元素分析方法
【課題】二次イオン質量分析法により金属試料に含まれる元素の深さ方向の濃度分布を高精度に測定可能な元素分析方法を提供する。
【解決手段】一次イオンの照射エネルギーを設定し(S104)、次いで、一次イオン入射角度を設定して(S106)、一次イオンビームを試料に照射し、試料の深さ方向に亘って放出された2次イオンにより主要金属元素の深さ方向の強度測定を行う(S108)。得られた主要金属元素の強度の変動率が所定の範囲内か否かを判断し(S110)、所定の範囲内の場合はその一次イオン入射角度を分析対象の元素を分析するための一次イオン入射角度に決定し(S114)、分析対象の元素の深さ方向分析を行う(S116)。
【解決手段】一次イオンの照射エネルギーを設定し(S104)、次いで、一次イオン入射角度を設定して(S106)、一次イオンビームを試料に照射し、試料の深さ方向に亘って放出された2次イオンにより主要金属元素の深さ方向の強度測定を行う(S108)。得られた主要金属元素の強度の変動率が所定の範囲内か否かを判断し(S110)、所定の範囲内の場合はその一次イオン入射角度を分析対象の元素を分析するための一次イオン入射角度に決定し(S114)、分析対象の元素の深さ方向分析を行う(S116)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次イオン質量分析法を用いた元素分析方法に係り、特に二次イオン質量分析法を用いた微量含有元素の深さ方向の元素分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二次イオン質量分析(Secondary Ion Mass Spectrometry、SIMS)法は、酸素やそれよりも重いイオンを一次イオンビームとして試料に照射して試料表面をスパッタエッチングし、放射された二次イオンを質量分析器により元素同定する元素分析法である。SIMS法は、試料を構成する主要元素の解析よりも、ppbからppmの濃度の分析能力を有しているため、試料に含まれる微量元素の分析に適している。SIMS法は、例えば、LSI等の半導体装置のシリコン基板に形成されたBやP等のドーパントが注入された拡散領域の深さ方向の分析や、注入の際に意図しない領域に注入されたドーパントの濃度分析等に用いられている。
【0003】
半導体装置は、いわゆるスケーリング則にしたがってその集積度の向上と共に深さ方向のサイズの縮小化が進められており、極薄膜の深さ方向の分析や、試料の極最表面での元素分析のニーズが高まっている。
【特許文献1】特開2000−162163号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、試料が金属膜の場合、試料最表面においてその結晶性に依存した表面形状の変化が生じ易く、高精度の定量分析が困難であるという問題がある。
【0005】
そこで、本発明は上記問題点に鑑みてなされたもので、本発明の目的は、二次イオン質量分析法により金属試料に含まれる元素の深さ方向の濃度分布を高精度に測定可能な元素分析方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一観点によれば、深さ方向に亘って略同等の含有量を有する主要金属元素を含む試料の表面に一次イオンビームを照射して、前記試料から放出された主要金属元素の二次イオン強度が分析対象の深さ範囲において試料の表面付近における二次イオン強度を基準として20%以内の範囲となる一次イオン入射角度に設定して、該主要金属元素よりも低い含有量の元素の深さ方向の濃度を測定する元素分析方法が提供される。
【0007】
本発明によれば、試料の主要金属元素の深さ方向の二次イオン強度の変動率が、分析対象の深さ範囲において試料の表面付近における二次イオン強度を基準として20%以内の範囲となる一次イオン入射角度に設定するので、主要金属元素の二次イオン強度が、例えば試料最表面においてその結晶性等に影響を回避して、試料自体の真の濃度分布と対応するようになる。そして、この一次イオン入射角度に設定して分析対象の元素の深さ方向分析を行うので、高精度な分析が可能となる。さらに、良好な再現性も得られる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、二次イオン質量分析法により金属試料に含まれる元素の深さ方向の濃度分布を高精度に測定可能な元素分析方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図面を参照しつつ実施の形態を説明する。
【0010】
図1は、本発明に係る分析方法に用いる分析装置の要部構成図である。図2は1次イオン入射角度を説明するための図である。
【0011】
図1および図2を参照するに、本発明に係る分析方法に用いる分析装置10は、真空容器11内に、試料12を載置する試料ステージ13と、1次イオンビームを放射するイオンガン14と、1次イオンビームの照射により試料12の表面から放出された2次イオンの元素分析を行う質量分析器15と、試料ステージ13を回転させて一次イオン入射角度を設定可能な角度設定部16と、1次イオンビームの照射により試料12あるいは試料ステージ13に流れる電流を測定する電流測定部18等から構成される。また、試料ステージ13は、図に示したY軸の周りに回転自在でかつ、X軸、Y軸、Z軸に微動可能なゴニオメータが備えられている。試料ステージ13は角度設定部16により自動あるいは手動でY軸周りの角度が設定可能である。試料ステージ13の表面には開口部13a、いわゆるファラデーカップが設けられている。ファラデーカップは、後ほど説明する一次イオン入射角度の絶対値校正において使用される。
【0012】
分析装置10は、SIMS法を用いて元素分析が可能な装置であり、本発明の特徴部分以外は、公知のSIMS法を用いる分析装置と同様の構成を有する。ここでは、試料12がB(硼素)をイオン注入法により導入したMo(モリブデン)金属膜として説明する。なお、本発明の適用において試料がこれに限定されるわけではない。
【0013】
次に分析装置10の動作を説明する。分析装置10は、イオンガン14により酸素イオンやそれ以上重い元素のイオンからなる一次イオンビームPIが放射される。ここでは、図1に示すXZ面に平行に一次イオンビームPIが放射されるとする。一次イオンビームPIが試料12の表面に入射する角度は、図2に示すように試料12の表面に垂直な方向を基準として、そこから一次イオンビームPIまでの角度が一次イオンビーム入射角度θである。一次イオンビーム入射角度θは、図1に示す試料ステージ13をY軸を軸として回転させることで設定できる。
【0014】
一次イオンビームPIが試料表面に衝突するとその衝撃によって、試料12を構成する元素がたたきだされ原子およびイオンが放出される。このイオンが二次イオンSIである。なお、放出された原子とイオンとの総個数に対する二次イオンSIの個数の割合が二次イオン化率(=二次イオンSIの個数/(放出された原子とイオンとの総個数))である。
【0015】
放出された二次イオンSIは質量分析器15に入射し、四重極質量分析計等により原子数ごとにカウントあるいはカウント率(単位時間当たりのカウント)が計数される。得られたカウントあるいはカウント率は、図示されないコンピュータ等により解析され、原子番号毎の度数分布(スペクトル)が得られる。得られたスペクトルは記憶装置等に保持される。
【0016】
本願発明者は、試料12に含まれる分析対象の元素(B)の濃度の深さ方向の分布を分析するにあたって、次に説明する問題に直面した。
【0017】
図3は、SIMS法による深さ方向の濃度分布の分析方法の問題点を説明するための図である。縦軸はB強度を示し、横軸は試料の表面からの深さを示す。また、図中の4本の曲線は、一次イオン入射角度を0度("−○−"で示す。)、10度("−△−"で示す。)、15度("−□−"で示す。)、および20度("−▽−"で示す。)に異ならせて分析して得られた結果を示している。
【0018】
図3を参照するに、深さが1nm〜12nm付近の試料12の極最表面でのB強度は、4本の極性が互いに分離しており、一次イオン入射角度によって得られるB強度が異なることが分かる。さらに20nm以上の深さでも、3本に分離しており一次イオン入射角度によって得られるB強度が異なることが分かる。このように同一試料のB濃度の分布が異なる結果となり、どの分布が真の分布なのか判断できないという分析方法にとっては深刻な問題である。
【0019】
本願発明者はこのような現象は、一次イオンビームPIの照射により、試料12の最表面における結晶性に依存した表面形状の変化が一次イオン入射角度によって異なることが一因であると推察している。そこで、本願発明者はこの問題を解決するために以下に説明する分析方法を見出したものである。
【0020】
図4は、本発明に係る分析方法のフロー図である。図4を参照しつつ、本発明に係る分析方法を説明する。なお、本分析方法は図1に示す分析装置10を用いるので、図1を合わせて参照する。
【0021】
最初に、試料ステージ13に対する一次イオン入射角度の絶対値を校正する(S102)。具体的には、一次イオンビームPIを試料ステージ13の表面に固定された試料12に照射して、試料12に流れる電流(試料電流)を電流測定部18により検出する。角度設定部16により、一次イオン入射角度を例えば−70度から70度に亘って5度毎にこの操作を行う。
【0022】
図5は、試料電流と一次イオン入射角度との関係図である。なお、図5は、試料としてシリコン基板を用い、一次イオンビームとして5keVに加速したN2+を用いた。
【0023】
図5を参照するに、試料電流は、一次イオン入射角度が0度を通る対象線に対して左右対称の特性を示す。この特性を用いて、試料ステージ13のY軸の周りの角度位置との相対角度を得る。試料ステージ13の角度位置をその相対角度分だけ補正することで、一次イオン入射角度と試料ステージ13の角度を合わせられる。なお、このステップは既にこのステップを実施済みの試料ステージ13については行う必要はない。
【0024】
なお、このステップ(S102)において、一次イオンビームPIを試料ステージ13の表面に直接照射し、試料ステージ13に流れる電流を電流測定部18により検出してもよい。この場合も試料12に直接照射した場合と同じ特性図(図5)が得られ、試料12に照射した場合と同様の効果が得られる。但し、一次イオンビームPIを照射する試料ステージ13の表面は、試料12の表面と平行な面である必要がある。なお、一次イオンビームPIをファラデーカップ13aに照射してもよい。これにより、一次イオンビームPIの飛散を回避して効率良く測定可能である。
【0025】
次いで、一次イオンビームPIの照射エネルギーを設定する(S104)。一次イオンビームPIの照射エネルギーは、任意に設定でき特に限定されないが、分析の対象となる深さや、深さ方向に応じて設定することが好ましい。例えば、試料12の極最表面を分析する場合は照射エネルギーが低いほどよく、例えば1.0keV以下の設定することが好ましい。なお、以前行った分析と一次イオンビームPIの照射エネルギーを異ならせる場合は、本発明の分析方法を実施して、一次イオン入射角度を決定する必要がある。
【0026】
次いで、一次イオン入射角度θ1を設定する(S106)。ここで、一次イオン入射角度θ1は任意に選択可能であるが、例えば0度に設定する。なお、この場合、例えばθ2では5度、θ3では10度というように次第に増加させていく。
【0027】
次いで、一次イオンビームPIを試料12に照射し、試料12の深さ方向に亘って放出された2次イオンのうち、主要金属元素(Mo)の強度を測定する(S108)。
【0028】
図6Aは、Mo強度の深さプロファイルの一例であり、ここでは一次イオン入射角度が0度の場合に得られた深さプロファイルを示している。
【0029】
図6Aを参照するに、Mo強度は最表面から一旦小さなピーク(I0で示す。)をとり、それよりも深い位置では急速に減少している。試料12自体のMo濃度は深さ方向にわたって、略一定の濃度に形成されているので、一次イオン入射角度が0度の場合は真の分布から外れている。
【0030】
次いで、得られた主要金属元素(Mo)の強度の変動率が所定の範囲内か否かを判断する(S110)。具体的には、所定の範囲は、試料の表面付近でのMo強度の最小値あるいは最大値をI0として、I0に対して測定対象となる深さに亘る強度の変動率が20%以内(さらに好ましくは15%以内)とすることが好ましい。すなわち、分析対象となる深さ(図6Aでは表面から100nmの深さまで)に範囲における変動幅をΔIとして、変動率=ΔI/I0×100が20%以内となるか否かを判断する。試料の表面でのMo強度I0、および変動幅ΔIは以下のようにして決定する。なお、以下の説明において、最小値および最大値は、分析対象となる深さの範囲における最小値および最大値を意味する。ただし、試料の極最表面の主要金属元素(Mo)の強度が急激に変化する範囲を除いて、最小値および最大値を決める。
【0031】
図6B、図6C、および図6Dは、Mo強度の深さプロファイルの他の例であり、一次イオン入射角度が、図6Bでは10度、図6Cでは15度、図6Dでは20度の場合に得られた深さプロファイルを示している。
【0032】
図6Bを参照するに、Mo強度は、試料の極最表面において、Mo強度が急激に減少している。これは試料12の表面に付着した有機物等のコンタミネーションや自然酸化膜の影響であると考えられる。それよりも深い方向では、最大値を示し、その後深くなるにつれて減少し、一定値(最小値)を示している。このように、極最表面のコンタミネーションの影響による強度変化を除いて、表面側の最大値をI0とし、分析対象となる深さの範囲における最大値と最小値との差を変動幅ΔIとする。
【0033】
この決定方法によれば、図6Bでは、強度I0は8.3×105であり、変動幅ΔIは3.7×105であるので、変動率は、45%である。これは20%を超えているので、分析対象となる元素分析のための一次イオン入射角度として選択されない。
【0034】
図6Cを参照するに、深さプロファイルは、試料の極最表面においてMo強度が急激に減少し、極小値を示した後に最大値を示し、その後深くなるにつれて漸減し、一定値(最小値)を示している。このように試料の表面付近で最大値を取る場合は、その最大値をI0とする。強度I0は点Aの位置の強度8.1×105であり、変動幅ΔIは点Aと点Bでの強度差0.9×105であるので、変動率は、11%である。これは20%を下回っているので分析対象となる元素分析のための一次イオン入射角度として選択される。
【0035】
図6Dを参照するに、深さプロファイルは、試料の極最表面においてMo強度が急激に減少し、最小値を示し、その後深くなるにつれて漸増し最大値を示し、さらに漸減している。このように試料の表面付近で最小値のみを取る場合は、その最小値を強度I0とする。また、変動幅ΔIは、最小値(ここでは強度I0)と最大値との差である。強度I0は7×105であり、変動幅ΔIは点Aと点Bでの強度差2.2×105であるので、変動率は、31%である。これは20%を上回っているので分析対象となる元素分析のための一次イオン入射角度として選択されない。
【0036】
変動率が所定の強度範囲外(S110で"No")の場合は、次の一次イオン入射角度θ2に設定して(S112,S106)、上述したステップと同様にS108、S110を行う。
【0037】
また、変動率が所定の範囲内(S110で"Yes")である場合は、その一次イオン入射角度を分析対象の元素(B)を分析するための一次イオン入射角度に決定する(S114)。具体的には、試料ステージ13の角度位置を角度設定部16により、決定された一次イオン入射角度に合わせる。ここでは、先の図6Cで示したように一次イオン入射角度は15度に決定される。なお、複数の一次イオン入射角度において変動率が所定の範囲内の場合は、変動率が最も小さい一次イオン入射角度を選択することが好ましい。
【0038】
次いで、一次イオンビームPIを試料12に照射して分析対象の元素(B)の深さ方向分析を行う(S116)。その結果、先に示した図3で示した15度のB強度の深さ方向プロファイルが得られる。なお、この際、主要金属元素(Mo)の深さ方向分析を行ってもよい。
【0039】
本実施の形態によれば、試料12の主要金属元素(Mo)の深さ方向の二次イオン強度の変動率が所定の範囲内となる一次イオン入射角度に設定する。これにより、主要金属元素の二次イオン強度が、例えば試料12の最表面においてその結晶性等に影響されず、試料自体の真の濃度分布と対応するようになる。そして、この一次イオン入射角度に設定して分析対象の元素の深さ方向分析を行うので、高精度な分析が可能となる。さらに、良好な再現性も得られる。
【0040】
本願発明者は、本発明の分析方法において、以下の効果も合わせて見出した。
【0041】
図7は、Mo二次イオン化率と一次イオンビームの入射角度との関係図である。なお、一次イオンビームの照射エネルギーを0.5keV("−□−"で示す。)、1.0keV("−○−"で示す。)、および3.0keV("−△−"で示す。)に設定して測定した。また、試料は上述した試料と同様の試料を用いている。)
図7を参照するに、一次イオンビームの照射エネルギーが1.0keVでは、一次イオン入射角度が15度において二次イオン化率が最大値を示している。
【0042】
また、本願発明者は、一次イオンビームの照射エネルギーが3.0keVの場合は、上述した分析法において決定された一次イオン入射角度は0度であることを確認している。一方、図7に示すように、一次イオンビームの照射エネルギーが3.0keVの場合は、一次イオン入射角度が0度で二次イオン化率が最大となる。また、一次イオンビームの照射エネルギーが0.5keVの場合も、上述した分析法において決定された一次イオン入射角度は30度であることを確認しており、図7に示すように、一次イオン入射角度が30度で二次イオン化率が最大となる。
【0043】
これらのことから、上述した分析方法において決定された一次イオン入射角度(以下、説明の便宜のため「一次イオン入射角度θA」あるいは単に「θA」と称する。)は、二次イオン化率が最大となる角度であり、そのため、これ以外の一次イオン入射角度に設定するよりも定量性が高まり、よりいっそうの高精度の分析が可能となる。
【0044】
この作用を本願発明者は以下のように推察している。すなわち、一次イオン入射角度θAでは、試料表面に十分な主要金属元素の酸化物(MoOX)が形成され、かつ試料表面において主要金属元素をイオン化させるのに必要なエネルギーを十分に与えることができると考えられる。そのため、深さ方向亘って主要金属元素の二次イオン強度が略一定となり、かつ、二次イオン化率が最大となっていると考えられる。
【0045】
なお、上述した実施の形態では、試料12の最表面から所定の深さまでの深さ範囲における元素濃度を分析の対象としたが、たとえば分析対象の金属膜の表面に他の膜が形成されている場合は、分析対象の金属膜の表面から所定の深さまでの深さ範囲において本発明の分析方法を適用する。
【0046】
次に、本発明の分析方法に係る実施例と、本発明によらない比較例を説明する。ここでは、分析対象となる試料は、シリコン基板とその上にシリコン酸化膜(膜厚30nm)およびMo膜(膜厚350nm)を積層した積層体であり、Mo膜側からP(リン)を注入したものである。
【0047】
図8は、実施例および比較例の深さプロファイルを示す図である。縦軸は、MoおよびSiについてはカウント率(カウント/秒)、Pの深さプロファイルについてはP濃度(原子/cm3)を示している。また、横軸はMo膜の表面からの深さ(nm)を示している。なお、MoおよびSiの深さプロファイルについては一次イオン入射角度を15度に設定して得られたものである。なお、図中、実施例は"−□−"で示し、比較例は"−▽−"で示している。
【0048】
実施例および比較例のPの深さプロファイルの分析において、一次イオンビームの照射エネルギーを1.0keVに設定した。また、実施例に係る分析方法では、一次イオン入射角度を15度に設定した。なお、一次イオン入射角度が15度では、分析対象の深さに亘ってMo強度の変動率が20%以内であった。また、本発明によらない比較例として、一次イオン入射角度を30度に設定した。なお、一次イオン入射角度が30度では分析対象の深さに亘ってMo強度の変動率が20%を超えていた。
【0049】
図8を参照するに、実施例は、比較例よりも、深さが10nm〜20nmに存在するP濃度のピーク値が大きく、深さが200nm〜300nmでは低くなっており、十分ダイナミックレンジが得られている。比較例では、ドーパントのPがシリコン酸化膜の表面に1018原子/cm3台の濃度で存在しているように見えるのに対して、実施例では、シリコン酸化膜の表面では、1018原子/cm3よりも低くなっており、良好な検出限界が得られていることが分かる。実施例によれば、適正なP濃度の深さプロファイルを得ることができる。
【0050】
以上、本発明の好ましい実施の形態について詳述したが、本発明は係る特定の実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【0051】
例えば、上述した実施の形態では、試料としてBあるいはPが不純物として注入されたMo金属膜を例に説明したが、本発明は、Mo金属膜の変わりに他の金属元素の金属膜や2種以上の元素からなる合金膜にも適用可能である。合金膜の場合、それに含まれるいずれかの元素を主要金属元素として本発明を適用すればよい。また、不純物元素もBやPに限定されないことはいうまでもない。
【0052】
なお、以上の説明に関してさらに以下の付記を開示する。
(付記1) 深さ方向に亘って略同等の含有量を有する主要金属元素を含む試料の表面に一次イオンビームを照射して、
前記試料から放出された主要金属元素の二次イオン強度が分析対象の深さ範囲において試料の表面付近における二次イオン強度を基準として20%以内の範囲となる一次イオン入射角度に設定して、該主要金属元素よりも低い含有量の元素の深さ方向の濃度を測定する元素分析方法。
(付記2) 前記元素が主要金属元素に導入された不純物元素であることを特徴とする付記1記載の元素分析方法。
(付記3) 前記分析対象の深さ範囲は、試料の表面から所定の深さまでの範囲であることを特徴とする付記1または2記載の元素分析方法。
(付記4) 前記一次イオンビームの照射エネルギーに応じて一次イオン入射角度を設定することを特徴とする付記1〜3のうち、いずれか一項記載の元素分析方法。
(付記5) 前記一次イオン入射角度を異ならせつつ一次イオンビームを試料に照射して試料に流れる電流量を測定し、得られた一次イオン入射角度と該電流量との関係に基づいて、一次イオン入射角度の絶対値を決定することを特徴とする付記1〜4のうち、いずれか一項記載の元素分析方法。
(付記6) 前記試料は一次イオン入射角度を増減させる方向に回転自在の試料ステージに載置され、
一次イオン入射角度を異ならせつつ一次イオンビームを試料ステージに照射して試料ステージに流れる電流量を測定し、得られた一次イオン入射角度と該電流量との関係に基づいて、一次イオン入射角度の絶対値を決定することを特徴とする付記1〜4のうち、いずれか一項記載の元素分析方法。
(付記7) 前記一次イオンビームは、試料ステージに形成された開口部に照射することを特徴とする付記6記載の元素分析方法。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明に係る分析方法に用いる分析装置の要部構成図である。
【図2】一次イオン入射角度を説明するための図である。
【図3】SIMS法による深さ方向の濃度分布の分析方法の問題点を説明するための図である。
【図4】本発明に係る分析方法のフロー図である。
【図5】試料電流と一次イオン入射角度との関係図である。
【図6A】Mo強度の深さプロファイルの例(その1)を示す図である。
【図6B】Mo強度の深さプロファイルの例(その2)を示す図である。
【図6C】Mo強度の深さプロファイルの例(その3)を示す図である。
【図6D】Mo強度の深さプロファイルの例(その4)を示す図である。
【図7】Mo二次イオン化率と一次イオン入射角度との関係図である。
【図8】実施例および比較例の深さプロファイルを示す図である。
【符号の説明】
【0054】
10 分析装置
11 真空容器
12 試料
13 試料ステージ
14 イオンガン
15 質量分析器
16 角度設定部
18 電流測定部
PI 一次イオンビーム
SI 二次イオン
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次イオン質量分析法を用いた元素分析方法に係り、特に二次イオン質量分析法を用いた微量含有元素の深さ方向の元素分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二次イオン質量分析(Secondary Ion Mass Spectrometry、SIMS)法は、酸素やそれよりも重いイオンを一次イオンビームとして試料に照射して試料表面をスパッタエッチングし、放射された二次イオンを質量分析器により元素同定する元素分析法である。SIMS法は、試料を構成する主要元素の解析よりも、ppbからppmの濃度の分析能力を有しているため、試料に含まれる微量元素の分析に適している。SIMS法は、例えば、LSI等の半導体装置のシリコン基板に形成されたBやP等のドーパントが注入された拡散領域の深さ方向の分析や、注入の際に意図しない領域に注入されたドーパントの濃度分析等に用いられている。
【0003】
半導体装置は、いわゆるスケーリング則にしたがってその集積度の向上と共に深さ方向のサイズの縮小化が進められており、極薄膜の深さ方向の分析や、試料の極最表面での元素分析のニーズが高まっている。
【特許文献1】特開2000−162163号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、試料が金属膜の場合、試料最表面においてその結晶性に依存した表面形状の変化が生じ易く、高精度の定量分析が困難であるという問題がある。
【0005】
そこで、本発明は上記問題点に鑑みてなされたもので、本発明の目的は、二次イオン質量分析法により金属試料に含まれる元素の深さ方向の濃度分布を高精度に測定可能な元素分析方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一観点によれば、深さ方向に亘って略同等の含有量を有する主要金属元素を含む試料の表面に一次イオンビームを照射して、前記試料から放出された主要金属元素の二次イオン強度が分析対象の深さ範囲において試料の表面付近における二次イオン強度を基準として20%以内の範囲となる一次イオン入射角度に設定して、該主要金属元素よりも低い含有量の元素の深さ方向の濃度を測定する元素分析方法が提供される。
【0007】
本発明によれば、試料の主要金属元素の深さ方向の二次イオン強度の変動率が、分析対象の深さ範囲において試料の表面付近における二次イオン強度を基準として20%以内の範囲となる一次イオン入射角度に設定するので、主要金属元素の二次イオン強度が、例えば試料最表面においてその結晶性等に影響を回避して、試料自体の真の濃度分布と対応するようになる。そして、この一次イオン入射角度に設定して分析対象の元素の深さ方向分析を行うので、高精度な分析が可能となる。さらに、良好な再現性も得られる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、二次イオン質量分析法により金属試料に含まれる元素の深さ方向の濃度分布を高精度に測定可能な元素分析方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図面を参照しつつ実施の形態を説明する。
【0010】
図1は、本発明に係る分析方法に用いる分析装置の要部構成図である。図2は1次イオン入射角度を説明するための図である。
【0011】
図1および図2を参照するに、本発明に係る分析方法に用いる分析装置10は、真空容器11内に、試料12を載置する試料ステージ13と、1次イオンビームを放射するイオンガン14と、1次イオンビームの照射により試料12の表面から放出された2次イオンの元素分析を行う質量分析器15と、試料ステージ13を回転させて一次イオン入射角度を設定可能な角度設定部16と、1次イオンビームの照射により試料12あるいは試料ステージ13に流れる電流を測定する電流測定部18等から構成される。また、試料ステージ13は、図に示したY軸の周りに回転自在でかつ、X軸、Y軸、Z軸に微動可能なゴニオメータが備えられている。試料ステージ13は角度設定部16により自動あるいは手動でY軸周りの角度が設定可能である。試料ステージ13の表面には開口部13a、いわゆるファラデーカップが設けられている。ファラデーカップは、後ほど説明する一次イオン入射角度の絶対値校正において使用される。
【0012】
分析装置10は、SIMS法を用いて元素分析が可能な装置であり、本発明の特徴部分以外は、公知のSIMS法を用いる分析装置と同様の構成を有する。ここでは、試料12がB(硼素)をイオン注入法により導入したMo(モリブデン)金属膜として説明する。なお、本発明の適用において試料がこれに限定されるわけではない。
【0013】
次に分析装置10の動作を説明する。分析装置10は、イオンガン14により酸素イオンやそれ以上重い元素のイオンからなる一次イオンビームPIが放射される。ここでは、図1に示すXZ面に平行に一次イオンビームPIが放射されるとする。一次イオンビームPIが試料12の表面に入射する角度は、図2に示すように試料12の表面に垂直な方向を基準として、そこから一次イオンビームPIまでの角度が一次イオンビーム入射角度θである。一次イオンビーム入射角度θは、図1に示す試料ステージ13をY軸を軸として回転させることで設定できる。
【0014】
一次イオンビームPIが試料表面に衝突するとその衝撃によって、試料12を構成する元素がたたきだされ原子およびイオンが放出される。このイオンが二次イオンSIである。なお、放出された原子とイオンとの総個数に対する二次イオンSIの個数の割合が二次イオン化率(=二次イオンSIの個数/(放出された原子とイオンとの総個数))である。
【0015】
放出された二次イオンSIは質量分析器15に入射し、四重極質量分析計等により原子数ごとにカウントあるいはカウント率(単位時間当たりのカウント)が計数される。得られたカウントあるいはカウント率は、図示されないコンピュータ等により解析され、原子番号毎の度数分布(スペクトル)が得られる。得られたスペクトルは記憶装置等に保持される。
【0016】
本願発明者は、試料12に含まれる分析対象の元素(B)の濃度の深さ方向の分布を分析するにあたって、次に説明する問題に直面した。
【0017】
図3は、SIMS法による深さ方向の濃度分布の分析方法の問題点を説明するための図である。縦軸はB強度を示し、横軸は試料の表面からの深さを示す。また、図中の4本の曲線は、一次イオン入射角度を0度("−○−"で示す。)、10度("−△−"で示す。)、15度("−□−"で示す。)、および20度("−▽−"で示す。)に異ならせて分析して得られた結果を示している。
【0018】
図3を参照するに、深さが1nm〜12nm付近の試料12の極最表面でのB強度は、4本の極性が互いに分離しており、一次イオン入射角度によって得られるB強度が異なることが分かる。さらに20nm以上の深さでも、3本に分離しており一次イオン入射角度によって得られるB強度が異なることが分かる。このように同一試料のB濃度の分布が異なる結果となり、どの分布が真の分布なのか判断できないという分析方法にとっては深刻な問題である。
【0019】
本願発明者はこのような現象は、一次イオンビームPIの照射により、試料12の最表面における結晶性に依存した表面形状の変化が一次イオン入射角度によって異なることが一因であると推察している。そこで、本願発明者はこの問題を解決するために以下に説明する分析方法を見出したものである。
【0020】
図4は、本発明に係る分析方法のフロー図である。図4を参照しつつ、本発明に係る分析方法を説明する。なお、本分析方法は図1に示す分析装置10を用いるので、図1を合わせて参照する。
【0021】
最初に、試料ステージ13に対する一次イオン入射角度の絶対値を校正する(S102)。具体的には、一次イオンビームPIを試料ステージ13の表面に固定された試料12に照射して、試料12に流れる電流(試料電流)を電流測定部18により検出する。角度設定部16により、一次イオン入射角度を例えば−70度から70度に亘って5度毎にこの操作を行う。
【0022】
図5は、試料電流と一次イオン入射角度との関係図である。なお、図5は、試料としてシリコン基板を用い、一次イオンビームとして5keVに加速したN2+を用いた。
【0023】
図5を参照するに、試料電流は、一次イオン入射角度が0度を通る対象線に対して左右対称の特性を示す。この特性を用いて、試料ステージ13のY軸の周りの角度位置との相対角度を得る。試料ステージ13の角度位置をその相対角度分だけ補正することで、一次イオン入射角度と試料ステージ13の角度を合わせられる。なお、このステップは既にこのステップを実施済みの試料ステージ13については行う必要はない。
【0024】
なお、このステップ(S102)において、一次イオンビームPIを試料ステージ13の表面に直接照射し、試料ステージ13に流れる電流を電流測定部18により検出してもよい。この場合も試料12に直接照射した場合と同じ特性図(図5)が得られ、試料12に照射した場合と同様の効果が得られる。但し、一次イオンビームPIを照射する試料ステージ13の表面は、試料12の表面と平行な面である必要がある。なお、一次イオンビームPIをファラデーカップ13aに照射してもよい。これにより、一次イオンビームPIの飛散を回避して効率良く測定可能である。
【0025】
次いで、一次イオンビームPIの照射エネルギーを設定する(S104)。一次イオンビームPIの照射エネルギーは、任意に設定でき特に限定されないが、分析の対象となる深さや、深さ方向に応じて設定することが好ましい。例えば、試料12の極最表面を分析する場合は照射エネルギーが低いほどよく、例えば1.0keV以下の設定することが好ましい。なお、以前行った分析と一次イオンビームPIの照射エネルギーを異ならせる場合は、本発明の分析方法を実施して、一次イオン入射角度を決定する必要がある。
【0026】
次いで、一次イオン入射角度θ1を設定する(S106)。ここで、一次イオン入射角度θ1は任意に選択可能であるが、例えば0度に設定する。なお、この場合、例えばθ2では5度、θ3では10度というように次第に増加させていく。
【0027】
次いで、一次イオンビームPIを試料12に照射し、試料12の深さ方向に亘って放出された2次イオンのうち、主要金属元素(Mo)の強度を測定する(S108)。
【0028】
図6Aは、Mo強度の深さプロファイルの一例であり、ここでは一次イオン入射角度が0度の場合に得られた深さプロファイルを示している。
【0029】
図6Aを参照するに、Mo強度は最表面から一旦小さなピーク(I0で示す。)をとり、それよりも深い位置では急速に減少している。試料12自体のMo濃度は深さ方向にわたって、略一定の濃度に形成されているので、一次イオン入射角度が0度の場合は真の分布から外れている。
【0030】
次いで、得られた主要金属元素(Mo)の強度の変動率が所定の範囲内か否かを判断する(S110)。具体的には、所定の範囲は、試料の表面付近でのMo強度の最小値あるいは最大値をI0として、I0に対して測定対象となる深さに亘る強度の変動率が20%以内(さらに好ましくは15%以内)とすることが好ましい。すなわち、分析対象となる深さ(図6Aでは表面から100nmの深さまで)に範囲における変動幅をΔIとして、変動率=ΔI/I0×100が20%以内となるか否かを判断する。試料の表面でのMo強度I0、および変動幅ΔIは以下のようにして決定する。なお、以下の説明において、最小値および最大値は、分析対象となる深さの範囲における最小値および最大値を意味する。ただし、試料の極最表面の主要金属元素(Mo)の強度が急激に変化する範囲を除いて、最小値および最大値を決める。
【0031】
図6B、図6C、および図6Dは、Mo強度の深さプロファイルの他の例であり、一次イオン入射角度が、図6Bでは10度、図6Cでは15度、図6Dでは20度の場合に得られた深さプロファイルを示している。
【0032】
図6Bを参照するに、Mo強度は、試料の極最表面において、Mo強度が急激に減少している。これは試料12の表面に付着した有機物等のコンタミネーションや自然酸化膜の影響であると考えられる。それよりも深い方向では、最大値を示し、その後深くなるにつれて減少し、一定値(最小値)を示している。このように、極最表面のコンタミネーションの影響による強度変化を除いて、表面側の最大値をI0とし、分析対象となる深さの範囲における最大値と最小値との差を変動幅ΔIとする。
【0033】
この決定方法によれば、図6Bでは、強度I0は8.3×105であり、変動幅ΔIは3.7×105であるので、変動率は、45%である。これは20%を超えているので、分析対象となる元素分析のための一次イオン入射角度として選択されない。
【0034】
図6Cを参照するに、深さプロファイルは、試料の極最表面においてMo強度が急激に減少し、極小値を示した後に最大値を示し、その後深くなるにつれて漸減し、一定値(最小値)を示している。このように試料の表面付近で最大値を取る場合は、その最大値をI0とする。強度I0は点Aの位置の強度8.1×105であり、変動幅ΔIは点Aと点Bでの強度差0.9×105であるので、変動率は、11%である。これは20%を下回っているので分析対象となる元素分析のための一次イオン入射角度として選択される。
【0035】
図6Dを参照するに、深さプロファイルは、試料の極最表面においてMo強度が急激に減少し、最小値を示し、その後深くなるにつれて漸増し最大値を示し、さらに漸減している。このように試料の表面付近で最小値のみを取る場合は、その最小値を強度I0とする。また、変動幅ΔIは、最小値(ここでは強度I0)と最大値との差である。強度I0は7×105であり、変動幅ΔIは点Aと点Bでの強度差2.2×105であるので、変動率は、31%である。これは20%を上回っているので分析対象となる元素分析のための一次イオン入射角度として選択されない。
【0036】
変動率が所定の強度範囲外(S110で"No")の場合は、次の一次イオン入射角度θ2に設定して(S112,S106)、上述したステップと同様にS108、S110を行う。
【0037】
また、変動率が所定の範囲内(S110で"Yes")である場合は、その一次イオン入射角度を分析対象の元素(B)を分析するための一次イオン入射角度に決定する(S114)。具体的には、試料ステージ13の角度位置を角度設定部16により、決定された一次イオン入射角度に合わせる。ここでは、先の図6Cで示したように一次イオン入射角度は15度に決定される。なお、複数の一次イオン入射角度において変動率が所定の範囲内の場合は、変動率が最も小さい一次イオン入射角度を選択することが好ましい。
【0038】
次いで、一次イオンビームPIを試料12に照射して分析対象の元素(B)の深さ方向分析を行う(S116)。その結果、先に示した図3で示した15度のB強度の深さ方向プロファイルが得られる。なお、この際、主要金属元素(Mo)の深さ方向分析を行ってもよい。
【0039】
本実施の形態によれば、試料12の主要金属元素(Mo)の深さ方向の二次イオン強度の変動率が所定の範囲内となる一次イオン入射角度に設定する。これにより、主要金属元素の二次イオン強度が、例えば試料12の最表面においてその結晶性等に影響されず、試料自体の真の濃度分布と対応するようになる。そして、この一次イオン入射角度に設定して分析対象の元素の深さ方向分析を行うので、高精度な分析が可能となる。さらに、良好な再現性も得られる。
【0040】
本願発明者は、本発明の分析方法において、以下の効果も合わせて見出した。
【0041】
図7は、Mo二次イオン化率と一次イオンビームの入射角度との関係図である。なお、一次イオンビームの照射エネルギーを0.5keV("−□−"で示す。)、1.0keV("−○−"で示す。)、および3.0keV("−△−"で示す。)に設定して測定した。また、試料は上述した試料と同様の試料を用いている。)
図7を参照するに、一次イオンビームの照射エネルギーが1.0keVでは、一次イオン入射角度が15度において二次イオン化率が最大値を示している。
【0042】
また、本願発明者は、一次イオンビームの照射エネルギーが3.0keVの場合は、上述した分析法において決定された一次イオン入射角度は0度であることを確認している。一方、図7に示すように、一次イオンビームの照射エネルギーが3.0keVの場合は、一次イオン入射角度が0度で二次イオン化率が最大となる。また、一次イオンビームの照射エネルギーが0.5keVの場合も、上述した分析法において決定された一次イオン入射角度は30度であることを確認しており、図7に示すように、一次イオン入射角度が30度で二次イオン化率が最大となる。
【0043】
これらのことから、上述した分析方法において決定された一次イオン入射角度(以下、説明の便宜のため「一次イオン入射角度θA」あるいは単に「θA」と称する。)は、二次イオン化率が最大となる角度であり、そのため、これ以外の一次イオン入射角度に設定するよりも定量性が高まり、よりいっそうの高精度の分析が可能となる。
【0044】
この作用を本願発明者は以下のように推察している。すなわち、一次イオン入射角度θAでは、試料表面に十分な主要金属元素の酸化物(MoOX)が形成され、かつ試料表面において主要金属元素をイオン化させるのに必要なエネルギーを十分に与えることができると考えられる。そのため、深さ方向亘って主要金属元素の二次イオン強度が略一定となり、かつ、二次イオン化率が最大となっていると考えられる。
【0045】
なお、上述した実施の形態では、試料12の最表面から所定の深さまでの深さ範囲における元素濃度を分析の対象としたが、たとえば分析対象の金属膜の表面に他の膜が形成されている場合は、分析対象の金属膜の表面から所定の深さまでの深さ範囲において本発明の分析方法を適用する。
【0046】
次に、本発明の分析方法に係る実施例と、本発明によらない比較例を説明する。ここでは、分析対象となる試料は、シリコン基板とその上にシリコン酸化膜(膜厚30nm)およびMo膜(膜厚350nm)を積層した積層体であり、Mo膜側からP(リン)を注入したものである。
【0047】
図8は、実施例および比較例の深さプロファイルを示す図である。縦軸は、MoおよびSiについてはカウント率(カウント/秒)、Pの深さプロファイルについてはP濃度(原子/cm3)を示している。また、横軸はMo膜の表面からの深さ(nm)を示している。なお、MoおよびSiの深さプロファイルについては一次イオン入射角度を15度に設定して得られたものである。なお、図中、実施例は"−□−"で示し、比較例は"−▽−"で示している。
【0048】
実施例および比較例のPの深さプロファイルの分析において、一次イオンビームの照射エネルギーを1.0keVに設定した。また、実施例に係る分析方法では、一次イオン入射角度を15度に設定した。なお、一次イオン入射角度が15度では、分析対象の深さに亘ってMo強度の変動率が20%以内であった。また、本発明によらない比較例として、一次イオン入射角度を30度に設定した。なお、一次イオン入射角度が30度では分析対象の深さに亘ってMo強度の変動率が20%を超えていた。
【0049】
図8を参照するに、実施例は、比較例よりも、深さが10nm〜20nmに存在するP濃度のピーク値が大きく、深さが200nm〜300nmでは低くなっており、十分ダイナミックレンジが得られている。比較例では、ドーパントのPがシリコン酸化膜の表面に1018原子/cm3台の濃度で存在しているように見えるのに対して、実施例では、シリコン酸化膜の表面では、1018原子/cm3よりも低くなっており、良好な検出限界が得られていることが分かる。実施例によれば、適正なP濃度の深さプロファイルを得ることができる。
【0050】
以上、本発明の好ましい実施の形態について詳述したが、本発明は係る特定の実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【0051】
例えば、上述した実施の形態では、試料としてBあるいはPが不純物として注入されたMo金属膜を例に説明したが、本発明は、Mo金属膜の変わりに他の金属元素の金属膜や2種以上の元素からなる合金膜にも適用可能である。合金膜の場合、それに含まれるいずれかの元素を主要金属元素として本発明を適用すればよい。また、不純物元素もBやPに限定されないことはいうまでもない。
【0052】
なお、以上の説明に関してさらに以下の付記を開示する。
(付記1) 深さ方向に亘って略同等の含有量を有する主要金属元素を含む試料の表面に一次イオンビームを照射して、
前記試料から放出された主要金属元素の二次イオン強度が分析対象の深さ範囲において試料の表面付近における二次イオン強度を基準として20%以内の範囲となる一次イオン入射角度に設定して、該主要金属元素よりも低い含有量の元素の深さ方向の濃度を測定する元素分析方法。
(付記2) 前記元素が主要金属元素に導入された不純物元素であることを特徴とする付記1記載の元素分析方法。
(付記3) 前記分析対象の深さ範囲は、試料の表面から所定の深さまでの範囲であることを特徴とする付記1または2記載の元素分析方法。
(付記4) 前記一次イオンビームの照射エネルギーに応じて一次イオン入射角度を設定することを特徴とする付記1〜3のうち、いずれか一項記載の元素分析方法。
(付記5) 前記一次イオン入射角度を異ならせつつ一次イオンビームを試料に照射して試料に流れる電流量を測定し、得られた一次イオン入射角度と該電流量との関係に基づいて、一次イオン入射角度の絶対値を決定することを特徴とする付記1〜4のうち、いずれか一項記載の元素分析方法。
(付記6) 前記試料は一次イオン入射角度を増減させる方向に回転自在の試料ステージに載置され、
一次イオン入射角度を異ならせつつ一次イオンビームを試料ステージに照射して試料ステージに流れる電流量を測定し、得られた一次イオン入射角度と該電流量との関係に基づいて、一次イオン入射角度の絶対値を決定することを特徴とする付記1〜4のうち、いずれか一項記載の元素分析方法。
(付記7) 前記一次イオンビームは、試料ステージに形成された開口部に照射することを特徴とする付記6記載の元素分析方法。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明に係る分析方法に用いる分析装置の要部構成図である。
【図2】一次イオン入射角度を説明するための図である。
【図3】SIMS法による深さ方向の濃度分布の分析方法の問題点を説明するための図である。
【図4】本発明に係る分析方法のフロー図である。
【図5】試料電流と一次イオン入射角度との関係図である。
【図6A】Mo強度の深さプロファイルの例(その1)を示す図である。
【図6B】Mo強度の深さプロファイルの例(その2)を示す図である。
【図6C】Mo強度の深さプロファイルの例(その3)を示す図である。
【図6D】Mo強度の深さプロファイルの例(その4)を示す図である。
【図7】Mo二次イオン化率と一次イオン入射角度との関係図である。
【図8】実施例および比較例の深さプロファイルを示す図である。
【符号の説明】
【0054】
10 分析装置
11 真空容器
12 試料
13 試料ステージ
14 イオンガン
15 質量分析器
16 角度設定部
18 電流測定部
PI 一次イオンビーム
SI 二次イオン
【特許請求の範囲】
【請求項1】
深さ方向に亘って略同等の含有量を有する主要金属元素を含む試料の表面に一次イオンビームを照射して、
前記試料から放出された主要金属元素の二次イオン強度が分析対象の深さ範囲において試料の表面付近における二次イオン強度を基準として20%以内の範囲となる一次イオン入射角度に設定して、該主要金属元素よりも低い含有量の元素の深さ方向の濃度を測定する元素分析方法。
【請求項2】
前記元素が主要金属元素に導入された不純物元素であることを特徴とする請求項1記載の元素分析方法。
【請求項3】
前記一次イオンビームの照射エネルギーに応じて一次イオン入射角度を設定することを特徴とする請求項1または2記載の元素分析方法。
【請求項4】
前記一次イオン入射角度を異ならせつつ一次イオンビームを試料に照射して試料に流れる電流量を測定し、得られた一次イオン入射角度と該電流量との関係に基づいて、一次イオン入射角度の絶対値を決定することを特徴とする請求項1〜3のうち、いずれか一項記載の元素分析方法。
【請求項1】
深さ方向に亘って略同等の含有量を有する主要金属元素を含む試料の表面に一次イオンビームを照射して、
前記試料から放出された主要金属元素の二次イオン強度が分析対象の深さ範囲において試料の表面付近における二次イオン強度を基準として20%以内の範囲となる一次イオン入射角度に設定して、該主要金属元素よりも低い含有量の元素の深さ方向の濃度を測定する元素分析方法。
【請求項2】
前記元素が主要金属元素に導入された不純物元素であることを特徴とする請求項1記載の元素分析方法。
【請求項3】
前記一次イオンビームの照射エネルギーに応じて一次イオン入射角度を設定することを特徴とする請求項1または2記載の元素分析方法。
【請求項4】
前記一次イオン入射角度を異ならせつつ一次イオンビームを試料に照射して試料に流れる電流量を測定し、得られた一次イオン入射角度と該電流量との関係に基づいて、一次イオン入射角度の絶対値を決定することを特徴とする請求項1〜3のうち、いずれか一項記載の元素分析方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図6D】
【図7】
【図8】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図6D】
【図7】
【図8】
【公開番号】特開2007−271574(P2007−271574A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−100591(P2006−100591)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】
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