説明

修飾スパイダーシルクタンパク質

本発明は、スパイダーシルクタンパク質を修飾する方法および同方法によって得られるスパイダーシルクタンパク質に関する。本発明はさらに、修飾スパイダーシルクタンパク質をコードする核酸配列、同核酸配列を有するベクター、および同ベクターで形質転換された宿主細胞に関する。本発明はさらに、本明細書で定義する修飾スパイダーシルクタンパク質を含有する医薬組成物または化粧組成物および医薬、化粧品および技術的応用等の種々の分野での同修飾配列の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパイダーシルクタンパク質を修飾する方法および同方法によって得られるスパイダーシルクタンパク質に関する。本発明はさらに、修飾スパイダーシルクタンパク質をコードする核酸配列、同核酸配列を有するベクター、および同ベクターで形質転換された宿主細胞に関する。本発明はさらに、本明細書で定義する修飾スパイダーシルクタンパク質を含有する医薬組成物または化粧組成物および医薬、化粧品および技術的応用等の種々の分野での同修飾配列の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
スパイダーシルク(蜘蛛絹糸)は驚くべき物性を示すタンパク質ポリマーである。様々な種類のスパイダーシルクの中でも、牽引糸(牽引糸)は最も盛んに研究されている。牽引糸シルクは、円網性種のクモが、網の枠および径を構築するために、かつ常に後方に引かれる命綱として利用している。これらの目的のためには、高い引張強さと弾性とが必要である。そのような特性が組み合わさると、ほとんどの他の既知材料よりも高い靭性が得られる。牽引糸シルクは一般に、一次構造が共通の反復構造を共有している2つの主要タンパク質から構成されている。
【0003】
円網の捕獲らせん糸は、その一部が鞭毛腺により形成された粘着性の絹から構成されており、それゆえ鞭毛状シルクと呼ばれ、伸縮性があり、破断前の長さを3倍にすることができるが、牽引糸シルクの半分の張力しか提供しない。
【0004】
最大で60アミノ酸を含みうる単一の反復単位のバリエーションが数回繰り返されて、スパイダーシルク配列の大部分を構成している。これらの反復単位は、特徴的なアミノ酸モチーフの限られたセットを包含している。すべての牽引糸シルクの反復単位に見出される1つのモチーフは、典型的には6〜9個のアラニン残基のブロックである。シルク糸においては、いくつかのポリアラニンモチーフが結晶性のβシートの積層を形成して引張強さをもたらしている。
【0005】
GGXまたはGPGXXのようなグリシンに富むモチーフは、結晶性領域を接続するとともに糸に弾性を与える、可撓性のらせん構造をとる。
生体内におけるシルクのアセンブリは卓越したプロセスである。クモの牽引糸シルクタンパク質は、いわゆる大瓶状腺(major ampullate gland)の中に最大50%(w/v)の濃度で貯蔵される。「動的な緩いらせん構造」が大瓶状腺内のタンパク質について提案されてきたが、より最近のデータは、大瓶状腺の大部分に相当するいわゆるAゾーンのタンパク質についてランダムコイル構造を示唆している。この高度に濃縮されたタンパク質溶液がシルクのドープ液(紡糸液)を形成し、該ドープ液は液晶の特性を示す。
【0006】
糸のアセンブリは、水、ナトリウムおよび塩化物の抽出を伴ってドープ液が紡糸管(spinning duct)を通過する間に開始される。同時に、よりリオトロピックなカリウムイオンおよびリン酸イオンの濃度が上昇し、pHが6.9から6.3に低下する。アセンブリは最終的には機械的ストレスが引き金となって起きるが、機械的ストレスはクモの腹から糸を引き出すことにより引き起こされる。
【0007】
いくつかの目的に対しては、天然のシルク糸を直接使用することはできず、溶解してフィルム、発泡体、球体、ナノフィブリル、ヒドロゲルなどのような他の形態へと再アセンブリ(組み立て)する必要がある。
【0008】
クモシルクタンパク質のいくつかの構造上の特性は解明されているが、個々のシルクタンパク質およびそれらの一次構造の要素の、アセンブリ過程への寄与については、まだほとんど知られていない。ニワオニグモ(Aranens diadematus)の2つの主な牽引糸シルクタンパク質であるADF−3およびADF−4の比較試験から、それらのアミノ酸配列はかなり似ているが、これらのタンパク質が著しく異なる溶解度およびアセンブリ特性を示すことが明らかになった。すなわち、ADF−3は高濃度でも可溶性であるが、ADF−4は事実上不溶性で、特定の条件下でフィラメント状の構造へと自己アセンブリする(結果は未発表)。
【0009】
科学的および商業的関心から、スパイダーシルクを工業規模で製造する研究が開始された。天然スパイダーシルクの生産は、クモが共食いすることから非実用的であり、人工的生産は、十分なタンパク質収率と高品質の糸へのアセンブリとの両方を達成するには問題があった。細菌による発現は、恐らくは細菌とクモとのコドン利用の違いに起因して、タンパク質収量レベルが低かった。発現用宿主に適したコドン利用の合成遺伝子により収量が高まったが、該遺伝子から合成されたタンパク質は、天然のスパイダーシルクと比較すると異なる特性を示した。哺乳動物細胞株における牽引糸シルクcDNAの一部の発現により、まだ品質が劣るとはいえ、人工的に「シルクのような」糸へと紡糸できるシルクタンパク質(例えばADF−3)が生産された。
【0010】
発明者らは以前に大腸菌(E.coli)におけるスパイダーシルクタンパク質の組換え生産系を開発した。例えばそれは特許文献1(米国仮出願第60/590,196号の優先権を主張)に参照される。この発現系では、一つの構造ブロック(=モジュール)を自由に変更することができ、特定の場合の要求に適合させることができる。この種のモジュールは特許文献2および3にも開示されている。
【特許文献1】国際公開公報第2006/008163号
【特許文献2】Hummerich, D., Helsen, C.W., Oschmann, J., Rudolph, R. & Scheibel, T. (2004)
【特許文献3】Primary structure elements of dragline silks and their contribution to protein solubility and assembly, Biochemistry 43, 13604-13612
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特に高い関連の1つのオブジェクトは医学の分野におけるスパイダーシルクタンパク質の応用に特に大きく関連する一つの目的は、かかるスパイダーシルクタンパク質への薬物、タンパク質、化学物質等の共有結合である。しかしながら、今まで、一方では所定量でのスパイダーシルクタンパク質へのかかる物質の結合を許容しつつ、他方ではスパイダーシルクタンパク質内の所定位置へのかかる物質の結合を許容する満足のいく結合技術は知られていない。
【0012】
したがって、本発明の目的は、かかるスパイダーシルクタンパク質に薬物、金属、ポリペプチド、多糖類、マーカー分子、量子ドット、核酸、脂質等の物質を狙いを定めて結合させるために使用可能な修飾スパイダーシルクタンパク質の製造方法を提供することにある。本発明のさらなる目的は、スパイダーシルクタンパク質配列内の所定位置に連結された正確な量のかかる物質を担持および輸送するために使用可能な修飾スパイダーシルク配列を提供することにある。
【0013】
上記目的は独立請求項の主題により達成される。好ましい実施形態が従属請求項に包含される。
この点に関し特に関心が高いのは、スパイダーシルクモジュール中の化学特異的なアミ
ノ酸側鎖(本願の場合システインのチオール基またはリジンのアミノ基)を有するアミノ酸の組み込みである。これまで記載してきた上述のいずれのスパイダーシルクタンパク質モジュールも、システインもリジンも含んでおらず、したがって、それぞれの核酸配列の特異的突然変異誘発により、モジュールの配列に所望のアミノ酸を制御された方法で組み込むことが可能となる。このようにして修飾されたモジュールは新しい構築物に組み立てられ、従って、単一のモジュールを組み合わせることにより、1つよりも多くの化学活性作用役または薬物を一つの単一構築物中に組み合わせることが可能となる。
【0014】
したがって、初めて、組換えスパイダーシルクタンパク質への複数の試薬の特異的複合結合が実現可能となっている。基礎モジュールの修飾とは別に、既存の構築物を活性化または修飾するために、同構成物にTAGにより化学反応性アミノ酸を結合する機会がさらに存在する。
【0015】
上述したように、発明者ら自身、スパイダーシルクタンパク質と類似で、かつ単一のDNA配列モジュールを制御された方法で合成遺伝子に組み込み可能なクローニングストラテジーにより影響を受け得るタンパク質の効率的な生産方法を生み出した(Huemmerich et al., 2004)。かかる単一モジュールは先行技術のクローニング系におけるように外来
DNA配列によっては離間されない。本願で用いられているクローニング系では、例えば、一定のクローニングカセット(図1)を備えたクローニングベクターpAZL(本願発明者により開発)を使用することができる。このクローニングカセットの最も重要な要素は2つの制限酵素(BseRIおよびBsgI)に対する認識配列であり、それらの制限部位は、それぞれの認識配列からそれぞれ8および14個のヌクレオチドだけ離れた所に位置している。これにより、翻訳開始および停止コドンの配置と、合成遺伝子の直前または直後へのさらなる制限部位の組み込みが可能となる。
【0016】
BseRIとBsgIの制限部位間には、スペーサー領域がクローニングカセットの中に存在し、これは後続の工程でまず単一の配列モジュールに、その後合成遺伝子に置き換えられる。単一要素の配置は後続の工程で維持されるだろう(図1を参照)。
【0017】
本発明の開始点を形成している単量体配列モジュールの基礎は、ニワオニグモ(Araneus diadematus)の遺伝子ADF3およびADF4と、アメリカジョロウグモ(Nephila clavipes)の遺伝子FLAGである。ADF3およびADF4の使用された配列のバリエーションが公に利用可能である(アクセッション番号U47855およびU47856で利用可能)。最初の2つの遺伝子(ADF3およびADF4)はクモの牽引糸を形成するタンパク質をコードしており、三つ目の遺伝子(FLAG)は鞭毛状シルクのタンパク質をコードしている。これらのタンパク質のアミノ酸配列方法に基づいて、いくつかのモジュールが設計された:
モジュールA:GPYGPGASAA AAAAGGYGPG SGQQ(配列番号1)モジュールC:GSSAAAAAAA ASGPGGYGPE NQGPSGPGGY GPGGP(配列番号3)
モジュールQ:GPGQQGPGQQ GPGQQGPGQQ(配列番号2)
モジュールK:GPGGAGGPYG PGGAGGPYGP GGAGGPY(配列番号4)
モジュールsp:GGTTIIEDLD ITIDGADGPI TISEELTI(配列番号5)
モジュールX:GGAGGAGGAG GSGGAGGS(配列番号6)
モジュールY:GPGGAGPGGY GPGGSGPGGY GPGGSGPGGY(配列番号7)
これらのアミノ酸モジュールから、合成スパイダーシルクタンパク質構築物が組み立てられた。かかるモジュールおよびそれから得られたスパイダーシルクタンパク質は、とり
わけスパイダーシルクタンパク質を修飾する本発明の方法の出発物質を形成する。
【0018】
クローニングカセットの構造は、いずれの場合でも、2つのモジュールまたはモジュール多量体の任意のアセンブリを許容する。これに関しては、DNAモジュール多量体化の例を示す図2を参照されたい。
【0019】
本発明では、スパイダーシルクタンパク質へのいくつかの試薬の結合系が提供され、これは労力を大きく消費することなく異なる共役反応を同時に行なうことを可能にする。これは、結合されたスパイダーシルクタンパク質の潜在的な工業的用および生産のために決定的に必要である。
【0020】
この目的を達成するために、選択されたアミノ酸位置に、化学的に特徴のある側鎖を有するアミノ酸を導入するために、選択されたモジュールのスパイダーシルクタンパク質が修飾された。新たに導入されたアミノ酸はリジンとシステインである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明は、特に以下の態様および実施形態を対象とする。
第1の態様によれば、スパイダーシルクタンパク質を修飾する方法であって、
a)スパイダーシルクタンパク質、またはリジン残基もシステイン残基を含まない同スパイダーシルクタンパク質のフラグメントをコードする核酸を提供する工程と、
b)前記スパイダーシルクタンパク質中の1または複数のアミノ酸をコードする核酸をリジンまたはシステインをコードする核酸配列により置換するか、またはリジンおよびシステインの少なくとも一方をコードする核酸配列を有する核酸配列を前記配列に付加するかの少なくとも一方を行う工程と、
c)工程b)で得られた修飾核酸配列を適切な宿主中で発現する工程と、
d)発現した修飾スパイダーシルクタンパク質を回収する工程と、
から成る方法が提供される。
【0022】
上述の方法は、本発明の修飾スパイダーシルクタンパク質を生産する最も効率的な方法である。しかしながら、スパイダーシルクタンパク質またはリジン残基もシステイン残基も含まない同スパイダーシルクタンパク質のフラグメント(タンパク質の形式)を提供し、かかるスパイダーシルクタンパク質に特に他のアミノ酸の中でもリジンおよびシステインの少なくとも一方を含むアミノ酸TAGを化学的に結合(または付加)することにより修飾スパイダーシルクタンパク質を生産することも可能である。
【0023】
さらに、上述の方法は、置換し、その後、リジンおよびシステインの少なくとも一方をコードする核酸を有する核酸配列を前記配列に付加することにより、同配列をコードする修飾スパイダーシルクタンパク質を設計するという選択肢も含む。
【0024】
リジン残基もシステイン残基も含まないという要件を満たす限り、工程a)で使用されるスパイダーシルクタンパク質の種類および起源は限定されない。スパイダーシルクタンパク質は、それらが天然配列であろうが人工配列であろうが役割を果たさない。
【0025】
用語「フラグメント」は、本明細書に使用する場合、約5−50個、好ましくは10−40個(例えば20〜30個)のアミノ酸残基の長さを有するスパイダーシルクタンパク質(人工/合成であろうと天然由来であろうと)の部分を指す。
【0026】
好ましい実施形態によれば、本発明は、修飾スパイダーシルクタンパク質中のリジンおよび/またはシステイン分子に他の物質を結合する工程をさらに含む。上述したように、これは、スパイダーシルクタンパク質への同物質の制御された狙いを定めた結合パターン
につながる。
【0027】
工程b)で置換される1または複数のアミノ酸は、グリシン、アラニン、セリン、グルタミン酸塩、アスパラギン酸塩およびスレオニンから好ましくは選択される。それらは、アセンブリの挙動等に関し、得られる修飾スパイダーシルクタンパク質を通常は過度に変化させない。
【0028】
修飾スパイダーシルクタンパク質に含まれる前記リジンおよびセリンの少なくとも一方に結合される物質は、ポリペプチド、多糖類、マーカー分子、量子ドット、金属、核酸、脂質および低分子薬から好ましくは選択される。
【0029】
例えば、ナノ粒子を化学リンカーによりシステイン残基に結合することができる。この場合、システインのチオール基に対し、リンカーのマレイミド基またはヨードアセトアミド基を介して、共有結合が達成される。基本的に、リジンのアミノ基またはシステインのチオール基に共有結合できるすべての物質が結合可能である。
【0030】
好ましくは、低分子薬物は、カルボキシル基、カルボニル基、イミド基、またはチオール基を有する薬物から選択される。薬物の非限定的な選択例は、ジクロフェナク、インドメタシン、トルメチン、イブプロフェン、フルルビプロフェン、フェノプロフェン、ナプロキセン、ケトプロフェン、ペニシリンまたはセファロスポリンである。
【0031】
好ましくは、a)で提供されるスパイダーシルクタンパク質は、牽引糸および鞭毛状タンパク質の少なくとも一方を主成分とする。スパイダーシルク配列は例えば円網性種(Orb Web Spider)のコガネグモ(Araneidae)およびアラネオイド(Araneoids)に由来する。
【0032】
より好ましくは、スパイダーシルクタンパク質は以下のクモの1つまたは複数から得ることができる:Arachnura higginsi、Araneus circulissparsus、ニワオニグモ(Araneus diadematus)、Argiope picta、バンデッドガーデンスパイダー(Banded Garden Spider)(Argiope trifasciata)、バティックゴールデンウェブスパイダー(Batik Golden Web Spider)(Nephila
antipodiana)、ベッカリズテントスパイダー(Beccari’s Tent Spider)(Cyrtophora beccarii)、トリノフンダマシ(Bird−dropping Spider)(Celaenia excavata)、ブラックアンドホワイトスピニースパイダー(Black−and−White Spiny Spider)(Gasteracantha kuhlii)、キマダラコガネグモ(Black−and−yellow Garden Spider)(Argiope aurantia)、ナゲナワグモ(Bolas Spider)(Ordgarius furcatus)、ナゲナワグモ〜マグニフィセントスパイダー(Bolas Spiders−Magnificent Spider)(Ordgarius
magnificus)、ブラウンセーラースパイダー(Brown Sailor Spider)(Neoscona nautica)、ブラウンレッグドスパイダー(Brown−Legged Spider)(Neoscona rufofemorata)、キャップトブラックヘッディドスパイダー(Capped Black−Headed Spider)(Zygiella calyptrata)、コモンガーデンスパイダー(Common Garden Spider)(Parawixia dehaani)、コモンオーブウィーバー(Common Orb Weaver)(Neoscona oxancensis)、クラブライクスピニーオーブウィーバー(Crab−like Spiny Orb Weaver)(Gasteracantha
cancriformis(elipsoides)))、カーブドスピニースパイダー(Curved Spiny Spider)(Gasteracantha arcuata)、Cyrtophora moluccensis、Cyrtophora parnasia、Dolophones conifera、Dolophones turrigera、ドリアズスピニースパイダー(Doria’s Spiny Spider)(Gasteracantha doriae)、ダブルスポッテッドスピニースパイダー(Double−Spotted Spiny Spider)(Gasteracantha mammosa)、ダブルテイルドテントスパイダー(Double−Tailed Tent Spider)(Cyrtophora exanthematica)、Aculeperia ceropegia、Eriophora pustulosa、フラットアネプション(Flat Anepsion)(Anepsion depressium)、フォースパインドジュエルスパイダー(Four−spined Jewel Spider)(Gasteracantha quadrispinosa)、ガーデンオーブウェブスパイダー(Garden Orb Web Spider)(Eriophora transmarina)、ジャイアントライケンオーブウィーバー(Giant Lichen Orbweaver)(Araneus
bicentenarius)、ジョロウグモ(Golden Web Spider)(Nephila maculata)、ハッセルツスピニースパイダー(Hasselt’s Spiny Spider)(Gasteracantha hasseltii)、Tegenaria atrica、Heurodes turrita、アイランドサイクローサスパイダー(Island Cyclosa Spider)(Cyclosa insulana)、ジュエルスパイダーもしくはスピニースパイダー(Jewel or Spiny Spider)(Astracantha minax)、キドニーガーデンスパイダー(Kidney Garden Spider)(Araneus mitificus)、ラグライジズガーデンスパイダー(Laglaise’s Garden Spider)(Eriovixia laglaisei)、ロングベリードサイクローサスパイダー(Long−Bellied Cyclosa Spider)(Cyclosa bifida)、マラバルスパイダー(Malabar
Spider)(Nephilengys malabarensis)、マルチカラードセントアンドリューズクロススパイダー(Multi−Coloured St Andrew’s Cross Spider)(Argiope versicolor)、オーナメンタルツリートランクスパイダー(Ornamental Tree−Trunk Spider)(Herennia ornatissima)、オーバルセントアンドリューズクロススパイダー(Oval St. Andrew’s Cross
Spider)(Argiope aemula)、レッドテントスパイダー(Red
Tent Spider)(Cyrtophora unicolor)、ロシアンテントスパイダー(Russian Tent Spider)(Cyrtophora hirta)、セントアンドリューズクロススパイダー(Saint Andrew’s
Cross Spider)(Argiope keyserlingi)、スカーレットアクシラス(Scarlet Acusilas(Acusilas coccineus)、ギンコガネグモ(Silver Argiope)(Argiope argentata)、スピニーバックトオーブウィーバー(Spinybacked Orbweaver)(Gasteracantha cancriformis)、スポッテッドオーブウィーバー(Spotted Orbweaver)(Neoscona domiciliorum)、セントアンドリューズクロス(St. Andrews Cross)(Argiope aetheria)、セントアンドリューズクロススパイダー(St. Andrews Cross Spider)(Argiope Keyserlingi)、ツリースタンプスパイダー(Tree−Stump Spider)(Poltys illepidus)、トライアングルスパイダー(Triangular Spider)(Arkys clavatus)、トライアングルスパイダー
(Triangular Spider)(Arkys lancearius)、ツースパインドスパイダー(Two−spined Spider)(Poecilopachys australasia)、ジョロウグモ(Nephila)種、例えば、アメリカジョロウグモ(Nephila clavipes)、Nephila senegalensis、Nephila madagascariensisなど、ならびにさらに多くのクモ(さらなるクモ類に関しては、以下も参照のこと)。
【0033】
最も好ましくは、牽引糸タンパク質はニワオニグモ(Araneus diadematus)に由来し、鞭毛状タンパク質はアメリカジョロウグモ(Nephila clavipes)に由来する。
【0034】
好ましい牽引糸配列はADF−3およびADF−4である。用語ADF−3/−4は、ニワオニグモにより生産されたMaSpタンパク質(ニワオニグモ フィブロイン−3/−4)の意味で使用される。ADF−3およびADF−4のいずれのタンパク質も、MaSp IIタンパク質(主要な瓶状スピドロインII)ampullate spidroin II))のクラスに属する。
【0035】
さらなる実施形態によれば、フラグメントは1または複数のポリアラニン含有コンセンサス配列を有するモジュールである。このポリアラニン含有コンセンサス配列は、好ましくはADF−3に由来し、配列番号1のアミノ酸配列(モジュールA)またはそのバリアントを有する。
【0036】
またさらなる実施形態によれば、フラグメントはADF−3に由来するモジュールであり、配列番号2のアミノ酸配列(モジュールQ)またはそのバリアントを有する。上記を組み合わせた配列(およびここで言及する他のすべてのモジュール)も想定される。例えば、工程a)で提供されるフラグメントは1または複数の(AQ)、(QAQ)、または(AQ)と(QAQ)の両方を有する。この場合、好ましくはスパイダーシルクタンパク質は(AQ)12、(AQ)24、(QAQ)8、または(QAQ)16を有する。
【0037】
したがって、本発明で使用される特定のモジュールは、お互いに組み合わせることができ、AとQを組み合わせたモジュール(反復単位)、QとCを組み合わせたモジュール等も本発明に包含される。スパイダーシルクタンパク質に導入されるモジュールの数は限定されないが、組換えタンパク質ごとに合成反復配列の多くのモジュールを使用することが好ましく、その数は好ましくは5−50個のモジュールの範囲、より好ましくは10−40個のモジュール、最も好ましくは15−35個の間のモジュールである。
【0038】
別の好ましいモジュールはADF−4に由来し、配列番号3のアミノ酸配列(モジュールC)またはそのバリアントを有する。工程a)で提供される組み合わせ配列は好ましくはC16またはC32を有する。
【0039】
鞭毛状タンパク質に由来する好ましいモジュールは、モジュールK(配列番号4)、モジュールsp(配列番号5)、モジュールX(配列番号6)およびモジュールY(配列番号7)である。
【0040】
好ましい組み合わせはY8、Y16、X8、X16、K8、K16またはY62sp122を含む。
以下の新たなモジュールが、発明の方法により生成された。また、かかるモジュールが特定の好ましい実施形態で生成される。
牽引糸スパイダーシルク用モジュール
モジュールAC:GPYGPGASAA AAAAGGYGPG CGQQ(配列番号8

ggt ccg tac ggc cca ggt gct agc gcc gca gcg gca gcg gct ggt ggc tac ggt ccg ggc tgc ggc cag cag
モジュールAK:GPYGPGASAA AAAAGGYGPG KGQQ(配列番号9

ggt ccg tac ggc cca ggt gct agc gcc gca gcg gca gcg gct ggt ggc tac ggt ccg ggc aaa ggc cag cag
モジュールCC:GSSAAAAAAA ASGPGGYGPE NQGPCGPGGY
GPGGP(配列番号10)
cgt tct agc gcg gct gca gcc gcg gca gct gcg tcc ggc ccg ggt ggc tac ggt ccg gaa aac cag ggt cct tgc ggc ccg ggc ggc tac ggt cca ggt ggt cca
モジュールCK1:GSSAAAAAAA ASGPGGYGPE NQGPKGPGG Y GPGGP(配列番号11)
cgt tct agc gcg gct gca gcc gcg gca gct gcg tcc ggc ccg ggt ggc tac ggt ccg gaa aac cag ggt cca aaa ggc ccg ggt ggc tac ggt cct ggc ggt ccg
モジュールCK2:GSSAAAAAAA ASGPGGYGPK NQGPSGPGGY
GPGGP(配列番号12)
cgt tct agc gcg gct gca gcc gcg gca gct gcg tcc ggc ccg ggt ggc tac ggt ccg aaa aac cag ggt cca tct ggc ccg ggt ggc tac ggt cct ggc ggt ccg
モジュールCKC:GSSAAAAAAA ASGPGGYGPK NQGPCGPGGY
GPGGP(配列番号13)
cgt tct agc gcg gct gca gcc gcg gca gct gcg tcc ggc ccg ggt ggc tac ggt ccg aaa aac cag ggt cca tgc ggc ccg ggt ggc tac ggt cct ggc ggt ccg
鞭毛状スパイダーシルク用モジュール
モジュールspC:GGTTIIEDLD ITIDGADGPI TICEELTI(
配列番号14)
ggt ggc acc acc atc att gaa gat ctg gac atc act att gat ggt gcg gac ggc ccg atc acg atc tgc gaa gag ctg acc atc
モジュールspK:GGTTIIEDLD ITIDGADGPI TIKEELTI(
配列番号15)
ggt ggc acc acc atc att gaa gat ctg gac atc act att gat ggt gcg gac ggc ccg atc acg atc aaa gaa gag ctg acc atc
モジュールXC:GGAGGAGGAG GCGGAGGS(配列番号16)
ggt ggc gct ggt ggc gcc ggt ggc gca ggt ggc tgc ggc ggt gcg ggc ggt tcc
モジュールXK:GGAGGAGGAG GKGGAGGS(配列番号17)
ggt ggc gct ggt ggc gcc ggt ggc gca ggt ggc aaa ggc ggt gcg ggc ggt tcc
モジュールYC:GPGGAGPGGY GPGGSGPGGY GPGGCGPGGY
(配列番号18)
ggt ccg ggc ggt gcg ggc cca ggt ggc tat ggt ccg ggc ggt tct ggg ccg ggt ggc tac ggt cct ggc ggt tgc ggc ccg ggt ggc tac
モジュールYK:GPGGAGPGGY GPGGSGPGGY GPGGKGPGGY
(配列番号19)
ggt ccg ggc ggt gcg ggc cca ggt ggc tat ggt ccg ggc ggt tct ggg ccg ggt ggc tac ggt cct ggc ggt aaa ggc ccg ggt ggc tac
これらのモジュールは、特定の修飾を達成するために他のモジュール/スパイダーシルクタンパク質と意図的に組み合わせることができる。組み合わせの可能性の例として、構築物C16が使用される。これに関し、モジュールCCの使用による可能な構築物は以下の
ものである:
16C、CC16、C8C8、C16C、C8C8、C88、C48C4等。
【0041】
これらの構築物では、システインのチオール基とリジンのアミノ基を介して、制御された狙いを定めた結合が達成され得る。例えば、CCをモジュールCK1と組み合わせること
により、システインのチオール基およびリジン側鎖のアミノ基に適切な物質を結合する可能性が存在する。
【0042】
好ましい構築物は以下のように設計され得る:例えば、いずれのアミノ酸も一つの単一モジュール(モジュールCKC)に導入され、これは更なる可能性を開く(巨大な数のバリアントが生じる)。
【0043】
一つの例では、アミノ酸の交換がアセンブリの特性の変更または構築物の修飾特性の変更につながる可能性があることを排除することができないため、さらなる好ましい代替例として、本発明は特異的TAGの使用をその対象とする。これらのタグ(例えば以下の配列番号20〜28に開示されているようなTAG)は、上述したようにシステインまたはリジンを含む。TAGの配列は非常に選択されているため、タンパク質の残りの部分との相互作用や集合する挙動の影響は可能な最大の程度まで排除することができる。
【0044】
したがって、好ましい実施形態によれば、ステップd)で回収される修飾スパイダーシルクタンパク質は、配列番号8〜19のモジュールのうちの1または複数を有する。
以下のTAGが、スパイダーシルク構築物における好ましい使用のために開発された。アミノ末端TAG
NHCYS1:GCGGGGGGSG GGG(配列番号20)
ggt tgc ggc ggt ggc ggt ggc ggt tct ggt ggc ggt ggc
NHCYS2:GCCGGGGG(配列番号21)
ggt tgc ggt ggc ggt ggc ggt ggc
NHCYS3:GCGGS GGGGS GGGG(配列番号22)
ggt tgc ggt ggc tct ggt ggt ggc ggg tcc gga ggc ggt ggc
NHLYS1:GKGGGGGGSG GGG (配列番号23)
ggt aaa ggc ggt ggc ggt ggc ggt tct ggt ggc ggt ggc
NHLYS2:GKGGGGGG (配列番号24)
ggt aaa ggt ggc ggt ggc ggt ggc
カルボキシル末端TAG
CHCYS1:。GGGGSGGGG GGCG (配列番号25)
ggc ggt ggc ggt tct ggc ggt ggc ggt tct ggc ggt tgc ggc
CHCYS2:GGGGSGGCG(配列番号26)
ggc ggt ggc ggt tct ggc ggt tgc ggc
CHLYS1:GGGGSGGGGS GGKG(配列番号27)
ggc ggt ggc ggt tct ggc ggt ggc ggt tct ggc ggt aaa ggc
CHLYS2:GGGGSGGKG(配列番号28)
ggc ggt ggc ggt tct ggc ggt aaa ggc
上述したように、例えば、以下の種々の異なるバリアントを使用することができる:
NHCYS116、C16CHCYS1、NHCYS116CHLYS1、C16NHLYS1等。
【0045】
スパイダーシルクタンパク質中の1または複数のアミノ酸をコードする核酸を、リジンまたはシステインにより置き換えると、生じる修飾スパイダーシルクタンパク質の特性が変化し得る。望ましくない修飾を避けるため、当業者には、スパイダーシルクタンパク質配列におけるかかる望ましくない変更を避けるため、そしてさらに好ましい特性を導入するために、置換反応の特定位置をどのように選択するかがわかる。したがって、中性の、例えばアミノ酸側鎖中にいかなる荷電も担持していない、疎水性アミノ酸を使用することが特に好まれる。本来のスパイダーシルクタンパク質配列に置き換えられるアミノ酸はさらに、新しく導入されたアミノ酸のための立体障害を避けるための相当するサイズを有す
るべきである。したがって、リジンまたはシステインにより置換されるためにはセリン、アラニン、グリシン、グルタミン酸塩、アスパラギン酸塩またはスレオニンを使用することが特に好まれる。
【0046】
従って、工程d)で回収される修飾スパイダーシルクタンパク質に、またはステップa)で提供されるスパイダーシルクタンパク質に、配列番号20〜24のアミノ末端TAGをコードする核酸および配列番号25〜28のカルボキシル末端TAGの少なくとも一方が加えられ得る。
【0047】
先に説明したように、本明細書に開示されるアミノ酸配列は、配列番号で提供される配列そのものに限定されない。本明細書に示されるアミノ酸配列はバリアントも包含する。したがって、本発明のタンパク質のアミノ酸配列は、本明細書で開示した配列とアミノ酸の挿入、削除および置換の分だけ異なる配列もすべて包含する。
【0048】
好ましくは、アミノ酸の「置換」は、1つのアミノ酸を類似の構造および/または化学的性質を有する他の1つのアミノ酸によって置き換えることの結果、すなわち保守的なアミノ酸置換である。アミノ酸置換は、関与する残基の極性、電荷、溶解性、疎水性、親水性、および/または両親媒性における類似性に基づいて行われてもよい。たとえば、無極性(疎水性)アミノ酸としてはアラニン、ロイシン、イソロイシン、バリン、プロリン、フェニルアラニン、トリプトファン、およびメチオニンが挙げられ、極性天然アミノ酸としてはグリシン、セリン、スレオニン、システイン、チロシン、アスパラギン、およびグルタミンが挙げられ、正に荷電した(塩基性)アミノ酸としてはアルギニン、リジン、およびヒスチジンが挙げられ、負に荷電した(酸性)アミノ酸としてはアスパラギン酸およびグルタミン酸が挙げられる。
【0049】
「挿入」または「欠失」は、通常約1〜5個のアミノ酸の範囲、好ましくは約1、2、または3個のアミノ酸である。アミノ酸の追加は、通常100個以下であり、好ましくは80個以下であり、より好ましくは50個以下であり、最も好ましくは20個以下であり、本発明のタンパク質上に延長/または中に挿入される。本発明においては、本願で開示されるタンパク質の力学的および他の特性にマイナスの影響を与えないアミノ酸の追加だけが検討されることに注意する。
【0050】
許される変異は、タンパク質へのアミノ酸の挿入、欠失、または置換を、組換えDNA技法を使用して体系的に行い、得られた組換え変異体の活性を分析することによって実験的に決定され得る。これは、当業者に対して、日常的実験を超えるものを要求しない。
【0051】
本発明の方法が、工程d)で調製された前記タンパク質を、適切な方法によってフィラメント、ナノフィブリルおよび糸へと紡糸する工程を含み得ることに留意する。
この目的のために、当該技術分野で周知の紡糸方法を使用可能である。例えば、スパイダーシルクタンパク質のドープ溶液を出糸突起(spinneret)から押し出させてバイオフィラメントを形成する。得られたバイオフィラメントは牽引または伸長させてもよい。分子の結晶構造およびアモルファス(不定形)構造がいずれもバイオフィラメント中に存在する場合は常に、牽引または伸長により、分子を配向させるのに十分なせん断応力が分子に加わり、分子をフィラメントの壁に対して一層平行にし、かつバイオフィラメントの引張強さおよび靭性を高めることになる。
【0052】
好ましくは、ドープ溶液は、少なくとも1%、5%、10%、15%(重量/容量(w/v))の修飾シルクタンパク質である。より好ましくは、ドープ溶液は、20%、25%、30%、35%、40%、45%または50%(w/v)の修飾シルクタンパク質である。好ましい実施形態では、ドープ溶液は本質的に純粋な修飾スパイダーシルクタンパ
ク質を含んでいる。好ましい実施形態では、ドープ液のpHは約6.9である。
【0053】
「ドープ溶液」とは、シルクタンパク質を含み、かつバイオフィラメントの形成またはフィルム成型のために押し出し可能な任意の液体混合物を意味する。ドープ溶液は、タンパク質モノマーに加えて、より高次の凝集物、例えば、二量体、三量体および四量体を含んでいてもよい。通常、ドープ溶液は、pH4.0−12.0の水溶液であって40%未満の有機物またはカオトロピック剤(w/v)を有する。好ましくは、ドープ溶液は有機溶媒またはカオトロピック剤を含まず、溶液の保存性、安定性または作業性を増強するための添加剤を含んでいてもよい。
【0054】
「フィラメント」とは、ナノスケールの微視的な長さから1マイルまたそれ以上の長さまで、長さが不定の繊維を意味する。シルクは天然のフィラメントであり、一方、例としてナイロン(商標)およびポリエステルは合成フィラメントである。
【0055】
スパイダーシルクタンパク質の繊維を紡糸する方法に関するさらに詳しい情報は、本願に援用される2003年7月24日公開の国際公開公報第03060099号(カラツァス(Karatzas)ら)に見出すことができる。
【0056】
さらに、本発明の修飾スパイダーシルクタンパク質はフィルムなどとして、つまり、紡糸工程の不要なスパイダーシルクタンパク質生成物として提供されてもよい。
第2の態様によれば、上述の方法によって得られる修飾スパイダーシルクタンパク質が、本発明により提供される。
【0057】
好ましい修飾スパイダーシルクタンパク質はさらに、修飾スパイダーシルクタンパク質が配列番号8〜19のモジュールのうちの1または複数を有する。
第3の態様によれば、工程d)で得られる修飾スパイダーシルクタンパク質または上述の修飾スパイダーシルクタンパク質をコードする核酸配列が提供される。
【0058】
用語「核酸配列」は、ヌクレオチドのヘテロポリマーまたはこれらのヌクレオチドの配列のことをいう。用語「核酸」および「ポリヌクレオチド」は、本願においてはヌクレオチドのヘテロポリマーのことをいうために互換的に使用される。
【0059】
ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーは、本明細書で使用されるように、ポリヌクレオチドの二重鎖が安定である条件を指す。当業者には知られているように、二重鎖の安定性は、ナトリウムイオン濃度および温度の関数である(例えばSambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual 2nd Ed. (Cold Spring Harbor Laboratory, (1989))。ハイブリダイゼーションに使用されるストリンジェンシーのレベルは、当業者が
容易に変えることが可能である。
【0060】
本明細書において使用されるように、用語「適度にストリンジェントな条件」とは、DNAが、該DNAに対して約60%の同一性、好ましくは約75%の同一性、より好ましくは約85%の同一性、特に好ましくは前記DNAに約90%を越える同一性を有する相補的な核酸に結合することを可能にする条件を意味する。好ましくは、適度にストリンジェントな条件は、50%ホルムアミド、5×デンハルト(Denhart)溶液、5×SSPE、0.2%SDS中で42℃でハイブリダイゼーションした後、0.2×SSPE、0.2%SDS中で65℃で洗浄するのと等価な条件である。
【0061】
第4の態様は、上記に定義した核酸配列と1または複数の調節配列とを有する発現ベクターを対象とする。この発現ベクターは好ましくは1または複数の調節配列を含む。用語「発現ベクター」は一般に、DNA(RNA)配列からポリペプチド/タンパク質を発現
するための、プラスミド、ファージ、ウイルス、またはベクターを指す。発現ベクターは、(1)遺伝子発現において調節的役割を有する遺伝因子、例えばプロモータまたはエンハンサー、(2)mRNAへ転写され、タンパク質に翻訳される構造配列またはコード配列、ならびに(3)適切な転写開始配列および終結配列、のアセンブリを含む転写単位を含むことが可能である。酵母または真核生物の発現系で用いるための構造単位は、宿主細胞によって翻訳されたタンパク質の細胞外分泌を可能にするリーダー配列を含んでいることが好ましい。あるいは、組換えタンパク質がリーダー配列または輸送配列なしで発現される場合、該タンパク質はアミノ末端にメチオニン残基を含みうる。この残基は、最終生産物を提供するために、発現された組換えタンパク質から後で切断される場合もあれば切断されない場合もある。
【0062】
ベクターは好ましくはプラスミドベクターまたはウイルスベクターであり、好ましくはバキュロウイルス系またはワクシニアウイルスベクター系である。別のウイルスベクター系が本発明において使用されてもよい。場合によって、ベクターの修飾が必要なこともある。さらなるウイルスベクターの例は、アデノウイルスおよびすべてのマイナス鎖RNAウイルス(例えば狂犬病ウイルス、麻疹ウイルス、RSVなど)である。
【0063】
使用する準備ができた遺伝子構築物は、例えばpET(Novagen社、アメリカ合衆国ウィスコンシン州マディソン所在)またはpQEシステム(Qiagen社、ドイツ国ヒルデン所在)のような種々の市販の発現ベクターでクローニングすることができる。クローニングに使用されるベクターまたは制限酵素を特定に選択することにより、タンパク質に種々のタンパク質TAGを取り付けることが可能である(例えばT7タグ(Novagen社、アメリカ合衆国ウィスコンシン州マディソン所在)または6×ヒスチジン−タグ)。さらに、種々のプロモータ(例えばT7またはT5)間で選択することも可能である。
【0064】
好ましくは、ベクターは、修飾スパイダーシルクタンパク質をコードする上記の核酸配列を有し、好ましくは配列番号29のまたはそのバリアントのクローニングベクターに由来する。
tgtcgagaag tactagagga tcataatcag ccataccaca tttgtagagg ttttacttgc 60
tttaaaaaac ctcccacacc tccccctgaa cctgaaacat aaaatgaatg caattgttgt 120
tgttaacttg tttattgcag cttataatgg ttacaaataa agcaatagca tcacaaattt 180
cacaaataaa gcattttttt cactgcattc tagttgtggt ttgtccaaac tcatcaatgt 240
atcttatcat gtctggatct gatcactgct tgagcctagg agatccgaac cagataagtg 300
aaatctagtt ccaaactatt ttgtcatttt taattttcgt attagcttac gacgctacac 360
ccagttccca tctattttgt cactcttccc taaataatcc ttaaaaactc catttccacc 420
cctcccagtt cccaactatt ttgtccgccc acagcggggc atttttcttc ctgttatgtt 480
tttaatcaaa catcctgcca actccatgtg acaaaccgtc atcttcggct actttttctc 540
tgtcacagaa tgaaaatttt _tctgtcatct_ cttcgttatt aatgtttgta attgactgaa 600
tatcaacgct tatttgcagc ctgaatggcg aatgggacgc gccctgtagc ggcgcattaa 660
gcgcggcggg tgtggtggtt acgcgcagcg tgaccgctac acttgccagc gccctagcgc 720
ccgctccttt cgctttcttc ccttcctttc tcgccacgtt cgccggcttt ccccgtcaag 780
ctctaaatcg ggggctccct ttagggttcc gatttagtgc tttacggcac ctcgacccca 840
aaaaacttga ttagggtgat ggttcacgta gtgggccatc gccctgatag acggtttttc 900
gccctttgac gttggagtcc acgttcttta atagtggact cttgttccaa actggaacaa 960
cactcaaccc tatctcggtc tattcttttg atttataagg gattttgccg atttcggcct 1020
attggttaaa aaatgagctg atttaacaaa aatttaacgc gaattttaac aaaatattaa 1080
cgtttacaat ttcaggtggc acttttcggg gaaatgtgcg cggaacccct atttgtttat 1140
ttttctaaat acattcaaat atgtatccgc tcatgagaca ataaccctga taaatgcttc 1200
aataatattg aaaaaggaag agtatgagta ttcaacattt ccgtgtcgcc cttattccct 1260
tttttgcggc attttgcctt cctgtttttg ctcacccaga aacgctggtg aaagtaaaag 1320
atgctgaaga tcagttgggt gcacgagtgg gttacatcga actggatctc aacagcggta 1380
agatccttga gagttttcgc cccgaagaac gttttccaat gatgagcact tttaaagttc 1440
tgctatgtgg cgcggtatta tcccgtattg acgccgggca agagcaactc ggtcgccgca 1500
tacactattc tcagaatgac ttggttgagt actcaccagt cacagaaaag catcttacgg 1560
atggcatgac agtaagagaa ttatgcagtg ctgccataac catgagtgat aacactgcgg 1620
ccaacttact tctgacaacg atcggaggac cgaaggagct aaccgctttt ttgcacaaca 1680
tgggggatca tgtaactcgc cttgatcgtt gggaaccgga gctgaatgaa gccataccaa 1740
acgacgagcg tgacaccacg atgcctgtag caatggcaac aacgttgcgc aaactattaa 1800
ctggcgaact acttactcta gcttcccggc aacaattaat agactggatg gaggcggata 1860
aagttgcagg accacttctg cgctcggccc ttccggctgg ctggtttatt gctgataaat 1920
ctggagccgg tgagcgtggg tctcgcggta tcattgcagc actggggcca gatggtaagc 1980
cctcccgtat cgtagttatc tacacgacgg ggagtcaggc aactatggat gaacgaaata 2040
gacagatcgc tgagataggt gcctcactga ttaagcattg gtaactgtca gaccaagttt 2100
actcatatat actttagatt gatttaaaac ttcattttta atttaaaagg atctaggtga 2160
agatcctttt tgataatctc atgaccaaaa tcccttaacg tgagttttcg ttccactgag 2220
cgtcagaccc cgtagaaaag atcaaaggat cttcttgaga tccttttttt ctgcgcgtaa 2280
tctgctgctt gcaaacaaaa aaaccaccgc taccagcggt ggtttgtttg ccggatcaag 2340
agctaccaac tctttttccg aaggtaactg gcttcagcag agcgcagata ccaaatactg 2400
tccttctagt gtagccgtag ttaggccacc acttcaagaa ctctgtagca ccgcctacat 2460
acctcgctct gctaatcctg ttaccagtgg ctgctgccag tggcgataag tcgtgtctta 2520
ccgggttgga ctcaagacga tagttaccgg ataaggcgca gcggtcgggc tgaacggggg 2580
gttcgtgcac acagcccagc ttggagcgaa cgacctacac cgaactgaga tacctacagc 2640
gtgagcattg agaaagcgcc acgcttcccg aagggagaaa ggcggacagg tatccggtaa 2700
gcggcagggt cggaacagga gagcgcacga gggagcttcc agggggaaac gcctggtatc 2760
tttatagtcc tgtcgggttt cgccacctct gacttgagcg tcgatttttg tgatgctcgt 2820
caggggggcg gagcctatgg aaaaacgcca gcaacgcggc ctttttacgg ttcctggcct 2880
tttgctggcc ttttgctcac atgttctttc ctgcgttatc ccctgattct gtggataacc 2940
gtattaccgc ctttgagtga gctgataccg ctcgccgcag ccgaacgacc gagcgcagcg 3000
agtcagtgag cgaggaagcg gaagagcgcc tgatgcggta ttttctcctt acgcatctgt 3060
gcggtatttc acaccgcaga ccagccgcgt aacctggcaa aatcggttac ggttgagtaa 3120
taaatggatg ccctgcgtaa gcgggtgtgg gcggacaata aagtcttaaa ctgaacaaaa 3180
tagatcgagg aggatccatg ggacgaattc acggctaatg aaagcttact gcacagct 3238
本発明の第5の態様は、上記ベクターで形質転換された宿主に関する。宿主は好ましくは原核細胞であり、好ましくは大腸菌(E.coli)または枯草菌(Bacillus
subtilis)である。合成遺伝子の発現は例えば大腸菌k12または大腸菌B細胞で行なうことができる。発現の収量は細菌培養物1リットル当たり、約1gの精製タンパク質である。
【0065】
更に、宿主は、真核細胞、例えば哺乳動物細胞、植物細胞、酵母細胞または昆虫細胞であってもよい。哺乳動物細胞は、CHO、COS、HeLa、293T、HEHまたはBHK細胞、酵母細胞(例えば出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)、分裂酵母(Schizosaccharomyces pombe)、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)、またはハンゼヌラ・ポリモルファ(Hansenula polymorpha))、鱗翅目の昆虫細胞(好ましくはスポドプテラ・フルギペルダ(Spodoptera frugiperda)由来およびイラクサギンウワバ(Trichoplusia ni)由来の細胞、より好ましくはSf9細胞、Sf21細胞またはhighfive細胞)、または植物細胞(好ましくはタバコ、じゃがいも、トウモロコシ、エンドウマメおよびトマト由来)である。
【0066】
昆虫細胞の発現系の一つの利点は、たとえばバクテリア系に関しては、生成されたタンパク質がグリコシル化されており、したがって微生物による分解の標的であるという事実にある。この特徴は、たとえば医療分野において、シルクタンパク質のインビボ使用が意図されるときは常に重要である。インビボ使用では生物分解が望ましい。この特徴は、特に縫合材料ならびに創縫合システムおよび創傷被覆システムにおいて用途を見出す可能性がある。
【0067】
第6の態様では、本発明は、上記修飾スパイダーシルクタンパク質から製造された繊維/糸またはフィラメントを対象とする。
本明細書に定義されたタンパク質、糸、フィラメント、フィルム、発泡体、球体、ナノフィブリル、ヒドロゲルおよびその等価物は、バイオテクノロジーおよび/または医学の分野で使用可能であり、好ましくは創傷閉鎖または被覆システム、神経外科もしくは眼科手術で使用される縫合材料を製造するために使用可能である。さらに、タンパク質/糸は好ましくは置換材料の製造、好ましくは人工軟骨または腱材料の製造のために使用され得る。
【0068】
さらに、本発明の糸/繊維は、医療用粘着ストリップ、皮膚移植材、置換靭帯および外科用メッシュなどの医療用デバイスの製造において;ならびに服地、防弾チョッキのライニング、包装用織物、バッグもしくは財布用ストラップ、ケーブル、ロープ、粘着性接着材、非粘着性接着材、ストラップ用材料、自動車のカバーおよび部分、航空機建造資材、全天候型素材、可撓性仕切材、スポーツ用品のような広範囲の商工業製品において;そして、実際、高い引張強さと弾性が所望の特性である繊維または織物のほとんどあらゆる用途において、使用することが可能である。その他の形態、例えばドライスプレー・コーティング、ビーズ状粒子における該安定な繊維生成物の適用性および用途、または他の組成物を含んだ混合物での使用も本発明によって企図される。
【0069】
上述したように、本発明の修飾スパイダーシルクタンパク質にはそれらのシステイン/リジン残基を介して医薬物質が結合され得る。特に、結合されたタンパク質は、上記の目的に使用することができる。例えば、そのような結合されたタンパク質の想定される応用例は、抗生物質または抗炎薬(これはタンパク質/糸で出来ている)がタンパク質/糸に取り付けられた縫合材料または創傷被覆システムの製造である。
【0070】
本発明の修飾スパイダーシルクタンパク質の最も好ましい応用例が、服地(織物)および皮革、自動車のカバーおよび部品、航空機建造材料の製造および加工、ならびに紙の製造および加工にあることを明示しておく。
【0071】
本発明の修飾スパイダーシルクタンパク質をセルロースおよびケラチンおよびコラーゲンの製品に加えてもよく、したがって、本発明は、セルロース、ケラチンおよび/またはコラーゲンと、本発明のスパイダーシルクタンパク質とを含有する紙またはスキンケアおよびヘアケア製品にも関する。本発明のタンパク質が組み込まれた紙およびスキンケアおよびヘアケア製品は、改善された特性、特に引張強さまたは引裂き強さの改善を示す。
【0072】
さらに、本発明の組換えスパイダーシルクタンパク質は、織物および皮革製品のコーティングとして使用されることによって、コーティングを施した製品に安定性および耐久性を与えうる。該シルクタンパク質は、特に皮革製品のコーティングへの適用可能性を示すが、この場合、タンニングおよびタンニングの環境への悪影響を回避または少なくとも低減することが可能であるからである。
【0073】
また、本発明の修飾スパイダーシルクタンパク質は、食品包装や、バッテリー中の電子
デバイスに例えば使用することができる。修飾スパイダーシルクタンパク質から形成されたフィルムを用いて行った実験は、バッテリーの酸に浸漬した後の酸に対する耐性および安定性を示した。
【0074】
第7の態様では、本発明は、上記に定義した修飾スパイダーシルクタンパク質と、医薬として許容される担体とを含有する医薬組成物または化粧組成物を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0075】
実施例
実験手順
材料
化学薬品はMerck社(ドイツ連邦共和国ダルムシュタット所在)から入手し、そうでない場合には記載してある。DNAの操作および修飾は、以前に記載(1)されているように実施した。制限酵素はNew England Biolabs社(米国マサチューセッツ州ベヴァリー所在)から、リガーゼはPromega Biosciences社(米国カリフォルニア州サンルイスオビスポ所在)から入手した。DNA精製はQiagen社(ドイツ連邦共和国ヒルデン所在)のキットを使用して実施した。合成オリゴヌクレオチドはMWG Biotech社(ドイツ連邦共和国エーバースベルク所在)から入手した。クローニング工程はすべて、Novagen社(米国ウィスコンシン州マディソン所在)の大腸菌株DH10Bで実施した。
【0076】
pAZLベクター内への修飾シルクモジュールおよびTAGのクローニング
鋳型ヌクレオチド配列としてのモジュールC(配列番号3)と、プライマーpAZL−fwd(CACTGAGCGTCAGA CCCCGTAGAAAAGA)(配列番号30)およびpAZLmut−rev(CTCTTAAGCTT TCATTAGCCTGGACCACCTGGACCGTAGCCGCCCGGGCCGCAAGGACCCTGG)(配列番号31)を使用して、モジュールCC(配列番号10)をPCR突然変異誘
発によって作製した。最適なプライマーを得るために、元のモジュールCのいくつかのコドンを変異させた(CCA(Pro24)からCCT(Pro)へ、GGT(Gly28)からGGC(Gly)へ、CCT(Pro32)からCCA(Pro)へ、GGC(Gly33)からGGTへ、CCG(Pro35)からCCA(Pro)へ)。PCR生成物およびpAZLベクター(配列番号29)をAIwNIおよびHindIIIでの消化後にライゲートした。モジュールNHCYS3(GCGG S GGGG S GGGG(ggt tgc ggt ggc tct ggt ggt ggc ggg tec gga ggc ggt ggc)(配列番号22)を、2つ
の合成オリゴヌクレオチドN1(GATCC ATGGGTTGCGGTGGCTCTGGTGGTGGCGGGTCCG GAGGCGGTGGCTAATGAA)(配列番号32)およびN2(AGCTTTCATTAGCCACCGCCTCC GGACCCGCCACCACCAGAGCCACCGCAACCCATG)(配列番号33)をアニーリングすることにより作成した。アニーリングは50pmol/μlの(各)オリゴヌクレオチド溶液の温度を0.1℃/sの増分で95℃から20℃まで減少させることにより行った。誤対合した二本鎖は70℃で変性した後、さらに20℃まで温度を減少させた。20℃−70℃−20℃のサイクルを10回繰り返した後、10回の追加のサイクルを65℃の変性温度で行なった。得られたクローニングカセットをBamHIとHindIIIで消化したベクターpAZL(配列番号29)とライゲートした。
【0077】
修飾合成スパイダーシルク遺伝子の構築
2つの遺伝子断片(例えば単一モジュールまたはモジュール多量体)の接続は、クローニング戦略の基礎的なステップに相当した。この目的のために、指定の5’末端遺伝子断片を含んでいるpAZLベクターをBsaIおよびBsgIで消化し、3’末端遺伝子断片を含む該ベクターをBseRIおよびBsaIでそれぞれ消化した(図1)。この適切
なプラスミド断片のライゲーションにより、2つの遺伝子断片が接続され、その結果正しい構築物の特定を容易にするpAZLベクターのアンピシリン耐性遺伝子(Ap)が再構成された。
【0078】
遺伝子の構築については、C16等の単位を反復するために修飾モジュールCC(配列番
号10)またはNHCYS3(配列番号22)を接続した。その後、結合された修飾モジュールをBamHIとHindIIIでpAZLベクターから切り出し、同様に消化した、T7タグ(MASMTGGQQMGR)(配列番号34)コード配列(2)を提供する細菌の発現ベクターpET21a(Novagen社)とライゲートした。すべての構築物の忠実度はDNA塩基配列決定により確認した。
【0079】
遺伝子発現
シルクの遺伝子はすべて大腸菌株BLR[DE3](Novagen社)中で発現させた。細胞をLB培地中37℃でOD600=0.5まで増殖させた。1mM IPTG(イソプロピル−β−D−チオガラクトシド)で誘導する前に、細胞を、NHCYS316およびC16Cの場合は25℃、ならびにCC16の場合は30℃にそれぞれシフトした。NHCYS316を発現する細胞は誘導の3−4時後に採取し、CC16を発現する細胞は誘導の
4時間後に採取し、C16Cを発現する細胞は誘導の5時間後に採取した。
【0080】
タンパク質精製
細胞を、20mMのN−(2−(ヒドロキシエチル)ピペラジン−N’−(2−エタンスルホン酸)(HEPES)pH7.5、100mM NaCl、0.2mg/ml リゾチーム(Sigma−Aldrich社、米国ミズーリ州セントルイス所在)を含有する5ml/gのバッファに再懸濁し、40℃で30分間インキュベートした。細胞を、フレンチプレス(Basic Z.モデル、APV Deutschland社、ドイツ国リューベック所在)を用いて高圧で破壊した。細胞溶解物を0.1mg/ml デオキシリボヌクレアーゼI(Roche社、ドイツ連邦共和国マンハイム所在)および3mM MgClとともに室温で30分間インキュベートして、ゲノムDNAを消化した。溶解物中の不溶性の大腸菌タンパク質を50,000×g、4℃で30分間沈殿させた。溶解物の可溶性大腸菌タンパク質を、80℃で20分間加熱変性して沈殿させた。沈殿したタンパク質を、50,000×gで30分間沈降させて除去した。加熱変性の間可溶性を維持していたシルクタンパク質を、室温で20%硫酸アンモニウム(800mM)で沈殿させ、10,000×gで10分間遠心分離して採取した。ペレットを8M尿素で洗浄し、6Mのチオシアン酸グアニジン(GdmSCN)に溶解した。全てのタンパク質を10mM NHHCOに対して透析した。透析中に形成された沈殿を、50,000×gで30分間沈降させて除去し、残った可溶性シルクタンパク質を凍結乾燥した。分析に先立って、凍結乾燥したタンパク質を6MのGdmSCNに溶解してから適切なバッファに対して透析した。125,000×gで30分間沈降させて凝集物を除去した。タンパク濃度は、光路長1cmのキュベット中で、消光係数計算値(表1)(3)を使用して276nmで測光により決定した。タンパク質の同一性は、硫酸ドデシルナトリウム‐ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE;>10%トリス‐グリシンゲル)を実施した後にポリフッ化ビニリデン(PVDF)メンブレン(Millipore社、米国マサチューセッツ州ビレリカ)にブロッティングし、一次抗体としてマウス抗T7モノクローナル抗体(Novagen社、1:10,000)および二次抗体として抗マウスIgGペルオキシダーゼ共役抗体(Sigma−Aldrich社、1:5,000)を使用して検出することにより確認した。ペルオキシダーゼ活性を、Amersham Biosciences社(米国ニュージャージー州ピスカタウェイ所在)のECLplus(商標)ウエスタンブロット検出キットを使用して視覚化した。
【0081】
【表1】

【0082】
蛍光
蛍光スペクトルは、FluoroMax(R)分光蛍光計(Jobin Yvon社、米国ニュージャージー州エジソン所在)で記録した。スペクトルは、25℃で10mM NH4HCO3または10mH トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(トリス)/HCl(pH8.0)中で測定した。積分時間は1秒、ステップサイズは0.5nm、帯域幅はそれぞれ5nm(励起)および5nm(発光)とした。
【0083】
二次構造分析
遠紫外線円偏光二色性(CD)スペクトルは、温度調節装置を装備したJasco715型分光旋光計(Jasco International Co.Ltd.社)、日本国東京所在)を使用して得られた。スペクトルはすべて、光路長0.1cmの石英キュベットで、10mMトリス/HCl(pH8.0)中でタンパク質濃度150μg/mlとして20℃で測定した。スキャン速度を20nm/分とし、ステップサイズを0.2nmとし、積分時間を1秒にセットし、帯域幅は1nmとした。4回のスキャンを平均してバッファで補正した。
【0084】
凝集分析
種々のpH値および種々のリン酸塩濃度におけるタンパク質の溶解度を試験するために、凍結乾燥したタンパク質を6M GdmSCNに溶解し、10mM Tris/HCl(pH8.0)に対してpHで透析した。サンプルはすべて種々のバッファ(以下参照)注で室温で2時間インキュベートし、125,000×gで25分間沈降させることによりすべてのサンプルからタンパク質沈殿物を取り除き、残った可溶性タンパク質の量を測光分析により決定した。可溶性タンパク質および凝集タンパク質の合計は最初の可溶性タンパク質の量と等しいはずので、最初に用いたタンパク質の量から可溶性タンパク質の量を差し引くことにより、凝集タンパク質の割合(%)を計算することができた。対照として、タンパク質を10mM Tris/HCl(pH8.0)中でインキュベートした。
【0085】
pHの影響
タンパク質溶液を種々のpHのバッファ(表2)で1:10に希釈した。最終タンパク
質濃度は、NHCYS316およびCC16の場合は0.2mg/mlであり、C16Cの場合は0.174mg/mlであった。
【0086】
【表2】

【0087】
リン酸塩濃度の影響
タンパク質溶液をKXXPO4(pH8.0)で1:5に希釈した。最終タンパク質濃
度は0.4mg/mlとし、リン酸塩濃度は50mM、100mM、200mM、300mMおよび500mMとした。
【0088】
チオール基へのローダミンマレイミドのカップリング
修飾スパイダーシルクタンパク質に小分子有機化合物を結合するために、蛍光染料ローダミンをタンパク質NHCYS316に結合した。1mM ローダミンRedTM2マレイミ
ド(Molecular Probes社、オランダ国ライデン所在)のDMSOストック溶液を10mM Tris/HCl(pH7.5)のタンパク質溶液に加え、20の過剰モルを得た。反応は4℃で暗室にて一晩行なった。残りの非結合の蛍光染料を不活性化するために、100mM 2−メルカプトエタノールを反応溶液に加え、サイズ排除クロマトグラフィ(PD10カラム、Sephadex25、Pharmacia Biotech社、スウェーデンウプサラ所在)にかけた。分画を集め、UV分光測定法によりタンパク質の存在について試験し、SDS−PAGEにより最終的に分析した。タンパク質と蛍光色素分子(フルオロフォア)の視覚化は、銀染色法および532nmの励起波長および580nmの発光波長でTyphoon 9200 Variable Mode Imager(Molecular Dynamics、Amersham Pharmacia Biotech社、スウェーデンウプサラ所在)を使用した蛍光イメージングによりそれぞれ行なった。
【0089】
結果
修飾合成スパイダーシルクの設計、合成および精製
ニワオニグモ(Araneus diadematus)由来の牽引糸シルクタンパク質ADF−4に由来する合成スパイダーシルクモジュールC(配列番号3)に基づく、種々の修飾モジュールを作製した。修飾はTAGまたはモジュールCのいずれかにおける各バリアント注の1つのシステインを含む。ここでは位置25のセリンをシステインに変異させたが、それは両者のアミノ酸のサイズおよび極性が類似しているためである。さらに、この突然変異に対する疎水性の予測がモジュールCとわずかにしか異ならないため、かかる位置はタンパク質特性にあまり影響しないと考えられた。生じたモジュールCC(配
列番号10)をPCR突然変異誘発を使用して取得した(実験手順を参照)。以下の工程で、モジュールCCの核酸を、C16をコードする核酸配列の上流または下流でクローニン
グベクターpAZL(配列番号29)を用いてクローニングし、タンパク質CC16また
はC16Cを生成した。さらに、グリシン、セリンおよび1つのシステインから成るTA
Gをコードするオリゴヌクレオチド配列(NHCYS3、配列番号22)をC16をコードする
5’−末端ヌクレオチド配列の位置でクローニングし、NHCYS316を生成した。
【0090】
細菌で合成した後、修飾シルクタンパク質を加熱工程に続いて硫安沈澱することによって精製した。タンパク質の同一性は、イムノブロッティングにより、すべてのシルクタンパク質のアミノ末端に結合しているT7ペプチドタグ配列に対する抗体を使用して確認した。比較として、非修飾タンパク質C16を適用した。完全長タンパク質に加えて、低分子量の微量のタンパク質も見出された。C16とは対照的に、各々が1つのシステインを含むすべての修飾タンパク質は、高分子量の位置にタンパク質バンドがさらに存在し(図3AおよびBの「−」)、このバンドは試料に2−メルカプトエタノール等の還元剤を加えることにより除去可能であった(図3Bの「+」)。したがって、かかるバンドはジスルフィド架橋により接続されたタンパク質二量体を示している。タンパク質純度を、蛍光発光の測定によりさらに測定した。波長275nmの入射光はチロシンとトリプトファンの励起および蛍光発光をもたらし、295nmの光は専らトリプトファンを励起する。設計したスパイダーシルクタンパク質はいずれもトリプトファンを含まないので、295nmで励起した際の蛍光発光は、平均1.5%のトリプトファンを含んでいる(4)大腸菌タンパク質の混入を示すことになる。すべての修飾シルクタンパク質調製物の蛍光測定により、シルクタンパク質中に豊富に存在するチロシンのスペクトルと同種の発光スペクトルが示された。対照的に、トリプトファンの蛍光は検出されず、該タンパク質調製物が高純度であることが示された(図3C)。純タンパク質の収量は細胞培養物1リットル当たり12〜30mgの範囲であった。
【0091】
修飾C16スパイダーシルクは非修飾C16と同じ二次構造を示す
二次構造をCD分光法により調査した。修飾タンパク質はすべて、本質的に構造化していないタンパク質に典型的なスペクトルを示すC16と類似のスペクトルを示した(図4)。
【0092】
修飾C16スパイダーシルクは、非修飾C16よりもリン酸塩およびpHに対する感度が高い
pH、カリウムやリン酸塩のようなイオン、および機械的ストレスは、天然シルクの集合に関与する。本願発明者らは、C16と比較した修飾タンパク質CC16、C16C、およびNHCYS316の集合挙動に対する種々のリン酸カリウム濃度および種々のpHの影響について調べた。すべての修飾タンパク質は5.0より低いpH値で有意な凝集(>10%)を示した。CC16は、7.0より低い値でさえ有意な凝集を示し、pH1で70%を
超える凝集を示した。対照的に、C16はかかる条件下では程ほどの凝集しか示さなかった(図5A)。同様に、リン酸カリウムは、C16で観察されるよりも低濃度で修飾タンパク質を凝集させた(図5B)。修飾タンパクの凝集がこのように大きく影響を受けることについては、タンパク質の電荷の違いでは説明できない。なぜなら、それらの修飾タンパク質の理論的等電点はC16の理論的等電点と同じである(NHCYS316)か、非常にわずかにしか異ならない(CC16で3.45、C16で3.48)ためである。したがって、こ
の結果は、システインの存在と、安定した二量体を形成する可能性とによる可能性がある。
【0093】
修飾合成スパイダーシルクタンパク質のアセンブリ
スパイダーシルク配列ADF−3およびADF−4に由来する合成スパイダーシルクタンパク質は、球体、ナノフィブリル、発泡体、およびフィルム等の形態学的に異なる形式に組み立てることができる。以下の実験を、修飾スパイダーシルクタンパク質が異なる集合挙動に関して同じ特徴を示すことを実証するために行なった。
【0094】
1. 球体
1mg/mlのCC16、C16C、NHCYS316およびC16の10mM Tris−(
ヒドロキシメチル)アミノメタン(Tris)(pH8.0)溶液に2.4M 硫酸アンモニウムを加えることにより、0.3から1.5μmの間の範囲の直径を示すタンパク質球体(図6A)が生成された。修飾たんぱく質から形成された球体と、C16から形成された球体との間に有意な違いは見出されなかった。
【0095】
2.ナノフィブリル
ナノフィブリルは、C16CおよびNHCYS316の10mM Tris溶液(pH8.
0)を4℃で数週間インキュベートした後、室温で3日間インキュベートすることにより生成された(図6B)。
【0096】
3.フィルム
ニワオニグモ(Araneus diadematus)由来の牽引糸シルクタンパク質ADF−4に由来する合成スパイダーシルクタンパク質から形成されたフィルムは、ヘキサフルオロ−2−プロパノール(HFIP)またはギ酸から(5)から注型成形することが可能である。凍結乾燥されたタンパク質を、HFIPまたはギ酸に直接溶解した。HFIPは修飾タンパク質CC16、C16CQ6およびNHCYS316の二次構造の増加を引き起こす。10mM Tris(pH8.0)中では、これらのタンパク質のCDスペクトルは、主としてランダムコイル状のタンパク質を示す波長200nm未満での単一の極小値のみを示した(図4)が、対照的に、HFIP中のタンパク質溶液のCDスペクトルは202−203nmにおける最小値と、220nmにおけるさらなる肩とを示し、これはα−へリックス含有量の増加を示す(図7)。
【0097】
修飾スパイダーシルクタンパク質から、ギ酸と同様HFIPからもフィルムを注型成形することが可能である。フィルムはポリスチレン表面に注型成形され、そこで溶媒の蒸発後に容易に剥がされ得る(図6)。フィルムの二次構造を分析するために、0.01%w/v のタンパク質溶液を石英ガラス上に注型成形した。溶媒を蒸発させた後、円偏光二色性を測定した。HFIPから注型成形されたフィルムは208nmおよび220nmで2つの最小値を有するスペクトルを示し、これはα−へリックス含有量が高いことを示す(図7)。HFIPから注型成形されたフィルムを水に不溶性にするために(いわゆるキャストフィルムは水と接触すると容易に溶解する)、該フィルムをメタノールで処理した(5)。この処理後、スペクトルはβ−シートに富んだ構造に典型的な218nmにおける単一の最小値を示した(例えば図7でNHCYS316について示されている)。フィルムの処理時の二次構造のこの変化は、合成スパイダーシルクフィルムについて既に記載されている(5)。興味深いことに、ギ酸から注型成形されたフィルムは、使用されるタンパク質に依存して、その二次構造が異なっていた。NHCYS316は、以前に記述されたC16(5)と同様にβ−シートに富んだ構造を示すフィルムを生じさせるが(CDスペクトルで218nmに最小値)、CC16から得られたフィルムのスペクトルは208nmおよ
び220nmでの2つの最小値を示した。C16Cタンパク質フィルムは、200nmで
単一の最小値を有するCDスペクトルを示した。
【0098】
4.修飾合成スパイダーシルクの標識付け
システインまたはリジンによる合成スパイダーシルクの修飾は、薬物、金属、ポリペプチド、量子ドット等の特異的結合を可能にする。有機小分子へのシステインのSH基の結合を実証するために、蛍光色素分子ローダミンをタンパク質NHCYS316に結合させた。ローダミンはマレインイミド共役形式の中で使用され、これはpH7.0−7.5でSH基と容易にかつ非常に特異的に反応する。SDS−PAGEと、その後に続く蛍光イメージングおよび銀染色法(図8)により、有効なカップリングが目で観察された。
参考文献
1. Sambrook, J. and Russell, D. (2001,) Molecular cloning.
2. Kroll, D. J., Abdel-Malek Abdel-Hafiz, H., Marcell, T., Simpson, S., Chen, C.
Y., Gutierrez-Hartmann, A., Lustbader, J. W., and Hoeffler, J. P. (1993) A multifunctional prokaryotic protein expression system: overproduction, affinity purification, and selective detection, DNA Cell Biol. 72, 441-453.
3. Gill, S. C. and von Hippel, P. H. (1989) Calculation of Protein Extinction Coefficients from Amino-Acid Sequence Data, Analytical Biochemistry 182, 319-326.
4. Blattner, F. R., Plunkett, G., Ill, Bloch, C. A., Perna, N. T., Burland, V., Riley, M., Collado-Vides, J., Glasner, J. D., Rode, C. K., Mayhew, G. F., Gregor, J., Davis, N. W., Kirkpatrick, H. A., Goeden, M. A., Rose, D. J., Mau, B., and
Shao, Y. (1997) The complete genome sequence of Escherichia coli K-12, Science 277, 1453-1474.
5. Slotta, U., Tammer, M., Kroner, F., Koelsch, P., Scheibel, T. (2006) Structural analysis of spider silk films, Supromolecular chemistry 18, 465-471
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】本発明に使用されるクローニングカセットの概略的構造。
【図2】本発明のDNAモジュールの多量体化の例。
【図3】修飾スパイダーシルクタンパク質の分析。サンプルは、還元剤(2−メルカプトエタノール)有り(+)または無し(−)で分析した。(A)抗−T7タグ抗体でのウェスタンブロッティング後に組換えシルクタンパク質のT7タグを検知した。(B) タンパク質をSDS−PAGEにかけた後、銀染色を行った。(C)275nmまたは295nmの励起波長での精製C16C(直線)、NHCYS316(一点鎖線)およびCC16(点線)の蛍光発光スペクトルを示す。295nmにおける励起はトリプトファン蛍光の不在を明らかにしている。したがって、タンパク質サンプルは細菌タンパク質の検知し得る汚染を示さない。
【図4】修飾スパイダーシルクタンパク質の二次構造分析。C16C(直線)、NHCYS316(点鎖線)およびCC16(点線)のCDスペクトルは20℃で記録した。
【図5】修飾合成スパイダーシルクタンパク質の集合。タンパク質の集合は(A)pHを変えた、または(B)リン酸カリウム濃度を変えたバッファで2時間インキュベートした後に決定した(表2参照)。C16に関して得られた曲線は正方形により表わされ、NHCYS316に関して得られた曲線は円により表され、CC216に関して得られた曲線は三角により表され、C16C2に関して表された曲線は逆三角により表される。
【図6】修飾スパイダーシルクタンパク質の集合形態。(A) 走査型電子顕微鏡法(SEM)によって視覚化されたC16および修飾タンパク質により形成された球。(B)原子間力顕微鏡によって視覚化されたナノフィブリル、(C)1% w/v CC216のHFIP溶液から注型成形されたフィルム。
【図7】修飾スパイダーシルクタンパク質から作製されたタンパク質フィルムのCDスペクトル。(A)HFIPのタンパク質溶液をフィルム注型成形の前に分析した。(B)フィルムは平坦な石英ガラス上へHFIPから直接注型成形し、CD分光法により分析した。(C)メタノールで処理したHFIPから注型成形したフィルムのCD分析(例としてNHCYS316について示す)。(D)平坦な石英ガラス上へギ酸から直接注型成形したフィルムの分析。フィルム厚の定義が正確ではないため、ΘMRWは測定できなかった。
【図8】ローダミンRedTM2マレイミドのNHCYS16へのカップリング。結合されたタンパク質をSDS−PAGEで分析した。(A)タンパク質は銀染色法により視覚化した。(B) ローダミンは蛍光イメージングにより視覚化した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スパイダーシルクタンパク質を修飾する方法であって、
a)スパイダーシルクタンパク質、またはリジン残基もシステイン残基も含まない同スパイダーシルクタンパク質のフラグメントもしくはバリアントをコードする核酸を提供する工程と、
b)前記スパイダーシルクタンパク質中の1または複数のアミノ酸をコードする核酸をリジンまたはシステインをコードする核酸配列により置換するか、またはリジンおよびシステインの少なくとも一方をコードする核酸配列を有する核酸配列を前記配列に付加する工程と、
c)工程b)で得られた修飾核酸配列を適切な宿主中で発現する工程と、
d)発現した修飾スパイダーシルクタンパク質を回収する工程と、
から成る方法。
【請求項2】
前記修飾スパイダーシルクタンパク質中の前記リジンおよびシステイン分子の少なくとも一方に他の物質を結合する工程をさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程b)で置換される1または複数のアミノ酸が、グリシン、アラニン、セリン、グルタミン酸塩、アスパラギン酸塩およびスレオニンから選択される請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記リジンおよびセリンの少なくとも一方に結合される物質は、ポリペプチド、多糖類、マーカー分子、量子ドット、金属、核酸、脂質および低分子薬物から選択される請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記低分子薬物はカルボキシル基、カルボニル基、イミド基、またはチオール基を有する薬物から選択される請求項4に記載の方法。
【請求項6】
工程a)で提供されるスパイダーシルクタンパク質は牽引糸および鞭毛状タンパク質の少なくとも一方を主成分とする請求項1〜5に記載の方法。
【請求項7】
工程a)で提供される牽引糸および鞭毛状タンパク質の少なくとも一方のタンパク質は、円網性種(Orb Web Spider)のコガネグモ(Araneidae)およびアラネオイド(Araneoids)の牽引糸または鞭毛状タンパク質から選択される請求項6に記載の方法。
【請求項8】
工程a)で提供される牽引糸および鞭毛状タンパク質の少なくとも一方のタンパク質は、ニワオニグモ(Araneus diadematus)およびアメリカジョロウグモ(Nephila clavipes)の少なくとも一方に由来する請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記フラグメントは1または複数のポリアラニン含有コンセンサス配列を有するモジュールである請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記ポリアラニン含有コンセンサス配列はADF−3に由来し、配列番号1のアミノ酸配列(モジュールA)またはそのバリアントを有する請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記フラグメントはADF−3に由来するモジュールであり、配列番号2のアミノ酸配列(モジュールQ)またはそのバリアントを有する請求項8に記載の方法。
【請求項12】
工程a)で提供されるスパイダーシルクタンパク質が1または複数の(AQ)、(QAQ)、または(AQ)と(QAQ)の両方を有する請求項10または11に記載の方法。
【請求項13】
前記スパイダーシルクタンパク質が(AQ)12、(AQ)24、(QAQ)8、または(Q
AQ)16を有する請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記フラグメントは、ADF−4に由来するモジュールであり、配列番号3のアミノ酸配列(モジュールC)またはそのバリアントを有する請求項8に記載の方法。
【請求項15】
工程a)で提供されるスパイダーシルクタンパク質がC16またはC32を有する請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記フラグメントは鞭毛状タンパク質に由来するモジュールであり、モジュールK(配列番号4)、モジュールsp(配列番号5)、モジュールX(配列番号6)、およびモジュールY(配列番号7)の少なくとも一つ、またはそれらのバリアントである請求項8に記載の方法。
【請求項17】
前記スパイダーシルクタンパク質がY8、Y16、X8、X16、K8、K16またはY62sp122を有する請求項16に記載の方法。
【請求項18】
工程d)で回収される修飾スパイダーシルクタンパク質が配列番号8〜19のモジュールのうちの1または複数を有する請求項1〜17のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
工程d)で回収される修飾スパイダーシルクタンパク質に、またはステップa)で提供されるスパイダーシルクタンパク質に、配列番号20〜24のアミノ末端TAGおよび配列番号25〜28のカルボキシル末端TAGの少なくとも一方が付加される請求項1〜17のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
請求項1〜19のいずれかに記載の方法により得られる修飾スパイダーシルクタンパク質。
【請求項21】
配列番号8〜28のモジュールの1または複数を有する修飾スパイダーシルクタンパク質。
【請求項22】
請求項1の工程d)で得られる修飾スパイダーシルクタンパク質または請求項20または21に記載の修飾スパイダーシルクタンパク質をコードする核酸配列。
【請求項23】
請求項22に記載の核酸配列と、1または複数の調節配列とを有する発現ベクター。
【請求項24】
プラスミドまたはウイルスベクターであり、好ましくはバキュロウイルス系またはワクシニアウイルスベクター系である請求項23に記載のベクター。
【請求項25】
請求項22に記載の核酸配列を有し、好ましくは配列番号29またはそのバリアントのクローニングベクターに由来するベクター。
【請求項26】
請求項23〜25のベクターで形質転換された宿主。
【請求項27】
原核細胞である請求項26に記載の宿主。
【請求項28】
大腸菌(E.coli)または枯草菌(Bacillus subtilis)である請
求項27に記載の宿主。
【請求項29】
真核細胞である請求項26に記載の宿主。
【請求項30】
哺乳動物細胞、植物細胞、酵母細胞または昆虫細胞である請求項29に記載の宿主。
【請求項31】
CHO細胞、COS細胞、HeLa細胞、293T細胞、HEH細胞またはBHK細胞である請求項30に記載の哺乳動物細胞。
【請求項32】
酵母細胞である請求項31に記載の宿主。
【請求項33】
出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)、分裂酵母(Schizosaccharomyces pombe)、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)、またはハンゼヌラ・ポリモルファ(Hansenula polymorpha)である請求項32に記載の宿主。
【請求項34】
昆虫細胞が、鱗翅類の昆虫細胞、好ましくはスポドプテラ・フルギペルダ(Spodoptera frugiperda)由来およびイラクサギンウワバ(Trichoplusia ni)由来の細胞から選択される請求項30に記載の宿主。
【請求項35】
昆虫細胞はSf9細胞、Sf21細胞またはhighfive細胞である請求項34に記載の宿主。
【請求項36】
植物細胞は、タバコ、じゃがいも、トウモロコシ、エンドウマメおよびトマトに由来する請求項30に記載の宿主。
【請求項37】
請求項20または21に記載の修飾スパイダーシルクタンパク質と、医薬として許容される担体とを含有する医薬組成物または化粧組成物。
【請求項38】
請求項20または21に記載の修飾スパイダーシルクタンパク質から製造された繊維/糸、フィラメント、フィルム、発泡体、球体、ナノフィブリル、ヒドロゲルおよびその等価物。
【請求項39】
請求項20または21に記載の修飾スパイダーシルクタンパク質を含有する紙製品。
【請求項40】
請求項20または21に記載の組換えスパイダーシルクタンパク質を含有する織物または革製品。
【請求項41】
前記組換えスパイダーシルクタンパク質がコーティングとして存在する請求項39または40に記載の紙製品、織物または革製品。
【請求項42】
請求項20または21に記載のタンパク質を含有するか、同タンパク質から構成されたゲルまたは発泡体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2009−505668(P2009−505668A)
【公表日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−528407(P2008−528407)
【出願日】平成18年8月29日(2006.8.29)
【国際出願番号】PCT/EP2006/008452
【国際公開番号】WO2007/025719
【国際公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【出願人】(506426030)
【氏名又は名称原語表記】TECHNISCHE UNIVERSITAET MUENCHEN
【Fターム(参考)】