説明

光ディスク装置及びその制御方法

【課題】
良好な記録再生品質を確保し得る光ディスク装置及びその制御方法を提案する。
【解決手段】
光ディスク装置のシステム制御部において、対物レンズを光ディスクの厚み方向に連続的に移動させるフォーカススイープ時に、フォーカスエラー信号に基づいて光ディスクのレーザ光の入射面から記録層までの厚みを算出し、レーザ光に発生する球面収差を補正するのに最適なカップリングレンズの位置を記録層ごとに求める。また、前記フォーカススイープ時において、対物レンズの焦点が前記光ディスクの記録層を通過する前に、対物レンズの焦点が次に通過しようとする記録層の基準位置、つまり、光ディスクの仕様に基づき計算されるレーザ光により生じる球面収差を補正する位置にカップリングレンズが移動するように制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ディスク装置及びその制御方法に関し、特に多層ディスクに対応した光ディスク装置に適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
近年、BD(Blu-ray Disc)のような高密度光ディスクの多層化が進められている。この種の多層高密度光ディスクでは、レーザ光が光ディスクを通過する際に当該レーザ光に発生する球面収差に起因する記録再生品質の低下を防ぐため、球面収差を補正する技術が必須となる。
【0003】
このような球面収差を補正する方法の1つとして、従来、レーザ光源及び対物レンズ間に可動式のカップリングレンズを配置し、このカップリングレンズを対物レンズに近付ける方向又は遠ざける方向に移動させることにより、レーザ光源から発射されたレーザ光の収束発散状態を変更する方法が提案されている。
【0004】
実際上、このような球面収差補正方法による球面収差補正機能が搭載された光ディスク装置では、予め記録層ごとに、光ディスクの仕様に基づき計算されるレーザ光に生じる球面収差を補正するカップリングレンズの位置(以下、これを基準位置と呼ぶ)をそれぞれ記憶しており、記録再生時には、対象とする記録層の基準位置にカップリングレンズを移動させた上で光ディスクに対する記録再生動作を実行する。
【0005】
しかしながら、光ディスクは、その製造時にカバー層(光ディスクにおける表面から最初の記録層までの層)の厚みや記録層間距離にばらつきが生じやすく、かかる球面収差補正方法では必ずしも最適な球面収差補正を行い得ない問題があった。
【0006】
そこで、このようなカバー層の厚みのばらつきや記録層間距離のばらつきに起因する球面収差補正量の誤差を吸収する方法として、従来、対物レンズを光ディスクの厚み方向に連続的に移動させる(以下、この動作をフォーカススイープと呼ぶ)ことにより得られるフォーカスエラー信号に基づいて光ディスクのカバー層や記録層間距離をそれぞれ検出し、検出結果に基づいてカップリングレンズを基準位置からかかる球面収差補正量の誤差を吸収し得る分だけずれた位置に移動させる技術が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−116992号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、特許文献1に開示された球面収差補正方法では、フォーカススイープにより得られたフォーカスエラー信号に基づいてカバー層の厚みや記録層間距離を検出するに際して、レーザ光の焦点を光ディスクの厚み方向に移動させたときにフォーカスエラー信号に現れるS字波形の品質や信頼性が重要となる。
【0009】
ところが、近年の技術進歩に伴い、今後、10層以上の記録層を有する多層BDが実現されることが予想される。そしてこのような多層BDでは、各記録層の反射率が低下し、レーザ光の焦点が各記録層をよぎるときにフォーカスエラー信号に現れるS字波形の振幅が従来よりも小さくなることが想定される。
【0010】
このため、このような多層BDについて上述のフォーカススイープによるカバー層の厚み検出や各記録層間距離の検出を行う場合、レーザ光に生じた球面収差に起因して発生するフォーカスエラー信号のS字波形の振幅低下や波形歪みが従来よりも大きくなり、S字波形の検出精度が著しく低下する可能性がある。そしてかかるS字波形の検出精度が低下した場合、各記録層における球面収差補正の精度が低下し、この結果、良好な記録再生品質を確保できないという問題がある。
【0011】
また、従来の光ディスク装置ではフォーカススイープを光ディスクを回転させた状態で行っているが、光ディスクを回転させた状態でフォーカススイープを行った場合、ディスクの反り等によって生じる面振れの影響により光スポットが同一の記録層を二度以上よぎる事態が発生することが考えられ、この結果、本来フォーカスエラー信号に現れるはずのS字波形の数より多くのS字波形を検出する可能性がある。このような場合、記録層間距離の検出に誤りが生じ、この結果、球面収差補正の精度も低下する問題がある。
【0012】
さらには、多層BDにデータを記録又は再生する際に、記録層に対する球面収差補正処理の補正量の調整をその都度行うようにすると、光ディスクにデータを記録再生するまでに多くの時間が費やされることとなり、光ディスク装置全体としての応答性能が低下する問題がある。
【0013】
本発明は以上の点を考慮してなされたもので、良好な記録再生品質を確保し得る光ディスク装置及びその制御方法を提案しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題は、特許請求の範囲に記載の発明により解決される。
【発明の効果】
【0015】
本発明による光ディスク装置によれば、製造時に生じる光ディスクのカバー層の厚みのばらつきや記録層間距離のばらつきに起因する球面収差補正量の誤差を適切に補正することができる。これにより各記録層において精度良く球面収差補正を行うことができ、かくして良好な記録再生品質を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実施の形態による光ディスク装置の概略構成を示すブロック図である。
【図2】受光素子及びフォーカスエラー信号生成部の詳細構成を示す回路図である。
【図3】(A)〜(C)は、受光素子の受光面における反射光のスポット形状の説明に供する平面図である。
【図4】フォーカスエラー信号に現れるS字波形を示す波形図である。
【図5】(A)〜(C)は、3つの記録層を有する光ディスクに対するフォーカススイープ動作の説明に供する波形図等である。
【図6】第1の実施の形態による層数カウント処理の処理手順を示すフローチャートである。
【図7】第2の実施の形態による基準位置補正量検出処理の処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下図面について、本発明の一実施の形態を詳述する。
【0018】
(1)第1の実施の形態
図1において、1は全体として本実施の形態による光ディスク装置を示す。この光ディスク装置1は、多層BD、多層DVD(Digital Versatile Disc)及び多層CD(Compact Disc)等の多層光ディスク2に対応したもので、スピンドルモータ3、光ピックアップ駆動機構4、光ピックアップ5、フォーカスエラー信号生成部6及びシステム制御部7を備えて構成される。
【0019】
スピンドルモータ3は、システム制御部7の制御のもとに駆動し、その回転出力によりターンテーブル8をその中心軸の回りに回転駆動する。これによりスピンドルモータ3は、ターンテーブル8上に装填される光ディスク2を当該光ディスク2の記録方式(例えばCAV方式又はCLV方式)に応じた回転状態で回転させる。
【0020】
また光ピックアップ駆動機構4は、フィードモータ9Aと、光ディスクの径方向と平行に配置されたスクリューねじ9Bとを備えて構成される。フィードモータ9Aは、システム制御部7の制御のもとに駆動し、その回転出力によりスクリューねじ9Bをその中心軸の回りに回転駆動する。これにより光ピックアップ駆動機構4は、スクリューねじ9Bと螺合するように配置された光ピックアップ5を当該スクリューねじ9Bに沿って光ディスク2の径方向に移動させる。
【0021】
光ピックアップ5は、光ディスク2に対して光学的に情報を記録再生する光学部品であり、レーザ光源10、コリメータレンズ11、偏光ビームスプリッタ12、カップリングレンズ13、カップリングレンズ駆動機構14、対物レンズ15、対物レンズ駆動機構16及び受光素子17を備えて構成される。
【0022】
レーザ光源10は、所定波長(例えば405nm、660nm及び又は785nm)のレーザ光L1を発射するレーザダイオードから構成され、システム制御部7により点滅駆動される。そしてレーザ光源10の駆動時に当該レーザ光源10から発射されたレーザ光L1が、コリメータレンズ11において平行光に変換された後、偏光ビームスプリッタ12及びカップリングレンズ13を順次介して対物レンズ15に入射し、対物レンズ15により光ディスク2の記録層上に集光される。
【0023】
この際、カップリング駆動機構14は、予め、レーザ光L1の光軸に沿って、そのときデータを記録又は再生する記録層(以下、これを対象記録層と呼ぶ)に対して最も適切に球面収差を補正できる位置(以下、これを最適球面収差補正位置と呼ぶ)にカップリングレンズ13を移動する。これによりレーザ光L1が光ディスク2内を通過するとき当該レーザ光L1に発生する球面収差がこのカップリングレンズ13によって補正される。
【0024】
また、レーザ光L1の光ディスク2における反射光L2は、対物レンズ15により平行光に変換された後に、カップリングレンズ13及び偏光ビームスプリッタ12と、図示しないシリンドリカルレンズとを順次介して受光素子17の受光面17Aに集光される。そして受光素子17は、受光した反射光L2を光電変換し、かくして得られたRF(Radio Frequency)信号をフォーカスエラー信号生成部6に送信する。
【0025】
フォーカスエラー信号生成部6は、光ピックアップ5から供給されるRF信号に基づいてフォーカスエラー信号を生成し、生成したフォーカスエラー信号をシステム制御部7に送信する。
【0026】
システム制御部7は、CPU(Central Processing Unit)7A、メモリ7B及びタイマ7Cなどを備えるマイクロコンピュータである。システム制御部7は、フォーカスエラー信号生成部6から与えられるフォーカスエラー信号に基づいて光ピックアップ5内の対物レンズ駆動機構16を駆動することにより、光ピックアップ5から発射されたレーザ光L1が光ディスク2の対象記録層上にジャストフォーカスするように、対物レンズ15を光ディスク2の厚み方向に移動させる。
【0027】
図2は、受光素子17の受光面17A及びフォーカスエラー信号生成部6の具体的な構成を示す。この図2からも明らかなように、受光素子17の受光面17Aは4つの領域17AA〜17ADに分割されており、これら4つの各領域(以下、これらをそれぞれ分割領域と呼ぶ)17AA〜17ADにおいて反射光を受光する。
【0028】
この際、かかる受光面17AA〜17AD上の反射光L2の光スポットは非点収差により、焦点の位置によって形状が変わる。実際上、かかる受光面17AA〜17AD上の反射光L2の光スポットSPは、例えば、レーザ光L1の焦点が対象記録層上に位置している(ジャストフォーカスしている)ときには、図3(B)のように各分割領域17AA〜17ADの中心を中心とする円形状になるのに対して、レーザ光L1の焦点が対象記録層よりも手前側にあるときには、図3(A)のように左側に傾いた楕円形状となる。またレーザ光L1の焦点が対象記録層よりも奥側にあるときには、図3(C)のように右側に傾いた楕円形状となる。
【0029】
またフォーカスエラー信号生成部6は、図2に示すように、減算回路から構成される。そして受光素子17の受光面17Aにおける図2の「a」及び「c」でそれぞれ示す各分割領域17AA、17ACの出力信号が加算されて減算回路の正側入力端に与えられ、受光素子17の受光面17Aにおける図2の「b」及び「d」でそれぞれ示す各分割領域17BA、17ADの出力信号が加算されて減算回路の負側入力端に与えられる。
【0030】
かくしてフォーカスエラー信号生成部6は、受光素子17の受光面17Aの各分割領域17AA〜17ADの出力レベルをそれぞれ「a」〜「d」として、次式
【数1】


で与えられる演算を実行することにより、光ディスク2の表面及び各記録層の前後において図4に示すようなS字波形を描くフォーカスエラー信号を生成する。
【0031】
図5(A)〜(C)は、3つの記録層を有する光ディスク2に対して本実施の形態による光ディスク装置1がフォーカススイープを実行したときの様子を示す。なお、以下においては、かかる3つの記録層を、表面(レーザ光L1の入射面)に近い記録層から順番にそれぞれ第1の記録層、第2の記録層及び第3の記録層と呼ぶものとする。図5(A)は、フォーカススイープ時のレーザ光の焦点の軌跡を、図5(B)は、このとき生成されるフォーカスエラー信号の波形を、図5(C)は、このときのカップリングレンズ13の位置の履歴をそれぞれ示す。
【0032】
光ディスク装置1において、フォーカススイープ時、対物レンズ15は、対物レンズ駆動機構16により光ディスク2に近付く方向に一定速度で移動され、これに伴い、図5(A)に示すように、レーザ光L1の焦点が光ディスク2の表面側から第3の記録層側へと一定速度で移動する。
【0033】
このときレーザ光L1の焦点が光ディスク2の表面に近づくにつれて、反射光L2の光スポットSP(図3)は受光素子17の受光面17A内に収束し、やがてレーザ光L1の焦点が光ディスク2の表面上に到達するとフォーカスエラー信号の信号レベルが「0」となる(時刻t0)。その後、レーザ光L1の焦点が光ディスク2の表面から遠ざかると反射光L2の光スポットSPはぼやけるが、レーザ光L1の焦点が第1の記録層に近づくにつれて、反射光L2が再び受光素子17の受光面17A内に収束し始め、やがてレーザ光L1の焦点が第1の記録層上に到達するとフォーカスエラー信号の信号レベルが「0」となる(時刻t1)。
【0034】
同様に、この後、レーザ光L1の焦点が第1の記録層から遠ざかると反射光L2の光スポットSPはぼやけるが、レーザ光L1の焦点が第2の記録層に近づくにつれて、反射光L2が再び受光素子17の受光面17A内に収束し始め、やがてレーザ光L1の焦点が第2の記録層上に到達するとフォーカスエラー信号の信号レベルが「0」となる(時刻t2)。その後、レーザ光L1の焦点が第2の記録層から遠ざかると反射光L2の光スポットSPはぼやけるが、レーザ光L1の焦点が第3の記録層に近づくにつれて、反射光L2が再び受光素子17の受光面17A内に収束し始め、やがてレーザ光L1の焦点が第3の記録層上に到達するとフォーカスエラー信号の信号レベルが「0」となる(時刻t3)。
【0035】
以上のようなフォーカススイープ動作の実行時において、レーザ光L1の焦点が第1、第2又は第3の記録層上に位置した状態のときに、レーザ光L1の球面収差を補正できる位置にカップリングレンズ13が位置していないと、その第1、第2又は第3の記録層に対応してフォーカスエラー信号に生じるS字波形の品質が、振幅劣化やコブの発生による擬似S字波形の出現などにより劣化する。S字波形の品質が劣化すると、それによって厚み検出の精度も低下し、この結果、最適な球面収差補正を行い得ないために光ディスク装置1の記録再生品質が劣化する。
【0036】
そこで、本実施の形態による光ディスク装置1においては、このような問題を防ぐため、フォーカススイープ動作時、図5(C)に示すように、レーザ光L1の焦点が第1〜第3の記録層を通過する際に、予めカップリングレンズ13の位置を、そのとき通過しようとする第1、第2又は第3の記録層の基準位置に移動させ、かかるレーザ光L1の焦点が第1〜第3の記録層を通過する際にフォーカスエラー信号に現れるS字波形の品質を確保する。なお基準位置とは、上述のように光ディスク2の仕様に基づき算出される球面収差補正に最適なカップリングレンズ13の位置を意味する。これらの基準位置は、システム制御部7のメモリ7B(図1)内に予め格納される。
【0037】
図5(C)の例では、カップリングレンズ13は、フォーカススイープ動作の初期時、光ディスク2の表面に対する基準位置に位置付けられる。そしてシステム制御部7は、対物レンズ駆動機構16を駆動することによりフォーカススイープを開始させ、この後、フォーカスエラー信号に基づいて光ディスク2の表面を検出した後(時刻t0)、カップリングレンズ13を第1の記録層に対する基準位置に移動させるようにカップリングレンズ駆動機構14を駆動する。
【0038】
またシステム制御部7は、この後、フォーカスエラー信号に基づいて第1の記録層を検出すると(時刻t1)、カップリングレンズ駆動機構14を駆動してカップリングレンズ13を第2の記録層に対する基準位置に移動させる。さらにシステム制御部7は、次にフォーカスエラー信号に現れたS字波形に基づいて第2の記録層を検出すると(時刻t2)、カップリングレンズ駆動機構14を駆動することによりカップリングレンズ13を第3の記憶層の基準位置に移動させる。
【0039】
このようにすることで、レーザ光L1の焦点が第1〜第3の記録層をそれぞれ通過する際にレーザ光L1の球面収差がカップリングレンズ13により補正されるため、フォーカススイープによる第1〜第3の記録層の厚み検出を行う際、レーザ光L1の焦点がこれら第1〜第3の記録層を通過するときにフォーカスエラー信号に現れるS字波形の品質が良好となり、光ディスク2におけるカバー層(表面から第1の記録層までの層)や、第1及び第2の記録層間、並びに第2及び第3の記録層間の厚みの検出精度を向上することができる。
【0040】
一方、システム制御部7は、対物レンズ15が光ディスク2に近付く方向に移動を開始したと同時にタイマ7C(図1)を起動する。そしてシステム制御部7は、上述のようにレーザ光L1の焦点が光ディスク2の表面、第1の記録層、第2の記録層及び第3の記録層をそれぞれ通過するときにフォーカスエラー信号にそれぞれ現れるS字波形に基づいて、レーザ光L1の焦点が光ディスク2の表面上、第1の記録層上、第2の記録層上及び第3の記録層上にそれぞれ達した時刻(時刻t0、時刻t1、時刻t2及び時刻t3)をそれぞれ取得する。そしてシステム制御部7は、このとき取得したこれら時刻t0〜t3に基づいて、光ディスク2の表面から第1〜第3の記録層までの厚みをそれぞれ算出する。
【0041】
ここで、対物レンズ15の移動速度をvとした場合、光ディスク2の表面から第1の記録層までの厚みd1は次式
【数2】


で表され、光ディスク2の表面から第2の記録層までの厚みd2は次式
【数3】


で表され、光ディスク2の表面から第3の記録層までの厚みd3は次式
【数4】


で表される。なお、ここでは、対物レンズ駆動機構16に一定電圧を印加したときに対物レンズ15が一定速度で光ディスク2の厚み方向に移動されるものと仮定する。
【0042】
このように算出された厚みd1〜d3と、カップリングレンズ13及びカップリングレンズ駆動機構14から構成される球面収差補正機構の補正量の分解能とに基づいて、第1〜第3の記録層ごとの最適球面収差補正位置をそれぞれ算出することができ、この算出結果に基づいて、第1〜第3の記録層ごとに、基準位置と最適球面収差補正位置とのずれ量(以下、これを基準位置補正量と呼ぶ)を求めることができる。よって、実際に光ディスク2にデータを記録又は再生する際には、対象記録層の基準位置から上述の基準位置補正量分だけずれた位置にカップリングレンズ13を移動させることによって、レーザ光L1に生じる球面収差を最も適切に補正した状態でその対象記録層にデータを記録又は再生することができる。
【0043】
因みに、以上のような方法により第1〜第3の記録層ごとの基準位置補正量をそれぞれ求める場合、光ディスク2の表面から第1〜第3の記録層までの厚みd1〜d3をそれぞれ算出する際に光ディスク2の表面の検出時間を基準とするため、レーザ光L1の焦点が光ディスク2の表面を通過する際にフォーカスエラー信号に生じるS字波形を確実にとらえることが重要となる。
【0044】
光ディスク2の表面のS字波形の検出精度を高める工夫例としては、例えばレーザ光L1の焦点が光ディスク2の表面を通過する際の再生パワーを上げることが考えられる。こうすることで光ディスク2の表面におけるSN比が向上し、レーザ光L1の焦点が光ディスク2の表面を通過するときにフォーカスエラー信号に現れるS字波形の検出精度を向上させることができる。またフォーカススイープを実施する領域は、レーザ光L1の焦点が第1〜第3の記録層を通過する際にフォーカスエラー信号に現れるS字波形の振幅を確保でき、これらS字波形の品質が期待できる未記録領域とすることが望ましい。なお、光ディスク2の記録層のS字波形の検出精度を向上させたい場合は、レーザ光L1の焦点が記録層を通過する際の再生パワーを、当該記録層において充分なSN比が確保でき、記録データを破壊しないような値に設定すれば良い。
【0045】
図6は、本実施の形態における光ディスク装置1に光ディスクが装填された直後にシステム制御部7により実行されるセットアップ処理のうち、当該光ディスク2の記録層の層数をカウントする層数カウント処理の処理手順を示す。
【0046】
本実施の形態による光ディスク装置1では、光ディスク2の表面から各記録層までの厚みの検出を、例えばセットアップ時の層数カウント処理時に併せて行うことにより、球面収差補正処理に要する時間を短縮する。また光ディスク装置1は、光ディスク2の面振れによる誤検出を防ぐため、光ディスク2の表面から各記録層までの厚みの検出処理を光ディスク2の回転を停止した状態で行う。
【0047】
すなわちシステム制御部7は、光ディスク2が装填されると、この層数カウント処理を開始し、まず、フォーカススイープを実行する(S1)。
【0048】
具体的に、システム制御部7は、光ピックアップ5(図1)のレーザ光源10(図1)を駆動することによりレーザ光L1を発射させると共に、対物レンズ駆動機構15を駆動することによりフォーカススイープを開始させる。またシステム制御部7は、これと併せてタイマ7Cを起動する。
【0049】
またシステム制御部7は、フォーカススイープの実行中、レーザ光L1の焦点が光ディスク2の各記録層を通過する前に、次に通過する記録層の基準位置にカップリングレンズ13を移動させるようカップリングレンズ駆動機構14を制御する。さらにシステム制御部7は、このときフォーカスエラー信号生成部6から与えられるフォーカスエラー信号に基づいて、光ディスク2の記録層の層数をカウントすると共に、光ディスク2の表面及び各記録層をそれぞれ検出した時刻(図5の時刻t0〜時刻t3に相当)をそれぞれ記憶する。
【0050】
そしてシステム制御部7は、かかるフォーカススイープが完了すると、ステップS1において取得した光ディスク2の表面及び各記録層をそれぞれ検出した時刻と、予め定め記憶しているフォーカススイープ時のレーザ光L1の焦点の移動速度とに基づいて、光ディスク2の表面から各記録層までの厚みをそれぞれ算出する(S2)。
【0051】
さらにシステム制御部7は、この算出結果に基づいて、各記録層に対する基準位置補正量をそれぞれ求め、これら求めた基準位置補正量を記憶(メモリ7Bに格納)した後(S3)、この層数カウント処理を終了する。
【0052】
かくしてシステム制御部7は、この後、その光ディスク2にデータを記録又は再生する際には、レーザ光L1の球面収差補正のため、対象記録層の基準位置からステップS2において算出した基準位置補正量分だけずらした位置にカップリングレンズ13を位置させることになる。
【0053】
以上のように本実施の形態による光ディスク装置1では、フォーカススイープ時、レーザ光L1の焦点が各記録層を通過する前に、カップリングレンズ13を、次に通過しようとする記憶層の基準位置に移動させるため、レーザ光L1の焦点が記録層を通過する際にフォーカスエラー信号に現れるS字波形の品質を確保することができる。従って、光ディスク2のカバー層及び各記録層間の厚みの検出精度を向上させることができ、各記録層に対する基準位置補正量を精度良く検出することができる。かくするにつき、良好な記録再生品質を得ることができる。
【0054】
(2)第2の実施の形態
図1において、20は全体として第2の実施の形態による光ディスク装置を示す。この光ディスク装置20は、光ディスク2の記録層ごとの基準位置補正量の取得を光ディスク2の径方向の複数箇所において実行する点を除いて第1の実施の形態による光ディスク装置1と同様に構成されている。
【0055】
すなわち、光ディスク2は製造時において外周部でカバー層及び各記録層間の厚みばらつきが生じやすいということが知られている。このため光ディスク2の外周部では、内周部で検出した各記録層に対するカップリングレンズ13の基準位置補正量では球面収差を補正しきれず、記録再生品質が著しく低下するおそれがある。
【0056】
そこで、本実施の形態による光ディスク装置20では、セットアップ処理時に、光ディスク2の各種管理情報が格納されている最内周部を除く、光ディスク2の内周部、中間部及び外周部の3箇所において、それぞれ各記録層に対する基準位置補正量を取得する。
【0057】
図7は、本実施の形態の光ディスク装置20に光ディスク2が装填された直後にシステム制御部21により実行されるセットアップ処理のうち、当該光ディスク2の各記録層に対する基準位置補正量を検出するために実行される基準位置補正量検出処理の処理手順を示す。この基準位置補正量検出処理は、光ディスク2の回転を停止した状態で行われる。
【0058】
システム制御部21は、この基準位置補正量検出を開始すると、まずフィードモータ9Aを駆動させることにより光ピックアップ5を光ディスク2の内周部の所定位置に移動させ、その所定位置において、図6のステップS1及びステップS2と同様にして、その光ディスク2の表面から各記録層までの厚みをそれぞれ算出する(S10,S11)。
【0059】
次いで、システム制御部21は、ステップS10及びステップS11の処理結果に基づいて、その光ディスク2の内周部における各記録層に対する基準位置補正量をそれぞれ算出し、算出した基準位置補正量を記憶する(S12)。
【0060】
続いて、システム制御部21は、フィードモータ9Aを駆動させることにより光ピックアップを光ディスク2の記録領域における径方向の中間部の所定位置に移動させ(S13)、その所定位置において、図6のステップS1及びステップS2と同様にして、その光ディスク2の表面から各記録層までの厚みをそれぞれ算出する(S14,S15)。
【0061】
またシステム制御部21は、この後、ステップS14及びステップS15の処理結果に基づいて、その光ディスク2の中間部における各記録層に対する基準位置補正量をそれぞれ算出し、算出した基準位置補正量を記憶する(S16)。
【0062】
次いで、システム制御部21は、フィードモータ9Aを駆動させることにより光ピックアップを光ディスクの記録領域における径方向の外周部の所定位置に移動させ(S17)、その所定位置において、図6のステップS1及びステップS2と同様にして、その光ディスク2の表面から各記録層までの厚みをそれぞれ算出する(S18,S19)。
【0063】
またシステム制御部21は、この後、ステップS14及びステップS15の処理結果に基づいて、その光ディスク2の外周部の所定位置における各記録層に対する基準位置補正量をそれぞれ算出し、算出した基準位置補正量を記憶する(S20)。そしてシステム制御部21は、この後、この基準位置補正量検出処理を終了する。
【0064】
かくしてシステム制御部21は、この後、その光ディスク2の内周部にデータを記録又は再生する際には、対象記録層の基準位置からステップS12において算出した基準位置補正量分だけずらした位置にカップリングレンズ13を位置させ、当該光ディスク2の中間部にデータを記録又は再生する際には、対象記録層の基準位置からステップS15において算出した基準位置補正量分だけずらした位置にカップリングレンズ13を位置させ、当該光ディスク2の外周部にデータを記録又は再生する際には、対象記録層の基準位置からステップS19において算出した基準位置補正量分だけずらした位置にカップリングレンズ13を位置させることになる。
【0065】
以上のように本実施の形態による光ディスク装置20では、光ディスク2の内周部、中間部及び外周部の3箇所において、それぞれ各記録層に対する基準位置補正量を取得し、取得した基準位置補正量に基づいて、光ディスク2の内周部、中間部及び外周部にデータを記録再生する際の球面収差補正を行うため、より精度良く球面収差補正を行うことができる。かくするにつき、良好な記録再生品質を得ることができる。
【0066】
(3)他の実施の形態
なお上述の第1及び第2の実施の形態においては、本発明を多層BD、多層DVD及び多層CD等の多層光ディスク2に対応した光ディスク装置1,20に適用するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、例えば単層のBD,DVD及び又はCDに対応した光ディスク装置にも広く適用することができる。
【0067】
また上述の第2の実施の形態においては、基準位置補正量検出処理を層数カウント処理とは別個に行うようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、例えば基準位置補正量検出処理のステップS10、ステップS14又はステップS18において光ディスク2の層数をカウントするようにしても良い。
【0068】
また上述の第1及び第2の実施の形態においては、球面収差補正素子としてカップリングレンズを用いた場合について述べたが、本発明はこれに限らず、例えば液晶素子を用いても良い。すなわち、フォーカススイープ時において、対物レンズの焦点が前記光ディスク2の記録層を通過する前に、対物レンズの焦点が次に通過しようとする記録層の補正量、つまり、光ディスクの仕様に基づき計算されるレーザ光により生じる球面収差を補正する補正量に液晶素子の補正量を制御するようにしても良い。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、単層及び又は多層の光ディスクに対応した光ディスク装置に広く適用することができる。
【符号の説明】
【0070】
1,20……光ディスク装置
2……光ディスク
3……スピンドルモータ
4……光ピックアップ駆動機構
5……光ピックアップ
6……フォーカスエラー信号生成部
7,21……システム制御部
10……レーザ光源
13……カップリングレンズ
14……カップリングレンズ駆動部
15……対物レンズ
16……対物レンズ駆動部
17……受光素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚み方向に1又は複数の記録層を有する光ディスクに対して情報を記録及び又は再生する光ディスク装置において、
所定波長のレーザ光を発射するレーザ光源と、
前記レーザ光源から発射された前記レーザ光を集光する対物レンズと、
前記対物レンズを前記光ディスクの厚み方向に駆動する対物レンズ駆動機構と、
前記レーザ光の前記光ディスクにおける反射光を受光し、受光した前記反射光を光電変換し、当該光電変換により得られた受光信号を出力する受光素子と、
前記受光素子から出力される前記受光信号に基づいてフォーカスエラー信号を生成するフォーカスエラー信号生成部と、
前記レーザ光源及び前記対物レンズ間に配置されたカップリングレンズと、
前記レーザ光源及び前記対物レンズ間における前記レーザ光の光軸と平行に、前記カップリングレンズを前記対物レンズに近付ける方向又は遠ざける方向に移動させるカップリングレンズ駆動機構と、
前記対物レンズ駆動機構及び前記カップリングレンズ駆動機構を制御するシステム制御部と
を備え、
前記システム制御部は、
前記対物レンズを前記光ディスクの厚み方向に連続的に移動させるフォーカススイープを実行するように前記対物レンズ駆動機構を制御すると共に、当該フォーカススイープ時の前記フォーカスエラー信号に基づいて前記光ディスクの前記レーザ光の入射面及び前記記録層を検出し、検出結果に基づいて前記光ディスクの前記レーザ光の入射面から前記記録層までの厚みを算出し、算出結果に基づいて前記レーザ光に発生する球面収差を補正するのに最適な前記カップリングレンズの位置を前記記録層ごとに求め、前記光ディスクに対するデータの記録又は再生時には、対応する当該位置に前記カップリングレンズを移動させるように前記カップリングレンズ駆動機構を制御する一方、
前記フォーカススイープ時には、前記対物レンズの焦点が前記光ディスクの記録層を通過する前に、当該対物レンズの焦点が通過しようとする前記記録層の基準位置に前記カップリングレンズを移動させるように前記カップリングレンズ駆動機構を制御し、
前記基準位置は、
前記光ディスクの仕様に基づき計算される前記レーザ光に生じる球面収差を補正する前記カップリングレンズの位置である
ことを特徴とする光ディスク装置。
【請求項2】
前記システム制御部は、
回転を停止した前記光ディスクに対して前記フォーカススイープを実行するように前記対物レンズ駆動機構を制御する
ことを特徴とする請求項1に記載の光ディスク装置。
【請求項3】
前記レーザ光源、前記対物レンズ、前記対物レンズ駆動機構、前記受光素子、前記カップリングレンズ及び前記カップリングレンズ駆動機構を有する光ピックアップを前記光ディスクの径方向に駆動する光ピックアップ駆動機構を備え、
前記システム制御部は、
前記光ディスクの径方向の複数箇所において前記フォーカススイープを実行するように、前記光ピックアップ駆動機構、前記対物レンズ駆動機構及び前記カップリングレンズ駆動機構を制御する
ことを特徴とする請求項1に記載の光ディスク装置。
【請求項4】
前記システム制御部は、
前記フォーカススイープ時、前記フォーカスエラー信号に基づいて前記光ディスクの記録層の数を併せてカウントする
ことを特徴とする請求項1に記載の光ディスク装置。
【請求項5】
厚み方向に1又は複数の記録層を有する光ディスクに対して情報を記録及び又は再生する光ディスク装置の制御方法において、
前記光ディスクは、
所定波長のレーザ光を発射するレーザ光源と、
前記レーザ光源から発射された前記レーザ光を集光する対物レンズと、
前記対物レンズを前記光ディスクの厚み方向に駆動する対物レンズ駆動機構と、
前記レーザ光の前記光ディスクにおける反射光を受光し、受光した前記反射光を光電変換し、当該光電変換により得られた受光信号を出力する受光素子と、
前記受光素子から出力される前記受光信号に基づいてフォーカスエラー信号を生成するフォーカスエラー信号生成部と、
前記レーザ光源及び前記対物レンズ間に配置されたカップリングレンズと、
前記レーザ光源及び前記対物レンズ間における前記レーザ光の光軸と平行に、前記カップリングレンズを前記対物レンズに近付ける方向又は遠ざける方向に移動させるカップリングレンズ駆動機構と
を有し、
前記対物レンズを前記光ディスクの厚み方向に連続的に移動させるフォーカススイープを実行するように前記対物レンズ駆動機構を制御すると共に、当該フォーカススイープ時の前記フォーカスエラー信号に基づいて前記光ディスクの前記レーザ光の入射面及び前記記録層を検出し、検出結果に基づいて前記光ディスクの前記レーザ光の入射面から前記記録層までの厚みを算出し、算出結果に基づいて前記レーザ光に発生する球面収差を補正するのに最適な前記カップリングレンズの位置を前記記録層ごとに求める第1のステップと、
前記光ディスクに対するデータの記録又は再生時に、対応する当該位置に前記カップリングレンズを移動させるように前記カップリングレンズ駆動機構を制御する第2のステップと
を備え、
前記フォーカススイープ時には、前記対物レンズの焦点が前記光ディスクの記録層を通過する前に、当該対物レンズの焦点が通過しようとする前記記録層の基準位置に前記カップリングレンズを移動させるように前記カップリングレンズ駆動機構を制御し、
前記基準位置は、
前記光ディスクの仕様に基づき計算される前記レーザ光に生じる球面収差を補正する前記カップリングレンズの位置である
ことを特徴とする光ディスク装置の制御方法。
【請求項6】
前記第1のステップでは、
回転を停止した前記光ディスクに対して前記フォーカススイープを実行するように前記対物レンズ駆動機構を制御する
ことを特徴とする請求項5に記載の光ディスク装置の制御方法。
【請求項7】
前記光ディスク装置は、
前記レーザ光源、前記対物レンズ、前記対物レンズ駆動機構、前記受光素子、前記カップリングレンズ及び前記カップリングレンズ駆動機構を有する光ピックアップを前記光ディスクの径方向に駆動する光ピックアップ駆動機構を備え、
前記第1のステップでは、
前記光ディスクの径方向の複数箇所において前記フォーカススイープを実行するように、前記光ピックアップ駆動機構、前記対物レンズ駆動機構及び前記カップリングレンズ駆動機構を制御する
ことを特徴とする請求項5に記載の光ディスク装置の制御方法。
【請求項8】
前記第1のステップでは、
前記フォーカススイープ時、前記フォーカスエラー信号に基づいて前記光ディスクの記録層の数を併せてカウントする
ことを特徴とする請求項5に記載の光ディスク装置の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−14811(P2012−14811A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−152353(P2010−152353)
【出願日】平成22年7月2日(2010.7.2)
【出願人】(501009849)株式会社日立エルジーデータストレージ (646)
【出願人】(509189444)日立コンシューマエレクトロニクス株式会社 (998)
【Fターム(参考)】