説明

信号アーチファクトを検出するシステム及び方法

1つ以上の事象信号における信号アーチファクトを検出する方法及びシステムが開示されている。前記システム及び方法は、患者の容態に適応し、該患者の状態の臨床的に意味のある変化と、臨床的に意味のない変化とを区別する患者監視装置で用いられ得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、信号アーチファクト(signal artifacts)を検出するシステム及び方法に関し、とりわけ、患者の容態に適応し、該患者の状態の臨床的に意味のある変化と、臨床的に意味のない変化とを区別する患者監視装置で用いられるシステム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
計測器の使用と関連する1つの一般的な問題は、関心のある事象信号(event signal)へのアーチファクト信号の混入に起因する誤計測である。一般的に、計測器は、各々が1つ以上の非事象信号(non-event signals)に関する幾つかのレベルのアーチファクトと一緒の関心のある事象信号から成る1つ以上の計測信号を検出する。結果として生じる計測信号は、該信号を事象信号の正確な表示として信頼すべきではないような著しく破損したものになり得る。事象信号を破損させるアーチファクトは、センサの機械的障害、電磁干渉などに起因し得る。当業者には分かるであろうように、アーチファクト信号の性質は、計測器の性質及び計測が行なわれる環境条件に依存して変わるであろう。
【0003】
アーチファクト信号の存在が場合によっては生命にかかわる問題を引き起こす1つの分野は、医療診断及び計測の分野にある。患者監視装置における非事象信号の出現は、臨床医が患者の治療に関して不正確な決定をなすことをもたらし得る、又はアルゴリズムを用いて決定をなす装置の場合は、該装置自体が患者の容態の不正確な評価をなすことをもたらし得る。
【0004】
従来の患者監視システムにおいては、一般的に、監視されている信号、例えば心拍数において限界又は閾値を超える際に警報が生成される。閾値法は、パラメータ変動の生理的限界の決定においては有用であるが、必ずしも事象検出の最良の方法ではない。臨床医が通常欲する情報は、患者の容態における関連する異常又は変化の検出である。これは、限界を超える値には容易には反映されず、どちらかと言えば、様々なパラメータの同時展開(simultaneous evolution)に反映される。
【0005】
実際には、患者の生理的機能の大きな変化が全くなくとも、所与のパラメータの大幅な変動は観察され得る。これらの変動の多くは、従来の患者監視システムにおいて誤警報をもたらす。監視されているパラメータは限界を超えたが、警報は臨床的有意性を持たない。このような場合には、大半の事象は、患者の状態の悪化に関連しない。このため、通常、従来の患者監視システムにおける多くの警報は、誤警報、即ち、臨床的有意性を持たない警報の高い発生率のために、医療スタッフには役に立たないものと認識されている。
【0006】
上記のように、従来の警報技術は、閾値の設定に基づいて警報信号を生成する。全てのパラメータについて、該パラメータの値が限界に達する場合に直ちに、又は場合によっては、該パラメータの値が所与の時間の間限界を超えている場合に、警報のトリガが引き起こされる。同じ患者監視システムにおいて、幾つかのパラメータの値が限界を超えている場合、警報閾値に達した最初のパラメータに関して可聴信号がトリガされるかもしれず、他の例においては、警報の階層構造があり得る。一般に、全ての場合において、閾値警報限界を設定する必要がある。
【0007】
従来の患者監視システムは、ほとんどの生理データにおいて警報の設定を行なう。場合によっては、例えば、機械的人工換気を受けている患者の換気データ、心電図、動脈圧及びパルス・オキシメトリといった40個より多くの警報源がアクティブであり得る。更に、潅流ポンプ、栄養補給ポンプ、自動注射器及び透析システムもまた、警報を生成し得る。
【0008】
誤警報は幾つかの不都合な結果を招き得る。誤警報が絶えない状態は、看護士が、該看護士の介入(intervention)に遅れること、又は音のみによって生命にかかわる警報を認識しようとすることをもたらし得る。この慣行は、患者の容態が悪化している場合に深刻な結果を招き得る。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
必要とされているのは、誤警報が最小限にされ得るように、事象信号を破損させるかもしれないアーチファクト信号の存在及び有意性(significance)を検出する改善された方法である。
【0010】
本発明は、信号アーチファクトを検出する方法及びシステムに向けられており、とりわけ、患者の容態に適応し、該患者の状態の臨床的に意味のある変化と、臨床的に意味のない変化とを区別する患者監視装置で用いられるシステム及び方法に向けられている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一実施例は、事象信号における信号アーチファクトを検出する方法に向けられている。前記方法は、少なくとも2つの事象信号を受け取るステップと、第1期間にわたっての前記少なくとも2つの事象信号の全体的な相関(global correlation)を決定するステップと、前記第1期間より短い第2期間にわたっての前記少なくとも2つの事象信号の局所的な相関を決定するステップと、局所的な相関ベクトルと、全体的な相関ベクトルとの間の偏差を決定するステップと、前記偏差から平均偏差を決定するステップと、前記平均偏差に基づいて前記少なくとも2つの事象信号のうちの1つにおいてアーチファクトが検出されたか否かを決定するステップとを含む。
【0012】
本発明の別の実施例は、制御器と、前記制御器に結合されるメモリと、少なくとも2つの事象信号を受け取るよう構成される入力インタフェースとを含む装置に向けられている。前記制御器は、第1期間にわたっての前記少なくとも2つの事象信号の全体的な相関を決定し、前記第1期間より短い第2期間にわたっての前記少なくとも2つの事象信号の局所的な相関を決定し、局所的な相関ベクトルと、全体的な相関ベクトルとの間の偏差を決定し、前記偏差から平均偏差を決定し、前記少なくとも2つの事象信号のうちの1つにおいてアーチファクトが検出されたか否かを決定するよう構成される。
【0013】
本発明の方法及び装置のより完全な理解は、添付図面と一緒に以下の詳細な説明を参照することで得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下の記載においては、限定ではなく、説明の目的のために、特定のアーキテクチャ、インタフェース、技術などといった具体的な詳細が、本発明の完全な理解を供給するために記載されている。単純明快さのために、不必要な詳細で本発明の記載を不明瞭にすることがないように、よく知られている装置、回路及び方法の詳細な記載は省略されている。
【0015】
図1は、本発明の一態様によるシステム10を示すブロック図である。1つ以上の場合によっては破損されている事象信号11が、計測装置20に供給される。計測装置20は制御器21を含む。システム10はまた、事象信号11を取得し、計測システム20に事象信号11を供給する複数のセンサ30も含み得る。
【0016】
システム10の幾つかの特定の実施例が考えられる。例えば、或る特定の実施例においては、システム10は、複数の患者パラメータを監視することが可能な患者監視システムである。患者パラメータは、ECG、EEG、脈拍、温度又はあらゆる他の生物学的活動(biological activity)を含むが、これらに限定されない。これらの患者パラメータが、関心のある事象信号11であろう。別のより具体的な実施例においては、システム10は、ECGを計測することが可能な除細動器である。その例においては、ECGが関心のある事象信号11であろう。
【0017】
別の実施例においては、計測装置20は、クライアント・サーバネットワーク、例えばインターネットにおけるサーバの一部である。
【0018】
当業者には分かるであろうように、本発明は医療用途に限定されない。本発明のアーチファクト検出技術は、あらゆる計測入力信号源からアーチファクトを検出するのに用いられ得る。例えば、海洋温度、地震活動などを計測するのに用いられる装置は、関心のある信号がアーチファクトで損なわれているか否かを決定するために、関心のある信号との対比及び信号処理のための付加的な入力信号が供給されるようにセットアップされ得る。更に、本発明の態様は、各事象信号がこのアーチファクト検出方法を用いるであろう多数の事象信号を計測するシステムに適用され得る。
【0019】
例示の目的のために、本発明の一実施例によるアーチファクト検出技術が、以下に、患者監視装置に関連して記載されている。
【0020】
この実施例においては、複数の患者事象信号11(s、s、s、・・・、s)が監視される。この実施例において、計測装置20は、病院の集中治療室において用いられるような患者監視システムである。患者に1つ以上のセンサ30が接続される際に、事象信号11が計測装置20に流れ込み始める。この実施例においては、計測装置は、入力事象信号11を記録するためのメモリ21を含む。
【0021】
複数の患者事象信号11の各々のために、各々におけるアーチファクトの存在の指標(indicator)が必要とされる。図2は、このような指標を得るステップを示すフローチャートである。好ましい実施例においては、図2に示されているステップが、データ処理装置又は制御器21によって実行されるコンピュータ読取り可能なコードによって実施される。コードは、データ処理装置内のメモリ(例えばメモリ21)に記憶され得る、又はCD-ROM若しくはフロッピーディスク(登録商標)などの記憶媒体から読み出され得る/ダウンロードされ得る。他の実施例においては、ソフトウェア命令の代わりに、又はソフトウェア命令と組み合わせてハードウェア回路が用いられてもよい。
【0022】
ステップ100においては、事象信号11の履歴(history)が、収集される且つ/又は受け取られる。例えば、患者監視システムの場合には、監視されるべき各患者のための事象信号11が受け取られる。この履歴は、数分であってもよく、数日に拡張してもよい。好ましくは、この履歴は少なくとも10分である。履歴データは、特定期間の間固定され得る、又は所定の時間、10分毎、一時間毎などに更新され得る。例えば、患者監視システムの場合には、特定患者の履歴は、患者が監視される最初の一時間として固定され得る。
【0023】
患者監視システムの場合には、一般的に、〜125サンプル/秒の割合でサンプルが収集される。しかしながら、他のサンプリングレートも用いられ得る。従って、約数分間乃至約数時間の時間Tのうちに、監視される事象信号11(s、s、s、・・・、s)の各々の多数のサンプル(履歴)が収集される。
【0024】
ステップ110においては、これらの記録された事象信号11の間の相互相関「r」が決定される。前記相互相関は、以下の式(1)に示されているような全体的な相関行列、rglobalを供給する。この全体的な相関行列は、特定患者の標準又は安定状態を供給する。
【数1】

【0025】
ステップ120においては、より短い期間にわたっての局所的な相関行列が計算される。この短期間は、数秒乃至数分(典型的には12秒)であってもよい。この患者監視例においては、12秒という短期間は、1信号当たり1500サンプルをもたらす。これは、以下の式(2)に示されているような局所的な相関行列をもたらす。
【数2】

ここで、これらの局所的な相関行列の数はNと等しい。
【数3】

【0026】
ステップ130においては、局所的な相関行列の特徴ベクトルと、全体的な相関行列の特徴ベクトルとの間の偏差が決定される。これは、現在の患者の状態及びその変動の表れである。この差は、
【数4】

と規定される。
【0027】
この偏差ベクトルの二乗平均平方根は、現状と全体的な情報との間の偏差の絶対値の指標である。
【数5】

【0028】
ステップ140においては、平均偏差が決定される。これは、患者の全体的な記録履歴に対する患者の記録情報の標準的な/許容可能な瞬間的な偏差の指標である。
【数6】

【0029】
監視事象信号11のいずれかが、アーチファクトがあることで損なわれる場合、その局所的な相関行列(式2)は、全体的な相関行列(式1)と大きく異なり、関連偏差(式5)は、(式6において規定されているような局所的な相関行列と、全体的な相関行列との間の)平均偏差と大きく異なる。
【0030】
Daverageからの大きな偏差のせいで警報が存在する場合、これは、正規相関パターンが局所的に乱されていることの表れであり、前記存在する警報は、信頼性の低いものであり、おそらく、誤警報である。一般に、大きな偏差は10%の範囲内である。しかしながら、「大きな」偏差の正確な範囲は、特定信号の既知の変動に基づいて調節されることができ、且つ/又は通常、このような事象信号において範囲を観察する。
【0031】
ステップ150においては、偏差が、所定の閾値範囲未満である、及び/又は所定の閾値範囲と等しい場合に、警報表示(alarm indication)が供給され得る。
【0032】
図3は、肺水腫の臨床例で患者の動脈圧信号(ABP)を監視する場合の全体的な相関に対する局所的な相関の偏差を示すグラフである。第1警報及び第2警報は、平均偏差(赤色破線)からの小さい偏差を持つのに対して、第3警報及び第4警報は、著しく大きい偏差を持つ。これは、第1警報及び第2警報が正しい警報であるのに対して、第3警報及び第4警報が誤警報であることを示している。
【0033】
本発明の好ましい実施例が図示され、記載されているが、本発明の真の範囲から外れることなしに、様々な変形及び修正がなされてもよく、それの素子の代わりに同等物が用いられてもよいことは当業者には理解されるであろう。更に、中心範囲から外れることなしに本発明の教示及び特定の状況に適応するよう多くの修正がなされてもよい。それ故、本発明は、本発明を実施するために考えられる最良モードとして開示されている特定の実施例には限定されず、本発明は、添付されている特許請求の範囲内に入る全実施例を含むよう意図されている。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の実施例による監視システムの図を示す。
【図2】本発明の一態様による方法を図示するフローチャートである。
【図3】肺水腫の臨床例で患者の動脈圧(ABP)信号を監視する場合の全体的な相関に対する局所的な相関の偏差を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御器と、
前記制御器に結合されるメモリと、
少なくとも2つの事象信号を受け取るよう構成される入力インタフェースとを有する装置であって、
前記制御器が、第1期間にわたっての前記少なくとも2つの事象信号の全体的な相関を決定し、前記第1期間より短い第2期間にわたっての前記少なくとも2つの事象信号の局所的な相関を決定し、局所的な相関ベクトルと、全体的な相関ベクトルとの間の偏差を決定し、前記偏差から平均偏差を決定し、前記少なくとも2つの事象信号のうちの1つにおいてアーチファクトが検出されたか否かを決定するよう構成される装置。
【請求項2】
前記装置が患者監視システムである請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記少なくとも2つの事象信号が患者監視データ信号である請求項2に記載の装置。
【請求項4】
前記制御器に結合される警報表示器を更に有し、前記事象信号のうちの少なくとも1つが、予め設定された閾値を超え、前記制御器が、前記少なくとも1つの事象信号においてアーチファクトが検出されなかったと決定する場合に、前記警報表示器が作動される請求項3に記載の装置。
【請求項5】
前記少なくとも2つの事象信号を記録するメモリを更に有する請求項1に記載の装置。
【請求項6】
前記装置が、クライアント・サーバネットワークの一部を形成するサーバである請求項1に記載の装置。
【請求項7】
事象信号における信号アーチファクトを検出する方法であって、
少なくとも2つの事象信号を受け取るステップと、
第1期間にわたっての前記少なくとも2つの事象信号の全体的な相関を決定するステップと、
前記第1期間より短い第2期間にわたっての前記少なくとも2つの事象信号の局所的な相関を決定するステップと、
局所的な相関ベクトルと、全体的な相関ベクトルとの間の偏差を決定するステップと、
前記偏差から平均偏差を決定するステップと、
前記平均偏差に基づいて前記少なくとも2つの事象信号のうちの1つにおいてアーチファクトが検出されたか否かを決定するステップとを有する方法。
【請求項8】
前記方法が患者監視システムで用いられる請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記少なくとも2つの事象信号が患者監視データ信号である請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記事象信号のうちの少なくとも1つが、予め設定された閾値を超え、前記少なくとも1つの事象信号においてアーチファクトが検出されなかった場合に、警報表示を供給するステップを更に有する請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記少なくとも2つの事象信号を記録するステップを更に有する請求項7に記載の方法。
【請求項12】
前記方法が、クライアント・サーバネットワークの一部を形成するサーバにおいて用いられる請求項7に記載の方法。
【請求項13】
事象信号における信号アーチファクトを検出するシステムであって、
少なくとも2つの事象信号を受け取る手段と、
第1期間にわたっての前記少なくとも2つの事象信号の全体的な相関を決定する手段と、
前記第1期間より短い第2期間にわたっての前記少なくとも2つの事象信号の局所的な相関を決定する手段と、
局所的な相関ベクトルと、全体的な相関ベクトルとの間の偏差を決定する手段と、
前記偏差から平均偏差を決定する手段と、
前記平均偏差に基づいて前記少なくとも2つの事象信号のうちの1つにおいてアーチファクトが検出されたか否かを決定する手段とを有するシステム。
【請求項14】
前記システムが患者監視システムである請求項13に記載のシステム。
【請求項15】
前記少なくとも2つの事象信号が患者監視データ信号である請求項14に記載のシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2007−502639(P2007−502639A)
【公表日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−523703(P2006−523703)
【出願日】平成16年8月6日(2004.8.6)
【国際出願番号】PCT/IB2004/002629
【国際公開番号】WO2005/020120
【国際公開日】平成17年3月3日(2005.3.3)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【氏名又は名称原語表記】Koninklijke Philips Electronics N.V.
【住所又は居所原語表記】Groenewoudseweg 1,5621 BA Eindhoven, The Netherlands
【Fターム(参考)】