説明

保護層付き光学部材の製造方法及び製造装置並びに保護層付きプラスチック光ファイバ

【課題】 プラスチック光ファイバに難燃性が付与された保護層を形成してプラスチック光ファイバ芯線を得る。
【解決手段】 プラスチック光ファイバ(POF)12を送出リール31から一定速度で送り出す。塗布装置32でPOF12に熱硬化性ウレタン組成物を塗布して、塗布済みPOF33とする。水槽34中には、80℃に温度調整されリン酸系化合物である難燃剤を含有している液35が入れられている。塗布済みPOF33を液35中に搬送して、熱硬化性ウレタン組成物を硬化させ保護層を形成してプラスチック光ファイバ芯線36を得る。保護層には難燃剤が付与され、光ファイバ芯線36の難燃性が向上する。光ファイバ芯線36を乾燥装置39で乾燥した後に巻取リール43で巻き取る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保護層付き光学部材の製造方法及び製造装置並びに保護層付きプラスチック光ファイバに関し、更に詳しくは保護層付きプラスチック光ファイバの製造方法及び製造装置並びに保護層付きプラスチック光ファイバに関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック光学部材は、同一の構造を有する石英系の光学部材と比較して、製造および加工が容易であること、および低価格であること等の利点があり、近年、光ファイバおよび光レンズ、光導波路などへの応用が試みられている。特にこれら光学部材の中でも、プラスチック光ファイバ(以下、POFと称する)は、素材が全てプラスチックで構成されているため、伝送損失が石英系と比較してやや大きいという短所を有するものの、良好な可撓性を有し、軽量で加工性が良い。また、口径の大きい光ファイバとして製造し易く、さらに低コストに製造可能であるという長所を有する。従って、伝送損失の大きさが問題とならない程度の短距離用の光通信伝送体として種々検討されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
POFは、一般的には、重合体をマトリックスとする有機化合物からなる芯(以下、コアまたはコア部と称する)と、コア部と屈折率が異なる(一般的には低屈折率の)有機化合物からなる外殻(以下、クラッドまたはクラッド部と称する)とから構成される。特に、中心から外側に向かって屈折率の大きさに分布を有するコア部を備えた屈折率分布型プラスチック光ファイバ(以下、GI型POFと称する)は、伝送する光信号の帯域を大きくすることが可能なため、高い伝送容量を有する光ファイバとして注目されている。この様な屈折率分布型光学部材の製法の一つに、界面ゲル重合を利用して、光学部材母材(以下プリフォームと称する)を作製し、その後に前記プリフォームを加熱溶融延伸する方法が知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【0004】
プリフォームを延伸して得られるPOFは、既に述べたように短距離の高速通信に用いられ、破損の際に、人体への突き刺さりによる重大なトラブルを発生し難いという安全性、接続の容易さ、耐振動性、低コストなどのメリットがある反面, 素材そのものが可燃性であるという性質を有する。そのため、特に家屋内の設置、家庭用や車載用に用いる場合に, 可燃性であるPOFに難燃性を付与することが検討されている。POFの光伝送性能を損なわないように、添加剤などをPOF中に含有させることは困難である。そのため、難燃性を付与する方法としてPOFそのものを難燃化することはなかなか困難である。
【0005】
一方、POFの曲げ耐候性の向上、吸湿による性能低下抑制, 引張り強度の向上, 耐踏付け性付与, 薬品などからの保護、着色による商品性向上等を目的として, POFの表面に1層以上の熱可塑性樹脂による保護層(被覆層)を設けて使用することが広く行われている。この保護層に難燃性を付与することによって, POFを難燃化することが検討されている。従来、保護層の難燃化には、ハロゲン化合物や重金属化合物が添加剤として使用されている。このような熱可塑性樹脂は、加熱して溶融したものとなった後にニップルから押し出して、POF表面を覆うように被覆する(例えば、特許文献3参照。)。
【0006】
【特許文献1】特開昭61−130904号公報
【特許文献2】特許第3332922号
【特許文献3】特公昭51−047628号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、熱可塑性樹脂の溶融被覆では, 樹脂を溶融状態になるまで加熱しなければならず、POFが高温の溶融樹脂と接触することによって、ダメージ(熱による伸び, 変形, それらによって引き起こされる構造不整など)が大きな問題になる場合がある。POFのコア部には、可燃性であるポリメチルメタクリレート(PMMA)が通常用いられる。そのため、難燃性被覆層には銅線や、石英系光ファイバなどの被覆層より、更に高い難燃性能が要求される。
【0008】
難燃剤の添加量を増すと難燃性を高めることはできる。しかしながら、硬化前の樹脂粘度が増加してニップルから高速で押し出して塗布することが困難になる問題が生じている。生産量が増加するにつれて生産効率を上げる必要があるが、低速で押出して塗布することは出来ても、塗布のスピードアップが困難という問題が生じている。また、これらの素材を添加した保護層形成材料を均一な状態で保つことは困難であり、不均一となりやすく、その機械的性能などの物性低下を招きやすい。例えば難燃剤を多く添加して保護層が形成されたPOFであるプラスチック光ファイバ芯線(プラスチック光ファイバコードとも称される。以下、光ファイバ芯線と称する。)またはPOF及び/または光ファイバ芯線を束ねたプラスチック光ファイバケーブル(以下、光ファイバケーブルと称する)の曲げ柔らかさが低下し, 機械性能や商品価値を減じてしまう問題も生じている。
【0009】
本発明は、光学部材に保護層を付与する際に、優れた難燃性を有する保護層を形成すると共に, 保護層付き光学部材の機械的特性を損なわず、且つ光学特性に優れる保護層付き光学部材及びその製造方法,製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の本発明の保護層付き光学部材の製造方法は、ポリマーを主成分とする光学部材に保護層を形成し、保護層付き光学部材を製造する方法において、前記光学部材に保護層形成用材料を塗布し、前記保護層形成用材料が塗布された光学部材を難燃性物質を含む液中に搬送し、前記保護層形成用材料を硬化させ保護層を形成すると共に前記保護層中に前記難燃性物質を付与させる。第2の本発明の保護層付き光学部材の製造方法は、ポリマーを主成分とする光学部材に保護層を形成し、保護層付き光学部材を製造する方法において、前記光学部材に難燃性物質を配合した保護層形成用材料を塗布した後に液中に搬送し、前記保護層形成用材料を硬化させ、前記光学部材に保護層を形成すると共に前記保護層中に前記難燃性物質を付与させる。第3の本発明の保護層付き光学部材の製造方法は、ポリマーを主成分とする光学部材に保護層を形成し、保護層付き光学部材を製造する方法において、前記光学部材に第1の難燃性物質を配合した保護層形成用材料を塗布した後に第2の難燃性物質を含む液中に搬送し、前記保護層形成用材料を硬化させ保護層を形成すると共に前記保護層に前記難燃性物質を付与させる。なお、前記第1の難燃性物資と前記第2の難燃性物資とは、同一種類のものを用いても良く、別種類のものを用いても良い。
【0011】
前記保護層を硬化させる液を45℃以上95℃以下の温度範囲に調整することが好ましい。前記保護層形成用材料を硬化させる液が、前記保護層表面に皮膜を形成するバインダー溶液であることが好ましい。前記保護層形成用材料を硬化する液が、保護層表面の硬化を促進する触媒溶液であることが好ましい。
【0012】
前記光学部材の搬送速度が、3m/min以上50m/min以下であることが好ましい。前記保護層形成用材料が、熱硬化性ウレタン組成物を主成分とすることが好ましく、室温高粘稠液の熱硬化性ウレタン組成物を主成分とすることがより好ましい。前記難燃性物質が、無機金属化合物,臭素化合物,リン化合物,シリコーン化合物のうち少なくとも1つを含むことが好ましい。前記光学部材が、プラスチック光ファイバであることが好ましい。前記ポリマーが、少なくともポリメチルメタクリレートを含むものであることが好ましい。
【0013】
本発明の保護層付き光学部材の製造装置は、ポリマーを主成分とする光学部材に保護層を形成し、保護層付き光学部材とする製造装置において、前記光学部材に保護層形成用材料を塗布する塗布手段と、前記保護層形成用材料を硬化させる液が入れられている液槽と、前記保護層形成用材料が塗布された光学部材を前記液槽中に搬送する搬送手段とを備える。前記保護層形成用材料又は前記液の少なくともいずれかに難燃性物質が含まれており、前記保護層に前記難燃性物質が付与されることが好ましい。前記光学部材が、プラスチック光ファイバであることが好ましい。
【0014】
本発明の保護層付きプラスチック光ファイバは、ポリマーを主成分とする光学部材に保護層を形成した保護層付きプラスチック光ファイバにおいて、前記保護層が、室温高粘稠液の熱硬化性ウレタン組成物から形成され、ポリイソシアネート化合物と、活性水素を有する化合物に過剰量のポリイソシアネート化合物と、を反応させて得られる末端活性イソシアネート基含有ウレタンプレポリマーのそれぞれ単独またはそれらの混合物に、室温固形のポリアミンの表面を被覆してアミノ基を不活性にした微粉体コーティングアミンを主成分として150℃以下、より好ましくは100℃以下で硬化させて得られるポリウレタン系エラストマーである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の保護層付き光学部材の製造方法は、ポリマーを主成分とする光学部材に保護層を形成し、保護層付き光学部材を製造する方法において、前記光学部材に保護層形成用材料を塗布し、前記保護層形成用材料が塗布された光学部材を難燃性物質を含む液中に搬送し、前記保護層形成用材料を硬化させ保護層を形成すると共に前記保護層中に前記難燃性物質を付与させるから、保護層の機械的強度を損なうことなく優れた難燃性を付与することができる。また、保護層の形成と同時に難燃層を形成するか、または保護層自身に難燃性機能を付与するため、保護層付き光学部材の製造工程の工程数を増加させることなく、前記光学部材に難燃性を付与することができる。なお、従来の熱可塑性樹脂では難燃性物質の配合には前述のような不具合があったが、本発明の保護層として望ましい熱硬化性ウレタン組成物は、室温高粘稠液であるので、押出被覆成形性を損なわない範囲で固体、液体の難燃性物質を適宜配合することができる。さらに、前記光学部材がプラスチック光ファイバである場合には、機械的強度に優れ且つ難燃性が向上しているプラスチック光ファイバ芯線を連続して製造することが可能となる。
【0016】
また本発明の保護層付き光学部材の製造方法によれば、ポリマーを主成分とする光学部材に保護層を形成し、保護層付き光学部材を製造する方法において、前記光学部材に難燃性物質を配合した保護層形成用材料を塗布した後に液中に搬送するか、前記光学部材に第1の難燃性物質を配合した保護層形成用材料を塗布した後に第2の難燃性物質を含む液中に搬送するから、前記保護層形成用材料を硬化させ保護層を形成すると共に前記保護層に前記難燃性物質を付与させるから、保護層の機械的強度を損なうことなく優れた難燃性を付与させることができるなどの前記各効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
(コア部)
コア部の原料の重合性モノマーとしては、塊状重合が容易である原料を選択するのが好ましい。光透過性が高く塊状重合しやすい原料としては例えば、以下のような(メタ)アクリル酸エステル類(フッ素不含(メタ)アクリル酸エステル(a)、含フッ素(メタ)アクリル酸エステル(b))、スチレン系化合物(c)、ビニルエステル類(d)等を例示することができ、コア部はこれらのホモポリマー、あるいはこれらモノマーの2種以上からなる共重合体、およびホモポリマー及び/または共重合体の混合物から形成することができる。これらのうち、(メタ)アクリル酸エステル類を重合性モノマーとして含む組成を好ましく用いることができる。勿論、これらに限定されるものではなく、モノマーの単独あるいは共重合体からなるポリマーの屈折率がクラッド部のそれに比べて同等かあるいはそれ以上になるように構成モノマーの種類、組成比を組むことが好ましい。
【0018】
さらに、作製する光学部材を近赤外光用途に用いる場合は、構成するC−H結合に起因した吸収損失が起こるために、C−H結合の水素原子を重水素原子やフッ素などで置換した重合体(例えば、特許第3332922号公報などに記載されているような重水素化ポリメチルメタクリレート(PMMA−d8)、ポリトリフルオロエチルメタクリレート(P3FMA)、ポリヘキサフルオロイソプロピル−2−フルオロアクリレート(HFIP 2−FA)など)からコア部を形成すると、この伝送損失を生じる波長域を長波長化することができ、伝送信号光の損失を軽減することができる。
【0019】
前記モノマーからポリマーを重合する際には、重合開始剤が用いられる。重合開始剤はは、用いられるモノマー、重合されるポリマーに応じて適宜選択される。例えば、過酸化ベンゾイル(BPO)、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサネート(PBO)、ジ−t−ブチルパーオキシド(PBD)、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート(PBI)、n−ブチル−4,4(t−ブチルパーオキシ)バラレート(PHV)などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、2種類以上の重合開始剤を併用しても良い。
【0020】
ポリマーの分子量や分子量分布を制御する目的で、連鎖移動剤(重合度調整剤とも称される)を用いることができる。連鎖移動剤としては、アルキルメルカプタン類(例えば、n−ブチルメルカプタン、n−ペンチルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−ラウリルメルカプタン、tert−ドデシルメルカプタンなど)、チオフェノール類(例えば、チオフェノール、m−ブロモチオフェノール、p−ブロモチオフェノール、m−トルエンチオール、p−トルエンチオールなど)などを用いることが好ましい。特に、n−オクチルメルカプタン、n−ラウリルメルカプタン、tert−ドデシルメルカプタンなどのアルキルメルカプタンを用いることが好ましい。なお、連鎖移動剤は勿論これらに限定されるものではない。また、2種類以上の連鎖移動剤を併用しても良い。
【0021】
コア部の屈折率を高めるために屈折率調整剤(以下、ドーパントと称する)を添加することもできる。ドーパントは、これを含有するポリマーが無添加のポリマーと比較して屈折率が高くなる性質を有するものである。この性質を有しポリマーと安定して共存可能で、且つ重合条件(加熱および加圧など)下で安定であるものを用いる。例えば、安息香酸ベンジル(BEN)、硫化ジフェニル(DPS)、リン酸トリフェニル(TPP)、フタル酸ベンジル−n−ブチル(BBP)、フタル酸ジフェニル(DPP)、ジフェニル(DP)、ジフェニルメタン(DPM)、リン酸トリクレジル(tricresyl phosphate :TCP)、ジフェニルスルホキシドなどが挙げられ、特にBEN、DPS、TPP、DPSOを用いることが好ましい。
【0022】
ドーパントは重合性化合物であってもよく、重合性化合物のドーパントを用いた場合は、これを共重合成分として含む共重合体がこれを含まない重合体と比較して、屈折率が上昇する性質を有するものを用いる。なお、このような共重合体には、MMA−BzMA共重合体などが挙げられる。
【0023】
(クラッド部)
クラッド部は、コア部を伝送する光がそれらの界面で全反射するために、コア部の屈折率より低い屈折率を有し、その屈折率がコア部の屈折率より低い化合物を用いる。さらに、コア部との密着性が良く、タフネスに優れ耐熱性にも優れているものが好ましく用いられる。例えば、メチルメタクリレート(MMA)、重水素化メチルメタクリレート、トリフルオロエチルメタクリレート、ヘキサフルオロイソプロピル−2−フルオロアクリレートなどから重合されるアクリル樹脂が挙げられるまた、パーフルオロアルキルメタクリレート系重合体、メタクリル酸エステル共重合体などが挙げられる。なお、MMAなどのモノマーからクラッド部のポリマーを重合する際にも、コア部の形成に用いられる前記重合開始剤、連鎖移動剤を用いることもできる。
【0024】
クラッド部には、フッ素樹脂を用いることもできる。例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF:融点160℃〜180℃)、ポリビニルフルオライド(PVF:融点206℃)ポリテトラフルオロエチレン(PTFE:融点330℃)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP:融点250℃〜280℃)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA:融点300℃〜310℃)、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE:融点260℃〜270℃)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE:融点210℃)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(EPE:融点290℃〜300℃)などが挙げられる。
【0025】
さらに、フッ化ビニリデン系重合体を用いることもできる。これは共重合体を含み、例えば、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン共重合体(フッ化ビニリデンを50重量%以上含むものが好ましく、より好ましくは70重量%以上90重量%以下含有するものである)、フッ化ビニリデン−六フッ化プロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロアセトン共重合体、フッ化ビニリデン−トリフルオロエチレン共重合体及びフッ化ビニリデンの3元以上の共重合体などが挙げられる。
【0026】
クラッド部を溶融押出しにより形成する場合には、溶融粘度が適当であることが好ましい。この溶融粘度については、相関する物性として平均分子量、特に重量平均分子量が1万〜100万の範囲であることが好ましく、より好ましくは5万〜50万の範囲である。
【0027】
クラッド部には、光伝送性能を低下させない範囲で、添加剤を添加しても良い。添加剤は、原料モノマーに添加した後に、モノマーからポリマーを重合させることで容易にポリマー中に含有させることができる。添加剤としては、耐候性や耐久性を向上させる安定剤、光伝送性能を向上させる光信号増幅用の誘導放出機能化合物などが挙げられる。誘導放出機能化合物を添加することにより、減衰した信号光を励起光により増幅することが可能となる。これにより伝送距離が向上するので、光伝送リンクの一部にファイバ増幅器として使用することもできる。なお、これらの添加剤は、コア部の形成時にモノマーに添加させることでコア部に含有させることもできる。
【0028】
(保護層形成用材料)
本発明に用いられる保護層形成用の材料には、光学部材であるPOFに熱的ダメージ(例えば、変形,変性,熱分解など)を与えないものを選択する。そこで、POFのコア部を形成するポリマーのガラス転移温度Tg(℃)以下、且つ50℃以上で反応硬化可能な素材を用いる。硬化可能温度を50℃以上とするのは、一般的に低い温度(特に室温付近)で硬化する材料は、ポットライフが短く、さらに光ファイバ芯線の製造工程で、溶融延伸直後に連続して保護層の被覆工程を行った場合には、POFによって持ち込まれる予熱で硬化が始まる。そのため材料の管理や被覆条件の設定が困難になるためである。これら観点を考慮し、且つ被覆する対象のガラス転移温度Tg(℃)が100℃以上のものである場合には、硬化速度の向上と制御とを両立させるために硬化温度の下限を(Tg−50)℃まで上げても良い。
【0029】
成形時間(材料が硬化する時間)が1秒以上で、10分以下好ましくは3分以下であるものを用いることが好ましい。硬化時間の長いものは、POFを加温条件に曝すことになり好ましくない。さらに保護層形成用材料は長時間流動性を保持しているため厚みの制御などの観点から、硬化時間の短いものが好ましい。成形時間が短すぎると、厚い保護層を形成する場合などに保護層内に硬化ムラを起こすおそれがあるために好ましくない。
【0030】
POFが可塑性が付与される添加剤の含有量や共重合体の共重合比に分布を持つ場合などの複数の化学的組成から形成されている場合には、それらの化学的組成のガラス転移温度のなかで、最も低い温度のガラス転移温度をTg(℃)とみなす。また、POFを構成するポリマーがガラス転移温度Tgを有しないものである場合には、相転移温度(例えば、融点など)の最も低いものを本発明のTg(℃)とみなして制御する。また、本発明においては単一のポリマー(ホモポリマー)からなる場合に可塑性を付与する添加剤が含有されているときもある。この場合にも分布を有するガラス転移温度で最も低い温度をTg(℃)とみなす。
【0031】
保護層形成用材料の硬化温度をTg(℃)以下で、且つ50℃以上とすることにより保護層形成時の熱ダメージを回避し、熱ダメージによるPOFの変形や各種物性値の劣化、さらには、屈折率分布型コア部を有する場合には屈折率プロファイルの変形を抑制することができる。この被覆工程によって生じる性能低下を抑制できるため、高性能を維持した光学部材を提供することが可能となる。なお、光学部材や保護層形成用材料の種類によっては、保護層形成用材料の硬化温度の下限値を(Tg−50)℃とすることもできる。
【0032】
本発明の保護層形成用材料としては、室温高粘稠液の熱硬化性ウレタン組成物が好ましく用いられる。例えば、イソシアネート基(NCO基)を有する化合物と活性水素を有する化合物とが反応して硬化するウレタン組成物が挙げられる。このような素材は自己の反応性によって反応が進行するため、熱や光のエネルギーを外部より多量に加える必要がない。また被覆の厚みなどを勘案すれば、光学部材に甚大なダメージを与えるほどの大きな反応熱は発生しない。さらに、必要に応じて湿気によって反応が進行するものであり、必ずしも反応進行に熱を必要としなくても良いが、光学部材のTg以下で、かつ45℃以上、100℃以下の温度に加熱することによって概ね瞬間的に硬化するものが望ましい。以上を具体的に例示するならば、特許第3131224号公報に記載のNCO基含有のポリイソシアネート化合物と、活性水素を有する化合物に過剰量のポリイソシアネート化合物と、を反応させて得られる末端活性NCO基含有ウレタンプレポリマーのそれぞれ単独またはそれらの混合物に室温固形のポリアミンの表面を被覆してアミノ基を微紛体により不活性にした、いわゆる微粉体コーティングアミンとから製造される室温高粘稠液の1液型熱硬化性ウレタン組成物などを挙げることができる。
【0033】
上記ポリイソシアネート化合物と固形ポリアミンを組合せた組成物において、融点35℃以上および特定中心粒径を持つ固形ポリアミンの表面に、特定中心粒径の微粉体(固形アミンを除く、以下同様)を特定割合で固着させて、表面の活性アミノ基を被覆しておけば、ポリイソシアネート化合物である末端活性NCO基含有ウレタンプレポリマーに安定状態で容易に分散して優れた貯蔵安定性を得ることができる。また加熱硬化に際しても、表面被覆された固形ポリアミン化合物が加熱溶融によって、活性アミノ基を生成する。例えば、40℃〜100℃で10分程度の温度で即(速)硬化を起こすことができ、しかもポリイソシネート化合物として末端活性NCO基含有ウレタンプレポリマーに代えてまたは併用してポリイソシアネート化合物そのものを使用することもできる。
【0034】
具体的、詳細には室温高粘稠液の熱硬化性ウレタン組成物は、(A)ポリイソシアネート化合物と、活性水素を有する化合物に過剰量のポリイソシアネート化合物を反応させて得られる末端活性NCO基含有ウレタンプレポリマーのそれぞれ単独またはそれらの混合物;および(B)融点35℃以上および中心粒径20μm以下の固形ポリアミンの表面に、中心粒径の2μm以下の微粉体を、該固形ポリアミンと微粉体の重量比が1/0.001〜1.0となるように固着させて、表面の活性アミノ基を被覆した微粉体コーティングアミンから成るものを熱硬化性ウレタン組成物の主成分として用いるものである。
【0035】
上記ポリイソシアネート化合物としては、芳香族、脂肪族または脂環族に属する任意のものが使用されてよく、たとえばトリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、3,3'−ジメチル−4,4'−ビフェニレンジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、ナフチレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−4,4'−ジイソシアネート、粗製MDI、ポリメチレン・ポリフェニルイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、水素化キシリレンジイソシアネート、これらのイソシアヌレート化物、カルボジイミド化物、ビューレット化物等が挙げられ、これらの1種または2種以上の混合物を使用する。
【0036】
NCO基含有ウレタンプレポリマー(以下、末端NCOプレポリマーと称す)は、通常の活性水素を有する化合物に過剰量のポリイソシアネート化合物をたとえばOH/NCOの当量比が1/1.2〜3.5となるように反応させることにより製造することができる。反応は、要すれば適当な反応溶媒(たとえば酢酸エチル、トルエン、キシレン)および反応触媒(たとえばジブチル錫ジラウレート等の有機錫系触媒、オクチル酸ビスマス等のビスマス系触媒、1,4−ジアザ[2.2.2]ビシクロオクタン等の三級アミン系触媒)の存在下、通常常温乃至60〜90℃で1〜7時間の条件で行うことができる。得られる末端NCO含有ウレタンプレポリマーは通常、末端NCO含有量0.5%〜25%(重量%、以下同様)、粘度500cP〜500000cP(20℃)に設定されておればよい。なお、上記活性水素を有する化合物としては、たとえばエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、ショ糖などの多価アルコールにプロピレンオキサイドまたはプロピレンオキサイドとエチレンオキサイドなどのアルキレンオキサイドとを付加重合したポリエーテルポリオール類;エチレングリコール、プロピレングリコールおよびこれらのオリゴグリコール類;ブチレングリコール、ヘキシレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール類;ポリカプロラクトンポリオール類;ポリエチレンアジペートのようなポリエステルポリオール類;ポリブタジエンポリオール類;ヒマシ油のようなヒドロキシル基を有する高級脂肪酸エステル類;ポリエーテルポリオール類またはポリエステルポリオール類にビニルモノマーをグラフト化したポリマーポリオール類等が挙げられる。
【0037】
末端活性NCO基含有ウレタンプレポリマーの調製において鎖延長剤を用いることもできる。たとえば短鎖のジオールであり、具体的にはエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ヘキサンジオール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコールなどが挙げられる。鎖延長剤を用いた末端活性NCO基含有ウレタンプレポリマーは強靭な物性に調製することができる。
【0038】
前記ポリイソシアネート成分である成分(A)として、上述のポリイソシアネート化合物そのもの単独、もしくは末端NCO含有ウレタンプレポリマー単独またはこれらを併用混合して使用する。
【0039】
上記固形ポリアミンとしては、融点35℃以上の芳香族または脂肪族に属する任意のものが使用されてよく、たとえば4,4'−ジアミノジフェニルメタン、2,4'−ジアミノジフェニルメタン、3,3'−ジアミノジフェニルメタン、3,4'−ジアミノジフェニルメタン、2,2'−ジアミノビフェニル、2,4'−ジアミノビフェニル、3,3'−ジアミノビフェニル、2,4−ジアミノフェノール、2,5−ジアミノフェノール、o−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、2,3−トリレンジアミン、2,4−トリレンジアミン、2,5−トリレンジアミン、2,6−トリレンジアミン、3,4−トリレンジアミン等の芳香族、1,12−ドデカンジアミン、1,10−デカンジアミン、1,8−オクタンジアミン、1,14−テトラデカンジアミン、1,16−ヘキサデカンジアミン等の脂肪族が挙げられ、これらの1種または2種以上の混合物を使用に供してよい。かかる固形アミンは、中心粒径20μm以下、好ましくは3μm〜15μmに調整する。20μmを越える中心粒径では、加熱硬化したポリウレタン系エラストマーが不完全反応硬化となり、所望の物性が得られない傾向となる。
【0040】
成分(B)である上記微粉体コーティングアミンは、上述の固形ポリアミンを所定の中心粒径範囲に粉砕しつつ、同時にこれに微粉体を加えて前記微粉体が所定の中心粒径範囲となるように混合粉砕して、固形ポリアミンの表面に微粉体を固着させるせん断摩擦式混合方式により製造される。また、予め微粉砕した固形ポリアミンを微粉体と共に高速衝撃式混合攪拌機または圧縮せん断式混合攪拌機を用いることにより、微粉体コーティングアミンを製造することができ、この方式、特に高速衝撃式混合攪拌機を用いた場合がより好ましい。
【0041】
上記微粉体としては、無機系または有機系の中から任意に使用することができ、たとえば無機系として酸化チタン、炭酸カルシウム、クレー、シリカ、ジルコニア、カーボン、アルミナ、タルク等が挙げられる。また有機系としてポリ塩化ビニル、ポリアクリル樹脂、ポリスチレン、ポリエチレン等が挙げられ、これらの1種または2種以上の混合物を使用に供する。使用量は、固形ポリアミンと微粉体の重量比が1/0.001〜1.0、好ましくは1/0.002〜0.5となるように選定する。微粉体の比率が0.001未満であると、貯蔵安定性の効果が認められず、また1.0を越えても、貯蔵安定性がそれ以上に改善されなくなる。このように固形ポリアミンと微粉体を混合粉砕することにより、静電気が発生して固形ポリアミンの表面に微粉体が固着するか、または混合撹拌機の機械力により、発生する摩擦、衝撃、圧縮せん断等による発熱によって固形アミンの局所的な溶融固着現象で微粉体が固着するか、あるいは固形ポリアミンの表面に物理的に投錨ないし埋設固着するか、さらには化学的に活性化して固着することなどが予測される(すなわち、固形ポリアミンの表面の活性アミノ基(NH2)は、微粉体で被覆された状態となる)。なお、固着した微粉体の中心粒径は、2μm以下、好ましくは1μm以下に設定されていることが重要で、2μmを越えと、固形ポリアミンの表面に固着しなくなる。
【0042】
従って、両成分(A),(B)の配合比は通常、加熱活性後のNH2とNCOの当量比が1/0.5〜2.0となるように選定すればよい。光学部材の保護層形成材料に用いる室温高粘稠液の熱硬化性ウレタン組成物は、上述のポリイソシアネート成分(A)および微粉体コーティングアミン(B)を配合した系で構成されるが、必要に応じて、硬化物の物性、特に圧縮永久歪み等に対する強靭な耐久性を付与せしめるため、成分(C)として二官能以上のエポキシ樹脂を適量添加されてよい。
【0043】
上記エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型,F型,AD型、フェノール型、クレゾール型、環状脂肪族系、グリシジルエステル系、グリシジルアミン系等が挙げられ、特に液状のものが好ましい。かかるエポキシ樹脂(C)の添加によって、加熱硬化に際し、ポリイソシアネート成分(A)と固形ポリアミンの反応に加えて、前記エポキシ樹脂(C)と固形ポリアミンの反応が起こり、この三次元化反応に基づき網状構造を採ることから、上記強靭な耐久物性を具備した硬化物を形成することができる。エポキシ樹脂(C)は通常、ポリイソシアネート成分(A)100部(重量部、以下同様)に対して1部〜15部の範囲で用いる。1部未満であれば、エポキシ樹脂(C)の物性が期待できず、また15部を越えると、ポリウレタン硬化物のゴム物性が損なわれる。なお、エポキシ樹脂(C)の物性を所望する場合には、前記エポキシ樹脂(C)をリッチにすることもできる。
【0044】
さらに必要に応じて、通常の添加剤、たとえばウレタン触媒、溶剤(たとえば極性の小さい溶剤として、脂肪族炭化水素系、芳香族炭化水素系、脂環族炭化水素系、ハロゲン化炭化水素系、エーテル類、エステル類、ケトン類等が挙げられ、特に脂肪族炭化水素系の溶剤が望ましい)、可塑剤(たとえばジブチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジシクロヘキシルフタレート、ジイソオクチルフタレート、ジイソデシルフタレート、ジベンジルフタレート、ブチルベンジルフタレート、トリオクチルホスフェート、エポキシ系可塑剤、トルエン−スルホンアミド、クロロパラフィン、アジピン酸エステル、ヒマシ油等)充填材(有機系および無機系充填材としてポリエチレン、ポリプロピレン、アクリル樹脂、セルロース、ポリエステル、ポリスチレン等の粉体や炭酸カルシウム、カーボンブラック、タルク、クレー、二酸化ケイ素、珪酸塩、アルミナ、ガラスバルーン、プラスチックバルーン等)、揺変剤、紫外線吸収剤、老化防止剤、染顔料、密着剤、脱水剤等を適量配合されてよい。
【0045】
なお、上記ウレタン触媒としては、DBU[1,8−ジアザビシクロ(5.4.0)ウンデセン−7]、DBUフェノール塩、DBUオクチル酸塩、DBUギ酸塩などのDBU系;モノアミン(トリエチルアミン等)、ジアミン(N,N,N',N'−テトラメチルエチレンジアミン等)、トリアミン(テトラメチルグアニジン等)、環状アミン(トリエチレンジアミン等)、アルコールアミン(ジメチルアミノメタノール等)、エーテルアミン[ビス(2−ジメチルアミノエチル)エーテル等]などのアミン系;Sn系(ジブチル錫ジラウレート、オクチル酸錫等)、Pb系(オクチル酸鉛等)、Zn系(オクチル酸亜鉛等)などの有機カルボン酸金属塩;2−メチルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾールなどのイミダゾール系が挙げられる。
【0046】
前記熱硬化性ウレタン組成物は、3次元架橋してポリウレタン系エラストマー(以下、3次元ポリウレタンと称する)が形成される。これは例えば複数のNCO基を有する化合物と活性水素を有する化合物とが反応することによって得ることができる。例えば、熱硬化性ウレタン組成物を80℃で5分間保持する。熱硬化性ウレタン組成物中の末端活性NCO基が活性化されたポリアミンと3次元的に反応硬化重合して3次元ポリウレタンが得られる。この方法は、加熱媒体に水などを用いることができるのでコストの点から有利である。
【0047】
3次元ポリウレタンは、ポリウレタン系エラストマーであり、室温においては小さな力でも変形を起こし、その力を除くとほとんど元の形に戻るゴムの性質を有している。柔らかく弾性があるため力が加えられてもその力が取り除かれた後には元の形状が維持される。そのため、外部から圧力がかかる作業、例えばコネクタの取り付けなどの際に、応力を緩和する機能を有する。これにより、外部からの圧力がPOFに伝播することが抑制される。そのためPOFの変形による光学特性、例えば伝送損失の悪化を抑制することができる。
【0048】
ポリウレタン系エラストマーは、熱硬化性ウレタン組成物を熱硬化させることで得られる。このポリウレタン系エラストマーは、長時間使用時でも120℃まで使用可能である。短時間使用時では、130℃〜140℃まで耐熱性を有する。なお、長時間使用とは、200時間以上所定の温度下においてからダンベルサンプルの応力−ひずみ曲線(S−S曲線)を測定する。常温環境で同時間放置したダンベルサンプルのS−S曲線と略同一である場合には、その所定の温度では使用可能であるとみなす。また、短時間使用とは、放置時間が100時間未満であることを意味している。さらに、被覆材料として従来用いられる低密度ポリエチレン(LDPE)では、長時間使用の際には60℃〜75℃が上限使用可能温度であり、短時間使用の際でも80℃〜90℃が上限使用可能温度である。3次元ポリウレタンは、LDPEと比較してもはるかに熱的ダメージを受け難く、耐熱性があることが分かる。
【0049】
(難燃性物質)
本発明では、後述する液槽内に温度調整がされた難燃性物質を含む液(以下、液と称する)を入れておく。それにより、POF表面の保護層形成材料である樹脂を硬化させると共に保護層中に難燃性物質を付与させることで、光ファイバ芯線の難燃性を特別な工程や複数の保護層を経ることなく、難燃性機能を付与することができる。また、液の溶媒には、熱容量の点から水を用いることが好ましい。難燃性物質が水溶性である場合には、水溶液とする。水に不溶又は難溶の場合には、乳化させたり分散させたりすることで液を調製する。光学部材(例えば、POF)のポリマーや保護層形成用材料に変性を生じさせないものであれば、有機溶媒(例えば、エタノール,エチレングリコール,グリセリンなど)を用いることもできる。これらの溶媒を使った液を用いる場合は、管理などの観点から当該溶媒の沸点以下で用いることが好ましく、溶媒と難燃性物質との組み合わせによっては95℃以上での本発明の実施も可能である。さらに、液の粘度が高過ぎると光ファイバに過剰な張力を与えてしまい、機能低下を起こすおそれがあるため、粘度は低く抑制することが好ましい。
【0050】
具体的に難燃性物質としては、臭素または塩素を含むハロゲン含有化合物,リン含有化合物、ポリリン酸系化合物または窒素含有化合物などの有機化合物が挙げられる。または、水酸化マグネシウム,水酸化アルミニウムをはじめとする金属水酸化物などの無機化合物を用いることもできる。さらに難燃性を向上させる目的で、難燃助剤を液に含有させることが好ましい。難燃助剤としては,三酸化アンチモン,五酸化アンチモン,ホウ酸亜鉛,メタホウ酸バリウム,酸化ジルコニウム,酸化スズ水和物などが挙げられ、コストの点から三酸化アンチモンが最も好ましく用いられる。また、保護層形成用材料に、難燃性物質が付与されにくい場合には、液中に保護層の表面に皮膜を形成するバインダーを加えることが好ましい。バインダーは特に限定されるものではないが、ポリビニルアルコール(PVA),カルボキシメチルセルロースナトリウムなどの水溶性樹脂,アクリル樹脂エマルションなどが挙げられ、保護層がポリウレタン系エラストマーの場合には、親和性の観点からPVAが好ましく用いられる。さらに熱硬化性ウレタン組成物の反応硬化は温度依存性が律速になるが、熱硬化性ウレタン組成物の硬化を促進するために触媒を添加した硬化溶液にすることができる。かかる触媒としては前述の3級アミン系、有機カルボン酸金属塩、イミダゾール系などを液槽に溶解ないし分散させて用いることもできる。
【0051】
なお、難燃性物質としては、臭素系化合物(例えば、エチレンビスペンタブロモジフェニル、ヘキサブロモベンゼン、ヘキサブロモシクロドデカン、エチレンビステトラブロモフタルイミドなど),塩素系化合物(例えば、塩素化パラフィン、ビス(ヘキサクロロシクロペンタジエノ)シクロオクタン、1,4,5,6,7,7−ヘキサクロロビシクロ−(1,2,2)−5−ヘプテン−2,3−ジカルボン酸など)などが挙げられる。しかしながら、近年はハロゲン含有物質の使用が制限されており、代替品であるリン含有化合物(例えば,トリエチルフォスフェート、トリメチルフォスフェート、トリキシレニルフォスフェートなど)、ポリリン酸系化合物(例えば、ポリリン酸アンモニウム,ポリリン酸メラミンなど)、窒素含有化合物(例えば、過酸化処理した4−ブチルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジンと2,4,6−トリクロロ−1,3,5−トリアジンとシクロヘキサンとN,N’−エタン−1,2−ジイル(ビス1,3−プロパンジアミン)とを反応させた反応物など)などが挙げられる。
【0052】
前記難燃性物質ないし難燃性助剤は、予め保護層成形用材料に配合させておくこともできる。保護層成形用材料が熱硬化ウレタン組成物であり、前記難燃性化合物を用いる場合、特に熱硬化ウレタン組成物の主成分であるNCO基と反応してゲル化するなど不具合を起さないものであるか、不具合を起さない範囲で用いる。たとえだ、難燃性化合部は熱硬化ウレタン組成物中に2重量%〜50重量%、望ましくは5重量%〜30重量%を用いる。
【0053】
配合方法は、特に限定されるものではない。例えば、保護層形成材料を得た後に配合させても良いし、いずれかの原料に配合させた後に原料を反応させて保護層形成材料を得ても良い。また、本発明においては、難燃性物質は、前記液,前記保護層形成材料の少なくともいずれか一方に配合(含有)させておくことで、保護層に難燃性を付与させることができる。いずれに配合(含有)させるかは、用いられる保護層形成材料,難燃性物質の種類に応じて適宜選択される。
【0054】
また、熱硬化ウレタン組成物を保護層成形用材料に用いる場合、前記の溶剤や可塑剤を必要に応じて用いる訳であるが、難燃性機能を付与するために可塑剤として難燃性機能を付加できるものを用いるのが望ましい。特に難燃性機能を付与する可塑剤としては前記のなかでトリオクチルホスフェートの他、トリクレジルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリ−2−エチルヘキシルホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、トリイソプロピルフェニルホスフェート、モノ(またはジ)フェニルジ(モノ)イソプロピルホスフェート、レゾルシノールビスジフェニルリン酸エステルようなリン酸エステルを用いるのが望ましい。通常難燃性機能と保護層として望まれるエラストマーになるように可塑剤を適宜調整する。通常、熱硬化ウレタン組成物において0重量%より多く50重量%以下、望ましくは5重量%〜30重量%の範囲とする。なお難燃性機能を有する可塑剤の他溶剤として、クロロパラフィンような塩素系可塑剤やトリクロルエチレンような塩素系溶剤等を用いることができるが、しかし地球環境への影響が懸念される恐れがあるので用いないことが望ましい。
【0055】
難燃性の規格として、UL(Underwriters Laboratories Inc.)ではいくつかの試験法を決めており、それぞれ難燃性能の低い順から、CMX(燃焼試験は一般にVW−1試験と言われている)、CM(垂直トレイ燃焼試験)、CMR(ライザー試験)、CMP(プレナム試験)などのグレードが設定されている。POFの被覆の場合、素材のプラスチックは、通常可燃性であるので、火災時に延焼を防ぐためにVW−1の規格を有したコードまたはケーブルであることが好ましい。
【0056】
(プリフォームの製造方法)
SI型POFは、コア部にPMMAを用いた場合には、クラッド部にフッ素樹脂、特にPVDFを用いることが好ましい。これは、コア部のPMMAとクラッド部のPVDFとの屈折率の差が光ファイバとして好ましい範囲となるからである。また、PVDFは機械的強度に優れるため、それをクラッドとして用いるPOFも機械的強度に優れるからである。SI型POFの製造方法は、溶融紡糸法により行うことが好ましい。溶融紡糸法では、複合紡糸ノズルからコア部となるPMMAとクラッド部となるPVDFとをそれぞれのホールに吐出する。その後にノズルでPMMAの周りにPVDFを被覆し複合化することでプリフォームを得る。
【0057】
次にGI型POFの製造方法を説明する。始めにPMMAからなる中空円筒管を用意する。なお、この中空円筒管はクラッド部となる。中空円筒管は、公知の回転重合法により製造しても良いし、市販のパイプを用いても良い。また、中空円筒管は、重合容器として用いるため底付けを行うことが好ましい。そして、その中空管内にMMAとドーパント(例えば、ベンジルメタクリレート)を入れ、界面ゲル重合を行う。中空円筒管内にポリマー(PMMA)を主成分とし、中心から外周に向けて屈折率が連続的に低下するコア部が形成され、プリフォームを得ることができる。
【0058】
前記クラッド部、アウターコア部およびインナーコア部形成用重合体組成物を重合することによって得られるポリマーの分子量は、プリフォームを延伸する関係から、重量平均分子量で1万〜100万の範囲であることが好ましく、3万〜50万であることがさらに好ましい。さらに延伸性の観点で分子量分布(MWD:重量平均分子量/数平均分子量)も影響する。MWDが大きくなると、極端に分子量が高い成分を含んでいる。その成分がわずかでもあると延伸性が悪くなり、場合によっては延伸できなくなることもあるからである。したがって、好ましい範囲としては、MWDが4以下であり、さらには3以下であることが好ましい。
【0059】
(POFの製造方法)
図1に示すようにプリフォーム10を加熱炉11内に配置する。加熱炉11でプリフォーム10を加熱すると、その一部は溶融する。なお、溶融温度は、特に限定されるものではないが180℃〜270℃の範囲であることが好ましい。溶融した箇所の先端部10aを始点として線引き(延伸)を行いPOF12とする。POF12を冷却装置13で所望の温度(例えば、30℃〜80℃)まで冷却して線径測定装置14を通す。そして2個のローラ15,16からなる線引ローラ対17で所望の張力(例えば、0.3MPa〜0.98MPa(30g〜100g))を付与しながら線引きを行い連続的にPOF12を得る。なお、線径測定装置14でPOFの線径を測定し、その測定値に基づきPOF12の径を所望のものとする調整を行う。調整は、加熱炉11内でのプリフォーム10の配置位置、加熱温度、線引ローラ対17による線引き速度の調整により行う。POF12は、巻取リール18に巻き取った後にロール状(以下、POFロールと称する)で保存する。なお、加熱炉11内は不活性雰囲気とすることが好ましい。そのため加熱炉11内に不活性ガスを供給することが好ましい。不活性ガスは特に限定されるものではないが、窒素ガス,ヘリウムガス,アルゴンガスなどが好ましく用いられる。
【0060】
図2に本発明に係る塗布手段30を示す。POFロールを送出リール31にセットする。POF12は、送出リール31から引き出される。塗布装置32内には、熱硬化性ポリウレタン組成物を主成分とする保護層形成用材料が入れられている。POF12が塗布装置32内を通ることにより保護層形成用材料が塗布される。以下の説明において、これを塗布済みPOF33と称する。なお、保護層形成用材料の塗布には、樹脂ポットタイプの塗布装置や、電線の被覆に用いる押出し装置を用いる塗布装置などを用いることができる。
【0061】
液槽34には加温した液35が入れられている。塗布済みPOF33は、液35中を通ることによって光学部材の保護層形成用材料の表面が硬化して光ファイバ芯線36となる。液35は、保護層形成材料を硬化させると共に、難燃性物質を保護層に付与させる。そのため、液35の温度は、10℃以上150℃以下の範囲であることが好ましく、より好ましくは40℃以上100℃以下の範囲とすることである。より具体的には、保護層形成材料に熱硬化性ウレタン組成物を用いている場合には、45℃以上95℃以下の範囲であることが好ましい。
【0062】
塗布済みPOF33(光ファイバ芯線36となっている場合も含めて)の搬送速度は、5m/min以上100m/min以下の範囲とすることが好ましく、10m/min以上50m/min以下の範囲とすることがより好ましい。搬送速度が5m/minより遅いと生産性に劣りコストの上昇を招くおそれがある。また、搬送速度が100m/minを超えると、液35が保護層形成材料に均一に付与されにくくなり保護層に難燃性をさらに付与する本発明の効果が得にくくなるおそれがある。光ファイバ芯線36は、プーリー37,38で搬送される。乾燥装置39により液35が乾燥される。光ファイバ芯線36に対向して配置されている2個のローラ40,41からなる引取ローラ対42により光ファイバ芯線36に所望の張力(例えば、0.5MPa〜2.0MPa(50g〜200g))が付与されつつ引き取られる。その後に巻取リール43に巻き取られる。
【0063】
本発明の光学部材の具体例としてはプラスチック光ファイバ(POF)12が挙げられる。このプラスチック光ファイバに保護層が形成されているものが図3に示す光ファイバ芯線36である。本発明において、その形態は特に限定されるものではない。具体的には、POF12の外径L1は、200μm以上1200μm以下であることが好ましい。また、POF12は、コア部12aとクラッド部12bとから形成されている。クラッド部の厚みt1は、10μm以上500μm以下の範囲であることが好ましい。この場合に、難燃性機能付保護層(以下、保護層と称する)50の厚みL2は、50μm以上2000μm以下であることが好ましく、より好ましくは200μm以上1500μm以下とすることである。保護層厚みL2が50μm未満であるとPOFを保護する機能が生じないおそれがある。また、この場合には、液35がPOF12まで浸透するおそれがあり、それによりPOF12の光学特性が悪化するおそれがある。また、保護層厚みL2が2000μmを超えると、光ファイバ芯線36の屈曲性が悪化しハンドリングが悪くなる。これにより、光ファイバ芯線36の配線の自由度が悪化するため商品としての価値が減ずるおそれもある。
【0064】
本発明の光学部材は、さらに必要に応じて本発明の保護層を1次保護層とし、外周にさらに2次(または多層)保護層を形成しても良い。1次保護層が充分な厚みを有している場合、POFに与えられる熱ダメージが減少するため、素材の硬化温度の制限はPOFへ直接被覆する場合に比べて緩やかにすることができる。2次保護層以上の保護層形成用材料としては、前述の素材以外に従来の被覆素材として用いられている低密度ポリエチレン(LDPE),ポリプロピレン(PP)を始めとするポリオレフィン類,ポリ塩化ビニル(PVC),各種のナイロン,ポリエステル,エチレン酢酸ビニル共重合体,EEA(エチレン−アクリル酸エチル共重合体)などの熱可塑性樹脂が挙げられる。被覆の際には、樹脂を所望の温度まで加熱して溶融する。この溶融樹脂の熱がPOFに伝わると伝送損失の悪化を招く。特にコア部をGI型としたときには加熱されると、屈折率分布を付与するために添加された屈折率調整成分によって可塑性を発現することがあり、その場合には樹脂のガラス転移温度が低下しているため容易に変形や流動が起こるためPOFの形状や屈折率分布が乱れるおそれがある。しかしながら、保護層にポリウレタン系エラストマーを用いると、熱伝導性が低いため溶融樹脂の熱がPOFに伝わることが抑制される。これによりPOFの形状やコア/クラッドの界面不整および熱によって屈折率分布が乱れることがなくなり、被覆工程に起因する伝送損失の悪化、帯域の劣化をも防止できる。
【0065】
このように3次元ポリウレタン系エラストマーをPOFと2次保護層との間の層(以下、1次保護層とも称する)として形成することで、樹脂の溶融温度が高いものを被覆する際にも、POFが熱的ダメージを受けることが抑制される。このように耐熱性を有しつつ熱伝導率が低いので被覆によるPOFへの熱の伝播は減少するため、熱によるダメージの低減が見込める。そのため、3次元ポリウレタン系エラストマーは1次保護層として好ましく用いることができる。また、ポリウレタンは耐摺動性に極めて優れている。そのため、2次保護層を形成する熱可塑性樹脂と擦れてもその良好な耐摺動性によりPOFに応力が付与されることが抑制される。このようにPOFの機械的強度を高めるために2次保護層を設け、その2次保護層から伝えられる側圧やPOFを曲げたときの応力の緩和を1次保護層で行う。これによりPOFに意図しない応力がかかることによる光学特性の悪化を抑制できる。
【0066】
2次保護層として具体的に以下の材料も挙げることができる。これらは高い弾性を有しているため、曲げなどの機械的な特性付与の観点でも効果がある。まず、ポリマーの一形態であるゴムを用いることができる。例えば、イソプレン系ゴム(例えば、天然ゴム,イソプレンゴムなど)、ブタジエン系ゴム(例えば、スチレン−ブタジエン共重合ゴム,ブタジエンゴムなど)、ジエン系特殊ゴム(例えば、ニトリルゴム,クロロプレンゴムなど)、オレフィン系ゴム(例えば、エチレン−プロピレンゴム,アクリルゴム,ブチルゴム,ハロゲン化ブチルゴムなど)、エーテル系ゴム、ポリスルフィド系ゴム、ウレタン系ゴムなどが挙げられる。
【0067】
さらには、前記の2次保護層を形成させる熱可塑性樹脂(TPE)を用いることもできる。熱可塑性樹脂は、室温でゴム弾性を示し、高温では可塑化されて成形が容易である物質群である。具体的には、スチレン系TPE,オレフィン系TPE,塩化ビニル系TPE,ウレタン系TPE,エステル系TPE,アミド系TPEなどが挙げられる。なお、前記列記したエラストマーは、POFのポリマーが変性する温度以下で成形可能なものであれば、特に前記材料に限定されず、各材料間もしくは前記化合物群以外の共重合体や混合ポリマーを用いることもできる。
【0068】
2次保護層には前述と同様に、難燃剤や紫外線吸収剤,酸化防止剤,ラジカル捕獲剤,昇光剤,滑剤などを導入しても良い。なお、難燃剤については臭素を始めとするハロゲン含有の樹脂などがある。また、毒性ガス低減などの安定性の観点で難燃剤として金属水酸化物を好ましく使うことができる。金属水酸化物はその内部に結晶水として水分を有しており、またその製法過程での付着水が完全に除去できないため、金属水酸化物による難燃性被覆は、1次保護層の外層に耐湿性被覆を設けてその外層にさらに保護層として設けることが望ましい。
【0069】
複数の機能を付与するために、様々な機能を有する被覆を保護層として形成しても良い。例えば、光学部材の保護層形成用材料に予め難燃性化合物ないし難燃性助剤を配合して保護層の難燃性機能を向上させることができる。前述の難燃化以外にもPOFの吸湿を抑制するためのバリア層を形成しても良い。また、水分を除去するための吸湿材料、例えば吸湿テープや吸湿ジェルを保護層内や保護層間に設けることもできる。また、可撓時の応力緩和のための柔軟性素材層や発泡層などの緩衝材を設けることもできる。または、剛性を挙げるための強化層など用途に応じて選択して設けることができる。樹脂以外にも構造材として高い弾性率を有する繊維(いわゆる抗張力繊維)および/または剛性の高い金属線などの線材を保護層形成用材料に配合する。その保護層形成用材料を用いて被覆を行うことで、得られる光ファイバケーブルの力学的強度を補強できる。抗張力繊維としては、例えば、アラミド繊維,ポリエステル繊維,ポリアミド繊維などが挙げられる。また、金属線としてはステンレス線,亜鉛合金線,銅線、亜鉛メッキ銅線などが挙げられる。なお、いずれのものも前述したものに限定されるものではない。その他に保護のための金属管の外装、架空用の支持線や配線時の作業性を向上させるための素材を組み込むことができる。
【0070】
また、光ファイバケーブルの形状は使用形態によって、POFを同心円上にまとめた集合ケーブルや、1列に並べたテープ心線と言われる態様、さらにそれらを押え巻きやラップシースなどでまとめた集合ケーブルなど用途に応じてその形態を選ぶことができる。
【0071】
本発明の光学部材としてのPOFを用いて光信号を伝送するシステムには、種々の発光素子や受光素子、光スイッチ、光アイソレータ、光集積回路、光送受信モジュールなどの光部品を含む光信号処理装置等で構成される。また、必要に応じて他の光ファイバなどと組合わせてもよい。それらに関連する技術としてはいかなる公知の技術も適用でき、例えば、プラスティックオプティカルファイバの基礎と実際(エヌ・ティー・エス社発行)、日経エレクトロニクス2001.12.3号110頁〜127頁「プリント配線基板に光部品が載る,今度こそ」などを参考にすることができる。前記文献に記載の種々の技術と組み合わせることによって、コンピュータや各種デジタル機器内の装置内配線、車両や船舶などの内部配線、光端末とデジタル機器、デジタル機器同士の光リンクや一般家庭や集合住宅・工場・オフィス・病院・学校などの屋内や域内の光LAN等をはじめとする、高速大容量のデータ通信や電磁波の影響を受けない制御用途などの短距離に適した光伝送システムに好適に用いることができる。
【0072】
さらに、IEICE TRANS. ELECTRON., VOL. E84-C, No.3, MARCH 2001, p.339-344 「High-Uniformity StarCoupler Using Diffused Light Transmission 」,エレクトロニクス実装学会誌 Vol.3, No.6, 2000 476頁〜480頁「光シートバス技術によるインタコネクション」の記載されているものや、特開平10−123350号、特開2002−90571号、特開2001−290055号等の各公報に記載の光バス;特開2001−74971号、特開2000−329962号、特開2001−74966号、特開2001−74968号、特開2001−318263号、特開2001−311840号等の各公報に記載の光分岐結合装置;特開2000−241655号等の公報に記載の光スターカプラ;特開2002−62457号、特開2002−101044号、特開2001−305395号等の各公報に記載の光信号伝達装置や光データバスシステム;特開2002−23011号等に記載の光信号処理装置;特開2001−86537号等に記載の光信号クロスコネクトシステム;特開2002−26815号等に記載の光伝送システム;特開2001−339554号、特開2001−339555号等の各公報に記載のマルチファンクションシステム;や各種の光導波路、光分岐器、光結合器、光合波器、光分波器などと組み合わせることで、多重化した送受信などを使用した、より高度な光伝送システムを構築することができる。以上の光伝送用途以外にも照明、エネルギー伝送、イルミネーション、センサ分野にも用いることができる。
【0073】
以下、実施例1及び実施例2を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料の種類、それらの割合、操作等は、本発明の精神から逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に制限されるものではない。なお、説明は、実施例である実験1及び実験4で詳細に行う。また、本発明に係る他の実施形態を実験3として説明する。比較例である実験2及び実験5では、それぞれ実験1及び実験4と異なる箇所のみを説明する。
【実施例1】
【0074】
押し出し成形により作製した外径20mm、長さ60cmのプリフォーム(クラッドはPVDF、コアはPMMAを主成分とする熱可塑性樹脂組成物)を最高温度280℃の加熱炉を使って延伸し、外径320μmのPOF12を得た。650nmにおけるPOF12の伝送損失は、157dB/Kmであった。
【0075】
液槽34に難燃性化合物(ニッカファイノンP−205(リン酸系化合物) 日華化学(株)社製)を50重量部および、ポリビニルアルコールを5重量部、純水を45重量部からなる液35を入れた。液槽34の温度は80℃として、熱硬化性ウレタン組成物(サンスター技研(株)社製ペンギンフォーム#3150)を外径約1.2mmで塗布装置32で塗布し、塗布済みPOF33を液槽34中を5m/minの送り速度で通過させ、熱可塑性ウレタン組成物を硬化させ、60℃の乾燥装置39で乾燥させた。さらに、この熱可塑性ウレタン組成物で保護層として被覆を行った光ファイバ芯線36の伝送損失を測定したところ、157dB/Kmのままで、変化はなかった。この光ファイバ芯線36についてUL燃焼性試験(UL1581に基づくVW−1燃焼性試験)を行ったところ。VW−1グレードに合格した。なお、UL1581に基づくVW−1燃焼性試験では本来定められているテストピース形状により行われる試験である。しかしながら、光ファイバ芯線36の試験の際には、形状は光ファイバ芯線36のままで行った。以下の試験の際も同様の条件で試験を行った。
【0076】
実験2では、液槽34に投入するものを純水のみとしたほかは、実験1と同じ条件でお実験を行った。POF12と光ファイバ芯線36との伝送損失は実験1と同じ値であった。しかしながら、光ファイバ芯線36についてUL燃焼性試験(UL1581に基づくVW−1燃焼性試験)を行ったところ。VW−1グレードは不合格であった。
【0077】
実験3では、実験1で用いた熱硬化ウレタン組成物の代わりに、難燃剤として、レゾルシノールビスジフェニルリン酸エステル30%とポリリン酸メラミン22%を含有する熱硬化ウレタン組成物(サンスター技研製RD−10336C)を用い、液槽34には難燃性物質を含まない水溶液として実施例1と同様にして保護層付き光学部材を作成し試験に供した。UL燃焼性試験ではVW−1グレードに合格した。
【実施例2】
【0078】
実験4では、溶融押出成形により作製した外径が20mm、内径19mm(クラッド肉厚が0.5mm)、長さ900mmのポリフッ化ビニリデン(PVDF)からなるクラッドパイプを用いた。このクラッドパイプを充分に剛性の有する内径20mm、長さ1000mmの重合容器に挿入した。この重合容器をクラッドパイプごと純水にて洗浄した後に90℃にて乾燥させた。その後に、クラッドパイプにテフロン(登録商標)製の栓を用いて一端を封止した。エタノールにてクラッドパイプの内壁を洗浄した後に、80℃の熱オーブンにて圧力を(大気圧に対して−0.08MPa)として12時間、減圧処理を行った。
【0079】
次に、アウターコア重合工程を行った。三角フラスコ内に、重水素化メチルメタクリレート(MMA−d8 和光純薬(株)社製)205.0gと、2,2’−アゾビス(イソ酪酸)ジメチル0.0512gと、1−ドデカンチオール(ラウリルメルカプタン)0.766gとをそれぞれ計量してアウターコア液を調製した。このアウターコア液を井内盛栄堂(株)社製の超音波洗浄装置USK−3(38000MHz,出力360W)を用いて10分間超音波照射を行った。次に、クラッドパイプ内にアウターコア液を注液した後に減圧濾過装置を用いてクラッドパイプ内を大気圧に対して0.01MPa減圧した。減圧脱気しつつ前記超音波洗浄装置を用いて超音波処理を5分間行った。
【0080】
クラッドパイプの先端部分の空気をアルゴンにて置換後、クラッドパイプの先端部をシリコン栓とシールテープとを用いて密閉した。アウターコア液を含んだクラッドパイプごと60℃の湯浴中にいれ、震盪させつつ2時間予備重合を行った。その後、前記予備重合を行ったクラッドパイプを水平状態(クラッドパイプの長さ方向が水平になる状態)で60℃の温度を保持しつつ500rpmにて回転させながら2時間加熱重合(回転重合)を行った。その後に回転速度3000rpmで60℃,16時間、さらに3000rpmで90℃,4時間の回転重合を行った。クラッドパイプの内側にPMMA−d8からなるアウターコアを有する円筒管を得た。
【0081】
次に、インナーコア部作製前処理を行った。前述したアウターコアが形成されているクラッドパイプを90℃の熱オーブンにて圧力を(大気圧に対して−0.08MPa)として3時間、減圧処理を行った。さらに、インナーコア重合工程を行った。三角フラスコ内に重水素化メチルメタクリレート(MMA−d8)82.0gと、2,2’−アゾビス(イソ酪酸)ジメチル0.070gと、1−ドデカンチオール0.306gと、ドーパントとしてジフェニルスルフィド(DPS)6.00gとをそれぞれ計量してインナーコア液を調製した。その後に超音波洗浄装置USK−3を用いて10分間超音波照射を行った。
【0082】
アウターコアが形成されているクラッドパイプを80℃で20分保温した後にインナーコア液を中空部に注入した。クラッドパイプの一端をテフロン(登録商標)栓で密閉した。70℃で5時間、回転速度3000rpmで回転ゲル重合法を行った。その後に120℃で更に24時間の加熱重合及び熱処理を行いインナーコアを形成した。その後にオートクレーブ外にプリフォームとして取り出した。
【0083】
プリフォームをアダプタ(図示しない)に取り付けた5区画に分割されている加熱炉を用い、上段から215℃,164℃,144℃,111℃,60℃の内温となるようにヒータユニットの温度を設定した。約2mm/minの一定速度でプリフォームを加熱炉内に送り込んだ。加熱炉内に送り込まれたプリフォームの先端部が溶融して、糸状に垂れ落ちてきたところで、線引速度を10m/minで行い外径300μmのPOFを500mを得た。ヒータユニットの内部温度の変動値は、±0.2℃であった。得られたPOFを650nm波長のレーザー光を用いて、POFの伝送損失値を測定したところ、97dB/kmと良好であった。このPOFに実験1と同じ条件で熱硬化性ウレタン組成物を用いて保護層を形成し、プラスチック光ファイバ芯線を得た。伝送損失値は97dB/kmと悪化は生じなかった。UL燃焼性試験ではVW−1グレードに合格した。
【0084】
実験5では、液槽34に投入するものを純水のみとしたほかは、実験4と同じ条件でお実験を行った。POF12と光ファイバ芯線36との伝送損失は実験4と同じ値であった。しかしながら、光ファイバ芯線36についてUL燃焼性試験(UL1581に基づくVW−1燃焼性試験)を行ったところ。VW−1グレードは不合格であった。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】加熱炉を含む延伸装置の概略図である。
【図2】本発明に係るプラスチック光ファイバ芯線を製造するための塗布設備の概略図である。
【図3】本発明に係る保護層付き光学部材であるプラスチック光ファイバ芯線の断面図である。
【符号の説明】
【0086】
12 プラスチック光ファイバ
30 塗布手段
32 塗布装置
34 液槽
35 液
36 プラスチック光ファイバ芯線
50 難燃性機能付保護層



【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマーを主成分とする光学部材に保護層を形成し、保護層付き光学部材を製造する方法において、
前記光学部材に保護層形成用材料を塗布し、
前記保護層形成用材料が塗布された光学部材を難燃性物質を含む液中に搬送し、
前記保護層形成用材料を硬化させ保護層を形成すると共に前記保護層中に前記難燃性物質を付与させることを特徴とする保護層付き光学部材の製造方法。
【請求項2】
ポリマーを主成分とする光学部材に保護層を形成し、保護層付き光学部材を製造する方法において、
前記光学部材に難燃性物質を配合した保護層形成用材料を塗布した後に液中に搬送し、
前記保護層形成用材料を硬化させ、前記光学部材に前記保護層を形成すると共に前記保護層に前記難燃性物質を付与させることを特徴とする保護層付き光学部材の製造方法。
【請求項3】
ポリマーを主成分とする光学部材に保護層を形成し、保護層付き光学部材を製造する方法において、
前記光学部材に第1の難燃性物質を配合した保護層形成用材料を塗布した後に
第2の難燃性物質を含む液中に搬送し、
前記保護層形成用材料を硬化させ保護層を形成すると共に前記保護層に前記難燃性物質を付与させることを特徴とする保護層付き光学部材の製造方法。
【請求項4】
前記保護層を硬化させる液を45℃以上95℃以下の温度範囲に調整することを特徴とする請求項1ないし3いずれか1つ記載の保護層付き光学部材の製造方法。
【請求項5】
前記保護層形成用材料を硬化させる液が、前記保護層表面に皮膜を形成するバインダー溶液であることを特徴とする請求項1ないし4いずれか1つ記載の保護層付き光学部材の製造方法。
【請求項6】
前記保護層形成用材料を硬化させる液が、保護層表面の硬化を促進する触媒溶液であることを特徴とする請求項1ないし5いずれか1つ記載の保護層付き光学部材の製造方法。
【請求項7】
前記光学部材の搬送速度が、3m/min以上50m/min以下であることを特徴とする請求項1ないし6いずれか1つ記載の保護層付き光学部材の製造方法。
【請求項8】
前記保護層形成用材料が、熱硬化性ウレタン組成物を主成分とすることを特徴とする請求項1ないし7いずれか1つ記載の保護層付き光学部材の製造方法。
【請求項9】
前記難燃性物質が、無機金属化合物,臭素化合物,リン化合物,シリコーン化合物のうち少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項1ないし8いずれか1つ記載の保護層付き光学部材の製造方法。
【請求項10】
前記光学部材が、プラスチック光ファイバであることを特徴とする請求項1ないし9いずれか1つ記載の保護層付き光学部材の製造方法。
【請求項11】
前記ポリマーが、少なくともポリメチルメタクリレートを含むものであることを特徴とする請求項1ないし10いずれか1つ記載の保護層付き光学部材の製造方法。
【請求項12】
ポリマーを主成分とする光学部材に保護層を形成し、保護層付き光学部材とする製造装置において、
前記光学部材に保護層形成用材料を塗布する塗布手段と、
前記保護層形成用材料を硬化させる液が入れられている液槽と、
前記保護層形成用材料が塗布された光学部材を前記液槽中に搬送する搬送手段と、
を備えることを特徴とする保護層付き光学部材の製造装置。
【請求項13】
前記保護層形成用材料又は前記液の少なくともいずれかに難燃性物質が含まれており、
前記保護層に前記難燃性物質が付与されることを特徴とする請求項13記載の保護層付き光学部材の製造装置。
【請求項14】
前記光学部材が、プラスチック光ファイバであることを特徴とする請求項12または13記載の保護層付き光学部材の製造装置。
【請求項15】
ポリマーを主成分とする光学部材に保護層を形成した保護層付きプラスチック光ファイバにおいて、
前記保護層が、室温高粘稠液の熱硬化性ウレタン組成物から形成され、
前記熱硬化性ウレタン組成物は、
ポリイソシアネート化合物と、活性水素を有する化合物に過剰量のポリイソシアネート化合物と、を反応させて得られる末端活性イソシアネート基含有ウレタンプレポリマーのそれぞれ単独またはそれらの混合物に
室温固形のポリアミンの表面を被覆してアミノ基を不活性にした微粉体コーティングアミンを主成分として150℃以下で硬化させて得られるポリウレタン系エラストマーであることを特徴とする保護層付きプラスチック光ファイバ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−30478(P2006−30478A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−207523(P2004−207523)
【出願日】平成16年7月14日(2004.7.14)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【出願人】(305032254)サンスター技研株式会社 (97)
【Fターム(参考)】