説明

光ジャイロ素子

【課題】製造が容易で消費電力が少ない新規な光ジャイロ素子を提供する。
【解決手段】本発明の光ジャイロ素子は、環状の光路50を互いに逆方向に伝播するレーザ光L1およびL2の周波数差から回転角速度を求める。この光ジャイロ素子は、第1の基板10に形成された光導波路11と、第2の基板に形成された半導体光増幅器40と、レーザ光L1およびL2の一部を環状の光路50から引き出す引き出し手段と、レーザ光L1およびL2の周波数差を観測するフォトダイオード31と、実装基板70とを備える。半導体光増幅器40は、少なくとも一部が光増幅領域である光導波路22を含む。光導波路11の2つの端部と光導波路22の2つの端部とが結合されるように、第1の基板10および半導体光増幅器40が実装基板70上に配置されている。そして、光導波路11と光導波路22とによって環状の光路50が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ジャイロ素子に関する。
【背景技術】
【0002】
回転する物体の回転角速度を検出するためのジャイロの中でも、光ジャイロは精度が高いという特徴を有する。光ジャイロでは、環状の光路を互いに逆方向に進む2つのレーザ光の周波数差を用いて回転角速度の検出を行う。このような光ジャイロとして、希ガスレーザを用いた光ジャイロが提案されている(たとえば特許文献1参照)。これらの光ジャイロでは、同じ経路を互いに逆方向に周回するレーザ光を取り出して干渉縞を形成させる。
【0003】
また、消費電力が少ない光ジャイロとして、三角環状の共振器(活性層)を備える半導体レーザ素子を用いたジャイロが提案されている(たとえば特許文献2参照)。この半導体レーザジャイロは、半導体レーザ素子に加えて、レーザ光の干渉縞を観測するための受光素子を備える。
【特許文献1】特開平11−351881号公報
【特許文献2】特開2000−230831号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記半導体レーザジャイロは製造工程が複雑であり、特に、上記半導体レーザジャイロを構成する複数の素子を1つの基板上にモノリシックに形成しようとすると、製造工程が極めて複雑になる。
【0005】
このような状況において、本発明は、製造が容易で消費電力が少ない新規な光ジャイロ素子を提供することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の光ジャイロ素子は、環状の光路を互いに逆方向に伝播する第1および第2のレーザ光の周波数差から回転角速度を求める光ジャイロ素子であって、第1の基板に形成された第1の光導波路と、第2の基板に形成された半導体光増幅器と、前記第1および第2のレーザ光の一部を前記環状の光路から引き出す引き出し手段と、引き出された前記第1および第2のレーザ光の周波数差を観測する観測手段と、実装基板とを備え、前記半導体光増幅器は、少なくとも一部が光増幅領域である第2の光導波路を含み、前記第1の光導波路の第1および第2の端部が、前記第1の基板の1つの側面側に存在し、前記第2の光導波路の第1および第2の端部が、前記第2の基板の1つの側面側に存在し、前記第1の光導波路の前記第1の端部と前記第2の光導波路の前記第1の端部とが結合され、且つ、前記第1の光導波路の前記第2の端部と前記第2の光導波路の前記第2の端部とが結合されるように、前記第1の基板および前記半導体光増幅器が前記実装基板上に配置されており、前記第1の光導波路と前記第2の光導波路とによって前記環状の光路が形成されている。
【発明の効果】
【0007】
本発明の光ジャイロ素子では、半導体光増幅器が形成された基板と光導波路が形成された基板とを突き合わせることによって、環状の光導波路を簡単に形成できる。そのため、従来の光ジャイロに比べて製造が容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明について例を挙げて説明する。ただし、本発明は以下で述べる例には限定されない。以下の説明において特定の材料や特定の数値を例示する場合があるが、本発明の効果が得られる限り、他の材料や他の数値を適用してもよい。
【0009】
[光ジャイロ素子(光ジャイロ)]
本発明の光ジャイロ素子は、環状の光路を互いに逆方向に伝播する第1および第2のレーザ光の周波数差から回転角速度を求める光ジャイロ素子である。この光ジャイロ素子は、第1の基板に形成された第1の光導波路と、第2の基板に形成された半導体光増幅器と、引き出し手段と、観測手段と、実装基板とを備える。
【0010】
第1の光導波路は、第1の基板に形成されている。第1の光導波路の2つの端部(第1および第2の端部)は、第1の基板の1つの側面側に存在する。第1の基板に限定はなく、基板上に第1の光導波路を形成できるものであればよい。
【0011】
典型的な一例では、第1の光導波路は、コア層と、コア層の周囲に配置されコア層よりも屈折率が低いクラッド層とによって構成される。コア層の幅、厚さおよび長さに特に限定はないが、高次モードが抑制された基本モードになるようにコア層の幅および厚さを設計することが好ましく、コア層およびクラッド層の屈折率と発振波長とに基づいてこれらの値を決定することが好ましい。第1の光導波路は、第1および第2のレーザ光の損失ができるだけ小さい材料で形成されることが好ましい。第1の光導波路の好ましい一例では、コア層がGeドープのSiO2からなり、クラッド層がノンドープのSiO2からなる。
【0012】
本発明の効果が得られる限り、第1の光導波路の長さに限定はない。一例では、第1の光導波路の長さは1mm〜100mmの範囲にあってもよい。
【0013】
半導体光増幅器(SOA)は、第2の基板に形成される。第2の基板に限定はなく、半導体光増幅器を形成できるものであればよい。
【0014】
半導体光増幅器は、少なくとも一部が光増幅領域である光導波路(第2の光導波路)を含む。光増幅領域における第2の光導波路は、活性層を含む。活性層に電流が注入されることによって、第2の光導波路を通過する光が増幅される。活性層に注入される電流が閾値を超えると、レーザ光が励起される。
【0015】
第2の光導波路は、その全体が光増幅領域であってもよい。また、第2の光導波路の一部は光増幅領域でなくてもよい。たとえば、第2の光導波路の一部は光を増幅しないパッシブ領域であってもよい。また、第2の光導波路の2つの端部は、モードフィールド変換領域(スポットサイズ変換領域)であってもよい。光増幅領域以外の第2の光導波路は、第1および第2のレーザ光の損失が小さい材料で形成されることが好ましい。
【0016】
本発明の効果が得られる限り、第2の光導波路の長さに限定はない。一例では、第2の光導波路の長さは0.1mm〜10mmの範囲にあってもよい。
【0017】
本発明の効果が得られる限り、半導体光増幅器の構造に特に限定はない。半導体光増幅器の光増幅領域の構造は、励起する第1および第2のレーザ光に応じて選択される。たとえば、III−V族化合物半導体からなる活性層を備える半導体光増幅器を用いることができる。そのような半導体光増幅器によって励起される第1および第2レーザ光の波長は、たとえば0.25μm〜3μmの範囲にある。半導体光増幅器の一例は、2つの電極と、それらの電極の間に配置された2つのクラッド層と、それらのクラッド層の間に配置された活性層とを含む。
【0018】
第2の光導波路の2つの端部(第1および第2の端部)は、第2の基板の1つの側面側に存在する。そして、第1の光導波路の第1の端部と第2の光導波路の第1の端部とが結合され、且つ、第1の光導波路の第2の端部と第2の光導波路の第2の端部とが結合されるように、第1の基板および半導体光増幅器(第2の基板)が実装基板上に配置されている。これらの端部の結合によって、環状の光路が形成される。すなわち、第1の光導波路と第2の光導波路とによって、環状の光路が形成されている。
【0019】
通常、実装基板上には受光素子も実装される。実装基板の表面には、通常、半導体光増幅器の1つの電極と接続される電極パッド、および受光素子の1つの電極と接続される電極パッドが形成される。
【0020】
本発明の光ジャイロ素子では、第1および第2の光導波路で形成された環状の光路を、互いに逆方向に伝播する第1および第2のレーザ光が励起される。環状の光路の形状は、第1および第2のレーザ光が励起される形状である限り、特に限定はない。環状の光路は、円環状であってもよいし、円環状でなくてもよい。環状の光路の形状は、たとえば、第2の光導波路の部分が外側に突き出した環状の形状であってもよい。
【0021】
引き出し手段は、第1および第2のレーザ光の一部を環状の光路から引き出す。具体的には、引き出し手段は、第2の光導波路から第1および第2のレーザ光の一部を引き出す。引き出し手段は、第2の光導波路から第1および第2のレーザ光を引き出すための光結合器を含んでもよい。そのような引き出し手段の一例は、光結合器として機能する光導波路である。
【0022】
観測手段は、環状の光路から引き出された第1および第2のレーザ光の周波数差を観測する。観測手段は、第1および第2のレーザ光を観測するための少なくとも1つの受光素子を含む。観測手段の典型的な一例は、引き出し手段によって引き出された第1および第2のレーザ光を重ね合わせるための重ね合わせ手段と、重ね合わされた第1および第2のレーザ光を観測する受光素子とを含む。重ね合わせ手段には、光結合器を用いることができる。本発明の典型的な一例では、引き出し手段として機能する光導波路と、重ね合わせ手段として機能する光導波路とが第1の基板に形成される。1つの光導波路が、引き出し手段として機能する光導波路、および、重ね合わせ手段として機能する光導波路を兼ねてもよい。
【0023】
受光素子には、フォトダイオードやフォトトランジスタを用いることができる。受光素子は、第1および第2の基板とは異なる基板に形成されることが好ましい。そして、受光素子が形成された基板と第1の基板とを突き合わせることによって、受光素子と、重ね合わされた第1および第2のレーザ光が伝播する光導波路とを結合させることが好ましい。光導波路との結合を容易にするため、受光素子には、導波路型のフォトダイオードを用いることが好ましい。その場合、フォトダイオードの端面において反射されたレーザ光が光導波路に戻らないように、フォトダイオードの導波路の端面を、光軸に対して数度だけ斜めにすることが好ましい。
【0024】
観測手段の受光素子からは、第1および第2のレーザ光の周波数に関する情報を含む信号が出力される。この信号に基づいて、ジャイロの回転角速度が求められる。受光素子の出力信号は、たとえば、スペクトルアナライザに入力されて処理・解析される。
【0025】
実装基板の表面の形状に限定はなく、第1の基板および半導体光増幅器(および受光素子)を正確な位置に実装しやすい形状であればよい。実装基板の表面は、平坦であってもよいし、平坦でなくてもよい。表面が平坦な実装基板を用いることによって、第1の基板および半導体光増幅器の配置や交換が容易になる。同様に、受光素子の正確な配置が容易になる。
【0026】
本発明の効果が得られる限り、第2の光導波路の平面形状に限定はない。第2の光導波路の平面形状は、U字状であってもよい。また、第2の光導波路の平面形状は、円弧状であってもよい。
【0027】
本発明の光ジャイロ素子の一例では、観測手段が、引き出された第1および第2のレーザ光を重ね合わせるための少なくとも1つの光導波路(第3の光導波路)と、重ね合わされた第1および第2のレーザ光を観測する受光素子とを含む。この一例では、第3の光導波路(少なくとも1つの光導波路)が第1の基板に形成されており、受光素子が実装基板上に配置されている。第3の光導波路の一部は、引き出し手段として機能させることが可能である。
【0028】
なお、本発明の光ジャイロ素子では、必要に応じて、導波路型の光学素子や光学装置を光導波路の途中に配置してもよい。
【0029】
[光ジャイロ素子の製造方法]
以下、本発明の光ジャイロ素子を製造する方法について説明する。本発明の製造方法の個々の工程は、半導体装置の製造方法で用いられる一般的な方法を用いて実施できる。
【0030】
光ジャイロ素子の製造方法は、以下の工程(i)を含む。工程(i)では、第1の基板に形成された第1の光導波路と、半導体光増幅器の第2の光導波路とが結合して環状の光路を形成するように、第1の基板と半導体光増幅器とを実装基板上に配置する。通常、第1の基板を実装基板上に配置してから、半導体光増幅器を実装基板上に配置する。第1の基板、第1の光導波路、半導体光増幅器、および実装基板については上述したため、重複する説明は省略する。これらはそれぞれ、公知の方法で形成できる。
【0031】
なお、第1の光導波路の2つの端面は、第1の基板の1つの側面側に存在するため、それらの端面を覆う反射防止膜は一度に形成できる。第2の光導波路の2つの端面は、第2の基板の1つの側面側に存在するため、それらの端面を覆う反射防止膜は一度に形成できる。
【0032】
光ジャイロ素子の製造方法は、受光素子を実装基板上に配置する工程を含んでもよい。この工程は、工程(i)の前、途中、または後に行うことができる。通常、第1の基板を実装基板上に配置してから、第1の基板および受光素子を実装基板上に配置する。受光素子については上述したため、重複する説明を省略する。受光素子は、環状の光路から引き出されて重ね合わされた第1および第2のレーザ光を受光できる位置に実装される。
【0033】
第1の基板、半導体光増幅器、および受光素子は、それらの相対的な位置が所定の位置になるように、正確に配置される必要がある。これらの正確な配置には、半導体素子の実装技術で用いられる公知の方法を適用してもよい。たとえば、それぞれにアライメントマークを形成し、アライメントマークを用いて位置あわせをしてもよい。
【0034】
[光ジャイロ素子の一例]
本発明の光ジャイロ素子の一例について、構成を図1に模式的に示す。
【0035】
図1の光ジャイロ素子100は、実装基板70と、実装基板70上に実装された第1の基板10、半導体光増幅器40およびフォトダイオード31とを含む。第1の基板10には、第1の光導波路11と第3の光導波路13とが形成されている。また、半導体光増幅器40は、第2の光導波路22を含む。第1の光導波路11と第2の光導波路22とによって、環状の光路50が形成されている。
【0036】
第1の光導波路11と第3の光導波路13とは、一部で接近している。この部分は、光結合器51として機能する。また、第3の光導波路13の一部と他の一部とは、互いの光軸が平行となるように近接している。この部分は、光結合器52として機能する。
【0037】
光結合器51は、第1の光導波路11を進行するレーザ光が第3の光導波路13に伝播するように形成される。一例の光結合器では、第3の光導波路13のコア層の一部が、第1の光導波路11のコア層の一部の接線に、隣接して且つほぼ平行に配置される。このカップリング部分における、第1の光導波路11のコア層と第3の光導波路13のコア層との最短距離は、たとえば、発振波長の数倍程度か、あるいはそれ以下の距離に設定される。同様に、光結合器52も、第3の光導波路13の一部と第3の光導波路13の他の一部とが隣接して平行に配置されることによって形成される。この一例では、第3の光導波路13は、レーザ光の引き出し手段およびレーザ光の重ね合わせ手段として機能する。
【0038】
図1の線IIa−IIaにおける断面図を図2(a)に示す。第1の基板10は、石英基板である。第1の基板10上には、Geドープのコア層14が形成されている。第1の基板10およびコア層14を覆うように、SiO2からなる上部クラッド層15が形成されている。コア層14の断面のサイズは、たとえば5μm角程度である。上部クラッド層15の厚さは、たとえば20μm程度である。
【0039】
第1の基板10および上部クラッド層15のうち、コア層14に隣接する部分は光閉じ込め層として機能する。コア層14およびそれに隣接する光閉じ込め層は、第1の光導波路11を構成する。第3の光導波路13は、第1の光導波路11と同じ構造を有する。したがって、図1の線I−Iにおける断面図は、図2(a)に示す断面図と同じである。なお、この一例では第1の基板10の一部が光閉じ込め層である場合について示しているが、すべての光閉じ込め層が第1の基板上に形成されていてもよい。
【0040】
第1の光導波路11の2つの端部が露出している側の端面を図2(b)に示す。第1の光導波路11の第1の端部11mと第2の端部11nとは、第1の基板10の1つの側面10s側に存在する。
【0041】
半導体光増幅器40における第2の光導波路22の配置を図3に示す。第2の光導波路22の平面形状はU字状である。ただし、2つの端部およびその近傍の領域22aは、わずかに外側に拡がっている。これは、端面で反射した光が光導波路に戻らないようにするためである。
【0042】
図3の線IVa−IVaにおける断面図を図4(a)に示す。図4(a)を参照して、半導体光増幅器40は、第2の基板20と、第2の基板20上に積層された、活性層41、p型クラッド層42、p型オーバークラッド層43、キャップ層44および上部電極45と、下部電極46とを含む。また、半導体光増幅器40は、第2の基板20上に積層されたp−InP層47と、n−InP層48とを含む。
【0043】
第2の基板20はn−InP基板である。活性層41はGaInAsPからなる。p型クラッド層42はp−InPからなる。p型オーバークラッド層43はp−InPからなる。キャップ層44はp型GaInAsPからなる。上部電極45は、AuZnNi層とAu層との積層膜である。下部電極46は、AuGeNi層とAu層との積層膜である。
【0044】
活性層41の周囲の基板および層は、活性層41よりも屈折率が低い。そのため、基板および層のうち活性層41に隣接する部分は、光閉じ込め層として機能する。活性層41およびその周囲の光閉じ込め層によって、第2の光導波路22が構成される。活性層41には、上部電極45および下部電極46によって電流が注入される。p−InP層47およびn−InP層48が存在するため、電流は、活性層41に選択的に注入される。
【0045】
なお、この一例では第2の光導波路22の全体が、光増幅領域である場合について示しているが、第2の光導波路22の一部は光増幅領域でなくてもよい。
【0046】
第2の基板20の側面のうち第2の光導波路22の2つの端面が露出している側面20sを、図4(b)に示す。第1の光導波路22の第1の端部22mと第2の端部22nとは、第2の基板20の1つの側面20s側に存在する。側面20sは、半導体光増幅器40を形成した基板をへき開することによって形成される。なお、第1の端部22mと第2の端部22nとを覆うように、反射防止膜(図示せず)が形成されている。
【0047】
光ジャイロ素子100では、第1の基板10の側面10sと第2の基板20の側面20sとが突き合わされる。これによって、第1の光導波路11の第1の端部11mと第2の光導波路22の第1の端部22mとが互いに突き合わされて結合している。また、第1の光導波路11の第2の端部11nと第2の光導波路22の第2の端部22nとが互いに突き合わされて結合している。第1の光導波路11と半導体光増幅器40とによって、1つのリングレーザが構成される。
【0048】
図5に、側面10sおよび側面20s近傍における、第1の光導波路11と第2の光導波路22の配置を模式的に示す。第1の光導波路11の2つの端部における光軸は、側面10sに垂直な方向に対して角度αだけ傾いている。また、第2の光導波路22の2つの端部における光軸は、側面20sに垂直な方向に対して、角度βだけ傾いている。角度αおよび角度βは、第1の光導波路11および第2の光導波路22の実効屈折率を考慮して決定される。第2の光導波路22の実効屈折率が第1の光導波路11の実効屈折率よりも大きい場合、α>βとなる。
【0049】
図6を参照して、光ジャイロ素子100の機能について説明する。半導体光増幅器40の活性層に電流が注入されると光が発生する。発生した光は、環状の光路50に沿って、時計回りおよび反時計回りに進行する。この光は、半導体光増幅器40において増幅される。活性層に注入される電流が閾値を超えると、光路50を時計回りに伝播する第1のレーザ光L1と、光路50を反時計回りに伝播する第2のレーザ光L2とが励起される。
【0050】
第1のレーザ光L1および第2のレーザ光L2の一部は、光結合器51において第3の光導波路13に伝播する。また、第3の光導波路13を進行する第1のレーザ光L1の一部は、光結合器52において、隣接する第3の光導波路13に伝播する。その結果、第1のレーザ光L1と第2のレーザ光L2とは、重ね合わされてフォトダイオード31に入射する。第1のレーザ光L1の周波数と第2のレーザ光L2の周波数との間に差が存在する場合、フォトダイオード31では両者の周波数差に基づくビート信号が検出される。
【0051】
なお、第3の光導波路13を2つの光導波路で置き換えてもよい。そのような光ジャイロ素子の一例について、光導波路の配置を図7に示す。図7の光ジャイロ素子は、第1の基板10上に形成された光導波路71および72を含む。光導波路71の一部は、第1の光導波路11に近接している。光導波路71と第1の光導波路11とが近接している部分は、光結合器71aとして機能する。光導波路72の一部は、第1の光導波路11に近接している。光導波路72と第1の光導波路11とが近接している部分は、光結合器72aとして機能する。また、光導波路71の一部と光導波路72の一部とは、互いに平行になるように近接している。この部分は、光結合器71bとして機能する。光結合器71aにおいて、第1のレーザ光L1の一部が光導波路71に伝播する。また、光結合器72aにおいて、第2のレーザ光L2の一部が光導波路72に移行する。また、光結合器71bにおいて、第2のレーザ光L2の一部が光導波路71に移行する。その結果、第1のレーザ光L1と第2のレーザ光L2とが重ね合わされ、フォトダイオード31で受光される。
【0052】
光ジャイロ素子100の製造方法の一例について、以下に説明する。光ジャイロ素子100では、半導体光増幅器40、第1の光導波路11、およびフォトダイオード31が、異なる基板に形成されている。したがって、これらのそれぞれを形成したのち、これらを実装基板上に正確に配置する必要がある。
【0053】
まず、図8(a)に示すように、パッド電極81および82が形成された実装基板70を用意する。実装基板70は、半導体光増幅器40の材料と熱膨張係数が近く且つ熱伝導率が高い材料からなる基板であることが好ましい、実装基板70としては、たとえば、AlN基板、石英基板、シリコン基板などを用いることができる。
【0054】
次に、第1および第3の光導波路11および13が形成された第1の基板10を形成する。図9に示すように、第1の基板10は、第1および第3の光導波路11および13を長めに形成したのちに、側面を線A−Aおよび線B−Bまで研磨することによって形成することが好ましい。このとき、半導体光増幅器40およびフォトダイオード31の位置合わせを行うためのアライメントマーク91および93を、上部クラッド層15の表面に形成しておく。また、半導体光増幅器40およびフォトダイオード31をそれぞれ形成する。
【0055】
次に、図8(b)に示すように、第1および第3の光導波路11および13が形成された第1の基板10を、実装基板70上に接着する。第1の基板10は、たとえば、光学部品用のUV硬化型接着剤によって実装基板70に接着される。
【0056】
次に、図8(c)に示すように、実装基板70上に、半導体光増幅器40を接着する。半導体光増幅器40は、第2の光導波路22の2つの端部と、第1の光導波路11の2つの端部とが光学的に結合するように、正確に位置決めして実装基板70上に接着される。このとき、実装基板70上のパッド電極81と、半導体光増幅器40の下部電極46とを接続する。たとえば、金−錫の接合技術を用いて、半導体光増幅器40を実装基板70上に実装する。
【0057】
半導体光増幅器40を正確に位置決めして実装するために、アライメントマークを用いる。具体的には、図10に示すように、第1の基板10上の上部クラッド層15の表面にアライメントマーク91を形成し、半導体光増幅器40の上部電極45の表面にアライメントマーク92を形成する。そして、それらのアライメントマークが一致するように半導体光増幅器40を配置することによって、水平方向に正確に半導体光増幅器を実装することが可能である。なお、垂直方向の正確な配置は、パッド電極の厚さ、基板の厚さ、光導波路を構成する各層の厚さなどを調整することによって行うことができる。
【0058】
次に、図8(d)に示すように、フォトダイオード31を実装基板70上に実装する。フォトダイオード31は、パッド電極82とフォトダイオード31の下部電極とが接続されるように実装される。フォトダイオード31は、第3の光導波路13から出射されるレーザ光を受光できるように、正確に位置決めして実装される。フォトダイオード31も、アライメントマークを用いて位置決めされる。具体的には、図10に示すように、上部クラッド層15の表面にアライメントマーク93を形成し、フォトダイオード31の表面にアライメントマーク94を形成する。そして、それらのアライメントマークが一致するようにフォトダイオード31を配置することによって、水平方向に正確にフォトダイオード31を実装することが可能である。なお、垂直方向の正確な配置は、パッド電極の厚さ、基板の厚さ、光導波路およびフォトダイオードを構成する各層の厚さなどを調整することによって行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、光ジャイロに適用できる。本発明の光ジャイロ素子は、物体の回転の検出が必要な様々な電子機器に適用できる。代表的な例としては、姿勢制御装置やナビゲーション装置、手ぶれ補正装置に利用できる。具体的には、本発明の光ジャイロ素子は、ロケットや飛行機などの航空機、自動車やバイクといった移動手段に利用できる。また、本発明のジャイロは小型で消費電力が低いという利点を生かし、携帯電話や小型のパーソナルコンピュータといった携帯情報端末、玩具、カメラなどに利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の光ジャイロ素子について、一例の構成を模式的に示す図である。
【図2】(a)第1の光導波路の断面図、および(b)第1の光導波路の端部が露出している第1の基板の側面を示す図である。
【図3】半導体光増幅器に含まれる第2の光導波路の配置を示す上面図である。
【図4】(a)半導体光増幅器の一部断面図、および(b)第2の光導波路の端部が露出している第2の基板の側面を示す図である。
【図5】第1の光導波路と第2の光導波路との結合の状態を模式的に示す図である。
【図6】本発明の光ジャイロ素子の機能を示す図である。
【図7】本発明の光ジャイロ素子の他の一例について、一例の構成を模式的に示す図である。
【図8】本発明の光ジャイロ素子の製造方法の一例を示す工程図である。
【図9】第1の基板上に光導波路を形成する方法の一例を示す図である。
【図10】半導体光増幅器およびフォトダイオードの配置の方法の一例を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0061】
100 光ジャイロ素子
10 第1の基板
10s 第1の基板の側面
11 第1の光導波路
11m 第1の光導波路の第1の端部
11n 第1の光導波路の第2の端部
13 第3の光導波路
14 コア層
15 上部クラッド層
20 第2の基板
22 第2の光導波路
22m 第2の光導波路の第1の端部
22n 第2の光導波路の第2の端部
20s 第2の基板の側面
31 フォトダイオード(観測手段)
40 半導体光増幅器
50 環状の光路
51 光結合器(引き出し手段)
52 光結合器(重ね合わせ手段:観測手段)
70 実装基板
71、72 光導波路(第3の光導波路)
91、92、93、94 アライメントマーク
L1、L2 レーザ光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状の光路を互いに逆方向に伝播する第1および第2のレーザ光の周波数差から回転角速度を求める光ジャイロ素子であって、
第1の基板に形成された第1の光導波路と、第2の基板に形成された半導体光増幅器と、前記第1および第2のレーザ光の一部を前記環状の光路から引き出す引き出し手段と、引き出された前記第1および第2のレーザ光の周波数差を観測する観測手段と、実装基板とを備え、
前記半導体光増幅器は、少なくとも一部が光増幅領域である第2の光導波路を含み、
前記第1の光導波路の第1および第2の端部が、前記第1の基板の1つの側面側に存在し、
前記第2の光導波路の第1および第2の端部が、前記第2の基板の1つの側面側に存在し、
前記第1の光導波路の前記第1の端部と前記第2の光導波路の前記第1の端部とが結合され、且つ、前記第1の光導波路の前記第2の端部と前記第2の光導波路の前記第2の端部とが結合されるように、前記第1の基板および前記半導体光増幅器が前記実装基板上に配置されており、
前記第1の光導波路と前記第2の光導波路とによって前記環状の光路が形成されている、光ジャイロ素子。
【請求項2】
前記実装基板の表面が平坦である請求項1に記載の光ジャイロ素子。
【請求項3】
前記観測手段は、引き出された前記第1および第2のレーザ光を重ね合わせるための少なくとも1つの光導波路と、重ね合わされた前記第1および第2のレーザ光を観測する受光素子とを含み、
前記少なくとも1つの光導波路が前記第1の基板に形成されており、
前記受光素子が前記実装基板上に配置されている請求項1に記載の光ジャイロ素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−145110(P2009−145110A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−320810(P2007−320810)
【出願日】平成19年12月12日(2007.12.12)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度独立行政法人情報通信研究機構、研究テーマ「シームレスな位置情報検出を実現する高精度角速度センサチップの研究開発」に関する委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(393031586)株式会社国際電気通信基礎技術研究所 (905)
【Fターム(参考)】