説明

光エネルギー変換装置及び半導体光電極

【課題】光エネルギー変換装置における窒化物半導体を用いた半導体光電極の劣化防止を図る。
【解決手段】互いに電気的に接続された半導体光電極15と対向電極16を有し、半導体光電極15が表面に酸化チタン膜19を成膜した窒化物半導体18で形成され、対向電極16及び半導体光電極15が溶液13中に配置されて成る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光エネルギーを例えば電気エネルギー、ガス発生等の他のエネルギーに変換させる光エネルギー変換装置及びこれに用いられる半導体光電極に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、窒化物半導体電極を用いて、水を光によって水素と酸素に分解する技術が特許文献1で提案されている。図11に窒化物半導体光電極を用いて水素ガスを発生させる場合のガス発生装置の概略構成を示す。このガス発生装置1は、任意の波長の光Lを透過させる容器2内に任意の電解質溶液3を収容し、この電解質溶液3内に互いに配線4により電気的に接続された窒化物半導体電極5とこれに対向する対極、いわゆる対向電極6とを浸漬させて構成される。
【0003】
このガス発生装置1では、光Lが窒化物半導体光電極5に照射されると、窒化物半導体電極5内で電子・正孔対のキャリアが生成され、両極間で電流が流れそれに伴い酸素と水素が発生する。すなわち、電子・正孔対のキャリアのうち、一方のキャリアが窒化物半導体電極5の表面側に移動し、他方のキャリアが配線4を通じて対向電極6へ移動する。そして、一方の極に移動した電子と電解液3中の水素イオンとが反応して水素ガスを発生させ、他方の極に移動した正孔と電解液3中の水酸化物イオンとが反応して酸素ガスを発生させる。
【0004】
電流の流れる方向及び水素・酸素ガスの発生する電極は、窒化物半導体電極の導電型によって異なる。一般的にp型窒化物半導体電極の場合は、光Lが照射されて生成した電子・正孔対のうち、電子が窒化物半導体電極5表面に移動し、電子と電解質溶液3中の水素イオンと反応して水素ガスを発生させる。正孔は窒化物半導体電極5から配線4を通して対向電極6に移動し、電解質溶液3中の水酸化物イオンと反応して酸素ガスを発生させる。このときの電流ipは正孔であるので、窒化物半導体電流5から配線4を通して対向電流6へ流れる。
【0005】
n型窒化物半導体の場合は、p型と逆になり、光Lが照射されて生成した電子・正孔対のうち、正孔が窒化物半導体電極5の表面に移動し、正孔と水酸化物イオンが反応して酸素ガスを発生させる。電子は窒化物半導体電極5から配線4を通して対向電極6に移動し、水素イオンと反応して水素ガスを発生させる。このときの電流inは電子であるので、対向電極6から配線4を通じて窒化物半導体電極5へ流れる。
【0006】
いずれにしても、正極側から酸素ガスが発生し、負極側から水素ガスが発生することになる。発生したガスを採集するセル構造は特許文献1のように両極から気体を補集し易い形態とすることで現実的なものとなる。
【0007】
【特許文献1】特開2003−24764号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述の窒化物半導体電極は、次の特徴を備えていることが知られている。(1)化学的、物理的安定性が高い。(2)水分解に必要なエネルギーレベルに半導体のエネルギーレベルがマッチしている。このことから、窒化物半導体を用いた水分解に関する研究、開発が行われている。
【0009】
しかし、本発明らは、この窒化物半導体を用いて水分解を行った場合、窒化物半導体表面が劣化することを見い出した。例えば、窒化物半導体がn型であると、電極溶解による劣化が起こる。また、窒化物半導体がp型であると、p型不純物の不活性化を含む電極表面の劣化が避けられないことが判明した。
【0010】
p型窒化物半導体を用いたときの電極表面の劣化は次のようなメカニズムで発生することが分かってきた。すなわち、p型の窒化物半導体では、ドーピングするp型不純物として通常マグネシウム(Mg)が用いられている。水を分解すると電極表面に水素分子からなる水素ガスが発生するが、水素原子の段階で水素原子がp型窒化物半導体内に拡散してp型不純物のマグネシウム(Mg)と反応する。この結果、電極表面がp型の性質を無くし絶縁体に変質する。電極表面が絶縁化すると、電流が流れなくなり装置として機能が低下する。
【0011】
本発明は、上述の点に鑑み、窒化物半導体による半導体光電極を備えた光エネルギー変換装置において、電極となる窒化物半導体の劣化を防ぎ、安定して長期使用を可能にした光エネルギー変換装置及びこれに用いる半導体光電極を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る光エネルギー変換装置は、互いに電気的に接続された窒化物半導体光電極と対向電極を有し、窒化物半導体光電極が窒化物半導体とこの表面に成膜された酸化チタン膜を有して形成され、対向電極及び窒化物半導体光電極が溶液中に配置されて成ることを特徴とする。
【0013】
本発明の光エネルギー変換装置では、半導体光電極に光を当てることにより、窒化物半導体内で生成した電子・正孔対のキャリアに基づき、半導体光電極と対向電極間の接続配線に電流が流れ、溶液を分解して水素ガス、酸素ガスが発生する。
そして、半導体光電極を構成する窒化物半導体の表面に酸化チタン膜が成膜されていることにより、窒化物半導体と溶液が直接接触せず、エネルギー変換効率を損なうことなく、半導体光電極の劣化を防ぐことができる。
【0014】
本発明に係る半導体光電極は、窒化物半導体の表面に酸化チタン膜が成膜されて成ることを特徴とする。
【0015】
本発明の半導体光電極では、窒化物半導体の表面に酸化チタン膜が成膜されているので、光エネルギー変換装置の半導体光電極に適用したときに、窒化物半導体と溶液が直接接触せず、エネルギー変換効率を損なうことなく、半導体光電極の劣化を防ぐことができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る光エネルギー変換装置によれば、半導体光電極の劣化が防止されるので、光エネルギー変換装置の安定した長期使用を可能にする。
【0017】
本発明に係る半導体光電極によれば、電子、正孔のキャリアを生成する窒化物半導体の劣化が防止されるので、半導体光電極の安定した長期使用を可能にする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0019】
図1に、本発明に係る光エネルギー変換装置の基本的な概略構成を示す。本実施の形態に係る光エネルギー変換装置11は、任意の波長の光Lを透過させる容器12内に溶液13を収容し、この溶液13内に互いに配線14によって電気的に接続した半導体光電極15とこの半導体光電極15に対向する対向電極16とを浸漬して構成される。
【0020】
容器12としては、例えば石英ガラス、パイレックスガラスなどの光透過性材料で形成することができる。溶液13は、任意の電解質溶液を用いることができ、例えばNaSO 溶液などを用い得る。対向電極16は、例えば白金(Pt)電極、炭素(C)電極などで形成することができる。
【0021】
そして、本実施の形態においては、特に、半導体光電極15を窒化物半導体18とこの窒化物半導体18の表面に成膜した酸化チタン膜19との複合部材で形成する。ここで、酸化チタン膜19が成膜される窒化物半導体18の表面とは、本来溶液13に接触して反応する表面である。窒化物半導体18は、窒化ガリウム(GaN)系半導体で形成される。光Lとして紫外光を利用するときはGaN半導体を用いることができる。また、光Lとして可視域を利用するときは、例えばInGaN半導体を用いることができる。InGa1−x Nにおいて、xの値を増やしていくと、バンドギャップに相当する光の波長が長波長側にシフトする。可視域にバンドギャップを持つ窒化物半導体の一例としては、例えばIn0.2 Ga0.8 N半導体がある。
【0022】
窒化物半導体18及び入射光Lは、使用目的に応じてGaN系半導体の組成、及び所要波長の光が選択される。
【0023】
図2に、半導体光電極15の具体的な構成の一例を示す。この半導体光電極15は、サファイア基板21の(1000)面上にバッファ層となるGaN層22を介して窒化物半導体23、本例ではInX Ga1−x N層を形成し、窒化物半導体層23上の周囲にオーミック電極24を形成し、電極24が形成されない窒化物半導体層23の表面に酸化チタン(TiO)膜25を成膜して構成される。酸化チタン膜25を除く半導体光電極15の表面全面は保護膜26、本例ではエポキシ樹脂膜で保護される。さらに、オーミック電極24に接続された配線14が導出される。オーミック電極24としては、例えば窒化物半導体層23側からNi,Auを順次積層したNi/Au層で形成することができる。
【0024】
窒化物半導体23は、本例ではp型のGaN系半導体、すなわちp−In Ga1−x N層で形成される。p型不純物としては、マグネシウム(Mg)が用いられ,1018cm-3オーダのキャリア濃度が得られる。酸化チタン膜25は窒化物半導体23上にヘテロ接合するように成膜される。
【0025】
酸化チタン膜25は後述する真空還元処理で積極的にn型の酸化チタン膜として形成することが好ましいが、絶縁体として形成することもできる。酸化チタン膜25は絶縁体として形成しても光励起により電導性が現れる。酸化チタン膜25では、酸素(O)の一部が抜け、抜けた空孔に電子(e)がトラップされることによりn型化する。なお、酸化チタン膜25は、十分薄く成膜することができれば、真空還元処理を行わなくてもn型の性質がえられる。酸化チタン膜25は半導体的性質を持った絶縁体であり、n型に近い絶縁体である。
【0026】
本実施の形態で劣化防止膜として酸化チタン膜25を選んだ理由は、次の条件を満たしているからである。すなわち、酸化チタン膜25は、化学的安定性が非常に高いこと、窒化物半導体であるGaN系半導体との間でキャリアである電子の受け渡しができ、後述するように裏面のGaN系半導体23へ照射する波長の光を通すために、GaN系半導体のバンドギャップより広いバンドギャップを有しており、それ自体は吸収波長の光を当てても溶けない材料であり、薄く成膜することができる。酸化チタン膜25は、電子の受け渡しができるためにGaN系半導体上にヘテロ接合されることが望ましい。ヘテロ接合とは、GaN系半導体と酸化チタンとの間で電子の受け渡しができるような結合である。
【0027】
酸化チタン膜25は、単結晶であることが望ましいが、多結晶及びアモルファスであっても構わない。多結晶の場合には、各結晶粒とGaN系半導体との間でヘテロ結合が形成され、電子の受け渡しができるので可能である。酸化チタン膜25の膜厚t1は、5μm以下、好ましくは1μm以下である。理由は後述する。
【0028】
次に、本実施の形態に係る光エネルギー変換装置の動作を説明する。図1に示すように、半導体光電極15としてp型InGaN層18の表面にn型TiO膜19が成膜された電極を用いた場合、可視域の光Lが透過して半導体光電極15に照射されると、p型InGaN層18で電子・正孔対のキャリアが生成される。電子はp型InGaN層18の表面側に移動し、酸化チタン膜19を通って溶液、すなわち電解質溶液へ移動する。一方、正孔は、p型InGaN層18の内部へ移動し、電極(図2の電極24参照)より配線14を通して対向電極16に移動する。電子は電解質溶液中の水素イオンと反応して水素ガス31を発生させる。正孔は電解質溶液中の水酸化物イオンと反応して酸素ガス32を発生させる。
【0029】
光照射により発生した電流ipは半導体光電極15から配線14を通じて対向電流16へ流れる。
【0030】
GaN系窒化物半導体18をn型としたときは、水素、酸素のガス発生は逆になる。このときの電流inの流れは、電流ipと逆になる。
【0031】
上記の電子、正孔の挙動を図3のバンド構造で説明する。ここでは窒化物半導体18としてp―In0.2 Ga0.8Nを用いる。このp型InGaNと酸化チタン(TiO )の間でpnヘテロ接合が形成される。窒化物半導体18のバンドギャップは2.5eV、TiO膜19のバンドギャップは3.0eVである。(1)半導体光電極15に対してバンドギャップ2.5eVより短波長の光Lが照射されたp型窒化物半導体18は、(2)光エネルギーによる励起で電子e・正孔h対を生成する。(3)電子・正孔対は電解質溶液13との接触で生じたバンドベンディングにより空間的に分離される。その際、電子eは電解質溶液13側へ移動し、正孔hは窒化物半導体18内部、つまりオーミック電極方面へと移動する。(4)電解質溶液界面へと移動した電子は水素を還元し、水素ガスが発生する。
【0032】
図4に、半導体(GaN、InGaN、TiO )の伝導帯端の電子のエネルギーと、水素の酸化還元電位の関係を示す。伝導帯端の電子のエネルギーは、GaNが−1.1V、InGaNが−0.9V、TiOが−0.5Vである。また、水素の酸化還元電位は−0.6Vである。TiOでは−0.5Vであるのに対し、GaNは−1.1Vと大きい値を持つことから、GaNは水素に電子を注入するのに優れていることが示唆される。本実施の形態では、窒化物半導体の劣化が避けられないことを究明し、表面にTiO膜を薄く成膜した。TiO は本来伝導帯端が−0.5Vであるが、InGaNとTiO がヘテロ結合されているために、図3に示すバンドの曲がりにより、TiOの実効的な伝導帯端の電子のエネルギーが水素の酸化還元電位よりも上になる(破線図示参照)。従って、TiO とGaN系の窒化物半導体とを組み合わせることで、水素への電子注入効率を上げることができる。
【0033】
このように、本実施の形態では、酸化チタン膜19をp型窒化物半導体18表面に成膜しても、水素を還元することが可能であり、同時にp型窒化物半導体18と溶液が直接接触しないために、溶液で発生した水素原子の侵入を防ぎp型不純物であるMgと水素原子の反応を阻止して半導体光電極の劣化、すなわちp型窒化物半導体の絶縁化を防ぐことができる。
【0034】
図5は、窒化物半導体の劣化を酸化チタン膜で抑制できる効果を示すグラフである。縦軸にキセノンランプ照射時の光電流(相対値)をとり、横軸にキセノンランプ照射時間(光照射時間)をとる。曲線Iは酸化チタン膜有りの場合、曲線IIは酸化チタン膜無しの場合である。窒化物半導体に酸化チタン膜を付けたものは、酸化チタン膜を付けないものに比べて、光電流がある一定値を維持しており、明らかに劣化が抑えられていることが認められる。つまり劣化は窒化物半導体表面が絶縁化することであり、酸化チタン膜を有することにより窒化物半導体表面の絶縁化が抑制される。
【0035】
酸化チタン膜19の膜厚t1は1μm以下が好ましい。膜厚t1が厚くなるに従って電解質溶液13との接触で生じるバンドベンディングが大きくなり、電解質溶液との界面でバリアとなって電子eと電解質溶液との接触を阻害することになる。確実に電子を電解質溶液に接触させるには酸化チタン膜19の膜厚は1μm以下が好ましいが、5μm以下でも使用可能である。
【0036】
酸化チタン膜の膜厚について更に説明する。図6に、酸化チタン膜を10回塗布(いわゆるディップコート)して形成したもの(曲線III参照)と、5回塗布して形成したものと(曲線IV参照)での、印加電圧〔V〕と電流〔mA/cm 〕の関係を示す。図5から分かるように、ディップコートの回数が増えるに従い、電気伝導度が下がる。このことから、酸化チタン膜の厚みは多くても5μm以下にすることが必要である。また、酸化チタン膜が厚くなると、酸化チタンの溶液界面でのバンドベンディングが大きくなり逆電流が発生してしまう。この点でも酸化チタンの膜厚は5μm以下、好ましくは1μm以下にする。
【0037】
次に、図2に示した本実施形態の半導体光電極の製造方法を説明する。
先ず、サファイア基板21上にMOCVD(有機金属気相成長)もしくはMBE(分子線エピタキシー)等の既知の結晶成長装置を用いてバッファ層であるGaN層22及び窒化物半導体であるInGa1−x N層23を成膜する。
【0038】
次に、In Ga1−x N層23上のリング状の電極を形成すべき周囲部分をレジストなどによるマスクを形成した後、後述のゾルゲル法、もしくはレーザアブレーション法を用いて酸化チタン(TiO)膜25を所要の膜厚、例えば5μm以下、好ましくは1μm以下で成膜する。
【0039】
次に、酸化チタン膜25に対して真空還元処理(後述)を施し、酸化チタン膜25をn型化する。
【0040】
次に、マスクを除去してInX Ga1−x N層23が露出した周囲部分にオーミック電極24を形成する。このオーミック電極24はInX Ga1−x N層23と外部回路との接続に用いられる。
【0041】
次に、電解質溶液と接触する酸化チタン膜19の面以外の部分をエポキシ樹脂膜26で被覆して、目的の半導体光電極15を得る。
【0042】
ゾルゲル法による酸化チタン膜の成膜方法について説明する。ゾルゲル法は一般的にチタンアルコキシドと水を反応させることにより、チタンアルコキシドを加水分解し、チタン水酸化物のゾルゲル溶液を作製する。この溶液をディップ液として用いて基板上に塗布し、高温で焼成して酸化チタンの多結晶膜を成膜する。ゾルゲル法では酸化チタンは多結晶で成膜される。本実施の形態で使用したゾルゲル液の調製量の一例を表1に示す。
【0043】
【表1】

【0044】
実際の作製手順は以下の通りである。ただし、作業はすべて窒素置換されたグローブボックス内で行われた。
(1).BuOH溶液を測り取る。
(2).BuOHを2つの容器に等量(本例では315ml)ずつ、分け、A液分、B液分 とする。
(3).A液分のBuOHにTi(OEt) (本例では10g)を混合し、完全に混ざる まで攪拌してA液を得る。
(4).B液分のBuOHにHCl(36%wt)(本例では2.0ml)を混合し、完全に混ざるまで攪拌してA液を得る。
(5).A液とB液を混合して攪拌する。
【0045】
以上でディップ液が出来上がる。このディップ液中に基板を浸漬させ、基板を液面に対して垂直に引き上げることで基板上にゾル膜が成膜される。一度のディップで約300nm程度の厚さの酸化チタン膜を成膜することができる。膜厚を厚くするには複数回ディッピングを行えばよい。ディッピングが終了したら窒素雰囲気中で乾燥する。乾燥後、600℃〜800℃程度の温度で焼成する。温度及び時間を調節することにより、アナターゼ構造とルチル構造の結晶子の割合を調製することも可能である。
【0046】
次に、酸化チタン(TiO )膜の真空還元処理法について説明する。図7に、真空還元装置の概略を示す。この真空還元装置41は、真空容器42内に、1対の電極柱43、44に電気的に接続されるように中空支持された抵抗加熱用ボート45が設置されて成る。試料46はこの抵抗加熱用ボート45に配置される。真空容器42は排気口47から真空ポンプ(図示せず)を介して真空引きされる。真空容器42の外側上部には試料46の温度を観察する輻射温度計48が設置されている。
【0047】
上記の作製した酸化チタン膜は、電子移動度が比較的低く、光を照射したときに電子が酸化チタン膜を通過するのが困難である。そこで、鋭意研究の結果、作製した酸化チタン膜の膜厚によっては、真空還元処理を行うことで、伝導性が向上することが明らかになった。真空還元処理の手順を示す。
(1).真空容器42内の抵抗加熱用ボート45上に作製した酸化チタン膜を有する試料4 6を載置する。
(2).真空ポンプで容器42内を10−6Torr程度まで減圧する。
(3).抵抗加熱用ボート45に電流柱43、44を介して電流を流しボート45を加熱 する。
(4).輻射温度計48で温度を観測しながら酸化チタン膜を有する試料46の加熱温度を 700℃〜900℃程度に調節する。
(5).温度を維持して30min程度加熱を続ける。
以上の操作により、光照射による電流値、すなわち図1における配線14に流れる電流値が大幅に向上することが認められた。
【0048】
図8を参照して真空還元処理を700℃〜900℃で行う理由を説明する。酸化チタン結晶は、通常の状態では非常に電気伝導率が低いために、本実施の形態では真空還元処理を行って伝導率の向上を図っている。その結果、直流電流成分が増加し電子の移動がスムーズになることが判明した。ところで、真空還元処理するときには注意を要する。その原因としては、(1)窒化物半導体が分解してしまう温度が存在する、(2)酸化チタンの真空還元処理の際の保持温度には最低の閾値がある、の2点がある。
【0049】
図8は、InGaNの分解温度と酸化チタンの還元処理に伴うキャリア濃度の関係を表したグラフである。横軸に加熱温度〔℃〕をとり、縦軸(左)に酸化チタン(TiO)の伝導率〔Ω−1・m−1〕を、縦軸(右)にInGaNの分解率〔%〕をとる。曲線VはTiOの伝導率を示し、700℃以上で伝導率が許容される10−6〔Ω−1・m−1〕以上となる。600℃以下ではTiO膜が高抵抗になり、測定不能になった。曲線IVはInGaNの分解率を示し、900℃までは分解しないが、900℃を越えると分解する。図8の曲線V及び曲線VIの関係から、TiO が還元され、かつ窒化物半導体が分解しない温度は700℃〜900℃に設定すれば良いことが認められる。ただし、真空加熱を行う際には、TiO面が加熱面に接するため、さらにTiOが還元され、窒化物半導体には熱が伝わり難いので窒化物半導体の分解を防ぐことが可能になる。
【0050】
図9及び図10に、本実施の形態の光エネルギー変換装置を適用した実用可能なデバイスの例を示す。このデバイス51は、図9に示すように、窒化物半導体を有する半導体光電極と対向電極を備えた光エネルギー変換装置を単位セル52として、この単位セル52を複数配列し、外部制御回路(図示せず)によって水の分解電圧を適切に保つように構成される。各単位セル52には水素ガス53を取出す取出し口54、酸素ガス55を取出す取出し口56、及び半導体光電極と対向電極から導出された配線57及び58を有する。この両配線57及び58は外部制御回路に接続される。
【0051】
図10に、単位セル52の構成を示す。単位セル52は、上部に水素ガス取出し口54及び酸素ガス取出し口56を有した透明容器、例えばガラス容器61が設けられ、このガラス容器61内に電解質溶液62が充填され、ガラス容器61内の底部に本実施の形態に係る半導体光電極63と、これに対向する例えば白金(Pt)、炭素(C)などによる対向電極64が配設される。半導体光電極63と対向電極64が配設された電解質溶液62を2分するように半透膜もしくはイオン交換膜による仕切り膜65が形成される。それぞれの半導体光電極63にオーミック電極(図示せず)を介して接続された配線57及び対向電極64に接続された配線58が、ガラス容器62外に導出されて外部制御回路に接続される。外部制御回路では入射光Lが半導体光電極63に照射されることにより発生する電流を、電流として取り扱う、あるいは電圧に変換して取り扱う機能を有する。
【0052】
入射光Lはガラス容器62を通して半導体光電極63へ照射され、そこで水の分解による水素ガス53が半導体光電極63側から発生し、この水素ガス53が水素取出し口54から外部へ取り出される。また、対向電極64側から酸素ガス55が発生し、この酸素ガス55が酸素取出し口56から外部へ取り出される。一方、この時、外部制御回路に電流が流れるが、複数セル(いわゆるスタックセル)52の接続方法によって、電流と電圧を調節することができる。一般的に、十分な電界がかからないと水の分解は起こらないため、太陽光の強さや電解質の種類によって、電流、電圧を調節するように構成することもできる。この単位セル52を直列に接続すると電圧が大きくなり、並列に接続すると電流が大きくなる。しかし、取り出せる電力は同じであるので、場合によって直列、並列の切替えを可能にした構成とすることが望ましい。
【0053】
上述の本実施の形態の光エネルギー変換装置は、例えば、太陽電池、電子機器用電池、ガス発生装置、電流・電圧発生装置など種々の用途に適用できる。
【0054】
上述の本実施の形態に係る光エネルギー変換装置によれば、その半導体光電極として、窒化物半導体、特にp型の窒化物半導体の表面に酸化チタン膜を成膜した電極を用いることにより、酸化チタン膜が水素原子のp型の窒化物半導体への拡散を阻止する阻止膜として機能し、水素原子とp型不純物との反応による絶縁化、すなわち窒化物半導体表面の劣化を防ぐことができる。従って、安定して長期使用を可能にした光エネルギー変換装置を提供することができる。
【0055】
また、本実施の形態に係る半導体光電極によれば、窒化物半導体、特にp型の窒化物半導体の表面に酸化チタン膜を成膜して構成することにより、酸化チタン膜が水素原子のp型の窒化物半導体への拡散を阻止することができ、p型の窒化物半導体の表面劣化を防ぐことができる。従って、光エネルギー変換装置に適用して好適な半導体光電極、つまり安定して長期使用を可能にした半導体光電極を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明に係る光エネルギー変換装置の基本的な概略構成を示す構成図である。
【図2】A,B 本発明に係る半導体光電極の一実施の形態を示す平面図及び断面図である。
【図3】本発明の動作説明に供するエネルギーバンド構造図である。
【図4】GaN,InGaN,TiO の伝導帯端のエネルギー値、水素の酸化還元電位を示したエネルギー図である。
【図5】本発明に係るTiO膜による窒化物半導体の劣化抑制の効果を示すグラフである。
【図6】本発明に係るTiO膜の膜厚の説明に供するグラフである。
【図7】真空還元装置を示す概略構成図である。
【図8】本発明に係る真空還元処理の温度の説明に供するグラフである。
【図9】本発明に係る光エネルギー変換装置を適用した具体的なデバイスを示す概略斜視図である。
【図10】図9のデバイスを構成する単位セルの構成を示す断面図である。
【図11】従来のガス発生装置の概略構成図である。
【符号の説明】
【0057】
11・・光エネルギー変換装置、12・・容器、13・・溶液、15・・半導体光電極、16・・対向電極、18・・窒化物半導体、19・・酸化チタン(TiO)膜、L・・光、21・・サファイア基板、22・・GaNバッファ層、23・・InGaN層、24・・オーミック電極、25・・酸化チタン膜、26・・保護膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに電気的に接続された半導体光電極と対向電極を有し、
前記半導体光電極が表面に酸化チタン膜を成膜した窒化物半導体で形成され、
前記対向電極及び前記半導体光電極が溶液中に配置されて成る
ことを特徴とする光エネルギー変換装置。
【請求項2】
前記窒化物半導体がp型GaN系半導体で形成されて成る
ことを特徴とする請求項1記載の光エネルギー変換装置。
【請求項3】
前記窒化物半導体がp型GaN系半導体で形成され、
前記酸化チタン膜がn型酸化チタン膜で形成されて成る
ことを特徴とする請求項1記載の光エネルギー変換装置。
【請求項4】
前記p型GaN系半導体のp型不純物がマグネシウムである
ことを特徴とする請求項2記載の光エネルギー変換装置。
【請求項5】
前記窒化物半導体と前記酸化チタン膜はヘテロ結合されて成る
ことを特徴とする請求項1記載の光エネルギー変換装置。
【請求項6】
前記酸化チタン膜は真空還元処理された酸化チタン膜である
ことを特徴とする請求項1記載の光エネルギー変換装置。
【請求項7】
前記酸化チタン膜は700℃〜900℃で真空還元処理された酸化チタン膜である
ことを特徴とする請求項1記載の光エネルギー変換装置。
【請求項8】
前記酸化チタン膜の膜厚が5μm以下である
ことを特徴とする請求項1記載の光エネルギー変換装置。
【請求項9】
前記酸化チタン膜がゾルゲル法で成膜された酸化チタン膜である
ことを特徴とする請求項1記載の光エネルギー変換装置。
【請求項10】
窒化物半導体の表面に酸化チタン膜が成膜されて成る
ことを特徴とする半導体光電極。
【請求項11】
前記窒化物半導体がp型GaN系半導体で形成されて成る
ことを特徴とする請求項10記載の半導体光電極。
【請求項12】
前記窒化物半導体がp型GaN系半導体で形成され、
前記酸化チタン膜がn型酸化チタン膜で形成されて成る
ことを特徴とする請求項10記載の半導体光電極。
【請求項13】
前記p型GaN系半導体のp型不純物がマグネシウムである
ことを特徴とする請求項11記載の半導体光電極。
【請求項14】
前記窒化物半導体と前記酸化チタン膜はヘテロ結合されて成る
ことを特徴とする請求項10記載の半導体光電極。
【請求項15】
前記酸化チタン膜は真空還元処理された酸化チタン膜である
ことを特徴とする請求項10記載の半導体光電極。
【請求項16】
前記酸化チタン膜は、700℃〜900℃で真空還元処理された酸化チタン膜である
ことを特徴とする請求項10記載の半導体光電極。
【請求項17】
前記酸化チタン膜の膜厚が5μm以下である
ことを特徴とする請求項10記載の半導体光電極。
【請求項18】
前記酸化チタン膜がゾルゲル法で成膜された酸化チタン膜である
ことを特徴とする請求項10記載の半導体光電極。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−239048(P2007−239048A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−64575(P2006−64575)
【出願日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.パイレックス
【出願人】(504133110)国立大学法人 電気通信大学 (383)
【Fターム(参考)】