘着性シートと被粘着物との接触面積が大幅に減少して、被粘着物全体に作用する相対的な粘着力(被粘着物の単位面積当りに作用する粘着力)が小さくなる。その結果、被粘着物の自重で、又は、わずかな力を加えることで、被粘着物を、変形及び損傷させることなく、所望のように取り外すことができる。
【0029】
次いで、この発明の一実施例である保持治具1を、図1〜図3を参照して、説明する。保持治具1は、図1〜図3に示されるように、粘着性シート5と、基体10と、16個の突出機構30とを備えてなる。
【0030】
粘着性シート5は、図1〜図3に示されるように、前記した機能及び/又は特性等を有し、前記した形状及び寸法等に形成されている。具体的には、粘着性シート5は、両表面が、その全域にわたって一様な粘着力、具体的には、前記測定方法における1〜60(g/mm)の一様な粘着力を有し、被粘着物9を粘着保持する粘着性表面6は鏡面処理されている。この粘着性シート5は、前記シリコーンゴムによって、約1mmの厚さを有する略正方形の板状に形成されている。
【0031】
基体10は、図1〜図3に示されるように、略正方形の平板部21と、平板部21の周縁部に凸状に形成され、粘着性シート5を固定する周壁部22と、通気孔24とを有している。基体10は、周壁部22に粘着性シート5を固定することにより、粘着性シート5を基体10の一面に支持して固定し、粘着性シート5の弾性変形を可能にする。
【0032】
平板部21は、保持治具1の強度を維持すると共に、後述する突出機構30を立設可能にする。平板部21の厚さは、用途により適宜決定されればよく、例えば、被粘着物9の搬送等の強い強度が要求されない場合には50μm程度以上であればよく、被粘着物9の製造工程等の比較的強い強度が要求される場合には数mm程度以上であればよい。
【0033】
周壁部22は、図1〜図3に示されるように、基体10の周縁部に凸状の枠として形成され、その上部には、粘着性シート5を支持し、粘着性シート5及び平板部21と共に内部空間23を形成する。周壁部22の高さh(平板部21の底面から周壁部22の先端までの長さ)は、平板部21に立設される突出機構30の寸法及び保持治具1の取扱い性等を考慮して、適宜決定されればよく、例えば、5mm程度以上であればよい。
【0034】
なお、基体10及び平板部21は、略正方形に形成されているが、長方形、五角形、六角形等の多角形、円形、楕円形、不定形、又は、これらを組み合わせた形状等の板状体に形成することもできる。
【0035】
通気孔24は、図1に示されるように、前記周壁部22に形成され、前記内部空間23と基体10の外部とを連通し、内部空間23内に、また、内部空間23外に、気体を通気する。通気孔24の孔径は、高い圧縮効率又は吸引効率と周壁部22の強度とを両立することができる範囲内で大きくするのがよく、例えば、0.2〜3mm程度に設定されることができる。この通気孔24は、図1示されるように、周壁部22に形成されてもよく、また、平板部21に形成されてもよい。通気孔24は、外部に設置された圧縮装置例えばコンプレッサー等(図示しない。)、又は、吸引装置例えば真空ポンプ等(図示しない。)に接続される。
【0036】
基体10は、保持治具1の強度を維持することのできる強度を有する材料で形成され、このような材料として、例えば、炭素鋼、ステンレス鋼、アルミニウム合金、ニッケル合金等の金属、ポリスチレン、エポキシ樹脂、ポリ塩化ビニル、メタクリル樹脂、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド等の樹脂、多孔質セラミック等の多孔性物質、ガラス又はこれらの複合体等が挙げられる。これら材料のなかでも、内部空間23から気体が排気され、又は、内部空間23内に気体が装入されても、変形等しない程度の強度を有する材料が好ましく、加工性及び操作性の観点から、ステンレス鋼又はアルミニウム合金が好ましく、基体10はステンレス鋼で形成されている。なお、基体10を多孔性物質で形成する場合には、通気孔24を特段形成する必要はないが、基体10の側面及び底面を密閉するのがよい。
【0037】
基体10は、前記材料により、所望の形状に形成することができれば、その製造方法は、特に限定されず、例えば、真空成形、射出成形、金型成形等の各種成形方法、圧延、切削、研削、溶接等の各種金属加工方法等が挙げられる。通気孔24は別途掘削等により形成してもよい。基体10は、平板部21と周壁部22とを一体に成形するのがよいが、それぞれ別々に製造することもできる。すなわち、平板部21と周壁部22とをそれぞれ別々に製造し、平板部21の周縁部に周壁部22を固定してもよい。例えば、基体10は、開口部を有する枠体として周壁部22を形成し、この開口部に平板部21を嵌め込んで形成してもよく、また、角柱状に形成した部材を平板部21の周縁部に固定して形成してもよい。
【0038】
突出機構30は、図1〜図3に示されるように、前記した機能及び/又は特性等を有し、前記した形状及び寸法等に形成されている。突出機構30は、具体的には、粘着性シート5に対して粘着性表面6の反対側に位置し、すなわち、基体10の平板部21に立設され、前記内部空間23内に位置している。
【0039】
突出機構30は、具体的には、図1〜図3に示されるように、基体10の平板部21に立設され、周壁部22の高さhよりも小さい長さを有する突出部材41と、突出部材41の先端(頭部42)を囲繞し、突出部材41から粘着性シート5を保護する保護部材44と、保護部材44を粘着性シート5側に付勢する付勢部材46とを備えて成る。
【0040】
突出部材41は、より詳細には図2及び図3に示されるように、円筒状の胴部と、胴部の一端に形成された、胴部よりも大きな外径を有する底面から先端に向かって外径が縮小するように形成された円錐状の頭部42とを有し、その軸線方向と粘着性シート5の垂直方向とが略一致するように、平板部21に等間隔で合計16個立設されている。
【0041】
突出部材41の軸線方向の長さ(胴部と頭部42との合計長さ)は、周壁部22の高さhよりも小さければよいが、被粘着物9の粘着保持作業及び取り外し作業を考慮すると、周壁部22の高さhに対して30〜90%程度であるのが好ましい。頭部42の頂部43は、突出機構30により突出した粘着性シート5と被粘着物9との接触状態がある程度の面積を有する点接触状態となるように、その先端部が面取りされ、曲面になっている。
【0042】
保護部材44は、図2に示されるように、突出部材41の先端、すなわち、頭部42をその水平方向に囲繞して、意図しない場合に頭部42と粘着性シート5とが接触することを防止し、突出部材41から粘着性シート5を保護する。保護部材44は、図1〜図3に示されるように、頭部42を囲繞して収納する凹部45を有する円盤状に形成され、凹部45は、保護部材44と軸心を共有し、突出部材41の胴部が挿入される貫通孔を有する。保護部材44は頭部42を囲繞することができる大きさに調整される。
【0043】
付勢部材46は、基体10の平板部21と保護部材44との間に配置され、保護部材44を粘着性シート5側に付勢する。付勢部材46は、図1〜図3に示される圧縮コイルバネの他に、保護部材44を粘着性シート5側に付勢することができる弾性体であればよく、例えば、ゴム部材、円錐コイルバネ、ねじりバネ、竹の子バネ、板バネ、輪バネ等を用いることができる。
【0044】
突出機構30は、図2に示されるように、頭部42が凹部45に収納されるように、保護部材44の貫通孔に突出部材41の胴部が挿入されると共に、基体10の平板部21と保護部材44との間に胴部を囲繞するように付勢部材46が配置されて成る。したがって、突出機構30は、図1及び図2に示されるように、付勢部材46によって、突出部材41における頭部42の底面と、保護部材44における凹部45の底面とが当接し、これらの未接状態から当接状態に至る範囲内において、保護部材44が突出部材41の軸線方向に前後進可能に成っている。この突出機構30は、図1及び図2に示されるように、突出部材41、保護部材44の寸法等及び付勢部材46の付勢力等が適宜調整され、保護部材44の上面が粘着性シート5の裏表面に接触するように、内部空間23内に形成されている。
【0045】
このように構成された突出機構30は、突出部材41が相対的に突出することにより、粘着性シート5と被粘着物9との接触面積を減少させることができ、突出部材41によって突出した粘着性シート5と被粘着物9との接触状態はある程度の面積を有する点接触状態となる。このとき、被粘着物9に点接触する粘着性シート5の前記総面積は、粘着性シート5の表面積に対して0.16〜0.2%程度に調整されている。
【0046】
突出機構30における突出部材41、保護部材44及び付勢部材46は、ステンレス鋼で形成されている。突出機構は、前記材料により、所望の形状に形成することができれば、その製造方法は、特に限定されず、例えば、圧延、切削、研削、溶接等の各種金属加工方法等が挙げられる。
【0047】
保持治具1は、例えば、粘着性シート5、基体10、突出部材41及び保護部材44を前記方法等により作製し、基体10の平板部21に前記構成となるように突出機構30を形成した後、粘着性シート5を周壁部22に、例えば、熱硬化型接着剤等で接着固定して、製造することができる。突出機構30は、接着剤、オスネジとメスネジとの組合せ等の公知の結合手段によって、基板10の平板部21に立設されればよい。
【0048】
次に、保持治具1の作用について説明する。この保持治具1は、付勢部材46により、通常、図1及び図2に示されるように、保護部材44の上面が粘着性シート5の裏表面に接した状態にある。この状態において、被粘着物9を製造し、搬送し、及び/又は、保存する際等に、被粘着物9を粘着保持する場合には、粘着性シート5上に被粘着物9を載置する。そうすると、図2に示されるように、保持治具1における粘着性シート5の粘着性表面6に被粘着物9、例えば、その一面が接触し、粘着性シート5、すなわち、保持治具1に被粘着物9を所望のように粘着保持することができる。
【0049】
粘着性シート5に粘着保持された被粘着物9を、製造工程終了後、製造工程間の搬送後、及び/又は、保存後等に、取り外す場合には、周壁部22に形成された通気孔24から内部空間23内の気体を排気する。そうすると、粘着性シート5が被粘着物9を粘着保持したまま内部空間23内に陥没すると共に、保護部材44を平板部21側に付勢部材46の付勢力に反して押し下げる。このとき、粘着性シート5における保護部材44に接触していない部分は保護部材44の上面よりも平板部21側に陥没して陥没部7を形成し(図3参照。)、粘着性シート5における保護部材44に接触している部分は平滑状態になる(凹部45上に位置する粘着性シート5の一部が凹部45に陥没することもある。)。そして、内部空間23内の気体を排気し続けると、図3に示されるように、粘着性シート5が被粘着物9を粘着保持したまま、陥没部7はより一層陥没し、保護部材44は平板部21側により一層押し下げられる。そうすると、突出部材41の軸線方向の長さは不変であるから、図3に示されるように、保護部材44の凹部45から突出部材41の頭部42が出現し、凹部45上に位置する粘着性シート5を、粘着性表面6から相対的に突出させて、粘着性シート5に突出部8が形成される。このとき、粘着性シート5の粘着性表面6と被粘着物9との接触状態が解除され、突出部8の突出量がわずかであっても、粘着性シート5の粘着性表面6が被粘着物9の一面に接触していた状態から被粘着物9の一部に接触する状態に変化し、粘着性シート5の突出部8と被粘着物9との接触状態は前記範囲の面積を有する点接触状態になるから、粘着性シート5の粘着性表面6と被粘着物9との接触面積が大幅に減少して、被粘着物9全体に作用する相対的な粘着力(被粘着物9の単位面積当りに作用する粘着力)が小さくなり、被粘着物9を所望の粘着力で粘着保持することができなくなる。したがって、被粘着物9の自重で、又は、わずかな力を被粘着物9に加えることで、被粘着物9を、変形及び損傷させることなく、保持治具1から所望のように取り外すことができる。
【0050】
このように、保持治具1は、内部空間23の圧力状態を調整することによって起こる、粘着性シート5の弾性変形及び粘着性シート5と突出機構30との協働作業により、粘着性シート5を平滑に保ち、その一方で、粘着性シート5の一部を粘着性表面6から相対的に突出させることができるから、被粘着物9を十分な粘着保持力で粘着保持することができると共に、所望のように取り外すことができる。また、保持治具1は、一様な粘着力を有する粘着性表面6を有する粘着性シート5を備え、かつ、保護部材44を備えているから、粘着性シート5、すなわち、保持治具1は、きわめて高い耐久性を有する。
【0051】
保持治具1は、本願発明の目的を達成することができる範囲において、種々の変更が可能であり、例えば、突出機構30は、保護部材及び付勢部材を備えていなくてもよい。すなわち、保持治具は、粘着性シートと、突出部材を有する突出機構とを備えて成る。この場合には、粘着性シートは、保護部材で頭部から保護されていないが、突出部材の軸線方向の長さを短くする等の手段により、頭部から保護されることができる。
【0052】
また、保持治具1は、16個の突出機構30を備えているが、この発明において、保持治具は、16個に限られず、1個の突出機構を備えていてもよく、2個以上の突出機構を備えていてもよい。
【0053】
さらに、保護部材44は円盤状に形成されているが、この発明において、保護部材は、例えば、図4に示されるように、突出部材41の頭部42を囲繞して収納する、軸心を共有する凹部45を有する円盤体47と、円盤体47と軸線を共有し、円盤体47から軸線方向に延在する被貫通部48とを有する環状部材等であってもよい。
【0054】
次いで、この発明の別の一実施例である保持治具2を、図5及び図6を参照して、説明する。保持治具2は、図5及び図6に示されるように、粘着性シート5と、基体11と、突出機構31とを備えて成る。なお、粘着性シート5は、保持治具1の粘着性シート5と同様に形成され、粘着性シート5の周縁部は熱硬化型接着剤等で接着固定等により後述する基体11に固定されている。
【0055】
基体11は、図5及び図6に示されるように、その厚さ方向に貫通する貫通孔25を有する略正方形の平板状に形成されている。基体11は、保持治具1の強度を維持すると共に、その一方の表面に粘着性シート5を固定し、また、その他方の表面側に突出機構31を配置して、粘着性シート5の弾性変形を可能にする。基体11の厚さは、保持治具1の平板部21と同様に調整されている。貫通孔25は、その軸線方向に略均一な孔径で基体11の厚さ方向に貫通し、基体11に、等間隔で合計16個形成されている。貫通孔25の孔径は、後述する突出部材51の頭部52が貫通孔25内をその軸線方向に前後進可能な大きさに調整されている。なお、基体11の各隅部には、後述する可動機構34のボルト55を挿入可能な可動機構用挿入穴(図示しない。)が形成されている。基体11は、保持治具2の強度を維持することのできる強度を有する材料で形成され、所望の形状に形成することができれば、その製造方法は、特に限定されない。このような材料及び製造方法として、保持治具1の基体10で例示した材料及び製造方法が挙げられる。
【0056】
突出機構31は、図5及び図6に示されるように、前記した機能及び/又は特性等を有し、前記した形状及び寸法等に形成されている。突出機構31は、具体的には、粘着性シート5に対して粘着性表面6の反対側に位置し、かつ、基体11の厚さよりも大きい長さを有する突出部材51が立設された操作部材54を有し、操作部材54は、突出部材51が貫通孔25内を貫通孔25の軸線方向に前後進可能に、基体11に装着されて成る。
【0057】
突出部材51は、図5及び図6に示されるように、保持治具1の突出部材41と同様に形成されているが、その軸線方向の長さ(胴部と頭部52との合計長さ)は、基体11の厚さよりも大きく設定されている。突出部材51における軸線方向の長さは基体11の厚さよりも大きければよいが、被粘着物9の粘着保持作業及び取り外し作業を考慮すると、基体11の厚さに対して120〜300%程度であるのが好ましい。この突出部材51は、その軸線方向と粘着性シート5の垂直方向とが略一致するように、後述する操作部材54に、保持治具1の突出機構30と同様に、縦4列×横4列の配列で、合計16個が等間隔で立設されている。
【0058】
操作部材54は、図5及び図6に示されるように、突出部材51を16個立設し、16個の突出部材51を同時に操作可能にする。操作部材54の各隅部(前記可動機構用挿入穴に対応する位置)には、可動機構34のボルト55が貫通可能な可動機構用貫通孔(図示しない。)が穿設されている。操作部材54は、基体11と同様の材料で同様の製造方法で形成され、具体的には、ステンレス鋼で基体11と同様の形状に形成されている。
【0059】
突出機構31は、可動機構34により、基体11に装着されている。この可動機構34は、図5及び図6に示されるように、基体11における一方の表面の隅部に形成された可動機構用挿入穴に挿入されて基体11の表面から垂下され、操作部材54(可動機構用貫通孔)を貫通するボルト55と、ボルト55に螺合するナット56と、基体11と操作部材54との間にボルト55を囲繞して配置され、操作部材54を付勢する付勢部材57とを備えて成る。この可動機構34は、所定の範囲内で操作部材54を前後進可能にする。ボルト55及びナット56は、基体11と同様の材料で任意の寸法に形成される。付勢部材57は、保持治具1の付勢部材46と同様に圧縮コイルバネであるが、前記した弾性体等であってもよい。
【0060】
可動機構34は、図5及び図6に示されるように、突出機構31が粘着性シート5に対して粘着性表面6の反対側に位置し、突出部材51の頭部52が基体11の貫通孔25内に配置され、かつ、操作部材54と基体11とが略平行になる状態に、付勢部材57に囲繞されたボルト55を操作部材54の可動機構用貫通孔に貫通させ、ボルト55の先端をナット55で螺合して、組立てられる。
【0061】
突出機構31は、図5及び図6に示されるように、可動機構34等により、粘着性シート5に対して粘着性表面6の反対側に位置し、突出部材51の頭部52が基体11の貫通孔25内に配置されて成る。したがって、突出機構31は、可動機構34等によって、所定の可動範囲内を、付勢部材57の付勢力に反して、又は、付勢部材57の付勢力に従って、操作部材54が突出部材51の軸線方向に前後進可能になり、したがって、操作部材54を突出部材51の軸線方向に前後進操作することにより、突出部材51が貫通孔25内をその軸線方向に前後進可能に成っている。
【0062】
このように構成された突出機構31は、突出部材51が付勢部材57の付勢力に反してその軸線方向に前進することにより、粘着性シート5の一部を突出させ、粘着性シート5と被粘着物9との接触面積を減少させることができ、突出部材51によって突出した粘着性シート5と被粘着物9との接触状態はある程度の面積を有する点接触状態となる。このとき、被粘着物9に点接触する粘着性シート5の前記総面積は、粘着性シート5の表面積に対して0.16〜0.2%に調整されている。
【0063】
次に、保持治具2の作用について説明する。この保持治具2は、付勢部材57により、通常、図5に示されるように、突出部材51の頭部52が貫通孔25内に位置し、粘着性シート5の裏表面に接してない状態にある。この状態において、被粘着物9を製造し、搬送し、及び/又は、保存する際等に、被粘着物9を粘着保持する場合には、保持治具1と同様にして、保持治具2に被粘着物9を所望のように粘着保持することができる。
【0064】
粘着性シート5に粘着保持された被粘着物9を、製造工程終了後、製造工程間の搬送後、及び/又は、保存後等に、取り外す場合には、手動又は自動により、操作部材54を付勢部材57の付勢力に反して突出部材51の軸線方向に押圧する。そうすると、突出部材51の頂部53が粘着性シート5の裏表面に接触する。さらに、操作部材54を押圧すると、突出部材51の軸線方向の長さは基体11の厚さよりも長く調整されているから、図6に示されるように、突出部材51の頂部53が基体11の貫通孔25から出現し、貫通孔25上に位置する粘着性シート5を、粘着性シート5の粘着性表面6に対して粘着性シート5の垂直方向に突出させ、粘着性シート5に突出部8が形成される。このとき、粘着性シート5の裏表面と被粘着物9との接触状態が解除され、突出部8の突出量がわずかであっても、粘着性シート5が被粘着物9の一面に接触していた状態から被粘着物9の一部に接触する状態に変化し、粘着性シート5の突出部8と被粘着物9との接触状態は前記範囲の面積を有する点接触状態になるから、粘着性シート5と被粘着物9との接触面積が大幅に減少して、被粘着物9全体に作用する相対的な粘着力(被粘着物9の単位面積当りに作用する粘着力)が小さくなり、被粘着物9を所望の粘着力で粘着保持することができなくなる。したがって、被粘着物9の自重で、又は、わずかな力を被粘着物9に加えることで、被粘着物9を、変形及び損傷させることなく、保持治具2から所望のように取り外すことができる。
【0065】
このように、保持治具2は、操作部材54の前後進操作によって起こる、突出機構31の突出及び粘着性シート5の弾性変形により、粘着性シート5を平滑に保ち、その一方で、粘着性シート5の一部を粘着性表面6から突出させることができるから、被粘着物9を十分な粘着保持力で粘着保持することができると共に、所望のように取り外すことができる。また、保持治具2は、一様な粘着力を有する粘着性表面6を有する粘着性シート5を備えているから、粘着性シート5、すなわち、保持治具2は、きわめて高い耐久性を有する。さらに、保持治具2は、機械的構成により、突出機構31を機能させるから、例えば、保持治具2を減圧環境若しくは真空環境又は加圧環境等の常圧環境以外の環境下で使用することもできる。
【0066】
保持治具2は、本願発明の目的を達成することができる範囲において、種々の変更が可能であり、例えば、操作部材54は、すべての突出部材51を立設し、すべての突出部材51を同時に操作可能にしているが、この発明において、操作部材は、各突出部材を独立して立設してもよく、また、複数の突出部材、例えば、一方向に整列した複数の突出部材を一列ごとに独立して立設してもよい。このように、突出部材を立設すると、複数の被粘着物を保持し、時期を異ならして各被粘着物を取り外すことができる。また、操作部材54は、基体11に略平行に装着されているが、この発明において、操作部材は基体に対してある程度の角度を持って、傾斜して基体に装着されてもよい。例えば、操作部材は、前記可動部材34を採用することなく、その一端部が基体11の一端部に付勢部材等で回転自在に固定され、基体11に装着されてもよい。
【0067】
また、突出機構31は、突出部材51の頭部52が基体11の貫通孔25内に位置するように、配置されているが、この発明において、突出機構は、突出部材の頭部が基体の下方に位置するように、配置されてもよい。操作部材に立設される突出部材の数が限定されないのは保持治具1と同様である。
【0068】
さらに、保持治具2は、操作部材54が突出部材51の軸線方向に意図しない前後進をしないように、可動規制手段、例えば、基体と操作部材との間隔と同じ長さを有する棒状部材が基体と操作部材との間に装着されて成る安全装置、可動機構のボルトがその外周面から突出する係止片を備え、この係止片に操作部材が係止されて、操作部材の可動を規制する安全装置等を備えてもよい。
【0069】
次いで、この発明のまた別の一実施例である保持治具3を、図7〜図9を参照して、説明する。保持治具3は、図7〜図9に示されるように、粘着性シート5と、基体12と、突出機構32とを備えてなる。なお、粘着性シート5は、保持治具1の粘着性シート5と同様に形成されている。
【0070】
基体12は、図7〜図9に示されるように、略正方形の平板部21と、平板部21の周縁部に凸状に形成され、粘着性シート5を固定する周壁部22と、平板部21の厚さ方向に貫通する貫通孔25とを有している。基体12は、周壁部22に粘着性シート5を固定することにより、粘着性シート5を基体12の一面に支持して固定し、粘着性シート5の弾性変形を可能にする。平板部21は、保持治具1の強度を維持する。平板部21の厚さは、保持治具1の平板部21と同様に調整されている。周壁部22は、保持治具1の周壁部22と同様に形成され、その上部に、粘着性シート5を支持し、粘着性シート5及び平板部21と共に内部空間26を形成する。周壁部22の高さh(平板部21の底面から周壁部22の先端までの長さ)は、適宜決定されればよい。貫通孔25は、図7に示されるように、平板部21の厚さ方向に貫通すると共に、平板部21の一方向(図7において縦方向)に延在し、平板部21に等間隔で合計4個形成されている。貫通孔25の幅及び長さは、後述する突出部材61の頭部62が貫通孔25内をその軸線方向に前後進可能な幅及び長さに調整されている。なお、基体12の各隅部には、後述する可動機構34のボルト55を挿入可能な可動機構用挿入穴(図示しない。)が形成されている。基体12は、保持治具3の強度を維持することのできる強度を有する材料で形成され、このような材料として、保持治具1の基体10で例示した材料が挙げられる。基体12は、前記材料により、保持治具1と同様にして形成される。
【0071】
突出機構32は、図7〜図9に示されるように、前記した機能及び/又は特性等を有し、前記した形状及び寸法等に形成されている。突出機構32は、具体的には、粘着性シート5に対して粘着性表面6の反対側に位置し、かつ、周壁部22の高さhよりも大きい長さを有する突出部材61が立設された操作部材64を有し、操作部材64は、突出部材61が内部空間26内に位置するように、基体12に装着されて成る。
【0072】
突出部材61は、図7〜図9に示されるように、周壁部22の高さhよりも大きい長さを有する角柱(壁状)に形成され、テーパ状の頭部62を有している。突出部材61の高さは、周壁部22の高さよりも大きい長さであればよいが、被粘着物9の粘着保持作業及び取り外し作業を考慮すると、周壁部22の高さhに対して120〜300%程度であるのが好ましい。突出部材61は、突出部材61の高さ方向と粘着性シート5の垂直方向とが略一致するように、操作部材64に等間隔で合計4個立設されている。なお、突出部材61は、ステンレス鋼で形成され、その高さと形状以外は、基本的に、保持治具2の突出部材51と同様に形成されている。
【0073】
操作部材64は、図7〜図9に示されるように、突出部材61を等間隔で合計4個立設し、4個の突出部材64を同時に操作可能にする。なお、操作部材64は、ステンレス鋼で形成され、保持治具2の操作部材54と同様に形成されている。
【0074】
突出機構32は、可動機構34により基体12に装着されている。可動機構34は、保持治具2の可動機構34と同様に形成されている。すなわち、可動機構34は、図7〜図9に示されるように、突出機構32が粘着性シート5に対して粘着性表面6の反対側に位置し、突出部材61の頭部62が内部空間26内に配置され、かつ、操作部材64と基体12とが略平行になる状態に、付勢部材57に囲繞されたボルト55を操作部材64の可動機構用貫通孔に貫通させ、ボルト55の先端をナット55で螺合して、組立てられている。
【0075】
突出機構32は、図7〜図9に示されるように、可動機構34等により、粘着性シート5に対して粘着性表面6の反対側に位置し、突出部材61の頭部62が内部空間26内に配置されて成る。したがって、突出機構32は、可動機構34等によって、所定の可動範囲内を、付勢部材57の付勢力に反して、又は、付勢部材57の付勢力に従って、操作部材64が突出部材61の軸線方向に前後進可能になり、したがって、操作部材64を突出部材61の軸線方向に前後進操作することにより、突出部材61が貫通孔25内をその軸線方向に前後進可能に成っている。
【0076】
このように構成された突出機構32は、突出部材61が付勢部材57の付勢力に反してその軸線方向に前進することにより、粘着性シート5の一部を突出させ、粘着性シート5と被粘着物9との接触面積を減少させることができ、突出部材61によって突出した粘着性シート5と被粘着物9との接触状態はある程度の面積を有する線接触状態となる。このとき、被粘着物9に線接触する粘着性シート5の前記総面積は、粘着性シート5の表面積に対して1.9〜2.3%に調整されている。
【0077】
次に、保持治具3の作用について説明する。この保持治具3は、付勢部材57により、通常、図7及び図8に示されるように、突出部材61の頭部62が内部空間26内に位置し、粘着性シート5の裏表面に接してない状態にある。この状態において、被粘着物9を製造し、搬送し、及び/又は、保存する際等に、被粘着物9を粘着保持する場合には、保持治具1と同様にして、保持治具3に被粘着物9を所望のように粘着保持することができる。
【0078】
粘着性シート5に粘着保持された被粘着物9を、製造工程終了後、製造工程間の搬送後、及び/又は、保存後等に、取り外す場合には、手動又は自動により、操作部材64を付勢部材57の付勢力に反して突出部材61の軸線方向に押圧する。そうすると、突出部材61の頂部63が粘着性シート5の裏表面に接触する。さらに、操作部材64を押圧すると、突出部材61の軸線方向の長さは周壁部22の高さhよりも高く調整されているから、図9に示されるように、内部空間26の突出部材61上に位置する粘着性シート5を、粘着性シート5の粘着性表面6に対して粘着性シート5の垂直方向に突出させ、粘着性シート5に突出部8が形成される。このとき、粘着性シート5の裏表面と被粘着物9との接触状態が解除され、突出部8の突出量がわずかであっても、粘着性シート5が被粘着物9の一面に接触していた状態から被粘着物9の一部に接触する状態に変化し、粘着性シート5の突出部8と被粘着物9との接触状態は前記範囲の面積を有する線接触状態になるから、粘着性シート5と被粘着物9との接触面積が大幅に減少して、被粘着物9全体に作用する相対的な粘着力(被粘着物9の単位面積当りに作用する粘着力)が小さくなり、被粘着物9を所望の粘着力で粘着保持することができなくなる。したがって、被粘着物9の自重で、又は、わずかな力を被粘着物9に加えることで、被粘着物9を、変形及び損傷させることなく、保持治具3から所望のように取り外すことができる。
【0079】
このように、保持治具3は、操作部材64の前後進操作によって起こる、突出機構32の突出及び粘着性シート5の弾性変形により、粘着性シート5を平滑に保ち、その一方で、粘着性シート5の一部を粘着性表面6から突出させることができるから、被粘着物9を十分な粘着保持力で粘着保持することができると共に、所望のように取り外すことができる。また、保持治具3は、一様な粘着力を有する粘着性表面6を有する粘着性シート5を備えているから、粘着性シート5、すなわち、保持治具3は、きわめて高い耐久性を有する。さらに、保持治具3は、機械的構成により、突出機構32を機能させるから、例えば、保持治具3を減圧環境若しくは真空環境又は加圧環境等の常圧環境以外の環境下で使用することもできる。
【0080】
保持治具3は、本願発明の目的を達成することができる範囲において、種々の変更が可能であり、例えば、保持治具2と同様に、操作部材に、各突出部材を独立して立設してもよく、複数の突出部材を一列ごとに独立して立設してもよく、また、操作部材は、操作部材は基体に対してある程度の角度を持って、傾斜して基体に装着されてもよい。
【0081】
また、突出機構32は、突出部材61が内部空間26内に位置するように、配置されているが、この発明において、突出機構61は、基体12の下方に位置するように、配置されてもよい。操作部材に立設される突出部材の数が限定されないのは、保持治具1と同様である。
【0082】
さらに、保持治具3は、保持治具2と同様に、操作部材64の意図しない前後進を規制する可動規制手段を備えてもよく、また、操作部材が基体に対してある程度の角度を持って、傾斜して基体に装着されてもよい。
【0083】
次いで、この発明のさらに別の一実施例である保持治具4を、図10及び図11を参照して、説明する。保持治具4は、図10及び図11に示されるように、粘着性シート5と、基体13と、突出機構33とを備えて成る。なお、粘着性シート5は、保持治具1の粘着性シート5と同様に形成され、粘着性シート5の周縁部は熱硬化型接着剤等で接着固定等により後述する基体11に固定されている。
【0084】
基体13は、図10及び図11に示されるように、略正方形の平板部21と、平板部21の周縁部に凸状に形成され、後述する支持部材を固定する周壁部22と、平板部21の厚さ方向に貫通する貫通孔25とを有している。基体13は、その一方の表面に粘着性シート5を固定し、また、その他方の表面側に配置された突出機構33によって、粘着性シート5の弾性変形を可能にする。平板部21は、保持治具1の強度を維持する。平板部21の厚さは、保持治具1の平板部21と同様に調整されている。周壁部22は、図10及び図11に示されるように、平板部21に垂下するように、基体13の周縁部に凸状の枠として形成され、その下部に支持部材75を固定し、平板部21及び支持部材75と共に内部空間28を形成する。周壁部22の高さh(平板部21の上面から周壁部22の先端までの長さ)は後述する操作部材74を内部空間28内に収容できる範囲内で適宜決定されればよい。貫通孔25は、図10及び図11に示されるように、平板部21の厚さ方向に貫通し、保持治具2の基体11と同様に、縦4列×横4列の配列で、合計16個が平板部21に等間隔で形成されている。貫通孔25の孔径は、後述する突出部材71の頭部72が貫通孔25内をその軸線方向に前後進可能な大きさに調整されている。基体13は、保持治具4の強度を維持することのできる強度を有する材料で形成され、このような材料として、保持治具1の基体10で例示した材料が挙げられる。基体13は、前記材料により、保持治具1と同様にして形成される。
【0085】
突出機構33は、図10及び図11に示されるように、前記した機能及び/又は特性等を有し、前記した形状及び寸法等に形成されている。突出機構33は、具体的には、粘着性シート5に対して粘着性表面6の反対側に位置し、かつ、平板部21の厚さよりも大きい長さを有する突出部材71が立設された操作部材74を有し、操作部材74は、前記内部空間28内に、突出部材71が貫通孔25内を貫通孔25の軸線方向に前後進可能に、収納されて成る。
【0086】
突出部材71は、図10及び図11に示されるように、円筒状に形成され、テーパ状の頭部72を有している。突出部材71の高さは、平板部21の厚さよりも大きい長さであればよいが、被粘着物9の粘着保持作業及び取り外し作業を考慮すると、平板部21の厚さに対して120〜300%程度であるのが好ましい。突出部材71は、突出部材71の高さ方向と粘着性シート5の垂直方向とが略一致するように、操作部材74に、保持治具1の突出機構30と同様に、縦4列×横4列の配列で、合計16個が等間隔で立設されている。なお、突出部材71は、ステンレス鋼で形成されている。
【0087】
操作部材74は、図10及び図11に示されるように、突出部材71を16個立設し、16個の突出部材71を同時に操作可能にする。操作部材74は、突出部材71が立設された表面の反対側の表面に後述する操作ロッド78を装着する装着穴が形成されている。操作部材74は、基体13と同様の材料で同様の製造方法で形成され、具体的には、ステンレス鋼で基体13の平板部21と同様の形状に形成されている。
【0088】
突出機構33は、図10及び図11に示されるように、可動機構35により、内部空間28内に収容されている。この可動機構35は、周壁部27の下部に固定され、操作部材74を支持すると共に操作部材74の可動範囲を内部空間28内に規制する支持部材75と、平板部21及び操作部材74の間に配置され、操作部材74を支持部材75側に付勢する付勢部材57と、支持部材75を貫通して操作部材74に固定され、操作部材74を付勢部材57の付勢力に反して平板部21側に押出す操作ロッド78と、操作ロッド78を保護するロッド保護部材77と、操作ロッド78を平板部21側に押圧するロッド押圧部材79とを備えて成る。可動機構35は、内部空間28内で突出機構33を前後進可能にする。
【0089】
支持部材75は、図10及び図11に示されるように、平板部21と略同一の形状に形成され、その略中央部に後述する操作ロッド78を貫通させるロッド貫通孔76が穿孔されている。付勢部材57は、操作部材74を支持部材75側に付勢することができればよく、保持治具4においては、保持治具1の付勢部材46と同様に圧縮コイルバネが採用されているが、前記した弾性体等を採用してもよい。操作ロッド78は、図10及び図11に示されるように、テーパ状の一端部を有する円筒状に形成されている。操作ロッド78は、他端部が支持部材75のロッド貫通孔76を貫通して、操作部材74の装着穴に固定されている。ロッド保護部材77は、図10及び図11に示されるように、ロッド貫通孔76の周囲から垂下するように、支持部材75に装着されている。ロッド保護部材77は、軸線方向に貫通する管通孔を有する円筒状に形成され、操作ロッド78を貫通孔で囲繞して、操作ロッド78を保護する。ロッド保護部材77の軸線方向の長さは、後述するロッド押圧部材79が操作ロッド78を平板部21側に押圧することができる長さに調整されていればよい。ロッド押圧部材79は、その一端部がロッド保護部材77の自由端近傍に、ロッド押圧部材79が回転可能に、軸支され、他端が自由端とされる板状体に形成されている。図10において、ロッド押圧部材79は、操作ロッド78に当接しているが、操作ロッド78とロッド押圧部材79とは当接していても当接していなくてもよい。支持部材75、ロッド保護部材77、操作ロッド78及びロッド押圧部材79はそれぞれ、基体13と同様の材料で同様の製造方法で形成されている。
【0090】
可動機構35は、図10及び図11に示されるように、突出機構33が粘着性シート5に対して粘着性表面6の反対側に位置し、突出部材71の頭部72が基体13の貫通孔25内に配置され、かつ、操作部材44と基体13とが略平行になる状態に、支持部材75、付勢部材57、ロッド保護部材77、操作ロッド78及びロッド押圧部材79によって、構成されている。
【0091】
突出機構33は、図10及び図11に示されるように、可動機構35等により、粘着性シート5に対して粘着性表面6の反対側に位置し、内部空間28内に配置されると共に突出部材71の頭部72が基体13の貫通孔25内に配置されて成る。それ故、突出機構33は、可動機構35等によって、内部空間28内を、付勢部材57の付勢力に反して、又は、付勢部材57の付勢力に従って、操作部材74が突出部材71の軸線方向に前後進可能になる。したがって、ロッド押圧部材79を操作することにより、操作ロッド78を介して操作部材74を突出部材71の軸線方向に前後進操作することができ、その結果、突出部材71が貫通孔25内をその軸線方向に前後進可能になっている。
【0092】
このように構成された突出機構33は、突出部材71が付勢部材57の付勢力に反してその軸線方向に前進することにより、粘着性シート5の一部を突出させて、粘着性シート5と被粘着物9との接触面積を減少させることができ、突出部材71によって突出した粘着性シート5と被粘着物9との接触状態はある程度の面積を有する点接触状態となる。このとき、被粘着物9に点接触する粘着性シート5の前記総面積は、粘着性シート5の表面積に対して0.16〜0.2%に調整されている。
【0093】
次に、保持治具4の作用について説明する。この保持治具4は、付勢部材57により、通常、図10に示されるように、突出部材71の頭部72が貫通孔25内に位置し、粘着性シート5の裏表面に接してない状態にある。この状態において、被粘着物9を製造し、搬送し、及び/又は、保存する際等に、被粘着物9を粘着保持する場合には、保持治具1と同様にして、保持治具2に被粘着物9を所望のように粘着保持することができる。
【0094】
粘着性シート5に粘着保持された被粘着物9を、製造工程終了後、製造工程間の搬送後、及び/又は、保存後等に、取り外す場合には、手動又は自動により、ロッド押圧部材79を操作ロッド78側に回転し、操作ロッド78を押圧することにより、操作ロッド78が装着された操作部材74を付勢部材57の付勢力に反して突出部材71の軸線方向に押圧する。そうすると、突出部材71の頂部73が粘着性シート5の裏表面に接触する。さらに、ロッド押圧部材79を同方向に回転すると、操作部材54がさらに同方向に押圧され、突出部材71の軸線方向の長さは平板部13の厚さよりも長く調整されているから、図11に示されるように、突出部材71の頂部73が基体13の貫通孔25から出現し、貫通孔25上に位置する粘着性シート5を、粘着性シート5の粘着性表面6に対して粘着性シート5の垂直方向に突出させ、粘着性シート5に突出部8が形成される。このとき、粘着性シート5の裏表面と被粘着物9との接触状態が解除され、突出部8の突出量がわずかであっても、粘着性シート5が被粘着物9の一面に接触していた状態から被粘着物9の一部に接触する状態に変化し、粘着性シート5の突出部8と被粘着物9との接触状態は前記範囲の面積を有する点接触状態になるから、粘着性シート5と被粘着物9との接触面積が大幅に減少して、被粘着物9全体に作用する相対的な粘着力(被粘着物9の単位面積当りに作用する粘着力)が小さくなり、被粘着物9を所望の粘着力で粘着保持することができなくなる。したがって、被粘着物9の自重で、又は、わずかな力を被粘着物9に加えることで、被粘着物9を、変形及び損傷させることなく、保持治具2から所望のように取り外すことができる。
【0095】
このように、保持治具4は、操作部材74の前後進操作によって起こる、突出機構33の突出及び粘着性シート5の弾性変形により、粘着性シート5を平滑に保ち、その一方で、粘着性シート5の一部を粘着性表面6から突出させることができるから、被粘着物9を十分な粘着保持力で粘着保持することができると共に、所望のように取り外すことができる。また、保持治具4は、一様な粘着力を有する粘着性表面6を有する粘着性シート5を備えているから、粘着性シート5、すなわち、保持治具4は、きわめて高い耐久性を有する。さらに、保持治具4は、機械的構成により、突出機構33を機能させるから、例えば、保持治具4を減圧環境若しくは真空環境又は加圧環境等の常圧環境以外の環境下で使用することもできる。
【0096】
保持治具4は、本願発明の目的を達成することができる範囲において、種々の変更が可能であり、例えば、保持治具2と同様に、操作部材に、各突出部材を独立して立設してもよく、複数の突出部材を一列ごとに独立して立設してもよい。
【0097】
また、突出機構33は、突出部材71の頭部72が基体13の貫通孔25内に位置するように、配置されているが、この発明において、突出機構は、突出部材の頭部が基体の下方に位置するように、配置されてもよい。操作部材に立設される突出部材の数が限定されないのは保持治具1と同様である。
【0098】
さらに、可動部材35は、付勢部材57及びロッド保護部材を備えているが、この発明において、可動部材は、付勢部材及び/又はロッド保護部材を備えていなくてもよい。また、支持部材75は、周壁部27と略同一の形状に形成されているが、この発明において、支持部材は、操作部材を支持できる形状であればよく、例えば、周壁部の内側面又は下部に固定される複数の凸状片であってもよく、周壁部の内側面から突出する複数の棒状体、他、ピン等であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】図1は、この発明の一実施例である保持治具を示す概略斜視図である。
【図2】図2は、被粘着物を粘着保持した状態を示す、図1におけるA−A線に沿った概略部分断面図である。
【図3】図3は、粘着性シートの一部を突出させた状態を示す、図1におけるA−A線に沿った概略部分断面図である。
【図4】図4は、保護部材の別の一例を示す概略断面図である。
【図5】図5は、この発明の別の一実施例である保持治具に被粘着物を粘着保持した状態を示す概略部分断面図である。
【図6】図6は、この発明の別の一実施例である保持治具において、粘着性シートの一部を突出させた状態を示す概略部分断面図である。
【図7】図7は、この発明のまた別の一実施例である保持治具を示す概略斜視図である。
【図8】図8は、被粘着物を粘着保持した状態を示す、図7におけるB−B線に沿った概略部分断面図である。
【図9】図9は、粘着性シートの一部を突出させた状態を示す、図7におけるB−B線に沿った概略部分断面図である。
【図10】図10は、この発明のさらに別の一実施例である保持治具に被粘着物を粘着保持した状態を示す概略部分断面図である。
【図11】図11は、この発明のさらに別の一実施例である保持治具において、粘着性シートの一部を突出させた状態を示す概略部分断面図である。
【符号の説明】
【0100】
1、2、3、4 保持治具
5 粘着性シート
6 粘着性表面
7 陥没部
8 突出部
9 被粘着物(シリコンウェハ)
10、11、12、13 基体
21 平板部
22、27 周壁部
23、26、28 内部空間
24、25 貫通孔
30、31、32、33 突出機構
34、35 可動機構
41、51、61、71 突出部材
42、52、62、72 頭部
43、53、63、73 頂部
44 保護部材
45 凹部
46 付勢部材
47 円盤体
48 被貫通部
54、64、74 操作部材
55 ボルト
56 ナット
57 付勢部材
75 支持部材
76 ロッド貫通孔
77 ロッド保護部材
78 操作ロッド
79 ロッド押圧部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に被粘着物を粘着保持可能な粘着性シートと、
前記粘着性シートに対して前記表面の反対側に位置し、前記粘着性シートに粘着保持された前記被粘着物を前記粘着性シートから取り外す場合には、前記粘着性シートに対して前記表面の反対側から前記粘着性シートの一部を相対的に突出させる突出機構とを備えて成る保持治具。
【請求項2】
前記突出機構は、周縁部に凸状に形成され、前記粘着性シートを固定する周壁部と通気孔とを有する基体に立設され、前記周壁部の高さよりも小さい長さを有する突出部材を備えて成る請求項1に記載の保持治具。
【請求項3】
前記突出機構は、前記突出部材の先端を囲繞し、前記突出部材から前記粘着性シートを保護する保護部材と、前記保護部材を前記粘着性シート側に付勢する付勢部材とを備えて成る請求項2に記載の保持治具。
【請求項4】
前記突出機構は、厚さ方向に貫通する貫通孔を有する基体の厚さよりも大きい長さを有する突出部材が立設された操作部材を有し、前記操作部材は、前記突出部材が前記貫通孔内を前記貫通孔の軸線方向に前後進可能に、構成されて成る請求項1に記載の保持治具。
【請求項5】
前記基体は、その周縁部に凸状に形成され、前記粘着性シートを固定する周壁部を有し、
前記突出部材は、前記周壁部の高さよりも大きい長さを有する請求項4に記載の保持治具。
【請求項6】
前記基体は、その周縁部に凸状に形成され、前記操作部材を支持する支持部材を固定する周壁部を有する請求項4に記載の保持治具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−78388(P2008−78388A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−255938(P2006−255938)
【出願日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【復代理人】
【識別番号】100118809
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 育男
【Fターム(参考)】