説明

停電時制御装置

【課題】工作機械で停電時の制御を行なう停電時制御装置において、抵抗放電ユニットや無停電電源装置を追加することなく、ワークと工具とを干渉しない領域まで退避させることによって、ワークまたは工具の破損を回避することができる。
【解決手段】入力電源1を監視して、停電を検出した場合には、サーボモータ用アンプ3,4にサーボモータ7,8の制御状態のまま減速停止を指令するとともに、スピンドルモータ9に通電遮断を指令する停電検出部10’と、前記停電検出部10’からの停電検出信号に応じてパワー回路2とサーボモータ用アンプ3,4とスピンドルモータ用アンプ5の直流電圧低下異常のアラームしきい値を通常運転時の値から停電時の値へと変更するアラームしきい値変更部11と、前記停電検出部10’からの停電検出信号に応じてあらかじめ規定した微小距離だけサーボモータ用アンプ3,4に退避動作を指令する退避動作指令部12を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械の停電時制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
工作機械では、ワークや工具を制御することによって、ワークを所定の形状に加工する。例えば、旋盤等では、ワークを取り付けた主軸をスピンドルモータで回転駆動するとともに、ワーク(主軸)や工具を移動させる送り軸をサーボモータでボールネジまたはギア等を介して直線駆動または回転駆動する。一方、マシニングセンタ等では、工具を取り付けた主軸をスピンドルモータで回転駆動するとともに、ワークや工具(主軸)を移動させる送り軸をサーボモータでボールネジまたはギア等を介して直線駆動または回転駆動する。
【0003】
図3は、従来の停電時制御装置の一例を示すブロック図である。交流の入力電源1は、パワー回路2に入力される。パワー回路2は、入力される交流電圧を直流電圧に変換して、サーボモータ用アンプ3および4、スピンドルモータ用アンプ5に供給する。数値制御装置6は、ワークを所定の形状に加工するよう、サーボモータ用アンプ3および4、スピンドルモータ用アンプ5に指令値を入力する。サーボモータ用アンプ3および4、スピンドルモータ用アンプ5は、数値制御装置6からの指令値に従って、サーボモータ7および8、スピンドルモータ9を駆動する。停電検出部10は、常に入力電源1を監視しており、停電を検出した場合には、直流電圧の低下によってモータへの給電精度が低下し、ワークや工具を高精度に制御することができなくなるため、サーボモータ7および8、スピンドルモータ9の駆動を中断するよう、サーボモータ用アンプ3および4、スピンドルモータ用アンプ5に通電遮断を指令する。
【0004】
ワークの加工中に停電が発生すると、動力が切断されるため、数値制御装置6からの指令値に関係なく、サーボモータ7および8はダイナミックブレーキで停止し、スピンドルモータ9はフリーランで停止する。停止するまでのサーボモータ7および8、スピンドルモータ9は、無制御状態で動作することになり、ワークまたは工具が破損してしまうという問題がある。
【0005】
ワークまたは工具の破損を回避する技術として、停電発生時にスピンドルモータを制御状態のまま減速停止し、減速時に得られる回生エネルギーを利用してサーボモータを駆動する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
また、ワークまたは工具の破損を回避する別の技術として、スピンドルモータの減速時に得られる回生エネルギーがサーボモータの駆動に必要なエネルギーを超えないようにスピンドルモータの減速を制御する方法が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3001377号
【特許文献2】特許第3369346号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した従来技術によって、ワークと工具とを干渉しない領域まで退避させることができ、ワークまたは工具の破損を回避することが可能となった。しかし、特許文献1の技術では、サーボモータの駆動で消費されなかった余分のエネルギーを消費するための抵抗放電ユニットを必ず必要としていた。一方、特許文献2の技術では、ワークと工具とを干渉しない領域まで退避させるまでの時間が長くなるため、停電発生時にも継続して制御できるよう、必然的に数値制御装置用の無停電電源装置が必要となる。つまり、双方の技術とも、通常の制御時には全く不必要な抵抗放電ユニットや無停電電源装置を装備しなければならない分、コスト高となる課題があった。
【0009】
本発明の目的は、抵抗放電ユニットや無停電電源装置を追加することなく、ワークと工具とを干渉しない領域まで退避させることによって、ワークまたは工具の破損を回避することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る停電時制御装置は、ワークや工具を数値制御装置により制御する工作機械で停電時の制御を行なう停電時制御装置において、サーボモータと、前記サーボモータを駆動するサーボモータ用アンプと、入力電源を監視して、停電を検出した場合には、前記サーボモータ用アンプに前記サーボモータの制御状態のまま減速停止を指令する停電検出部と、前記停電検出部からの停電検出信号に応じて、前記サーボモータ用アンプの直流電圧低下異常のアラームしきい値を通常運転時の値から停電時の値へと変更するアラームしきい値変更部と、前記停電検出部からの停電検出信号に応じて、前記サーボモータ用アンプにあらかじめ規定した微小距離の退避動作を指令する退避動作指令部とを備えることを特徴とする。
【0011】
1つの態様では、停電時制御装置は、スピンドルモータと、前記スピンドルモータを駆動するスピンドルモータ用アンプと、を更に備え、前記停電検出部は、停電を検出した場合には、更に前記スピンドルモータに通電遮断を指令し、前記アラームしきい値変更部は、更に、前記スピンドルモータ用アンプの直流電圧低下異常のアラームしきい値を通常運転時の値から停電時の値へと変更する。
【0012】
更なる態様では、停電時制御装置は、交流の入力電源を、前記サーボモータ用アンプまたは前記スピンドルモータ用アンプに供給する直流電圧に変換するパワー回路、を更に備え前記アラームしきい値変更部は、更に、前記パワー回路の直流電圧低下異常のアラームしきい値を通常運転時の値から停電時の値へと変更する。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、抵抗放電ユニットや無停電電源装置を追加することなく、ワークと工具とを干渉しない領域まで退避させることによって、ワークまたは工具の破損を回避することができる。
【0014】
以上説明したように、本発明では、抵抗放電ユニットや無停電電源装置を追加することなく、ワークと工具とを干渉しない領域まで退避させることによって、ワークまたは工具の破損を回避することができる停電時制御装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態を示すブロック図である。
【図2】実施形態の停電時制御装置を適用しない場合と適用した場合での制御の違いを説明するための図である。
【図3】従来技術を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は、本発明の停電時制御装置の一例を示すブロック図である。なお、図3に示した従来例と同一要素には同一番号を付してあり、その説明は省略する。また、図3と同様に、図1の装置も、2つのサーボモータ7,8と1つのスピンドルモータ9を備える構成としたが、特にその構成に限定するものではない。
【0017】
停電検出部10’は、常に入力電源1を監視しており、停電を検出した場合には、サーボモータ7および8を制御状態のまま減速停止するよう、サーボモータ用アンプ3および4に減速停止を指令するとともに、スピンドルモータ9の駆動を中断するよう、スピンドルモータ用アンプ5に通電遮断を指令する。同時に、停電検出部10’は、停電検出信号をアラームしきい値変更部11および退避動作指令部12に送る。アラームしきい値変更部11は、前記停電検出部10’からの停電検出信号に応じて、パワー回路2とサーボモータ用アンプ3および4とスピンドルモータ用アンプ5の直流電圧低下異常のアラームしきい値を通常運転時の値から停電時の値へと変更する。退避動作指令部12は、前記停電検出部10’からの停電検出信号に応じて、あらかじめ規定した微小距離だけ、サーボモータ用アンプ3および4に退避動作を指令する。サーボモータ7および8は、上記減速停止と上記退避動作とが併せて動作することになり、最終的には数値制御装置6からの指令値から微小距離だけずれた位置に停止する。
【0018】
以下では、停電発生時における直流電圧の時間変化を示した図2を参照しながら、本実施形態の主要構成部分について説明する。一般に、直流電圧が過度に低下した場合、特に高速回転領域ではサーボモータやスピンドルモータで発生する誘起電圧によって、所望の出力が得られなくなり、数値制御装置からの指令値通りに制御することができなくなる。このため、通常は、パワー回路やアンプでは、数値制御装置からの指令値通りに制御できるだけの出力がサーボモータやスピンドルモータの回転数領域に関係なく得られるよう、直流電圧低下異常の検出を行なっている。直流電圧低下異常のアラームしきい値は予め設定されており、直流電圧が停電発生の有無に関係なくアラームしきい値を下回った場合、直流電圧低下異常と判断して、サーボモータやスピンドルモータへの通電を遮断する。
【0019】
停電発生時には、パワー回路に入力される交流電圧が急速に失われていく。ただし、通常は、パワー回路やアンプには、直流電圧の急速な変動を抑制するよう、大容量のコンデンサが内蔵されている。このため、停電発生と同時に直流電圧がゼロにはならず、図2中のA図に示す通り、直流電圧が徐々に低下する。本実施形態の停電時制御装置を適用していない場合には、停電発生後、短時間で直流電圧がアラームしきい値を下回ることになる。
【0020】
ワークまたは工具の破損を回避するためには、ワークと工具とを干渉しない領域まで過度に、または、精度良く退避させる必要はない。仮に、指令値通りに動作できなくても、ワークと工具との距離が接触しない程度にほんの少しでも離れていれば、ワークまたは工具の破損を回避することができる。従って、退避動作は微小距離で良い。
【0021】
そこで、本実施形態の停電時制御装置では、停電発生時には、図2中のB図に示す通り、直流電圧低下異常のアラームしきい値を、通常運転時の値よりも低い値に変更している。これによって、停電により直流電圧が過度に低下した場合でも、直流電圧低下異常と判断しないようにして、サーボモータへの通電を継続することが可能となる。すなわち、通常運転時は、数値制御装置からの指令値通りに制御できるだけの出力がサーボモータやスピンドルモータの回転数領域に関係なく得られるよう十分に高い電圧値をアラームしきい値としつつも、停電時のためにそれより低いアラームしきい値を用意しておき、停電発生の検出と同時にアラームしきい値の値を停電時用の低い値に切り替えるのである。
【0022】
また、この実施形態では、このように停電時にはアラームしきい値を通常運転時よりも低くすることで、図2中のB図の斜線部分のエネルギーが得られる。このエネルギーを使用することで、停電により入力電源1からサーボモータで所望の出力が得られない状態でも、ワークと工具との距離を少しでも離れるよう、サーボモータの退避動作を継続させて、ワークまたは工具の破損を回避する位置まで移動することができる。
【0023】
なお、上記説明では、サーボモータ7および8に退避動作をさせたが、特にその構成に限定するものではない。退避動作をさせるサーボモータについては、例えば予め1つまたは複数のサーボモータを固定的に選択しておいても良い。また、退避動作をさせるサーボモータを、加工中のワーク形状、又はワークと工具との位置関係、又はワーク形状と位置関係との組み合わせ、に応じて随時選択するようにしても良い。この場合、加工中のワーク形状、又はワークと工具との位置関係、又はワーク形状と位置関係との組み合わせごとに、退避動作をさせるサーボモータの識別情報を装置に登録しておき、装置がその登録情報に従って、現在(停電発生時点)の条件に合致するサーボモータを退避対象に選択すれば良い。また、停電時の退避距離である規定の微小距離についても、予め固定的な1つの値に設定しておいても良いし、加工中のワーク形状、又はワークと工具との位置関係、又はそれらの両方に応じた退避距離を選択するようにしても良い。
【符号の説明】
【0024】
1 入力電源、2 パワー回路、3,4 サーボモータ用アンプ、5 スピンドルモータ用アンプ、6 数値制御装置、7,8 サーボモータ、9 スピンドルモータ、10,10’ 停電検出部、11 アラームしきい値変更部、12 退避動作指令部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワーク又は工具を数値制御装置により制御する工作機械で停電時の制御を行なう停電時制御装置において、
サーボモータと、
前記サーボモータを駆動するサーボモータ用アンプと、
入力電源を監視して、停電を検出した場合には、前記サーボモータ用アンプに前記サーボモータの制御状態のまま減速停止を指令する停電検出部と、
前記停電検出部からの停電検出信号に応じて、前記サーボモータ用アンプの直流電圧低下異常のアラームしきい値を通常運転時の値から停電時の値へと変更するアラームしきい値変更部と、
前記停電検出部からの停電検出信号に応じて、前記サーボモータ用アンプにあらかじめ規定した微小距離の退避動作を指令する退避動作指令部と、
を備えることを特徴とする停電時制御装置。
【請求項2】
スピンドルモータと、
前記スピンドルモータを駆動するスピンドルモータ用アンプと、
を更に備え、
前記停電検出部は、停電を検出した場合には、更に前記スピンドルモータに通電遮断を指令し、
前記アラームしきい値変更部は、更に、前記スピンドルモータ用アンプの直流電圧低下異常のアラームしきい値を通常運転時の値から停電時の値へと変更する、
ことを特徴とする請求項1に記載の停電時制御装置。
【請求項3】
交流の入力電源を、前記サーボモータ用アンプまたは前記スピンドルモータ用アンプに供給する直流電圧に変換するパワー回路、を更に備え
前記アラームしきい値変更部は、更に、前記パワー回路の直流電圧低下異常のアラームしきい値を通常運転時の値から停電時の値へと変更する、
ことを特徴とする請求項2に記載の停電時制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−209936(P2011−209936A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−75983(P2010−75983)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(000149066)オークマ株式会社 (476)
【Fターム(参考)】