説明

先進グリッド構造体

【課題】高強度且つ低熱膨張特性を有する先進グリッド構造体を提供する。
【解決手段】先進グリッド構造体は、上記第一のテーププリプレグ群と同方向であるとともにグリッド群の一辺を構成する第一のグリッドサイド群、上記第二のテーププリプレグ群と同方向であるとともにグリッド群の一辺を構成する第二のグリッドサイド群、および上記第三のテーププリプレグ群と同方向であるとともにグリッド群の一辺を構成する第三のグリッドサイド群の中で、上記第二のグリッドサイド群と上記第三のグリッドサイド群とが交差する領域の中心点と当該交差する領域に最近接の上記第二のグリッドサイド群と上記第三のグリッドサイド群とが交差する領域の中心点との間隔でグリッドサイド幅を除算して得られる構造比が0より大きく且つ0.107以下であるとともに上記炭素繊維の引張弾性率が280GPa以上且つ330GPa以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、金属よりも軽量で熱膨張係数の低い航空宇宙用の材料である炭素繊維強化プラスチックを用いる高強度且つ低熱膨張特性を備える先進グリッド構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球上の高解像度画像の需要の高まりに伴い、光学機器を搭載した小型衛星を低高度地球周回軌道に多数配備する計画が成されており、光学機器を搭載した小型衛星の開発が重要視されている。このような衛星には光学機器の観測精度を低下させないために熱的寸法安定性を備えた衛星構造体が要求される。また、小型の衛星構造体は高剛性であることが求められる中型および大型の衛星構造体とは異なり、高強度であることが求められる。
【0003】
熱的寸法安定性を備える衛星構造体として、複合4角形格子を有する低熱膨張構造体が提案されている。複合4角形格子の低熱膨張構体は、四角形チューブとスロットが設けられたロッドとを複合することにより構成されている。四角形チューブは、炭素繊維強化プラスチックの炭素繊維の走る方向と、炭素繊維の走る方向に直交する方向とで熱膨張係数が異なる性質を利用し、熱膨張係数がゼロ近くになるように炭素繊維の配向角を調整して形成されている。また、ロッドには、炭素繊維強化プラスチック製の第1のロッドと炭素繊維強化プラスチック製の第2のロッドがあり、それぞれ嵌合する位置にスリットが設けられている。そして、低熱膨張構造体は、第1のロッドと第2のロッドとが直交するよう配置しスリットで嵌合して組み立て、ロッドの側面により囲まれた内側に四角形チューブを嵌め込んで構成されている。このようにして、構造体全体の熱膨張係数に関してもゼロに近い値を持つ構造体を実現している(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
【非特許文献1】K.J.Yoon著、外3名、「COMPOSITE GRID STRUCTURE WITH NEAR−ZERO THERMALLY INDUCED DEFLECTION」、41st AIAA/ASME/ASCE/AHS/ASC Structures,Structural Dynamics, and Materials Conference and Exhibit、2000年、4月、AIAA−200−1476、pp.971−976
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述の低熱膨張構造体では熱膨張係数を−1.0ppm/Kから1.0ppm/Kの範囲にすることができるが、ロッドがスリットで嵌合され接着されているため、構造体の強度が接着部での40MPa程度の低い引張強度により制約されて低下してしまう問題がある。
そこで、引張弾性率が280GPa以上且つ330GPa以下の炭素繊維を用いて、従来の擬似等方積層構造体を構成すれば、引張強度が4600MPa以上の高強度な構造体を実現することができるが、熱膨張係数が1.1ppm/K以上となってしまう。
【0006】
一般に、炭素繊維は負の熱膨張係数を有し、樹脂は正の熱膨張係数を有するため、炭素繊維の一方向積層構造である炭素繊維強化プラスチックは、炭素繊維方向に負の熱膨張係数を有するが、擬似等方積層構造にすると正の熱膨張係数を有する。
また、炭素繊維の弾性率と熱膨張係数との間には反比例の関係があり、また弾性率と強度との間にも反比例の関係があるため、結果的に炭素繊維の強度と熱膨張係数は比例関係となり、高強度な炭素繊維を用いた擬似等方積層構造体は熱膨張係数を零付近にすることはできない。このため、この構造も光学機器を搭載する衛星構造体としては、熱的寸法安定性の面から適さないという問題がある。
また、これまでの地球観測衛星は中型及び大型であったため、高剛性且つ低熱膨張特性を有する衛星構造体が求められていたので、高強度且つ低熱膨張特性を有する衛星構造体を開発するという課題に想到していなかったという事情がある。
【0007】
この発明の目的は、高強度且つ低熱膨張特性を有する先進グリッド構造体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に係る先進グリッド構造体は、第一の方向に等間隔に並べられた炭素繊維が長尺方向に配向された第一のテーププリプレグ群、上記第一の方向に対して反時計方向に60度傾斜した第二の方向に等間隔に並べられた炭素繊維が長尺方向に配向された第二のテーププリプレグ群、および上記第一の方向に対して時計方向に60度傾斜した第三の方向に等間隔に並べられた炭素繊維が長尺方向に配向された第三のテーププリプレグ群が、互いに2つのテーププリプレグ群が重なるようにそれぞれ順に繰り返し積層され、加圧下で加熱されることにより成形された先進グリッド構造体において、上記第一のテーププリプレグ群と同方向であるとともにグリッド群の一辺を構成する第一のグリッドサイド群、上記第二のテーププリプレグ群と同方向であるとともにグリッド群の一辺を構成する第二のグリッドサイド群、および上記第三のテーププリプレグ群と同方向であるとともにグリッド群の一辺を構成する第三のグリッドサイド群の中で、上記第二のグリッドサイド群と上記第三のグリッドサイド群とが交差する領域の中心点と当該交差する領域に最近接の上記第二のグリッドサイド群と上記第三のグリッドサイド群とが交差する領域の中心点との間隔でグリッドサイド幅を除算して得られる構造比が0より大きく且つ0.107以下であるとともに上記炭素繊維の引張弾性率が280GPa以上且つ330GPa以下である。
【発明の効果】
【0009】
この発明に係る先進グリッド構造体は、炭素繊維が一方向に配向されるグリッドサイドを等間隔に並べる3つのサイド群を有し、3つのサイド群のうちの第一のサイド群を基準に残りの第二のサイド群と第三のサイド群がそれぞれ時計方向と反時計方向に60度傾斜して交わるため、グリッドサイドの交差しない部分である炭素繊維の一方向積層部分と、そのグリッドサイド群が交差する領域部分とから構成され、グリッドサイド群の交差領域部分が擬似等方積層構造に近い特性を有する構造となり、さらにグリッド構造体中の正三角形のグリッド群の割合が増えるほどグリッド構造体の特性が擬似等方積層構造の特性に近づくので、高強度且つ低熱膨張特性を有するという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1に係る先進グリッド構造体の一例の正面図である。図2は、この発明の実施の形態1に係る先進グリッド構造体の他の例の正面図である。
この発明の実施の形態1に係る先進グリッド構造体は、炭素繊維に樹脂を含侵させた後に半硬化させて作ったプリプレグを使用し、長尺方向に向くように炭素繊維を配向させて繊維強化されたエポキシ樹脂のプリプレグからなる帯状のテーププリプレグを積層し、加圧下で加熱することにより成形したトラス構造である。炭素繊維としては、高強度系であり、引張弾性率が280GPa以上且つ330GPa以下の東レ株式会社製トレカ(登録商標)糸T800HBを用いている。
【0011】
以下の説明において用いる語彙について説明する。
「グリッドサイド」とは、後で詳細に説明するが先進グリッド構造体に含まれる正三角形グリッドおよび六角形グリッドの辺を構成するものを意味する。
「テーププリプレグ」とは、まとめられた複数本の炭素繊維に樹脂を含浸させて作製された半硬化状態のテープ状のものである。
【0012】
この発明の実施の形態1に係る先進グリッド構造体は、図1及び図2の図面上では長さ方向が紙面の上下方向に向き、長さ方向に直交する第一の方向に等間隔に並列に並べられた複数のグリッドサイド(以下、「0度方向グリッドサイド」と称す)1、0度方向グリッドサイド1に対して反時計方向に60度傾斜して交わるとともに等間隔に並列に並べられた複数のグリッドサイド(以下、「+60度方向グリッドサイド」と称す)2、0度方向グリッドサイド1に対して時計方向に60度傾斜して交わるとともに等間隔に並列に並べられた複数のグリッドサイド(以下、「−60度方向グリッドサイド」と称す)3を備える。なお、複数の0度方向グリッドサイド1を第一のグリッドサイド群、複数の+60度方向グリッドサイド2を第二のグリッドサイド群、複数の−60度方向グリッドサイド3を第三のグリッドサイド群と称す。
【0013】
この発明の実施の形態1に係る先進グリッド構造体では、0度方向グリッドサイド1、+60度方向グリッドサイド2、−60度方向グリッドサイド3により正三角形状のグリッド4と六角形状のグリッド5が形成されている。
図3は、この発明の実施の形態1に係る先進グリッド構造体の1つの節点を含む拡大図である。図3(a)に示される拡大図は、図1の先進グリッド構造体のようにグリッドサイド群の交差領域間の距離が零である場合の図である。図3(b)に示される拡大図は、図2の先進グリッド構造体のようにグリッドサイド群の交差領域間の距離が零でない場合の図である。
0度方向グリッドサイド1は、図3に示すように、それぞれ+60度方向グリッドサイド2および−60度方向グリッドサイド3に第一の交差領域6と第二の交差領域7とで交わっている。+60度方向グリッドサイド2は、−60度方向グリッドサイド3と第三の交差領域8で交わっている。これらの交差領域6、7、8が互いに近傍に存在することで、その領域が擬似等方積層構造に近い特性を持つことを発見した。なお、第三の交差領域8は菱形であり、菱形2本の対角線が交わる中心点を節点9と称す。
また、交差領域6、7、8が接触しないように距離10だけ離間させて、グリッド構造体に含まれる正三角形のグリッド群の割合を増加させることで、グリッド構造体が擬似等方積層構造に近い特性を持つことを発見した。ただし、このとき交差領域6、7間の距離10の最大値は、節点9間の距離の半値である。
【0014】
次に、この発明の実施の形態1に係る先進グリッド構造体の製造方法について説明する。図4は、この発明の実施の形態1に係る先進グリッド構造体を製造するためのテーププリプレグの平面図である。
引張弾性率が280GPa以上且つ330GPa以下である東レ株式会社製トレカ(登録商標)糸T800HBとエポキシ樹脂原料を用いて、長さ方向(図4(a)の紙面上の上下方向)に炭素繊維が配向された帯状のテーププリプレグを用意する。図4(a)に示すような炭素繊維が基準辺11に平行に配向された0度方向炭素繊維テーププリプレグ12、図4(b)に示すような炭素繊維が基準辺11に対して反時計方向に60度傾斜するように配向された+60度方向炭素繊維テーププリプレグ13、図4(c)に示すような炭素繊維が基準辺11に対して時計方向に60度傾斜するように配向された−60度方向炭素繊維テーププリプレグ14を、順に複数回にわたって積層し、加圧下で加熱することにより図1または図2に示すこの発明の実施の形態1に係る先進グリッド構造体が製造される。
【0015】
なお、0度方向炭素繊維テーププリプレグ12が複数並べられたものを第一のテーププリプレグ群、+60度方向炭素繊維テーププリプレグ13が複数並べられたものを第二のテーププリプレグ群、−60度方向炭素繊維テーププリプレグ14が複数並べられたものを第三のテーププリプレグ群と称す。
【0016】
このとき、第一のテーププリプレグ群と同方向であるとともにグリッド群の一辺を構成する第一のグリッドサイド群、第二のテーププリプレグ群と同方向であるとともにグリッド群の一辺を構成する第二のグリッドサイド群、および第三のテーププリプレグ群と同方向であるとともにグリッド群の一辺を構成する第三のグリッドサイド群の中で、第一のグリッドサイド群、第二のグリッドサイド群、及び第三のグリッドサイド群が互いに交差する領域が互いに近傍に存在することで、その領域が擬似等方積層構造に近い特性を有することを発見した。
また、正三角形のグリッド群と六角形のグリッド群とを含むグリッド構造体において、グリッドサイド群が交差する領域間の距離を大きくして、グリッド構造体に含まれる正三角形のグリッド群の割合を増加させることで、グリッド構造体が擬似等方積層構造に近い特性を持つことを発見した。
【0017】
図5は、この発明の実施の形態1に係る先進グリッド構造体の正三角形のグリッド4と六角形状のグリッド5を含む拡大図である。
ここで、正三角形形状のグリッド4と六角形状のグリッド5を有する先進グリッド構造体の構造を表す2つの因子を導入し、因子と先進グリッド構造体の熱膨張係数との関係を求める。
導入する一つの因子は、グリッドサイドの幅Wを節点9間の距離Lで除算して得られる商であり、構造比と称す。また、導入するもう一つの因子は、グリッドサイドが交差する交差領域間の距離aである。ただし、このとき距離aは0以上且つL/2以下である。
【0018】
次に、先進グリッド構造体の熱膨張係数の計測について説明する。
先進グリッド構造体の熱膨張係数の計測では、まず、測定サンプル15である先進グリッド構造体をサンプル支持台16の上に載せ、恒温槽17内に固定する。次に、恒温槽17内の温度をコントロールして測定サンプル15の温度を変化させつつ、測定サンプル15の両端部に接着したレーザ反射鏡18にレーザフォーカス変位計19からレーザを照射し、反射光を受光して、加熱による測定サンプル15の変位量を測定し、熱膨張係数を算出する。
【0019】
この発明の実施の形態1に係る先進グリッド構造体の節点9間の距離Lは105mmであり、グリッドサイドの幅Wは1.60mmであるので、構造比は1.60/105=0.015である。また、グリッドサイドが交差する交差領域間の距離aは0mmである。
このとき、計測した熱膨張係数は−0.20ppm/Kである。
【0020】
次に、グリッドサイドが並ぶ距離、すなわち節点9間の距離Lが異なるようになるようにテーププリプレグを準備して先進グリッド構造体を製造した。このときの構造比は、1.60/105=0.015、1.60/52.5=0.030、1.60/26.25=0.060、1.60/14.953=0.107であった。領域間の距離aは、0mm、24mmであった。この先進グリッド構造体の熱膨張係数を図6に示すようにして計測した。
図7は、構造比を横軸にして、熱膨張係数を表したグラフである。
【0021】
次に、先進グリッド構造体が、小型衛星構体として高強度であると考えられる炭素繊維の範囲を規定する。一般に炭素繊維には高強度系の炭素繊維と高弾性系の炭素繊維が存在するが、高弾性系の炭素繊維を使用して、従来の擬似等方積層構造を作製すると熱膨張係数を零近傍にすることが可能である。これは、炭素繊維強化プラスチックが炭素繊維方向には負の熱膨張係数を有し、炭素繊維と直交方向には正の熱膨張係数を有するため、その組み合わせによって零近傍になる。しかし、これが高強度系の炭素繊維になると、一般に炭素繊維の引張強度と引張弾性率とは反比例の関係を示すため、引張弾性率が低くなり、炭素繊維自身の熱膨張係数が零に近づく方向の値となり、擬似等方積層構造では、熱膨張係数を零近傍にすることはできない。図8は炭素繊維の引張弾性率と熱膨張係数の関係を示したグラフである。
【0022】
それに対し、炭素繊維の一方向積層構造と擬似等方積層構造に近い構造とを含む先進グリッド構造体では、その構造比やグリッドサイドの交差領域間の距離を調整することで、高強度系の炭素繊維を用いても熱膨張係数を零にすることができる。
そのため、従来の擬似等方積層構造では熱膨張係数を零近傍にできないが、先進グリッド構造体にすると熱膨張係数を零にできる炭素繊維が一つの判断基準として考えられ、その炭素繊維の引張弾性率を持って、引張弾性率が330GPa以下であると規定する。
また、高強度系の炭素繊維の中にも、前述の判断基準とした炭素繊維よりも引張強度が小さい炭素繊維が存在するので、それらも高強度の範囲から取り除く必要がある。前述の炭素繊維の引張強度が4600MPa程度であるため、この炭素繊維の引張弾性率を持って、引張弾性率が280GPa以上であると規定する。
以上をまとめると、先進グリッド構造体において高強度である炭素繊維の範囲は、引張弾性率が280GPa以上且つ330GPa以下の炭素繊維である。
【0023】
次に、先進グリッド構造体が、小型衛星構体として低熱膨張であると考えられる炭素繊維の範囲を規定する。ここでは、現在最も高強度な炭素繊維である東レ株式会社製トレカ(登録商標)糸T1000Gを用いた、従来の擬似等方積層構造では得ることのできない熱膨張係数を一つの判断基準とする。このとき、擬似等方積層構造の熱膨張係数は0.93ppm/Kであるため、先進グリッド構造体において低熱膨張である構体の範囲は、熱膨張係数が−0.9ppm/K以上且つ0.9ppm/K以下の構体である。
【0024】
この発明の実施の形態1に係る先進グリッド構造体は、炭素繊維が一方向に配向されるグリッドサイドを等間隔に並べられた3つのグリッドサイド群を有し、3つのグリッドサイド群のうちの第一のグリッドサイド群を基準に残りの第二のグリッドサイド群と第三のグリッドサイド群がそれぞれ時計方向と反時計方向に60度傾斜して交わるため、グリッドサイド群の交差しない部分である炭素繊維が一方向にだけ積層された部分と、グリッドサイド群が交差する交差領域部分との構造となる。
このとき、グリッドサイド群の交差領域部分が擬似等方積層構造に近い特性を有する構造となるため、グリッド構造体に含まれる交差領域部分と一方向積層部分との割合を構造比で調整し、さらにグリッド構造体中の正三角形のグリッドの割合が増えるほどグリッド構造体の特性が擬似等方積層構造の特性に近づくため、グリッド構造体に含まれる正三角形のグリッドと六角形のグリッドとの割合を交差領域間の距離で調整することによって、高強度且つ低熱膨張特性を有する。
【0025】
図7は、構造比に対する熱膨張係数の依存性を交差領域間の距離をパラメータとして表したグラフである。
図7からも分かるように、引張弾性率が280GPa以上且つ330GPa以下の炭素繊維を用いて、構造比が0より大きく且つ0.107以下になるように、グリッドサイドの幅Wまたは節点9間の距離Lを調整すると、熱膨張係数が−0.9ppm/K以上且つ0.9ppm/K以下の先進グリッド構造体を得ることができる。
なお、この発明の実施の形態1に係る先進グリッド構造体において、引張弾性率が280GPa以上且つ330GPa以下の東レ株式会社製トレカ(登録商標)糸T800HBの炭素繊維にエポキシ樹脂を含侵させた後に半硬化させて作ったプリプレグを用いているが、樹脂はエポキシ樹脂に限るものではなく、熱的機械的化学的特性が使用環境に耐えればいずれの樹脂であってもこの発明に適用することができる。
【0026】
実施の形態2.
この発明の実施の形態2に係る先進グリッド構造体は、この発明の実施の形態1に係る先進グリッド構造体と炭素繊維が異なり、その結果構造比を違えているが、それ以外は同様であるので、同様な部分に同じ符号を付記し説明は省略する。
この発明の実施の形態2に係る先進グリッド構造体に使用する炭素繊維は、引張弾性率が280GPa以上且つ330GPa以下である。
【0027】
次に、グリッドサイドが並ぶ距離、すなわち節点9間の距離Lが異なるようになるようにテーププリプレグを準備して先進グリッド構造体を製造した。このときの構造比は、0.015、0.030、0.060、0.107であった。交差領域間の距離aは、0mm、24mmであった。この先進グリッド構造体の熱膨張係数を図6に示すようにして計測した。
図9は、構造比に対する熱膨張係数の依存性を交差領域間の距離をパラメータとして表したグラフである。
【0028】
次に、先進グリッド構造体が、極低熱膨張であると考えられる炭素繊維の範囲を規定する。ここでは、現有の炭素繊維を用いて、従来の擬似等方積層構造を形成した場合に得られる最小の熱膨張係数を一つの判断基準とする。東レ株式会社製トレカ(登録商標)糸M60Jを用いて、擬似等方積層構造をつくると熱膨張係数を−0.25ppm/Kにすることができる。そのため、先進グリッド構造体において極低熱膨張である構体の範囲は、熱膨張係数が−0.25ppm/K以上且つ0.25ppm/K以下の構体である。
【0029】
図9から分かるように、構造比が0より大きく且つ0.053以下になるように、グリッドサイドの幅Wまたは節点9間の距離L、及び交差領域間の距離aを調整することにより熱膨張係数が−0.25ppm/K以上且つ0.25ppm/K以下の先進グリッド構造体を得ることができる。
【0030】
一方、引張弾性率が280GPa以上且つ330GPa以下である炭素繊維を一方向に配向した3枚の炭素繊維プリプレグシートのうち1枚を反時計方向に60度傾斜し、他の1枚を時計方向に60度傾斜して3枚を積層し加圧下で加熱することによりエポキシ樹脂は硬化する。この積層体は疑似等方性であるが、熱膨張係数は1.1ppm/K以上となってしまう。
【0031】
この発明の実施の形態2に係る先進グリッド構造体は、実施の形態1に係る先進グリッド構造体と同様に、先進グリッド構造体に占めるグリッドサイドの交差領域部分とグリッドサイドが交差しない一方向積層部分との比率、及びグリッドサイドの交差領域間の距離を調整することにより先進グリッド構造体の熱膨張係数を小さくすることができる。
また、引張弾性率が280GPa以上且つ330GPa以下の炭素繊維を使用し、構造比が0より大きく且つ0.053以下になるようグリッドサイドの幅Wまたは節点9間の距離L、交差領域間の距離aを設定しているので、熱膨張係数が−0.25ppm/K以上且つ0.25ppm/K以下の先進グリッド構造体を得ることができる。
【0032】
実施の形態3.
この発明の実施の形態3に係る先進グリッド構造体は、この発明の実施の形態1に係る先進グリッド構造体と炭素繊維が異なり、その結果構造比を違えているが、それ以外は同様であるので、同様な部分に同じ符号を付記し説明は省略する。
この発明の実施の形態3に係る先進グリッド構造体に使用する炭素繊維は、引張弾性率が280GPa以上且つ330GPa以下である。
【0033】
次に、グリッドサイドが並ぶ距離、すなわち節点9間の距離Lが異なるようになるようにテーププリプレグを準備して先進グリッド構造体を製造した。このときの構造比は、0.015、0.030、0.060、0.107であった。交差領域間の距離aは、0mm、24mmであった。この先進グリッド構造体の熱膨張係数を図6に示すようにして計測した。
図10は、構造比に対する熱膨張係数の依存性を交差領域間の距離をパラメータとして表したグラフである。
【0034】
次に、先進グリッド構造体が、零低熱膨張であると考えられる炭素繊維の範囲を規定する。ここでは、熱膨張係数の絶対値が0.10ppm/K以下であるときを零熱膨張とする。そのため、先進グリッド構造体において零低熱膨張である構体の範囲は、熱膨張係数が−0.10ppm/K以上且つ0.10ppm/K以下の構体である。
【0035】
図10からも分かるように、構造比が0より大きく且つ0.040以下になるように、グリッドサイドの幅Wまたは節点9間の距離L、及び交差領域間の距離aを調整することにより熱膨張係数が−0.10ppm/K以上且つ0.10ppm/K以下の先進グリッド構造体を得ることができる。
【0036】
一方、引張弾性率が280GPa以上且つ330GPa以下である炭素繊維を一方向に配向した3枚の炭素繊維プリプレグシートのうち1枚を反時計方向に60度傾斜し、他の1枚を時計方向に60度傾斜して3枚を積層し加圧下で加熱することによりエポキシ樹脂は硬化する。この積層体は疑似等方性であるが、熱膨張係数は1.1ppm/K以上となってしまう。
【0037】
この発明の実施の形態3に係る先進グリッド構造体は、実施の形態1に係る先進グリッド構造体と同様に、先進グリッド構造体に占めるグリッドサイドの交差領域部分とグリッドサイドが交差しない一方向積層部分との比率、及びグリッドサイドの交差領域間の距離を調整することにより先進グリッド構造体の熱膨張係数を小さくすることができる。
また、引張弾性率が280GPa以上且つ330GPa以下の炭素繊維を使用し、構造比が0より大きく且つ0.040以下になるようグリッドサイドの幅Wまたは節点9間の距離L、交差領域間の距離aを設定し得るので、熱膨張係数が−0.10ppm/K以上且つ0.10ppm/K以下の先進グリッド構造体を得ることができる。
【0038】
実施の形態4.
図11は、この発明の実施の形態4に係る先進グリッド構造体の正面図である。
この発明の実施の形態4に係る先進グリッド構造体は、図11に示すように、この発明の実施の形態1に係る先進グリッド構造体に疑似等方性の炭素繊維強化エポキシ樹脂板20を一体化したものである。
次に、この発明の実施の形態1に係る先進グリッド構造体に疑似等方性の炭素繊維強化エポキシ樹脂板を一体化する工程について説明する。
図12は、この発明の実施の形態4に係る先進グリッド構造体を製造するための3種類の一方向炭素繊維プリプレグシートの平面図である。
グリッド群の熱膨張係数と等価となるように炭素繊維と樹脂を選定した、3種類の炭素繊維プリプレグシートは、図12(a)に示すように、炭素繊維が基準辺21に対して平行な方向に配向された0度方向炭素繊維プリプレグシート22、図12(b)に示すように、炭素繊維が基準辺21に対して反時計方向に60度傾斜した方向に配向された+60度方向炭素繊維プリプレグシート23、図12(c)に示すように、炭素繊維が基準辺21に対して時計方向に60度傾斜した方向に配向された−60度方向炭素繊維プリプレグシート24である。
この3種類の炭素繊維プリプレグシートを積層しその上にこの発明の実施の形態1に係る先進グリッド構造体を載せ、加圧下で加熱することにより図8に示すこの発明の実施の形態4に係る先進グリッド構造体が製造される。
【0039】
この発明の実施の形態4に係る先進グリッド構造体は、この発明の実施の形態1に係る先進グリッド構造体と同様に、先進グリッド構造体に占めるグリッドサイドの交差領域部分とグリッドサイドが交差しない部分との比率、及びグリッドサイドの交差領域間の距離を調整することにより先進グリッド構造体の熱膨張係数を小さくすることができる。
また、疑似等方性の炭素繊維強化エポキシ樹脂板20が先進グリッド構造体の一面に配置されるので、先進グリッド構造体としての面積が大きくなるため、他の部品との結合及び機器の搭載が容易となる。
【0040】
なお、上述の実施の形態1乃至4に係る先進グリッド構造体では、2種類の炭素繊維を使用したが、炭素繊維はこれに限るものではなく、所望の強度を満足し得る炭素繊維を用いて熱膨張係数の高低の部分の割合を調整することにより低熱膨張特性を有する先進グリッド構造体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】この発明の実施の形態1に係る先進グリッド構造体の一例の正面図である。
【図2】この発明の実施の形態1に係る先進グリッド構造体の他の例の正面図である。
【図3】この発明の実施の形態1に係る先進グリッド構造体の1つの節点を含む拡大図である。
【図4】この発明の実施の形態1に係る先進グリッド構造体を製造するための3種類の炭素繊維テーププリプレグの平面図である。
【図5】この発明の実施の形態1に係る先進グリッド構造体の正三角形状のグリッドと六角形状のグリッドとを含む拡大図である。
【図6】この発明の実施の形態1に係る先進グリッド構造体の熱膨張係数の測定装置を示す断面図である。
【図7】構造比に対する熱膨張係数の依存性を交差領域間の距離をパラメータとして示したグラフである。
【図8】炭素繊維の引張弾性率に対する炭素繊維の熱膨張係数の依存性を表したグラフである。
【図9】この発明の実施の形態2に係る先進グリッド構造体の熱膨張係数の構造比依存性を表したグラフである。
【図10】この発明の実施の形態3に係る先進グリッド構造体の熱膨張係数の構造比依存性を表したグラフである。
【図11】この発明の実施の形態4に係る先進グリッド構造体の正面図である。
【図12】この発明の実施の形態4に係る先進グリッド構造体を製造するための3種類の炭素繊維プリプレグシートの平面図である。
【符号の説明】
【0042】
1 0度方向グリッドサイド、2 +60度方向グリッドサイド、3 −60度方向グリッドサイド、4 正三角形グリッド、5 六角形グリッド、6 第一の交差領域、7 第二の交差領域、8 第三の交差領域、9 節点、10 交差領域間の距離、11 基準辺、12 0度方向炭素繊維テーププリプレグ、13 +60度方向炭素繊維テーププリプレグ、14 −60度方向炭素繊維テーププリプレグ、15 測定サンプル、16 サンプル支持台、17 恒温槽、18 レーザ反射鏡、19 レーザフォーカス変位計、20 炭素繊維強化エポキシ樹脂板、21 基準辺、22 0度方向炭素繊維プリプレグシート、23 +60度方向炭素繊維プリプレグシート、24 −60度方向炭素繊維プリプレグシート。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の方向に等間隔に並べられた炭素繊維が長尺方向に配向された第一のテーププリプレグ群、上記第一の方向に対して反時計方向に60度傾斜した第二の方向に等間隔に並べられた炭素繊維が長尺方向に配向された第二のテーププリプレグ群、および上記第一の方向に対して時計方向に60度傾斜した第三の方向に等間隔に並べられた炭素繊維が長尺方向に配向された第三のテーププリプレグ群が、互いに2つのテーププリプレグ群が重なるようにそれぞれ順に繰り返し積層され、加圧下で加熱されることにより成形された先進グリッド構造体において、
上記第一のテーププリプレグ群と同方向であるとともにグリッド群の一辺を構成する第一のグリッドサイド群、上記第二のテーププリプレグ群と同方向であるとともにグリッド群の一辺を構成する第二のグリッドサイド群、および上記第三のテーププリプレグ群と同方向であるとともにグリッド群の一辺を構成する第三のグリッドサイド群の中で、上記第二のグリッドサイド群と上記第三のグリッドサイド群とが交差する領域の中心点と当該交差する領域に最近接の上記第二のグリッドサイド群と上記第三のグリッドサイド群とが交差する領域の中心点との間隔でグリッドサイド幅を除算して得られる構造比が0より大きく且つ0.107以下であるとともに上記炭素繊維の引張弾性率が280GPa以上且つ330GPa以下であることを特徴とする先進グリッド構造体。
【請求項2】
上記構造比が0より大きく且つ0.053以下であることを特徴とする請求項1に記載の先進グリッド構造体。
【請求項3】
上記構造比が0より大きく且つ0.040以下であることを特徴とする請求項1に記載の先進グリッド構造体。
【請求項4】
低熱膨張になるよう炭素繊維が配向積層された積層板が配設されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の先進グリッド構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−34985(P2009−34985A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−38787(P2008−38787)
【出願日】平成20年2月20日(2008.2.20)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】