説明

信号処理装置及び信号処理方法

【課題】 出力制限によっても自然な音による効果が得られる信号処理装置を提供する。
【解決手段】 パスメモリ制御部6は、複数mの出力候補からエラー演算部5による評価に基づいて複数nの出力候補を選択すると共に、複数nの出力候補には入らなかったが所定の出力制限値を満たすであろう候補を有効期限を設けた別枠の出力候補として残しておく。パスメモリ10は、パスメモリ制御部6によって選択された複数nの出力候補と上記別枠の出力候補を記憶する。決定部11は、レベル検出部15により検出されたレベルに基づいてパスメモリ10に記憶されている複数nの出力候補から所定の出力制限レベルを満たす出力候補を決定すると共に、上記複数nの出力候補から上記所定の出力制限レベルを満たす出力候補を決定できなかったときには、パスメモリ制御部6によってパスメモリ10に有効期限付きで残された上記別枠の出力候補を決定処理の対象とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数ビットのデジタル入力信号又は1ビットデジタル入力信号にデルタシグマ(ΔΣ)変調処理を施して1ビットデジタル信号を生成する信号処理装置及び信号処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
サンプリング周波数fsを約44.1kHzとし、PCM方式により1サンプルを各チャンネル16ビットのデジタルオーティオとして記録しているコンパクトディスク(CD)に対して、DSD(Direct Stream Digital)方式により生成された、サンプリング周波数が非常に高い周波数(例えば通常のCDのサンプリング周波数fsの64倍の周波数)で1ビット方式のオーディオストリームデータを記録しているスーパーオーディオコンパクトディスク(Super Audio CD:SA−CD)が知られるようになった。
【0003】
入力信号に対して64fsのオーバーサンプリング・ΔΣ変調を施すと1ビットオーディオデジタル信号が得られる。CD方式のシステムでは、その直後に1ビットの信号からマルチビットのPCM符号へのデシメーションが行われるが、DSD方式を採用した前記SA−CDでは1ビットオーディオ信号を直接記録している。
【0004】
SA−CDに記録される1ビットオーディオ信号の周波数帯域はおよそ100kHzであり、CDで採用されているPCM方式における信号の周波数帯域と比べて非常に広い。
【0005】
1ビットデジタルオーディオ信号を記録した音楽ディスクのフォーマットであるSA−CDの規格では、特開2003−16767に記載のようにピークレベルが+3.10dB SACDを超えてはいけないという規定がある。これは連続する28サンプル中に1が4以上24以下含まれていなければならないという規定である。音楽信号を編集する際にこの規定を破らないように自動的に信号レベルを制限するリミッタと呼ばれる機能が求められる。
【0006】
図13には、従来から用いられている一般的なΔΣ変調器30の構成を示す。入力端子31からのアナログ入力信号、又はマルチビット入力信号と1ビットの出力信号との差分を加算器32によって求め、積分器として動作するデジタルフィルタ(H(Z))33にて積分値を求め、その積分出力を1ビット量子化器に相当するコンパレータ34にて量子化して、1ビット出力を出力端子35から出す。コンパレータ34の出力は、加算器32に戻され、入力信号から減算されて誤差とされる。
【0007】
また、上記従来型のΔΣ変調器を改良したノイズシェイピング変調器として、特開2003−124812には、トレリス型ノイズシェイピング変調器が開示されている。トレリス型ノイズシェイピング変調器は、ルックアヘッド(前方参照)型変調器に分類されるものである。上記従来型のΔΣ変調器の量子化器と異なり、ある時点の量子化器の入力に対して0か1の出力を決めるのではなく、一定の時間分のとりうる可能性のある出力候補を挙げてこの中からある決まったエラー関数が小さくなる最適な経路の候補を選び出して出力としている。
【0008】
図14には、ルックアヘッド型ΔΣ変調器40の構成を示す。通常のΔΣ変調器30のようにデジタルフィルタH(z)33の出力をコンパレータ34で2値化するのではなく、0,1それぞれの値を出力とした場合のデジタルフィルタ43の出力と差の自乗などをエラー演算部44で算出し、積算するなどの評価関数を用い、パスメモリ制御選択部45にてそれに対応する出力ビット列の優劣を判定し、最適な値をある時点での出力とし、出力端子46から導出する。このためそれぞれのビット列そのものあるいはビット列のテーブルへの参照値などを記録したパスメモリ50、そのビット列に対応した評価関数の値を記録したメモリ(エラー値メモリ)49およびデジタルフィルタの状態を記録したメモリ(フィルタ状態メモリ)48を持っている。
【0009】
図15は、ルックアヘッド型ΔΣ変調器40によりサンプリング周期毎にすべての出力候補のエラー値を計算しその中から4つだけを尤もらしい出力信号経路として選び出す処理を説明するための図である。まず、サンプル時間t=1において0と1の2つの出力候補に関してエラー演算部44は評価関数を計算する。この時点では候補は2つだけであるから、そのまま2つとも候補として残しておく。次のサンプル時間t=2においては2つの候補それぞれについて次の出力が0となる場合と1となる場合の2つの場合の評価関数を計算する。左から古い出力を表すものとして(00),(01),(10),(11)の4つの候補が残る。サンプル時間t=3においては4つの候補から0,1の2つの候補が発生するので8つの候補が発生し、それぞれに関して評価関数を計算しその上位4つを残すことにする。この例では(001),(010),(011),(110)が生き残った候補である。サンプル時間t=4においても同様の手順を繰り返し、(0011),(0101),(0110),(1100)が生き残ったとする。ここで一番古いサンプルを見ると(1100)以外はみな0になっている。このような手順を十分長い時間繰り返せば一番古いサンプルは1つに収束すると考えられる。このため、図14におけるパスメモリ50のように、ある決まった長さのメモリを用意し、(0011)ようなビット列を記憶しておく。そしてパスメモリ50の最も古いサンプルを調べることによって最終的な出力を選択する。
【0010】
【特許文献1】特開2003−16767
【特許文献2】特開2003−124812
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、従来、ΔΣ変調器の出力レベルを制限するために、上記図13に示したΔΣ変調器の前でリミッターを掛けても上記特許文献1に記載した規定を満たすようにするためには基準レベルより十分低いレベルで制限しないとΔΣ変調器を用いて1ビット信号に再量子化する際に規定を満たさない信号を出力してしまう可能性がある。また、単純に連続する28サンプル中に25個の1が含まれているのを検出して25個目の1を0に置き換えたのでは滑らかに出力を変化させることができず、場合によっては大きな雑音を発生してしまうことになる。このため、より確実に出力レベルを制限する機能が求められていた。
【0012】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、少ない回路規模、ソフトウェアのステップ数で出力レベルを制限することのできる信号処理装置及び信号処理方法の提供を目的とする。
【0013】
また、ΔΣ変調器の出力制限を決められた値に基づき確実に行うことのできる信号処理装置及び信号処理方法の提供を目的とする。
【0014】
また、出力を制限するために急激な制限の仕方でノイズを発生するようなことなく、出力制限によっても自然な音による効果が得られる信号処理装置及び信号処理方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に係る信号処理装置は、上記課題を解決するために、入力信号にΔΣ変調処理を施したときに、一定時間分の取りうる可能性のあるビット列の複数m(mは2以上の自然数)の出力候補から所定の演算に基づいて複数n(m≧n)の出力候補を選択すると共に、複数nの出力候補には入らなかったが所定の出力制限値を満たすであろう候補を有効期限を設けた別枠の出力候補として残しておく出力候補制御手段と、上記出力候補制御手段によって選択された複数nの出力候補と、上記別枠の出力候補とを記憶する出力候補記憶手段と、上記出力候補記憶手段に記憶された複数nの出力候補のレベルを検出するレベル検出手段と、上記レベル検出手段による検出結果に基づいて上記出力候補記憶手段に記憶されている複数nの出力候補から所定の出力制限レベルを満たす出力候補を決定すると共に、上記複数nの出力候補から上記所定の出力制限レベルを満たす出力候補を決定できなかったときには、上記出力候補制御手段によって上記出力候補記憶手段に有効期限付きで残された上記別枠の出力候補を決定処理の対象とする決定手段とを備える。
【0016】
出力候補制御手段は、入力信号にΔΣ変調処理を施したときに、一定時間分の取りうる可能性のあるビット列の複数m(mは2以上の自然数)の出力候補から所定の演算に基づいて複数n(m≧n)の出力候補を選択すると共に、複数nの出力候補には入らなかったが所定の出力制限値を満たすであろう候補を有効期限を設けた別枠の出力候補として残しておく。決定手段は、レベル検出手段による検出結果に基づいて上記出力候補記憶手段に記憶されている複数nの出力候補から所定の出力制限レベルを満たす出力候補を決定すると共に、上記複数nの出力候補から上記所定の出力制限レベルを満たす出力候補を決定できなかったときには、上記出力候補制御手段によって上記出力候補記憶手段に有効期限付きで残された上記別枠の出力候補を決定処理の対象とする。
【0017】
本発明に係る信号処理方法は、上記課題を解決するために、入力信号にΔΣ変調処理を施したときに、一定時間分の取りうる可能性のあるビット列の複数mの出力候補から所定の演算に基づいて複数n(m≧n)の出力候補を選択すると共に、複数nの出力候補には入らなかったが所定の出力制限値を満たすであろう候補を有効期限を設けた別枠の出力候補として残しておく出力候補制御工程と、上記出力候補制御工程によって選択された複数nの出力候補と、上記別枠の出力候補とを記憶手段に記憶する出力候補記憶工程と、上記出力候補記憶工程により記憶手段に記憶された複数nの出力候補のレベルを検出するレベル検出工程と、上記レベル検出工程による検出結果に基づいて上記記憶手段に記憶されている複数nの出力候補から所定の出力制限レベルを満たす出力候補を決定すると共に、上記複数nの出力候補から上記所定の出力制限レベルを満たす出力候補を決定できなかったときには、上記出力候補制御工程によって上記記憶手段に有効期限付きで残された上記別枠の出力候補を決定処理の対象とする決定工程とを備える。
【0018】
出力候補制御工程は、入力信号にΔΣ変調処理を施したときに、一定時間分の取りうる可能性のあるビット列の複数mの出力候補から所定の演算に基づいて複数n(m≧n)の出力候補を選択すると共に、複数nの出力候補には入らなかったが所定の出力制限値を満たすであろう候補を有効期限を設けた別枠の出力候補として残しておく。決定工程は、レベル検出工程による検出結果に基づいて上記記憶手段に記憶されている複数nの出力候補から所定の出力制限レベルを満たす出力候補を決定すると共に、上記複数nの出力候補から上記所定の出力制限レベルを満たす出力候補を決定できなかったときには、上記出力候補制御工程によって上記記憶手段に有効期限付きで残された上記別枠の出力候補を決定処理の対象とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明の信号処理装置によれば、入力信号にΔΣ変調処理を施したときに、出力候補制御手段が一定時間分の取りうる可能性のあるビット列の複数m(mは2以上の自然数)の出力候補から所定の演算に基づいて複数n(m≧n)の出力候補を選択すると共に、複数nの出力候補には入らなかったが所定の出力制限値を満たすであろう候補を有効期限を設けた別枠の出力候補として残しておき、決定手段がレベル検出手段による検出結果に基づいて上記出力候補記憶手段に記憶されている複数nの出力候補から所定の出力制限レベルを満たす出力候補を決定すると共に、上記複数nの出力候補から上記所定の出力制限レベルを満たす出力候補を決定できなかったときには、上記出力候補制御手段によって上記出力候補記憶手段に有効期限付きで残された上記別枠の出力候補を決定処理の対象とするので、ΔΣ変調器の出力制限を決められた値に基づき確実に行える。また、急激な制限の仕方でノイズを発生するようなことなく自然な効果が得られる。また、出力レベル制限にかからない信号に対しては、従来の技術に比較して音質が劣化するようなことがない。特に、制限レベル付近の信号に対してはほとんど特性の悪化を生じないという効果がある。
【0020】
本発明に係る信号処理方法によれば、入力信号にΔΣ変調処理を施したときに、出力候補制御工程が一定時間分の取りうる可能性のあるビット列の複数mの出力候補から所定の演算に基づいて複数n(m≧n)の出力候補を選択すると共に、複数nの出力候補には入らなかったが所定の出力制限値を満たすであろう候補を有効期限を設けた別枠の出力候補として残しておき、決定工程がレベル検出工程による検出結果に基づいて上記記憶手段に記憶されている複数nの出力候補から所定の出力制限レベルを満たす出力候補を決定すると共に、上記複数nの出力候補から上記所定の出力制限レベルを満たす出力候補を決定できなかったときには、上記出力候補制御工程によって上記記憶手段に有効期限付きで残された上記別枠の出力候補を決定処理の対象とするので、ΔΣ変調器の出力制限を決められた値に基づき確実に行える。また、急激な制限の仕方でノイズを発生するようなことなく自然な効果が得られる。また、出力レベル制限にかからない信号に対しては、従来の技術に比較して音質が劣化するようなことがない。特に、制限レベル付近の信号に対してはほとんど特性の悪化を生じないという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。この実施の形態は、図1に示すような音声信号処理装置1である。この音声信号処理装置1は、入力信号である、例えばマルチビット信号と、後述するパスメモリ10から出力される出力ビット列との差分を求める加算器3と、加算器3の出力から複数m(2以上の自然数)の出力候補を生成する出力候補生成手段であるデジタルフィルタ(H(Z))4と、デジタルフィルタ4が生成した複数mの出力候補をエラー演算により評価する評価手段であるエラー演算部5と、デジタルフィルタ4が生成した複数mの出力候補からエラー演算部5による評価に基づいて複数nの(m>n)の出力候補を選択すると共に、複数nの出力候補には入らなかったが所定の出力制限値を満たすであろう候補を有効期限を設けた別枠の出力候補として残しておく出力候補制御手段であるパスメモリ制御部6と、パスメモリ制御部6によって選択された複数nの出力候補と上記別枠の出力候補を記憶する出力記憶手段であるパスメモリ10と、パスメモリ10に記憶された複数nの出力候補の閾値に対するオーバーレベルを検出するレベル検出部15とを備えている。なお、入力信号としては、マルチビット信号の他アナログ信号であってもよい。
【0022】
また、音声信号処理装置1は、デジタルフィルタ4のフィルタ状態を記憶するフィルタ状態メモリ8と、エラー演算部5で評価のために演算されたエラー値を記憶しているエラー値メモリ9とを備えている。フィルタ状態メモリ8とエラー値メモリ9とパスメモリ10は、例えばランダムアクセスメモリRAM7からなる。
【0023】
また、音声信号処理装置1は、端子13から入力される閾値を記憶する閾値メモリ14と、レベル検出部15により検出されたレベルに基づいてパスメモリ10に記憶されている複数nの出力候補から所定の出力制限レベルを満たす出力候補を決定すると共に、上記複数nの出力候補から上記所定の出力制限レベルを満たす出力候補を決定できなかったときには、パスメモリ制御部6によってパスメモリ10に有効期限付きで残された上記別枠の出力候補を決定処理の対象とする決定部11とを備えている。
【0024】
また、音声信号処理装置1は、リミッタの制限を越えた出力候補列の最新のビットを反転したビット列を通常の出力候補とは別枠のリミットされた出力信号枠としてパスメモリ10に、パスメモリ制御部6の制御に基づいて有効期限付きで保持しておくための構成として、別枠パスフラグフラグ有効期限タイマー16をパスメモリ制御部6に接続して備えている。
【0025】
このような構成を採ることにより、音声信号処理装置1は、別枠パスフラグフラグ有効期限タイマー16で有効期限が管理された上記別枠の出力候補をパスメモリ制御部6によって制御することができる。そして、決定部11が上記複数nの出力候補から上記所定の出力制限レベルを満たす出力候補を決定できなかったときには、パスメモリ制御部6によってパスメモリ10に有効期限付きで残された上記別枠の出力候補を決定処理の対象とする。このように音声信号処理装置11は、リミットされたビット列の中から最適なビット列を選択できるようにしているので、従来の方法に比べて出力信号特性を改善することができる。
【0026】
エラー演算部5は、入力となる上記複数mの出力候補のマルチビットデータのサンプルと出力ビットとの誤差をサンプル時間毎に算出して上記出力候補を評価する。具体的には、“0”,“1”それぞれの値を出力とした場合のデジタルフィルタ出力と差の二乗などを積算するなどの評価関数によりエラーを算出している。この評価関数による誤差をサンプル時間毎に算出する。この誤差値は、正規化され、エラー値メモリ9に記憶される。
【0027】
レベル検出部15は、パスメモリ制御部6から検出すべきパスメモリ10への参照信号を受け、その参照信号に対応するパスメモリ上のビット列のうち最新のビットから必要なビット数を数える。この値とあらかじめ閾値メモリ14に設定されたレベルに対応する値(閾値)とを比較することによりオーバーレベルの検出をする。この閾値により音声信号処理装置1の出力レベルを制限(リミット)することになる。オーバーレベル検出の詳細については後述する。
【0028】
レベル検出部15によって検出されたオーバーレベル検出信号はパスメモリ制御部6に送られ対応するパスメモリ10中のオーバーレベルした経路は出力候補から除外される。これにより出力レベルが設定値以下に制限される。またこのオーバーレベル検出信号を、後述するオーバーレベル表示部に送ることによりLEDなどを点灯させることにより表示することもできる。
【0029】
レベル検出部15は、本願出願人による特開2002−16767号公報(上記特許文献1)に開示されている信号レベル検出方法によって以下のようにレベルを検出し、オーバーレベルの検出をしている。
【0030】
具体的には、連続する1ビットの信号列に含まれる“0”または“1”の占有率からレベルを検出している。例えば、SA−CDの規格では、28サンプル中に1が4個以上24個以下という条件により、レベルを+3.10dB SACDに制限している。レベル検出部15は、パスメモリ制御部6からレベルを検出すべき出力候補の参照信号を受け、その参照信号に対応するパスメモリ10上の出力候補(ビット列)のうち、図2に示すように、最新のビットから必要なビット数までのビット列「010・・・0」のうち“1”(または“0”)の数を数える。例えば、上記特許文献1に従い28ビット分のサンプル中の“1”(または“0”)の数を数える。レベル検出部15は、この値に基づいたレベルとあらかじめ閾値メモリ14に設定されたレベルに対応する閾値とを比較することによりオーバーレベルの検出をする。
【0031】
図3には、レベル検出部15の具体例を示す。新たに入力されるサンプルSAM_NEWが“1”の場合は+1を、“0”が入力される場合は−1をレベルメモリ15aに記憶されているこれまでの加算値に加算器15bにより加え、新たに1又は−1を加えることにより、計算する範囲から除外されるサンプルSAM_DELが“1”ならば−1を、“0”ならば+1をこれまでの加算値に加算器15bにて加えることにより“1”の個数を算出するのと同等の計算をレベル判定器15cは行っている。“0”と“1”の数が同数であれば0となる。
【0032】
図4は、連続する28サンプル中に含まれる“1”の数(m)と、上記加算値cと、レベルの対応関係を示す図である。連続する28サンプルが全て“1”であるとき、加算値は28になり、そのときのレベルは6.02dBである。連続する28サンプル中、“1”が24であると、加算値は20となり、レベルは3.10dBとなる。また、連続する28サンプル中、“1”が21であると、加算値は14となり、レベルは0.00となる。また、連続する28サンプル中、“1”が20であると、加算値は12となり、レベルは−1.34dBとなる。また、連続する28サンプル中、“1”が14であると、加算値は0となり、レベルは−∞となる。また、連続する28サンプル中、“1”が8であると、加算値は−12となり、レベルは−1.34dBとなる。また、連続する28サンプル中、“1”が7であると、加算値は−14となり、レベルは0.00となる。また、連続する28サンプル中、“1”が4であると、加算値は−20となり、レベルは3.10dBとなる。特に、“1”の数mが20以下8以上であれば、加算器cは12〜−12であり、レベルは−1.34dBを超えない。
【0033】
次に、音声信号処理装置1における、出力レベルの制限(リミット)の機能について図5を参照して説明する。ここでは、出力レベルが-1.34dBを越えないように制限するものとする。閾値として−1.34dBを入力し、閾値メモリ14に記憶しておく。レベル検出部15は、閾値メモリ14に記憶されている−1.34dBを閾値とし、パスメモリ10の出力候補のレベルが上記閾値をオーバーしているか否かを検出する。以下では、上記閾値を制限レベルと適宜言い換えている。
【0034】
図5において矢印の上下に書いた数字は図4の表のcの値、つまり上記加算値cを示している。この値が-12以上12以下ならば制限レベルを満たしている。図5の一番左側のサンプル時間t=nにおける候補4つを実線で囲って示した(0010),(0101),(0110),(1100)が生き残りの候補である。ここでは直近の4サンプルの値だけを囲みの中に書くことにする。サンプル時間t=n+1においてはこれらの4つの候補から(0100),(1010),(1011),(1101)の4つが生き残ったとする。次にサンプル時間t=n+2において(1010)は評価関数値(エラー値)は上位4つに入っていたが出力レベルが制限値を越えたため除外され、囲みをハッチングにて表している。一方(1000)は制限値を超えたのではなくエラー値の判定により除外されているものをあらわしている。こうして出力レベルの制限を満たす(1001),(0100),(0110),(1011)が生き残りとなっている。以下同様の手順を繰り返し、t=n+3では(0110),t=n+4で(0110)がエラー値は上位4つに入っていたが制限レベルを越えたため除外されている。しかし、場合によっては、上記評価関数に基づいたエラー演算により上位に残りながらも出力候補が全て出力制限にかかり本来の出力候補が無くなってしまうこともあり得る。そこで、評価関数の上位ではないため、本来ならば出力候補としては残らないであろうが、出力制限だけは満たす経路を出力候補として別枠で有効期限付きにして残しておき、上記本来の出力候補が無くなった場合に、別枠の出力候補から出力候補を決定するようにした。
【0035】
そこで、音声信号処理装置1は、別枠パスフラグのフラグ有効期限タイマー16にて有効期限が管理された上記別枠の出力候補をパスメモリ制御部6によって管理しながらパスメモリ10に記憶している。リミッタの制限を越えた出力候補列の最新のビットを反転したビット列を通常の出力候補とは別枠のリミットされた出力信号枠としてパスメモリ10に有効期限を管理しながら保持している。リミッタの制限を越えた出力候補列の最新のビットを反転したビット列は、最新のビットを反転しない状態のときにリミッタの制限を越えたのであり、最新のビットを反転することによりリミッタの制限を越えなくなる。
【0036】
次に、別枠パスフラグのフラグ有効期限タイマー16を有し、パスメモリ制御部6によって有効期限を管理しながらパスメモリ10に上記別枠の出力候補を保持している音声信号処理装置1の動作について図6を参照して説明する。図6においてサンプル時間t=n+2までは図5の場合とまったく同じである。サンプル時間t=n+3においてサンプル時間t=n+2における(1011)から派生する(0110)は制限値を超えるため除外される、一方、同じサンプル時間t=n+2における(1011)から派生する(0111)はエラー値が上位4つに入らないため図5に示した方法では除外されていたが、制限値を超えるため除外された(0110)の最新サンプルを反転したものであるから、出力制限値を満たしているのは明らかで、リミッタを掛けた出力信号の候補として通常の候補とは別にパスメモリ10に残しておく。このような候補を図6では枠内をハッチングして表している。このように評価関数の上位ではなく本来は候補として残らなかったが出力制限を満たす経路を候補としてパスメモリ10に残す。このため、他の経路もすべて出力制限にかかり除外されるようになるとリミッタが掛かった出力候補が評価関数の上位として残るようになるため、リミッタが掛かった経路の中からより良い経路をパスメモリ制御部6及び決定部11により選択し決定することができ、結果として従来の方法によるものに比べ信号の特性が改善される。この通常の候補とは別枠として残したパスにはメモリにフラグをつけておき、通常のパスとは区別できるようにしておく。この別枠を表すフラグには有効期限を設定しておき、この有効期限はタイマーの値であらわす。別枠の生き残りパスになった場合、このタイマーの値をセット(たとえば28サンプル)し、別枠パスフラグのフラグ有効期限タイマー16を参照しながら通常枠内の順位になった場合はこの値を減算する。有効期限を表すタイマーの値が0になったらそれ以後は通常の候補として扱うこととする。
【0037】
図7に振幅が±0.42の1kHz正弦波をリミッタなしの場合のΔΣモジュレータに入力したときの出力の周波数特性を示す。この場合出力レベルは-1.34dBを超える場合がある。図8は従来型のΔΣモジュレータにリミッタ機能を付加し、出力制限レベルを-1.34dBとして図7と同じ信号を入力した場合の周波数特性である。
【0038】
図9は本発明の方法によるものに図7と同じ信号を入力した場合の周波数特性である。この場合図7の周波数特性とほとんど差が見られない
次に制限レベルを-1.34dBとし、入力信号の振幅を±0.5にした場合の出力波形を図10に示す。図10における出力波形によれば、出力信号列65536個の中に-1.34dB(0.4285)を超えてしまうようなサンプルが無いことが確認できる。
【0039】
なお、音声信号処理装置1は、図11に示すように、レベル検出部15からのオーバーレベル検出信号をオーバーレベル表示器16に送ることによりLEDなどを点灯させるようにしてもよい。
【0040】
また、音声信号処理装置1にあっては、入力信号が小さい場合は、レベル検出部15からなる制限部がない場合とまったく同じ動作になるため、音質の劣化が起こらない。
【0041】
また、音声信号処理装置1は、図12に示すミキシング装置20に適用される。例えば、上記図13に示したような従来のΔΣ変調器によって出力された1ビットオーディオ信号に乗算器22にてレベルコントローラ23からのレベル制御係数が乗算される。乗算器22の出力であるレベル制御出力はマルチビットデータとなる。このマルチビットを再度、ΔΣ変調するときに、音声信号処理装置1が適用され、出力端子24から上述したように決定部11にて決定されたビット列が出力される。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】音声信号処理装置のブロック図である。
【図2】レベル検出器によるレベル検出の概要を説明するための図である。
【図3】レベル検出器によるレベル検出の詳細を説明するための図である。。
【図4】連続する28サンプル中に含まれる1の数(m)とレベルの対応を示す図である。
【図5】音声信号処理装置における、出力レベルの制限(リミット)の機能について説明するための図である。
【図6】パスメモリに別枠の出力候補を保持している音声信号処理装置の動作を説明するための図である。
【図7】リミッタなしの場合の周波数特性図である。
【図8】従来のΔΣ変調装置にリミッタ機能を設けた場合の周波数特性図である。
【図9】本実施の形態の周波数特性図である。
【図10】制限レベルを-1.34dBとし、入力信号の振幅を±0.5にした場合の出力波形図である。
【図11】オーバーレベル表示器を備えた音声信号処理装置のブロック図である。
【図12】音声信号処理装置を適用したミキシング装置のブロック図である。
【図13】一般的なΔΣ変調器のブロック図である。
【図14】ルックアヘッド型ΔΣ変調器のブロック図である。
【図15】ルックアヘッド型ΔΣ変調器の動作を説明するための図である。
【符号の説明】
【0043】
1 音声信号処理装置、3 加算器、4 デジタルフィルタ、5 エラー演算器、6 パスメモリ制御部、8 フィルタ状態メモリ、9 エラー値メモリ、10 パスメモリ、11 決定部、15 レベル検出部、16 別枠パスフラグ有効期限タイマー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力信号にΔΣ変調処理を施したときに、一定時間分の取りうる可能性のあるビット列の複数m(mは2以上の自然数)の出力候補から所定の演算に基づいて複数n(m≧n)の出力候補を選択すると共に、複数nの出力候補には入らなかったが所定の出力制限値を満たすであろう候補を有効期限を設けた別枠の出力候補として残しておく出力候補制御手段と、
上記出力候補制御手段によって選択された複数nの出力候補と、上記別枠の出力候補とを記憶する出力候補記憶手段と、
上記出力候補記憶手段に記憶された複数nの出力候補のレベルを検出するレベル検出手段と、
上記レベル検出手段による検出結果に基づいて上記出力候補記憶手段に記憶されている複数nの出力候補から所定の出力制限レベルを満たす出力候補を決定すると共に、上記複数nの出力候補から上記所定の出力制限レベルを満たす出力候補を決定できなかったときには、上記出力候補制御手段によって上記出力候補記憶手段に有効期限付きで残された上記別枠の出力候補を決定処理の対象とする決定手段と
を備えることを特徴とする信号処理装置。
【請求項2】
入力信号にΔΣ変調処理を施したときに、一定時間分の取りうる可能性のあるビット列の出力候補を複数m生成する出力候補生成手段を備えることを特徴とする請求項1記載の信号処理装置。
【請求項3】
上記出力候補生成手段にてサンプル時間毎に複数mの出力候補を生成するときのマルチビットデータのサンプルと出力ビットとの誤差を演算する誤差演算手段をさらに備えることを特徴とする請求項2記載の信号処理装置。
【請求項4】
上記誤差演算手段によって演算された誤差を記憶する誤差記憶手段をさらに備えることを特徴とする請求項3記載の信号処理装置。
【請求項5】
入力信号にΔΣ変調処理を施したときに、一定時間分の取りうる可能性のあるビット列の複数mの出力候補から所定の演算に基づいて複数n(m≧n)の出力候補を選択すると共に、複数nの出力候補には入らなかったが所定の出力制限値を満たすであろう候補を有効期限を設けた別枠の出力候補として残しておく出力候補制御工程と、
上記出力候補制御工程によって選択された複数nの出力候補と、上記別枠の出力候補とを記憶手段に記憶する出力候補記憶工程と、
上記出力候補記憶工程により記憶手段に記憶された複数nの出力候補のレベルを検出するレベル検出工程と、
上記レベル検出工程による検出結果に基づいて上記記憶手段に記憶されている複数nの出力候補から所定の出力制限レベルを満たす出力候補を決定すると共に、上記複数nの出力候補から上記所定の出力制限レベルを満たす出力候補を決定できなかったときには、上記出力候補制御工程によって上記記憶手段に有効期限付きで残された上記別枠の出力候補を決定処理の対象とする決定工程と
を備えることを特徴とする信号処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2006−14078(P2006−14078A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−190247(P2004−190247)
【出願日】平成16年6月28日(2004.6.28)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】