説明

充電制御システム

【課題】蓄電装置への充電が制限される場合に車両の運動エネルギーを有効利用できる充電制御システムを提供すること。
【解決手段】機関の回転軸に連結された第一電動機と、作動流体を介して動力を伝達する流体式動力伝達機構と、流体式動力伝達機構を介して機関および第一電動機と接続され、かつ車両の駆動輪と動力を伝達可能であり、車両の走行時に回生発電により電力を出力できる第二電動機と、第二電動機から出力される電力により充電される蓄電装置とを備え、回生発電時に蓄電装置への充電が制限された場合(S10肯定)、あるいは蓄電装置への充電が制限されると予測された場合であって、かつ、第一電動機、あるいは第一電動機と潤滑油を共有する変速装置の少なくともいずれか一方の暖機が必要な場合(S20肯定)、第一電動機を動作させる(S40)ことにより第二電動機から出力される電力を消費させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、充電制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、回生制動によりバッテリ(蓄電装置)を充電する技術が知られている。例えば、特許文献1には、バッテリの蓄電量が所定値以下のときは、モータジェネレータによる回生制動中にロックアップクラッチを非係合状態とし、バッテリの蓄電量が所定値を超えるときは、バッテリの蓄電量が所定値以下のときの回生制動による車両減速度と等しい車両減速度が得られるように、少なくともロックアップクラッチの係合状態を調節する車両用駆動装置の制御装置の技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−118246号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
回生発電時に蓄電装置への充電が制限される場合がある。こうした場合に車両の運動エネルギーを有効利用することについて、従来十分な検討がなされていない。蓄電装置への充電が制限される場合に車両の運動エネルギーを有効利用できることが望まれている。
【0005】
本発明の目的は、蓄電装置への充電が制限される場合に車両の運動エネルギーを有効利用できる充電制御システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の充電制御システムは、機関の回転軸に連結された第一電動機と、作動流体を介して動力を伝達する流体式動力伝達機構と、前記流体式動力伝達機構を介して前記機関および前記第一電動機と接続され、かつ車両の駆動輪と動力を伝達可能であり、前記車両の走行時に回生発電により電力を出力できる第二電動機と、前記第二電動機から出力される電力により充電される蓄電装置とを備え、前記回生発電時に前記蓄電装置への充電が制限された場合、あるいは前記蓄電装置への充電が制限されると予測された場合であって、かつ、前記第一電動機、あるいは前記第一電動機と潤滑油を共有する変速装置の少なくともいずれか一方の暖機が必要な場合、前記第一電動機を動作させることにより前記第二電動機から出力される電力を消費させることを特徴とする。
【0007】
上記充電制御システムにおいて、更に、前記流体式動力伝達機構における動力の伝達度合いを制御する伝達制御装置を備え、前記伝達制御装置は、前記電力を消費させる前の前記動力の伝達度合いよりも、前記電力を消費させるときの前記動力の伝達度合いを低下させることが好ましい。
【0008】
上記充電制御システムにおいて、更に、前記流体式動力伝達機構における動力の伝達度合いを制御する伝達制御装置を備え、前記電力を消費させるときの前記第一電動機の消費電力は、前記第一電動機の温度、あるいは前記潤滑油の温度の少なくともいずれか一方に応じて可変とされ、前記伝達制御装置は、前記消費電力の変化による前記車両の減速度の変化を抑制するように前記動力の伝達度合いを制御することが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明にかかる充電制御システムは、回生発電時に蓄電装置への充電が制限された場合、あるいは蓄電装置への充電が制限されると予測された場合であって、かつ、第一電動機、あるいは第一電動機と潤滑油を共有する変速装置の少なくともいずれか一方の暖機が必要な場合、第一電動機を動作させることにより第二電動機から出力される電力を消費させる。第一電動機が動作することによって発生する熱により、暖機を要する装置の暖機が促進される。本発明にかかる充電制御システムによれば、蓄電装置への充電が制限された場合に車両の運動エネルギーを有効利用できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、実施形態にかかる充電制御システムの動作を示すフローチャートである。
【図2】図2は、実施形態にかかる動力伝達装置を示すスケルトン図である。
【図3】図3は、動力伝達装置の作動係合表を示す図である。
【図4】図4は、ECUの入出力関係図である。
【図5】図5は、実施形態にかかる動力伝達装置の変速線図である。
【図6】図6は、シフト操作装置を示す図である。
【図7】図7は、ブレーキのスリップ率と逆駆動時容量係数との関係を示す図である。
【図8】図8は、逆駆動時における比Ne/Ntとトルク比との関係を示す図である。
【図9】図9は、逆駆動時における比Ne/Ntと容量係数との関係を示す図である。
【図10】図10は、実施形態の充電制御のタイムチャートである。
【図11】図11は、第一電動機の温度やATF温度と電気パス量との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明にかかる充電制御システムの一実施形態につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記の実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるものあるいは実質的に同一のものが含まれる。
【0012】
(実施形態)
図1から図10を参照して、実施形態について説明する。本実施形態は、充電制御システムに関する。図1は、本発明の実施形態にかかる充電制御システムの動作を示すフローチャート、図2は本実施形態にかかる動力伝達装置を示すスケルトン図である。
【0013】
本実施形態の充電制御システム1−1は、内燃機関(図2の符号10参照)に連結された第一電動機(図2の符号40参照)と、この内燃機関10に流体継手(図2の符号60参照)を介して連結される第二電動機(図2の符号50参照)とを有する動力伝達装置であって、第一電動機40の温度が低いとき、第二電動機50で発電された電力を第一電動機40で消費して、第一電動機40の温度を上げる。これにより、第一電動機40の暖機を推進し、第一電動機40の効率を早期に向上させて、燃費を向上させることができる。本実施形態の充電制御システム1−1によれば、バッテリ(図2の符号70参照)が満充電で回生電力をバッテリ70に充電できない場合であっても、減速エネルギーを有効利用することができる。
【0014】
図2において、符号1は、ハイブリッド車両(図示せず)の動力伝達装置を示す。動力伝達装置1は、動力源としてのエンジン(機関)10や第一電動機(MG1)40、第二電動機(MG2)50の出力をハイブリッド車両の図示しない駆動輪に伝達するものである。動力伝達装置1は、その軸心に対して対称的に構成されているため、図2においては動力伝達装置1の下側が省略されている。
【0015】
動力伝達装置1は、ケース1A、ケース1A内において同軸上に配置された第一変速部(変速装置)20、第二変速部(変速装置)30、入力軸11および出力軸12を有する。入力軸11には、トルクコンバータ60を介してエンジン10の出力軸であるクランクシャフト10Aが連結されている。
【0016】
トルクコンバータ60は、流体継手であり、ポンプインペラ61、タービンランナ62、ステータ63およびロックアップクラッチ64を有する。ポンプインペラ61は、クランクシャフト10Aと連結されており、クランクシャフト10Aと一体に回転する。タービンランナ62は、入力軸11と連結されており、入力軸11と一体に回転する。ポンプインペラ61とタービンランナ62とは、相対回転により作動流体を介して相互にトルクを伝達することができる。つまり、トルクコンバータ60は、作動流体を介して動力を伝達する流体式動力伝達機構である。ステータ63は、ポンプインペラ61とタービンランナ62との間に回転可能に配置されており、ポンプインペラ61とタービンランナ62との間で伝達されるトルクを増幅することができる。
【0017】
ステータ63とケース1Aとの間には、ブレーキBsが設けられている。ブレーキBsは、例えば油圧アクチュエータにより作動する摩擦係合式のものであり、完全係合状態でステータ63の回転を不能とする状態(以下、「ステータロック状態」と記載する。)と、半係合状態でステータ63の回転を許容する状態(以下、「ステータスリップ状態」と記載する。)と、解放状態でステータ63の回転を規制しない状態を選択的に実現することができる。これらの状態の切替え、およびステータスリップ状態におけるスリップ率は、油圧アクチュエータに供給される作動油圧により制御される。
【0018】
ロックアップクラッチ64は、クランクシャフト10Aとタービンランナ62との間に設けられている。ロックアップクラッチ64は、完全係合状態、半係合状態および解放状態を選択的に実現することができる。ロックアップクラッチ64の解放状態では、トルクコンバータ60は作動流体によりトルクを伝達する流体継手として機能する。一方、ロックアップクラッチ64の完全係合状態では、トルクコンバータ60は、作動流体を介さずにクランクシャフト10Aとタービンランナ62とで直接トルクを伝達させる。また、ロックアップクラッチ64の半係合状態では、トルクコンバータ60は、ロックアップクラッチ64を介した機械的なトルクの伝達と作動流体を介したトルクの伝達をそれぞれ行う。ロックアップクラッチ64は、半係合状態におけるトルクの伝達の度合い(係合度合い)を任意に制御可能となっている。
【0019】
第一変速部20は、ダブルピニオン型の第一遊星歯車装置21を有する。第一遊星歯車装置21は、第一サンギアS1、第一ピニオンギアP1,P1、第一キャリヤCA1および第一リングギアR1を有する。第一キャリヤCA1は、第一ピニオンギアP1,P1を自転および公転可能に支持する。
【0020】
第二変速部30は、ダブルピニオン型の第二遊星歯車装置31を有する。第二遊星歯車装置31は、第二サンギアS2、第二ピニオンギアP2、第二キャリヤCA2および第二リングギアR2を有する。第二ピニオンギアP2は、径方向の内側に配置された内側第二ピニオンギアP21および径方向の外側に配置された外側第二ピニオンギアP22を有する。第二キャリヤCA2は、内側第二ピニオンギアP21および外側第二ピニオンギアP22を自転および公転可能に支持する。また、第二サンギアS2は、互いに独立して回転可能な第二サンギアS21,S22を有する。第二サンギアS21は、外側第二ピニオンギアP22と噛合っており、第二サンギアS22は、内側第二ピニオンギアP21と噛合っている。
【0021】
第一遊星歯車装置21の第一サンギアS1はケース1Aに固定されている。第一キャリヤCA1は、入力軸11と連結されているとともに、第四クラッチC4を介して第二サンギアS21に選択的に連結される。第一リングギアR1は、第一クラッチC1を介して第二サンギアS22に選択的に連結されるとともに、第三クラッチC3を介して第二サンギアS21に選択的に連結される。
【0022】
第二遊星歯車装置31の第二サンギアS21は、第一ブレーキB1を介してケース1Aに選択的に連結される。また、第二キャリヤCA2は、第二クラッチC2を介して入力軸11に選択的に連結されるとともに、第二ブレーキB2を介してケース1Aに選択的に連結される。第二リングギアR2は、出力軸12を介して図示しない駆動輪と連結されている。
【0023】
図3は、本実施形態の動力伝達装置1の作動係合表を示す図である。以上のように構成された動力伝達装置1は、図3の作動係合表に示すように、第一クラッチC1、第二クラッチC2、第三クラッチC3、第四クラッチC4、第一ブレーキB1および第二ブレーキB2が選択的に係合作動させられることにより、第1速ギア段から第8速ギア段および後進ギア段(R1、R2)が選択的に成立させられる。
【0024】
第一電動機40は、ケース1Aに固定されたステータ41と、クランクシャフト10Aに連結され、クランクシャフト10Aと一体に回転するロータ42を有する。第二電動機50は、ケース1Aに固定されたステータ51と、入力軸11に連結され、入力軸11と一体に回転するロータ52を有する。第二電動機50は、トルクコンバータ60を介してエンジン10および第一電動機40と接続されている。第一電動機40および第二電動機50は、それぞれインバータ71を介してバッテリ70に接続されている。インバータ71は、接続された各装置間の電力の授受を制御するものである。インバータ71は、第一電動機40や第二電動機50とバッテリ70との間で電力を授受させてバッテリ70の充放電を制御することができるとともに、第一電動機40と第二電動機50との間で電力を授受させることもできる。
【0025】
第一電動機40および第二電動機50は、モータ(動力源)としての機能と発電機としての機能とを備えるモータジェネレータである。第一電動機40は、第一変速部20および第二変速部30と潤滑油(ATF)を共有している。すなわち、第一電動機40、第一変速部20および第二変速部30には、同じ潤滑系の潤滑油が供給されている。
【0026】
第一電動機40は、バッテリ70からの電力を変換して出力するトルクにより、クランクシャフト10Aを回転させることができる。第一電動機40は、例えば、エンジン10の始動時にクランクシャフト10Aを回転駆動する。また、第一電動機40は、クランクシャフト10Aから伝達されるトルクにより発電し、バッテリ70を充電することが可能である。第一電動機40は、例えば、エンジン10の運転時にエンジン10の出力トルクにより発電する。
【0027】
第二電動機50は、バッテリ70からの電力を変換して出力するトルクにより、入力軸11を回転させることができる。第二電動機50の出力トルクは、第一変速部20および第二変速部30を介して出力軸12から駆動輪に伝達される。第二電動機50は、出力するトルクにより車両を走行させることができる。本実施形態の車両は、エンジン10の出力トルク、あるいは第二電動機50の出力トルクのいずれかにより走行することができるものである。ただし、これには限定されず、エンジン10および第二電動機50の両方にトルクを出力させて走行することが可能な車両であってもよい。また、第二電動機50は、入力軸11に伝達されるトルクによりロータ52が回転することで発電し、バッテリ70を充電することが可能である。第二電動機50は、例えば、車両の減速時に回生発電を実行し、回生減速度を発生させることができる。回生発電では、駆動輪から伝達されるトルクによりロータ52が回転し、第二電動機50で発電がなされる。すなわち、回生発電では、第二電動機50は、車両の運動エネルギーを電気エネルギーに変換して電力を出力する。
【0028】
車両には、動力伝達装置1を制御する制御装置としての機能を有するECU100が設けられている。ECU100は、予め記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより、エンジン10の駆動制御、第一電動機40および第二電動機50の駆動制御、第一変速部20および第二変速部30の変速制御、バッテリ70の充放電等のためのインバータ71の制御をそれぞれ実行する。
【0029】
図4は、ECU100の入出力関係図である。ECU100には、図4に示す各種センサやスイッチから信号が入力される。例えば、ECU100には、後述するシフト操作装置80のシフトポジションを表す信号、エンジン回転数Neを示す信号、第一電動機MG1の回転数を表す信号、第二電動機MG2の回転数を表す信号、M(EV走行)モードを指令する信号、出力軸12の回転数に対応する車速信号、第一変速部20および第二変速部30の作動油温を示すAT油温信号、第一電動機40や第二電動機50の温度を示すMG温度信号、バッテリ70の充電状態を検出するSOCセンサからの充電状態SOCを示す信号、アクセルペダルの操作量を示すアクセル開度信号などが入力される。
【0030】
また、ECU100からは、エンジン10のスロットル開度や点火時期を指令する信号、インバータ71の動作を指令する指令信号、第一電動機40および第二電動機50の作動を指令する指令信号、第一変速部20や第二変速部30の油圧式摩擦係合要素の油圧アクチュエータを制御する図示しない電磁弁を作動させるATソレノイド信号、トルクコンバータ60のロックアップクラッチ64の係合状態を指令するATロックアップコントロールソレノイド信号、ブレーキBsのスリップ率(係合状態)を示す信号がそれぞれ出力される。本実施形態の充電制御システム1−1は、第一電動機40、第二電動機50、トルクコンバータ60、バッテリ70、ブレーキBsおよびECU100を含んでいる。
【0031】
図5は、実施形態にかかる動力伝達装置1の変速線図である。図5において、横軸は車速、縦軸は動力伝達装置1のアウトプットトルクを示す。図5に示すように、動力伝達装置1の変速線図にはシフトアップおよびシフトダウンのそれぞれについて第1速ギア段から第8速ギア段までの7本の変速線が設定されている。また、太線内の領域は、モータ走行領域を示す。モータ走行領域では、通常時、例えばバッテリ70のSOCが十分に高いときは、モータ走行が行われる。モータ走行領域であっても、モータ走行ができないときは、エンジン走行を行う。モータ走行領域において、モータ走行を行う場合とエンジン走行を行う場合とで変速線は異なる。これは、エンジン走行時は、比較的、低回転高負荷の領域でエンジン10を動作させた方が効率が良く、一方モータ走行時は、比較的、高回転低負荷の領域で第二電動機50を動作させた方が有利なためである。
【0032】
図6は、シフト操作装置を示す図である。シフト操作装置80は、例えば運転席の横に配置され、複数種類のシフトポジションを選択するために操作されるシフトレバー81を有する。シフトレバー81は、P(パーキング)、R(リバース)、N(ニュートラル)、D(ドライブ)、M(マニュアル)のいずれかのポジションに手動操作可能となっている。「M」ポジションでは、アップシフト位置「+」あるいはダウンシフト位置「−」へ操作されることにより、最高速側の変速段が異なる複数のレンジに切り替えられる。なお、「M」ポジションにおいて、レンジの切り替えに代えて、ギア段ホールドがなされてもよい。また、シフトレバー81は、減速度操作装置として捉えられてもよい。例えば、シフトレバー81のアップシフト位置「+」やダウンシフト位置「−」への操作が減速度の要求量を示すものとして捉えられてもよい。
【0033】
ECU100は、アクセルオフの状態で走行している場合などに、適宜回生制御を実行する。回生制御では、ECU100は、エンジン10への燃料の供給を停止してエンジン10の運転を停止し、第二電動機50において車両の走行エネルギーを電気エネルギーに変換させて電力を出力させる。第二電動機50から出力される電力は、インバータ71を介してバッテリ70に充電される。回生制御では、トルクコンバータ60のロックアップクラッチ64は解放状態とされ、ステータ63用のブレーキBsは、所定のスリップ率に制御される。これにより、図示しない駆動輪から出力軸12、第一変速部20および第二変速部30を介して入力軸11に伝達されるトルクは、第二電動機50のロータ52を回転させる。また、入力軸11に伝達されるトルクは、トルクコンバータ60において作動流体を介してクランクシャフト10Aに伝達される。
【0034】
トルクコンバータ60は、以下に図7から図9を参照して説明するように、ステータ63(ブレーキBs)のスリップ率により、その伝達特性が変化する。図7は、ブレーキBsのスリップ率と逆駆動時のトルクコンバータ60の容量係数との関係を示す図である。ここで、逆駆動時とは、トルクコンバータ60において入力軸11が駆動側、クランクシャフト10Aが被駆動側としてトルクが伝達される状態である。例えば、減速時において第二電動機50による発電を行う回生発電時には、駆動輪から入力軸11を介して伝達されるトルクによりタービンランナ62が回転し、この回転が作動流体を介して伝達されてポンプインペラ61が回転する逆駆動状態となる。一方、エンジン走行時には、エンジン10の出力トルクによりポンプインペラ61が回転し、この回転が作動流体を介して伝達されてタービンランナ62が回転する。つまり、トルクコンバータ60においてクランクシャフト10Aが駆動側、入力軸11が被駆動側としてトルクが伝達される正駆動状態となる。
【0035】
図7に示すように、ブレーキBsのスリップ率が増加(減少)すると、トルクコンバータ60の逆駆動時容量係数が増加(減少)することが分かる。例えば、ブレーキBsのスリップ率が減少すると、ステータ63がフリー回転し難くなり、トルクコンバータ60内における作動油の流れが阻害されて、トルクコンバータ60の逆駆動時容量係数が小さくなる。逆に、ブレーキBsのスリップ率が増加すると、トルクコンバータ60の逆駆動時容量係数が大きくなる。また、ブレーキBsのスリップ率を制御することにより、トルクコンバータ60の容量係数を連続的に制御できることが分かる。つまり、ブレーキBsは、トルクコンバータ60における動力の伝達度合いを制御する伝達制御装置として機能する。
【0036】
図8は、トルクコンバータ60の逆駆動時における比Ne/Ntとトルク比との関係を示す図である。図9は、トルクコンバータ60の逆駆動時における比Ne/Ntと容量係数との関係を示す図である。これらの図において、比Ne/Ntは、エンジン回転数Neとタービン回転数Ntとの比である。また、トルクコンバータ60のトルク比は、タービンランナ62のトルクとポンプインペラ61のトルクとの比である。
【0037】
この動力伝達装置1では、トルクコンバータ60の正駆動時(ポンプインペラ61からタービンランナ62に向かって駆動力が伝達されるとき)には、ブレーキBsが係合状態(完全係合状態)に設定される。すると、ステータ63が固定されて、トルクコンバータ60のトルク増幅機能が通常どおり確保される。
【0038】
一方、トルクコンバータ60の逆駆動時(タービンランナ62からポンプインペラ61に向かって駆動力が伝達されるとき)には、ブレーキBsのスリップ率を制御することにより、トルクコンバータ60の逆駆動時容量係数を連続的に制御できる(図7参照)。このとき、ブレーキBsのスリップ率を小さく設定してステータ63を係合状態(ロック状態)に近づけると、トルクコンバータ60のトルク比が1.0に近づき(図8の矢印Y1参照)、また、トルクコンバータ60の逆駆動時容量係数が低下する(図9の矢印Y2参照)。かかる状態では、例えば、車両のコースト走行時(アクセルオフの惰性走行時)に駆動輪からの逆駆動トルクがエンジン10に作用しても、エンジン10のフリクショントルクの方が強いため、エンジン10が回転しない。これにより、エンジン10の引きずりトルク(回転抵抗)が低減され、その分、第二電動機50の回生量を増加することができる。
【0039】
なお、この実施形態では、ステータ63の回転を規制するための回転規制手段として、摩擦係合要素である湿式の油圧ブレーキBsが採用されている。しかし、これに限らず、回転規制手段として、例えば、電磁クラッチが採用されても良い。
【0040】
ここで、第二電動機50による回生発電中に、バッテリ70への充電が制限される場合がある。たとえば、バッテリ70の充電状態SOC(State of Charge)が上昇し、充電を行うことが許容される充電状態の上限に達した場合である。従来、バッテリ70への充電が制限された場合に、回生が中止されることがあった。回生が中止されると、回生制動力が発生しなくなるため、減速度が変化してしまうという問題がある。これに対して、回生を中止する場合に、トルクコンバータ60の容量係数を増加させて、エンジン10の引き摺りトルクを復帰させて減速度の変化を抑制することが考えられる。しかしながら、この方法では、車両の運動エネルギーがエンジン10の熱となって逃げてしまい、車両の運動エネルギーの有効利用が図れない。
【0041】
本実施形態の充電制御システム1−1では、回生発電時に満充電によりバッテリ70の充電が制限された場合に、動力伝達装置1の暖機(例えば、第一電動機40の暖機)が必要なときには、第一電動機40を動作させることによって、第二電動機50で発電されて第二電動機50から出力される電力を消費させる。第一電動機40に電力が供給され、第一電動機40がエンジン10を回転させる仕事をすることで、第二電動機50が発電した電力が消費される。これにより、バッテリ70が満充電であっても回生発電を中止することなく継続して発電を行うことができるため、回生の中止により減速度が変化してしまうことが抑制される。また、車両の運動エネルギーを有効に利用して第一電動機40の暖機を推進することができる。暖機により第一電動機40の効率が早期に向上することで、燃費の向上が可能となる。
【0042】
図1を参照して、本実施形態の充電制御の流れについて説明する。図10は、本実施形態の充電制御がなされた場合のタイムチャートの一例を示す図である。図10には、シフトポジションがDポジションでの回生走行中に満充電状態が判定された場合について、暖機が必要と判定された場合(実線)および暖機の必要がないと判定された場合(破線)のそれぞれの動作が示されている。なお、図10では、走行状態に基づいて2速変速段(2nd)が選択されている。これにより、第一ブレーキB1の油圧PB1がON(係合状態)とされている。
【0043】
図1を参照し、まず、ステップS10では、ECU100により、Dポジションでの回生走行中に満充電状態であるか否かが判定される。ECU100は、取得した現在の充電状態SOCと、あらかじめ定められた閾値St1との比較結果に基づいてステップS10の判定を行う。閾値St1は、バッテリ70の充電が許容される充電状態SOCの上限に基づいて定められたものである。現在の充電状態SOCが閾値St1に達している場合、バッテリ70が満充電であると判定され、バッテリ70への充電が制限される。図10では、時刻t1に向けて徐々に充電状態SOCが増加し、時刻t1において満充電判定がなされる。ステップS10の判定の結果、満充電状態であると判定された場合(ステップS10−Y)にはステップS20に進み、そうでない場合(ステップS10−N)には本制御フローはリターンする。
【0044】
ステップS20では、ECU100により、暖機が必要であるか否かが判定される。ECU100は、例えば、第一電動機40の温度情報に基づいてステップS20の判定を行う。検出された第一電動機40の温度が、あらかじめ定められた所定温度以下である場合に、ステップS20において肯定判定がなされる。なお、ECU100は、第一電動機40の温度情報に代えて、あるいは加えて、動力伝達装置1の潤滑油(ATF)の温度情報に基づいてステップS20の判定を行うようにしてもよい。第一電動機40は、上記ATFに接しているものであるため、第一電動機40が動作すると、第一電動機40で発生する熱によりATFの温度も上昇する。つまり、トランスミッションである第一変速部20や第二変速部30の暖機を要する場合に、第一電動機40が運転されることで、ATFの油温が上昇し、トランスミッション(第一変速部20、第二変速部30)の暖機が推進される。その結果、トランスミッションの引き摺りが低減され、燃費の向上が可能となる。ステップS20の判定の結果、暖機が必要であると判定された場合(ステップS20−Y)にはステップS30に進み、そうでない場合(ステップS20−N)にはステップS50に進む。
【0045】
ステップS30では、ECU100により、トルクコンバータ60の逆駆動時容量係数の低下が実行される。ECU100は、ブレーキBsのスリップ率を低減させるか、あるいはブレーキBsを完全に係合させて逆駆動時容量係数を低下させる。図10では、時刻t1においてブレーキBsのクラッチ油圧が高められ、スリップ率が低下する。つまり、ブレーキBsは、第一電動機40で電力を消費させる前のトルクコンバータ60における動力の伝達度合いよりも、電力を消費させるときのトルクコンバータ60における動力の伝達度合いを低下させる。
【0046】
その結果として、駆動輪から見てエンジン10の引き摺り(負荷)が低下する。これにより、減速度が一定のまま第二電動機50でできるだけ多くの発電をすることができ、その電力を第一電動機40に回すことができる。つまり、トルクコンバータ60を介した機械的エネルギーの流れを少なくして、第二電動機50から第一電動機40への電気パスを増やし、暖機を促進することができる。逆駆動時容量係数の低下により、エンジン10の引き摺りが低い分、逆駆動時容量係数を低下させない場合よりもエンジン10が回っていない状態となる。よって、第一電動機40がより多くの仕事をして電力を消費することができる。つまり、第一電動機40で仕事をさせるためにエンジン回転数を高くする必要がない。ステップS30が実行されると、ステップS40に進む。
【0047】
ステップS40では、ECU100により、第二電動機50から第一電動機40への電力の供給が実施される。ECU100は、第二電動機50で発電された電力が、インバータ71を介して第一電動機40に供給されるように、インバータ71に対して指令を出力する。また、ECU100は、第一電動機40をモータとして動作させてエンジン10を回転させる。これにより、バッテリ70への充電が抑制され、第一電動機40により電力が消費される。図10では、時刻t1において第一電動機40の出力トルク(MG1トルク)および回転数(MG1回転数)が上昇している。また、第一電動機40の出力トルクによりエンジン10の回転数が上昇している。第二電動機50により出力される電力が、第一電動機40により消費されることで、時刻t1以降の充電状態SOCの上昇が抑制されている。第一電動機40は、エンジン10を回転させる仕事をするので、その損失分発熱し、自身の暖機を促進させる。また、MG1に接するATFの温度も上昇し、動力伝達装置1の暖機が促進される。ステップS40が実行されると、本制御フローはリターンする。
【0048】
ステップS20で否定判定がなされてステップS50に進むと、ステップS50では、ECU100により、トルクコンバータ60の逆駆動時容量係数の増加が実行される。ECU100は、ブレーキBsのスリップ率を大きくするか、あるいはブレーキBsを完全に解放させて逆駆動時容量係数を増加させる。その結果として、入力軸11からクランクシャフト10Aに伝達されるトルクが増加し、エンジン回転数が増加する。例えば、それまでエンジン回転数がゼロであった場合、エンジン10が回転をするようになり、エンジン引き摺りが増加する。よって、第二電動機50における回生の中止に伴う減速度の変動が抑制される。図10では、時刻t1にブレーキBsに対して解放状態とする指令が出力され、その後ブレーキBsのクラッチ油圧がゼロまで低下していく。これにより、逆駆動時容量係数が増加してエンジン回転数が上昇する。ステップS50が実行されると、ステップS60に進む。
【0049】
ステップS60では、ECU100により、第二電動機50での発電電力を第一電動機40に回す制御が停止される。ECU100は、インバータ71において第二電動機50から第一電動機40への電力の供給を停止させる。第一電動機40が動作して発生する熱による暖機が必要でない場合には、電気部品の耐久性も考慮して、機械的な連結によるエネルギー消費を優先させる。ステップS60が実行されると、本制御フローはリターンする。
【0050】
このように、本実施形態の充電制御システム1−1によれば、バッテリ70への充電が制限される場合に、回生発電を継続し、発電された電力を消費させて第一電動機40やトランスミッションの暖機を行うことで、車両の運動エネルギーを有効利用することができる。第一電動機40およびエンジン10と第二電動機50との間にトルクコンバータ60が介在することで、第二電動機50による回生発電を行いつつ第一電動機40に仕事をさせることが容易となる。さらに、ブレーキBsによりトルクコンバータ60の逆駆動時容量係数が調節可能であるため、トルク変動を伴わずに回生発電時の発電量を可変とすることや、第一電動機40に仕事をさせるときの負荷を可変とすることが可能となる。
【0051】
また、動力伝達装置1は、第二電動機50で発電された電力を第一電動機40で消費して回生減速度を確保する第1モード(S30,S40)と、トルクコンバータ60のステータ63の回転を制限して作動流体の流れを阻害することにより、回生減速度を確保する第2モード(S50,S60)の二つの動作モードを有している。動力伝達装置1が、バッテリ70の充電が制限される場合に第1モードで、そうでない場合に第2モードで動作することで、バッテリ70の充電状態SOCによらず、回生減速度の確保が可能となる。
【0052】
本実施形態では、エンジン10および第一電動機40と第二電動機50とを接続する流体式動力伝達機構が、トルクコンバータ60である場合を例に説明したが、これには限定されず、作動流体を介して動力を伝達する他の流体式動力伝達機構であってもよい。
【0053】
本実施形態では、バッテリ70の満充電状態と判定された場合(ステップS10―Y)に第一電動機40による暖機が必要かの判定に進んだが、これに代えて、バッテリ70が将来満充電となることが予測された場合に暖機が必要かの判定に進むようにされてもよい。つまり、バッテリ70への充電が制限されると予測され、かつ第一電動機40等の暖機が必要な場合に、第一電動機40を動作させて第二電動機50から出力される電力を消費させるようにしてもよい。
【0054】
また、第一電動機40が動作して発生する熱により暖機される暖機対象は、第一電動機40自身およびATFには限定されない。動力伝達装置1の他の要素が第一電動機40の発生する熱により暖機されてもよい。
【0055】
(実施形態の変形例)
図11を参照して、実施形態の変形例について説明する。本変形例において、上記実施形態と異なる点は、第一電動機40の温度やATFの温度に応じて電気パス量が可変とされる点である。第一電動機40の温度やATFの温度は、それぞれの暖機の必要性を示すパラメータである。ここで、電気パス量とは、第二電動機50により発電された発電電力のうち、第一電動機40に回される電力である。言い換えると、電気パス量は、第一電動機40を動作させて第二電動機50から出力される電力を消費させるときの第一電動機40の消費電力である。
【0056】
図11は、第一電動機40の温度やATFの温度と電気パス量との関係を示す図である。本変形例では、充電制御システム1−1は、それぞれの温度が低いほど電気パス量を増加し、第一電動機40の発熱量を増加させる。これにより、暖機の必要性が高い場合に、暖機を促進する度合いを高めることができる。なお、第一電動機40あるいはトランスミッションのいずれか一方のみ暖機が必要なときには、暖機が必要な装置に係る温度に基づいて電気パス量が決定されるようにすればよい。例えば、第一変速部20や第二変速部30の暖機のみが必要な場合には、ATF温度に基づいて電気パス量が決定されるようにすればよい。また、第一電動機40およびトランスミッションの両方の暖機が必要な場合、第一電動機40の温度およびATFの温度の両方に基づいて電気パス量が決定されてもよく、いずれか一方の温度に基づいて電気パス量が決定されてもよい。
【0057】
さらに、暖機の必要性が高い場合、第一電動機40は、その回転数が許容される範囲において、効率の低い動作点を選択して動作するようにしてもよい。このようにして第一電動機40の発熱量を増加させることも可能である。
【0058】
また、電気パス量を可変とする場合、電気パス量によらず車両の減速度を一定とするようにトルクコンバータ60の逆駆動時容量係数が調整されてもよい。例えば、電気パス量を小さくすることで第二電動機50の発電量が小さくなる分、トルクコンバータ60の逆駆動時容量係数を増加させてエンジン10の引き摺りを増加させれば、車両の減速度を一定とすることが可能である。言い換えると、第一電動機40における消費電力の変化によって、バッテリ70の充電状態SOCを過剰とすることなしに第二電動機50が発電可能な発電量が変化する場合、この発電量の変化による減速度の変化が抑制されるように、逆駆動時容量係数を制御するようにすればよい。
【産業上の利用可能性】
【0059】
以上のように、本発明にかかる充電制御システムは、機関および第一電動機と第二電動機とが流体式動力伝達機構を介して接続された動力伝達装置の充電制御に有用であり、特に、減速時における車両の運動エネルギーの有効利用に適している。
【符号の説明】
【0060】
1−1 充電制御システム
1 動力伝達装置
10 エンジン
10A クランクシャフト
11 入力軸
12 出力軸
20 第一変速部
30 第二変速部
40 第一電動機
50 第二電動機
60 トルクコンバータ
63 ステータ
70 バッテリ
71 インバータ
100 ECU
Bs ブレーキ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機関の回転軸に連結された第一電動機と、
作動流体を介して動力を伝達する流体式動力伝達機構と、
前記流体式動力伝達機構を介して前記機関および前記第一電動機と接続され、かつ車両の駆動輪と動力を伝達可能であり、前記車両の走行時に回生発電により電力を出力できる第二電動機と、
前記第二電動機から出力される電力により充電される蓄電装置とを備え、
前記回生発電時に前記蓄電装置への充電が制限された場合、あるいは前記蓄電装置への充電が制限されると予測された場合であって、かつ、前記第一電動機、あるいは前記第一電動機と潤滑油を共有する変速装置の少なくともいずれか一方の暖機が必要な場合、前記第一電動機を動作させることにより前記第二電動機から出力される電力を消費させる
ことを特徴とする充電制御システム。
【請求項2】
更に、前記流体式動力伝達機構における動力の伝達度合いを制御する伝達制御装置を備え、
前記伝達制御装置は、前記電力を消費させる前の前記動力の伝達度合いよりも、前記電力を消費させるときの前記動力の伝達度合いを低下させる
請求項1に記載の充電制御システム。
【請求項3】
更に、前記流体式動力伝達機構における動力の伝達度合いを制御する伝達制御装置を備え、
前記電力を消費させるときの前記第一電動機の消費電力は、前記第一電動機の温度、あるいは前記潤滑油の温度の少なくともいずれか一方に応じて可変とされ、
前記伝達制御装置は、前記消費電力の変化による前記車両の減速度の変化を抑制するように前記動力の伝達度合いを制御する
請求項1に記載の充電制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−207408(P2011−207408A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−78749(P2010−78749)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】