説明

偏心ポリエステル−ポリエチレン−2成分繊維

本発明は、感触が柔らかであり、潜在的なクリンプ性が改善されたスキン/コアタイプの偏心2成分繊維の製造方法に関するものである。繊維の断面に対するスキン部分が35〜70%である偏心スキン/コア繊維が、コア成分としてのポリエステル及びスキン成分としてのポリエチレンを、600〜2,000m/分の紡糸速度で、融解紡糸することによって製造される。このようにして得られた繊維を、40〜70℃の温度でかつVVmax±20%の比で延伸した後、クリンプ状に圧縮する。このようにして製造される、繊維は、感触が非常に柔らかく、潜在的なクリンプ性をさらに有する。このような繊維は、オムツ、包帯、挿入物、綿の詰め物などを製造することを目的として、衛生不織布、及びすべての種類の衛生織物フラットアイテムなどの衛生製品を製造するのに特に適している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
明細書
本発明は、コアが偏心して配置され、繊維の感触が非常に柔らかくかつ繊維の潜在的なクリンプ加工性(latent crimp)が高い、コア成分としてポリエステル及びスキン成分としてポリエチレンを有するコア/スキンタイプの2成分繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特性プロフィールのバランスがとれているため、ポリエステル繊維は、今や最も広く使用される合成繊維のうちの一つである。特に、特定の用途を目的としてさらに特定の性質を有するポリエステル繊維を開発しようとして、近年、多大な努力がなされている。
【0003】
ポリエチレンまたはポリプロピレンなどの、ポリオレフィンの繊維に比べて、ポリエステル繊維は、同じ繊度でも感触がより硬い。例えば、衛生織物製品、例えば、オムツや衛生用タオル等の、用途によっては、このようなより硬い感触は欠点とみなされる。このことはまた、相当する不織布等の衛生織物製品にもいえる。
【0004】
この感触を改善する多くの試みがなされている。例えば、ポリオレフィン2成分繊維及びそれから製造される不織布が、EP 0 277 707 A2に記載される。
【0005】
ここで記載される繊維は、中でも、ポリエステルコアならびにエチレン及び4〜8炭素原子を有しかつ1〜50重量%の結晶性ポリプロピレンを有する少なくとも一のα−オレフィンの線状低密度共重合体の混合物からなるスキンを有するコア/スキン繊維であってもよい。
【0006】
ここに記載されるコア/スキンフィラメントのけん縮したアーク(crimping arc)の数は大きいことが望ましいが、このような繊維から製造された不織布の容積でさえすべての必要条件を満たさない。
【0007】
けん縮したアークが得られた非対称フィラメント構造によりさらに形成されるように、紡糸ノズルから出てきた溶融紡糸フィラメントを一方の側でより強く冷却する、DE 1 760 755に報告されるけん縮性を改善する方法でさえ、本発明によって達成される利点を示す繊維を製造することはできない。
【0008】
JP 02 139 415 A2に従って得られる繊維などの繊維もまた感触及び潜在的なクリンプ性に関する必要条件すべてを満たすことができない。ここに記載される方法は、実質的にポリエチレンテレフタレートから構成される一の成分、ならびにエチレングリコール、テレフタル酸及びイソフタル酸ならびにスルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸から製造されるポリエステルから構成される第2の成分のフィラメントをサイド−バイ−サイドに紡糸することからなる。
【0009】
JP 2 145 811 Aに記載される、潜在的なクリンプ性を有する2成分繊維の製造方法もまた、特に柔軟な感触及び潜在的なクリンプ性が改善されるという特性を有する繊維を製造することはできない。
【0010】
最後に、EP 0 496 734 B1について述べる。これには、染色可能な熱可塑性2成分繊維と熱で結合する、ポリエステル、ポリアミド、シルク等の、高負荷(high duty)繊維を含む、ウェットな条件で製造されない、熱で結合する繊維製品が記載される。2成分繊維のサイド−バイ−サイド配置に加えて、非対称構造を有する、コア/スキン配置もまた記載される。
【発明の開示】
【0011】
繊維、特に良好なクリンプ性能を有する2成分繊維の製造方法のすべてにわたって記載してきたが、熱作用を含むさらなる発達プロセスで特に製造でき、けん縮したアーク(crimping arc)の数を増加できる、特に柔らかい感触を有し、潜在的なクリンプ性が改善されるという特徴を有する2成分タイプの改良された繊維に対する要求が依然としてある。本発明のさらなる目的は、簡単にかつ低いエネルギーコストで操作する、非常に多数のけん縮したアークが適当なプロセスパラメーターを選択することによって達成される簡単な方法を提供することである。
【0012】
この目的は、コア成分としてのポリエステル及びスキン成分としてのポリエチレンを、600〜2,000m/分、好ましくは600〜1,400m/分の紡糸速度で、融解紡糸することによって、繊維の断面積に対するスキン部分が35〜70%である、偏心コア/スキン繊維を製造し、このようにして得られた繊維を40〜70℃の温度でかつVVmax±20%の比で延伸した後、圧縮けん縮する(stuff-crimp)ことによって、柔らかな感触を有しかつ潜在的なクリンプ性(latent crimp)が改善される、コア/スキンタイプの偏心2成分繊維の製造方法によって達成される。VVmaxは、1cm当たりのアークの数が最大に達する際の延伸比を意味し、以下に示されるようにして測定される。
【0013】
延伸は、好ましくは、50〜60℃の温度で行なわれる。2成分繊維は、図1に図示されるように、コア成分がスキン成分の外側の端に達する際に最終のまたは最大の偏心性に達する、最終の偏心性を有するコア/スキン繊維として製造されることが好ましい。ポリエチレンテレフタレートがポリエステルとして理想的である。公知の、及び特に市販のタイプのポリエチレンをスキン成分のポリエチレンとして使用してもよい。
【0014】
これらとしては、特に、0.941〜0.965g/cmの範囲の密度を有する線状高密度ポリエチレン(HDPE)及び低密度ポリエチレン(LOPE)の範囲内の密度を有する線状低密度ポリエチレン(LLDPE)、及び約0.1〜0.94g/cmの範囲の密度を有する線状中密度ポリエチレン(LMDPE)などの繊維形成線状エチレンポリマーが挙げられる。
【0015】
線状エチレンポリマーの密度は、標準的なASTM D−792に従って測定される;これに関する適当な定義はASTM D−1248に見出される。
【0016】
これらのポリマーは、配位触媒を用いて製造されてもよい;これらは、モノマーが重合されてポリマーの主鎖になる際に形成されるものなど、側鎖を本質的に持たないので、通常、線状ポリマーとして知られている。
【0017】
LLDPEは、エチレンが、1アルケン分子当たり3〜12炭素原子、特に4〜5炭素原子を有する、少量のα−βエチレン性不飽和アルケンと重合した低密度線状エチレンポリマーである。
【0018】
2〜7dtexの繊度を有する繊維を製造することが好ましく、この繊度の指標は延伸後の繊維に関するものである;延伸は、1.4〜2.4±20%の範囲のVVmax比で行なわれることが好ましい。
【0019】
本発明のさらなる目的は、衛生製品を製造することを目的とする上記方法に従って製造される2成分繊維の使用である。2成分繊維は、好ましくは衛生織物、特に不織布を製造することを目的とする。特に好ましい用途は、オムツ、タオル、ライナーなどの製造である。
【0020】
コア成分は、公知の溶融紡糸可能なポリエステル材料から構成されてもよい。繊維の製造に適するすべての既知のタイプが、原則として、ポリエステル材料として考えられる。このようなポリエステルは、芳香族ジカルボン酸及び脂肪族ジオール由来である成分から実質的に構成される。一般的に使用される芳香族ジカルボン酸成分は、ベンゾールジカルボン酸の、特にテレフタル酸及びイソフタル酸の2価残基である;一般的に使用されるジオールは、2〜4炭素原子を有し、エチレングリコールが特に適当である。
【0021】
少なくとも85モル%がポリエチレンテレフタレートから構成されるポリエステル材料が特に好ましい。残りの15モル%は、ジカルボン酸単位及びいわゆる修飾剤として作用し、専門家が特定の様式で製造される繊維の物理及び化学特性にさらに影響を与えることができるグリコール単位から構成される。このようなジカルボン酸単位の例としては、イソフタル酸のまたは脂肪族ジカルボン酸の、例えば、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸の残基がある;修飾作用を有するジオール残基の例としては、長鎖のジオールの、例えば、プロパンジオール若しくはブタンジオールの、ジ−若しくはトリエチレングリコールのまたは、少量で使用される際には、500〜2000g/モルの分子量を有するポリグリコールの残基がある。
【0022】
少なくとも95モル%のポリエチレンテレフタレートを含むポリエステル、特に非修飾のポリエチレンテレフタレートのポリエステルが特に好ましい。このようなポリエステルは、一般的に、25℃でジクロロ酢酸における溶液で測定した際に、0.5〜1.4(dl/g)の固有粘度(IV)と等価の分子量を有する。
【0023】
より低い溶融成分、即ち、ポリエチレンは、不織布、他の織物及び他の衛生製品の製造における結合材として機能してもよいあるいは機能しなければならないため、ポリエステル成分の融点は、ポリエチレン成分の融点とは少なくとも30℃相違することが重要である。
【0024】
適当なノズルを有する、従来技術の装置が、コアが偏心位置を占めるコア/スキンプロフィールを有する繊維を製造するのに使用されてもよい。コアが、断面において、中心に及び対称的に位置せずに、偏心して位置することが必須である。コアは、可能な限り中心から末端側に配置されることが好ましく、極端に偏心している、即ち、コア成分が、図1に示される位置に従って、スキン成分の端に達する位置、即ち、断面の末端の接線方向に共通する少なくとも一点を有することが特に好ましい。本発明による方法における紡糸速度は、600〜2,000m/分、好ましくは600〜1,400m/分である。
【0025】
ノズルのエスケープ面でのエスケープ速度(escape speed)は、所望の繊度、即ち、約2〜7dtexの繊度を有する繊維を製造できるように、紡糸速度及び延伸比に一致させる。
【0026】
紡糸速度は、固化したフィラメントを引き抜く速度であると解される。このようにして引き抜かれたフィラメントは、延伸領域に直接案内されてもあるいはまず巻かれた後にVVmax比で延伸されてもいずれでもよい。
【0027】
必要なVVmax比は、以下のようにして測定される。
【0028】
上記したものなどの、コア/スキンタイプの2成分フィラメントを、コアが偏心位置になるように紡糸し、次に、約10サンプルを1.2〜2.6の異なる比率でそれぞれ延伸する。この際、延伸比は、約0.1ずつ変化させる、即ち、1.2、1.3、1.4…2.6とする。
【0029】
すべてのサンプルについて、40〜70℃の同じ温度で、好ましくは55℃で延伸を行なう。次に、サンプルをスタッファーボックス(stuffer box)中でクリンプ加工する。スタッファーボックス中でクリンプ加工した後、繊維を、3分間、120℃で熱処理する。次に、1cm当たりのアークの数を各サンプルで計測して、クリンプK1(crimping K1)をDIN スタンダード 53840に従って測定する。得られた値を延伸比の関数としてグラフに表わす。
【0030】
図2は、3.0dtexの繊度及び50:50のコア/スキン比を有する繊維に関するVVmaxの値の適当な測定結果を示すものである。VVmax値は1.7である。
【0031】
VVmax値は、アーク/cm曲線(Y軸として)の数が最大の場合の延伸比(X軸)として読み取り、本発明による方法のプロセスパラメーターとして機能する。これは、コア/スキン比が50:50であり、延伸後の繊度が3dtexである偏心2成分繊維を本発明に従って製造する際の最適値である。同様にして、2〜7dtexの範囲の、他の繊度及び他のコア/スキン比を有する2成分繊維に関するVVmax比は、相当する試験によって測定できる。
【0032】
最大クリンプK1は、アークの数の最大値に相当するが、そうである必要はない。図3はまた、VVの関数としてのクリンプK1の展開を示す。
【0033】
VVmaxを測定した後に、本発明による方法が生産規模で行なわれる。
【0034】
次に、VVmax比で延伸した繊維は、圧縮けん縮される(stuff-crimped)。圧縮けん縮された繊維は、ステープルファイバー状に切断された後、適当な製品、特に織物製品、好ましくは衛生製品、衛生織物製品、衛生不織布、オムツ、タオルまたはライナーなどに、さらには脱脂綿の詰め物(cotton wool buds)などに、加工される。
【0035】
本発明による方法の結果、繊維には、さらなる加工中に、約100℃を超える温度での熱処理によって開始されうるさらなる潜在的なクリンプ性が付与される。ここで、スタッファーボックス中でのクリンプ加工によって既に得られたアークの数はさらに増加する。
【0036】
したがって、繊維は、柔らかな感触を持つだけでなく、相当する製品の嵩を改善できる。不織布は、スキン成分が柔らかくなるまたは溶融し始める温度での適当な熱処理によって適度に強化することができる。
【0037】
特に驚くべきことには、相対的に低い延伸比で本発明による方法を用いることによって、圧縮けん縮によるアークに加えて、潜在的なクリンプ能の開始によりアークの数が増した繊維を得ることができることを発見した。これは、潜在的なクリンプ能の強度の増加は、延伸が連続して増加する場合にのみ起こると一般的に考えられているため、特に驚くべきことであった。
【0038】
本発明を下記実施例によってさらに詳細に説明する。
【0039】
実施例
標準的なポリエステルのコアが偏心し、スキンにポリエチレンを有する断面を有する紡糸製品を、2成分紡糸装置で製造する。50/50のコア/スキン比の、全体の押出量は、827ホールのノズルで1紡糸ポイント当たり380g/分であった。設定された個々の紡糸繊度は4.60dtexであった。延伸速度は1,000m/分であった。ポリエステルの物質温度は285℃であり、ポリエチレンの物質温度は265℃であった。紡糸フィラメントを、500mmの吹込長にわたって、280m/hの空気量で、40℃の空気温度で、内部/外部吹込をする(internal/external blowing)ことによって冷却した。また、これらを一緒にまとめる前に、一般的な艶出し加工で調製した。
【0040】
次に、この紡糸製品を、公知の繊維のベルトコンベヤーに供給して、さらに加工した。特に3.0dtexの最終繊度の場合における、所定領域での延伸を回転ロール間で1.7の延伸比で行なった。延伸を開始したロール温度は50℃であった。ケーブルを次に乾燥した後、再度105℃の回転ロール上で、繊維ケーブルをスタッファーボックスクリンプ加工機で機械的にクリンプ加工した後、フラットベルトドライヤーで60℃で乾燥した。繊維を公知のステープルファイバー切断機械で切断した。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】コア成分がスキン成分の外側の端に達するように偏心して存在する2成分繊維の概略図である。
【図2】3.0dtexの繊度及び50:50のコア/スキン比を有する繊維に関するVVmaxの値の適当な測定結果を示すグラフである。
【図3】VVの関数としてのクリンプK1の展開を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維の断面積に対するスキン部分が35〜70%である、偏心コア/スキン繊維を、コア成分としてのポリエステル及びスキン成分としてのポリエチレンを、600〜2,000m/分の紡糸速度で、融解紡糸することによって製造し、このようにして得られた繊維を40〜70℃の温度でかつVVmax±20%の比(この際、VVmaxは1cm当たりのアークの数が最大に達する際の延伸比を意味する)で延伸した後、圧縮けん縮する、柔らかな感触を有しかつ潜在的なクリンプ性が改善されるコア/スキンタイプの偏心2成分繊維の製造方法。
【請求項2】
紡糸速度が600〜1,400m/分である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
延伸は50〜60℃の温度で行なわれる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
2成分繊維は、偏心性の高いコア/スキン繊維として製造される、請求項1〜3の少なくとも1項に記載の方法。
【請求項5】
ポリエチレンテレフタレートがポリエステルとして使用される、請求項1〜4の少なくとも1項に記載の方法。
【請求項6】
繊維は、延伸後、2〜7dtexの繊度で製造される、請求項1〜5の少なくとも1項に記載の方法。
【請求項7】
延伸は、1.4〜2.4±20%の範囲のVVmax比で行なわれる、請求項1〜6の少なくとも1項に記載の方法。
【請求項8】
衛生製品を製造するための請求項1〜7の少なくとも1項に記載の方法に従って製造される2成分繊維の使用。
【請求項9】
衛生織物を製造するための請求項8に記載の使用。
【請求項10】
不織布を製造するための請求項9に記載の使用。
【請求項11】
オムツを製造するための請求項9または10に記載の使用。
【請求項12】
タオルまたはライナーを製造するための請求項9または10に記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2006−500484(P2006−500484A)
【公表日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−542277(P2004−542277)
【出願日】平成15年7月26日(2003.7.26)
【国際出願番号】PCT/EP2003/008279
【国際公開番号】WO2004/033771
【国際公開日】平成16年4月22日(2004.4.22)
【出願人】(301038298)トレヴィラ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (1)
【氏名又は名称原語表記】Trevira GmbH
【住所又は居所原語表記】Lyoner Strasse 38a,D−60528 Frankfurt am Main,Germany
【Fターム(参考)】