説明

偏向光学素子及びその製造方法並びに光学装置

【課題】光学装置を構成する部品の位置決めを容易にするとともに、光学装置のサイズを小型化することが可能な、偏向光学素子及びその製造方法並びに光学装置を提供すること。
【解決手段】平坦な底面22と、底面22に鋭角24で交差する傾斜面26と、傾斜面26に配置された、点光源18から出射する光線束19の拡がり角及び光線束19の伝播方向を偏向する反射手段30とを備えることを特徴とする偏向光学素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、光線束の拡がり角と伝播方向とを偏向することが可能な、偏向光学素子及びその製造方法並びに光学装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光ファイバ通信の分野では、電気信号を光信号に変換した上で光ファイバに結合するための結合回路と呼ばれる光学装置が一般的に用いられる。この種の光学装置として、光源としての半導体レーザと、半導体レーザから出射される光の伝播方向を90°変換するミラーと、このミラーから出射される光をコリメートするレンズとを備えたものが知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【非特許文献1】Holger Karstensen et al. "Module Packaging for High-Speed Serial and Parallel Transmission" Electronic Components and Technology Conference 2000,IEEE,Catalog No.:00CH37070, ISSN:0569-5503, Fig.3
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
図12に示すように、この従来技術の光学装置200は、基板202と、基板202上にマウント204を介して取り付けられた光源としての半導体レーザ206と、半導体レーザ206から出射される光の伝播方向を90°変えるミラー208と、このミラー208から出射される光をコリメートするレンズ210とを備えている。
【0004】
この光学装置200は、
(1)半導体レーザ206、ミラー208及びレンズ210の3部品を高精度に位置決めして配置しなければ所定の結合効率が得られないこと、
(2)光学装置200をミラー208とレンズ210のサイズを加えた寸法以下に小型化できないこと、
という問題点を有していた。
【0005】
この発明の目的は、これらの問題点に鑑みなされたものであり、光学装置を構成する部品の位置決めを容易にするとともに、光学装置のサイズを小型化することが可能な、偏向光学素子及びその製造方法並びに光学装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前述の課題を解決するために、この発明の偏向光学素子の特徴は、平坦な底面と、底面に鋭角で交差する傾斜面と、反射手段とを備えていて、この反射手段が前述の傾斜面に配置されていて、点光源から出射する光線束の拡がり角と伝播方向とを偏向する点にある。
【0007】
尚、「偏向」とは、光線束の、伝播方向及び拡がり角を同時に変えることをいう。そして、光線束の、伝播方向又は拡がり角を単独で変更する場合には単に「変える」という。
【0008】
また、光線束の拡がり角とは、光線束の半径をw、光線束の伝播方向をzとしたときdw/dzで定義される角をいう。
【0009】
この偏向光学素子は、点光源から出射する光線束の拡がり角と伝播方向とを偏向することができる。つまり、この偏向光学素子は、従来技術における、レンズとミラーの機能を兼ね備えている。
【0010】
また、この偏向光学素子を用いることにより、光学装置において位置決めすべき部品数を、従来の3部品(光源、レンズ及びミラー)から2部品(光源及び偏向光学素子)へと削減することができる。
【0011】
さらに、この偏向光学素子の平坦な底面は、偏向光学素子が配置される平面上における偏向光学素子の滑らかな移動を可能とする。
【0012】
この発明の第1の光学装置は、平坦な主表面を有する支持体と、主表面にマウントを介して取り付けられた点光源と、この発明の偏向光学素子とを備えている。そして偏向光学素子は、偏向光学素子の底面と支持体の主表面とが平行となるように、主表面に固定されている。
【0013】
第1の光学装置は、平坦な底面を有するこの発明の偏向光学素子が支持体の平坦な主表面上に配置されているので、偏向光学素子を主表面上で滑らかに移動することができる。
【0014】
この発明の第2の光学装置は、平坦な主表面を有するSi基板と、主表面にマウントを介して取り付けられた点光源と、Si基板とは別体の偏向光学素子とを備えている。ここで、偏向光学素子は、点光源から出射される主表面に対して平行な伝播方向を有する光線束の拡がり角を0°に変えかつ光線束の伝播方向を90°変える反射手段を備えている。また、偏向光学素子は、Si基板の主表面に設けられている溝であって、偏向光学素子を主表面との傾斜角を鋭角に保持する斜面を有する溝に固定されている。
【0015】
この発明の第1の偏向光学素子の製造方法は、この発明の光学ガラス製又は光学樹脂製の偏向光学素子を製造するに当たり、底面、及び非球面凹面鏡に対応する湾曲した凹面を備えた傾斜面を射出成形により一体に形成することを特徴とする。
【0016】
この発明の第2の偏向光学素子の製造方法は、Si基板の主表面に反射型回折光学素子を備えた偏向光学素子を製造するに当たり、反射型回折光学素子をSi基板の主表面にリソグラフィー技術及びエッチング技術を利用して形成する。そして、Si基板を主表面に対して鋭角で切断することにより、底面とする切断面を形成することを特徴とする
【発明の効果】
【0017】
この発明の偏向光学素子を結合回路としての光学装置に用いることにより、光学装置を構成する部品数を従来よりも削減することができる。これにより光学装置のサイズを小型化することができる。またこれにより光学装置を構成する部品(点光源及び偏向光学素子)の位置決めを容易に行うことができる。
【0018】
また、この発明の第1の光学装置は、この発明の偏向光学素子を備えているので、光学装置を構成する部品数を従来よりも少なくすることができる。これにより、部品の位置決めを容易に行うことができるとともに、光学装置を小型化できる。
【0019】
また、この発明の第2の光学装置は、従来のレンズとミラーとの機能を兼ね備えた偏向光学素子を備えているので、光学装置を構成する部品数を従来よりも少なくすることができる。これにより、光学装置を小型化できる。また、Si基板の主表面に予め位置決めした溝を設けこの溝に偏向光学素子を固定するので、偏向光学素子の位置決めがより容易になる。
【0020】
また、この発明の第1の偏向光学素子の製造方法は、射出形成を用いているので、偏向光学素子を安価に大量に製造することができる。
【0021】
さらに、この発明の第2の偏向光学素子の製造方法は、Si基板を主表面に対して鋭角の角度で切断するので、特別な加工を施すことなく、切断面をそのまま偏向光学素子の底面とすることができる。また、ULSI製造プロセスでよく知られたリソグラフィー技術及びエッチング技術を用いて反射型回折光学素子を形成するので、反射型回折格子の寸法精度をサブミクロンオーダーとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
図1〜11を参照して、この発明の実施の形態について説明する。尚、各図は、各構成要素の形状、大きさ及び配置関係について、この発明が理解できる程度に概略的に示している。また、以下、この発明の好適な構成例について説明するが、各構成要素の材質及び数値的条件などは、単なる好適例に過ぎない。従って、この発明は、以下の実施の形態に何ら限定されない。
【0023】
(実施の形態1)
図1〜4を参照して、実施の形態1の光学装置の一好適例につき説明する。図1は、この発明の偏向光学素子を備えた光学装置の概略構成を説明するための、一部分を断面切り口で示す側面図である。図2は、偏向光学素子の断面切り口を示す図である。図3は、偏向光学素子の製造方法を説明するための、金型を示す図である。図4は、偏向光学素子の変形例の断面切り口を示す図である。尚、図1中の矢印aは、入射する光線束の伝播方向を示し、及び矢印bは、反射した光線束の伝播方向を示す。
【0024】
図1及び図2に示すように、光学装置10は、平坦な主表面12を有する支持体14と、主表面12にマウント16を介して取り付けられた点光源18と、この発明の偏向光学素子20とを備えている。偏向光学素子20は、偏向光学素子20の底面22と支持体14の主表面12とが平行となるように、主表面12に固定されている。
【0025】
続いて、光学装置10を構成する部品についての説明を行う。
【0026】
支持体14は、好ましくはSi基板を用いるのがよい。
【0027】
点光源18は、好ましくはGaAs/AlGaAs結晶を用いた端面発光型半導体レーザ素子の光の出射点とするのがよい。この端面発光型半導体レーザ素子は、例えば、縦横の長さが250μm程度であり、及び厚さが100μm程度である。また、点光源18は、偏向光学素子20の焦点位置に配置されている。点光源18と偏向光学素子20との間の距離は例えば1mm程度である。
【0028】
マウント16は、点光源18で発生する熱を効率よく伝導することができるように、好ましくは熱伝導率の高い銅で形成されているのがよい。また、点光源18から出射される光線束19を効率よく偏向光学素子20に入射させるために、マウント16は、点光源18を主表面12の上方、すなわち、偏向光学素子20の焦点位置に保持している。さらに、点光源18から出射される光線束19の伝播方向が主表面12と平行になるように、マウント16は点光源18を支持している。尚、ここで、光線束19とは、点光源18と偏向光学素子20との間を伝播する光線束のことを指すものとする。
【0029】
偏向光学素子20は、平坦な底面22と、底面22に鋭角24で交差する傾斜面26と、底面22及び傾斜面26を接続する端面28と、底面22、傾斜面26及び端面28で囲まれた三角形の左右側面29l,29r(図には、直接的に示されていない。)とを備えた三角形柱状の部品である。偏向光学素子20は、底面22と主表面12とが接するように支持体14に固定されている。傾斜面26には、点光源18から出射する光線束19の拡がり角と伝播方向とを偏向する反射手段としての非球面凹面鏡30が作り込まれている。
【0030】
偏向光学素子20は、好ましくは光学ガラス製とするのがよい。また、偏向光学素子20のサイズは設計に応じた適切なサイズとし得るが、縦、横及び高さがそれぞれ1mm程度のサイズとするのが好ましい。
【0031】
鋭角24は、好ましくは45°とするのがよく、端面28と底面22とのなす角度は設計に応じて適切に決めればよく、通常は、90°とするのがよい。端面28と底面22とのなす角度を90°とする場合には、偏向光学素子20は、直角プリズムの直角に交わる稜に対向する斜面に非球面凹面鏡30が形成された形状を有する。
【0032】
非球面凹面鏡30は、その表面に反射膜(図示を省略)を有していて、反射膜を、好ましくはSiNとSiO2膜とを交互に積層した誘電体多層膜で形成するのがよい。
【0033】
偏向光学素子20に設けられた非球面凹面鏡30は、点光源18から出射される光線束19の拡がり角を0°に変えかつ光線束19を、その伝播方向を90°変えて、反射する。換言すれば、非球面凹面鏡30は、主表面12に対して平行に伝播する光線束19の伝播方向を主表面12に垂直な方向に変換し、かつ、光線束19をコリメートした上で出射する。
【0034】
非球面凹面鏡30の湾曲した凹面30aは、点光源18から出射される光線束19の拡がり角を0°に変えかつ光線束19の伝播方向を90°変えるような曲率を有している。この曲率は、所定の条件を与えることで計算により求めることができる。ここで所定の条件とは、点光源18から入射した光線が非球面凹面鏡30の全ての点において反射の法則を満足しつつ主表面12に対して垂直に反射する条件のことを言う。
【0035】
続いて、図3を参照して、偏向光学素子20の製造方法について説明する。図3は、偏向光学素子20を製造する金型32の断面図である。
【0036】
偏向光学素子20は、金型32を用いた射出成形により形成される。金型32は、上部型32a及び下部型32bを備えている。上部型32aには底面22に対応する面22'と、底面22に直交する端面28に対応する面28'とが形成されている。下部型32bには、傾斜面26に対応する面26'と、傾斜面26に設けられる非球面凹面鏡30に対応する湾曲した凸面30'とが形成されている。そして、射出成形により得られた三角形柱状の部品の非球面凹面鏡30に対応する湾曲した凹面30aに、公知の方法により誘電体多層膜等で代表される、反射層を形成することにより偏向光学素子20が得られる。
【0037】
続いて、実施の形態1の光学装置10の作用効果を説明する。図12を参照して説明した従来の光学装置200は、ミラー208とレンズ210とを個別に設けている。ところが、実施の形態1の光学装置10はミラーとレンズの双方の機能を兼ねた偏向光学素子20を備えている。よって、偏向光学素子20のみで、点光源18から出射する光線束19の拡がり角を0°に変えかつ光線束19の伝播方向を90°変えることができる。つまり、光学装置10を構成する部品数を従来よりも削減することができる。これにより光学装置10において位置決めすべき部品数を従来よりも削減することができる。またこれにより光学装置10のサイズを従来よりも小型化することができる。
【0038】
また、支持体14の平坦な主表面12と偏向光学素子20の平坦な底面22とが接しているので、偏向光学素子20は主表面12上を滑らかに移動することができる。これにより偏向光学素子20の位置決め作業を円滑に行うことができる。
【0039】
また、偏向光学素子20を、光学ガラスの射出成形により形成する場合には、偏向光学素子20を安価に大量に製造することができる。
【0040】
また、偏向光学素子20を、直角プリズム状の形状とする場合には、金型32を、鋭角24が45°以外の場合よりも、簡易に、製作することができる。
【0041】
尚、支持体14は、Si基板に限られず、水平な平坦面でかつこの面に光学部品を搭載したときの水準の基準面となる表面を有する部品であれば、公知の種々の材料を用いて形成してもよい。
【0042】
また、点光源18は、光学的に点状の光源とみなし得る手段でよく、例えば、面発光型半導体レーザ素子でもよい。
【0043】
また、端面発光型半導体レーザ素子としてGaAs/AlGaAs結晶を用いた例を挙げたが、GaInAsP/InP結晶を用いて形成した半導体レーザ素子としてもよい。
【0044】
また、マウント16は、点光源18で発生する熱を効率よく伝導することができる材料であれば、銅に限られず、例えばダイアモンド等で形成したものでもよい。
【0045】
また、偏向光学素子20は、既に説明した通り、平坦な底面22と、底面22に鋭角24で交差する傾斜面26とを備えていれば、その形状は直角プリズム状に限られない。例えば、図4(A)に示したように、台形状の断面を持つ部品34の端面である傾斜面26に非球面凹面鏡30が設けられていてもよい。また、図4(B)に示すように、板状部品36の端面である傾斜面26に非球面凹面鏡30が設けられていてもよい。
【0046】
また、底面22と主表面12とは接している必要はなく、底面22と主表面12とを平行に配置できれば、両者の間にスペーサ等を介装してもよい。
【0047】
また、鋭角24の角度は、傾斜面26に形成された非球面凹面鏡30が点光源18からの光線束19を受光して、支持体14の主表面12に対して垂直な方向へと向けることができる角度であって、非球面凹面鏡30から出射される光線束の強度が実用上許容できる範囲であれば、45°に限られない。ただしこの場合、非球面凹面鏡30の凹面30aの曲率は、鋭角24の大きさに合わせて改めて設計する必要がある。鋭角24としては、例えばSi単結晶の(100)面と(111)面のなす角度(約54.7°)であってもよい。
【0048】
また、非球面凹面鏡30の凹面30aの表面に形成された反射膜は、屈折率の高い誘電体と屈折率の低い誘電体とを交互に積層したものであれば、SiN/SiO2多層膜に限られず、公知の種々の材料を用いてもよい。
【0049】
また、非球面凹面鏡30の凹面30aの表面に形成された反射膜は、誘電体多層膜に限られず、金属膜を用いてもよい。この場合の金属膜としては、例えば、表面側に保護膜としてMgF2膜が形成されたAl膜や、接着性を向上するためのCr膜を下地(光学ガラスや光学樹脂)との間に介在させたAu膜等を用いてもよい。
【0050】
また、偏向光学素子20を形成するための材料は、非球面凹面鏡30を形成できる材質であれば、光学ガラスに限られず、ポリメチルメタクリレートやポリスチレン等の光学樹脂を用いてもよい。
【0051】
(実施の形態2)
図5を参照して、実施の形態2の光学装置の一好適例につき説明する。図5は、この発明の偏向光学素子を備えた光学装置の概略構成を説明するための、一部分を断面切り口で示す側面図である。
【0052】
実施の形態2の光学装置38は、支持体14の主表面12に設けた凹部40に偏向光学素子20を位置決めして配置した以外は、実施の形態1の光学装置10と同様の構成を有している。よって、実施の形態2においては、実施の形態1との相違点を主に説明する。
【0053】
図5に示すように、光学装置38は、支持体14であるSi基板の主表面12に凹部40を設けている。凹部40は、主表面12において、偏向光学素子20の配置位置に対応した位置に形成されている。この凹部40は、底面40aと前壁40bと左右壁40l,40rとを備えている。底面40aは平坦かつ主表面12と平行に形成されている。前壁40bは、底面40aの点光源18側の端部に設けられた壁面である。前壁40bは、偏向光学素子20の前後方向(図面左右方向)の位置決めに用いられる。左右壁40l,40rは、前壁40bの左右端部から点光源18に向かう方向とは反対方向に延びる壁面である。右壁40rは、偏向光学素子20の水平方向(図面垂直方向)の位置決めに用いられる。左右壁40l,40r間の間隔は、偏向光学素子20の左右側面29l,29r間の幅よりも大きい値とされている。
【0054】
そして、凹部40内に偏向光学素子20が位置決めして配置されている。つまり、偏向光学素子20の右側面29rを凹部40の右壁40rに接するように配置し、かつ、偏向光学素子20の底面22と傾斜面26とがなす稜を前壁40bに突き付けて配置することで、偏向光学素子20が位置決めされている。ここで、「位置決め」とは、非球面凹面鏡30の焦点を点光源18の位置に一致させるように、偏向光学素子20を配置することをいう。
【0055】
凹部40は、好ましくはULSI製造プロセスで採用されるリソグラフィー技術及びエッチング技術を用いて形成されている。
【0056】
続いて、実施の形態2の光学装置38の作用効果を説明する。
【0057】
実施の形態2の光学装置38は、実施の形態1の光学装置10と同様の作用効果を奏するとともに、凹部40を設けたことにより、より簡易に偏向光学素子20の位置決めを行うことができる。
【0058】
また、凹部40を、リソグラフィー技術及びエッチング技術を用いて形成すれば、凹部40、特に偏向光学素子20の位置決めに重要な役割を果たす前壁40b及び右壁40rをサブミクロンオーダーの位置精度の凹部とすることができる。これにより、偏向光学素子20の位置決め精度を高めることができる。よって、偏向光学素子20に設けられた非球面凹面鏡30は、光線束19の伝播方向の変換角度をより正確に90°に近づけることができる。さらに、非球面凹面鏡30から出射される光線束をより平行光線に近づけることができる。
【0059】
尚、光学装置38を構成する部品は、実用上の機能を損なわない範囲で、実施の形態1で説明した部品により置換することが可能である。
【0060】
また、この実施の形態の凹部40は、右壁40rを偏向光学素子20の位置決めに用いる構造であるが、左壁40lを偏向光学素子20の位置決めに用いる構造としてもよい。
【0061】
また、凹部40は、前壁40b及び右壁40r(又は左壁40l)により偏向光学素子20の位置決めを行う構造を有しているが、凹部40の形状や底面40aの面積に特に制限はない。
【0062】
(実施の形態3)
図6〜8を参照して実施の形態3の光学装置の一好適例につき説明する。図6は、この発明の偏向光学素子を備えた光学装置の概略構成を説明するための、一部分を断面切り口で示す側面図である。図7は、偏向光学素子の格子溝パターンを模式的に示す図である。図8は、偏向光学素子の製造方法を説明するための図である。
【0063】
実施の形態3の光学装置42は、反射手段として非球面凹面鏡30の代わりに反射型回折光学素子46を用いた以外は実施の形態1の光学装置10と同様の構成を有している。よって、実施の形態3においては、実施の形態1との相違点を主に説明する。
【0064】
図6に示すように、偏向光学素子20は、平坦な底面22と、底面22に鋭角24で交差する傾斜面26と、底面22及び傾斜面26を接続する端面28と、底面22、傾斜面26及び端面28で囲まれた三角形の左右側面29l,29r(図には、直接的に示されていない。)とを備えた三角形柱状の部品である。偏向光学素子20は、底面22と主表面12とが接するように支持体14に固定されている。傾斜面26には、点光源18から出射する光線束19の拡がり角と伝播方向とを偏向する反射手段としての反射型回折光学素子46が備えられている。
【0065】
偏向光学素子20は、好ましくはSi基板を用いて形成するのがよい。
【0066】
鋭角24は、好ましくは45°とするのがよい。
【0067】
反射型回折光学素子46は、その表面に反射膜(図示を省略)を有していて、反射膜を、好ましくはSiNとSiO2膜とを交互に積層した誘電体多層膜で形成するのがよい。
【0068】
偏向光学素子20に設けられた反射型回折光学素子46は、点光源18から出射される光線束19の拡がり角を0°に変えかつ光線束19を、その伝播方向を90°変えて、反射する。換言すれば、反射型回折光学素子46は、主表面12と平行に伝播する光線束19の伝播方向を主表面12に垂直な方向に変換し、かつ、光線束19をコリメートした上で出射する。
【0069】
この反射型回折光学素子46の格子溝(格子凸部)パターンは、計算機ホログラムにより設計される。すなわち、反射型回折光学素子46で反射された後の光線束を反射型回折光学素子46の方向に出射する仮想的な光源(以下、仮想光源という)を想定する。そして、仮想光源から出射された光線束と点光源18から出射される光線束19とで形成される干渉縞を反射型回折光学素子46が配置される平面において計算により求め、この干渉縞の部分に格子溝(格子凸部)を形成するように格子溝(格子凸部)パターンを設計する。このような反射型回折光学素子の設計方法は、例えば特許第3479499号等に説明されている。
【0070】
このようにして設計された格子溝(格子凸部)パターンを模式的に図7に示す。尚、図7においては、図面手前側の上空45°の線上に点光源18が配置されており、図面奥側の上空45°の方向に向かって反射型回折光学素子46の反射光が出射されるものとする。図7においては、格子溝(格子凸部)パターンは、線分で囲まれた多角形状となっている(特に、同心円の中心に近い部分)が、これはコンピュータ計算に与えた条件によるものであり、実際には滑らかな楕円形状である。図7によれば、反射型回折光学素子46の格子溝(格子凸部)パターンは、対称線S(図面一点鎖線)を中心として左右対称であるとともに、この対称線Sに沿って図面手前側に偏心した略同心の楕円形状である。
【0071】
続いて、図8を参照して、この実施の形態の偏向光学素子20の製造方法について説明する。まず、反射型回折光学素子46をSi基板48の主表面50にリソグラフィー技術及びエッチング技術を利用して形成する。続いて、反射型回折光学素子46が形成されたSi基板48を主表面50に対して鋭角24の角度(この実施の形態では45°)で切断することで偏向光学素子20を得る。
【0072】
すなわち、厚さが625μm程度のSi基板48の主表面50上にフォトレジストを塗布する。続いて、図7に示した反射型回折光学素子46の格子溝(格子凸部)のマスクパターンをステッパ等によりフォトレジスト膜に転写する。その後、現像を行い不要なフォトレジストを除去する。そして、Si基板48上に形成されたフォトレジストをマスクとして、反応性イオンエッチングやウエットエッチング等によりSi基板48のエッチングを行う。そして、フォトレジストを灰化処理により除去する。最後に、反射型回折光学素子46に対応する位置に公知の方法で誘電体多層膜を形成することにより、主表面50上に多数の反射型回折光学素子46が形成されたSi基板48を得る。
【0073】
続いて、ダイシングを行い個々の反射型回折光学素子46を分離する。前述のように反射型回折光学素子46は、対称線Sを中心として左右対称であるとともに、この対称線Sに沿って一方側に偏心した略同心の楕円状の格子溝(格子凸部)パターンを有している。対称線Sに平行な方向におけるダイシングは、切断線52aに沿ってSi基板48の主表面50に対して垂直に行われ、これにより得られた切断面が偏向光学素子20の左右側面29l,29rとなる。また、前記一方側(偏心方向)における対称線Sに垂直な方向のダイシングは、切断線52bに沿ってSi基板48の主表面50に対して鋭角24の角度でもって行われる。これにより得られた切断面が偏向光学素子20の底面22となる。さらに、前記一方側(偏心方向)の反対側における対称線Sに垂直な方向のダイシングは、切断線52cに沿ってSi基板48の主表面50に対して鋭角の角度でもって行われる。これにより得られた切断面が偏向光学素子20の端面28となる。このようにして、Si基板48の主表面50が傾斜面26となる偏向光学素子20が形成される。
【0074】
続いて、実施の形態3の光学装置42の作用効果について説明する。
【0075】
実施の形態3の光学装置42は、従来の光学装置200のミラー208とレンズ210の機能を兼ねた偏向光学素子20を備えている。よって、偏向光学素子20のみで、点光源18から出射する光線束19の拡がり角を0°に変えかつ光線束19の伝播方向を90°変えることができる。つまり、光学装置42を構成する部品数を従来よりも削減することができる。これにより光学装置42において位置決めすべき部品数を従来よりも削減することができる。またこれにより光学装置42のサイズを従来よりも小型化することができる。
【0076】
また、支持体14の平坦な主表面12と偏向光学素子20の平坦な底面22とが接しているので、偏向光学素子20は主表面12上を滑らかに移動することができる。これにより偏向光学素子20の位置決めの作業を円滑に行うことができる。
【0077】
また、反射型回折光学素子46をULSI製造プロセスで用いられるリソグラフィー技術及びエッチング技術を用いてSi基板48上に形成するので、格子溝(格子凸部)パターンをサブミクロンオーダーの精度で形成することができる。これにより、偏向光学素子20に設けられた反射型回折光学素子46は、光線束19の伝播方向の変換角度をより正確に90°に近づけることができる。さらに、反射型回折光学素子46から出射される光線束をより平行光線に近づけることができる。
【0078】
さらに、Si基板48の主表面50に対して鋭角24の角度でもってダイシングを行うことで、偏向光学素子20を形成する。ここで、ダイシングの位置精度は、数ミクロンオーダーであるので、得られた偏向光学素子20は数ミクロンオーダーの寸法精度を有することとなる。これにより、偏向光学素子20に設けられた反射型回折光学素子46は、光線束19の伝播方向の変換角度をより正確に90°に近づけることができる。さらに、反射型回折光学素子46から出射される光線束をより平行光線に近づけることができる。また、Si基板48の主表面50に対して鋭角24の角度でもってダイシングを行うので、特別な加工を施すことなく、切断面をそのまま偏向光学素子20の底面22とすることができる。
【0079】
尚、光学装置42を構成する部品は、実用上の機能を損なわない範囲で、実施の形態1で説明したような部品により置換することが可能である。
【0080】
また、偏向光学素子20は、平坦な底面22と、底面22に鋭角24で交差する傾斜面26とを備えていれば、その形状は三角形柱状に限られない。例えば、図8に示したように、一方側(偏心方向)の反対側における対称線Sに垂直な方向のダイシングを切断線52dに沿ってSi基板48の主表面50に対して垂直に行うことで得られる断面台形状の部品を偏向光学素子20としてもよい。
【0081】
(実施の形態4)
図9を参照して実施の形態4の光学装置の一好適例につき説明する。図9は、この発明の偏向光学素子を備えた光学装置の概略構成を説明するための、一部分を断面切り口で示す側面図である。
【0082】
実施の形態4の光学装置54は、反射手段として反射型回折光学素子46を用いた以外は、実施の形態2と同様の構成を有している。
【0083】
図9に示すように、光学装置54においては、支持体14であるSi基板の主表面12に設けた凹部40内に実施の形態3の偏向光学素子20が位置決めされて配置されている。
【0084】
このように、実施の形態4の光学装置54は、実施の形態2及び実施の形態3の光学装置38,42と同様の作用効果を奏する。
【0085】
尚、凹部40の構造は、実用上の機能を損なわない範囲で、実施の形態2で説明したような変形が可能である。
【0086】
また、光学装置54を構成する部品は、実用上の機能を損なわない範囲で、実施の形態3で説明したような部品により置換することが可能である。
【0087】
(実施の形態5)
図10を参照して実施の形態5の光学装置の一好適例につき説明する。図10は、実施の形態5の光学装置の概略構成を説明するための、一部分を断面切り口で示す側面図である。
【0088】
図10に示すように、光学装置56は、平坦な主表面58を有するSi基板60と、主表面58にマウント62を介して取り付けられた点光源64と、Si基板60とは別体の偏向光学素子66とを備えている。ここで、偏向光学素子66は、点光源64から出射される主表面58に対して平行な伝播方向を有する光線束68の拡がり角を0°に変えかつ光線束68の伝播方向を90°変える反射型回折光学素子70を備えている。また、偏向光学素子66は、Si基板60の主表面58に設けられている溝72であって、偏向光学素子66を主表面58との傾斜角を鋭角74に保持する斜面76を有する溝72に固定されている。
【0089】
続いて、光学装置56を構成する部品についての説明を行う。
【0090】
Si基板60は、好ましくは主表面58が(100)面である基板を用いるのがよい。
【0091】
点光源64は、好ましくはGaAs/AlGaAs結晶を用いた端面発光型半導体レーザ素子の光の出射点とするのがよい。この端面発光型半導体レーザ素子は、例えば、縦横の長さが250μm程度であり、及び厚さが100μm程度である。また、点光源64は、偏向光学素子60の焦点位置に配置されている。点光源64と偏向光学素子66との間の距離は例えば1mm程度である。
【0092】
溝72は、光線束68の進行方向前方の主表面58に位置決めされて設けられている。ここで、「溝72の位置決め」とは、偏向光学素子66が備える反射型回折光学素子70の焦点が点光源64の位置に一致するような位置に溝72を形成することをいう。溝72は、平坦な斜面76,78を備えており、これらの斜面76,78は、溝72の底部の稜で接合している。つまり、溝72は断面がV字形である。溝72は、その深さが500μm程度である。斜面76,78は、Si基板60の(111)面である。従って、斜面76,78は(100)面である主表面58と一定の角度(約54.7°)で交差している。
【0093】
この溝72は、Si基板60をアルカリ性エッチング液によりウエットエッチングすることにより形成される。アルカリ性エッチング液を用いたSi基板のウエットエッチングでは、エッチング速度が面方位に大きく依存し、(100)面は(111)面よりも2桁近く速い速度でエッチングされることが知られている。よって、Si基板60の主表面58において、溝72に対応する部分以外をフォトレジスト等で被覆しておき、このSi基板60をアルカリ性エッチング液に接触させる。すると、(111)面が露出した部分ではエッチングの進行が事実上停止し、(100)面のみが選択的にエッチングされていく。このようにして、面方位が(111)である斜面76,78を有する溝72が形成される。ここで、アルカリ性エッチング液は、好ましくは33wt%のKOH水溶液を用いるのがよい。
【0094】
マウント62は、点光源64で発生する熱を効率よく伝導することができるように、好ましくは熱伝導率の高い銅で形成されているのがよい。また、点光源64から出射される光線束68を効率よく偏向光学素子66に入射させるために、マウント62は、点光源64を主表面58の上方、すなわち、偏向光学素子66の焦点位置に保持している。さらに、点光源64から出射される光線束68の伝播方向が主表面58と平行になるようにマウント62は点光源64を支持している。尚、ここで、光線束68とは、点光源64と偏向光学素子66との間を伝播する光線束のことを指すものとする。
【0095】
偏向光学素子66は、互いに平行な表面66aと裏面66bとを有する板状の支持部品を備えている。この支持部品の表面66aに反射手段としての反射型回折光学素子70が形成されている。支持部品は、好ましくは厚さが500〜600μmであるSi基板を用いるのがよい。
【0096】
反射型回折光学素子70は、点光源64から出射される光線束68の拡がり角を0°に変えかつ光線束68を、その伝播方向を90°変えて、反射する。換言すれば、反射型回折光学素子70は、主表面58に対して平行に伝播する光線束68の伝播方向を主表面58に垂直な方向に変換し、かつ、光線束68をコリメートした上で出射する。
【0097】
偏向光学素子66は、反射型回折光学素子70が点光源64に臨むように、溝72に固定されている。より詳細には、偏向光学素子66は、主表面58に対する傾斜角が鋭角74となるように、斜面76に保持されている。すなわち、偏向光学素子66は、下端部が斜面78に当接し、裏面66bが斜面76に接するように溝72に固定されている。よって、偏向光学素子66に形成された反射型回折光学素子70の主表面58に対する傾斜角(鋭角74)は、Si単結晶の(100)面と(111)面とがなす角度(約54.7°)となる。
【0098】
このように、溝72に固定された反射型回折光学素子70はSi基板60の主表面58に対して、Si単結晶の(100)面と(111)面とがなす角度だけ傾斜している。このため、主表面58に平行に伝播する光線束68を主表面58に垂直な方向に反射するために、反射型回折光学素子70の反射オフセット角を(Si単結晶の(100)面と(111)面とがなす角度−45°)×2(≒19.4°)としている。つまり、反射型回折光学素子70は軸ずれ型である。
【0099】
このような反射型回折光学素子70の格子溝(格子凸部)パターンは実施の形態3とおおむね同様の手順で計算機ホログラムにより設計される。
【0100】
このようにして設計された格子溝(格子凸部)パターンを有する反射型回折光学素子70は、実施の形態3とおおむね同様の手順で、リソグラフィー技術及びエッチング技術を利用してSi基板上に形成される。その後、Si基板の厚さを裏面研磨等により100μm程度とした上で、ダイシングを行うことで、偏向光学素子66を形成する。
【0101】
続いて、実施の形態5の光学装置56の作用効果について説明する。
【0102】
このように、実施の形態5の光学装置56は、従来の光学装置200のミラー208とレンズ210の機能を兼ねた偏向光学素子66を備えている。よって、偏向光学素子66のみで、点光源64から出射する光線束68の拡がり角を0°に変えかつ光線束68の伝播方向を90°変えることができる。つまり、光学装置56を構成する部品数を従来よりも削減することができる。これにより光学装置56において位置決めすべき部品数を従来よりも削減することができる。またこれにより光学装置56のサイズを従来よりも小型化することができる。
【0103】
また、Si基板60の主表面58に予め位置決めした溝72を設け、この溝72に偏向光学素子66を固定するので偏向光学素子66の位置決めがより容易になる。
【0104】
また、この溝72は、ULSI製造プロセスで用いられるウエットエッチング技術により形成されているので、溝72の位置精度をミクロンオーダーとすることができる。これにより、この溝72に固定される偏向光学素子66の位置精度を向上することができる。よって、偏向光学素子66に設けられた反射型回折光学素子70は、光線束68の伝播方向の変換角度をより正確に90°に近づけることができる。さらに、反射型回折光学素子70から出射される光線束をより平行光線に近づけることができる。
【0105】
また、主表面58が(100)面であるSi基板60にアルカリ性エッチング液によるウエットエッチングを行うことで、溝72に主表面58と一定の角度で交差する斜面76((111)面)を自動的に形成することができる。これにより、この斜面76に偏向光学素子66を保持することで、自動的に、偏向光学素子66の主表面58に対する傾斜角をSi単結晶の(100)面と(111)面とがなす角度(鋭角74)とすることができる。よって、偏向光学素子66に設けられた反射型回折光学素子70は、光線束68の伝播方向の変換角度をより正確に90°に近づけることができる。さらに、反射型回折光学素子70から出射される光線束をより平行光線に近づけることができる。
【0106】
また、反射型回折光学素子70をULSI製造プロセスで用いられるリソグラフィー技術及びエッチング技術を用いてSi基板上に形成するので、安価かつ大量に偏向光学素子66を得ることができる。
【0107】
尚、点光源64は、光学的に点状の光源とみなし得る手段でよく、面発光型半導体レーザ素子を用いてもよい。
【0108】
また、端面発光型半導体レーザ素子としてGaAs/AlGaAs結晶を用いた例を挙げたが、GaInAsP/InP結晶を用いて形成した半導体レーザ素子としてもよい。
【0109】
また、マウント62は、点光源64で発生する熱を効率よく伝導することができる材料であれば、銅に限られず、例えばダイアモンド等で形成したものでもよい。
【0110】
また、溝72は断面V字形である必要はなく、(111)面である斜面76を有していれば、例えば、断面メサ形状であってもよい。
【0111】
また、反射型回折光学素子70に形成された反射膜は、屈折率の高い誘電体と屈折率の低い誘電体とを交互に積層したものであれば、SiN/SiO2多層膜に限られず、公知の種々の材料を用いてもよい。
【0112】
また、反射型回折光学素子70に形成された反射膜は、誘電体多層膜に限られず、金属膜を用いてもよい。この場合の金属膜としては、例えば、表面側に保護膜としてMgF2膜が形成されたAl膜や、接着性を向上するためのCr膜を下地との間に介在させたAu膜等を用いてもよい。
【0113】
また、アルカリ性エッチング液は、KOH水溶液に限らず、例えば、ヒドラジン(N24)、エチレンジアミン(NH2(CH22NH2)等の公知のアルカリ水溶液を用いてもよい。
【0114】
また、偏向光学素子66の材料は、溝72に固定できる厚さであって互いに平行な表面と裏面とを有し、表面側に反射型回折光学素子70を形成できるものであれば、Si基板に限られない。
【0115】
また、偏向光学素子66の裏面66bと斜面76とは接している必要はなく、裏面66bと斜面76とを平行に配置できれば、両者の間にスペーサ等を介装してもよい。
【0116】
(実施の形態6)
図11を参照して、実施の形態6の光学装置の一好適例につき説明する。図11は、実施の形態6の光学装置の概略構成を説明するための、一部分を断面切り口で示す側面図である。
【0117】
実施の形態6の光学装置80は、反射手段として非球面凹面鏡82を用いた以外は実施の形態5の光学装置56と同様の構成を有している。よって、実施の形態6においては、実施の形態5との相違点を主に説明する。
【0118】
図11に示すように、光学装置80の偏向光学素子84は、互いに平行な表面84aと裏面84bとを有する板状の支持部品を備えている。そして、この支持部品の表面84aに反射手段としての非球面凹面鏡82が形成されている。支持部品としては、好ましくは厚さが100μm程度である光学ガラスが用いられる。
【0119】
偏向光学素子84は、非球面凹面鏡82が点光源64に臨むように溝72に固定されている。より詳細には、偏向光学素子84は、主表面58に対する傾斜角が鋭角74となるように、斜面76に保持されている。すなわち、偏向光学素子84は、下端部が斜面78に当接し、裏面84bが斜面76に接するように溝72に固定されている。よって、偏向光学素子84に形成された非球面凹面鏡82の主表面58に対する傾斜角(鋭角74)は、Si単結晶の(100)面と(111)面とがなす角度(約54.7°)となる。
【0120】
非球面凹面鏡82の表面には反射膜としてSiNとSiO2膜とを交互に積層した誘電体多層膜が形成されている。
【0121】
非球面凹面鏡82は、点光源64から出射される光線束68の拡がり角を0°に変えかつ光線束68を、その伝播方向を90°変えて、反射する。換言すれば、非球面凹面鏡82は、主表面58に対して平行に伝播する光線束68の伝播方向を主表面58に垂直な方向に変換し、かつ、光線束68をコリメートした上で出射する。
【0122】
非球面凹面鏡82の湾曲した凹面82aは、点光源64から出射される光線束68の拡がり角を0°に変えかつ光線束68の伝播方向を90°変えるような曲率を有している。この曲率は、所定の条件を与えることで計算により求めることができる。ここで所定の条件とは、点光源64から入射した光線が非球面凹面鏡82の全ての点において反射の法則を満足しつつ主表面58に対して垂直に反射する条件のことを示す。
【0123】
このような偏向光学素子84は、実施の形態1とおおむね同様の手順で、金型を用いた射出成形により形成される。
【0124】
このように実施の形態6の光学装置80は、実施の形態5の光学装置56と同様の作用効果を奏するとともに、偏向光学素子84を射出成形により形成するので、より簡易に偏向光学素子84を得ることができる。
【0125】
尚、非球面凹面鏡82の凹面82aの表面に形成された反射膜は、屈折率の高い誘電体と屈折率の低い誘電体とを交互に積層したものであれば、SiN/SiO2多層膜に限られず、公知の種々の材料を用いてもよい。
【0126】
また、非球面凹面鏡82の凹面82aの表面に形成された反射膜は、誘電体多層膜に限られず、金属膜を用いてもよい。この場合の金属膜としては、例えば、表面側に保護膜としてMgF2膜が形成されたAl膜や、接着性を向上するためのCr膜を下地(光学ガラスや光学樹脂)との間に介在させたAu膜等を用いてもよい。
【0127】
また、偏向光学素子84を形成するための材料は、非球面凹面鏡82を形成できる材質であれば、光学ガラスに限られず、ポリメチルメタクリレートやポリスチレン等の光学樹脂を用いてもよい。
【0128】
また、溝72の構造及び形成方法は、実用上の機能を損なわない範囲で、実施の形態5で説明したような変形が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0129】
【図1】実施の形態1の光学装置の概略構成を説明するための、一部分を断面切り口で示す側面図である。
【図2】実施の形態1の偏向光学素子の断面切り口を示す図である。
【図3】実施の形態1の偏向光学素子の製造方法を説明するための、金型を示す図である。
【図4】実施の形態1の偏向光学素子の変形例の断面切り口を示す図である。
【図5】実施の形態2の光学装置の概略構成を説明するための、一部分を断面切り口で示す側面図である。
【図6】実施の形態3の光学装置の概略構成を説明するための、一部分を断面切り口で示す側面図である。
【図7】実施の形態3の偏向光学素子の格子溝パターンを示す図である。
【図8】実施の形態3の偏向光学素子の製造方法を説明するための図である。
【図9】実施の形態4の光学装置の概略構成を説明するための、一部分を断面切り口で示す側面図である。
【図10】実施の形態5の光学装置の概略構成を説明するための、一部分を断面切り口で示す側面図である。
【図11】実施の形態6の光学装置の概略構成を説明するための、一部分を断面切り口で示す側面図である。
【図12】従来の光学装置の概略構成を示す側面図である。
【符号の説明】
【0130】
10,38,42,54,56,80 光学装置
12,50,58 主表面
14 支持体
16,62 マウント
18,64 点光源
19,68 光線束
20,66,84 偏向光学素子
22,40a 底面
24,74 鋭角
26 傾斜面
28 端面
29r 右側面
29l 左側面
30,82 非球面凹面鏡
30a,82a 凹面
32 金型
32a 上部型
32b 下部型
22',26',28' 面
30' 凸面
34 部品
36 板状部品
40 凹部
40b 前壁
40r 右壁
40l 左壁
46,70 反射型回折光学素子
48,60 Si基板
52a,52b,52c,52d 切断線
72 溝
76,78 斜面
66a,84a 表面
66b,84b 裏面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平坦な底面と、該底面に鋭角で交差する傾斜面と、該傾斜面に配置された、点光源から出射する光線束の拡がり角及び該光線束の伝播方向を偏向する反射手段とを備えることを特徴とする偏向光学素子。
【請求項2】
前記反射手段が、前記光線束の拡がり角を0°に変えかつ該光線束の伝播方向を90°変える、前記傾斜面に形成された非球面凹面鏡であることを特徴とする請求項1に記載の偏向光学素子。
【請求項3】
前記偏向光学素子が、光学ガラス製又は光学樹脂製であることを特徴とする請求項2に記載の偏向光学素子。
【請求項4】
前記鋭角が、45°であることを特徴とする請求項2又は3に記載の偏向光学素子。
【請求項5】
前記反射手段が、前記光線束の拡がり角を0°に変えかつ該光線束の伝播方向を90°変える反射型回折光学素子であって、
前記反射型回折光学素子が、Si基板の主表面に形成されており、
前記傾斜面が前記Si基板の主表面であり、及び、
前記底面が前記主表面に対して前記鋭角の切断面である
ことを特徴とする請求項1に記載の偏向光学素子。
【請求項6】
前記鋭角が、45°であることを特徴とする請求項5に記載の偏向光学素子。
【請求項7】
平坦な主表面を有する支持体と、該主表面にマウントを介して取り付けられた点光源と、請求項1〜6のいずれか一項に記載の偏向光学素子とを備えていて、
該偏向光学素子は、偏向光学素子の底面と前記支持体の主表面とが平行となるように、該主表面に固定されていることを特徴とする光学装置。
【請求項8】
前記支持体は、前記偏向光学素子の配置位置に対応した前記主表面の位置に、凹部が設けられており、及び
前記偏向光学素子は、前記凹部の備える平坦かつ前記主表面と平行な底面と前記偏向光学素子の底面とが平行となるように、当該凹部に位置決めされて固定されている
ことを特徴とする請求項7に記載の光学装置。
【請求項9】
前記支持体がSi基板であることを特徴とする請求項7又は8に記載の光学装置。
【請求項10】
平坦な主表面を有するSi基板と、該主表面にマウントを介して取り付けられた点光源と、前記Si基板とは別体の偏向光学素子とを備え、
前記偏向光学素子は、前記点光源から出射される前記主表面に対して平行な伝播方向を有する光線束の拡がり角を0°に変えかつ前記光線束の伝播方向を90°変える反射手段を備えており、及び
前記偏向光学素子は、前記Si基板の主表面に設けられている溝であって、前記偏向光学素子を前記主表面との傾斜角を鋭角に保持する斜面を有する当該溝に固定されている
ことを特徴とする光学装置。
【請求項11】
前記反射手段は、平面を有する支持部品の前記平面に形成されている反射型回折光学素子であることを特徴とする請求項10に記載の光学装置。
【請求項12】
前記反射手段は、平面を有する支持部品の前記平面に形成されている非球面凹面鏡であることを特徴とする請求項10に記載の光学装置。
【請求項13】
前記鋭角は、Si単結晶の(100)面と(111)面のなす角度であることを特徴とする請求項10〜12のいずれか一項に記載の光学装置。
【請求項14】
前記Si基板は、前記主表面が(100)面であり、前記溝の斜面が(111)面であり、及び、前記斜面と前記支持部品の前記平面とが平行となるように、前記溝に固定されていることを特徴とする請求項11〜13のいずれか一項に記載の光学装置。
【請求項15】
前記点光源が半導体レーザであることを特徴とする請求項7〜14のいずれか一項に記載の光学装置。
【請求項16】
請求項3に記載の偏向光学素子を製造するに当たり、前記底面、及び前記非球面凹面鏡に対応する湾曲した凹面を備えた傾斜面を射出成形により一体に形成することを特徴とする偏向光学素子の製造方法。
【請求項17】
請求項5に記載の偏向光学素子を製造するに当たり、前記反射型回折光学素子を前記Si基板の主表面にリソグラフィー技術及びエッチング技術を利用して形成し、及び
前記Si基板を前記主表面に対して前記鋭角で切断することにより、前記底面とする前記切断面を形成することを特徴とする偏向光学素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2006−145781(P2006−145781A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−335000(P2004−335000)
【出願日】平成16年11月18日(2004.11.18)
【出願人】(000000295)沖電気工業株式会社 (6,645)
【Fターム(参考)】